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関連審決 審判1997-7911
関連ワード 産業上利用(29条1項柱書) /  反復(反復可能性) /  技術的思想 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  新規性 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  容易に実施 /  物質発明 /  公知技術 /  特許の有効性 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  遡及 /  優先権 /  共有 /  存続期間 /  特許料(維持年金) /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  発明の範囲 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 285号 審決取消請求事件
原告 エフ・ホフマン-ラロシュ アーゲー
訴訟代理人弁理士 浅村皓
同浅村肇
同 小池恒明
同 長沼暉夫
同 岩井秀生
同 池田幸弘
被告 住友製薬株式会社
訴訟代理人弁理士 高島一
同 加藤敬子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 平成9年審判第7911号事件について特許庁が平成11年4月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 (本案前の申立て) 原告の訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
(本案の申立て) 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,1978年(昭和53年)11月24日,1979年(昭和54年)7月31日及び同年9月21日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,昭和54年11月22日に特許出願をし,昭和58年2月25日,これを分割してその一部について新たに特許出願をし,さらに,昭和62年12月8日,これを分割してその一部について,発明の名称を「ヒト白血球インタフェロン」とする新たな特許出願し,これにつき,平成8年6月10日,特許第2061556号として設定登録を受けた(以下,この特許を「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)。本件特許の特許期間は,平成11年11月22日に満了した。
被告は,平成9年5月7日,本件特許を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,これを同年審判第7911号事件として審理し,その結果,平成11年4月27日,「特許第2061556号発明の特許を無効とする。」との審決をし,同年5月12日,その謄本を原告に送達した。
2 本件発明に係る特許請求の範囲 「(1)(a) ドデシル硫酸ナトリウムを含まず; (b) 順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示し; (c) 分子量約16200±1000〜約21000±1000であり; (d) 次の工程 A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を,緩衝液で平衡化した,シクロヘキシル,フェニル,オクチル,またはオクタデシル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得, B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した,グリセリル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得,および C 工程Aを反復し,ならびに,所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る, を組み合わせることからなる方法により得ることができ; (e) ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値を有する; 均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン。」 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,Abstracts of the Annual Meeting of the American Society for Microbiology,S202(LasVegas,Nevada 14-19 May 1978)(「第78回アメリカ微生物学会年会講演要旨集」第S202講演,ネバタ州 ラスベガス,1978年5月14-19日。審決の甲第1号証,本訴の甲第3号証。
以下「引用刊行物」という。)に記載された技術(以下「引用発明」という。)と同一である,というものである。
本案前の主張
1 被告(訴えの利益の欠如) (1) 原告と被告は,本件発明及び特許1652163号(本件特許に係る出願の親出願に係る特許である。)の発明の特許権に関する実施許諾契約(以下「本件許諾契約」という。)を締結した。
原告と被告とは,本件許諾契約の中で,その対象となっている特許のすべてについて,特許庁の手続において特許無効の審決がなされた場合には,被告はその時点から特許料の支払いを中止する権利を有すること,その後の特許庁又は裁判所での手続によって,特許を無効とすることはできないとの判断が下された場合には,その時点において特許料を支払うべき被告の義務は復活すること,しかし当該支払義務が支払が中止されていた期間にまで遡及することはないこと,特許権の存続期間が満了することにより被告の特許料支払義務は終了すること,いかなる場合にも既に支払われた特許料は返還されないこと,を取り決めている。
上記取り決めによれば,本訴において,本件特許を無効とした審決が取り消されたとしても,本件特許の特許権の存続期間が平成11年11月22日に満了している以上,被告は,原告に対して,取消時以後,何らの特許料支払義務を負うこともなく,逆に,原告は,本訴により審決の取消しを求めなかったとしても,既に支払われた特許料を返還する必要はない。
本件許諾契約に関し,原告と被告との間で,平成11年1月1日から平成11年5月12日(審決書の謄本が原告に送達された日である。)までの特許料支払債務の存否が争われているのは,事実である。しかし,この争いは,本件特許の有効性を巡るものではなく,原告が平成11年8月2日に被告に送付した書簡(乙第7号証)の解釈を巡って生じているものである。したがって,本訴の帰結がこの紛争の帰結に影響を及ぼすことはない。
上記のとおり,原告と被告との間には,本件特許の有効性を巡っての特許料支払義務の存否に関する争いは存在せず,かつ,本件特許の特許権の存続期間が平成11年11月22日に満了しているのであるから,原告は,本訴の提起によって利益を受けることがない。本訴は,訴えの利益を欠くものというべきである。
(2) 原告は,我が国の試薬メーカーの中に,本件発明に係るヒト白血球インターフェロンを本件特許の特許権の存続期間中に製造販売していた者があり,原告はこれに対して損害賠償請求権を有している,と主張する。
しかし,原告は,確かな証拠を示すこともなく,単に,試薬メーカーの中のある者に対して損害賠償請求権を有している,といっているにすぎない。
本件発明は,医薬品に関するものであって,被告以外で,原告との間に,特許期間満了後に,本件特許を無効とすることはできないとすることにより影響を受けるような関係がある可能性のあるのは,現在認可を受けてヒト白血球インターフェロン製剤を日本国内で製造又は販売している三つのグループのみである。被告は,原告とこれらのグループとの間における実施許諾契約の有無及び内容に関して,知り得る立場にはない。しかし,様々な状況からみて,原告と上記各グループとの間には,本件特許につき,その特許期間満了後になって無効とすることはできないとされることにより影響を受けるような関係はない,ということができる。
2 原告(反論) (1) 原告は,本件発明の特許権者であった者であり,審決が確定すると本件特許は遡及して存在しなかったものとみなされるのであるから,原告に訴えの利益があることは,明らかである。<原告準備書面(2)> 原・被告間に被告のいう内容の契約(本件許諾契約)が存在することは,事実である。しかし,原告と被告との間には,本件特許の有効性を巡って,平成11年1月1日から平成11年5月12日までの特許料支払債務の存否につき,具体的な争いがある。したがって,原告には,本訴につき訴えの利益がある。
(2) 日本の試薬メーカー中に,本件特許の特許権の存続期間中に,本件発明に係るインターフェロンを製造販売していた者があり,原告は,同試薬メーカーに対して損害賠償請求権を有している。原告に訴えの利益があることは,この点からも明らかである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決中,T(手続の経緯・本件特許発明),U(当事者の主張),V(甲各号証、乙各号証等の記載事項)を認め,W(対比及び当審の判断),X(むすび)を争う。
審決は,引用発明が特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たるものと誤認し(取消事由1),また,そうでないとしても,引用発明が,本件発明の「均質な蛋白質としてのヒト白血球インターフェロン」との構成を具備するものと誤認し(取消事由2),その余の相違点についても実質的に差異がないと誤認した(取消事由3)。審決の犯したこれらの誤りが,その結論に影響を及ぼすこと明らかであるから,審決は,違法なものとして,取り消されなければならない。
1 取消事由1(引用発明が特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たる,との誤認) 審決は,引用刊行物に,「比活性が3×108単位/mg蛋白質,分子量が21,000d又は15,000dであり,二次元ゲル電気泳動分析により,純粋であるドデシル硫酸ナトリウムを含まないヒト白血球インタフェロン」(審決書16頁14行〜18行)が開示されていると認定し,これに基づいて論を進めて結論を導いた。しかし,審決は,引用発明を,特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たるとしている点で,出発点において既に誤っている。
(1) 引用刊行物には,K.カンテル(以下「カンテル」という。)から供与されたHuLeIF調製物(以下「カンテル調製物」という。)を過ヨウ素酸ナトリウムにより酸化し,次いでセファクリルS200のクロマトカラムに掛けて,3×108単位/mg蛋白の比活性を有し,二次元ゲル電気泳動分析により純粋なインタフェロンが得られたことが単に箇条書きの形で記載されているだけである。原料となるカンテル調製物の入手方法等,特定の分離精製条件,具体的検定方法等は記載されていない。
特許法29条1項3号は,既に公知で公衆の共有財産となっている発明を基準とし,これとの対比において,新規な発明に対しては特許権を付与し,新規でない発明に対しては付与しないことにしようとするものであるから,たとい刊行物に記載されていたとしても,当業者が容易に実施できる程度には記載されておらず,したがって,未だ公衆の共有財産になっているとはいうことのできない発明は,特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」には該当しないというべきである。これを物の発明についていえば,公知の刊行物に記載されたが特許法29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」となるためには,その刊行物に,当該物と対比されるべき構成が記載されているだけでは足りず,その製造法も,容易に実施できる程度に記載されている必要があるというべきである。公知の刊行物に当業者が容易に製造することができる程度に記載されていない場合には,当業者は,その発明を再現することができず,このように再現性のない発明は,むしろ,未完成の発明というべきであって,これを既に公衆の共有財産になっている発明とすることはできないからである。
