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関連審決 異議1997-70404
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  慣用技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  明瞭でない記載 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  要旨変更 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 382号 特許取消決定取消請求事件
原告 日本鋼管株式会社
原告 日本ファーネス工業株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 村瀬一美
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 松本悟
同 金澤俊郎
同 林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成9年異議第70404号事件について平成10年9月30日にした決定を取り消す。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、発明の名称を「鉄鋼加熱炉」とする特許第2521386号の発明(平成3年10月31日特許出願、平成8年5月17日設定登録。以下「本件特許発明」という。)の特許権者である。
本件特許発明について、特許異議の申立てがなされ、特許庁は、この申立てを平成9年異議第70404号事件として審理し、原告らは、平成9年11月25日、
本件特許発明の願書添付の明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正を請求し(以下「本件訂正請求」という。)、さらに平成10年6月8日、本件訂正請求について手続補正書を提出した(以下「本件補正」という。)が、特許庁は、平成10年9月30日、「特許第2521386号の請求項1ないし6に係る特許を取り消す。」との決定をし、その謄本は同年11月9日に原告らに送達された。
2 本件特許発明の要旨 (1) 本件訂正請求前の特許請求の範囲の記載【請求項1】(以下「本件第1発明」という。) 1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御すると共にゾーン内温度分布を均一にすることを特徴とする鉄鋼加熱炉。
【請求項2】(以下「本件第2発明」という。) 被加熱物の搬入口と搬出口とを有する炉体に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設けた単位炉を構成し、該単位炉を複数体連結して1つの炉を構成し、各単位炉毎に炉内温度を任意に制御すると共に単位炉内温度分布を均一にすることを特徴とする鉄鋼加熱炉。
【請求項3】(以下「本件第3発明」という。) 被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄りのゾーンまたは単位炉の温度より高く制御することを特徴とする請求項1または2記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項4】(以下「本件第4発明」という。) 前記蓄熱型交番燃焼バーナシステムは、蓄熱体とバーナとが一体となった2基を一対として構成し、2基のバーナを交互にかつ短時間に燃焼させることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項5】(以下、「本件第5発明」という。) 前記蓄熱型交番燃焼バーナシステムは、互いに対向する2システムの蓄熱型交番燃焼バーナシステムをもって1組として設置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項6】(以下、「本件第6発明」という。) 前記各ゾーンあるいは単位炉には炉内と炉外とを必要に応じて連通させる炉圧制御手段を設けたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の鉄鋼加熱炉。
(2) 本件訂正請求(甲第12号証)による特許請求の範囲の記載(下線は、訂正箇所を示す。)【請求項1】 1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、該蓄熱型交番燃焼バーナシステム を交互 に且つ短時間 に燃焼 させることによって 、各ゾーン内温度分布を均一にすると共に、炉内温度 パターン を各ゾーン 毎に独立 して 変化 させる 炉温制御手段 を有する ことを特徴とする鉄鋼加熱炉。
【請求項2】 被加熱物の搬入口と搬出口とを有する炉体に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設けた単位炉を構成し、該単位炉を複数体連結して1つの炉を構成し、少なくとも 1つの 単位炉 において 複数 の該蓄熱型交番燃焼 バーナシステム を単位炉 の炉長方向 に対向 して 配置 することによって 単位炉内温度分布を均一にするとともに、各単位炉毎に炉内温度を任意に制御することを特徴とする鉄鋼加熱炉。
【請求項3】 被加熱物搬入口に位置 する ゾーンまたは単位炉の温度を搬出口 に位置 する ゾーンまたは単位炉の温度より高く制御することを特徴とする請求項1ないし2記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項4】 前記蓄熱型交番燃焼バーナシステムは、蓄熱体とバーナとが一体となった2基を一対として構成し、該蓄熱体はハニカム 構造 の蓄熱体 である ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項5】 前記蓄熱型交番燃焼バーナシステムは、NOx制御手段 を備えている ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項6】 削除。
(3) 本件補正(甲第15号証)による特許請求の範囲の記載(下線は、補正箇所を示す。)【請求項1】 1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、該蓄熱型交番燃焼バーナシステム は、ハニカム構造 の蓄熱体 とバーナ とが 一体 となった 2基を一対 として 構成 し、該蓄熱型交番燃焼バーナシステム を交互 に且つ短時間 に燃焼 させることによって 、各ゾーン内温度分布を均一にすると共に、各ゾーン 毎に炉内温度 を任意 に制御 する ことを特徴とする鉄鋼加熱炉。
【請求項2】 被加熱物の搬入口と搬出口とを有する炉体に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設けた単位炉を構成し、該単位炉を複数体連結して1つの炉を構成し、少なくとも1つの単位炉において複数の該蓄熱型交番燃焼バーナシステムを単位炉の炉長方向に対向して配置することによって単位炉内温度分布を均一にするとともに、各単位炉毎に炉内温度を任意に制御することを特徴とする鉄鋼加熱炉。
【請求項3】 被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄 りのゾーンまたは単位炉の温度より高く制御することを特徴とする請求項1または2記載の鉄鋼加熱炉。
【請求項4及び5】 削除。
3 決定の理由 別紙決定書の理由写し記載のとおり、訂正の適否の判断として、まず、本件訂正請求に対する本件補正は、本件訂正請求における特許請求の範囲の請求項1を実質上変更することになり、請求書の要旨を変更するものであるから、特許法120条の4第3項で準用する131条2項の規定に反し、認められず、また、本件補正前の本件訂正請求は、実質上特許請求の範囲変更するものであるから、同法120条の4第3項で準用する126条2項及び3項の規定に適合せず、認められないとして、本件特許発明の要旨について、上記2の(1)のとおり認定し、取消理由通知に引用した刊行物1(‘Steel Times INTERNATIONAL’Nov.1989,Vol.13,No.5,p.22〜25、甲第3号証、
以下「引用例1」という。)、刊行物2(‘Industral Heatng’Dec.1989,p.27〜28、甲第4号証、以下「引用例2」という。)、
