審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ネ3208補償金請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成16ネ2790損害賠償等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成15ワ29080補償金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ネ35職務発明の対価請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ14399職務発明対価請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 冒認出願(冒認) / 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 職務発明 / 業務範囲 / 現在または過去の職務(現在又は過去の職務) / 無償の通常実施権 / 相当の対価(相当な対価) / 自然法則 / 確実性 / 技術的思想 / 有用性 / 創作性(創作) / 新規性 / 共同発明 / 進歩性(29条2項) / 公知技術 / 出願公開 / 同一の発明 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 技術的特徴 / パリ条約 / 権利移転 / 着想 / 契約の成否 / ライセンス / 抵触 / 存続期間 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 侵害するおそれ / 算定方法 / 実施能力 / 生産能力 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 同意 / 実施権 / 専用実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 設定登録 / 法定実施権 / 法定実施権 / 対価 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
12699号
売買代金等請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 山本健司 同 奥田孝雄 被告 株式会社三徳 被告B 被告ら訴訟代理人弁護士 池田裕彦 同 野上昌樹 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/05/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告株式会社三徳は、特許庁に対し、別紙発明目録記載の発明に係る特許出願の願書に記載された発明者が原告である旨の補正手続をせよ。 2 原告と被告Bとの間において、原告が別紙発明目録記載の発明の発明者であることを確認する。 3 被告株式会社三徳は、原告に対し、金200万円及びこれに対する平成11年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告の被告株式会社三徳に対するその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は、原告に生じた費用の10分の1と被告Bに生じた費用を被告Bの負担とし、原告に生じた費用の10分の2と被告株式会社三徳に生じた費用の10分の2を被告株式会社三徳の負担とし、その余は原告の負担とする。 6 この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 主文第1項と同じ。 2 主文第2項と同じ。 3 被告株式会社三徳は、原告に対し、金3000万円及び平成11年12月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、原告が、@「希土類-鉄系合金からの有用元素の回収方法」の特許発明の出願人である被告株式会社三徳に対し、同発明の発明者は原告であると主張し、人格権(発明者名誉権)に基づく妨害排除請求又は名誉侵害行為に基づく名誉回復措置(民法723条)として、その特許出願の願書に記載された発明者が原告である旨の補正手続を求めるとともに、同出願において発明者とされている被告Bに対し、同発明の発明者が原告であることの確認を求め、A被告株式会社三徳に対し、主位的に、同特許を受ける権利の譲渡契約の対価、又は請負契約(業務委託契約)の報酬として、予備的に、特許法35条3項の類推適用による対価請求として、3000万円の支払を求めている事案である。 1 争いのない事実等(証拠の掲記のないものは当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。) (1) 希土類(希土類元素)とは、周期表3族のうちスカンジウムとイットリウムにランタノイドを加えた17元素の総称であり(広辞苑〔第五版〕)、磁石材料のほか、水素吸蔵合金、光磁気記録材料、超伝導材料等、種々の分野に応用されている(乙11)。なお、以下の化学反応式においては、希土類元素を「R」と表記する。 (2)ア 被告株式会社三徳(旧商号・三徳金属工業株式会社。以下「被告三徳」という。)は、金属・合金等の製造を目的とする会社で、主に、磁石製造メーカーに対する磁石素材としての希土類の精製・販売を業としている。 イ 日徳工業株式会社(以下「日徳工業」という。)は、被告三徳と日新化成株式会社(以下「日新化成」という。)とが共同出資して設立した会社であり、 現在、発行済み株式の40%を被告三徳が、60%を日新化成が保有しており、工場の敷地建物は所有者の日新化成から賃借している(甲10、乙9)。そして、日徳工業は、被告三徳が磁石製造メーカーより引き取った磁石の粉末(一般に「スラッジ」と呼ばれる磁石の成形過程で生ずる削りカス)の供給を受け、これを処理して、磁石素材の基となる希土類を酸化物及びフッ化物として回収し、被告三徳に納品すること、すなわち希土類のリサイクルを業としており、希土類のリサイクルの技術は被告三徳から全面的に供与を受けている(乙9)。 ウ 原告は、昭和37年4月から平成6年3月まで被告三徳に勤務し(平成3年4月から平成6年3月までは日徳工業の取締役・工場長を兼任していた。)、 その後平成9年8月まで日徳工業の取締役・工場長を務め、その後平成11年3月まで日徳工業の技術顧問としての地位に就いていたが、その間、一貫して技術生産管理の分野を担当していた(甲7)。 エ 被告Bは、昭和30年4月に被告三徳に入社し、昭和56年5月から同社の取締役を務め(平成3年4月から平成6年6月までは日徳工業の代表取締役を兼任していた。)、平成6年6月から同社の常勤顧問特許室担当となり、平成10年4月から同社の非常勤顧問を務めているが、その間、主に希土類金属の研究等に従事していた(乙4、9)。 (3) 被告三徳は、別紙発明目録記載の発明について、発明者を被告Bとして同目録記載のとおり、平成8年2月13日に特許出願をし(以下、この発明を「本件発明」といい、請求項1ないし3の各発明のみを呼称する場合は「本件発明1」…「本件発明3」という。また、本件発明に係る特開平9-217132号公開特許公報を「本件公開公報」という。)、同出願は平成9年8月19日に公開された。 本件発明の特許請求の範囲は、本判決末尾添付の本件公開公報の該当欄記載のとおりであり、これを構成要件に分説すると次のとおりとなる。 ア 【請求項1】 A コバルトを含む希土類-鉄系合金のスラリーに、 B 空気を流通させながら、 C 濃硝酸:水を体積比で1:1以上に希釈した硝酸希釈溶液を添加して D pH5以上に保持し、 E 希土類金属とコバルトとを含む金属を50℃以下の温度で溶解させて希土類含有硝酸塩溶液とし、 F 該希土類含有硝酸塩溶液を、鉄を含む不溶解元素化合物と濾別分離することを特徴とする G 希土類-鉄系合金からの希土類元素及びコバルトの回収方法。 イ 【請求項2】 H 請求項1記載の回収方法で濾別分離した希土類含有硝酸塩溶液に、 I フッ素化合物を添加して希土類フッ化物を沈澱させ、 J 残存するコバルト含有硝酸塩溶液と濾別分離することを特徴とする希土類-鉄系合金からの希土類元素及びコバルトの回収方法。 ウ 【請求項3】 K 請求項1記載の回収方法で濾別分離した希土類含有硝酸塩溶液に、 L 蓚酸及び/又は蓚酸アンモニウムを添加して希土類蓚酸塩を沈澱させ、 M 残存するコバルト含有蓚酸塩溶液と濾別分離することを特徴とする希土類-鉄系合金からの希土類元素及びコバルトの回収方法。 (4) なお、本件発明の特許出願前の公知技術の一つとして、住友金属鉱山株式会社(以下「住友金属鉱山」という。)出願に係る次の発明がある(乙2。以下「乙2発明」といい、その特許公報を「乙2公報」という。)。 ア 発明の名称 希土類元素の回収方法 イ 出願日 平成3年5月17日(特願平3-141190号) ウ 公開日 平成5年11月2日(特開平5-287405号) エ 公告日 平成7年8月2日(特公平7-72312号) オ その特許請求の範囲を構成要件に分説すると次のとおりとなる。 A' 希土類元素と、希土類元素以外の元素からなる合金や混合物のスラリーを、 B' 酸化剤の存在下、 C' pH3〜5に酸で維持して希土類元素を選択的に浸出し、 D' 得られた希土類元素を含む浸出液に炭酸アルカリ或は炭酸水素アルカリを添加し、 E' 希土類元素を水に難溶性の塩として分離する F' 希土類元素の回収方法。 2 争点 【本案前の争点】 (1) 請求第1、2項に係る訴えの適法性-発明者名誉権に基づく差止請求は認められるか 【本案に関する争点】 (2) 本件発明の発明者 (3) 名誉毀損の成否 (4) 金銭請求(請求第3項)に係る主位的請求原因(ア及びイは選択的主張) ア 本件特許を受ける権利の譲渡契約の成否及びその対価の額 イ 請負契約(業務委託契約)の成否及びその報酬の額 (5) 金銭請求(請求第3項)に係る予備的請求原因 特許法35条3項の類推適用による対価請求の可否及びその対価の額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(請求第1、2項に係る訴えの適法性-発明者名誉権に基づく差止請求は認められるか)について 〔被告らの主張〕 原告は、本件発明の発明者は原告であると主張し、人格権(発明者名誉権)に基づく妨害排除請求に基づく名誉回復措置(民法723条)として、請求第1、 2項に係る訴えを提起するが、請求第1、2項に係る訴えは、以下の理由により不適法な訴えとして却下されるべきである(なお、被告らは、名誉侵害行為に基づく名誉回復措置を請求原因とする訴えについても不適法として却下を求めるが、被告らの同主張は不法行為(名誉毀損行為)の存否という本案の主張と解されるので、 この主張部分は争点(3)に記載する。)。 (1) 原告は、請求第1、2項に係る訴えの根拠として工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約(以下「パリ条約」という。)4条の3「発明者は、特許証に発明者として掲載される権利を有する。」との規定を挙げる。しかし、特許法26条を介して同条約が直接適用されるとしても、特許法上、 発明者が国に対して「特許証に発明者として掲載される権利」を有していることを示すものにすぎず、発明者が国以外の第三者に対して具体的な請求を求めることの根拠とはなり得ない。国以外の第三者に対して具体的な請求を行うことが可能となるためには、著作者人格権のように実体法上明確に権利の内容が規定される必要がある。 (2) また、原告が請求第1、2項に係る訴えの根拠とする人格権としての発明者名誉権は、第三者に対して具体的請求を行うことができるような特定の内容をもった具体的権利ではない。特許法上、発明者の記載は特許出願の要件とされているが(特許法36条1項2号)、特許法123条は発明者の誤記を無効事由とはしていない。