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関連審決 審判1998-9525
関連ワード 複写物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 421号 審決取消請求事件
原告 富士ゼロックス株式会社
訴訟代理人弁理士 佐藤清孝
同 田中拓人
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 馬場清
同 村山隆
同 大橋良三
同 大野克人
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第9525号事件について平成12年9月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成2年7月25日に,発明の名称を「シート分配収容装置」とする発明について特許出願をし(特願平2-194780号。以下「本願出願」といい,その発明を「本願発明」という。),これにつき,出願公告(特公平7-51389号)がされたが,特許異議の申立てがなされた。特許庁は,平成10年4月3日に,この特許異議につき,「特許異議の申立は,理由があるものと決定する。」との決定をするとともに,本件出願につき,拒絶査定をした。原告は,平成10年6月25日に,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,同請求を平成10年審判9525号事件として審理し,その結果,平成12年9月19日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月6日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲請求項2(以下,この発明を「本願発明2」という。別紙図面参照) ハウジング(1)内に配設され,画像記録装置(2)のシート排出口(3)から排出された記録シート(4)を予め設定されたシート分配ステージ(E)まで搬送するシート搬送手段(5)と,ハウジング(1)の一側において上下方向に複数段配設され,記録シート(4)の分配タイミングに応じて上記シート分配ステージ(E)に順次移動するビントレイ(6)とを備え,各ビントレイ(6)内に記録シート(4)を順次分配収容するようにしたシート分配収容装置において, 上記シート搬送手段(5)の下方に位置するハウジング(1)内の一つの後処理セット位置(W)に配設され,この後処理セット位置(W)に対向するビントレイ(6)内に分配収容された記録シート(4)の一側縁部に沿う箇所に対し所定の異なる後処理を夫々独立して行う複数の後処理ユニット(7:7a,7b)と, 上記後処理セット位置(W)に配設された後処理ユニット(7:7a,7b)による所定の後処理が実行される後処理ステージ(F)に対象ビントレイ(6)を移動させるビントレイ移動動作と,上記後処理ステージ(F)に位置する対象ビントレイ(6))内に分配収容された記録シート(4)に所定の後処理を実行する後処理動作とを所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる後処理制御手段(10)と を備えていることを特徴とするシート分配収容装置。
3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本願発明2は,特開昭59-86551号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開昭63-300072号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができないものである,と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,[この出願の経緯及びこの出願の発明](審決書1頁下から11行〜2頁11行)は認める。[引用例に記載された発明]中,引用発明1の認定(同2頁13行〜3頁19行)を認め,引用発明2の認定中,「所定の綴じ止めを実行する綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とが,所定の順序で順次繰り返されて,綴じ止め,パンチ綴じ止めが行われるものと認められる」(同3頁32行〜34行)との認定,及び,「綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とを所定の順序で順次繰り返して綴じ止め,パンチ綴じ止めを行わせるCPU100,200と」(同4頁6行〜8行)を備えているとの認定を争い,その余の認定は認める。[この出願の請求項2に係る発明と引用例に記載された発明との対比]の認定判断は認める。[相違点についての検討]中,相違点(1)についての認定判断(同5頁20行〜29行)を争い,相違点(2)についての認定判断中,「記録シートに所定の後処理を実行する後処理動作とを所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる後処理制御手段とを備える処理装置,」(同6頁8行〜10行)及び「技術分野的に共通のものであるから,後者の後処理ユニットに代え引用例2に記載された発明の処理装置を採用することにより,後者において一つであった後処理ユニットを異なる後処理を行う複数のものとすることは,当業者が格別の困難性を要することとはいえず,その際,異なる後処理を行う複数の後処理ユニットを夫々独立して行わせるようにすることも,当業者の設計的事項程度のことというべきである(この点に関して,引用例2に記載された発明では,他の後処理(パンチ)は,一つの後処理(綴じ止め)と共に行われているが,一つの後処理(綴じ止め)が独立して行われるようになっている点,及び,記録紙の処理をする場合,他の後処理(パンチ)だけを必要とすることが周知のことであるので,他の後処理(パンチ)を独立して行わせることも,必要に応じて適宜採用し得る単なる設計事項である)ので,後処理制御手段を上記のように構成することは当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。しかも,相違点(2)の前者の効果が,後者及び引用例2に記載された発明のそれぞれの効果の総和以上の格別な効果であると認めることはできない。」(同6頁16行〜31行)に記載された認定判断は争うが,その余の認定判断は認める。[まとめ]欄の認定判断は争う。
審決は,本願発明2と引用発明1との相違点(1)についての認定判断を誤り(取消事由1),相違点(2)についての認定判断も誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りはそれぞれ結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法であって,取消しを免れない。
1 取消事由1(相違点(1)についての認定判断の誤り) 審決は,本願発明2と引用発明1との相違点(1)(「後処理ユニットが,前者(判決注・本願発明2)は,シート搬送手段の下方に配設されている,のに対し,後者(判決注・引用発明1)は,シート搬送手段の上方に配設されている」(審決書5頁8行〜11行)こと)について,「後処理ユニットをシート搬送手段の上方に配設するか,下方に配設するかは,配設するためのスペースを考慮して適宜選択される単なる設計事項にすぎない(例えば,引用例2に記載された発明においては,シート搬送手段たる搬送ローラ44の下方に後処理ユニットたる処理ユニット45が配設されている)から,後者において,上方に配設されている後処理ユニットを,シート搬送手段の下方に配設することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。しかも,相違点(1)の前者(判決注・本願発明2)の効果は,予測し得るものであって,格別のものとは認められない。」(審決書5頁21行〜29行)と認定判断したが,誤りである。
本願発明2は,後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配置するため,「各ビントレイ6間のギャップを可能な限り狭く設定する」(甲第2号証の1第4頁左欄12行〜13行)とともに,「対象ビントレイ6と上下のビントレイ6との間のギャップを拡大させる」(同欄47行〜48行)ような制御をも行っている。
これに対して,引用発明1は,引用例1の,「昇降部材8の位置制御を行なうために収納ビン7a…7nに対応した位置検知部材14a…14nが昇降部材8に設けられており」(甲第3号証2頁左上欄13行〜16行),「ステープラ18は,ソータ排紙ローラ6a,6bからビンピッチの整数倍の間隔で配置されており」(同号証3頁右下欄13行〜14行)との各記載及び第1図から明らかなように,搬送ローラの高さまである昇降部材に等間隔で配置されているビントレイを,搬送ローラの高さをホームポジションとして昇降部材を上下することによってビントレイ全体を一体として移動する構造であり,要するに,従来の,後処理ユニットのないシート分配装置の構造にステープラ(後処理ユニット)を付加したにすぎないものである。このような構造では,ステープラをシート搬送手段の下方に配置すると,搬送ローラの下部空間の高さが十分ではないため,最上段のビントレイ上にあるシートに後処理を行うことができない。したがって,引用発明1を出発点として,その後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配設することは,単なる配置の違いという設計的事項の範囲に属することではなく,シート分配収容装置機構そのものに特段の工夫が必要となるものであって,当業者が容易に想到することのできないものである。
シート分配収容装置では,シート搬送手段から排出されるシートを最上段のビンから最下段のビンまで分配しかつ後処理を行うため,シート搬送手段と後処理ユニットを必然的にハウジングの中央部の高さ付近に近接して配置し,上下方向にビンスペースを確保する必要がある。このとき,引用発明1のようにシート搬送手段の上方に後処理ユニットを配設すると,シート搬送手段に紙詰まりが生じたときに,後処理ユニットが存在するために詰まった紙を取り出す上で作業性が著しく悪くなるという問題が生ずる。これを回避するために,シート分配装置と後処理ユニットの間隔を大きくすると,装置全体がこの間隔分だけ大型化するという新たな問題が生じる。また,後処理ユニットで打ち損なわれたステープル針などがシート搬送装置の上に落下して,シート搬送系のトラブルが生ずるという問題も発生する。本願発明2は,後処理ステージをシート搬送装置の下方に配置することによって,装置の大型化を避けるとともにシート搬送系のトラブルを回避するという顕著な効果を奏する。
被告は,特開昭64-43457号公報(以下「乙第1号証公報」という。)及び特開平2-125702号公報(以下「乙第2号証公報」という。)を提出して,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配置することが周知の事項であるので,相違点(1)に係る本願発明2の構成が単なる設計事項であるとした審決の判断に誤りはない,と主張する。
乙第1,第2号証公報記載の各発明は,シートの隅のみにステープリングするものであるため,装置上方からみるとステープラとシート搬送手段は異なる位置に配置され,両者は上下関係にない。これに対し,本願発明2では,後処理ユニットが「ビントレイ内に分配収容された記録シートの一側縁部に沿う箇所に対し・・・後処理を・・・行う」(特許請求の範囲請求項2の第2段落)ものであるから,装置上方からみるとシート搬送手段と後処理ユニットとが上下に重なった構成となる(甲第2号証の1第14頁左欄6行〜24行,第30図参照。)。上述のとおり,乙第1,第2号証公報記載の発明は,装置上方から見た場合にシート搬送手段と後処理ユニットとの重なりがないため,打ち損なわれたステープル針などがシート搬送装置の上に落下してシート搬送系のトラブルが生じるという課題がそもそも存在しないから,本願発明2の先行技術となり得るものではない。そうである以上,仮に乙第1,第2号証公報記載の技術が周知であるとしても,これらの技術と後処理の方式が全く異なる引用発明1とを組み合わせて,本願発明2の構成に想到することはできない。
