審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ4544特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ11981特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ11037特許権侵害差止請求権不存在確認請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 創作性(創作) / 進歩性(29条2項) / 周知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 援用権(援用) / 均等 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 交換 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
11096号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社エスケー 訴訟代理人弁護士 松本司 同 田上洋平 訴訟代理人弁理士 板野嘉男 被告 株式会社小林鉄工所 訴訟代理人弁護士 藤原唯人 訴訟代理人弁理士 古川安航 同 篠田賛治 補佐人弁理士 角田嘉宏 同 内山泉 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/09/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を製造、販売してはならない。 2 被告は、前項記載の物件を廃棄せよ。 3 被告は、原告に対し、318万5000円及びこれに対する平成16年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、「チップソー等の研磨機」に関する特許権を有している原告が、被告による製品の製造販売が上記特許権の侵害にあたると主張して、その製造販売の差止め等及び損害賠償を請求した事案である。 1 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。その余は争いがない事実である。) (1)ア 原告は、下記の特許権(以下「本件特許権」といい、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件発明」と、その明細書を「本件明細書」という。)の特許権者である(甲1、2)。 発明の名称 チップソー等の研磨機 出願日 平成5年10月18日 出願番号 特願平5-284032号 公開日 平成7年5月2日 公開番号 特開平7-112317号 登録日 平成8年4月2日 特許番号 第2506313号 特許請求の範囲の請求項1は、別紙特許公報(甲2)の該当欄記載のとおり イ 本件発明の構成要件は、次のとおり分説される。 A 支軸を基点として前後移動調節作動および左右回動調節作動により垂直面内で回転するグラインダーの位置が基台に対し変向できるグラインダー取付台と、ハンドルの左右往復回動で左右に回動される回動体とを基台上に対向して設け、 B 回動体の偏心位置に立設した軸受筒に左右方向の回動が制動された状態で取付軸を軸架する一方、取付軸に、台金の周縁にチップを装着した鋸刃を装着してハンドルの往動で回動体を軸として鋸刃をグラインダーに接触するよう弧状前進させ、復動で離反するよう後退させる構成にするとともに、 C 基台の一側に、鋸刃の前進時に鋸刃の特定の溝に係止して当該溝をその位置に留め、後退時に係止が外れて当該溝から一又は複数離れた溝に係止する係止装置を装設した D ことを特徴とするチップソー等の研磨機。 (2) 被告は、平成16年1月ころから、少なくとも平成16年12月6日まで、別紙イ号物件目録に記載された、「らくらくけんま」との商品名を付した刈払チップソー研磨機(以下「イ号物件」という。)を、製造販売していた。 イ号物件は、少なくとも、本件発明の構成要件C及びDをいずれも充足する。 被告は、平成16年12月7日から、少なくとも平成17年3月9日まで、「セフティーけんまI」との商品名を付した刈払チップソー研磨機(以下「ロ号物件」といい、イ号物件とロ号物件を合わせて以下「被告物件」という。)を、 製造販売していた。 2 争点 (1) イ号物件は本件発明の構成要件A及びBをいずれも充足するか ア 「回動体」の有無(構成要件A及びB)について 〔原告の主張〕 (ア) イ号物件における「側面視J型金具」が本件発明における「回動体」に相当する。 すなわち、本件発明の構成要件Aに照らせば、本件発明における「回動体」とは、「ハンドルの左右往復回動で左右に回動される部材」を意味するものであり、回動する部材であれば足りるのであって、回動中心(角度変位の中心部分)を含んでいる必要はない。 イ号物件の「側面視J型金具」は、ハンドル16の左右往復回動によって、案内孔51の円弧部51cに沿って回動する(なお、その際の回動中心は、 別紙イ号物件軌跡図のT1ないしT 4のとおりに移動する。)ものであるから、本件発明における「回動体」に相当する。 (イ) 本件発明の構成要件Bでは、「回動体を軸として」とされているが、本件明細書の記載及び添付図面に照らせば、「軸」とは2つの部材間を連結する部材という意味で用いられており、「回動体」は固定軸10と台金22の中心である取付軸13との間を連結する部材、即ち「軸」として機能させることを意味しており、回動体が回転の中心となるという意味を持つものではないことは明らかである。 そして、イ号物件の「側面視J型金具」は、本件発明の取付軸に相当する取付軸12と、本件発明の固定軸に相当するハンドル16上のリンク部との間を連結しているものであるから、本件発明における「回動体」に相当する。 (ウ) 本件発明における「回動体の偏心位置」(構成要件B)とは、回動中心の偏心位置、すなわち、「鋸刃をグラインダーに接触するよう弧状前進させ」(構成要件B)たときに、取付軸が描く軌跡(円弧)の中心点を基準として、これとは異なる位置という意味である。 (エ) 上記(ア)、(イ)のとおり、イ号物件の「側面視J型金具」が本件発明における「回動体」に相当し、これが案内孔51の円弧部51cに沿って回動するものであるから、イ号物件においても、鋸刃は回動体を軸として弧状前進するものである。 (オ) 以上のとおり、イ号物件の構成要件a及びbは、本件発明の構成要件A及びBをそれぞれ充足する。 〔被告の主張〕 (ア) 原告が過去に出願したものを含め、特許出願においては、「回動体」とは、角度変位可能な部材であって、それ自体が角度変位の中心部分を含むものを指すのが一般的であり、本件発明においても、同様に解するべきである。 また、本件特許請求の範囲の記載において、「回動体を軸として」と記載されていることに照らしても、本件発明における「回動体」とは「軸」すなわち回転の中心としての機能を奏する部分を含むもの、すなわち、角度変位の中心(角度変位しても動かない一点)となる部分を含むものであると解すべきである。 本件明細書の記載を見ても、「回動体」という語について、これと異なる解釈をすべき根拠となる記載はない。 仮に、原告が主張するように、「回動体」が、それ自身が角度変位の中心を含まないものまでも含むとすれば、本件特許請求の範囲における「回動体を軸として」が意味する状態を想定できなくなる。 ところで、イ号物件の「側面視J型金具」は、角度変位はするが、その中心は、原告主張のとおり、別紙イ号物件軌跡図のT1ないしT 4のとおりに移動するものであるから、角度変位の中心となる軸部分、すなわち、角度変位しても動かない一点を含むものではない。 したがって、イ号物件の「側面視J型金具」は、本件発明の「回動体」に相当しない。 (イ) 本件発明における「回動体の偏心位置」(構成要件B)とは、回動体の角度変位における中心を基準として、これとは異なる位置のことと解すべきである。 しかし、イ号物件の「側面視J型金具」は、これ自体に角度変位の中心となる軸部分を含まないから、偏心位置の存在を想定することができない。 (ウ) イ号物件においては、「側面視J型金具」が基台に形成された案内孔に沿って移動するのに伴って、鋸刃も移動するように構成されており、鋸刃が「側面視J型金具」やその他の何らかの部材を軸として弧状前進するものではない。 (エ) 以上のとおり、イ号物件には「回動体」や、「回動体の偏心位置」は存在せず、しかも鋸刃が「回動体を軸として」「弧状前進」するように構成されていないから、イ号物件の構成a及びbは、本件発明の構成要件A及びBのいずれも充足しない。 イ 「軸受筒」の有無(構成要件B)について 〔原告の主張〕 イ号物件における「軸受」は、側面視J型金具(これが本件発明における回動体に相当することは、上記ア〔原告の主張〕のとおりである。)上の偏心位置に取付軸を軸支する部材であるから、本件発明における「軸受筒」に相当する。 なお、本件発明において、「軸受筒」の本質的機能は取付軸を軸支することにあり、筒状であることに技術的意味はないから、取付軸の軸支部分を筒状とするかその他の形状とするかは、単に設計事項にすぎない。現に、原告の製造にかかる本件発明の実施品も、取付軸を軸支しているのは筒状の部材ではなく、平板状の部材である。したがって、イ号物件における「軸受」は、本件発明における「軸受筒」と実質的に同一であるか、均等である。 そして、上記ア〔原告の主張〕のとおり、イ号物件における「側面視J方金具」が本件発明における「回動体」に相当するから、イ号物件の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足する。 〔被告の主張〕 本件発明における「軸受筒」とは、「筒」の国語的意味が「円く細長くて中空になっているもの」であり、本件明細書にこれと異なる「筒」の定義もないことに照らせば、「軸受機能を有する、円く細長くて中空になっている部材」であると解すべきである。なお、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるものであり、特許権者の製品の構造とは無関係である。 イ号物件における「軸受」は、L字形平板状であるから、本件発明における「軸受筒」に相当しない。 そして、イ号物件には、他に「軸受筒」に相当する部材はないから、イ号物件の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足しない。 (2) ロ号物件は本件発明の構成要件をいずれも充足するか 〔原告の主張〕 ア ロ号物件は、イ号物件の案内孔51の円弧部53cのアールを緩やかにしたものであり、その余の点の構成はイ号物件と同一である。 イ イ号物件が、本件発明の構成要件C及びDを充足することは当事者間に争いがなく、本件発明の構成要件A及びBを充足することは前記(1)〔原告の主張〕のとおりである。 ウ 被告は、後記〔被告の主張〕ウのように、ロ号物件の側面視J型金具は、チップソーがグラインダーに接触する際に、7mmの直線運動をすると主張する。 しかしながら、ロ号物件の側面視J型金具とハンドルの接続構造はイ号物件と同じであり、直線運動をするとは考えられず、側面視J型金具は、案内孔の形状に正確に沿って動くものではない。 ハンドルの往復によって移動しているほとんどすべての部分が円弧部51cであり、鋸刃が弧状前進してグラインダーに接近し、接触することは明らかである。 エ したがって、ロ号物件は本件発明の構成要件をいずれも充足するものである。 〔被告の主張〕 ア ロ号物件は、イ号物件における基台を、別紙ロ号物件基台図面記載のとおりに変更したものである。 イ ロ号物件には「回動体」が存在しないことは、前記(1)ア〔被告の主張〕のとおりである。 ウ ロ号物件においては、側面視J型金具が動く際、基台上に空けられた「く」の字型の誘導孔に沿って動き、チップソーがグラインダーに接触する際には、7mmの直線運動をすることになる。 したがって、ロ号物件においては、本件発明の構成要件A及びBにいう「回動体」は存在せず、本件発明の構成要件Bにいうように「鋸刃をグラインダーに接触するよう弧状前進させ」る構成はとられていない。 エ したがって、ロ号物件は本件発明の構成要件すべてを充足するものではない。 (3) 本件特許は特許無効審判により進歩性の欠如を理由に無効とされるべきものか 〔被告の主張〕 ア 本件特許出願前に頒布された特開昭63-74517号公報(乙7。以下「引用例1」という。)には、本件発明の構成要件B及びDが開示されており、 また構成要件A及びCについても、これに類似した構成が開示されている。すなわち、引用例1に記載された発明は、構成要件B及びDを備えている点で本件発明と一致し、構成要件A及びCを備えていない点で本件発明と相違する。 引用例1を知る当業者が、本件特許出願前に頒布された特開平3-10715号公報(乙8。以下「引用例2」という。)及び実願昭51-154650号のマイクロフィルム(乙9。以下「引用例3」という。)に接したとき、引用例1に記載された研磨機を、引用例2に記載された研磨機のように、鋸刃の刃先面と刃背面とを同一のグラインダーで研磨することができるようにするために、引用例3に記載された、グラインダーを変向させるためのツールレストの構成を採用し、 本件発明の構成要件Aの構成をとることは容易であった。 また、引用例1に記載された研磨機の歯送り機構は、例えば特開昭60-249524号公報(乙10。以下「引用例4」という。)や実願昭56-197329号のマイクロフィルム(乙11。以下「引用例5」という。)にも見られるように、本件特許出願当時周知技術であった。そして、本件発明における歯送り機構(構成要件C)も、例えば実願昭59-179170号のマイクロフィルム(乙12。以下「引用例6」という。)、実願昭57-12891号のマイクロフィルム(乙13。以下「引用例7」という。)及び特公昭48-38518号公報(乙14。以下「引用例8」という。)にも見られるように、本件特許出願当時周知技術であった。このように、引用例1に記載された研磨機の歯送り機構と、本件発明における歯送り機構(構成要件C)は、いずれも、本件特許出願当時周知技術であったものであり、しかも、両者とも同一の作用を奏するものであるから、引用例1に記載された研磨機において、その歯送り機構を本件発明における歯送り機構(構成要件C)に置き換えることは可能であり、これを阻害する要因もない。したがって、引用例1に記載された研磨機において、構成要件Cの構成を採用することは、本件特許出願当時、当業者にとって容易であった。 このように、当業者であれば、本件特許出願当時、引用例1ないし3に記載された発明と周知技術とによって、本件発明をすることは容易であった。 したがって、本件発明は、進歩性を欠くものであり、本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものである。 イ 原告は、チップソーの研磨機と丸鋸刃の研磨機とでは、技術分野が異なると主張する。 しかし、チップソーと丸鋸刃は、形態及び用途がほぼ同一であり、実質的には同一物件であるし、両者ともグラインダーを用いて刃先を研磨できる点においても、グラインダーを角度変位させることにより刃先を2方向から研磨できる点においても、両者は共通する。したがって、チップソーの研磨機と、丸鋸刃の研磨機の技術分野は、実質的に同一か、少なくとも非常に近接しているというべきである。 しかも、両者の直径、厚さ等もほぼ同じであるから、丸鋸刃の研磨機におけるグラインダーを角度変位させる構造を、チップソーの研磨機に転用することはきわめて容易であり、これを妨げる特段の事情もない。 また、チップソーの形態や、チップソーにおいてはチップのみを研磨すれば足りることは当業者に周知であるから、引用例6ないし8における丸鋸刃の研磨機における回転案内板を用いた歯送り装置の記載に基づいて、チップソーの溝に直接係止部材を係止させ、研磨機の歯送り装置の構造をより簡易なものとして、本件発明の歯送り機構(構成要件C)を想到することは、当業者にとって通常発揮し得る創作能力の範囲内であり、これを妨げる特段の事情もない。 〔原告の主張〕 ア 被告が援用する引用例のうち、引用例1及び3ないし8は、いずれも丸鋸研磨機に関するものであり、チップソーの研磨機にかかる発明である本件発明とは、技術分野が異なる。 すなわち、丸鋸刃は、その外周すべてが刃となっていることから、その外周をすべて研磨する必要があるのに対し、チップソーは、そのチップのみを研磨すれば切れ味を回復することができるのである。 そして、チップソーにおいては、チップの刃先面(すくい面)と刃背面(逃げ面)の各々の面を研磨するために、2方向から研磨する必要がある。 したがって、引用例1に記載された発明と本件発明とは、被告が掲げた相違点の他、引用例1に記載された発明が丸鋸刃の研磨機に関するものであるのに対し、本件発明がチップソーの研磨機に関するものである点でも相違するのであって、しかも、丸鋸刃の研磨機の技術をチップソーの研磨機に転用することは、当業者には容易とはいえない。 イ 引用例2及び3のいずれにも、グラインダー取付台を、支軸を基点として前後移動調節作動および左右回動調節作動により変向できるようにする構成は開示されていない。 引用例3は、グラインダー取付台上に設けられるツールレストについての考案であって、本件発明において、「支軸を基点として前後移動調節作動および左右回動調節作動により変向できるようにする」のはグラインダー取付台そのものであるから、そもそも本件発明と引用例3とは技術分野が異なり、これを引用例1の構成に適用しても、本件発明の構成要件Aを想到することはできない。 したがって、被告が援用する引用例には、本件発明の構成要件Aは開示されていない。 ウ かつて、丸鋸刃の研磨機において、鋸刃を係止する刃送り機構を採用した研磨機が考えられた。これが、引用例6ないし8に記載された研磨機である。しかし、丸鋸刃は、その外周すべてを研磨する必要があるが、ピン等の係止部材で鋸刃を係止するようにすれば、せっかく研磨した刃に係止部材が接触し、刃こぼれ等を生じさせて刃の等分が出せなくなってしまうという欠点を有していた。 そこで、回動案内板に係止部材を係止させる丸鋸刃の研磨機が考えられた。