審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ25968特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成6ワ13801特許権侵害差止請求権等不存在確認請求事件 平成8ワ3042特許権債務不存在確認請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ12586特許権侵害差止等請求事件 平成13ワ3381特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ11981特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 使用方法 / 公知技術 / クレーム / 均等 / 置き換え / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 実施 / 権原 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / 拡張 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
12年
(ワ)
20827号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 グレースケミカルズ株式会社 訴訟代理人弁護士 中島和雄 補佐人弁理士 中村至 被告 東北レミコン株式会社(以下「被告東北レミコン」という場合がある。) 被告 株式会社エヌエムビー(以下「被告エヌエムビー」という場合がある。) 被告 株式会社ポゾリス物産(以下「被告ポゾリス物産」という場合がある。) 上記3名訴訟代理人弁護士 清永利亮 補佐人弁理士 葛和清司 同 藤野清規 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/03/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告東北レミコン株式会社は,原告より購入した生コン回収水改質剤を使用する場合を除くほか,別紙目録1記載の方法を使用して生コンクリートを製造してはならない。 2 被告株式会社ポゾリス物産は,被告東北レミコン株式会社に対し,別紙目録2各記載の付着モルタル安定剤及びコンクリート用セットコントロール剤を販売してはならない。 3 被告株式会社エヌエムビー及び被告株式会社ポゾリス物産は,被告東北レミコン株式会社に対し,別紙目録3記載の方法を勧奨してはならない。 4 被告らは,原告に対し,各自金5332万8000円及びこれに対する被告株式会社エヌエムビー及び被告株式会社ポゾリス物産については平成12年10月15日から,被告東北レミコン株式会社については同月17日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 本件請求の概要 本件は,原告が被告らに対し, ア 別紙目録1記載の方法(以下「被告方法」という。)を使用して生コンクリートを製造している被告東北レミコンの行為が,原告の有する特許権を侵害する イ 被告エヌエムビー及び被告ポゾリス物産が被告東北レミコンに対して被告方法を勧奨し,被告ポゾリス物産がその方法を使用するための製品を販売することが,上記侵害行為の教唆,幇助,又は共同不法行為に該当する として,被告らに対して上記各行為の差止め及び損害賠償の支払を求めた事案である。 (なお,原告は,被告エヌエムビー及び被告ポゾリス物産の上記各行為は,民法719条2項の共同不法行為にとどまるが,現在において損害が生じ,将来において原告が被害を受ける高度の蓋然性があり,その被害が侵害行為を差止めるのでなければ回復できない場合,特許法の差止請求権は拡張して適用されるべきであり,本件は,差止請求が肯定されるべき場合であると主張する。) 2 前提となる事実(当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という。)を有する。 発明の名称 生コンスラッジの再使用方法 出願日 平成2年10月2日 登録日 平成9年5月23日 特許番号 第2651537号 特許請求の範囲 別紙「全文訂正明細書」写しの該当欄記載のとおり(以下同明細書を「本件明細書」という。) (2) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。 