本件においては,上記のとおり,引用刊行物には,原料となるカンテル調製物の入手方法等,特定の分離精製条件,具体的検定方法等が記載されていないので,同刊行物に接した当業者は,そこに記載されたヒト白血球インターフェロンを容易には得ることができない。したがって,引用発明は,特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たらないというべきである。
(2) 原料となるカンテル調製物の入手方法等の不開示 引用刊行物には,原料となるカンテル調製物を第三者がどのようにして入手できるのか,その調製物は具体的にどのようなものかについて,具体的記載がなされていない。したがって,当業者は,引用刊行物の記載をみても,まず,カンテル調製物をカンテルから入手できるのかどうか自体,知ることができず,まして,入手できるとして具体的にどのようにすれば入手できるのかを知ることはできない。引用刊行物の記載がこのようなものであるとき,そこに当業者が容易に実施できる程度に当該発明が記載されている,ということはできない。
(3) 特定の分離精製条件の不開示 引用刊行物には,単に,過ヨウ素酸酸化,セファクリルS200のクロマトカラム等の一般的処理手段の名称が記載されているのみであり,過ヨウ素酸酸化の条件(過ヨウ素酸ナトリウムのモル濃度,処理時間についての記載等),セファクリルS200のクロマトカラムの条件(例えば,カラムサイズ,リン酸緩衝液の種類及び濃度,流速等)は全く記載されていない。
過ヨウ素酸塩酸化,セファクリルS200のクロマトカラム等の処理自体は,引用刊行物が頒布された当時,蛋白質の分離精製手段として既に常套手段となっていたとしても,当時その精製が困難であったインターフェロンの分野において,特にヒト白血球インターフェロンを精製するためのものとして,これを使用しようとすれば,上記分離精製手段を単にインターフェロンに適用するだけでは足りず,それら分離精製手段を用いた特定の分離精製条件が必要であったから,これら具体的な分離精製条件の記載のない刊行物に基づいてヒト白血球インターフェロンを精製しようと試みる場合,当業者は,特定の分離精製条件を見いだすために過度の実験を要するものといわざるを得ない。
そうである以上,引用刊行物には,純粋なインターフェロンは,当業者が容易に実施できる程度には,記載されていないというべきである。
(4) 生物学的検定法及び蛋白質測定に関する具体的手段の不開示 引用発明においては,得られた蛋白が比活性3×108単位/mgであることは,生物学的検定法及び蛋白質測定を用いて確認されるものとされている。ところが,引用刊行物には,使用された生物学的検定法及び蛋白質測定に関する具体的手段が全く記載されていない。また,二次元ゲル電気泳動分析データの結果についても具体的記載がなされていない。このように,引用刊行物においては,実際に,純粋なヒト白血球インタフェロンを製造することができたのか否かが,明らかとなっていないのである。
2 取消事由2(相違点(4)について実質的な差異がないとした判断の誤り) 審決は,本件発明と引用発明とを対比して,本件発明では,ヒト白血球インタフェロンが「均質」な蛋白質であるのに対し,引用発明では,得られたインタフェロンが「均質」であると明記されていない点で相違する(相違点(4))と認定した上,引用刊行物には,「約106単位/mg蛋白のインタフェロンを精製することにより比活性が3×108単位/mg蛋白のインタフェロン調製物が得られ,二次元ゲル電気泳動分析による分析でそれが純粋なインタフェロンであることが示されたと記載されており,比活性,電気泳動分析の結果を明確に述べているということは蛋白質としての電荷及びサイズが均質であること,比活性が約3×108単位/mg蛋白質であることが確認されているということであるから,高度に精製された均質な蛋白質であると解される。したがって,甲第1号証(判決注・引用刊行物)に記載の精製されたインタフェロンは本件特許発明のインタフェロンと同程度に純度なものであり均質な蛋白質であるといえる。よって,この点に実質的な差異があるとは認められない。」(審決書22頁7行〜23頁2行)と判断した。
しかし, 本件発明のヒト白血球インターフェロンは,本件出願の願書に添付した図面(以下「本件図面」という。)中の第1図及び第2図にデータをもって具体的に明らかにされているように,高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し,電気泳動において単一のバンドを示すものである。そして,このヒト白血球インターフェロンは,それ以上精製する必要がなく,そのまま医薬品として用いることができる,というものである。
本件発明にいう均質なヒト白血球インターフェロンとは,このように高速液体クロマトグラフィー及び電気泳動分析において単一の蛋白質であることを示し,物質としての化学的特徴付けを可能にし,少なくとも9種の分子亜種に分類でき,蛋白質を含まないという意味で均質な蛋白質であり,いわば,純粋なヒト白血球インターフェロンなのである。一方,引用発明のヒト白血球インターフェロンは,本件発明のように純粋なものではない。したがって,審決の上記判断は,誤りである。
(1) 本件発明にいうヒト白血球インターフェロンの「均質」性 そしてそのまま医薬品として用いることができる程度に精製された,純粋なヒト白血球インターフェロンのことなのである。逆にいえば,この程度に純粋でないヒト白血球インターフェロンは,本件発明にいう「均質」なヒト白血球インターフェロンとはいえないのである。
本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には,「インターフェロンはフラクション31(32%,V/V,プロパノール)中に溶出された(第1図参照)。このフラクションの比活性は牛血清アルブミンに関して4×108単位/mgであると計算された。この物質(フラクション31)はさらに以下に述べるアミノ酸分析等に使用した。この高速液体クロマトグラフィーのパターンを蛍光検出にかけたところ,その再現性は顕著で,そのパターンの同一性を証明することができた。精製の結果を表1に要約する。最初の培地から第2のR.P-8カラムまでの全体の精製度は60000〜80000倍であった。工程1からジオール工程を通じた累積収率は30〜50%の範囲であった。この工程以降は,インターフェロンの3つのピークの各々は別々に精製した。」(甲第2号証7頁13欄7行〜14欄11行)と記載されているとおり,高速液体クロマトグラフィーで第1図に示すフラクション31中にヒト白血球インターフェロンが溶出され,そのフラクション31の物質を更にアミノ酸分析に付したことが記載されており,図面の第1図には,フラクション31に相当する鋭い単一のピークが現われており,表1(同7頁13欄〜14欄)には,精製度60000から80000で蛋白質が回収されたことが示されている。これらの記載から,本件明細書において,高速液体クロマトグラフィーで単一のピークを示すヒト白血球インターフェロンを精製し回収したことが具体的な裏付けを伴って記載されていることが明らかである。
本件図面中の第1図(別紙参照)は、 ヒト白血球から、後述の特定要件(d)の精製方法によって得たヒト白血球インターフェロンのサンプルを,逆相高速液体クロマトグラフィーに付したときに、フラクション31中に単一ピークのヒト白血球インターフェロンが溶出されたことを示している同図の左側の縦軸は、 相対蛍光強度測定による蛋白濃度を示し、 曲線は,サンプルの蛋白濃度の測定値を表し,右側の縦軸は、 ウイルスの細胞変性効果に基づく抗ウイルス活性測定によるインターフェロン活性値を示し、 棒グラフは,インターフェロン活性値を示す。上記フラクション31は,逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて,本件発明にいう均質で純粋なヒト白血球インターフェロンを得たことを示している。したがって,同図は、
本件特許発明のヒト白血球インターフェロンが単一のピークを示すことを開示しているといい得るのである。
また,本件発明の特許請求の範囲の 「(d) 次の工程 A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を,緩衝液で平衡化した,シクロヘキシル,フェニル,オクチル,またはオクタデシル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得, B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した,グリセリル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得,および C 工程Aを反復し,ならびに,所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る, を組み合わせることからなる方法により得ることができ;」 との記載により示される要件(以下「特定要件(d)」という。)は,その末尾が「・・・得ることができる」と表現されていることから分かるとおり,製造法を特定することによって本件発明のヒト白血球インターフェロンの均質性・純粋性を特定している要件である。このように「得ることができる」と物質を製法限定した構成要件は,その製造法で製造されること自体を要求するものではないものの,その製造法で製造された物と物としての同一性があることを要求する要件と解すべきである。そして,本件発明の特定要件(d)に規定される特定の精製法によって初めて得ることができる程度に精製された純粋性,とは何であるかを,上に述べたところに照らしてより具体的にいうと、 高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し、 かつ,本件図面の第2図に示されるように電気泳動において単一のバンドを示す,という性質である,ということになるのである。 (2) 引用発明のヒト白血球インタフェロンの非「均質」性 (ア) 引用刊行物には,ヒト白血球インターフェロンが3×108単位/mg蛋白の比活性を有すること,すなわち,引用発明のヒト白血球インターフェロンが,本件発明の「均質」なヒト白血球インターフェロンと同様の比活性値を有することが記載されている。しかしながら,比活性値が同じであることをもって,本件発明の「均質」なヒト白血球インターフェロンと同様の純粋性を有するということはできない。
ヒト白血球インターフェロンは,一般に,見掛け上,精製されたと考えられているものでも,その中に,例えば,ヒト繊維芽インターフェロンなどの蛋白質,変性されたヒト白血球インターフェロンなどといったヒト白血球インターフェロンと同様の抗ウイルス活性を有する蛋白質が含まれており,しかも,このような場合,これらのヒト白血球インターフェロンではない蛋白質も,見掛け上,ヒト白血球インターフェロンの比活性値として測定されてしまう。そのため,純粋な均質ヒト白血球インターフェロンが得られたことを確認するためには,比活性値の測定だけでは足りず,本件発明におけるように,高速液体クロマトグラフィー,電気泳動等により確認する必要がある。ところが,引用刊行物には,単に,二次元ゲル電気泳動分析により純粋なインターフェロンが得られたと記載されているのみであり,その分析結果のデータは示されていない。また,引用発明においては,高速液体クロマトグラフィー分析も行われておらず,本件発明のような精製度60,000から80,000で回収されたことも明らかにされていない。とりわけ,引用刊行物に,二次元ゲル電気泳動による具体的な分析結果が示されていないというのでは,そこに示された方法により,精製されたヒト白血球インターフェロンが実際に製造され得たのかどうかさえも,明らかではないということができる。
以上のとおりであるから,引用発明のヒト白血球インターフェロンを,本件発明のそれのように純粋なものということはできない。
(イ) 引用発明のヒト白血球インターフェロンを本件発明のそれと同程度に純粋で「均質」な蛋白質とすることができないことは,甲第4ないし第6号証からも明らかである。
甲第4号証(審決の乙第1号証)によれば,引用刊行物の著者は,引用刊行物のヒト白血球インターフェロンは過ヨウ素酸塩酸化によって化学的に変性されたものであり均質ではないことを自ら認めていることが明らかである。
甲第5号証(審決の乙第2号証)によれば,本件発明に係る技術分野の専門家の一人である化学者により,引用刊行物の過ヨウ素酸塩酸化により得られるヒト白血球インターフェロンが化学的に変性されたものであり均質ではない,という見解が示されていることが認められる。
