関連審決 | 不服2000-2044 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
118号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 内藤義三、三木浩太郎、弁理士 長屋文雄、長屋直樹 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 佐田洋一郎、渡辺努、林栄二、鈴木公子、大野克人 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/04/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2000-2044号事件について平成13年2月6日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成2年11月13日、「ウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法とこれに用いるパネル部材」なる発明について特許出願をしたが(平成2年特許願第308264号)、平成12年1月7日拒絶査定があったので、同年2月17日審判を請求し(不服2000-2044)、平成12年3月17日手続補正をしたが、平成13年2月6日「本件審判請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年3月5日原告に送達された。 2 本願発明の要旨【請求項1】 一対の側壁部の外周に設けた案内部で掘削用チェンを回動自在に案内し、該側壁部の一方側で建設用掘削部を掘削するべくなし、かつ、該建設用掘削部側の上記側壁部のみに任意数の貫通孔を設け、内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に該掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に生ずる地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなしたことを特徴とするウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法。 【請求項2】 細長い長方形状で、スチール材でなる一対の側壁部間に間隔体を介してウエル部を設け、かつ、外周の案内部に無限軌条の掘削用チェンを回動自在に案内し、さらに、一方の側壁部のみに下側程多数の貫通孔を設けてなることを特徴とするウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法に用いるパネル部材。 3 審決の理由の要点 (1) 引用例 原査定の拒絶の理由において引用された実願昭63-62869号(実開平1-167430号)のマイクロフイルム(引用例)には、掘削排土機械を兼ねる接続壁用の壁片の構造に関して、 「そして、前記掘削排土機械(機構とあるのは誤記と認められる。)を兼ねる接続壁用の壁片は、二枚の鋼板を狭隘な間隔で対設し、この鋼板間に補強部材及びその長手方向の周辺部にチエーンガイド用の溝部を形成する溝構成部材を設けてなる壁片枠体と、この壁片枠体の下端に軸着した鋼材でなるチェーン係止用の従動用の鎖歯車と、この従動用の鎖歯車がガイドされる補強部材及び溝構成部材に設けた切条とで構成されている。」(平成元年2月2日付けで補正された全文補正明細書の実用新案登録請求の範囲の欄の15〜23行)と記載され、 「本考案は、境界線(建物を含む)に近接する近接線(・・・)上に、土留め壁工事用等の連結壁及び接続壁となり得る掘削排土機械を兼ねる接続壁用の壁片であって、地中に置き去り式にし、かつ鋼板及びC型鋼、H型鋼等をもって構成される接続壁用の壁片の構造に関するものである。」(同明細書3頁2〜9行)と記載され、 「したがって、前記駆動装置本体の駆動用の鎖歯車に捲装された、多数の爪付箆型バケットを有するチェーンは、この駆動装置本体に合体された掘削機構を兼ねる接続壁用の壁片に設けた従動用の鎖歯車との間に懸架し、周回移行する構成である。」(同明細書8頁13〜18行)と記載され、 「このような操作を繰り返すことにより、土砂の掘削と排土が順次進行され、接続壁用の壁片が順次地中に掘進されていく。」(同明細書10頁13〜15行)と記載され、 「・・・、この連続壁用の壁片1は、市販等の鋼板3,3を狭隘な間隔で対設し、この鋼板3,3間にH型鋼、I型鋼等よりなる補強部材4をこの一例では二本適宜間隔で設けるとともに、その長手方向の周辺部2aにチェーンガイド用の溝部5を形成するようにC型鋼の溝構成部材6と、後述する多数個の爪付箆型バケットを有するチェーンが捲装され、・・・」(同明細書12頁13〜20行)と記載され、 「尚駆動装置本体11を構成する鋼板3,3の何れか一方側のみで、かつその下部付近に多数の小孔30を設けると、近接線B上又は内側近傍の水を接続壁用の壁片1内にこの水を誘導し、水抜きパイプ31を介して外部に排水できる。また近接線B外側の水は、原則として吸い込まず、地盤沈下、建物の傾き等の弊害が解消される。」(同明細書15頁7〜14行)と記載されている。 そして、引用例の狭隘な間隔で対設した鋼板3,3間にウエル部が形成されることは当業者にとって自明なことであるから、前記記載を含む全文補正明細書及び全図補正図面の記載からみて、引用例には次のa及びbのような発明が記載されているものと認められる。 