これが、引用例1、4及び5の研磨機であり、構成が複雑になり、刃の数に応じて回動案内板を交換しなければならないにもかかわらず、刃こぼれ等を生じずに丸鋸刃を容易に研磨できることから、丸鋸刃の研磨機においては回動案内板を用いた研磨機が一般的になった。 これに対し、チップソーにおいては、チップのみを研磨すれば足り、溝(歯底)に係止部材を係止させても切れ味に影響しない。本件発明者はこの点に着目し、チップソーの研磨機において、回動案内板を廃止して、さらに、簡略な構成を採用して、刃送り機構を設けられるようにしたのである。 このように、チップソーの研磨機と丸鋸刃の研磨機とではその技術分野が異なるところ、本件発明は、チップソー研磨機の分野において、単に溝に係止する係止装置を設けるという、引用例6ないし8に記載された丸鋸刃研磨機のものよりもさらに簡略な構成である構成要件Cの構成を採用したものである。 したがって、当業者において、技術分野が異なる引用例6ないし8の記載に基づいて、本件発明の構成要件Cを容易に想到できるものではない。 エ 以上のとおり、本件発明は進歩性を備えており、被告が主張するように本件特許が特許無効審判により無効とされるべきものではない。 (4) 損害の額 〔原告の主張〕 被告は、平成16年1月から平成17年6月30日までの間に、被告物件を少なくとも700台製造し、販売した。 原告は、被告物件相当品を製造販売しており、これにより原告が得ることができる利益は、1台当たり6500円である。このうち、本件発明の利益形成への寄与率は70パーセントである。 原告は、被告による上記被告物件販売台数を加えても、自ら被告物件相当品の製造販売をする能力を十分に有していた。 したがって、被告による被告物件の製造販売により、原告は、下記のとおり、318万5000円の損害を被った。 6500円×700台×70%=318万5000円 〔被告の主張〕 否認ないし争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号物件の構成要件A及びBの充足性)について (1) 本件明細書とその添付図面(甲2)の記載から、どのようなものが本件発明における「回動体」にあたるか検討する。 ア 本件明細書とその添付図面には、本件発明における「回動体」について、以下のような記載が存在する。 (ア) 特許請求の範囲の記載には、「回動体」とは、「ハンドルの左右往復回動で左右に回動される」もので、基台上にグラインダー取付台と対向して設けられるものであり(構成要件A)、「軸受筒」が立設されるべき偏心位置が存在し、また、ハンドルの往動で、軸受筒に軸架された取付軸に装着された鋸刃が回動体を軸として弧状前進する(構成要件B)ものという記載が存在する。 (イ) 発明の詳細な説明の記載には、「作用」の項に、ハンドルを往動させると、回動体を軸として回動される軸受筒に軸架された取付軸が円弧状に前進移行され、ハンドルを復動させると、軸受筒に軸架された取付軸が回動体を軸として円弧状に復元移行されるとの記載が存在する(段落【0008】、【0009】、 【0012】、【0013】)。 また、「実施例」の項には、回動体9が、基台1上に立設した固定軸10に軸架され、その偏心位置に直立状の軸受筒12が一体状に付設され、軸受筒12内には取付軸13が軸架され、また、回動体9の一側にハンドル16が付設された実施例の記載が存在し(段落【0016】)、これと同旨の図面が添付図面として描かれている。 イ 本件明細書には、「回動」について、特段の定義は記載されていない。 しかし、上記アの他に、特許請求の範囲には、本件発明においては、グラインダー取付台は、「支軸を基点として前後移動調節作動および左右回動調節作動」ができるものであり、また、取付軸は、「軸受筒に左右方向の回動が制動された状態で」軸架されるとの記載が存在する。 ウ 上記ア及びイのとおりの本件明細書及びその添付図面の記載に照らして検討するに、以下に掲げる理由により、本件発明において、「回動体」とは、少なくとも、固定された基点を軸として角度変位するものであることを要し、角度変位の際にその中心が移動するものは「回動体」にあたらないものと解するのが相当である。 その理由の第1は、上記アのとおり、本件発明においては、ハンドルの往復回動により、回動体が回動し、これに伴って、回動体の偏心位置に立設された軸受筒が回動体を「軸として」回動し、これに軸架された取付軸も「円弧状」に運動するものとされているところ、このような明細書の記載に照らせば、「回動体」の回動にはその中心となる「軸」が存在し、角度変位においてはその「軸」は移動しないことが前提となっており、それ故に、回動体の偏心位置に立設された軸受筒も回動体の回動中心を軸として回動し、この軸受筒に軸架された取付軸も回動体の回動中心を軸として円弧状に運動するものと解されることである。 なお、原告は、本件発明における「回動体を軸として」の意味は、回動体が2つの部材間を連結する部材であることを意味すると主張する。しかしながら、上記アのとおり、本件明細書に、鋸刃が回動体を軸として弧状前進し、軸受筒が回動体を軸として回動され、あるいは軸受筒に軸架された取付軸が回動体を軸として円弧状に復元移行されるとの記載があることに照らせば、本件発明における「軸」の意味について原告主張のように解することはできず、むしろ、「軸」は回転運動の中心を意味しているものと解するのが相当である。さらにいえば、原告は、「軸」には「連結する材」との意味があるとして、広辞苑第5版(甲6)の記載を援用するが、広辞苑第5版(甲6)には、「軸」の意味として、「車の心木。 轂を貫き、輪と車体とを連結する材。」と記されているのであって、これ自体、単に2つの部材間を連結するのみならず、回転運動の中心となる部材を表していることは明らかであるから、この点からも原告の上記主張は採用することができない。 理由の第2は、上記アのとおり、本件発明においては、「軸受筒」は「回動体の偏心位置」に立設されるべきものであるが、「回動体の偏心位置」とは、回動体の角度変位の中心点とは異なる点を指すものであるから、その中心点が移動することは通常想定されないものであるところ、この中心点が移動し得ることについては本件明細書に何らの記載もないことである。なお、原告は、本件発明における「回動体の偏心位置」とは、鋸刃をグラインダーに接触するよう弧状前進させたときに、取付軸が描く軌跡(円弧)の中心点を基準として、これとは異なる位置という意味であると主張するが、本件明細書の記載を見ても、原告の上記主張のとおりに解する根拠となる記載は存在せず、「回動体の偏心位置」という文言からしても、上記のとおり、回動体が角度変位する際の中心点とは異なる点を指すものと解するのが相当であるから、原告の上記主張は採用することができない。 理由の第3は、上記アのとおり、本件明細書に記載された本件発明の実施例及び本件明細書添付の図面には、回動体の角度変位の中心が固定されたもののみが記載され、これが移動することの示唆が何ら存在しないことである。 理由の第4は、回動体についてではないが、上記イのとおり、本件発明のグラインダー取付台が、「支軸を基点として」左右回動調節作動が可能なものとされているように、回動には基点となる軸が存在することを前提とする記載が本件明細書に存在することである。 以上の各理由により、本件発明においては、「回動体」とは、固定された基点を軸として角度変位するものであることを要すると解するべきである。 (2) 上記(1)で検討したところを前提としてイ号物件について見るに、イ号物件の「側面視J型金具」は、ハンドルの左右往動回動によって角度変位するものであり、その角度変位の中心が、別紙イ号物件軌跡図のT1ないしT 4のとおりに移動することは、当事者間に争いがない。 ここで、角度変位の中心が移動するものが、本件発明における「回動体」にあたらないことは、上記(1)のとおりであるから、イ号物件の「側面視J型金具」は、本件発明における「回動体」に相当するものとはいえない。 そして、イ号物件において、他に本件発明における「回動体」に相当する部材が存在するとは認められない。 したがって、イ号物件が、本件発明における「回動体」を備えているとは認められず、本件発明の構成要件A及びBのいずれについてもこれを充足しているとは認められない。 よって、イ号物件が、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。 2 イ号物件に、本件発明における「回動体」が存在しないことは、上記1のとおりである。 そして、原告の主張によっても、ロ号物件は、イ号物件の案内孔51の円弧部51cのアールを緩やかにしたものであり、その余の点の構成はイ号物件と同一であるというのであるから、ロ号物件の構成についての原告の主張を前提としても、ロ号物件に、本件発明における「回動体」が存在しないことは、上記1でイ号物件について述べたところと同様である。 したがって、ロ号物件が、本件発明の構成要件A及びBのいずれについてもこれを充足しているとは認められず、本件発明の技術的範囲に属するものとも認められない。 3 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。 よって、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 守山修生 |