甲第6号証(「マルツェンナ・ヴィラノウスカ博士の宣誓供述書に添付された「ジ インターフェロン システム(増訂第2版)」(審決の乙第3号証の3))によれば,引用刊行物の著者自身,引用発明のインターフェロンを,その後二次元ゲル電気泳動で分析したところ,夾雑物を含んでいることが明らかになり,更に引き続いてSDS-ポリアクリルアミドゲルで精製することによって,非活性値が更に上昇し,純粋なヒト白血球インターフェロンが初めて得られたことを記載していることが認められる。このことは,引用発明のインターフェロンは純粋なものではなく,依然として夾雑物を含んでいることを如実に示すものである。
3 取消事由3(相違点(1)〜(3)について実質的な差異がないとした判断の誤り) (1) 審決は,本件発明と引用発明とを対比して,「(1)本件特許発明では、順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示すが甲第1号証にはこのことが記載されていない点。(2)本件特許発明では、ヒト白血球インタフェロンが「(d)次の工程 A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を、緩衝液で平衡化した、シクロヘキシル、フェニル、オクチル、またはオクタデシル基が結合した、シリカマトリクスカラムに、高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ、その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し、そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得、 B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した、グリセリル基が結合した、シリカマトリクスカラムに、高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ、その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し、そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得、および C 工程Aを反復し、ならびに、所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る、を組み合わせることからなる方法により得ることができ」る(以下「特定要件(d)」と言う。)ものであるのに対し、甲第1号証では過ヨウ素酸酸化処理とセファクリルS200のクロマトカラムにかける処理とを行うヒト白血球インタフェロンの精製法が示されるのみであり、
「特定要件(d)」に規定したような精製法で製造できるということが記載されていない点。(3)本件特許発明では、ヒト白血球インタフェロンの比活性値が「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質、ヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質」であるのに対し、甲第1号証では「およそ3×108単位/mg蛋白」とのみ記載され、
用いた細胞系が何か記載されておらず、「単位」について国際単位かどうか明確に記載されていない点。(4)本件特許発明ではヒト白血球インタフェロンが均質な蛋白質であるのに対し、甲第1号証(判決注・引用刊行物)では得られたインタフェロンが「均質」であると明記されていない点。」(審決書17頁12行〜19頁18行)で相違する,として,上記相違点(1)〜(4)を認定した。
本件発明の「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」が,特許請求の範囲に記載されているとおり,(a)ないし(e)の各構成要件をすべて具備したヒト白血球インターフェロンをいうものであることは,当然である。そうである以上,上記(a)ないし(e)の各構成要件につき逐一対比検討しない限り、引用発明が本件発明と同様に「均質」なヒト白血球インターフェロンであるか否かを認定し得ないはずである。ところが,審決は,事実上,相違点(1)ないし(3),とりわけ,本件発明の「均質」の意味内容について重要な意義を有する相違点(1)及び(2)を無視し,相違点(4)だけを検討に値する問題としている。換言すると,審決は,まず,「均質」性に関する相違点(4)において,本件発明と引用発明とは実質的に差異はないと判断し,その後で,相違点(4)において差異はないから当然に相違点(1)及び(2)においても差異はないと判断したのである。このような相違点(1)及び(2)を無視した判断が誤りであることは,明らかである。
重要なことは,本件発明と引用発明との比活性の数値が一致するからといって、
直ちに両者が同じ純度を有するとはいえない,ということである。比活性値は,抗ウイルス活性に基づいて測定した値であり、不純物が含まれている場合であっても,それが抗ウイルス活性を有するものであれば,その比活性値も,ヒト白血球インターフェロンの比活性値として測定されてしまうのである。引用発明は,単に「比活性が3×108単位/mg蛋白質」とされているだけであるから、その値のみを根拠に引用発明が本件発明の「均質」性を具備しているということはできない。
本件発明の「均質」性の問題は,単に記載上の字面だけから判断することのできるものではない。
(2) 相違点(1)における判断の誤り 審決は,相違点(1)について,「上記したように甲第1号証(判決注・引用刊行物)の精製したインタフェロンは本件特許発明と同程度に均質なタンパク質であると認められるので当然に順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーではインタフェロン活性に合致するピークを示すものと認められる。」(審決書28頁12行〜17行)と判断した。
しかし,審決の上記判断は,本件発明のヒト白血球インターフェロンと引用発明とのヒト白血球インターフェロンとが同程度に均質な蛋白質であることを前提にしてなされたものである。ところが,その前提が誤りであることは,取消事由2で述べたとおりである。
したがって,審決は,相違点(1)についての判断を誤っている。
(3) 相違点(2)における判断の誤り 審決は,相違点(2)について,「本件明細書の特許請求の範囲記載の上記「特定要件(d)」はその記載の末尾が「・・・得ることができる」という表現であるので本件特許発明のインタフェロンは「特定要件(d)」で規定される方法で製造されたものに限られない。」(審決書28頁18行〜29頁3行),「「特定要件(d)」が構成要件として示されても本件特許発明と甲第1号証(判決注・引用刊行物)のインタフェロンを実質的に相違するものとすることはできない。」(30頁5行〜8行)と判断した。しかし,この判断は,誤りである。特定要件(d)は,本件発明のヒト白血球インターフェロンの均質性の程度を特定する要件なのである。
特定要件(d)は,その記載の末尾が「・・・得ることができる」という表現であるので,本件特許の権利範囲を考えるとき,本件発明のヒト白血球インターフェロンが特定要件(d)で規定される方法で製造されたものに限られないことは,確かである。
しかしながら,本件発明の均質なヒト白血球インターフェロンは,特定要件(d)に規定される特定の精製法によって得ることができる,そのような特性を有すること,つまり,特定要件(d)の精製法で精製される程度の純粋性を有する均質ヒト白血球インターフェロンであることを,特定要件(d)によって特定しているものである。
特許庁の「物質特許制度及び多項制に関する運用基準」(昭和50年10月特許庁)によれば,「化合物名,構造式又は物性のみでは物質を十分特定できないときに,さらに製造方法を加えることによって特定できる場合に限り,特定手段の一部として製造方法を示してよい。」とされており,この運用基準によれば,製造方法を示すことが許されるのは,製造方法を示さなければ物質の特定が十分にできない場合だけということになる。そして,現に,特定要件(d)は,本件出願に対する拒絶査定で,本件発明のヒト白血球インターフェロンは物質として特定が不十分であるとされたため,この拒絶査定を考慮して,特許請求の範囲に特定要件(d)を追加したという経緯があるのである。
また,「得ることができ」という文言を用いて,発明の対象である物を製法で限定した構成は,その製造方法で製造されること自体を要求する趣旨ではなく,その製造方法で製造された物と,物としての同一性があることを要求する趣旨の要件と解すべきである。
以上のとおり,本件発明の特定要件(d)は,その記載の末尾が「・・・得ることができ」という表現ではあるものの,本件発明のヒト白血球インターフェロンが,同要件で規定される精製法で精製されたものと同一性を有すること,換言すれば,同要件で規定される特定の精製法によって精製されるものと同じ程度の純粋性を有する均質ヒト白血球インターフェロンであることを,要求している趣旨と解すべきである。
(4) 相違点(3)における判断の誤り 審決は,相違点(3)について,「甲第1号証(判決注・引用刊行物)には比活性を規定する「単位」が国際単位であるかどうかは記載されていないが,この分野において測定値を国際単位に換算して表すことがこの分野の技術常識であったから甲第1号証においても換算して表されていると解される。該甲号証に記載がないからそのことによって比活性を規定する「単位」が同一でないということにはならない。」と判断した。
しかしながら,この判断は,本件発明のヒト白血球インターフェロンであれ引用発明のそれであれ,比活性値が同じであれば同様の純粋性を有するとの見解に立ってなされたものであり,本件発明のヒト白血球インターフェロンの純粋性を無視するものであって,明らかに誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,すべて正当であり,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(引用発明が特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たる,との誤認)について (1) 本件発明は,物質特許発明であるから,対比される刊行物の記載に当該物の構成が開示されておれば十分である。したがって,引用発明に,原料となるカンテル調製物の入手方法等,特定の分離精製条件,具体的検定方法等が記載されている必要はない。
原告は,特許法29条1項3号は,既に公知で公衆の共有財産となっている発明を基準とし,これとの対比において,新規な発明に対しては特許権を付与し,新規でない発明に対しては付与しないことにしようとするものであるから,たとい刊行物に記載されていたとしても,当業者が容易に実施できる程度には記載されておらず,したがって,未だ公衆の共有財産になっているとはいうことのできない発明は,特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」には該当しないというべきである,これを物の発明についていえば,公知の刊行物に記載されたが特許法29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」となるためには,その刊行物に,当該物と対比されるべき構成が記載されているだけでは足りず,その製造法も,容易に実施できる程度に記載されている必要があるというべきである,公知の刊行物に当業者が容易に製造することができる程度に記載されていない場合には,当業者は,その発明を再現することができず,このように再現性のない発明は,むしろ,未完成の発明というべきであって,これを既に公衆の共有財産になっている発明とすることはできないからである,(原告は,物の発明においては,公知の刊行物に,当該物と対比されるべき構成が記載されているだけでは足りず,その製造法も,容易に実施できる程度に記載されている必要がある,公知の刊行物に当業者が容易に実施できる程度に記載されていない場合には,当業者は,その発明を再現することができず,このように再現性のない場合,当該刊行物に記載された発明は,未完成の発明というべきであると主張する。)と主張する。
原告の主張するとおり,刊行物に記載された発明である化学物質を当業者が製造することができない場合,すなわち,当業者にとってその発明の実施が不能である場合には,同発明が特許法29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」とならないことは明らかである。しかし,それは,実施できるかどうかの問題であって,「当業者が容易に実施できる」かどうかという問題ではない。当業者にとって実施可能の発明であれば,「当業者が容易に実施できるか否か」については問題にならないのである。
(2) 原料となるカンテル調製物の入手方法等の不開示について 世界各国の研究者らは,1977年当時,もっぱら,カンテルの提供するカンテル調製物を用いて研究を行っており,このことは当業者の間で周知となっていた。乙第4号証には,カンテルらのグループが,引用刊行物の頒布された1978年5月よりも前に,既に約106単位/mg蛋白にまで精製されたインターフェロン調製物の製法を複数の学術論文に発表していたことが記載されている。また,乙第6号証によれば,引用刊行物が頒布される以前に,カンテルが,論文で,粗インターフェロンのバッチをpH3.5でチオシアン酸カリウム沈殿させ,pH4.2で94%エタノールに溶解した後,pHを徐々に上げながら不活性な蛋白質を沈降除去し,pH6〜7で沈殿する蛋白質からインターフェロンを回収することにより,ごく普通に1〜6×106単位/mg蛋白の比活性を有するインターフェロンを得ることができることを発表している,との事実も認められる。
このように,カンテルらのグループは,1970年代,ヒト白血球インターフェロン精製の研究で他をリードしていたことが明らかであり,当業者であれば,このことを当然に熟知していたはずである。したがって,当業者が,引用刊行物に「K.カンテルより供与されたHuLeIF調製物(PIFという)(約106インターフェロン単位/mg蛋白)」という記載があるのを見れば,カンテルらによって精製され,実験に使用されたヒト白血球インターフェロン調製物であることを当然に理解し,引用発明を実施するに当たって,カンテルの居所宛てにカンテル調製物の供与を求める依頼状を送ることができたものであり,さらに,乙第6号証の記載に従って自らカンテル調製物を調製することもできたのである。したがって,引用刊行物に,カンテル調製物の具体的な入手方法が記載されていなくても,当業者であれば,容易に,当該調製物を入手することができたのである。
(3) 特定の分離精製条件の非開示について 引用発明は,当業者が容易に実施できる程度に記載されている。
原告自身も認めるとおり,過ヨウ素酸塩酸化及びセファクリルS200によるクロマト処理の分離精製手段は,その具体的な記述がなくても当業者が容易に実施できる程度の技術であった。引用発明は,インターフェロン精製に関し,数多くの公知の分離精製手段の中から,過ヨウ素酸塩酸化及びセファクリルS200の分子篩クロマト処理を組み合わせるという精製技術を開示しているのであり,上記組合せが分かれば,細部の精製条件は,当業者が実施に当たり適宜決定する程度のことにすぎない。
(4) 生物学的検定法及び蛋白質測定に関する具体的手段の不開示について 引用刊行物には,最終的に精製されたヒト白血球インターフェロンの比活性が約3×108単位/mg蛋白であるという具体的データが開示されており,また,二次元ゲル電気泳動で純粋なインターフェロンが得られたことが記載されている。
しかも,二次元ゲル電気泳動分析は,電荷と分子量という2つのパラメータに基づく分離法であり,電気泳動分析の中でもとりわけ分解能に優れているものであるから,二次元ゲル電気泳動分析により純粋であると示されれば,高速液体クロマトグラフィーにおいても単一のピークを示すことは,当業者にとって容易に予想されるところである。
2 取消事由2(相違点(4)について実質的な差異がないとした判断の誤り)について (1) 本件発明にいうヒト白血球インタフェロンの「均質」性について 原告は,本件図面中の第1図及び第2図のデータを根拠に,本件発明のヒト白血球インターフェロンは,高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し,電気泳動において単一のバンドを示すものである,そして,このヒト白血球インターフェロンは,それ以上精製する必要がなく,そのまま医薬品として用いることができる,というものである,(本件発明にいう均質なヒト白血球インターフェロンとは,このように高速液体クロマトグラフィー及び電気泳動分析において単一の蛋白質であることを示し,物質としての化学的特徴付けを可能にし,少なくとも9種の分子亜種に分類でき, 原告は,本件図面の第1図及び第2図のデータを根拠に,本件発明のヒト白血球インターフェロンは,高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し,電気泳動において単一のバンドを示すものである,そして,このヒト白血球インターフェロンは,それ以上,精製する必要がなく,そのまま医薬品として用いることができるというものである)と主張するが,失当である。
本件図面中の第1図をみると,フラクション31の近傍にいくつかの小さなピークが認められることからすると、同図をもって,直ちに,本件発明のヒト白血球インターフェロンが逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示す,とすることはできない。フラクション31が逆相高速液体クロマトグラフィーにおいて単一のピークを示す,というためには、第1図に記載されたフラクション31を再度クロマトグラフ処理して単一のピークを示すことを開示しなければならない。ところが,本件明細書には,そのような再度のクロマトグラフ処理の結果は開示されていない。したがって,本件発明のヒト白血球インターフェロンは、高速液体クロマトグラフィーで単一のピークを示している,ということについては,結局のところ,証明がないのである。
また,第2図において「単一の」ピークが得られたのは,第1図における鋭いピークのフラクションについてドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSO4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い,見掛け上単一のバンドを示すゲルを1mmずつの薄片に切って各薄片を抽出したものについてインターフェロン活性の測定を行ったからである。上記調製物は,ドデシル硫酸ナトリウムを含んでいるから,本件発明のヒト白血球インターフェロンの要件(a)を満たしていない。しかも,それ以前に,もともと,第2図は,高速液体クロマトグラフィーの結果を示すものではない。
そもそも,本件発明において,高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示すことは,構成要件ではない。本件発明のヒト白血球インターフェロンの純粋性とは,およそ1〜4×108単位/mg蛋白質の比活性を有し,かつ,電気泳動において単一のバンドを示す程度に純粋であることを意味するにすぎないのである。
(2) 引用発明のヒト白血球インタフェロンの非「均質」性について (ア) 引用発明のヒト白血球インターフェロンは,約3×108単位/mg蛋白の比活性を有する,及び,二次元ゲル電気泳動分析が,純粋なインターフェロンが得られたことを示している,との2点に基づいて,少なくとも本件発明のヒト白血球インターフェロンと同程度に均質であったと認められる。
前述したとおり,二次元ゲル電気泳動分析は,電気泳動分析の中でもとりわけ分解能に優れており,二次元ゲル電気泳動分析により純粋であると示されれば,当業者は,そのことから,高速液体クロマトグラフィーにおいても単一のピークを示すことを容易に予想することができる。したがって,高速液体クロマトグラフィーのデータが示されていないからといって,引用発明のヒト白血球インターフェロンが本件発明のそれに比べて純度が低いといえないことは,明らかである。
原告は,比活性値が同じであることをもって,本件発明の「均質」なヒト白血球インターフェロンと同様の純粋性を有するということはできない,ヒト白血球インターフェロンは,一般に,見掛け上,精製されたと考えられているものでも,その中に,例えば,ヒト繊維芽インターフェロンなどの蛋白質,変性されたヒト白血球インターフェロンなどといったヒト白血球インターフェロンと同様の抗ウイルス活性を有する蛋白質が含まれており,このような場合,これらのヒト白血球インターフェロンではない蛋白質も,見掛け上,ヒト白血球インターフェロンの比活性値として測定されてしまう,と主張する。
しかしながら,引用発明のヒト白血球インターフェロンの場合,カンテルより提供された粗製のヒト白血球インターフェロン(カンテル調製物)を出発材料として,これを更に精製することによって,約3×108単位/mg蛋白の比活性値を有するヒト白血球インターフェロンを得たのであるから,原告が憶測するようなヒト繊維芽インターフェロン等が含まれることは考え難い。また,変性したヒト白血球インターフェロンは,抗ウイルス活性を失っているはずであり,このような変性蛋白の存在は当然比活性の低下をもたらすはずである。しかも,上述したとおり,二次元ゲル電気泳動により純粋な蛋白質であることが確認されているのであるから,約3×108単位/mg蛋白という高い比活性値にヒト白血球インターフェロン以外の他の蛋白質が寄与する,との合理的な疑念が生じる余地はない。
(イ) 原告は,甲第4号証によれば,引用刊行物の著者は,引用刊行物のヒト白血球インターフェロンは過ヨウ素酸塩酸化によって化学的に変性されたものであり均質ではないことを自ら認めていることが明らかである,と主張する。しかし,甲第4号証(原審乙第1号証)で原告が「変性」と訳している部分は,原文では“denatured”ではなく“modified”(修飾された)となっており,むしろ,引用発明のヒト白血球インターフェロンが変性していないことを裏付けている。同等の比活性を保持し,かつ,二次元ゲル電気泳動により純粋であると認められる引用発明のヒト白血球インターフェロンは,たとい糖鎖部分が修飾されていたとしても,本件発明の均質ヒト白血球インターフェロンから除外されるものではない。
原告は,甲第6号証の記載を根拠に,引用発明のヒト白血球インターフェロンが純粋なものでないと主張する。しかし,日進月歩の自然科学の分野においては,純度100%のものでない限り,更に精製して純度のより高いものがその後得られることは,むしろ当然のことであり,たとい引用発明のヒト白血球インターフェロンが後に更に精製されより純度の高いものになったとしても,少しも不思議なことではない。引用発明のヒト白血球インターフェロンの純度につき本件で問題となるのは,本件発明のそれと同程度に純粋なものであるかどうか,ということに尽きるのであり,しかも,この程度に純粋であることは,当業者が引用刊行物の記載から当然に理解し得る事項なのである。
3 取消事由3(相違点(1)〜(3)について実質的な差異がないとした判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,まず,「均質」性に関する相違点(4)において,本件発明と引用発明とは実質的に差異はないと判断し、その後で、相違点(4)において差異はないから当然に相違点(1)及び(2)においても差異はないと判断しており,このような相違点(1)及び(2)を無視した判断が誤りであることは明らかである,と主張する。
しかしながら,本件発明の構成要件(b)及び(d)は,あくまで相違点(4)における「均質」性を定義づける条件の一つなのであって、それ自体が「均質性」と乖離して特別の意味を持つというものではない。ヒト白血球インターフェロンの均質性を定義づける指標は一つではないのである。引用発明のヒト白血球インターフェロンの「均質」性が、本件発明の特許請求の範囲に記載された各構成要件により定義づけられた「均質」性と同程度のものであれば、前者は,後者のヒト白血球インターフェロンの構成要件(b)及び(d)を当然に具備することになるのである。相違点(4)について検討するということは、必然的に相違点(1)及び(2)についても検討することにほかならない。
(2) 相違点(1)についての判断の誤りについて 上述したとおり,相違点(4)についての審決の判断に誤りがない以上,相違点(1)についての判断の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
(3) 相違点(2)についての判断の誤りについて 本件発明の特定要件(d)で規定される精製法によって精製される程度の純粋性は,原告の主張によれば,高速液体クロマトグラフィーにより単一ピークを示し,二次元の電気泳動分析により単一のバンドを示すことにより特徴づけられるものである。これが正しいとしても,そのような純粋性を有するヒト白血球インターフェロンは,二次元電気泳動により単一スポットを与える程度の純粋性を有する引用例のヒト白血球インターフェロンよりも低純度であることはあっても,高純度であることはない。しかも,特定要件(d)で規定される精製法によって精製されるヒト白血球インターフェロンが,高速液体クロマトグラフィーで単一のピークを示すことについては,本件明細書によって具体的に裏付けられていないのである。
本件発明のヒト白血球インターフェロンの純粋性とは,およそ1〜4×108単位/mg蛋白質の比活性を有し,かつ,電気泳動において単一のバンドを示す程度に純粋であることを意味するにすぎないのである。
(4) 相違点(3)における判断の誤りについて 審決は,比活性値だけをもって同様の純粋性を有すると判断したわけではなく,二次元電気泳動で純粋であることと合わせて総合的に判断した結果,同程度に純粋であると認定したものである。原告の主張は,失当である。
当裁判所の判断
1 本案前の主張(訴えの利益の有無)について (1) 原告が本件発明の特許権者であったこと,被告が本件特許を無効とすることについて審判の請求をし,特許庁が本件特許を無効とするとの審決をしたこと,本件特許の特許権の存続期間が平成11年11月22日に満了したことは,当事者間に争いがない。
原告と被告とが,本件発明及び特許1652163号(本件特許に係る出願の親出願に係る特許である。)の発明の特許権に関する実施許諾契約(本件許諾契約)を締結していたことは,当事者間に争いがない。この争いがない事実及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は,ヒト白血球インターフェロン製剤を製造又は販売し,あるいは,製造又は販売しようとしている者にとって,少なからぬ影響を受け,関心を持たざるを得ないものであったことを認めることができる。そして,現に,原告・被告間に特許料支払債務の存否を巡って紛争があることについても,当事者間に争いがない。
そうすると,原告と被告あるいは第三者との間において,本件特許の有効か無効かが前提問題となり,無効ということになればそれにより紛争が解決されてしまうという関係が存在する可能性も,一概には否定することができない。
本件特許は,存続期間が満了しているとしても,無効審決が確定すれば遡及して存在しなかったものとみなされ(特許法125条),その効果は,原告と被告との間のみならず第三者にも及ぶのであるから,審決の確定が本件特許が有効であることを前提とする法律関係に影響を及ぼすことは,明らかである。
被告は,特許料支払債務の存否の争いは,本件特許の有効性を巡るものではなく,原告が平成11年8月2日に被告に送付した書簡(乙第7号証)の解釈を巡って生じているものであるから,原告と被告との間には,本件特許の有効性を巡っての特許料支払義務の存否に関する争いは存在しないと主張する。
しかしながら,特許料支払債務の存否の争いは,基本的には本件特許の有効性を前提とするものであるから,紛争の展開次第では,本件特許を無効とする審決が取り消されるかどうかが直接に紛争に影響を及ぼすこともあり得るものというべきである。
以上によれば,原告に訴えの利益があることは,明らかというべきである。原告に訴えの利益がないとする,被告の本案前の主張は,理由がない。
2 取消事由1(引用発明が特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たる,との誤認)について (1) 引用刊行物(本訴の甲第3号証,審決の甲第1号証)に,「比活性が3×108単位/mg蛋白質,分子量が21,000d又は15,000dであり,二次元ゲル電気泳動分析により,純粋であるドデシル硫酸ナトリウムを含まないヒト白血球インタフェロン」(審決書16頁14行〜18行)が記載されていることは,当事者間に争いがない。
(2) 原告は,引用刊行物には,原料となるカンテル調製物の入手方法等,特定の分離精製条件,具体的検定方法等が記載されていないので,引用刊行物に接した当業者は,同刊行物に記載されたヒト白血球インターフェロンを容易に得ることができないから,引用発明は,特許法29条1項3号に規定される「刊行物に記載された発明」に当たらない,と主張する。
(ア) 特許法29条は,その1項で,「産業上利用することができる発明をした者は,次に掲げる発明を除き,その発明について特許を受けることができる。・・・3 特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明」と規定し,また,同法36条は,発明の詳細な説明には,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果を記載しなければならない。」(平成6年法律第116号による改正まで。同改正以後は,「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない。」)と規定している。
特許法29条36条の上記各規定を対比すれば,特許法は,特許を受けようとする発明について,その明細書に,当業者が容易に実施できるように記載していなければならないとしているものの,特許を受けようとする発明と対比される「頒布された刊行物に記載された発明」については,そのようなことを求めていないことが明らかである。このように,特許法が,特許を受けようとする発明について厳しい要件を要求しているのは,特許制度が,発明を公開した者にその代償として一定期間一定の条件で独占権を付与するものであり,発明の詳細な説明の記載が明確になされていないときは,発明の公開の意義も失われ,ひいては特許制度の目的も失われてくることになるからである。
一方,「頒布された刊行物に記載された発明」においては,特許を受けようとする発明が新規なものであるかどうかを検討するために,当該発明に対応する構成を有するかどうかのみが問題とされるのであるから,当業者が容易に実施できるように記載されているかどうかは,何ら問題とならないものというべきである。むろん,当該発明が,未完成であったり,何らかの理由で実施不可能であったりすれば,これを既に存在するものとして新規性判断の基準とすることができないのは当然というべきであるから,その意味で,「頒布された刊行物に記載された発明」となるためには,当該発明が当業者にとって実施され得るものであることを要する,ということはできる。しかし,容易に実施し得る必要は全くないものというべきである。このことは,例えば,当業者であっても容易に実施することができないほど極めて高度な発明がなされたとき,当業者が容易に実施することができないからといって,新規性判断の資料とすることができないといえないことからも,明らかである。要するに,特許法29条1項3号の「頒布された刊行物に記載された発明」に求められるのは,公知技術であるということに尽き,その実施が容易かどうかとは関係がないものというべきである。
原告は,物の発明については,公知の刊行物に記載された発明が特許法29条1項3号にいう「刊行物に記載された発明」となるためには,その刊行物に,当該物と対比されるべき構成が記載されているだけでは足りず,その製造法も,容易に実施できる程度に記載されている必要があるというべきである,公知の刊行物に当業者が容易に製造することができる程度に記載されていない場合には,当業者は,その発明を再現することができず,このように再現性のない発明は,むしろ,未完成の発明というべきであって,これを既に公衆の共有財産になっている発明とすることはできないからである,と主張する。
しかしながら,公知の刊行物に記載された物の技術的思想が,当業者が容易に実施できる程度に記載されていないからといって,当業者が当該発明を再現することができないとか,当該発明は公衆の共有財産となっていないとかいえないことは,論ずるまでもないことである。むろん,当業者にとって発明が実施不能である場合には,その発明が「刊行物に記載された発明」となり得ないことは明らかである。
しかし,この場合に,当業者にとって実施不能かということと,当業者が容易に実施できる程度に開示されているか,とは別問題である。原告は,実施容易性の問題と実施可能性の問題とを取り違えて議論しているものであり,失当である。
(イ) 上記の観点に立って,引用刊行物を検討する。
引用刊行物(甲第3号証)が,「ヒト白血球インターフェロンの見かけ上均質な状態までの精製:純粋であることの判断基準」と題する講演要旨(講演要旨の著者:L.S.リン,M.ウィラノフスカ-スチュワート及びW.E.スチュワートU世)であって,そこに, @ 「ヒト白血球インターフェロン(HuLeIF)調製物は,2つの分子サイズの異なる群を含んでおり,それらはドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS/PAGE)により分析すると,21,000および15,000ダルトン(d)に抗ウイルス活性のピークとともに移動する。」(同号証の訳文9行〜12行), A 「K.カンテルより供与されたHuLeIF調製物(PIFという)(約インターフェロン単位/mg蛋白)は,SDS/PAGEで測定すると,約67,000および25,000の分子量を有する2つの主要な夾雑蛋白質を含んでいる。」(同12行〜15行), B 「PIF調製物を過ヨウ素酸ナトリウム緩衝液により穏やかに酸化させ,50%エチレングリコールで希釈した後,沈澱した蛋白質を遠心分離して除去した。凍結乾燥により上清を濃縮し,元の容積にまで再水和した後,セファクリルS200のクロマトカラムに掛け,リン酸緩衝液にて溶出させた。蛋白質および活性プロファイルから,過ヨウ素酸酸化により25000dの夾雑蛋白質が選択的に沈澱する一方,分子篩カラムによって67000dの夾雑物がより小さいインターフェロン蛋白質から効率よく分離して,およそ3×108単位/mg蛋白の比活性を有するインターフェロン調製物が得られることが明らかとなった。」(同15行〜23行), C 「その後のこのインターフェロン調製物の二次元ゲル電気泳動分析により,純粋なインターフェロンが得られていたことが示されている。」(同23行〜25行) との記載があることは,当事者間に争いがないところである。
(3) 原料となるカンテル調製物の入手方法等の記載がないことについて 乙第4号証によれば,1981年発行「William E.Stewart U The Interferon System」には,「ヒト白血球インターフェロンの製造は,実質上専らカリ・カンテル博士とヘルシンキの彼の協力者によって発展してきており,この材料の大量生産における10年の経験の間に,彼等は数百万単位/日の投与量で患者に注射することが許容される程度に大量精製するのに適した方法を開発してきた(Cantell,Pyhala及びStrander,1974年;Mogenson及びCantell,1977年)。実際に,他の研究室から報告されたヒト白血球インターフェロンの精製及び特性解析の研究はすべて,一般に“カンテルP-IF”と呼ばれる段階-すなわち,彼の研究室から提供されるような106単位/mg蛋白の-まで既に精製されたインターフェロン調製物を用いて始まる。ヒト白血球インターフェロンの精製のための図11に示したスキームを,P-IFとしてカンテル博士の研究室を出たインターフェロンを用いて実施した。」との記載があることが認められる。
乙第6号証によれば,1974年に頒布されたカンテルらの論文(J.gen.Virol.(1974),22,95-103)に,「粗インターフェロンのバッチを,PH3.5にてチオシアン酸カリウム沈降により濃縮した(カンテル及びピハラ,1973)。94%エタノール,pH4.2中に溶解し,pHを上げながら不活性な蛋白質を選択的に沈澱させて除去した(K.カンテルら,未発表の知見)。pH6〜7の間で沈澱した蛋白質からインターフェロンを回収した。本法により,比活性1〜6×106単位/mg蛋白(ローリーら,1951)のインターフェロンがごく普通に得られる。このような調製物をリン酸緩衝生理食塩水,pH7.3(PBS)に対して透析し,更なる使用に先だって25000gで60分間遠心した。特に言及しなければ,実験はすべてこのようなインターフェロンを用いて実施し,異なるバッチを用いて繰り返した。」(96頁7行〜15行の訳文)との記載があることが認められる。
弁論の全趣旨(被告提出の参考資料1参照)によれば,昭和56年9月毎日新聞社発行「インターフェロン」には,「ヒト白血球インターフェロンの生産は,主としてフィンランドのカンテルと,同国赤十字ネバンリンナ所長の努力によって,またそれを学んだユーゴ,デンマーク,フランス,日本,アメリカの研究者たちによって,年々その量を増している。・・・デンマークのニールセンは,カンテルのインターフェロン研究に感激して,インターフェロソ生産を自分の天職にしようと誓った人である。」(198頁4行〜10行)との記載があることが認められる。
上記各文書の上記認定の記載を総合すれば,カンテルは,最も早い段階で,ヒト白血球インターフェロンの大量生産を実現した研究者の一人であり,カンテルの下で,多数の研究者がヒト白血球インターフェロンの研究に従事していたこと,1974年ころから1981年ころまでの間に,ヒト白血球インターフェロンの精製及び特性解析の研究の多くは,カンテル博士の研究室から提供されるある程度まで精製されたインターフェロン調製物を用いて行っていたことが認められる。そして,前述したとおり,引用刊行物の著者であるリン及びスチュワートも,同様に,カンテルから供与されたヒト白血球インターフェロン調製物を用いてヒト白血球インターフェロンの精製を行った,と述べているのである。
このように,本件特許に係る優先権主張日(以下「本件優先権主張日」という。)当時,カンテル調製物は現に存在し,不特定多数の研究者が,カンテルから供与されたカンテル調製物を利用して研究していたのである。このようなカンテル調製物を出発原料とすることが,引用発明を特許法29条1項3号の「頒布された刊行物に記載された発明」に該当することを何ら妨げるものではないことは,いうまでもないところである。
(4) 特定の分離精製条件の開示について (ア) 原告は,引用刊行物には,過ヨウ素酸酸化,セファクリルS200のクロマトカラム等の一般的処理手段の名称が単に記載されているのみであり,過ヨウ素酸酸化の条件(過ヨウ素酸ナトリウムのモル濃度,処理時間についての記載等),セファクリルS200のクロマトカラムの条件(例えば,カラムサイズ,リン酸緩衝液の種類及び濃度,流速等)ならびに比活性の決定に使用された生物学的検定法及び蛋白質測定に関する具体的手段が全く記載されていない,と主張する。
しかしながら,本件発明は,方法の発明ではなくて物の発明であることからすると,物としての同一性を判断するに当たって,これと対比される発明となるためには,刊行物に,物の構成が開示されている必要があることは明らかであるものの,その物を製造する方法が開示されていることは,必ずしも必要があるとはいえない。その物が未完成であったり実施不可能であったりすることがないように,その物が完成し,実施可能な技術的思想であることを担保するために,そのために必要とされる限度で,その物を製造する方法を記載することが必要な場合があるとしても,それ以上に記載されていることが要求されるものではない。
(イ) 過ヨウ素酸酸化,セファクリルS200のクロマトカラム等の処理自体が,蛋白質の分離精製手段として引用刊行物が頒布された当時既に常套手段となっていたことは,当事者間に争いがない。
引用刊行物には,前述したとおり,「PIF調製物を過ヨウ素酸ナトリウム緩衝液により穏やかに酸化させ,50%エチレングリコールで希釈した後,沈澱した蛋白質を遠心分離して除去した。凍結乾燥により上清を濃縮し,元の容積にまで再水和した後,セファクリルS200のクロマトカラムに掛け,リン酸緩衝液にて溶出させた。蛋白質および活性プロファイルから,過ヨウ素酸酸化により25000dの夾雑蛋白質が選択的に沈澱する一方,分子篩カラムによって67000dの夾雑物がより小さいインターフェロン蛋白質から効率よく分離して,およそ3×108単位/mg蛋白の比活性を有するインターフェロン調製物が得られることが明らかとなった。」と記載されている。
そうすると,引用発明は,基本的には,蛋白質の分離精製手段として常套手段であった過ヨウ素酸酸化,セファクリルS200のクロマトカラム等の処理を,同じ蛋白質の一種であるヒト白血球インターフェロン(比活性106単位/mg蛋白を有し,SDS/PAGEで測定して約67,000及び25,000の分子量を有する2つの主要な夾雑蛋白質を含んでいるものである。)に適用したものであることが明らかである。
その他,本件全証拠によっても,分離精製条件の開示について,引用発明が,特許法29条1項3号の「頒布された刊行物に記載された発明」に該当することを妨げる格別の事情を見いだすことはできない。
(5) 原告は,引用刊行物には,比活性3×108単位/mg蛋白の決定に使用された生物学的検定法及び蛋白質測定に関する具体的手段が全く記載されておらず,また,二次元ゲル電気泳動分析データの結果についても具体的記載がなされていないから,純粋なヒト白血球インタフェロンが実際に製造できたかどうかは明らかでない,と主張する。
しかしながら,前述したとおり,引用刊行物には,「およそ3×108単位/mg蛋白の比活性を有するインターフェロン調製物が得られることが明らかとなった。」と記載されているのであるから,引用発明は,「比活性3×108単位/mg蛋白」であることが認められるのであり,本件全証拠によっても,この認定を妨げるものはない。原告自身も,この点は争っていない。
そうである以上,物の具体的な検査方法や測定方法が記載されている必要はないというべきである。
2 取消事由2(相違点(4)について実質的な差異がないとした判断の誤り)について (1) 本件発明にいうヒト白血球インタフェロンの「均質」性について (ア) 本件発明は,化学物質に係る物の発明であるから,その物自体が特許請求の範囲に特定されて記載されていなければならないことは,当然である。
本件発明の特許請求の範囲には,「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」との記載がある。甲第2号証によれば,本願明細書中には,上記記載における「均質」を定義づける格別な記載は存在しないことが明らかである。
「均質」という語は,通常の用語法に従えば,「性質の同じなこと。一つの物体中のどの部分をとっても,成分・性質の一定していること。等質。」(広辞苑第4版)などといった意味を有するものである。これを機械的に本件発明に当てはめれば,どの部分をとっても成分・性質が一定していることをいっているだけで,純度の高さ自体は何ら問題とするものではない,ということになる。しかし,本件発明が純度の高いヒト白血球インターフェロンに係るものであることを考えると,このように機械的に当てはめて理解するのは合理的でなく,本件発明においては,ヒト白血球インターフェロンが,非常に純度が高いことを意味していると理解するのが合理的である。なお,本件発明を特定する「均質」の語が上記のような意味を有するとしても,本件発明のヒト白血球インタフェロンが,蛋白質であり,精製によって得られるものであることからすれば,「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」の語は,他の蛋白質を全く含まない100%純粋なヒト白血球インターフェロンを意味するものでなく,広いか狭いかはともかく,純度にある程度幅を持ったヒト白血球を意味する語であるというべきである。
(イ) 本件明細書の特許請求の範囲の欄に, 「(a) ドデシル硫酸ナトリウムを含まず; (b) 順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示し; (c) 分子量約16200±1000〜約21000±1000であり; (d) 次の工程 A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を,緩衝液で平衡化した,シクロヘキシル,フェニル,オクチル,またはオクタデシル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得, B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した,グリセリル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得,および C 工程Aを反復し,ならびに,所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る, を組み合わせることからなる方法により得ることができ; (e) ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値を有する;均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン。」 と記載されていることは,前記のとおりである。
上記「(a) ドデシル硫酸ナトリウムを含まず;」(以下「特定要件(a)」という。),「(b) 順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示し;」(以下「特定要件(b)」という。),「(c) 分子量約16200±1000〜約21000±1000であり;」(以下「特定要件(c)」という。),「(d) 次の工程・・・を組み合わせることからなる方法により得ることができ;」(特定要件(d)),「(e) ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値を有する;」(以下「特定要件(e)」という。)は,いずれも,「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」に掛かっていることが,特許請求の範囲の文脈自体から明らかである。
既に述べたとおり,本件発明は,化学物質に係る物の発明である。そして,弁論の全趣旨によれば,特許庁の「物質特許制度及び多項制に関する運用基準(昭和50年10月)」には,「物質特許に関する運用基準」の部の「第1 化学物質発明に関する運用」の「U 明細書の記載要領」の「1.特許請求の範囲」の項に,「(1) 化学物質は特定されて記載されていなければならない。化学物質を特定するにあたっては,化合物名又は化学構造式によって表示することを原則とする。化合物名又は化学構造式で特定することができないときは,物理的又は化学的性質によって特定できる場合に限り,これら性質によって特定することができる。また,化合物名,化学構造式又は性質のみで十分特定できないときは,更に製造方法を加えることによって特定できる場合に限り,特定手段の一部として製造方法を示してもよい。ただし,製造方法のみによる特定は認めない。」と定めていることが認められる。
そうすると,本件発明の特許請求の範囲において,特定要件(a)ないし(e)は,いずれも,「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」を特定すべきものとして記載されているものというべきである。
(ウ) 上記特定要件のうち(a)及び(c)は,本件発明の特許請求の範囲の記載と,前記2(取消事由1)の(1)に記載した,当事者間に争いがない引用刊行物の記載から,一致していることが明らかであり,原告も,この点については,格別争っていない。
(エ) 特定要件(e)について 上に述べたとおり, 特定要件(e)すなわち「(e) ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値を有する」(特定要件(e))は,「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」に掛かっていることが,特許請求の範囲の文脈自体から明らかである。
そうすると,本件発明の「均質なタンパク質としてのヒト白血球インタフェロン」は,「(e) ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値を有する」ものであるとされていること,すなわち,本件発明においては,「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値」があることをもって,「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」であることの必要条件としていることが,明らかである。
そして,比活性値が高くなるほどインターフェロンの純度が高くなることは,当事者間に争いがないこと(この点について,審決は,「また均質な蛋白質であるインタフェロンが示す比活性(抗ウイルス活性)はいずれも高く(明細書54頁,表4参照),この数値が大きい程インタフェロンの純度が高いことは技術常識であるから,高い比活性値は不純物である蛋白質が存在する割合が小さく,ヒト白血球インタフェロンの純度が高いことを意味している。」(審決書21頁末行〜22頁6行)と述べている。)に,上記の「均質」の意味をも併せ考えると,本件発明の「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」は,「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値」を有する程度の高純度のものを包含するものであるということができる。
(オ) 特定要件(d)について 本件発明の特許請求の範囲における特定要件(d),すなわち, 「(d) 次の工程 A ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液を,緩衝液で平衡化した,シクロヘキシル,フェニル,オクチル,またはオクタデシル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を増加させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得, B ヒト白血球インタフェロンの水溶液を緩衝液で平衡化した,グリセリル基が結合した,シリカマトリクスカラムに,高速液体クロマトグラフィー条件下に通してインタフェロンをカラムに吸着させ,その後インタフェロンをn-プロパノールの濃度を減少させる勾配のn-プロパノール水性溶液で溶離し,そしてインタフェロンを溶出液の選定フラクション中に高純度の状態で得,および C 工程Aを反復し,ならびに,所望により工程A)および/または工程B)を繰り返すことにより最終的に均質性を得る, を組み合わせることからなる方法により得ることができ;」 は,その記載自体から,ヒト白血球インターフェロンの製造方法を示しているものであることが明らかである。
特定要件(d)の文言をみると,工程A,Bでは,いずれも,ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液から,それぞれの精製工程で高純度の状態でインタフェロンを得,工程A,工程B又は工程A,Bを繰り返すことにより最終的に均質性を得るというのであって,要するに,精製の工程を多数回繰り返していけば,ヒト白血球インタフェロンを含む水溶液に含まれていた不純物が次第に除かれ,ますます高純度のヒト白血球インターフェロンを得ることができるというのである。そして,そこに,それ以上に,ヒト白血球インターフェロンの純度を特定するような記載を見いだすことはできない。
このように,特定要件(d)として示された製造方法には,高純度のヒト白血球インターフェロンを得る手法が記載されているものの,そこから,得られるヒト白血球インターフェロンの純度につき,「高純度」であるということ以上の格別の技術的意味を読み取ることはできない。
(カ) 特定要件(b)について 特定要件(b)の「(b) 順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示し;」との記載が,本件発明のヒト白血球インターフェロンについて,「順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示」すことを必要条件としているものであることは,記載自体から明らかである。
しかし,ヒト白血球インタフェロン活性に係るもの以外の,順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおけるピークについては,特許請求の範囲において何も述べていないから,特定要件(b)においては,「順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示」すことを必要条件とするのみであって,ヒト白血球インタフェロン活性に係るもの以外のピークを示すことを排除していないというほかない。そして,このように,特定要件(b)においてヒト白血球インタフェロン活性に係るもの以外のピークを示すことを排除していない以上,この要件によって,本件発明のヒト白血球インタフェロンの「均質」性を論ずることはできないという以外にない。
(キ) 以上によれば,本件発明において「均質」の意味するところは,少なくとも「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値」を有するほどに高純度であること,に尽きるというべきである。
(ク)原告は,本件発明のヒト白血球インターフェロンは,本件図面中の第1図及び第2図にデータをもって具体的に明らかにされているように,高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し,電気泳動において単一のバンドを示すものである,そして,このヒト白血球インターフェロンは,それ以上,精製する必要がなく,そのまま医薬品として用いることができるというものである,と主張する。
しかしながら,高速液体クロマトグラフィーで単一ピークを示すこと,電気泳動において単一のバンドを示すことは,特許請求の範囲に記載されている事項ではない。したがって,これらをもって本件発明の構成要件とすることはできない。
また,本件発明のヒト白血球インターフェロンが,更に精製する必要がなく,そのまま医薬品として用いることができるものであることも,同じく,本件発明の構成要件とされている事項ではない。そのことをいっても,せいぜい,本件発明のインターフェロンが純度の高いものであることを,効果の面から主張する,という意味を有するにすぎない。
しかも,原告が主張する,本件発明のヒト白血球インターフェロンは高速液体クロマトグラフィーで単一ピークを示す,ということは,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されていない事柄である。
甲第2号証によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明は均質なタンパク質としてのヒト白血球インタフェロンに関する。」(3頁5欄20行〜21行),「本発明の均質なタンパク質としてのインタフェロンは,この医薬として重要な物質の化学特性づけを初めて可能にする純すいなインタフェロンを十分な量で提供する新規製造方法により得られた。インタフェロンの化学的特性づけを可能にしたことはこの物質の開発における有意な進歩を表わす。」(3頁6欄13行〜19行),「このようにして,人の白血球のインターフェロンの3つの別々の形態(α,βおよびγ)の各々は均質なタンパク質を表わす別々の鋭いビークに分離することができる。」(5頁9欄1行〜5行),「この新規方法により得られる均質な人の白血球のインターフェロンの種の各々は,前述のHPLCカラム上の鋭いピークと,2-メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(NaDodS04)ポリアクリルアミトゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。このゲルを抽出すると,タンパク質帯と一致する抗ウイルス活性の単一の鋭いピークが得られた。この純粋なインターフェロンの種の比活性は,MDBKのウシの細胞で約0.9〜4.0×108の範囲であり,そしてAG1732の人の細胞系で約2×106〜4×108であることがわかった。」(5頁9欄16行〜27行)との記載があることが認められる。
また,甲第2号証によれば,同明細書の発明の詳細な説明の欄中の実施例について記載した部分には,「このカラムをIMのビリジン/ホルメート緩衝液中で直線の20〜40%の1-プロパノールの勾配で3時間以内で0.2ml/分の流速で溶離した。0.6mlのフラクションを集めた。活性の主ピークはタンパク質のピークと一致した。このピークからなるフラクション45および46(32%,V/V,プロパノール)を合わせ,同様な条件で再クロマトグラフ処理した。インターフェロンはフラクション31(32%,V/V,プロパノール)中に溶出された(第1図参照)。このフラクションの比活性は牛血清アルブミンに関して4×108単位/mgであると計算された。この物質(フラクション31)はさらに以下に述べるアミノ酸分析等に使用した。この高速液体クロマトグラフィーのパターンを蛍光検出にかけたところ,その再現性は顕著で,そのパターンの同一性を証明することができた。精製の結果を表1に要約する。最初の培地から第2のR.P-8カラムまでの全体の精製度は60000〜80000倍であった。工程1からジオール工程を通じた累積収率は30〜50%の範囲であった。この工程以降は,インターフェロンの3つのピークの各々は別々に精製した。」(6頁12欄末行〜7頁14欄11行)との記載が,図面の簡単な説明の欄には,「第1図はヒト白血球インターフェロン活性に合致するピークを示す本発明のヒト白血球インターフェロンの高速液体クロマトグラフィーである。」との記載があり,第1図には,1本の大きな鋭いピークが示されているものの,その他にも,いくつかの小さなピークが示されていることが認められる。
本件明細書及び本件図面の上記認定の記載によれば,本件明細書において「抗ウイルス活性の単一の鋭いピーク」といっているものの,具体的には,特定要件(d)に従ってヒト白血球インターフェロンを含む水溶液を精製した結果,第1図に示されている程度(1本の大きな鋭いピークが示されているものの,その他にも,いくつかの小さなピークが示されている。)の高純度のものを得たというにすぎない。本件明細書及び本件図面には,高速液体クロマトグラフィーにおいて「単一ピーク」は,示されていないというほかない。
原告は,高速液体クロマトグラフィー で第1図に示すフラクション31中にヒト白血球インターフェロンが溶出され,そのフラクション31の物質を更にアミノ酸分析に付したことが記載されており,図面の第1図には,フラクション31に相当する鋭い単一のピークが現われており,表1(7頁13欄〜14欄)には,精製度60000から80000で蛋白質が回収されたことが示されている,これらの記載から,本件明細書において,高速液体クロマトグラフィーで単一のピークを示すヒト白血球インターフェロンを精製し回収したことが具体的な裏付けを伴って記載されていることが明らかである,と主張する。
しかしながら,本件発明において達成したのは,第1図に示される程度の,1本の大きな鋭いピークとその近傍にいくつかの小さなピークを示すものであって,それ以上のものではない。表1によっても,高速液体クロマトグラフィーで「単一のピーク」を示すヒト白血球インターフェロンが得られ,それが回収されたことを開示するものとはいえない。むろん,ヒト白血球インターフェロンを高純度に精製すれば,その極限の状態において,高速液体クロマトグラフィーで単一のピークを示すものが得られるであろうことは,当然に予想されるところである。しかし,原告の上記主張は,いまだ予想の域を出ないものというべきである。
第2図は,高速液体クロマトグラフィーの結果示すものではない。このことは,甲第2号証によれば,本件明細書の図面の簡単な説明の欄に,「第2図は 本発明のヒト白血球インタフェロンが単一のバンドを示すドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動図である。」(甲第2号証12頁24欄17行〜20行)との記載があることから,明らかである。
電気泳動において単一のバンドを示すという点については,前記のとおり,発明の詳細な説明中に「2-メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(NaDodS04)ポリアクリルアミドゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。このゲルを抽出すると,タンパク質帯と一致する抗ウイルス活性の単一の鋭いピークが得られた。」との記載があり,また,上記第2図にも,電気泳動において単一のバンドを示す結果が得られたことが記載されている。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲においては,前述したとおり,「(b) 順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーにおいてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示し;」としか記載されておらず,電気泳動による本件発明のヒト白血球インターフェロンを電気泳動により特定することは,行われていない。
そうすると,電気泳動に基づく原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張というほかない。
原告は,本件発明の特定要件(d)は,本件発明のヒト白血球インターフェロンの均質性・純粋性を特定しているものであり,この特定要件(d)に規定される特定の精製法によって初めて得ることができる程度に精製された純粋性とは何であるかを,より具体的にいうと、 高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し、 かつ,本件図面の第2図に示されるように電気泳動において単一のピ-クを示す,という性質である,と主張する。 しかしながら,前述したとおり,「(d) 次の工程・・・」との製造方法の記載からは,本件発明のヒト白血球インターフェロンが「高純度」であるという以上に,格別の技術的意味を読み取ることはできないのであり,このような記載から,本件発明のヒト白血球インターフェロンが,高速液体クロマトグラフィーにおいて単一ピークを示し、 かつ,電気泳動において単一のピ-クを示す,と解することができるものではないことは,論ずるまでもないところである。
