関連審決 | 無効2000-35385 無効2001-35061 |
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関連ワード | 発明者 / 加工方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 援用権(援用) / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
200号
審決取消請求事件
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原告 昭和電工株式会社 原告 システム精工株式会社 両名訴訟代理人弁護士 花水征一 同 木村耕太郎 同 伊藤玲子 両名訴訟代理人弁理士 橋本正男 被告 ホーヤ株式会社 訴訟代理人弁護士 片山英二 同 本多広和 訴訟代理人弁理士 関谷三男 同 岩田弘 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/05/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が無効2000-35385号事件について平成13年3月27日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 昭和アルミニウム株式会社(以下「昭和アルミ」という。)は,発明の名称を「研磨方法及び研磨装置」とする特許第2535089号の特許(平成2年4月27日出願,平成8年6月27日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者であった。昭和アルミは,原告昭和電工株式会社に吸収合併され,平成13年3月30日に,その旨の登記がなされた(この事実は,争いがあるが,本件記録から明らかである。)。 原告システム精工株式会社は,昭和アルミから本件特許の一部を譲り受け,平成9年5月26日,その登録を了した。 被告は,平成12年7月18日,本件特許を請求項1ないし3のいずれに関しても無効にすることについて審判を請求した。 特許庁は,この請求を無効2000-35385号事件として審理し,その結果,平成13年3月27日,「特許第2535089号の請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との審決をし,審決の謄本を同年4月11日に原告らに送達した。 2 特許請求の範囲(別紙図面参照) 【請求項1】太陽歯車と,該太陽歯車の同心外方部に配置された内歯歯車と,両歯車間に両歯車に噛合状態に配置された外歯歯車状の複数のワークキャリアーとが備えられ,該ワークキャリアーはその中心から偏心した位置に複数のワーク保持部を有し,太陽歯車と内歯歯車との作用でワークキャリアーを太陽歯車の回りで自転させながら公転させ,前記複数のキャリアーに保持されたすべてワークを一括して研磨加工する研磨加工部が備えられ,該研磨加工部は,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され,該研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各未加工ワークを待機させる未加工ワーク待機部が配置されると共に,同じく研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各加工済ワークを待機させる加工済ワーク待機部が配置され,かつ,前記未加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する未加工ワーク一括移送装置と,前記研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する加工済ワーク一括移送装置とがそれぞれ備えられた研磨装置を用い,研磨加工部でワークの研磨加工を終了し,研磨加工部の各ワーク保持部の加工済ワークを加工済ワーク一括移送装置にて一括して取り出した後,未加工ワーク一括移送装置にて未加工ワークを研磨加工部の各ワーク保持部に一括して配置し,研磨加工部でのワークの研磨加工を再開することを特徴とする研磨方法(以下「本件発明1」という。)。 【請求項2】太陽歯車と,該太陽歯車の同心外方部に配置された内歯歯車と,両歯車間に両歯車に噛合状態に配置された外歯歯車状の複数のワークキャリアーとが備えられ,該ワークキャリアーはその中心から偏心した位置に複数のワーク保持部を有し,太陽歯車の回転駆動によりワークキャリアーを太陽歯車の回りで自転させながら公転させ,前記複数のキャリアーに保持されたすべてワークを一括して研磨加工する研磨加工部が備えられ,該研磨加工部は,太陽歯車,内歯歯車及びワークキャリアー相互間の歯数比が1:3:1に設定され,かつ,太陽歯車が,その回転駆動開始後,4の整数倍数回回転された時点で,回転を停止し研磨加工を終了するように駆動制御されるようになされることによって,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるようになされ,該研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各未加工ワークを待機させる未加工ワーク待機部が配置されると共に,同じく研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各加工済ワークを待機させる加工済ワーク待機部が配置され,かつ,前記研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する一方,前記未加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する1個ないし複数個のワーク一括移送装置が具備されてなることを特徴とする研磨装置(以下「本件発明2」という。)。 【請求項3】太陽歯車と,該太陽歯車の同心外方部に配置された内歯歯車と,両歯車間に両歯車に噛合状態に配置された外歯歯車状の複数のワークキャリアーとが備えられ,該ワークキャリアーはその中心から偏心した位置に複数のワーク保持部を有し,太陽歯車の回転駆動によりワークキャリアーを太陽歯車の回りで自転させながら公転させ,前記複数のキャリアーに保持されたすべてワークを一括して研磨加工する研磨加工部が備えられ,該研磨加工部は,太陽歯車,内歯歯車及びワークキャリアー相互間の歯数比が1:3:1に設定され,かつ,太陽歯車が,その回転駆動開始後,4の整数倍数回回転された時点で,回転を停止し研磨加工を終了するように駆動制御されるようになされることによって,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるようになされ,該研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各未加工ワークを待機させる未加工ワーク待機部が配置されると共に,同じく研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各加工済ワークを待機させる加工済ワーク待機部が配置され,かつ,前記未加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する未加工ワーク一括移送装置と,前記研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する加工済ワーク一括移送装置とがそれぞれ備えられ,研磨加工部でワークの研磨加工を終了し,研磨加工部の各ワーク保持部の加工済ワークを加工済ワーク一括移送装置にて一括して取り出した後,未加工ワーク一括移送装置にて未加工ワークを研磨加工部の各ワーク保持部に一括して配置し,研磨加工部でのワークの研磨加工を再開するように,動作制御されるものとなされていることを特徴とする研磨装置(以下「本件発明3」という。)。 3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本件発明1は,実願昭60-34029号(実開昭61-151858号)のマイクロフイルム(甲第4号証,審判の甲第1号証刊行物。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開昭62-136364号公報(甲第5号証,審判の甲第2号証。以下「刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件発明2及び3は,引用発明1及び2並びに「技能ブックス13 歯車のハタラキ」(昭和48年12月20日株式会社大河出版初版発行。甲第6号証,審判の甲第5号証刊行物。以下「刊行物3」という。)に記載された技術に基づいていずれも当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件特許は,請求項1ないし3のいずれについても,特許法29条2項に違反して特許されたものであるから,無効とすべきである,と認定判断した。 |
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原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由【1】ないし【3】は認める。【4】1(1)については,審決書5頁16行ないし21行の「該ラップ盤は,・・・を備えたものであって,」との部分,及び,6頁4行ないし9行を争い,その余は認める。【4】1(2)及び(3)は認める。【4】2については,6頁35行ないし7頁1行の「該研磨加工部は・・・配置され」との部分,及び,7頁36行ないし8頁35行を争い,その余は認める。【4】3については,8頁37行ないし9頁19行を,9頁16行,17行の「遊星歯車は,太陽歯車と同じ4回転して元の位置に戻る」との部分を除いて認め,その余は争う。【4】4については,10頁15行ないし19行を認め,その余を争う。【5】は争う。 審決は,本件発明1ないし3と引用発明1との一致点の認定を誤り,相違点を看過し(取消事由1),本件発明1ないし3と引用発明1との相違点の判断を誤り(取消事由2,3),本件発明2及び3と引用発明1との相違点の判断を誤り(取消事由4),本件発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由5)ものであり,これらの誤りはいずれも結論に影響を及ぼすものであるから,違法として,取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用発明1の誤認に基づく本件発明1ないし3と引用発明1との一致点の認定の誤り(相違点の看過)) 審決は,引用発明1について,「ラップ盤は,研磨加工終了時に,すべてのキャリア4のすべての保持穴3が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(審決書5頁16行〜18行)との構成を備えると認定した上,この認定に基づいて,本件発明1と引用発明1が「研磨加工部は,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(同6頁35行〜37行)との点で一致すると認定し,本件発明2及び3についても,この点で一致することを前提として引用発明1との相違点を認定している(同8頁37行〜9頁1行,10頁15行〜19行)。 しかしながら,引用発明1についての審決の上記認定は誤りであり,この認定を前提としてなされた上記各一致点の認定も誤りである。すなわち,審決は,引用発明1についての認定を誤ったため,同発明と本件発明1ないし3との一致点・相違点の認定において,相違点としなければならない事項を一致点とする誤りを犯した。 (1) 「研磨加工終了時」についての認定の誤り 本件発明1ないし3の「研磨加工終了時」とは,本件請求項1ないし3の文言からも明らかなように,「研磨加工部の駆動停止状態」を指す。本件発明1ないし3における研磨加工に関連する工程を,(@)下降(上部定盤が下降してワークに接触する工程),(A)回転(ワークキャリアー,上部定盤,及び,下部定盤のそれぞれが回転を始める工程),(B)停止(ワークキャリアー,又は,上部定盤及び下部定盤のそれぞれが回転を停止する工程),(C)上昇(上部定盤が上昇してワークから離れる工程),に区分すれば,「研磨加工終了時」は,(B)の時点を意味するものである。 これに対し,刊行物1に,「水平アーム部材(18)の一方の円形先端部の下方に重なるようにキャリヤ(4)を持来し,さらにそのキャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決めを行う。」(甲第4号証7頁10行〜14行)と記載されていることからすれば,引用発明1における研磨加工は,上記の(@)下降,(A)回転,(B)停止(ただし,ワークキャリアーの回転停止を除く。),(C)上昇,(D)ワークキャリアーの停止位置決め,の各工程を,この順に経ていくものであることが,明らかである。このように,引用発明1では,研磨加工終了後に,(D)ワークキャリアーの停止位置決めの工程が行なわれるのであり,研磨加工終了時に停止位置決めが行なわれるのではない。 (2) 「位置決め」についての認定の誤り (ア) 本件発明1ないし3における「研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止され」との意味は,請求項1及び3に記載されているように,未加工ワーク待機部及び加工済ワーク待機部のワーク保持穴の位置に対し,研磨加工終了時におけるすべてのキャリアーのすべてのワーク保持部の配置関係が対応するように停止されることを意味する。この状態は,本件特許の特許公報第1図(甲第3号証)に記載されているとおりであり,未加工ワーク待機部の6個の保持穴23,研磨加工部の6個の保持穴19そして加工済ワーク待機部の6個の保持穴24がそれぞれ対応するような配置関係にある。本件発明では,このように未加工ワーク待機部,研磨加工部,及び加工済ワーク待機部に存在するすべてのワーク保持穴がそれぞれ所定の配置関係にあるので,ワーク相互間の相対位置関係の変更調査を行うことなく,ワークをそのまま受け取り移送することが可能であり,一括搬送を簡素な構成で行うことが可能となる(甲第3号証13欄9行〜31行)。 これに対し,引用発明1における停止位置の位置決めとは,ワークの取出しの行なわれるキャリヤの保持穴3をクランプ機能部分21の真空吸引カップ19と合致させるための停止位置決めであって,本件発明の未加工ワーク待機部,研磨部及び加工済ワーク待機部におけるすべてのワーク保持部をその配置関係において所定の定位置に停止させるとの技術思想は何ら開示されていない。引用発明1では,ワークを取り上げるクランプ機能を調整することによっても位置決めの目的は達成される。本件発明1ないし3では,このようなことは必要ではなく,このようなことは,しようとしてもできないのである。 (イ) 引用発明1において停止位置決めがされているのは,最初のキャリヤに関してのみであり,他のキャリヤのキャリヤの保持穴は,所定の位置にはない。したがって,引用発明1の実施例では,4回の位置合わせがなされる必要がある。 (ウ) 刊行物1には,「キャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決めを行う。このことは,太陽歯車(5)と内歯歯車(6)の歯数,回転比の適正な選定によって可能である」(甲第4号証7頁12行〜16行)と記載されてはいるものの,上記以外に,各歯車の歯数,回転比について,具体的にどのように選定するか,全く記載されていない。刊行物3に「遊星歯車装置の3要素の回転比は,なかなかややこしい関係にあります」(甲第6号証84頁左欄19行〜20行)と記載されていることからも分かるとおり,遊星歯車装置において所定の位置に停止させることは容易なことではないと考えるのが,当時の当業者の常識である。したがって,刊行物1の上記の程度の記載では,キャリヤの停止位置決めについての技術的な開示があるとはいえず,この開示があることを前提としてなされた審決の前記一致点の認定は,当業者の常識に反するものである。 2 取消事由2(本件発明1ないし3と引用発明1との相違点1の判断の誤り) 審決は,本件発明1と引用発明1との相違点の一つ(審決のいう「相違点1」),すなわち,「加工済みワークの取り出し及び未加工ワークの配置に係る構成が,本件請求項1に係る発明においては,研磨加工部の複数のキャリアーからすべてのワークを一括して取り出し,また,該加工部の複数のキャリアーへすべてのワークを一括して配置するものであるのに対して,甲第1号証刊行物に記載された発明においては,研磨加工部の複数のキャリアーから1つのキャリアー単位で複数のワークを一括して取り出し,該加工部の複数のキャリアーへ1つのキャリアー単位で複数のワークを一括して配置するものである点。」(審決書7頁7行〜14行)につき,「甲第1号証刊行物には,複数のワークを取り扱うにあたり,ワークを一個毎に取り扱うことなく,一括して取り扱うことにより,処理を効率化しようとする技術思想が記載されている。また,本件請求項1に係る発明において複数のキャリアーの複数のワークを一括して取り扱うものとすることは,研磨加工部のすべてのワークを一括して取り出し,また,一括して配置する目的のためであり,1つのキャリアー単位で複数のワークを一括して取り扱うものを,さらに多数のものとして取り扱おうとすることにほかならず,より多数もの(判決注・「多数もの」とあるのは「多数のもの」の誤りであると認める。)を一括して取り扱おうとすれば当然になされる事項である。したがって,ワークのみを一括して取り出すにあたり,1つのキャリアについてなされているものをすべてのキャリアについて適用することによって,この相違点において掲げた請求項1の発明のごとくすることは,当業者が容易に想到できたものである。」(審決書8頁1行〜13行)と判断し,本件発明2及び3についても,この判断を援用したが(同8頁37行〜9頁1行,10頁11行〜13行,10頁20行〜21行),この判断は誤りである。 (1) 引用発明1は,アームによって搬入と搬出とを同時に行うことにより,処理の効率化を図っているのであって,ワークを一個毎に取り扱うことなく,一括して取り扱うことにより処理を効率化しようとすることを意図するものではない。刊行物1には,1個のキャリヤのすべてのワークの搬入・搬出が同時に行われている例が記載されているものの,これは,同時に搬入・搬出する対象がたまたま1個のキャリヤのすべてのワークであったからであって,ワークを一括して取り扱うことにより処理を効率化しようと意図したものではない。 (2) 刊行物1にも,すべてのキャリヤのすべてのワークを一括して搬送する方法が開示されていることは,事実である。しかし,それは,キャリヤとワークとを一緒に搬送する方法であって(甲第4号証第7図参照),キャリヤを搬送することなくワークのみの搬送を行う方法は開示されていない。刊行物2でも,ワークをキャリアごと吸着して持ち上げる方法が作業上効率が悪いことが記載されている(甲第5号証2頁左下欄5行〜12行,10頁左上欄10行〜17行参照)。 これらを素直に読めば,引用発明1の出願当時,すべてのキャリヤのすべてのワークを,キャリヤを搬入・搬出することなく,搬入・搬出する方法の採用は考えられなかったことを意味していると解釈するしかない。引用発明1の発明者は,すべてのキャリヤのすべてのワークの,キャリヤの搬入・搬出を伴わない,搬入・搬出を不注意で書き落したのではなく,当時,遊星歯車機構の理論は知られていたものの,これを実際の装置においてすべてのキャリヤのすべてのワークを正確に所定の位置に持ってくることは,実務上極めて困難と考えられていたため,意図的に記載しなかったのである。すべてのキャリヤのすべてのワークをキャリヤを搬送することなく搬送するには,すべての吸引カップのすべてのワークの保持穴に対する正確な位置決めが必要であるのに,引用発明1では,1個のキャリヤについてすら正確な位置決めが困難で,クランプ機能部分の微動回転によって調整しているのである。引用発明1がこのようなものであるとすると,そこでは,すべてのキャリヤのすべての保持穴を,対応する吸引カップに正確に位置決めすることなどはおよそ考えられないことであり,それゆえにこそすべてのキャリヤのすべてのワークを,キャリヤの搬入・搬出を伴うことなく,同時に搬入・搬出する方法が刊行物1に記載されていなかったのである。 (3) 被告は,研磨加工部からすべてのワークのみを一括して取り出し,一括して配置することが,特開平1-140960号公報(乙第1号証),特開昭51-68182号公報(乙第2号証),及び,実願昭55-64955号(実開昭56-166141号)のマイクロフイルム(乙第3号証)により周知であると主張するが,被告の挙げるものにみられる技術は,いずれも,本件発明1ないし3における一括移送とは関係がないものである。 3 取消事由3(本件発明1ないし3と引用発明1との相違点2及び相違点3の判断の誤り) 審決は,本件発明1と引用発明1の相違点の二つ(審決のいう相違点2及び3),すなわち,「相違点2:ワーク待機部について,本件請求項1に係る発明においては,未加工ワーク待機部と加工済みワーク待機部との二つの部材としているのに対して,甲第1号証刊行物に記載された発明においては,未加工ワーク待機部と加工済みワーク待機部とを兼用する一つの部材としている点。 相違点3:移送装置について,本件請求項1に係る発明においては,未加工ワーク用と加工済みワーク用移送装置と加工済みワーク用移送装置との二つの移送装置としているのに対して,甲第1号証刊行物に記載された発明においては,未加工ワーク用移送装置と加工済みワーク用移送装置とを兼用する 一つの部材としている点。」(審決書7頁15行〜23行)につき,刊行物2に「・・・搬入用インデックステーブル14と搬出用インデックステーブル15が設置され,搬入用インデックステーブル14及び搬出用インデックステーブル15とポリシャー1内のキャリア11との間の装填と取り出しとを行う手段として,それぞれ専用のワーク装填取り出し機構18を具備した装置及びこれを用いた方法。」(同6頁13行〜17行)が記載されていると認定した上,相違点2について「甲第1号証刊行物に記載された発明におけるワーク待機部に換えて甲第2号証刊行物に記載された発明におけるワーク待機部を適用し・・・本件請求項1に係る発明の構成のごとくするとすることは,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決書8頁17行〜21行)と判断し,相違点3についても,「甲第1号証刊行物に記載された発明におけるに移送装置に換えて甲第2号証刊行物に記載された発明における移送装置を適用し・・・本件請求項1に係る発明の構成のごとくするとすることは,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決書8頁25行〜29行)と判断し,本件発明2及び3についても,その判断を援用した(同9頁37行〜10頁1行,10頁11行〜13行,10頁15行〜21行)。 刊行物2に審決認定の記載があること,並びに,刊行物2記載の「インデックステーブル」及び「装填取り出し機構」が本件発明1の「ワーク待機部」及び「移送装置」に相当することは,事実である。しかし,審決の上記判断は誤りである。 引用発明1は,搬入と搬出とを1個のアームの旋回により同時に行なう点に特徴がある。刊行物2に記載された別個のワーク待機部及び別個の移送装置は,引用発明1の上記特徴とは相矛盾する。両者がこのような関係にあるとき,引用発明1に刊行物2記載の別個のワーク待機部及び移送装置を適用することを,当業者が考えることはあり得ない。 したがって,相違点2及び3についての審決の上記判断は誤りである。 4 取消事由4(本件発明2及び3と引用発明1との相違点4の判断の誤り) 審決は,本件発明2と引用発明1との間の相違点の一つ(審決のいう「相違点4),すなわち,「研磨加工部について,本件請求項2に係る発明においては,太陽歯車,内歯歯車及びワークキャリアー相互間の歯数比が1:3:1に設定され,かつ,太陽歯車が,その回転駆動開始後,4の整数倍数回回転された時点で,回転を停止し研磨加工を終了するように駆動制御されるものであるに対して,甲第1号証刊行物に記載された発明においては,この点について記載がない点。」(審決書9頁2行〜7行)につき,「出力軸/入力軸の回転比が1/4となるということは,太陽歯車が4回転すると腕が1回転,すなわち,1公転して元の位置に戻り,太陽歯車と遊星歯車が同じ歯数であるから,遊星歯車は,太陽歯車と同じ4回転して元の位置に戻ることについては甲第5号証刊行物に記載されている。」(審決書9頁14行〜17行),すなわち,相違点4に係る本件発明2の構成が,刊行物3に記載されていると認定判断し,また,相違点4に係る本件発明3の構成についても同様に認定判断した(審決書10頁20行〜21行)。 しかし,刊行物3の記載は,太陽歯車,内歯歯車及び遊星歯車(本件発明2及び3のワークキャリアーに相当)相互間の歯数比が1:3:1で,内歯歯車を固定した場合に,太陽歯車が4回転したときに遊星歯車が1回公転することを意味するにすぎず,遊星歯車が何回自転したかを教えるものではない。実際の計算によれば,遊星歯車は-2回転(判決注・「-」は,太陽歯車と逆方向の回転を意味する。)するのであって,審決のいうように4回転するのではない。 したがって,相違点4に係る本件発明2の構成は,刊行物3に記載されておらず,「甲第5号証刊行物に記載された発明を甲第1号証刊行物に記載された発明に適用することにより,この相違点において掲げた本件請求項2に係る発明の構成のごとくする当業者が容易に想到することができたものである。」(審決書10頁4行〜7行)との審決の判断,並びに,本件発明3についての同様の判断(同10頁20行〜21行)は誤りである。 5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過) 本件発明は,その出願当時,遊星歯車機構の理論を実際の装置に適用して正確に位置決めすることが困難であったことから,せいぜい,各キャリアー毎でワークの位置決めをするか,又はキャリアーと一緒にワークを搬送するしかないと当業者が考えていた常識を打ち破り,すべてのワークの正確な位置決めを実務上可能とし,これによりすべてのキャリアーのすべてのワークを一括して自動的に処理でき,しかも研磨装置の全体を簡素化できるという,産業上極めて有用な作用効果を達成しているものである。 したがって,「本件請求項1に係る発明を全体としてみても,甲第1号証刊行物及び甲第2号証刊行物に記載された発明の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものとも認めることができない。」(審決書8頁30行〜32行)との審決の判断,並びに,本件発明2及び3について,「全体としてみても,甲第1号証刊行物,甲第2号証刊行物,甲第5号証刊行物に記載された発明の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものとも認めることができない。」(同10頁8行〜10行,10頁22行〜24行も同旨)との審決の判断は誤りである。 |
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被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1 取消事由1(引用発明1の誤認に基づく本件発明1ないし3と引用発明1との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について (1) 「研磨加工終了時」について 本件発明1ないし3の研磨加工工程には,(i)下降(上部定盤が下降してワークに接触する工程),(ii)回転(ワークキャリアー,上部定盤,及び,下部定盤のそれぞれが回転を始める工程),(iii)停止(ワークキャリアー,上部定盤,及び,下部定盤のそれぞれが回転を停止する工程),及び,(iv)上昇(上部定盤が上昇してワークから離れる工程)が,必然の工程として存在する。そして,「研磨加工終了時」とは,通常,上記4つの工程が,全部終了した時点をいうものである。 本件明細書をみると,発明の詳細な説明中に,「研磨加工部(1)では,上部定盤(12)が下降作動し,基板(A)の上下面が上下の砥石(17)(18)で加圧状態に挟持され,その状態で太陽歯車(13)が回転作動され,更に上下の定盤(11)(12)も回転作動されて基板(A)の研磨処理がなされる。そして,太陽歯車(13)の所定回数(4の整数倍数回)の回転完了後,上部定盤(12)が上昇作動される。」(甲第3号証6頁左欄49行〜右欄5行)と記載されており,実施例として記載されているものにおいては,研磨加工終了時である工程(iv)より前の工程(iii)において,「ワーク保持部が所定の定位置にて停止される」(甲第3号証4頁右欄38行〜39行)のであるから,本件発明の詳細な説明に記載されているところは,厳密には,「研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止される」ものとしている,本件発明1ないし3の構成と矛盾していることになる。このような矛盾点を考慮すれば,本件発明の「研磨加工終了時」は厳密に解釈すべきものではない,ということができる。すなわち,研磨加工工程については,工程(iii)と工程(iv)の実施順序を逆にすることも可能であると考えられのであり,本件発明1ないし3は,その全体の構成からして,「上部定盤が上昇してワークから離れた後に,ワークキャリアーのワーク保持部が停止する」との技術的概念を排除しているものではないというべきである。 引用発明1においては,工程(iii)と工程(iv)の時間的前後関係は,明示的に区別されており,一方のみを採用し他方を排斥することは何ら述べられていないから,同発明には,工程(iii)の研磨加工部が回転を停止した後に,工程(iv)の上部定盤が上昇するものと,工程(iv)の上部定盤が上昇した後に,工程(iii)の研磨加工部が回転を停止し,停止位置決めを行うものの両方が含まれる,と理解すべきである。このように理解したとしても,工程(i)及び工程(ii)の後に,工程(iv)を実施し,その後に工程(iii)を実施するものも,上述した理由により,研磨加工終了時にワーク保持部が所定の定位置にて停止されるものであると解することができる。 (2) 「位置決め」について (ア) 本件発明1ないし3において,「すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が・・・所定の定位置にて停止」する,とは,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が,それぞれ異なる所定の定位置にて停止することを意味するものであって,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が,同じ所定の定位置にて停止するものではない。また,「所定の定位置」とは,あらかじめ定めた位置という意味であって,原告らが主張するような,未加工ワーク待機部及び加工済ワーク待機部のワーク保持穴の位置と対応する特定の位置を意味するものではない。 請求項1の「該研磨加工部に隣接して,この研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各未加工ワークを待機させる未加工ワーク待機部が配置されると共に」との構成は,各ワーク保持部に対して未加工ワーク待機部をどのような対応の配置関係にするかを限定し,ワーク保持部と未加工ワーク待機部との関係を明確にしているにすぎない。ワーク保持部と未加工ワーク待機部との間に上記関係があるからといって,前記「所定の定位置」自体の技術的意味が限定されるものではない。 (イ) 刊行物1には,「先づ前記のように搬入搬出端位置を占めた水平アーム部材(18)の一方の円形先端部の下方に重なるようにキャリヤ(4)を持来し,さらにそのキャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決めを行う。このことは,太陽歯車(5)と内歯歯車(6)の歯数,回転比の適正な選定によって可能である」(甲第4号証7頁9行〜16行)と記載されている。 この種の遊星歯車装置の技術分野において,遊星歯車機構の各歯車(太陽歯車,内歯歯車,及び,遊星歯車)の歯数,回転比等から各歯車の公転や自転を算出すること,あるいは,逆に,各歯車の公転や自転の数等から各歯車の歯数や回転比等を算出することは,本件特許の出願前から,当業者においては,自明な事項として確立しているものである(甲第6号証,乙第6,第7号証参照)。 そもそも,原告の主張するように,遊星歯車理論によって,各遊星歯車の,したがってまたキャリアーの定位置への停止を実現することが困難であるとするならば,例えば,「相互間の歯数比が1:3:1に設定され,かつ,太陽歯車が,その回転駆動開始後,4の整数倍数回回転された時点で,回転を停止し研磨加工を終了するように駆動制御される」との遊星歯車理論に従った条件の記載しかない本件特許発明の請求項2や3においても,およそその実施は不可能であるということになる。このような結論が明らかに不合理であることは原告らも認識しているはずである。原告らは,本件特許に関する別件の無効審判請求事件(無効2001-35061事件)における答弁書において,「当初の明細書で明示しているようにキャリアーを複数とする構成も記載されており,この場合には文言で何の説明がされなくても1つのキャリアーがもとの位置をとって停止すれば遊星歯車装置では原理的に他のキャリアーも必ずもとの位置(公転,自転共に)をとるので,とくに各キャリアーの動作を言葉で説明する必要なく,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の位置にて停止されるように駆動制御することは記載されているのである。」(乙第8号証9頁11ないし17行目)と,本訴におけるのとは全く正反対の主張をしているのである。 このように,遊星歯車機構を採用した研磨機においては,遊星歯車に該当するキャリアーのすべてが定位置に停止することは技術的に自明な事項であり,引用発明1においても,一つのキャリヤが定位置に停止すれば他のキャリヤも当然に定位置に停止することが,当然の前提とされているのである。 引用発明1における「所定の定位置」の技術的意味を,クランプ機能部材の真空吸引カップとの関係における意味に限定して解釈すべきではなく,「研磨加工終了時」に,それぞれの場所は異なっても,それぞれにあらかじめ定めた特定の位置に停止していれば,その位置が「所定の定位置」に当たると解すべきである。引用発明1においては,「研磨加工終了時」には,四つのキャリヤのすべての保持穴が,それぞれに異なる所定の定位置に停止するのである。 (3) 以上のとおり,審決には,原告らが主張する引用発明1の誤認も,これに基づく,相違点とすべき事項を一致点としたという,一致点・相違点の認定の誤りもない。 2 取消事由2(本件発明1ないし3と引用発明1との相違点1の判断の誤り)について 刊行物1には,「研磨加工部の複数のキャリアーから1つのキャリアー単位で複数のワークを一括して取り出し,該加工部の複数のキャリアーへ1つのキャリアー単位で複数のワークを一括して配置するものである点」(審決書7頁11〜14行)が記載されているのであるから,この一括して取り出し,一括して配置するワーク移送を更に進めて,複数のキャリアーのすべてのワークを一括して取り出し,一括して配置するように,ワーク移送方法を想起する程度のことは,当該技術分野の当業者であれば,当然に予測できることであって格別のことではない。 刊行物1には,「本考案は,前記実施例に各種の変更を加えて実施することができる。例えば・・・第6図に略示のようにコンベヤ(23)にキャリヤ(4)を載せて搬送し,キャリヤとともに製品の搬出および材料の搬入の同時的操作を,この例では4回繰返して行うようにしてもよい。あるいは,さらに進んで,第7図に示すように,4キャリヤ諸共に製品の搬出および材料の搬入を行わせるようにすることも可能である」(甲第4号証9頁6〜18行)との記載があり,この後段の記載は,研磨加工したすべてのキャリアのすべての加工済製品を一括して取り出した後,機外側に配置されているすべての未加工材料を一括して機内側に配置するように構成できることを明確に示しているものである。 この種の研磨装置において,研磨加工部からすべてのワークのみを,すなわち,キャリヤとともにでなく,一括して取り出し,一括して配置することは,特開平1-140960号公報(乙第1号証),特開昭51-68182号公報(乙第2号証),及び,実願昭55-64955号(実開昭56-166141号)のマイクロフイルム(乙第3号証)にみられるように,周知の事項でもあるのである。 3 取消事由3(本件発明1ないし3と引用発明1との相違点2及び相違点3の判断の誤り)について 刊行物2には,本件発明1ないし3のワーク待機部に相当するインデックステーブルについて,「それぞれ一台ずつ計2台設置された搬入側及び搬出側用のインデックステーブル14,15」(甲第5号証3頁左下欄10行〜12行),及び「前記インデックステーブルは14,15で示す如く搬入側と搬出側とに一台ずつ計2台設けたが,これは一台だけで搬入及び搬出を兼用するようにしても可であり」(同6頁右下欄13〜16行)との記載があり,同じく本件発明1の移送装置に相当する装填取出機構について,「前記インデックステーブル14,15とポリシヤー1内のキャリア11との間で複数のワーク12を同時に持運んで装填・取出を行う手段として前記機台13上部中間に設置されたワーク装填取出機構18とから構成されている。」(同3頁左下欄17行〜右下欄1行),及び「前記ワーク装填取出機構18も一台だけでなく,キャリアへのワーク装填専用とキャリアからのワーク取出専用として2台或いはそれ以上設けて構成しても良い。」(同6頁右下欄19行〜7頁左上欄2行)との記載がある。 このように,刊行物2には,インデックステーブル及びワークの装填取出機構を,ワークの搬入及び搬出に兼用とすること,あるいは,専用とすること,及びその選択が可能であることが,すべて記載又は示唆されているのである。 引用発明1に,同じ技術分野の刊行物2記載の技術を適用することは,当業者が容易になし得ることである。その適用に当たって,引用発明1の一つの兼用のワーク待機部及び移送装置を,刊行物2に記載された,未加工材料待機部と加工済製品待機部との二つの部材とする程度のこと,あるいは,引用発明1の1台のワーク装填取出機構を,刊行物2に記載された,装填と取出しをそれぞれ行う2台の機構とする程度のことは,当業者が容易になし得る単なる設計上の変更というべきである。 相違点2及び相違点3についての審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(本件発明2及び3と引用発明1との相違点4の判断の誤り)について 「太陽歯車が4回転すると・・・太陽歯車と遊星歯車が同じ歯数であるから,遊星歯車は,太陽歯車と同じ4回転して元の位置に戻る」(審決書9頁14〜17行)との審決の認定中,遊星歯車が4回転するとの部分が誤りであることは,原告ら主張のとおりである。しかし,原告らも主張するように,太陽歯車が4回転すると,その間に遊星歯車は-2回転するのであるから,審決の上記認定中,遊星歯車は,「元の位置に戻る」との部分に誤りはない。そして,この部分に誤りがない以上,審決の上記誤りは,その結論に影響を及ぼすものではない。 5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 本件発明の作用効果は,引用発明1あるいは引用発明1及び刊行物3記載の技術の寄せ合わせにより奏する効果の域をでるものではない。本件発明の作用効果についての,審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項 甲第3号証によれば,本件明細書には,次の記載があることが認められる。 産業上の利用分野 この発明は,磁気ディスク用アルミニウム基板等のワークを複数個一括して研磨加工する研磨方法及び研磨装置に関する。(4欄16行〜20行) 従来の技術 従来,・・・研磨加工機(51)では,上部定盤(55)が上方待機位置に位置された状態で磁気ディスク用基板(A)がワークキャリアー(56)の保持孔(60)内に配置され,そして上部定盤(55)が下降作動されて磁気ディスク用基板(A)の両面が上下の砥石(52)(54)で挾まれる。そして,加圧状態において,太陽歯車(57)が回転されることによりワークキャリアー(56)が自転されながら太陽歯車(57)の回りで公転され,更に上下の定盤(53)(55)も回転されて,同時に複数個の磁気ディスク用基板(A)の両面の研磨加工がなされる。(4欄21行〜5欄3行) ところで,従来,・・・先行する磁気ディスク用基板(A)の研磨を完了して,上部定盤(55)が上方待機位置に復帰した状態において,作業者あるいはロボットが,研磨加工機(51)のキャリアー(56)に保持されている基板(A)を1個づつ取り出していき,そして取出しが完了したら今度は未加工基板を1つづつ上記のワークキャリアー(56)に配置していく。(5欄4行〜12行) 発明が解決しようとする課題 ・・・一回の研磨加工を終えて次の研磨加工を開始するまでの時間,即ち,研磨加工機(51)のアイドルタイムがかなり長いものとなってしまい,ワークの研磨処理スピードが遅くなってしまう。 この発明は,かかる問題点を解決し,複数個のワークを一括研磨加工する研磨加工機本体へのワークのローデング,アンローディングに要する時間,即ち研磨加工機本体のアイドルタイムを短縮し,研磨処理スピードを高めることができる研磨装置を提供することを主たる目的とする。(5欄14行〜27行) 課題を解決するための手段 請求項1ないし3と同旨 作用 上記第1ないし第3の発明にかかる研磨方法,研磨装置では,・・・ワーク一括移送装置にて,研磨加工部で研磨加工し終えた各ワークを一括して加工済ワーク待機部に移送すると共に,未加工ワーク待機部に待機させた各ワークを前記研磨加工部に一括して移送するものである。従って,研磨加工部にて研磨加工を終えた複数の加工済ワークを研磨加工部から1個づつ取り出し,取り出し終えたらまた1個づつ未加工ワークを研磨加工部にセットする従来の手法に比べて,研磨加工部における研磨加工の終了から次の開始までの時間,即ち,研磨加工部のアイドルタイムが大幅に短縮される。(7欄32行〜47行) 実施例 ・・・研磨加工部(1)は,上下の定盤(11)(12)と,太陽歯車(13),内歯歯車(14),ワークキャリアー(15)で構成された研磨加工機によるもので,太陽歯車(13)の回転によりキャリアー(15)が自転公転され,更に上下な定盤(11)(12)も回転駆動されて,基板(A)の研磨を行う。(9欄38行〜10欄4行) ここに,上記太陽歯車(13),内歯歯車(14)及びワークキャリアー(15)相互間の歯数比は,1:3:1に設定されており,太陽歯車(13)が4の整数倍数回回転されると,ワークキャリアー(15)が公転開始時に位置していた位置に復帰し,かつキャリアー(15)のワーク保持孔(19)も自転開始時に位置していた位置に復帰するようにされている。 一方,未加工ワーク待機部(2)及び加工済ワーク待機部(3)は,研磨加工部(1)の両サイドに配置されている。これらの待機部(2)(3)は,テーブル(21)(22)によるもので,それらの各上面には,研磨加工部(1)の太陽歯車(13)が停止した状態におけるキャリアー(15)の保持孔(19)の位置に対応してワーク受け部(23)(24)が設けられている。(10欄35行〜48行) そして,研磨加工部(1)では,上部定盤(12)が下降作動し,基板(A)の上下面が上下の砥石(17)(18)で加圧状態に挾持され,その状態で太陽歯車(13)が回転作動され,更に上下の定盤(11)(12)も回転作動されて基板(A)の研磨処理がなされる。そして,太陽歯車(13)の所定回数(4の整数倍数回)の回転完了後,上部定盤(12)が上昇作動される。そのときワーク(A)は太陽歯車(13)の回転開始時の位置関係と同じ位置関係においてキャリアー(15)に保持されている。 しかるのち,加工済ワーク一括移送装置(5)が下部定盤(11)上に移行し,下降,基板の一括チャック,上昇を行って,加工済ワーク待機用テーブル(22)側に移行し,該テーブル(22)上で下降,基板チャックの解除,上昇を行って基板(A)を該テーブル(22)の基板受け部(24)内に一括配置する。 そして,その間に未加工ワーク一括移送装置(4)が作動して未加工ワーク待機用テーブル(21)上の基板(A)が前述した態様で一括して研磨加工部(1)のキャリアー(15)に配置され,続いて上部定盤(12)が下降作動されてその未加工基板の研磨が再開される。(11欄49行〜12欄18行) 発明の効果 上述の次第で,第1ないし第3の発明にかかる研磨方法,研磨装置は,・・・研磨加工部のアイドルタイムを大幅に短縮することができ,ワークを処理スピード高く研磨加工していくことができる。(12欄29行〜45行) 本件明細書のこれらの記載によると,本件発明は,いずれも砥石が取り着けられているドーナツ盤状の下部定盤及び上部定盤の間に,遊星歯車機構(太陽歯車と内歯歯車の双方とかみ合うように,外歯歯車状の複数のワークキャリアーが設けられ,各ワークキャリアー内の複数の保持穴に被加工物(ワーク)を保持し,ワークキャリアーが公転しながら自転する機構である。)を設け,これを利用して,上下定盤を回転させるとともに,ワークキャリアーに遊星運動をさせることによって両面研磨を行う研磨加工装置において,従来,研磨終了後,加工済みワークを一つずつ取り出し,未加工ワークを一つずつ保持穴に配置していたことにより,研磨以外に要するアイドルタイムが長かったとの課題があったため,この課題を解決するために,研磨加工終了時に,すべてのワークがその公転位置及び自転位置において定まった位置に停止するようにして(歯車の歯数比の選択により,それが可能となる。),加工済みワーク移送装置・待機部と未加工ワーク移送装置・待機部を別個の部材として配置した上で,すべてのワークを一括して移送するようにしたものである,ということになる。 このような本件発明のうち,本件発明1は,「研磨方法」としての発明であり,本件発明2及び3は,「研磨装置」としての発明である(第2の2参照)。本件発明2及び3は,装置の発明として,太陽歯車,内歯歯車,ワークキャリアー相互間の歯数比を設定し,太陽歯車が4の整数倍の回数で回転して停止することによって,すべてのワークキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置に停止することをも,その構成要件としている。 2 取消事由1(引用発明1の誤認に基づく本件発明1ないし3と引用発明1との一致点の認定の誤り(相違点の看過))について 原告らは,審決は,引用発明1について,「ラップ盤は,研磨加工終了時に,すべてのキャリア4のすべての保持穴3が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(審決書5頁16行〜18行)との構成を備えると認定した上,この認定に基づいて,本件発明1と引用発明1が「研磨加工部は,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(同6頁35行〜37行)との点で一致すると認定し,本件発明2及び3についても,この点で一致することを前提として引用発明1との相違点を認定している(同8頁37行〜9頁1行,10頁15行〜19行),しかしながら,引用発明1についての審決の上記認定は誤りであり,この認定を前提としてなされた上記各一致点の認定も誤りである,すなわち,審決は,引用発明1についての認定を誤ったため,同発明と本件発明1ないし3との一致点・相違点の認定において,相違点としなければならない事項を一致点とする誤りを犯した,と主張する。 (1) 「研磨加工終了時」の意味について (ア) 本件明細書の特許請求の範囲請求項1ないし3に,「太陽歯車と・・・内歯歯車と,・・・複数のワークキャリアーとが備えられ,・・・研磨加工する研磨加工部」との記載がある以上,本件発明1ないし3の「研磨加工部」が「太陽歯車」,「内歯歯車」及び「ワークキャリアー」をその構成要件とすることは明らかであるものの,これらの構成要件のみによって「研磨加工部」が構成されているわけではなく,ワークを上下から加圧挟持し,回転する上下の定盤も不可欠であることは,本件明細書の上記認定の記載から明らかである(本件明細書の実施例の項に,どのようにして研磨がなされるかにつき,「研磨加工部(1)では,上部定盤(12)が下降作動し,基板(A)の上下面が上下の砥石(17)(18)で加圧状態に挾持され,その状態で太陽歯車(13)が回転作動され,更に上下の定盤(11)(12)も回転作動されて基板(A)の研磨処理がなされる。」(甲第3号証11欄49行〜12欄3行)と記載されていること,参照)。したがって,本件発明の「研磨加工部」とは,上記構成要件に加え,ワークを上下から加圧挟持するための,回転する上部定盤及び下部定盤をも,その構成に含むことは,当然の前提としているものと解すべきである。そして,本件明細書の上記記載からみて,太陽歯車の回転(それに付随するワークキャリアーの回転を含む。),並びに,上部定盤及び下部定盤によるワーク加圧状態下でのワークキャリアーの回転があるとき(以下,この状態を「研磨状態」という。)に,研磨処理がなされており,これらのいずれかを欠く状態では,研磨がなされていないものと認められる。 本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,「研磨加工部は,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」との記載があり,請求項2及び3には,「研磨加工部は,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるようになされ」との記載がある。この「研磨加工終了時」の意味するところが,「研磨加工部」が研磨状態でなくなる時点,すなわち,太陽歯車の回転停止(ワークキャリアーの回転停止),上下定盤による加圧解除,又は上下定盤の回転停止のいずれか一つが生じた,その時点を意味するのか,研磨加工部を構成する上記のすべての要素が研磨に必要な動作をすべて停止した時点であるのか,それともそれらの中間的時点であるのか,特許請求の範囲の記載のみからは,必ずしも明らかではない。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載状況からこの点を検討する。上記認定の本件発明の上記の課題,課題を解決するための手段,作用,実施例,発明の効果の記載によれば,本件発明1ないし3は,「前記未加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する未加工ワーク一括移送装置と,前記研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する加工済ワーク一括移送装置」(甲第3号証5欄49行〜6欄3行,7欄13行〜17行)あるいは「前記研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する一方,前記未加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する1個ないし複数個のワーク一括移送装置」(同6欄34行〜37行)との構成を採用し,「従来の手法に比べて,研磨加工部における研磨加工の終了から次の開始までの時間,即ち,研磨加工部のアイドルタイムが大幅に短縮される。」(同7欄44行〜47行)との効果を奏するものである。 このように,本件発明1ないし3において,「研磨加工終了時」に「すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の位置で停止される」のは,「研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する」こと,あるいは,「加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する」ことを可能にするためのものであるから,本件発明の「研磨加工終了時」とは,一括移送という上記目的との関連で決定的な意味を有する,研磨加工部を構成する太陽歯車がその回転を停止した時点と解するのが相当である。 原告らは,本件発明の「研磨加工終了時」とは,太陽歯車,又は,上部定盤及び下部定盤が停止したとき,すなわち,「研磨状態」が終了したときであると主張する。しかし,研磨状態の終了は,太陽歯車の停止前であっても,上下定盤の回転停止や加圧状態の解除などによっても生じ得るのである。本件発明1ないし3においては,加工済みワークを一括して取り出すためには,太陽歯車が所定数回転し,ワークキャリアーが所定の位置に停止することが重要なのであるから,研磨状態の終了時点そのものは,技術的意味を持ち得ない。本件発明1ないし3にいう「研磨加工終了時」について,太陽歯車の回転停止の若干前であっても,研磨状態が終了したときであると解すべき合理的理由は,本件明細書のどこにも見いだすことができない。原告らの主張は,採用することができない。 (イ) 刊行物1には,「本考案装置は次のように操作する。すなわち,先ず前記のように搬入搬出端位置を占めた水平アーム部材(18)の一方の円形先端部の下方に重なるようにキャリヤ(4)を持来し,さらにそのキャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決めを行う。このことは,太陽歯車(5)と内歯歯車(6)の歯数,回転比の適正な選定によって可能である。」(甲第4号証7頁8行〜16行)との記載がある。刊行物1には,このように,上部定盤が停止すること及び上昇することについての記載はないものの,現実に,水平アーム部材の一方の円形先端部の下方にキャリヤが重なるためには,上部定盤が上昇していなければならないことは明らかであるから,上記記載は,停止位置決めに必要なキャリヤの回転・停止動作のみに着目したことの結果であると認められる。上記のように重なる際の水平アーム部材の円形先端部の位置は定まった位置であるから,現実に同位置を占めていなくとも,同位置とキャリヤが重なり,かつ同位置での真空吸引カップとキャリヤの保持穴の位置を合致させることに何ら支障がない。すなわち,刊行物1の「搬入搬出端位置を占めた水平アーム部材(18)の一方の円形先端部の下方に重なるようにキャリヤ(4)を持来し」(甲第4号証7頁9〜11行)との記載は,必ずしも,水平アーム部材の一方の円形先端部とキャリヤが現実に重なることを要件とするものではなく,搬入搬出端位置における水平アーム部材の一方の円形先端部とキャリヤが重なる位置までキャリヤを持来することを述べたにすぎず,キャリヤが停止するまで上定盤が研磨に必要な動作を続けており,キャリヤの停止時に研磨状態が終了する場合と,研磨状態が終了した後にキャリヤが停止する場合との両方の場合を含むものとして解釈することができる。引用発明1の前者の場合には,研磨状態終了時に,キャリヤの停止位置決めが行われることは明らかである。 (ウ) 以上のとおり,引用発明1には,研磨状態終了時にキャリヤの停止位置決めがなされている場合と,研磨状態終了後にキャリヤの停止位置決めがなされている場合の両方が含まれる。そのいずれの場合も,本件発明にいう「研磨加工終了時」にキャリヤの停止位置決めがされているものと認められる。 原告らは,引用発明1においては,研磨加工終了後に停止位置決めの工程が行われるのであり,研磨加工終了時に停止位置決めが行われるのではない,と主張するが,原告らの主張は,本件発明の「研磨加工終了時」が研磨状態終了時の意味であることを前提とする主張であって,その前提が誤りであること,及び,引用発明1の解釈も誤っていることは上記説示のとおりである。原告らの主張は採用することができない。 (2) 「位置決め」について (ア) 原告らは,引用発明1における停止位置決めとは,ワークの取出しの行なわれるキャリヤの保持穴3をクランプ機能部分21の真空吸引カップ19と合致させるための停止位置決めであり,本件発明1ないし3の未加工ワーク待機部,研磨部及び加工済ワーク待機部におけるすべてのワークをその配置関係において「所定の位置」とする技術思想は開示されていない,と主張する。 (a) 本件発明1ないし3の「すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止される」との構成について検討する。本件発明1ないし3は,前記のとおり,研磨加工機のアイドルタイムを短縮するとの課題を解決するために,本件発明1及び3において「研磨加工部の各ワーク保持部の加工済ワークを加工済ワーク一括移送装置にて一括して取り出した後,未加工ワーク一括移送装置にて未加工ワークを研磨加工部の各ワーク保持部に一括して配置し」(請求項1及び3,甲第3号証2欄12行〜3欄1行,4欄9行〜13行)との構成を採用したこと,及び,本件発明2において「研磨加工部で研磨加工された各ワークを一括して前記加工済ワーク待機部に移送する一方,前記未加工ワーク待機部に待機された各ワークを前記研磨加工部に一括移送する」(請求項2,甲第3号証3欄26行〜29行)との構成を採用したこと,並びに,上記各構成を実現するために「研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各未加工ワークを待機させる未加工ワーク待機部が配置される」(請求項1ないし3,甲第3号証1欄14行〜2欄2行,3欄18行〜21行,3欄46行〜49行)及び「研磨加工部の駆動停止状態における各ワーク保持部の配置関係に対応する配置関係において各加工済ワークを待機させる加工済ワーク待機部が配置され」(請求項1ないし3,甲第3号証2欄3行〜6行,3欄22行〜25行,3欄50行〜4欄3行)との構成を採用したことは,本件明細書の記載から明らかである。 そうである以上,本件発明1ないし3における「所定の定位置」とは,未加工ワーク待機部及び加工済ワーク待機部のワーク保持部との関係における「所定の定位置」と解すべきことは当然であって,これと同旨の原告らの主張はその限りにおいて首肯できるものである。 (b) 刊行物1には,上記(1)で摘記した「本考案装置は次のように操作する。すなわち,先ず前記のように搬入搬出端位置を占めた水平アーム部材(18)の一方の円形先端部の下方に重なるようにキャリヤ(4)を持来し,さらにそのキャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決めを行う。このことは,太陽歯車(5)と内歯歯車(6)の歯数,回転比の適正な選定によって可能である。」(甲第4号証7頁8行〜16行)との記載に加えて,「旋回軸(11)の上昇,180°旋回,下降により位置交替を行なって製品の搬出および材料の搬入を同時に行なう。」(甲第4号証8頁13行〜15行),「機外側に搬出された製品はコンベア(23)の材料保持部(24)にセットされる。この同時搬入および搬出の操作を機内側のすべての,この例では4つのキャリヤ(4)について実施する。」(同頁17行〜20行)との記載がある。これらの記載とその第2図とによれば,引用発明1において「キャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決め」がされたとき,第2図において水平アーム部材円形先端部直下に位置するキャリヤ(以下「第1キャリヤ」という。)のワーク保持穴は,真空吸引カップと合致する位置にある。その後水平アーム部材が180°旋回した際の真空吸引カップの位置は,材料保持部(これが本件発明1の「未加工ワーク待機部」及び「加工済ワーク待機部」に相当することは原告らも争っていない。)の位置決め用リングの位置と合致する。したがって,引用発明1における第1キャリヤとその保持部(3)は,材料保持部の位置決め用リングとの関係においても「所定の定位置」にあることが明らかである。 (イ) 原告らは,「引用発明1において停止位置決めがされているのは,最初のキャリヤに関してのみであり,他のキャリヤのキャリヤの保持穴は,所定の位置にはない。」と主張する。 しかし,引用発明1においては,残る三つのキャリヤについては,歯数,及び回転比が適正に選定された太陽歯車及び内歯歯車の回転により,90°,180°及び270°公転し,それぞれのキャリヤが公転前の第1キャリヤ位置に重なった際に,各キャリヤのワーク保持穴が,公転前の第1キャリヤのワーク保持穴位置に重なることにより,「同時搬入および搬出の操作を機内側のすべての,この例では4つのキャリヤ(4)について実施する」(甲第4号証8頁19行〜20行)ことが可能となるとされているのである。このような引用発明1においては,残る三つのキャリヤ及びその保持穴が任意の位置であったのでは,90°,180°及び270°の公転時に上記位置を占めることができないことは自明であるから,上記位置を占めるために,公転前の第1キャリヤのワーク保持穴との関係において「所定の定位置」にあることが必須となることは,明白である。そして,公転前の第1キャリヤのワーク保持穴が材料保持部の位置決め用リングとの関係において「所定の定位置」にあることは上記(ア)のとおりであるから,結局残る三つのキャリヤのワーク保持穴も材料保持部の位置決め用リングとの関係において「所定の定位置」にあるということができる。 したがって,引用発明1において「すべてのキャリヤ4のすべての保持穴3が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(審決書5頁16行〜18行)る,との審決の認定には誤りがない。原告らの上記主張は,採用することができない。 (ウ) 原告らは,引用発明1において,太陽歯車(5)と内歯歯車(6)の歯数及び回転比を適正に選定することは当業者にとって技術的に困難であり,刊行物1においては,キャリヤの停止位置決めについて技術的な開示があるとはいえず,審決の一致点の認定は誤りである,と主張する。 刊行物1には,「キャリヤの保持穴(3)がクランプ機能部分(21)の真空吸引カップ(19)と合致するようにして停止位置決めを行う。このことは,太陽歯車(5)と内歯歯車(6)の歯数,回転比の適正な選定によって可能である。」(甲第4号証7頁12行〜16行)との記載はあるものの,キャリヤの停止位置決めの機構について,これ以外に詳しい記載はない。 しかし,甲第6号証及び乙第6号証によれば,「技能ブックス13歯車のハタラキ」と題して昭和48年12月20日に発行された書籍である刊行物3,及び,「設計製図2」と題する高等学校工業科用の教科書(昭和29年9月30日文部省検定済,実教出版株式会社昭和31年2月25日発行)の中で,それぞれ太陽歯車,遊星歯車(本件発明のワークキャリアー,引用発明1のキャリヤに相当する。),内歯歯車が自転,公転する装置について,太陽歯車,遊星歯車及び内歯歯車の各歯数比,各回転数,腕の回転数に応じて,それぞれがどのような自転あるいは公転(遊星歯車について)をするかについて,計算式が示されその説明がなされていることが認められる。以上の各証拠によれば,引用発明1の出願時あるいは本件特許の出願時においても,太陽歯車と内歯歯車の歯数及び回転比を適正に選定することにより,太陽歯車と内歯歯車を所定の位置に停止することができることは,当業者にとっては周知の技術であったと認められる。 これを,甲第6号証,乙第6,第7号証により,具体的に説明すれば,次のとおりである。 太陽歯車,遊星歯車及び内歯歯車の歯数をそれぞれZ1,Z2及びZ3とし,腕を固定して太陽歯車をx回転した場合における,@太陽歯車の回転数はx,A遊星歯車の回転数(自転数)は-x×Z1/Z2,B内歯歯車の回転数は-x×Z1/Z3,C遊星歯車の公転数(腕の回転数)は0であり,歯車列を固定して腕をy回転した場合は,すべての歯車は腕と同じ回数回転するものであるから,@ないしCは,いずれもyであり,これらを合計すると,@太陽歯車の回転数はx+y,A遊星歯車の回転数(自転数)はy-x×Z1/Z2,B内歯歯車の回転数はy-x×Z1/Z3,及び,C遊星歯車の公転数(腕の回転数)はyとなる(乙第7号証4頁【表1】)。 また,太陽歯車及び内歯歯車の回転数を基準として,上記計算式を書き換えると,すなわち,上記計算式における,@太陽歯車の回転数x+yをX,B内歯歯車の回転数y-x×Z1/Z3をYとしたときに,A遊星歯車の回転数(自転数)y-x×Z1/Z2は,Z1(Z2-Z3)X/Z2(Z1+Z3)-Z3(Z2-Z1)Y/Z2(Z1+Z3),C遊星歯車の公転数(腕の回転数)yは,Z1X/(Z1+Z3)-Z3Y/(Z1+Z3)となることは,計算の結果,明らかである。 そして,引用発明1において,キャリヤの停止位置決めを行うには,搬入時と停止時における保持穴位置が変わらないこと,すなわち,キャリヤが整数回公転した場合に,整数回自転しておればよいことは自明といえることであり,そのためには上記計算式による計算結果における遊星歯車の自転数と公転数の比が整数となれば十分である。また,そのことは,歯数を固定されたものとして回転比を選択することによっても可能であるし,逆に回転比を固定されたものとして歯数を選択することによっても可能であり,特に内歯歯車を固定されたもの(Y=0)とした場合にも可能なことが明らかである。 したがって,上記のような刊行物1の記載によっても,当業者にとっては,引用発明1に上記のような周知技術を適用して,太陽歯車と内歯歯車の歯数及び回転比を適正に選択することによって,キャリヤを所定の位置に停止することは十分に実施可能であったのである。そうである以上,刊行物1に,キャリヤとその保持穴を所定の位置に停止する技術の開示があることを前提として,本件発明1ないし3と引用発明1との一致点を認定した審決の判断に誤りはない。 刊行物3に「遊星歯車装置の3要素の回転比は,なかなかややこしい関係にあります。」(甲第6号証84頁左欄19行〜20行)との記載のあることは原告らが主張するとおりである。しかし,同号証にはその直後に「ふつうの歯車の回転比と,腕の回転の和または差(腕の回転方向によります)となるからです。」(同欄20行〜22行)と記載されていることからすれば,原告ら主張の記載は,単純に「ふつうの歯車の回転比」のみで計算すると,計算間違いが生じるため(後記5で述べるように,現に,審決も,この間違いを犯している。),注意を喚起した程度のことというべきであって,上記判断を左右するものではない。 (3) 以上のとおりであるから,審決が,引用発明1について,「ラップ盤は,研磨加工終了時に,すべてのキャリア4のすべての保持穴3が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(審決書5頁16〜18行)と認定したことに誤りはなく,この認定に基づいて,本件発明1と引用発明1が「研磨加工部は,研磨加工終了時に,すべてのキャリアーのすべてのワーク保持部が所定の定位置にて停止されるように駆動制御され」(審決書6頁35〜37行)との点で一致すると認定したことに誤りはなく,本件発明2及び3についても,この点で一致することを前提として,本件発明2及び3と引用発明1との相違点を認定した(審決書8頁37行〜9頁1行,10頁15行〜19行)ことにも誤りはない。 取消事由1には理由がない。 3 取消事由2(本件発明1ないし3と引用発明1との相違点1の判断の誤り)について 原告らは,審決が,本件発明1について,「ワークのみを一括して取り出すにあたり,1つのキャリアについてなされているものをすべてのキャリアについて適用することによって,この相違点において掲げた請求項1の発明のごとくすることは,当業者が容易に想到できたものである。」(審決書8頁10行〜13行)と判断し,本件発明2及び3について,この判断を援用している(同8頁37行〜9頁1行,10頁11行〜13行,10頁15行〜21行)ことが誤りである,と主張する。 しかし,刊行物1には,「(従来の技術)」として「加工製品の機外搬出およびキャリヤの保持穴への材料の嵌入は従来人手で行なわれている。この間は実加工の行なわれないアイドルタイムとなる。」(甲第4号証3頁15行〜18行)との記載,「(考案が解決しようとする問題点)」欄に,「本考案は,前記従来技術のラップ盤における材料,製品の取扱の困難性を解決し,能率的に材料のローデイングおよび製品のアンローデイングを同時に自動的に行うことのできる装置を提供することを目的とする。」(同号証3頁20行〜4頁4行)との記載,並びに「(問題点を解決するための手段,作用,実施例)」欄に,「旋回可能な水平アーム部材の各側に複数個の同時クランプ可能なクランプ機能部分を有する材料搬入搬出装置を設けて」(同号証4頁13行〜15行),及び,「一方のクランプ機能部分により機内の加工済製品をクランプすると同時に他方のクランプ機能部分により機外に準備された被加工材料をクランプし,アームの旋回により材料の搬入および製品の搬出を同時に行うように構成する」(同号証4頁16行〜20行)との記載があり,これらの記載によると,引用発明1は,従来手作業で行っていたワークの搬入搬出作業を,@搬入作業及び搬出作業を自動化すること,A複数のワークの搬入作業及び搬出作業を同時に行うこと,並びに,B搬入と搬出を同時に行うことにより,搬入搬出に要する時間の短縮を図ったものと認められる。そして,時間短縮のための上記Aの構成は,上記@の構成を前提とするものであり,また,可能な限り多数のワークを同時に搬入及び搬出する方が,アイドルタイムを短縮化するとの引用発明1の目的に適うことは,明らかである。刊行物1の「さらに進んで,第7図に示すように,4キャリヤ諸共に製品の搬出および材料の搬入を行なわせるようにすることも可能である。」(9頁16行〜18行)との記載も,これと同趣旨であることが明らかである。 そして,引用発明1において,キャリヤの回転停止時に,各真空吸引カップと各保持穴の位置が合致するためには,キャリヤが整数回公転するとともに整数回自転すれば十分であることは自明であり,このことが,太陽歯車,遊星歯車,内歯歯車について,適正な歯数と回転比を選択することにより実施可能であることは,前記2(2)のとおりである。 一つのキャリヤが整数回公転・自転した際に,他のキャリヤが整数回公転・自転していないということは,遊星歯車装置の運動原理上あり得ないことであるから,刊行物1に明記されていないとしても,第1キャリヤ以外のキャリヤも整数回公転・自転しており,したがって,第1キャリヤが停止した際には,他のキャリヤも常に一定の公転・自転位置に停止するものである。そうであれば,第1キャリヤ停止時における,他のキャリヤの保持穴と合致する位置にも真空吸引カップを設けておけば,すべてのキャリヤのすべてのワークを一括して搬出及び搬入できることは明らかというべきであって,これによって引用発明1の目的をもなお一層達成するものであるから,そのように構成することに困難性があるとは,到底いうことができないのである。 原告らは,引用発明1は,アームによって搬入と搬出とを同時に行うことにより,処理の効率化を図っているのであって,ワークを一個毎に取り扱うことなく,一括して取り扱うことにより処理を効率化しようとすることを意図するものではない,と主張する。しかし,引用発明1に,搬入と搬出を同時に行うことにより処理の効率化を図るとの技術思想がみられるとしても,搬入と搬出を同時に行うことにより処理の効率化を図ったからといって,ワークを一括して取り扱うことにより処理の効率化を図ることはしないということになるわけのものではないのは,論ずるまでもないことである。現に,引用発明1について上に認定したところによれば,同発明に,ワークを一括して取り扱うことにより処理を効率化しようとする意図があることが,明らかである。 原告らは,刊行物1におけるすべてのキャリヤのワーク搬送方法としては,キャリヤとワークとを一緒に搬送する方法しか開示されていないこと,及び,ワークをキャリヤごと吸着して持ち上げる方法が作業上効率が悪いことを理由として,すべてのキャリヤのワークのみを一括搬送する方法の採用は考えられなかったと主張する。しかし,すべてのキャリヤのワークのみを一括搬送することに格別困難性がないことは前示のとおりであり,原告らの主張は,採用することができない。 したがって,審決の上記判断に誤りはなく,取消事由2にも理由がない。 4 取消事由3(本件発明1ないし3と引用発明1との相違点2及び相違点3の判断の誤り)について (1) 原告らは,引用発明1は,搬入と搬出とを1個のアームの旋回により同時に行なう点に特徴がある。刊行物2に記載された別個のワーク待機部及び別個の移送装置は,引用発明1の上記特徴とは相矛盾する。両者がこのような関係にあるとき,引用発明1に刊行物2記載の別個のワーク待機部及び移送装置を適用することを,当業者が考えることはあり得ない,と主張する。 刊行物1に,「本考案は,前記従来技術のラップ盤における材料,製品の取扱の困難性を解決し,能率的に材料のローデイングおよび製品のアンローデイングを同時に自動的に行うことのできる装置を提供することを目的とする。」(甲第4号証3頁20行〜4頁4行)との記載があることは,前記3で述べたとおりである。 ここでの「同時」は,搬入作業及び搬出作業における複数ワークの間の同時性,及び,搬入作業と搬出作業との間の同時性の両者を意味し得るものである。 ここでは搬入作業と搬出作業の間の同時性に限って,「同時」の意味を検討する。 刊行物1の,「機内側では・・・6つの真空吸引カップ(19)により6つの加工済製品をキャリヤ保持穴(3)からとりあげ,他方機外側では・・・6つの被加工材料を・・・6つの真空吸引カップ(19)によりとりあげ」(甲第4号証8頁5行〜12行)との記載からみて,加工済ワークを真空吸引カップに吸着することと,未加工ワークを真空吸引カップに吸着することが同時であり,また,これに関連して,未加工ワーク用アーム部材(水平アーム部材)及び加工済ワーク用搬送装置がそれぞれ材料待機部及びキャリヤ上方からキャリヤ及び材料待機部上方まで移動することが同時であり,並びに,加工済ワークを真空吸引カップから材料待機部に移すことと未加工ワークを真空吸引カップからキャリヤに移すことも同時であることを認めることができ,これら三つの動作が搬入作業及び搬出作業において同時に進行することが,引用発明1における「同時」の意味と認められる。 そこで,引用発明1の材料待機部及びワーク移送装置(水平アーム部材)を出発点として,これらを,未加工ワーク用と加工済ワーク用にそれぞれ別個のものにすることが,引用発明1における上記の意味で「同時」に作業することを阻害する要因となるか否か検討する。加工済ワークを真空吸引カップに吸着することと,未加工ワークを真空吸引カップに吸着することが同時であることは,加工済ワーク用移送装置の真空吸引カップがキャリア保持穴と合致する位置にあり,同時に未加工ワーク用移送装置の真空吸引カップが未加工ワーク用待機部の保持穴と合致する位置にあれば実行可能であり,このことは,材料待機部及びワーク移送装置が未加工ワーク用と加工済ワーク用につき兼用であるか専用であるかとは無関係のことである。同様に,加工済ワークを真空吸引カップから材料待機部に移すこと,未加工ワークを真空吸引カップからキャリヤに移すことが同時であることも,材料待機部及びワーク移送装置が未加工ワーク用と加工済ワーク用につき兼用であるか専用であるかとは無関係のことである。さらに,未加工ワーク用及び加工済ワーク用移送装置がそれぞれ材料待機部及びキャリヤ上方からキャリヤ及び材料待機部上方まで移動することも,未加工ワーク用及び加工済ワーク用の材料待機部と移送装置の配置によっては,これらが別部材である場合にも同時に行うことが可能であることは明らかである。 このように,材料待機部及びワーク移送装置(水平アーム部材)を未加工ワーク用と加工済ワーク用にそれぞれ別個に設けたとしても,上記三つの動作を同時に行うことに支障はなく,搬入作業と搬出作業の同時性には別段影響しないことが明らかである。 (2) 刊行物2に,「ポリシャー1に対してワークを搬入・搬出するワーク搬入搬出装置2に,ワーク搬入搬出用機台13が設けられ,該ワーク搬入搬出用機台13の上面左右に,搬入用インデックステーブル14と搬出用インデックステーブル15が設置され,搬入用インデックステーブル14及び搬出用インデックステーブル15とポリシャー1内のキャリア11との間の装填と取り出しとを行う手段として,それぞれ専用のワーク装填取り出し機構18を具備した装置及びこれを用いた方法。」(審決書6頁11行〜17行)が記載されているとの審決の認定,及び「甲第2号証刊行物に記載された発明におけるポリシャー1は,研磨加工部に,同じく,インデックステーブル14(判決注・「14は」の誤記と認める。),ワーク待機部に,相当するものと認める。」(審決書6頁18行〜20行)との審決の認定については,原告らもこれを争わないところである。そうであれば,刊行物2には,研磨加工方法において,未加工ワーク用及び加工済ワーク用の待機部と移送装置を別個専用に設ける技術が記載されているということができ,(1)で説示したとおり,引用発明1における待機部と移送装置を別個専用とすることに,同発明の目的を実現する上での格別の障害がない以上,「甲第1号証刊行物に記載された発明におけるワーク待機部に換えて甲第2号証刊行物に記載された発明におけるワーク待機部を適用し・・・本件請求項1に係る発明の構成のごとくするとすることは,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決書8頁17行〜21行)との相違点2についての審決の判断,及び「甲第1号証刊行物に記載された発明におけるに移送装置に換えて甲第2号証刊行物に記載された発明における移送装置を適用し・・・本件請求項1に係る発明の構成のごとくするとすることは,当業者が容易に想到することができたものである。」(審決書8頁25行〜29行)との相違点3についての審決の判断には,いずれも誤りがないということができる。 原告らの主張は,要するに,引用発明1における搬入作業と搬出作業の同時性は,未加工ワーク用及び加工済ワーク用の材料待機部と移送装置を兼用としない限り実現し得ないとの誤った認識に立つものという以外になく,採用することができない。 取消事由3にも理由がない。 5 取消事由4(本件発明2及び3と引用発明1との相違点4の判断の誤り)について 原告らは,審決が,相違点4について,「出力軸/入力軸の回転比が1/4となるということは,太陽歯車が4回転すると腕が1回転,すなわち,1公転して元の位置に戻り,太陽歯車と遊星歯車が同じ歯数であるから,遊星歯車は,太陽歯車と同じ4回転して元の位置に戻ることについては甲第5号証刊行物に記載されている。」(審決書9頁14行〜17行)と認定したことが,「遊星歯車は,太陽歯車と同じ4回転して」との部分において誤りであり,この部分は,正しくは「遊星歯車は,-2回転して」となることから,相違点4に係る本件発明2及び3の構成は,刊行物3に記載されていない,と主張する。 確かに,審決の「遊星歯車は,太陽歯車と同じ4回転して」との上記認定部分が誤りであり,この部分は,正しくは「遊星歯車は,-2回転して」となるべきことは,被告も争わないところである。すなわち,前記2(2)のとおり,@太陽歯車の回転数はx+y,A遊星歯車の回転数(自転数)はy-x×Z1/Z2,B内歯歯車の回転数はy-x×Z1/Z3,及び,C遊星歯車の公転数(腕の回転数)はyであり(乙第7号証4頁【表1】),これを前提として,刊行物3の太陽歯車,遊星歯車及び内歯歯車の歯数比すなわちZ1:Z2:Z3が1対1対3で,内歯歯車が固定(y-x×Z1/Z3=0)で,太陽歯車がx回転する場合の,各歯車の回転数(自転数)及び腕の回転数を求めれば,@太陽歯車が4y,A遊星歯車の回転数(自転数)が-2y,B内歯歯車の回転数は0,C遊星歯車の公転数(腕の回転数)はyであり,すなわち,太陽歯車が4回転するとき(y=1)の遊星歯車の回転数は-2,遊星歯車の公転数は1であることが明らかである(乙第9号証)。 しかし,刊行物3には,「T(判決注・太陽歯車):U(判決注・遊星歯車)は1:1ですが,外側のリング(内歯車)は3になります。するとつぎのような回転比になります。入力T,固定W(判決注・内歯歯車),出力V(判決注・腕),出力/入力1/4」(甲第6号証85頁左欄最下行〜右欄4行)との記載があり,審決が認定したとおり,太陽歯車Tが4回転すると腕Vが1回転,すなわち,遊星歯車が1公転して元の位置に戻ることが記載されているのであり,この点の審決の認定に誤りはなく,相違点4に係る本件発明2及び3の構成は,刊行物3に開示されているのである。審決は,単に,刊行物3の上記の場合における遊星歯車の自転数を誤認しただけであり,この点の誤認は,審決の結論に影響を与える瑕疵ということができないものであることは明らかである。 取消事由4にも理由がない。 6 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過)について 原告らは,相違点1に係る本件発明1ないし3の構成,すなわち,研磨加工部の複数のキャリアーからすべてのワークを一括して取り出し,また,該加工部の複数のキャリアーへすべてのワークを一括して配置するとの構成により,本件発明1ないし3は,極めて有用な作用効果を達成していると主張する。しかし,原告ら主張の作用効果は,本件発明1ないし3の構成から生まれるものとして自明のものであり,これが,構成自体に容易推考性の認められる発明に特許性をもたらすことは,およそあり得ないことである。 取消事由5にも理由がない。 |
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結論
以上に検討したところによれば,原告らの主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |