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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成11ワ8434特許権侵害差止請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  方法の発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実施料相当額 /  特許出願日 /  出願経過 /  参酌 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 12年 (ワ) 7480号 特許権侵害差止等請求事件
原告 倉敷紡績株式会社
訴訟代理人弁護士 露口佳彦
同 小野博郷
補佐人弁理士 伊藤英彦
被告 日本マイクロリス株式会社
訴訟代理人弁護士 品川澄雄
同 吉澤敬夫
訴訟復代理人弁護士 牧野知彦
補佐人弁理士 倉内基弘
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/03/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 (1) 被告は、別紙被告製品目録記載のフィルターエレメントを製造し販売してはならない。
(2) 被告は、その所有に係る前項記載の各物件を廃棄せよ。
(3) 被告は、原告に対し、金12億3750万円及び内金4億2750万円に対する平成9年6月1日から、内金8億1000万円に対する平成12年7月28日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 訴訟費用は被告の負担とする。
(5) (1)ないし(3)項につき仮執行の宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨
当事者の主張
1 請求原因 (1)(特許権) 原告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
特許番号 第1542361号 出願年月日 昭和58年9月9日 出願番号 昭58-167202 出願公告年月日 昭和62年12月14日 出願公告番号 昭62-59962 発明の名称 フィルターエレメントとその製法 登録年月日 平成2年1月31日 (2)(特許請求の範囲) ア 本件特許権の特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲第15項の記載は次のとおりである(以下、特許請求の範囲第15項に記載された発明を「本件発明」という。)。
「四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両面に熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体を重ねたサンドイッチ状シートをプリーツ状に折り曲げて、その両側縁部を液密に融着した濾過材、および該濾過材の両端部を中央開孔部を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した端部シール部を必須要素として備えた全フッ素樹脂製フィルターエレメント。」 イ 本件発明を構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、本件発明の各構成要件は、AないしCの各符号をもって示す。)。
A 四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両面に熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体を重ねたサンドイッチ状シートをプリーツ状に折り曲げて、その両側縁部を液密に融着した濾過材、および B 該濾過材の両端部を中央開孔部を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した端部シール部を必須要素として備えた C 全フッ素樹脂製フィルターエレメント。
(3)(被告製品の製造販売) 被告は、別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造販売している。被告が現在販売している被告製品の商品名は、「フロロガードAT」、「フロロガードATX」、「ガーディアンAT」、「ガーディアンATX」、「クイックチェンジAT」、「クイックチェンジATX」である。
(4)(構成要件Aの充足性) ア 被告製品の濾過材10は、四フッ化エチレン樹脂製(PTFE)フィルター膜11の両面に熱可塑性フッ素樹脂製(四フッ化エチレン-パーフルオルアルキルビニルエーテル共重合樹脂:PFA)ネット12a、12bを重ねたサンドイッチ状シートをプリーツ状に折り曲げたものであり、濾過材10の両側縁部15、
15は、熱可塑性フッ素樹脂製(四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂:FEP)シールテープ13を用いて液密に融着されているから(別紙被告製品目録「構造の説明」B、C、D)、被告製品は構成要件Aを充足する。
イ 被告は、構成要件Aの「ネット支持体」は、フィルター膜に重ねることにより、溶融樹脂の中に形を崩さないまま埋入することができるなどの剛性を与えるものでなければならないと主張するが、そのような主張を裏付ける記載は、本件明細書中には存在しない。本件明細書中の「剛性」という語は、「濾過圧によって容易に形崩れしない程度の剛性」(特許公報(以下、本件特許権に係る本判決末尾添付の特許公報を単に「特許公報」という。)6欄43行ないし44行)のことであり、樹脂中への押し込み動作時における剛性とは無関係である。
(5)(構成要件Bの充足性) ア(埋入一体化) (ア)a@ 構成要件Bには、「濾過材の両端部を・・・熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化して」と記載されている。
「特許技術用語集-第2版-」(日刊工業新聞社発行、甲第12号証)には、「埋入」の意味について、「埋入〔まいにゅう〕埋め込むこと。
(例)金属板に磁性金属を埋入する。透明な合成樹脂内にドライフラワーを埋入してペンダントを作る。」と記載されており、特開昭53-102129号公開特許公報(甲第13号証)の「試料の周囲に透明な合成樹脂を注入固化したレジンフラワーがあり」(特開昭53-102129号公開特許公報1頁右欄2行ないし4行)という記載をも参酌すると、「埋入」とは埋入された状態を意味することが明らかである。
本件明細書には、金型冷却後に抜き取って得られたフィルターエレメントの構造について、「得られた端部シール濾過材の端部はPTFE膜がEPE樹脂中に完全に埋入した状態で高圧にも耐え得る。」(特許公報10欄1行ないし3行)と記載されている。
そうすると、構成要件Bの「埋入一体化」とは、四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両端部が熱可塑性フッ素樹脂中に埋入し一体化されている状態、すなわち、フィルター膜の端部の周囲が熱可塑性フッ素樹脂で液密に取り囲まれている状態を意味する。
A 本件発明は物の発明であり、方法の発明ではないから、構成要件Bの「埋入一体化」とは、物としての状態、すなわち「構造」を意味し、「押し込む」というような「動作」を意味するものではないし、本件発明は、「押し込む」方法によるものに限定されない。
B 構成要件Aによれば、濾過材は、フィルター膜とその両側のネット支持体により構成される。しかし、ネット支持体は、熱可塑性フッ素樹脂製とされ、濾過材の両端部においては、融着の過程で溶融状態となり、フィルターエレメントという最終の「物」の状態において、ネットとしての形態を残しておらず、濾過機能も全く有していない。濾過材の両端部におけるネット支持体は、溶融後、プリーツ襞間に浸入して固まり、シール機能を果たす熱可塑性フッ素樹脂と一体化し、端部シール部の一部を構成するようになる。
本件明細書には、ネット支持体が「プリーツ状フィルター端部の融着を完全にするために重要な役割を有する」こと(特許公報6欄15行ないし21行)、前記のとおり「得られた端部シール濾過材の端部はPTFE膜がEPE樹脂中に完全に埋入した状態で高圧にも耐え得る」(特許公報10欄1行ないし3行)ことは記載されているが、ネット支持体がフィルター膜とともに必ず他の熱可塑性フッ素樹脂中に埋入していなければならないとする記載はないし、当業者の技術常識に照らせば、溶融したネット支持体は端部シール部の一構成要素としてとらえられる。
b@ 被告は、溶融した熱可塑性フッ素樹脂を「つきたての餅」のような状態と主張するところ、「つきたての餅」という表現は、表面に薄皮が張っている状態とも取れるが、「つきたての餅」状の樹脂という表現をするとすれば、まさにつきたて直後の、表面に膜を形成していない状態、言い換えれば「水飴」状の樹脂をいうものである。
A 被告は、フッ素樹脂製のフィルターに関する技術として、乙第10ないし第14号証の公開実用新案(又は特許)公報を挙示する。しかし、実開昭59-119307号公開実用新案公報(乙第10号証)の公開日は昭和59年8月11日、実開昭59-82516号公開実用新案公報(乙第11号証)の公開日は同年6月4日で、いずれも本件発明の特許出願日(昭和58年9月9日)より後であり、これらに記載された技術は、公知技術とはいえない。また、乙第11号証に記載された技術は、多孔質薄膜の両側に同材質の網布を重ね合わせるものであり、本件発明のように四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両側に熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体を重ねるものとは異なる。
c 被告は、本件発明を、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された製法によるフィルターエレメントに限定すべき旨主張する。しかし、本件発明は、
物の発明であるから、発明の詳細な説明に記載された製法は、特許請求の範囲に記載された構造を有するフィルターエレメントを得るための方法の一例にすぎず、被告のこの点に関する主張は、特許法70条1項に反する。
(イ)a@ 被告製品は、フィルター膜が熱可塑性フッ素樹脂中に埋入されている状態にあるから、構成要件Bの「埋入一体化」という要件を充足する。
A 製法の点から見ても、本件発明と被告製品は、PTFE膜の端部の両面に位置する熱可塑性フッ素樹脂を溶融させ、この溶融した熱可塑性フッ素樹脂をPTFE膜の下方から提供される溶融フッ素樹脂に液密に融着させて、最終的にPTFE膜端部をフッ素樹脂中に取り囲んで埋入一体化状態とする点で共通する。
B 被告製品の端部シール部は、(@)「主に濾過材の溶融樹脂からなる部分」、(A)「濾過材の溶融樹脂と蓋部材の樹脂からなる部分」、(B)「蓋部材の樹脂からなる部分」から構成されている。FEPフィルムは、この(@)「主に濾過材の溶融樹脂からなる部分」及び(A)「濾過材の溶融樹脂と蓋部材の樹脂からなる部分」の樹脂の量を増加させる役割があると思われる。
被告製品のPTFE膜の内側には厚い(厚さ220ないし250μm)、すなわち溶融樹脂量が多いネットが存在し、外側には薄い(厚さ150ないし170μm)、すなわち溶融樹脂量が少ないネットとFEPフィルム(厚さ80ないし90μm)が存在しているから、FEPフィルム(ストリップフィルム)は、薄い外側のネットから提供される溶融樹脂量を補うための役割をもっており、
溶融樹脂を提供するという点では、ネットと同じ機能を有する。
FEPフィルムは、フィルター膜の片側だけに融着されているが、フィルター膜の両側に均一量の樹脂が存在せず、非対称な構造であっても、端部シール機能に影響はない。
被告製品は、本件発明の構成要件をすべて具備しており、単に付加的にFEPフィルムを有するにすぎない。被告製品が、FEPフィルムによって被告主張のシール手段を採るとしても、フィルター膜端部が熱可塑性フッ素樹脂によって封じ込められた状態、すなわち埋入状態であることに変わりはない。
b@ 甲第8号証の1、2は、商品名「クイックチェンジATX」の被告製品の上蓋部及び底蓋部の一部を切り取り顕微鏡写真に撮ったものであり、上蓋部30と底蓋部20は実質的に同じ構造であるので、甲第8号証の1により、底蓋部20の構造をみると、次のとおりである。
甲第8号証の1の「底蓋部20より上の領域」のうち上方では、
四フッ化エチレン樹脂製(PTFE)のフィルター膜11、熱可塑性フッ素樹脂製のネット12a、12b及び熱可塑性フッ素樹脂製のFEPフィルム(ストリップフィルム)14の存在が観察され、下方ではFEPフィルム14が溶けている。その下方の「底蓋部20の上方領域」では、FEPフィルム14とネット12a、12bが溶け、フィルター膜11のみが熱可塑性フッ素樹脂中に埋入された状態となっており、フィルター膜11のプリーツ端部襞間に熱可塑性フッ素樹脂が浸入した状態となっている。この領域では、ネット12a、12b及びFEPフィルム14は既に「濾過材」としての機能を失っており、技術的にも外見上も濾過材部分とは明確に区別され、溶融した熱可塑性フッ素樹脂として存在している。「底蓋部20の下方領域」では、熱可塑性フッ素樹脂のみが存在している。
このように、底蓋部20は、「濾過材の両端部を中央開孔部を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した」ものであり、本件発明の「端部シール部」に該当することは明らかである。
A 甲第9、第10号証の各1、2によれば、商品名「ガーディアンATX」、「フロロガードAT」の被告製品の上蓋部及び底蓋部も、フィルター膜11の熱可塑性フッ素樹脂中への埋入の深さの程度が相違するだけで、「クイックチェンジATX」と実質的に同じ構造を有している。
被告は、甲第9号証の1の写真中央のフィルターは、隣り合うフィルター同士が互いに接着してしまっており、プリーツ襞間すべてに樹脂が浸入していないことが示されていると主張する。しかし、フィルター膜が写真面に対して正確に直交した方向ではなく奥行に向かって斜め方向に延びているのであれば、隣り合うフィルター膜が接触しているように見えることがあり、被告の主張は失当である。
B 甲第19号証の1ないし3は被告製品の端部シール部の電子顕微鏡写真であり、フィルター膜、ネット支持体及びFEPフィルムが原形を維持している部分(A部分)、FEPフィルム及びネット支持体が溶融しかけている部分(B部分)、FEPフィルム及びネット支持体が完全に溶融している部分(C部分)、フィルター膜の最下端が溶融樹脂に埋入している部分(D部分)を観察することができる。
被告は、フィルター膜の端部において、ネットが溶融して蓋部材と界面で接着している旨主張するが、電子顕微鏡で融着部を観察しても、ネット及びFEPフィルムが溶融した樹脂と蓋部材が溶融した樹脂が混ざり合っているため、樹脂の界面は見られない。
C 被告は、被告製品の端部シールについて、FEPフィルムのアンカー効果を主張する。しかし、アンカー部分は存在せず、アンカー効果も存在しない。
甲第17号証の1ないし3は、被告製品のフィルター膜の端部付近にFEPフィルムが付加されている部分の断面の電子顕微鏡写真であるが、FEPフィルムの溶融樹脂がフィルター膜の細孔部分に食い込んでいる部分、すなわちアンカー部分は確認されず、また、フィルター膜とFEPフィルムの間に部分的に接着されていないところもあった。フィルター膜とFEPフィルムとは単に圧着固定されているのみであって、決して強固に接着されているものではない。
D 被告は、被告製品の製法では押し込み動作を伴っていないように主張する。しかし、乙第5号証添付の写真Aによれば、フィルター膜が黒色に着色した蓋部材にまで入り込んでいること、乙第5号証3頁に、両端部の融着工程として「加圧融着」したことが記載されていること、甲第7号証の6の被告製品の写真によれば、蓋部材に盛り上がり部分があることから、被告製品の製造工程においても、濾過材の両端部を蓋部材に加圧して融着させていることが分かる。
c 乙第5号証添付の写真Aを見ると、上方から下方に行くに従って、
まずFEPフィルムが溶け、更に下方に下がるとネットが溶け、それよりも更に下の領域ではフィルター膜のみが存在しており、フィルター膜最下端部の両側に黒色の上蓋部材の樹脂が存在しているから、これにより、フィルター膜が熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化している構造が示されている。
乙第5号証記載の実験においては、蓋部材の樹脂にフッ素樹脂ではない黒色粒子を添加しているため、着色粒子の濃度差による境界が存在するように見える。しかし、フッ素樹脂同士は混ざり合っており、界面は存在せず、観察されるのは、見かけ上の色の境界であり、フッ素樹脂の境界ではない。
d 被告は、乙第15号証に基づき、フィルター膜とFEPフィルムとをはがした後の表面状態から推測してアンカー効果を主張している。しかし、甲第17号証の2の写真に撮影されたフィルター膜とFEPフィルムの密着部分をはがせば、乙第15号証のストリップフィルム「溶着面」の写真(乙第15号証添付写真B-2-2)に見られる程度の表面の荒れは生じるものであり、このような状態を、原告は、アンカー部分でないと主張するのに対し、被告がアンカー部分であると主張しているのである。
被告は、乙第15号証の「フィルターとストリップフィルムの溶着部分の断面」の写真(乙第15号証添付写真A-1)により、フィルター膜とFEPフィルムが密着されていると主張するが、同写真は不明瞭であり、隙間部分の有無を確認することができるものではない。甲第17号証の1の写真によれば、フィルター膜とFEPフィルムの間に密着部分と隙間部分の両方が存在することが確認される。
e 被告は、乙第6号証により、本件明細書に記載された実施例の追試品によっては、被告製品のような実用的な高度の液密性は得られなかったと主張する。
しかし、本件明細書の実施例に記載されたフィルターエレメントの製法は、本件発明に係るフィルターエレメントの製法の一例にすぎないこと、乙第6号証記載の実験には、本件発明の実施例記載の製造工程を変更した点があること、乙第6号証記載の実験においてバブルポイントの値が低かった原因が濾過部分とシール部分のいずれにあるか判断できず、シール性能に問題があったと直ちにいうことはできないことなど、乙第6号証記載の実験には不備がある。
f 被告は、乙第7号証及び第9号証に基づき、被告製品からFEPフィルムを除きネットのみを残した場合に液密なシールが得られない旨主張する。
しかし、甲第15号証によれば、乙第7号証記載の実験に用いられたFEPフィルムなしのサンプルは、フィルター膜の両側に位置する溶融樹脂の量が被告製品と大きく異なり、甲第16号証によれば、乙第7号証記載の実験のサンプルはフィルター膜の間隔が被告製品よりも広く、甲第15、第16号証に照らし、乙第7号証記載の実験において、サンプルが被告製品と同1条件下で試作されたか疑わしく、同実験は信頼性に欠ける。乙第9号証によっても実験の信頼性の疑問は解消されない。また、乙第7号証記載の実験においては、FEPフィルムを除いたことによりフィルター膜の周囲の溶融熱可塑性フッ素樹脂の量が少ない状態となっているが、このような溶融樹脂量の不足は、濾過材と蓋部材との加圧を強くする、加熱融着の保持時間を若干長くする、融着前の濾過材及び蓋部材の加熱時間を若干長くする、熱可塑性フッ素樹脂製ネットとしてより厚みのあるものを用いる、
プリーツの山の数を増やしフィルター間隔の距離を小さくするなどの製造条件等の微調整により修正可能であり、このような修正なしに行った試作によって良質の製品ができなかったからといって、フィルターエレメントの生産が不可能であるということはできず、同実験は、実験方法も不適切である。
g 甲第14号証(実験報告書)によれば、被告製品からFEPフィルムを除いた構成、すなわち濾過材として四フッ化エチレン樹脂フィルター膜と熱可塑性フッ素樹脂ネット支持体の2構成部材からなり、被告製品と同様の製造工程を経て得られた物が、市販品と同様なシール性能を有することは否定し得ない事実であり、FEPフィルムが何らかの効果を有するとしても、それは本件発明に対して付加的な効果にすぎない。
甲第18号証記載の実験によれば、甲第14号証記載の実験により作成されたFEPフィルムを除いた構成のサンプルについて、ネット支持体及びフィルター膜を端部シール部から引き抜く実験を行ったところ、ネット支持体及びフィルター膜が破断してしまい、測定不能となった。このことから、FEPフィルムがなくてもフィルター膜が熱可塑性フッ素樹脂中に埋入していれば極めて高い接着強度が得られることが、明らかである。
イ(中央開口部等) (ア)a 構成要件Bの「濾過材の両端部を中央開孔部を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化」という記載は、中央開口部(構成要件Bには「中央開孔部」と記載されているが、以下では、一般的に用いられている「中央開口部」という語を用いることもある。)が一方の端だけにあるのか両端にあるのかを特定していない。
b 本件明細書の発明の詳細な説明には、中央開口部に関して、「該濾過材の両端部4の中央開口部5を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化して」(特許公報5欄27行ないし29行)、「濾過材はその両端部4を、液通過用開口部5を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入融着させる。」(同7欄36行ないし38行)、「所望により濾過材両端部の中央開口部5に嵌入する多孔性中空円筒状コア材(濾液の取出流路)をキャップ8に融着する。」(同8欄9行ないし11行)、「両端部に融着させるキャップは両者共、中央開口部7を有する形状を有していてもよく、一方他方が中央開口部を有さないキャップであってもよい。」(同8欄19行ないし22行)という記載がある。
c 中央開口部が一端だけにあるか両端にあるかという点は、本件発明の本質とは無関係であり、いずれの構造を採用しても作用効果に相違は認められない。
d 筒状のフィルターエレメントは、必ず端部に濾過液の出口(又は入口)となるべき中央開口部を有しており、フィルターの一端にだけ中央開口部を設けたもの(シングルオープン型)と、両端部に中央開口部を設けたもの(ダブルオープン型)がある。特開昭54-58269号公開特許公報(甲第6号証)、特開昭57-48313号公開特許公報(甲第5号証)の記載から明らかなように、本件発明の特許出願当時、シングルオープン型フィルターエレメント及びダブルオープン型フィルターエレメントはいずれも周知であり、当業者は、設置場所に応じて適宜いずれかの型のフィルターエレメントを選択していた。
e したがって、本件発明は、両端部に中央開口部を有する構造のフィルターエレメントに限定されない。
(イ) 被告製品は、上蓋部30には中央開孔部31があるが(別紙被告製品目録「構造の説明」H)、底蓋部20は中央開口部がなく閉塞している(同「構造の説明」I)。しかし、本件発明は、両端部に中央開口部のあるものに限定されないから、被告製品も、本件発明の技術的範囲に属する。
ウ 以上によれば、被告製品は、濾過材の両端部を中央開孔部を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した端部シール部を備えるから、構成要件Bを充足する。
(6)(構成要件Cの充足性) 被告製品は全フッ素樹脂製フィルターエレメントであるから、被告製品は、構成要件Cを充足する。
(7)(損害等) 被告は、平成2年7月から平成9年6月までの間に、商品名を「ATフロロガード」、「ATフロロガードU」、「ATメガガード」とする被告製品を合計5万7000本販売し、その売上の合計は85億5000万円を下らず、通常実施料率は5パーセントであるから、被告は、実施料率相当額である4億2750万円(85億5000万円×5/100=4億2750万円)を不当に利得し、原告に同額の損失を与えた。
被告は、平成9年7月から平成12年6月までの間に、商品名を「フロロガードAT」、「フロロガードATX」、「ガーディアンAT」、「ガーディアンATX」、「クイックチェンジAT」、「クイックチェンジATX」とする被告製品を合計2万7000本販売し、その売上の合計は40億5000万円である。被告の利益率は20パーセントであるから、利益の合計は8億1000万円であり、
この利益の額は、原告が受けた損害の額と推定される。
(8) よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、被告製品の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、平成2年7月から平成9年6月までの販売分についての不当利得としての実施料相当額4億2750万円、及び平成9年7月から平成12年6月までの販売分についての不法行為に基づく損害賠償額8億1000万円の合計額12億3750万円、並びに実施料相当額4億2750万円に対する平成9年6月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、
及び損害賠償額8億1000万円に対する平成12年7月28日(本件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)は認める。
(2) 同(2)ア、イは認める。
(3) 同(3)に対する認否は、次のとおりである。
ア 別紙被告製品目録添付図面及び同目録の「図面の説明」のうち、第1図、第2図、第5図、第6図及びこれらに関する図面の説明は認める。
第3図及びその説明については、被告製品に端部シール部が存在しないこと、被告製品にはコア及び外筒が必須であり、それらの図示を省略するのは誤りであることから、否認する。
第4図及びその説明は否認する。
第7図は、被告製品と全く異なるので、第7図及びその説明は否認する。
イ 同目録の「図面の番号、符号の説明」は認める。
ウ 同目録の「構造の説明」のうち、@ないしFは認める。
Gは否認する。被告製品のフィルター膜11に融着したFEPフィルム(ストリップフィルム)14及びネット12a、12bの上下の端部は、それぞれ上蓋部30、底蓋部20と当接して融着され一体になっているだけであり、フィルター膜の上下端は、上蓋中及び底蓋中に「埋入」している構造ではない。
Hは認める。
Iのうち、第7図は否認し、その余は認める。
Jは認める。
エ 被告が現在販売している被告製品の商品名が「フロロガードAT」、
「フロロガードATX」、「ガーディアンAT」、「ガーディアンATX」、「クイックチェンジAT」、「クイックチェンジATX」であることは認める。
(4)(構成要件Aの充足性) ア 請求原因(4)ア、イは争う。
構成要件Aの「ネット支持体」は、フィルター膜に重ねることにより、
いわばつきたての餅のような状態の溶融樹脂の中に形を崩さないまま埋入し、コア材やエンドキャップを伴わずに使用し、濾過圧に耐えることができるような剛性を与えるものでなければならない。
被告製品のネットは、極めて柔軟な素材であり、このような剛性を与えるものではないから、構成要件Aの「ネット支持体」に該当しない。
(5)(構成要件Bの充足性) ア 請求原因(5)アないしウは争う。
イ(埋入一体化) (ア)a@ 構成要件Bの「埋入一体化」とは、融着が困難な四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜と熱可塑性フッ素樹脂製のネット支持体からなる濾過材の端部を、溶融した熱可塑性フッ素樹脂の中に挿入し(押し込み)、更に十分加熱することにより、濾過材の端部を熱可塑性フッ素樹脂中に埋め込み、端部の襞間にも樹脂を浸入させることを意味する。
A 熱可塑性フッ素樹脂は分子量が大きいので、溶融しても粘度が高く、いわば「つきたての餅」のような状態であり、濾過材端部を単純にこれに挿入しようとしても、簡単には埋め込むことができない(特許公報7欄24行ないし32行参照)。そこで、本件明細書の発明の詳細な説明には、濾過材の端部をあらかじめ予備融着し冷却することによって剛性を高めておき、濾過材の端部を深く埋め込むことができるようにする製法が記載されている。このように、本件発明は、濾過材を構成するフィルター膜を、ネット支持体ともども熱可塑性フッ素樹脂中に機械的に埋め込んでしまうことによって、フィルター膜とシール材との間に摩擦抵抗を生じさせてフィルター膜が抜け出ないようにし、シール効果を達成しようとするものに他ならず、濾過材の端部が熱可塑性フッ素樹脂に埋入した部分が、特許公報第1図番号6で示されるような「端部シール部」と呼ばれている。
B 本件明細書には、「本発明のフィルターエレメントは・・・従来融着が困難とされていたフッ素樹脂を特殊な構成によって液密に融着した点に特徴があり」(特許公報5欄36行ないし40行)と記載されている。本件発明のネット支持体は、「膜側縁部およびプリーツ状フィルター端部の融着を完全にするために重要な役割を有する」(特許公報6欄19行ないし21行)点に特殊性があり、
この点が、前記の「特殊な構成」に当たる。
b@ 原告は、「埋入一体化」とは、四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両端部が熱可塑性フッ素樹脂中に埋入し一体化されている状態を意味すること、ネット支持体は、濾過材の両端部においては、融着後、端部シール部の一構成要素となることなどを主張する。
しかし、構成要件Bによれば、熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化しているのは濾過材であり、構成要件Aによれば、濾過材は、フィルター膜だけではなく、フィルター膜の両面に熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体を重ねたものであるから、ネット支持体は、融着の過程で溶融するかどうかにかかわらず、フィルター膜とともに必ず熱可塑性フッ素樹脂の中に埋入していなければならない。特許請求の範囲においては、埋入する主体としての濾過材と、これを受ける客体としての熱可塑性フッ素樹脂とは、截然と区別されている。本件明細書中には、濾過材の端部を他のシール用のフッ素樹脂中に挿入する例しか記載がなく、濾過材の一部であるネット支持体が融着の過程で埋入の客体である熱可塑性フッ素樹脂に変化するという記述は、どこにもみられない。
また、構成要件Bによれば、プリーツ端部襞間に浸入させるのは樹脂であり、濾過材の一部であるネット支持体であるはずはない。
本件明細書には、フィルター膜とネット支持体からなる濾過材の端部を熱処理して冷却し(予備融着)、その状態で、溶融させたシール材に挿入し更に加熱するという手段しか記載されていない(特許公報9欄18行ないし10欄3行)ところ、ここでいう予備融着は、フィルター膜の周りにネット支持体が溶融して固まった状態であるが、これをもって「埋入」などといわないことは明白であるし、ネット支持体がフィルターの周りで溶融しただけでシール効果が得られないことは明白である。
したがって、原告のこの点に関する主張は、本件明細書の特許請求の範囲等の記載に反する。
A フッ素樹脂の接着が困難であり、フッ素樹脂製フィルターを用いて液密なシールを得るのが困難であることは、技術常識であり、本件明細書(特許公報5欄3行ないし19行)にも解決すべき課題として記載され、原告も本件特許の特許異議答弁書(乙第4号証)において主張していたところである。フィルター膜が熱可塑性フッ素樹脂に埋入されさえしていれば良好なシール性が得られるという原告の主張は、これらの技術常識、本件明細書の記載、出願経過における主張に反する。
また、フッ素樹脂製のフィルターに関する技術は、本件特許権の出願経過における特許異議事件においても引用されたように、実開昭59-119307号公開実用新案公報(乙第10号証)、実開昭59-82516号公開実用新案公報(乙第11号証)、特開昭58-98111号公開特許公報(乙第12号証)、特開昭56-141810号公開特許公報(乙第13号証)及び特開昭57-122154号公開特許公報(乙第14号証)記載の技術など数多く存在するが、本件発明は、特許異議答弁書(乙第4号証)に記載されたとおり、これらの公知例とは異なる技術であることを主張してようやく特許されたものである。原告が主張するように、フィルター膜がフッ素樹脂で取り囲まれていさえすれば本件発明の構成要件が充足されるとすると、本件発明は、これらの公知技術と全く区別がつかないものになってしまう。
B 原告は、本件発明は、「押し込む」方法によるものに限定されない旨主張する。
しかし、原告は、本件発明の発明者の一部の者を発明者とし、発明の名称、代理人を同じくする本件特許権の後願の特許(特許第2507456号。以下「後願特許」という。)の明細書において、従来技術の項で本件特許権に係る公開特許公報(特開昭60-58208号公開特許公報)等を引用し、「押し込む方法」による発明であると記載しているから、本件発明が、熱可塑性フッ素樹脂にフィルター膜及びネット支持体で構成される濾過材を押し込むものであることは疑問の余地がない。
C また、後願特許は、フィルター膜に補強材を付した点以外は、本件発明と基本的な技術思想は共通であるところ、後願特許(後願特許については、
特許異議が申し立てられ、特許権者が訂正を請求し、特許を維持すべき旨の決定と同時に訂正を認める旨の決定がされた。)の特許請求の範囲の訂正の過程からして、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」が濾過材以外の熱可塑性フッ素樹脂、具体的には端部シール部のみを意味していることも明らかである。
c 原告は、被告の主張を特許法70条1項に反すると主張する。しかし、構成要件Bの「埋入一体化」という文言の意味が特許請求の範囲の記載のみからは明確に理解できないことから、被告は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された製法によって、その意味を明らかにしたものであり、被告の解釈は、特許法70条2項に沿うものである。
(イ)a@ 被告製品のフィルター膜11は、PTFE製であり、他のフッ素樹脂との接着が一般に困難であるが、FEPフィルム(ストリップフィルム)14を溶融させながら加圧してフィルター膜に押しつけると、FEP樹脂の溶融物が多孔質のフィルター膜の孔内に入り込んで碇のように引っかかり(このためアンカー効果という。)、FEPフィルムとフィルター膜とがあらかじめ接着される。更にFEPフィルムと接着されたフィルター膜端部を加熱して溶融させ、同時に溶融させた蓋部20、30と当接させると、溶融したFEPフィルムと蓋部の素材が相互に融着する。このようにしてフィルター膜の端部と蓋部材が液密に融着され、シール効果が得られる。したがって、被告製品のネット12a、12bの端部とFEPフィルム14の端部は、蓋部20、30としっかりと接着されてはいるが、蓋部材に埋入されてはいない。また、FEPフィルムの溶融物を、仮にシール部材とみなしても、FEPフィルムはフィルター膜の片側にしか存在せず、フィルター膜はFEPフィルムに埋入していない。
フィルター膜11の端部において、ネット12a、12bが溶融して蓋部20、30と界面で接着しているが、ネット12a、12bはフィルター膜11に接着されていない上、文字通り網目状であり、蓋部材との界面では隙間だらけでありシール効果がないから、フィルター膜端部におけるネット12a、12bはシール材として機能しておらず、ネット12a、12bの溶融物を「端部シール部」を構成する熱可塑性フッ素樹脂とみなすことはできない。仮に、原告が主張するように、ネット12a、12bの溶融物をシール材とみなしても、被告製品は、ネットによっては埋入されていないし、密封融着されてもいない。
A 被告製品は、融着の段階で、フィルター膜11の端部(FEPフィルム14及びネット12a、12bの一部が溶融している)は高温で極めて柔軟な状態であって剛性がないから、本件発明と異なり、蓋部20、30側の溶融して柔軟な状態にある樹脂の中に押し込まれることはなく、座屈してしまって埋入されない。被告製品のシール方法は、溶融状態になったいわば「つきたての餅」のような状態のもの同士を当接させて融着させるものである。フィルター膜11の襞の間には、蓋部20、30の樹脂が浸入してもいない。
B 原告は、被告製品のFEPフィルムが、フィルター膜端部を埋入させるための溶融樹脂量を増加させるものであるかのように主張する。しかし、前記@のとおり、被告製品のFEPフィルムは、フィルター膜とアンカー効果によってあらかじめ強固に接着され、フィルター膜と蓋部材を接着する機能を有するものであり、フィルター膜を埋めるようなものとは異なる。
b@ 甲第8号証の1の「底蓋部20の上方領域」と記載されている部分は、フィルター膜11と、ネット12a、12b及びFEPフィルム14が溶融したものの存在する部分であって、濾過材そのものであり、底蓋部20ではない。
フィルター膜は、濾過材を構成するネットとFEPフィルムの溶融部に囲まれているだけであり、蓋部材の樹脂に埋入していない。
原告は、ネット12a、12b及びFEPフィルム14が溶融している部分は、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」である旨主張するが、仮に、
その部分が埋入の客体側の熱可塑性フッ素樹脂であり蓋部材の一部であるとすると、被告製品においては、フィルター膜のみが熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化しており、ネットは熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化しておらず、ネット支持体を含むはずの濾過材は熱可塑性フッ素樹脂中に埋入されておらず、本件発明の技術的範囲に属しないということになり、原告の主張は矛盾していることになる。
A 本件発明は、濾過材を蓋部材に埋入一体化させることによりプリーツ間に樹脂を浸入させ、機械的に密封融着させることを趣旨とする。そのため、
本件発明においては、プリーツ襞間のあらゆる箇所に樹脂が浸入している必要があり、どこか一箇所でも樹脂が浸入していないところがあれば、そこから液が漏れてしまうため、「密封融着」とはならない。
甲第9号証の1の写真中央のフィルターは、隣り合うフィルター同士が互いに接着してしまっており、プリーツ襞間すべてに樹脂が浸入していないことが示されている。被告製品が本件発明の構成要件を充足しないことは、甲第9号証の1から明らかといえる。
B 甲第19号証の1ないし3により立証されるのは、被告製品のフィルター膜の周囲に溶融樹脂が存在することのみであり、その溶融樹脂がシール材として液密性を保つ機能を有し、構成要件Bの「端部シール部」としての機能を有しているかどうかは、何も証明されていない。
ネットから溶融した樹脂は「端部シール部」ではないし、FEPフィルムの溶融物はフィルター膜の片面にしか存在しないから、フィルター膜はその溶融物に埋入していない。
c 乙第5号証記載の実験のとおり、上蓋部と底蓋部に着色をして被告製品と同様の物を製作し、フィルター膜の周囲の樹脂が蓋部材の樹脂かどうか確認したところ、上蓋部と底蓋部のいずれにおいても、着色した蓋部材の樹脂は、フィルター膜の周囲には入り込んでおらず、境界が明確に分離して観察された。これにより、被告製品の濾過材は、蓋部材の樹脂の中には埋入されておらず、襞間にも樹脂が浸入していないことが明らかである。
被告が、溶融した樹脂同士が界面で接着していると主張する趣旨は、溶けた樹脂同士が面で溶着しているという意味であり、FEPフィルムの界面と蓋部材の界面は相互に溶け合っている。
d 乙第15号証記載の引っ張り強度試験によれば、フィルター膜とFEPフィルムが十分な強度をもって接着されていることが示されており、乙第15号証に掲載された「フィルターとストリップフィルムの溶着部分の断面」の写真(乙第15号証添付写真A-1)によれば、フィルター膜とFEPフィルムが密着されている様子が示されており、ストリップフィルム「溶着面」の写真(同添付写真B-2-1、B-2-2)、「フィルター溶着面」の写真(同添付写真C-2-1、C-2-2)によれば、FEPフィルムとフィルター膜が相互に絡み合って接着していたことが示されており、アンカー効果が明らかである。
e 乙第6号証記載の実験によれば、本件明細書に記載された実施例の追試品によっては、被告製品のような実用的な高度の液密性は得られなかった。乙第6号証記載の実験には不備はなく、シール性能に問題があったことは明らかである。
f 乙第7号証記載の実験によれば、被告製品からFEPフィルムを除き、ネットのみを残したサンプルにおいて液密なシールが得られないことが明らかであり、被告製品においてはFEPフィルムによって液密性が得られており、ネットによって液密性が得られているのではない。
乙第9号証記載の実験により、通常の被告製品と、蓋に着色をした以外は通常の被告製品と同一であるサンプルと、被告製品からFEPフィルムを除いたサンプルの3種類を同一の工程により製造し、その性能を比較したところ、通常の被告製品と蓋に着色をしただけのサンプルは、被告の社内規定どおりのシール性能を示したが、FEPフィルムを使用しないサンプルは全くシール性能を示さないことが明らかとなった。これにより、被告製品においてFEPフィルムを使用しない場合は、全くシール機能がなく、ネットの溶融物はシール材とみなすことができないことが明らかとなった。
原告は、乙第7号証について、実験の信頼性に欠け、製造条件等の微調整が行われていないことから実験方法も不適切である旨主張する。しかし、被告製品からFEPフィルムを除けばフィルターエレメントとして成立しないという事実を証明することが乙第7号証の目的なのであるから、サンプルを通常の被告製品の製法と異なる製法によって製造したのでは、実験の意味がなくなってしまう。
また、原告が微調整として主張する加熱融着の保持時間を長くする方法は、本件明細書に記載された方法であり、被告製品の製法とは相反する。被告製品のフィルター部材と蓋部材の融着は、乙第9号証記載のとおり、作業自体が5秒程度で終了する(乙第9号証、第弐日目、H、ア、a、b)。また、原告が微調整として主張する濾過材と蓋部材との加圧を強くする方法は、被告製品において濾過材と蓋部材は相互に加熱されて溶融した時点で接着されることから、そのような方法による必要がなく、また、本件明細書に記載がないことから、適切でない。
g 原告は、甲第14号証により、被告製品からFEPフィルムを除いた構成の物が市販品と同様なシール性能を有する旨主張する。
しかし、甲第14号証のサンプルの製造は、被告製品の製造条件とは全く異なる条件下で行われているようであり、同サンプルは、被告製品からFEPフィルムだけを除いた製品とはいえない。
液密性の有無に関しては0.1μm程度の空間の有無が問題となるのに対し、接着強度に関しては多少の空間の有無を問わず引っ張り強度に耐えればよいから、甲第18号証によってフィルター膜と端部シールの接着強度が高かったことが証明されたとしても、FEPフィルムが存在しない場合に液密性が高いことが証明されたとはいえない。
h したがって、被告製品は、構成要件Bの「埋入一体化」の要件を充足しない。
ウ(中央開口部等) (ア)a 本件特許出願時(昭和58年9月9日)には、本件明細書の特許請求の範囲第15項は存在せず、物の発明は、従属項を除き特許請求の範囲第1項の発明が存在するのみであったが、出願後の昭和62年6月22日付け手続補正書(乙第3号証)による手続補正によって、第15項は、独立した物の発明として追加され、その後出願公告がされた。これに対し異議申立てがされ、出願当初の特許請求の範囲第1項と第15項との関係について、原告(出願人)は、特許異議答弁書(乙第4号証)において、第15項のフィルターエレメントが第1項のフィルターエレメントにキャップを取り付ける前の状態の物であることを明らかにした。また、原告(出願人)は、出願公告後、本件明細書(出願当初の明細書(乙第1号証)では10頁20行)の「融着させる。」の次に「この状態でフィルターエレメントとして用いてもよい。」を加入し、本件明細書(出願当初の明細書では14頁20行)の「耐え得る。」の次に「従って、この状態でフィルターエレメントとして用いることもできるが、外観上あるいは使用し易さを考慮してさらにエンドキャップやコア材をとりつけてもよい。即ち、」を加入する補正を行っており、これらは、特許請求の範囲第15項のフィルターエレメントがそれだけで独立してフィルターエレメントとして使用できることを明らかにしたものである。
前記の特許異議答弁書や補正における原告の主張によれば、特許請求の範囲第15項のフィルターエレメントは、同第1項のフィルターエレメントを完成させる前の状態であり、後に「キャップ」を被せることによって、同第1項のフィルターエレメントとなし得る構造の物である。それは、本件発明の実施例に記載された「円筒形プリーツ状濾過材」の両端部を金型に入れてフッ素樹脂で固めたものであり、本件特許権の特許出願の願書に添付された図面第1図(特許公報第1図)の中央に示された「濾過材3」と「端部シール部6」によって構成され、両端の中央開口部5が開いた構造のものに他ならない。
b また、昭和62年2月7日付け手続補正書(乙第2号証。同手続補正書3頁(12)、(13))により補正された明細書(出願当初の明細書12頁6行ないし9行)によれば、「キャップ」については、「両端部に融着させるキャップは両者共、中央開口部(7)を有する形状を有していてもよく、一方が中央開孔部を有し他方が中央開口部を有さないキャップであってもよい。」(この箇所に該当する特許公報8欄19行ないし22行は「両端部に融着させるキャップは両者共、
中央開口部7を有する形状を有していてもよく、一方が他方が中央開口部を有さないキャップであってもよい。」となっている。)とされているから、特許請求の範囲第15項のフィルターエレメントは、両端ともに中央開口部7を有するキャップを付することができるものであり、端部シール部6は、必ず両端に開口が存在しなければならない。
c さらに、端部シール部とキャップとの関係について、本件明細書には、「端部シール部を予め形成させておかない場合、キャップと濾過材の融着は不完全となり、完全にシールされたフィルターエレメントを得ることはできない。」(特許公報8欄23行ないし26行)と記載されているから、キャップと端部シール部は、一度に形成されるものではなく、キャップを着ける前に端部シール部があらかじめ形成されている。
d したがって、構成要件Bの「該濾過材の両端部を中央開孔部を残して」とは、濾過材の両端部に中央開口部が設けられることを意味し、また、「端部シール部」とは、それのみでもフィルターエレメントとして使用できるが、その両端にキャップを被せることもできるものを意味する。
(イ)a 被告製品は、上蓋部30には中央開孔部31があるが、底蓋部20は中央開口部がなく閉塞しているから、構成要件Bの「該濾過材の両端部を中央開孔部を残して」という要件を充足しない。
b 被告製品のフィルター膜11、ネット12a、12b及びFEPフィルム14の上端部は、コア50、外筒40と一体に上蓋部30に融着され、下端部は、コア50、外筒40と一体に底蓋部20に融着されているから(別紙被告製品目録「構造の説明」A、H、I)、被告製品は、キャップを備え得る構造ではなく、構成要件Bの「端部シール部」に相当するものがない。
c したがって、被告製品は、構成要件Bを充足しない。
(6) 請求原因(6)(構成要件Cの充足性)は認める。
(7) 同(7)の事実は否認し、主張は争う。
理 由1 請求原因(1)及び(2)は当事者間に争いがない。
2(1) 請求原因(3)につき、別紙被告製品目録添付図面及び同目録の「図面の説明」のうち、第1図、第2図、第5図、第6図及びこれらに関する図面の説明、同目録の「図面の番号、符号の説明」、同目録の「構造の説明」@ないしF、H、Iのうち第7図以外の部分、Jは、当事者間に争いがない。また、被告が現在販売している被告製品の商品名が「フロロガードAT」、「フロロガードATX」、「ガーディアンAT」、「ガーディアンATX」、「クイックチェンジAT」、「クイックチェンジATX」であることは、当事者間に争いがない。
(2) 別紙被告製品目録添付図面及び同目録の「図面の説明」のうち、第3図、第4図、第7図及びこれらに関する図面の説明、同目録の「構造の説明」Iのうち第7図については、当事者間に争いがあるが、これらにつき判断をしなくても、後記3の構成要件の充足性の判断は可能であるから、別紙被告製品目録の記載中、これらの部分の当否についての判断は留保する。
同目録の「構造の説明」Gについては当事者間に争いがあるが、「埋入」しているか否かは、後記3のとおり、構成要件Bの充足性に関して判断される。
3 請求原因(5)(構成要件Bの充足性)ア(埋入一体化)について検討する。
(1)(構成要件の解釈) ア(ア) 構成要件Bにおいては、「濾過材の両端部を・・・熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化して」とされているところ、「埋入」とは、技術用語として、一般に「埋め込むこと」を意味する(日刊工業新聞社発行「特許技術用語集-第2版-」、甲第12号証)。ここにいう「濾過材」は、構成要件Aによれば、「四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両面に熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体を重ねたサンドイッチ状シートをプリーツ状に折り曲げて、その両側縁部を液密に融着した」ものであり、この濾過材の両端部が熱可塑性フッ素樹脂中に「埋入一体化して」いることが構成要件とされている。
そうすると、特許請求の範囲の記載の通常の語義からすれば、本件発明の濾過材は、その両端部の内側、外側及び終端が熱可塑性フッ素樹脂中に埋め込まれ(埋め入れられ)一体化して取り囲まれている状態を意味するものと解される。
そして、構成要件Bは、「・・・埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した端部シール部を必須要素として備えた」としているから、構成要件Bを充足するためには、濾過材の両端部の内側、外側及び終端が熱可塑性フッ素樹脂中に埋め込まれ一体化して取り囲まれるとともに、濾過材のプリーツ端部襞間に樹脂(この樹脂は、特許請求の範囲の記載の文脈に照らして、「熱可塑性フッ素樹脂」を指すと解される。)が浸入していることによって密封融着が実現されていることが必要であると解される。
(イ) 前記のとおり、構成要件Bでは、濾過材の両端部が「熱可塑性フッ素樹脂」中に「埋入一体化」されるものであるが、ここにいう「熱可塑性フッ素樹脂」とは、濾過材が埋入一体化されている相手方の部材(以下「相手方部材」という。)の熱可塑性フッ素樹脂をいうものと解されるが、それのみならず、相手方部材以外の物の樹脂であっても、相手方部材の樹脂と物理的に一体を成しかつ組成を同じくする熱可塑性フッ素樹脂であれば、そのような樹脂をも含むものと解される。なぜなら、濾過材が、相手方部材以外の物の溶融した樹脂に取り囲まれ、又は相手方部材以外の物の溶融した樹脂と相手方部材の溶融した樹脂が混合した樹脂に取り囲まれている場合であっても、相手方部材以外の物の樹脂が相手方部材の樹脂と物理的に一体を成しかつ組成が同じであれば、物の状態としては、濾過材は、相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれている状態にあるということができるからである。これに対し、濾過材が相手方部材の樹脂と物理的に一体を成さない樹脂に取り囲まれていたり、相手方部材の樹脂と物理的に一体を成していても組成の異なる樹脂に取り囲まれている場合には、濾過材は、相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれている状態にあるということができない。
(ウ) そうすると、構成要件Bの「濾過材の両端部を・・・熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した」とは、濾過材の両端部の内側、外側及び終端が、相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂又は相手方部材の樹脂と物理的に一体を成しかつ組成が同じ熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれ、濾過材のプリーツ端部の襞間にそのような熱可塑性フッ素樹脂が浸入し、このような構成によって濾過材の両端部が密封融着されていることを意味すると解される。
イ(ア) 本件明細書の特許請求の範囲の記載からは、構成要件Bの意義は上記のように解されるが、特許請求の範囲に記載された用語の意義は、明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して解釈されなければならない(特許法70条2項)から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
(イ) 甲第2号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、次のとおり、本件発明に係るフィルターエレメントの製法が記載されていることが認められる。「フィルター膜はネット支持体でサンドイッチ状にはさみ、これをプリーツ状に折り曲げて両側縁部を液密に融着しプリーツ状円筒にする。フィルター膜とネット支持体は多層構造をとってもよい(例えば支持体-膜-支持体-膜-支持体)。」(特許公報7欄3行ないし7行、甲第2号証)、「以上のごとくして得られた濾過材はその両端部4をネット支持体の樹脂の融点以上に十分加熱してプリーツの各襞間を予備融着させる。この工程は後にプリーツ状フィルターの両端部の襞間にフッ素樹脂を侵入させて密封融着し端部シール部を形成させる前工程として重要である。即ち、後述するごとくプリーツ状フィルターの両端部は溶融フッ素樹脂の入った金型中に押込み融着させるが、その際、前記襞間の予備融着を怠ると溶融フッ素樹脂の粘度が高いため、プリーツが座屈しプリーツ襞間に樹脂が浸入しない。即ちフィルター膜がフッ素樹脂中に埋入した状態にならない。従って不完全なシールしか得られず耐圧性も不十分となる。上記襞間の予備の融着は完全な全面密着の必要はなく、端部シール部形成時に生ずる上述の問題が避けられる程度に行なえばよい。以上のごとくして得られた濾過材はその両端部4を、液通過用開口部5を残して熱可塑性フッ素樹脂中に埋入融着させる。この状態でフィルターエレメントとして用いてもよい。融着は濾過材端部を挿入し得る金型に、シール用熱可塑性フッ素樹脂を充填し、これを加熱溶融した中に濾過材端部を押込み、プリーツの間にシール用フッ素樹脂が浸入し、濾過材端部の熱可塑性フッ素樹脂の少なくともその表面が溶融し浸入した樹脂を融着一体化するまで加熱を続けることにより行なう。」(同7欄19行ないし44行)。
もとより、発明の詳細な説明中に製法が記載されていたとしても、物の発明である本件発明の技術的範囲が当該製法によって得られた物に限定されるわけではないが、そのような記載も、本件発明の技術的範囲を確定するに当たって参酌される。しかるところ、本件明細書の上記記載からすると、上記製法により製造された物は、濾過材の端部の内側、外側及び終端が熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれ、濾過材のプリーツ端部の襞間に熱可塑性フッ素樹脂が浸入していることにより、密封融着が実現されていると認められる。また、上記製法においては、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」、「樹脂」に該当するものが、金型に充填した「シール用熱可塑性フッ素樹脂」、「シール用フッ素樹脂」と記載され、相手方部材と同じ熱可塑性フッ素樹脂とされていることが認められる。
(ウ) さらに、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を検討する。
「本発明のフィルターエレメントは・・・従来融着が困難とされていたフッ素樹脂を特殊な構成によって液密に融着した点に特徴があり」(特許公報5欄36行ないし40行)と記載されているところ、ここにいう「特殊な構成」とは、
前記(イ)のとおり、四フッ化エチレン樹脂のフィルター膜の両面に熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体を重ねてサンドイッチ状にした濾過材の端部を予備融着し、溶融した熱可塑性フッ素樹脂中に埋入融着させる構成を指すものと解される。
「PTFE製フィルター膜は熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体2でサンドイッチ状にはさむ。これは、・・・膜側縁部およびプリーツ状フィルター端部の融着を完全にするために重要な役割を有する。」(同6欄15行ないし21行)と記載されているところ、ここにいう「プリーツ状フィルター端部の融着を完全にするために重要な役割を有する」とは、前記(イ)のとおり、粘度の高い溶融フッ素樹脂に押し込んでも座屈しないように予備融着を可能とする役割を指すものと解される。
実施例として、「得られた端部シール濾過材の端部はPTFE膜がEPE樹脂中に完全に埋入した状態で高圧にも耐え得る」(同10欄1行ないし3行)と記載されているところ、前記(イ)の製法により製造された物について、濾過材の端部の内側、外側及び終端が熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれ、濾過材のプリーツ端部の襞間に熱可塑性フッ素樹脂が浸入していることにより密封融着が実現されている状態に一致するものと解される。
(エ) このように、前記ア(ア)ないし(ウ)の解釈は、本件明細書の発明の詳細な説明実施例の記載にも合致するものと認められる。
(2)(被告製品による充足性) ア(ア) 乙第9号証(事実実験公正証書)によれば、被告製品の通常の製造工程、すなわち乙第7号証(被告従業員作成の実験報告書)記載の実験と同一の条件で、@通常の被告製品と同一の素材により製造した製品、A上蓋と下蓋を着色したほかは通常の被告製品と同一の素材により製造した製品、BFEPフィルムを使用せず、上蓋と下蓋を着色したほかは通常の被告製品と同一の素材により製造した製品の各バブルポイントを測定(これらの各製品(カートリッジフィルター)をそれぞれバブルポイントテスターに装着し、これにイソプロピルアルコールを注入してカートリッジフィルターの一次側に若干の窒素圧力をかけ、一次側のイソプロピルアルコールを排出し、その上で窒素圧力を更に加圧して、二次側からバブル(気泡)が排出され始めた時点の加圧力を測定するというもの)したところ、@とAの製品は26psi又は27psiの測定値を示したが、Bの製品は1psiの圧力をかけたところ気泡が発生し、Bの製品については液密なシールが得られなかったことが認められる。この実験結果によれば、被告製品は、FEPフィルムがあることにより、濾過材の端部シール部において液密なシールが得られているものと認められる。言い換えれば、FEPフィルムがなければ、液密なシールは得られていないものといえる。
(イ)a 原告は、甲第15号証によれば、乙第7号証記載の実験に用いられたFEPフィルムなしのサンプルは、フィルター膜の両側に位置する溶融樹脂の量が被告製品と大きく異なり、甲第16号証によれば、乙第7号証記載の実験のサンプルはフィルター膜の間隔が被告製品よりも広く、甲第15、第16号証に照らし、乙第7号証記載の実験において、サンプルが被告製品と同1条件下で試作されたか疑わしく、同実験は信頼性に欠けると主張する。
b 甲第15号証は、甲第8号証の2の写真と乙第7号証の「添付写真1」を並べて、溶融樹脂部分を比較したものである。
しかし、甲第8号証の2(被告製品「クイックチェンジATX」の上蓋部側を撮影したとされる写真)の写真は、被告製品のどの位置の切断面をどの方向から撮影したものであるか明らかではなく、乙第7号証の「添付写真1」と、被告製品の切断位置及び撮影方向が同じであることを認めるに足りる証拠はないから、甲第15号証から、直ちに、乙第7号証記載の実験のサンプルのフィルター膜の両側に位置する溶融樹脂の量が被告製品と大きく異なると認めることはできない。
c また、甲第16号証は、乙第7号証に添付された写真(「添付写真1」と「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」が並べてあるもの)に書き込みをし、「添付写真1」の方がフィルター膜の間隔が広いことを示したものである。乙第7号証に添付された写真の「添付写真1」と「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」の下には、いずれも「約1mm」の長さを示す線が記載されており、その線の長さは等しい。そして、「添付写真1」に撮影されたフィルター膜の間隔と「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」に撮影されたフィルター膜の間隔を比べると、前者の方が後者よりも広い。
しかし、「添付写真1」に撮影されたネットの繊維の写真面上での太さと「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」に撮影されたネットの繊維の写真面上での太さを比べると、前者より後者の方が細い(「添付写真1」が撮影された乙第7号証記載の実験と、「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」が撮影された乙第5号証記載の実験とで、ネットが異なることをうかがわせる事情はなく、ネットは同じであると推認される。)。したがって、各写真の下に記載された「約1mm」を示す線の長さが等しいのは、誤りというべきであり、同じ長さのものが撮影されていたとしても、「添付写真1」の方が、「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」よりも、写真面上は大きく写る(「添付写真1」の方が倍率が大きい。)ものと認められる。甲第16号証では、「添付写真1」と「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」に撮影された写真面上のフィルター膜の間隔を比べ、「添付写真1」の方がフィルター膜の間隔が広いという結論が導かれているが、前記のとおり、「添付写真1」の方が倍率が大きいから、写真面上で間隔が広いとしても、実際には間隔が広いとは限らない。むしろ、
ネットの繊維の写真面上での太さの比較に鑑みると、「添付写真1」に撮影されたフィルター膜の間隔と、「乙五号証添付写真A(ストリップフィルム有り)」に撮影されたフィルター膜の間隔は、実際は、ほぼ等しいものと認められる。したがって、甲第16号証から、乙第7号証記載の実験のサンプルはフィルター膜の間隔が被告製品よりも広いと認めることはできない。
d したがって、甲第15、第16号証に照らし、乙第7号証記載の実験において、サンプルが被告製品と同1条件下で試作されたか疑わしく、同実験は信頼性に欠けるという原告の主張は、採用することができない。
(ウ) 原告は、乙第9号証によっても乙第7号証記載の実験の信頼性の疑問は解消されないとし、乙第7号証記載の実験においては、FEPフィルムを除いたことによりフィルター膜の周囲の溶融熱可塑性フッ素樹脂の量が少ない状態となっているが、このような溶融樹脂量の不足は、濾過材と蓋部材との加圧を強くする、
加熱融着の保持時間を若干長くする、融着前の濾過材及び蓋部材の加熱時間を若干長くする、熱可塑性フッ素樹脂製ネットとしてより厚みのあるものを用いる、プリーツの山の数を増やしフィルター間隔の距離を小さくするなどの製造条件等の微調整により修正可能であり、このような修正なしに行った試作によって良質の製品ができなかったからといって、フィルターエレメントの生産が不可能であるということはできず、同実験は、実験方法も不適切であると主張する。
しかし、乙第7号証及び第9号証には、実験の経過等が相当程度詳細に記載されており(なお、乙第7号証には乙第5号証等の記載を引用している部分がある。)、その内容は具体的で一貫しており、そこには、通常の被告製品の製造工程と異なる工程を採ったことを特に疑わせるところはないから、乙第7号証及び第9号証記載の各実験は、被告製品の通常の製造工程により行われたものと認めるのが相当であり、それらの実験の実験方法が不適切であるとは認められない。
(エ) 原告は、甲第14号証(原告従業員作成の実験報告書)により、被告製品からFEPフィルムを除いた構成の物が市販品と同様なシール性能を有する旨主張し、甲第18号証により、甲第14号証記載の実験により作成されたサンプルについてフィルター膜と熱可塑性フッ素樹脂につき極めて高い接着強度が得られた旨主張する。
しかし、甲第14号証記載の実験におけるサンプルの製造が被告製品の製造条件と同じ条件下で行われたということを認めるに足りる証拠はなく、また、
同実験により、四フッ化エチレン樹脂フィルター膜と熱可塑性フッ素樹脂製ネット支持体からなるサンプルについて市販品と同等なシール性能が得られ、同実験により作成されたサンプルについてフィルター膜と熱可塑性フッ素樹脂につき極めて高い接着強度が得られたとしても、被告製品について、FEPフィルムを除いた場合でも液密なシールが得られることが明らかにされたとはいえない。
イ(ア) 乙第15号証(被告従業員作成の「ストリップフィルムの溶着構造解析結果報告」)によれば、被告製品の通常の製造工程においてFEPフィルムをフィルターに融着した幅20mmのサンプルにつき最大引っ張り強度を測定したところ、11.29Nないし14.49Nであったことが認められ、FEPフィルムを拡大写真で見ると、未融着面は比較的平らであるのに対し、融着面には、細かな凹凸が形成されていること、フィルター膜を拡大写真で見ると、未融着面、融着面とも細孔が存在することが認められる。これらの認定事実によれば、FEPフィルムは、フィルター膜にかなり強固に融着されており、融着している部分において、FEPフィルムの表面に細かい凹凸が形成され、フィルター膜の細孔とかみ合うことにより、液密なシールが実現されているものと推認される。
(イ) 原告は、甲第17号証の1ないし3(被告製品のストリップフィルム圧着部の写真等)を挙げ、FEPフィルムの溶融樹脂がフィルター膜の細孔部分に食い込んでいる部分が確認されず、また、フィルター膜とFEPフィルムの間に部分的に接着されていない部分もあり、フィルター膜とFEPフィルムは強固に固着されているものではない旨主張する。弁論の全趣旨によれば、FEPフィルムが溶融した樹脂(FEP樹脂)は、粘度が極めて高く、フィルター膜の細孔は、直径が0.1μm程度の小さなものであることが認められるから、FEP樹脂がフィルター膜の細孔の奥深く入り込むことまで認められるとはいえない。しかし、FEPフィルムの融着面は、粘度が高いとしても、溶融して柔らかくなっており、フィルター膜の表面には多数の細孔が存在しているから、溶融したFEP樹脂が、フィルター膜の表面近くの細孔に入り込み、又は細孔内部に向けて膨出し、細かな凹凸が形成された状態で固化し、FEPフィルムの融着面とフィルター膜の表面がかみ合った状態で接着し、液密なシールが得られるものと推認される。
被告は、FEP樹脂の溶融物が多孔質のPTFE樹脂の孔内に入り込んで碇のように引っかかり、接着困難な樹脂相互の接着が可能となる(アンカー効果)と主張する。FEP樹脂がフィルター膜の細孔の奥深くまで入り込むことをアンカー効果と主張しているのであれば、前記のとおり、そのような状態は認められないから、アンカー効果は認めることができない。しかし、溶融したFEP樹脂が、フィルター膜の表面近くの細孔に入り込み、又は細孔内部に向けて膨出し、細かな凹凸が形成された状態で固化し、FEPフィルムの融着面とフィルター膜の表面がかみ合った状態で接着していることをいうのであれば、そのような効果は認められる。
甲第17号証の2によれば、FEPフィルムとフィルター膜が密着した部分において、FEPフィルムの融着面のFEP樹脂が、フィルター膜の表面近くの繊維の間に入り込んでいる部分が存在することが認められる。甲第17号証の2において「アンカー部分は存在しない」として指示された部分においても、FEPフィルムの表面に細かな凹凸が見られ、フィルター膜が極めて細い繊維状の樹脂により形成されておりその表面が凹凸に富んでいることからすると、フィルター膜の表面の繊維がFEPフィルムの表面の樹脂に入り込んでいることが推認される。
また、甲第17号証の3によれば、フィルター膜とFEPフィルムの間に隙間が存在することが認められるが、甲第17号証の1、2によれば、フィルター膜とFEPフィルムが密着している部分もあることが認められ、前記のとおり、
乙第15号証によれば、FEPフィルムとフィルター膜の表面についてかなり大きな最大引っ張り強度が測定されたことが認められるから、甲第17号証の3により隙間のあることが認められたとしても、フィルター膜とFEPフィルムが、かなり強固に、全体として液密に融着していることは否定されないというべきである。
ウ(ア) FEPフィルムは、フィルター膜の内側にはなく、外側(フィルター膜11とネット12aの間)にのみ存在し(別紙被告製品目録「構造の説明」F。
前記2(1)のとおり当事者間に争いがない。)、前記のとおり、FEPフィルムが溶融した樹脂(FEP樹脂)は、粘度が極めて高く、フィルター膜の細孔は、直径が0.1μm程度の小さなものであるから、FEPフィルムの溶融した樹脂は、フィルター膜を通過してその内側へ移動することはないものと認められる。そして、これらの事実と、甲第8ないし第10号証の各1、2、第19号証の1ないし3によれば、被告製品の蓋部材付近は、蓋部材に遠い方から、フィルター膜、ネット及びFEPフィルムが原型をとどめている部分(A部分)、FEPフィルム及びネットが溶融しかけている部分(B部分)、FEPフィルム及びネットが完全に溶融している部分(C部分)、FEPフィルム及びネットが完全に溶融し、溶融した蓋部材と混合している部分(D部分)により構成され(ただし、各部分の境界は、明確に一線で画されるものではない。)、フィルター膜は、A部分において、外側がFEPフィルム、内側がネットに接しており、B部分において、外側が溶融しかかったFEPフィルム及びネット、内側が溶融しかかったネットに接しており、C部分において、外側が溶融したFEPフィルム及びネットの樹脂、内側が溶融したネットの樹脂に接しており、D部分において、外側及び終端が溶融したFEPフィルム、ネット及び蓋部材の樹脂、内側が溶融したネット及び蓋部材の樹脂に接していることが認められる。
(イ) ところで、前記(1)ア(イ)のとおり、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」とは、相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂又は相手方部材の樹脂と物理的に一体を成しかつ組成を同じくする熱可塑性フッ素樹脂をいうところ、D部分の溶融した蓋部材は、相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂に該当するものと認められる。また、
ネットの溶融した部分は、もとは濾過材の一部であったものであるが、溶融して蓋部材の樹脂と物理的に一体を成し、かつその組成は蓋部材と同じPFAであることから(別紙被告製品目録「構造の説明」C、E。前記2(1)のとおり当事者間に争いがない。)、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」に該当すると解される。これに対し、FEPフィルムの溶融した部分は、蓋部材とは組成を異にするから、D部分において蓋部材の樹脂と物理的に一体をなしているとしても、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」には該当しない。
エ 前記(1)ア(ウ)のとおり、構成要件Bを充足するためには、濾過材の両端部の内側、外側及び終端が、相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂又は相手方部材の樹脂と物理的に一体を成しかつ組成を同じくする熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれ、それによって濾過材の両端部が密封融着されていることが必要である。ところが、前記(2)ア(ア)のとおり、被告製品は、FEPフィルムがあることにより、濾過材の端部シール部において液密なシールが得られており、FEPフィルムがなければ液密なシールは得られないものであるところ、前記(2)ウ(イ)のとおり、FEPフィルムは、構成要件Bの「熱可塑性フッ素樹脂」に該当せず、また、前記(2)ウ(ア)のとおり、FEPフィルムはフィルター膜の内側にはなく、外側にしか存在しないから、
被告製品においては、濾過材の両端部の内側、外側及び終端が相手方部材の熱可塑性フッ素樹脂又は相手方部材の樹脂と物理的に一体を成しかつ組成を同じくする熱可塑性フッ素樹脂に取り囲まれることにより密封融着されているとは認められないものというべきである。
したがって、被告製品は、構成要件Bの「濾過材の両端部を・・・熱可塑性フッ素樹脂中に埋入一体化してプリーツ端部襞間に樹脂を浸入させて密封融着した」という要件を充足しない。
4(結論) 以上によれば、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。
よって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