A 生コンが付着した装置を洗浄するにあたり, B 0.01〜0.3%の凝結遅延剤を含む洗浄水で洗浄して得られたスラッジ水を,骨材分離槽に導いて骨材を分離して生コンスラッジとし, C 次いで生コンスラッジ貯留槽に導く工程において,生コンスラッジの固形分濃度を20.2重量%以下に調整し, D 該生コンスラッジを翌日以降のセメントの練混ぜ水として再使用すること E を特徴とする生コンスラッジの再使用方法 3 争点 (1) 被告東北レミコンの洗浄方法 (原告の主張) 被告東北レミコンの洗浄方法は,別紙目録1「被告方法目録(原告主張)」記載のとおりである(なお,争いのある部分には下線を付した。被告の認否欄の記載についても同じである。)。 (被告らの認否) ア 構成bについての主張は,否認する。以下のとおりである。 被告東北レミコンの洗浄方法は,生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジの量により,洗浄方法が異なる。 (ア) 生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジが空(から)の場合には,最初の数台の生コン運搬車は凝結遅延剤を添加していない清水を洗浄水として用いて洗浄し,残りの全ての生コン運搬車は凝結遅延剤を添加していない生コンスラッジを洗浄水として用いて洗浄する。 (イ) 生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジが少量の場合には,それぞれの生コン運搬車を,有効な凝結遅延剤がほとんど残存していない少量の生コンスラッジの上に清水を添加して希釈した,スラッジ固形分濃度がきわめて薄い生コンスラッジを洗浄水として用いて洗浄する。 (ウ) 生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジが多量にある場合には,それぞれの生コン運搬車を,有効な凝結遅延剤がほとんど残存していない生コンスラッジを洗浄水として用いて洗浄する。 イ 構成cについての主張は,否認する。以下のとおりである。 (ア) 生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジが空の場合には認める。 ただし,「洗浄で生じた生コンを含む廃水」を「得られたスラッジ水」とすべきである。 (イ) 生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジが少量ないし多量の場合には,得られたスラッジ水を 振動フルイ-廃水ピット-分流器-砂分級機-サイクロンからなる一連の骨材回収装置に導いて骨材を分離して生コンスラッジに戻しとすべきである。 ウ 構成についての主張dは,否認する。以下のとおりである。 次いで該生コンスラッジを,その固形分濃度を調整することなく生コンスラッジ貯留槽に導き,当日の全ての生コンスラッジ運搬車のドラムの洗浄作業終了後,生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジに凝結遅延剤を添加して0.006重量%程度の凝結遅延剤を含む生コンスラッジとし, これを攪拌しながら貯留し続けて, エ 構成eについての主張は,否認する。以下のとおりである。 翌朝,該生コンスラッジの固形分濃度を測定し,該生コンスラッジをバッチャープラントへ送り,その測定した濃度に応じて該生コンスラッジを計量して,これを以降のコンクリートの練混ぜ水として再使用する生コンスラッジの再使用方法 (2) 被告東北レミコンの洗浄方法と本件発明との対比 (原告の主張) 被告東北レミコンの洗浄方法は,以下のとおり本件発明の構成要件をすべて充足する。 ア 構成要件Bについて (ア) 被告東北レミコンの洗浄方法は,「0.01〜0.3%の凝結遅延剤を含む洗浄水で洗浄して得られたスラッジ水」を洗浄水として用いている。また,同洗浄方法は,上記廃水を振動フルイ-廃水ピット-分流器-砂分級機-サイクロンからなる一連の骨材回収装置に導いて骨材を分離して生コンスラッジとしているのであるから,「骨材分離槽に導いて骨材を分離して生コンスラッジとし」に該当する。 (イ) 被告東北レミコンの洗浄方法における「砂分級機」は,骨材分離の機能を担う槽であるから,構成要件Bの「骨材分離槽」に該当する。 仮に「砂分級機」が文言上「骨材分離槽」を充足しなくとも,以下のとおり,「骨材分離槽」と均等である。 a 骨材分離手段の具体的構成は本件発明の本質的部分ではなく, b 「骨材分離槽」を,「砂分級機」を含む被告方法の一連の骨材分離手段に置き換えてみても,本件発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって, c 上記のように置き換えることに,当業者が,被告方法実施の時点において容易に想到することができたものであり, d 被告方法が本件発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく, e 被告方法が本件発明の特許出願手続においてクレームから意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。 イ 構成要件Cについて 構成要件Cの「生コンスラッジの固形分濃度を20.2重量%以下に調整」するとは,積極的な濃度調整行為を常態的に行うことを意味するものではなく,骨材分離後の生コンスラッジの固形分濃度が20.2重量%を超えない限り積極的な濃度調整はしないということも含んだ趣旨と解釈すべきである。 被告東北レミコンの洗浄方法は,固形分の濃度が20重量%以下の生コンスラッジを,その固形分濃度を調整することなく生コンスラッジ貯留槽に導くものであるから,構成要件Cの「生コンスラッジ貯留槽に導く工程において,生コンスラッジの固形分濃度を20.2重量%以下に調整」を充足する。 ウ 構成要件Dについて 被告東北レミコンの洗浄方法は,その固形分濃度が20重量%以下である生コンスラッジを翌日以降のセメントの練混ぜ水として再使用しているのであるから,構成要件Dを充足する。 (被告らの反論) ア 構成要件Bについて 被告東北レミコンの洗浄方法は,3(1)(被告らの認否)アに記載したとおりである。 被告東北レミコンの洗浄方法における,生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジに添加する凝結遅延剤の量は,生コンスラッジ30キロリットルに対してデルボクリート(被告東北レミコン使用の凝結遅延剤の商品名)を10リットルであるから,その割合は0.006重量%である。さらに,凝結遅延剤は,添加後18時間ほど経過すると残存しなくなる。このように,@生コンスラッジ貯留槽が空の場合,A貯留槽内の生コンスラッジが少量の場合,B多量の場合のいずれについても,「凝結遅延剤を添加していない清水」又は「凝結遅延剤を添加していないか,あるいは有効な凝結遅延剤がほとんど残存していない生コンスラッジ」を洗浄水として用いて洗浄を行っている。 また,被告東北レミコンの洗浄方法における「骨材回収装置」は,「骨材分離槽」に該当しない。 したがって,被告東北レミコンの洗浄方法は,本件発明の構成要件Bの「0.01〜0.3%の凝結遅延剤を含む洗浄水で洗浄(する)」及び「骨材分離槽」との点を充足しない。 イ 構成要件Cについて 被告東北レミコンの洗浄方法は,「固形分濃度を調整することなく」生コンスラッジ貯留槽に導く方法を採用している。 したがって,被告東北レミコンの洗浄方法は,「生コンスラッジ貯留槽に導く工程において,生コンスラッジの固形分濃度・・・調整し」との点を充足しない。 ウ 構成要件Dについて 本件発明の構成要件Dは,調整した「該生コンスラッジを翌日以降のセメントの練混ぜ水として再使用する」とされている。 これに対して,被告東北レミコンの洗浄方法では,そもそも,生コンスラッジの固形分濃度の調整をしていない。これは,練混ぜ水として使用する生コンスラッジの固形分濃度を測定すれば,該生コンスラッジを生コンの練混ぜ水として添加できる許容量が判明するので,生コンスラッジの固形分濃度を調整する必要がないからである。 したがって,被告東北レミコンの洗浄方法は,固形分濃度の調整をしていないので,調整した「該生コンスラッジを・・・再利用する」との点を充足しない。 (3) 損害額 (原告の主張) 被告東北レミコンは,本件発明に係る方法を実施することにより,生コンスラッジを廃棄することなく再使用することができ,廃棄物処理費用を要しないとともに,生コン製造用のセメント量がその分増加するという経済的利益を得ている。その経済的利益は,購入費用を差引いても,年間1工場当たり800万円を下らない。 そうすると,同被告が,別紙目録2記載の付着モルタル安定剤等を使用して本件発明の方法を実施している2工場分の本件特許権登録日である平成9年5月23日以降,現在に至るまでの3年4か月分の経済的利益の合計は, 8,000,000円×2×(3+4/12)≒53,328,000円 となり,被告東北レミコンは,本件特許権侵害の行為により,少なくとも金5332万8000円の利益を受けているから,原告は被告らの前記共同不法行為により上記同額の損害を被った。 (被告らの反論) 争う。 |
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争点に対する判断
1 構成要件Bの充足性 (1) 被告東北レミコンの洗浄方法が,原告主張に係る「水に対する固形分換算0.01〜0.3重量%の凝結遅延剤を含む清水または生コンスラッジで洗浄する方法」を採用しているか否かについて検討する。 弁論の全趣旨及び甲16,乙21,乙26によれば,以下の事実が認められ,同認定を覆すに足りる証拠はない。 ア 被告東北レミコンの洗浄方法採用の経緯 原告は,本件出願をした後の平成2年ころから,スラッジ水中のセメント成分の水和を抑制し再利用するリカバーシステムを中核にして,生コンの各廃水処理メーカーに対して,同システムに関連する営業を実施した。リカバーシステムは,オキシカルボン酸類を主成分とする生コン回収水改質剤(商品名リカバー)を用いた生コン運搬用のアジテーター車の洗浄方法であって,本件発明の実施方法である。そして,原告は,被告東北レミコンに対して営業活動を行い,同被告に対しリカバーシステムの技術説明を行ったりした。 平成8年7月ころ,被告東北レミコンは,原告の技術指導を受けて,双葉工場内に,リカバーシステムを導入した洗浄設備を完成させた。そして,同被告は,原告からリカバー1000リットルを購入して,洗浄水に0.15%のリカバーを添加して洗車作業を行い,これにより得られたスラッジ水の一部を再利用する洗車作業の試運転を行った。 ところで,原告作成のパンフレット(乙26)によれば, A法 リカバーをアジテータ車ドラムに添加する方法 B法 1日の洗浄作業終了時にスラッジ槽中のスラッジ水にリカバーを添加する方法 の両方が記載され,原告は,被告東北レミコンに対し,A法とB法の両方について技術指導をした。 被告東北レミコン双葉工場は,原告が推奨したA法とB法とを比較検討したが,発生する生コンスラッジ量の予測ができなかったため,A法を採用することができず,結局B法を採用することとした。 その後,被告東北レミコンは,「デルボクリート」(被告エヌエムビーが製造し,被告ポゾリス物産が販売する凝結遅延剤の商品名)を購入して,アジテーター車の洗浄に用いている(被告東北レミコンがデルボクリートを使用していることは争いがない。)。 イ 「デルボクリート」の性質 被告エヌエムビーは,「トラックアジテータドラム用付着モルタル安定剤」として,「デルボクリーン110」を製造,販売していたが,同商品は,JIS規格専用の製品であった。 ところが,被告東北レミコンは,その洗浄方法がJIS規格とは異なる方法であったため,被告エヌエムビーから,本来は「湿式吹付けコンクリート用セットコントロール剤」であるが,凝結遅延性がほぼ同等である「デルボクリート」の使用を推奨されて,これを採用することとした。「デルボクリート」の成分は,オキシカルボン酸13%及びアルキルアミノホスホン酸4%を含む(弁論の全趣旨)。 ウ 「デルボクリート」の添加時期及び添加量 東北レミコンの洗浄方法は,前記のとおり,B法を採用している。すなわち,同方法では,当日分のすべての生コン運搬車のドラムの洗浄作業が終了した後に,生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジに凝結遅延剤を添加する方法を採用している。 そして,同方法においては,「デルボクリート」を生コンスラッジ貯留槽内の生コンスラッジ30klに対して,「デルボクリート」10lを添加する方法を採用し,これによると凝結遅延剤含有量0.006重量%程度になる。 (2) これに対して,原告は,以下のとおり主張する。 ア まず,原告は,凝結遅延剤の添加方法について,水和が進行しつつある付着モルタルを再度使用するためには,できる限り早い時期に凝結遅延剤を添加するのが好ましいにもかかわらず,被告東北レミコンの洗浄方法においては,コンクリート練り混ぜ後8時間経過してから凝結遅延剤を添加していることになり不合理であると主張し,甲7,13には,これに沿ったかのような記載がある。 しかし,甲7,13はいずれも付着モルタルの再利用に関するもので,スラッジ水の利用に関するものではないので,原告の主張の根拠にはならない。また,いずれも,原告作成のパンフレットである乙22(「リカバー 技術資料」15,16頁)に,「20℃以下の温度条件下では,セメント水和時間6時間程度以内であれば時間に関係なく,リカバーによりセメント水和は抑制される。」「アジテーターを逐次洗浄した場合,発生するスラッジを一括処理または分割処理してもリカバーの効果は変わらない」旨が記載されていること,乙26(「リカバー」カタログ4丁目表)に,「1日の洗浄作業終了時にスラッジ槽中のスラッジ水にリカバーを添加する。」とB法に関する記載があること,乙27ないし29の実施例Uにおいては,アジテータドラムの洗浄に当たり,凝結遅延剤を添加した洗浄水を用いない例が示されていること等の事実によれば,「デルボクリート」の添加を,すべての生コン運搬車のドラム洗浄終了後に行ったとしても,凝結遅延効果が失われた後の添加であって不合理,不自然であるとはいえない。 イ 次に,原告は,「デルボクリート」0.006重量%程度の僅かな量を添加したのでは,凝結遅延効果を期待できないので不合理である旨主張する。 この点,乙21には,被告東北レミコンは,凝結遅延効果が必ずしも十分でないことを認識していながら,生産コストを削減するために,「デルボクリート」の添加量を標準量より少なくして,稼働を継続していると述べられていること,「デルボクリート」0.006重量%では,凝結遅延効果が確かに劣るが,生産効率を考慮して,使用量を抑えることがあり得ないとまではいえないこと等の点を考慮すると,原告の主張は採用できない。 ウ さらに,原告は,連日操業の場合は,前日までに添加された凝結遅延剤が残存している上,生コンスラッジ量の一定割合の凝結遅延剤が追加されていくので,凝結遅延剤の濃度は次第に上昇していくはずであると主張し,甲12には,これに沿った記載がある。 しかし,同記載は,水和の進行によって放出される凝結遅延剤が全量存在して,未水和のセメント粒子に再吸着する性質を保持していることまで示すものではないのみならず,乙22によれば,原告製造に係る凝結遅延剤「リカバー」においても,時間の経過により,成分が消費されることが示されている点に照らすならば,原告の主張を採用することはできない。 (3) これらによれば,被告の用いている凝結遅延剤であるデルボクリートの添加量が,洗浄後の生コンスラッジ貯留槽内のスラッジ水中の水分に対して0.01ないし0.3%であることを認めるに足る証拠はなく,また,前日以前に添加した凝結遅延剤の残存により,ドラムの洗浄の際に,水に対する凝結遅延剤の割合が上記数値となっていることを認めるに足る証拠もない。 以上の検討によれば,被告東北レミコンの洗浄方法は,本件発明の構成要件Bを充足しない。 2 構成要件Cの充足性について (1) 構成要件Cにおける「生コンスラッジの固形分濃度を20.2重量%以下に調整」するの解釈 この点,原告は,「調整」の時期に関して,積極的な濃度調整行為を常態的に行うことを意味するものではないと主張する。 この点につき,@本件発明の構成要件C,D部分の記載によれば,生コンスラッジの固形分濃度の調整は,洗浄当日に行うことを指し,練混ぜ水としての再使用である翌日以降に行うことを指していないことは明らかであること,A乙6(本件特許審査過程における原告の意見書,4頁)には,「スラッジ水の固形分濃度を20.2%以下にして凝結遅延剤を添加することにより,凝結遅延剤の効果を増大させ」との記載があること,B乙12,特許異議における原告の意見書,10頁)には,「スラッジが一定の濃度を超えると凝結遅延剤の必要量が急激に増大する事実を見出した。」との記載があることに照らすならば,生コンスラッジの固形分濃度の調整は,生コンスラッジ貯留槽に導く工程の全期間にわたって,固形成分濃度を調整する必要があるものと解するのが相当であって,既に水和が進行した後の翌日以降に練混ぜ水として再使用する際の調整は含まれないものと解すべきである。 (2) 被告東北レミコンの洗浄方法 被告東北レミコンの洗浄方法においては,洗浄した翌日以降に,練混ぜ水として使用する目的で生コンスラッジの固形分濃度を測定しているが,生コンスラッジの固形分濃度を常態的に調整することはないことについては当事者間に争いがない。 この点,被告東北レミコンの洗浄方法が,洗浄当日に生コンスラッジ貯留槽に導く工程の全期間にわたって,常態的に積極的な濃度調整をしていないが,生コンスラッジの固形分濃度が常に20重量%以下であったために,その必要がなかったにすぎないという事情があることを認めるに足りる証拠はない。 かえって,乙16(全国生コンクリート工業組合連合会作成の「回収水利用の手引」,40頁)には,「定固形分率方式の作業手順」として,「これは,目標スラッジ固形分率と濃縮スラッジ水濃度,配合値,骨材表面水率などから,コンクリートのバッチごとに自動演算により,濃縮スラッジ水と上澄水の所要量を計算し自動計量する方式である。」との記載があり,同記載を総合すれば,翌日用の練混ぜ水として使用する生コンスラッジの固形分濃度を測定するだけで,該生コンスラッジを生コンの練混ぜ水として添加できる許容量が判明し,生コンスラッジの固形分濃度を調整する必要がないことになるので,被告東北レミコンが,このような方法を採用することに合理性があると解される。 (3) 以上の検討によれば,被告東北レミコンの洗浄方法は,本件発明の構成要件Cを充足しない。 3 被告エヌエムビー及び被告ポゾリス物産に対する請求 上記1,2のとおり,被告東北レミコンの使用している方法は本件特許権を侵害するものとは認められないから,被告エヌエムビー及び被告ポゾリス物産に対する原告の請求については,その前提を欠くことになる。 |
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結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 |
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追加 | |
目録1被告方法目録(原告主張)a生コンが付着した生コン運搬用のアジテーター車のドラムを洗浄するにあたり,b水に対する固形分換算0.01〜0.3%の凝結遅延剤を含む清水または生コンスラッジで洗浄し,c洗浄で生じた生コンを含む廃水を振動フルイ-廃水ピット-分流器-砂分級機-サイクロンからなる一連の骨材回収装置に導いて骨材を分離して生コンスラッジとし,d次いで分離により生じた固形分濃度が20重量%以下の生コンスラッジを,その固形分濃度を調整することなく生コンスラッジ貯留槽に導き,生コンスラッジ貯留槽内の水に対する凝結遅延剤固形分の比率が0.01〜0.3重量%となるよう,適宜必要に応じて水または付着モルタル安定剤ないし湿式吹付けコンクリート用セットコントロール剤を加え,これを攪拌しながら貯留し続けて,e翌日以降,該生コンスラッジの固形分濃度を測定し,該生コンスラッジをバッチャープラントへ送り,その測定した濃度に応じて該生コンスラッジを計量して,これを以降のコンクリートの練混ぜ水として再使用する生コンスラッジの再使用方法目録21凝結遅延剤としてオキシカルボン酸塩を約21%含有する水溶液からなる付着モルタル安定剤(商品名「デルボクリーン110」)2凝結遅延剤として一錠中オキシカルボン酸塩を約120グラム含有する錠剤からなる付着モルタル安定剤(商品名「デルボクリーンESC」)3凝結遅延剤としてオキシカルボン酸塩を約13%,ホスフォン酸塩を約4%含有する水溶液からなる湿式吹付けコンクリート用セットコントロール剤(商品名「デルボクリート」)目録3別紙目録2記載の付着モルタル安定剤または湿式吹付けコンクリート用セットコントロール剤中の凝結遅延有効成分を,水に対して0.01重量%〜0.3重量%添加した水または生コンスラッジで,モルタルの付着したアジテーター車のドラムを洗浄して付着モルタルをスラリー化し,次いでこれを排出して骨材を分離して得た安定化スラリー(スラッジ水)を翌日以降の生コンクリートの練り水として再使用する方法全文訂正明細書 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 今井弘晃 |
裁判官 | 石村智 |