関連審決 | 異議1999-74226 |
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関連ワード | 製造方法 / 容易に発明 / 一致点の認定 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 明瞭でない記載 / 援用権(援用) / 技術的意義 / 置換 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正の目的 / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / 釈明 / 独立特許要件 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
135号
特許取消決定取消請求事件
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原告 ニッポン高度紙工業株式会社 訴訟代理人弁理士 田中幹人 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 吉村宅衛、仲間晃、小林信雄、林栄二 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/05/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年異議第74226号事件について平成13年2月22日にした決定を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 本件特許第2892412号の発明(名称「電解コンデンサ用電解紙」。本件発明)は、平成2年1月26日に特許出願され、平成11年2月26日にその特許(請求項の数5)の設定登録がなされ(原告が特許権者)、その後、その全請求項について平成11年11月16日に特許異議の申立てがあり、平成12年8月28日に訂正請求があったが、平成13年2月22日、「特許第2892412号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は同年3月12日原告に送達された。 2 本件発明の要旨 (1) 訂正請求前のもの(以下、各請求項に係る発明を「訂正前発明1」などと表記する。)【請求項1】陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されて成ることを特徴とする電解コンデンサ用電解紙。 【請求項2】前記電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ,エスパルトパルプ,サイザルパルプ,木材クラフトパルプ等の天然パルプ又はこれらパルプの混抄品である請求項1記載の電解コンデンサ用電解紙。 【請求項3】前記電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ60〜40%,エスパルトパルプ40〜60%の混合材である請求項1記載の電解コンデンサ用電解紙。 【請求項4】前記電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ40〜0%,サイザルパルプ60〜100%の混合材である請求項1記載の電解コンデンサ用電解紙。 【請求項5】前記電解紙は、厚さが20〜60μm,密度が0.25〜0.70g/cm3,気密度が0.5〜20秒/100ccである請求項1,2,3,4記載の電解コンデンサ用電解紙。 (2) 訂正請求に係るもの(以下、各請求項に係る発明を「訂正発明1」などと表記する。下線が訂正部分)【請求項1】陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙はマニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合した原料を用いて少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されることにより、該電解紙のピンホールの大きさを小さく、 かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させたことを特徴とする電解コンデンサ用電解紙。 【請求項2】前記電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ60〜40%,エスパルトパルプ40〜60%の混合材である請求項1記載の電解コンデンサ用電解紙。 【請求項3】前記電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ40〜0%,サイザルパルプ60〜100%の混合材である請求項1記載の電解コンデンサ用電解紙。 【請求項4】前記電解紙は、厚さが20〜60μm,密度が0.25〜0.70g/cm3,気密度が0.5〜20秒/100ccである請求項1,2又は3記載の電解コンデンサ用電解紙。 3 決定の理由の要点 (1) 訂正請求書に対する手続補正の可否について 平成12年12月25日付け手続補正による訂正請求書の補正内容は、(1)訂正事項aについて、特許請求の範囲(特に請求項1)を「(1)陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙はマニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合し、適度のCSFの数値になるまで叩解した原料を用いて少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されることにより、紙層に形成された各ピンホールが相互に打ち消し合い、該電解紙の表面から裏面に貫通するピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させて気密度を低くしたことを特徴とする電解コンデンサ用電解紙。」と補正するものであり、また(2)訂正事項bについても同様に、「マニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合し、適度のCSFの数値になるまで叩解した原料を用いて少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、 この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されることにより、紙層に形成された各ピンホールが相互に打ち消し合い、該電解紙の表面から裏面に貫通するピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させて気密度を低くした電解コンデンサ用電解紙の構成にしてある。」と補正するものである。 しかしながら、これらの補正は訂正請求書における訂正事項の内容に更に構成を付加して特許請求の範囲を減縮するなど新たな訂正内容とするものであって、いずれも訂正請求書における訂正事項の誤記、明瞭でない記載の釈明に係る補正に当たるものではなく、訂正請求書の要旨を変更するものであるから、当該補正は認められない。 (2) 訂正の適否について(その1)<訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての判断> (2)-1 訂正の要旨 平成12年8月28日付け訂正請求に係る本件訂正の要旨は、訂正請求書に記載された訂正事項a〜cのとおりであって、その訂正内容は、訂正前発明1ないし5について、その請求項1の構成を限定するとともに請求項2を削除して請求項3ないし5を新たな請求項2ないし4とすることにより特許請求の範囲を減縮し、またこの減縮に伴う明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (2)-2 検討 以下、各訂正事項について検討する。 (i) 訂正事項aは、特許請求の範囲において、その請求項2を削除するとともに請求項1に係る構成を「マニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合した原料を用いて」及び「該電解紙のピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」と限定することにより、その特許請求の範囲を減縮するものである。 (ii) 訂正事項bないしcは、前記した構成の限定により特許請求の範囲を減縮することに伴い、明瞭でない記載の釈明を行うものである。 (iii) したがって、訂正事項a〜cに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮、及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また新規事項を追加するものではなく、さらにこれらの訂正は実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2)-3 まとめ 以上のとおりであって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合するものと認められる。 (3) 訂正の適否について(その2)<独立特許要件についての判断> (3)-1 訂正発明1ないし4 訂正発明1ないし4は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される「電解コンデンサ用電解紙」であって、前記2(2)に記載のとおりのものである。 (3)-2 引用刊行物 (2-1) 特許異議申立ての審理における訂正拒絶の理由において引用した刊行物は以下のとおりである。 刊行物1「特種製紙五十年史」(昭和51年11月21日特種製紙(株)発行)P275〜276(異議申立人特種製紙(株)が提出した異議甲第1号証及び大福製紙(株)が提出した異議甲第12号証) 刊行物2「アルミニウム乾式電解コンデンサ」(昭和58年6月15日日本蓄電器工業(株)発行)P332〜333、P340〜347(異議申立人大福製紙(株)が提出した異議甲第1号証) 刊行物3 特開昭53-142652号公報(異議申立人特種製紙(株)が提出した異議甲第4号証及び大福製紙(株)が提出した異議甲第7号証) 刊行物4 特開昭62-126622号公報(異議申立人特種製紙(株)が提出した異議甲第5号証及び大福製紙(株)が提出した異議甲第8号証) (2-2) 刊行物記載の発明 刊行物1ないし4には、いずれも電解コンデンサに用いる電解紙に係わる発明が開示されている。 そして、刊行物1(ないしは刊行物2)には、概要、次のような技術的事項が開示されている。(i)ピンホール防止のための電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層を形成し、1枚に抄き合わせる(漉き合わせで隔離紙を作る[刊行物2])二槽漉き、あるいは漉掛け法の円網抄紙機製の製品が使用される。また、刊行物3及び刊行物4には、電解紙の原材料として、マニラ麻パルプ、エスパルトパルプ、サイザルパルプ、木材クラフトパルプ等の種々の天然パルプ、またこれらを混抄したもの(混抄の割合は、適宜の数値範囲のもの)を用いること、及び電解紙の厚み(50.0μ、51.5μなど)、密度(0.440g/cm3など)の具体的数値がそれぞれ記載されている。(なお、各刊行物に係る記載事項の詳細は異議申立人両者が本件異議申立ての具体的理由で主張する内容のとおりであり、所要箇所の記載を援用する。) (3)-3 対比・判断 (3-1) 訂正発明1について(対比) 訂正発明1と刊行物1(ないしは刊行物2)に記載された発明とを対比すると、 両者は、以下のとおりの一致点及び相違点を有するものと認められる。 (一致点)「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は2つの円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を重ねて1枚に抄き合わせて形成されて成る電解コンデンサ用電解紙。」(相違点) (i) 1枚に抄き合わせて形成する際に、訂正発明1にあっては、抄紙機上で重ねているのに対して、刊行物1にあっては、この点の構成が明らかではない点。 (ii) 電解紙の原料が、訂正発明1にあっては、マニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合した原料を用いて構成されるものであるのに対し、刊行物1にあっては、この点の構成が明らかではない点。 (iii) 電解紙が、訂正発明1にあっては、ピンホールの大きさを小さく、かつ、 個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させたものであるのに対し、刊行物1にあっては、この点の構成が明らかではない点。 (検討) 以下、相違点について検討する。 相違点(i)について、通常、紙層を重ね合わせて1枚に抄き合わせる紙は、漉き網上の湿紙(紙層)を抄紙機上で重ねて形成することが通例であり、このような抄紙機上での漉き合わせは周知の技術的事項(必要であれば、異議申立人大福製紙(株)が提出した異議甲第3号証に係る「板紙の製造」P258〜259、参照)である。 そして、刊行物1(ないし2)に係る電解紙においても紙層を重ねて1枚に抄き合わせるものであって、これを前記したような抄紙機上で1枚に抄き合わせて形成する周知の技術的事項を採用して構成することができない理由は見当たらないから、 このように構成することは当業者が適宜になし得ることと認められる。 相違点(ii)について、電解コンデンサにおける電解紙の原料として、マニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合した原料を用いることは、例えば刊行物3ないし刊行物4に開示されており、このような原料による構成を採用することは当業者が適宜に定め得る技術的事項と認められる。 相違点(iii)について、電解コンデンサの電解紙に必要とされる特性ないし性能として、刊行物2には「(4)紙面に垂直な方向に、正しく分布した一定の大きさの小穴を多数有し、かつ、その穴の面積の合計が、大部分を占めること。」(333頁14〜15行)と明示されており、これは「ピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」とする構成ないし技術的事項を開示しているといえ、この相違点(iii)に係る訂正発明1の構成も電解コンデンサの電解紙に要求される特性ないし性能を規定するものであって、当業者が容易になし得ることと認められる。 また、訂正発明1により奏する作用効果も、当業者が容易に予測し得るものと認められる。 したがって、訂正発明1のように構成することは、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得ることと認められる。 (3-2) 訂正発明2ないし4について 訂正発明2ないし4は、いずれも請求項1(請求項4については、さらに2ないし3)を引用するものであって、これらの各発明は訂正発明1に、更に「電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ60〜40%、エスパルトパルプ40〜60%の混合材である」(請求項2)とする旨、「電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ40〜0%,サイザルパルプ60〜100%の混合材である」(請求項3)とする旨、「電解紙は、厚さが20〜60μm、密度が0.25〜0.70g/cm3、気密度が0.5〜20秒/100ccである」(請求項4)とする旨それぞれ規定するものであり、これら規定した構成において更に相違点を有するものと認められる。 しかしながら、これらの構成、すなわち材料の選択及び数値範囲の選定などは、 いずれも当業者が適宜に定め得る設計上の事項であり、刊行物3ないし刊行物4にそれぞれ記載されている材料の選択及び数値範囲の選定に係る技術的事項に基づいて当業者が適宜になし得ることと認められる。なお、請求項4に係る気密度について、その具体的数値を「0.5〜20秒/100cc」とすることは刊行物3ないし4に明示されているものではないが、請求項4における気密度の具体的数値が前記厚さと密度との関連性によるものであり、また従来技術における電解紙で採用される気密度の具体的数値と格別の差異があるものではないことから、この請求項4に係る気密度を具体的数値(0.5〜20秒/100cc)をもって構成することも当業者が適宜になし得るものと認められる。また、訂正発明2ないし4により奏する作用効果も、当業者が容易に予測し得るものと認められる。したがって、訂正発明2ないし4のように構成することは、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得ることと認められる。 (3)-4 まとめ 以上のとおりであって、訂正発明1ないし4は、いずれも刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、 特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものと認められる。 (4) 訂正の適否についての結論 以上のとおり、訂正事項a〜cによる訂正発明1ないし4は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。 (5) 本件特許異議の申立てについて (5)-1 異議申立ての理由の概要 本件異議の申立ては、異議申立人特種製紙(株)は異議甲第1号証ないし異議甲第6号証を提出し、同じく異議申立人大福製紙(株)は異議甲第1号証ないし異議甲第12号証及び証人尋問申請書を提出して、両者はいずれも訂正前発明1は特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものであり、また訂正前発明1ないし5はいずれも特許法第29条第2項の規定に該当するから、特許法第113条第2号の規定により、取り消すべきものである、というものである。 (5)-2 本件発明 訂正前発明1ないし5は、本件明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された前記2(1)のとおりのものである。 (5)-3 検討 訂正前発明1ないし5についての特許法第29条第2項違反について(なお、特許法第29条第1項第3号違反についての検討は、以下に検討する特許法第29条第2項違反の検討内容を援用することとし、引用刊行物とは相違点を有することから当該規定に違反するものとは認められない。) (3-1) 引用刊行物 特許異議申立ての審理における取消理由で引用した刊行物は、前記(3)-2の刊行物1ないし4である。なお、当該引用刊行物において引用する記載内容も前記(3)-2と同様であるから、前記記載を援用する。 (3-2) 対比・判断 (3-2-1) 訂正前発明1について 訂正前発明1と前記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は以下のとおりの一致点及び相違点を有するものと認められる。 (一致点)「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は2つの円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、 この紙層を重ねて1枚に抄き合わせて形成されて成る電解コンデンサ用電解紙。」(相違点) 1枚に抄き合わせて形成する際に、訂正前発明1にあっては、抄紙機上で重ねているのに対して、刊行物1にあっては、この点の構成が明らかではない点。 (検討) 以下、相違点について検討する。 通常、紙層を重ね合わせて1枚に抄き合わせる紙は、漉き網上の湿紙(紙層)を抄紙機上で重ねて形成することが通例であり、このような抄紙機上での漉き合わせは周知の技術的事項(必要であれば、異議申立人大福製紙(株)が提出した異議甲第3号証に係る「板紙の製造」P258〜259、参照)である。そして、刊行物1(ないし2)に係る電解紙においても紙層を重ねて1枚に抄き合わせるものであって、これを前記したような抄紙機上で1枚に抄き合わせて形成する周知の技術的事項を採用して構成することができない理由は見当たらない。したがって、訂正前発明1のように構成することは、刊行物1(ないし2)に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得ることと認められる。 (3-2-2) 訂正前発明2ないし5について 訂正前発明2ないし5は、いずれも請求項1(請求項5については、さらに2ないし4)を引用するものであって、これらの各発明は訂正前発明1に、さらに「電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ,エスパルトパルプ,サイザルパルプ,木材クラフトパルプ等の天然パルプ又はこれらパルプの混抄品である」(請求項2)とする旨、「電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ60〜40%、エスパルトパルプ40〜60%の混合材である」(請求項3)とする旨、「電解紙の原材料は、マニラ麻パルプ40〜0%,サイザルパルプ60〜100%の混合材である」(請求項4)とする旨、「電解紙は、厚さが20〜60μm、密度が0.25〜0.70g/cm3、気密度が0.5〜20秒/100ccである」(請求項5)とする旨それぞれ規定するものであり、これら規定した構成においてさらに相違点を有するものと認められる。 しかしながら、これらの構成、すなわち材料の選択及び数値範囲の選定などは、 いずれも当業者が適宜に定め得る設計上の事項であり、刊行物3ないし刊行物4にそれぞれ記載されている材料の選択及び数値範囲の選定に係る技術的事項に基づいて当業者が適宜になし得ることと認められる。なお、本件請求項5に係る気密度について、その具体的数値を「0.5〜20秒/100cc」とすることは刊行物3ないし4に明示されているものではないが、本件請求項5における気密度の具体的数値が前記厚さと密度との関連性によるものであり、また従来技術における電解紙で採用される気密度の具体的数値と格別の差異があるものではないことから、この請求項5に係る気密度を具体的数値(0.5〜20秒/100cc)をもって構成することも当業者が適宜になし得るものと認められる。また、請求項2ないし5に係る発明により奏する作用効果も、当業者が容易に予測し得るものと認められる。したがって、訂正前発明2ないし5のように構成することは、刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得ることと認められる。 (5)-4 特許異議申立てについてのまとめ 以上のとおりであって、訂正前発明1ないし5は、いずれも刊行物1ないし4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前発明1ないし5の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 (6) 決定のまとめ 以上のとおりであるから、訂正前発明1ないし5の特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 |
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原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(訂正の適否における一致点の認定判断の誤り) 決定は、訂正発明1と刊行物1及び2に記載された発明とを対比するに際して、 刊行物1には、2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層を形成し、1枚に抄き合わせることの事項が記載されているとの前提の下に、両発明の一致点を認定したが、そのような事項は刊行物1及び2には記載されておらず、さらに、紙層を重ねて1枚に抄き合わせることも記載されていないから、決定が前提とした上記の点は誤りである。 2 取消事由2(訂正の適否における相違点(i)ないし(iii)に関する判断の誤り) 決定は、訂正発明1と刊行物1及び刊行物2に記載された発明との対比に当たり、相違点(i)ないし(iii)の存することを認めたが、これら相違点についての判断を誤っている。そして、訂正発明2ないし4は訂正発明1を引用するものであるから、訂正発明2ないし4と前記発明との相違点でもある相違点(i)ないし(iii)の判断も誤ったものとなっている。 (1) 相違点(i)について 決定は、「相違点(i)について、通常、紙層を重ね合わせて1枚に抄き合わせる紙は、漉き網上の湿紙(紙層)を抄紙機上で重ねて形成することが通例であり、このような抄紙機上での漉き合わせは周知の技術的事項(必要であれば、異議申立人大福製紙(株)が提出した異議第3号証に係る「板紙の製造」P258〜259、参照)である。そして、刊行物1(ないし2)に係る電解紙においても紙層を重ねて1枚に抄き合わせるものであって、これを前記したような抄紙機上で1枚に抄き合わせて形成する周知の技術的事項を採用して構成することができない理由は見当たらないから、このように構成することは当業者が適宜になし得ることと認められる。」とし、抄紙機上で1枚に抄き合わせることは板紙の製造方法として周知の技術的事項であることを根拠に、相違点(i)は当業者が適宜になし得ると判断するが、誤りである。 すなわち、訂正発明1は電解紙という特殊な用途のものであり、単なる板紙の製造方法に関する技術的事項は、1枚に抄き合わせて形成する際に抄紙機上で重ねることが適宜になし得るとする根拠とはならない。 (2) 相違点(ii)について 決定は、「相違点(ii)について、電解コンデンサにおける電解紙の原料として、 マニラ麻パルプとエスパルトパルプ、又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合した原料を用いることは、例えば刊行物3ないし刊行物4に開示されており、 このような原料による構成を採用することは当業者が適宜に定め得る技術的事項と認められる。」として、相違点(ii)は当業者が適宜に定め得る技術的事項と判断するが、誤りである。 すなわち、刊行物3に記載の「エスパルトパルプとマニラ麻パルプとを混合した原料」、刊行物4に記載の「サイザルパルプとマニラ麻パルプとを混合した原料」は、いずれも一重紙に関するものであるから、二重紙以上の抄き合わせ紙の原料としてこれらを使用することは当業者といえども容易に推考し得るものではない。 被告は、これら混合したパルプを二重紙以上の抄き合わせ紙の原料として使用することも、刊行物4に「二重紙に抄造することもできる。」(3頁左下欄10〜11行)との記載があることから、当業者には当然認識されていたものといえる旨主張するが、被告の引用する記載箇所には「さらに、円網部分と長網部分を持った一つの抄紙機いわゆる長網円網コンビネーションマシンで二重紙に抄造することもできる。」(3頁左下欄9〜11行)と開示されているのであり、訂正発明1に係る「少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、」との構成とは無関係のものである。 (3) 相違点(iii)について 決定は、「相違点(iii)について、電解コンデンサの電解紙に必要とされる特性ないし性能として、刊行物2には「(4)紙面に垂直な方向に、正しく分布した一定の大きさの小穴を多数有し、かつ、その穴の面積の合計が、大部分を占めること。」(333頁14〜15行)と明示されており、これは「ピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」とする構成ないし技術的事項を開示しているといえ、この相違点(iii)に係る訂正発明1の構成も電解コンデンサの電解紙に要求される特性ないし性能を規定するものであって、 当業者が容易になし得ることと認められる。」として、相違点(iii)は当業者が容易になし得ると判断するが、誤りである。 すなわち、刊行物2に記載された「正しく分布した一定の大きさの小穴を多数有し、かつ、その穴の面積の合計が、大部分を占めること」は、「ピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」とする構成ないし技術的事項を意味しているということはできない。 |
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決定取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(一致点認定判断の誤り)に対して 刊行物1には、「二槽漉き」(276頁6行)の記載があり、これは、原料紙料を分散させた槽を2つ使用して紙を漉くことを示すものであって、2つの紙層を重ねて1枚に抄き合わせることであり、また、刊行物2には、「薄い2枚の紙を重ねると、同じ厚さ、同じ密度で1枚にすいた場合よりも大穴の存在する確率は低い。 したがって、2枚重ねて巻く方法もとれるが、すき合せで隔離紙を作る場合がある。これが多重紙である。」(347頁12〜14行)の記載があり、この「すき合せ」は2つの紙層を重ねて1枚の紙に形成することである。よって、刊行物1及び2には、紙層を重ねて1枚にすき合わせることは記載されている。さらに、通常、抄き合わせにおいて円網抄紙機を2つ以上使用することは極めてよく行われる技術であって(「平成11年11月16日付けの申立人大福製紙(株)の特許異議申立書」(乙第2号証)参照)、刊行物1には「二槽漉き、あるいは漉掛け法の円網抄紙機製の製品」(276頁6〜7行)の記載があり、刊行物2には抄紙工程に関し「すき網は、金網であって、円筒形(丸網式製紙機の場合)に作って回転させる」(345頁5〜6行)の記載があるから、刊行物1及び2には、円網抄紙機(丸網式製紙機)を少なくとも2つ以上使用して紙層を形成することが記載されているのは明らかである。 2 取消事由2(相違点(i)ないし(iii)判断の誤り)に対して 原告は、決定の、訂正発明1ないし4と刊行物1及び2に記載された発明との相違点(i)ないし(iii)の判断は誤ったものである旨主張するが、決定のした相違点(i)ないし(iii)に関する判断に誤りはない。 (1) 相違点(i)について 決定の判断は、紙層を重ね合わせて1枚に抄き合わせる紙は漉き網上の湿紙(紙層)を抄紙機上で重ねて形成することが、周知の技術的事項であることを根拠にするものであって、相違点(i)の判断に関して決定がした判断に原告主張の誤りはない。 (2) 相違点(ii)について 一重紙あるいは二重紙などの多重紙に関わりなく、刊行物3及び4には、電解紙の原料として、マニラ麻パルプとエスパルトパルプ又はマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合した原料が開示されていることに変わりはなく、また、これら原料を、刊行物1及び2の原料として使用することを妨げる事情もない。さらに、これらを混合したパルプを二重紙以上のすき合わせ紙の原料として使用することも、 刊行物4に「二重紙に抄造することもできる。」(3頁左下欄10〜11行)との記載があることから、当業者には当然認識されていたものといえる。 (3) 相違点(iii)について 刊行物2に記載された「一定の大きさの小穴」は「ピンホールの大きさを小さく」と同一の構成を異なる表現で記載しているものであり、また同じく「小穴を多数有し」は「個数を多くする」と、さらに「正しく分布した」は「ピンホールを均一に分散させた」と、それぞれ同一の構成を異なる表現で記載しているものであるから、刊行物2には「ピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」点についても開示されており、また、刊行物2には「その構造は、ちょうど蜂の巣を穴方向に直角に輪切りにしたようなものになるであろう。」(333頁26〜27行)と記載されており、これは「ピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」構成を具体的に表現するものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定判断の誤り)について (1) 決定は、訂正発明1と刊行物1(ないしは刊行物2)に記載された発明とは、「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は2つの円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を重ねて1枚に抄き合わせて形成されて成る電解コンデンサ用電解紙。」との点で一致すると認定している。 決定は、この認定判断に当たって「刊行物1(ないしは刊行物2)には、概要、 次のような技術的事項が開示されている。(i)ピンホール防止のための電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層を形成し、1枚に抄き合わせる(漉き合わせで隔離紙を作る[刊行物2])二槽漉き、あるいは漉掛け法の円網抄紙機製の製品が使用される。」と認定し、刊行物2に記載の技術的事項として、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層を形成していることを認定している。そして、訂正発明1については、その要旨からして、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成されることを構成要件の一部としているものである。 したがって、決定の認定した上記一致点は、「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を重ねて1枚に抄き合わせて形成されて成る電解コンデンサ用電解紙。」を意味するものと理解することができ、このことを前提にして、一致点の認定に原告主張の誤りが存するか否かを以下に検討する。 (2) 甲第2号証によれば、刊行物2に以下の記載があることが認められる。 イ.「現在のところ、隔離紙の利用が最も安定であり、コストも小さいので、ほとんどすべての電解液陰極電解コンデンサには隔離紙が使用されているのである。 この隔離紙を要約して示せば次のとおりである。 「電解コンデンサの陽極と陰極との間に介在し、駆動用電解液を十分な量保持すると共に両極の短絡を防止する目的で使用される紙」」(332頁下から7〜2行) ロ.「6・2・1 隔離紙に必要な性能・・・。 (3)駆動用電解液に対する濡れ性が良いこと。 このことは、電解液の含浸を容易とし、かつ、含浸後の保持を良くするために必要な条件である。」(333頁1〜14行) ハ.「〔3〕多重紙 紙にはすきむらがある。つまり、大きな穴がところどころにある。これはもちろん危険である。大きな穴のあるところで、バリで短絡が生ずるかもしれないし、また、その穴のところに大電流が流れて、そこだけ過熱が生ずるかもしれない(・・・)。薄い2枚の紙を重ねると、同じ厚さ、同じ密度で1枚にすいた場合よりも大穴の存在する確率は低い。したがって、2枚重ねて巻く方法もとれるが、すき合せで隔離紙を作る場合がある。これが多重紙である。重ねて巻くより多重紙のほうが、巻上げ寸法も小さくなり、巻取りも楽にできるのでよい。多重紙は、同一厚さ、同一密度の一枚紙より事故率が低く、若干高い電圧に使用できる。」(347頁8〜17行) このイ及びロの記載によると、陽極と陰極との間に介在させて電解液を含浸させる電解コンデンサ用隔離紙が把握され、ここにおける陽極及び陰極が、共に箔のものとして理解されることは技術常識から明らかであって、刊行物2には、陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用隔離紙、すなわち、電解コンデンサ用電解紙が記載されているものと認められる。さらに、ハの記載が該電解コンデンサ用電解紙に関する記載であることは明らかであって、この記載によると、抄き合わせによって上記電解コンデンサ用電解紙を形成することが記載されているものと理解することができる。 (3) 乙第2号証によれば、「平成11年11月16日付けの申立人大福製紙(株)の特許異議申立書」添付の「板紙の製造」(昭和48年3月31日、(株)紙業タイムス社発行)258〜259頁に、以下の記載のあることが認められる。 「抄合わせの方法 いままで述べてきた単葉紙匹構成法を整理してみると、次のようになる。 (1)円網を使用する方法(2)長網を使用する方法(3)インバーフォーム方式(4)バーチフォーマ方式(5)その他 抄合わせの方法は、これら単葉紙匹構成法を任意に組み合わせることによって、 いくつでも考えられる。しかし実際上は技術的・経済的条件から、採用され得る方法に限度がある。 多円網抄紙機 もっとも多く使用されているのが、数筒の円網を組み合わせた、いわゆる多円網抄紙機である。 各構成単位は、順流、逆流、そして改良されたバットなどが目的に応じて使用される。 各単位で構成された紙匹は、クーチロールがピックアップフェルトを各円網に押しつけることによって重ね合わされてゆく(第13・16図)。したがって、抄き合わされた紙匹の一方の面はフェルトに接した面であり、他の面はワイヤーの面である。 製品の品質からワイヤーの面の出ることを嫌う場合には、第13・17図に示すような抄合わせ方法がとられることもある。 長網と円網との組合わせ 円網のもつ長所を生かし、その欠陥を補なう意味で、表層に使用される円網を長網に替えることがしばしば行なわれている。とくに表層の滑かさが問題になる場合が多い。 多円網と長網との抄合わせ方法に2通りの方法が多用されている。 その一つの第13・18図のように、長網部で構成された紙匹をピックアップフェルトに付着させ、フェルトを円網部に移行してゆく。いわば第13・16図における最初の円網が長網に置換されたと同等の抄合わせ方法である。 そしてもう一つは、第13・19図にみられるように、円網部で構成された紙匹がトランスファフェルトによって長網上に運ばれ、長網上で抄合わせが行なわれる方法である。 長網の組合わせ 2つ以上の長網を組み合わせる方法としては、第13・19図の円網部を長網に置きかえたものと考えられる、」(258頁下から11行〜259頁末行) (4) これらの記載及びそこにおける第13・16図ないし第13・21図によると、抄き合わせて紙を形成する技術として、多円網抄紙機によるもの、長網と円網との組合せによるもの、及び長網の組合せによるものなどのあることが、そして、 これらのうちで、多円網抄紙機によるものが最も多く使用されていることが理解されるのであり、また、多円網抄紙機によるものと比較して多くは使用されていない長網と円網との組合せによるものであっても、多円網と長網との組合せによるものが多用されているものと認めることができる。そして、多円網抄紙機によるものとは、その説明に用いられている第13・16図及び第13・17図から明らかなように、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を重ねて1枚に抄き合わせて紙を形成することであり、また、多円網と長網との組合せによるものとは、その説明に用いられている第13・18図及び第13・19図から明らかなように、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を重ねて1枚に抄き合わせて紙を形成することである。してみると、当業者は、抄き合わせて紙を形成する技術といえば、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いることと理解することが、本件出願前に、普通のことであったと認められる。 刊行物2には、陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙が記載され、該電解コンデンサ用電解紙は抄き合わせによって形成されることが記載されていること(前記(2))に合わせ、上記の点に照らすと、刊行物2には、陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は少なくとも「2つ以上の円網型抄紙網を用いて」紙層が形成され、かつ、この「紙層を重ねて1枚に抄き合わせて」形成されて成る電解コンデンサ用電解紙が実質的に記載されていると認めることができる。したがって、このように形成されて成る電解コンデンサ用電解紙であることをもって、訂正発明1と刊行物2記載の発明は一致するとした決定の認定に、原告主張の誤りはない。 上記多円網抄紙機によるもの及び長網と円網との組合せによるものについてみると、1枚に抄き合わせてする紙の形成(紙層の重ね)を、上記の第13・16図及び第13・18図においては抄紙機を構成する円網上で行い、第13・19図においては抄紙機を構成する長網上で行い、第13・17図においては抄紙機を構成するピックアップフェルト間で行っているものと認められる。そうすると、当業者は、抄き合わせて紙を形成する技術といえば、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層を形成し、かつ、この紙層を「抄紙機上で」重ねて1枚に形成するものであると理解するのが、本件出願当時普通のことであったと認めることができる。 結局、刊行物2には、「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されて成る電解コンデンサ用電解紙。」(この構成に係る電解紙を、以下「引用電解紙」と表記する。)が、実質的に記載されているものと認めることができる。したがって、訂正発明1と刊行物2に記載の発明との間においてした決定の一致点の認定に原告主張の誤りはなく、取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点(i)ないし(iii)判断の誤り)について (1) 相違点(i)に関する判断について 決定は、訂正発明1と刊行物1及び2に記載された発明との間に、1枚に抄き合わせて形成する際に、訂正発明1にあっては、抄紙機上で重ねているのに対して、 刊行物1及び2に記載された発明にあっては、この点の構成が明らかではないという相違点(i)が存すると認定している。しかしながら、前記1(4)のとおり、刊行物2には引用電解紙の構成が実質的に記載されているのであり、このことからすると、そもそも、訂正発明1と刊行物1及び2に記載された発明との間に、決定認定の相違点(i)は存しないことになる。 この点において既に、相違点(i)に関する判断に誤りがあるとする原告の主張は、 決定の結論に影響しないものであって、理由がないことに帰する。 (2) 相違点(ii)に関する判断について (2)-1 甲第2号証によれば、刊行物2に以下の記載のあることが認められる。 「6・2・3 隔離紙の材料、種類、規格、試験 電解コンデンサ用隔離紙を製造するための材料は主として植物繊維であるが、最近、合成樹脂の繊維も注目されるようになってきた。 多量に使用されているのは、クラフトとマニラ麻である。 ・・・。 クラフトというのはパルプの製造法の名称であって、種々の原木が使用できる・・・。 マニラ麻はこの点、繊維の形状がクラフトよりやや円に近くて電流通路が短くなるため、抵抗値を小さくするという利点がある(・・・)が、高価である。 クラフトとマニラ麻を混抄することも盛んに行われている。 ・・・。 6・2・4 隔離紙の製造工程 隔離紙を使いこなすうえで、また隔離紙を発注するうえで、電解コンデンサの研究者は、その製造工程を知っている必要があろう。 植物の繊維は互いに固くついていて幹や茎をなしている。紙をすくには繊維が一本一本ばらばらになっていなくてはならないので、すく前にばらばらにしてやらなくてはならない。その第一段階をパルプ化工程と呼ぶのである。パルプを作るのには、作る紙の使用目的によって種々の方法があるが、ここでは、クラフトおよびマニラ麻のパルプ化工程について述べる。」(340頁10行〜341頁末行) この記載によると、電解コンデンサ用隔離紙、すなわち、電解コンデンサ用電解紙の原料としてクラフトパルプあるいはマニラ麻パルプが多く使用され、また、これらパルプを混合したものが使用されるものであることが認められ、刊行物2には、異なる材質のパルプを混合したものも、上記原料として使用できることが示唆されているものである。したがって、刊行物2に開示されている引用電解紙において、その原料として、異なる材質のパルプを混合したものを採用し得ることが、刊行物2に示唆されているというべきである。 (2)-2 甲第3及び第4号証によれば、刊行物3及び4に以下の記載のあることが認められる。 「2.特許請求の範囲 断面径が小さく、且つ断面形状が円形に近いエスパルトパルプにマニラ麻パルプ又はマニラ麻パルプ以外の他のパルプを95%以下の割合にて配合した混抄紙であることを特徴とする電解コンデンサ紙。 3.発明の詳細な説明 本発明は電解コンデンサのセパレータとして使用されている電解コンデンサ紙の特性を飛躍的に向上させた全く新しい電解コンデンサ紙に関するものである。 一般的にいって、電解コンデンサ紙は、2枚のアルミニウムやタンタルなどの弁作用金属箔の間にセパレータとして使用されているものである。電解コンデンサ紙とこれら金属箔とを巻回してコンデンサ素子を構成し、このコンデンサ素子に電解液を含侵させ、これをケース内に封入して電解コンデンサが構成される。」(刊行物3の1頁左下欄4行〜右下欄2行)「2.特許請求の範囲 陽極箔と陰極箔との間に電解紙を介在して成る電解コンデンサにおいて、前記電解紙は原料として少なくとも10%以上のサイザルパルプを使用して抄造されていることを特徴とする電解コンデンサ。 3.発明の詳細な説明 産業上の利用分野 本発明は陽極箔と陰極箔との間に電解質を含侵した電解紙を介在させて構成した電解コンデンサに係り、」(刊行物4の1頁左下欄4行〜下から7行)「サイザルパルプは原料の少なくとも10%以上使用する必要があり、10%以上であれば割合はサイザルパルプ100%のものまで適宜選択すればよい。サイザルパルプを10%以上使用すればその効果を発揮することができるが、好ましくはサイザルパルプ略50%以上のものが効果が大きい。サイザルパルプと混合するパルプは格段の限定はなく、従来の木材クラフトパルプ、マニラ麻パルプ、エスパルトパルプ及びこれらを混合したもの等の何れであってもよい。」(刊行物4の3頁左下欄下から9行〜右下欄1行及び表2(同4頁左下欄)) (2)-3 これらの記載によると、刊行物3には、陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙を構成する原料として、マニラ麻パルプとエスパルトパルプとを混合したものを用いることが、また、刊行物4には、同じく電解コンデンサ用電解紙を構成する原料としてマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合したものを用いることが、それぞれ記載されているものと認められる。 そして、刊行物2には、上記(2)-1のとおり、引用電解紙に異なる材質のパルプを混合したものを原料として採用可能なことが示唆されているのであるから、刊行物3及び4にそれぞれ記載されている混合したものを、引用電解紙の原料として採用することは容易になし得るものというべきであって、これと同旨の決定の判断に、原告主張の誤りはない。 (2)-4 原告は、刊行物3に記載の「エスパルトパルプとマニラ麻パルプとを混合した原料」、刊行物4に記載の「サイザルパルプとマニラ麻パルプとを混合した原料」は、いずれも一重紙に関するものであるから、二重紙以上の抄き合わせ紙の原料としてこれらを使用することは当業者といえども容易に推考し得るものではない、と主張する。 しかしながら、仮に、刊行物3に記載のマニラ麻パルプとエスパルトパルプとを混合したもの、及び刊行物4に記載のマニラ麻パルプとサイザル麻パルプとを混合したものを原料とした電解コンデンサ用電解紙が一重紙であったとしても、これら混合したものを引用電解紙の原料として採用することができないとすべき事情を認めるべき証拠はない。 (3) 相違点(iii)に関する判断について (3)-1 刊行物2には1の(2)のとおりイないしハの記載があって引用電解紙が記載されているものと認められるが、さらに、そこにおけるハの記載によると、1枚に抄いた紙、すなわち、抄き合わせで形成しない一重紙には所々に大きな穴があって、抄き合わせで形成すると大きな穴の存在する確率は低くなることを推認することができる。このことは、穴、すなわち、ピンホールの大きさが小さくなることを意味し、また、所々に大きなピンホールがある一重紙というと、そのピンホールのある部分にピンホールが局在していることを意味し、これが小さくなるということはその局在の程度が小さくなることであって、このことは、ピンホールを均一に分散させたことと技術的に同義である。 このことに、前記1において判断したところ及び上記(1)、(2)において判断したところを合わせると、刊行物2には、引用電解紙において、ピンホールの大きさを小さく、かつ、ピンホールを均一に分散させたもの、すなわち、「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、 該電解紙は少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されることにより、該電解紙のピンホールの大きさを小さく、かつ、ピンホールを均一に分散させた電解コンデンサ用電解紙。」が、実質的に記載されているものというべきである。 (3)-2 ところで、訂正発明1は、「ピンホールの大きさを小さく、かつ、個数を多くするとともに、ピンホールを均一に分散させた」と規定されているものである。 そして、甲第7号証によれば、本件訂正明細書に以下の記載のあることが認められる。 「作用 上記手段によれば、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて形成された個々の紙層には従来の円網一重紙と同様に円網抄紙機特有のピンホールが形成されているが、少なくとも2枚以上の紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせるため、紙層に形成された各ピンホールが相互に打ち消し合い、得られた円網二重紙の表面から裏面に貫通するピンホールの大きさが小さくなるとともにピンホールが均一に分散することとなる。 このように電解紙に形成されるピンホールが小さくなると、この紙を用いて製造した電解コンデンサのショート不良率を格段に減少させることができる上、ピンホールが均一に分散して、紙の地合いが均質となるためESRも改善することができる。」(4頁下から10行〜5頁1行)「本発明にかかる電解コンデンサ用電解紙を製作する際に、一方の円網シリンダを用いて例えば20μmの厚さの湿紙を造ると、この湿紙には円網抄紙機特有のピンホールが形成されているが、このような二枚の湿紙を重ね合わせるとピンホールが相互に打ち消し合い、得られた円網二重紙の表面から裏面に貫通するピンホールの大きさが小さくなるとともにピンホールが均一に分散することとなる。 このように電解紙に形成されるピンホールが小さくなると、この紙を用いて製造した電解コンデンサのショート不良率を格段に減少させることができる上、ピンホールが均一に分散して、紙の地合いが均質となるためESRも改善することができるという特徴が発揮される。」(6頁9〜18行)「発明の効果 以上詳細に説明した如く、本発明は電解コンデンサを構成する電解紙が少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層が抄紙機上で重ねて1枚の抄き合わせて形成されているので、以下に記す作用効果が得られる。 即ち、少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて形成された個々の紙層には従来の円網一重紙と同様に円網抄紙機特有のピンホールが形成されているが、少なくとも2枚以上の紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせるため、紙層に形成された各ピンホールが相互に打ち消し合い、得られた円網二重紙の表面から裏面に貫通するピンホールの大きさが小さくなるとともにピンホールが均一に分散することとなる。 このように電解紙に形成されるピンホールが小さくなると、この紙を用いて製造した電解コンデンサのショート不良率を格段に減少させることができる上、ピンホールが均一に分散して、紙の地合いが均質となるためESRも改善することができる。 そのため、従来困難とされていたショート不良率とインピーダンス特性の双方の改善を同時に実現することができるという効果が発揮される。」(9頁下から5行〜10頁12行) (3)-3 これらの記載によると、本件訂正明細書にあっては、ピンホールの大きさが小さくなるとともにピンホールが均一に分散することにより、ショート不良率とインピーダンス特性(ESR)の双方が改善することを、本件に係る発明の作用及びその効果の記載を通じて開示しているものと認めることができる。 そして、甲第7号証及び第10号証によれば、訂正発明1を規定する「ピンホールの個数を多くすること」に関して本件訂正明細書及び図面に記載があるのは、次の部分にあると認められる。 「第1図は本発明にかかる電解コンデンサ用電解紙(表1の実施例1-A),即ち円網二重紙の透光型顕微鏡写真(倍率:10倍)であり、第2図は従来の電解コンデンサ用電解紙(表1の従来例1-A),即ち円網一重紙の透光型顕微鏡写真(倍率:10倍)である。また、第3図は上記第1図,第2図で観察された各顕微鏡写真のピンホール部分を大蔵省印刷局発行の狭雑物測定図表を用いてピンホールの面積及び個数(5mm×5mm中)を計測したグラフである。 従来例である第2図のピンホールに比して、本発明にかかる電解紙である第1図のピンホールの方が小さく、かつ、全体的にピンホールが均一に分散していることが観察される。また、第3図に示すグラフによれば従来例よりも本実施例の方がピンホールの個数が多く、かつ、1個当りの面積が小さい方向に分布していることが見られる。このグラフからも本実施例は1個当りの面積が小さいピンホールが全体に均一に分散していることが判る。」(全文訂正明細書6頁下から11行〜7頁2行及び表1並びに第1〜第3図) (3)-4 これらの記載によれば、訂正発明1を規定する「ピンホールの個数を多くすること」の本件訂正明細書及び図面上の裏付けとなっているのは、二重紙と一重紙である点、すなわち、抄き合わせて形成したものと抄き合わせずに形成した点でのみ相違する、実施例1-Aと従来例1-Aについてピンホールの個数を計測した結果を示す第3図に示すグラフであるということになる。このグラフからは、実施例1-Aの方が従来例1-Aよりピンホールの個数の多いことが認められるが、 前記指摘の訂正明細書の記載によれば、個数の測定条件としては、「5mm×5mm」という極めて狭い領域において測定したものにすぎない。 ところで、紙層にあるピンホールは抄き合わせることにより、一方の紙層にあるピンホールが他方の紙層のピンホールの無い部分と重なり合うことで、抄き合わせ後の紙面全体としてはピンホールが少なくなると考えるのが自然である。これとは逆にピンホールの個数が多くなるというのは技術常識と相容れず、上記の実施例1-Aの方が個数が多いとの結果は特別な場合に得られたものであると想像されるのであって、このことは、個数の測定条件として「5mm×5mm」という極めて狭い領域において測定したこととも符合する。さきの説示のように、本件訂正明細書にあっては、ピンホールの大きさが小さくなるとともにピンホールが均一に分散することにより、ショート不良率とインピーダンス特性(ESR)の双方が改善することを、本件発明の作用機構及びその効果の記載を通じて開示している一方、ピンホールの個数を多くすることをもって、ショート不良率とインピーダンス特性(ESR)の双方の改善の根拠としていないことにも照らせば、訂正発明1を規定する「ピンホールの個数を多くすること」とは、単に、前記説示のような特別な場合において得られた結果を請求項1に記述した程度の技術的意義しかないものと認めざるを得ない。 刊行物2には、前記1で示したように、「陽極箔と陰極箔との間に介在させて所定の電解液を含浸させる電解コンデンサ用電解紙であって、該電解紙は少なくとも2つ以上の円網型抄紙網を用いて紙層が形成され、かつ、この紙層を抄紙機上で重ねて1枚に抄き合わせて形成されることにより、該電解紙のピンホールの大きさを小さく、かつ、ピンホールを均一に分散させた電解コンデンサ用電解紙。」が実質的に記載されており、このような電解コンデンサ用電解紙においても、特別な場合、例えば、本件訂正明細書にあるような上記「5mm×5mm」というごく限られた範囲で測定した場合に、抄き合わせずに形成した点でのみ相違しているものと比較して、ピンホールの個数が多くなることもあり得ることが推認されざるを得ないのであって、結局、刊行物2には「ピンホールの個数を多くすること」も、実質的に記載されているものというべきである。 してみると、決定が認定した相違点(iii)はそもそも相違点ではないというべきであるから、この相違点に関する誤りをいう原告の主張は、決定の結論に影響するものではなく、理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。 (平成14年4月23日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 古城春実 |