(2) 引用発明のヒト白血球インタフェロンの「均質」性について (ア) 引用刊行物に,「比活性が3×108単位/mg蛋白質,分子量が21,000d又は15,000dであり,二次元ゲル電気泳動分析により,純粋であるドデシル硫酸ナトリウムを含まないヒト白血球インタフェロン」が記載されていることは,前述したとおりである。
一方,前述したとおり,本件発明における,「均質」とは,要するに,少なくとも「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値」を有するほどに高純度である,とうことである。
引用刊行物では,比活性の細胞系が明らかにされていないものの,弁論の全趣旨によれば,本件発明と同様にウシ細胞MDBKあるいはヒト細胞系AG1732を使用したものと推認することができ,これを妨げるべき証拠はない。
そうすると,引用発明の比活性値は,本件発明のそれと一致しているものとなるから,引用発明は,本件発明の同程度に高純度のヒト白血球インターフェロンであり,本件発明の「均質」の構成を具備していることが,明らかである。
(イ) 原告は,甲第4ないし6号証を根拠に,引用発明が純粋でなく,本件発明のインターフェロンとは異なる,と主張する。
甲第4号証ないし6号証は,いずれも,引用刊行物に「比活性が3×108単位/mg蛋白質,分子量が21,000d又は15,000dであり,二次元ゲル電気泳動分析により,純粋であるドデシル硫酸ナトリウムを含まないヒト白血球インタフェロン」が記載されていることを否定するものではなく,「均質」についての原告の見解を前提にすれば,「均質」と評価するための基準に引用発明が達していない,ということを示すものにすぎない。
しかしながら,前述したとおり,本件発明にいうヒト白血球インターフェロンの「均質」性とは,「ウシ細胞MDBKにて測定される0.9×108〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値およびヒト細胞系AG1732にて測定される2×106〜4.0×108単位/mg蛋白質の比活性値」を有する程度に高純度のヒト白血球インターフェロンを指しているものであって,それ以上のものではない。本件発明の「均質」についての原告の主張が,誤っているのである。したがって,「均質」についての原告の見解を前提に,いくら引用発明の「均質」性を論難しても,引用発明が,本件発明にいう「均質」の構成を具備していることを否定することはできない。
原告の主張は,前提において既に失当である。
3 取消事由3(相違点(1)〜(3)について実質的な差異がないとした判断の誤り)について (1) 相違点(1)における判断の誤りについて 原告の主張は,相違点(1)についての審決の判断は,本件発明のヒト白血球インターフェロンと引用発明のヒト白血球インターフェロンとが同程度に均質な蛋白質であることを前提にしてなされたものであるから,誤っている,とするものである。
審決が,相違点(4)の「均質」性の検討において,本件発明の「均質」の技術的意味を認定するに当たって当然に前提となるべき特定要件(b)を考慮しなかったことは,後述するとおりである。
しかしながら,本件発明のヒト白血球インターフェロンと引用発明のヒト白血球インターフェロンとが同程度に均質な蛋白質であることは前述のとおりであるから,相違点(1)につき,「上記したように甲第1号証の精製したインタフェロンは本件特許発明と同程度に均質なタンパク質であると認められるので当然に順相および/または逆相高速液体クロマトグラフィーではインタフェロン活性に合致するピークを示すものと認められる。」(審決書28頁12行〜17行)とした審決の判断には,結論として誤りがないことになる。
(2) 相違点(2)における判断の誤りについて 原告の主張は,本件発明は,特定要件(d)の特定の精製法によって精製される程度の純粋性を有する均質ヒト白血球インターフェロンであることを要求しているのに,審決はこれを全く考慮していない,との趣旨と思われる。
審決が,相違点(4)の「均質」性の検討において,本件発明の「均質」の技術的意味を認定するに当たって当然に前提となるべき特定要件(b)及び(d)を考慮しなかったことは,後述するとおりである。
しかしながら,,前述したとおり,特定要件(d)からは,本件発明のヒト白血球インターフェロンが「高純度」であるという以上に,格別の技術的意味を読み取ることができないのであるから,相違点(2)について,「「特定要件(d)」が構成要件として示されても本件特許発明と甲第1号証のインタフェロンを実質的に相違するものとすることはできない。」(30頁5行〜8行)とした審決の判断には,結論としては誤りがないことになる。
(3) 相違点(3)における判断の誤りについて 原告の主張は,相違点(3)についての審決の判断が,本件発明のヒト白血球インターフェロンであれ引用発明のそれであれ,比活性値が同じであれば同様の純粋性を有する,との誤った見解に立ってなされたものであるから,誤っている,とするものである。
しかし,本件発明においてヒト白血球インターフェロンの純粋性の程度を示すのは,結局のところ比活性値であることは,前述のとおりであり,したがって,本件発明のヒト白血球インターフェロンであれ引用発明のそれであれ,比活性値が同じであれば同様の純粋性を有することになる。審決が前提としたところに,誤りはない。
原告の上記主張は,失当である。
(4) 原告は,本件発明の「均質な蛋白質としてのヒト白血球インタフェロン」は,特許請求の範囲に記載されているとおり,(a)ないし(e)の各構成要件をすべて具備したヒト白血球インターフェロンをいうから,上記(a)ないし(e)の各構成要件を逐一対比検討しない限り,引用発明が本件発明と同様に「均質」なヒト白血球インターフェロンであるか否かを認定し得ないとして,これを前提に,審決は,まず,「均質」性に関する相違点(4)において,本件発明と引用発明とは実質的に差異はないと判断し,その後で,相違点(4)において差異はないから当然に相違点(1)及び(2)においても差異はないと判断したのである,このような相違点(1)及び(2)を無視した判断が誤りであることは明らかである,と主張する。
甲第1号証によれば,審決は,相違点(4)について,「本件特許発明における「均質な蛋白質」の意味であるが,本件明細書には該蛋白質に関して,「本発明の均質なタンパク質としてのインタフェロンは,この医薬として重要な物質の化学特性づけを初めて可能にする純すいなインタフェロンを十分な量で提供する新規製造方法により得られた。」(26頁15〜17行),「インターフェロンを均質なタンパク質として製造する方法の例としては,次の工程の組み合わせからなる方法をあげることができる:」(28頁3〜5行),「この新規方法により得られる均質な人の白血球のインターフェロンの種の各々は,前述のHPLCカラム上の鋭いピークと,2-メルカプトエタノールの存在下のドデシル硫酸ナトリウム(NaDodSO4)ポリアクリルアミドゲル電気泳動上の単一の狭い帯とを示した。」(33頁6〜11行),「本発明の精製された均質なインターフェロン類は,従来用いられた粗製の製剤と同じ方法で投与量を調整して望むレベルのインターフェロン単位を与えるようにして使用することができる。個個の種はそのまま使用することができ,或いはこのような種の2以上の混合物を使用することもできる。」(35頁8〜14行)と記載され,表3〜表6には9種のインターフェロン(即ちα1,α 2,β2,β 3,γ 1〜 5)について比活性,分子量,アミノ酸分析結果等のデータが記載されている。これらの記載からみて,本件特許発明の「均質な蛋白質」としてのヒト白血球インタフェロンは,特許請求の範囲に記載されているHPLC(高速液体クロマトグラフィー)においてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示すと共に,ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動において単一のバンドを示すヒト白血球インタフェロンとして純粋な蛋白質であって,純粋蛋白質は少なくとも分子種α1〜γ 5のいずれか又はそれらの混合物を含むものであると認められる。」(審決書20頁1行〜21頁17行),「また均質な蛋白質であるインタフェロンが示す比活性(抗ウイルス活性)はいずれも高く(明細書54頁,表4参照),この数値が大きい程インタフェロンの純度が高いことは技術常識であるから,高い比活性値は不純物である蛋白質が存在する割合が小さく,ヒト白血球インタフェロンの純度が高いことを意味している。」(同21頁末行〜22頁6行),「本件明細書の28頁3〜29頁14行にも「インターフェロンを均質のタンパク質を製造する方法の例としては,次の工程の組み合わせからなる方法をあげることができる:・・・達成する。」と記載されており,この記載からみても「特定要件(d)」で規定される方法以外の方法で得られるヒト白血球インタフェロンであっても,本件の特許請求の範囲記載の(a)〜(c),(e)に規定する要件を満たし,均質な蛋白質であるものは本件特許発明の範囲に包含されると認められる。」(同29頁4行〜14行)と説示していることが認められる。審決がこのように説示しているところからすると,審決は,本件発明の特許請求の範囲にいう「均質」について,特定要件(a)ないし(e)とは独立した構成要件と理解した上で,その技術的意味を検討し,「特許請求の範囲に記載されているHPLC(高速液体クロマトグラフィー)においてヒト白血球インタフェロン活性に合致するピークを示すと共に,ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳動において単一のバンドを示すヒト白血球インタフェロンとして純粋な蛋白質であって,純粋蛋白質は少なくとも分子種α1〜γ 5のいずれか又はそれらの混合物を含むもの」(審決書21頁8行〜16行)であり,その高い比活性値から,「不純物である蛋白質が存在する割合が小さく,ヒト白血球インタフェロンの純度が高い」(同22頁4行〜6行)ものであると認定したものと認められる。
そして,審決が,「本件の特許請求の範囲記載の(a)〜(c),(e)に規定する要件を満たし,均質な蛋白質であるものは本件特許発明の範囲に包含されると認められる。」(審決書29頁11行〜14行)と説示しているところからすれば,審決の論理によっても,引用発明が特定要件(a)ないし(c),(e)を満たしているかどうかを検討しなければならないはずである。ところが,審決書をみても,審決がこれらの点について検討した形跡を見いだすことができない。したがって,審決の認定判断は,上記の点について誤っているといわざるを得ない。
しかしながら,本件発明の「均質」性が特定要件(a)ないし(e)と並列の関係にあるのではなく,特定要件(a)ないし(e)によって「均質」性の技術的意味が規定されるという論理構成になっていることは,前述したとおりである。そして,審決は,特許要件の意味を誤解しているものの,結局は,原告が問題にしている特許要件(b)が本件発明の「均質」性と関係がないとし,特定要件(e)から導き出される高い比活性値と,特定要件(d)から導き出される高純度によって本件発明の「均質」性を認定しているものであるから,正しい結論に至るまでの論理過程に誤りがあったにすぎないということができる。
そして,原告自身,「第4 原告主張の審決取消事由の要点」の「2 取消事由2」において,その高い比活性を当然の前提としつつ,本件発明の均質なヒト白血球インターフェロンとは,高速液体クロマトグラフィー及び電気泳動分析において単一の蛋白質であるなどとし,また,特定要件(d)は,一製造法を特定することをもって本件発明のヒト白血球インターフェロンの均質性・純粋性を特定している要件であるとして,本件発明のヒト白血球インターフェロンは,非インターフェロン蛋白質を含まないという意味で均質な蛋白質であり,いわば,純粋なヒト白血球インターフェロンなのであると主張しており,一方,被告は,これに反論しているのであって,当事者は,いずれも,本件発明が特定要件(a)ないし(e)によって「均質」性の技術的意味が規定されるという論理構成になっていることを前提として,議論を尽くしてきたものということができる。
以上によれば,審決の誤りは,その結論に影響を及ぼすようなものでないことが明らかというべきである。審決が相違点(1)及び(2)の判断を無視したとする原告の主張は,失当である。
4 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は,いずれも理由がないことが明らかであり,その他審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一