関連審決 |
無効2000-35040 |
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関連ワード | 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 上位概念 / 下位概念 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 混同 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / 釈明 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
87号
審決取消請求事件
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原告 東洋エクステリア株式会社 訴訟代理人弁理士 田村公總 被告 ワイケイケイ株式会社 被告 ワイケイケイアーキテクチュラルプロダクツ株式会社 被告ら訴訟代理人弁理士 根本恵司 同 畑川清泰 同 三谷浩 同 久門享 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/03/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2000−35040号事件について平成13年1月22日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告ら 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告らは、名称を「装飾体の製造方法」とする特許1670709号(昭和61年7月22日出願、平成3年5月17日出願公告、平成4年6月12日設定登録、 以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 原告は、平成12年1月14日、本件特許について無効審判の請求をし、無効2000-35040号として特許庁に係属したところ、被告らは同年5月2日付け訂正請求書により明細書の訂正を請求した(「本件訂正」)。 特許庁は、上記審判事件について審理した上、平成13年1月22日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年2月7日原告に送達された。 2 本件発明の特許請求の範囲の記載 (1) 訂正前の特許請求の範囲の記載 1.溶接突部4を有する枠材1と装飾材7を、双方の当接部である通電接部8を溶接によって一体化してユニット体Uを形成し、該ユニット体Uをアルマイト処理槽9にてアルマイト処理する若しくは塗装することによって装飾体U’を製造することを特徴とする装飾体の製造方法。 2.前記溶接後に枠材1または装飾材7を屈曲加工することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の装飾体の製造方法。 3.前記アルマイト処理若しくは塗装後に枠材または装飾材7を屈曲加工することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の装飾体の製造方法。 (2) 訂正後の特許請求の範囲の記載(下線は訂正箇所) 1.長手方向に突条 3が突設 され 、突条 3の先端 には 溶接突部4を形成 した枠材1と装飾材7を、双方の当接部である通電接部8を溶接によって一体化して 、 溶接突部 4、4が互いに 向き合い、枠材 1、1間の溶接突部 4、4に装飾材 7を配置したユニット体Uを形成し、該ユニット体Uをアルマイト処理槽9にてアルマイト処理する若しくは塗装することによって装飾体U’を製造することを特徴とする装飾体の製造方法。 2.前記溶接後に枠材1または装飾材7を屈曲加工することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の装飾体の製造方法。 3.前記アルマイト処理若しくは塗装後に枠材または装飾材7を屈曲加工することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の装飾体の製造方法。 (以下、上記訂正後の特許請求の範囲に記載された発明を「訂正発明」という。) 3 審決の理由の要旨 別紙審決の理由写しのとおり、審決は、本件訂正に係る訂正事項は、平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書き及び同条5項において準用する同法126条2項の規定に適合するので訂正を認める、訂正発明は甲第3号証ないし同第8号証(審判甲第1号証ないし同第6号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件特許を無効とすることはできないと判断した。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は、釈明権を濫用し(取消事由1)、審理不尽の誤りを冒し(取消事由2)、新規事項の追加を看過し(取消事由3)、相違点の認定を誤り(取消事由4)、格別の作用効果の認定を誤り(取消事由5)、容易推考性の判断を誤った(取消事由6)ものであって、違法として取り消されるべきものである。 