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関連審決 審判1999-19401
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 375号 審決取消請求事件
原告 三菱重工業株式会社
訴訟代理人弁護士 中島和雄
同 弁理士 藤田考晴
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 栗田雅弘
同 西川惠雄
同 大野克人
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第19401号事件について平成13年7月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年7月2日、名称を「ガスタービン装置」とする発明につき特許出願をした(特願平9-176946号)が、平成11年10月29日に拒絶査定を受けたので、同年12月9日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第19401号事件として審理した上、
平成13年7月3日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月24日原告に送達された。
2 願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 ガスタービン、ガスタービン外衣、および配管ラックを設けたガスタービン装置において、地上に設置された前記ガスタービンを包囲して設けられたケーシングの外周囲と間隙を設けて配設されるとともに、側壁と前記ケーシングの側部との間に前記配管ラックを設置するようにした前記ガスタービン外衣と、前記ケーシングの側部に沿って保守、点検を行うための歩廊を上部に設置するようにした前記配管ラックとを設けたことを特徴とするガスタービン装置。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願発明は、特開昭62-91607号公報(本訴甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」ともいう。)及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、引用例の記載事項の認定(審決謄本2頁1行目〜20行目)、引用例発明の「オペレーションフロア8′a」が本願発明の「保守、点検を行うための歩廊」に相当するとの認定(同頁22行目〜25行目)、本願発明と引用例発明との相違点(1)、(2)の認定(同頁37行目〜3頁4行目)、上記相違点(2)についての判断(3頁11行目〜18行目)は認める。ただし、後記の一致点の認定の誤りに伴い、相違点はこのほかにも生ずることとなる。
審決は、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤る(取消事由1)とともに、相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果、本願発明が、引用例発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過) (1) 「ガスタービン外衣」について ア 審決は、「本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、後者の『建屋1』・・・は、それらの機能からみて・・・前者の『タービン外衣』・・・に相当する」(審決謄本2頁22行目〜25行目)と認定するが、以下のとおり誤りである。
イ 本願発明における「ガスタービン外衣」とは、本件明細書(甲第2号証)に「ガスタービンを内蔵するケーシング51の外方を被包して設置され・・・圧縮機、燃焼機、タービンからなるガスタービンで発生する吸気音、燃焼音、排気音および回転音等からなる騒音の外部への拡散を防止し、ガスタービン周辺の騒音レベルを要求される騒音値以下にするようにしている」(段落【0006】)と記載されている設備であり、「ガスタービン室」(特開平6-193464〔甲第4号証〕)、「防音エンクロージャ」(特開平7-102995〔甲第5号証〕)、
「エンクロージャ」(平成8年9月18日株式会社成山堂書店発行の「ガスタービンの基礎と実際(三訂版)」〔甲第6号証〕146頁、昭和53年4月社団法人火力発電技術協会発行の「タービン・発電機講座」〔乙第2号証〕144頁)と呼ばれることもあるものであって、ガスタービンを収納することに加えて、主として防音機能を有する被包設備である。また、「ガスタービン外衣」は、上記乙第2号証に、「パッケージ類はすべて工場にて組立て試験後、そのままの形で発送される」(144頁左欄12行目〜14行目)と記載されているように、ガスタービンの現地への運搬、据付けなどを容易にする機能をも有するものであり、さらに、本件明細書(甲第2号証)の段落【0042】の「ガスタービン外衣全体を防爆エリアとすることができ」との記載にあるように、ガスタービン外衣の内部全体を防爆エリアとすることができる機能をも有するものである。
そして、この「ガスタービン外衣」が「建屋」と異なることは、次の点からも明らかである。すなわち、ガスタービン外衣を備えたガスタービン装置においては、当該ガスタービン外衣自体が建屋内に設置されることが多く、前掲甲第4号証の「ガスタービン室と建屋の断面図」である図2において、ガスタービン室31が建屋内に設けられた様子が図示されているほか、原告作成のガスタービン装置のパンフレット(甲第7号証)においても、ガスタービン外衣が建屋内に設置されていることが図示されている。本願発明の「ガスタービン外衣」も、これらと同様、建屋内部に設けられるものであり、このことは、本件明細書(甲第2号証)の「ラックA上面に燃料ガス系統を収納するF.Gラックを配置するようにすれば、
ガスタービン外衣の横巾をさらに小さくでき、その分だけ建屋サイズを小さくした建屋配置にでき、プラントの建設コストをさらに低減することができる」(段落【0025】)との記載に示されているとおりである。
ウ これに対し、引用例発明の「建屋1」の主たる機能は、「タービン」及び「タービン発電機」の収納と、機器移動のための天井クレーンの架設にあり、本願発明の「タービン外衣」のような防音機能を目的としておらず、また、建屋内全体を防爆エリアとする機能も有していないから、引用例発明の「建屋1」が本願発明の「ガスタービン外衣」と同じ機能を有するとはいえない。また、引用例発明の蒸気タービンにおいては、装置を建屋内に設置することはガスタービンと同様であるものの、タービン外衣(エンクロージャー)は設けないのが当業者の常識であり、しかも建屋は現地で建設されるものである。
したがって、本願発明の「ガスタービン外衣」に相当する機能を有する構成は引用例発明には存在せず、他方、引用例発明の「建屋1」に相当する本願発明の構成は、本願発明の特許請求の範囲に規定されていないものの別途設置が予定されている建屋をおいてほかにはあり得ない。
(2) 「配管」及び「配管ラック」について ア 審決は、「本願発明と引用例に記載された発明とを対比すると、後者の・・・『湿分分離器10』・・・は、それらの機能からみて・・・前者の・・・『配管』・・・に相当する。また、後者において、『湿分分離器10』を囲む『上カバー11』、『支柱9』及び『フロア8』により形成される空間部分は、湿分分離器10を配置する場所であるから、前者の配管の設置場所である『配管ラック』に相当する」(審決謄本2頁22行目〜29行目)と認定するが、以下のとおり誤りである。
イ ガスタービンにおいては、油やガスの燃料が使用され、燃焼温度は1300℃以上と高いため、燃料を供給する配管やタービンの翼や燃焼器等の冷却に必要な配管など、具体的には、「燃料系、抽気系、冷却空気系、潤滑油系、制御油系、冷却水系および制御空気系等々の諸配管」(本件明細書〔甲第2号証〕段落【0001】参照)が必須であり、本願発明の「配管」はこれらの諸配管を意味する。
これに対し、引用例発明の「湿分分離器10」は、蒸気タービンに特有の構成であり、本願発明のようなガスタービンにおいては設ける余地のないものである。したがって、引用例発明の「湿分分離器10」は、本願発明の「配管」とは機能を全く異にするものであり、前者が後者に相当するとした審決の認定の誤りは明らかである。なお、被告は、審決が「湿分分離器10」というのは、湿分分離器及びそれに関連する配管を含めた配管系全体を指す趣旨である旨主張するが、審決中にそのような記載はない。
ウ 以上のとおり、引用列発明の「湿分分離器10」が、本願発明の「配管」に相当しない以上、審決が、その対応関係を前提に、引用例発明の「『湿分分離器10』を囲む『上カバー11』、『支柱9』及び『フロア8』により形成される空間部分」(以下「湿分分離器を囲む空間部分」という。)が、本願発明の「配管ラック」に相当するとした認定部分も誤りとなる。しかも、本願発明は、「配管ラック」を設けて、「配管ラックをガスタービン外衣内に収納したことにより、配管ラックを個々に防曝エリアとすることから、ガスタービン外衣内全体を防曝エリアとすることができ、これにより経済的効果が大きくなる」(本件明細書〔甲第2号証〕段落【0026】。同様の記載が段落【0042】にもある。)との作用効果を奏するものであるのに対し、引用例の湿分分離器は、可燃性を有する液体やガスが流れるものではないため、湿分分離器を囲む空間部分は、防爆エリアとされるものではない。その点においても、引用例発明の湿分分離器を囲む空間部分は、本願発明の配管ラックに相当するものとはいえない。
(3) 一致点の認定の誤り及び相違点の看過 審決は、本願発明と引用例発明の「両者は、『タービン、タービン外衣、
および配管ラックを設けたタービン装置において、前記タービンの外周囲と間隙を設けて配設されるとともに、側壁と前記ケーシングの側部との間に前記配管ラックを配置するようにしたタービン外衣と、前記ケーシングの側部に沿って保守、点検を行うための歩廊を上部に設置するようにした前記配管ラックとを設けたタービン装置』である点で一致」する(審決謄本2頁32〜行目37行目)と認定するが、
この認定は、上述のとおり、本願発明のタービン外衣及び配管ラックに相当する構成を引用例発明が備えると誤認したことに基づくものであるから、誤りというべきである。その結果、本願発明のタービン外衣及び配管ラックに関する構成は、引用例発明との相違点とすべきところ、審決はこれを看過したものである。
2 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例発明との相違点(1)として、「タービンの種類について、前者(注、本願発明)が『ガスタービン』であるのに対し、後者(注、引用例発明)が『蒸気タービン』である点」(審決謄本2頁末行〜3頁1行目)を認定した上、「本願発明と引用例に記載された発明とは、両者ともに発電用タービンの建物への配置構成に係る技術であって同一の技術分野に属するものであるから、引用例に記載された発明をガスタービンに用いて本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得るものと認める」(同3頁7行目〜10行目)と判断するが、本願発明のガスタービン外衣、配管及び配管ラックは、ガスタービンに特有のもので、これらに相当する構成が引用例発明に存在しないことは上記1のとおりである。そうすると、両者がともに発電用タービンに関する技術であるとしても、審決の上記判断は、ガスタービンと蒸気タービンの原理上の相違がもたらす上記構成の相違を無視したものといわざるを得ない。加えて、審決の上記判断中、
「両者はともに発電用タービンの建物への配置構成に係る技術」であるとの認定部分は、本願発明のガスタービン外衣が「建物」ではない点で誤りであり、この点からも本願発明と引用例発明とが同一の技術分野に属するものとはいえない。
(2) また、審決は、「本願発明が奏する効果も、引用例に記載された発明及び上記周知の技術的事項から、当業者が予測可能な程度のものであって、格別なものといえない」(審決謄本3頁19行目〜21行目)と判断するが、誤りである。すなわち、本願発明は、「定検を必要とするものは全てガスタービン外衣内に収納して、保守点検をしやすくして定検期間を短縮化できるようにするとともに、建設コストを嵩ませることなく防曝エリアをガスタービン外衣内全体に拡大して、火災等に対するより多くの機器及びシステムの安全性を高めることができ」る(本件明細書〔甲第2号証〕段落【0015】)ようにすることを課題として、配管ラックの配置位置を、従来のタービン外衣外からタービン外衣内に変更したものである。このような課題を解決する本願発明の作用効果は、そもそもタービン外衣や配管ラックの存在しない引用例発明においては問題となり得ないものであって、引用例発明の作用効果は比較の対象とすらすることができない。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について (1) 「ガスタービン外衣」について 原告は、引用例発明の「建屋1」が本願発明の「ガスタービン外衣」に相当するものでないと主張する根拠として、前者が主として防音機能を有することを挙げるが、通常、工場やプラント等の建屋は遮音機能を有しているものであるから、引用例発明の「建屋1」にも当然遮音及び防音機能が備わっているというべきである。そして、防音機能は、ガスタービン外衣が有する種々の機能の一つにすぎず、また、本願発明の特許請求の範囲も、ガスタービン外衣が主として防音機能を有するものと規定するものでないから、本願発明の「タービン外衣」と引用例発明の「建屋1」とは、防音機能を有する被包設備である点において共通の機能を有するものである。
次に、原告は、本願発明の「ガスタービン外衣」は、その内部全体を防爆エリアとすることができる機能を有する旨主張するが、この点は、本願発明の要旨に基づかないものとして失当である。
また、原告は、本願発明の「ガスタービン外衣」は、別途設置が予定されている「建屋」の内部に設けられるものであると主張するが、前掲乙第2号証の「パッケージ形ガスタービンの屋外設置例」(141頁右欄8行目〜9行目)である第4図(142頁)及び「プラント配置例」である第19図(154頁)の図示に見られるように、ガスタービン外衣は、屋内型に限るものではなく屋外型(パッケージ形ガスタービン)のものも一般的である。他方で、本願発明は、「ガスタービン外衣」を屋内型に限定するものではないから、原告の主張は、本願発明の要旨に基づかないものとして失当である。なお、本件明細書(甲第2号証)の「これにより、ガスタービン外衣、換言すれば、建屋の高さを低くすることができ、プラントの建設コストを低減できる」(段落【0041】)との記載によれば、原告自身、「ガスタービン外衣」が「建屋」の機能も有することを認識していたものと解される。
(2) 「配管」及び「配管ラック」について 原告は、本願発明の「配管」は、「燃料系、抽気系、冷却空気系、潤滑油系、制御油系、冷却水系および制御空気系等々の諸配管」であることを理由として、引用例発明の「湿分分離器10」との機能の相違を主張する。しかし、本願発明の特許請求の範囲は、「配管」が原告の主張するものに限定されることを何ら規定するものでないから、本願発明の「配管」の技術的意義は、ガスタービンの運転に必要な配管を広く意味するものと解すべきである。一方、引用例発明の「湿分分離器10」は、蒸気タービンにおいて、高圧タービンと低圧タービンの間に設けられ、高圧タービンから低圧タービンヘ送られる蒸気中の水分を除去する機器であって、蒸気の通路となっており、高圧及び低圧タービンのそれぞれに接続する配管も具備するものである。審決は、湿分分離器及びそれに関連する配管を含めた配管系全体を、「湿分分離器10」をもって代用したものであり、これら配管系全体は蒸気タービンの運転に必要な蒸気の通路となる配管であるから、「タービンの運転に必要な配管」という技術的意義において、本願発明の「配管」と何ら異なるところはない。
(3) したがって、引用例発明の「建屋1」、「湿分分離器10」及び「湿分分離器を囲む空間部分」が、それぞれ本願発明の「タービン外衣」、「配管」及び「配管ラック」に相当するとした審決の認定に誤りはなく、その誤りを前提として一致点の認定の誤り及び相違点の看過をいう原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について (1) 本願発明と引用例発明とは、ともに発電用タービンに関する同一技術分野に属するものである。そして、本願発明のガスタービン外衣は発電用タービンを覆う部材であるから、本願発明は、発電用タービンを覆う部材内における発電用タービン及び配管ラックの配置構成に関する技術ということができる。他方、引用例発明の建屋1も発電用タービンを覆う部材という点では、タービン外衣と同様の機能を有するものであり、また、配置構成上の問題は、ガスタービンと蒸気タービンという発電用タービンの種類の差異に影響されるものではないことを考慮すれば、蒸気タービンに示される上記配置構成に係る技術思想をガスタービンに適用することを阻害する格別の要因はない。したがって、この趣旨をいう審決の判断に誤りはない。
(2) 原告が本願発明の作用効果として主張する点のうち、「定検を必要とするものは全てガスタービン外衣内に収納して、保守点検をしやすくして定検期間を短縮化できるようにする」との課題については、別々の場所に配置されていた設備を一か所に集めて集中管理を行うことにより、設備の保守点検等の効率が向上することは、予測可能なものにすぎない。また、「建設コストを嵩ませることなく防爆エリアをガスタービン外衣内全体に拡大して、火災等に対するより多くの機器及びシステムの安全性を高めることができる」との作用効果については、本願発明の特許請求の範囲において、当該作用効果を奏するために必要な構成が規定されていないから、本願発明の効果の主張として失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について (1) 「ガスタービン外衣」について ア 原告は、本願発明の「ガスタービン外衣」は、主として防音機能を有するとともに、ガスタービンの現地への運搬、据付けを容易にする機能及びガスタービン外衣の内部全体を防爆エリアとすることができる機能も有するとして、このような機能を有しない引用例発明の「建屋1」が本願発明の「タービン外衣」に相当するとした審決の認定の誤りを主張するので、以下検討する。
イ 本件明細書(甲第2号証)には、以下の記載が認められる。
【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、圧縮機、燃焼器およびタービンから構成されるガスタービン(以下、単にガスタービンという)、ガスタービンで発生する騒音の周辺への拡散を防止するため、ガスタービンを包囲して設けられるガスタービン外衣、燃料弁ラック又は燃料系、抽気系、冷却空気系、潤滑油系、制御油系、冷却水系および制御空気系等々の諸配管を収容するようにした配管ラック、並びに歩廊を合理的に配置し、定検期間を短縮できるように構成したガスタービン装置に関する。
【0006】・・・コンバインドプラント建設に伴う種々の課題を解決するものの一つの提案として、本出願人は、特願平7-321302号「ガスタービン用防音外衣及び配管ラック等の組合構造」において、図2に示すガスタービン装置を提示した。この提案では、図に示すように、ガスタービンを内蔵するケーシング51の外方を被包して設置され、前述したように、圧縮機、燃焼器、タービンからなるガスタービンで発生する吸気音、燃焼音、排気音および回転音等からなる騒音の外部への拡散を防止し、ガスタービン周辺の騒音レベルを要求される騒音値以下にするようにしている。
【0010】このように、先に提案したガスタービン装置では・・・タービン外衣52は、ケーシング51のみを覆うようにして設けられ、ガスタービン冷却空気管等を収納する配管ラックA53、又は燃料弁等を収納する配管ラックB54、等の配管ラックはタービン外衣52の外に配置されるようになっている。
【0011】このために・・・燃料系統等の配管設備の保守点検が、タービン外衣52の外で、ケーシング51まわりの保守、点検とは別個に行う必要があり、定検期間の短縮化が阻害され、プラントの年間稼動率の向上に、好ましくない影響が生じるという不具合がある。・・・ 【0012】さらに、配管ラックがタービン外衣52の外側に設けられることから、防曝エリアは、燃料油系配管、燃料ガス管および燃料弁等を収容するようにした配管ラックB54のみになり、タービン外衣52内は、防曝エリアとされていないために、火災等に対するより多くの機器及びシステムの更なる安全性が損われるという不具合もある。
【0015】【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来のガスタービン装置の上述した問題点を解消するため、定検を必要とするものは全てガスタービン外衣内に収納して、保守点検をしやすくして定検期間と(注、「定検期間を」の誤記と認める。)短縮化できるようにするとともに、建設コストを嵩ませることなく防曝エリアをガスタービン外衣内全体に拡大して、火災等に対するより多くの機器及びシステムの安全性を高めることができ、さらには、ガスタービン外衣背高を小さくして、建設コストを低減できるようにしたガスタービン装置を提供することを課題とする。
【0016】【課題を解決するための手段】このため、本発明のガスタービン装置は、次の手段とした。
【0017】(1)地上に設置されたガスタービンを包囲して設けられるケーシングの外周面との間に間隙を設けるようにしてケーシングを被包し、ガスタービンで発生する騒音の外部への拡散を遮断するようにしたガスタービン外衣の側壁とケーシングの側部との間に、ガスタービンの運転に必要とする燃料系統その他の配管を集約した配管ラックを設置するようにした。
【0020】(2)ガスタービン外衣内に配設された配管ラックの上方に、ケーシングの側部に沿って設置され、ケーシングの側部および配管ラックの内部を、保守、点検をできるようにした歩廊を設置するようにした。
【0021】本発明のガスタービン装置は、上述(1)、(2)の手段により、(a)ガスタービンを地上設置型としたことによって、建屋高さを低くすることができ、建設コストを低減できる。また、ケーシングの下方を500mm堀り込むようにすれば、従来通り下部配管スペースを確保することができるようになる。
【0022】(b)ガスタービン外衣内に配管ラックを収納するようにしたので、ケーシング外周の保守、点検と並行して、配管ラックの保守点検もできるようになり、複雑化、高精度化しつつある、燃料系統等の配管ラックの保守、点検を、頻繁に、しかも精度良く行うことができるようになる。
【0026】(c)また、配管ラックをガスタービン外衣内に収納したことにより、配管ラックを個々に防曝エリアとすることから、ガスタービン外衣内全体を防曝エリアとすることができ、これにより経済的効果が大きくなる。
【0040】【発明の効果】以上述べたように、本発明のガスタービン装置によれば、地上に設置されたガスタービンを包囲して設けられるケーシングの外周面との間に間隙を設けてケーシングを被包して、ガスタービンで発生する騒音を遮断するようにしたガスタービン外衣の側壁とケーシングの側部との間に、ガスタービンの運転に必要とする燃料系統等の配管を集約した配管ラックを設置するとともに、ガスタービン外衣内に配設された配管ラックの上方に、ケーシングの側部に沿って設置され、ケーシングの側部および配管ラックの内部を保守、点検をできるようにした歩廊を設置するようにした。
【0042】さらに、ガスタービン外衣全体を防爆エリアとすることができ、これにより火災等の発生が防止できるようになり、また経済的効果が大きくなる。
ウ 上記記載及び当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明は、従来のガスタービン装置では、ガスタービン外衣外に燃料配管等の配管ラックを設けていたため、配管設備の保守点検とタービンケーシング回りの保守点検を別個に行う必要性があり、また、ガスタービン外衣外の配管ラックのみを防爆構造としていたため、ガスタービン外衣内が防爆構造となっていない等の問題点があったとの課題に基づいて、これを解決すべく、配管ラックをガスタービン外衣内に収納し、配管ラック上面をケーシング回りの保守点検用歩廊とするとともに、ガスタービン外衣全体を防爆構造とすることで配管ラックを含めて防爆上安全にしたものであると認められる。ただし、本願発明の要旨において、ガスタービン外衣を防爆構造とすることについては規定されていないから、その内部を防爆エリアにするという機能をガスタービン外衣自体が有するものとはいえず、本件明細書に記載されている防爆構造に係る効果は、せいぜい、「配管ラックとガスタービン外衣全体を防爆エリアにしようとした場合に、防爆構造の一体化を図ることができる」という限度にとどまるものと解される(これが本願発明の効果といい得るかについては後述する。)。
そうすると、本願発明は、保守点検の集中化等の観点から、タービンの運転に必要な機器類のうち、どの機器類をどのような配置関係でガスタービン外衣内に収納するかという点の構成に係るものであり、したがって、本願発明におけるガスタービン外衣の技術的意義は、タービンの運転に必要な機器類を収納する被包設備としての意味を有するにとどまると解するほかない。
原告は、ガスタービン外衣の防音機能について主張するところ、確かに、本件明細書の段落【0001】、【0006】、【0017】等に、ガスタービン外衣が騒音の外部への拡散の防止を意図するものであることに触れている記載があることことは前述のとおりであり、また、前掲「タービン・発電機講座」(乙第2号証)に、「ガスタービンをエンクロージャと呼ばれる囲いでおおったものをタービンパッケージと称する」(144頁左欄23行目〜25行目)、「エンクロージャは騒音低減化のため・・・騒音対策としている」(同欄37行目〜39行目)との記載があることは認められる。しかし、本願発明の特許請求の範囲は、ガスタービン外衣が防音機能を有することについて何ら規定していないのであるから、一般にガスタービン外衣に防音機能が要求されるとしても、単にタービンを何らかの設備で被包すること自体から奏される程度の防音性から、特殊な構造による高度の防音性に至るまで、その要求される必要性に応じて適宜その実施態様が選択される事項にすぎず、それらのうちの特定のものだけが本願発明の「ガスタービン外衣」であるということはできない。
また、原告は、ガスタービンの現地への運搬、据付けを容易にする機能についても主張するが、本件明細書(甲第2号証)には、ガスタービン外衣自体がこのような機能を有することを裏付ける何らの記載も見いだせないから、失当といわざるを得ない。
エ 以上の認定を踏まえて、引用例発明の「建屋1」について見るに、引用例(甲第3号証)には、「原子力発電プラント等のタービン建屋は・・・その内部に各種タービン機器が収納される」(1頁右下欄8行目〜10行目)、「建屋1の略中央にタービン3およびタービン発電機4が収納される」(同欄14行目〜15行目、3頁左上欄10行目〜11行目)、「建屋1内には・・・水平な機器設置フロア8が設けられている。・・・機器設置フロア8上にはタービン3に連結した湿分分離器10が配置され、その湿分分離器10を覆う上カバー11と、これと同一高さのフロア8′とによって面一に形成されるオペレーションフロア8′aが機器設置フロア8上に一体的に設けられている」(3頁左上欄14行目〜右上欄3行目)、「建屋1内にはタービン機器搬送用の天井クレーン12、建屋内雰囲気調整用の空気調和器13およびモータ等の附属機器15が設けられる」(3頁左下欄9行目〜11行目)との記載があり、これら記載によれば、引用例発明の「建屋1」は、その内部に、「タービン3およびタービン発電機4」、「天井クレーン12」、「湿分分離器10」、「空気調和器13」、「モータ等の附属機器15」等を収納する被包設備であることが明らかであるから、このようにタービンの運転に必要な機器類を収納するという機能を有する被包設備である点において、本願発明の「ガスタービン外衣」と一致するというべきである。
オ 原告は、ガスタービン装置も建屋内に設置されることを理由として、引用例発明の建屋1が本願発明のガスタービン外衣に相当するとはいえない旨主張する。
確かに、前掲乙第2号証の「タービンパッケージ自体をコンクリート建屋・・・で更に囲む場合がある」(144頁右欄7行目〜8行目)、前掲甲第6号証の「6.2.1エンクロージャの構造 屋内形と耐候性を持たせた屋外形がある」(146頁17行目〜18行目)との記載によれば、ガスタービン装置において、ガスタービン外衣を更に被包する設備として「建屋」を別途設ける場合もあること自体は認められる。また、本件明細書(甲第2号証)の「ラックA上面に燃料ガス系統を収納するF.Gラックを配置するようにすれば、ガスタービン外衣の横巾をさらに小さくでき、その分だけ建屋サイズを小さくした建屋配置にでき、プラントの建設コストをさらに低減することができる」(段落【0025】)との記載によれば、本願発明も、少なくとも一つの実施形態としては、ガスタービン外衣を更に建屋で覆う態様も想定しているものと解される。
しかしながら、本願発明は、ガスタービン外衣のほかに別途建屋を設けるか否かなどガスタービン外衣自体の構造について、その特許請求の範囲において何ら規定するものでない以上、上記の事実のみから、本願発明が、ガスタービン外衣を更に建屋で被包する態様のものに限定されると解することはできないというべきである。また、仮に、上記のような実施態様のものを取り上げて考えたとしても、本願発明のガスタービン外衣と引用例発明の建屋1とが、タービンの運転に必要な機器類を収納する被包設備であるという点で共通することに変わりはないのであるから、本願発明において、ガスタービン外衣のほかに更に建屋を想定しているか否かの点は、上記エの認定を左右するものではない。
(2) 「配管」及び「配管ラック」について ア 原告は、引用例発明の「湿分分離器10」は、蒸気タービンに特有の構成であり、本願発明のようなガスタービンにおいては設ける余地のないものであるとして、これは本願発明の「配管」に相当するものではなく、したがって、引用例発明の「湿分分離器を囲む空間部分」は本願発明の「配管ラック」に相当するとはいえない旨主張する。しかし、引用例発明の「湿分分離器」が本願発明の「配管」に相当するとした審決の認定は、引用例発明の「湿分分離器を囲む空間部分」が本願発明の「配管ラック」に相当するとの認定中の説示にすぎず、本願発明の特許請求の範囲は、「配管ラック」の構成とは別に「配管」それ自体の構成について独立して規定するものではないから、以下、引用例発明の「湿分分離器を囲む空間部分」が本願発明の「配管ラック」に相当するかどうかを直接検討する。
イ 前掲乙第2号証には、「原子力プラント特有のものとして湿分分離器がある。軽水炉蒸気発生器からの発生蒸気圧力は・・・このままタービン内で蒸気が膨張を続けると蒸気の湿り度が過大となり、熱効率およびタービン部品への水滴による浸食の両面から好ましくないので、高圧タービンと低圧タービンとの間に湿分分離器を配置し、高圧タービン内部で膨張して生じた水滴を除去するのが通例である」(30頁左欄6行目〜17行目)、「高圧タービン排気は、湿分分離器・・・に送られ、その出口排気は低圧タービンに送られる。・・・高圧タービン、低圧タービンと湿分分離器を結ぶ配管を、その位置する高さによってクロスアンダ管、クロスオーバ管などと呼んでいる」(同頁右欄14行目〜22行目)との記載があり、これによれば、湿分分離器とは、高圧タービンから低圧タービンヘ送られる蒸気中の水分を除去するものであり、原子力プラントにおけるような蒸気タービンに特有の機器であること、高圧タービン及び低圧タービンと湿分分離器間には適宜の配管が配されるものと認めることができる。また、引用例(甲第3号証)の「タービン3に連結した湿分分離器10が配置され」(3頁左上欄18行目〜19行目)との記載は、湿分分離器と高圧タービン及び低圧タービン間に配管が配されることを記載したものと認めることができるから、この配管が「湿分分離器を囲む空間部分」に設けられていることは明らかである。
他方、本願発明の特許請求の範囲は、「配管ラック」について、ガスタービン外衣側壁とガスタービンケーシングの側部との間に設置されることを規定するにとどまり、ここにいかなる配管が収納されるかについて何ら限定するものではないから、本願発明の「配管ラック」の技術的意義は、タービンの運転上必要な配管を収納する空間をいうにすぎないと解される。
そうすると、引用例発明の湿分分離器と高圧タービン及び低圧タービンとの間に適宜の配管が配されていること、この配管が「湿分分離器を囲む空間部分」に設けられていることは上記のとおりであるから、引用例発明の「湿分分離器を囲む空間部分」も、本願発明の「配管ラック」と同様、タービンの運転上必要な配管を収納する空間にほかならない。したがって、引用例発明の「湿分分離器を囲む空間部分」が本願発明の「配管ラック」に相当するとした審決の認定に誤りはないというべきである。
ウ なお、この審決の認定中には、引用例発明の「配管」が本願発明の「湿分分離器」に相当するとした認定部分があるところ、原告は、湿分分離器は蒸気タービンに特有の構成であるとして、審決の当該認定部分を争うが、そもそも、この点は、審決の認定する相違点(1)(本願発明がガスタービンであるのに対し、引用例発明は蒸気タービンである点)に付随するものにすぎない上、審決の上記認定部分は、湿分分離器それ自体の機能に着目したものではなく、本願発明の「配管ラック」の有する技術的意義を踏まえつつ、これと引用例発明の「湿分分離器を囲む空間部分」との対応関係を導く判断過程でした認定にすぎないものであるから、引用例発明の湿分分離器それ自体の機能に着目して本願発明の「配管」との相違をいう原告の主張は、審決の認定の趣旨を正解しないか、又は審決の結論に影響を及ぼさない部分を論難するものとして失当というべきである。
(3) 一致点の認定の誤り及び相違点の看過について 以上のとおり、引用例発明の「建屋1」及び「湿分分離器を囲む空間部分」が、それぞれ本願発明の「タービン外衣」及び「配管ラック」に相当するとした審決の認定に誤りはないから、その誤りを前提として一致点の認定の誤り及び相違点の看過をいう原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点(1)についての判断の誤り)について (1) 原告は、本願発明のガスタービン外衣、配管及び配管ラックは、ガスタービンに特有のもので、これらに相当する構成が引用例発明に存在しないことを前提として、相違点(1)についての審決の判断の誤りを主張するが、本願発明の「ガスタービン外衣」及び「配管ラック」に相当する構成が引用例発明に認められることは上記1のとおりであるし、「配管」そのものは、本願発明の特許請求の範囲が規定する構成ではないから、この点の原告の主張は、前提において失当である。
また、原告は、審決の判断中、「両者はともに発電用タービンの建物への配置構成に係る技術」であるとの認定部分は、本願発明のガスタービン外衣が「建物」ではない点で誤りである旨主張するが、審決が「建物」といっているのは、各種の機器を収納する被包設備という趣旨として理解することができるものであり、
その表現が的確かどうかはともかく、これを誤りということはできない。
(2) 原告は、本願発明の作用効果として、「定検を必要とするものは全てガスタービン外衣内に収納して、保守点検をしやすくして定検期間を短縮化できるようにするとともに、建設コストを嵩ませることなく防爆エリアをガスタービン外衣内全体に拡大して、火災等に対するより多くの機器及びシステムの安全性を高めることができ」る点を主張する。しかし、まず、建設コストを嵩ませることなく防爆エリアをガスタービン外衣内全体に拡大することができるとの点について見るに、本願発明の特許請求の範囲が、ガスタービン外衣を防爆構造のものとして規定していない以上、当業者においてそのような防爆構造を採用することが自明の技術事項とされていたのであれば格別、これを認めるに足りる証拠がない本件においては、上記の防爆エリアに係る効果を本願発明の効果と認めることはできない。次に、保守点検の効率の向上をいう点については、本願発明において、配管ラックをタービン外衣内に収納し、配管ラック上面をケーシング回りの保守点検用歩廊としたことによって奏されるものと認められる。そうすると、引用例発明においても、配管ラックに相当する湿分分離器を囲む空間部分は、タービン外衣に相当する建屋1内に収納されていることは上記のとおりであり、また、湿分分離器の上面が保守点検用歩廊に相当するオペレーションフロア8′aとされていることは当事者間に争いがないから、この点の作用効果は、引用例発明から当業者が予測することができたものにとどまるというべきである。
(3) したがって、原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利