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関連審決 無効2000-35042
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  寄せ集め /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 404号 審決取消請求事件
原告 ウシオ電機株式会社
訴訟代理人弁理士 宮越典明
同 五十畑 勉男
同 長谷川 吉雄
被告 ホーヤ・ショット株式会社
訴訟代理人弁理士 中村静男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2000-35042号事件について平成13年7月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「被処理物の酸化方法」とする特許第2705023号発明(以下「本件特許発明」といい、その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許は、原告が平成5年11月26日にした特許出願(特願平5-319238号)に基づく国内優先権を主張して、平成6年11月2日にした特許出願に係り、平成9年10月9日に設定登録されたものである。なお、本件特許に対しては、特許異議の申立てがされたところ、原告は、平成11年3月25日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求をし、特許庁は、同年8月31日、同特許異議の申立てに対し、訂正を認める、本件特許を維持する旨の決定をし、同年9月16日その決定が確定した。
被告は、平成12年1月14日、本件特許のうち請求項1、2、7〜10に記載された発明に係る特許につき無効審判の請求をし、無効2000-35042号事件として特許庁に係属したところ、原告は、同年5月12日に明細書の特許請求の範囲の記載を訂正する旨の訂正請求をした(この訂正請求に係る訂正を以下「本件訂正」という。なお、本件訂正は、訂正前の特許請求の範囲の請求項7を削除し、同請求項8〜11の番号を繰り上げてそれぞれ請求項7〜10とするとともに、これに伴う請求項の引用関係を整理した内容であり、したがって、本件訂正後の本件特許発明において、無効審判請求の対象となるのは、本件訂正後の請求項1、2、7〜9記載の発明に係る特許である。)。
特許庁は、同無効審判事件につき審理した上、平成13年7月30日に「訂正を認める。特許第2705023号の訂正後の請求項1ないし2、7ないし9に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は同年8月9日原告に送達された。
2 本件訂正後の明細書(以下「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1、2、7〜9に記載された発明の要旨 【請求項1】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項2】キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させるとともに、前記真空紫外光を当該被処理物にも照射させて、それらの協同作用で当該被処理物を酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。
【請求項7】被処理物を酸化させる際に、被処理物の表層または当該被処理物の酸化物が気体として当該被処理物から除去されるように酸化することを特徴とする、請求項1から請求項6のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項8】誘電体バリヤ放電ランプの形状が、二重円筒型もしくは平面型であることを特徴とする、請求項1から請求項7のいずれかに記載の被処理物の酸化方法。
【請求項9】誘電体バリヤ放電ランプの真空紫外光の取出部は、合成石英ガラス、サファイヤ、アルカリ金属ハライド、もしくはアルカリ土類金属ハライドのうちから選択された材料から成ることを特徴とする、請求項8に記載の被処理物の酸化方法。」 (以下、本件訂正後の上記各請求項記載の発明を、請求項の番号に対応して「本件訂正発明1」などといい、また、これらを総称して「本件訂正発明」という。) 3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、@本件訂正を認め、請求項1、
2、7〜9に係る本件特許発明の要旨を上記2記載のとおり認定した上、A本件特許発明の特許性判断の基準日について、国内優先権主張の基礎となった特願平5-319238号に係る明細書及び図面(以下「先の明細書及び図面」という。)には、本件特許発明構成要件とする事項が示唆されていないから、上記基準日は、
当該事項の追加された現実の出願日である平成6年11月2日であると判断し、B請求人(注、被告)主張の無効理由1(本件特許発明の特許性の判断の基準日が現実の出願の日であることを前提とする下記引用の発明等に基づく本件訂正発明の容易想到性)に関し、上記Aの基準日についての判断を前提に、本件訂正発明1は、
平成6年2月20日社団法人日本オプトメカトロニクス協会発行の「光技術コンタクト」32巻2号(審判甲第1号証、本訴甲第6号証)記載の発明及び周知事項に基づいて、本件訂正発明2、7〜9は、審判甲第1号証及び特開平6-210286号公報(審判甲第2号証、本訴甲第7号証)記載の各発明並びに周知事項に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるとし、C請求人(注、被告)主張の無効理由2(本件特許発明の特許性の判断の基準日が国内優先権主張日であるとした場合の下記引用の発明等に基づく本件訂正発明の容易想到性)に関し、仮に、本件特許発明の特許性判断の基準日が国内優先権主張日であるとしても、本件訂正発明1は、平成元年2月10日社団法人応用物理学会発行の「応用物理」58巻2号(審判甲第7号証、本訴甲第12号証)、特開平5-117061号公報(審判甲第10号証、本訴甲第18号証)、米国特許第4837484号明細書(審判甲第10号証の3、本訴甲第20号証)、特開平1-144560号公報(審判甲第11号証、本訴甲第21号証)記載の各発明に基づいて、本件訂正発明2、7〜9は、これら各発明及び周知事項に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるとし、したがって、本件訂正発明に係る本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法123条1項2号の規定により無効とすべきものとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件訂正の適否の判断(審決謄本2頁7行目〜32行目)、
上記無効理由2に関する認定判断中の甲第12号証の記載事項の認定並びに本件訂正発明1と同号証記載の発明との一致点及び相違点の認定(同24頁23行目〜25頁20行目)は認める。
審決は、本件特許発明の特許性判断の基準日を現実の出願の日である平成6年11月2日であるとの誤った判断をし(取消事由1)、無効理由1(甲第6、第7号証記載の各発明及び周知事項に基づく本件訂正発明の容易想到性)の判断を誤り(取消事由2)、また、無効理由2(甲第12、第18、第20、第21号証及び周知事項に基づく本件訂正発明の容易想到性)の判断を誤った(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(特許性判断の基準日の判断の誤り) (1) 審決は、「本件特許発明の『光取り出し窓を有する容器』や『この容器内に窒素ガスを流し』という事項は、これら事項に関する本件特許明細書及び図面と先の明細書及び図面との上記記載箇所を対比すれば明らかな如く、後の出願明細書及び図面(本件特許明細書及び図面)に追加された『新たな実施例』(段落【0034】や図11に記載された実施例)によって導入された技術的事項である。また、図11と図1に示された実施例同志を対比しても、両者はその構造が別異のものであるから、『光取り出し窓を有する容器』や『この容器内に窒素ガスを流し』については・・・先の明細書及び図面には示唆されていないと云うべきである」(審決謄本16頁19行目〜27行目)として、「国内優先権主張の基礎となった出願(特願平5-319238号)の明細書及び図面には、『光取り出し窓を有する容器』や『この容器内に窒素ガスを流し』という事項について示唆されているとは云えないから、これら事項を構成要件とする本件特許発明の特許性判断の基準日は、これら事項が追加された後の出願の出願日である平成6年11月2日であると認める」(同19頁19行目〜24行目)と判断するが、以下のとおり、誤りである。
(2) まず、本件訂正発明の特許性判断の基準日の検討に際しては、あくまでも先の明細書及び図面(甲第5号証)に本件訂正発明が開示されているか否かについてのみ検討すべきであって、本件特許明細書及び図面(甲第2号証)の記載内容とは関係がないのに、審決は、上記各明細書及び図面を対比検討するという誤りを犯している。
そこで、先の明細書及び図面に本件訂正発明の「光取り出し窓を有する容器」及び「この容器内に窒素ガスを流し」との事項が開示されているか見るに、先の明細書及び図面(甲第5号証)には、その段落【0015】及び図1において、
誘電体バリヤ放電ランプの構造が「網状電極2を上部及び下部に配設し、内部にキセノンガスを封入した合成石英ガラス製放電容器1からなること」が開示されており、光取り出し窓を有する容器に関しては、「上記放電容器1を合成石英ガラスの板5で覆い、放電容器1と板5との空所4に窒素ガスを充填した構造」が開示されている。
この合成石英ガラスの板5は、真空紫外光の取出部(光を透過する部分)を兼ねていることは明白であり、この「真空紫外光の取出部(光を透過する部分)」が、「光取り出し窓」であることは、当該技術分野の技術常識である(特開平3-163747号公報〔甲第31号証〕、特開平5-21042号公報〔甲第32号証〕、特開昭64-14861号公報〔甲第33号証〕、特開平4-129167号公報〔甲第34号証〕、特公昭34-3637号公報〔甲第35号証〕参照)。
また、放電容器1と板5との空所4に「窒素ガスを充填する」ことは、その一実施形態として、窒素ガスを流す手段を採用するものであり、換言すれば、
「窒素ガスを流す」ことは、「窒素ガスを充填する」ことの範囲内に含まれる一実施形態にすぎない。
したがって、先の明細書(甲第5号証)の段落【0015】及び図1に、
本件特許発明構成要件である「光取り出し窓を有する容器」及び「この容器内に窒素ガスを流し」との事項が開示されていることは明らかであり、その開示がないことを理由として、本件特許発明の特許性の判断の基準日を現実の出願の日であるとした審決の判断は誤りというべきである。
2 取消事由2(無効理由1に係る容易想到性の判断の誤り) (1) 本件訂正発明と甲第6号証記載の発明との一致点の認定の誤り ア 審決は、請求人(被告)主張の無効理由1(本件特許発明の特許性の判断の基準日が現実の出願の日であることを前提とする甲第6、第7号証記載の各発明及び周知事項に基づく本件訂正発明の容易想到性)に関し、甲第6号証には、
「キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが照射ユニットの容器の中に収納され、この照射ユニット内が窒素でパージされ、この誘電体バリヤ放電ランプから照射ユニットの照射口を通して放射される真空紫外光を酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。」の発明(以下、審決の表記に従って「甲第1発明」という。)が記載されている旨認定した(審決謄本20頁13行目〜20行目)上、
「本件訂正発明1と甲第1発明とを対比すると、両者は・・・『キセノンガスを封入した誘電体バリヤ放電ランプが容器の中に内蔵され、この誘電体バリヤ放電ランプから放射される真空紫外光を酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法。』の点で一致」する(同頁22行目〜28行目)と認定するが、誤りである。
イ すなわち、甲第6号証には、審決謄本19頁34行目〜20頁12行目で認定の(イ)〜(ハ)の事項がそれぞれ個別的に記載されているにすぎず、審決の認定に係る甲第1発明それ自体が記載されているものではない。審決は、これらの個別的な記載事項を、本件訂正発明に則して意図的に寄せ集めて甲第1発明が記載されているとの認定をしたものであり、その認定は誤りである。そして、本件訂正発明1と甲第6号証記載の発明との一致点の認定は、甲第6号証の記載事項についての上記誤った認定に基づいてしたものであるから、その前提において誤りである。
(2) 相違点についての判断の誤り ア 審決は、本件訂正発明1と甲第6号証記載の発明(甲第1発明)との相違点として、「相違点1:本件訂正発明1は、放電ランプが内蔵される『容器』が『合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器』であるのに対し、甲第1発明は、『照射口を有する照射ユニットの容器』である点 相違点2:本件訂正発明1は、容器内に『窒素ガスを流す(流し続ける)』のに対し、甲第1発明は、容器内を『窒素でパージする』点 相違点3:本件訂正発明1は、真空紫外光を『光取り出し窓を通して』照射するのに対し、甲第1発明は『照射ユニットの照射口を通して』照射する点」(審決謄本20頁30行目〜36行目)を認定した上、これら各相違点について、それぞれ以下のとおり判断するが、いずれも誤りである。
イ 審決は、上記相違点1について、まず、甲第12、第13号証に基づいて「紫外線放電ランプ装置において、『合成石英ガラスからなる光取り出し窓』自体は周知の手段である」(審決謄本21頁6行目〜7行目)と認定した上で、「誘電体バリヤ放電ランプに係る甲第1発明の場合でもその『照射口』を『合成石英ガラスからなる光取り出し窓』とする程度のことは当業者が容易に想到することができた設計的な事項と云うべきである」(同7行目〜10行目)と判断するが、甲第6号証記載の発明と、甲第12、第13号証記載の各発明とは、光洗浄プロセスが全く異なり、これらを組み合わせることはできないというべきである。
すなわち、甲第12、第13号証記載の各発明は、UV処理の原理という観点から見ると、波長185nmの光により酸素からオゾンを生成し、このオゾンに対して波長254nmの光を照射させ、活性酸化性分解物を生成するものである。一方、甲第6号証記載の発明は、波長172nmの光を酸素に照射させることで、オゾン及び活性酸化性分解物を生成することができるものである。要するに、
前者が異なる二つの波長の光を使って活性酸化性分解物を生成するのに対し、後者は一つの波長の光を使うだけで活性酸化性分解物を生成できるものであって、両者は、生成プロセスが全く異なる。このような両者の相違を踏まえると、甲第12、
第13号証に記載された放電ランプ(低圧水銀ランプ)を取り囲む形態の部分(合成石英ガラスからなる光取り出し窓)のみを摘出し、これを甲第6号証記載の発明と組み合わせることは、本来できないというべきである。
ウ 審決は、上記相違点2についても、甲第12、第13号証を引用しているが、その記載の発明の光洗浄のプロセスが甲第6号証記載の発明と全く異なることは上述のとおりであるから、甲第12、第13号証記載の窒素ガスを流す部分のみを摘出し、これを甲第6号証記載の発明に適用することはできないというべきである。
エ 審決は、上記相違点3について、「この相違点3は、上記相違点1に付随したものであり、『合成石英ガラスからなる光取り出し窓』を設けることが容易であれば、この『光取り出し窓』を通して真空紫外光を照射することも当然の成り行きであるから、この点には実質的な差異はない」(審決謄本21頁24行目〜27行目)と判断するが、上記相違点1についての判断が誤りである以上、これを前提とする相違点3についての上記判断も誤りというべきである。
(3) 顕著な作用効果の看過 本件訂正発明1は、(A) 誘電体バリヤ放電ランプを使用することにより、
波長172nmの光である真空紫外光の使用が可能であって、被処理物の表面近傍に高い濃度のオゾンと活性酸化性分解物を生成することができ、被処理物を酸化するスピードが著しく速くなる、(B) 窒素を流すことで、電極を保護することができるとともに、容器内において真空紫外光の吸収をなくすことができ、さらには、高価な合成石英ガラス板を多数使用することなく、安価に光源装置を得ることができる、(C) 特に、誘電体バリア放電ランプは、放電容器の外面に電極を有し、窒素ガスを流すことは、紫外線の吸収防止という効果以外に、外面の電極を保護するという顕著な作用効果を奏し、低圧水銀灯では得られない極めて重要な技術的意義を有するものである。
審決は、このうち(C)の「窒素ガスによる電極の保護の効果」のみを取り上げて、「窒素ガスを流せば容器内に収納されている電極が保護されることも当業者が容易に予想することができる効果である」(審決謄本21頁19行目〜21行目)と判断するが、甲第12、第13号証に記載の低圧水銀灯では、窒素ガスを流しても電極の保護効果は生じないから、上記判断自体に誤りがあるばかりでなく、
上記(A)、(B)の顕著な作用効果を看過したものである。
(4) 本件訂正発明2、7〜9についての容易想到性の判断の誤り 本件訂正発明2、7〜9は、いずれも本件訂正発明1を前提とする発明であるところ、審決の本件訂正発明1の容易想到性に関する判断が誤っていることは上記のとおりであるから、これら各発明の容易想到性の判断も誤りに帰する。
3 取消事由3(無効理由2に係る容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は、請求人(被告)主張の無効理由2(本件特許発明の特許性の判断の基準日が国内優先権主張日であるとした場合の甲第12、第18、第20、第21号証及び周知事項に基づく本件訂正発明の容易想到性)に関し、本件訂正発明1と甲第12号証記載の発明(以下、審決の表記に従って「甲第7発明」ということがある。)との相違点として、「本件訂正発明1は、紫外光の光源が『キセノンを封入した誘電体バリヤ放電ランプ』であるのに対し、甲第7発明は、その光源が『低圧水銀灯』である点」(審決謄本25頁18行目〜20行目)を認定した上、
当該相違点について、「『キセノンを封入した誘電体バリヤ放電ランプ』については、例えば甲第10号証、甲第10号証の3及び甲第11号証(注、本訴甲第18、第20、第21号証)に記載されているとおり、本件出願前に既に公知のものである」(同頁21行目〜23行目)、「甲第7発明の紫外光の光源である『低圧水銀灯』に替えて、その処理スピードの向上が予想される『キセノンを封入した誘電体バリヤ放電ランプ』を使用することは当業者であれば容易に想到することができた」(同26頁12行目〜14行目)と判断するが、以下のとおり、誤りである。
(2) 甲第12号証に記載の「低圧水銀灯」と甲第18、第20、第21号証に記載の「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」とは、光洗浄のプロセスが全く異なる。すなわち、甲第12号証記載の発明は、UV処理の原理という観点から見ると、波長185nmの光により酸素からオゾンを生成し、このオゾンに対して254nmの光を照射させ、活性酸化性分解物を生成するものである。他方、甲第18、第20、第21号証記載の各発明は、波長172nmの光を酸素に照射させることで、オゾン及び活性酸化性分解物を生成することができるものである。要するに、前者が異なる二つの波長の光を使って活性酸化性分解物を生成するのに対し、後者は一つの波長を使うだけで活性酸化性分解物を生成できるという点で、両者は生成プロセスが全く異なるものであり、したがって、前者の「低圧水銀灯」に換えて後者の「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」を適用することは困難である。
