• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1995-1616
関連ワード 容易に実施 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  審判の係属中 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 176号 審決取消請求事件
原告 アンドウケミカル株式会社
訴訟代理人弁理士江原省吾
同 田中秀佳
同 白石吉之
同 城村邦彦
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 大槻清壽
同 冨岡和人
同 粟津憲一
同 大橋良三
同 大野克人
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成7年審判第1616号事件について平成12年3月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年12月2日,発明の名称を「連続成形トリミング方法」とする発明について特許出願をしたが(以下「本願出願」という。),平成6年6月23日付けで拒絶理由通知を受けたので,同年9月2日,意見書を提出するとともに,本願出願の願書に添付した明細書について手続の補正をした。しかし,原告は,同年12月9日に拒絶査定を受けたので,平成7年1月19日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成7年審判第1616号事件として審理した。原告は,上記審判の係属中である平成7年2月20日,平成10年11月16日,それぞれ上記明細書について手続の補正をした。さらに,原告は,平成11年1月7日付けの拒絶理由通知を受けて,同年3月8日,上記明細書について手続補正書を提出したものの,同年9月16日付けで上記手続補正を却下された。
特許庁は,平成12年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成12年4月26日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲請求項1(本願出願に係る特許請求の範囲の請求項は,補正により請求項1のみとなった。以下,これを「本願発明」という。別紙図面参照) 「薄状シート部材を連続成形機に送り込んで一括してプレス成形加工し,その連続成形機から送り出されてきた薄状シート部材を連続トリミング機に送り込み,その連続トリミング機にて定位置で上下動自在に配置されたプレス上刃の瞬時的な下降動でもって薄状シート部材を成形品ごとに切断分離する方法において,上記連続トリミング機の作動時に上下動するプレス上刃は,連動運転において一つの成形品群の切断分離が完了する作動完了時に下死点で停止すると共にその作動開始時に前記下死点から始動し,停止ボタンの操作による作動停止後を含む寸動運転における作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に前記下死点に達するようにしたことを特徴とする連続トリミング方法。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項及び5項(以下「旧特許法36条4項」,「旧特許法36条5項」という。)に規定する要件を満たしていない,というものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,手続の経緯,本願発明の認定(審決書1頁14行〜2頁4行)及び本願明細書の記載事項の認定(2頁11行〜15行,2頁30行〜3頁26行)の部分をいずれも認め,その余を争う。
審決は,明細書の記載要件についての認定判断を誤り,その結果,平成6年9月2日付け,平成7年2月20日付け,平成10年11月16日付けの各手続補正書により補正された,本願出願の願書に添付された明細書及び図面(以下,これらをまとめて「本願明細書」という。)が旧特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていない,としたものであり,上記認定判断の誤りがその結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取消しを免れない。
1 プレス上刃の作動を下死点で完了させる手段の開示について (1) 審決は,本願明細書の発明の詳細な説明について,「一つの成形品群の切断分離が完了したことをどのようにして検知するのかや,どのようにして一つの成形品群の切断分離が完了したときプレス上刃をその下死点でもって停止させることができるようにしたのかまで開示したものであるとはいえない」(審決書3頁26行〜30行)と認定している。しかし,この認定は,誤りである。
本願発明において解決しようとしている課題は,従来技術として存在する連続トリミング機においては発生し得る,プレス上刃の不測の瞬時下降による作業者の手の切断,という現象を防止することであるから,この課題に関係のない技術であり,かつ,従来の連続トリミング機も当然に必要とし具備することが明らかな,一つの成形品群の切断分離が完了したことを検知する手段を,本願明細書中に詳細に記載する必要性は全くないはずである。
連動運転において,プレス上刃(11)が,カウンタなど何らかの手段で管理されつつ所定回数上下動した後に一定の点で停止することは,本願出願当時,当業者でなくとも容易に理解できたものである。すなわち,本願明細書の発明の詳細な説明の第6段及び第7段には,従来のトリミング機において,例えば6列の成形品群を1列1秒でトリミングし,合計6秒で一つの成形品群の切断分離を完了した後,プレス上刃(11)が次の動作に備えるため上死点(a)で停止することが記載されているのであるから,ここに記載されている従来技術に接した者は,当業者でなくても,上記プレス上刃(11)の動作がプレス上刃(11)の上下動回数のカウンタなど何らかの手段で管理されていることを容易に理解できるはずである。
(2) 審決は,「本件明細書の発明の詳細な説明および本件図面には,連動運転,寸動運転,単動運転,一工程運転のいずれの場合にも,プレス上刃(11)の作動を下死点で完了させることができるようにするために講じた手段の開示を見いだすことができない」(審決書2頁5行〜8行)と認定しているが,この認定も誤りである。
(ア) 本願明細書の発明の詳細な説明実施例の項には,「(35)は上記プレス上刃(11)の駆動機構(34)に接続され,プレス上刃(11)の上下位置をそれに対応した回転角度として検出するアブソリュートエンコーダ,(36)はそのエンコーダ(35)に接続されたコントローラで,角度設定器(37)による設定角度,及び上記エンコーダ(35)からの検出信号に基づいてシーケンス制御器(21)に出力信号を送出する。」(甲第9号証の2の手続補正書5頁13行〜18行),「プレス上刃(11)の上下位置は,アブソリュートエンコーダ(35)により常時検出され,その検出信号に基づいてコントローラ(36)で角度設定器(37)による設定角度でもってシーケンス制御器(21)に制御信号が出力される。上記角度設定器(37)では,例えば,プレス上刃(11)の上死点(a)を0°とした場合,本発明ではその作動完了及び始動位置を下死点(b)とするため,プレス上刃(11)の作動完了及び始動位置は180°となる〔図3参照〕。」(同6頁末行〜7頁6行)と記載されている。これらの記載によれば,シーケンス制御器(21)がプレス上刃(11)を下死点で停止させる信号を出していることは明白であり,したがって,本願明細書には,プレス上刃(11)の作動を下死点で完了させることができるようにするための手段が開示されている,ということができる。
(イ) 連動ボタン,単動ボタン,一工程ボタン及び寸動ボタンの4つのボタンは,甲第14号証の3(株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書)にも記載されており(「連動」,「単動」,「1工程」及び「正寸」の各ボタン),従来の連続トリミング機に既に具備されていたものであって,本願発明で使用する連続トリミング機においても,上記4つのボタンの機能は,プレス上刃が下死点で停止するという点を除けば,従来のものとまったく同じなのであり,当業者がよく理解している事項である。
(ウ) 単動運転は,連続成形機の動作とは無関係にプレス上刃が連続的に上下動する運転モードなので,プレス上刃の上下動回数をカウントする必要はなく,停止ボタンを押した後,プレス上刃が下死点に来たときにプレス上刃を停止させればそれでよい。プレス上刃が下死点に来たことは,アブソリュートエンコーダ(35)により検出される。
なお,単動運転は,特許請求の範囲に記載されている事項ではないので,被告は,単動運転に関連させて,旧特許法36条4項,5項該当性を論ずることはできないはずである。
2 連動運転時,設定器から製品群間の送り量に続いて列毎の送り量が出力される手段の開示について 審決は,「連動運転時,設定器から製品群間の送り量に続いて列毎の送り量が出力されるようにするために講じた手段の開示を見いだすことができない」(審決書2頁8行〜10行)と認定判断したが,誤りである。このような送り量の変更機構は,本願発明を採用するか否かにかかわらず,トリミング機に当然必要なものである。
本願発明は,プレス上刃の下死点での停止を主眼とするものであり,その他の点については全く従来どおりでよいため,薄状シート部材の送り量についての詳細な説明を省略したにすぎない。
明細書の記載は,出願時における当業者の知識を基準として作成されるのであって,このことは旧特許法36条4項で,「発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定されているとおりである。当業者が容易に理解ないし推測して実施できる範囲内であれば,それ以上の説明は省略しても,いわゆる記載不備には当たらないのである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 プレス上刃の作動を下死点で完了させる手段の開示について (1) 本願発明において,一つの成形品群の切断分離が完了するときにプレス上刃をその下死点で停止するという構成を達成するためには,一つの成形品群の切断分離が完了したことを検知することが必要である。ところが,本願明細書の発明の詳細な説明及び図面をみても,一つの成形品群の切断分離が完了したことを検知する技術はどこにも開示されていない。したがって,本願発明においては,一つの成形品群の切断分離が完了したときに,プレス上刃をその下死点でもって停止させることができないことになる。
原告は,連動運転に関し,本願明細書に記載されている従来技術に接した者は,当業者でなくても,上記プレス上刃(11)の動作がプレス上刃(11)の上下動回数のカウンタなど何らかの手段で管理されていることを容易に理解できるはずである,と主張する。
しかしながら,原告は,なにゆえに,「何らかの手段で管理されていること」を当業者が容易に理解することができるのかを明らかにしていない。原告の主張は,根拠のないものである。
(2) 審決において「プレス上刃(11)の作動を下死点で完了させることができるようにするために講じた手段」と述べているところは,審決のその余の記載をみれば明らかなとおり,「一つの成形品群の切断分離が完了したときプレス上刃をその下死点でもって停止させることができる」(審決書3頁28行〜29行)ようにするために講じた手段,のことを意味するものである。
原告が主張の根拠としている甲第14号証の3(株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書)は,決して,原告主張の根拠となるものではない。原告は,平成12年7月6日の第1回弁論準備手続において,株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書を甲第3号証として提出しようとしていた。しかし,同書証の12枚目には,「1号機 ’93.8.4」との記載があった。同記載は,1993年(平成5年)8月4日を意味しているものと思われ,本願出願の後の日付となり,同号証が本願出願後に作成されたものではないかと疑わせるものであった。その後,原告は,同書証の提出をせずに,「1号機 ’93.8.4」との記載のない株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書を甲第14号証の3として提出するに至った。その提出に至るこのような経緯に照らすと,甲第14号証の3は,簡単に,従来技術に係るものであるということができるようなものではない。
しかも,同号証には,手書きによる加除が多数あって,印刷された内容に大幅な変更が加えられているから,記載内容自体も著しくあいまいである。
原告は,連動ボタン,単動ボタン,一工程ボタン及び寸動ボタンの4つのボタンの機能が甲第14号証の3に記載されていると主張する。しかし,審決が問題としているのは,ボタンの機能ではない。
2 連動運転時,設定器から製品群間の送り量に続いて列毎の送り量が出力される手段の開示について 一つの成形品群の切断分離が完了したことを検知すること,そのため一つの成形品群の切断分離が完了したときプレス上刃をその下死点でもって停止させることが本願明細書の発明の詳細な説明及び図面に記載されていない以上,連動運転時に,設定器から製品群間の送り量に続いて列毎の送り量が出力される手段が開示されているとはいうこともできない。
当裁判所の判断
1 プレス上刃の作動を下死点で完了させる手段の開示について (1) 旧特許法36条4項は,「前項第3号の発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定し,5項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。 1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。 2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。・・・」と規定している。
本件についてみると,本願発明においては,特許請求の範囲の記載自体から明らかなとおり,「上記連続トリミング機の作動時に上下動するプレス上刃は,連動運転において一つの成形品群の切断分離が完了する作動完了時に下死点で停止すると共にその作動開始時に前記下死点から始動し,停止ボタンの操作による作動停止後を含む寸動運転における作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に前記下死点に達するようにした」という構成を特徴とする連続トリミング方法であるから,発明の詳細な説明には,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,上記構成が記載されていなければならないはずである。
もっとも,特許請求の範囲に記載されたところが,当業者にとって,その文言に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術である場合には,例外的に,必ずしも,その説明を明細書に記載する必要はないとするのが,上記条項の設けられた目的に照らし,合理的な解釈であるというべきである。しかし,審決取消訴訟において,特許請求の範囲に記載されたところが上記の程度の技術であるか否かが争われるに至った場合には,特許請求の範囲に記載されたところが上記の程度の技術であることを主張する側において,当業者ではない裁判所であってもそのように認定することができるだけの主張立証をしない限り,裁判所としては,明細書の記載に不備があるものとして扱うほかない,と考えるのが,これまた合理的な解釈であるというべきである。当業者でない裁判所が判断主体である裁判において,明細書に記載されていないことを記載されていると同じに扱うべきであると主張する以上,そのような負担を負うべきは,むしろ当然のことというべきであるからである。
(2) 審決は,「本件明細書の発明の詳細な説明および本件図面には,連動運転,寸動運転,単動運転,一工程運転のいずれの場合にも,プレス上刃(11)の作動を下死点で完了させることができるようにするために講じた手段の開示を見いだすことができない」(審決書2頁5行〜8行)と認定したので,まず,その当否について検討する。
(3) 甲第3号証,第5,7,9号証の各2によれば,本願明細書の発明の詳細な説明の欄の実施例の項には,次の記載があることが認められる(別紙図面参照)。
「本発明の特徴は,図1に示すように連続トリミング機(9)のプレス上刃(11)を下死点(b)で作動完了させると共にその下死点(b)から始動させるようにしたことにある。具体的に,図1に示す連続トリミング機(9)を制御してプレス上刃(11)を下死点(b)で作動完了及び始動させるための概略制御構成を図2に示す。同図において,(21)はシーケンス制御器で,連続成形機(3)からのトリミング開始信号が入力されると共に,連続トリミング機(9)の操作盤(22)に設けられた各種押しボタン,例えば,連動ボタン(23),単動ボタン(24),一工程ボタン(25)及び寸動ボタン(26)による各操作開始信号が入力される。(27)(28)は上記シーケンス制御器(21)に切り替えスイッチ(29)を介して接続された第1及び第2の速度設定器で,例えば,第1の速度設定器(27)は連動,単動,一工程運転での作動速度を可変に設定するものであり,一方,第2の速度設定器(28)は寸動運転での作動速度を固定で設定するものである。尚,後述するように寸動運転での作動速度は徴速状態に設定されて固定される。(30)はシーケンス制御器(21)に切り替えスイッチ(29)を介して接続されたドライバで,電源(31)によりサーボモータ(32)を駆動し,減速器(33)を介してプレス上刃(11)を上下動させる駆動機構(34)を作動させる。(35)は上記プレス上刃(11)の駆動機構(34)に接続され,プレス上刃(11)の上下位置をそれに対応した回転角度として検出するアブソリュートエンコーダ,(36)はそのエンコーダ(35)に接続されたコントローラで,角度設定器(37)による設定角度,及び上記エンコーダ(35)からの検出信号に基づいてシーケンス制御器(21)に出力信号を送出する。このコントローラ(36)は,プレス上刃(11)が下死点に達した時点でアブソリュートエンコーダ(35)から出力される検出信号によりシーケンス制御器(21)に制御信号を出力し,この制御信号に基づいてシーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する。尚,上記構成は一つの具体例であり,プレス上刃(11)の上下動を制御する上でそのプレス上刃(11)の上下位置を把握するための手段としての機械的或いは電気的構成は種々のものが考えられる。」(第15〜18段落) 本願明細書の上記認定の記載,特に,「(21)はシーケンス制御器で,連続成形機(3)からのトリミング開始信号が入力されると共に,連続トリミング機(9)の操作盤(22)に設けられた各種押しボタン,例えば,連動ボタン(23),単動ボタン(24),一工程ボタン(25)及び寸動ボタン(26)による各操作開始信号が入力される。」,「(30)はシーケンス制御器(21)に切り替えスイッチ(29)を介して接続されたドライバで,電源(31)によりサーボモータ(32)を駆動し,減速器(33)を介してプレス上刃(11)を上下動させる駆動機構(34)を作動させる。」,「(36)はそのエンコーダ(35)に接続されたコントローラで,角度設定器(37)による設定角度,及び上記エンコーダ(35)からの検出信号に基づいてシーケンス制御器(21)に出力信号を送出する。このコントローラ(36)は,プレス上刃(11)が下死点に達した時点でアブソリュートエンコーダ(35)から出力される検出信号によりシーケンス制御器(21)に制御信号を出力し,この制御信号に基づいてシーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する。」との各記載によれば,プレス上刃(11)の停止は,シーケンス制御器(21)からの停止信号により行われるものであり,シーケンス制御器(21)が停止信号を出すまでの信号の流れは,まず,アブソリュートエンコーダ(35)において,プレス上刃(11)が下死点に達した時点で検出信号を出し,コントローラ(36)が,この信号に基づいて,シーケンス制御器(21)に出力信号を送り,シーケンス制御器(21)が,この信号に基づいて,ドライバ(30)に対し,プレス上刃(11)の停止信号を出力する,というものであることが明らかである。
(4) 上記シーケンス制御器(21)を中心とする制御機構の作用によると,上記実施例において,プレス上刃(11)が単純に寸動運転により上下動を行う場合には,プレス上刃(11)が下死点に達すると,アブソリュートエンコーダ(35)からの検出信号に基づいて,コントローラ(36)がシーケンス制御器(21)に出力信号を送り,これを受けて,シーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する,ということになるから,プレス上刃(11)を下死点で停止させることができることは,明らかである。
(5) 次に,連動運転についてみる。
(ア) 甲第3号証,第5,7,9号証の各2によれば,本願明細書の発明の詳細な説明の欄の実施例の項には,連動運転について,次の記載があることが認められる。
「まず,連動運転では,連続成形機(3)により,従来と同様,多数個一括してプレス成形加工された薄状シート部材(4)が送り出され,上記連続成形機(3)と同期する後段の連続トリミング機(9)に供給される。この連続運転時,ピンチローラ(12)を含む送り機構による薄状シート部材の列毎の送り量と,成型品群間の送り量については,それぞれ異なる値などが設定器(図示せず)により入力されており,設定器によるそれぞれの入力値に基づいてピンチローラ(12)を含む送り機構が制御される。この連続トリミング機(9)では,連動ボタン(23)による操作開始信号に基づいてシーケンス制御器(21)からの速度切替信号で第1の速度設定器(27)の設定速度でもってドライバ(30)にプレス速度指令が送出される。このプレス速度指令に基づいてサーボモータ(32)を駆動し,減速器(33)及び駆動機構(34)を介してプレス上刃(11)を上下動させる。このプレス上刃(11)の上下動によりそのプレス上刃(11)とプレス下刃(10)との間に挿入された薄状シート部材(4)における多数個の成形品(1)からなる成形品群(2)について横一列〔例えば,6個〕ずつ成形品(1)ごとに切断分離する。そして,所定個数の成形品(1),即ち,一つの成形品群(2)〔例えば,36個〕の切断分離が完了すると上記プレス上刃(11)はその下死点(b)でもって作動完了する。その後,連続成形機(3)からのトリミング開始信号が連続トリミング機(9)に送出され,シーケンス制御器(21)に入力されると,上記トリミング開始信号に基づいてプレス上刃(11)が再度作動開始する。このプレス上刃(11)はその下死点(b)から始動し,上述した動作と同様,薄状シート部材(4)について横一列〔例えば,6個〕ずつ成形品(1)ごとに切断分離して下死点(b)で作動完了する。この時,プレス上刃(11)が下死点に達したことをアブソリュートエンコーダ(35)により検出し,その検出信号に基づいてコントローラ(36)からシーケンス制御器(21)に制御信号を出力し,この制御信号に基づいてシーケンス制御器(21)からドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力し,その停止信号によりプレス上刃(11)が停止する。この一連の動作を繰り返すことにより連続成形機(3)でのプレス成形加工と連動して成形品(1)の切断分離が順次行なわれる。この動作中,プレス上刃(11)の上下位置は,アブソリュートエンコーダ(35)により常時検出され,その検出信号に基づいてコントローラ(36)で角度設定器(37)による設定角度でもってシーケンス制御器(21)に制御信号が出力される。上記角度設定器(37)では,例えば,プレス上刃(11)の上死点(a)を0°とした場合,本発明ではその作動完了及び始動位置を下死点(b)とするため,プレス上刃(11)の作動完了及び始動位置は180°となる〔図3参照〕。尚,薄状シート部材(4)の送りスタート信号の発信位置を例えば200°とすれば,プレス上刃(11)が下死点(b)で作動完了した後,次の始動のためその下死点(b)から上昇した直後に薄状シート部材(4)がピンチローラ(12)を含む送り機構により所定量送られることになる。」(第20段落) (イ) 上記認定の記載,特に,「この連続トリミング機(9)では,連動ボタン(23)による操作開始信号に基づいてシーケンス制御器(21)からの速度切替信号で第1の速度設定器(27)の設定速度でもってドライバ(30)にプレス速度指令が送出される。このプレス速度指令に基づいてサーボモータ(32)を駆動し,減速器(33)及び駆動機構(34)を介してプレス上刃(11)を上下動させる。このプレス上刃(11)の上下動によりそのプレス上刃(11)とプレス下刃(10)との間に挿入された薄状シート部材(4)における多数個の成形品(1)からなる成形品群(2)について横一列〔例えば,6個〕ずつ成形品(1)ごとに切断分離する。そして,所定個数の成形品(1),即ち,一つの成形品群(2)〔例えば,36個〕の切断分離が完了すると上記プレス上刃(11)はその下死点(b)でもって作動完了する。」との記載によれば,シーケンス制御器(21)は,一つの成形品群(2)の切断分離が完了したときに,初めて,プレス上刃(11)はその下死点(b)で作動完了し,その状態に至るまでは,プレス上刃(11)が上下動を行っていても,プレス上刃(11)を下死点(b)で停止させてはならないことが明らかである。
しかしながら,連動運転においても,上記(3)に認定したとおり,「アブソリュートエンコーダ(35)からの検出信号に基づいて,コントローラ(36)がシーケンス制御器(21)に出力信号を送り,これを受けて,シーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する」という制御機構に基づいて作動するのであれば,この制御機構の下で,上記のとおり,連動運転における,「シーケンス制御器(21)は,一つの成形品群(2)の切断分離が完了したときに,初めて,プレス上刃(11)はその下死点(b)で作動完了し,その状態に至るまでは,プレス上刃(11)が上下動を行っていても,プレス上刃(11)を下死点(b)で停止させてはならない」という作動をどのようにして実現するのかは,明らかでない。
本願明細書全体を検討しても,連動運転の上記動作を実現するための記載を見出すことができない。
(ウ) 甲第14号証の3によれば,株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書には,「(7)--連動運転起動ボタン〔自動設定の時〕--このボタンの操作により,成形機側の1ショット信号毎にパンチング動作を行ない,所定の個数の打抜きを完了すると,次の1ショット信号が入るまでは動きを停止して待機します。」(3-2),「(24)--補正カウント設定スイッチ--成形機の1ショット当りの成形個数を設定して下さい。このカウントを完了すると,次の成形機の1ショット信号が入るまで機械の動きは自動停止します。」(P-3-6)と記載されていることが認められる。
上記文献の上記認定の記載によれば,パンチングマシンWP-1000においては,1ショット当たりの成形個数をあらかじめ設定することによって,パンチング動作を自動的にカウントし,設定数に達するとその動作を自動的に停止する機構を有していることが明らかである。
そもそも,トリミング機にせよ,パンチングマシンにせよ,動作を自動的にカウントし,設定数に達するとその動作を自動的に停止させるという技術思想自体は,当業者にとって,ごくありふれた技術思想であるというべきである。
しかしながら,この技術思想をどのような技術をもって実現するか,となると,また別問題であるというべきである。そして,甲第14号証の3をみても,株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書において,上述した動作説明はあるものの,この動作を実施する技術については,開示されていないことが明らかである。
また,本願明細書の発明の詳細な説明に開示されているシーケンス制御器(21)においては,前述したとおり,エンコーダ(35)からの検出信号に基づいて,コントローラ(36)がシーケンス制御器(21)に出力信号を送る,これを受けて,シーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する,という制御機構であるというのであり,このような制御機構を前提にしたとき,どのような手段で,当業者が,動作を自動的にカウントし,設定数に達するとその動作が自動的に停止するようになるのか,明らかということはできない。
(6) 寸動ボタンを押した後の寸動運転についてみる。
(ア) 甲第3号証,第5,7,9号証の各2によれば,本願明細書の発明の詳細な説明の欄の実施例の項には,寸動ボタンを押した後の寸動運転について,次の記載があることが認められる。
「また,上記連動運転以外として,上述した停止ボタンを押した後にトラブルを修復する場合や連続で作業する前の段取り作業及び連続作業を開始する場合,特に,寸動運転を実行する。この寸動運転では,プレス上刃(11)は,その作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に下死点(d)に達する。具体的には,寸動ボタン(26)による操作開始信号がシーケンス制御器(21)に入力され,それに応じて速度切替信号が切り替えスイッチ(29)に送出されて第2の速度設定器(28)に切り替えられ,その設定器(28)により固定設定された微速でもってプレス速度指令がドライバ(30)に送られ,これに基づいてサーボモータ(32)を駆動し,減速器(33)及び駆動機構(34)を介してプレス上刃(11)を上下動することになる。その結果,寸動ボタン(26)を押すと,その操作開始信号に基づいてシーケンス制御器(21)によりドライバ(30)でもってプレス上刃(11)はその下死点(b)から微速でもって上昇を開始し,作業者が寸動ボタン(26)を離せば,その操作開始信号がなくなることによりシーケンス制御器(21)によるドライバ(30)の制御でもってプレス上刃(11)が作動停止する。この状態で,トラブルを修復したり,各種の段取り作業を実行したり,或いは連続作業を開始する際にプレス上刃(11)とプレス下刃(10)との間に薄状シート部材(4)をセッティングすることになる。そして,作業が完了した時点で再度寸動ボタン(26)を押せば,前述の場合と同様に操作開始信号に基づいてシーケンス制御器(21)によりドライバ(30)でもってプレス上刃(11)が再度徴速で作動開始し,最終的に下死点(b)に達すれば,それをアブソリュートエンコーダ(35)により検出し,その検出信号に基づいてコントローラ(36)からシーケンス制御器(21)に制御信号を出力し,この制御信号に基づいてシーケンス制御器(21)からドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力し,その停止信号によりプレス上刃(11)が停止して作動完了する。この場合も,上述した連動運転の場合と同様,上記プレス上刃(11)はその下死点(b)から始動して下死点(b)で作動完了し,更に,徴速で作動するため,作業者が手を切断するようなことは起こり得ない。」(第22段落) (イ) 上記認定の記載,特に,「この寸動運転では,プレス上刃(11)は,その作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に下死点(d)に達する。」,「寸動ボタン(26)を押すと,その操作開始信号に基づいてシーケンス制御器(21)によりドライバ(30)でもってプレス上刃(11)はその下死点(b)から微速でもって上昇を開始し,作業者が寸動ボタン(26)を離せば,その操作開始信号がなくなることによりシーケンス制御器(21)によるドライバ(30)の制御でもってプレス上刃(11)が作動停止する。・・・再度寸動ボタン(26)を押せば,前述の場合と同様に操作開始信号に基づいてシーケンス制御器(21)によりドライバ(30)でもってプレス上刃(11)が再度徴速で作動開始し,最終的に下死点(b)に達すれば,それをアブソリュートエンコーダ(35)により検出し,その検出信号に基づいてコントローラ(36)からシーケンス制御器(21)に制御信号を出力し,この制御信号に基づいてシーケンス制御器(21)からドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力し,その停止信号によりプレス上刃(11)が停止して作動完了する。」との各記載によれば,寸動ボタンを押した後の寸動運転においては,まず,寸動ボタン(26)を押して寸動運転の操作を開始した後に,作業者が寸動ボタン(26)を離すと,操作開始信号がなくなって,シーケンス制御器(21)によるドライバ(30)の制御でプレス上刃(11)が作動停止するものとされ,再度寸動ボタン(26)を押すと再び寸動運転の操作を開始し,アブソリュートエンコーダ(35)において,プレス上刃(11)が下死点に達したことを検出してコントローラ(36)に検出信号を出力し,その検出信号に基づいて,コントローラ(36)がシーケンス制御器(21)に制御信号を出力し,この制御信号に基づいて,シーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)に停止信号を出力し,この停止信号によってプレス上刃(11)の作動を停止するものとされている。しかし,寸動ボタン(26)による上記のような動作を達成させるための手段の記載はない。他の部分をみても,上記手段に係る記載を見出すことができない。
(7) 特許請求の範囲に記載されたところが,当業者にとって,その文言に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術である場合には,例外的に,必ずしも,その説明を明細書に記載する必要はないとすべきであることは,前述したとおりである。しかしながら,本件全証拠を検討しても,本願発明の「上記連続トリミング機の作動時に上下動するプレス上刃は,連動運転において一つの成形品群の切断分離が完了する作動完了時に下死点で停止すると共にその作動開始時に前記下死点から始動し,停止ボタンの操作による作動停止後を含む寸動運転における作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に前記下死点に達するようにした」との構成が,当業者にとって,その文言に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術であると認定するに足りる資料を見いだすことはできない。
(8) 原告は,連動運転に関し,本願明細書の発明の詳細な説明の第6段及び第7段には,従来のトリミング機において,例えば6列の成形品群を1列1秒でトリミングし,合計6秒で一つの成形品群の切断分離を完了した後,プレス上刃(11)が次の動作に備えるため上死点(a)で停止することが記載されているから,ここに記載されている従来技術に接した者は,当業者でなくても,上記プレス上刃(11)の動作がプレス上刃(11)の上下動回数のカウンタなど何らかの手段で管理されていることを容易に理解できるはずである,と主張する。
前に述べたとおり,本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたシーケンス制御器(21)を中心とする制御機構の作用によると,プレス上刃(11)が単純に寸動運転により上下動を行う場合には,プレス上刃(11)が下死点に達すると,エンコーダ(35)からの検出信号に基づいて,コントローラ(36)がシーケンス制御器(21)に出力信号を送り,これを受けて,シーケンス制御器(21)は,ドライバ(30)にプレス上刃(11)の停止信号を出力する,ということになるから,プレス上刃(11)を下死点で停止させることができることは,明らかである。
しかしながら,本願発明の特許請求の範囲の記載によれば,問題となるのは,本願発明の連動運転,寸動運転に係る技術が,当業者にとって,その文言に接しさえすれば,それ以上に格別の説明はなくとも容易に実施することのできるという程度の技術であるか否かということである(なお,審決は,「単動運転」,「一工程運転」をも含めて旧特許法36条4項,5項の問題として取り扱っているけれども,本願明細書を検討しても,「単動運転」や「一工程運転」がどのような運転であるか,「連動運転」,「寸動運転」とどのような関係にあるのか不明であり,そうである以上,「単動運転」や「一工程運転」について旧特許法36条4項,5項の記載要件を論ずることはできない。)。
原告は,当業者でなくても,上記プレス上刃(11)の動作がプレス上刃(11)の上下動回数のカウンタなど何らかの手段で管理されていることを容易に理解できるはずであるというけれども,そのことを認めさせるに足りる立証は,全くなされていない。
ちなみに,原告が,上記立証のために,唯一提出しているのは,甲第14号証の3(株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書)である。しかし,これが上記事項を認めさせるものでないことは,上述のとおりである。
(付言するに,弁論の全趣旨によれば,原告は,平成12年7月6日の第1回弁論準備手続において,株式会社脇坂エンジニアリング製パンチングマシンWP-1000取扱説明書を甲第3号証として提出しようとしたこと,同書証(以下「旧甲第3号証」という。)の12枚目には,「1号機 ’93.8.4」との記載があったこと,その後,原告は,同書証の提出をせずに,その12枚目以下を除いたものと同一内容のものを,甲第14号証の3として提出したこと,が認められる。
旧甲第3号証における上記「1号機 ’93.8.4」との記載は,「1993年(平成6年)8月4日」を意味していることが明らかであるから,同号証は本願出願後に作成されたものではないかとの疑いを生み,ひいては,上記内容の甲第14号証の3も本願出願後に作成されたものではないか,との疑いを生むものである。
この点について,原告は,平成12年12月7日付け弁論準備手続において,「パンチングマシーン「WP-1000」のカムの作動角を本件発明用に変更するためのメモを,原告の従業員が,「WP-1000」の取扱説明書の上に透明粘着テープで貼り付け,それをコピーしたものである。」(原告準備書面(第2回))という弁解をしているものの,これを裏付ける立証は,なされていない。) (9) 以上検討したところによれば,本願発明の,「上記連続トリミング機の作動時に上下動するプレス上刃は,連動運転において一つの成形品群の切断分離が完了する作動完了時に下死点で停止すると共にその作動開始時に前記下死点から始動し,停止ボタンの操作による作動停止後を含む寸動運転における作動中,予め固定設定された微速でもって上下動し,その作動完了時に最終的に前記下死点に達するようにした」との構成は,本願明細書の発明の詳細な説明の項に,当業者が容易に本願発明の実施をすることができる程度には記載されていない,というべきである。
2 結論 以上によれば,本願出願は,その余の点について検討するまでもなく,旧特許法36条4項に規定する要件を満たしていないことが明らかである。原告主張の審決取消事由は理由のないことが明らかであり,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充
  • この表をプリントする