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関連審決 審判1999-35403
関連ワード 発明者 /  創作性(創作) /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  発明の範囲 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  要旨変更 /  異議申立 /  国際公開 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 312号 審決取消請求事件
原告 株式会社林原生物化学研究所
訴訟代理人弁護士安江邦治
同 弁理士須磨光夫
被告 江崎グリコ株式会社
訴訟代理人弁理士山本秀策
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35403号事件について平成12年7月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「風味持続性にすぐれた焼き菓子の製造方法」とする特許第2672728号の特許(平成3年6月19日出願,平成9年7月11日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成11年8月6日,本件特許を請求項1,2のいずれについても無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,同請求を平成11年審判第35403号事件として審理した結果,平成12年7月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月24日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 【請求項1】 「α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類。」 【請求項2】 「米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類の製造方法であって,α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む組成物を焼成またはフライする工程を含む,方法。」 (以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」といい,これらを「本件発明」と総称することがある。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。
なお,審決の甲第1号証(本訴の甲第26号証,1990年(平成2年)4月発行「FOOD MANUFACTURE」64巻4号の23頁〜24頁)を「引用刊行物1」と,審決の甲第2号証(本訴の甲第27号証,昭和57年12月5日株式会社食品と科学社発行「食品と科学」増刊号の56頁〜62頁)を「引用刊行物2」と,審決の甲第3号証(本訴の甲第28号証,特開昭56-144038号公報)を「引用刊行物3」と,審決の甲第4号証(本訴の甲第29号証,国際公開特許第WO89/00012号公報)を「引用刊行物4」と,審決の甲第5号証(本訴の甲第30号証,特開昭62-208273号公報)を「引用刊行物5」と,審決の甲第6号証(本訴の甲第31号証,1967年(昭和42年)10月1日沼田書店発行「パン製法」の98頁〜99頁,365頁〜366頁,399頁〜400頁,402頁)を「引用刊行物6」と,審決の甲第7号証(本訴の甲第9号証,特開昭63-240758号公報)を「引用刊行物7」と,審決の甲第8号証(本訴の甲第32号証,1979年(昭和54年)クインテッセンス出版株式会社発行「砂糖とむし歯」の119頁〜124頁)を「引用刊行物8」と読み替えることとし,これらの刊行物にそれぞれ記載された技術を順に「引用発明1」,「引用発明2」などという。
原告主張の取消事由の要点
審決の理由中,T(手続の経緯),U(本件発明),V(当事者の主張)を認める。W(甲各号証の記載内容)に,審決適示の事項が記載されていることは認める。しかし,引用刊行物1ないし6,8には,その他の事項も記載されている。
X(当審の判断)及びY(まとめ)を争う。ただし,一部認めるところがある。
審決は,@原告(請求人)主張の無効理由1について,本件発明が引用発明1と同一ではない,また,本件発明が引用発明1又はこれと引用発明2ないし4とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないと誤った認定判断をし(取消事由1,2),A無効理由2について,本件発明1及び2が引用発明5と同一ではない,また,引用発明5又はこれと引用発明6とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないと誤った認定判断をし(取消事由3),B無効理由3について,本件発明が引用発明7と同一ではない,また,引用発明7又はこれと引用発明8とに基づき当業者が容易に発明をすることができたものではないと誤った認定判断をし(取消事由4),さらに,C無効理由4について,本件出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)が特許法36条所定の記載要件を満たしていると誤った判断をした(取消事由5)。審決の犯したこれらの誤りは,いずれも,審決の結論に影響することが明らかであるから,審決は,違法なものとして取り消されなければならない。
1 取消事由1(本件発明が引用発明1と同一であること) (1) 審決は,「甲第1号証(判決注・引用刊行物1)には,「α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスから調製されるケーキ」が記載されているに等しいといえるものの,製品たる「ケーキ」中に,α,αトレハロースが,「0.1重量%以上」含まれているとまではいえないから,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。」(審決書8頁9行〜13行)と認定判断した。
引用刊行物1に,「α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスから調製されるケーキ」が記載されていることは,審決が正しく認定しているとおりである。
しかしながら,引用発明1の「コンプリートケーキミックス」中にα,αトレハロースが「0.1重量%以上」含まれているとはいえない,とした審決の認定判断は,誤りである。引用発明4は,引用発明1の発明者と同一の人物によりなされた同一の分野の技術であること,引用刊行物4は,同刊行物よりも前に頒布されている刊行物であること,引用刊行物4には,α,αトレハロースが「原料の総重量に対して0.1重量%以上」含まれていることが記載されていることからすれば,引用刊行物1に接した当業者(引用刊行物4についての知識を有しているはずである。)であれば,そこに,引用刊行物1にα,αトレハロースの含有量が明示されていなくても,当然に,「原料の総重量に対して0.1重量%以上」含まれているものと理解するのである。
これをより具体的にいうと次のとおりである。
(2) 引用刊行物4には,好ましい添加量として,実施例1に,全乳に対して0.5重量%のトレハロースを添加して噴霧乾燥し,乾燥牛乳を得たことが記載され,実施例2には,生鮮全卵に3重量%のトレハロースを添加し,乾燥卵を得たことが記載され,実施例5には,5重量%のトレハロースを添加して乾燥卵を調製したことが記載されている。引用刊行物4に記載された乾燥卵や乾燥牛乳に,α,αトレハロースが「0.1重量%以上」含まれているというのであれば,当然に,「原料の総重量に対して0.1重量%以上」含まれているものと解し得ることは,明らかである。
引用刊行物4には,「ヨークシャープディングバッター」及びそれを焼成した「ヨークシャープディング」が記載されている。1977年発行「フードマニュファクチャー」6月号27頁(甲第45号証)によれば,「ヨークシャープディング」は,「ケーキ」の一種として記載されている。「ヨークシャープディング」とは,「焼き菓子」と呼び得るものである。
引用刊行物1には,「トレハロースは食品の風味に殆ど影響しないので,数々の食品の保存に使用することができる。クアドラント社は,牛乳,卵,トマトピューレで成功している。」(訳文4頁12〜13行),「ローザー博士は,新鮮な牛乳はトレハロースを用いて乾燥することが可能であり,ひとたび再構成されると,乾燥される前の材料と同じ特性を示すと言っている。牛乳蛋白は,完全なままで残っているので,再構成された粉末を加熱すれば,表面に変性した蛋白質の膜が形成される。蛋白の変性防止は,再構成時に良い品質を得るための鍵である。そして,これは卵の乾燥にも当てはまる。」(訳文4頁14〜18行)などとの記載があり,トレハロース(α,αトレハロース)の添加目的は,乾燥時における食品の変性防止である。これは,引用刊行物4の添加目的と同じである。
しかも,引用刊行物1の「ブルース ローザー博士」は,引用刊行物4の発明者である「ブルース ローザー氏」と同一人物である。
このように,引用発明4には,引用発明1の乾燥卵,乾燥牛乳に関し,「焼き菓子」とする技術及びα,αトレハロースを原料の総重量に対して「0.5重量%以上」添加する技術が開示されているのである。
(3) 審決は,「甲第4号証(判決注・引用刊行物4)は,「全クリーム乳」及び「鶏の卵」のみに関する技術を開示したものではないこと,しかも,甲第4号証におけるα,αトレハロース添加の目的が,本件発明と相違することを併せ考えると,甲第4号証が,甲第1号証(判決注・引用刊行物1)の記載(3)に係るブルース ローザー博士が発明者であって甲第1号証に先立つこと1年3月前に頒布された国際公開公報であるからといって,甲第1号証に記載された乾燥卵や乾燥牛乳は,甲第4号証に記載された乾燥卵や乾燥牛乳であると限定的に解釈しなければならない必然性はない。」(審決書7頁33行〜8頁1行)と説示して,引用刊行物4に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳が,引用刊行物1に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳と同じものとはいえない,と判断した。
しかしながら,審決の上記判断は,非論理的である上に,引用刊行物1と同4との関係を誤解してなされたものであり,いずれにせよ,判断を誤っている。
「甲第4号証は,「全クリーム乳」及び「鶏の卵」のみに関する技術を開示したものではないこと」,「甲第4号証におけるα,αトレハロース添加の目的が,本件発明と相違すること」から,どういう理由で,引用刊行物4に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳が,引用刊行物1に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳と同じものである,と判断することの支障となるのか,全く理解できない。引用刊行物4には,「全クリーム乳」及び「鶏の卵」(乾燥卵及び乾燥牛乳)に係る技術と,「全クリーム乳」及び「鶏の卵」以外の技術とが開示されているのであるから,審決は,引用刊行物1の記載との関連で,前者の方のみを検討すれば足りるのである。
そうすると,引用刊行物1と同4とは,いずれも,乾燥卵や乾燥牛乳に係る技術が記載されている点で一致しているのである。
そもそも,引用刊行物4に記載されている乾燥卵及び乾燥牛乳と,引用刊行物1に記載されているそれらとの関連性が問題となっているときに,引用刊行物4におけるα,αトレハロース添加の目的が本件発明と相違するかどうかは,全く関係のないことである。本件で検討されるべきは,引用刊行物1に記載された乾燥卵や乾燥牛乳におけるトレハロースの添加目的と,引用刊行物4に記載された乾燥卵や乾燥牛乳におけるトレハロースの添加目的との異同である。
したがって,引用刊行物4に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳が,引用刊行物1に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳と同じものとはいえない,とした審決の判断は,誤りである。
(4) 以上のとおり,引用刊行物1に記載された「ケーキ」には,α,αトレハロースが「原料の総重量に対して0.1重量%以上」含まれる「焼き菓子」が記載されている,といい得ることが明らかであるから,審決は,「甲第1号証には,「α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスから調製されるケーキ」が記載されているに等しいといえる」とした点において正しいものの,その「ケーキ」中に,「α,αトレハロースが,「0.1重量%以上」含まれているとまではいえないから,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。」(審決書8頁11行〜13行)とした点において,明らかに誤っているものということができる。
(5) 本件発明1についての判断が上述したように誤ったものである以上,本件発明2についての判断も,また,誤ったものであることは,自明である。
2 取消事由2(本件発明が引用発明1又は引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること) (1) 仮に,引用刊行物1に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳が,引用刊行物4に記載されている乾燥卵や乾燥牛乳とが同一であると認定されなかったとしても,本件発明1と引用発明1とは,前者においては,含まれるα,αトレハロースの量が「原料の総重量に対して0.1重量%以上」であるのに対し,後者では,原料の総重量に対するα,αトレハロースの量が明記されていないという点で相違しているのみである。
「α,αトレハロース」を「0.1重量%以上」含むということは,当業者が恣意的に適宜なし得る単なるα,αトレハロースの含有量の特定にすぎず,技術的に何の意味もない事柄である。したがって,本件発明1は,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,という以外にないものである。
引用発明1に,引用発明2及び4を適用することは,当業者にとって容易なことである。したがって,本件発明1は,仮に,引用発明1のみに基づいては容易に発明することができなかったとしても,引用発明1,並びに,引用発明2及び同4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 審決は,「本件発明1は,「作りたての風味が長持ちする」という「焼き菓子類の風味保持」を,その目的とするものであるところ,甲第1号証(判決注・引用刊行物1)乃至甲第4号証(判決注・引用刊行物4)に記載の事項を組み合わせても,「焼き菓子類の風味保持」を目的として,α,αトレハロースを0.1重量%以上添加するということは導き出すことができないので,本件発明1のような構成を採用することは,当業者が容易に想到し得る域を越えているといわざるを得ない。」(審決書8頁24行〜29行)と判断した。しかし,この判断は,誤りである。
本件発明における「風味保持」という効果は,「α,αトレハロース」を「0.1重量%以上」含むかどうかに関係なく,単に「トレハロース」によって得られる効果である。
本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)及び平成12年3月24日付けの上申書(甲第42号証,本件特許についての別の無効審判事件である平成11年審判第35403号事件において被告(被請求人)が提出したものである。)によれば,実施例1の煎餅の配合は,粳米200gとトレハロース0.2gのほか,水が使用されている。水を含めないで計算すると,実施例1の配合におけるトレハロースの含有量は,0.09%となる。水を1.8リットル使用したとすると,0.06%となる。明らかに,本件発明の「0.1重量%以上」の範囲外である。本件発明に係る出願当初の明細書の記載によると,上記実施例1についても,パネラー23人中の21,22人が好ましいと評価しており,「0.1重量%以上」である実施例2ないし7の場合と同様の結果が得られている。したがって,「トレハロース」含有量が「0.1重量%未満」の場合と「0.1重量%以上」の場合において得られる作用効果には有意差が全くないということになる。
そうすると,「0.1重量%以上」のトレハロースの含有量は,決して「好ましい範囲」ともいえないのであるから,「焼き菓子類の風味保持」という目的(課題)と,α,αトレハロースの添加量との間には,格別の関係はなく,「0.1重量%以上」というα,αトレハロースの添加量の特定は,「焼き菓子類の風味保持」という本件特許発明の目的(課題)や,「焼き菓子類の風味保持」という作用効果との関係においては,臨界的意味はもとより何の意味も有しないものである。
「0.1重量%以上」というα,αトレハロースの添加量の特定は,当業者が恣意的に適宜なし得る,単なるα,αトレハロースの含有量を特定したにすぎず,審決がいうように,「「焼き菓子類の風味保持」を目的として」なされたものではない。
(3) 「0.1重量%以上」というα,αトレハロースの添加量の特定が,「焼き菓子類の風味保持」という本件発明の目的(課題)や「焼き菓子類の風味保持」という作用効果との関係で何の意味も有しないものであることは,本件発明の出願の経緯からも認めることができる。
本件出願時の特許請求の範囲の記載は,「請求項1 トレハロースを含有させることを特徴とする風味持続性にすぐれた焼き菓子の製造方法。」,「請求項2 焼き菓子が米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類又はドーナツ類であることを特徴とする請求項1に記載の風味持続性にすぐれた焼き菓子の製造方法。」というものであった。ところが,被告は,平成7年10月18日付けの拒絶理由通知,平成8年12月6日付けの拒絶理由通知を受けて,2度にわたり,特許請求の範囲を補正し,「トレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」とした。被告は,平成9年6月13日付けで,特許査定を受けたものの,その後の特許異議の手続において,審判官から,平成10年7月24日付けで取消理由通知を受け,「トレハロース」を「α,αトレハロース」に訂正し,「焼成またはフライされた」との文言を加えた。しかし,明細書の内容は,当初明細書のままであった。
したがって,出願当初の特許請求の範囲(請求項1)の記載にあるとおり,トレハロースを含有させることで,「焼き菓子類の風味保持」という作用効果を奏するのであって,この効果は,「α,αトレハロース」の含有量を「0.1重量%以上」とするという本件発明1に記載された構成とは,関係がない。
上記手続補正は,その時点で,本来,明細書の要旨を変更するものとして却下されるべきものであり,上記訂正は,その時点で,特許請求の範囲を実質的に変更するものであるとして,排斥されるべきものであったのである。
(4) 本件発明1についての判断が上述したように誤ったものである以上,本件発明2についての判断も,また,誤ったものであることは自明である。
3 取消事由3(本件発明が,引用発明5と同一であること,あるいは,引用発明5又は同発明と引用発明6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること) (1) 審決は,「甲第6号証(判決注・引用刊行物6)には,「アメリカで行われている配合の平均」として,イーストの配合の最低と最高は,(低)で「3.9%」,(高)で「10.8%」であることが記載されているが,該イーストは,生酵母,或いは乾燥酵母の何れのものか不明であるので,「菌体内にα,αトレハロースを7.1%含有する酵母を含む生地を用いて製造されるイーストドーナツ」中のα,αトレハロースが,原料の総重量に対して0.1重量%以上含むとは必ずしもいうことができない。」(審決9頁19〜25行参照),と判断した。
しかし,仮に,引用刊行物6に記載されているイーストの配合が乾燥酵母の配合であると仮定した場合で計算すると,α,αトレハロースの原料の総重量に対する割合は,0.38重量%あるいは0.14重量%となる。一方,仮に,引用刊行物6に記載されているイーストの配合が生酵母のものであるとした場合で計算すると,イースト高配合の場合,0.12重量%となる。
原告(請求人)は,平成12年2月25日付けの口頭審理陳述要領書において,引用刊行物5が,配合されるイーストが生酵母,乾燥酵母のいずれであるかにかかわりなく,「菌体内にα,αトレハロースを7.1%含有する酵母を含む生地を用いて製造されるイーストドーナツ」を開示していると主張した。にもかかわらず,審決は,その点について何らの判断をも行わずに,上記のような判断を下した。審決に判断の遺脱があることは明白である。
(2) 審決は,引用発明5及び6には,本件発明の目的である「焼き菓子類の風味保持」に関する事項が開示されていないとの理由で,引用発明5及び6を組み合わせて本件発明1のような構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない,と判断した(審決9頁26行〜30行参照)。
しかしながら,前述したとおり,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上」と特定することに何の技術的意味もなく,本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
(3) 本件発明1についての判断が上述したように誤ったものである以上,本件発明2についての判断も,また,誤ったものであることは自明である。
4 取消事由4(本件発明が引用発明7と同一であること,あるいは,引用発明7又は同発明と引用発明8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること) (1) 審決は,「甲第7号証(判決注・引用刊行物7)には,α,αトレハロースを含有するシラップ状甘味料を各種調理,製菓,製パン等に使用することが記載されているだけであって,「菓子」のうち「焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類」という特定のものにおいて,α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上を含ませると,焼き菓子類の風味が保持されるという発明が具体的に開示されているとはいえない。」(審決10頁12行〜18行)と判断した。
原告(請求人)は,平成11年8月6日付けの無効審判請求書において,引用刊行物7に記載されたα,αトレハロースを含有する食品素材が開発された背景を,その記載に即して説明し,同刊行物に記載されたα,αトレハロースを含有する食品素材が,う蝕を始めとする砂糖による弊害のない代替甘味料の開発という技術的な流れの中で為されたものであり,蔗糖に代わる低う蝕性の甘味料として開発されたものであることを述べ,そして,このような技術的な背景を考慮に入れると,「α,αトレハロースを含む食品素材が使用された菓子の中に,請求項1に係る発明が挙げる「焼き菓子」が含まれないと考える方が不自然である。」と述べた。
ところが,審決は,単に,引用刊行物7には,本件発明と無関係な発明が記載されているといっているのみであって,本件発明が引用刊行物7に記載されているか否かについての判断を行っていない。審決は,上記主張を請求人(原告)の主張に加えておらず,判断もしていない。
審決は,原告の主張に対する判断を怠り,引用刊行物7の記載事項について誤解し,かつ,本件発明に対して重大な誤解をして,その結果,誤った判断をしたものである。
(2) 審決は,引用発明7及び8には,本件発明の目的である「焼き菓子類の風味保持」に関する事項が開示されていない,との理由で,引用発明7及び8を組み合わせて本件発明1のような構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない,と判断した(審決9頁26行〜30行参照)。
しかしながら,前述したとおり,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上」と特定することに何の意味もなく,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上」とすることは,当業者が容易になし得た事柄である。
審決は,引用発明7及び8との関係で,本件発明1の進歩性について,実質的には何の判断をもしていないというべきである。
(3) 本件発明1についての判断が上述したように誤ったものである以上,本件発明2についての判断も,また,誤ったものであることは自明である。
5 取消事由5(明細書の記載不備) 審決は,本件明細書が特許法36条所定の記載要件を満たしているか否かを判断するに当たって,判断を怠った。
原告は,審判段階において,無効理由4について,スポンジケーキは,パンと同様に,長期間の保存ができないものであり,風味保持の問題は生じない,と主張していた。その際,原告(請求人)は,「実験報告書」(審決の甲第9号証,本訴の甲第33号証)でもって,訂正明細書実施例6記載の配合に従って所定量のα,αトレハロースを添加して試作したスポンジケーキは,訂正明細書実施例6に記載されているのと同様に,アルミで包装して30℃で保存したところ,保存4日後には表面にカビが発生したという事実を指摘していた。
ところが,審決は,「スポンジケーキとパンとは,本来,水分活性或いは水分含量で相違するものであるから,甲第9号証の「実験報告書」の一事でもって,スポンジケーキとパンとは区別することができないので,「ケーキ類」が特許請求の範囲に記載されていることは不都合であるとはいえない。」(審決書11頁19〜22行)と述べ,「実験報告書」に何らの考察をも加えず,本件明細書が特許法36条所定の記載要件を満たしていないとする原告の主張を排斥した。その他の原告の重要な主張に対しても,判断を怠っている。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,いずれも正当であり,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本件発明が引用発明1と同一であること)について (1) 原告の主張は,引用発明1の乾燥卵や乾燥牛乳におけるトレハロースの添加目的と,引用発明4の乾燥卵や乾燥牛乳におけるトレハロースの添加目的とが同一であることを根拠としている。しかし,仮に,引用刊行物1と同4との間でトレハロースの添加目的が同一であるとしても,そのことは,何ら,それらが本件発明と同一であることの根拠となるものではない。本件発明は,トレハロースによる焼き菓子の風味を保持することを目的とする技術であるのに対して,引用発明1及び4は,トレハロースにより蛋白の品質を保持すること(蛋白の変性防止)を目的とする技術である。このように,本件発明と根本的に技術思想を異にする技術をどのように重ね合わせても,本件発明には想到し得ないのである。さらにいえば,本件発明の,焼き菓子の風味を保持する作用は,対象物を数百℃で熱し,アミノ・カルボニル反応→ストレッカー分解→ピラジンの生成などという一連の化学反応をさせた結果として奏するものであり,トレハロース自体で当然に生じる作用ではない。
本件発明は,引用発明1及び4とは,技術が全く異なるものである。
したがって,引用発明1及び4が本件発明と同一であるなどということは,あり得ないことである。
原告は,被告の手続補正や訂正が,特許請求の範囲を実質的に変更するものであると主張するが,失当である。
例えば,当業者にとって,「トレハロース」といえば,特に断りのない限り,α,αトレハロースを指すのであり,これが当業界の常識である。したがって,被告が,訂正請求において,「トレハロース」を「α,αトレハロース」に変更したことが要旨変更となるはずがない。
(2) 引用発明1には,「原料の総重量に対し0.1重量%以上のα,αトレハロースを含む」との技術の開示はない。
上述したとおり,引用刊行物4は,本件発明とは関連性のない技術を記載しているのであるから,同刊行物によってトレハロースの含有量を推定しても無意味である。
原告は,引用発明4にいう「ヨークシャープディング」が本件発明にいう「焼き菓子」であると主張する。しかし,この主張は誤りである。甲第45号証によれば,「ヨークシャープディング」は,デザートではなく主食品とされており,デザートが本件発明にいう「焼き菓子」に相当するから,「ヨークシャープディング」を,本件発明にいう「焼き菓子」とすることはできない。
2 取消事由2(本件発明が引用発明1又は引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること)について (1) 前述したとおり,本件発明は,トレハロースによる焼き菓子の風味を保持することを目的とする技術であり,トレハロースによる蛋白の品質を保持すること(蛋白の変性防止)を目的とする技術である引用発明1及び4とは,技術として全く異なるものである。
そして,本件発明の,トレハロースによる焼き菓子の風味を保持する技術は,過去に存在しておらず,当業者においても,全く想到し得なかったものである。このことは,引用刊行物1に,「トレハロースは食品の風味に殆ど影響しない」と記載されており,著者が,本件発明の,トレハロースによる焼き菓子の風味を保持する技術に全く気付いていないことからも明らかである。
(2) 出願に係る発明の特許請求の範囲をどのような内容のものとして特定するかは,出願当初の明細書に記載された発明の範囲内で,特許法の規定の下に,特許庁,異議申立人,無効審判請求人あるいは東京高裁判決との間合いを見ながら,特許査定までに出願人が適宜判断してゆけばよい事柄である。出願当初の特許請求の範囲の記載と特許査定時の特許請求の範囲の記載は,前者から後者への移行が禁反言の原則に反する場合を除き,必ずしも一致していることを要求されていない。
本件出願の当初明細書には,トレハロースが0.1重量%以上(各実施例1〜7の各表の数値から自明である。)であること,トレハロースにはαα,αβ及びββの3種の異性体があり,α,αトレハロースは天然に存在し,キノコ,カビ,酵母などに広く分布すること,原料の総重量に対しトレハロースを0.1重量%以上含ませると風味保持に優れた焼き菓子が提供されることが記載されているから,被告は,審査段階において,明細書の記載に基づいて,補正によって,特許請求の範囲を特定したのであり,要旨変更などといわれる筋合いはない。
3 取消事由3(本件発明が,引用発明5と同一であること,あるいは,引用発明5又は同発明と引用発明6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること)について 酵母は,一度栄養源として外界から取り込んだ糖類を,加熱から自己の生命を守り維持するために,生きている限り,菌体内に保持するものであり,これを菌体外に放出することはしない。糖類の一つであるトレハロースもその例外ではなく,菌体内に存在したままである。酵母が加熱により乾燥され,ついには死に至っても,トレハロースは,他の糖と同様に菌体内に保持されたままなのである。トレハロースは,菌体外に拡散しないのであるから,酵母の菌体内にトレハロースが何重量%存在するのかなどという議論や引用刊行物5に開示されるパンやケーキにその酵母が使用されたとしたらどうか,などという議論は,全く意味がない。
4 取消事由4(本件発明が,引用発明7と同一である,あるいは,引用発明7又は同発明と引用発明8に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること)について 引用発明7に,本件発明の,トレハロースによる焼き菓子の風味を保持する技術が開示されていない以上,同発明を本件発明と同一であるとすることができないことは,明らかである。引用発明8も,単に市販の菓子のう蝕誘発能を開示しているにすぎず,本件発明とは関係がないから,引用発明7と8とを組み合わせても,本件発明に思い至ることはあり得ない。
5 取消事由5(明細書の記載不備)について 原告の「実験報告書」は,本件発明の目的,効果を確認することを意図したものではなく,その第1項の「1.目的」に記載されているように,「スポンジケーキは長期間保存のできる焼き菓子であるか否かを確認する。」ことを目的として,スポンジケーキを30℃に保存してカビの発生を観察したというものである。
したがって,上記実験報告書は,本件発明とは何の関係もない,「カビ発生観察の記録」にすぎない。審決に違法はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明が引用発明1と同一であること)について (1) 本件発明1に係る特許請求の範囲の記載が,「α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類。 」というものであることは,前記(第2,2)のとおりである。
(2) 甲第26号証によれば,引用刊行物1には,次の記載があることが認められる。
「今日食品工業界が直面している最大の挑戦の一つは,品質を低下させることなく食品を保存することである。糖類のトレハロースによる天然の保護機構は保存に関わる問題解決の鍵となるであろう。」(訳文1頁4行〜6行)「天然保存料 食品の安定性と安全性は,食品工業界に於いて長年に亙って物理的あるいは化学的な保存方法が採用されてきた主要な研究である。・・・生体物質はどの様にして障害なしに乾燥を生き延びているのであろうか?これが,ケンブリッジに設立された,現在,創業4年目の研究企業である,カドラント社の創設者であり科学部長であるブルース ローザ博士を魅了した問題である。単純な二糖類であるトレハロースは,普通に存在し,全ての休眠生物で見出されている。」(訳文1頁7行〜2頁1行)「トレハロースは無毒でカロリーのある二糖類で,キノコ,蜂蜜,ある種の穀物,ブラインシュリンプやパン酵母で見出されている。」(訳文2頁5〜6行),「トレハロースは口内でわずかな清涼効果をもつものの,甘味を殆ど感じさせないため風味にはわずかしか影響しない。」(訳文2頁9行〜10行)「現在,トレハロースは,パン酵母から抽出されており,試験研究用試薬としてのみ利用可能である。」(同4頁2行〜3行)「トレハロースは食品の風味に殆ど影響しないので,数々の食品の保存に使用することができる。クアドラント社は,牛乳,卵,トマトピューレで成功している。ローザー博士は,新鮮な牛乳はトレハロースを用いて乾燥することが可能であり,ひとたび再構成されると,乾燥される前の材料と同じ特性を示すと言っている。牛乳蛋白は,完全なままで残っているので,再構成された粉末を加熱すれば,表面に変性した蛋白質の膜が形成される。蛋白の変性防止は,再構成時に良い品質を得るための鍵である。そして,これは卵の乾燥にも当てはまる。」(同4頁12行〜18行)「高エネルギー乾燥食品もまた,トレハロースにより安定化できる,カロリー価の利用,例えば,牛乳,卵及び新鮮果実の調製品は,高エネルギー飲料のベースとすることができる。」(訳文4頁22行〜24行)「カドラント社は,現在の乾燥食品の幾つかに対する良くないイメージが,技術を発展させる最大の障壁となっていると考えている。質の良さ及び簡便さがよりよい製品群を提供する鍵であり,卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスは,ニーズに応じた製品となりうる。蛋白質の構造が保持されていることから,機能も保たれており,通常の柔らかい組織と褐変の発現が導かれるからである。」(同5頁7行〜12行) 引用刊行物1の上記認定の記載によれば,引用刊行物1には,α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスが開示されていることが明らかである (3) 甲第27号証によれば,昭和57年12月5日株式会社食品と科学社発行「食品と科学」増刊号(引用刊行物2)には,次の記載があることが認められる。
「プレミックスとは「Prepared Mix」の略語で,日本プレミックス協会によれば,「ケーキ,パン,惣菜などを簡便に調理できる調整粉で,小麦粉等の粉類(澱粉を含む)に糖類,油脂,粉乳,卵粉膨張剤,食塩,香料などを必要に応じて適正に配合したもの」と定義づけている。」(56頁1段2行〜8行)「プレミックスは次第にその使用のメリットが認識され,また品種も豊富となり,一般家庭をはじめ,製パン・製菓業界,飲食業界,総菜業界に広く使用されるようになった。」(同段18行〜2段2行)「プレミックスは通常,水,卵,イースト等を添加するだけで簡便に調理できることが特徴であるが,近年アメリカにおいては,商品種類の多様化(油脂高配合品,バラエティ・ブレッドの出現),量産向け適合製品の要望(中種法適合ミックス),経済性の追求等の理由により,便用時に小麦粉,油脂,砂糖を添加するタイプのプレミックスか登場した。すなわち便用法別のタイプで,次の三種に分類することかできる。(イ)Complete Mix(完全ミックス)・・・」(58頁3段3行〜4段5行)「(イ)コンプリート・ミックス・・・イーストと水さえ添加すればよいように,パンを作るに必要な全資材を混合したもの。」(61頁1段5行〜7行)「現在,わが国で市販されているプレミックスのほとんどはコンプリート・ミックスであり,一種類のプレミックスを使用して商品のバラエティ化を計る場合や自店の特徴を打ち出す場合にのみ,使用者側で若干の原材料を加えているのが実情である。」(同段21行〜27行) 同書籍の上記記載によれば,「コンプリートケーキミックス」からケーキ,パン,惣菜など調理することは,本件出願時,周知の事項であったことが認められる。
(4) 甲第28号証(特開昭56-144038号公報,引用刊行物3)及び弁論の全趣旨によれば,ケーキミックスの代表的な調理方法として,焼成するという方法が,本件出願当時,広く知られていたことが認められる。
(5) 上記認定の周知の事実を勘案すれば,引用刊行物1には,α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスから調理される,焼成されたケーキ類が開示されていることが明らかである。
(6) 本件発明1と引用発明1とを対比すると,両者は,α,αトレハロースを含む,焼成されたケーキ類であるという点で一致し,唯一,本件発明1においては,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」のに対し,引用発明1においては,含有量が明らかでない点で相違するのみである。この点は,審決も同様に認めているところである。
(7) 引用発明1において,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」ことが自明であるかどうかについて検討する。
(ア) 「α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類。」とは,言い換えれば,「α,αトレハロースを含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類」のうちで,含まれるα,αトレハロースの割合が原料の総重量に対して0.1重量%未満であるものを除いたすべて,ということである。
(イ) 引用刊行物1の前記認定の記載によれば,トレハロースは,糖類でありながら,甘味をほとんど感じさせず,蛋白の変性防止に威力を発揮し,しかも,風味にほとんど影響しないという,食品の天然保存料として非常に有効な働きをするものであることになることが,明らかである。
そうであるならば,引用刊行物1に開示されている,「コンプリートケーキミックスから調製されるケーキ」に添加されるα,αトレハロースの量が原料の総重量に対して0.1重量%未満であるというような程度の微量でなければならないと考えさせるような事情が認められない限り,同刊行物に接した当業者としては,そこに,少なくとも,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」ものも,記載されていると理解することができるものというべきである。ところが,上記特別の事情が存在したことを認めさせる資料は,本件全証拠を検討しても見出すことができない。
したがって,「甲第1号証(判決注・引用刊行物1)には,「α,αトレハロースを用いて乾燥された卵や牛乳を含むコンプリートケーキミックスから調製されるケーキ」が記載されているに等しいといえるものの,製品たる「ケーキ」中に,α,αトレハロースが,「0.1重量%以上」含まれているとまではいえないから,本件発明1は,甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。」(審決書8頁9行〜13行)とした審決の認定判断は,誤りというべきである。
原告の取消事由1の主張は,理由がある。
2 取消事由2(本件発明が引用発明1又は引用発明1ないし4に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであること)について (1) 仮に,原告の取消事由1の主張に理由がないとしても,取消事由2の主張には理由がある。
本件発明1と引用発明1とを対比すると,両者は,α,αトレハロースを含む,焼成されたケーキ類であるという点で一致し,唯一,本件発明1においては,α,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」のに対し,引用発明1においては,含有量が明らかでない点で相違するのみであることは,前述したとおりである。
そして,引用発明1に関連して上記1で行った認定の下では,引用刊行物1に接した当事者は,当事者として備えている応用力をごくわずか働かせさえすれば,引用発明1におけるα,αトレハロースの含有量を「原料の総重量に対して0.1重量%以上含む」ものとすることができたはずである,ということができる。
当業者が引用発明1を出発点にして本件発明1に想到することが容易であったことは,(2)以下に述べるとおり,引用刊行物4をみるとより明らかとなる。
(2) 甲第29号証によれば,引用刊行物4には,次の事実が記載されていることが認められる。
「トレハロース,すなわちα-D-グルコピラノシル-α-D-グルコピラノサイド(判決注・「α,αトレハロース」のことである。)は,植物及び動物の両方で,乾燥に耐えるある種の生物で見出される天然の非還元性二糖類である。」(訳文2頁24行〜末行)「一般に,トレハロースの添加量は,食品原料に,例えば,トレハロースと蛋白質の重量比で,1:2.5〜1:15の比で加えられる。好ましくは,1:2.5〜1:7.5である。従って,例えば,全乳は3.3%の蛋白質を含有しているので,1:6.6の重量比となる0.5重量%のトレハロースを添加することによって効果的に安定化することができる。全卵は12.3%の蛋白質を含有しているので,約1:2.5〜1:4の重量比となる3重量%〜5重量%のトレハロースを添加することにより安定化することができる。」(訳文3頁5〜11行)「実施例2 鶏の卵 鶏の生鮮生卵は,特に噴霧乾燥のような高温の脱水に感受性が高い。できあがった製品は,始発原料に比して有意に性能及び感覚特性で劣っている。この実験では,3重量%のトレハロースを鶏の生鮮生卵に添加した。これは,卵とトレハロースが均等に混合されるように泡立てることによって行われた。
混合物をガラス乾燥プレートに拡げて,温風乾燥オーブンで乾燥させた。温度は45℃〜50℃であった。トレハロースを添加していない標品を調製し,対照品として一緒に乾燥した。標品は全ての水分が除去されるまで乾燥し,卵の固形分のみが残った。最終的に乾燥卵フレークを,容易に再構成が可能な微粉末を調製するために粉砕した。粉末は,冷水を加えて再水和し,理論的に未加工の卵の固形分比に戻した。トレハロースを含有する標品は,よりなめらかに均質に分散することが認められた。卵液は,以下の2つの方法で試験された:」「1.妙り卵の調製 ・・・」「2.ヨークシャプディングバッターの調製 40gの卵液と40gの小麦粉と100g生鮮牛乳及び2gの塩からなるバッターを調製した。このバッターを予め加熱した銅製の容器に入れて,200℃で20分間,未処理の乾燥卵を使用した対照品のバッターと共に焼成した。全ての標品が同じ焼成条件となるように注意を払った。できあがったプディングは,嵩,容積及びテクスチャーを検査した。トレハロースを含有する標品は嵩が増大し,形もより均一であった。食感は対照品に比して優れていた。 結論 これらの結果は,対照品の蛋白質は実質的に変性していたのに対して,トレハロースを使用した標品の蛋白質活性は,より生鮮卵に近いものであったことを示している。」 (3) 引用刊行物4のヨークシャープディングバッターの調製についての記載に従って調理されたヨークシャープディングに含有するα,αトレハロースの含有量を計算する。
卵液中のα,αトレハロースの添加量 3重量% 卵液中40g中に含有されるα,αトレハロースの重量40g×3重量%=1.2g α,αトレハロースを除いたヨークシャー・プディング・バッターの総重量(卵液40g+小麦粉40g+生鮮牛乳100g+塩2g-α,αトレハロース1.2g) 180.8g α,αトレハロースを除いたヨークシャー・プディング・バッターの総重量(180.8g)に対するα,αトレハロース(1.2g)の含有率約0.66重量%(1.2g÷180.8g) 上記計算によれば,引用刊行物4に記載されたヨークシャープディングに含まれるα,αトレハロースの含有量は,0.1重量%以上となっていることが,明らかである。
(4) 一方で,引用刊行物1には,本件発明1にいう「α,αトレハロースを含む,焼成されたケーキ類」が開示されており,他方で,引用刊行物4には,α,αトレハロースの含有量が原料の総重量に対して0.1重量%以上である,焼成されて調理されるヨークシャープディングが開示されているのであるから,当業者のみならず,一般人であっても,ごくわずかの応用力を働かせるだけで,引用刊行物1及び4に基づいて本件発明1に想到し得たものというべきである。
(5) 審決は,「本件発明1は,「作りたての風味が長持ちする」という「焼き菓子類の風味保持」を,その目的とするものであるところ,甲第1号証乃至甲第4号証に記載の事項を組み合わせても,「焼き菓子類の風味保持」を目的として,α,αトレハロースを0.1重量%以上添加するということは導き出すことができないので,本件発明1のような構成を採用することは,当業者が容易に想到し得る域を超えているといわざるを得ない。」(審決書8頁24行〜29行)と説示する。
(ア) 本願発明1は,前述したとおり,「α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む,焼成またはフライされた米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類。」という構成のものであるにすぎないから,本件発明が「焼き菓子類の風味保持」を目的とするものであること自体が,進歩性を肯定することは,およそあり得ないことである。本件発明1の進歩性の有無は,引用発明とされるものから本件発明1の上記構成に至ることに,特許を与えるに値する困難の克服が認められるか否か,自体によって決められるべき事柄であり,異なった目的の下に,同一の困難を克服して同一の構成に至ることは,十分あり得ることであるからである。審決の上記判断は,「焼き菓子類の風味保持」の目的という,それ自体,本件発明1の構成要件になり得ないものを構成要件とするに等しく,それだけで,既に,基本的な誤りを犯すものという以外にない。
(イ) 特許制度は,「創作」を保護する制度であり(特許法1,2条参照),「発見」自体は,保護の対象としていない。他方,特定の発明の作用効果は,客観的には,すべて,当該発明の構成の必然的な結果であり(逆にいえば,当該構成の必然的な結果でないものを当該発明の作用効果とすることはできない。),構成とは別の要素として存在し得るものではない。そうだとすると,構成自体は既に公知となっている発明についてはもちろん,構成自体についての容易推考性の認められる発明についても,その作用効果のみを理由に特許性が認められるということは,本来あり得ないことである,ということもできるであろう。ただ,構成自体についての容易推考性の認められる発明であっても,その作用効果が,その構成を前提にしてなおかつ,その構成のものとして予測することが困難であり,かつ,その発見も困難である,というようなときに,一定の条件の下に,推考の容易なものであるとはいえ新規な構成を創作したのみでなく,上記のような作用効果をも明らかにしたことに着目して,推考の困難な構成を得た場合と同様の保護に値すると評価してこれに特許性を認めることには,特許制度の目的からみて,合理性を認めることができると考えられる。しかし,このような立場に立ったとしても,特許制度は上記のとおり「創作」を保護するものであって「発見」を保護するものではない,ということを前提にする限り,構成自体の推考は容易であると認められる発明に特許性を認める根拠となる作用効果は,当該構成のものとして,予測あるいは発見することの困難なものであり,かつ,当該構成のものとして予測あるいは発見される効果と比較して,よほど顕著なものでなければならないことになるはずである。
上記の見地に立って,本件発明1の効果を検討する。
(ウ) 甲第22号証によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,本件発明の効果との関連で,次の記載があること,それ以外に記載はないことが認められる。
【産業上の利用分野】 「本発明は,天然の糖類であるトレハロースを含有せしめることで,作りたての風味が長持ちする焼き菓子の製造方法に関するものである。」(第1段落) 【従来の技術と本発明が解決しようとする課題】 「焼き菓子類は,製造直後から風味劣化が始まるので,その対策として,たとえばフレーバーを加えて風味補強するあるいは酸素透過性の低い包材を使った脱酸素材を同封することなどによって酸化抑制することが従来から行なわれている。しかし,フレーバーの添加は,製品本来の風味とはいえずおいしさの質的な満足感を与えにくくかつフレーバーの劣化による風味低下も著しい。一方,酸化抑制のための脱酸素材の使用は,油脂を多量に含む製品では確かに効果が期待できるが,脱酸素材の封入のための装置を必要とするなど不便な点もある。このように,焼き菓子類の風味保持は技術的に非常に困難な課題であった。」(第2段落) 【課題を解決するための手段】 「本発明では,トレハロースを原料混合時に添加し,好ましくは全配合量の0.1%以上混合時に加えることにより,後は常法に従い成形し,焼成もしくはフライするなどして焼き菓子を製造するものである。トレハロースは粉体のまま他原料に混合するかあるいは水に溶かしておいて混合しても良い。トレハロースは,2分子のD-グルコースが1,1結合した非還元性2糖類である。結合様式がα,α,α,β-,β,β-の3種の異性体があるが,天然にはα,α体が存在する。キノコ,海藻,カビ,酵母など広く分布し,特に昆虫では主要血糖として存在しエネルギー源と言われている。・・・トレハロースは上記の如き焼き菓子の原料混合時に他の原料と同時に粉体又は水に溶かした液状で添加混合する。添加,混合には格別の手段を要しない。添加量は全原料混合物中0.1%以上とするのが好ましい。」(第4,6段落) 【作用】 「トレハロースがどのようにして焼き菓子の風味保持機能発揮するのかははっきりしないが,焼き菓子の組織内にトレハロースの膜を形成して保護するのではないかと推定される。」(第8段落) また,同号証によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の欄の実施例の項には,実施例1として, 「表1の配合に基づき,常法により煎餅を試作し,アルミで包装したものを30℃6ケ月保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したものの風味がすぐれていた。パネラー23人中23人が対照品は煎餅本来の香ばしさが無くなり商品価値無しと判断した。一方,本発明品は21人がまだ煎餅本来の香ばしさを保持しており,十分商品価値があると評価した。」(第9,10段落) 実施例2として, 「表2の配合に基づき,常法によりウェハースを試作し,アルミで包装したものを30℃3ケ月保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したものの風味がすぐれていた。パネラー23人中23人が,対照品はウェハース本来の風味が無くなり商品価値無しと評価した。一方,本発明品は21人がまだウェハース本来の風味を保持しており,十分商品価値があると評価した。」(第11,12段落) 実施例3として, 「表3の配合に基づき,常法によりチョコクッキーを試作し,アルミで包装したものを30℃6ケ月保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したもののチョコ風味もよく残っており風味がすぐれていた。パネラー23人中23人が対照品はチョコクッキー及びクルミのナッツ感の減退が著しく商品価値がないと評価した。一方,本発明品は22人がまだチョコクッキー及びクルミのナッツ感があり,クッキー本来の風味を保持しており,十分商品価値があると評価した。」(第13,14段落) 実施例4として, 「表4の配合に基づき,常法によりクラッカーを試作し,アルミで包装したものを30℃6ケ月保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したものの風味がすぐれていた。パネラー23人中21人が対照品はソーダクラッカー本来の風味が無くなり商品価値無しと評価した。一方,本発明品は21人がまだソーダクラッカー本来の風味を保持しており,十分商品価値があると評価した。」(第15,16段落) 実施例5として, 「表5の配合に基づき,常法によりパイを試作し,アルミで包装したものを30℃6ケ月保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したものの風味がすぐれていた。パネラー23人中23人が対照品はパイ本来の香ばしさが無くなり商品価値無しと評価した。一方,本発明品は22人がまだパイ本来の香ばしさを保持しており,十分商品価値があると評価した。」(第17,18段落) 実施例6として, 「表6の配合に基づき,常法によりスポンジケーキを試作し,アルミで包装したものを30℃10日間保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したものの風味がすぐれていた。パネラー23人中21人が対照品よりも本発明品の方がスポンジケーキ本来のカスタード感が良く残っており好ましいと評価した。残りの2人は同程度に好ましいと評価した。」(第19,20段落) 実施例7として, 「表7の配合に基づき,常法によりドーナツを試作し,アルミで包装したものを30℃2週間保管後,試食したところ以下のごとくトレハロースを添加したものの風味がすぐれていた。パネラー23人中22人が対照品よりも本発明品の方がドーナツ本来の風味,香りが良く残って好ましいと評価した。残りの1人は同程度に好ましいと評価した。」(第21,22段落) との各記載があり,表1ないし7には,上記煎餅,ウェハース,チョコクッキー,クラッカー,パイ,スポンジケーキ,ドーナツについての原料の配合が記載されていることが認められる。
(エ) 本件明細書の上記認定の記載によれば,本件明細書に開示されている本件発明1の効果は,焼き菓子において,α,αトレハロースを含まない場合に比べて,作りたての風味がよりよく保持される,というものであり,それ以上のものではないことが明らかである。
(オ) 前記のとおり,トレハロースは,糖類でありながら,甘味をほとんど感じさせず,蛋白の変性防止に威力を発揮し,しかも,風味にほとんど影響しないという,食品の天然保存料として非常に有効な働きをすることが,引用刊行物1において既に明らかにされていたのである。そして,風味にほとんど影響しないということの開示は,トレハロースと風味との関連について研究されていたことを物語るものである。そうすると,本件発明1は,このような技術水準を背景に,α,αトレハロースの風味に関する新しい効果の一つを,しかも,既に知られているα,αトレハロースの上記特性に照らし,予想をはるかに超えるなどとは到底いうことのできないものを確認したというにすぎない程度のものというべきである。この程度の効果をもって,構成自体については容易に推考できるものと認められる発明の特許性(進歩性)の根拠となし得ないことは,論ずるまでもないところである。
本件発明1に進歩性を認めた審決の認定判断は,効果の点を考慮に入れても,誤っていることが明らかである。
(6) 被告は,本件発明は,トレハロースによる焼き菓子の風味を保持することを目的とする技術であり,トレハロースによる蛋白の品質を保持すること(蛋白の変性防止)を目的とする技術である引用発明1及び4とは,技術として全く異なるものであるとし,当業者が引用発明1や2から本件発明に想到することが容易であるとはいえない旨主張する。
しかしながら,上記結論が,異なった目的によって同一の構成に至ることは十分あり得ることを忘れた誤ったものであることは,既に述べたとおりである。被告の議論がもし正しいとすれば,全く同一の構成要件の複数の発明につき,それに至った目的という,構成要件には反映されていない,発明者の主観に係る事情の相違により,別の特許が認められなければならないことにもなりかねないのである。
構成要件と必然的なつながりを持たない事由を根拠とする被告の主張は,発明についての基本的な誤解に基づくものというべきである。
(7) 以上のとおり,本件発明1が,α,αトレハロースを0.1重量%以上添加するという構成を具備することによって,焼き菓子類の風味保持という効果を奏するとしても,特許付与に値する進歩性を認めることはできない。
(8) 付言するに,引用刊行物4に,α,αトレハロースの含有量は0.1重量%以上である,焼成されて作られるヨークシャープディングが開示されていることは,前述したとおりである。
甲第45号証によれば,1977年発行「フードマニュファクチャー」6月号27頁には,「ファンデンバース(Van den Berghs)とユルゲンス(Jurgens)は,プルフリート(Purfleet)にある彼らのケーキミックスの自動配合及び混合プラントの設計の際に,数々の困難に直面した。これらの困難は全て解決されてきた。50万£のプラントは,昨年の9月に始動し,設計された能力はより高いものであるが,現在,100トン/週を越える率で稼働している。プラントは,同社のクレイグミラー(Craigmi11ar)部門のために,製品を2つの主なラインで生産している:12.5キロ詰めのべ一カリーミックスと,まかない用(Catering)に,現金と引き換えで販売される3.5キロ詰である。製品の範囲は広く,均質なミックスと不均一なミックスの両方を含んでいる。前者は,ショートペストリー,カスタード,スポンジプディング,牛脂プディング,ヨークシャープディング及びパンケーキのような製品で,全てまかない用のサイズである;べーカリーサイズのものは,マディラケーキ,ショウガケーキ,チョコレートケーキ,種々のパン,ロール及び発酵甘パンミックス及びスコーンミックスのような製品からなっている。」(訳文)との記載があることが認められる。
甲第45号証の上記認定の事実によれば,少なくとも,「ヨークシャープディング」が「ケーキ類」に該当することは明らかである。
そうすると,引用発明4は,本件発明1のすべての構成を具備していることになる。
ただし,本件では,原告が,審判段階で,本件発明1と引用発明4との対比における新規性欠如の主張をしていないから,本判決においては,このことを傍論として述べるにすぎない。
3 本件発明2について 本件発明2に係る特許請求の範囲の記載が,「米菓類,小麦煎餅類,ビスケット・クッキー類,クラッカー類,パイ類,ケーキ類またはドーナツ類の製造方法であって,α,αトレハロースを原料の総重量に対して0.1重量%以上含む組成物を焼成またはフライする工程を含む,方法。」というものであることは,前記(第2,2)のとおりである。
本件発明2は,物の発明である本件発明1の構成をすべて含んでおり,方法の発明の構成となっている点が相違しているのみである。
そうすると,本件発明1についての上記判断は,本件発明2においても同様に当てはまることが明らかである。
本件発明2は,引用発明1及び2に基づき,当業者おいて容易に想到し得たものであるから,この点を否定し,本件発明2に進歩性を認めた審決の認定判断が誤っていることは,明らかというべきである。
4 結論 そうすると,審決の取消しを求める原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由があることが明らかである。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 宍戸充