この意味で、発明者名誉権が存在するとしても実定法上は、「発明者であることを主張できるという積極的なものではなく、特許証に表示され、名誉をたたえられるという受動的なもの」としての範囲で認められるものにすぎない。 (3) したがって、人格権としての発明者名誉権による差止請求権は認められないものであり、発明者名誉権に基づいて、被告三徳に対し本件特許出願の願書に記載された発明者が原告である旨の補正手続を求める請求第1項の訴え、及び、同出願において発明者とされている被告Bに対し本件発明の発明者が原告であるという過去の一定の事実関係の確認を求める請求第2項の訴えは、いずれも不適法というべきである。 〔原告の主張〕 (1) 発明は創作行為であり、発明を完成させた者は人格権の一種である発明者名誉権を原始的に取得する。かかる発明者名誉権は、願書、特許公報、特許証等に発明者としての氏名を掲載されることによって顕在化するが、その存在は特許法において当然の前提とされていることは明らかであり、出願前であっても侵害の対象となり得る。 また、発明者が発明者名誉権を有していることは、発明者掲載権を規定したパリ条約4条の3の規定からも明らかである。 (2) 発明者名誉権は人格権の一種であるから、発明者名誉権が侵害された場合には、人格権に基づく妨害排除請求が認められる。すなわち、人格権を侵害する加害行為が継続している場合、そうした加害行為を将来に向かって消滅させるための差止請求等は、直接の明文の規定がなくても認められるべきである。発明者名誉権、特に本件で侵害されている発明者として氏名を掲載する権利は、対世的・排他的な性格を有する権利ないし法益である点で、明文の規定がある権利(著作者人格権・商号権等)と変わりがないし、侵害行為が継続される限り何度も金銭賠償請求を繰り返さなければならないという不都合を回避すべきことからも妨害排除請求を認める必要性が存するからである。 そして、かかる妨害排除請求の内容は、侵害行為の態様により様々なものが認められる。 (3) 本件発明は、原告が発明者であるにもかかわらず、被告Bが発明者であると願書に記載されて特許庁に申請されたものであり、かかる申請行為は、願書に発明者として記載されるという原告の発明者名誉権を侵害するものといえ、原告は、 発明者の記載を原告に訂正することを求めることができる。 なお、人格権に基づく妨害排除請求と構成する場合であっても、発明者の記載を削除するにとどまらず、真の発明者の記載をなさしめることまで請求することが可能であると考えるべきである。なぜならば、発明者名誉権は、願書等に発明者として記載される権利であるところ、発明者の記載を削除するだけでは、発明者名誉権に対する侵害行為は完全に排除されたとはいえないからである。仮に、発明者の記載を削除することだけを認め、真の発明者への補正を認めなければ、その結果としては、発明者の記載という必要的記載事項を欠く不備な願書が残るだけとなり、その結果、被告三徳の出願行為が無効となる。そうなると、原告が被告三徳に特許を受ける権利を譲渡したことが無意味となるばかりか、改めて原告を発明者として記載して出願しようにも、既に、同発明自体が出願されていることから新規性を欠くとして、出願が拒絶されることとなり、結局、発明者としての特許を受ける権利を根本的に失ってしまう結果となるのである。 (4) また、一般に、願書の発明者の記載を訂正する場合、出願人が、特許庁に対し、願書に発明者として記載されている者及び新たに発明者として記載される者の各宣誓書(訂正への同意書に類する書面)を添付した上で、発明者の欄を訂正する旨の手続補正書を提出することによって行われる。 そして、同宣誓書においては、発明者と記載されている者が他の者を真の発明者であると認める内容となっており、かかる内容を裁判手続において実現するには、原告と被告Bとの間で、真の発明者が原告であることの確認を求める以外に方法はない。 被告Bに対し本件発明の発明者が原告であることの確認を求める請求第2項は、願書に発明者として記載されている者が提出すべき宣誓書に代わるものを求めるものである。 (5) そして、このように被告三徳に対して発明者の記載の補正を求め、被告Bに対しその事実上の承諾を求めても、被告らの権利を不当に侵害することはない。 すなわち、特許を受ける権利を承継した者であっても発明者の記載を偽り、あるいは誤って記載するという権利を有しているものではないし、何人も、他人の発明を自己の発明として記載する権利は有していないからである。 (6) したがって、請求第1、2項に係る訴えが不適法であるとの被告らの主張は理由がない。 2 争点(2)(本件発明の発明者)について 〔原告の主張〕 本件発明の発明者は原告である。その理由は以下のとおりである。 (1) 従来、この業界では、スラッジを焼成した上で、溶剤として硝酸を用いるのが一般的であったが、その理由は次のとおりである。 ア 溶剤として、硝酸のほかに、塩酸が考えられるが、塩酸を用いた場合には、爆発の危険性を有する水素ガスが発生することや、最終的な回収目的物である希土類が塩化物(塩素化合物)として回収され、磁石としての性能に悪影響を与えるという問題があった。 イ 一方、溶剤として硝酸を用いる場合、スラッジを焼成せずに硝酸で直接溶解すると、有毒でしかも洗浄が困難な亜硝酸ガスが発生するが、スラッジの焼成過程を経た場合には、亜硝酸ガスの発生を防ぐことが可能であった。 (2)ア しかし、スラッジ焼成の過程を経る方法では、日徳工業に当時あった焼成炉2基では処理量に限界があり、場所的制約及びコスト増加のため焼成炉の増設は困難であり、一方、焼成過程を経ると、コバルト等の希少金属が溶出できないというデメリットもあった。そこで、原告は、日徳工業における生スラッジの処理過程を効率化し、処理能力を増加させるべく、平成5年ころから、自己の判断で独自に研究を開始し、生産能力に限界を画する原因があり、非効率でもある「スラッジ焼成」過程を経ないリサイクル処理方法の確立を目指した。 イ 原告は、平成6年8月ころから、硝酸で希土類金属を含む生スラッジを溶かして、その反応状況を観察する実験(目安実験)から始め、当初は、実験結果・反応式等を記録することはなかったが、同年12月ころから、実験結果等を記録するようになり、このころから、硝酸で希土類金属を溶かす際に空気を吹き込む方法を取り入れ、その方法による水酸化第2鉄〔Fe(OH) 3〕の沈殿の発生状況、 特に沈降性・凝集性といった物理的性状にも注目するようになっていった。 ウ 原告は、その後も、同様の実験を繰り返し、複数の種類の生スラッジについて、pH値の変化、液中温度の変化、泡立ち、鉄沈殿の沈降性・凝集性、亜硝酸ガスの発生状況、生スラッジ中の希土類金属の溶解度等を観察・測定した。それにより、平成7年2月ころには、生スラッジ中の希土類金属の溶解度が89%に達していることが確認され、同年8月ころには、pH値が重要であることが再確認された。 エ そして、原告は、平成7年5月ころ、スラッジ焼成過程を経なくても、 生スラッジをリサイクル処理できる本件発明を実験室レベルで確立し、平成7年8月ころ、被告三徳の代表取締役C(以下「C社長」という。)に対し、本件発明の工業化の可能性について口頭で説明した。 (3) 本件発明は、焼成工程を経ず、いきなり生スラッジに直接硝酸を一定の条件下で連続して加えて溶解するもので、焼成工程を完全に省くことによる大きなメリットを確保し、かつ希土類をより有効に回収し歩留まりを良くするという効果を有するものである。また、副次的ではあるが、今まで全く回収できなかった希少金属のコバルトが回収できるようにもなった。 本件発明の発想のポイントは、次のとおりである。 ア 溶剤として硝酸を用い、直接溶解による場合及び焼成過程を経た場合の化学反応式は次のとおりである。 (ア) 亜硝酸ガスが発生すると考えられた直接溶解の化学反応式 2R+8HNO3→2R(NO 3)3+4H 2O+2NO↑(溶解過程) なお、NO(一酸化窒素)が大気に触れることで有毒のNO2(亜硝酸ガス)に変化する。 (イ) 亜硝酸ガスの発生防止のため酸化(焼成)する場合の化学反応式(亜硝酸ガスの発生を防止するため、左辺に焼成過程すなわち酸化反応が加わっている。) 2R+3(O)→R2O 3(焼成過程) R2O 3+6HNO 3→2R(NO 3)3+3H 2O(溶解過程) ──────────────────────── 2R+3(O)+6HNO3→2R(NO3)3+3H2O イ 原告の発想のポイントは、次のとおり、左辺に酸化反応を加えなくとも右辺に亜硝酸ガスを生じさせない斬新な化学反応式(以下「原告主張反応式」という。)を考えついたことにある。 8R+30HNO3→8R(NO 3)3+3NH 4NO 3+9H 2O(溶解過程) (4) 被告らの主張に対し、次のとおり反論する。 ア 被告らは、本件発明の発明者は被告Bであると主張し、原告の実験は被告Bの指示を受けて実施されたものであるなどと主張する。 しかし、本件発明に係る実験は原告が独自に始めたものであり、原告が被告Bに対し実験結果をレポートにまとめて提出したことはあるが、それは、原告が、被告Bから特許出願に必要なデータを書類にして欲しいと言われ、既存データを補充するための追加実験を行い、その結果をまとめて提出したものであって、被告Bの指示を受けて本件発明につながる実験を開始したのではない。 また、原告は、被告Bから平成7年10月2日付の「住友金属鉱山出願特許(乙2発明)に抵触しない回収法」と題する書面を交付されたことはあるが、 乙2発明がpH3〜5と限定されているのに対し、被告Bの上記書面には「pH3以下に保持」すると記載されている。しかし、本件発明の本質的特徴は「pH5以上に保持」することであるから、上記書面は、被告Bが本件発明の本質的な部分を理解していないことを示すものである。 イ(ア) 被告らは、本件発明を実施した場合、後記の被告主張反応式に基づく反応がほとんどであり、原告主張反応式に基づく反応はほとんど起こらないと主張する。 しかし、本件公開公報には、被告らが主張するような記載はなく、後記の被告主張反応式@についてはその記載すらないばかりか、その反応式に表現される反応についての言及も一切ない。 一方、本件公開公報には、「本発明者は、このスラリーに上記条件で硝酸希釈溶液を投入すれば、実験結果から考察して下記反応式に従って反応が進行するという新しい知見を得た。」とした上で原告主張反応式を摘示しているから、 被告らの主張は、被告三徳自らの出願に係る本件公開公報の上記記載と矛盾するものである。 (イ) 被告らは、原告主張反応式が、鉄において既に公知であり、鉄以外の金属でも同様の反応が起きることは化学の基礎知識を有する者であれば当然推測できるものであり、斬新なものではないと主張する。 しかし、原告が、原告主張反応式を着想し、これを根拠付けるため文献を調べた結果、鉄において原告主張反応式と同様の反応式が記載されていることを発見し、平成7年10月ころ、被告Bにこのことを伝えたところ、被告Bは、そのような反応式が公刊されていることを知らない様子であった。 また、少なくとも希土類については原告主張反応式に言及した文献、 特許は存在しておらず、希土類金属を可溶性塩にする化学反応を用いた工業実務に携わる者にとって、希土類に硝酸を加えた場合、亜硝酸ガスが発生する反応式(上記(3)ア(ア))の反応が起こるという知見が一般であった。このことは、乙2発明の公開特許公報において、従来の技術では有毒ガスが発生するという問題点がある旨を指摘する記載があることからも明らかである。 ウ 被告らは、原告主張反応式に基づいて生成されるであろうアンモニウムイオンを測定した結果、理論値の約3割程度しか検出されなかったから、原告主張反応式は主たる反応とはいえないと主張するが、その原因としては、磁石メーカー等のスラッジの供給元において、ドラム缶内に水漬けしたり、軽く焼いて保管・供給するために、希土類金属の一部が希土類水酸化物〔R2(OH) 3〕や酸化物〔R 2O 3〕となり、鉄の一部が酸化第2鉄〔Fe 2O 3〕となっていることや、日徳工業の操業現場において反応条件の設定によりNOガスやNO2ガスが発生している可能性があること等が考えられる。 〔被告らの主張〕 本件発明の発明者は被告Bである。その理由は以下のとおりである。 (1)ア 被告Bは、被告三徳において特許担当として、希土類に関する特許の調査と抄録を行っていたが、その過程で、住友金属鉱山出願に係る特開平1-312039号公開特許公報(乙1。以下、この発明を「乙1発明」という。)から、希土類磁石合金スラッジを水溶液中で酸化して希土類を溶解分離できるのではないかと考えるに至った。 イ 被告Bは、平成3年4月、日徳工業の代表取締役に就任し、平成4年11月に多額の費用をかけて焼成炉を増設したことから、焼成炉を設置しなくても希土類を酸化できる方法を模索しており、その過程で、部下であった原告に対し、焼成過程を経なくても水溶液中で酸化できるだろうと教示した。 ウ 被告Bは、平成6年1月ころ(当時も日徳工業の代表取締役であった。)、乙2発明の公開特許公報により、水溶液中で希土類が空気酸化できることについて確証を得たことから、平成7年に入り、原告に対し、水中酸化の実験を行うように指示し、硝酸による水中酸化の可能性があることを確認させてこれを報告させた。 その際、乙2発明に抵触しないよう、原告に対して硝酸を注入する速度を調整しながらpH値を測定するよう指示し、pH5以上での溶解を可能とするような硝酸の注入速度を探るように指示した。 エ 本件発明の本質的要素は、@乙2発明に示されたpH値の範囲外において、A希土類金属と鉄との分離を水中酸化の方法にて行うことから成り立っているが、これらは被告Bが着想した上で原告に必要な作業を指示したものであり、原告は、被告Bの指示に従って実験作業を行った補助者にすぎず、本件発明の発明者が被告Bであることは明らかである。 仮に、上記@に関し、本件発明におけるpH値の範囲(pH5以上に保持)を原告が発明したものであるとしても、本件発明が乙2発明と異なる発明として特徴付けられるのはpH値の違いであり、そのpH値の測定を具体的に指示し実験を行わせた被告Bが、本件発明に係る技術的思想を具体的に着想したものというべきである。 (2) 原告は、原告主張反応式を考えついたと主張する。しかし、次に述べるとおり、本件発明の実施による化学反応のほとんどは、原告主張の化学反応式とは別の化学反応式に基づくものであり、また、原告主張の化学反応式は斬新なものではない。 ア 本件発明を実施した場合には、下記の(ア)@及びAの化学反応式(以下「被告主張反応式」といい、@ないしAを付した場合は、下記の(ア)@ないしAの個々の反応式を示す。)と、(イ)の原告主張反応式に基づく反応が起こる。 (ア) 希土類の水酸化物と硝酸の反応 @ 4R+6H2O+3O 2(空気)→4R(OH) 3(水酸化物) A R(OH)3+3HNO 3(硝酸) →R(NO3)3(希土類硝酸塩)+3H 2O (イ) 希土類金属そのものと硝酸の反応 8R+30HNO3 →8R(NO3)3+3NH4NO3(硝酸アンモニウム)+9H2O 希土類金属は活性が高く(イオン化傾向が高い。)、空気中にあっても酸素と反応して表面は酸化している。そうした性質の希土類金属は、水中にあっても、必要な量の酸素があれば酸化して水酸化物となるのであり(上記(ア)@)、この希土類の水酸化物は硝酸が反応して希土類硝酸塩が生成される(上記(ア)A)。 本件発明には、条件として「連続して適度の空気を送り込む」ことが要求されており、露出した希土類金属そのものは、送り込まれる酸素と水に反応することにより水酸化物となるのであり、本件発明の実施による化学反応のほとんどは、(ア)の化学反応式に基づくものである。このことは、原告主張反応式に基づく反応が起きていればアンモニムイオンが発生すべきところ、実験の結果(乙14)、理論値の約3割しかアンモニウムイオンが検出されなかったことからも明らかである(なお、後記イの鉄における原告主張反応式と同様の反応式に基づいてもアンモニウムイオンが発生するから、同実験により検出されたアンモニウムイオンは鉄における同反応により生成されたものと思われる。)。 なお、被告Bは、本件発明の特許出願において、乙2発明とpH濃度が違うというだけでは新規特許としての体裁が整わないため、原告主張反応式に着眼して、これを際立たせて記載したにすぎない。 イ また、原告主張反応式は、鉄における次の化学反応式として既に公知であり、鉄以外の金属でも同様の反応が起きることは化学の基礎知識を有する者であれば当然推測できるものであり、斬新なものではない。 4Fe+10HNO3→4Fe(NO 3)2+NH 4NO 3+3H 2O ウ さらに、工業化という観点からはNOXガスを発生させないことは意義のあることであるが、本件発明の特許請求の範囲にはNOXガスを発生させないことは何ら含まれておらず、本件発明の技術的特徴は、上記(1)エ記載の@、Aの点であって、NOXガスを発生させない方法であることは、ノウハウとして価値があったとしても、本件発明の副次的産物にすぎないものである。 3 争点(3)(名誉毀損の成否)について 〔原告の主張〕 (1) 発明者名誉権は人格権の一種であるから、それを侵害する行為は発明者の名誉を侵害する行為であると捉えることができる。かような人格権ないしは人格権的な利益を侵害することは、財産権ないしは財産的利益を侵害する場合と同様に不法行為を構成し得る。 民法723条は、かかる名誉侵害行為がなされた場合に、損害賠償に代えて、あるいは損害賠償と共に、名誉を回復するのに適当な処分を裁判所が命ずることができると定めている。 (2) 本件の場合、原告が発明者であるにもかかわらず、願書に被告Bを発明者として記載し、特許庁に提出する行為は、正に本件発明者の名誉を侵害する行為であるといえる。 そして、本件のように願書の発明者欄に真の発明者名が記載されていないような場合は、発明者の名誉を回復するのに適切な措置としては、願書の発明者の記載を変更(補正)する手続を命じることが、最も直截的で、かつ効果的であるといえる。なぜなら、発明者の記載は願書だけでなく、特許公報や特許証等にも掲載されるところ、願書における発明者の記載が訂正されれば、特許公報や特許証等の発明者の記載も、自動的に訂正されるからである。なお、発明者の氏名を削除するにとどまることの不当性、被告らの利益との均衡については、争点(1)における〔原告の主張〕(3)に述べたとおりである。 (3) なお、被告三徳において、本件発明の発明者が被告Bではなく原告であるということを知り、又は知り得べきであり、また、発明者を被告Bとして出願することにより原告の名誉を傷つけることになるということを知り、又は知り得べきであったことは、原告が平成7年8月に初めてC社長に対して本件発明の工業化の可能性を説明して以来のC社長と原告との接触の実状からすれば明白である。 〔被告らの主張〕 (1) 原告の名誉毀損の主張は、不法行為であるとの請求原因を追加的に主張するものであるが、過失の内容、違法性、具体的な侵害行為等、主張立証を具体的に行わなければならない事項があるにもかかわらず、既に証拠調べ等も終了した弁論終結直前において提出されたものであるから、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。 (2) 原告は、被告三徳の出願行為によって名誉が毀損されたと主張するが、民法723条は名誉毀損行為の存在が前提となっているところ、名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等人格的価値について社会から受ける客観的価値(外部的名誉)を指し、人が自己自身の人格的価値について有する主観的評価(名誉感情)は含まない。したがって、名誉毀損行為というには、外部的名誉が毀損されたとの事実が必要であるところ、原告の名前すら摘示していない、原告を発明者としない被告三徳による出願行為によって、原告の人格的価値について社会から受ける客観的価値は何ら侵害されていない。 (3) また、仮に被告三徳との関係において名誉回復処分として補正手続を求めることが可能であったとしても、被告Bとの関係において名誉回復処分を行うことはできない。名誉毀損行為が存在したとしても、それはあくまでも被告三徳の行為であり、被告Bの行為ではないからである。 4 争点(4)ア(本件特許を受ける権利の譲渡契約の成否及びその対価の額)について 〔原告の主張〕 (1) 原告が、平成7年12月8日、本件発明の工業化の可能性についてC社長に対し説明を行った際、C社長は、原告に対し、本件発明の工業化が実現した際には、500万円から3000万円の対価を支払うと明言し、被告三徳名義での特許出願の許諾を求めた。 原告としては、被告三徳及び日徳工業との基本協定(甲10)に基づき、 技術に関するノウハウ等はすべて被告三徳において管理するとの認識もあったため、500万円から3000万円の対価が支払われることを条件に被告三徳名義での特許出願を許諾した。 以上の経緯により、原告は、被告三徳に対し、被告三徳名義で特許を出願し、ひいては特許を受ける権利を売り渡したものであり、その対価は、工業化が実現し、本件発明によって日徳工業ひいては被告三徳にもたらされる利益の額によって500万円から3000万円の範囲で売買代金を確定するとの合意がなされた。 (2) 日徳工業において本件発明が実用化された結果、処理効率、経費負担が飛躍的に改善され、その結果、被告三徳が日徳工業に支払う加工賃単価が年々下方修正されることで日徳工業での工業化による利益が直接被告三徳にもたらされた。 被告三徳が上記のように、日徳工業に支払うべき加工賃の減少という形で得た利益を試算すると、年間約3250万円、あるいは、平成8年7月から平成12年3月までの間の総額で2億円を超えるものと計算されるから、本件発明の譲渡代金は3000万円が相当である。 (3) よって、原告は、被告三徳に対し、本件特許を受ける権利の譲渡契約の対価として3000万円の支払を求める。 (4) 被告三徳は、原告と被告三徳との間で有償の譲渡合意がなされたとすれば、被告三徳としては無償で譲渡を受ける意思であったから、譲渡合意は錯誤により無効であると主張する。しかし、C社長は500万円から3000万円という対価で譲り受ける旨意思表示しており、無償で譲り受けるとの意思表示はしていないから、それ自体重大な過失があるし、内心は無償であると認識しながら対価を支払う旨表示することは心裡留保であり、無効を主張することはできない。 〔被告三徳の主張〕 (1) 原告の主張事実は否認する。 (2) 被告三徳は、原告から、本件発明の特許を受ける権利の譲渡を受けるなど考えもしていなかった。本件発明の発明者は被告Bであり原告ではないと考えていたからこそ、特許出願に当たって被告Bを発明者として出願したものである。 したがって、仮に原告が本件発明の発明者であれば、被告三徳は、結果的に本件発明を冒認出願したことにはなるが、原告が主張するように原告と被告三徳との間で本件発明の特許を受ける権利の譲渡契約が認められるものではない。 (3) 仮に、本件発明の発明者が原告であり、原告と被告三徳との間で、有償での譲渡合意がなされたが対価についての合意はなかったというのであれば、被告三徳としては無償にて譲渡を受ける意思であったから、売買契約における対価という要素につき錯誤があったものであり、当該譲渡合意は錯誤により無効である。 5 争点(4)イ(請負契約(業務委託契約)の成否及びその報酬の額)について 〔原告の主張〕 (1) 原告は、平成7年12月8日、C社長から、日徳工業において本件発明の工業化を実現するという業務の委託を受け、工業化が実現した暁には、その実績に応じて500万円から3000万円の報酬を支払うとの申入れを受けた。 (2) 原告は、C社長の申入れを信じ、本件発明の日徳工業における工業化の実現を進め、平成10年9月ころには、具体的な工業化の実績を出すまでに至った。 この工業化の実績により被告三徳が得た利益の額は、前記(4〔原告の主張〕(2))のとおり、年間3250万円、平成8年7月から平成12年3月までの利益は2億円を超え、そのほかにも焼成炉の増設費用、人件費削減の利益も存する。 このように実現度が極めて高いものであったから、報酬額は、報酬設定額の上限値である3000万円に確定した。 (3) よって、原告は、被告三徳に対し、請負契約(業務委託契約)の報酬として3000万円の支払を求める。 〔被告らの主張〕 原告の主張事実は否認する。 