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関連審決 異議1998-74773
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  公知技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  数値限定 /  技術的意義 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 193号 特許取消決定取消請求事件
原告 日東電工株式会社
訴訟代理人弁理士 西藤征彦
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 西野健二
同 清水信行
同 山口由木
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第74773号事件について平成12年4月18日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「スピーカー用部材」とする特許第2733440号発明(平成6年2月28日特許出願、平成9年12月26日設定登録、以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許につき特許異議の申立てがされ、平成10年異議第74773号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成11年4月12日に願書に添付した明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求をし、同年11月5日付けの訂正拒絶理由通知に対し、さらに、平成12年2月7日に訂正請求書の補正をした(以下、この補正後の訂正請求に係る訂正を「本件訂正」といい、本件訂正に係る明細書(甲第16号証添付)を「訂正明細書」という。)。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、同年4月18日、「特許第2733440号の請求項1ないし10に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年5月15日、原告に送達された。
2 設定登録時の明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】 下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用部材であって、上記粘弾性発泡体の引張強度が0.1〜100kg/cm2、比重が0.07〜1.2の範囲に設定されていることを特徴とするスピーカー用部材。
(A)ゴム。
(B)軟化剤。
(C)有機発泡剤。
(D)加硫剤。
【請求項2】 (A)成分であるゴムが、スチレン-ブタジエンゴム,ニトリル-ブタジエンゴム,エチレン-プロピレン-ターポリマーゴム,イソプレンゴム,クロロプレンゴム,イソブチレン-イソプレンゴム,エチレン-プロピレンゴム,シリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つのゴムである請求項1記載のスピーカー用部材。
【請求項3】 (B)成分である軟化剤が、可塑剤,高分子可塑剤,石油系軟化剤,コールタール系軟化剤,脂肪族系軟化剤,ロウ類,樹脂類からなる群から選ばれた少なくとも一つの軟化剤である請求項1または2記載のスピーカー用部材。
【請求項4】 (B)成分である軟化剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して3〜110重量部に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項5】 (C)成分である有機発泡剤が、ニトロソ系化合物,アゾ系化合物,スルホニルヒドラジト系化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの発泡剤である請求項1〜4のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項6】 粘性ゴム混和物が、無機充填剤および有機充填剤の少なくとも一方を含有し、かつ上記充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して10〜200重量部に設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項7】 (D)成分である加硫剤が、硫黄,硫黄化合物,オキシム類,カルバメート類からなる群から選ばれた少なくとも一つの加硫剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項8】 粘弾性発泡体が、所定の成形型を用いて薄層状に発泡成形されたものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項9】 粘弾性発泡体の発泡倍率が1.1〜15倍である請求項1〜8のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
【請求項10】 粘弾性発泡体の物質損失係数が0.001以上である請求項1〜9のいずれか一項に記載のスピーカー用部材。
3 訂正明細書の特許請求の範囲の記載(上記設定登録時の明細書の特許請求の範囲の請求項10は削除する。) 【請求項1】 下記の(A)〜(D)成分を含有する粘性ゴム混和物を加硫発泡した粘弾性発泡体からなるスピーカー用エッジ部材であって、上記粘弾性発泡体の引張強度が0.1〜100kg/cm2、比重が0.07〜1.2、物質損失係数が0.001以上の範囲に設定されていることを特徴とするスピーカー用エッジ部材。
(A)ゴム。
(B)軟化剤。
(C)有機発泡剤。
(D)加硫剤。
【請求項2】 (A)成分であるゴムが、スチレン-ブタジエンゴム,ニトリル-ブタジエンゴム,エチレン-プロピレン-ターポリマーゴム,イソプレンゴム,クロロプレンゴム,イソブチレン-イソプレンゴム,エチレン-プロピレンゴム,シリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも一つのゴムである請求項1記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項3】 (B)成分である軟化剤が、可塑剤,高分子可塑剤,石油系軟化剤,コールタール系軟化剤,脂肪族系軟化剤,ロウ類,樹脂類からなる群から選ばれた少なくとも一つの軟化剤である請求項1または2記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項4】 (B)成分である軟化剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して3〜110重量部に設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項5】 (C)成分である有機発泡剤が、ニトロソ系化合物,アゾ系化合物,スルホニルヒドラジト系化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの発泡剤である請求項1〜4のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項6】 粘性ゴム混和物が、無機充填剤および有機充填剤の少なくとも一方を含有し、かつ上記充填剤の配合割合が、(A)成分であるゴム100重量部に対して10〜200重量部に設定されている請求項1〜5のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項7】 (D)成分である加硫剤が、硫黄,硫黄化合物,オキシム類,カルバメート類からなる群から選ばれた少なくとも一つの加硫剤である請求項1〜6のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項8】 粘弾性発泡体が、所定の成形型を用いて薄層状に発泡成形されたものである請求項1〜7のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
