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関連審決 審判1992-18472
審判1993-1768
訂正2000-39150
関連ワード 新規性 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  手続違反 /  援用権(援用) /  構成要件 /  設定登録 /  請求の理由 /  訂正審判 /  審判の係属中 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  訂正明細書 /  申し立てない理由 /  不服申立 /  判決の拘束力 /  職権探知 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 455号 審決取消請求事件
原告 株式会社倉本産業
訴訟代理人弁護士 小坂 志磨夫
同 小池豊
同 弁理士 永井義久
被告A
訴訟代理人弁護士 武田純
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成4年審判第18472号事件について平成13年9月5日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1)被告は、名称を「転写印刷シート」とする特許第1677709号特許権(昭和59年11月30日出願、平成2年10月25日出願公告、平成4年7月13日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。原告は平成4年9月30日被告を被請求人として、特許庁に対し、本件特許について無効審判の請求をし、平成4年審判第18472号事件として審理された結果、平成13年9月5日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は同月17日原告に送達された。
(2)上記無効審判の請求から本件審決に至る手続の経緯は以下のとおりである。
平成4年9月30日 無効審判請求(平成4年審判第18472号) 平成5年2月3日 訂正審判請求(平成5年審判第1768号) 平成7年3月10日 訂正審判の審決(訂正認容) 平成7年6月28日 無効審判の審決(請求不成立)〔第1次審決〕 平成7年8月11日 第1次審決に対する審決取消訴訟提起(東京高裁平成7年(行ケ)194号) 〔第1次審決取消訴訟〕 平成9年2月13日 第1次審決取消訴訟の判決(審決取消) 平成9年2月26日 上告(最高裁平成9年(行ツ)第120号) 平成9年9月9日 上告事件判決(上告棄却) 平成12年12月8日 訂正審判の請求(訂正2000-39150号) 〔本件訂正審判〕 平成13年7月18日 本件訂正審判の審決(訂正認容) (原簿上、同年8月15日審決、同月27日確定) 平成13年9月5日無効審判の審決(請求不成立、同月17日原告に送達) 〔本件審決〕 (以下、本件訂正審判の請求に係る訂正を「本件訂正」という。) 2 本件発明の要旨(本件訂正後の特許請求の範囲第1項)「1.その上に印刷を行うための離型性を有する剥離シート(A)の離型性保有面に、配合界面活性剤の少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を用いた界面活性剤配合感圧接着剤組成物による所定のパターンの印刷層(B)を設け、次いで該印刷層(B)上に、前記と実質上同一のパターンを描くようにインクによる単色または多色の印刷層(C)を設け、さらにその印刷層(C)の上から、
前記パターンよりも広い面積を覆うための、軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理が施された透明なフィルムまたはシートからなる剥離可能な保護シート(D)を貼付設置した構成を有する転写印刷シート。」 3 本件審決の理由 本件審決の理由は、別紙審決書の理由写しのとおりである。その要点は、次のとおりである。
@ 本件特許第1677709号に係る発明(本件発明)は、平成12年12月8日にした訂正の請求(訂正2000-39150号)が認容され確定したことにより、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのもの(前記2参照)となった。
A 本件発明と審判甲第1号証(特公昭38-10663号公報)記載の発明を対比すると、両者は、
「離型性を有する剥離シート(A)の離型性保有面に、感圧接着剤組成物による所定のパターンの印刷層(B)を設け、ついで該印刷層(B)上に、前記と実質上同一のパターンを描くようにインクによる単色または多色の印刷層(C)を設け、さらにその印刷層(C)の上から、透明なフィルムまたはシートからなる剥離可能な保護シート(D)を貼付設置した構成を有する転写印刷シート。」である点で一致し、
以下の相違点aないしcで相違する。
相違点a;本件発明の「保護シートD」は、「印刷層(C)の上から、前記パターンよりも広い面積を覆うための、軽度の粘着力を有する接着剤によるコーティング処理が施された透明なフィルムまたはシートからなる剥離可能な保護シート(D)」であり、単に印刷インキを覆い保護するものであって印刷自体がなされるものではないのに対し、審判甲第1号証記載の「保護シートD」に相当する「担体シート」は「印刷インキで図がつけられ、さらに接着剤を印刷図の上だけにつけた」シートである点。
相違点b;本件発明の「剥離シート(A)」はその上に順次、接着剤、印刷インキを印刷手段で担持させるものであるのに対し、審判甲第1号証記載の「剥離シートA」に相当する「挿入用紙」は感圧接着剤を保護するために単に感圧接着剤を覆っているだけのものである点。
相違点c;本件発明の「感圧接着剤組成物による所定のパターンの印刷層B」は、「配合界面活性剤の少なくとも一部にジアルキルスルホコハク酸塩、有機ケイ素系化合物、フッ素系化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤」を含むものであるのに対し、審判甲第1号証記載の「感圧接着剤」は、「非イオン性表面活性剤1.2部と陰イオン性表面活性剤0.3部」を配合界面活性剤として含むものである点。
B 相違点aは格別の相違ではないが、本件発明は、相違点b、cに係る構成を有することにより、審判甲第1号証に記載された発明であるとも、審判甲第1、2、
6、7号証及び参考資料4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。
そして、無効請求人(原告)の、「特許請求の範囲の層構成の形成順序に関する記載は本件発明の構成ではない」旨の主張の適否について判断するまでもなく、上記相違点a、b、cは存在するものであるから、原告の主張する無効理由1(特許請求の範囲の層構成の形成順序に関する記載は本件発明の構成ではないとの前提のもとに、本件発明は審判甲第1号証に記載された発明であるから特許法29条1項3号に該当する旨の主張)は理由がなく、また、相違点b、cに係る構成を有することから、無効理由2(特許請求の範囲の層構成の形成順序に関する記載は本件発明の構成ではないとの前提のもとに、本件発明は審判甲第1号証記載の発明及び審判甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項に該当する旨の主張)及び無効理由3(層構成の形成順序が本件発明の構成の一部であるとしても、本件発明は、審判甲第6号証記載の発明、審判甲第7号証記載の発明、審判甲第1号証記載の発明及び審判甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法29条2項に該当する旨の主張)も理由がない。
C なお、当審において先にした平成7年6月28日付けの審決(第1次審決)は、「本件審判の請求は、成り立たない」旨のものであったところ、平成9年2月13日言渡しの高裁判決、平成9年9月9日言渡しの最高裁判決において、「特許庁が平成4年審判第18472号事件について平成7年6月28日にした審決を取り消す。」旨の判示がなされたが、本件発明は、訂正が認められ(訂正2000-39150号、審決日平成13年7月18日)、確定(被告への審決送達日同年8月29日)した結果、前記2に記載したとおりのものとなっている。したがって、
前記高裁判決の下記判示; 「引用例1(審判甲第1号証)には、「担体シート」、「図」、「感圧接着剤」及び「挿入用紙」を、この順序で配置した転写材料の構成が配置されていることになるが、この構成は、本願発明が要旨とする「離型シートA」、「界面活性剤を配合した接着剤組成物による印刷物B」、「インキによる印刷層C」及び「保護シートD」をこの順序で配置する構成を、反対側から表したものにほかならず、本件発明の構成と引用例1に開示されている構成とが同一であることが明らかである。
したがって、層構成の形成順序が本件発明の必須要件であることを前提として、本件発明は引用例1記載の発明であるとすることはできないとした審決の認定判断は、誤りである。」(判決の31頁11行〜32頁3行)は、当該訂正(本件訂正)によって、少なくとも相違点b、cが存在するものとなった以上、結果として本件発明の要旨の認定を誤ったものとなっているから、この判示は当審おける本件発明の無効事由の判断に対して拘束力を有するものではなくなった。
D よって、原告(無効審判請求人)の主張する理由及び証拠によっては本件特許を無効とすることはできない。
原告主張の審決取消事由
1 審決の認否 審決の理由中、「1、手続の経緯」及び「2、本件発明」の項は認める。ただし、本件訂正審判の訂正を認容した審決の送達は被告(訂正審判請求人)に対するものであり、原告は訂正がなされたことを一切知らされていなかった。原告は訂正内容につき何ら意見陳述の機会がないまま無効審判の請求不成立の本件審決を受領したものである。
「3、無効審判請求人の主張」の項は認める。ただし、原告(無効審判請求人)の主張は、訂正前の特許を対象にしたものである。
「4、甲各号証記載の発明」の項は認める。
「5、対比・判断」の項のうち、
@審決書6頁12〜32行のうち32行の「一致し」までを認め、その余を争う。A6頁末行〜7頁16行のうち、相違点a、cについては認め、bについては争う。B7頁17行〜9頁下4行のうち、7頁17〜23行を認め、その余は争う。
「6、判決について」の項のうち、第1次審決取消訴訟の判決確定後に明細書の訂正があったことは認め、その余は争う。
2 審決取消事由(手続違背) 本件審決は、無効審判係属中になされた本件訂正審判における訂正内容について、原告(無効審判請求人)に何ら告知せず、またこれに対する原告の意見を陳述する機会を一切与えないまま、本件訂正による訂正後の明細書を対象にしてなされたものであって、審決の結論に影響を及ぼすべき手続上の重大な瑕疵があるから、
違法なものとして取り消されるべきである。
(1)本件審決は、いったん請求不成立とされた審決(第1次審決)が第1次審決取消訴訟の判決において取り消され、上告も棄却されて、特許庁に差し戻された段階でなされたものである。そして差し戻された無効審判が特許庁に係属中に、本件訂正審判の請求がされ、本件訂正の認容とともに、第1次審決取消訴訟の判決の拘束力がなくなったとの理由で本件審決(無効審判請求不成立)がなされたものである。
なお、特許法は平成5年法律第26号による改正(平成6年1月1日から施行、以下「改正法」という)で、無効審判が特許庁に係属している場合は、訂正請求を行うものとし、訂正審判の請求はできないとされている(改正法126条1項)。しかし改正法附則の第2条(経過措置)6項において、改正法施行前に無効審判が特許庁に係属している場合は、従来通り、訂正審判の請求ができる旨規定されている。
本件無効審判は改正法施行前である平成4年9月に請求されている。したがって、
本件審判事件が第1次審決取消訴訟の判決確定により特許庁へ戻されて、特許庁に係属中であっても、訂正は旧法どおり訂正審判によって行われたものである。
(2) 本件は、無効審判係属中に訂正審判が請求され、認容された場合の手続に関する事案である。
訂正審判は特許権者が特許庁に請求するものであって、請求の可否は、特許庁によって判断され、無効審判のように当事者構造をとっていない。したがって訂正審判の審決は、権利者(訂正審判請求人)に送達されることによって確定するが、その確定によって、無効審判の対象も訂正後の明細書に基づく特許となる(法第128条により訂正の効力は出願まで遡る)のであるから、無効審判手続においても、訂正内容は審判請求人に通知され、それに対する審判請求人の意見を聴くべきことは当然である。
しかしながら、本件においては、特許庁は、原告(無効審判請求人)に対して訂正内容を知らせる手続をすることも訂正に対する意見を述べる機会を与えることもなく、本件訂正を認容した本件訂正審決の直後に無効審判請求不成立の審決をなしたものであって、その違法性は明白といわなければならない。
本件のごとく、特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決がされ、これにより無効審判の対象に変更が生じた場合には、従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正、補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き、審判官は、変更されたのちの審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない、と解すべきである。このことは、最高裁(1小)昭和51年5月6日判決(判例時報819号35頁)で示されているところであり、
本件審決は、既にこの点において取消しを免れない。
(3)上記最高裁判決は原審である東京高裁昭和44年9月26日判決(判例タイムズ241号113頁)の判断を維持したものであるが、無効審判請求人に意見陳述の機会を与えないことの違法性については同高裁判決に詳細判示されている。原告もその判示を援用するものであるが、本件に即して改めて主張する。
特許を無効とすることは特許庁の行政処分の1つではあるが、法は無効審判請求人対特許権者という対立構造のもとで、準司法的手続によりその成否を判断する制度を採用している。このような制度を採用する以上、審判官が司法的判断をするに当たっては、一方当事者の主張立証に対し、相手方に対し意見陳述の機会を与えなければならないことはいうまでもない。ことに本件のごとく、被請求人の訂正審判請求により、審理の対象が変更された場合は言わずもがなのことである。
特許法は無効審判請求制度に関し、次のような規定をおいている。
@無効審判請求書には審判請求の理由を記載すべきこと(131条1項) A審判長は、審判請求書を受理したときは、その副本を被請求人に送達し、 期間を指定して答弁書を提出する機会を与え(134条1項)、答弁書を受理したときは、
その副本を請求人に送達すべきこと(134条3項) B審理は原則として公開の審判廷における口頭審理によること(145条) C当事者又は参加人の申し立てない理由についても審理することができる(153条1項)が、こ場合は、その理由につき、これらの者に相当の期間を指定して意見申立ての機会を与えるべきこと(153条2項) D審判に関しては、職権で証拠調べをすることができる(150条1項)が、その場合は当事者及び参加人に通知し、相当の期間を指定して意見申立ての機会を与えるべきこと(150条5項) さらに、重要なことは、改正法では無効審判請求事件が特許庁に係属している場合は訂正審判の請求は許されず、代わりに無効審判手続の一環として訂正請求の制度が設けられたが(134条2項)、訂正明細書や図面は無効審判請求人に送達しなければならないと明記されていることである(134条3項)。明細書の訂正を無効審判手続の中で行わしめることにより、無効審判と訂正審判が特許庁に同時に係属する弊害を回避し、審理促進に資するために設けられたこの制度の趣旨は、訂正内容が無効審判請求人に告知されて意見陳述の機会を与えるべきであるという観点からは、
本件のように、旧法が適用されて無効審判と訂正審判が併存する場合においても何ら変わることがない。
以上のとおり、無効審判手続は裁判所の訴訟手続に類似したいわゆる準司法手続の性格をもつものであること、そこには手続の進行や審理の範囲等について職権主義が採用され、その限りでは民事訴訟との相違があるけれども、審理の内容については、審判官の行なう判断資料の探知は、当事者の提出によるものであれ、職権探知によるものであれ、それについて必ず関係当事者に意見陳述の機会を与えたうえでなされるべきものとする当事者対立構造、双方審尋主義が採用されていることが規定上明らかである。
このように法が無効審判の手続について当事者対立構造、双方審尋主義を採用していることからすれば、審判手続の係属中に訂正審決によつて審判の対象に変更が生じた場合には、従前なされてきた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦に何らかの修正、補充を必要とするに至るのが通常であつて、審判官は変更後の審判対象について当事者双方に意見陳述の機会を与えなければならず、原告についていえば、変更後の審判対象につき改めて無効事由の主張、立証をする機会を与えなければならないものと解すべきは当然である。
本件の場合、明細書の訂正は改正前の旧法に従って、訂正審判により行われたが、旧法の訂正請求の公告制度(旧法165条が準用する51条)や訂正異議制度(同51条が準用する55条)は適用されない。したがって、原告(無効審判請求人)は、
明細書の訂正に関し、意見陳述はおろか、明細書の訂正があった事実についてすら全く知る機会がないまま、本件審決を受領するに至ったのである。現に、本件無効審判事件においては、平成9年9月9日付けの最高裁の上告棄却判決が送達されたのを最後に、原告に対する通知などを含め何らの手続も行われないまま、無効審判不成立の本件審決が送達された。
かかる手続上の瑕疵が審決に影響を及ぼすことはいうまでもなく、本件審決はこの一点をもってして取り消されるべきである。
なお、前記東京高裁昭和44年9月26日判決は、訂正審判につき訂正請求公告、訂正異議、訂正無効審判などの諸制度が存在していた下ですら、無効審判請求人に訂正内容を告知して、意見陳述の機会を与えなければならないとしているのであって、
訂正審判につきかかる公示制度や不服申立の制度が存在しなくなった下で手続がなされる無効審判請求であってみれば、無効審判請求人に上記のような訂正内容の告知と意見陳述の機会を与えるべきことは当然である。
(4) 以上のとおり、本件審決における手続的瑕疵は明らかであるから、本件審決は取り消されるべきである。
被告の反論等
(1)本件審決に至る手続の経緯に関する原告の主張は認める。
(2)本件は、原告の引用する最高裁判決の趣旨に従えば、訂正審判の審決の後、無効審判手続において原告に意見陳述の機会を与えることが好ましいケースであったとはいえるが、意見陳述の機会を与えなかったからといって、そのことが審決の結論に影響を及ぼしたものとはいえない。無効審判の請求が成り立たないとした本件審決は、結論において正当であるから、本件審決を取り消すべき理由はない。
当裁判所の判断
(1)本件審決に至る手続の経緯 本件審決に至る手続の経緯は、前記第1の1「手続の経緯」のとおりである(争いがない。)。そして、本件訂正を認容する審決(本件訂正審決、本件特許の登録原簿上の審決日平成13年8月15日)がされ、その確定日(同原簿上の確定日同年8月27日)の直後の同年9月5日に無効審判の請求は成り立たないとする本件審決がなされたという事実経過及び弁論の全趣旨に照らすと、特許庁が、無効審判手続の中で、原告(無効審判請求人)に対し、本件訂正審決があったことを通知したり、訂正後の明細書等を送達した事実はなく、本件訂正がなされた後の特許請求の範囲に記載された発明について、無効理由を補充、修正するための意見陳述の機会を原告に与えなかったことは明らかであり、この点は、被告も争わないところである。
以上認定の手続の経緯を前提として、原告主張の取消事由につき判断する。
(2)手続違反の主張について ア 平成5年法律第26号による改正前の特許法の下においても、特許の無効審判の係属中に、当該特許につき訂正審判の審決がされ、これにより無効審判の対象に変更が生じた場合には、従前行われていた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防御について修正、補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き、審判官は、変更された後の審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならないと解される(最高裁昭和45年(行ツ)第32号昭和51年5月6日第1小法廷判決、判例時報819号35頁)。
イ 本件において、特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正を認める本件訂正審決がされて、無効審判の対象に変更が生じたこと、及び変更後の無効審判の対象について原告(無効審判請求人)に無効原因の存否等について意見陳述の機会が全く与えられなかったことは前記(1)認定のとおりであるところ、甲第1号証(審決書)によれば、本件審決は、「本件発明(本件訂正による訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明)は、上記相違点b,cに係る構成を有することにより、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1、2、6、7号証及び参考資料4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとも認めることができない。」(審決書9頁24行〜27行)、「平成9年2月13日言渡しの高裁判決において、『・・・・』と判示した点は、当該訂正によって、
上記「5、対比・判断」において示したように、少なくとも相違点b、cが存在するものとなった以上、結果として本件発明の要旨の認定を誤ったものとなっているから、この判示は当審における本件発明の無効事由の判断に対して拘束力を有するものではなくなっている。」と認定判断し、本件発明について原告(無効審判請求人)の主張する新規性及び進歩性の欠如による無効の主張を排斥したことが認められる。
本件審決の上記説示によれば、本件審決は、本件訂正により減縮された特許請求の範囲に付加された構成要件によって生じた、本件発明と審判甲第1号証記載の発明との相違点b、cを理由として、原告(無効審判請求人)が従前主張してきた無効理由を排斥し、無効審判請求は成り立たないとしたことが明らかである。
ウ そうすると、無効審判の対象の変更により、原告(無効審判請求人)において従前の無効原因の存否に関する攻撃防御に何らかの補充、変更をする必要が生じていたことは明白であって、審判合議体は、原告(無効審判請求人)に対して、変更後の審判対象につき、改めて無効理由の修正ないし補充のための主張、立証をする機会を与えなければならなかったというべきである。これを怠った本件無効審判手続には手続上の瑕疵があり、その瑕疵が審決に影響を及ぼすべき性質のものであることは明らかである。
(3) 結論 以上のとおり、本件審決は、その結論に影響を及ぼすべき手続的瑕疵があり、違法であるから、取消を免れない。よって、本件審決を取り消すこととし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利
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