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関連審決 審判1998-9522
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  実施 /  構成要件 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 407号 審決取消請求事件
原告 富士ゼロックス株式会社
訴訟代理人弁理士 佐藤清孝
同 田中拓人
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 馬場清
同 村山隆
同 大橋良三
同 大野克人
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第9522号事件について平成12年8月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成2年7月11日に,発明の名称を「シート分配収容装置」とする発明ついて特許出願をし(特願平2-181616号。以下「本願発明」という。),これにつき出願公告(特公平7-85950号)がされたが,特許異議の申立てがなされた。特許庁は,これにつき,平成10年4月3日に「特許異議の申立は,理由があるものと決定する。」との決定をし,併せて,拒絶の査定をした。
原告は,平成10年6月25日にこれに対する不服の審判を請求した。特許庁は,同請求を平成10年審判9522号事件として審理し,その結果,平成12年8月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年9月26日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(別紙図面参照) ハウジング(1)内に配設され,画像記録装置(2)のシート排出口(3)から排出された記録シート(4)を予め設定されたシート分配ステージ(S1)まで搬送するシート搬送手段(5)と,ハウジング(1)の一側において上下方向に複数段配設され,記録シート(4)の分配タイミングに応じて上記シート分配ステージ(S1)に順次移動するビントレイ(6)とを備え,各ビントレイ(6)内に記録シート(4)を順次分配収容するようにしたシート分配収容装置において, 上記シート搬送手段(5)の下方でシート搬送手段(5)の幅方向に亘るハウジング(1)内スペースに配設され,上記シート分配ステージ(S1)と異なる後処理ステージ(S2)の対象ビントレイ(6)位置に分配収容された状態の記録シート(4)の一側縁部に沿う個所に対し所定の後処理を行うと共に,対象ビントレイ(6)内に記録シート(4)が存在するか否かを検出するシート有無検出手段を備えた後処理ユニット(7)と, シート分配収容動作が完了した時点で,上記後処理ステージ(S2)にて,各ビントレイ(6)内に分配収容された状態の記録シート(4)の一側縁部に沿う箇所に対し後処理ユニット(7)による所定の後処理を順次行わせ,シート有無検出手段が記録シート(4)の存在しないことを検出した際に,当該対象ビントレイ(6)内の記録シート(4)に対する後処理動作をキャンセルし,直ちに次の対象ビントレイ(6)を後処理ステージ(S2)に移動させる後処理制御手段(8)とを備えたことを特徴とするシート分配収容装置。
3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願発明が,特開昭59-86551号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。別紙図面参照。)及び特開平2-23159号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができないものである,とした。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,〔手続の経緯及びこの出願の発明〕(審決書1頁下から10行〜2頁19行)は認め,〔引用例に記載された発明〕(同2頁21行〜4頁4行)については,引用例1に,「用紙分配収容動作が完了した時点で,上記ステープラホームポジションにて,各収納ビン7内に分配収容された状態の用紙の一側縁部に沿う箇所に対しステープラユニットによる所定のステープル打ちを順次行わせ」(同3頁8行〜10行)る構成の発明が記載されているとの部分を争い,その余を認める。〔この出願の請求項1に係る発明と引用例に記載された発明との対比〕(同4頁6行〜5頁14行)については,審決書4頁35行ないし5頁14行の認定を争い,その余を認める。〔相違点についての検討〕(同5頁16行〜6頁14行)については,審決書5頁16行ないし23行の認定を争い,その余を認める。〔まとめ〕(同6頁16行〜19行)は争う。
審決は,引用発明1の認定を誤った結果,本願発明と引用発明1との一致点の認定を誤り(取消事由1),本願発明と引用発明1との後記の第1の相違点についての認定判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りはそれぞれ結論に影響を及ぼすものであるから,違法であり,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り) 審決は,引用例1には「用紙分配収容動作が完了した時点で,上記ステープラホームポジションにて,各収納ビン7内に分配収容された状態の用紙の一側縁部に沿う箇所に対しステープラユニットによる所定のステープル打ちを順次行わせ」(審決書3頁8行〜10行)る発明の構成が記載されていると認定したが,誤りである。
引用例1には「ステープル動作は,操作キーボード50によりステープルモードが選択された時点で作動する。ステープルモードはビンセンサー22a,22bが収納ビン7に用紙がある事を検知している時のみ選択可能で収納ビン7内に用紙が無い時には禁止する。」(甲第3号証3頁右下欄6行〜12行),「ステープルモードが選択されると最上ビン7aはステープラ18の位置まで移動する。」(同欄15行〜16行)と記載されている。これらの記載からすれば,引用発明1では,ステープルモードの選択は,丁合動作の終了とは何ら関係なく,ビンに用紙があるときであれば常にできるものであり,このモードが選択されると,その時点で後処理を開始する構成となっている。つまり,引用発明1においては,後処理の開始はシートの丁合動作と連続したものではない。
本願発明は「シート分配収容動作が完了した時点で,上記後処理ステージ(S2)にて,各ビントレイ(6)内に分配収容された状態の記録シート(4)・・・に対し後処理ユニット7による所定の後処理を順次行わせ・・・る後処理制御手段(8)とを備えた」(特許請求の範囲の記載最終段落)ものである。
そして,本願発明に係る願書に添付された明細書及び図面(以下これらをまとめて「本願明細書」という。)には,実施例について,後処理制御手段の作用によって,自動原稿供給装置(ADF)使用モードにおいて,「ADFによる最終原稿コピーが終了したか否かをチェックし(ST2),ADFによる最終原稿コピーが終了した段階において,ソーティング処理が総て完了したと判断する(ST3)。この後,第一のシート有無検出器130の出力に応じてステープリング処理を要するか否かをチェックし(ST5),ステープリング処理を要すると判断する場合には,ビントレイ40を1ピッチ分だけ下降移動させ,最上段のビントレイ40若しくはソーティング数に対応した段数目のビントレイ40が後処理ステージS2に位置するように,ステープリング初期位置にビントレイ40を設定する(ST6)。この後・・・・ステープリング基本動作を行う(ST10)。」(甲第2号証の1第8頁左欄37行〜右欄10行)と記載されており,この記載によれば,後処理をより迅速にするという本願発明の目的は,シート分配収容動作と後処理を関連付ける制御を行うことによって達成されていることが,明らかである。
このように,本願発明と引用発明1とは,構成と効果が全く異なる後処理制御装置を有するものである。
したがって,本願発明と引用発明1が「シート分配収容動作が完了した時点で,上記後処理ステージにて,各ビントレイ内に分配収容された状態の記録シートの一側縁部に沿う箇所に対し後処理ユニットによる所定の後処理を順次行わせ,シート有無検出手段が記録シートの存在しないことを検出した際に,当該対象ビントレイ内の記録シートに対する後処理動作をキャンセルする後処理制御手段とを備えたシート分配収容装置」である点において一致する,との審決の認定(審決書4頁35行〜5頁2行)は,誤りである。
2 取消事由2(本願発明と引用発明1との相違点(1)についての判断の誤り) 審決は,本願発明と引用発明1とを対比すると,「(1)後処理ユニットが、前者は、シート搬送手段の下方に配設されている、のに対し、後者は、シート搬送手段の上方に配設されている、(2)当該対象ビントレイ内の記録シートに対する後処理動作をキャンセルした際に、前者の後処理制御手段が、直ちに次の対象ビントレイを後処理ステージに移動させる、のに対し、後者の後処理制御手段が、
かかる構成を備えているのか否か明らかではない、点において相違しているものと認められる。」(審決書5頁3行〜14行)と認定した上,上記相違点(1)について,「後処理ユニットをシート搬送手段の上方に配設するか,下方に配設するかは,配設するためのスペース等を考慮して適宜選択される単なる設計事項にすぎないから,後者において,上方に配設されている後処理ユニットを,シート搬送手段の下方に配設することは,当業者が格別困難性を要することではないというべきである。」(審決書5頁17行〜21行)と認定判断した。
しかし,引用例1には,シート分配収容装置について,「収納ビン7a・・・7nは収納ビン7の最上段7aがソータ排紙ローラ6a,6bに対応する位置をホームポジションとして待機する。・・・1枚目の用紙が収納ビン7aに収納される際排紙センサー21a,21bが用紙の後端を検知してビンユニット駆動回路54によりモータ10が回転し始め昇降部材8が上昇する。・・・この動作をm-1回繰り返すことにより,セットされたm枚の用紙を収納ビン7の7aから7n1までに順次収納を行い,最初のm枚目の後端を排紙センサー21a,21bが検知するとモータ10は反転し昇降部材8はホームポジションまで下降して初期状態にもどる。以上の動作を繰り返す事により丁合作業が行なわれる。」(甲第3号証3頁左上欄9行〜右上欄16行)と記載されており,この記載によれば,収納ユニットが,その最上位のビンの位置がシート分配ステージにある状態から下方には移動し得ない。そうすると,このシート分配収容装置に後処理ユニットを設ける場合,すべてのビンに収容されたシートに対して後処理を行うためには,後処理ユニットはシート分配ステージの上方に配設せざるを得ない。したがって,引用発明1のシート分配収容装置からは,後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配設することを想到できないのである。
また,引用例1記載の後処理機能を有するビン移動タイプのシート分配収容装置では,すべてのビンに対してシートを分配収容するためには,シート分配ステージの上下にすべてのビンが収まるだけの高さが必要となる。同様に,すべてのビンに収容されたシートに後処理を施すためには,後処理ステージの上下にすべてのビンが収まるだけの高さが必要となる。したがって,シート分配収容装置の全体の高さを押さえてコンパクトに構成するためには,シート分配収容装置の全体の高さの略中央部に,シート分配ステージと後処理ステージを近接して設けることになる。この条件の下,シート分配ステージと後処理ユニットの上下関係を検討すると,仮に,シート分配ステージの上方に後処理ユニットを配設した場合,シート分配ステージにおいてシートジャムが発生したとき,そのジャム処理の際に,後処理ユニットの存在により,上方からジャム処理を行うことが非常に困難となる。そこで,ジャム処理を容易とするために,シート分配ステージの上方にジャム処理のための空間を設けると,必然的に後処理ユニットをその上方に配設せざるを得ず,装置のコンパクト化が達成できないことになる。また,下方からジャム処理をする構成としたときには,シートの脱落やシートの視認性の低下などの問題がある。
これに対し,本願発明では,シート分配ステージの下方に後処理ユニットを配設した構成のため,シート分配ステージの上方に必然的に空間が設けられ,この空間を利用してジャム処理を行うことができるから,装置のコンパクト化を犠牲にすることなく,シート分配ステージにおいてシートジャムが発生したときでも,上方から容易にジャム処理を行うことができる。また,本願発明の構成では,後処理ユニットがシート分配ステージの下方に配設されているので,後処理ユニットとしてステープラなどを設けたとしても,打ち損なわれたステープル針などに起因するシート搬送系のトラブルを有効に回避することができる。このように,本願発明は,後処理ユニットをシート分配ステージの下方に配設したことにより,顕著な効果を奏するものである。
以上のとおり,本願発明と引用発明1とは,その構成及び効果において,顕著な差異を有し,後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配設することが単なる設計事項であるということはできないから,審決が相違点(1)についてなした上記判断は,誤りである。
被告は,特開昭64-43457号公報(以下「乙第1号証公報」という。),特開平2-125702号公報(以下「乙第2号証公報」という。)を挙げて,シート分配収容装置において,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配設することは周知の事項であると主張する。しかし,これらの公報に記載されたシート分配収容装置は,シート分配ステージと後処理ステージとを共通のステージとしたものであり,このような構成の下では,シート搬送手段により排出された用紙を後処理することから,後処理ユニットはシート搬送手段より低い位置に配設せざるを得ない。そこに選択の余地はない。また,乙第1,第2号証公報記載の各シート分配収容装置では,シート排出口とシート積載面との間に後処理ユニットが入り込むスペースを設ける必要があることから,シート排出口とシート積載面との高さ間隔が広くなってしまうので,排出されたシートの整合不良などの問題が生じる。
これに対し,本願発明のシート分配収容装置では,「シート分配ステージ(S1)と異なる後処理ステージ(S2)の対象ビントレイ(6)位置に分配収容された状態の記録シート(4)の一側縁部に沿う個所に対し所定の後処理を行う」(特許請求の範囲の記載第2段落)ものであり,また,引用発明1も同様にシート分配ステージと後処理とを異なるステージとするものである。
このように,本願発明が,シート分配ステージと後処理ステージとを異なるステージとすることにより,シート分配ステージと後処理ステージとを共通のステージとした際に生じる問題を回避することを目的としたものであるのに対し,乙第1,第2号証公報記載の各シート分配収容装置は,シート分配ステージと後処理ステージとを共通のステージとしたものであって,両者はこの限度において技術分野を異にするから,後者を前者(本願発明)の技術分野における周知例としてとらえることはできない。
仮に,乙第1,第2号証公報記載の各シート分配収容装置を本願発明の技術分野での周知例としてとらえることが可能であったとしても,これらの周知例には,シート搬送手段の下方でシート搬送手段の幅方向にわたるハウジング内スペースに配設された後処理ユニットは,開示されていない。乙第1,第2号証公報における各シート分配収容装置では,排出されたシートを整合部材によって,ソータ前側に押し寄せ,そのシートの隅のみに対してステープリングするものであるため,装置上方からみると,ステープラとシート搬送手段は異なる位置に配設され,両者は上下関係にないから,打ち損なわれたステープル針などがシート搬送装置の上に落下してシート搬送系のトラブルが生じるという課題がそもそも存在しない。これに対し,本願発明では,シート搬送手段と後処理ユニットは,単に高さの高低のみならず,装置上方からみた場合に重なり合う位置関係にあるから,乙第1,第2号証公報をもって,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配設することが周知の事項であるとする根拠とすることはできない。
被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り)について 審決が,引用例1には「用紙分配収容動作が完了した時点で,上記ステープラホームポジションにて,各収納ビン7内に分配収容された状態の用紙の一側縁部に沿う箇所に対しステープラユニットによる所定のステープル打ちを順次行わせ」(審決書3頁8行〜10行)る発明の構成が記載されていると認定したことに,誤りはない。
引用発明1においては,用紙分配動作,すなわち丁合動作が完了した後に,ステープル打ちが行なわれるものであるから,操作キーボード50によりステープルモードを選択する時点は,用紙分配動作が完了した後に行なわれると解するのが自然である。
また,引用例1には「プリンターとのオンライン処理が可能であるため,自動原稿供給装置(ADF)との連動により,ADFに一連の原稿をセットするだけで,丁合作業,その後のステープル処理までON-LINEで自動処理が可能であり処理時間も大巾に短縮されるという効果も有する。」(甲第3号証4頁右上欄10行〜15行)と記載され,この記載には,丁合作業の後にステープル作業が行なわれることが示唆されている。
したがって,引用発明1についての審決の認定(審決書3頁8行〜10行)に,誤りはない。
原告は,本願発明について,本願明細書中の実施例についての記載を引用して主張する。しかし,その内容は本願発明の特許請求の範囲の記載に基づいたものではない。すなわち,本願発明の特許請求の範囲には,シート分配収容動作と後処理とを関連付ける制御については何も記載されていない。シート分配収容動作と後処理との関連に関する本願発明の特許請求の範囲の唯一の記載は,「シート分配収容動作が完了した時点で・・・・後処理ユニット(7)による所定の後処理を順次行わせ・・・・る後処理制御手段(8)とを備えたこと」(特許請求の範囲請求項1の最終段落)であり,この記載によれば,後処理はシート分配収容動作が完了した時点で行われることが規定されているだけであって,シート分配収容動作と後処理を関連付ける制御については何ら規定されていないことが明らかである。したがって,原告の主張は,本願発明の実施例についてのものではあり得ても,本願発明,すなわち,特許請求の範囲に記載された発明そのものについてのものとはなり得ない。
2 取消事由2(本願発明と引用発明1との相違点(1)についての判断の誤り)について (1) 乙第1号証公報(特開昭64-43457号公報)には,その第3図に,シート分類装置において,第2のシート搬送路12の下方に電動ステイプラ55を配設したことが図示されている。乙第2号証公報(特開平2-125702号公報)には,その第1図に,シート分類綴じ装置において,ソート用の第2の搬送手段211の下方に綴じ具207を配設したことが図示されている。これらの装置は,シート分配収容装置である点で本願発明と同じであり,乙第1号証公報記載の「電動ステイプラ55」と乙第2号証公報記載の「綴じ具207」は,ともに本願発明の「後処理ユニット」に相当する。したがって,シート分配収容装置において,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配設することは,本願出願当時,既に従来周知の事項であったということができる。
そうすると,審決が「後処理ユニットをシート搬送手段の上方に配設するか,下方に配設するかは,配設するためのスペース等を考慮して適宜選択される単なる設計事項にすぎない」(審決書5頁17行〜19行)と判断したことに誤りはなく,したがって,審決が「後者(判決注・引用発明1)において,上方に配設されている後処理ユニットを,シート搬送手段の下方に配設することは,当業者が格別困難性を要することではない」(同頁19行〜21行)と判断したことにも,誤りはない。
(2) 原告は,本願発明では,後処理ユニットがシート搬送手段の下方に配設されているという構成により,容易にジャム処理を行うことができること,打ち損なわれたステープル針などに起因するシート搬送系のトラブルを有効に回避することができることを主張する。
しかし,これらの効果は,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配設するという構成の採用によって得られることを,当業者であれば容易に予測し得る範囲のものであって,格別なものではない。
したがって,審決が「この出願の請求項1に係る発明(判決注・本願発明)は,引用例1及び2に記載された各発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」(審決書6頁16行〜18行)と判断したことに,誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り)について 審決は,引用例1には「用紙分配収容動作が完了した時点で,上記ステープラホームポジションにて,各収納ビン7内に分配収容された状態の用紙の一側縁部に沿う箇所に対しステープラユニットによる所定のステープル打ちを順次行わせ」(審決書3頁8行〜10行)る発明の構成が記載されていると認定した。
これについて,原告は,引用発明1では,ステープルモードの選択が,丁合動作の終了とは何ら関係なく,ビンに用紙があるときであれば常にできるものであり,このモードが選択されると,その時点で後処理を開始する構成となっているとして,これを前提に,引用発明1は,後処理の開始がシートの丁合動作と連続したものではない,と主張する。
しかし,甲第3号証によれば,引用例1には「従来より,ソータにステープル装置を備え,ソータの各収納ビンに収容されたコピー紙をステープル打ちし,各コピー群ごとにとじるようにしたものは公知である。」(甲第3号証1頁左欄19行〜右欄2行),「プリンター7側の操作キーボード50により丁合モードが選択され,セット枚数mが押下され,プリント作業が開始される・・・セットされたm枚の用紙を収納ビン7の7aから7n1までに順次収納を行い・・・以上の動作を繰り返す事により丁合作業が行なわれる。・・・次にステープル動作について説明する。・・・通常の丁合モード時には,ステープラ18は第7図(a)に示す様な位置に・・・待機している。」(3頁左上欄15行〜左下欄9行),「本発明は以上の如き構成及び作用からなるものであるから従来ではステープル打ちを丁合と連動させて行うためには,ステープラ用の専用ソータを用いる必要があり装置全体が大きく高価なものであったが,小さいユニットで低コストにそれを供給することが可能となる。又,プリンターとのオンライン処理が可能であるため,自動原稿供給装置(ADF)との連動により,ADFに一連の原稿をセットするだけで,丁合作業,その後のステープル処理までON-UNE(判決注・ON-LINEの誤記と認める。)で自動処理が可能であり処理時間も大巾に短縮されるという効果も有する。」(4頁右上欄5行〜15行)と記載されていることが認められ,これらの記載によれば,引用発明1では,用紙分配収容作業すなわち丁合作業が完了した後にステープル処理がなされるものであることが明らかである。
原告は,引用例1における「ステープル動作は、操作キーボード50によりステープルモードが選択された時点で作動する。ステープルモードはビンセンサー22a,22bが収納ビン7に用紙がある事を検知している時のみ選択可能で収納ビン7内に用紙が無い時には禁止する。」(甲第3号証3頁右下欄6行〜12行),「ステープルモードが選択されると最上ビン7aはステープラ18の位置まで移動する。」(同欄15行〜16行)との記載から、引用発明1では、ステープルモードの選択は、丁合動作の終了とは何ら関係なく、ビンに用紙があるときであれば常に選択することができるものであり、このモードが選択されると、その時点で後処理を開始する構成となっている,と主張する。しかし,丁合とは,そもそも,製本作業において、折丁をページ順に集める作業を意味する用語であって(広辞苑第5版),引用発明1においても,前記のとおり,丁合作業が終了した後にステープル作業をすることを当然の前提としているものである。したがって,引用例1における,「プリンター7側の操作キーボード50により丁合モードが選択され」(甲第3号証3頁左上欄15行〜16行),「ステープル動作は、操作キーボード50によりステープルモードが選択された時点で作動する。」(3頁右下欄6行〜8行)との各記載は,単に丁合作業をした上でステープル作業に進むためにキーボードを操作するというものにすぎないのであると解すべきである。
原告は,本願発明では,シート分配収容動作と後処理を関連付ける制御を行うことによって,後処理をより迅速にするものであるから,本願発明と引用発明1とは,構成と効果が全く異なる後処理制御装置を有するものであるのに,審決は,この点に関し,本願発明と引用発明1との一致点を誤って認定したと主張する。
しかし,本願明細書の特許請求の範囲の記載最終段落には「シート分配収容動作が完了した時点で,上記後処理ステージ(S2)にて,各ビントレイ(6)内に分配収容された状態の記録シート(4)・・・に対し後処理ユニット(7)による所定の後処理を順次行わせ,シート有無検出手段が記録シート(4)の存在しないことを検出した際に,当該対象ビントレイ(6)内の記録シート(4)に対する後処理動作をキャンセルし,直ちに次の対象ビントレイ(6)を後処理ステージ(S2)に移動させる後処理制御手段(8)とを備えたことを特徴とするシート分配収容装置」と記載されているから,本願発明においても,シート分配収容動作と後処理とが同時進行しないように,シート分配収容動作が完了した時点で,所定の後処理が順次行われるものであることは記載されているものの,原告が主張するような,シート分配収容動作と後処理を関連付ける制御を行うことによって,後処理をより迅速にする,との構成は,本願発明の特許請求の範囲の記載には,何ら記載されていないのである。したがって,原告の前記主張は,本願発明の特許請求の範囲の記載に基づくものでないというべきである。