【請求項9】 粘弾性発泡体の発泡倍率が1.1〜15倍である請求項1〜8のいずれか一項に記載のスピーカー用エッジ部材。
4 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、@訂正の適否につき、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜9記載の各発明(以下、請求項の番号に従い「訂正発明1」などのようにいう。)は、特開昭52-127227号公報(甲第1号証、以下「刊行物1」という。)及び特開昭58-106993号公報(甲第2号証、以下「刊行物2」という。)にそれぞれ記載された発明並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許出願の際独立して特許を受けることができず、本件訂正は、同法120条の4第3項において準用する同法126条4項の規定(注、
「平成6年法律第116号附則6条1項が、同法の施行前にした特許出願に係る特許の願書に添付した明細書又は図面の訂正については、なお従前の例によるとすることにより、平成11年法律第41号による改正前の特許法120条の4第3項において準用する同法126条4項が読み替えられて準用される平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定」の趣旨と解される。)に適合しないので認められないとし(なお、この判断の前提として、平成12年2月7日の訂正請求書の補正は認めたものと解される。)、A本件発明の要旨を設定登録時の明細書の特許請求の範囲の請求項1〜10のとおり認定した上、同請求項1〜10記載の各発明は、刊行物1、2にそれぞれ記載された発明並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり、同法113条2号に該当し(注、「本件発明についての特許は特許法29条2項の規定により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、平成6年法律第116号附則14条に基づく平成7年政令第205号4条2項の規定により」の趣旨であると解される。)、取り消されるべきものであるとした。
原告主張の本件決定取消事由
本件決定の理由中、刊行物1、2の記載事項の認定、訂正発明1と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点1、2の各認定、訂正発明2〜7に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2〜7記載の各構成のうち、それぞれ他の請求項の引用部分を除いた構成が刊行物1に記載されていること、訂正発明8に係る同請求項8記載の構成のうち同請求項1〜7の引用部分を除いた構成が、刊行物1又は刊行物2に記載された発明から当業者が適宜し得ること、訂正発明9に係る同請求項9記載の構成のうち同請求項1〜8の引用部分を除いた構成と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点の各認定は認める。
本件決定は、本件訂正の適否の判断において、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点1、2についての判断を誤り(取消事由1、2)、かつ、訂正発明1の顕著な効果を看過して(取消事由3)、訂正発明1及び請求項の記載において同発明に係る請求項1の記載を直接又は間接に引用する訂正発明2〜9が、刊行物1、2に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正は独立特許要件に適合せず、認められない旨誤って判断し、ひいて本件発明の要旨の認定を誤るとともに、適法な取消理由通知がなかった(取消事由4)から、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) (1) 本件決定は、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点1である「訂正明細書の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)では、粘弾性発泡体の引張強度を『0.1〜100kg/cm2』としているのに対して、刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点」(決定謄本5頁24行目〜26行目)につき、昭和42年12月20日日刊工業新聞社2版発行の建林賢司著「合成ゴム-新版-」(甲第7号証、以下「引用文献1」という。)の「表2.41 ブチルゴムに対する各種充填剤の影響」(94頁)の「引張強さ」欄に、各種充填剤に応じて引張強さが73〜189kg/cm2の範囲で記載されていること、及び同年11月30日株式会社朝倉書店発行の神原周外3名編「改訂新版合成ゴムハンドブック」672頁(甲第8号証、以下、同文献の同頁部分を「引用文献2-1」という。)の「表23.7 カーボンブラックの比較」及び「表23.8 無機充てん剤の比較」の各「引張強さ」欄に、
各種充填剤(各種カーボンブラック及び各種無機充填剤)に応じて引張強さが320〜2530psi(換算値22.5〜177.9kg/cm2)の範囲で記載されていることを挙げ、さらに、「これらの表に記載のものは・・・発泡していないものではあると認められるが、発泡した場合、発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下することも技術常識である」とした上で、「スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、その引張強度について、訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した『0.1〜100kg/cm2』内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる」と判断した(決定謄本5頁31行目〜6頁17行目)。
しかしながら、引用文献1、同2-1に上記記載があること、発泡した場合に、発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下すること自体は認めるが、引用文献1、同2-1の上記記載を根拠として、引張強度につき、訂正発明1の限定に係る「0.1〜100kg/cm2」内の数値を選択することは当業者が容易にし得るとすることは、以下のとおり、誤りである。
(2) すなわち、引用文献1(甲第7号証)の「表2.41 ブチルゴムに対する各種充填剤の影響」に記載されたブチルゴムは充填剤容量を30部とするもの(同表の[注]欄)であり、また、引用文献2-1(甲第8号証)の「表23.8 無機充てん剤の比較」に記載されたブチルゴムは無機充填剤の量を39〜52phr(「phr」は、ブチルゴム100部に対する部数を意味する。)とするもの(同表「充てん剤量」欄)である。これに対し、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2における充填剤(亜鉛華)の量は、ブチルゴム100重量部に対し4重量部である(2頁左上欄12行目)にすぎない。このように、充填剤を大量に添加した引用文献1、同2-1記載のブチルゴムの引張強度をもって、ごく少量の充填剤を用いた刊行物1記載のブチルゴムの引張強度を認定することはできない。
(3) 被告は、特開昭54-66828号公報(乙第4号証)及び特公昭58-28960号公報(乙第5号証)にスピーカー用エッジ部材の引張強度を0.1〜100kg/cm2の範囲内とする例があるとして、引張強度を訂正発明1の限定に係る「0.1〜100kg/cm2」の範囲とすることは、よく知られている旨主張するが、
実開昭57-133195号公報(甲第10号証の1)の実用新案登録請求の範囲に抗張力(引張強度)を460kg/cm2とするスピーカー用エッジ部材が記載されており、また、実開昭61-15894号公報(甲第11号証の1)に振動板とエッジ部材とが同一の金属材で一体成形されているスピーカーが記載されていて、平成元年9月30日社団法人日本機械学会新版第3刷発行の「機械工学便覧」(甲第11号証の3)の「表79 アルミニウム展伸材の機械的性質」(B4-75頁)によれば、
金属材料として強度の最も小さいアルミニウム材でもその引張強度が69MPa(換算値703.6068kg/cm2)以上であるとされているように、スピーカー用エッジ部材としては、引張強度が100kg/cm2を大幅に上回るものも周知であり、上記特開昭54-66828号公報(乙第4号証)及び特公昭58-28960号公報(乙第5号証)のみから、引張強度を訂正発明1の限定に係る「0.1〜100kg/cm2」の範囲とすることが当業者において容易にし得るとすることは誤りである。
また、被告は、昭和42年11月30日株式会社朝倉書店発行の神原周外3名編「改訂新版合成ゴムハンドブック」670〜671頁(乙第1号証、引用文献2-1と同一の書籍であり、以下、同文献の同頁部分を「引用文献2-2」という。)に記載された例における引張強度が1730psi(換算値121.6kg/cm2)であることを根拠として、刊行物1記載の実施例2において、スピーカー用エッジ部材の機能等を考慮して、引張強度が「0.1〜100kg/cm2」の範囲となるよう発泡させることは当業者において容易にし得る旨主張するが、以下のとおり、誤りである。
すなわち、引用文献2-2に記載された例では、P-キノンジオキシム2部及び鉛丹8部を用いて加硫しているのに対し、刊行物1記載の実施例2においては、それ以外に硫黄3.5部、亜鉛華4部を用いているところ、硫黄はブチルゴムに対する加硫能力を持ち、また亜鉛華はその促進助剤となるものであるから、刊行物1記載の実施例2では引用文献2-2に記載された例より加硫度合が高くなって、ブチルゴムの網目鎖濃度が大きくなり、引張強度が大きくなるものである。したがって、刊行物1記載の実施例2において形成されたスピーカー用エッジ部材の引張強度は121.6kg/cm2を上回ることが明らかである。また、上記のとおり、
発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下することは技術常識であるが、それは、ブチルゴム内に気泡が分散することによることも技術常識である。しかしながら、刊行物1(甲第1号証)には、実施例2のスピーカー用エッジ部材につき、
「気泡径0.1〜0.2oの独立気泡構造の発泡ブチルゴムを主成分としてなる」(2頁右上欄2行目〜4行目)と記載されているところ、この程度の微細な気泡の分散では、発泡による引張強度の低下が生じても極めて微少なものであるから、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2におけるスピーカー用エッジ部材の121.6kg/cm2を上回る引張強度が、100kg/cm2まで低下することはない。
さらに、引用文献2-2に記載されたブチルゴムの加硫は発泡させないことが前提となっているのであり、そのような例について発泡させた場合のことに言及すること自体が、矛盾するものである。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) (1) 本件決定は、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点2である「訂正明細書の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)では、粘弾性発泡体の比重を『0.07〜1.2』としているのに対して、刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点」(決定謄本5頁27行目〜29行目)につき、引用文献1(甲第7号証)の「表2.40 ブチル生ゴム規格」(89頁)にブチル生ゴムの比重が0.9であることが記載されていること、刊行物1記載の発明では、ブチルゴム100重量部に対し合計44.8重量部の充填剤を加えた粘性ゴム混和物を加硫発泡してスピーカー用エッジを得ているが、ブチルゴムに上記充填剤を加えた粘性ゴム混和物の比重もブチル生ゴムの比重から大きくかけ離れることはなく、発泡した場合、発泡倍率にほぼ反比例して比重が低下することもゴム形成加工の技術分野において技術常識であることを挙げ、さらに、刊行物2に、スピーカーの振動板の一次加硫物である粘弾性発泡体の密度を、0.1g/cm3としたことが記載されているとした上で、「スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、粘弾性発泡体の比重の数値を、訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した数値範囲『0.07〜1.2』内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる」と判断した(決定謄本6頁18行目〜35行目)。
しかしながら、引用文献1に上記記載があること、発泡した場合、発泡倍率にほぼ反比例して比重が低下することもゴム形成加工の技術分野において技術常識であることは認めるが、スピーカー用エッジ部材の粘弾性発泡体の比重の数値として「0.07〜1.2」内の数値を選択することが容易にし得るとすることは、
以下のとおり、誤りである。
(2) すなわち、刊行物1記載の発明は、ブチル生ゴムに硫黄、亜鉛華、ステアリン酸等の添加物を配合したものであり、このような添加物が配合されたものの比重がブチル生ゴムの比重0.9とほぼ同一であると認定することはできない。
また、刊行物2記載の粘弾性発泡体は、スピーカーの振動板の一次加硫物であって、これを成形金型に入れて二次加硫することにより硬質のスピーカーの振動板を作るものであるから、スピーカーの振動板そのものではなく、その中間品である。刊行物2には、このような中間品の密度を0.1g/cm3とすることが記載されているにすぎず、そのことから訂正発明1の比重の範囲「0.07〜1.2」を導くことは容易ではない。
(3) 被告は、刊行物1記載の実施例2におけるブチルゴム及び各添加物の配合量とその各比重をもとに、全体の比重を1.049と算出し、その比重が「0.07〜1.2」の範囲内であるから、刊行物1記載の実施例2において、スピーカー用エッジ部材の機能等を考慮して、その比重が上記「0.07〜1.2」の範囲となるよう発泡させることは当業者において容易にし得る旨主張する。
しかしながら、被告の算出した比重は、原料配合段階のものであるところ、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2においては、「35気圧でプレス加硫」(2頁右上欄2行目)して発泡ブチルゴムを得るものであり、加硫によっても、発泡によっても比重が変動することは技術常識であるから、原料配合段階の比重1.049を根拠として、加硫発泡させた後の訂正発明1の比重「0.07〜1.2」を選択することが当業者において容易であるとすることはできない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過) 訂正明細書(甲第16号証添付)には、訂正発明1の引張強度及び比重に関して、「得られる粘弾性発泡体であるスピーカー用エッジ部材は、引張強度が0.1〜100kg/cm2に設定されていなければならない・・・引張強度が0.1kg/cm2未満では、強度不足で破れを生じる可能性があり、100kg/cm2を超えると、強度が強過ぎて振動が生起しないからである。さらに、この発明のスピーカー用エッジ部材は、その比重が0.07〜1.2の範囲に設定されていなければならない・・・比重が0.07未満では高音圧で破壊が生じ、1.2を超えるとスピーカー部材が重くなり過ぎてエッジが音圧に対してスムーズに振動しないからである。」(【0029】項)と記載され、これを受けて、「発明の効果」として、「スピーカー用エッジ部材を構成する発泡マトリックスが、ゴム成分と軟化剤成分との一体化組織によって形成されており、従来に比べて軽量でしかも柔軟な弾性能を示す。したがって、これを振動板(コーン紙等)に取り付けると、振動板の振動を抑制することなく、しかも振動板の余分な振動を減衰させることが可能となり、優れた音響特性を発揮することができる」(【0030】項)と記載されている。
このように、訂正明細書には、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによって、優れた音響特性を発揮することが示されている。
これに対し、引用文献1及び同2-1にはブチルゴムの引張強度のみが、また、引用文献2-2にはブチル生ゴムの比重のみが、刊行物2にはスピーカーの振動板に用いる硬質発泡体の密度のみが記載されているにすぎず、これらの刊行物には、引張強度と比重とを組み合わせた構成及びその作用効果については全く記載がない。
したがって、本件決定は、訂正発明1に係る引張強度と比重とを組み合わせた構成によって奏する作用効果の顕著性を看過した誤りがある。
4 取消事由4(適法な取消理由通知の欠缺) (1) 本件決定は、上記1、2のとおり、相違点1、2につき引用文献1及び引用文献2-1に記載されたブチルゴムの引張強度及び比重を引用し、訂正発明1が当業者において容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定に違反し特許出願の際独立して特許を受けることができないとして、本件訂正を認めなかったものである。
しかしながら、引用文献1及び引用文献2-1は、本件特許に対する取消理由通知書(甲第12号証)に全く記載されていない刊行物であり、本件決定において初めて示されたものである。
したがって、本件決定が本件訂正を認めなかった判断には、適法な取消理由通知をしなかった手続上の違法がある。
(2) 被告は、ブチルゴムは従来周知の材料であり、また、引張強度及び比重は材料の性質を表すためにごく普通に使われる表示事項であるから、引用文献1及び引用文献2-1に記載されたブチルゴムの引張強度及び比重に係る数値を、本件決定に補強的に付け加えることに違法はない旨主張するが、少なくとも相違点1に係る引張強度については、本件決定は、引用文献1に記載された「73〜189kg/cm2」の値及び引用文献2-1に記載された「320〜2530psi(換算値22.5〜177.9kg/cm2)」の値から直接、スピーカー用エッジ部材の引張強度を訂正発明1で限定した「0.1〜100kg/cm2」の範囲とすることは当業者が容易にし得ると判断するものである(決定謄本5頁31行目〜6頁17行目)から、引用文献1及び引用文献2-1が補強的に付け加えられたものとはいえない。
被告の反論
本件決定の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は、充填剤を大量に添加した引用文献1、同2-1記載のブチルゴムの引張強度をもって、ごく少量の充填剤を用いた刊行物1記載のブチルゴムの引張強度を認定することはできない旨主張する。
しかしながら、特開昭54-66828号公報(乙第4号証)には「本発明は・・・スピーカのエッジ材にポリブタジエン系液状ゴムを主成分とするエラストマー状の制動効果が非常に大きい弾性体を用いたものであり、以下さらに詳しく説明する」(2頁右上欄1行目〜5行目)とした上、実施例1として引張強度が10kg/cm2の、実施例2として引張強度が6kg/cm2の、実施例3(油展の割合をプロセスオイル量50部とした場合)として引張強度が5kg/cm2の、実施例3(同40部とした場合)として引張強度が4kg/cm2の、実施例3(同30部とした場合)として引張強度が5kg/cm2の各スピーカー用エッジ材が示されており、また、特公昭58-28960号公報(乙第5号証)には引張強度を5.6〜7.4kg/cm2とするスピーカー用振動板が記載されている(4欄11行目〜21行目)から、スピーカー用エッジ部材の引張強度を訂正発明1の限定に係る「0.1〜100kg/cm2」の範囲とすることは、よく知られているということができる。
他方、引用文献2-2(乙第1号証)には、GMF(P-キノンジオキシム)2phr及び鉛丹8phrを添加してキノイド加硫した場合の引張強さが1730psi(換算値121.6kg/cm2)であることが示されているところ、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2は、P-キノンジオキシム及び鉛丹をこれと同量添加するほか、有機発泡剤、軟化剤等を加えてキノイド加硫し、スピーカー用エッジを成形した例である。
そして、引用文献2-1(甲第8号証)に、ブチルゴムの引張強さは純ゴムの場合が最高で、充填剤を加えることにより減少することが記載されており(672頁5行目〜6行目)、また、本件決定の認定のとおり、発泡した場合に、発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下することは技術常識である(上記特開昭54-66828号公報(乙第4号証)の実施例2は、実施例1と同様の原料に発泡剤を加えて発泡させたものであり、引張強度が実施例1の6割に低下していることが示されている。)から、引用文献2-2記載のものより充填剤が多く、かつ、発泡させている刊行物1記載の実施例2においては、エッジ部材の引張強度が121.6kg/cm2より低下するものと認められるが、スピーカー用エッジ部材の機能等を考慮して、その引張強度が上記「0.1〜100kg/cm2」の範囲となるよう発泡させることは当業者において容易にし得るところであるから、「スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、その引張強度について、訂正明細書の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)で限定した『0.1〜100kg/cm2』内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる」(決定謄本6頁14行目〜17行目)とした本件決定の判断に誤りはない。
(2) 原告は、スピーカー用エッジ部材としては引張強度が100kg/cm2を大幅に上回るものも周知であり、上記特開昭54-66828号公報(乙第4号証)及び特公昭58-28960号公報(乙第5号証)のみから、引張強度を「0.1〜100kg/cm2」の範囲とすることが当業者において容易にし得るとすることは誤りである旨主張するが、スピーカー用エッジ部材として引張強度が100kg/cm2を上回るものが存在するとしても、上記各公報に記載されたような引張強度が「0.1〜100kg/cm2」の範囲とするスピーカー用エッジ部材がよく知られていることを否定することにはならない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は、添加物が配合された刊行物1記載の発明の比重がブチル生ゴムの比重0.9とほぼ同一であると認定することはできないし、また、刊行物2記載の粘弾性発泡体は、スピーカーの振動板そのものではなく、その中間品であるから、
その密度0.1g/cm3から訂正発明1の比重の範囲「0.07〜1.2」を導くのは当業者にとって容易ではない旨主張する。
(2) しかしながら、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2においては、ブチル生ゴム100重量部に対し、硫黄3.5部、亜鉛華4部、ステアリン酸2部、p-キノンジオキシム2部、鉛丹8部、p-ジニトロソベンゼン重合物0.3部、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5部及び軟化剤(ジブチルフタレート)20部が添加されているところ、引用文献1(甲第7号証)の「表2.40 ブチル生ゴム規格」(89頁)及び昭和62年11月15日株式会社朝倉書店発行の家田正之外3名編「電気・電子材料ハンドブック」(乙第2号証)の「表4.2.15 各種ゴムの特性一覧」(116〜117頁)によれば、ブチル生ゴムの比重は正確には0.92であり、また、昭和49年10月15日ラバーダイジェスト社発行の本山時彦編「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」(乙第3号証)に、上記各添加物の比重につき、硫黄2.60前後(1頁)、亜鉛華5.47〜5.61(58〜59頁)、
ステアリン酸0.94(62頁)、p-キノンジオキシム1.40前後(6頁)、鉛丹8.3〜9.1(61頁)、ポリ-p-ジニトロソベンゼン0.96(7頁)、軟化剤(ジブチルフタレート)1.048(146頁)と記載されているから、これらの重量部及び比重(ただし、数値に幅があるものについては最大値を使用する。なお、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)の比重は不明であるので、同類化合物であるN-N′-ジニトロソ・ペンタメチレン・テトラミンの比重1.45前後(258〜259頁)と、N-N′-ジメチル-N-N′-ジニトロソ・テレフタルアミドの比重1.2(259頁)のうち大きい方の数値である1.45を使用する。)に基づいて、刊行物1記載の実施例2におけるスピーカー用エッジの比重を算出すると1.049となり、これ自体、上記「0.07〜1.2」の範囲内である。
ところで、原告は、上記の算出に係る比重1.049が原料配合段階のものであり、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2においては「35気圧でプレス加硫」(2頁右上欄2行目)して発泡ブチルゴムを得るものであるところ、加硫によっても、発泡によっても比重が変動することは技術常識であるから、原料配合段階の比重1.049を根拠として、加硫発泡させた後の訂正発明1の比重「0.07〜1.2」を選択することが当業者において容易であるとすることはできない旨主張する。
そこで、まず、発泡をさせないで加硫した場合の比重の変動について見るに、昭和42年11月30日株式会社朝倉書店発行の神原周外3名編「改訂新版合成ゴムハンドブック」400〜401頁及び602〜603頁(乙第6号証、引用文献2-1、同2-2と同一の書籍であり、以下、同文献の同各頁部分を「引用文献2-3」という。)に、ブチルゴムの生ゴムの比重が0.92であり、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)の生ゴムの比重が0.94であること(400頁表補2.1)、及びSBRにつき、油入りゴム加硫物の比重が1.14〜1.16であること(603頁表21.1)が記載されているところ、SBRは、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2にも記載されているブチルゴムと類似した特性を有するゴムであるから、ブチルゴムの加硫による比重の変動もSBRと同割合とすると、最大で1.23倍(1.16÷0.94=1.23)程度である。
他方、平成元年9月10日株式会社プラスチックス・エージ社改訂第3版発行の「実用プラスチック用語辞典」(乙第7号証)に、「発泡倍率」につき「未発泡の素材プラスチックの密度を発泡後のプラスチックの密度で除した値」との語義が掲載されているとおり、密度と発泡倍率は反比例する関係にある。そして、訂正明細書(甲第16号証添付)に、訂正発明の実施例1〜9につき、発泡倍率が2.1〜3.5であることが記載されている(【0040】〜【0041】項表3〜4)とおり、発泡倍率は、通常2倍以上であるから、発泡後の比重は2分の1以下に低下し、上記の加硫による比重の増大よりも影響が大きい。
なお、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2において、加硫発泡ゴムは「35気圧でプレス加硫」(2頁右上欄2行目)されるものであるところ、上記引用文献2-3には加硫条件の記載はないが、昭和49年6月20日株式会社大成社第2版発行の金子秀男著「応用ゴム加工技術12講(中巻)」(乙第8号証)に、
ゴムプレス加硫において金型に及ぼす加圧力の例として、10〜35kg/cm2(換算値約10〜35気圧)との記載(69頁14行目〜17行目)があるように、35気圧とすることは加硫条件として通常の範囲内である。また、加硫による熱収縮率は、上記「応用ゴム加工技術12講(中巻)」(乙第8号証)の表9-32(149頁)に記載されているとおり、通常、3%以下であり、収縮率の高いシリコーンゴムにあっても3〜7%程度である(175頁7行目〜8行目)から、加硫による収縮を考慮したとしても、発泡後の比重の低下の方が加硫による比重の増大よりも影響が大きい。
したがって、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2において、加硫発泡させた後の比重は、原料配合段階の比重1.049より低下し、訂正発明1の比重「0.07〜1.2」の範囲内であることは明白である。そうとすれば、スピーカー用エッジ部材の機能等を考慮して、その比重が上記「0.07〜1.2」の範囲となるようにすることは当業者において容易にし得るところであるから、「スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、粘弾性発泡体の比重の数値を、
訂正明細書の請求項1に係る発明で限定した数値範囲『0.07〜1.2』内の数値を選択するようなことは、当業者が容易になしうることであると認められる」(決定謄本6頁32行目〜35行目)とした本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について 原告は、訂正明細書には、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによって、優れた音響特性を発揮することが示されているところ、
本件決定は、訂正発明1の構成によって奏される作用効果の顕著性を看過した違法がある旨主張する。
しかしながら、刊行物1(甲第1号証)には、粘弾性発泡体から成り、訂正発明1と同様に、音響特性を良好にしたスピーカー用エッジ部材が記載されており(添付図面)、また、音響特性を良好にし、破損しない強度を備えることは、従来からスピーカー用エッジ部材に求められているところ、比重(密度)と引張強度がこれらの点に関係するので、その物理的定数を適当に設定する必要があることは、
上記特公昭58-28960号公報(乙第5号証)に、「コーン紙は形状、質量、
密度、ヤング等の物理定数を適当に設定することによつて、所定の音響特性や音質(多分に感覚的であるが)が定まる」(2欄23行目〜26行目)、「軽量(見掛け密度は約0.24で、コーン紙とほぼ同一)であり、また引張強度(5.6乃至7.4kg/cm2)、引張伸度(86乃至123%)ともコーン紙に比べて著しく大きく、優れた強靱性、柔軟性を保有し、さらに振動に対する内部損失も大きいので、
種々の優れた利点を有する」(4欄15行目〜21行目)と記載されているように、従来周知の事項である。
そして、上記1、2のとおり、スピーカー用エッジ部材が必要とする機能等を考慮して、引張強度と比重につき、訂正発明1が限定した数値範囲を選択するようなことは、当業者が容易にし得ることであって、刊行物1記載の発明との相違点1、2に係る訂正発明1の構成を採用したことにより格別顕著な効果を奏するということはできない。
4 取消事由4(適法な取消理由通知の欠缺)について 原告は、引用文献1及び引用文献2-1が、本件訂正に対する訂正拒絶理由通知書に全く記載されていない刊行物であって、本件決定において初めて示されたものであるから、本件決定が本件訂正を認めなかった判断には、適法な取消理由通知をしなかった違法がある旨主張する。
しかしながら、本件決定は、刊行物1の実施例2に、発泡ブチルゴムの引張強度及び比重について直接記載されていないため、引用文献1及び引用文献2-1の記載を参照したものの、ブチルゴムは従来周知の材料であり、また、引張強度及び比重は材料の性質を表すためにごく普通に使われる表示事項であるから、引張強度及び比重に係る数値を、本件決定に補強的に付け加えることに違法はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 引用文献1(甲第7号証)の「表2.41 ブチルゴムに対する各種充填剤の影響」(94頁)の「引張強さ」欄に、各種充填剤に応じて引張強さが73〜189kg/cm2の範囲で記載されていること、引用文献2-1(甲第8号証)の「表23.7 カーボンブラックの比較」及び「表23.8 無機充てん剤の比較」(いずれも672頁)の各「引張強さ」欄に、各種充填剤(各種カーボンブラック及び各種無機充填剤)に応じて引張強さが320〜2530psi(換算値22.5〜177.9kg/cm2)の範囲で記載されていること、発泡した場合に、発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下することは、いずれも当事者間に争いがない。
そして、上記事実に、引用文献2-1(甲第8号証)に「ブチルゴムの引張強さは純ゴムの場合が最高で,充てん剤を加えることによって減少する」(672頁5行目〜6行目)と記載されていることを併せ考えれば、刊行物1(甲第1号証)記載の実施例2(2頁左上欄18行目〜右上欄4行目)において、充填剤及びその添加量を適宜選択し、また、発泡倍率を適宜設定することにより、成形するスピーカー用コーンエッジ(刊行物1記載の発明)の引張強度を「0.1〜100kg/cm2」の値の範囲とすること自体は、技術的に特段の困難性はないものと認められる。
原告は、刊行物1記載の実施例2における充填剤の量が、引用文献1、同2-1の上記各表における充填剤の量に比べて少量であること等を挙げて、引用文献1、同2-1記載のブチルゴムの引張強度をもって、刊行物1記載のブチルゴムの引張強度を認定することはできない旨るる主張する。
しかしながら、「訂正明細書の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)では、粘弾性発泡体の引張強度を『0.1〜100kg/cm2』としているのに対して、
刊行物1に記載された発明では、それが明らかでない点」(決定謄本5頁24行目〜26行目)が、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点1なのであり、当該相違点についての判断は、刊行物1記載の発明につき、当該相違点に係る「粘弾性発泡体の引張強度を0.1〜100kg/cm2とする」ことが当業者において容易にし得るか否かという点についての判断であって、刊行物1記載の発明自体においてその引張強度が「0.1〜100kg/cm2」であることを要するものではなく、もとより、本件決定も、刊行物1記載のブチルゴムの引張強度が「0.1〜100kg/cm2」であることを認定したものではない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) そこで、スピーカー用エッジの引張強度として、「0.1〜100kg/cm2」の値の範囲を採用することが、当業者において容易であるか否かについて検討する。
特開昭54-66828号公報(乙第4号証)には、「エラストマーを用いたことを特徴とするスピーカー用エッジ材」(特許請求の範囲(1))の発明が記載されており、「本発明は・・・スピーカのエッジ材にポリブタジエン系液状ゴムを主成分とするエラストマー状の制動効果が非常に大きい弾性体を用いた」(2頁右上欄1行目〜4行目)との記載があって、実施例1として引張強度が10kg/cm2の、実施例2として引張強度が6kg/cm2の、実施例3(油展の割合をプロセスオイル量50部とした場合)として引張強度が5kg/cm2の、実施例3(同40部とした場合)として引張強度が4kg/cm2の、実施例3(同30部とした場合)として引張強度が5kg/cm2の各スピーカー用エッジ(2頁右上欄18行目〜左下欄17行目、
右下欄の表)が開示され、また、特公昭58-28960号公報(乙第5号証)には、「コーン部4とエッジ部5とを一体に成型した」(3欄29行目)スピーカー用振動板であって、引張強度が5.6〜7.4kg/cm2(4欄17行目)であるものが開示されている。
他方、実開昭57-133195号公報(甲第10号証の1)には、抗張力(引張強度)を460kg/cm2以上とする熱可塑性ポリウレタンエラストマーの成形エッジ部2をコーン1に貼着したスピーカー(実用新案登録請求の範囲)が記載されている。さらに、実願昭59-101190号(実開昭61-15894号)のマイクロフィルム(甲第11号証の2)には、「第1図は本考案に係はるドーム型スピーカーの振動系の基本形態で、振動板1は金属・・・等の軽量高剛性の硬質材料からなり」(5頁11行目〜15行目)、「前記振動板1とエッジ部4とを同一材料で一体に成形して得た振動系・・・も本考案の技術的範囲に属する」(7頁4行目〜7行目)との各記載があり、これらの記載に照らせば、振動板とエッジ部材とが同一の金属材で一体成形されているスピーカーが記載されていると認められるところ、その金属材として、例えば、アルミニウムを想定すれば、平成元年9月30日社団法人日本機械学会新版第3刷発行の「機械工学便覧」(甲第11号証の3)の「表79 アルミニウム展伸材の機械的性質」(B4-75頁)に、その引張強度が最低でも69MPa(換算値703.6068kg/cm2)であることが記載されている。そうすると、従来、スピーカー用エッジ部材の引張強度は、4kg/cm2から703kg/cm2までの範囲(エラストマーより成るもののみを考慮しても4kg/cm2から460kg/cm2までの範囲)とすることが知られていたということができる。
ところで、訂正発明1の引張強度は、上記の範囲を含むものであるが、その上限を100kg/cm2に限定するものであるから、スピーカー用エッジ部材の引張強度の上限を100kg/cm2に限定することの技術的意義について検討するに、訂正明細書(甲第16号証添付)には、この点につき、「得られる粘弾性発泡体であるスピーカー用エッジ部材は、引張強度が0.1〜100kg/cm2に設定されていなければならない・・・引張強度が・・・100kg/cm2を超えると、強度が強過ぎて振動が生起しないからである」(【0029】項)との記載があるほか、格別の記載は見当たらない。しかしながら、上記のとおり、エラストマーよりなるスピーカー用エッジの引張強度を460kg/cm2とする従来例があるのであるから、100kg/cm2を超えると引張強度が強過ぎて振動が生起しないとの理由は直ちに採用することができず、他に、上限を100kg/cm2に限定することの技術的意義を見いだすことのできる証拠はないので、結局、スピーカー用エッジの引張強度の上限を100kg/cm2に限定することについて、特段の技術的意義は存在しないものといわざるを得ない。
そうすると、訂正発明1において、スピーカー用エッジの引張強度として、「0.1〜100kg/cm2」の値の範囲を採用したのは、単なる設計的事項にすぎず、当業者において容易にし得ることというべきである。
(3) 以上のとおり、刊行物1記載の発明において、スピーカー用エッジの引張強度の値の範囲を「0.1〜100kg/cm2」とすることに格別の技術的困難性はなく、かつ、上記範囲を選択することは単なる設計的事項というべきであるから、この点についての本件決定の判断に原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は、刊行物2記載の粘弾性発泡体は、スピーカーの振動板そのものではなく、その中間品であるから、その密度0.1g/cm3から訂正発明1の比重の範囲「0.07〜1.2」を導くことは当業者にとって容易ではない旨主張する。
しかしながら、刊行物2(甲第2号証)には、実施例に記載された「第一次加硫物」とは別に、従来技術として、「本出願人が先に提示した発明にあっては、天然ゴムまたは合成ゴムを・・・発泡構造としたゴム組成物によって構成されることを特徴とするスピーカの振動板としたため、(イ)密度ρを小さくできる。すなわち、材料が紙の場合にはρは0.5、アルミハニカムの場合でも0.1〜0.15が実用範囲であるが、ゴム組成物の場合には0.1以下としても実用可能であり、したがって比弾性率を高くするのに有利である」(2頁左上欄末行〜右上欄11行目)との記載があり、この記載によれば、発泡構造としたゴム組成物から成るスピーカーの振動板の密度(比重)を、訂正発明1のエッジ部材に係る上記比重の数値範囲に含まれる0.1ないしそれ以下とすることが記載されていると認められるところ、上記のとおり、特公昭58-28960号公報(乙第5号証)及び実願昭59-101190号(実開昭61-15894号)のマイクロフィルム(甲第11号証の2)には、スピーカーにおいて、振動板(コーン紙)とエッジとを同一材料で形成することが記載されており、かつ、これらの刊行物に、同一材料で形成するに当たって、振動板とエッジとで各別の条件を要する旨の記載も見当たらないから、刊行物2に記載されたスピーカーの振動板に係る上記0.1ないしそれ以下の数値は、エッジ部材の密度(比重)としても考慮することが可能であるというべきであって、これをエッジ部材の比重とすることを示唆するものということができる。
(2) また、本件決定は、引用文献1(甲第7号証)の「表2.40 ブチル生ゴム規格」(89頁)等の記載に基づき「ブチル生ゴムの比重が0.9である・・・充填剤を加えた粘性ゴム混和物の比重もブチル生ゴムの比重から大きくかけ離れることはない」(決定謄本6頁23行目〜26行目)と認定しているところ、原告は、
添加物が配合された刊行物1記載の発明の比重がブチル生ゴムの比重0.9とほぼ同一であると認定することはできない旨主張するが、以下のとおり、刊行物1(甲第1号証)の実施例2に記載されたエッジ部材における加硫前の配合物(上記「充填剤を加えた粘性ゴム混和物」に相当する。)の比重は約1.049であると認められ、また、これを加硫発泡した場合の比重も、訂正発明1のエッジ部材に係る比重の数値範囲「0.07〜1.2」に含まれるものと認められる。
すなわち、刊行物1(甲第1号証)には、実施例2として、「上記、実施例1における配合物に有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)5部、軟化剤(ジブチルフタレート)20部を加えて熟成後35気圧でプレス加硫し・・・発泡ブチルゴムを主成分としてなる実施例1と同一形状のエッジを成形した」(2頁左上欄19行目〜右上欄4行目)との記載があるところ、その「上記、実施例1における配合物」とは、「ブチルゴム・・・100重量部に対し硫黄3.5部、亜鉛華4部、ステアリン酸2部、p-キノンジオキシム2部、鉛丹8部・・・p-ジニトロソベンゼン重合物を0.3部添加した配合物」(同頁左上欄9行目〜16行目)のことである。
そして、引用文献1(甲第7号証)の「表2.40 ブチル生ゴム規格」(89頁)及び昭和62年11月15日株式会社朝倉書店発行の家田正之外3名編「電気・電子材料ハンドブック」(乙第2号証)の「表4.2.15 各種ゴムの特性一覧」(116〜117頁)には、ブチルゴムの比重は0.92であることが記載されており、また、昭和49年10月15日ラバーダイジェスト社発行の本山時彦編「便覧 ゴム・プラスチック配合薬品」(乙第3号証)には、上記各添加物の比重につき、硫黄2.60前後(1頁)、亜鉛華5.47〜5.61(58〜59頁)、ステアリン酸0.94(62頁)、p-キノンジオキシム1.40前後(6頁)、鉛丹8.3〜9.1(61頁)、ポリ-p-ジニトロソベンゼン0.96(7頁)、軟化剤(ジブチルフタレート)1.048(146頁)と記載されている。さらに、有機発泡剤(N-N-ジニトロソジウレタン)の比重の記載は見当たらないが、同類化合物と認められるN-N′-ジニトロソ・ペンタメチレン・テトラミンの比重1.45前後(258〜259頁)、N-N′-ジメチル-N-N′-ジニトロソ・テレフタルアミドの比重1.2(259頁)との記載に照らして、N-N-ジニトロソジウレタンの比重も1.2〜1.45程度と認められる。
そうすると、刊行物1記載の上記各重量部と上記認定に係る各比重とに基づいて(N-N-ジニトロソジウレタンを含め、比重に数値の幅があるものについては、被告の不利益に最大値を使用する。)、刊行物1の実施例2に係るプレス加硫前の配合物の比重を算出すれば、被告主張のとおり、1.049となる。
次に、発泡を考慮しないで、加硫した場合の比重の変動を検討するに、発泡させないで加硫した後のブチルゴムの比重を記載した証拠は見当たらないが、引用文献2-3(乙第6号証)に、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)につき、生ゴムの比重が0.94(400頁表補2.1)、油入りゴム加硫物の比重が1.14〜1.16であること(603頁表21.1)が記載されており、これに基づいてSBRにつき加硫による比重の変動倍率を算出すると、最大で1.23倍(1.16÷0.94=1.23)である。そして、弁論の全趣旨によれば、SBRはブチルゴムと類似した特性を有するゴムであると認められるから、ブチルゴムの加硫による比重の変動倍率もおおむねSBRと同割合の1.23倍程度と認められる。
なお、上記のとおり、刊行物1の実施例2において、加硫発泡ゴムは「35気圧でプレス加硫」されるものであるが、昭和49年6月20日株式会社大成社第2版発行の金子秀男著「応用ゴム加工技術12講(中巻)」(乙第8号証)に、
ゴムプレス加硫において金型に及ぼす加圧力の例として、10〜35kg/cm2(換算値約10〜35気圧)との記載(69頁14行目〜17行目)があることにかんがみれば、プレス加硫の際に35気圧とすることは、加硫条件として通常の範囲であると認められ、したがって、「35気圧でプレス加硫」されることにより、上記算出に係る加硫による比重の変動倍率1.23倍程度の値が大きく変わることはないものと認められる。
そこで、次に、発泡させることによる比重の変動を検討するに、平成元年9月10日株式会社プラスチックス・エージ社改訂第3版発行の「実用プラスチック用語辞典」(乙第7号証)に、「発泡倍率」につき「未発泡の素材プラスチックの密度を発泡後のプラスチックの密度で除した値」との語義が掲載されていることに照らせば、密度と発泡倍率は反比例する関係にあることが認められる。
他方、刊行物1(甲第1号証)に、実施例2に係る発泡倍率の記載はないが、訂正明細書(甲第16号証添付)に、訂正発明の実施例1〜9につき、発泡倍率が2.1〜3.5であることが記載されている(【0040】〜【0041】項表3〜4)ことに照らして、刊行物1の実施例2に係る発泡倍率も少なくとも2倍程度と認めるのが合理的であり、そうすると、発泡させることにより比重は2分の1程度となる。
したがって、ブチルゴムを「35気圧でプレス加硫」した場合の比重はおおむね0.5658(0.92×1.23×1/2=0.5658)程度と考えられるところ、刊行物1の実施例2に係るプレス加硫前の配合物はブチルゴムを主体とするものであり、
これを「35気圧でプレス加硫」した場合の比重は、少なくとも、加硫前の1.049を上回ることはないものと推認されるから、いずれにしても、訂正発明1のエッジ部材に係る比重の数値範囲「0.07〜1.2」に含まれる値である。
(3) 以上のとおり、刊行物2(甲第2号証)は、スピーカー用エッジ部材の比重を訂正発明1の限定した数値範囲に含まれる0.1ないしそれ以下とすることを示唆しており、また、刊行物1(甲第1号証)には実施例2に係るエッジ部材の比重につき、明示の記載はないものの、当業者の技術常識に属する事項と認められるブチルゴム及び各添加物の比重並びに加硫条件による変動を考慮して算出される同エッジ部材の比重が訂正発明1の限定した数値範囲に含まれると認められるのであるから、スピーカー用エッジ部材の機能等を考慮して、その比重を訂正発明1の限定に係る「0.07〜1.2」の範囲となるようにすることは当業者において容易にし得るところであるというべきである。したがって、この点についての本件決定の判断に原告主張の誤りはない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について 原告は、訂正明細書には、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによって、優れた音響特性を発揮することが示されているところ、