6 争点(5)(特許法35条3項の類推適用による対価請求の可否及びその対価の額)について 〔原告の主張〕 (1) 本件発明当時、原告は、日徳工業の技術顧問であり、本件特許を受ける権利を承継した被告三徳との間に直接の雇用契約はなかったから、特許法35条3項がそのまま適用される場面ではない。 しかし、被告三徳と日徳工業との間には、次のような業務上の関係があることからすると、原告と被告三徳との間には、実質的な「従業者等」と「使用者等」の関係があるということができ、特許法35条3項が類推適用されるべきである。 まず、日徳工業の設立経緯については、被告三徳と日新化成とが共同出資して設立されたものであるが、日新化成の方は、日徳工業の業務との関係では、実質的に工場敷地の地主であるにすぎない。次に、被告三徳の役割をみると、同被告は、レアアース化合物の製造に必要な設備及び付属設備一式並びに技術・ノウハウを供給すること、日徳工業が同被告から提供された技術・ノウハウを利用して生産したレアアース化合物に関する技術的責任を同被告がすべて負うことが、被告三徳と日新化成との間の基本協定書に定められていた。そして、被告三徳は、日徳工業において処理する生スラッジの全量を提供しており、また、日徳工業での生スラッジ処理量が増加すると、一方的に処理加工単価を引き下げ、日徳工業の処理加工賃を支配しており、日徳工業におけるレアアース化合物の生産加工ないし本件発明の実施による経済的利益は、結局、被告三徳に帰属することになる。 以上のように、日徳工業は、原材料の供給から処理加工賃の価格についてまで、被告三徳に支配され、その操業により経済的利益は被告三徳に帰属するのであるから、被告三徳と日徳工業とは経済的に単一企業体といえるのであり、さらに、技術・ノウハウについては、被告三徳が、そのすべてを支配管理する仕組みになっていることを考慮すると、日徳工業は、レアアース(希土類金属)化合物工場という被告三徳の一部門にすぎないとさえいえる。 原告が、本件発明についてC社長に説明した後、本件発明を特許出願するに当たって、当時、原告が所属していた日徳工業ではなく、被告三徳を出願人として出願したのも、日徳工業での技術・ノウハウはすべて被告三徳にて管理するという体制にあったからに他ならない。 そうすると、原告のした本件発明は、被告三徳の業務範囲に属するものであることは明らかであり、日徳工業での職務に基づく発明は、被告三徳での職務に基づく発明と同視できるものである。そして、原告は、被告三徳のC社長との契約により、被告三徳に本件特許を受ける権利を承継させた(少なくとも、黙示の譲渡契約が成立したものと解釈できる。)のであるから、特許法35条3項の類推適用により、原告は被告三徳から相当の対価の支払を受ける権利を有するものというべきである。 (2) 本件発明は、原告が単独にて発明したものであり、かつ、本件発明により被告三徳が受けるべき利益は、前記(4〔原告の主張〕(2))のとおり、年間3250万円を下回らないから、原告の被告三徳から受けるべき金員は3000万円が相当である。 被告三徳は、本件発明につき日徳工業が法定の通常実施権を有することになると主張するが、職務発明の関係では、被告三徳が「使用者等」に該当し、日徳工業はこれに該当しないから、日徳工業には法定通常実施権は発生しない。また、 被告Bは、本件発明の完成過程では実験方法について何ら指示しておらず、特許申請手続に必要なデータの提出を求めたにすぎないから、発明に対する貢献度としては全く考慮すべきではない。原告が日徳工業の研究設備・材料を利用したことは確かであるが、これらは特別なものであったり、高級ないし上級であったわけではなく、ごく一般的なものであった。被告三徳の職務発明規定では国内出願について1件1万円の報奨金が支払われることになっているが、この金額は、本件発明により被告三徳が受ける利益の額に比べて著しく低額であり、本件発明の相当な対価の額には到底達せず、原告はその不足額を請求できるはずである。なお、原告は、日徳工業から顧問として年間600万円の報酬を受け取っていたが、これは、本件発明による功労に報いるという趣旨ではなかったし、原告は、慣例に従い65歳まで顧問の地位にあることを期待していたが、被告三徳に本件の対価請求をしたことで、 2年を残して顧問の職を失った。 〔被告三徳の主張〕 (1) 原告の主張は争う。 特許法35条3項は、あらかじめ定められた契約、就業規則等により、従業者の職務発明につき使用者に特許を受ける権利を承継させた場合の規定であるから、有効な権利移転の合意が存在したことを前提として、その対価を定めるものである。 しかし、原告と被告三徳との間には上記のような契約、就業規則は存在していないから、同法35条3項を類推適用する基礎的な事情が存在しない。 また、同法35条3項において、「使用者等」「従業者等」の関係にあるか否かのメルクマールは、給与の実質的な負担者は誰か、研究に必要な人的・物的設備を提供したのは誰かという点にある。 本件においては、被告三徳は、日徳工業の商法上の親会社ではないこと、 原告の給与を実質的に負担していたのも被告三徳ではなく日徳工業であること、被告三徳は原告に対し研究施設の提供や人的な支援を行っていないことからすれば、 原告と被告三徳を「従業者」「使用者」の関係にあるとすることはできない。 原告が主張するように、原告と被告三徳が「従業者等」「使用者等」の関係にあるとするならば、同法35条1項により、被告三徳は通常実施権を有することになるが、その場合、同一の発明者から被告三徳及び日徳工業の2社に対し通常実施権が成立することになってしまう。しかし、同法35条3項は、そのようなことを予定した規定ではない。 (2) 仮に、原告が被告三徳に対し相当の対価請求ができるとしても、原告が主張する算定方法は争う。 原告は、日徳工業の従業者であり、本件発明は「その性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至った行為がその使用者等の現在又は過去の職務に属する」と評価でき、本件発明は、原告にとって日徳工業における職務発明に他ならない。したがって、日徳工業は、本件発明につき、特許成立前であっても通常実施権を有し、無償で実施することができると解される(特許法35条1項)。また、原告が本件特許を受ける権利を被告三徳に譲渡したのであれば、日徳工業は被告三徳に対し無償の法定通常実施権を有することとなる。なお、実際に本件発明を実施しているのは日徳工業であって、被告三徳は実施していない。 原告は、同法35条3項の「相当の対価」の算定において、日徳工業が本件発明を実施することによる利益や、日徳工業が本件発明を実施したことに起因する被告三徳が得ることができた利益を基礎にするが、上記のとおり日徳工業が法定通常実施権を有することと相容れない主張である。 また、原告が本件発明の発明者であったとしても、被告Bとの共同発明にすぎない。原告は、日徳工業の設備を用いて実験を重ねた結果本件発明に至ったものであるが、本件発明に関する日徳工業のこうした貢献は被告三徳のものと評価できるから、被告三徳の貢献度は極めて大きいものである。被告三徳における職務発明規定によれば、国内出願については1件につき1万円の報奨金が支払われるにすぎない。原告は、日徳工業の本来の定年時期を超えて、同社の顧問として迎えられ多額の報酬を受けている。本件発明は、乙2発明との関係で、特許として成立するか否かも極めて不分明な状態である。原告が本件発明について第三者に本件発明の実施を許諾したくとも、本件発明を利用するような希土類金属のリサイクル事業を行っているのは、日本で日徳工業のみであり、実施許諾の相手方になる会社はない。こうした事情を考慮すれば、被告三徳が原告に対し支払うべき補償金は、極めて僅少なものとならざるを得ない。さらに、原告は、本来日徳工業の取締役を辞任しなければならない時期を超えて、顧問として年間600万円の報酬を受領していたのであるから、この点も相当な対価の算定に当たり考慮されるべきである。 |
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争点に対する判断
1 争点(1)(請求第1、2項に係る訴えの適法性-発明者名誉権に基づく差止請求権は認められるか)について (1) 発明者は、発明完成と同時に、特許を受ける権利を取得するとともに、人格権としての発明者名誉権を取得するものと解される。この発明者名誉権は、特許法には明文の規定はないが、パリ条約4条の3は「発明者は、特許証に発明者として記載される権利を有する。」と規定しており、「特許に関し条約に別段の定があるときは、その規定による。」とする特許法26条によれば、発明者掲載権に関するパリ条約4条の3の規定が我が国において直接に適用されることになる。また、 特許法においても、@特許権の設定の登録があったときに、特許庁長官が特許権者に特許証を交付することを定めた特許法28条1項、及び特許証には発明者の氏名を記載しなければならないと定めた同法施行規則66条4項、A特許を受けようとする者が特許出願に際して提出する願書に発明者の氏名及び住所又は居所を記載することとした同法36条1項2号、B発明者の氏名を出願公開の特許公報の掲載事項とした同法64条2項3号、C発明者の氏名を特許公報の掲載事項とした特許法66条3項3号の各規定が置かれ、これらは、発明者が発明者名誉権(発明者掲載権)を有することを前提とし、これを具体化した規定であると理解できる。 そして、人格権たる発明者名誉権(発明者掲載権)は、上記のとおり、発明者の名誉を保護するものであって、名誉は生命、身体とともに極めて重大な保護法益であることからすると、物権の場合と同様に排他性を有する権利であると解される。したがって、発明者名誉権が侵害された場合には、真の発明者は、侵害者に対し、人格権たる発明者名誉権に基づいて侵害の差止めを求めることができるものと解すべきである。しかるところ、真実は当該発明の発明者でありながら、出願人が特許出願の願書に発明者としてその氏名を記載しなかったために、特許公報や特許証にその氏名が記載されない場合には、真の発明者の発明者名誉権は侵害されたことになる。 ところで、上記のとおり、特許出願の願書には発明者の氏名及び住所又は居所を記載しなければならないが、その記載が誤っていた場合には、出願人は、出願手続が特許庁に係属している間は、補正により是正することができる(特許法17条)。したがって、本件発明の特許出願手続のように、いまだ登録にならず、出願手続が特許庁に係属中のものについては、願書に発明者として真実の発明者の氏名が記載されなかったことにより、発明者名誉権を侵害された場合に、その侵害行為の差止めを実現するためには、出願人に対し、願書の発明者の記載を真実の発明者に訂正する補正手続を行うように求めることが、適切であるといえる。また、そのように解したとしても、出願人に対して、不当にその権利を害するということもない。 本件訴訟において、原告は、本件発明の発明者であると主張して、出願人である被告三徳に対し、発明者を原告に訂正する旨の手続の補正を求めるものであるが、この請求は、被告三徳のした出願行為が、願書に原告を発明者として記載しないことにより原告の発明者名誉権が侵害されたものとして、その妨害排除を求めるとともに、将来本件発明につき特許権の設定登録がされた場合に発行される特許公報及び特許証に原告が発明者として記載されないことにより原告の発明者名誉権が侵害されることを予防するため、侵害者である出願人に対し請求するものと解される。 被告らは、請求第1、2項は、権利義務に何ら関わりのない事実上の主張を定立しているにすぎないと主張するが、上記のとおり、発明者名誉権の侵害に基づく法的な権利主張をしているものというべきであり、原告が本件発明の真実の発明者であるとすれば、被告三徳に対し、人格権たる発明者名誉権に基づき請求第1項の請求をなし得るものというべきであるから、原告の被告三徳に対する請求第1項の請求に係る訴えは適法である。 なお、著作権法においては、著作者人格権等を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる旨規定する(著作権法112条1項)が、これは、著作者人格権が物権的な権利であることから、その権利の性質上当然に差止請求が認められることを前提に、これを確認したものというべきであり、特許法等において、発明者名誉権に基づいて発明者を自己の氏名に訂正することができる旨を規定した条項がないとしても、そのことから直ちに、発明者名誉権に基づいて具体的請求権が生じないとすることはできない。 (2) 次に、原告の被告Bに対する請求第2項の請求についてみるに、原告は、 本件発明の発明者が原告であることの確認を求めているが、上記に述べたところからすれば、この請求は、その実質において、原告が本件発明についての発明者名誉権を有することの確認を求める趣旨と解される。そして、発明者名誉権は人格権として法的に保護される権利であるところ、被告Bは自らが本件発明の発明者であると主張して、原告に発明者名誉権があることを争っているのであるから、確認の利益があるものというべきである。 また、甲11によれば、出願人が願書の従前の発明者Aの氏名を削除し、 発明者Bに補正する場合には、従前の発明者Aの作成に係る「発明者Bが真の発明者であり、発明者Aは発明者ではない」旨を記載した宣誓書を特許庁に提出する扱いになっていることが認められる。これは、当該補正により従前の発明者Aの発明者名誉権(発明者掲載権)を侵害する恐れがあるため、当該補正手続をするに当たり従前の発明者Aの承諾を求めた趣旨と解される。この観点から見ても、原告が被告三徳に対し本件発明の発明者を原告に訂正する旨の補正手続を求めるに当たって、同出願手続上発明者とされている被告Bに対し、原告が発明者であることの確認を得る必要があるというべきである。 したがって、請求第2項の、原告と被告Bとの間において、原告が本件発明の発明者であることの確認を求める請求に係る訴えについても、訴えの利益が存し適法な訴えであるというべきである。 2 争点(2)(本件発明の発明者)について (1) 本件発明の発明者を検討する前提として、本件発明の技術的特徴について検討する。 ア 本件発明1は、コバルトを含む希土類-鉄系合金のスラリーから、希土類元素及びコバルトを、それらを含む希土類含有硝酸塩溶液として、鉄を含む不溶解元素化合物と濾別分離して回収する方法に係る発明であり、本件発明2及び本件発明3は、本件発明1の回収方法で濾別分離した希土類含有硝酸塩溶液から、希土類をフッ化物(請求項2)又は蓚酸塩(請求項3)として沈殿させ、コバルトを硝酸塩溶液に残存することにより、希土類とコバルトを分離回収する方法に係る発明である。 このように本件発明2及び本件発明3は、本件発明1にその後のコバルト回収方法を付加したものであるところ、本件においては、主として、本件発明1の工程部分が問題とされているので、本件発明1に関する事項に絞って、その技術的特徴を検討する。 イ 本件公開公報の発明の詳細な説明の項には、次の記載があることが認められる(甲1)。 (ア) 本件発明は、「コバルトを含有する希土類-鉄系合金から希土類元素及びコバルトを経済的に回収する回収方法に関する」(1欄23〜25行)とされている。 (イ) そして、従来の技術として「@酸溶解法(特公昭63-4028号公報、特開平2-22427号公報)、A燃焼酸化溶出法(特開昭62-83433号公報)、B全溶解フッ酸分離法(特開昭62-187112号公報)、CpH制御酸溶解酸化法(特公平7-72312号公報《乙2発明》)等」(1欄35〜40行)の存在が指摘されており、このうち乙2発明については、「前記CpH制御酸溶解酸化法では、pHを3〜5に維持して希土類元素を酸で浸出させる必要があるが、工業的に処理をする場合、pHを3〜5に維持することが非常に困難であること、酸として塩酸を使用して浸出させた液から希土類金属を沈澱させるために、希土類炭酸塩を生成させる場合、沈殿中に微量塩素イオンが残存し、焼成して希土類酸化物としてもこの塩素イオンが残存するという問題がある。この塩素イオンが微量存在する希土類酸化物から製造した希土類金属は、永久磁石特性に悪影響を及ぼすことが既に判明している。」との問題点を有することが指摘されている(2欄20〜29行)。 (ウ) さらに、希土類金属等を溶解する際に用いる酸の種類とその問題点について、「塩酸」を用いた場合、水素ガスを発生して爆発の危険性があるが、速やかに溶解し、かつ塩酸の価格が安いというメリットがあること、「硫酸」を用いた場合、反応速度が遅く、塩の溶解度が小さく、高濃度の溶液が得られない難点があること、「硝酸」を用いた場合、NOが発生し、空気と会合して極めて毒性の高い褐色のNO2ガスとなることや、硝酸が他の酸と比して高価であり、低コストが要求される処理の場合には、適当でないことが記載されている(2欄30〜47行、1欄48〜50行、2欄48〜49行)。 (エ) そして、本発明の目的は、「希土類-鉄系合金から安全、且つ経済的に有効元素の回収ができ、得られた有効元素に塩素イオン等が含有されてなく、 磁石材料等に有用なものを回収できる希土類-鉄系合金からの有用元素の回収方法を提供することにある」とされている(2欄50行〜3欄4行)。 (オ) 発明の形態の項において、本件発明の実施の際に留意する点として、濃硝酸の濃度について、「濃硝酸の濃度が1:1未満の場合には、投入した硝酸が分解して有毒のNOガス(空気と接触して即座に有毒のNO2ガスとなる)を発生させる恐れがある。」(4欄7〜10行)、pH値について、「pHが5以下になる場合は、硝酸希釈溶液中の硝酸量が過剰となり経済的でない。更に低いpHとなった場合には、鉄が硝酸塩として溶解し得られる溶液中の希土類金属とコバルトとの純度を低下させることになり、また、投入した硝酸が分解して、有毒のNOガスを発生させる恐れがある。」(4欄27〜32行)、液温について、「液温が50℃以上になれば投入した硝酸希釈溶液が下記式〔2HNO3→2NO 2↑+H 2O+1/2O 2↑〕のごとくに分解し、有毒のNO2ガスを発生させるので、液温を50℃以下に制御して進行させる必要がある。制御方法は、硝酸投入速度を下げることや、空気の流通量を低下させることにより行うことができる。」(6欄27行〜30行、5欄31〜34)との事項が指摘されている。 (カ) 発明の効果として「本発明の回収方法では、希土類磁石等の製造時に発生する屑、研磨かす、スクラップ、スラッジ等の希土類-鉄系合金から希土類元素およびコバルトを硝酸塩として、沈澱する水酸化第二鉄と高効率分離することができ、また希土類元素はフッ化物ないしは酸化物として元の合金製造用原料材料に、コバルトは有効に再利用できる塩化物として回収することができる。しかも、 これまで公害問題並びに高価であったために使用できなかった硝酸を、実質的に希土類元素とコバルトを溶解する少量を用いるのみによって、従来法より高効率かつ経済的に、且つ無公害で前記有効元素を回収することができる。」(7欄35〜46行)とされている。 ウ 以上の本件公開公報の記載からすれば、本件発明の技術的特徴は、@水素ガスの発生という危険性を有し、希土類が磁性材料として製品化された場合の磁石特性に悪影響を与える塩酸を用いるのではなく、硝酸を用いたこと、A硝酸は、 従来、有毒なNO2ガスの基となるNOガスが発生すると考えられていたが、NOガスが発生しないようなpH値や温度の設定範囲を見い出したこと(pH値や温度の設定は、硝酸投入速度や空気の流通量を調整することにより行うことができる。)、 B硝酸は他の酸に比べて高価なため、その使用量を減らしたことが挙げられる。 エ さらに、本件発明出願前の公知資料である乙2公報と比較した場合の本件発明の技術的特徴を検討する。 (ア) 本件発明の構成要件A「コバルトを含む希土類-鉄系合金のスラリー」との構成は、乙2発明の構成要件A'「希土類元素と、希土類元素以外の元素からなる合金や混合物のスラリー」として開示されている。 (イ) 同B「空気を流通させながら」との構成は、乙2発明の構成要件B'「酸化剤の存在下」との構成に加え、乙2公報の発明の詳細な説明の項において、酸化剤として酸素あるいは空気を用いるのが最も経済的であるとの記載(4欄18〜19行)、空気を181/minの速度で吹き込む工程を含む実施例3の記載(6欄29〜30行)として開示されている。 (ウ) 同Cの硝酸希釈溶液を用いることは、乙2発明の構成要件C'が「酸で維持」するとされ、「酸」は一般に硝酸を含む広い概念と解されることから、乙2公報に開示されている。 (エ) 同Dの「pH5以上に保持する」との構成は、乙2発明の構成要件C’が「pH3〜5に維持する」とされており、pH値の範囲が異なるので、乙2公報には開示されていない。 (オ) 同E〜Gの要件が示す構成は、希土類金属を溶解する温度範囲が特定されていること(同E)や、希土類金属を難溶性の塩とするのではなく、希土類金属以外の鉄を含む元素を不溶解化合物とすること(同F)において、乙2発明の構成とは異にするものの、構成要件C'、F'の「希土類元素を選択的に浸出」する「希土類元素の回収方法」である点において共通する。 オ そうすると、本件発明の構成要件のうち公知資料である乙2公報に開示されていない構成は、乙2発明では「pH3〜5」(構成要件C')とされ、本件発明では「pH5以上」(構成要件D)とされているpH値の範囲のみであるといえる。 しかしながら、乙2公報では、発明の詳細な説明の項において、用いる酸として塩酸が最も適しているとされ(4欄15〜16行)、実施例として記載されている三つの工程はいずれも塩酸を用いたものであって(5欄35行〜6欄40行)、本件発明のように硝酸を用いた具体的な方法は記載されていない。 したがって、本件発明は、pH値の範囲のみに技術的特徴があると解すべきではなく、「酸」という広い外延を有する文言で規定されていた乙2発明と異なり、用いる酸を「硝酸」と特定するとともに、その硝酸を用いたことによる問題点を克服したという点、すなわち本件公開公報から読み取れる前記ウ記載の技術的特徴についても、本件発明の発明者を判断する上で重視すべき技術的要素と解すべきである。 (2) 本件発明の完成に至る経過について、証拠(甲2、4、甲5の1〜6、甲5の7の1〜3、甲5の8、甲5の9及び10の各1・2、甲5の11、甲6の1〜3、甲7、乙3、9、12、13、原告本人、被告B本人)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。 ア 日徳工業は、被告三徳から供給された希土類磁石のスラッジから希土類金属を回収し、それを被告三徳に納入する事業を行っているが、従来、「スラッジ焼成」という工程を必要とする特公平5-14777号特許公報(乙3)記載の技術(前記(1)イ(イ)のA燃焼酸化溶出法)に基づいて希土類金属の回収をしていた。 しかし、上記の「スラッジ焼成」工程は、広い設置場所が必要でかつ多額の設備投資を要する焼成炉が必要とされる上、焼成の過程を経ると、コバルト等の希少金属が溶出できないというデメリットもあった。 日徳工業では、当初は社内に焼成炉がなかったため、被告三徳の藤岡工場で焼成工程を行っていたが、平成4年11月ころに1号炉が設置されてからは、 自社で焼成工程を行うようになったものの、その後も、年々希土類磁石のスラッジの供給量は増加していった。 イ 原告は、平成5年ころから、焼成過程を経ない方法による生スラッジの処理方式の工業化を目指し、具体的には、溶剤として水素ガスが発生し磁石特性を悪化させる塩酸ではなく硝酸を使用することとし、硝酸を用いた場合に想定される有毒な亜硝酸ガスの発生状況に留意しながら、硝酸の投入量を調整しつつ希土類金属を含む生スラッジを溶かしてその反応状況を観察するなどの実験を独自に行うようになった。 ウ そして、原告は、平成6年12月ころから、実験結果等をノート(甲5〔枝番号を含む〕)に記録するようになった。 このころから、原告は、硝酸で希土類金属を溶かす際、空気を吹き込む実験を開始し、それに伴う水酸化第二鉄〔Fe(OH)3〕の沈殿状況、亜硝酸ガスの発生状況及びそのpH値との関連性、液中温度の変化、生スラッジ中の希土類金属が溶解液中に硝酸塩として溶け出ている割合等について、観察した。 また、日徳工業が扱う生スラッジは、各磁石メーカーごとに含有金属の種類・比率等が異なるため、数種類の生スラッジを用いて実験を重ねた。 そして、平成7年2月ころには、生スラッジ中の希土類金属の溶解度が89%に達していることが確認された。 エ 原告は、焼成過程を経なくとも生スラッジを処理できる方法を実験室レベルで確立するとともに、工場レベルでの工業化の可能性にも一応の見通しがついたので、平成7年8月ころ、被告三徳のC社長に対し、本件発明の工業化の可能性について口頭で説明した。C社長は、原告からの説明を聞き、日徳工業で工業化すべき技術であると賛意を示すとともに、その工業化を推進するように原告に伝えた。さらに、C社長は、特許出願を検討すべきではないかと考え、特許室長のDを呼び寄せ、特許出願の準備をするように指示した。 オ Dは、同日中に、被告三徳の特許室のメンバーである被告B及びEと共に、特許出願の準備のため、原告から、口頭で本件発明ないしその実験内容について聴取したが、被告Bは、さらに同技術内容を詳細に知る必要があると考え、原告に対し、報告書の提出を求めた。 カ 被告Bは、同年10月2日、原告から、希土類回収過程のフローチャート等が記載された本件発明の報告書の提出を受けて、その内容を詳細を知り、同日、「住友金属鉱山出願特許(乙2発明)に抵触しない回収法」と題する文書(甲4)を原告に交付した。 被告Bは、この文書において、住友金属鉱山の特許の条件が「pH3〜5」であることを指摘した上で、「pH3以下であればよい。酸浸出終了時点でpH3以下を保持すること。」との意見を述べ、さらに、「酸浸出の場合、希酸であっても投入時にはpHは1以下となるので、一時的にpH>3となっても最終的にpH<3になるようにコントロールすればよい。」との解説を付記した。 キ(ア) 原告は、同年10月4日、被告Bに対し、「R-Fe-B生スラッジ直接溶解フロシート」と題する化学反応式を記載した書面(乙13)を交付した。 同書面においては、希土類及び鉄と硝酸との反応は、いずれも亜硝酸ガスが発生する化学式が記載されている。 (イ) その後、原告は、同月19日、被告Bに対し、「Fe、R、メタルのHNO3溶解について」と題する化学反応式を記載した書面(乙12)を交付した。 同書面において、「冷時、希薄のHNO3にFeが溶ける場合、下記の反応式がありましたので記載します。」として、次のa、bの各式が記載されている。 a 4Fe+10HNO3→4Fe(NO 3)2+NH 4NO 3+3H 2O b 4Fe+10HNO3→4Fe(NO 3)2+N 2O+5H 2O また、希土類の反応式については、「従来通りかと思う。」と記載されている(このことから、原告は、この時点においては原告主張反応式を思いついていなかったことが推認される。)。 ク その後、原告は、被告Bの求めに応じ、平成7年10月から同年11月にかけて、再度実験を行い、その結果をまとめてグラフ等(甲6の1〜3)を作成し、被告Bに渡した。 同実験においては、スラッジに硝酸を加えながら、そのpH値、温度、NOガスやNO2ガスの発生状況、Fe2+の濃度等が測定され、そのうちpH値についてみると、概ねpH5以上に維持され、実験途中でpH値が4.3〜4.5程度に下がることがあったものの、pH値を3以下に下げるような条件下での測定はされていない。 ケ そして、原告は、平成7年12月8日、C社長に対し、同日付「Nd(Di)-Feスラッジ処理の新方法について」と題するレポート(甲2)を提出し、本件発明の内容、工業化による効果(メリット)等の説明をした。 コ その後、被告Bにおいて特許出願のための書類を起案し、被告三徳において平成8年2月13日弁理士を代理人として特許出願手続をした。 (3) 上記事実によれば、原告は、平成5年ころから独自の発想に基づいて実験をし、その際、@硝酸を用い、A硝酸を用いた場合に予想される有毒な亜硝酸ガスの発生状況に留意し、硝酸の投入量を調整しながら、pH値、液中温度を測定し、B空気の吹込みも行い、C水酸化第二鉄〔Fe(OH)3〕の沈殿状況、希土類の溶解度等を測定していたということができる。 そして、その実験結果をメモした実験ノート(甲5〔枝番号を含む〕)中には、pHの具体的数値は記載されていないものの、原告は、平成7年8月にC社長に対し本件発明の工業化の可能性を自ら説明していること、その後、被告Bから乙2発明との抵触を避けるためpH3以下であれば良いとの指摘を受けたにもかかわらず、原告は、その後実施した実験において、実験条件を概ねpH5以上に設定しデータを測定していることからすれば、平成7年8月にC社長に対して本件発明に関する説明を行った時点以前の実験の過程において、pH値はほぼ5以上が適当であるという知見を得ていたものと推認される。 したがって、原告は、平成7年8月以前に、本件発明の前記(1)の技術的特徴とされる事項について、実現可能な程度の技術的知見を得ていたというべきであり、本件発明をほぼ完成させていたと認めるのが相当である。 (4)ア なお、上記認定事実に関し、乙9(被告B作成の陳述書)及び被告B本人尋問の結果中には、@被告Bは、平成4年11月以前に乙1発明を知り、水中酸化して希土類金属を溶解分離できるのではないかと考え、原告に対し教示した、A被告Bは、平成6年初めに乙2発明を知り、水中酸化して希土類金属を溶解分離できることを確信し、原告に対し、その旨の話をしていると思う、B被告Bは、平成6年12月ころ原告の実験状況を見に行き、その時点でエアを吹き込む方法が採られていなかったため、空気酸化しなければいけないとアドバイスをしたことから、 原告は、その後の実験において同方法を採用した、との陳述部分がある。そして、 被告らは、こうした事情を前提として、被告Bが着想した上で原告に必要な作業を指示したものであり、原告は被告Bの指示に従って実験作業を行った補助者にすぎず、本件発明の発明者は被告Bであると主張する。 イ しかし、被告Bの上記陳述部分は、原告に対する指示内容が具体的に述べられているものではない上、甲7及び原告本人尋問において、原告は、同指示内容を否定している。 そして、仮に、原告が被告Bの指示に従って実験作業を行う補助者にすぎないとするならば、被告Bは原告に対し頻繁に指示を出し、原告から報告を受けてしかるべきところ、そうした頻繁な指示及び報告がなされたことを認めるに足りる証拠はなく(被告Bの陳述によっても上記3回程度の指示にとどまる。)、しかも、原告が本件発明をほぼ完成させて具体的に報告したのは、C社長に対してであって、被告Bは、C社長の指示を受けて、初めて原告から技術内容の詳細について報告を受け、その後に原告から数度にわたり報告書の提出を受けているにすぎない。 さらに、本件発明は乙2発明のpH値を避けることが重要な要素であるところ、被告Bが陳述するように、平成6年初めに乙2発明を知り水中酸化して希土類金属を溶解分離できることを確信したのであれば、原告に対し乙2発明との関係で重要となるpH値について具体的に指示してしかるべきであるが、その指示がされたのは、原告がC社長に報告した後の平成7年10月2日であり、しかも、その内容はpH3以下にして乙2発明のpH3〜5を避けるというものであり、本件発明がpH5以上とされていることと食い違っている。 また、本件発明においては、危険な水素ガスを発生させたり磁石特性を悪化させる塩酸を用いるのではなく、硝酸を用いることとし、その場合の有毒な亜硝酸ガスの発生をどのようにして防ぐかという点も重要な技術的要素であるところ、この点について、被告Bが着想に至ったという事実も、原告に対し教示した事実も認められない。 ウ 被告Bが平成3年4月から平成6年6月まで代表取締役を務めた日徳工業では、焼成炉が必要とされる焼成過程を経ない希土類金属の回収方法が求められていたこと、被告Bは、平成3年4月から希土類に関する特許の調査と抄録の作成の作業に従事し(乙9)、希土類に関する専門書である「希土類の科学」(化学同人)(乙11)の執筆者の一人であり、希土類金属の回収に関する豊富な技術的知識を有していたことからすれば、被告Bが、乙1発明、乙2発明を知って、希土類金属の水中酸化の工業化を着想した可能性があることは否定できないとしても、前記のとおり、被告Bのそうした着想が、本件発明の完成に結びついたことを認めるに足りる証拠はない。 また、平成7年8月に原告がC社長に対し本件発明に関して説明をして以降、被告Bが本件発明の特許出願に向けて原告に対し報告書の提出を求めてはいるが、それは原告において本件発明を完成させた後の特許出願のための資料作成に関する指示にすぎない。 したがって、被告Bを本件発明の発明者であると認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。 (5) また、被告らは、本件発明を実施した場合、原告が着想したとする原告主張反応式に基づく反応は起きていないと主張する(なお、前記(2)キ記載のとおり、 原告は本件発明を完成した平成7年8月ころには、未だ原告主張反応式を思いついていなかった。)。 しかしながら、発明とは自然法則を利用した技術的思想に関するものであって(特許法2条1項)、本件発明1の構成要件A〜Gに規定する要件のもとにおいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度の技術的知見を得ていれば発明として完成しているというべきであり、当該構成要件に規定される条件の下でどのような化学反応が起きているかについての化学的知見を得ていなくても、発明が完成したということの妨げとはならない。 この点、被告B自身が、乙9及び被告B本人尋問において、本件特許の出願明細書に原告主張反応式を記載したが、それは、原告主張反応式が実際に起きているか否かとは関係なく、乙2発明との違いを明確にするために記載したと述べているところであり、このことも、本件発明においては、化学反応に関する知見が重要な要素ではないことを示すものである。 したがって、原告が平成7年8月ころには未だ本件発明を実施した場合の化学反応式を把握していなかったとしても、また、本件発明を実施した場合、原告が着想したとする原告主張反応式に基づく反応は起きないとしても、原告は平成7年8月時点において本件発明を完成させていたとの前記認定を左右するものではない。 (6) 以上によれば、原告は本件発明の発明者であり、人格権たる発明者名誉権(発明者掲載権)を有するものというべきであるところ、本件発明の特許出願の願書に発明者が被告Bである旨記載されていることにより原告の発明者名誉権が侵害されているものというべきであるから、原告が、人格権たる発明者名誉権に基づく妨害排除請求として、被告三徳に対し本件発明の特許出願の願書に記載された発明者が原告である旨の補正手続を求める請求、及び被告Bに対し原告が本件発明の発明者であることの確認を求める請求は、いずれも理由がある。なお、原告の発明者名誉権に基づく請求を認容するので、選択的請求に関する争点(3)については判断する必要をみない(付言すると、争点(3)に係る名誉毀損による名誉回復処分を求める請求に関する主張は、本件訴訟の経過に照らして、その提出が時機に後れたものとはいえない。)。 3 争点(4)ア(本件特許を受ける権利の譲渡契約の成否及びその対価の額)について (1) 前記2認定の事実によれば、原告は、本件発明の発明者として、発明の完成と同時に特許を受ける権利を取得したものというべきところ、本件発明が被告三徳を出願人として特許出願されていることは前示のとおりである。 証拠(甲2、3、7、原告本人)によれば、前記2(2)の認定事実に加えて、次の事実が認められる。 ア 原告は、平成7年8月に、C社長に対し、口頭で本件発明の工業化の可能性について説明をした際、C社長から、一日も早く工業化を実現して日徳工業に導入して欲しいこと、その実現については原告に任せること、本件発明を特許出願すべきであること等の返答を得た。 原告は、本件発明の特許出願については異存がなかったものの、発明者は原告として出願されるものと思っていた。また、その際、特許出願の出願人を誰にするかについては具体的な話は出なかった。 イ 原告は、その後、前記2(2)オないしク記載のとおり、被告Bから指示を受けながら、特許出願に向けて実験データの収集、報告書の作成をした。 ウ 原告は、平成7年12月8日、C社長に対し、同日付「Nd(Di)-Feスラッジ処理の新方法について」と題するレポート(甲2)を提出し、本件発明の内容、 工業化による効果(メリット)等の説明をした際、C社長から、本件発明の工業化を実現することは被告三徳ないし日徳工業にとっても非常に高い価値があること、 原告に対しその実績に応じて相応の処遇を考えたいという趣旨の発言がなされた。 エ 原告は、平成10年9月21日、C社長に対し、同日付「Nd(Di)-Feスラッジ新技術による処理実績及び今後の期待出来る効果について」と題するレポート(甲3)を提出した。同レポートには、本件発明を実用化したことに伴う実績と、 今後の期待できる効果がまとめられ、最後に「新技術に基づく工業化の実績と今後の効果について適切な評価をお願い申し上げます。」と記載されている。 原告は、その際、C社長に対し、本件発明の工業化を実現したことに対する対価を求めたところ、C社長から、それはできないと拒絶された。 (2) 前記認定事実によれば、原告は、平成7年8月に、C社長から本件発明を特許出願すべきであると言われ、本件発明の特許出願のために報告書をまとめて、 同年12月8日にC社長に提出し、本件発明の内容等を説明したものであり、その際、C社長から、本件発明の工業化を実現することは被告三徳ないし日徳にとって非常に高い価値があることや、原告に対しその実績に応じて相応の処遇を考えたいなどを言われており、その後被告三徳において本件発明の特許出願に至ったものであるから、平成7年12月8日ころまでに、原告は、C社長が代表者を務める被告三徳が本件発明を特許出願することについて了解していたものと認められる。 したがって、原告は、C社長との間で、原告の有する本件発明についての特許を受ける権利を被告三徳に譲渡することを承諾したものであるが、前記の事実経過からすれば、この譲渡に関して対価の合意が両者の間で成立するに至ったとは認められない。この点につき、原告は、平成7年12月8日に本件特許を受ける権利を500万円から3000万円の範囲の対価で譲渡する契約が成立したと主張し、甲7及び原告本人尋問の結果中には同主張に沿う陳述部分がある。しかし、C社長がそのような対価を支払う旨言明したことについては、的確な裏付けがなく、 甲7及び原告本人尋問の結果中の上記陳述部分を採用することはできない。そのほかに、原告と被告三徳との間で平成7年12月8日に本件特許を受ける権利を500万円から3000万円の範囲の対価で譲渡する契約が成立したとの事実を認めるに足りる証拠はない。 (3) よって、本件発明の特許を受ける権利の譲渡契約による対価の合意に基づく原告の請求は理由がない。 4 争点(4)イ(請負契約(業務委託契約)の成否及びその報酬の額)について (1) 原告は、平成7年12月8日にC社長から日徳工業において本件発明の工業化を実現するという業務の委託を受け、工業化が実現した暁には、その実績に応じて500万円から3000万円の報酬を支払うとの申入れを受けたと主張する。 このうち、原告がC社長から日徳工業において本件発明の工業化を実現して欲しいという依頼を受けた事実(なお、その時期は、平成7年8月の時点である。)が認められることは、前記3(1)記載のとおりである。 (2) しかし、C社長と原告との間で、工業化が実現した暁には、その実績に応じて500万円から3000万円の報酬を支払うとの合意が成立したとする原告の主張に関し、原告は、原告本人尋問において、C社長の発言について、本件発明を工業化することによって日徳工業がどのくらいの利益を得ることができるかを見定めてから、その対価の金額を決めるということであると判断したと述べるものであって、この陳述部分からしても、500万円から3000万円の範囲の報酬を支払うとの合意を認めるには足りない。 そもそも、原告は日徳工業の取締役ないし技術顧問であって、日徳工業の業務の一環として原告が行った本件発明の工業化に関して、被告三徳が有償の請負契約ないし業務委託契約をするということ自体不自然であるといわざるを得ない。 したがって、原告本人尋問の結果によっても、C社長が、日徳工業の40%株主である被告三徳の代表者として、原告に対し、その実績に応じて相応の処遇を考えたいという趣旨の発言をした事実は認められるものの、それを超えて、工業化が実現した暁には、その実績に応じて500万円から3000万円の報酬を支払うとの合意が成立したとの原告主張の事実を認めることはできず、その他、同事実を認めるに足りる証拠はない。 (3) よって、請負契約(業務委託契約)に基づく原告の請求は理由がない。 5 争点(5)(特許法35条3項の類推適用による対価請求の可否及びその対価の額)について (1) 原告は、予備的に、特許法35条3項の類推適用により、本件発明につき特許を受ける権利を被告三徳に譲渡した対価の支払を請求できる旨主張する。 前記認定事実によれば、原告は、本件発明の発明者として本件発明につき特許を受ける権利を取得したところ、被告三徳の代表取締役であるC社長に対し、 この特許を受ける権利を被告三徳に譲渡することを承諾したものである。 特許法35条3項は、「従業者等は、契約、勤務規則その他の定により、 職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ……たときは、相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と定めるところ、前記第2の1の争いのない事実等及び第4の2(2)認定の事実によれば、原告は、本件発明の完成当時、日徳工業の取締役として、技術生産管理部門を担当していたものであるから、原告と日徳工業との間には同項にいう「従業者」と「使用者」の関係があったものということができ、また、本件発明が日徳工業の業務範囲に属し、かつ、本件発明をするに至った行為が日徳工業における原告の職務に属するものであったことも明らかであるから、本件発明は、日徳工業との関係で職務発明(同法35条1項)に当たることが明らかである。しかしながら、本件発明をした当時、原告は被告三徳の従業員、役員等の地位にはなかったから、原告と被告三徳との間には、直接には、従業者と使用者の関係があったとはいえない。 そこで、さらに進んで、原告と被告三徳との関係が、特許法35条3項の類推適用を可能とするような、従業者と使用者の関係に準じて考えることができるものといえるかどうかを検討する。 (2) 日徳工業は、被告三徳と日新化成の共同出資で設立された会社で、出資比率は被告三徳が40%である(前記第2の1(2)イ)から、被告三徳は日徳工業の商法上の親会社ではない(商法211条ノ2)が、業務である希土類金属の回収に関しては、もっぱら被告三徳から有償若しくは無償で技術・ノウハウの提供を受けており、日徳工業が同技術・ノウハウを使用した「レアアース(希土類)化合物」の製造に関しては、すべての技術責任を被告三徳が負うこととされ、原告や被告Bのように、被告三徳の出身者が日徳工業に出向・転籍等をして技術顧問的な役割も果たしてきたのに対し、日新化成は、日徳工業が必要とする土地及び建物を有償で貸与する関係にはあるが、「レアアース(希土類)化合物」に関する技術・ノウハウには関与しておらず、日徳工業における希土類金属回収事業については、被告三徳が専ら技術・ノウハウを管理する関係にあり(甲10、乙9、弁論の全趣旨)、本件発明完成の前提となる技術・ノウハウにも被告三徳の提供によるものが含まれていたと推認される。そして、日徳工業は、被告三徳から専属的に希土類合金のスラッジの提供を受け、回収した希土類金属を被告三徳に対して納入するのであるから、日徳工業における経費削減の利益は直接に被告三徳に反映し、実質的にはその経済的利益が被告三徳に帰属することになると評価できる。さらに、原告は、平成6年3月までは被告三徳に勤務し(平成3年4月からは日徳工業の取締役も兼務)、本件発明につながる、焼成工程を経ない方法による生スラッジ方式の工業化に取り組み出した平成5年当時は、被告三徳にも在籍していたものであり、平成7年8月ころ本件発明の実験室レベルでの完成を確認したときに、これをまず日徳工業ではなく被告三徳のC社長に報告しているのである。 これらの事実を総合すると、被告三徳と日徳工業とは、希土類金属の回収業務においては、技術的、経済的に一体的な関係にあり、また、日徳工業における希土類回収の業務に関し被告三徳が実質的に指揮監督を及ぼす関係にあるものということができる。 (3) 特許法35条は、企業等の従業者等がした発明のうちで一定の範囲のものを職務発明とし、使用者等が当然に法定の通常実施権を有するものとするとともに、職務発明については、特許を受ける権利又は特許権の使用者等への譲渡や専用実施権の設定をあらかじめ定めておくことができるものとし(職務発明以外の発明についてのそのような定めは無効である。)、かつ、譲渡や設定があった場合には、従業者等に相当の対価の支払を受ける権利を認めることとしたものであるが、 同条の趣旨は、発明という創作活動をした従業者等と、発明の完成まで人的・物的援助を行った使用者等の双方に発明への意欲を刺激し、ひいては産業の発達を図ると同時に、従業者等のした発明から生ずる権利関係の帰属を当事者間の力関係に委ねることにより使用者等に一方的に有利な結果が生じることになるような事態を避けることで労働者保護も図り、双方の実質的な衡平を目指したものと解される。 このような特許法35条の趣旨に照らして前記事実関係をみると、原告は、昭和37年4月から平成6年3月まで被告三徳の従業員として一貫して技術生産管理の分野を担当し、前記在籍期間中の平成5年ころから、本件発明の実験を開始し、平成6年4月からは、当該発明の技術分野においては、技術的にも経済的にも被告三徳と一体の関係にある日徳工業の従業者であったものであることに加え、 被告三徳と日徳工業の間では、日徳工業の技術・ノウハウは、すべて被告三徳が管理し、日徳工業における希土類回収の業務に関し被告三徳が実質的に指揮監督を及ぼす関係にあるという体制が採られており、スラッジからの希土類金属の回収業務については、両者が技術的にも経済的にも一体的な関係にあることから、原告は、 本件発明が実験室レベルで完成したとき、これを被告三徳のC社長に報告し、是非特許出願すべきであるという同社長の進言を受け容れて、日徳工業と被告三徳のどちらが出願人になるかを不明確にしたまま被告三徳の特許室による特許出願に協力したものであり、その後、被告三徳に本件発明の特許を受ける権利を承継させたことの対価を請求したところ、これを拒絶されたものである。前記のとおり、従業者のした発明から生ずる権利関係の帰属を当事者間の力関係に委ねることにより使用者に一方的に有利な結果が生じることになるような事態を避けることで労働者保護も図るという特許法35条の立法趣旨からすれば、このような場合にも、発明者である従業者の保護の必要性があることは、同条が適用される場面と異なるところはないというべきである。技術的にも経済的にも一体の関係にある日徳工業と被告三徳のどちらが出願人になるかによって、本件発明に関する権利承継の対価を受ける権利の帰趨に差が出るとすれば、それは原告にとって予期せぬ不利益を被らせることになる。原告と被告三徳との間に直接には「従業者等」と「使用者等」の関係がなかったからといって、本件発明の特許を受ける権利の承継を当事者双方の契約関係のみによって規律すべきであると解するのは、上記のような事実関係に照らして相当ではない(仮に契約関係のみで規律すべきであるとすれば、原告と被告三徳との間では、特許を受ける権利を譲渡することの合意はあるが、その対価の合意の成立には至っていないから、原告は対価の請求をできないと解するか、又は、契約の重要な要素についての合意が成立していない以上、譲渡契約そのものが成立に至っていないとみることになる。後者の場合には、被告三徳による本件発明の特許出願がいわゆる冒認出願ということになるから、拒絶事由に該当し(特許法49条6号)、特許になった後も無効理由がある(同法123条1項6号)ことになる。)。 したがって、本件発明は、日徳工業における原告の職務に基づく発明であると同時に、被告三徳との関係においてもその職務に基づく発明と同視できるものであり、原告は、C社長との合意により、被告三徳に本件特許を受ける権利を承継させたのであるから、前記のように、その対価の額につき合意が成立していなくとも、特許法35条3項の類推適用により、被告三徳から相当の対価の支払を受ける権利を有するものと解するのが相当である。 (4) そこで、相当の対価の額について検討する。 ア 特許法35条4項は、「前項の対価の額は、その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」と規定している。 従業者による職務発明の場合、使用者は当該発明について無償の通常実施権を当然に有するのであるから(同条1項)、「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」(同条4項)は、特許権や専用実施権の価値から使用者が当然に有している法定通常実施権の価値を差し引いた額を意味すると解される。したがって、その額の算定に当たっては、特許権の譲渡等を受けることにより、職務発明について単に通常実施権を取得するにとどまることを超えて、その実施を排他的に独占し得る地位を取得したことにより使用者が初めて受けることになると見込まれる利益(すなわち、一般的には、使用者が他に有償で実施させたとすれば得られるであろう実施料の額がこれに相当すると考えられる。)を基にすべきである。 この点について、原告は、本件発明が日徳工業で実施され、それにより被告三徳が日徳工業に支払うべき処理加工賃が減少したことに伴う利益額を基準に、相当な対価を算出すべきであると主張するが、上記の理由から原告の主張は採用できない。 イ そこで、上記の観点から、本件発明により「使用者等が受けるべき利益の額」について検討する。 (ア) 本件発明の意義・有用性 本件発明の技術的特徴は前記2(1)で認定したとおりであり、希土類回収の技術分野において、従来技術である乙2発明のように塩酸を使用するのではなく、硝酸を使用したこと、硝酸を使用する場合の問題点であったNOガスが発生しないようなpH値や温度の設定範囲を見い出し、かつ、硝酸の使用量を減らした点にあり、工業的にみれば、広い設置場所と多額の設備投資を要する焼成炉が必要なスラッジ焼成工程を不要とし、生スラッジの処理量の大幅な増加をもたらした(前記2(2)認定の事実、甲7、原告本人)ものである。 (イ) 本件発明の実施状況 前記のとおり、本件発明については、日徳工業の関係でも職務発明であるから、日徳工業は、特許法35条1項により、本件発明が特許されたときには無償の通常実施権を有するとともに、特許付与前においても通常実施権に準じた無償の実施権を有するものと解される。 しかるところ、乙9によれば、希土類金属の回収業務は、日本国内において日徳工業のみが行っていることが認められ、現時点において、被告三徳が、 第三者に対し、本件発明を実施させたり、本件発明の特許を受ける権利や登録後の特許権を譲渡したりする可能性が具体的に存することを裏付ける証拠はない。ただし、住友金属鉱山が希土類金属の回収に関する特許を出願しているように(乙1発明、乙2発明)、被告三徳及び日徳工業以外にも希土類金属の回収業務について技術開発をしている会社があることからしても、潜在的には実施能力を有する企業がないわけではなく、将来、他社がこの業界に参入する可能性が全くないとはいえないから、本件発明は、被告三徳及び日徳工業による同業務の独占的な状態を将来にわたって維持することについて、一定の機能を果たしていると考えられる(仮に原告が本件発明の特許を受ける権利を被告三徳に承継させることなく、自ら出願して特許の付与を受けるに至った場合を想定すると、本件発明を他社に実施させる可能性が出てくる。)。 前記のとおり、日徳工業は本件発明を実施しているが、被告三徳は、 自らは本件発明の実施をしておらず、磁石の粉末(スラッジ)を日徳工業に供給し、日徳工業が本件発明を実施してその処理を行い、回収した希土類の納入を受けるという関係にあり、本件発明が日徳工業によって使用されることにより、生スラッジの処理量が増加し、ひいては被告三徳に供給される希土類の量も増加するということになる。 (ウ) 被告三徳が希土類回収により得た利益等 証拠(甲3、7、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、日徳工業においては、前記のとおり、原告による本件発明の完成後、被告三徳のC社長の意向を受けて、本件発明の工業化に取り組み、平成8年7月ころから、スラッジの処理方法を従来の焼成工程を経る方法から徐々に焼成工程を経ない本件発明による方法に変えていったこと、その結果、日徳における生スラッジの処理量は飛躍的に増加し、平成7年7月から平成8年6月までの処理量は679トンであったのが、平成8年7月から平成9年6月までは1127トン、平成9年7月から平成10年6月までは1727トン、平成10年7月から平成11年3月まで(9か月分)は1628トン(この期間中に、焼成工程を経る方法による処理はされなくなった。)、 平成11年4月から平成12年3月までは2379トンであったこと、このような生スラッジ処理量の増加に伴い、加工賃収入が増加し、平成9年7月から平成10年1月までの間の月平均加工賃収入は約3464万円であったが、平成10年2月から同年6月までの月平均加工賃収入は約4419万円となり、経常利益の大幅増をもたらしたこと、一方、被告三徳においても、日徳工業での生スラッジ処理量の増加によって希土類回収量が増加し(平成8年7月から平成9年6月までの期間の回収量は約191.6トンであったが、その後増加していき、平成11年4月から平成12年3月までの期間の回収量は約370トンになっている。)、被告三徳から日徳工業へ支払われる処理加工賃単価は、処理量の大幅増によって減額されていき(平成8年7月から平成9年6月までの期間では希土酸化物1s当たり1770円であったが、平成11年4月から平成12年3月までは同1400円となっている。なお、同期間の年間加工賃総額は約5億1800万円となる。)、被告三徳においても利益を得るともに、被告三徳では、取引先の磁石メーカーに対して、従来より大量のスラッジを引き取ることが可能となったことにより、磁石素材の注文増につながるという営業上のメリットもあったことが認められる。 (エ) 本件発明の登録可能性等 本件発明は、既に平成9年8月19日に出願公開されているが、いまだ登録になっていない。弁論の全趣旨によれば、被告三徳は、現在まで審査請求を行っていないものと認められるが、これは、前記のように希土類回収事業を日徳工業が独占的に行っており、被告三徳において他の企業にライセンスする予定もないことから、特に現時点で特許を取得することに格別のメリットを有していないと判断していることによるものと推察される(もっとも、このように、本件発明の特許出願をいわば防衛的な手段として利用する形での対応を被告三徳が選択できるのも、被告三徳が原告から特許を受ける権利を承継して、出願人となっていることによるという面がある。)。一方、本件発明の出願前の公知技術としては、本件公開公報にも記載されたものがあるが、特に本件発明に近接した技術と考えられる住友金属鉱山の乙2発明との関係では、pHの範囲が異なっており、本件に現れた証拠からは拒絶理由が存在することが明白とはいえないが、他方で審査請求された場合に、新規性及び進歩性が認められて確実に特許されるとも断じがたい。 (オ) その他の事情 被告三徳においては、平成7年4月に定められた「職務発明出願と報償金制度について」の定めがあるが、これによれば、職務発明については特許を受ける権利を会社へ譲渡するものとし、発明1件につき発明奨励金を3000円以上、特許出願した場合はこれに加えて1件1万円の出願補償金を支払うものとされている(乙15)。なお、日徳工業には職務発明に関する規定は置かれていない(弁論の全趣旨)。原告は、平成9年7月で日徳工業の取締役を退任した後、同年8月から平成11年3月末まで日徳工業の技術顧問の地位にあり、その間は年収600万円を得ていた。 以上の事実に基づいて、本件発明により「使用者等が受けるべき利益の額」を検討するに、本件発明は生スラッジ処理においてその処理量の顕著な増加をもたらし、本件発明を実施している日徳工業に対しては経常利益の大幅増をもたらすとともに、被告三徳に対しても、日徳工業に対して支払う処理加工賃単価の減額を得ながら希土類の回収量の増加をもたらし、取引先にも営業上有利な立場に立てるという点で価値の大きなものであるといえること、一方で、現時点においては、 被告三徳及び日徳工業のみがこのような業務を行っており、他に競合する業者がいないこと、したがって、現実には本件発明を第三者に実施許諾する事態が生じる可能性は低いが、潜在的には実施の能力を有する企業もあると考えられること、本件発明は特許出願され出願公開がされているが、審査請求がされておらず、特許登録にならないで終わる可能性も相当あること、などの事情を総合考慮する必要がある。仮に本件発明の実施を日徳工業が行わず、被告三徳において第三者に許諾したと仮定した場合には、当該第三者は、平成11年4月から平成12年3月までの期間に被告三徳が得られた希土類回収量370トンの少なくとも半分程度の185トンは得られたものと推定でき、これに対して支払われる同期間の希土類酸化物1s当たりの処理加工賃1400円を乗じると2億5900万円となる。そして、本件発明の技術分野、内容、実施業務の内容及び態様等からすれば、これに対する実施料率は3%とするのが相当であり、特許になった場合の特許権の存続期間である出願から20年の半分である10年をもって実施許諾契約の期間として算定すると、 実施料の総額は7770万円となる。 以上の事実を総合勘案し、ことに、本件発明が前記のような価値があるといっても、職務発明であることにより日徳工業が無償の法定実施権を有しており、日徳工業や被告三徳が本件発明によって受けた利益は、日徳工業が実施権を有することによってほぼまかなわれているとも考えられることや、本件発明の権利としての不確実性等を考慮すると、前記7770万円のおおよそ20分の1に当たる400万円をもって、「使用者等が受けるべき利益の額」とするのが相当である。 ウ 次に、本件発明について「使用者等が貢献した程度」を検討するに、前記認定事実によれば、本件発明の着想及び発明がほぼ完成するまでの実験・考察等はもっぱら原告が独自にしたものであるが、一方、原告は、日徳工業において一貫して技術生産管理の分野を担当し、取締役・工場長の地位にあったもので、本件発明は、原告の職責上担当していた技術分野に属するものであること、原告は日徳工業の実験設備を用いて実験するなどして本件発明の完成に至っていること、本件発明の特許出願に当たっては、被告Bが先行技術である乙2発明等との関係を考慮して明細書を作成していることなどを考慮すると、本件発明がされるについて「使用者等が貢献した程度」は50%とみるのが相当である。 エ 前記のとおり、被告三徳には職務発明に関する規定が存するが、その内容は、本件発明の特許を受ける権利の譲渡の対価として相当なものとはいえない。 また、原告が日徳工業の取締役を退任した後も技術顧問として年間600万円の報酬を受けていたことについても、原告が本件発明をしたことの対価としての性質を有していたとは認められないから、相当な対価を算定するに当たって考慮すべき事情には当たらない。 オ そうすると、原告が被告三徳から支払を受ける対価の相当額は、200万円〔400万円×(1-0.5)〕となる。 (4) 以上によれば、原告の請求第3項については、被告三徳に対し、金200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年12月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(なお、原告は年6分の割合による遅延損害金を請求するが、特許法35条3項の職務発明の対価請求権は商行為によって生じたもの(商法514条)とはいえない。)。 6 よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 阿多麻子 |
裁判官 | 前田郁勝 |