刊行物5(実願昭62-151943号(実開平1-58651号)のマイクロフィルム、甲第5号証、以下「引用例3」という。)、刊行物7(社団法人日本鉄鋼協会「連続鋼片加熱炉における伝熱実験と計算方法」昭和45年11月、89頁、甲第6号証、以下「引用例4」という。)、刊行物9(‘NORTH AMERICAN HIGH VEROCITY AND FUEL DIRECTED BURNERS and TwinBed REGENERATIVE BURNERS’June27/28.1990,p.1〜16、甲第7号証、以下「引用例5」という。)、刊行物10(‘Iron and Stee1 Engineer’0ct.1989,p.46〜52、甲第8号証、以下「引用例6」という。)、刊行物11(社団法人目本鉄鋼協会「鉄鋼便覧」昭和46年3月20日、368〜369頁、甲第9号証、以下「引用例7」という。)にそれぞれ記載された事項を認定した上で、本件第1発明は、引用例1に記載された発明であり、本件第2発明は、引用例1記載の発明に基いて、本件第3発明は、引用例1並びに引用例3、4及び6に記載された発明に基いて、本件第4発明及び本件第5発明は、引用例1及び引用例2ないし6に記載された発明に基いて、本件第6発明は、引用例1及び引用例2ないし7に記載された発明に基いて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであり、いずれの発明も、拒絶査定されるべき出願に対して特許されたものであるから、これらの特許は取り消されるべきであると判断した。
原告ら主張の決定の取消事由の要点
決定は、本件訂正請求に対する本件補正が請求書の要旨を変更するものであると誤って判断したために訂正の適否を誤って判断した(取消事由1。なお、本件補正前の本件訂正請求が認められないとした決定の判断は争わない。)。また、決定は、本件訂正請求前の本件第1発明と引用例1に記載の発明について、両者の一致点の認定を誤り(取消事由2)、相違点についての判断を誤り(取消事由3)、その結果、両発明が実質的に同一であると誤って結論するとともに、本件訂正請求前の本件第2発明ないし第6発明について、進歩性の判断を誤った(取消事由4)ものであり、違法として取り消されるべきものである。
1 取消事由1(訂正請求書の要旨変更の判断の誤り) (1) 決定は、本件補正(甲第15号証)において、特許請求の範囲の請求項1の記載において、「「各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段」を削除した点は拡張に当たる」ものであり、請求書の要旨を変更するものである(決定書2頁17行ないし3頁14行)と判断したが、誤りである。
本件補正は、「炉内温度パターンを各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段を有する」との記載を「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」と補正したものであって、「各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段」を削除したものではない。
そして、この補正は、単なる表現の変更であって、その内容は実質的に変わっていない。補正前の「各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段」との構成のうち、前半の「各ゾーン毎に独立して変化させる」という部分の補正(第1の点)と、後半の「炉温制御手段」という用語の削除の補正(第2の点)との2つに分けると、それぞれ以下のとおりである。
(2) 第1の点の補正について ア 本件明細書(甲2号証)において、この部分に関する技術思想は、次のとおり明記されている。
@「本発明は炉内温度パターンを任意に設定し得る鉄鋼加熱炉を提供することを目的とする。」(段落【0004】) A「各ゾーンあるいは単位炉の燃焼量を調整することによって、各ゾーンあるいは単位炉の炉内温度が各ゾーン毎あるいは単位炉毎に変化する。」(段落【0010】) B「炉内温度変化は各ゾーンあるいは単位炉内においてのみ起こり、隣る他のゾーンあるいは単位炉に影響を与えない。そこで、各ゾーンあるいは単位炉毎に独立して温度設定が行われて鉄鋼加熱炉全体としての炉内温度パターンが設定される。」(段落【0010】) イ しかも、「独立して変化させる」と、「任意に制御する」ことの対象は、いずれも「各ゾーンの炉内温度」であり、それは本件訂正請求に対する補正の前後で同じである。
ウ また、「変化させる」と「制御する」との用語は、炉内温度を何度にするか決めて、その温度に設定することを表しており、同じ意味である。
さらに、「独立して」と「任意に」との用語は、自由な温度パターンを設定しようとする課題からみて同じことである。「独立」とは、他に束縛又は支配されないことを意味し、「任意」とは思うままにという意味で、他の束縛又は支配されないことの裏返しであり、この場合他のゾーンの干渉や支配を受けずに思うままに各ゾーンの炉内温度を制御することを意味している。
してみると、炉内温度パターンを「各ゾーン毎に独立して変化させる」とは、他のゾーンには影響されずに独自(思うままの)の温度に制御することであり、それは各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御することに他ならない。「独立して変化させる」と、「任意に制御する」とに表現上の差があるとすれば、前者が作用的な表現であり、後者は機能的な表現といえるが、実体として同じ構成の表現を選択しただけのことで、技術思想における実質的な差はない。
エ 以上のとおり、「各ゾーン毎に独立して変化させる」を「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」と補正することは、実質的な変更はなく、決定が認定するように、第1の点について削除があったことにはならない。
(3) 第2の点の補正について ア そもそも、燃焼装置及び加熱設備の技術分野では、燃焼装置などを特定するに当たり、単純に機械的構成だけでは言い表わし切れないことから、作用的記載を伴って構成が特定されることが多い。いちいち「制御手段」について説明せずに、そのような機能を有するバーナあるいはバーナシステムないし炉などとして表されることが一般的である。
本件特許発明においては、本件明細書(甲第2号証)の段落【0010】等に、
「そこで、各ゾーンあるいは単位炉の燃焼量を調整することによって、各ゾーンあるいは単位炉の炉内温度が各ゾーン毎あるいは単位炉毎に変化する。・・・各ゾーンあるいは単位炉毎に独立して温度設定が行われて鉄鋼加熱炉全体としての炉内温度パターンが設定される。」との記載があるように、「温度制御手段」としての表現は採っていないものの、「温度制御手段」の存在が含まれていることは容易に理解することができ、制御手段を有することは当業者にとって自明なことである。そして、このように自明な事項を加える訂正は、「明瞭でない記載釈明」を目的とするものであり、訂正により特許請求の範囲に記載された技術的範囲の意味、内容が変化しないときには、同訂正は特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものということはできない。
イ したがって、これとは逆に、本件補正によって、本件訂正請求に係る構成から「炉温制御手段」という用語が形式上省かれたとしても、同様に、特許請求の範囲の実質的な変更はなく、拡張には当たらない。
(4) 以上のとおり、本件補正前の「炉内温度パターンを各ゾーン毎に独立して変化させる炉内温度制御手段を有する」と、本件補正後の「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」との構成の間では、技術的な差異はなく、単なる表現形式の変更にしかすぎない。すなわち、本件補正の前後において、新たな別の目的や効果も加えられておらず、その実体はなんら変わりない。
したがって、決定が、本件補正の上記の各内容について、構成の削除であり、拡張に当たるとした判断は誤っており、請求書の要旨を変更するとした決定は違法であり、取り消されるべきである。
2 取消事由2(本件第1発明と引用例1の発明の一致点の認定の誤り) (1) 決定は、本件第1発明と引用例1(甲第3号証)記載の発明とは、
「1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に、蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御すると共にゾーン内温度分布を均一にすることを特徴とする鉄鋼加熱炉。」である点で一致する旨認定している(決定書20頁11行ないし16行)が、引用例1記載の発明は、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」ものではなく、両者は、この点で一致しておらず、決定は、誤りである。
(2) 決定は、引用例1に、「通常のゾーン毎の温度制御及び警報管理を行い、各ゾーンの鋼材の温度は二色放射計で正確測定され、所要の温度になるように制御されること」(決定書20頁4ないし7頁)、及び、「炉内の温度分布は極めて優れており、各ゾーンの温度は隣接するゾーンの影響を殆ど受けずに所望の温度にコントロールでき制御性に優れていること」(決定書20頁7ないし10行)が記載されていること等を根拠として、上記のとおり、本件第1発明と引用例1記載の発明の一致点の認定をしている。
(3) しかしながら、本件第1発明において、「各ゾーン毎に少なくとも1システム以上設けられた蓄熱型交番燃焼バーナシステムによって、各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」とは、各ゾーン毎に均一な温度分布が作られることを前提として、なおかつ各ゾーンで発生する燃焼ガスが隣る他のゾーンに影響を与えることなくそのゾーンから直接炉外へ排出され、「各ゾーン毎に互いに独立して任意の温度制御・燃焼制御が行われる」ということ、換言すれば、本件明細書及び図2に例示されているようなゾーン毎に完全に独立した温度パターンが可能であるという意味で任意の温度制御が可能であるということである。このことは、本件明細書(甲第2号証)の段落【0010】の「したがって、各ゾーンあるいは単位炉内で発生する燃焼ガスの殆どはそのゾーンあるいは単位炉の外に蓄熱バーナの蓄熱体を介して排出され、隣る他のゾーンあるいは他の単位炉内へはほとんど流入しない。・・・そこで、各ゾーンあるいは単位炉の燃焼量を調整することによって、各ゾーンあるいは単位炉の炉内温度が各ゾーン毎あるいは単位炉毎に変化する。・・・そこで、各ゾーンあるいは単位炉毎に独立して温度設定が行われて鉄鋼加熱炉全体としての炉内温度パターンが設定される。」との記載から明らかである。
(4) ところが、引用例1に記載されている「通常のゾーン温度制御」とは、従来の鉄鋼加熱炉で通常に採られているゾーン温度制御という意味での温度制御・燃焼制御がなされるということでは理解し得るが、具体的にどのようなゾーン温度制御が実施されるか明らかにされていない。
ちなみに、決定が本件特許発明の出願時の技術水準を示す文献として採用した甲第4号証(引用例2)には、871℃〜1149℃の2つの予熱ゾーン、1149℃〜1232℃の加熱ゾーン、1232℃の均熱ゾーンの4つのゾーンを形成していることは記載されているが、各ゾーン間での燃焼ガスの流れについては記載されておらず、本件第1発明の意図するゾーン毎に完全に独立した温度パターンが可能であるという意味で任意の温度制御が可能であることは記載されていない。
同じく、甲第5号証(引用例3)には、第5図及び2頁13行ないし18行に「鋼片の加熱に際し、一般に、炉温を、前段域で約1150℃、後段域で約1100℃になるようにバーナ14を燃焼させて処理材を加熱している。このように前段域の燃焼負荷を大きくするため、炉尻からの排ガス温度が約900℃と高く、エネルギーロスが大きく、燃料原単位が高い。」ことが示されている。そして、この問題を防ぐ方法として、第4図及び4頁2行ないし5頁9行に記載のように、前段域を約950℃の低負荷燃焼とし、後段域を約1150℃の高負荷燃焼とし、炉尻付近のゾーンを比較的緩やかな昇温段として加熱(予熱)し、そして炉尻からの排ガス温度が約700℃にされている。
このように、従来の鉄鋼加熱炉では、排ガス温度が高くならないように、被加熱物が搬入される入側(炉尻)において最も低温となるゾーンを形成するような温度パターンとされるのが通常のゾーン温度制御である。そして、それは上流側となる前段域から流出してくるガスの影響を考慮した温度制御であり、本件第1発明が意図するゾーン毎に完全に独立した温度パターンを可能とするものではない。
甲第6号証(引用例4)においても、図5.14の炉内温度分布に示されるように、被加熱部を搬入する入側(炉尻)でもっとも低温の1100℃となるように16mもの長さの予熱ゾーンを形成し、被加熱物の入側が最も低温となる傾斜温度分布を形成するように制御されており、基本的には上記の引用例3におけるゾーン温度制御と同じである。
甲第7号証(引用例5)及び甲第8号証(引用例6)には、それぞれ従来バーナを用いた加熱炉とリジェネレイティブバーナを用いた加熱炉との炉内温度分布と温度パターンとが比較して示されている。しかし、これらの証拠には、リジェネレイティブバーナを用いない通常の加熱炉は、引用例3と同様のゾーン温度制御が行われていることが示され、リジェネレイティブバーナを加熱源とした場合においても(引用例5の12頁一番下の図面、引用例6の49頁ないし50頁のFig.6B,Fig.8B)、高い熱効率や炉圧制御などのため、炉尻に煙道を備えて各ゾーンを通過する燃焼ガスの一部約20%程度が炉尻側からまとめて排出されるように設けられている(引用例6の47頁左欄31行ないし右欄18行、訳文ハ参照)ように、加熱炉のゾーン温度制御は、上流の各ゾーン、例えば均熱ゾーンや加熱ゾーンから燃焼ガスの一部が流れてきて炉尻から排出することによって、下流の各ゾーンは上流側のゾーン温度の影響を受けており、本件第1発明が意図するゾーン毎に独立した任意制御とはなっていない。
さらに、甲第9号証(引用例7)には、3帯式連続鋼材加熱炉のカスケード制御について記載されているが、この制御も、ゾーン毎に独立した任意制御とはなっていない。
いずれにしても、決定が出願時の技術水準として認定した引用例2ないし引用例7には、隣るゾーンから流入してくる燃焼ガスの影響を前提にしたゾーン温度制御しか開示されておらず、引用例1記載の「通常のゾーン温度制御・・・を行い、・・・所要の温度となるように制御される」とは、本件第1発明が意図している「各ゾーンが互いに独立して任意の温度制御・燃焼制御が行われる」という意味での任意の温度制御ではない。すなわち、引用例1には、本件明細書の図2の温度分布に示されるようなゾーン毎に独立した不連続な温度コントロールは考えられず、またそのような意味での各ゾーン毎の任意の温度制御は記載されていない。
(5) 以上のとおり、本件第1発明と引用例1記載の発明とは、「各ゾーン毎に独立して炉内温度を任意に制御する」という点で一致しないことは明らかであり、これを一致点とした決定の認定は誤りである。
3 取消事由3(本件第1発明と引用例1の発明の相違点の判断の誤り) (1) 決定は、「引用例1には、リジェネレイティブバーナ(蓄熱交番燃焼バーナシステム)が、「蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う」ものであることは示されていないが、空気ファンと排気ファンを持ったリジェネレイティブバーナが、引用例2、5及び6に示されているように、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行うものであることは明らかであるから、両者(本件第1発明と引用例1記載の発明)は、この点で実質的に相違するとは認められない」(決定書20頁17行ないし21頁7行)と判断したが、誤りである。
(2) 引用例1に、「前述のリジェネレイティブバーナの設置方法についてはしばしばゾーン毎のパッケージとして設計される。即ち、ゾーン毎に空気ファンと排気ファンとを持たせる方式である。」(23頁9行ないし22行、訳文ハ)と記載してあるからといって、そのことが直ちに引用例2、5及び6に示されている空気ファンと排気ファンを持ったリジェネレイティブバーナと同じであることにはならない。
事実、引用例2、5及び6のバーナは、いずれも同じノースアメリカン社のバーナであるが、引用例1のバーナは、ホットワークデベロップメントリミテッドのバーナであり、少なくとも同じ会社のバーナではない。
(3) そもそも、出願前公知の文献に記載された発明と同一であるか否かは、同文献に記載されている事実に基づいて判断されなければならないものであり、その事実から推定したり、その他の文献に開示されている技術を組み合わせて判断することはできない。
もっとも、刊行物に記載された発明の解釈にあたっては、審査基準においては、
「刊行物に記載された発明は、記載されている事実から認定する。記載事項の解釈に当たっては、技術常識参酌することができ、当該刊行物の頒布時における技術常識参酌することにより当該刊行物に記載されている事項から導き出させる事項も刊行物に記載された発明の認定の基礎とすることができる」としている。また、
東京高判平成3年10月1日(平成3年(行ケ)第8号)においても、「特許出願前に頒布された刊行物にある技術的思想が記載されているというためには、出願当時の技術水準を基礎として、当業者が刊行物をみるならば特別の思考を要することなく容易にその技術的思想実施しうる程度にその内容が開示されていることが必要である」ことを判示している。
しかしながら、技術常識とは、審査基準においては、当業者に一般的に知られている技術(周知技術慣用技術を含む。)又は単なる経験則から明らかな事項をいい、「周知技術」とは、その技術分野において一般的に知られている技術であって、例えば、これに関し相当多数の公知文献が存在し、又は業界に知れわたり、あるいは例示する必要がない程よく知られている技術をいい、「慣用技術」とは、周知技術であって、かつ、よく用いられている技術をいうとされている。
したがって、「刊行物に記載された事項」の解釈に当たっては、出願当時の技術水準を基礎として、周知技術慣用技術といった技術常識から当業者が特別の思考を要することなく記載事項から容易に導き出させる事項までしか含まれないと考えられる。
ところが、引用例2には、マリオンスティール社のビレット加熱炉にノースアメリカン社のナゲット型の蓄熱体を使ったバーナの例が示されているだけで、引用例1のホットワークデベロップメントリミテッドのリジェネレイティブバーナとは異なる。また、引用例5は、引用例2と同じノースアメリカン社のバーナの紹介記事であり、更に、引用例6に掲載された記事もまた引用例2と同じノースアメリカン社のバーナの紹介である。
このように、引用例2、5及び6は、いずれも同じノースアメリカン社のバーナの紹介記事であり、ゾーン毎に独立させて任意に制御させることにより炉内温度パターンを変更する技術思想を有しないものである。このようなバーナシステムが周知技術であると解釈することには無理がある。
以上によれば、引用例1に、「リジェネレイティブバーナの設置方法についてゾーン毎のパッケージとして設計される、即ちゾーン毎に空気ファンと排気ファンを持たせる方式である」という記載があるからといって、この記載事項から当業者が特別の思考を要することなく、当該バーナが引用例2、5及び6に示されるバーナに明らかに相当することを容易に導き出させるとするには無理がある。
しかも、本件特許発明に対しては、特許庁での審査の際に、1つの先行技術も示されず、1度の拒絶理由通知も情報提供もなく、特許査定されたものであり、また、特許異議申立てに際して提出された文献も、いずれも外国の雑誌であり、かつ明確な記載もなく、同じ会社のバーナ記事をそれぞれ掲載したものであり、このような状況をもってして、周知技術であるというには無理がある。
(4) したがって、決定の上記(1)の判断は、引用例1で明らかにされていないバーナシステムが引用例2、5及び6のバーナシステムと実質的に同一であるはずであるとする単なる推定に基づいてなされたものであって、失当である。
4 取消事由4(本件第2ないし第6発明の進歩性判断の誤り) (1) 本件第2発明について ア 決定は、@「加熱炉が、本件請求項2に係る発明(本件第2発明)においては、複数の「蓄熱型交番燃焼バーナシステムを1システム以上設けた単位炉」から構成されているのに対して、引用例1に記載された発明においては、複数(8ゾーン)の「蓄熱型交番燃焼バーナシステム(リジェネレイティブバーナ)を1システム以上(4組)設けたゾーン」から構成されている点で相違する以外、軌を一にする発明である。」(決定書21頁12行ないし20行)と認定した上で、
この相違点に関して、A「相互影響をより少なくし、所望の温度にコントロールするために、引用例1の加熱炉の各ゾーンを仕切板で分割する形式に代えて、本件請求項2に係る発明のように加熱炉を複数の単位炉から構成することは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。」(決定書22頁8行ないし13行)と認定したが、いずれも誤りである。
イ 上記@の認定の誤りについては、取消事由2において主張したとおりである。
ウ 上記Aの認定の誤りについては、次のとおりである。
決定では、複数の単位炉で1つの加熱炉を構成することは、引用例1の加熱炉の各ゾーンを分割するバッフル(仕切板)の代用であるとされている。
しかしながら、本件第2発明においては、単位炉毎に燃焼用空気の供給と炉内ガスの排気とが完全にバランスした状態で完結する最小単位の加熱炉を構成し、これらを必要に応じて必要な数だけ連結して全体として所望長さの連続鉄鋼加熱炉を構成可能とするものであり、単なるバッフルの代用品ではない。すなわち、単位炉にすることは、単位炉毎に燃焼用空気の供給と炉内ガスの排気とが完結した完全に独立した温度ゾーンを形成し、これを必要とされる炉長に応じて必要な数だけ単純に連結するだけで必要長さの連続鉄鋼炉が得られるという点に技術的意義を有している。
よって、引用例1と本件発明とを比較すると、独立した単位炉で所望長さの連続鉄鋼炉を構成している点で異なるものであり、このことは引用例には開示されていないし、その差異も決定のように単にバッフルの代用品とする程度のことではない。連続鉄鋼加熱炉の長さが変わる毎に炉の設計をやり直さずとも必要な数の単位炉を単純に連結するだけで、必要な長さの連続鉄鋼炉が得られるという点で引用例1の加熱炉とは技術的意義を全く異にし、引用例をもってしても容易に発明することができたものではない。
エ 決定は、本件第2発明について進歩性に関する認定判断を誤ったものであり、取り消されるべきものである。
(2) 本件第3発明について ア 決定は、「一般に、鉄鋼加熱炉において、被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄りのゾ一ンまたは単位炉の温度より高く制御することは通常行われていることであり(引用例3、4及び6参照)」(決定書23頁3行ないし6行)と認定するとともに、「このような制御をすることにより格別な作用効果を奏するものとも認められない。」(同23頁7行、8行)と認定、判断したが、いずれも誤りである。
イ 決定が挙げる引用例3、4及び6に開示されている加熱炉には、決定において指摘されているような事項は示されていない。
すなわち、引用例3(甲第5号証)には、第5図及び2頁13行ないし15行において、「鋼片の加熱に際し、一般に、炉温を、前段域で約1150℃、後段域で約1100℃になるようにバーナ14を燃焼させて処理材を加熱している。」としているが、処理材が入れられる所(被加熱物搬入口付近のゾーン)では、900℃であるものが、その下流(被加熱物搬送方向)において、1150℃から1100℃となっているのであり、被加熱物搬入口寄りのゾーンの温度が被加熱物搬出口寄りのゾーンの温度よりも高温とはなっていない。このことは、2頁16行ないし18行において、「このように前段域の燃焼負荷を大きくするため、炉尻からの排ガス温度が約900℃と高く、エネルギーロスが大きく、燃料原単位が高い。」と問題にしており、それを防ぐ方法として、第4図及び4頁2行ないし5頁9行に記載されるように、「前段域を約950℃の低負荷燃焼、後段域を約1150℃の高負荷燃焼」とすることによって、炉尻付近のゾーンを比較的緩やかな昇温段として炉尻からの排ガス温度約700℃になるようにしていることから明らかである。このように、従来の鉄鋼加熱炉では、排ガス温度が高くならないように、
被加熱物が搬入される入側(炉尻)において最も低温となる温度パターンとされるのが通常のゾーン温度制御であることは明白である。
引用例4(甲第6号証)においても、図5.14の炉内温度分布に示されるように、被加熱物を搬入する入側(炉尻)で最も低温の1100℃となるように、16mもの長さの予熱ゾーンを形成し、被加熱物の入側が最も低温(被加熱物搬出口付近の均熱帯の温度1260℃よりも低い。)となるように制御されている。
また、引用例6(甲第8号証)には、予熱帯(プレヒートゾーン)にもツインベッドリジェネレイティブバーナを備えているが、従来の連続加熱炉と同様に炉尻から炉内ガスを排出する構造であるため、被加熱物搬入口寄りのゾーンである予熱帯の温度が炉尻である被加熱物搬入口に近づくに従って降下する温度分布をとり、かつその温度も被加熱物搬入口では1050℃、予熱帯の中程で1150℃程度と被加熱物搬出口寄りのゾーンである均熱帯(シークゾーン)の温度の約1300℃よりも低くなっている。
ウ 本件明細書(甲第2号証)の図1には、複数の単位炉を連結して所望長さの連続鉄鋼加熱炉を構成した実施の一例が示されており、その中で連続鉄鋼加熱炉としての被加熱物搬入口と被加熱物搬出口とが、図上左端の被加熱物搬入口3と右端の被加熱物搬出口4とでそれぞれ構成されていることが明らかに示されている。そして、同加熱炉の炉内温度パターンを示す図2において、左端の単位炉で構成される最も被加熱物搬入口寄りのゾーンの温度が右端の単位炉で構成される最も被加熱物搬出口寄りのゾーンの温度よりも高くなるように制御されていることが示されている。
したがって、本件第3発明において、「被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度が搬出側寄りのゾーンまたは単位炉の温度よりも高く制御される」ことは、少なくとも左端の単位炉で構成される最も被加熱物搬入口寄りのゾーンの温度が右端の単位炉で構成される最も被加熱物搬出口寄りのゾーンの温度よりも高くなるように制御されることであることは、本件特許発明に係る明細書又は図面に当初から記載された事項である。
エ 以上のとおり、本件第3発明のように、被加熱物が連続鉄鋼加熱炉に導入され.搬入口寄りのゾーン(図2の左端のゾーン)の温度が被加熱物搬出口寄りのゾーン(図2の右端のゾーン)よりも高温に制御されることは、上記のいずれの引用例にも開示されておらず、一般に鉄鋼加熱炉において通常行われていることではない。
本件第3発明において、被加熱物搬入側寄りのゾーンの温度を被加熱物搬出側寄りのゾーンの温度よりも高く制御することによって、被加熱物の昇温速度を早くすることができ、結果として炉長を短くすることができるという格別の効果を有することは、本件明細書の段落【0021】に当初より記載されている。ちなみに、原告日本鋼管株式会社の福山製鉄所の第一熱延工場において実際に本件発明を実施した連続鉄鋼加熱炉に基づく実機データによると、約20%程度炉長を短くすることができた。
オ よって、決定の上記アの認定、判断は誤りであり、違法なものとして取り消されるべきものである。
(3) 本件第4発明について ア 本件第4発明は、前記のとおり進歩性を有する本件第1ないし第3発明のいずれかに記載の発明の蓄熱型交番燃焼バーナシステムを、短時間で交互燃焼する「蓄熱体とバーナとが一体となったもの」に限定したものであり、当然に進歩性を有していることは明らかである。
イ したがって、本件第4発明について、進歩性を否定した決定の認定判断は誤りであり、違法として取り消されるべきである。
(4) 本件第5発明について ア 本件第5発明は、前記のとおり進歩性を有する本件第1ないし第4発明のいずれかに記載の発明において、更に蓄熱型交番燃焼システムの燃焼を短時間で交互に燃焼させることに限定したものであり、当然に進歩性を有していることは明らかである。
イ したがって、本件第5発明について、進歩性を否定した決定の認定判断は誤りであり、違法として取り消されるべきである。 (5) 本件第6発明について ア 本件第6発明は、前記のとおり進歩性を有する本件第1ないし第5発明のいずれかに記載の発明において、更にゾーンあるいは単位炉毎に炉圧制御手段を備えるものであり、当然に進歩性を有していることは明らかである。
イ したがって、本件第6発明について、進歩性を否定した決定の認定判断は誤りであり、違法として取り消されるべきである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(訂正請求書の要旨変更の判断の誤り)に対して (1) 原告らは、本件補正、すなわち、「炉内温度パターンを各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段を有する」との構成を、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」との構成とする補正は、単に表現を変更しているだけで、その内容に実質的な変更はない旨主張している。
(2) しかしながら、前者の構成は、「炉内温度パターンを各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段」を有する鉄鋼加熱炉であるから、「各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段」が本件特許発明構成要件となっているのに対し、後者は、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」鉄鋼加熱炉であるから、
「炉温制御手段」が設けられておらず、温度計を見ながら手動で炉内温度を制御する場合や、「炉温制御手段」が設けられているとしても、「各ゾーン毎に独立して変化させる」以外の各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する場合を含むものである。
(3) したがって、本件補正は、「各ゾーン毎に独立して変化させる炉温制御手段」を「鉄鋼加熱炉」の構成要件から削除するものであり、実質的に特許請求の範囲拡張するものであるから、原告らの主張は失当である。
2 取消事由2(本件第1発明と引用例1の発明の一致点の認定の誤り)に対して (1) 原告らは、本件第1発明と引用例1記載の発明とは、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」という点で構成を異にする旨主張している。
(2) しかしながら、引用例1(甲第3号証)には、@「炉の温度及び燃焼制御はプロセスコントローラで行われ、通常のゾーン毎の温度制御及び警報管理を行っている。材料の温度管理も行っている。各ゾーンの鋼材の温度は二色放射計で正確に測定され、所要の温度になるように制御される。」(25頁左欄下から29行ないし20行)、A「最初の炉は1988年8月から生産に入り、二番目の炉は1989年の初めから生産している。操業は初めガス燃焼で行われたが、最近油燃焼のテストも成功裏に行われた。性能テストは未だ行っていないが、燃料消費量から分析すると炉の設計性能は達成されていると思われる。炉内の温度分布は極めて優れており、各ゾーンの温度は隣接するゾーンの影響をほとんど受けず、望みの温度にコントロールすることができ制御性に優れている。」(25頁中欄下から37行ないし23行)と記載されており、各ゾーンの炉内温度を所望の温度に制御する、すなわち、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」という技術思想が開示されている。
このように、引用例1記載の発明は、各ゾーンの温度が隣接するゾーンの影響をほとんど受けないのであるから、本件第1発明と同様に、本件明細書及び図2に例示されているようなゾーン毎に独立した温度パターンが可能であるという意味で任意の温度制御が可能である。
(3) したがって、決定の認定に誤りはない。
3 取消事由3(本件第1発明と引用例1の発明の相違点の判断の誤り)に対して (1) 原告らは、引用例1に「前述のリジェネレイティブバーナの設置方法についてはしばしばゾーン毎のパッケージとして設計される。即ち、ゾーン毎に空気ファンと排気ファンとを持たせる方式である」と記載されているからといって、
そのことが直ちに引用例2、5及び6に示されている空気ファンと排気ファンを持ったリジェネレイティブバーナと同じであることにはならない旨主張し、その根拠として、両者において会社名が異なることを挙げている。
(2) しかしながら、引用例1に記載された「リジェネレイティブバーナ」も、引用例2、5及び6に記載された「リジェネレイティブバーナ」も、全く同一の技術用語である。そして、「リジェネレイティブ(regenerative)」は、「蓄熱式の」という意味であるから、「リジェネレイティブバーナ」は、「蓄熱式のバーナ」を意味する。蓄熱を行うためには、蓄熱体に熱を与える工程と、蓄熱体に蓄えられた熱を利用する工程とが存在することは技術常識である。
したがって、「リジェネレイティブバーナ」すなわち「蓄熱式のバーナ」は、
「熱を蓄熱体に与える工程と、蓄熱体に蓄えられた熱を利用する工程とを有するバーナ」であることは、自明のことであり、引用例1に記載された「リジェネレイティブバーナ」が、引用例2、5及び6に記載された「リジェネレイティブバーナ」と同様の「蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行なう蓄熱型交番燃焼バーナシステム」であることは、ごく当然のことである。
実際、引用例1(甲第3号証)には、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行うリジェネレイティブバーナが記載されているものと認められるのであって(22頁右欄13行ないし38行、22頁図1の記載参照)、上記蓄熱型交番燃焼バーナシステムは従来周知のものである。
(3) 以上のとおり、決定が、引用例1のリジェネレイティブバーナについて、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行うものであることは明らかであるとした認定は正当であって、決定に原告ら主張の判断の誤りはない。
4 取消事由4(本件第2ないし第6発明の進歩性判断の誤り)に対して (1) 本件第2発明について ア 本件明細書(甲第2号証)には、「厳密には隣のゾーンあるいは単位炉で発生した燃焼ガスと当該ゾーンあるいは単位炉で発生した燃焼ガスとはその境界でいくらか混合するが、大部分が発生したゾーンあるいは単位炉のバーナからそのまま排出され隣る他のゾーンあるいは単位炉の温度分布に影響を与えることがない。」(【0010】)と記載され、燃焼ガスは「ゾーン」あるいは「単位炉」の境界でいくらか混合するものであることが示されている。また、本件明細書の記載において、「ゾーン」と「単位炉」とは同列に扱われている。
また、単位炉と単位炉は、被加熱物の通路を介して接続されるから、「完全に独立した温度ゾーン」は形成することはできない。
したがって、「単位炉」を用いることにより、格別に、単位炉ごとに燃焼用空気の供給と炉内ガスの排気とが完結した完全に独立した温度ゾーンを形成し得るとする原告らの主張は、失当である。
イ また、原告らは、単位炉とすることによって必要とされる炉長に応じて必要な数だけ単純に連結するだけで必要長さの連続鉄鋼加熱炉が得られる旨主張しているが、加熱炉を複数体連結して1つの炉を構成することは、金属の加熱炉の分野では、周知の技術手段(例えば、乙第1、第2号証参照)であって、必要とされる炉長に応じて必要な数だけ単位炉を単純に連結するだけで必要長さの加熱炉が得られるという効果も、当然予測し得る効果に過ぎない。
ウ 以上のとおり、「加熱炉の各ゾーンを仕切板で分割する形式に代えて、本件請求項2に係る発明のように加熱炉を複数の単位炉から構成することは、
当業者が容易に想到し得る」とした決定の判断に誤りはない。
(2) 本件第3発明について ア 原告らは、引用例3、4及び6には、本件第3発明における「被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄りのゾーンまたは単位炉の温度より高く制御すること」が記載されていない旨主張しているが、「搬入側寄り」、「搬出側寄り」という用語は、相対的な位置関係を意味するものであるから、引用例3(甲第5号証、第5図の〜1150℃の部分と〜1100℃の部分)、引用例4(甲第6号証、89頁の図5.14の1300℃の部分と1260℃の部分)及び引用例6(甲第8号証、50頁の図8BのFurnace Temp.のHeat ZoneとSoak Zone)には、「被加熱物搬入側寄りのゾーンの温度を搬出側寄りのゾーンの温度より高く制御すること」が記載されているといえる。
また、引用例3(甲第5号証)には、決定が13頁13行ないし20行において認定したとおり、「従来、ウオーキングビーム型加熱炉は、・・・鋼片の加熱に際し、一般に、炉温を、前段域で約1,150℃、後段域で約1,100℃になるようにバーナを燃焼させて処理材を加熱している。」(2頁9行ないし15行)と記載されており、従来技術として、鉄鋼加熱炉において、前段域(「被加熱物搬入側寄りのゾーン」に相当)の温度を後段域(「搬出側寄りのゾーン」に相当)の温度より高く制御することが一般的に行われていたことが明確に示されている。
イ 以上のとおり、「一般に、鉄鋼加熱炉において、被加熱物搬入側寄りのゾーンの温度を搬出側寄りのゾーンの温度より高く制御することは通常行われている」とした決定の認定に誤りはない。
なお、原告らは、「被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄りのゾーンまたは単位炉の温度より高く制御すること」は、少なくとも「最も被加熱物搬入口寄りのゾーンまたは単位炉の温度を最も搬出口寄りのゾーンまたは単位炉の温度より高く制御すること」である旨主張するが、本件特許発明の特許請求の範囲の請求項3には、「最も」という限定はなく、搬入側が搬入口、搬出側が搬出口を意味することも自明ではないから、原告らの上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、失当である。
(3) 本件第4発明について 本件第1発明は、決定が判断したとおり引用例1記載の発明であり、本件第4発明の「蓄熱体とバーナとが一体となった2基を一対として構成し、2基のバーナを交互にかつ短時間に燃焼させること」は、決定で引用した引用例2(甲第4号証、
第2図参照)、引用例5(甲第7号証、翻訳文及び3頁上図の翻訳参照)、引用例6(甲第8号証、47頁第3図参照)に記載されているように周知であり、また、
引用例1(甲第3号証、第1図参照)にも示されているから、本件第4発明は、当然に進歩性を有しない。
したがって、原告らの主張は失当である。
(4) 本件第5発明について 本件第1発明は、決定が判断したとおり引用例1記載の発明であり、本件第5発明の「蓄熱型交番燃焼バーナシステムが、互いに対向する2システムの蓄熱型交番燃焼バーナシステムをもって1組として設置されていること」は、決定に記載のとおり、引用例5(甲第7号証、3頁上図参照)及び引用例6(甲第8号証、48頁第4図参照)に記載されているから、本件第5発明は当然に進歩性を有しない。
したがって、原告らの主張は失当である。
(5) 本件第6発明について 本件第1発明は、決定が判断したとおり引用例1記載の発明であり、本件第6発明について、決定が認定したとおり、「鉄鋼等の加熱炉において炉内外を必要に応じて連通させる炉圧制御手段を設けることは慣用手段である」から、本件第6発明は、当然に進歩性を有しない。
したがって、原告らの主張は失当である。
理 由1 取消事由1(訂正請求書の要旨変更の認定の誤り)について (1) 原告らが、平成9年11月25日付け訂正請求書(本件訂正請求、甲第12号証)により、本件特許発明の特許請求の範囲の請求項1を次のとおりに訂正する請求を行ったこと、
「1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、該蓄熱型交番燃焼バーナシステムを交互に且つ短時間に燃焼させることによって、各ゾーン内温度分布を均一にすると共に、炉内温度パターンを各ゾーン毎に独立して変化させる炉温度制御手段を有することを特徴とする鉄鋼加熱炉。」 そして、原告らが、平成10年6月8日付けの手続補正書(本件補正、甲第15号証)で、上記の請求項1を次のとおりに補正することを内容とする補正をしたことは、当事者間に争いがない。
「1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に、蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行う蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、該蓄熱型交番燃焼バーナシステム は、ハニカム 構造 の蓄熱体 とバーナ とが 一体 となった 2基を一対 として 構成 し、該蓄熱型交番燃焼バーナシステムを交互に且つ短時間に燃焼させることによって、各ゾーン内温度分布を均一にすると共に、各ゾーン 毎に炉内温度 を任意 に制御 する ことを特徴とする鉄鋼加熱炉。」(下線部は補正個所を示す。) (2) 特許法134条5項において準用する同法131条2項本文は、「前項の規定により提出した請求書の補正は、その要旨を変更するものであってはならない。」と規定しており、訂正請求書の補正は、訂正請求書の要旨を変更しない範囲でのみ許されるものとされている。
ところが、本件訂正請求に対する本件補正は、訂正請求に係る請求項1の発明の「炉内温度パターンを各ゾーン毎に独立して変化させる炉温度制御手段を有する」との構成要件を、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」との構成要件に変えることに加えて、「該蓄熱型交番燃焼バーナシステムは、ハニカム構造の蓄熱体とバーナーとが一体となった2基を一対として構成」されるとの構成要件を新たに追加するものであるから、訂正請求に係る審理の対象となる特許請求の範囲を実質的に変更するものであり、本件訂正請求に係る請求書の要旨を変更するものであることは、明らかであるというべきである。
(3) したがって、決定が、本件補正による特許請求の範囲の請求項1に係る構成要件変更を具体的に摘示して(決定書2頁15行ないし3頁7行)、本件補正が本件訂正請求書の要旨を変更するものであるとした判断に誤りはなく、原告らの取消事由1の主張は、理由がない。
2 取消事由2(本件第1発明と引用例1の発明の一致点の認定の誤り)について (1) 原告らは、本件第1発明が「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」ものであり、引用例1記載の発明とはこの点において相違するにもかかわらず、決定は、両発明はこの点において一致すると誤って認定した旨主張している。
しかしながら、本件第1発明と引用例1記載の発明とが上記の点で相違するものということはできない。理由は以下のとおりである。
(2) 甲第3号証によれば、引用例1には、「ブルーム加熱炉における蓄熱式バーナ」(22頁のタイトル)が記載され、このブルーム加熱炉においては、@「炉内を8ゾーンに区画し、各ゾーンに4組のリジェネレイティブバーナ(蓄熱交番式バーナ)が設置されている」こと(23頁中欄末行ないし右欄1行、訳文1頁下から5行ないし4行)、A「リジェネレイティブバーナの設置方法については、
しばしばゾーン毎のパッケージとして設計され・・・ゾーン毎に空気ファンと排気ファンを持たせる方式」が採られること(23頁右欄9行ないし12行、訳文2頁2行ないし4行)、B「ゾーンの間にバッフル(しきり板)を設置すれば、ゾーン内で発生した燃焼排気はそのゾーンから排出されるため、排気流によるゾーン間の相互影響は最小にでき」ること(23頁中欄4行ないし8行、訳文1頁8行ないし11行)、その結果、C「炉内の温度分布は極めて優れており、各ゾーンの温度は隣接するゾーンの影響をほとんど受けず、望みの温度にコントロールすることができ、制御性に優れている。」こと(25頁中欄下から28行ないし23行、訳文2頁下から3行ないし1行)が記載されていることが認められる。なお、引用例1記載のブルーム加熱炉が鉄鋼加熱炉と同義であることは明らかであり、このことについては原告らも争っていない。
上記の各記載によれば、引用例1記載の炉は、8ゾーンに区画され(上記@)、
ゾーン毎に空気ファンと排気ファンをもち(上記A)、ゾーン内で発生した燃焼排気はそのゾーンから排出され(上記B)、各ゾーンの温度は隣接するゾーンの影響をほとんど受けることなく望みの温度にコントロールすることができる(上記C)のであるから、引用例1記載の炉が、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」ものであることは明らかである。
したがって、引用例1記載の発明は、本件第1発明と、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」点において一致する旨の決定の認定に誤りはない。
(3) なお、原告らは、本件第1発明において、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」とは、本件明細書及び図2に例示されているような「ゾーン毎に完全に独立した温度パターン」が可能であるという意味であり、引用例1記載の発明のものとは異なる旨主張している。
しかしながら、原告らの上記主張は、本件特許発明の特許請求の範囲に記載のないことを主張するものであり、本件明細書(甲第2号証)の発明の詳細な説明をみても、「各ゾーンあるいは単位炉内で発生する燃焼ガスのほとんどはそのゾーンあるいは単位炉の外には蓄熱バーナの蓄熱体を介して排出され、隣る他のゾーンあるいは他の単位炉内へはほとんど流入しない。厳密には隣のゾーンあるいは単位炉で発生した燃焼ガスと当該ゾーンあるいは単位炉で発生した燃焼ガスとはその境界でいくらか混合する」(段落【0010】)と記載されており、本件第1発明と、
「ゾーンの間にバッフル(しきり板)を設置すれば、ゾーン内で発生した燃焼排気はそのゾーンから排出されるため、排気流によるゾーン間の相互影響は最小にでき」る(上記B)とされている引用例1記載の発明との間には、実質的に異なるところはないものと認められるから、原告らの上記主張は、採用することができない。
(4) 以上のとおり、原告らの取消事由2は、理由がない。
3 取消事由3(本件第1発明と引用例1の相違点の判断の誤り)について (1) 引用例1には、「ブルーム加熱炉」が記載され、この炉において「炉内を8ゾーンに区画し、各ゾーンに4組のリジェネレイティブバーナ(蓄熱交番式バーナ)が設置されている」ことは、前記2(2)@に判示のとおりである。
そして、甲第3号証によれば、引用例1の22頁の図1には、引用例1の発明で使用されるリジェネレイティブバーナ(蓄熱交番式バーナ)システムの概念図が掲載されており、その上段の図の状態においては、一対のリジェネレイティブバーナ(蓄熱交番式バーナ)のうち、左側のバーナが燃焼し、その燃焼ガスが右側のバーナを通して排出されること、下段の図の状態においては、左右が逆転して右側のバーナが燃焼し、その燃焼ガスが左側のバーナを通して排出されること、いずれの場合においても、燃焼用空気は、それぞれのバーナの直下に備えられた角形部を通してバーナに供給され、燃焼ガスは、それぞれのバーナの直下に設けられた角形部を通して排出されること、しかも、それぞれの角形部は、上下段いずれの図においても、その内部の一部が透視状態とされ、燃焼するバーナの切り替わり(交番)にともなって、それらの内部を流れる燃焼空気の供給方向、あるいは、燃焼ガスの排出方向が切り替わることが矢印で示されていることが、それぞれ記載されているものと認められる。
すなわち、引用例1には、リジェネレイティブバーナ(蓄熱交番式バーナ)システムであって、対をなすそれぞれのバーナの下方に、それを通して燃焼用空気が供給され、燃焼ガスが排出される角形部が設けられたものが記載されており、かつ、
角形部内を流れる燃焼用空気あるいは燃焼ガスの流れが、燃焼バーナの切り替え(交番)にともなって切り替わるものが明示されていると認められるところ、このような蓄熱交番式バーナシステムにおいて、蓄熱体は必須の構成であり、上記の角形部が、高温である燃焼ガスが流れる際に熱を蓄積するとともに、交番により低温の燃焼用空気が流れる際に蓄積した熱を放出するという機能を奏すること、すなわち、蓄熱体として機能するものであることは、自明である。
そうすると、本件第1発明の「蓄熱体を通してバーナへの燃焼用空気の供給及びバーナからの燃焼ガスの排出を行なう蓄熱型交番燃焼バーナシステム」と、引用例1記載の「リジェネレイティブバーナ(蓄熱交番燃焼バーナシステム)」とは、なんら異なるところはないものと認められる。
(2) 原告らは、引用例1記載のリジェネレイティブバーナは、引用例2、5及び6を参照しても、本件第1発明の蓄熱型交番燃焼バーナシステムと実質的に同一ということはできない旨主張している。
しかしながら、これらの引用例を参照するまでもなく、引用例1自体に、本件第1発明と実質的に同一の蓄熱型交番燃焼バーナシステムが記載されているものと明らかに認められることは上記のとおりであるから、原告らの上記主張は、採用することができない。
(3) 以上のとおり、原告らの取消事由3は、理由がない。
4 取消事由4(本件第2発明ないし第6発明の進歩性判断の誤り)について (1) 本件第2発明についてア 原告らは、決定がした「加熱炉が、本件請求項2に係る発明(本件第2発明)においては、複数の「蓄熱型交番燃焼バーナシステムを1システム以上設けた単位炉」から構成されているのに対して、引用例1に記載された発明においては、複数(8ゾーン)の「蓄熱型交番燃焼バーナシステム(リジェネレイティブバーナ)を1システム以上(4組)設けたゾーン」から構成されている点で相違する以外、軌を一にする発明である。」(決定書21頁12行ないし20行)との認定が誤りであると主張しているが、原告らがその理由として挙げる取消事由2の主張(引用例1記載の発明は、「各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御する」ものではない旨の主張)が理由がないことは、前記2に判示したとおりであり、原告らの上記主張は、採用することができない。