審決が,本願発明と引用発明1が「シート分配収容動作が完了した時点で,上記後処理ステージにて,各ビントレイ内に分配収容された状態の記録シートの一側縁部に沿う箇所に対し後処理ユニットによる所定の後処理を順次行わせ,シート有無検出手段が記録シートの存在しないことを検出した際に,当該対象ビントレイ内の記録シートに対する後処理動作をキャンセルする後処理制御手段とを備えたシート分配収容装置」である点において一致すると認定した(審決書4頁35行〜5頁2行)ことに,原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(本願発明と引用発明1との相違点(1)についての判断の誤り)について 原告は,引用発明1では,収納ユニットを,その最上位のビンがシート分配ステージの位置にある状態から下方に移動することができないから,そこでは,後処理ユニットの方は,シート分配ステージより上方に配設せざるを得ず,このようなものから後処理ユニットをシート分配ステージより下方に配設することに想到することはできない,と主張する。
しかし,引用例1には「収納ビン7a・・・7nはガイドロッド9に沿って移動可能な昇降部村8(判決注・昇降部材8の誤記と認める。)に固定されている。昇降部材8にはモータ10に取り付けられているスプロケット11とアイドラ12に取り付けられているチェーン13が固定されており,モータ10の駆動によりガイドロッド9に沿って上下移動を行う。」(甲第3号証2頁左上欄6行〜13行)と記載され,この記載と引用例1の第1図が図示するところとによれば,収納ビン7a・・・7nの上下移動の範囲は,スプロケット11とアイドラ12との間の一定の範囲に限定されるものと認められる。これを前提にした場合,引用例1で後処理ユニットが上方に配設されたのは,シートを排出する位置(ソータ排紙ローラ6a,6bの高さ位置)が,スプロケット11とアイドラ12との各高さの中間位置より若干下にあるためであるにすぎず,仮にシートを排出する位置が上記中間位置より若干上方になると,後処理ユニットを下方に配設することが,すべての収納ビンに対する作業性を確保するとともに装置の全高を抑えるという観点から合理的な設計であると認めることができる。さらに,引用例1の特許請求の範囲においては,後処理ユニットである「ステープル装置」の位置については何ら限定されていないことが,その記載上明らかである。シートを排出する位置を上記中間位置よりも若干上方にすることに,特段の技術的困難があることは,本件全証拠によっても認めることができない。これらを併せ考えると,引用発明1を,後処理ユニットを上方に配設することを不可欠の構成要件であるとする技術思想に基づくものであるとすべき理由は認められないということができるから,引用発明1から後処理ユニットを下方に配設することを特に排斥しているとする特段の技術的理由はないというべきである。
そうすると,審決が,本願発明と引用発明1との相違点(1)(後処理ユニットについて,本願発明は,シート搬送手段の下方に配設されているのに対し,引用発明1では,シート搬送手段の上方に配設されていること)について,「後処理ユニットをシート搬送手段の上方に配設するか,下方に配設するかは,配設するためのスペース等を考慮して適宜選択される単なる設計事項にすぎないから,後者(判決注・引用発明1)において,上方に配設されている後処理ユニットを,シート搬送手段の下方に配設することは,当業者が格別困難性を要することではないというべきである。」(審決書5頁17行〜21行)と判断したことに,何ら誤りはない。
原告は,本願発明では,シート分配ステージの下方に後処理ユニットを配設した構成により,シート分配ステージの上方の空間を利用してジャム処理を行うことができるので,装置のコンパクト化を犠牲にすることなく,シートジャムが発生したときに上方から容易にジャム処理を行うことができること,後処理ユニットとしてステープラを設けた場合,打ち損なわれたステープル針などに起因するシート搬送系のトラブルを有効に回避することができるという顕著な効果を奏すると主張する。
しかし,原告主張の効果は,シート分配収容装置において,後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配設すれば,その結果として奏することが,当業者にとって自明の効果にすぎないというべきである。このような効果が本願発明の特許性の根拠になることは,あり得ない。
したがって,審決が「相違点(1)の前者(判決注・本願発明)の効果は,当業者が容易に予測し得るものであって,格別のものとは認められない。」(審決書5頁22行〜23行)としたことに,誤りはない。
3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵が見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