1 取消事由1(釈明権の濫用)及び取消事由2(審理不尽) (1) 本件審判手続においては、口頭審理の場において、審判長の指示によって甲第9号証(実公昭52-1740号公報)及び甲第10号証(実開昭52-38432号公報)を参考資料1及び2とするに至った経緯があるにもかかわらず、審決は、「本件審判の請求は、成り立たない」として、原告の請求を排斥するものであった。原告の請求を認容するのであればともかく、原告の請求を排斥する一方で、原告申し出の証拠とこれに基づく主張を審判手続において制限することは許されないというべきである。 その結果、甲第9号証及び甲第10号証は、審決にその提出事実さえも記載されず、またこれらの証拠に基づく主張は、それが排斥されたにもかかわらず、審決にはその排斥の理由すらも示されないものとなった。本件審判手続において審判長が原告提出3件の証拠のうち、2件を参考資料とするよう指示する一方、原告の審判請求を排斥する審決を行ったことは、手続の公正を欠くとともに釈明権の濫用に該当する違法がある(取消事由1)。 (2) また仮に参考資料としたとしても、請求を排斥する以上、甲第9号証及び甲第10号証及びこれに基づく原告主張の審理を行なうとともにその理由を審決に記載するべきであったが、審決は、これらについて一切記載しておらず、その審理を行なっていないことが明らかであり、本件審決には審理不尽の違法がある(取消事由2)。 2 取消事由3(新規事項追加の看過) 本件訂正のうち、枠材1を「長手方向に突条3が突設され」たものであるとする特許請求の範囲第1項の訂正(訂正事項a)及び明細書(甲第2号証の1)の2頁末行から3頁2行の訂正(訂正事項c)は、新規事項の追加に該当するにも拘らず、審決はこれを看過している。 (1) 訂正前の明細書(甲第2号証の1、本件特許公告公報)には、実施例の説明として「枠材1は断面矩形状の中空部2と該中空部2の一側面の幅方向中間に長手方向に連続する突条3が突設されている」(3欄3〜6行)と記載されている。 ここで「長手方向に連続する」とは、上記幅方向中間に突設された突条3の形態が、途中に切れ目や切欠きがあったり、途中で断続したりしたものではなく、長手方向に一連一体のものとされていることを意味する。 そして枠材1は「アルミニウム製の押出し形材」(同3欄2、3行参照)であるとされるところ、アルミ押出形材は、それ自体「長手方向に連続する」ものである。 そうすると訂正前の明細書に記載の「長手方向に連続する」とは、その文意上からも、実施例に示されるアルミ押出材の突条3の形態からも、切れ目、切欠きが存在したり、断続したりすることなく、上記長手方向に一連一体の状態を示すものである。 因みに、訂正前の明細書には上記引用部分以外に突条3について「長手方向」に言及した記載はなく、ましてや「長手方向に突条3が突設され」たとするような記載は全くない。 (2) 新規事項の追加に該当するか否かは、訂正前の明細書又は図面に記載されていたか否かが判断の基準であり、訂正前の明細書の記載事項全体や開示技術との矛盾の有無、あるいは、訂正前の明細書の記載において発明に必須要件であったか否かをもって判断の基準となし得るものではない。 (3) 審決は「連続する」と記載されない実施例の説明がある(審決9頁4〜14行)というが、これは、後続の実施例において先行する実施例と同じ事項の重複説明が省略されたにすぎないから、これら後続実施例における突設された突条の形態も「長手方向に連続する」ものであることを当然の前提としているというべきである。 (4) 本件発明は、それ自体が長手方向に同一断面形状を有するアルミ押出し形材を用い、これを所定の長さに切断したものを枠材1とし、これに後からアルマイト処理を施す技術であるから、枠材1における突条3もそれ自体が常に同一断面形状、即ち「長手方向に連続する」ものであって、「長手方向に連続する」以外の突条3なるものはアルミ押出し形材の枠材1にはあり得ない。突条3を「長手方向に連続しない」ようにするには、切断した枠材の突条3に対して、これを部分的に剥ぎ取る等、別の技術的改変措置を施すことが必要となるが、訂正前の明細書にそのような記載は一切ない。 そうすると「長手方向に連続する」もの以外に「長手方向に連続しない」突条3をも含む結果となっている本件訂正は、訂正前の明細書に記載されていない新規事項の追加となっている。 (5) 被告らは、本件発明にはアルミやアルミ押出材以外のものを含むと主張する。 しかし本件明細書の従来技術、作用効果の記載、特許請求の範囲の「アルマイト処理」(アルマイト処理はアルミニウムに対してのみ可能である)の記載、アルミ押出材以外の記載のない事実に照らせば、本件発明ないしその開示技術がアルミ押出材に限られている事実が明白である。 3 取消事由4(相違点認定の誤り) 審決は、訂正発明のうち「長手方向に突条が突設され、突条の先端には溶接突部を形成した枠材と装飾材を、双方の当接部である通電突部を溶接によって一体化して、溶接突部が互いに向き合い、枠材間の溶接突部に装飾材を配置したユニット体Uを形成すること」が甲各号証に示されない相違点であると認定する(審決11頁28行〜32行)が、個別の甲号証との対比による相違点を認定するべきである。 すなわち、訂正発明と甲第3号証(実公昭55-33037号公報、審判甲第1号証)に記載の発明とは基本的構成において一致し、その相違点とすべきは、ユニット体に用いる枠材を「長手方向に突条を突設され、突条の先端に溶接突部を形成した」とする点(枠材における突条と溶接突部設置の構成)、ユニット体の上記「溶接突部が互いに向き合い、枠材間の溶接突部に装飾材を配置した」点(枠材と装飾材の配置の形態)の2点である。 そうすると審決は、甲第3号証に「枠材と装飾材とを、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化して、枠材間に装飾材を配置したユニット体を形成した」構成が示されている点を看過し、これを含めて甲号証との相違点とすることによって、相違点の認定を誤ったものである。 4 取消事由5(「格別の作用効果」認定の誤り) 審決は、前記相違点によって、訂正発明は「溶接突部は枠材本体から離れて位置することになるから、・・・格別の作用効果を奏するものである。」(審決11頁32行〜12頁1行)と認定する。 しかし甲第4号証の1、2(実願昭50-89079号(実開昭52-3256号)のマイクロフィルム、審判甲第2号証の1、2)記載の装飾体は、接触部の加圧とその溶着は溶接突部が枠材本体から離れた突条と装飾材との間で行われるものであって、審決のいう格別の作用効果を奏するものとされている。 また甲第6号証(実公昭55-49853号公報、審判甲第4号証)記載の発明は、枠材に長手方向に突設された突条(舌片4)における固定部が枠材1から離れて位置し、突条と装飾材との間で固定が行われるものとされているから、審決のいう格別の作用効果なるものが示されている。 5 取消事由6(容易推考性判断の誤り) 審決は、訂正発明と甲各号証との相違点の認定を誤り、格別の作用効果なるものを誤認して、訂正発明を、甲号証記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないとして容易推考性を否定し、その判断を誤ったものである。 甲第4号証の1、2には、「長手方向に突条を突設し、突条の上下中間位置に溶接突部を形成した枠材と装飾材を、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化して、溶接突部が互いに向き合い、枠材の溶接突部に装飾材を配置した」構成の装飾体が示されており、また甲第9号証、甲第10号証には、いずれも「溶接突部を形成した枠材と装飾材とを、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化して、枠材間に装飾材を配置した装飾体」が示されている。 してみれば、訂正発明と甲第3号証記載の発明との上記2つの相違点における、 枠材を「長手方向に突条を突設され、突条に溶接突部を形成した」とする突条と溶接突部設置の構成、「溶接突部が互いに向き合い、枠材の溶接突部に装飾材を配置した」とする枠材と装飾材の配置の形態は、甲第4号証の1、2に示されていることになる。 また、溶接突部を突条の先端とするか、上下中間位置とするかは、単に溶接突部設置位置の問題にすぎず、その作用効果に違いはなく、さらに装飾材の配置を「枠材間」とするか、枠材の一側面とするかも、単に装飾材配置形態の問題にすぎず、 同様にその作用効果に違いはないから、訂正発明は、甲第3号証及び甲第4号証の1、2記載の発明に基づいて容易に推考し得たものというべきである。 しかも甲第5号証(実開昭55-129951号公報、審判甲第3号証)及び甲第7号証(実開昭58-153659号公報、審判甲第5号証)には「長手方向に突条が突設され、その先端又は中間位置に固定部を形成した枠材と装飾材を、固定部によって固定した」構造及び「固定部が互いに向き合い、枠材間の固定部に装飾材を配置した」構造が示され、前記甲第6号証には、同じく「長手方向に突条が突設され、この突条を固定部として枠材と装飾材を固定した」構造及び「固定部が互いに向き合い、枠材間の固定部に装飾材を配置した」構造が示されるから、訂正発明の装飾材配置形態はこれら甲号証に示されている。 |
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被告らの反論の要点
1 取消事由1(釈明権の濫用)の主張に対して 甲第9、第10号証がそれぞれ参考資料1、2に変更されたのは、原告自ら、審判長の指示に応じて訂正したと述べているように、原告が、原告のいう「審判長の指示」の意味を十分に理解した上で審判長の要請に応じて証拠を整理したためである。前記証拠の参考資料への変更は、原告の陳述により原告の自己責任において行ったのであるから、審判長の指示によって証拠ないし主張が制限されたとする原告の主張は事実に反している(甲第12号証、1回口頭審理調書第3頁第9〜11行参照)。審判長は、これら各証拠に基づいて原告が主張した技術内容がいずれも実質上同一であるため、いずれの証拠によっても訂正後の本件発明の進歩性の判断において異なる点がないと判断し、原告に証拠の整理を要請し原告はその要請に応えて証拠を整理しただけであるから、そこに何らの違法性もない。 2 取消事由2(審理不尽)の主張に対して 審判において甲第9、第10号証の記載に基づいて原告が主張した事項は、甲第4号証の1、2の記載に基づいて主張した事項と実質的に一致しているのであるから、これらについて審決が言及しなかったからといって審理不尽といえない。 3 取消事由3(新規事項追加の看過)の主張に対して (1) 訂正が新規事項の追加に該当するか否かは、訂正請求において訂正した文言「長手方向に突条3が突設され」で表される技術的事項が、訂正前の明細書又は図面に記載されていたか否かで判断すべきである。 訂正前の明細書(甲第2号証の1)には、例えば第7図に関連して「一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものが使用され」(4欄20、21行)」と記載されており、この突条は明らかに「連続する」とも「連続しない」とも言っていない。つまり、訂正前の明細書にはそもそも上述のように「連続する」か「連続しない」か一切限定を付さない突条が記載されているのであるから、本件発明において突条にどのような限定を加えようと、それによって突条が「連続する」か否かが新規事項の判断対象となるということ自体不合理である。 訂正前の明細書に記載された「長手方向に連続する突条」についての記載が、長手方向に連続しない限り枠材には突条を設けることが原理的にできない、という意味であればともかく、技術常識上そのようなことはあり得ないから、「長手方向に突条3が突設され」たものは、当業者にとって本件明細書の記載から自明である。 審決の認定が正しいことは、前記記載と関連する第7図(A)にも、「長手方向に突条が突設され」た枠材1が記載されていることからも証明される。 (2) 訂正前の明細書に「アルミニウム製の押出し形材を切断した」(甲第2号証の1、3欄2、3行)との記載が明確になされているという主張についてはそのとおりであるが、これは本件発明の1実施例についての記載であり、訂正前の明細書に記載された枠材はアルミニウム製のものに限定されているわけではない。 例えば、訂正前の明細書の特許請求の範囲等に記載された枠材にはアルミニウム製であるとの限定は付されておらず、また、これがアルミニウム製であるとする理由もない。また、訂正後の発明も、前記「枠材」がアルミニウム製であるとの限定、あるいは押出し形材との限定は一切付されていない。つまり、アルミニウム以外のものであってもよいし、押出し形材以外のものであってもよいのである。これは本件訂正の前後において何ら変わっていない。 したがって、本件発明の「枠材」がアルミニウム製押出し形材に限定されることを前提とする原告の主張は誤りである。 (3) 本件訂正は、訂正前の明細書における溶接突部4が枠材の突条の先端に形成してあること、及びその突条の方向を長手方向に限定して明確にしたものであり、突条が長手方向に連続するか否かは訂正の趣旨とは無関係である。 訂正前の明細書の記載「枠材1は断面矩形状の中空部2と該中空部2の一側面の幅方向中間に長手方向に連続する突条3が突設されている」(甲第2号証の1、3欄3〜6行)は、その上位概念として「・・・長手方向に突条3が突設されている。」との技術思想も表している。 審決は、訂正前の明細書に上位及び下位概念の発明が記載されている場合においては、特許請求の範囲の訂正をどのレベルの概念の発明について行うかは権利者の自由であるから、「特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載すればよく、実施例に記載された突条が長手方向に連続することまで特定する必要はなく」と判断したのである。 また、審決が、訂正前の明細書には「図7A〜Cに示すものは枠材1として断面C字状であって、一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものが使用されている。」(甲第2号証の1、4欄19〜21行)、「第8図に示すものは枠材1として断面略H形状であってウエブ部14に溶接突部4を先端に有する突条3が枠材1の側壁より突出して突設されたものが使用されている。」(同4欄42行〜5欄1行)、「第11図A、Bに示すものは、枠材1として断面略C字状であって一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものを使用し、」(同6欄21〜23行)と、明細書中にあえて「連続する」との限定を付さない突条が記載されているとしたのは、訂正前の明細書には「突条」について原告が摘示した記載のみでなく、長手方向に「連続した突条」の上位概念としての長手方向の「突条」が記載されていることから、これからみても審決の前記判断が正当なものであることを説明したのである。 (4) 原告が訂正された特許請求の範囲の記載から「長手方向に連続しない突条」を読み取ることは自由であるが、本件訂正請求書に添付された訂正明細書に「長手方向に連続しない突条」などという事項を加入した事実はない。訂正により加入された事項であればともかく、訂正されてもいない事項を持ち出してこれが新規事項に当たると主張するのは明らかに理不尽である。 原告は、特許請求の範囲の解釈から空想した事項と明細書に実際に訂正により加入された事項とを混同して的外れな主張をしているにすぎない。 4 取消事由4(相違点認定の誤り)の主張に対して 甲第3号証には、原告が主張するような「枠材と装飾材とを、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化して、枠材間に装飾材を配置したユニット体」を示す記載は一切認められない。 甲第3号証の1頁2欄10〜16行には「前記突片3は、各中格子2の背面にその全長に亘って2条に形成した各中格子2と各横枠6との間にこれら2条の突片3、3の内側部と外側部とにおいて前記間隙4を形成させ、該内側部の中間部において、中格子2の背面を横枠6の前面の上下部に点付け溶接した。」と記載されており、この記載中、「該内側部の中間部」は「該内側部の間隙4の中間部」の意味であるから、この記載からすると、第2図及び第3図中で黒で塗り潰した部分が溶接部分である。 このように、甲第3号証のアルミ製門扉では、横枠(枠材)と中格子(装飾材)とは突条内側部の間隙4の中間部で溶接されているのであって、横枠及び横枠と中格子の当接部である2条の突片3、3は溶接されていないから、原告の主張は明らかに誤りであり、審決の相違点の認定に誤りはない。 5 取消事由5(「格別の作用効果」認定の誤り)の主張に対して 甲第4号証の1、2には、原告が主張するような突条は記載されていない。 つまり、甲第4号証の2に「1は断面アングル状を呈する胴縁で、逆L字状に配された前面部に連続した突条2を形成している。」(1頁下から2行〜2頁1行)、「胴縁1の突条2」(2頁9行)と記載されているように、ここでいう突条は胴縁の前面から直接突出した突条であって、本件発明における突条、つまり、 「先端に溶接突部4を形成した突条3」とは全く関係のない構造であり、また、原告のいう「断面L字状にして長手方向に突条を突設し、その上下中間部に溶接突部」を設けた構造でもない。 いずれにしても審決が認定した「格別の効果」は望むべくもない構造である。 さらに、甲第6号証に記載された構造は、審決認定のとおり「笠木1又はフレーム2と手すり子3との固着手段として、従来の溶接による塗装の付着不良の問題を解決するために、溶接を排斥した組立構造を採用したもの」(甲第1号証12頁30〜32行)であり、本件発明とは無関係であるから、本件発明について審決が認定した作用効果を有するものではない。 6 取消事由6(容易推考性判断の誤り)の主張に対して 甲第3号証には原告が主張するような「枠材と装飾材とを、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化して、枠材間に装飾材を配置したユニット体」は記載されていない。 原告の主張は、甲第3号証に、前記構成が記載されているとの誤解を前提とするものであり、その誤った前提の上に立つ主張もまた誤りである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由3(新規事項追加の看過)について 原告は、本件訂正請求のうち、枠材1を「長手方向に突条3が突設され」たものであるとする特許請求の範囲第1項の訂正(訂正事項a)は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではなく、新規事項の追加に該当すると主張するので、「長手方向に突条3が突設され・・・た枠材1」が、 願書に添付した明細書又は図面に記載されていたか否かにつき検討する。 (1) 訂正前の明細書の記載事項 ア 甲第2号証の1によれば、本件特許の願書に添付した明細書又は図面(訂正前の明細書)には、次の各記載があることが認められる。 (A)特許請求の範囲の欄: 前記「第2 発明の要旨 1 訂正前の特許請求の範囲」に示した事項が記載されている。 (B)産業上の利用分野の欄: 「この発明は門扉、フェンス、面格子に使用する装飾体の製造方法に関するものである。」(C)従来技術の欄:「従来アルミニウム製の押出し形材を用いて門扉、フェンス、面格子に使用する装飾体を組立てるには、アルマイト処理或いは塗装した押出し形材を切断し、切断した形材を適宜加工して連結ブロック等の部品を取付けた後組立てるという作業を繰り返していた。 従来技術 以上のような従来の製造方法には以下のような欠点がある。 <イ> 既にアルマイト処理等した押出し形材を切断するため、切断部分にアルミニウム素地が露出して、その素地から腐食することがある。 <ロ> また既にアルマイト処理等した形材を加工、部品取付け、組立てを行うため、 工程の途中で形材表面にキズがつくことがある。」(D)問題点を解決するための手段の欄:「この発明に係る装飾体の製造方法は溶接突部を有する枠材と装飾材を、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化してユニット体を形成し、該ユニット体をアルマイト処理槽にてアルマイト処理する、若しくは塗装するものである。 切断した後の形材を溶接してユニット体を形成し、そのユニット体をアルマイト処理若しくは塗装するため、切断部の素地もアルマイト処理等されて腐食するようなことがない。 ユニット体を形成した後、最後にアルマイト処理若しくは塗装するため、加工等の工程中についたキズは一切装飾体表面に表れない。」(E)実施例の欄:「以下、図に示す一実施例に基づきこの発明を詳細に説明する。 第1図A、Bにおいて1はアルミニウム製の押出し形材を切断した枠材である枠材1は断面矩形状の中空部2と該中空部2の一側面の幅方向中間に長手方向に連続する突条3が突設されている。突条3の先端には丸棒状の溶接突部4が形成されている。 この枠材1、1の溶接突部4、4を互いに向き合せて、該枠材1、1を左右に平行に配置する。 このとき枠材1、1の溶接突部4、4は溶接装置5の電極6上に載置する。 この左右の枠材1、1間に丸棒状のアルミニウム製押出し形材である装飾材7を載置する。まず左右枠材1、1間に複数本の縦装飾材7aを適宜間隔離して枠材1、1と平行に電極6上に載置する。次に該縦装飾材7aに直交するように複数本の横装飾材7bを載置する。横装飾材7bの左右端は枠材1、1の溶接突部4、4上に載置し、且つ縦装飾材7aとの交点が電極6直上となるようにする。以上のように縦装飾材7aと横装飾材7bを格子状に配設する。このとき縦装飾材7aと横装飾材7bの交差部分の交点が通電接部8となる。また横装飾材7bと枠材1、1の溶接突部4、4との接触点が通電接部8となる。(第2図A,B) 下方の電極6と対向して各通電接部8直上から電極6を横装飾材7bに当接する。この状態で電極6から電極6へ通電してスボット溶接を行い、枠材1、1と装飾材7a、7bを一体化してユニット体Uを形成する。(第3図A,B) ユニット体Uをアルマイト処理槽9内に入れ、ユニット体U表面にアルマイト処理を施す。(第4図) 以上のようにして装飾体U’が形成される。」(2欄末行〜3欄34行)と記載され、 さらに第6図〜第19図を参照して他の実施例の説明がなされ、特に第7図、第8図及び第11図の実施例については、 「第7図A〜Cに示すのは枠材1として断面略C字状であって、一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものが使用されている。枠材1の内側にはビスホール10が2条形成されている。この枠材1を上下に平行に配し、突条3、3を互いに対向させる。この枠材1、1間の格子条に装飾材7a、7bを配して縦装飾材7aの上下端を枠材1、1の溶接突部4、4の一側に当接する。 装飾材7a、7b同士の接点である通電接部8と装飾材7aと枠材1の溶接突部4との接点である通電接部8を溶接する。その後アルマイト処理等して装飾体U’を製造する。」(4欄19行〜31行)、 「第8図A〜Cに示すのは枠材1として断面略H形状であってウエブ部14に溶接突部4を先端に有する突条3が枠材1の側壁より突出して突設されたものが使用されている。この枠材1、1を上下に平行に配し、各溶接突部4、4を互いに向き合う方向に対向させる。上下の溶接突部4、4間には装飾材7a、7bを格子状に配する。 装飾材7a、7b同士の接点である通電接部8と装飾材7aと枠材1の溶接突部4との接点である通電接部8を溶接する。こうして形成したユニット体Uをその後アルマイト処理等して装飾体U’を製造する。」(4欄42行〜5欄9行)、 「第11図A、Bに示すのは、枠材1として断面略C字状であって一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものを使用し、第10図のように互いに斜めに交差させた表裏装飾材7c、7dを配設するものである。表裏装飾材7c、7dの端部は互いに逆方向に若干屈曲して枠材1の通電突部4の表裏側面に各々当接するものであり、表裏装飾材7c、7d同士の接点である通電接部8と、装飾材7c、7dの端部と枠材1の溶接突部4との接点である通電接部8を同時に溶接する。」(6欄21行〜31行)と記載されている。 (F)発明の効果の欄:「この発明にかかる装飾体の製造方法は、溶接突部を有する枠材1と装飾材を、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化してユニット体を形成し、該ユニット体をアルマイト処理若しくは塗装して装飾体を製造するものである。 従って最終工程にてアルマイト処理若しくは塗装するため、その前工程にてついたキズは全て隠れ、装飾体の外観体裁は極めて良好になる。 形材の切断面もアルマイト処理若しくは塗装するためアルミ素地が出ることなく、腐食が生じない。さらに工場での一体製造ができるので人手がかからなく製造効率が良く、コスト安となる。」(8欄末行〜9欄11行) イ 上記(A)〜(F)の記載事項によれば、本件訂正前の発明は、 @ 従来アルミニウム製の押出し形材を用いて門扉、フェンス、面格子に使用する装飾体を組み立てるには、アルマイト処理あるいは塗装した押出し形材を切断し、切断した形材を適宜加工して連結ブロック等の部品を取り付けた後組み立てるという作業を繰り返していたため、切断部分にアルミニウム素地が露出して、その素地から腐食する、既にアルマイト処理等した形材を加工、部品取付け、組立てを行うため、工程の途中で形材表面にキズがつくことがある、 との欠点があり、 A これを解決すべく、「溶接突部を有する枠材と装飾材を、双方の当接部である通電接部を溶接によって一体化してユニット体を形成し、該ユニット体をアルマイト処理槽にてアルマイト処理する、若しくは塗装する装飾体の製造方法」を採用し、 B 「@最終工程にてアルマイト処理若しくは塗装するため、その前工程にてついたキズは全て隠れ、装飾体の外観体裁は極めて良好になる。A形材の切断面もアルマイト処理若しくは塗装するためアルミ素地が出ることなく、腐食が生じない。B工場での一体製造ができるので人手がかからなく製造効率が良く、コスト安となる。」等の作用効果を奏することを特徴とするものと認められる。 (2) 訂正事項aについて ア 訂正事項aのうち、原告が新規事項の追加と主張するのは、「長手方向に突条3が突設され、」という箇所である。原告は、この訂正によれば、枠材1に突設される突条3には「長手方向に連続する突条3」と「長手方向に連続しない形態の突条3」の両者が包含されることになるが、後者は、訂正前の明細書には記載されていない旨主張する。 イ これに対して被告らは、以下のとおり主張している。 @ 訂正前の明細書の記載「枠材1は断面矩形状の中空部2と該中空部2の一側面の幅方向中間に長手方向に連続する突条3が突設されている」は、その上位概念として「・・・長手方向に突条3が突設されている。」との技術思想も表している。 A 審決は、訂正前の明細書に上位及び下位概念の発明が記載されている場合においては、特許請求の範囲の訂正をどのレベルの概念の発明について行うかは権利者の自由であるから、「特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載すればよく、実施例に記載された突条が長手方向に連続することまで特定する必要はなく」と判断したのである。 B 審決が、明細書中に敢えて「連続する」との限定を付さない突条が記載されているとしたのは、訂正前の明細書には「突条」について原告が摘示した記載のみでなく、長手方向に「連続した突条」の上位概念としての長手方向の「突条」が記載されていることから、これからみても審決の判断が正当なものであることを説明したのである。 ウ 被告らの上記主張は、「長手方向に突条3が突設され・・・た枠材1」という訂正後の特許請求の範囲の記載における「突条3」に、原告主張のとおり、 「長手方向に連続する突条」と「長手方向に連続しない形態の突条」の両者が包含されることを認めたものと解され、また、上記記載の文理に照らしても原告主張の前記解釈は妥当なものであって、「長手方向に突条3が突設され・・・た枠材1」という訂正後の特許請求の範囲第1項の記載は「長手方向に連続しない形態の突条を突設し・・・た枠材1」をも含むものと認められる。 (3) 新規事項の追加の有無の検討 訂正前の明細書において、「枠材1は断面矩形状の中空部2と該中空部2の一側面の幅方向中間に長手方向に連続する突条3が突設されている」(甲第2号証の1、3欄3行から6行)という記載以外に枠材1に突設される突条3についてその方向や形態を詳細に記載した箇所がないことは、被告らも明らかに争わないところである。 ところで、上記記載について、被告らは、長手方向に連続しない限り枠材には突条を設けることが原理的にできないというのであればともかく、技術常識上そのようなことはあり得ないから、上記記載が上位概念である「長手方向に突条3が突設され」たものを表していることは当業者にとって自明である、と主張する。 しかしながら、上記記載の直前には「第1図A、Bにおいて1はアルミニウム製の押出し形材を切断した枠材である。」という記載があるから、これに続く「枠材1は断面矩形状の中空部2と該中空部2の一側面の幅方向中間に長手方向に連続する突条3が突設されている。」という記載における枠材1がアルミニウム製の押出し形材であることは明らかである。そして、アルミニウム製の押出し形材であれば、枠材1とこれに突設された突条3とが共に長手方向に同一断面形状のものとして押出成形されることになるのは、甲第13号証(アルミニウム ハンドブック(第3版)昭和60年4月20日社団法人軽金属協会発行)の84頁左欄1ないし3行に「押出形材の種類と特徴」「長手方向に垂直な断面の形状が常に同じであるような工業材料を形材と呼ぶ」と説明されていることからも明らかであり、突条3は必然的に長手方向に連続したものとなる。 そうすると、「枠材1は・・・長手方向に連続する突条3が突設されている。」は、枠材1及び枠材1に突設された突条3がアルミニウム製の押出し形材であることから、長手方向に同一断面形状のものとなることを表現したものであると認められ、この突条3が「長手方向に突設された突条」を上位概念として抽出することを可能ならしめるようなもの、すなわち長手方向に連続しないものと連続するものの双方を含む「長手方向に突設された」突条であると解釈することはできない。 以上のとおり、訂正前の明細書に明確に記載されていたのは、「長手方向に連続する突条3が突設され・・・た枠材1」という事項のみであり、長手方向に連続しない形態の突条3をも含めた「長手方向に突条3が突設され・・・た枠材1」という事項は記載されていなかったと認められるから、訂正事項aは訂正前の明細書に記載された事項の範囲を超え、新規事項の追加に当たるものであって、本件訂正は「願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず」(平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書き)という要件に適合しないものであったといわざるを得ない。 (4) 被告らの主張につて ア 被告らは、「第1図A、Bにおいて1はアルミニウム製の押出し形材を切断した枠材である。」という記載は本件発明の1実施例についての記載であり、 特許請求の範囲等に記載された枠材にはアルミニウム製であるとの限定が付されていないことからしても、「枠材」はアルミニウム製押出し形材に限られるものではない旨主張する。 しかしながら、訂正前の明細書には、アルミニウム製押出し形材以外の枠材を用いた実施例は記載されておらず、また、前記(1)イに認定のとおり、本件訂正前の明細書に記載された発明は、アルミニウム製の押出し形材を用いた門扉、フェンス、 面格子に使用する装飾体を前提とした装飾体の製造方法に関する発明であると認められるから、訂正前の明細書に記載されている枠材はアルミニウム製押出し形材(押出成形により同一断面形状が長手方向に連続する形態となる。)に限られるものではないという被告らの主張は、採ることができない。 イ また被告らは、訂正前の明細書には、第7図A〜C、第8図A〜C及び第11図A、Bに、「長手方向に連続した突条」の上位概念としての「長手方向の突条」が記載されている旨主張する。 しかしながら、訂正前の明細書の、第7図A〜C、第8図A〜C及び第11図A、Bに関する記載は、前記(1)アの(E)に摘示したとおり、「図7A〜Cに示すものは枠材1として断面C字状であって、一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものが使用されている。」、「第8図に示すものは枠材1として断面略H形状であってウエブ部14に溶接突部4を先端に有する突条3が枠材1の側壁より突出して突設されたものが使用されている。」、「第11図(A)、(B)に示すものは、枠材1として断面略C字状であって一側面に先端に溶接突部4を有する突条3が突設されたものを使用し、」というものであり、その図面を参酌しても、これらの実施例が「長手方向に連続しない形態の突条3が突設された枠材1」に関する実施例であるとも、また、アルミニウム製押出し形材以外の枠材を用いた実施例であるとも、認めることはできない。 かえって、第7図及び第8図の実施例は、アルマイト処理を施して装飾体U’を製造すると記載されていることから、アルミニウム製押出し形材の枠材を用いた実施例であって、「長手方向に連続する突条3が突設された枠材1」を用いた実施例と解するのが相当であり、また、第11図の実施例では、その図面に溶接突部4が枠材1に連続して設けられていることが示されているから、溶接突部4が先端に形成される突条3も、枠材1の長手方向に連続して突設されていると解される。 よって、この点に関する被告らの主張は採用することができない。 ウ さらに被告らは、本件訂正は、訂正前の明細書における溶接突部4が枠材1の突条3の先端に形成してあること、及びその突条の方向を長手方向に限定して明確にしたものであり、突条が長手方向に連続するか否かは訂正の趣旨とは無関係である、訂正された特許請求の範囲の記載から原告が「長手方向に連続しない突条」を読み取ることは自由であるが、「長手方向に連続しない突条」などという事項を訂正により明細書の記載に加入した事実はなく、加入されてもいない事項を持ち出してこれが新規事項に当たると主張するのは明らかに理不尽である、などと主張する。 確かに、訂正事項aで新規事項の追加が争点となっているのは、訂正前の特許請求の範囲第1項の「溶接突部4を有する枠材1」という記載を「長手方向に突条3が突設され、突条3の先端には溶接突部4を形成した枠材1」と訂正した点であり、被告らの主張するとおり、該訂正は、溶接突部4が枠材の突条3の先端に形成してあること、及びその突条3の方向が長手方向であることを特許請求の範囲に記載したものであって、訂正により明細書の発明の詳細な説明に「長手方向に連続しない突条」に関する実施例等が加入された事実はない。 しかしながら、訂正前の特許請求の範囲には、枠材1は溶接突部4を有することしか記載されておらず、「突条3」は構成要件となっていなかったのに対し、訂正後の特許請求の範囲には、枠材1は、長手方向に突条3が突設され、突条3の先端には溶接突部4を形成されたものである旨が記載され、これによって新たな構成要件が追加されたのであり、この追加された構成要件である「長手方向に連続する突条3が突設され・・」における突条3が、訂正前の明細書に記載されている「長手方向に連続する突条3」のほか、訂正前の明細書に記載されていない「長手方向に連続しない形態の突条3」をも包含するものであることは、前記(2)ウに説示したとおりである。 訂正事項aが新規事項の追加に該当するか否かを検討するためには、「長手方向に突条3が突設され、突条3の先端には溶接突部4を形成した枠材1」を用いた装飾体の製造方法が、訂正前の明細書に記載されていたか否かを検討する必要がある。訂正の趣旨とは無関係であるとか、長手方向に連続しない形態の突条を訂正により明細書の記載に加入していないといったことは、「長手方向に突条を突設し・・」という訂正事項を新規事項追加の検討対象から除外する理由とならないというべきであり、被告らの前記主張は失当である。 エ まとめ 以上のとおり、本件訂正は新規事項の追加に該当するものを包含すると認められるのであり、被告らの反論はいずれも理由がない。 2 結論 以上、検討したところによれば、審決は、本件訂正が新規事項の追加に該当するものを包含するものであることを看過し、訂正を認容した上で審決をした点において誤っており、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明白である。 そうすると、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由があるから、審決は取り消されるべきである。 よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |