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関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  相当の対価(相当な対価) /  協議 /  公知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術的範囲 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  特許出願日 /  出願経過 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  実施料 /  実施許諾(実施の許諾) /  対価 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 12号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(第1審原告) 株式会社ダイワ
訴訟代理人弁護士 辰巳和正
補佐人弁理士 安倍逸郎
被控訴人(第1審被告) 富士車輌販売株式会社
訴訟代理人弁護士 阪口春男
同 岩井泉
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2002/05/15
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,4000万円及びこれに対する平成12年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言[以下,「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」及び「第4 当裁判所の判断」の部分は,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」,「第3 争点に関する当事者の主張」及び「第4 争点に対する判断」の部分を付加訂正した。ゴシック体太字の部分が,当審において,内容的に付加訂正を加えた主要な箇所である。それ以外の字句の訂正,部分的削除等については,特に指摘していない。]
事案の概要
本件は,「廃棄物運搬車」の特許発明の特許権者である控訴人が,被控訴人に対し,被控訴人及び第1審相被告富士車輌株式会社(以下「富士車輌」という。
なお,富士車輌に対する訴えは原審係属中に取り下げられた。)の製造,販売に係る廃棄物運搬車が同特許発明技術的範囲に属し,これを製造,販売することは控訴人の上記特許権を侵害すると主張して,損害賠償を請求した事案である。
原判決は,上記廃棄物運搬車は上記特許発明技術的範囲に属さないとして控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴を提起した。
1 前提となる事実(認定根拠を示さない事実は争いがない。) (1) 控訴人は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許発明を「本件発明」という。)を有している。
なお,本件特許権は,株式会社東光(以下「東光」という。)の特許出願によるものであり,控訴人は,その後,東光から本件特許権を譲り受け,平成11年5月19日にその旨の登録を経由した。
ア 発明の名称 廃棄物運搬車 イ 特許番号 第2761584号 ウ 出 願 日 平成6年10月28日(特願平6-289270号) エ 公 開 日 平成8年5月21日(特開平8-127283号) オ 登 録 日 平成10年3月27日 カ 特許請求の範囲は,原判決添付別紙特許公報該当欄記載のとおり(以下「本件公報」という。)。
(2) 本件発明の構成要件は,次のとおり分説するのが相当である(弁論の全趣旨)。
【請求項1】 A 走行可能な車両に搭載され,後部を中心として傾動可能に搭載された廃棄物回収用の回転ドラムと,該回転ドラムを支持する傾動フレームの後上部に軸着されて回動し,前記回転ドラムの後部の開口部を覆う蓋体とを有する廃棄物運搬車において, B 前記回転ドラムの後部には,クラッシャが該回転ドラムと分離して設けられ,該クラッシャによって破砕された廃棄物を前記回転ドラムに収納すると共に, C 前記蓋体の内側には,前記傾動フレームの上部に軸着され,油圧シリンダーによって傾動する回動フレームが設けられ, D 該回動フレームに前記クラッシャが搭載されている E ことを特徴とする廃棄物運搬車。
【請求項2】 F 前記回転ドラムの内側には,前記破砕された廃棄物を搬送するスクリュー羽根が設けられている G 請求項1記載の廃棄物運搬車。
【請求項3】 H 前記蓋体の中央には,前記クラッシャに廃棄物を投入する投入口が設けられ, I 該投入口の下部には開閉するガイドバーが設けられている J 請求項1又は2に記載の廃棄物運搬車。
【請求項4】 K 前記投入口の上部には,シート状のカバーが垂下状態で設けられている L 請求項3記載の廃棄物運搬車。
(3) 本件発明の目的及び作用効果は次のとおりである。
ア 埋め立て処分する産業廃棄物は,形状が小さいものでないと廃棄処理できないようになっている。
従来は,大きい形状の産業廃棄物を含む場合,トラック等で一度クラッシャのある場所まで運んで細かく破砕し,その後焼却処理をし,又は直接埋め立て処分場に運び埋め立て処分を行っていたが,手間や運送費用がかさむという問題があった。本件発明は,このような事情に鑑みなされたもので,産業廃棄物等を投入するだけで,細かく破砕されて回転ドラム内に収納され,そのまま焼却処理又は埋め立て処分ができる廃棄物運搬車を提供することを目的とする。
イ 本件発明(請求項1)の廃棄物運搬車は,回転ドラムの後部にクラッシャが該回転ドラムと分離して設けられ,該クラッシャによって破砕された廃棄物を前記回転ドラムに収納するように構成されている。
そして,蓋体の内側には,傾動フレームの上部に軸着され,油圧シリンダーによって傾動する回動フレームが設けられ,該回動フレームに前記クラッシャが搭載されているので,油圧シリンダーのロッドを更に押し出して回動フレームを傾動させることにより,クラッシャも傾動されて,収納した廃棄物を排出することができる。
(4) 被控訴人は,原判決添付別紙被告物件目録記載1のクラッシングロータリープレス,同目録記載2のチッピングロータリープレス・4トン,同目録記載3のニューチッピングロータリープレス・試作車,同目録記載4のニューチッピングロータリープレス・量産車を販売している(甲9〜11,弁論の全趣旨。以下,これらの廃棄物運搬車を併せて「被控訴人物件」という。)。
(5) 被控訴人物件は,原判決添付別紙被告物件目録添付の各説明図によれば,少なくとも次の構成を有しており,本件発明の構成要件A,B及びEを備えている(乙5の2〜5,弁論の全趣旨)。
ア 走行可能な車両に搭載され,後部を中心として傾動可能に搭載された廃棄物回収用回転ドラムと,該回転ドラムを支持する傾動フレーム3の後上部に軸着されて回動し,前記回転ドラムの後部の開口部を覆う蓋体10とを有し,該蓋体10は柱状縦横フレーム5(6),本体板(板材)7及び化粧板9(ただし,ニューチッピングロータリープレス・試作車及び同・量産車は,蓋体10に化粧板を設けていない。原判決添付別紙被告物件目録添付「ニューチッピングロータリープレス・量産車」の説明図で「9」と指示されている部分は,ゴム製カバーである。)からなる廃棄物運搬車である。
イ 前記回転ドラムの後部には,クラッシャ24が該回転ドラムと分離して設けられ,該クラッシャ24によって破砕された廃棄物を前記回転ドラムに収納するとともに,前記柱状縦横フレーム5(6)に前記クラッシャ24が搭載されている。
(6) 廃棄物運搬車に関するその余の事情 ア 被控訴人,富士車輌,東光及び株式会社不二精機製造所(以下「不二精機」という。)は,平成7年6月14日,破砕機付収集車(二軸破砕機を搭載したロータリープレス型ごみ収集車。以下「収集車」という。)についての事業化を推進する目的で,基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した。本件基本契約においては,契約当事者の役割分担として,@東光は,収集車のアイデア提供者として,収集車の販売活動にかかわる情報提供を行い,A不二精機は,収集車に搭載する二軸破砕機の製作等を行い,B富士車輌は,収集車を製作するとともに,不二精機製作の二軸破砕機を収集車に架装し,収集車の販売活動にかかわる情報提供をも行い,C被控訴人は,富士車輌と一体となって収集車の販売活動に従事するものとされていた(第5条)。また,収集車の販売契約が成立した場合には,不二精機及び富士車輌は,東光の前記役割分担に基づくアイデア及び業務の提供に対して,東光に別途協議して定める相当の対価を支払うこととされた(第6条)。(甲6) イ 被控訴人及び富士車輌は,平成8年3月15日,東光との間で,本件基本契約に基づき,東光によるアイデア及び業務の提供に対する対価として,被控訴人及び不二精機を含めた収集車の販売台数の合計が20台達成までは,1台当たり50万円を支払う旨の内容を含む覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。(甲7) ウ 被控訴人及び富士車輌は,平成8年3月15日から平成11年6月13日までの間に,収集車5台を販売し,これに伴い,本件基本契約及び本件覚書に基づいて,東光に対し,1台当たり50万円,合計250万円を支払った。
エ 本件基本契約の契約期間は,平成9年6月14日に2年間延長されたが,平成11年6月13日に同契約期間が満了となった。
2 争点 (1) 被控訴人物件は,構成要件C,Dの「回動フレーム」を備えているか。
(2) 損害の発生及び額
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被控訴人物件は,構成要件C,Dの「回動フレーム」を備えているか。)について 〔控訴人の主張〕 (1)ア 被控訴人物件の本体板(板材)7が構成要件Aの「蓋体」に該当し,柱状縦横フレーム5(6)が構成要件C,Dの「回動フレーム」に該当すると解すべきである。
本件発明においては,「回動フレーム」が「蓋体」の内側に設けられているのに対し,被控訴人物件においては,「回動フレーム」に相当する柱状縦横フレーム5(6)と「蓋体」に相当する本体板(板材)7とが一体化した構造となっており,そこにクラッシャが搭載されている。しかし,構成要件C,Dの「回動フレーム」と,被控訴人物件の本体板(板材)7とが一体化した柱状縦横フレーム5(6)は,作用効果が同一であり,実質的に同一であるとみることができる。
被控訴人は,本件発明の「回動フレーム」は,蓋体とは別体でその内側に設けられた独立の構成要素であると解すべきであると主張するが,本件発明は,構造部材としての「回動フレーム」にクラッシャを搭載した点に特許性を有するのであり,「回動フレーム」が蓋体と別体である必要はない。被控訴人物件は,車体後部に設置された柱縦横フレーム5(6)にクラッシャが搭載されているから,柱縦横フレーム5(6)が蓋体を構成する一部であるとしても,本件発明の「回動フレーム」に当たる。
よって,被控訴人物件は,構成要件C,Dの「回動フレーム」を備えている。
イ 当審における補足主張 被控訴人は,被控訴人物件の特定において,被控訴人物件に「蓋体10にクラッシャ4が直接搭載されている」と主張するが,問題は,蓋体10のどの部分にクラッシャ4が搭載されているかであり,蓋体10のうちの回動するフレーム部分に搭載されているのである。
クラッシャは,試作機に取り付けた物で830sもの重量があり,破砕能力によっては1000sを超える重量となるため,これを車体に取り付けるためには,車体の後部側に830sないし1000sの重量に耐えられる強度を有するフレームを設置し,このフレームに取り付けることが必要となる。甲15は,平成7年3月30日に富士車輌から控訴人とクラッシャのメーカーである不二精機宛にファックスされた図面であるが,蓋体を構成するフレームにクラッシャが取り付けられていたことを裏付けるものである。
また,開閉のために回動する蓋体の一部を構成するフレームが,回動するという点で,「回動フレーム」であることはいうまでもない。
したがって,被控訴人物件は,蓋体を構成する上端が回動自在に指示された柱状縦フレームと,該柱状縦フレームに横架された柱状横フレームとで構成された「回動フレーム」にクラッシャが搭載されているのであり,本件発明の構成要件Dを満たすものといえる。
(2) 本件基本契約及び本件覚書が締結された際,被控訴人及び富士車輌は,東光から出願中の本件発明の具体的内容の告知を受けた上で,収集車の販売1台当たり50万円の支払を合意したのであるから,東光との間の金銭支払の合意は,実質的には本件発明の実施許諾に対する対価の支払を約したものと評価でき,実施料として合計250万円が東光に支払われてきたものである。しかるに,本件基本契約の期間満了に際し,被控訴人及び富士車輌は,「チッピングロータリープレス車」との商品名の廃棄物運搬車は本件発明の技術的範囲に属さないとの見解を示したので,控訴人との間で実施契約が締結されないまま現在に至っているのである。
(3) 被控訴人の出願経過及び公知技術参酌の主張に対し,次のとおり反論する。
ア 被控訴人は,特開平8-113307号公開特許公報(乙1の1。以下「乙1の1公報」という。)に基づく拒絶理由通知を受けて,東光が本件発明の特許請求の範囲を補正して現明細書のとおりとなったとの出願経過参酌して,本件発明の技術的範囲を限定して解釈すべきであると主張する。
しかし,乙1の1公報の発明は,富士車輌により,本件発明に関する特許を受ける権利冒認して出願されたものであるから,本件発明の特許出願に対する先願としての地位を生じない。したがって,乙1の1公報を引用例とした上記拒絶理由自体が成立しないものであり,その結果,本件発明は,特許出願時の明細書の特許請求の範囲に記載された状態で特許されたと解することもでき,出願経過参酌して技術的範囲を解釈する被控訴人の主張は許されない。
イ 被控訴人は,本件発明の先行技術文献として,乙1の1公報,特開昭63-208405号公開特許公報(乙4。以下「乙4公報」という。)を挙げて,クラッシャを「回動フレーム」ではなく,蓋体に直接取り付けた廃棄物運搬車は,本件発明の技術的範囲から積極的に排除されるべきであると主張する。
しかし,乙1の1公報記載の発明は,本件発明の出願時に公知ではないし,乙4公報には,後扉の内側に破砕装置を取り付けた塵芥収集車が記載されているにすぎず,破砕装置の支持強度に問題があるものである。
したがって,上記公知技術を基にした被控訴人の主張は理由がない。
〔被控訴人の主張〕 (1)ア 本件発明においては,蓋体の内側に「回動フレーム」が設けられ,かつ該「回動フレーム」が蓋体とは別体にして単独で傾動可能な構成であることは明らかである。
被控訴人物件は,回転ドラムの後部の開口部を覆う蓋体10は存在するが,構成要件Cの「回動フレーム」に相当する部材は存在しない。
控訴人は,柱状縦横フレーム5(6)が「回動フレーム」に該当すると主張するが,柱状縦横フレーム5(6)は蓋体10の一構成部材にすぎず,「回動フレーム」に該当しないことは明らかである。
また,被控訴人物件は,上記のとおり「回動フレーム」自体が存在しないため,「回動フレーム」にクラッシャが搭載されているとの構成要件Dも備えていない。被控訴人物件は,蓋体に直接クラッシャが搭載されているものである。
イ 当審における補足主張 被控訴人物件においては,蓋体10は,傾動フレーム3の後上部の左右位置に抽着されて回動する柱状縦フレーム5,5と,該柱状縦フレーム5,5に横架された柱状横フレーム6と,柱状縦横フレーム5,6間に取り付けられた本体板7と,該本体板7の内面から張り出す遮蔽板8と,更に被控訴人物件のうち,クラッシングロータリープレス及びチッピングロータリープレスにおいては,蓋体10柱状縦横フレームにまたがって取り付けられた化粧板9とが一体となって構成されているものである。しかも,クラッシャ24は,前記蓋体10を構成する柱状縦横フレーム5,6,すなわち蓋体10に一体的に取り付けられているものであって,決して蓋体10と別体ではない。被控訴人物件においては,蓋体以外に「回動フレーム」は存在せず,本件発明の構成要件C,Dの「回動フレーム」は蓋体と一体となったものを含まないから,被控訴人物件は,いずれも本件発明の技術的範囲に属さない。
(2) 構成要件C,Dの「回動フレーム」は,次の理由からも広く解釈すべきではなく,蓋体とは全く別体にしてその内側に設けられた独立の構成要素であると解釈されるべきである。
ア 本件発明の出願経過参酌について (ア) 本件発明に係る出願当初の明細書によれば,特許請求の範囲は,次のとおりとされていた。
a 【請求項1】 走行可能な車両に搭載され,後部を中心として傾動可能に搭載された廃棄物回収用の回転ドラムと,該回転ドラムを支持する傾動フレームの後上部に軸着されて回動し,前記回転ドラムの後部の開口部を覆う蓋体とを有する廃棄物運搬車において,前記回転ドラムの後部には,クラッシャが該回転ドラムと分離して設けられ,該クラッシャによって破砕された廃棄物を前記回転ドラムに収納することを特徴とする廃棄物運搬車。
b 【請求項2】 前記蓋体の内側には,前記傾動フレームの上部に軸着され,油圧シリンダーによって傾動する回動フレームが設けられ(本件発明の構成要件Cに相当する。),該回動フレームに前記クラッシャが搭載されている(本件発明の構成要件Dに相当する。)請求項1記載の廃棄物運搬車。
(イ) 上記出願に対し,特許庁審査官により,請求項1記載の特許発明は,本件特許出願より先願である乙1の1公報に記載の特許発明,すなわち,回転ドラムの後部の開口部を覆う蓋体に直接クラッシャを取り付けた発明と同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない旨の平成9年8月5日付の拒絶理由通知がされた(乙2)。
(ウ) 出願人である東光は,上記拒絶理由通知を受けて,当初出願の特許請求の範囲の請求項1を削除し,請求項2に係る発明を請求項1とし,その他の請求項も請求項1に従属する形にする平成9年10月6日付補正書を提出し(乙3),その結果,平成10年1月27日に特許査定を受けた。
(エ) したがって,本件発明は,上記構成要件C及びDを限定的に付加することにより特許が付与された経緯を参酌すると,同構成要件C及びDが本件発明の本質的部分であり,同構成要件C及びDに係る「回動フレーム」を広く解釈すべきではない。
公知技術文献の参酌 (ア) 乙1の1公報は,本件発明の特許出願日前である平成6年10月18日の出願に係り,本件特許出願後である平成8年5月7日に公開されたものであるが,同公報には,本件発明の構成要件A,B(ただし,クラッシャは一軸式)と同一の技術が記載されている。また,本件特許出願前である昭和63年8月29日に発行された乙4公報には,本件発明の構成要件A,B(ただし,クラッシャは二軸式)と同一の技術が開示されている。乙1の1公報記載の発明と乙4公報記載の発明との相違点は,粉砕機(クラッシャ)が一軸式か二軸式かという点であり,「貯留ドラム・集塵収容箱(回転ドラムに相当)の後部開口部を覆う後扉(蓋体に相当)に粉砕機(クラッシャに相当)を取り付ける」ということは,乙1の1公報記載の発明と乙4公報記載の発明とで異なるところはなく,この構成自体は本件発明の特許出願時には公知であった。
(イ) 上記公知文献を参酌すると,本件発明においては,「蓋体の内側に,該蓋体とは別体の回動フレームを設けるとともに,クラッシャを蓋体ではなく,回動フレームに搭載する」ことのみが新規な構成であり,クラッシャを「回動フレーム」でなく,蓋体に直接取り付けた廃棄物運搬車は,本件発明の技術的範囲から排除されるべきである。
(3) なお,控訴人は,本件覚書によって1台当たり50万円の支払が合意されたことについて,それは本件発明の実施許諾による実施料の趣旨であると主張するが,上記金銭支払の合意は,基本契約第5条記載のとおり,東光のアイデアの提供,すなわち東光が被控訴人及び富士車輌の顧客の立場からそのニーズを伝えたことに対するものであり,実施料の趣旨ではない。
2 争点(2)(損害の発生及び額)について 〔控訴人の主張〕 被控訴人及び富士車輌は,平成11年5月19日から現在までに,被控訴人物件を少なくとも40台製造,販売し,1台当たり200万円,合計8000万円の純利益を得ているから,控訴人が被控訴人物件の販売行為により被った損害は8000万円と推定される。
控訴人は,被控訴人に対し,上記8000万円の損害のうち,4000万円及びこれに対する本件訴状送達日の翌日である平成12年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
〔被控訴人の主張〕 控訴人の主張事実は争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(被控訴人物件は,構成要件C,Dの「回動フレーム」を備えているか。)について (1) 控訴人は,構成要件C,Dの「回動フレーム」は蓋体と一体となったものを含むと主張し,一方,被控訴人は,同「回動フレーム」は蓋体とは別体のものに限られると主張する。
ア そこで,まず,本件発明の【特許請求の範囲】の記載から検討するに,@「蓋体」は「傾動フレームの後上部に軸着されて回動」する(構成要件A)のに対し,「回動フレーム」は「傾動フレームの上部に軸着され,油圧シリンダーによって傾動」する(構成要件C)とされており,両者の位置及び動きについて,「蓋体」については「傾動フレームの後上部」,「回動」,回動フレームについては「傾動フレームの上部」,「傾動」という異なる語が用いられていること,また,A構成要件Cにおいて,「蓋体の内側には,・・・回動フレームが設けられ」るとされていることからすれば,「蓋体」及び「回動フレーム」は一体の物ではなく別体であり,「回動フレーム」は,「蓋体」の内側に位置し,この「蓋体」とは別体の「回動フレーム」にクラッシャが搭載されると解するのが,文言上自然な解釈である。
イ また,【発明の詳細な説明】の【実施例】の項には次の記載がある。
(ア) 「蓋体」の支持方法について,「蓋体20の上部両側には連結部82が設けられており,その連結部82が,両側の前記垂直支持部48の外側上部に取付けられている固定ブラケット84に設けられているピン85に連結されている。」(本件公報6欄6〜10行)とされ,その作動機構について,「それぞれの固定ブラケット84の外側には油圧シリンダー86が取付けられ,油圧シリンダー86のロッド88の先端は,それぞれの連結部82の下側に設けられている連結突起90に回動自在に軸着されている。そして,それぞれの油圧シリンダー86のロッド88を押し出すことにより,蓋体20がピン85を中心に傾動するようになっている。」(6欄10〜16行)とされている。
一方,「回動フレーム」の支持方法については,「前記回動フレーム22は,両側の前記垂直支持部48の上部に設けられたピン92に回動自在に連結されている。」(6欄17〜19行)とされ,その作動機構については,「両側の垂直部93の後側上部に固着された上部水平部94の両側には,垂直支持部48の中程にヘッド側が軸着された油圧シリンダー96のロッド98の先端が軸着されている。そして,油圧シリンダー96のロッド98を押し出すことにより,回動フレーム22がピン92を中心に傾動するようになっている。」(6欄19〜24行)とされている。
上記実施例の記載は,「蓋体」と「回動フレーム」について,連結されるピン及び作動に用いるシリンダーがそれぞれ別異に構成されていることを示している。
(イ) さらに,廃棄物運搬車を埋め立て廃棄場所まで移動して廃棄物を排出する際には,「油圧シリンダー86を作動させて蓋体20を傾動させ,……傾動フレーム16と共に回転ドラム14及びボディー58を後部側に傾動させ(図5参照),更に,油圧シリンダー96を作動させて回動フレーム22及びクラッシャ24を傾動させて回転ドラム14を逆回転させて回転ドラム14に溜まっている破砕された廃棄物を開口部18から排出する。」(6欄48行〜7欄6行)とされ,排出が完了した後の作動について,「回転ドラム14の回転を止め,油圧シリンダー96を逆方向に作動させて回動フレーム22を最初の位置に戻し,油圧シリンダー54を逆方向に作動させて傾動フレーム16及び回転ドラム14を最初の位置に戻す。更に,油圧シリンダー86を逆方向に作動させて,蓋体20を最初の位置に戻す。」(7欄7〜12行)とされ,「蓋体」と「回動フレーム」とは別異に作動させることを示している。
しかも,図1,図3及び図5においては,「蓋体」と「回動フレーム」がそれぞれ別異に回動ないし傾動している状態が示されている。
(ウ) そうすると,【発明の詳細な説明】の【実施例】の項においても,「蓋体」と「回動フレーム」とは支持方法,作動機構が別異に構成され,別異に作動させる技術が示されているということができ,それは前記アの【特許請求の範囲】の記載から文言上導かれる解釈を裏付けるものである。
これに対し,【発明の詳細な説明】の項には,控訴人が主張するような「蓋体」と「回動フレーム」が一体となった構成を含むことに言及し,又はこれを示唆するような記載は見当たらない。
(エ) 控訴人は,クラッシャは,試作機に取り付けた物で830sもの重量があり,破砕能力によっては1000sを超える重量となるため,これを車体に取り付けるためには,車体の後部側に830sないし1000sの重量に耐えられる強度を有するフレームを設置し,このフレームに取り付けることが必要となると主張するが,本件明細書を子細に検討しても,クラッシャーの支持強度について言及又は示唆するような記載は見当たらず,本件発明がクラッシャの支持強度を増すことを課題として考慮しているとは考えられない。
また,控訴人は,平成7年3月30日に富士車輌から控訴人とクラッシャのメーカーである不二精機宛にファックスされた図面である甲15が,蓋体を構成するフレームにクラッシャが取り付けられていたことを裏付けるものであるとするが,甲15の図面が作成された経緯は証拠上明確でなく,これが被控訴人物件の図面であることを認めるに足りる証拠もない。
したがって,前記控訴人の主張は,いずれも採用することができない。
ウ 以上によれば,構成要件C,Dの「回動フレーム」は,「蓋体」と別体のもので,「蓋体」の内側,すなわち回転ドラム側に位置し,その「回動フレーム」にクラッシャが搭載されるものと解すべきである。
エ なお,本件発明の出願過程において,拒絶理由通知を受けて,出願人である東光が特許請求の範囲を補正して現明細書のとおりとなったとの被控訴人の主張に対し,控訴人は,同拒絶理由で先願の発明として引用された乙1の1公報記載の発明は富士車輌が冒認出願したものであるから,拒絶理由自体が成り立たず,その結果,本件発明は特許出願時の明細書の特許請求の範囲に記載された状態で特許されたと解すべきであるとの主張をする。
しかしながら,仮に拒絶理由の引用例とされた発明について控訴人主張のような冒認出願という事情があったとしても,拒絶理由通知を受けて出願人が明細書の補正をした以上,その効果は出願時に遡り,本件発明の技術的範囲は,補正された明細書の特許請求の範囲に基づいて定めるべきである。控訴人が主張するような事情の有無は,本件発明の構成要件の解釈に何ら影響を与えるものではない。
(2) 前記第2の1(5)ア,イのとおり,被控訴人物件においては,クラッシャ24は柱状縦横フレーム5(6)に搭載されているが,この柱状縦横フレーム5(6)は,本体板(板材)7とともに一体となって蓋体10を形成しており,蓋体10と,クラッシャ24が搭載される柱状縦横フレーム5(6)は別体ではない。
そうすると,被控訴人物件は,「蓋体」と別体であるところの「回動フレーム」(構成要件C)を備えておらず,また,構成要件Dの,クラッシャが「回動フレーム」に搭載されるとの構成も備えていないというべきである。
したがって,被控訴人物件は,本件発明の請求項1の技術的範囲に属さず,また請求項1を引用する請求項2ないし4の技術的範囲にも属さない。
(3) なお,控訴人は,本件基本契約及び本件覚書による金銭支払の合意は,実質的には本件発明の実施許諾に対する対価の支払を約したものと評価でき,被控訴人ないし富士車輌は実施料として合計250万円を東光に支払ってきたとの事実を主張する(控訴人の主張は,被控訴人物件のうち「チッピングロータリープレス車」との商品名のもの以外は,被控訴人ないし富士車輌において本件発明の技術的範囲に属することを前提に東光に実施料を支払ってきたということを,事情として述べる趣旨であると解される。)。
しかし,控訴人の本件請求は,契約関係に基づくものではなく,特許権侵害を理由とするものであるから,前記(2)のとおり,被控訴人物件が本件発明の技術的範囲に属さない以上,控訴人主張のような事実が仮に認められるとしても,被控訴人物件の販売が控訴人の有する本件特許権を侵害するかどうかの判断を左右するものでないことは明らかである(もっとも,甲6,7の記載内容からすれば,本件基本契約及び本件覚書に基づく金銭支払の合意が本件発明の実施許諾対価の趣旨であったとは認め難い。)。
2 したがって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がない。
結論
以上の次第で,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
(平成14年3月13日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 西井和徒