本件決定は、そのような作用効果の顕著性を看過した違法がある旨主張する。
確かに、訂正明細書(甲第16号証添付)には、訂正発明1の引張強度及び比重に関して、「得られる粘弾性発泡体であるスピーカー用エッジ部材は、引張強度が0.1〜100kg/cm2に設定されていなければならない・・・引張強度が0.1kg/cm2未満では、強度不足で破れを生じる可能性があり、100kg/cm2を超えると、強度が強過ぎて振動が生起しないからである。さらに、この発明のスピーカー用エッジ部材は、その比重が0.07〜1.2の範囲に設定されていなければならない・・・比重が0.07未満では高温圧で破壊が生じ、1.2を超えるとスピーカー部材が重くなり過ぎてエッジが音圧に対してスムーズに振動しないからである。」(【0029】項)、「スピーカー用エッジ部材を構成する発泡マトリックスが、ゴム成分と軟化剤成分との一体化組織によって形成されており、従来に比べて軽量でしかも柔軟な弾性能を示す。したがって、これを振動板(コーン紙等)に取り付けると、振動板の振動を抑制することなく、しかも振動板の余分な振動を減衰させることが可能となり、優れた音響特性を発揮することができる」(【0030】項)との各記載はあるが、前者の記載は、訂正発明1に係る引張強度についての限定と比重についての各数値限定の理由を個別に記載したものであって、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによる作用効果を記載したものとはいえないのみならず、引張強度についての数値限定の上限についての理由が採用し得ないことは上記のとおりであり、また、後者の記載についても、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによる具体的な作用効果を記載したものということはできない。
さらに、訂正明細書には、「実施例1品(比重0.4)と比重0.65のコーン紙(tanδ=0.04)を組み合わせ、これをスピーカーに組み込んだ結果、損失係数tanδ=0.50での音響特性を測定した。また、上記実施例1品に代えて比較例1品を用いた場合の音響特性を測定した。その結果を図1に併せて示す・・・周波数別の上記音響特性の測定は、音圧レスポンスにより行った。その結果、発泡による軽量化とゴム弾性の特性により、高周波領域における歪みが少なく、低周波数領域においても良好な音響特性が得られた・・・これに対して、比較例1品は、
発泡しないゴムソリッドであり比重が大きく、実施例品に比べて歪みが大きいことが図1より明らかである。他の比較例品については、発泡倍率が小さく、ほぼソリッドに近い特性を示している。」(【0042】項)との記載がある。
しかしながら、訂正明細書の表2(【0034】項)及び表4(【0041】項)によれば、比較例1品は、有機発泡剤を含有せず、したがって、発泡していないという点を除けば、引張強度及び比重に係る数値限定を含めて訂正発明1の構成を具備するものであるから、上記記載に係る実施例1品と比較例1品との音響特性の相違が、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによる作用効果を具体的に示したということができないことも明らかである。
そして、他に、訂正明細書(甲第16号証添付)に、訂正発明1の限定に係る引張強度の範囲と比重の範囲との組合せによる具体的な作用効果を示したものと認められる記載は存在しないから、原告の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。
4 取消事由4(適法な取消理由通知の欠缺)について 原告は、本件特許に対する取消理由通知書(甲第12号証)に、引用文献1及び引用文献2-1が記載されていないことをもって、本件決定が本件訂正を認めなかった判断には、適法な取消理由通知をしなかった手続上の違法がある旨主張する。
しかしながら、取消理由通知書(甲第12号証)は、平成11年1月22日付けで作成された上、同年2月9日に発送されたものであって、同年4月12日にされた訂正請求より前のことであるから、同取消理由通知に、引用文献1及び引用文献2-1の記載の有無を問わず、本件訂正に対する拒絶の理由が記載されていないことは当然であり、そのことによって同取消理由通知が瑕疵あるものとなるものではない。
また、仮に、原告の主張が、本件訂正に対する同年11月5日付け訂正拒絶理由通知書に、引用文献1及び引用文献2-1が記載されていないことをもって、
本件決定が本件訂正を認めなかった判断には、適法な訂正拒絶理由通知をしなかった手続上の違法があるとの趣旨であり、かつ、上記訂正拒絶理由通知書に引用文献1及び引用文献2-1が記載されていなかったとしても、そのことにより上記訂正拒絶理由通知が違法となるものではない。
すなわち、本件決定は、本件訂正の適否の判断において、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点1につき、引用文献1により、所定の基礎配合及び加硫条件の下で、各種充填剤に応じて、加硫後のブチルゴムの引張強さが73〜189kg/cm2の範囲で異なることを、また、引用文献2-1により、ブチルゴムの引張強さは純ゴムの場合が最高で、充填剤を加えることによって減少すること及びカーボンブラック及びその他の充填剤の種類及び量に応じて、ブチルゴムの引張強さが320〜2530psiの範囲で異なることを認定し、これらの事項と他の技術事項(発泡した場合、発泡倍率が高くなるに従って引張強度が低下すること)とにより、相違点1に係る訂正発明1の構成(粘弾性発泡体の引張強度を「0.1〜100kg/cm2」とする点)を採ることは当業者が容易にし得るものであると判断した(決定謄本5頁31行目〜6頁17行目)ものである。また、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点2についての判断においては、引用文献1によりブチル生ゴムの比重が0.9であることを認定し、これと他の技術事項(充填剤を加えた粘性ゴム混和物の比重もこれから大きくかけ離れることはないこと、及び発泡した場合、発泡倍率にほぼ反比例して比重が低下すること)並びに刊行物2の記載とを併せて、相違点2に係る訂正発明1の構成(粘弾性発泡体の比重を「0.07〜1.2」とする点)を採ることは当業者が容易にし得るものであると判断した(決定謄本6頁18行目〜35行目)ものである。
そうすると、本件決定が引用文献1及び引用文献2-1を引用したのは、各引用文献に相違点1、2に係る訂正発明1の構成(粘弾性発泡体の引張強度を「0.1〜100kg/cm2」とする点及びその比重を「0.07〜1.2」とする点)が記載されているとして、これを刊行物1記載の発明に適用するためではなく、訂正発明1の構成要件上、含有成分の一つとされているゴムに属するブチルゴムの一般的な特性を周知の事項として示すに当たって、それが明示された文献を挙げた趣旨であるにすぎないことは明らかである。そのことは、引用文献1(甲第7号証)及び引用文献2-1(甲第8号証)が合成ゴムに関する一般的な概説書と認められること及び本件決定の「訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明及び従来周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものと認められる」(同頁36行目〜末行)との説示からも裏付けられる。
したがって、引用文献1及び引用文献2-1に記載された公知発明又は公知技術が訂正拒絶理由を構成する場合には当たらないから、これらの文献が訂正拒絶理由通知書に記載されていなくとも、直ちに違法ということはできず、原告の上記主張は、いずれにしても採用することができない。
5 以上のとおりであるから、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利