被告は、上記の組合せが容易である旨主張し、その論拠として、本件特許明細書の発明の詳細な説明欄において、甲第12号証が開示している「低圧水銀ランプ」を、本件訂正発明において使用する「誘電体バリア放電ランプ」の従来例ないし比較例として記載している点を挙げるが、本件特許明細書の上記記載は、本件訂正発明を説明する上で、光洗浄プロセスが全く異なるものの、被処理物の酸化方法として存在する従来技術を例示したにすぎず、直ちに、上記組合せの容易性に結び付くものではない。
(3) さらに、本件訂正発明1は、上記2(3)のとおりの顕著な作用効果を奏するところ、審決は、このうち、(A)の「処理スピードの加速化効果」のみを取り上げて、当業者の予測し得る効果であると判断する(審決謄本26頁1行目〜6行目参照)が、前記(B)、(C)の顕著な作用効果を看過する点で誤りであり、また、前記(A)〜(C)の作用効果は、甲第12、第18、第20、第21号証から、当業者の予測することのできないものというべきである。
(4) 以上のとおり、本件訂正発明1に関する審決の容易想到性の判断は誤りであり、本件訂正発明2、7〜9についても、これらの発明が本件訂正発明1を前提とする発明である以上、その容易想到性の判断を誤ったものというべきである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(特許性判断の基準日の判断の誤り)について (1) 原告は、本件訂正発明の特許性判断の基準日の検討に際しては、あくまでも先の明細書及び図面に開示されているか否かについてのみ検討すべきである旨主張するが、審決の判断手法は、特許明細書が国内優先権の主張に係る先の明細書及び図面に記載されていない技術事項(新規事項)を含んでいる場合に、当該特許発明の特許性判断の基準日の認定において通常採用されているものにすぎず、何ら誤りとはいえない。
(2) 原告は、先の明細書及び図面に記載の合成石英ガラスの板5が「光取り出し窓」である旨主張するが、本件特許明細書(甲第2号証)の段落【0034】には、「図11には、誘電体バリヤ放電ランプを含むランプ装置について示す。このランプ装置は・・・図1における合成石英ガラスの板5で覆う替わりに・・・合成石英ガラスからなる光取り出し窓31を設けた平板型容器34を設置した構成である」との記載がある。これによれば、「光取り出し窓31」は、ランプを内蔵する容器の一部の役割を果たすものであり、容器全体の役割を果たす石英ガラスの板5とは全く構成を異にするものである。現に、本件特許明細書(甲第2号証)において、本件訂正発明は、この構成上の相違に基づいて、「高価な合成石英ガラス板を多数使用することがないので、安価に平板状光源装置が得られるという利点が生じる」(段落【0034】)という新たな効果を奏するものとされている。したがって、先の明細書及び図面に記載の合成石英ガラスの板5が、本件訂正発明の「光取り出し窓」といえないことは明らかである。
(3) 原告は、本件訂正発明の「窒素ガスを流す」ことは、先の明細書に記載されている「窒素ガスを充填する」ことの範囲内に含まれる一実施形態にすぎない旨主張する。しかし、先の明細書(甲第5号証)において、「充填」の用語は、「容器の内部にキセノンを充填し」(段落【0015】)、「キセノンあるいはキセノンを主成分としたガスを封入した」(段落【0032】)との用例から明らかなように、「封入」を意味するものとして用いられており、原告の主張するように「流す」ことを意味しない。
2 取消事由2(無効理由1に係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は、甲第6号証には、審決認定の(イ)〜(ハ)の事項が個別的に記載されているにすぎない旨主張するが、これらの技術事項を総合して、甲第1発明が甲第6号証に記載されているとした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、甲第6号証記載の発明と、甲第12、第13号証記載の各発明とは、光洗浄プロセスが全く異なり、これらを組み合わせることはできない旨主張するが、審決の認定した相違点1、2は、原告の主張する光洗浄プロセスとは全く関係のない技術事項であるから、原告の上記主張は失当である。そして、この誤りを前提とする相違点3についての原告の主張も理由がないこととなる。
(3) 原告が主張する(A)の作用効果は、公知の誘電体バリヤ放電ランプそれ自体が保有する公知ないし周知の作用効果であり、甲第6、第7、第18、第20、
第21号証等に記載されているものである。
原告が主張する(B)の効果のうち、「窒素を流すことで、電極を保護することができるとともに、容器内において真空紫外光の吸収をなくすることができる」との点については、審決が相違点2に関して判断しているとおり、当業者が容易に予測し得た程度のものであり、同(B)の効果のうち、「高価な合成石英ガラス板を多数使用することがなく、安価に光源装置を得ることができる」との点については、審決が相違点1に関して判断しているとおり、「容器の一部に合成石英ガラスからなる光取り出し窓を設ける」ことが当業者に容易であることの当然の結果であるから、これを格別顕著な効果ということはできない。
原告が主張する(C)の作用効果は、「窒素ガスを流すことにより電極を保護する」という点で前記の作用効果と同じことをいうにすぎない。
(4) 原告は、本件訂正発明2、7〜9についての容易想到性の判断の誤りを主張するが、上記のとおり、本件訂正発明1の容易想到性は明白であり、本件訂正発明2、7〜9についての原告の主張は失当であるから、これら各発明も審決認定のとおり特許性を有しない。
3 取消事由3(無効理由2に係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は、甲第12号証に記載の「低圧水銀灯」と甲第18、第20、第21号証に記載の「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」とは、光洗浄のプロセスが全く異なるとして、前者に換えて後者を適用することは困難である旨主張する。しかし、本件特許明細書は、段落【0002】〜【0003】の従来技術に関する記載において、甲第12号証が開示している「低圧水銀灯」を、本件特許発明の被処理物の酸化方法において使用する「誘電体バリヤ放電ランプ」の従来例ないし比較例として挙げている。このことは、原告自身、甲第12号証の「低圧水銀灯」と、甲第18、第20、第21号証の「誘電体バリヤ放電ランプ」とを当初より技術的に関連付けていたことを示すものであり、また、このような関連付けは、
当業者にとっても自然なことである。
(2) 原告が主張する本件訂正発明1の作用効果が格別顕著なものではないことは、上記2(3)で述べたとおりである。
当裁判所の判断
1 取消事由3(無効理由2に係る容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件特許発明の特許性の判断の基準日が国内優先権主張日(平成5年11月26日)であるとした場合の容易想到性(無効理由2)に係る相違点について判断するに、本件訂正発明1と、甲第12号証(平成元年2月10日社団法人応用物理学会発行の「応用物理」58巻2号)記載の発明とが、前者の「紫外光の光源が『キセノンを封入した誘電体バリヤ放電ランプ』であるのに対し、後者は「その光源が『低圧水銀灯』である点」(審決謄本25頁18行目〜20行目)で相違することについては、当事者間に争いがない。そして、甲第18号証(特開平5-117061号公報、平成5年5月14日公開)に記載の「キセノンガスを充填された高出力放射器3」(3欄5行目〜6行目)が本件訂正発明1の「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」に相当することは明らかであるから、甲第12号証記載の発明の「低圧水銀灯」に換えて、甲第18号証に記載の「キセノンガスを充填された高出力放射器3」を適用することが当業者の容易に想到し得たものかどうかについて、以下で検討する。なお、審決は、甲第18号証のほかに甲第20、第21号証も挙げるが、後述のとおり、「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」の適用に関しては、甲第18号証で十分であるから、以下、専ら甲第12号証記載の発明と甲第18号証記載の発明の組合せという観点で検討する。
(2) まず、甲第12号証記載の発明における「低圧水銀灯」の意義について見るに、同号証に、「低圧水銀灯が合成石英ガラスからなる光取り出し窓を有する容器の中に内蔵され、この容器内に窒素ガスを流し、この低圧水銀灯から放射される紫外光を光取り出し窓を通して、酸素を含む流体に照射させて、光化学反応によってオゾンおよび活性酸化性分解物を生成せしめ、このオゾンおよび活性酸化性分解物を被処理物に接触させて酸化させることを特徴とする被処理物の酸化方法」(審決謄本25頁1行目〜6行目)が記載されていることは当事者間に争いがない。そうすると、甲第12号証記載の発明における「低圧水銀灯」は、その放射する紫外光を酸素に照射することでオゾン及び活性酸化性分解物を生成し、その作用によって被処理物を酸化させるものということができる。
(3) 次に、甲第18号証に記載の発明における「キセノンガスを充填された高出力放射器3」の意義について見るに、甲第18号証には、「【産業上の利用分野】 この発明は・・・基体の表面処理方法に関する」(1欄28行目〜29行目)、「この発明の表面処理方法によれば、基体表面が耐熱性を持たない材料で形成される場合であっても、基体表面は・・・洗浄・・・が可能である」(2欄16行目〜19行目)、「高出力放射器3には、キセノンガスが充填される。電子の衝撃のために、励起されたキセノン原子によりキセノン放電が起こり、その結果、エキサイマー放射が形成される。製造された紫外線は、172nmの波長を有する。・・・紫外線による酸素分子の分裂の間、とても反応の良い破砕生成物であるO(3P)及びO(1D)は、全基体表面或いは表面の吸収層が反応することにより製造される。その上、反応性に富み、基体2表面で反応するオゾンは、酸素分子の酸素原子の反応により形成される。基体2Sの表面処理は、約0.05〜10分かかる」(3欄26行目〜4欄6行目)との記載が認められる。
そして、昭和56年発行の「洗浄設計」1981年秋季号所載の「UV/O3クリーニング」(甲第9号証)には、「UV/O 3クリーニングとは、紫外線(Ultra Violet Ray)による有機化合物の化学結合の切断効果とオゾンの強力な酸化効果とを組み合わせることにより有機質汚れを揮発性の物質(たとえば、炭酸ガス、水、窒素など)に分解除去する洗浄方法である」(38頁左欄14行目〜19行目)、「O3とO 3の分解生成時に生ずる原子状酸素は非常に強力な酸化剤である」(39頁左欄2行目〜4行目)、「紫外線光源としては、カーボンアーク灯、
キセノンランプ、水銀ランプなどが知られている」(40頁左欄13行目〜14行目)との記載が、昭和62年発行の「洗浄設計」1987年夏季号所載の「紫外放射とオゾンを利用した光洗浄装置」(甲第10号証)には、「光洗浄法の原理を要約すれば、紫外放射による有機物の化学結合の切断効果と、紫外放射により発生したオゾンと励起酸素原子の強力な酸化効果の組合わせにより、有機物を分解・気化して除去する方法と言えよう」(12頁左欄11行目〜15行目)、「3.光洗浄装置の基本構成 3.1 紫外放射ランプ 工業的に実用になるような強い紫外放射源は主に放電ランプである。代表的なものを表1に付記している。光洗浄に必要なUV-C領域の放射源としてはキセノンランプ、光化学用水銀ランプそして低圧水銀ランプがある」(同頁右欄9行目〜15行目)との記載が認められ、これらを踏まえて、甲第18号証の上記記載を見れば、同号証にいう「基体の表面処理」がオゾン及び活性酸化性分解物の強力な酸化作用により被処理物を酸化し、光洗浄するものであることが明らかである。したがって、甲第18号証に記載の発明における「キセノンガスを充填された高出力放射器3」(キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ)も、その放射する紫外光を酸素に照射することでオゾン及び活性酸化性分解物を生成し、その酸化作用によって被処理物を酸化させるものということができ、この点において、甲第12号証記載の発明における「低圧水銀灯」と基本的な機能は異ならないものと認められる。
(4) この点について、原告は、甲第12号証記載の低圧水銀ランプは、波長185nmの光により酸素からオゾンを生成し、このオゾンに対して254nmの光を照射させ、活性酸化性分解物を生成するものであるのに対し、甲第18号証記載のキセノンを封入した誘電体バリア放電ランプは、波長172nmの光を酸素に照射させることで、オゾン及び活性酸化性分解物を生成することができるものであり、前者が異なる二つの波長の光を使って活性酸化性分解物を生成するのに対し、
後者は一つの波長を使うだけで活性酸化性分解物を生成できるという点で、両者は生成プロセスが全く異なる旨主張する。
確かに、前掲甲第10号証の13頁の図3及び平成4年発行の「Applied Surface Science 54(1992)」所載の「Development of a novel large area excimer lamp for direct photo deposition of thin films」(甲第27号証)の428頁の図5によれば、低圧水銀ランプを光源とする紫外光は、254nmに最大波長を有するほか、185nm等の波長も有する多スペクトルであるのに対し、
キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプを光源とする紫外光は、172nmという短波長の単一スペクトルであることが認められる。また、本件特許明細書(甲第2号証)の段落【0002】【従来の技術】欄の「低圧水銀ランプから放射される真空紫外光である185nmの光を、酸素を含む空気、あるいは酸素ガスに照射してオゾンを発生させている。そして、同じ低圧水銀ランプから放射される遠紫外光である254nmの光で前記オゾンの一部を分解し、オゾンの分解ガスである活性酸化性分解物を発生させ、これを被処理物の表面に接触させるものである。・・・この接触によって被処理物の表面に付着した有機汚染物を酸化させ・・・当該被処理物の表面をドライ精密洗浄することができる」との記載、段落【0011】の「この誘電体バリヤ放電ランプ(注、キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ)は、172nmという短波長の紫外線を放射し、しかも線スペクトルに近い単一波長の光を選択的に高効率に発生するという、従来の低圧水銀ランプ・・・にはない種々の特徴を有している」、段落【0012】の「この波長172nmの光を酸素に照射すると、従来の低圧水銀ランプから放射される波長185nmの光を酸素に照射する場合よりも高濃度のオゾンが得られることがわかり、さらにまた、この高濃度のオゾンから活性酸化性分解物が得られることも分かった」との記載を併せ考えると、低圧水銀ランプを光源とする紫外光とキセノンを封入した誘電体バリア放電ランプを光源とする紫外光とは、波長の相違とそれに伴うオゾン及び活性酸化性分解物の生成プロセスの相違があることが認められる。
しかし、「低圧水銀ランプ」と「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」が、ともに紫外光を酸素に照射してオゾン及び活性酸化性分解物を生成し、
有機汚染物である被処理物を酸化させて光洗浄を行うための紫外光光源として、いずれも本件優先権主張日当時公知であり、その基本的な機能において異ならないものであることは上記認定のとおりである。しかも、前掲甲第9、第10号証において、光洗浄装置に用いる代表的な紫外放射ランプとして、キセノンランプと低圧水銀ランプが併記されていることは、上記(3)のとおりである。そうすると、原告の主張するような波長の相違とそれに伴うオゾン及び活性酸化性分解物の生成プロセスの相違はあっても、本件訂正発明1は、甲第12号証の「低圧水銀ランプ」に換えて、光洗浄装置に用いる公知の紫外放射ランプとしてこれと共通する機能を有する甲第18号証の「キセノンガスを充填された高出力放射器3」(キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ)を適用することにより、当業者の容易に想到し得たことというべきである。
(5) 原告は、本件訂正発明1の顕著な作用効果について主張するので、以下、
順次検討する。
ア 原告は、本件訂正発明1の作用効果の(A)として、誘電体バリヤ放電ランプを使用することにより、高い濃度のオゾンと活性酸化性分解物を生成することができ、被処理物を酸化するスピードが著しく速くなる旨主張する。
しかし、「キセノンを封入した誘電体バリア放電ランプ」を光源とする紫外光が172nm付近にピーク波長を有する単一スペクトルであるのに対し、
「低圧水銀ランプ」を光源とする紫外光が254nmに最大波長を有する多スペクトルである(具体的には、前掲甲第10号証の13頁図3参照)ことは前示のとおりであり、他方、特開平1-228590号公報(甲第11号証)の第3図及びその関連記載によれば、紫外光の酸素に対する吸収係数が大きいのは、波長120nm〜180nm付近であることが認められ、以上の事実は、本件優先権主張日当時の周知の技術事項であったと認められる。そして、被処理物上の有機汚染物質を酸化除去する速度を向上させるためには、オゾン及び活性酸化性分解物の生成量を増加させる必要があること、そのためには、紫外光が酸素に対して効率的に吸収される必要があることは自明のことというべきである。以上の周知の技術事項等を踏まえれば、紫外光を放射する光源として、低圧水銀ランプに換えて、公知のキセノンを封入した誘電体バリア放電ランプを使用することで、原告の主張する上記(A)の効果が奏されることは、当業者の容易に予測し得たことというべきであり、これを格別顕著な作用効果と認めることはできない。
イ 次に、原告は、同(B)として、窒素を流すことで、電極を保護することができるとともに、容器内において真空紫外光の吸収をなくすことができ、さらには、高価な合成石英ガラス板を多数使用することなく、安価に光源装置を得ることができること、同(C)として、特に、誘電体バリア放電ランプは、放電容器の外面に電極を有し、窒素ガスを流すことは、紫外線の吸収防止という効果以外に、外面の電極を保護するという顕著な作用効果を奏し、低圧水銀灯では得られない極めて重要な技術的意義を有するものである旨主張する。
しかし、窒素が不活性ガスであって、高温度等の理由により不安定な状態にある物質を保護するとの作用効果を有することは、技術常識であるから、これを、「誘電体バリア放電ランプ」の電極に適用すれば、放電時の高温で不安定な電極が保護されることは当業者に自明である。また、窒素ガスが、紫外光の望ましくない吸収を防止するとの作用効果を示すことは、甲第12号証の「酸素による紫外線の吸収を防ぐために、ランプハウスにはN2ガスを流した」(299頁右欄2行目〜4行目)との記載に示されている効果であって、これを当業者に予測することのできない顕著な作用効果ということはできない。そして、上記(B)、(C)の効果として主張するその余の点は、上記の点に付随するものにすぎない。
ウ したがって、本件訂正発明1の顕著な作用効果をいう原告の主張は理由がない。
(6) 以上のとおり、無効理由2に関して本件訂正発明1の容易想到性の判断の誤りをいう原告の主張は理由がないものというべきであり、また、この主張を前提とする本件訂正発明2、7〜9についての原告の主張も理由がないものといわざるを得ない。
そして、原告主張の取消事由3を採用し得ない以上、取消事由1、2について判断するまでもなく、本件訂正発明に係る本件特許は無効とすべきものとした審決の結論に誤りはなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
2 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利