2 取消事由2(相違点(2)についての認定判断の誤り) (1) 引用例2について 審決は,引用発明2において,「所定の綴じ止めを実行する綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とが,所定の順序で順次繰り返されて,綴じ止め,パンチ綴じ止めが行われるものと認められる」(審決書3頁32行〜34行)とし,引用例2には「綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とを所定の順序で順次繰り返して綴じ止め,パンチ綴じ止めを行わせるCPU100,200」(審決書4頁6行〜8行)との発明の構成が記載されていると認定した。しかし,この認定は誤りである。
本願発明2でいう「所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる」(特許請求の範囲請求項2の第3段落の記載)とは,本願明細書の記載(甲第2号証の1第14頁左欄47行〜15頁左欄5行)並びに第33図(a)及び(b)が図示するところによれば,複数の種類の後処理を同時に施すものではなく,個々の種類の後処理を順次繰り返すものをいうことが明らかである。これに対し,引用発明2が,あらかじめ想定される後処理の種類の最大数だけの後処理ユニット(1つのパンチと2つの綴じ止め機)を設けておき,複数の種類の後処理を施すパンチ綴じ止めモードではパンチ処理と綴じ止め処理を同時に行うように制御を行い,すべての種類の後処理が一度で完了するというものであることは,引用例2の「ガイドレール45aにより(図に白矢印で示す方向)引出し可能なフレーム45bにパンチ機とその両側に2つの綴じ止め機(ステープラー)を配置して成り」(甲第4号証5頁左上欄9行〜13行),「パンチ作業の途中で上述した綴じ止め作業が行なわれ」(甲第4号証11頁右下欄11行〜12行)との各記載並びに第3図及び第14図により,明らかである。引用発明2がこのようなものである以上,そこには,「所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる」という構成は存在しない。審決の上記認定は誤りである。
被告は,引用発明2では,パンチ作業と綴じ止め作業の開始タイミングが異なるものとされているとした上,これを前提に,同発明は,「パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とを所定の順序で順次繰り返し」(審決書4頁6行〜7行)行うものであるとの審決の認定に誤りはない,と主張する。
しかし,引用例2には,「パンチ作業の途中で上述した綴じ止め作業が行なわれ」(甲第4号証11頁右下欄11行〜12行)と記載され,第14図には,綴じ止め動作中(M3,M 9及びM 10 モータ駆動中)にパンチ動作(M 6モータ駆動)を行っていることが図示されている。これらの記載からみて,引用発明2は,「所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる」ものというよりも,むしろ両後処理動作を同時に行うというものであることが明らかである。したがって,引用発明2は,本願発明2とは全く異なる後処理制御を行うものという以外にないのである。
(2) 容易想到性の判断について 審決は,本願発明2と引用発明1との相違点(2)(「前者(判決注・本願発明2)の後処理ユニットが,異なる後処理を夫々独立して行う複数のものであり,したがって,前者(判決注・本願発明2)の後処理制御手段が,複数の後処理を行わせるものである,のに対し,後者(判決注・引用発明1)の後処理ユニットが,一つの後処理を行う一つのものであり,したがって,後者(判決注・引用発明1)の後処理制御手段が一つの後処理を行わせるものである」(審決書5頁12行〜17行)こと)について,引用発明1と引用発明2とが,「技術分野的に共通のものであるから,後者(判決注・引用発明1)の後処理ユニットに代え引用例2に記載された発明の処理装置を採用することにより,後者(判決注・引用発明1)において一つであった後処理ユニットを異なる後処理を行う複数のものとすることは,当業者が格別の困難性を要することとはいえず,その際,異なる後処理を行う複数の後処理ユニットを夫々独立して行わせるようにすることも,当業者の設計的事項程度のことというべきである・・・ので,後処理制御手段を上記のように構成することは当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。しかも,相違点(2)の前者(判決注・本願発明2)の効果が,後者(判決注・引用発明1)及び引用例2に記載された発明のそれぞれの効果の総和以上の格別な効果であると認めることはできない。」(審決書6頁16行〜31行)と認定判断した。しかし,この認定判断は,誤りである。
本願発明2は,「上記後処理セット位置に配設された後処理ユニットによる所定の後処理が実行される後処理ステージに対象ビントレイを移動させるビントレイ移動動作と,上記後処理ステージに位置する対象ビントレイ内に分配収容された記録シートに所定の後処理を実行する後処理動作とを所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる」(特許請求の範囲請求項2の第3段落の記載)ことを特徴とするものである。本願発明2における「所定の後処理」とは,本願明細書に「当該対象ビントレイ6内に収容された状態の記録シート4の一側縁部に沿った後処理対象箇所に後処理ユニット7a,7bによる後処理を順次施す。」(甲第2号証の1第5頁右欄3行〜6行)と記載されていることからも明らかなように,シート縁部の所定の場所にステープル,パンチなどの複数の種類の後処理のうちから選択された1種類の後処理を施すことをいう。したがって,本願発明2は,@複数の種類の後処理を施す際に,複数の種類の後処理ユニットのうちの所定の後処理ユニットによる所定の後処理動作を選択して処理を行う点,A複数の種類の後処理を同時に施すのではなく,ビントレイ移動動作と選択された後処理動作を所定順序で順次繰り返して施す点,B複数の種類の後処理を行う場合に,後処理の位置や回数に制限がなく,記録シートの一側縁部の任意の位置に任意の回数だけの任意の種類の後処理を連続して行うことができる点に特徴があり,従来の装置にみられた後処理位置・回数などの後処理範囲の制限をなくすとともに,後処理ユニットの位置合わせ回数を最小限に抑えることにより,複数の連続した後処理を迅速に処理できるという顕著な効果(甲第2号証の1第3頁左欄19行〜28行,甲第2号証の4第3頁22行)を奏する。
