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関連審決 不服2003-16394
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  寄せ集め /  周知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術的手段 /  技術常識 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10044号 審決取消請求事件

原告 イーエムシー株式会社
訴訟代理人弁理士 岩堀邦男
同 高橋勇
被告 特許庁長官 中嶋誠
指定代理人 矢島伸一
同 大野克人
同 立川功
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-16394号事件について平成16年12月16日にした審決を取り消す。
当事者間に争いがない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成13年12月25日,発明の名称を「ノイズフィルタ」(平成14年11月8日付け手続補正書により「ノイズフィルタ及びこれを備えた電子装置」と変更)とする発明につき特許出願(特願2001-391303号。以下「本件出願」という。)をした。
原告は,平成14年11月8日付け手続補正書及び平成15年6月26日付け手続補正書により,本件出願の願書に添付した明細書の補正をしたが,特許庁は,同年7月18日,本件出願につき,拒絶査定をした。
(2) 原告は,平成15年8月26日,上記拒絶査定を不服として,本件審判の請求をするとともに,同日付けの手続補正書を提出して,上記明細書の補正を申し出た。
特許庁は,同審判の請求を不服2003-16394号事件として審理した上,平成16年9月13日,「平成15年8月26日付けの手続補正を却下する。」との決定(以下「本件決定」という。)をするとともに,平成16年12月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,それらの各謄本は,それぞれ同年9月28日,平成17年1月5日に原告に送達された。
2 平成14年11月8日付け手続補正書及び平成15年6月26日付け手続補正書による補正後の明細書(甲11)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願補正前発明」という。)の要旨 【請求項1】 一台ごとに対地容量の異なる機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであって,前記アース線に誘導されるノイズを抑制するインダクタと,このインダクタに並列接続された可変抵抗器と,を備えたことを特徴とするノイズフィルタ。
3 平成15年8月26日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)後の明細書(甲11,15,以下「本件補正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という,なお,下線部分は補正箇所である。)の要旨 【請求項1】 一台ごとに対地容量の異なる機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであって,前記アース線に誘導されるノイズを抑制するインダクタと,このインダクタに並列接続された可変抵抗器とを備え,この 可変抵抗器 は,当該ノイズフィルタ が前記 アース 線に取り付けられ 状態 で,前記 インダクタ と前記対地容量 との 共振周波電流 を抑制 する 抵抗値 になるように 調整 し得るものである ,ことを特徴とするノイズフィルタ。
4 本件決定及び審決の理由 (1) 本件決定の理由 本件決定の理由は,別添補正の却下の決定謄本写し記載のとおりであり,その要旨は,@本件補正は,本件出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるから,特許法(平成15年法律第47号による改正前の特許法をいう趣旨であると解される。以下「平成15年改正前特許法」という。)17条の2第3項の規定に適合する,A本願補正発明は,実願昭60-24369号(実開昭61-140620号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。),実願昭49-38888号(実開昭50-127336号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)及び特開平8-265085号公報(以下「引用例3」という。)に記載された発明(以下,引用例1に記載された発明を「引用発明1」という。)及び抵抗値の設定を容易にするために可変抵抗器を用いるという周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり,したがって,本件補正は,平成15年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に適合しないものであるから,同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下されるべきである,というものである。
なお,本件決定が認定した本願補正発明と引用発明1との一致点,相違点は,以下のとおりである。
ア 一致点 「機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであって,前記アース線に誘導されるノイズを抑制するインダクタを有するノイズフィルタ。」である点 イ 相違点 (ア) 相違点1 「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,インダクタに可変抵抗器からなる抵抗器を並列接続してノイズフィルタを構成するのに対し,引用例1に記載された発明(注,引用発明1)は,インダクタのみでノイズフィルタが構成され,抵抗器が並列接続されていない点。」 (イ) 相違点2 「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,一台ごとに対地容量の異なる機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであり,インダクタに並列接続された可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得るものであるのに対し,引用例に記載された発明(注,引用発明1)は,そのような調整を行う構成が記載されていない点。」 (2) 審決の理由 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおりであり,その要旨は,@本件補正は却下されたので,本件審判の審理の対象は,本件補正前の明細書の特許請求の範囲の各請求項(以下「本件補正前請求項」という。)に記載された発明である,A同請求項1記載の本願発明は,引用発明1及び引用例2,3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,したがって,本件出願は,本件補正前請求項のうちのその余の請求項について論及するまでもなく,拒絶すべきである,というものである。
原告の審決取消事由
本件決定は,本願補正発明の独立特許要件具備についての判断において,相違点の認定を誤る(取消事由1)とともに,相違点及び本願補正発明の奏する効果に係る判断を誤り(取消事由2〜4),その結果,本願補正発明は独立特許要件を欠くとして,本件補正を違法に却下したものであり,したがって,本件決定を前提に,本件補正前請求項記載の発明を審理の対象とした審決の判断は,審理の対象を誤ったものであるから,審決は,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件決定における相違点の認定の誤り) (1) 相違点1の認定について 本件決定は,本願補正発明と引用発明1とは,「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,インダクタに可変抵抗器からなる抵抗器を並列接続してノイズフィルタを構成するのに対し,引用例1に記載された発明(注,引用発明1)は,インダクタのみでノイズフィルタが構成され,抵抗器が並列接続されていない点」(相違点1,補正の却下の決定謄本5頁第2段落)で相違すると認定したが,以下に述べるとおり,誤りである。
ア 本願補正発明は,アース線に取り付けられるノイズフィルタであることを前提としつつ,インダクタに可変抵抗器を並列接続していることを特徴とするものであり,この部分は本願補正発明の重要な構成要素であるから,可変抵抗器をその上位概念である抵抗器に置き換えて,引用発明1との対比を行うのは妥当性を欠く。したがって,相違点1を両発明の相違点とするのは誤りであり,正しくは,「本願補正発明は,インダクタに可変抵抗器を並列接続してノイズフィルタを構成するのに対し,引用発明1は,インダクタのみでノイズフィルタが構成され,可変抵抗器が並列接続されていない点。」を相違点として認定すべきである。
新規性に関する審査基準には,「引用発明が上位概念で表現されている場合には,下位概念で表現された発明が示されていることにはならないから,下位概念で表現された発明は認定できない。」と記載されている。すなわち,特許を受けようとする発明が下位概念で表現された構成を有している場合には,原則として,当該発明と上位概念で表現された構成を有する引用例とを対比して,新規性又は一致点の認定をしてはならないものである。
本件決定は,本願補正発明が抵抗器の下位概念である可変抵抗器を構成要素としているのに,新規性の判断基準を誤り,その上位概念である抵抗器を有するか否かという観点で引用発明1との対比を行い,その結果,本願補正発明が抵抗器の下位概念である可変抵抗器を構成要素としていることを看過したものである。
(2) 相違点2の認定について 本件決定は,本願補正発明と引用発明1とは,「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,一台ごとに対地容量の異なる機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであり,インダクタに並列接続された可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周派電流を抑制する抵抗値になるように調整し得るものであるのに対し,引用例に記載された発明(注,引用発明1)は,そのような調整を行う構成が記載されていない点。」(相違点2,補正の却下の決定謄本5頁第3段落)で相違すると認定したが,以下に述べるとおり,誤りである。
ア 本件決定のいう「そのような調整」とは,いかなる調整であるか不明りょうであり,調整の内容がどのようなものかについて全く触れることなく,この点を看過して相違点2を認定している。
本願補正発明は,「可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得るもの」という特有の構成を有している。このように,本願補正発明における可変抵抗器は,前記アース線に取り付けられた状態で上記抵抗値の調整を可能とするものであり,この構成は,本願補正発明のノイズフィルタが,アース線に設置された2端子網回路であることを明示するものにほかならない。
ところが,本件決定の相違点2の認定では,本願補正発明の主要な構成である可変抵抗器の「当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態での調整」を,単に「そのような調整」と誤認し,ひいては,本願補正発明の可変抵抗器による抵抗値の調整が,「当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で」行われるという重大な限定要素を看過したものである。
イ また,引用発明1には,並列接続された抵抗器すら存在しないのに,本件決定の相違点2の認定では,唐突に,「引用例に記載された発明(注,引用発明1)には,そのような調整を行う構成が記載されていない点。」として,引用発明1に抵抗器が備わっていることを前提とするような認定をしており,失当である。
2 取消事由2(本件決定における相違点1に係る判断の誤り) (1) 本件決定は,相違点1の判断において,「ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収することは引用文献2,3(注,引用例2,3)に記載されるよう周知の構成である。」(補正の却下の決定謄本5頁第4段落)と認定判断しているが,引用例2,3に記載のノイズフィルタは,いずれも電源線に設置する,4端子網回路のものであり,本願補正発明のようにアース線に設置する2端子網回路のものではない。
電源線の4端子網回路のノイズフィルタにおいては,ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収することが周知の技術であると認められるにしても,引用例2,3には,本願補正発明のようなアース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタに関して,インダクタのエネルギーを吸収する可変抵抗器の構成,及びそのエネルギーを抵抗に吸収するための技術的な課題は何ら記載されていないし,示唆もされていない。
本願補正発明のアース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタは,アース線に誘導されるノイズ電流が機器に直接流れてしまう構成である。 これに対し,引用例2,3記載のノイズフィルタは,電源線に設置する,4端子網回路のものであり,ノイズ電流が電子機器を迂回して吸収除去される構成であり,ノイズ電流が電子機器を迂回することが重要な構成要件となっている。
したがって,引用例2,3に記載のノイズフィルタにおけるノイズ電流を吸収除去する構成は,電源線の4端子網回路の場合に限って採用し得るものであり,この構成をアース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタに適用することについては,阻害要因がある。
(2) 本件決定は,「引用例2,3には,この並列接続される抵抗の値は,静電容量等に応じて設定されるべきことが記載されている。」(補正の却下の決定謄本5頁下から第3段落)と認定しているが,引用例2,3のこの点に関する記載は,電源線の4端子網回路のノイズフィルタについてのものであり,アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタに直ちに当てはまるものではない。
引用例2,3に記載の電源線に設置する,4端子網回路のノイズフィルタであれば,静電容量等の値は,電子機器内部の構成であり,ある程度予想し得るものであるが,本願補正発明のように,機器ごとに対地容量が異なるアース線に取り付けられる2端子網回路のノイズフィルタでは,並列接続される抵抗の値は,全く不明なことが多く,一義的に設定し得ないものである。
したがって,並列接続される抵抗の値を静電容量等に応じて設定するという引用例2,3に記載の構成を,そのままアース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタに適用することはできない。
(3) 本件決定は,「抵抗値の設定を容易にするために可変抵抗器を用いることはごく普通に行われることであり,(必要であれば,ノイズフィルタの抵抗を可変抵抗とした特開平9-214276号公報を参照)前記周知の構成の付加にあたり可変抵抗器を用いることは,適宜なし得る設計的事項と認められる。」(補正の却下の決定謄本5頁下から第2段落)と認定しているが,誤りである。
特開平9-214276号(甲7。以下「甲7文献」という。)に記載の発明は,電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタであって,可変抵抗Rsは,電源線のノイズフィルタのインダクタ(コイルL1,L2)と並列接続された抵抗器ではなく,インダクタ(コイルL1,L2)との関係において,抵抗値を変えることができるものではない。
したがって,本願補正発明の2端子網回路のノイズフィルタにおいて,インダクタと並列接続された抵抗の値の設定を容易にするため可変抵抗器を用いることは,ごく普通に行われているものではなく,引用発明1に,ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収するという周知の構成(以下「本件周知構成」という。)を適用するに当たり,当該抵抗器を可変抵抗器とすることは,当業者が適宜に行い得る設計的事項ではない。
(4) 引用例2(甲4)には,4端子網の直列共振回路のノイズフィルタにおいて,Q(=ωL/R)=1となるような制動抵抗RをインダクタLに並列接続し,インダクタLの中に電磁エネルギーとして蓄えられる振動エネルギーが制動抵抗Rによって吸収され,共振又は自由振動を停止する構成のみが記載されている。引用例2記載のこの構成を,仮に,そのまま引用発明1のアース線用のノイズフィルタに適用すると,電子機器に生じる大電流の短絡電流はインダクタLと抵抗Rに分岐して等しく流れることとなり,抵抗Rに大電流が流れることにより,抵抗Rを焼損するおそれが大きくなる。このことは,引用例2記載の上記構成が,アース線のノイズフィルタとしては機能しないことを意味する。したがって,引用例2記載の上記構成を,アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタに適用することには,阻害要因がある。
引用例3(甲5)にも,4端子網の直列共振回路のノイズフィルタにおいて,Q(=ωL/R)が1に近似する値となるような制動抵抗RをインダクタLに並列接続する構成みが記載されており,この構成を,アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタに適用することには,同様に,阻害要因がある。
そもそも,アース回路に抵抗器を挿入すると,「アース回路の抵抗値」が増加するのであって,本件出願時において,このような構成とすることは,アース回路についての当業者の技術常識に反する無謀なこととされていた。すなわち,アース線に抵抗器だけを挿入すると,ノイズ電流の低減効果を得ることは可能であるが,それではアース線の果たすべき短絡事故時における大電流の退避路としての機能を著しく損なう重大な危険がある。引用例1(甲3)にも,「・・・磁性体7は,直流抵抗が2mΩ以下となるように選定することが望ましい。このような値に選定すると,インダクタの発熱が小さくなるし,また,最も規制の厳しいIEC規格・・・にも適合できるからである。」(7頁12行目〜17行目)と記載され,この点が間接的にではあるが指摘されている。要するに,アース線回路の抵抗はごく小さい値のものに限定され,アース線回路には抵抗をなるべく設けないことが,本件出願時の当業者の技術常識であったと解される。そうすると,アース線のインダクタに並列抵抗を設けることには,阻害要因があると解さざるを得ない。
(5) したがって,相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるとした本件決定の判断は,誤りである。
3 取消事由3(本件決定における相違点2に係る判断の誤り) (1) 本願補正発明における主要な構成は,「この可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得る」という部分である。
引用発明1のノイズフィルタは,機器のフレームグランドとアースとを結ぶ導線に磁性体を挿着してなるインダクタを有するものである。引用発明1のノイズフィルタは,確かに,アース線に設置する2端子網回路のものとして理解される可能性はあるが,引用例1(甲3)記載の実施例及び図面では,電源線に設置する4端子網のラインフィルタ5と一体に結合したフィルタ回路として開示されている。また,引用例2,3に記載のノイズフィルタは,そのすべてが電源線に設置された4端子網回路のものである。
アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタ(本願補正発明)と,電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタ(引用発明1,引用例2,3に記載の発明等)とは,ノイズフィルタという共通の技術用語が用いれられているものの,構成,解決すべき課題(目的),効果などが全く異なるものである。
(2) 電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタは,電源線の入力箇所からのノイズを減少又は消滅させる構成を有するものであるが,ノイズフィルタに設けられた抵抗器は,電力の入力側で電力消費がされないようにするためおのずと小さい値にされている。これに対し,アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタは,アース線に誘導される高周波ノイズを減少又は消滅させるように構成されるとともに,ノイズフィルタに設けた抵抗器(本願補正発明の出願前には存在しない構成ではある。)は,電源線に関係しないために自在に設定することができる。
この場合,数百メートルの長さを有するアース線に設置する2端子網回路とされることもある。
(3) 電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタにおいては,入力端子からノイズ電流が入力した場合,一つの電源線に接続したインダクタと,二つの電源線間に接続したコンデンサーとが共振現象を引き起こし,その共振時の最大電流が流れる。この最大電流は,二つの電源線間のコンデンサー,他の電源線を順次通過して電源側に帰還する。このように,最大電流は,コンデンサーを通して流れるから,電子機器に流れ込むことはなく,電子機器が保護されるように構成されている。
これに対して,本願補正発明のような,アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタは,アース線に機器が直接接続され,そのため,機器と大地との間に存在する対地容量とアース線のインダクタとが直列共振現象を引き起こすおそれがある。そして,上記直列共振現象が発生すると,最大電流が機器に直接流れ込むことになるから,最大電流から機器を保護する必要がある。本願補正発明は,この問題を解決するため,上記(1)記載の構成を採用することにより,アース線に誘導される高周波ノイズ(共振周波電流)を減少させるとともに,放出電力の問題も解消しようとするものである。
上記のように,電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタでは,インダクタとコンデンサーとの共振時の最大電流は,そのコンデンサーを通して電源側に帰還する回路が確保されていて,電子機器を最大電流から保護する構成を特に必要としない。したがって,アース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタのような技術的課題は生じず,これを解決するための技術的手段を必要としないものである。
(4) 以上のとおり,引用発明1及び引用例2,3に記載の4端子網回路のノイズフィルタと本願補正発明の2端子網回路のノイズフィルタとは,構成,解決すべき課題,効果等を異にするものであり,引用発明1及び引用例2,3に記載の発明から相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者であっても容易に想到できるものではない。
本件決定は,4端子網回路のノイズフィルタと2端子網回路のノイズフィルタを同視し,上記(1)記載の本願補正発明の主要な構成の意義を正しく理解しなかったため,この点に関する判断を誤ったものである。
4 取消事由4(本件決定における顕著に有利な効果の看過) (1) 本願補正発明は,財団法人電気安全環境研究所(JET)作成の試験成績書(甲16。以下「甲16試験成績書」という。)に記載の試験データから明らかなように,顕著に有利な効果を奏するものである。
すなわち,甲16試験成績書の試験データは,引用発明1のノイズフィルタ(インダクタ)と本願補正発明の構成を有する試験品のノイズフィルタ(以下「試験品」という。)との電流減衰特性と位相特性(ノイズ源から機器側に入力した全電力である皮相電力と,インダクタで抑制されてノイズ源側に戻ってくる電力である無効電力との比を表すもの)とを比較したものである。なお,インダクタについては,引用例1に記載されている数値と,本件補正明細書に記載されている数値に基づいてその値を決定している。この試験データによれば,以下に述べるとおり,本願補正発明のノイズフィルタは,引用発明1のノイズフィルタ(従来技術)と比較して,高周波のノイズ電流がインダクタを通過せずに可変抵抗器で消費される結果,高周波ノイズの減衰量が著しく大きく,放出電力も格段と小さく抑えることができることが明らかである。すなわち,本願補正発明は,引用発明1には見られない,ノイズフィルタでノイズの電力が蓄えられることなく,放出電力による問題も生じないなどの顕著に有利な効果を奏するものである。
ア 甲16試験成績書の実験において,疑似負荷が例えば200000pFの場合,引用発明1のアース線用のインダクタでは,450kHz付近で直列共振し,この周波数を超えた付近からインダクタのみによってノイズ電流が約17dB減衰している。これに対して,試験品では,約4.6kHz付近で直列共振し,ノイズ電流の周波数が高くなるに従ってノイズ電流が減少しており,その減衰量が引用発明1のノイズフィルタと比べてはるかに大きくなっている。このことは,試験品においては,可変抵抗でノイズ電流が電力消費されていることを示すものである。
イ また,引用発明1のノイズフィルタと本願補正発明のノイズフィルタ(試験品)とでは,直列共振周波数での電流が大きく異なり,前者では約17dB増幅しているが,試験品では約3.5dB増幅するにとどまっており,約14dB抑えられている。直列共振周波数で増幅した電流は機器側に流れるから,前者では,その電流が機器内部の回路を破壊するおそれがあるが,後者では,そのようなおそれはない。
ウ さらに,甲16試験成績書の試験データである位相特性を見ると,引用発明1のノイズフィルタでは,約450kHz付近で直列共振を起こし,その時点では放出電力が急激に低下しているが,直列共振周波数以上の領域では,放出電力の低下は見られない。これに対し,試験品では,直列共振を起こした時点で放出電力が低下しており,この点は引用発明1と共通するが,周波数が直列共振周波数を越えた付近から,インダクタに並列接続された可変抵抗によって電力消費がされ,引用発明1と比較して,無効電力がはるかに小さくなっていることが分かる。
(2) 被告は,「インダクタの性質によって,疑似負荷(コンデンサ)に掛かる電圧は減少してノイズ抑制効果が大きくなる一方,インダクタ両端に生じる電圧はより増加する。したがって,インダクタに抵抗を並列接続した場合,抵抗に印加される電圧も大きくなって,抵抗で消費される電力も増大することが当然に予想される。」とした上,インダクタに抵抗器を並列接続した回路では,共振周波数以上においても,高周波領域ほどノイズ電流の減衰量が大きいことは当然予測できるから,その結果,高周波ノイズが減少することも自明のことであり,甲16試験成績書に示された効果は,引用発明1及び引用例2,3に記載の発明から予測できる範囲内のものである旨主張するが,誤りである。
まず,被告の主張には,「電圧」に着目して「ノイズ」を論じているために生じた誤認がある。すなわち,被告は,疑似負荷(コンデンサ)の電圧の減少をノイズの抑制効果としているが,ノイズを抑制することの本質は電流を抑制することであるから,電流の減少をノイズの抑制効果とすべきである。仮に,疑似負荷の電圧が減少するとしても,インダクタ両端に生じる電圧は,一定値に近づくものであて,より増加するものではない。
最も重要なことは,甲16試験成績書に示された本願補正発明の効果は,引用発明1及び引用例2,3に記載の発明から予測できる範囲内のものでは決してないということである。
(3) 上記のとおり,引用発明1及び引用例2,3に記載の電源線の4端子網回路のノイズフィルタからは,本願補正発明の奏する効果の予測可能性はなく,本願補正発明は,引用発明1と比較して顕著に有利な効果を奏するものである。
5 以上のとおり,本願補正発明は,引用発明1及び引用例2,3に記載の発明の単なる寄せ集めではなく,引用発明1に引用例2,3に記載の発明を適用したとしても,当業者が容易に想到することのできないものであるから,独立特許要件を具備するものであり,平成15年改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定を充足している。これと異なる本件決定の判断は誤りである。
被告の反論
本件決定の相違点の認定,相違点及び顕著に有利な効果についての判断はいずれも相当であって,本願補正発明が独立特許要件を欠くとして,本件補正を却下した本件決定に違法はなく,したがって,審決に審理の対象を誤った違法はない。
1 取消事由1(本件決定における相違点の認定の誤り)について (1) 相違点1の認定について 本件決定は,引用例1には,「可変抵抗器」のみならず,より広く「抵抗器」についても記載がないことを確認するために,相違点1において,引用発明1には「抵抗器が並列接続されていない」ことを本願補正発明との相違点として挙げ,その上で,本件決定は,相違点1に係る判断において,本願補正発明が「可変抵抗器」を有しているものとして正しく判断を行っているものである。
したがって,本件決定の相違点1の認定に誤りはない。
(2) 相違点2の認定について 本件決定は,相違点2として,「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,一台ごとに対地容量の異なる機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであり,インダクタに並列接続された可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得るものであるのに対し,引用例1に記載された発明(注,引用発明1)は,そのような調整を行う構成が記載されていない点。」(補正の却下の決定謄本5頁第3段落)と認定したが,上記の「そのような調整」とある部分が,直前に記載された,「インダクタに並列接続された可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整」することを意味していることは明らかである。
そして,本件決定は,相違点2について,「引用例2,3には,並列接続される抵抗値は適宜設定されるべきことが記載され,特に,引用例2には,この並列接続される抵抗値は,機器と大地間の静電容量(対地容量)等に応じて設定されることが記載されている。機器毎に対地容量が異なることは明らかであり,取り付けられた状態で調整するものであることを考慮しても格別のものと認めることはできない。」(補正の却下の決定謄本5頁最終段落〜6頁第2段落)と判断しているのであって,「そのような調整」とある部分が上記の意味内容のものであることを前提に判断を行っている。
したがって,本件決定の相違点2の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本件決定における相違点1に係る判断の誤り)について (1) 原告は,本件決定が認定したノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収するという周知技術は,本願補正発明のような,アース線のノイズフィルタのように2端子回路として構成され,しかも,抵抗によってノイズを吸収するものには適用できない旨主張する。
しかしながら,引用例2(甲4)の第2図,第7図に図示された等価回路によると,引用例2記載のノイズフィルタにおいて,ノイズ電流の経路は,原告の主張するような4端子網回路ではなく,電源から電子機器10〔「CT:電子機器の電源トランスの一次,二次巻線間の静電容量 Cs:電子機器の配線導体と大地間の静電容量」(2頁18行目〜3頁1行)〕を介してアースに至る2端子網回路として示されている。原告の主張は,その前提を誤っており,当を得ないものである。
また,インダクタに並列に抵抗が接続される構成をアース線のノイズフィルタの回路に付加することを阻害する要因は全くない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,本願補正発明のようなアース線に用いるノイズフィルタでは,並列接続される抵抗の値が全く不明なことが多いのに対して,引用例2,3のノイズフィルタでは,静電容量等の値が電子機器内部の構成に依拠するものであり,ある程度既知であるから,引用発明1に引用例2,3に記載の並列接続される抵抗の値を設定する構成を適用することはできない旨主張している。
しかしながら,抵抗の値を静電容量に応じて設定すべきことは,抵抗値の予測の容易性にかかわらず,引用例2,3に記載された技術的事項である。
しかも,引用例2の第2図に図示された等価回路等によれば,静電容量には「Cs:電子機器の配線導体と大地間の静電容量」が含まれるから,同引用例のノイズフィルタにおいても,静電容量等の値が電子機器内部の構成のみに依拠するものでないことは明らかである。
したがって,引用例2には,一義的に設定されない「電子機器の配線導体と大地間の静電容量」に応じて抵抗値を設定すべきであることが開示されているということができ,また,引用発明1のノイズフィルタ回路に,引用例2記載の発明を適用することを阻害する要因は何ら存在しない。
(3) 原告は,本件決定は,「抵抗値の設定を容易にするために可変抵抗器を用いることはごく普通に行われる」(補正の却下の決定謄本5頁下から第2段落)とし,また,甲7文献には,ノイズフィルタの抵抗を可変とした構成が開示されていると認定したが,いずれも誤りである旨主張する。
しかしながら,抵抗器として可変抵抗器を用いることは,引用例を示すまでもなく周知・慣用の技術であることは明らかであって,原告の主張は根拠がない。
また,本件決定は,ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収するという周知の構成(本件周知構成)の付加に当たり,「可変抵抗器」を用いることは設計的事項であると判断しているものであって,周知例として引用した甲7文献に「並列接続された可変抵抗器」が記載されると認定しているものではない。原告のこの点に関する主張は当を得ないものである。
3 取消事由3(本件決定における相違点2に係る判断の誤り)について 原告は,相違点2に係る判断が誤っているとし,その根拠として,引用発明1のノイズフィルタ及び引用例2ないし4に記載のノイズフィルタのすべてが電源線に設置された4端子網回路のものであるのに対し,本願補正発明はアース線に設置する2端子網回路のノイズフィルタであり,両者は,ノイズフィルタという共通の技術用語が用いられてはいるものの,構成,解決すべき課題(目的),効果などが全く相違する旨主張する。
しかしながら,引用例1(甲3)には,機器のフレームグランドとアースとを結ぶノイズフイルタ(インダクタ),すなわち,本願補正発明と同様の2端子網回路のノイズフィルタが記載されていることは,引用例1の実用新案登録請求の範囲第1項(1頁)の記載,第1図及び第7図の図示(アース線の導線6,磁性体7によりインダクタを構成し,フィルタ回路を構成することが示されている。),「産業上の利用分野」の項(2頁),「従来の技術」の項(3頁11行目〜16行目,第9図参照),「問題点を解決するための手段」の項(5頁)等の記載を見れば明らかである。引用発明1と本願補正発明とは,技術的構成,解決すべき課題(目的),効果において格別相違するものではない。
4 取消事由4(本件決定における顕著に有利な効果の看過)について 原告が主張する本願補正発明の効果とは,ノイズフィルタのインダクタに可変抵抗器を並列に接続したことにより得られる効果であり,ノイズフィルタのインダクタに可変抵抗器を並列接続する構成が,当業者において容易に想到し得るものであることは,上記2のとおりである。
そして,引用例2,3には,ノイズフィルタのインダクタに抵抗器を並列接続することにより,共振周波電流が消費されることが記載されており,共振周波数付近でノイズ電流の減衰を得ることは当然予想されるものである。
また,共振周波数以上の高い周波数の領域では,高周波電流ほど通しにくくなるインダクタンスの性質によって,疑似負荷(コンデンサ)に掛かる電圧は減少してノイズ抑制効果が大きくなる一方,インダクタ両端に生じる電圧はより増加する。したがって,インダクタに抵抗を並列接続した場合,抵抗に印加される電圧も大きくなって,抵抗で消費される電力も増大することが当然に予想される。
すなわち,インダクタに抵抗器を並列接続した回路では共振周波数以上においても,高周波領域ほど減衰量が大きいことは当然予測できるから,その結果,高周波ノイズが減少することも自明のことであり,甲16試験成績書に示された効果は,引用発明1及び引用例2,3に記載の発明から予測できる範囲内のものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件決定における相違点の認定の誤り)について (1) 相違点1の認定について ア 原告は,本件決定が,相違点1,すなわち「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,インダクタに可変抵抗器からなる抵抗器を並列接続してノイズフィルタを構成するのに対し,引用例1に記載された発明(注,引用発明1)は,インダクタのみでノイズフィルタが構成され,抵抗器が並列接続されていない点。」を本願補正発明と引用発明1との相違点と認定したのは,インダクタに可変抵抗器を並列接続するという本願補正発明の重要な構成要素を看過し,可変抵抗器をその上位概念である抵抗器に置き換えて引用発明1との対比を行ったという点において,誤りである旨主張する。
しかしながら,引用発明1のノイズフィルタのインダクタには,可変抵抗器はもちろん,抵抗器も接続されていないから,本件決定が引用発明1に「抵抗器が並列接続されていない」点を両発明の相違点と認定したことに誤りはない。
他方,本件決定は,本願補正発明は,インダクタに可変抵抗器を並列接続してノイズフィルタを構成するものであるとして,これを引用発明1との相違点として認定しているから,本願補正発明が可変抵抗器を有しているということを看過したとする原告の主張は理由がない。
イ 原告は,新規性に関する審査基準にあるように,特許を受けようとする発明が下位概念特有の構成を有している場合には,原則として,上位概念の構成を有する引用例と対比して,新規性を判断し,又は一致点を認定してはならないものであり,本願補正発明の下位概念で表現した可変抵抗器を,上位概念で表現した抵抗器と対比した本件決定は新規性の判断基準を誤るものである旨主張する。
しかしながら,本件決定が,本願補正発明の可変抵抗器を上記概念の抵抗器として認定して,本願補正発明が可変抵抗器を備える点を看過したものでないことは明らかであるから,その相違点1の認定に何ら誤りはない。原告の主張は,本件決定の認定や審査基準を正解しないものというほかはない。
(2) 相違点2の認定について ア 原告は,本件決定が,相違点2,すなわち「本件補正後の請求項1に係る発明(注,本願補正発明)は,一台ごとに対地容量の異なる機器のアース線に取り付けられるノイズフィルタであり,インダクタに並列接続された可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得るものであるのに対し,引用例に記載された発明(注,引用発明1)は,そのような調整を行う構成が記載されていない点。」(補正の却下の決定謄本5頁第3段落)を本願補正発明と引用発明1との相違点と認定したのに対し,「そのような調整を行う構成」とある部分は意味内容が不明りょうであり,本願補正発明の可変抵抗器が「当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で」調整し得るという構成要素を看過したものであって,誤りである旨主張する。
しかしながら,本件決定が認定した相違点2における「そのような構成」とある部分が,「インダクタに並列接続された可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で,前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得る」との構成を指していることは明らかである。本件決定が,本願補正発明の「可変抵抗器は,当該ノイズフィルタが前記アース線に取り付けられた状態で」調整し得るという構成を看過したということはできない。
イ 原告は,本件決定の相違点2の認定は,引用発明1について,存在しない抵抗器を前提とするものであり,失当であるとも主張する。
しかしながら,本件決定が認定した相違点2は,相違点1を前提とするものというべきである。すなわち,本件決定の相違点2の認定は,本願補正発明が相違点1に係る構成を備えるのに対し,引用発明1が,本願補正発明とは異なり,可変抵抗器はもちろん,抵抗器すら備えていないことを前提に,引用発明1は,本願補正発明とは異なり,そもそも,「前記インダクタと前記対地容量との共振周波電流を抑制する抵抗値になるように調整し得る」という構成を欠いているとの趣旨をいうものであることは明らかであり,引用発明1が抵抗器を備えていることを前提にしているものではない。
原告の主張は,本件決定を正解しないものというほかない。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は採用の限りではない。
2 取消事由2(本件決定における相違点1に係る判断の誤り)について (1) 原告は,「ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収すること」が周知であると認定した上,この周知技術を引用発明1に適用して,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できることであるとした本件決定の判断には誤りがある旨主張し,その理由を四つ挙げているので,以下順次判断する。
ア 原告が挙げる理由の第1は,引用例2,3に記載のノイズフィルタは,4端子網回路のものであって,流入するノイズは機器内部に流入せず,機器を迂回して吸収除去されるという構成であり,その構成は4端子網回路の場合に限って採用し得るものであり,これをアース線用の2端子網回路のノイズフィルタに適用することについては,阻害要因がある,というものである。
(ア) しかしながら,引用例2(甲4)には,「第7図に示す本実施例のノイズフィルタ回路の等価回路においては,L,CT,Cs回路のQを1にするような制動抵抗RがインダクタンスLに並列に接続されているので,インダクタンスLの中に電磁エネルギーとして蓄えられている振動エネルギーが制動抵抗Rによって吸収され,共振または自由振動は停止する」(4頁下から2行目〜5頁5行目)と記載され,引用例3(甲5)には,「チョークコイルの両端に接続された僅か1個の抵抗により,コンデンサとチョークコイルとによる直列共振現象は起こらなくなり,満足な高周波抑制効果が得られる。」(段落【0007】)と記載されている。
このように,引用例2,3には,インダクタに並列に抵抗器を接続するというだけの構成で,「ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収する」という作用を奏することが開示されており,その奏する作用が,4端子網回路と2端子網回路との回路構成の相違やノイズが機器内部に流入するか否かにかかわらないものであることは,当業者の技術常識に照らしても明らかというべきである。
したがって,ノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収するという引用例2,3に記載された構成(本件周知構成)は,アース線用の2端子網回路のノイズフィルタに適用し得るものである。
(イ) のみならず,引用例2(甲4)には,以下の記載がある。
a 「従来のノイズフィルタ回路としては,第1図に示すように,電子機器1のシャーシまたはケースカバーが金属製である場合には,一点鎖線で示すようなノイズフィルタ回路2が使用されていた。ところで,ノイズは大別すると電源ライン間に存在する対称ノイズと,電源ライン・大地間に存在する非対称ノイズとがある。第1図のノイズフィルタ回路は対称ノイズに対してはL1,C 1,L 2でローパスフィルタ回路を構成し,また非対称ノイズに対してはL1とC 2またはL 2とC3でローパスフィルタを構成して,対称ノイズおよび非対称ノイズ両方ともに効果がある。」(1頁下から6行目〜2頁6行目) b 「第4図はこの考案の一実施例で,10は電卓等の電子機器,20は一対のインダクタンスLと抵抗Rの並列回路よりなるノイズフィルタ回路で,その各LR並列回路はAC電源の両端子にそれぞれ接続されている。また,ノイズフィルタ回路20の出力端子は,電子機器10に接続される。第5図は対称ノイズをも除去する他の実施例を示すもので,21はAC電源の両端子にそれぞれ接続される一対のLR並列回路と,これらのLR並列回路の出力端子に接続された容量Cよりなる。」(4頁1行目〜10行目) c 「第7図は,電子機器に接続したノイズフィルタ回路の等価回路を示すものである。ところで,第4図(注,「第1図」の誤記と解される。)に示す従来ノイズフィルタ回路の等価回路においては,上述のように,ノイズ電源eの周期がL,CT,Csの自由振動周期に近いときには電流共振を生じるが,第7図に示す本実施例のノイズフィルタ回路の等価回路においては,L,CT,Cs回路のQを1にするような制動抵抗RがインダクタンスLに並列に接続されているので,インダクタンスLの中に電磁エネルギーとして蓄えられている振動エネルギーが制動抵抗Rによって吸収され,共振または自由振動は停止することになる。」(4頁14行目〜5頁5行目) 引用例2の上記記載によれば,ノイズには,電源ライン間に存在する対称ノイズと電源ライン・大地間に存在する非対称ノイズがあり,「第5図は対称ノイズをも除去する他の実施例を示すもの」との記載からすれば,第4図の実施例は,専ら非対称ノイズを吸収除去するものであるということができる。そして,第7図には,その等価回路が,ノイズ源に,インダクタンスLと制動抵抗Rとの並列回路,電子機器の電源トランスの一次,二次巻線間の静電容量CT,及び電子機器の配線導体と大地間の静電容量Csが直列に接続される2端子網回路として図示されており,非対称ノイズが電子機器の配線導体と大地間の静電容量Csに流入するものであることが開示されている。
したがって,引用例2記載のノイズフィルタは4端子網回路であり,流入するノイズは機器内部に流入せず,機器を迂回して吸収除去される構成であるという原告の主張は,採用することができない。
(ウ) 以上のとおりであるから,引用例2,3に記載の本件周知構成をアース線用の2端子網回路のノイズフィルタ,すなわち,引用発明1のノイズフィルタのインダクタに設けることには,何ら阻害要因はないというべきである。
イ 原告が挙げる理由の第2は,インダクタに並列接続される抵抗の値を静電容量等に応じて設定するという技術は,引用例2,3に記載の電源線の4端子網回路のように,静電容量が電子機器内部の構成であり,その値がある程度予想される既知のものである場合に適用されるものであり,本願補正発明のように,機器ごとに対地容量が異なるアース線に取り付けられる2端子網回路では,並列接続される抵抗の値を一義的に設定することができないから,その技術は適用できないというものである。
しかしながら,上記ア(イ)で認定したとおり,引用例2には,電子機器の配線導体と大地間の静電容量に対して抵抗値を設定することが示されている。また,機器の対地容量が機器ごと異なり,抵抗値を一義的に設定することができないことは,原告主張のとおりであるが,対地容量が異なる場合に,抵抗値を最適な値になるように機器ごとに設定することは,当業者であれば適宜行い得ることであって,原告の主張する点は,引用例2,3に記載の本件周知構成を引用発明1に適用することの阻害要因となるものではない。
ウ 原告が挙げる理由の第3は,特開平9-214276号(甲7文献)記載の発明は,電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタであって,可変抵抗Rsが,電源線のノイズフィルタのインダクタ(コイルL1,L2)と並列接続された抵抗器ではなく,インダクタ(コイルL1,L2)との関係において抵抗器の抵抗値を可変させるものではないというものである。
しかしながら,本件決定は,「抵抗値の設定を容易にするために可変抵抗器を用いることはごく普通に行われることであり,・・・前記周知の構成(注,引用例2,3に記載の本件周知構成)の付加にあたり可変抵抗器を用いることは,適宜なし得る設計的事項と認められる」(補正の却下の謄本5頁下から第2段落)と判断しているものである。したがって,可変抵抗器の例として引用した甲7文献記載のノイズフィルタが電源線に設置するものであることや,ノイズ成分吸収用の可変抵抗器がインダクタに並列接続されていないことは,本件決定の判断を左右するものではない。
そして,甲7文献には,「ノイズフィルタにおいて,抵抗を可変抵抗にして,ノイズの発生状況に応じて最もノイズ抑制効果が大きい抵抗値に設定できるようにする」(段落【0011】,【0020】,【0027】)ことが記載されており,引用例2,3に記載の本件周知構成の付加に当たり,「可変抵抗器」を用いることは当業者が適宜行い得る設計的事項であるとした本件決定の判断にも誤りはないというべきである。
エ 原告が挙げる理由の第4は,引用例2,3に記載の本件周知構成を,そのまま引用発明1のアース線用のノイズフィルタに適用すると,電子機器に生ずる大電流の短絡電流はインダクタと抵抗器に分岐して等しく流れることとなり,抵抗器に大電流が流れることにより抵抗器を焼損するおそれがあるから,その適用には阻害要因があるというものである。
しかしながら,引用発明1のノイズフィルタのインダクタに並列に抵抗器を接続した場合,短絡電流が抵抗器に流れて抵抗器が破損するという原告の主張は,当業者であれば,そのようなことが起こらないように各素子の値を設定するのが当然であるから,何ら根拠がない。
原告は,アース回路に抵抗器を挿入することは,当業者の技術常識に反するものであり,引用例2,3に記載の本件周知構成を引用発明1に適用することには阻害要因があるとも主張する。
しかしながら,相違点1に係る本願補正発明の構成は,インダクタに可変抵抗器を並列接続するものであって,アース線に抵抗器のみを挿入するものではない。短絡電流が,専ら,インダクタを介してアースに流れることは,当業者の技術常識であって,インダクタに並列に可変抵抗器を接続することは,技術常識に反するものではなく,引用例2,3に記載の本件周知構成を引用発明1に適用することの阻害要因とならないことは明らかである。
(2) 以上のとおり,原告の取消事由2の主張は採用することができない。
3 取消事由3(本件決定における相違点2に係る判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明1及び引用例2,3に記載のノイズフィルタは,すべて電源線に設置する,4端子網回路のノイズフィルタであるところ,この4端子網回路のノイズフィルタと本願補正発明の2端子網回路のノイズフィルタとは,構成,解決すべき課題(目的),効果等を異にするものであり,引用発明1及び引用例2,3に記載の発明から相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者であっても容易に想到できるものではない旨主張する。
ア そこで,検討すると,引用例1(甲3)には,以下の記載がある。
(ア) 「機器のフレームグランドとアースとを結ぶ導線に磁性体を挿着してなるインダクタを有することを特徴とするフィルタ回路」(1頁5行目〜7行目,実用新案登録請求の範囲第1項) (イ) 「産業上の利用分野 本考案はフィルタ回路に関し,アース線に磁性体を挿着してインダクタを構成することにより,小型化及び低コスト化を図りつつ,高周波域におけるアース系インピーダンスを高くし,浮遊容量等に起因する高周波ノイズ電流を減少させるようにしたものである。」(2頁9行目〜15行目) (ウ) 「高周波ノイズ電流に起因する雑音端子電圧を制限する従来の手段として,第9図に示すように,機器2のアース端子GとアースEとの間に,フェライト等で成るトロイダルコア41に,コイル42を巻装したインダクタ4を挿入接続する回路がよく知られている。」(3頁11行目〜16行目) (エ) 「考案が解決しようとする問題点 ・・・上記従来例のうち,第9図に示す方法は,トロイダルコアを使用しなければならないため,大型になると同時に価格が高くなること,機器2に対してトロイダルコアより成るインダクタ4を接続する場合に外付けとなり,機器2の内部に組込むことができない等の問題点がある。・・・」(4頁10行目〜5頁3行目) (オ) 「問題点を解決するための手段 上述する従来の問題点を解決するため,本考案に係るフィルタ回路は,機器のフレームグランドとアースとを結ぶ導線に磁性体を挿着してなるインダクタを有することを特徴とする。」(5頁4行目〜8行目) (カ) 第1図,第7図にはアース線の導線6,磁性体7によりインダクタを構成し,フィルタ回路を構成することが記載されている。
上記引用例1の記載によれば,引用例1には,機器のフレームグランドとアースとを結ぶノイズフィルタ(インダクタ),すなわち,本願補正発明と同様の2端子網回路のノイズフィルタが記載されていることが明らかである。したがって,引用発明1と本願補正発明とは,技術的構成,解決すべき課題(目的),効果において格別相違するものではないというべきである。
イ したがって,引用発明1及び引用例2,3がいずれも電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタであって,本願補正発明の2端子網回路のノイズフィルタとは,技術的構成,解決すべき課題(目的),効果を異にするものであるとの前提に立って,相違点2に係る判断の誤りをいう原告の上記主張は,理由がない。
原告は,電源線に設置する4端子網回路のノイズフィルタとアース線に設置する2端子網のノイズフィルタとの相違について主張するが,引用発明1の認定に誤りがない以上,その主張については判断の限りでない。
(2) ところで,本件決定の相違点2の認定は,本願補正発明が相違点1に係る構成を備えることを前提とするものであるところ,この決定の誤りをいう原告の上記第3の1(2)の主張が相違点2についての判断の誤りをいう趣旨に解されなくもない。
しかしながら,本件決定は,相違点1に係る本願補正発明の構成,すなわち,ノイズフィルタのインダクタに可変抵抗器を並列接続する構成とすることが当業者において容易に想到し得るものであるとの判断を前提にして,「前記したように引用例2,3には,並列接続される抵抗値は適宜設定されるべきことが記載され,特に,引用例2には,この並列接続される抵抗値は,機器と大地間の静電容量(対地容量)等に応じて設定されることが記載されている。」と認定し,相違点2に係る本願補正発明の構成とすることの容易想到性を判断しているものである。したがって,本件決定のこの点の判断に原告主張の誤りはない。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由3の主張は採用の限りではない。
4 取消事由2(本件決定における顕著に有利な効果の看過)について (1) 原告は,本願補正発明は,甲16試験成績書に記載されるように,引用発明1(従来技術)との比較において,高周波のノイズ電流は,インダクタを通過せずに可変抵抗器で消費され,高周波ノイズの減衰量が著しく大きいし,また,放出電力も格段と小さく抑えることができるものであり,これは顕著に有利な効果である旨主張する。
ア そこで,検討すると,甲16試験成績書記載の試験データは,疑似負荷のみの測定回路(図1),インダクタのみを挿入した測定回路(図2),本願補正発明の構成を有する試験品を挿入した測定回路(図3)の電流減衰特性と位相特性を比較したものである。図2の回路は,引用発明のアース線用のフィルタ回路に対応するもので,インダクタの値が0.6μHであることが記載されている。一方,図3のインダクタの値について本件補正明細書(甲11,15)に記載される値(3mH)を採用したものであることは,原告の主張するところである。
そうすると,図2の回路の試験データと図3の回路の試験データとで共振周波数が異なるのは,インダクタの値が異なることによるものであると解され,両者の特性の相違は,可変抵抗器の有無のみによるものではないことが明らかである。
イ 甲16試験成績書の試験データによれば,図3の回路では,共振周波数以上の周波数帯域において,図1の回路と比較して減衰量が大きく,無効電力の割合が大きくなっている。しかし,これはインダクタと(可変)抵抗器との並列回路を疑似負荷に接続したことによるものであり,インダクタに(可変)抵抗器を並列接続する構成とすることにより,当然期待し得る効果である。
また,共振周波数における電流のピークが,図3の回路では図2のものに比べて約14dB抑えられているが,これも(可変)抵抗器をインダクタに並列に接続する構成とすることにより,当然期待し得るものである。
したがって,原告が主張する効果は,引用発明1に引用例2,3に記載の本件周知構成,すなわち,ノイズフィルタのインダクタに抵抗を並列接続するという構成を適用した場合に得られる効果として,当業者が予測し得る範囲内のものである。
なお,図2の回路の試験データと図1の回路の試験データとの差異が明らかでなく,そのため,図2の回路のアース線用のインダクタの効果が明らかではないが,この点は,図2の回路のインダクタでは,共振周波数以下の周波数範囲の特性のみが表されており(注,試験例のうち,最も共振周波数が低いC(コンデンサ200000pF)のものでも,共振周波数は450kHzであり,他の例では1MHz以上である。),この領域ではインダクタの効果が生じないことによるものであって,本願補正発明に格別の効果があることを表すものではない。
ウ 以上のとおり,本願補正発明の奏する作用効果は,本件決定が認定したとおり,引用発明1及び引用例2,3に記載された発明並びにノイズフィルタのインダクタに蓄えられるエネルギーをインダクタに並列接続される抵抗器によって吸収するという周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
(2) 以上のとおり,原告の取消事由4の主張は採用することができない。
5 以上の次第で,本件決定に本願補正発明の独立特許要件の具備についての判断を誤った違法はないから,本件決定が本件補正を違法に却下したものであることを前提にして,審決に審理の対象を誤った違法があるとする原告主張の取消事由は,理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見あたらない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判断する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 青蜉]
裁判官 宍戸充
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