イ また、原告らは、決定がした「相互影響をより少なくし、所望の温度にコントロールするために、引用例1の加熱炉の各ゾーンを仕切板で分割する形式に代えて、本件請求項2に係る発明のように加熱炉を複数の単位炉から構成することは、当業者が容易に想到し得るものと認められる。」(決定書22頁8行ないし13行)との判断が誤りである旨主張している。
しかしながら、本件第2発明と引用例1記載の発明との相違点である、炉が単位炉から構成されるかゾーンから構成されるかという点に関して、本件明細書(甲第2号証)には、単位炉から構成される炉とゾーンから構成される炉について、以下の記載があることが認められる。
@ 「【課題を解決するための手段】・・・本発明の鉄鋼加熱炉は、1つの炉体内が複数に区画された各ゾーン毎に・・・蓄熱型交番燃焼バーナシステムを・・・設け、各ゾーン毎に炉内温度を任意に制御すると共にゾーン内温度分布を均一にするようにしている。」(段落【0005】) A 「また、本発明の鉄鋼加熱炉は、・・・蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設けた単位炉を構成し、該単位炉を複数体連結して1つの炉を構成し、各単位炉毎に炉内温度を任意に制御すると共に単位炉内温度分布を均一にするようにしている。」(段落【0006】) B 「【作用】・・・各ゾーンあるいは単位炉内で発生する燃焼ガスのほとんどはそのゾーンあるいは単位炉の外には蓄熱バーナの蓄熱体を介して排出され、隣る他のゾーンあるいは他の単位炉内へはほとんど流入しない。厳密には隣のゾーンあるいは単位炉で発生した燃焼ガスと当該ゾーンあるいは単位炉で発生した燃焼ガスとはその境界でいくらか混合するが、大部分が発生したゾーンあるいは単位炉のバーナからそのまま排出され隣る他のゾーンあるいは単位炉の温度分布に影響を与えることがない。・・・炉内温度変化は各ゾーンあるいは単位炉内においてのみ起り、隣る他のゾーンあるいは単位炉に影響を与えない。」(段落【0010】) C 「【発明の効果】・・・本発明の鉄鋼加熱炉は、1つの炉体を区画したゾーン毎、あるいは連結することによって1つの炉体を構成する単位炉毎に、蓄熱体を通して燃焼用空気の供給及び燃焼ガスの排出を行なう蓄熱型交番燃焼バーナシステムを少なくとも1システム以上設け、各ゾーン毎あるいは単位炉毎に炉内温度を任意に変化させ得るようにしたので、各ゾーン毎あるいは単位炉毎に蓄熱型交番燃焼バーナシステムの燃焼量を制御することによって、鉄鋼加熱炉全体としての炉内温度パターンを任意に設定し得る。」(段落【0019】) 上記の各記載によれば、引用例1記載のゾーンから構成される炉と、本件第2発明の単位炉から構成される炉とは、前者は、「1つの炉体内が複数に区画」(上記@)されるのに対し、後者は更に「単位炉を複数体連結して1つの炉を構成」(上記A)する点で異なるものの、各ゾーン毎、あるいは各単位炉毎に「炉内温度を任意に制御」すると共に「温度分布を均一にする」(上記@及びA)ものであり、
「各ゾーンあるいは単位炉内で発生する燃焼ガスのほとんどはそのゾーンあるいは単位炉の外には蓄熱バーナの蓄熱体を介して排出され」(上記B)、「鉄鋼加熱炉全体としての炉内温度パターンを任意に設定し得る」(上記C)ものである点でなんら異なるところはないものと認められる。
また、本件全証拠によっても、蓄熱型交番燃焼バーナシステムにおいて、ゾーンから構成される炉と、単位炉から構成される炉との間に、上記の点において、差異があるものとは認められない。
そうすると、引用例1記載の炉と本件第2発明の炉は、単に、炉内温度を任意に制御すべき複数の要素(すなわち、ゾーン又は単位炉)を有する構造物(炉)を設計するに際し、単に、その全体を区画して要素を構成するか、要素を結合して全体を構成するかにおいて異なるものであることは明らかであるところ、炉に限らず、
構造物の設計に際し、そのような選択肢があることは自明であり、それぞれの技術的な意義、特質は、当業者であれば直ちに理解することができる程度のことにすぎないものと認められる。しかも、乙第1、第3ないし第5号証によれば、加熱炉の技術分野において、複数の炉を結合して使用することは周知の技術であると認められる。
したがって、本件第2発明は、引用例1記載の発明に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるといわざるを得ず、これと同旨の決定の判断に誤りはない。
ウ 原告らは、本件第2発明は、必要とする連続鉄鋼加熱炉の長さが変わる毎に炉の設計をやり直さずとも必要な数の単位炉を単純に連結するだけで、必要な長さの連続鉄鋼炉が得られるという点で、引用例1の加熱炉とは技術的意義を全く異にし、引用例1記載の発明に基いて容易に発明することができない旨主張している。
しかしながら、上記のとおり、加熱炉の技術分野において、複数の炉を結合して使用することは、周知の技術であり、この場合、鉄鋼加熱炉を単位炉から構成することによって原告ら主張のような技術的意義があるとしても、このことは、その構成を採ることにより奏される効果として、当業者に自明のものであると認められるから、このことをもって、本件第2発明が引用例1記載の発明により容易に発明することができないものであるとすることはできない。
エ 以上のとおり、原告らの本件第2発明に関する取消事由は、理由がない。
(2) 本件第3発明について ア 本件第3発明は、「被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄りのゾーンまたは単位炉の温度より高く制御することを特徴とする請求項1または2記載の鉄鋼加熱炉」との構成が規定されており(前記の事実欄第2の2(1))、本件訂正請求の請求項3のように、被加熱物の「搬入口に位置する」ゾーン又は単位炉の温度及び「搬出口に位置する」ゾーン又は単位炉の温度について規定するところと異なっているものと認められる。
イ 原告らは、決定が「一般に、鉄鋼加熱炉において、被加熱物搬入側寄りのゾーンまたは単位炉の温度を搬出側寄りのゾ一ンまたは単位炉の温度より高く制御することは通常行われていることであり(引用例3、4及び6参照)」とした認定、及び「このような制御をすることにより格別な作用効果を奏するものとも認められない。」とした認定がいずれも誤りである旨主張している。
しかしながら、原告らの上記主張は、いずれも、本件第3発明の鉄鋼加熱炉が、
被加熱物「搬入口に位置する」ゾーン又は単位炉の温度を「搬出口に位置する」ゾーン又は単位炉の温度より高く制御するものであることを前提とするものであるところ、原告らがそのように解すべきであるとして挙げる根拠は、本件明細書における実施例の1つに関する記載事項にすぎないものであり、本件第3発明についての本件明細書における特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、採用することができない。
したがって、原告らの上記主張は、その前提において失当であり、採用することができない。
ウ なお、決定の本件第3発明の進歩性の判断の適否についてみると、本件第3発明の構成は、上記アのとおりのものと認められる。
そして、周知の鉄鋼加熱炉において、被加熱物搬入側寄りのゾーン又は単位炉の温度が、搬出側寄りのゾ一ン又は単位炉の温度より高く制御されていることは、引用例3(甲第5号証の第5図)、引用例4(甲第6号証の89頁の図5.14)、
引用例5(甲第7号証の12頁下段の図)及び引用例6(甲第8号証、50頁の図8B)により、明らかに認められる。
したがって、本件第3発明の進歩性に関する決定の判断にはなんら誤りがないものと認められる。
エ 以上のとおり、原告らの本件第3発明に関する取消事由は、理由がない。
(3) 本件第4ないし第6発明について これらの点に関する原告らの主張は、いずれも、本件第1ないし第3発明が進歩性を備えることを前提とするものであるところ、この前提についての原告らの主張が採用することができず、進歩性を否定した決定の判断に誤りがあると認めることができないことは、前判示のとおりである。
したがって、原告らの本件第4ないし第6発明についての取消事由は、いずれもその前提において失当であり、理由がない。
5 結論 以上の次第で、原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史