これに対して,引用発明1は,固定された単一の後処理手段しか存在しない装置であって,後処理とビントレイの移動を交互に行うものである。したがって,同発明には,複数の種類の後処理を順次繰り返して行うという技術思想がなく,また任意箇所に対する後処理を行うという技術思想も存在しない。また,引用発明2には,単一のビントレイ(スタッカー)しか存在せず,したがって,本願発明2のようにビントレイの移動と所定の後処理を順次繰り返して迅速な後処理を行うという技術思想は存在しない。さらに,引用発明2では,あらかじめ予想される最大数の後処理ユニットにより同時に後処理を施すため,想定外の後処理(例えば,パンチの片側に2個所のステープル処理を行ったり,3個所以上パンチを行ったりするなど)を行うことができず,そこに本願発明2の有する記録シート束の一側縁部に沿った任意箇所に対し複数の後処理を行うという技術思想を見いだすことはできない。
このように,ビントレイとステープラを備えて分配と後処理を連携して行う引用発明1と,後処理をするために固定ビントレイ(スタッカー)に記録紙を導いた後に複数の種類の後処理をすることを可能とした引用発明2とは互いに全く異なる技術であり,このように互いに全く異なる技術である両発明を組み合わせることはできない。
仮に両発明を無理に組み合わせても,ソートした記録紙を一部毎に後処理専用トレイに移送して,このシートに同時に複数の種類の後処理を行う技術にしか想到し得ないから,本願発明2の上記効果を奏することはできない。したがって,当業者といえども,引用発明1と引用発明2とから本願発明2に容易に想到することはできない。
被告は,本願発明2における「所定の後処理」とは,複数の種類の後処理のうちから選択された1種類の後処理をいうのではなく,ステープル,パンチなどの複数の種類の後処理そのものを意味すると解される,したがって,本願発明2には,一つのビントレイにすべての種類の後処理を行ってから次のビントレイの後処理を行う方式も含まれるのである,と主張する。
しかし,被告の上記主張は,次の3点から失当である。
第1に,本願発明の明細書と添付の図面(以下「本願明細書」という。)のうち,被告が引用する箇所には,「総てのビントレイ6に対して所定の後処理ユニット7の後処理を連続的に行うようにしてもよいし,対象ビントレイ毎に各後処理ユニット7の後処理を夫々施すようにしても差し支えない。」(甲第2号証の1第4頁右欄第44行〜47行)と記載されてはいるものの,この記載は本願明細書の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)の課題解決手段を述べたものであって,本願発明2の課題解決手段を述べたものではない。このことは,本願明細書には,「ビントレイと後処理ユニットとを効率的に連動させることで後処理をより迅速にすることができる」(甲第2号証の4第3頁21行〜22行)との本願発明2の効果に対応して,「動作の効率化を考慮して,一つの後処理対象位置に後処理ユニット7を移動設定した段階で,当該後処理対象位置にて各ビントレイ6内に収容された記録シート4に対し所定の後処理を連続的に行うようにする」(甲第2号証の1第5頁左欄22行〜26行)という課題解決手段が記載され,具体的実施例として実施例2(甲第2号証の1第14頁左欄1行〜15頁左欄49行)が記載されていることから明らかである。
第2に,本願発明1では,後処理ユニットの設定動作,ビントレイ移動動作,所定の後処理を行う動作の3つの動作を所定の順序で繰り返す制御手段を有する構成であるので,各ビントレイ毎に複数の種類の後処理を施す制御を行うことができるのに対し,本願発明2では,ビントレイ移動動作と所定の後処理を行う動作の2つの動作を所定の順序で順次繰り返す制御手段を有する構成であるため,各ビントレイ毎に複数の種類の後処理を施す制御を行うことはできない。
第3に,審決は「ステープル打ち」を「後処理」に相当すると認めた(審決書4頁13行〜29行)のであるから,本願発明2における「所定の後処理」とは,複数の種類の後処理から選択された一つの種類の後処理を指していると認定したと考えられ,「所定の後処理」とは,ステープル,パンチなどの複数の種類の後処理そのものを意味するとの被告の主張は,審決の前記認定と矛盾する。
被告は,特許請求の範囲請求項2に記載された本願発明2の構成では,原告が本願発明2における前記特徴Bとして主張する効果(複数の種類の後処理を行う場合に,後処理の位置や回数に制限がなく,記録シートの一側縁部の任意の位置に任意の回数だけの任意の種類の後処理を連続して行うことができるとの効果)を奏するものと認めることができないし,後処理を後処理ユニットの位置合わせ回数を最小限に抑えることにより複数の連続した後処理を迅速に処理できるという効果を奏することも認めることができない,と主張する。
しかし,後処理を施す場所は,記録シートのサイズ,印刷方向,後処理モードなどの条件により定められるものであり,常に同じ位置で後処理を行うわけではない。したがって,後処理ユニットが記録シート束の一側縁部に沿った任意箇所に対して後処理を行うことができるという本願発明2の効果は,その特許請求の範囲に記載された「所定の後処理を実行する」との構成により達成されることは明らかである。また,特許請求の範囲に記載された「・・異なる後処理を夫々独立して行う複数の後処理ユニットと,・・・・所定の順序で・・複数の後処理を行わせる・・」との構成から,本願発明2では,後処理位置が必ず複数あることは明らかである。したがって,後処理ユニットの位置合わせ回数を最小限に抑えることにより複数の連続した後処理を迅速に行うことができるという効果が,本願発明2の構成(特許請求の範囲請求項2の記載)中の「・・・記録シートの一側縁部に沿う箇所に対し所定の異なる後処理を夫々独立して行う複数の後処理ユニットと,・・・所定の後処理を実行する・・・」という構成により達成されることは,明らかである。
被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点(1)についての認定判断の誤り)について 乙第1号証公報では,その第3図に,シート分類装置において,第2のソート搬送路12の下方に電動ステイプラ55が配置されることが図示されている。乙第2号証公報では,その第1図に,シート分類綴じ装置において,ソート用の第2の搬送手段211の下方に綴じ具207を配置することが図示されている。乙第1,第2号証公報の各シート分類装置は,本願発明2と同じシート分配収容装置であり,乙第1号証公報記載の「電動ステイプラ55」と乙第2号証公報記載の「綴じ具207」は,本願発明2の「後処理ユニット」に相当するから,本願出願当時,シート分配収容装置において,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配置することは,既に周知の事項であったということができる。
したがって,審決が「後者(判決注・引用発明2)において,上方に配設されている後処理ユニットを,シート搬送手段の下方に配設することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。」(審決書5頁25行〜27行)と判断したことに,誤りはない。
原告は,引用発明1では,搬送手段に紙詰まりが生じたときに,近接して配置された後処理ユニットが存在するため,詰まった紙を取り出すための作業性が著しく悪くなり,装置全体が大型化する,打ち損なわれたステープル針などがシート搬送装置の上に落下してシート搬送系のトラブルが生じる,と主張する。
しかし,これらの問題点は,当業者であれば容易に予測し得る程度のものであり,かつ,シート搬送手段の下方に後処理ユニットを配置するというシート分配収容装置における周知の構成が既に解決していたものであるにすぎない。
2 取消事由2(相違点(2)についての認定判断の誤り)について (1) 引用例2について 引用例2には「パンチ作業の途中で上述した綴じ止め作業が行なわれ」(甲第4号証11頁右下欄11行〜12行)と記載されている。同引用例のタイミングチャートである第14図には,パンチ駆動用のモータM6を駆動するタイミングと,綴じ止め機駆動用のモータM9のタイミングが図示されていて,その相互の関係から,綴じ止め作業はパンチ作業の途中から始まり,パンチ作業の後で終わっていることが認められる。これらのことからすれば,引用発明2においては,最初に複写物F11 〜F 13 に対するパンチ・綴じ止め作業,次いで複写物F 21 〜F 23 に対するパンチ・綴じ止め作業というように,順次同じ作業を繰り返していることが,明らかである。したがって,審決が「所定の綴じ止めを実行する綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とが,所定の順序で順次繰り返されて,綴じ止め,パンチ綴じ止めが行われるものと認められる」(審決書3頁32行〜34行)と認定したことに,誤りはない。
(2) 容易想到性の判断について 原告は,本願発明2における「所定の後処理」とは,シート縁部の所定の場所にステープル,パンチなどの複数の種類の後処理のうちから選択された種類の後処理を施すことをいう,と主張する。
しかし,本願明細書の記載をみると,特許請求の範囲には「上記後処理セット位置に配設された後処理ユニットによる所定の後処理が実行される」(甲第2号証の4・特許請求の範囲請求項2の第3段落)と,発明の詳細な説明には「後処理制御手段9〜11は,各後処理ユニット7による所定の後処理を行わせるものであり,いずれかの後処理ユニット7を後処理可能状態に設定すると共に,対象ビントレイ6を後処理ステージFに順次設定した後,後処理ユニット7のみ,あるいは,後処理ユニット7及びこれに付随する機構(ビントレイ可動タイプにあっては,ビントレイ引き出し手段等)を制御するものである。この場合において,総てのビントレイ6に対して所定の後処理ユニット7の後処理を連続的に行うようにしてもよいし,対象ビントレイ毎に各後処理ユニット7の後処理を夫々施すようにしても差し支えない。」(甲第2号証の1第4頁右欄37行〜47行)と記載されており,これらの記載によれば,本願発明2における「所定の後処理」とは,ステープル,パンチなどの複数の種類の後処理そのものを意味すると解される。したがって,本願発明2には,一つのビントレイにすべての種類の後処理を行ってから次のビントレイの後処理に移る方式も含まれるのである。
また,このことをおくとしても,引用発明1に,引用発明2の一つの後処理セット位置に配設された複数の種類の後処理ユニットを設けるという技術思想を適用して,複数の種類の後処理を行うためには,大きく分けて,各ビントレイ毎に特定の種類の後処理を繰り返しその後別の種類の後処理を各ビントレイ毎に行うか,一つのビントレイにすべての種類の後処理を行ってから次のビントレイのすべての種類の後処理を行うかの二つの方式が考えられ,これらは,当業者であれば格別の困難性なくどちらも適宜採用し得る程度のことというべきである。
原告が主張する本願発明2における特徴B(複数の種類の後処理を行う場合に,後処理の位置や回数に制限がなく,記録シートの一側縁部の任意の位置に任意の回数だけの任意の種類の後処理を連続して行うことができる,との効果)については,本願明細書の特許請求の範囲請求項2に,任意の位置に任意の回数だけの任意の種類の後処理を連続して行うための構成が記載されていない以上,この機能があるものと認めることはできない。したがって,本願発明においては,従来の装置にみられた後処理位置・回数などの後処理範囲の制限をなくすとともに,後処理ユニットの位置合わせ回数を最小限に抑えることにより複数の連続した後処理を迅速に処理ができるという効果を奏すると認めることもできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(1)についての認定判断の誤り)について 原告は,次のように主張する。
本願発明2は,後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配置するため,「各ビントレイ6間のギャップを可能な限り狭く設定する」(・・・)とともに,「対象ビントレイ6と上下のビントレイ6との間のギャップを拡大させる」(・・・)ような制御をも行っている。これに対して,引用発明1は,引用例1の,・・・搬送ローラの高さまである昇降部材に等間隔で配置されているビントレイを,搬送ローラの高さをホームポジションとして昇降部材を上下することによってビントレイ全体を一体として移動する構造であり,要するに,従来の,後処理ユニットのないシート分配装置の構造にステープラ(後処理ユニット)を付加したにすぎないものである。このような構造では,ステープラをシート搬送手段の下方に配置すると,搬送ローラの下部空間の高さが十分にはないため,最上段のビントレイ上にあるシートに後処理を行うことができない。したがって,引用発明1を出発点として,その後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配設することは,単なる配置の違いという設計的事項の範囲に属することではなく,シート分配収容装置機構そのものに特段の工夫が必要となるものであって,当業者が容易に想到することのできないものである。
しかし,引用例1には「収納ビン7a・・・7nはガイドロッド9に沿って移動可能な昇降部材8に固定されている。昇降部材8にはモータ10に取り付けられているスプロケット11とアイドラ12に取り付けられているチェーン13が固定されており,モータ10の駆動によりガイドロッド9に沿って上下移動を行う。」(2頁左上欄6行〜13行)との記載があり,この記載と引用例1の第1図が図示するところとによれば,収納ビン7a・・・7nの上下移動の範囲は,スプロケット11とアイドラ12との間の一定の範囲に限定されるものと認められる。
これを前提にした場合,引用発明1で後処理ユニットが上方に配置されたのは,シートを排出する位置(ソータ排紙ローラ6a,6bの高さ位置)が,スプロケット11とアイドラ12の各高さの中間位置より若干下にあるためであるにすぎず,仮にシートを排出する位置が上記中間位置より若干上方になると,後処理ユニットを下方に配置することが,すべての収納ビンに対する作業性を確保するとともに,装置の全高を抑えるという観点から合理的な設計結果となると認めることができる。
さらに,引用例1の特許請求の範囲においては,後処理ユニットである「ステープル装置」の位置については何ら限定されていないことが,その記載上明らかである。シートを排出する位置を上記中間位置よりも若干上方にすることに,特段の技術的困難があることは,本件全証拠によっても認めることができない。これらを併せ考えると,後処理ユニットを上方に配置することを不可欠の構成要件であるとする技術思想に基づくものであるとすべき理由は認められないということができるから,この発明が後処理ユニットを下方に配置することを特に排斥しているとする特段の技術的理由はないというべきである。
そうすると,審決が,相違点(1)(後処理ユニットについて,本願発明2では,シート搬送手段の下方に配設されているのに対し,引用発明1では,シート搬送手段の上方に配設されていること)について,「後処理ユニットをシート搬送手段の上方に配設するか,下方に配設するかは,配設するためのスペースを考慮して適宜選択される単なる設計事項にすぎない・・・から,後者(判決注・引用発明1)において,上方に配設されている後処理ユニットを,シート搬送手段の下方に配設することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。」(審決書5頁21行〜27行)と判断したことに,原告主張の誤りはない。
原告は,本願発明2では,シート分配ステージの下方に後処理ユニットを配置した構成により,シート分配ステージの上方の空間を利用して詰まった紙を取り出す処理を行うことができるので,装置のコンパクト化を犠牲にすることなく,紙詰まりが発生したときに上方から容易にジャム処理を行うことができること,後処理ユニットとしてステープラを設けた場合,打ち損なわれたステープル針などが落下し,これに起因するシート搬送系のトラブルを有効に回避することができるという顕著な効果を奏すると主張する。
しかし,原告主張の効果は,シート分配収容装置において,後処理ユニットをシート搬送手段の下方に配設すれば,その結果として奏することが,当業者にとって自明の効果にすぎないというべきである。このような効果が本願発明2の特許性の根拠になることは,あり得ない。
2 取消事由2(相違点(2)についての認定判断の誤り)について (1) 引用例2について 原告は,本願発明2でいう「所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる」とは,複数の種類の後処理を同時に施すものではなく,個々の種類の後処理を順次繰り返すものをいうのに対し,引用発明2では,あらかじめ想定される後処理の種類の最大数だけの後処理ユニットを設けておき,複数の種類の後処理を施すパンチ綴じ止めモードではパンチ処理と綴じ止め処理という二つの種類の後処理を同時に行うように制御を行い,すべての種類の後処理が一度で完了するというものであるから,引用発明2には本願発明における「所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる」という構成は存在せず,この点についての審決の認定は誤りである,と主張する。
引用例2には,「本実施例における複写紙処理装置は次の3つの処理モードで動作する。(イ)スタックモード・・・(ロ)綴じ止めモード 複数枚から成る複写物を綴じ金で綴じ止めする。・・・(ハ)パンチ・綴じ止めモード 複数枚から成る複写物をパンチするとともに綴じ金で綴じ止めする。」(甲第4号証7頁右下欄2行〜18行),「第13図は綴じ止めモードのタイミングチャートを示す。」(同9頁左上欄19行〜20行),「綴じ止め機移動モータM3が停止すると今度は綴じ止め機駆動モータM9およびM 10 が回転を始める。駆動モータM 9,M10 の回転がギヤ61および62を介してレバー63の直線往復運動として伝達され,V字形レバーを支点Aを中心に回動させる。その結果,レバー65が回動し押下げ片67がばね66を圧縮しながら下降する。それにより薄板68がガイド69に沿って下降し,カートリッジ70に入っている綴じ金を1つだけ切り離して複写物に食い込ませ綴じ止めする。」(同10頁右上欄3行〜12行),「第14図はパンチ・綴じ止めモードのタイミングチャートを示す。操作パネルのモード選択ボタン204を操作してパンチ・綴じ止めモードを選択する・・・また,パンチ指定ボタン206を押して「パンチ要」の指示をする。第14図のタイミングチャートを第13図のタイミングチャートと比較するとわかるように,綴じ止め動作については全く同じでパンチ動作が付加されただけであり,このためにパンチ駆動モードM6とパンチセンサPS 9のシーケンスが付加されている。」(同11頁右上欄17行〜左下欄9行),「第14図のタイミングチャートからわかるように,パンチ作業の途中で上述した綴じ止め作業が行なわれ,両処理が行なわれた1部目の複写紙F11 ,F 12 ,F 13 は搬送ローラ47,48により搬送されて収納トレイ46に排出される。・・・次に2部目の複写紙についてのパンチ・綴じ止め処理も1部目の場合と全く同じであるので説明は省略する。」(同11頁右下欄10行〜19行)との記載がある。引用例2のこれらの記載と第13,第14図が図示するところとによれば,第14図が図示するパンチ綴じ止めモードのタイミングチャートは,第13図が図示する綴じ止め動作と全く同じ綴じ止め動作にパンチ動作を付加したものであり,綴じ止め動作をなす綴じ止め機駆動モータM9,M 10 のタイミングとパンチ動作をなすパンチ駆動モードM6のタイミングとを比較すると,後者がオンからオフにスイッチする直前付近で前者がオフからオンにスイッチして一定時間後にオフに戻るという所定の順序の動作が,複写紙の1部目,2部目,・・・という番目毎に,順次繰り返されていることが認められる。
したがって,引用発明2では,前示のとおり,複写紙の1部目,2部目,・・・という番目毎に,すべての後処理を完了すると認められるとはいえ,綴じ止め機駆動モータM9,M 10 とパンチ駆動モードM 6の駆動タイミングが異なるものであるから,パンチ処理と綴じ止め処理のそれぞれを所定の順序で行うものであると認められる。引用発明2では,あらかじめ想定される後処理の種類の最大数だけの後処理ユニットを設けておき,パンチ綴じ止めモードではパンチ処理と綴じ止め処理を同時に行うように制御を行っており,すべての後処理が一度で完了するものであるとの原告の前記主張は採用し得ない。
引用発明2について,「所定の綴じ止めを実行する綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とが,所定の順序で順次繰り返されて,綴じ止め,パンチ綴じ止めが行われるものと認められる」(審決書3頁32行〜34行)とし,引用例2には「綴じ止め動作と,パンチと綴じ止めとを実行するパンチ綴じ止め動作とを所定の順序で順次繰り返して綴じ止め,パンチ綴じ止めを行わせるCPU100,200」(審決書4頁6行〜8行)との発明の構成が記載されているとした審決の認定に誤りはない。
(2) 容易想到性の判断について 原告は,本願発明2における「所定の後処理」は,シート縁部の所定の場所にステープル,パンチなどの複数の後処理のうちから選択された1種類の後処理のみを施すことをいうとし,これにより本願発明2が顕著な効果を奏すると主張する。
しかし,本願発明2を特定する特許請求の範囲である請求項2には「・・・記録シートの一側縁部に沿う箇所に対し所定の異なる後処理を夫々独立して行う複数の後処理ユニットと,・・・後処理ユニットによる所定の後処理が実行される後処理ステージに対象ビントレイを移動させるビントレイ移動動作と,・・・記録シートに所定の後処理を実行する後処理動作とを所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる後処理制御手段・・・」(第2,第3段落)と記載されてはいるものの,上記後処理が複数の種類の後処理のうちから選択されたものであるとの記載はない。したがって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当である。
原告は,引用発明2には,単一のビントレイ(スタッカー)しか存在せず,したがって,本願発明2のようにビントレイの移動と所定の後処理を順次繰り返して迅速な後処理を行うという技術思想は存在しない,引用発明2では,あらかじめ予想される最大数の後処理ユニットにより同時に後処理を施すため,想定外の後処理(例えば,パンチの片側に2個所のステープル処理を行ったり,3個所以上パンチを行ったりするなど)を行うことができず,そこに,本願発明2の有する,記録シート束の一側縁部に沿った任意箇所に対し複数の後処理を行うという技術思想を見いだすことはできない,と主張する。
しかし,引用発明2が,複写紙の1部目,2部目,・・・という番目毎に,パンチ処理と綴じ止め処理を所定の順序で行うものであると認められることは,前示のとおりである。また,本願発明2を特定する特許請求の範囲である請求項2には「記録シートの一側縁部に沿う箇所に対し所定の異なる後処理を夫々独立して行う複数の後処理ユニット」とは記載されているものの,記録シート束の一側縁部に沿った任意箇所に対し複数の後処理を行うことについては,何ら記載されていない。したがって,原告の主張は,引用発明2についてはその前提となる技術内容についての認定に誤りがあり,本願発明2については,その特許請求の範囲の記載に基づかないものということになり,失当である。
原告は,ビントレイとステープラを備えて分配と一つの種類の後処理を連携して行う引用発明1と,ビントレイ(固定スタッカー)に記録紙を導いた後に複数の種類の後処理をすることを可能とした引用発明2とは,互いに全く異なる技術であり,このように互いに全く異なる技術である引用発明1と引用発明2とを組み合わせることはできない,仮に両発明を無理に組み合わても,ソートした記録紙を一部ごとに後処理専用トレイに移送して,このシートに同時に複数の種類の後処理を行う技術しか想到し得ない,と主張する。
しかし,引用発明1,引用発明2とは,技術分野を共通にするものであり,引用例2には,前示のとおり,複数の種類の後処理を所定の順序で行う技術が記載されているから,引用発明1の後処理ステージをシート搬送手段の下方に位置するように設けた上,そこに引用発明2の上記技術を適用して,本願発明2の構成に想到することは,当業者にとって,容易であったというべきである。原告の主張は採用できない。
原告は,本願発明2における「所定の後処理」とは,複数の種類の後処理のうち選択された1種類の後処理を施すことをいうのであり,ステープル,パンチなどの複数の種類の後処理そのものを意味するとの被告の主張を,第1に,本願明細書には「総てのビントレイ6に対して所定の後処理ユニット7の後処理を連続的に行うようにしてもよいし,対象ビントレイ毎に各後処理ユニット7の後処理を夫々施すようにしても差し支えない。」(甲第2号証の1第4頁右欄44行〜47行)と記載されてはいるものの,この記載は本願発明1の課題解決手段を述べたものであって,本願発明2の課題解決手段を述べたものではないとして,第2に,本願発明2では,ビントレイ移動動作と所定の後処理を行う動作の2つの動作を所定の順序で順次繰り返す制御手段を有する構成であるから,各ビントレイ毎に複数の種類の後処理を施す制御を行うことができないとして,第3に,審決は,「ステープル打ち」を「後処理」に相当すると認めた(審決書4頁13行〜29行)のであるから,本願発明2の「所定の後処理」が,ステープル,パンチなどの複数の後処理そのものを意味するとの被告の主張は,審決の前記認定と矛盾するとして,攻撃する。
しかし,原告の上記第1,第2の主張は,本願明細書の,本願発明2を特定する特許請求の範囲である請求項2には「・・・所定の異なる後処理を夫々独立して行う複数の後処理ユニットと,・・・・後処理ステージに対象ビントレイを移動させるビントレイ移動動作と,・・・・対象ビントレイ内に分配収容された記録シートに所定の後処理を実行する後処理動作とを所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる後処理制御手段とを備えている・・・・シート分配収容装置。」(第2,第3段落)と記載され,本願明細書の発明の詳細な説明には「第二の発明は,第1図(b)に示すように,第一の発明と同様なシート搬送手段5,ビントレイ6を備えたシート分配収容装置を前提とし,上記シート搬送手段5の下方に位置するハウジング1内の一つの後処理セット位置Wに配設され,この後処理セット位置Wに対向するビントレイ6内に分配収容された記録シート4の一側縁部に沿う箇所に対し所定の異なる後処理を夫々独立して行う複数,例えば二つの後処理ユニット7(具体的には7a,7b)と,上記後処理セット位置Wに配設された後処理ユニット7による所定の後処理が実行される後処理ステージFに対象ビントレイ6を移動させるビントレイ移動動作と,上記後処理ステージFに位置する対象ビントレイ6内に分配収容された記録シート4に所定の後処理を実行する後処理動作とを所定の順序で順次繰り返して複数の後処理を行わせる後処理制御手段10とを備えていることを特徴とするものである。」(甲第2号証の4第2頁19行〜末行),「上記複数の後処理ユニット7としては,記録シート4の一側縁部を対象とする後処理を行い得るもので,しかも,各後処理が相互に関連性のあるものであれば,ステ-プラ,パンチャ,バインダ等を適宜選択して組み合わせることができる。」(甲第2号証の1第4頁左欄27行〜31行)と記載されていること,及び,本願明細書の第1図(b)に照らし,採用することができない。すなわち,本願明細書中のこれらの記載と第1図(b)が図示するところによれば,本願発明2における「所定の後処理」とは,ステ-プラ,パンチャ,バインダ等の後処理動作を意味するものであり,本願明細書の上記引用箇所における「ステ-プラ,パンチャ,バインダ等を適宜選択して組み合わせることができる。」との記載は,その文脈から把握すれば,複数の後処理ユニットとして,ステ-プラ,パンチャ,バインダ等の複数の種類の後処理のうちから,適宜選択してそのためのユニットを備えることができることを意味すると解すべきものであって,備えられた複数の後処理ユニットから1種類の後処理のためのもののみを選択することを意味するものに限定して解することはできない。原告が,本願発明1の課題解決手段を述べたものであり,本願発明2の課題解決手段を述べたものではないとする,本願明細書の「総てのビントレイ6に対して所定の後処理ユニット7の後処理を連続的に行うようにしてもよいし,対象ビントレイ毎に各後処理ユニット7の後処理を夫々施すようにしても差し支えない。」(甲第2号証の1第4頁右欄44行〜47行)との記載は,本願明細書の[課題を解決するための手段]の欄に記載されているものであり,本願明細書の他の部分をみても,この記載が本願発明2にかかわらないものであることを示す記載は見いだせないから,これを,原告主張のように限定して理解することはできない。したがって,本願発明2においては,ビントレイ移動動作と後処理動作の2つの動作を所定の順序で順次繰り返すものであるから,各ビントレイ毎に複数の種類の後処理動作を施すことができないとの原告の主張は採用することができない。
原告の上記第3の主張については,審決は,引用発明1の「ステープル打ち」が本願発明2の「後処理」に相当すると認定しただけのことであり,本願発明2の後処理には,前示のとおりステープル打ちが含まれる以上,審決のこの認定に誤りはない。原告の上記主張はいずれも失当である。
原告は,本願発明2の顕著な効果として,@複数の種類の後処理を施す際に,複数の種類の後処理ユニットのうちの所定の後処理ユニットによる所定の後処理動作を選択して処理を行うこと,A複数の種類の後処理を同時に施すのではなく,ビントレイ移動動作と選択された後処理動作を所定順序で順次繰り返すこと,B複数の種類の後処理を行う場合に,後処理の位置や回数に制限がなく,記録シートの一側縁部の任意の位置に任意の回数だけの任意の種類の後処理を連続して行えることにより,複数の連続した後処理を迅速に処理できることを主張する。
しかし,原告の主張@及びAについては,本願発明2を特定する特許請求の範囲である請求項2には,前示のとおり「所定の後処理動作を選択して処理を行う」構成の記載がないこと,同じくBについても,上記請求項2に「記録シートの一側縁部の任意の位置に任意の回数だけの任意の後処理を連続して行える」構成が記載されていないことが認められるから,原告の上記主張は,いずれも本願発明2の特許請求の範囲に記載された構成に基づかないものであって失当である。
したがって,相違点(2)について,引用発明1と引用発明2とが「技術分野的に共通のものであるから,後者(判決注・引用発明1)の後処理ユニットに代え引用例2に記載された発明の処理装置を採用することにより,後者(判決注・引用発明1)において一つであった後処理ユニットを異なる後処理を行う複数のものとすることは,当業者が格別の困難性を要することとはいえず,その際,異なる後処理を行う複数の後処理ユニットを夫々独立して行わせるようにすることも,当業者の設計的事項程度のことというべきである・・・ので,後処理制御手段を上記のように構成することは当業者が容易に想到し得る程度のことというべきである。しかも,相違点(2)の前者(判決注・本願発明2)の効果が,後者(判決注・引用発明1)及び引用例2に記載された発明のそれぞれの効果の総和以上の格別な効果であると認めることはできない。」(審決書6頁16行〜31行)とした審決の判断に,原告主張の誤りはない。
3 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵が見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