a) 一対の鋼板3,3の外周に設けた溝構成部材6で爪付箆型バケットを有するチェーンを回動自在に案内し、該鋼板3,3の一方側で建設用掘削部を掘削するべくなし、かつ、上記鋼板3のいずれか一方のみに任意数の小孔30を設け、内部に水抜きパイプ31を配設したウエル部を有する接続壁用の壁片1に該爪付箆型バケットを有するチェーンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数の接続壁用の壁片1により地下水を前記ウエル部及び水抜きパイプ31を介して排出しうべくなしたことを特徴とするウエルを備えた接続壁用の壁片1による簡易地下連続壁構築工法。 b) 細長い略長方形状で、鋼材でなる一対の鋼板3,3間に補強部材4を介してウエル部を設け、かつ、外周の溝構成部材6に無限軌条の爪付箆型バケットを有するチエーンを回動自在に案内し、さらに、一方の鋼板3のみに下側に多数の小孔30を設けてなることを特徴とするウエルを備えた接続壁用の壁片1による簡易地下連続壁構築工法に用いる接続壁用の壁片。 (2) 請求項1に係る発明と引用例記載のaの発明との対比、判断 本件請求項1に係る発明(本願発明1)と、引用例に記載の前記aの発明(引用発明a)とを対比すると、引用発明aの「一対の鋼板3,3」、「溝構成部材6」、「爪付箆型バケットを有するチェーン」、「小孔30」、及び「水抜きパイプ31」は、それぞれその機能からみて、本願発明1の「一対の側壁部」、「案内部」、「掘削用チェン」、「貫通孔」、及び「排水パイプ」に相当し、引用発明aの「接続壁用の壁片1」と、本願発明1の「パネル部材」とは、地中に埋設されて連続壁を構築するという点で共通するから、両発明は、 「一対の側壁部の外周に設けた案内部で掘削用チェンを回動自在に案内し、該側壁部の一方側で建設用掘削部を掘削するべくなし、かつ、上記側壁部に任意数の貫通孔を設け、内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に該掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数のパネル部材により地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなしたことを特徴とするウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法。」 の点で構成が一致しており、次のイ及びロの点で相違しているものと認められる。 イ) 側壁部に設けた任意数の貫通孔(引用発明aでは、鋼板3に設けた任意数の小孔30)を、本願発明1では、建設用掘削部側の側壁部のみに設けたのに対して、引用例aの発明では、鋼板3,3のいずれか一方側のみに設けると記載され、 建設用掘削部側のみに設けたのか否かが明記されていない点。 ロ) 本願発明1が、溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に生ずる地下水を排出するのに対して、引用発明aではその点が明記されていない点。 そこで、これら相違点を検討する。 イの点について 建設工事のために地中を掘削するに際し、その掘削部に地下水の湧出があれば、 その貯水側に排水部材の吸水口を向けて排水することは当該技術分野においてごく普通に行われていることであるから、本願発明1が、建設用掘削部側の側壁部のみに貫通孔を設けた点は、引用発明aに前記ごく普通に行われている技術を適用して当業者が容易に思いつく程度のことと認められる。 ロの点について パネル部材よりなる地中壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に地下水が生ずれば、その地下水を排出するのは当該技術分野においてごく普通に行われていることであるから、前記ロの本願発明1の構成は、前記ごく普通に行われていることをそのまま採用したにすぎないものと認められる。 そして、本件発明1の作用効果は、刊行物に記載の発明、及び当該技術分野においてごく普通に行われていることから予測し得る範囲のものと認められる。 したがって、本願発明1は、刊行物に記載の発明、及び当該技術分野においてごく普通に行われていることに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (3) 請求項2に係る発明と引用例記載のbの発明との対比、判断 本件請求項2に係る発明(本願発明2)と、引用例に記載の前記bの発明(引用発明b)とを対比すると、引用発明bの「細長い略長方形状で、鋼材でなる一対の鋼板3,3」、「補強部材4」、「溝構成部材6」、「無限軌条の爪付箆型バケットを有するチェーン」、及び「小孔30」は、それぞれその機能からみて、本願発明2の「細長い長方形状で、スチール材でなる一対の側壁部」、「間隔体」、「案内部」、「無限軌条の掘削用チェン」、及び「貫通孔」に相当し、引用発明bの「接続壁用の壁片1」と、本願発明2の「パネル部材」とは、地中に埋設されて連続壁を構築するという点で共通するから、両発明は、 「細長い長方形状で、スチール材でなる一対の側壁部間に間隔体を介してウエル部を設け、かつ、外周の案内部に無限軌条の掘削用チェンを回動自在に案内し、さらに、一方の側壁部のみに下側に多数の貫通孔を設けてなることを特徴とするウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法に用いるパネル部材。」 の点で構成が一致しており、 一方の側壁部のみに設けた貫通孔(引用発明bでは、一方の鋼板3のみに設けた小孔30。)を、本願発明2では、下側ほど多数設けているのに対して、引用発明bでは、下側に多数設けているが、下側ほど多数設けているのか否かが明記されていない点で相違しているものと認められる。 