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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成8ワ2766特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成10ワ12875特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  不存在 /  実施 /  間接侵害 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (ワ) 16388号 差止請求権不存在確認等請求事件
原告 株式会社水環境研究所
訴訟代理人弁護士 中山徹
同 中園繁克
補佐人弁理士 鈴木正剛
同 村松義人
同 佐野量太
同 石崎依子
被告 青木電器工業株式会社
訴訟代理人弁護士 椎名啓一
補佐人弁理士 白浜吉治
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙物件目録記載のイ号装置を製造販売する原告の行為について,被告の有する特許第1862377号特許権に基づく差止請求権が存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
原告は,別紙「原告の主張」のとおり主張した。被告は,原告の主張を争わない。
よって,原告の請求は理由があるので,主文のとおり判決する。
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(別紙)物件目録図1〜3原告の主張1被告の有する特許権被告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,同特許権の請求項1の発明を「本件発明」という。)を有している。
ア発明の名称有機性物質を含む廃水の処理方法イ出願日昭和60年5月16日ウ登録日平成6年8月8日エ登録番号第1862377号オ特許請求の範囲別紙「特許公報」写しの該当欄記載のとおり(以下,同公報掲載の明細書を「本件明細書」という。)2本件発明の構成要件本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
@有機質物質を含む廃水を反応工程,濃縮工程へと順次送ると共に濃縮工程で分離された汚泥状反応物質を含む混合溶液の1部を培養システムを経由して再び反応工程へ返送させる有機性物質を含む廃水の処理方法であって,A前記培養システムが,調整工程並びに培養工程とからなり,Bかつ該培養システムを含む廃水循環系に含まれる細菌群が,土壌性偏性嫌気性細菌群と,フェノール又は/及びフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を産出するように順馴された土壌性通性嫌気性細菌群又は該馴された土壌性通性嫌気性細菌と土壌性好気性細菌とよりなる細菌群とが共存する細菌群であり,Cさらに前記培養システムにおいては,細菌群の活動によるフェノール又は/及びフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を可能な限り増量させることにより,反応工程へフェノール又は/及びフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物を供給し,D該反応工程においては,培養システムから送入されるフェノール又は/及びフェノール露出基のある化合物を含む代謝産物と原廃水とを混合することによって,化学的又は/及び生物学的汚泥を形成し,次いで未反応有機物と前記化学的又は/及び生物学的汚泥が共存することによって塊状産物を形成し,E前記濃縮工程においては,反応工程から送られてくる汚泥状並びに塊状反応物質を含む混合液を濃縮分離すると同時に濃縮液の1部を前記培養システムへ返送することを特徴とする,有機性物質を含む廃水の処理方法。
3原告の行為原告は,別紙物件目録記載のイ号装置(汚泥改質機「さわやかさん」)を製造販売している。
同装置の構成は,別紙物件目録記載のとおりである。
4イ号装置で実施される方法(以下「イ号装置の方法」という。)について(1)イ号装置についての取扱説明書である「液体解臭機さわやかさん取扱説明書」(設計・監理株式会社水環境研究所/製造販売元株式会社アクア総研,甲5)には,以下の記載がある。
ア液体解臭機(さわやかさん)システム説明液体解臭機本体には,腐植を含有した土壌をペレット状に成型した「アクアペレット」が充填内蔵されています。施設内のばっ気槽,最終沈殿槽,汚泥濃縮槽等より汚泥混合液をポンプを用いて,一定量を液体解臭機内に供給した後,回転円筒式攪拌装置による槽内の攪拌,及びブロワーによる送気を併用しながら汚泥混合液をペレット充填層に下降流にて接触,通過,循環させて24時間連続培養することにより,汚泥の改質をはかります。
ペレットと接触し,改質された汚泥混合液(培養液)は,通常1日1回設定した時刻に自動弁(電動弁)を開いて,液体解臭機の容量のうち半量分を排出し,その一部または全量を,処理施設の原水流入部分,流量調整槽,ばっ気槽等(施設設計内容により異なる)に流入させます。排出した培養液と等量をポンプによって再び液体解臭機に補充を行い,汚泥の培養工程を継続します。
以上の操作を繰り返すことにより,処理系内の汚泥生物相が変化して汚泥の改質が進み,処理施設全体の臭気が低減してきます。
液体解臭機の運転時における培養汚泥の排出,補充,及び培養操作は,全て自動運転によって行うことが出来るようになっています。(2頁1ないし15行目)イ空気量の設定液体解臭機では,回転円筒による機械攪拌と併用して,空気を用いた攪拌及び槽内DO値の制御を行っています。空気の吹き込みは,ブロワーの間欠運転により断続的に行うことも出来るようになっています。空気量は,機械攪拌を併用している場合は,比較的少量でも十分であり,液体解臭機に供給する汚泥混合液の濃度や状態によるため一概には言えませんが,毎分10〜30l程度となります。一般的には,液体解臭機によって汚泥が改質されるに従って必要空気量は少なくなります。実際には空気量を絞るか,自動運転(タイマーによる間欠運転)によって,空気を送る時間を一日12時間程度(15〜30分間隔でON-OFFを繰り返す)にして,万一臭気が発生するようであれば,空気量を増加させます。間欠運転を行う場合は,散気管の目詰まりを考慮して,空気量は若干増加させて下さい。(5頁1ないし11行目)ウ図表(14頁)この図表は,自動運転時の1サイクルが,@汚泥培養中,回転円筒,ブロワー,併用→A排出用電動弁開く,排出開始→B排出中→C排出終了(半量排出)→D汚泥供給ポンプ作動,排出用電動弁閉じる→E汚泥供給ポンプ停止,という連続する6工程からなることを示したものである。
(2)これらの取扱説明書の記載からすれば,イ号装置の方法は,次のようなものであることがわかる。
先ず,イ号装置で実行される方法は,上記アから,(a)「@汚泥培養中→A汚泥排出開始→B汚泥排出中→C汚泥排出終了→D汚泥供給→E汚泥供給終了」という@〜Eの工程を1サイクルとして実行される方法であるということである。
次に,上記(b)中の「汚泥培養中」で実行される方法は,上記ア中の「回転円筒式攬件装置による槽内の攪拌,及びブロワーによる送気を併用しながら汚泥混合液をペレット充填層に下降流にて接触,通過,循環させて24時間連続培養することにより,汚泥の改質をはかります。」という記載からして,(b)「散気管12からの空気の供給を行いながら,円筒部材8の回転によって,有底ケース1内に供給された汚泥を,円筒部材8内で上昇させると共に,円筒部材8外で下降させるように循環させ,これにより,円筒部材8の外側にあり,ペレットゲージ10に入れられたペレットに,汚泥を強制的に接触させ」るものであるということである。
なお,上記アの記載における「槽」がイ号装置における「有底ケース1」であり,「回転円筒式攬件装置」がイ号装置における「円筒部材8」であり,「ブロワー」がイ号装置における「散気管12」であり,「ペレット充填層」がイ号装置における「ペレットゲージ10」に該当することは,それぞれの機能等を考慮すれば,あえて説明するまでもないことであり,上記(b)の内容が正しいことは,上記イ中の「液体解臭機では,回転円筒による機械攪拌と併用して,空気を用いた攪拌及び槽内DO値の制御を行っています。」という記載や,上記ウ中の「汚泥培養中,回転円筒,ブロワー,併用」という記載からも明らかである。
さらに,上記イ中の「空気の吹き込みは,ブロワーの間欠運転により断続的に行うことも出来るようになっています。空気量は,・・・毎分10〜30?程度となります。一般的には,液体解臭機によって汚泥が改質されるに従って必要空気量は少なくなります。実際には空気量を絞るか,自動運転(タイマーによる間欠運転)によって,空気を送る時間を一日12時間程度(15〜30分間隔でON-OFFを繰り返す)にして,万一臭気が発生するようであれば,空気量を増加させます。間欠運転を行う場合は,散気管の目詰まりを考慮して,空気量は若干増加させて下さい。」という記載からわかるように,上記(b)中の「散気管12からの空気の供給」は,(c)「毎分10〜30?程度とされ,継続的にも,断続的にも行え,これを断続的に行う場合には15〜30分間隔で空気の供給をON-OFFすることができ,万一臭気が発生する場合には,供給する空気量が多くされ,断続的に空気を供給する場合には,供給する空気量が多くされる」というようにして行われるものであるということである。
(3)かくして,イ号装置の方法は,(a)「@汚泥培養中→A汚泥排出開始→B汚泥排出中→C汚泥排出終了→D汚泥供給→E汚泥供給終了」という@〜Eの工程を1サイクルとして実行され,(b)「汚泥培養中」では,散気管12からの空気の供給を行いながら,円筒部材8の回転によって,有底ケース1内に供給された汚泥を,円筒部材8内で上昇させると共に,円筒部材8外で下降させるように循環させ,これにより,円筒部材8の外側にあり,ペレットゲージ10に入れられたペレットに,汚泥を強制的に接触させ,(c)「散気管12からの空気の供給」は,毎分10〜30l程度とされ,継続的にも,断続的にも行え,これを断続的に行う場合には15〜30分間隔で空気の供給をON-OFFすることができ,万一臭気が発生する場合には,供給する空気量が多くされ,断続的に空気を供給する場合には,供給する空気量が多くされ,(d)「汚泥培養中」の汚泥は,好気状態に保たれる,方法であるということができる。
なお,上記(a)の中の「汚泥培養中」の汚泥が,(d)「好気状態に保たれる」ようになっているということは,上記(c)中の「散気管12からの空気の供給」は,「万一臭気が発生する場合には,供給する空気量が多くされ」,「断続的に空気を供給する場合には,供給する空気量が多くされる」ということから明らかである。
臭気が発生する場合に供給する空気量が多くされるのは,好気状態を保つことで,偏性嫌気性菌の発生を抑制するためである。汚泥の改質を行う際に発生する臭気の典型的なものが硫化水素であり(甲6の32頁8ないし13行目),その硫化水素を発生させるのが硫酸塩還元菌であって,これが偏性嫌気性菌であることは良く知られている(甲7の264頁1ないし4行目,甲7に記載の「絶対けん(嫌)気性菌」は,「偏性嫌気性菌」と同義である)。そこで,臭気が発生する場合には,その原因を作る偏性嫌気性菌であるところの硫酸塩還元菌を減らすべく,供給する空気を増やすのである。
ここで,微生物は,O2(酸素)を利用して増殖する好気性菌と,O2の有無に関わらずに増殖する通性嫌気性菌と,O2の濃度がある程度高いと増殖できない偏性嫌気性菌とに分類される(甲8の9頁10行ないし10頁2行目)。供給する空気が増えれば,O2の濃度がある程度高いと増殖できない偏性嫌気性菌が減り,硫化水素の発生が抑制され,これにより,臭気が抑制されるのである。これが,臭気が発生する場合に,供給される空気量が多くされることの意義である。ここに,臭気の発生が抑制されるべく偏性嫌気性菌の少ない状態が保たれることは,即ち,有底ケース1内が「好気状態に保たれる」ということを意味することになる。他方,断続的に空気を供給する場合に供給する空気量が多くされるというのは,断続的に空気を供給する場合には,供給される空気量の総量が減ってしまうことを考慮したものである。これは,単位時間あたりの空気量を多くして,有底ケース1内が「好気状態に保たれる」ようにすることを意味するものに他ならない。
5イ号装置の方法が,本件特許権を侵害しないことについてイ号装置の方法は,本件特許権を侵害しない。
ここで,甲5の取扱説明書に記載のとおり使用される場合,イ号装置で実行される方法は,上述したとおりのものである。したがって,イ号装置が,取扱説明書に記載のとおり使用される限り,イ号装置の有底ケース1の内部は好気状態に保たれることになる。そして,このような場合,有底ケース1の内部には,O2の濃度がある程度高いと増殖できない偏性嫌気性菌が顕在化することはない。甲5の取扱説明書に記載のとおりに使用された場合において,イ号装置によって実行される方法は,土壌性偏性嫌気性菌群の顕在化を要求する本件発明の構成要件Bを欠くことになる。
もっとも,液体解臭機であるイ号装置の本質を考慮せず,臭気の発生をも厭わないというのであれば,散気管12への空気の供給を長期間停止することで,有底ケース1の内部を嫌気的状態とし,それにより土壌性偏性嫌気性菌群を顕在化させることもできるかもしれない。このような極めてイレギュラーな使用方法を選択するのであれば,イ号装置によって実行される方法は,本件発明の構成要件Bを充足する可能性がないわけでもない。しかしながら,このようなイレギュラーな使用方法の選択により,イ号装置によって実行される方法が,仮に,構成要件Bを含む本件発明のすべての構成要件を充足することになるとしても,甲5の取扱説明書に記載のとおりの使用方法に依拠する限り,特許法101条所定の要件が充足されることはないのである。原告のイ号装置が本件特許権の間接侵害を構成することはない。
また,有底ケース1の中で汚泥の改質を行うという一槽式を採用するイ号装置によって実行される方法は,イ号装置が,取扱説明書に記載のとおりの使用方法で使用されるか否かにかかわらず,「培養システムが調整工程並びに培養工程とからなり,」という本件発明の構成要件Aを満たすこともない。
したがって,イ号装置を製造販売する原告の行為は,本件特許権の間接侵害を構成しない。
6結語以上のとおりであるから,イ号装置を製造販売する原告の行為について,被告の有する本件特許権に基づく差止請求権が存在しない。
以上特許公報(省略)
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智