そこで、この相違点を検討するに、地下水の量は地中の深い所ほど多いから、地下水の流入する貫通孔を下側ほど多数設け排水効率を良くしようとすることは、当業者が設計に際しごく普通に考えることと認められる。 そして、本願発明2の作用効果は、引用例に記載の発明、及び当業者が設計に際しごく普通に考えることから予測し得る範囲のものと認められる。 したがって、本願発明2は、引用例に記載の発明、及び当業者が設計に際しごく普通に考えることに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (4) 審決のむすび 以上のとおり、本願発明1及び本願発明2は、当該技術分野においてごく普通に行われていることや、当業者が設計に際しごく普通に考えることを考慮すれば、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(特許請求の範囲請求項3の判断遺脱) 審決は、本件特許請求の範囲請求項1ないし3についての拒絶査定不服の審判請求について、請求項3についての判断を示していないから、判断遺脱の違法がある。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明aとの一致点についての認定の誤り) (1) 審決は、本願発明1と引用発明aとが、「一対の側壁部の外周に設けた案内部で掘削用チェンを回動自在に案内し、該側壁部の一方側で建設用掘削部を掘削するべくなし、かつ、上記側壁部に任意数の貫通孔を設け、内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に該掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数のパネル部材により地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなしたことを特徴とするウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法。」で一致していると認定したが、下記のとおり誤りである。 (2) 本件特許請求の範囲請求項1には、「・・・内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に該掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を堀削する際等に生じる地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなした・・・」とある。すなわち、溝を掘削し(A)、かつ、建設用掘削部を掘削する(B)際等に生ずる地下水をウエル部及び排水パイプを介して排出し(C)うべくなしたものとの構造となっている。ここで「かつ」とは、「同時に、 並行的に」、「そのうえ、なおまた」の意味であり、「等」については、狭義における溝を掘削する場合、狭義における建設用掘削部を掘削する場合に限られるのでなく、これらと同様な場合も含まれるとの趣旨で用いられているから、請求項1の上記記載は、Aする際にCし、Bする際にCすると、すなわち、@内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削する際にも、A溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を掘削する際にも、生ずる地下水を同時に前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなしたことを特徴とするものと解されるべきである。 本願明細書(平成12年3月17日付け手続補正書添付の明細書。甲第3号証)の次の記載からみても、本願発明1は、溝を掘削すると「同時に」、排水ポンプに連通されている排水パイプを介して地下水を外部に排出するものである。 【従来の技術】の項における、「掘削時に生ずる地下水の処理については配慮されていない・・」(段落【0003】)との記載 【発明が解決しようとする課題】の項における、「本発明は、上記従来技術の欠点をなくすべく、・・・溝掘削時及び複数のパネル部材間の建設用掘削部を掘削する際ここで生ずる地下水を、前記貫通孔及びウエル部を介して地上へ排出するので、建設用掘削部側の上記側壁部のみに貫通孔が形成されているためパネル部材間のみの地下水の排出となって、掘削作業が容易となり、さらに、該建設用掘削部以外の建造物等下方の地下水をも排水することがなく、よって不測の地盤沈下を防止する・・・」(段落【0004】)との記載 【作用】の項における、「掘削用チェンを回動すると、該掘削用チェンの爪部によって幅狭の溝を掘削するにつれて、地下水は側壁部の貫通孔を通って内部のウエル部へ入り、排水パイプを介してポンプにより地上へ排水される。」(同段落【0008】)との記載及び 「多数の貫通孔を有する側壁部を対峙せしめて連続壁を構築する。ついでこの連続壁内の建設用掘削部を掘削して、ここに建造物の基礎等を施工する際、ここの地下水を前記側壁部の貫通孔、及び排水パイプ等を介して地上へ排出する・・・」(段落【0009】)との記載 【実施例】の項における、「掘削用チェンCを回動させると、第1図に示す如き幅狭の溝が掘削されると同時に、前記貫通孔110側の地下水を内部のウエル部Wを介して排水パイプ2に連通されているポンプPの作動によって地上へ排出しうる。」(段落【0011】)との記載及び 「連続壁を構築して囲った内側の建設用掘削部Kを掘削する際も、該ポンプPを作動させつつなすことにより、該建設用掘削部K内に地下水は排出される・・」(段落【0012】)との記載 【発明の効果】の項における、「掘削用チェンを回動させることにより幅狭の溝を容易に掘削しえて、かつ、地下水を地上へ容易に排出でき、・・・また、この連続壁内の建設用掘削部を掘削する際も、この部分の地下水を容易に地上へ排出しうる。」(段落【0015】)との記載 (3) これに対し、引用例には「水抜きパイプ31を介して外部に排水できる」(15頁11〜12行)と記載されているのみであり、溝を掘削する際に接続壁用の壁片内に水抜きパイプを配設すること、及び溝を掘削すると同時並行的に排水ポンプに連通された該水抜きパイプによって地下水を外部に排出することについての記載はない。引用例第5図には、水抜きパイプ31が接続壁用の壁片1内に配設されているかのように図示されているが、駆動装置本体11と接続壁用の壁片1とが合体されている時(第5図の(イ)ないし(ハ))、すなわち溝を掘削している時には、駆動装置本体によって該水抜きパイプの上端は遮蔽されているから、駆動装置本体が接続用の壁片と分離された時、すなわち掘削作業が終了した後に、初めて接続用壁片の上端が解放されて水抜きパイプが排水ポンプと連通可能となることが示されているにすぎない。そうすると、引用例には、溝を掘削すると同時に水抜きパイプによって地下水を外部に排出するという技術思想は開示されていない。 引用例第5図 (4) 被告は、本願明細書の段落【0009】の記載をもって、パネル部材による溝の掘削時期と、建設用掘削部を掘削する際に生ずる地下水をウエル部及び排水パイプを介して排出する時期とは時間的ずれがあると主張する。 しかし、被告指摘の段落【0009】の記載は、建設用掘削部を掘削する際に生ずる地下水を側壁部の貫通孔及び排水パイプ等を介して地上へ排出することのみを記述しているにすぎず、この段落の前に、「幅狭の溝を掘削するにつれて、地下水は側壁部の貫通孔を通って内部のウエル部へ入り、排水パイプを介してポンプにより地上へ排水される」(段落【0008】)と記載されているから、溝を掘削する際に生ずる地下水をウエル部及び排水パイプを介して地上へ排出することが明記されている。したがって、溝の掘削時期と建設用掘削部の掘削時期とに時間的なずれがあるとしても、溝の掘削作業と地下水の排水作業との間には時間的ずれがあるとの被告の主張は誤りである。 3 取消事由3(本願発明1と引用発明aとの相違点ロについての判断の誤り) (1) 審決は、本願発明1と引用発明aとの間の相違点ロについて、「パネル部材よりなる地中壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に地下水が生ずれば、その地下水を排出するのは当該技術分野においてごく普通に行われていることであるから、 前記ロの本願発明1の構成は、前記ごく普通に行われていることをそのまま採用したにすぎないものと認められる。そして、本願発明1の作用効果は、刊行物に記載の発明、及び当該技術分野においてごく普通に行われていることから予測し得る範囲のものと認められる。」と判断したが、誤りである。 (2) 確かに、掘削工事一般の問題として、掘削時に生じた地下水を最終的に排水ポンプ等を用いて地上へ排出すること自体は行われていた。「建築の技術 施工」1988年277号に掲載された総特集「掘削工事と地下水対策」中の記事「境界離間10pの簡易連続壁工法」(小寺保郎・高木康雄著)は、名古屋市街地に位置する幅狭の場所に、地下1階地上5階の事務所建築を施工する際の地下土留め工法としてVSC工法を採用した施工記録の報告に関するものであり、その60〜63頁(甲第5号証)には、VSC工法は、施工実績も少ない新工法であること、VSC工法にはA工法とB工法という2種類の工法があること、排水についてはウエルポイント工法を採用したことが記載されている。 しかし、上記VSC工法のA工法では、掘削ケーシングを用いて規定の深度まで掘削した後、いったん、該掘削ケーシングを地中より引き抜き、掘削部に貯留した地下水を排水ポンプによって地上へ排出した後に、コンクリートを打設するものであるし、同じくB工法では、土留め構造体を用いて規定の深度まで掘削した後、いったん、チェンを切り離して駆動装置本体を土留め構造体と分離し、土留め構造体内に流入した地下水を排水ポンプによって地上へ排出した後に、コンクリートを打設するものである。要するに、当時のVSC工法では、掘削工事が終了した後に地下水の排水を行い、その後でコンクリートの打設工事を行うという、掘削・排水・打設の3ステップを経て行うものであった。 そうすると、審決における「パネル部材よりなる地中壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に地下水が生ずれば、その地下水を排出するのは当該技術分野においてごく普通に行われていることである」との認定は、VSC工法及びウエルポイント工法がそれぞれ別の工事として施工時期を異ならして行われていたものであるとの本件出願当時の技術水準についての理解を欠いたものであって、誤りである。 (3) 本願発明1は、その構成により、本願明細書に記載された「内部にウエル部を備え、建設用掘削部側の側壁部のみに貫通孔を設け、外周に掘削用チェンを配設したパネル本体に懸吊状に配設し、掘削用チェンを回動させることにより幅狭の溝を容易に掘削しえて、かつ、地下水を地上へ容易に排出でき、さらに、これによって連続壁を極めて容易に構築でき、また、この連続壁内の建設用掘削部を掘削する際も、この部分の地下水を容易に地上へ排出しうる」(平成12年3月17日付け手続補正書に添付した明細書段落【0015】)という効果を奏する。 引用発明aは、駆動装置本体に合体された接続用壁片に回動自在に案内された爪付箆型バケットによって溝部を掘削し、その後で接続用壁片を駆動装置本体から完全に切り離すことによって、初めて接続用壁片の上部が開放され、壁片内部に貯留した地下水を水抜きパイプを介して外部へ排出するものである。 これに対し、本願発明1は、前記のとおり、溝を掘削すると同時に排水ポンプに連通されている排水パイプを介して地下水を外部に排出するものであるから、引用発明aに比して、@工事作業量が少なくて済むこと、A工事期間が大幅に短縮できること、B工事費用のコストダウンを図ることができること、C掘削部付近の地下水を効率的に排出できること、D掘削効率が良いこと、E短時間で掘削できるため近傍付近の地盤沈下を防止することができることなどの顕著な効果を奏するものである。審決には、本願発明1のかかる顕著な効果を看過した誤りがある。 4 取消事由4(本願発明2と引用発明bとの相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本願発明2と引用発明bとの間の相違点(一方の側壁部のみに設けた貫通孔を、本願発明2では下側ほど多数設けていること)について、「地下水の量は地中の深い所ほど多いから、地下水の流入する貫通孔を下側ほど多数設け排水効率を良くしようとすることは、当業者が設計に際しごく普通に考えることと認められる。そして、本願発明2の作用効果は、引用例に記載の発明、及び当業者が設計に際しごく普通に考えることから予測し得る範囲のものと認められる。」と認定したが、誤りである。 一般に、地面を地下に向けて掘削する際には、地下水は掘削中の掘削箇所近傍となる側壁部の下端部のみに滲出するものではなく、既に掘削し終わった地中部分、 すなわちまだ地中に存する側壁部の周辺からも不断に滲出する。 引用例には、「駆動装置本体11を構成する鋼板3、3の何れか一方側のみで、 かつその下部付近に多数の小孔30を設ける」(15頁7〜9行)との記載があり、その第2図には小孔が壁片枠体の下端部分にのみ貫設されていることが図示されているから、引用発明bは、下端部のみに貫通孔が設けられた壁片である。そうすると、引用発明bでは、掘削済みの地中から滲出する地下水については、下端部のみに貫通孔では一対の壁片間のウエルに流入しないから、地下水を十分に排出することは困難であるし、壁片下端部分に地下水が貯留して、かえって掘削効率が下がるという問題も生ずる。 これに対し、本件特許請求の範囲請求項2には、「さらに、一方の側壁部のみに下側程多数の貫通孔を設けてなる」と記載され、その第2図は、貫通孔が側壁部の下方から上方に向けて、上方に向かう程孔の数が少なくなるように適宜貫設されていることを図示している。このことからして、本願発明2は、側壁部の下端部から滲出する地下水だけでなく、既に掘削し終わった地中部分、すなわちまだ地中に存する側壁部の周辺から不断に滲出する地下水についても、貫通孔を通じてウエル内部により多く流入するようにして、排水効率を高めることができるという顕著な効果を奏するものである。 (2) 被告は、本件特許請求の範囲請求項2は、貫通孔の配置について、「下側程多数の貫通孔を設けてなる」と記載されているだけなので、原告の主張が特許請求の範囲の記載に基づくものではないと主張する。 しかし、「下側程多数の貫通孔を設けてなる」とは、上側と対比して上側より下側の方が多数であるとの意であり、仮に上側がゼロであれば、下側ほど多数という表現はしない。したがって、本件特許請求の範囲請求項2の文言を通常の文脈で理解すれば、下側にも上側にも貫通孔は設けられていること、下側の方が上側より貫通孔の数が多いことが読み取れる。 |
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審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して 本件特許請求の範囲請求項1及び2に記載された発明が同法29条2項に当たる事由が存在する以上、本件出願の他の請求項に記載された発明について特許することができない事由が存在するか否かに関わりなく、本願を拒絶査定をすべきものである。拒絶査定不服の審判においてもこれと同じであって、本件出願の特許請求の範囲請求項1及び2に記載された発明について特許をすることができないものであるとき、本件出願の他の請求項について特許をすることができない事由の存否に関わりなく、本件出願についての拒絶査定を維持する審決をすべきである。したがって、審決が本件特許請求項3についての判断を示さなかったこと、また審理しない理由を示さなかったとしても違法ではない。 2 取消事由2に対して (1) 本件特許請求の範囲請求項1における「・・・内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に該掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を堀削する際等に生じる地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなした・・・」との記載の意味は、溝を掘削することと、該溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に生ずる地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出し得べくなしたことと解されるのであって、「かつ」の前後には読点が付されて記載が切断されているのに対し、それ以降の記載には一切読点を付すことなく連続した一文となっている。この文章構造からみて、原告主張のように、「かつ」の前の文章Aが、その後の「際」にかかって、「Aする際にCし、Bする際にCする」というように解釈することはできない。したがって、上記請求項1の記載について、溝を掘削する際に排水するという構成と解することはできず、単に、溝を掘削することしか解することはできない。 (2) 本願明細書には、「パネルの任意数を建設用掘削部を囲うべく、多数の貫通孔を有する側壁部を対峙せしめて連続壁を構築する。ついでこの連続壁内の建設用掘削部を掘削して、ここに建造物の基礎等を施工する際、ここの地下水を前記側壁部の貫通孔、及び排水パイプ等を介して地上へ排出するので、掘削作業が極めて容易であり、かつ、前記したようにパネルによってなる連続壁によって、既設の建造物のある地下の地下水の流出を止めてなすので、地盤沈下等の不具合も生じない。」(平成12年3月17日付け手続補正書に添付した明細書の段落【0009】)と記載され、この記載によれば、パネル部材による溝の掘削時期と、建設用掘削部を掘削する際に生ずる地下水をウエル部及び排水パイプを介して排出する時期とは時間的ずれがあることは明らかであるから、本願明細書の記載も、本件特許請求の範囲請求項1の記載にかかる前記(1)の事項を裏付ける。 (3) 引用例の11頁9行〜12頁9行の記載、15頁7行〜同頁14行の記載、 同じく第2、第4、第5図の記載、特に、第5図(ニ)には、埋設された土留め壁片に、水抜きパイプが備えられていることに注目しながら判断すると、引用発明aは、壁を連続させて土留め壁を構築した後、土留め壁片の内側の水を壁片内に誘導して、水抜きパイプを介して外部に排水している発明であると解するのが妥当である。 3 取消事由3に対して (1) 構築された土留め壁内は通常は建設用に掘削されるものであるが、その点が引用例中に明示されていないため、審決は、本願発明1と引用発明aを対比して、 「本願発明1が、溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に生ずる地下水を排出する」点を相違点ロとして一応認定し、 パネル部材よりなる地中壁体(引用例の「接続壁用の壁片1」がこれに相当する。)間の建設用掘削部を掘削する際等に地下水が生ずれば、その地下水を排出するのは当該技術分野においてごく普通に行われていることであると認定したまでのことである。原告も、掘削工事一般の問題として、掘削時に生じた地下水を最終的に排水ポンプ等を用いて地上へ排出すること自体は行われていたと主張するので、 原告も審決の上記認定を認めていることになる。 (2) 原告は、「建築の技術 施工」1988年277号に掲載された総特集中の記事(甲第5号証)の記載に基づき、当時のVSC工法では、掘削工事が終了した後に地下水の排水を行い、その後でコンクリートの打設工事を行うという、掘削・排水・打設の3ステップを経て行うものであったと主張する。 しかし、審決は、「建築の技術 施工」1988年277号に掲載された総特集中の記事は引用していないし、同記事中の記載は、本願発明1に直接関係するものではない。 (3) 原告は、本願発明1が溝を掘削すると同時に排水ポンプに連通されている排水パイプを介して地下水を外部に排出するものであるとの前提で、本願発明1が奏する顕著な効果を主張するが、原告の主張はその前提において誤りである。 4 取消事由4に対して (1) 引用例は、貫通孔を側壁の下端部分にのみ設ける点を開示するにとどまるものではあるが、地下水の量は地中の深い所ほど多く、地下水は下側ほど多く集まるから、地下水の流入する貫通孔を下側ほど多数設けて排水効率を良くしようとすることは、当業者が設計に際しごく普通に考えることである。引用発明bに当業者が設計に際しごく普通に考えることを適用して、本願発明2を構成することは当業者が容易に想到し得る程度のことであるし、本願発明2の作用効果についても、引用発明b及び当業者が設計に際しごく普通に考えることから予測し得る範囲のものである。 (2) 原告は、引用発明bと比較して、本願発明2は、側壁部の下端部から滲出する地下水だけでなく、既に掘削し終わった地中部分、すなわちまだ地中に存する側壁部の周辺から不断に滲出する地下水についても、貫通孔を通じてウエル内部により多く流入するようにして、排水効率を高めることができるという顕著な効果を奏するものであると主張する。 しかし、本件特許請求の範囲請求項2では、貫通孔の配置について、「下側程多数の貫通孔を設けてなる」と記載されているだけであるから、貫通孔の設けられた領域内で、上方より下方の貫通孔の数が多くなっていることを意味するだけであり、この記載から一義的に、側壁部の下側にも上側にも貫通孔が設けられていることを意味するものではない。原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づくものではない。 また、地下水の量は地中の深い所ほど多いし、地下水は下側ほど多く集まるから、地下水の流入する貫通孔を下側ほど多数設けることにより排水効率を良くしようとすることは、当業者であればごく普通に考える設計事項である。当業者が、引用発明bからごく普通に考えて設計変更して本願発明2に達することは、当業者が容易に想到し得る程度のことであり、本願発明2の作用効果についても、引用発明b及び当業者が設計の際ごく普通に考えることから予測し得る範囲のものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(特許請求の範囲請求項3の判断遺脱)について 特許法49条柱書き等、特許法全体の規定の趣旨に照らせば、特許請求の範囲請求項1ないし3に係る本願発明のうちの請求項1及び請求項2記載の各発明について特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断される以上、 これらの発明と同一出願に係る請求項3に係る本願発明が特許を受けることができるか否かに関わりなく、本件出願は一体のものとして拒絶査定が維持されるものと解される。したがって、審決が請求項3記載の本願発明について判断を示さなかった点に、原告主張の違法はない。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明aとの一致点についての認定の誤り)について (1) 甲第3号証によれば、本願明細書(平成12年3月17日付け手続補正書に添付された明細書)に次の記載があることが認められる。 【発明の詳細な説明】中の【従来の技術】の項に、「掘削時に生ずる地下水の処理については配慮されていないので、従来のこの種の水止めに用いられている矢板工法では、十分なる水止めが困難であり、よって既設の建造物等の地下水を排出してしまって、地盤沈下の原因及び矢板間の建設用掘削部の掘削時この地下水のため作業がしにくいものとなっている。」(段落【0003】)との記載。 【発明が解決しようとする課題】の項に、「そこで本発明は、上記従来技術の欠点をなくすべく、パネル内部にウエル部を設け、かつ、側壁部の一方側で建設用掘削部を掘削するべくなし、かつ、該建設用掘削部側の上記側壁部のみに下側程多数の貫通孔を配設し、さらに、該ウエル部内へ排水パイプを設け、該パネル部材外周に回動自在に案内した掘削用チェンを回動させることにより、溝掘削時及び複数のパネル部材間の建設用掘削部を掘削する際ここで生ずる地下水を、前記貫通孔及びウエル部を介して地上へ排出するので、建設用掘削部側の上記側壁部のみに貫通孔が形成されているためパネル部材間のみの地下水の排出となって、掘削作業が容易となり、さらに、該建設用掘削部以外の建造物等下方の地下水をも排水することがなく、よって不測の地盤沈下を防止することが可能なウエルを備えたパネル部材による簡易地下連続壁構築工法とこれに用いるパネル部材を提供することを目的としている。」(段落【0004】)との記載。 【発明の効果】の項に、「本発明は、内部にウエル部を備え、建設用掘削部側の側壁部のみに貫通孔を設け、外周に掘削用チェンを配設したパネル本体に懸吊状に配設し、掘削用チェンを回動させることにより幅狭の溝を容易に掘削しえて、かつ、地下水を地上へ容易に排出でき、さらに、これによって連続壁を極めて容易に構築でき、また、この連続壁内の建設用掘削部を掘削する際も、この部分の地下水を容易に地上へ排出しうる。」(段落【0015】)との記載。 (2) これらの記載によれば、従来、掘削時の水止めに用いられている矢板工法では、十分なる水止めが困難であったため、既設の建造物等の地下水を排出してしまって地盤沈下の原因となったり、矢板間の建設用掘削部の掘削時に地下水のため作業がしにくいものとなっていたことを問題点とし、この問題点を解決するために、 本願発明1では、建設用掘削部側の側壁部のみに貫通孔を設けて、建設用掘削部側の地下水をウエル部に導いて排水パイプを介して地上に排出するようにはするが、 その反対側(既設の建造物側)からの地下水を排出しないようにして、地盤沈下を発生しないようにしつつ、建設用掘削部の掘削作業をしやすくすることを目的とするものであると認められる。 (3) 甲第3号証によれば、本願明細書には、更に次の記載があることが認められる。 【実施例】の項に、「パネル部材1を貫通孔110側を建造物Tの反対側として取付孔111を、図示しない掘削機に設けられている脱着部Bに取付け、さらに外周の案内部14に案内されている掘削用チェンCを回動させると、第1図に示す如き幅狭の溝が掘削されると同時に、前記貫通孔110側の地下水を内部のウエル部Wを介して排水パイプ2に連通されているポンプPの作動によって地上へ排出しうる。」(段落【0011】)との記載及び 「さらに、前記パネル部材1の一対を第1図の如く貫通孔110側を対峙させたり、さらに、第2図の如く任意数のパネル部材1を貫通孔110側を同じく対峙面として溝内に置き掘削用チェンCを取り出し連結させて連続壁を構築して囲った内側の建設用掘削部Kを掘削する際も、該ポンプPを作動させつつなすことにより、 該建設用掘削部K内に地下水は排出されるのでベトつかず、極めて容易に掘削ができると共に、側壁部12側の地下水はこれで遮断されるから、掘削部以外の地下水を汲上げることなく、よって、地盤沈下の生じない効率の良い掘削が可能となる。」(段落【0012】)との記載。 これらの記載によれば、本願発明1の実施例では、幅狭の溝が掘削されると同時に地下水を地上に排出する工程、建設用掘削部を掘削すると同時に地下水を地上に排出する工程が予定されているものと認められる。 (4) しかしながら、このことは実施例におけるものにすぎず、本件特許請求の範囲請求項1には、「・・・建設用掘削部側の上記側壁部のみに任意数の貫通孔を設け、内部に排水パイプを配設したウエル部を有するパネル部材に該掘削用チェンを回動して地表より地下に向けて溝を掘削し、かつ、該溝内に配設した任意数のパネル部材によりなる壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に生ずる地下水を前記ウエル部及び排水パイプを介して排出しうべくなした・・・簡易地下連続壁構築工法」と記載されているのであり、この記載は、構築工法におけるどの工程で地下水が排出されるかについて明らかにするものではない。 本願明細書の【発明の詳細な説明】中の上記記載を参酌してみても、本願発明1の目的は、既設の建造物側の地下水を排出しないようにして地盤沈下を発生しないようにすること、建設用掘削部の掘削作業をしやすくすることが記載されているにすぎず、本願発明1の目的を達成する上では、溝を掘削する際に同時に地下水を排出することは直接関係するものではなく、溝の掘削と同時に地下水を排出しなくとも、建設用掘削部を掘削する際に地下水を排出することで足りるものと解される。 したがって、本願発明1においては、その特許請求の範囲において、溝を掘削する際に同時に地下水を排出するとの構成に限定されているものでなく、本願明細書の【発明の詳細な説明】を参酌してみても、このように限定されるものと認めることはできない。このような構成、すなわち、本願発明1は溝を掘削する際に同時に地下水を排出するものであるとの構成に限定されることを前提として、本願発明1と引用発明aとの一致点についての審決の認定の誤りをいう原告の主張は、理由がなく、取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(本願発明1と引用発明aとの相違点ロについての判断の誤り)について (1) 掘削工事一般において、掘削時に生じた地下水を最終的に排水ポンプ等を用いて地上へ排出することについては、本件出願前から行われていた慣用手段であることは、原告も認めている。そして、甲第6号証によれば、引用例には、「駆動装置本体11を構成する鋼板3、3の何れか一方側のみで、かつその下部付近に多数の小孔30を設けると、近接線B上又は内側近傍の水を接続壁用の壁片1内にこの水を誘導し、水抜きパイプ31を介して外部に排水できる。また近接線B外側の水は、原則として吸い込まず、地盤沈下、建物の傾き等の弊害が解消される。」(15頁7〜14行)と記載されていること、その第4図には、接続壁用の壁片1が近接線B上に置き去り式に埋設された状態が図示され、その第5図(ニ)(==========)には、接続壁用の壁片1と駆動本体11を完全に切り離して、地中の置き去りにされた接続壁用の壁片1内に水抜きパイプ31が残された状態が図示されていることが認められる。 引用例第4図 そうすると、引用例に開示された地中の置き去りにされた接続壁用の壁片1内に残された水抜きパイプ31は、その後の工程、例えば、近接線B上に置き去り式に順次埋設された接続壁用の壁片1に囲まれた区域の掘削の工程の際に発生する地下水を地上に排出することを示唆するものと認められる。 そうすると、「パネル部材よりなる地中壁体間の建設用掘削部を掘削する際等に地下水が生ずれば、その地下水を排出する」ことは、当業者であれば、引用例の記載から自明の技術的事項であったというべきである。 (2) 原告は、「建築の技術 施工」1988年277号に掲載された総特集「掘削工事と地下水対策」中の記事「境界離間10pの簡易連続壁工法」(小寺保郎・高木康雄著)(甲第5号証)の記載に基づき、当時のVSC工法では、掘削工事が終了した後に地下水の排水を行い、その後でコンクリートの打設工事を行うという、掘削・排水・打設の3ステップを経て行うものであったと主張する。 しかし、上記記事中の「境界離間10pの簡易連続壁工法」は、当時の技術水準をすべて網羅的に解説する趣旨のものではなく、専ら具体的な施工内容を報告するものであることが甲第5号証により明らかであるから、その記事内容が原告指摘のとおりであるとしても、この記事内容も、引用例が開示する技術的事項についての上記認定を左右するものでない。 原告は、本願発明1が溝を掘削すると同時に排水ポンプに連通されている排水パイプを介して地下水を外部に排出するものであることを前提に、本願発明1は、引用発明aと比較して、顕著な効果を奏すると主張するが、原告のこの主張が前提において理由のないものであることは、前判示のとおりである。 (3) 以上のところと同旨の理由に基づき、本願発明1と引用発明aとの相違点ロについてした審決の判断に、原告主張の誤りはない。 4 取消事由4(本願発明2と引用発明bとの相違点についての判断の誤り)について 原告は、引用発明bの壁片では、下端部のみに貫通孔が設けられたものであるのに対し、本件特許請求の範囲請求項2の記載及び第2図が図示するところによれば、本願発明2の側壁部では、貫通孔が下方から上方に向けて、上方に向かう程孔の数が少なくなるように適宜貫設されているものであるから、本願発明2は、側壁部の下端部から滲出する地下水だけでなく、既に掘削し終わった地中部分、すなわちまだ地中に存する側壁部の周辺から不断に滲出する地下水についても、貫通孔を通じてウエル内部により多く流入するようにして、排水効率を高めることができるという顕著な効果を奏するのに、審決は本願発明2のかかる効果を看過したと主張する。 しかし、本件特許請求の範囲請求項2の記載について、仮に原告主張のとおり、 貫通孔が側壁部の下方から上方に向けて、上方に向かう程孔の数が少なくなるように適宜貫設されている配置を意味するものと解しても、引用例の前示記載(15頁7〜14行)からすると、引用発明bの壁片には、その下端部に貫通孔を多数設けた構成が開示されている。このことからすると、貫通孔が側壁部の下方から上方に向けて、上方に向かう程孔の数が少なくなるように適宜貫設することは、掘削済みの地中から滲出する地下水は下方に流れることからみても、貫通孔の配置についての単なる設計変更というべきであって、当業者であれば容易に想到し得た事項と認められる。またそのことから奏される効果についても、当業者であれば予測することができる効果にすぎないと認められる。 したがって、本願発明2と引用発明bとの相違点についてした審決の判断に、原告主張の誤りはない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年4月16日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |