運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1998-7756
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 81号 審決取消請求事件
原告A
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 中田誠、大野克人、田中弘満、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成10年審判第7756号事件について平成13年1月16日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成1年4月24日、名称を「自動車伸縮屋根装置」とする発明(本願発明)について特許出願(平成1年特許願第103995号)をしたが、平成10年3月30日拒絶査定があったので、同年5月19日審判(平成10年審判第7756号)を請求したところ、平成13年1月16日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年2月4日原告に送達された。
2 本願発明の要旨用途巾の横棒にシート等を取り付け横棒の両端部をレール状にできている支柱にそって横棒の上下移動が容易な構造とし、横棒シートがレールに沿って伸縮することを特徴とした自動車伸縮屋根装置。
3 審決の理由の要点 (1) 引用例 原査定の拒絶の理由で引用された、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭59-185482号(実開昭61-100621号)のマイクロフィルム(引用例1)には、
「本考案は車体の上面…を覆うカバーシートを容易且迅速に外装並びに収納できる車輌用の車体カバー装置に関する。」(2頁2〜4行)、
「車体1の上面左右両側縁に設けるガイドレール2,2は、車体1の前部から後部に亘る寸法で左右一対をなし、且、車体1表面との間にカバーシート9の両側縁が介入し得る寸法の間隙Sを隔てて設けてある。次に前記ガイドレール2,2には車体1前部下端に設けたワイヤー巻取り装置12からの左右牽引ワイヤー16を対応し、この牽引ワイヤー16はガイドレール2,2に沿って移動自在に設けて、先端を車体後部下端に設けたカバー巻取り装置6からの上面カバーシート9の先端縁に連結する。」(5頁8行〜6頁2行)、
「先ず車体1にカバーシートを被せる場合は、予め車体後部のカバー巻取り装置6に巻取られた上面カバーシート9を、ガイドレール2,2に沿って設けた牽引ワイヤー16の自動若しくは手動の巻取りにより車体1の上面後部から前部に亘って引き出し車体1の上面を完全に覆って……次に前記カバーを施した状態からカバーシートを取り除く場合は、……カバー巻取り装置6によって上面カバーシート9を車体1の後部側より巻取る。このとき牽引ワイヤー16はそのままワイヤー巻取り装置12へ巻取られるものである。」(6頁7行〜7頁10行)、
「次に符号12は車体1の前面1b下端部(前部バンパー直下部)へ横方向に設けられたワイヤー巻取り装置で、内部にモータ13に連結された左右両側に巻胴14を有する巻取り軸15が介装してある。16は複数個の支持駒17を設けた牽引ワイヤーで、左右2条より構成し、該牽引ワイヤー16は、支持駒17をガイドレール2,2の案内溝3に摺動自在に嵌めてガイドレール2,2に沿って夫々移動自在とし、各一端をワイヤー巻取り装置12の上面通孔18を通じて内部の巻胴14に止着し、且、他端を前記カバー巻取り装置6からの上面カバーシート9の先端縁10に連結する。
作動に際し、ワイヤー巻取り装置12のモータ13の駆動により牽引ワイヤー16が巻胴14に巻取られ、これに連結した上面カバーシート9をカバー巻取り装置6より引き出し車体1を被い隠蔽する。逆にカバ一巻取り装置6のモータ7の駆動で上面カバーシート9を巻取ると、ワイヤー巻取り装置12の巻胴14に巻取られている牽引ワイヤー16が自動的に巻戻され、ガイドレール2,2に沿って後方へ移動し引き出されるようにしてある。尚、カバー巻取り装置6及びワイヤー巻取り装置12は夫々モータ7,13によらないで、夫々の軸端にハンドル(図示せず)の嵌合部を設けて、該ハンドルの手動回転操作により上面カバーシート9及び牽引ワイヤー16の巻取りが行へるようにしてある。」(9頁16行〜11頁10行)と記載されている。
これらの明細書及び図面の記載によると、引用例1には、
「上面カバーシート9をガイドレール2,2に沿って移動自在な構造とし、上面カバーシート9がガイドレール2,2に沿って引き出され車体1を覆ったり、巻取られ収納できるようにした車輌用の車体カバー装置。」という発明が記載されていると認める。 同じく、実願昭55-136020号(実開昭57-58602号)のマイクロフィルム(引用例2)には、
「この考案は、露天に一時的に積まれた出荷用物品、あるいは自動車の覆いおよび降雨時等の応急的な覆いとして利用される設置、撤去が可能なフード型テントに関するものである。」(1頁最終行〜2頁3行)、
「7は上記支柱1,2間に展張される帆布等からなるシート材で、このシート材7は支柱1,2の水平部から垂直部の途中、即ち地表面から70〜150cmの位置に達する長さを有し、そしてこのシート材7には、第2図に示すようにこれを幅方向に横切る展張用ロッド8が所望間隔離してシート材7の長手方向に多数取付けられていると共に、このロッド8の突出両端は、上記支柱1,2にその長さ方向に沿って水平部および垂直部に配設したチャンネル材からなるガイドレール9,10に摺動可能に係合され、そしてシート材7の一端は支柱垂直部の下端側においてガイドレール9,10に着脱可能に連結され、他端側はフリーになっている。
また、上記支柱1,2の水平部先端と垂直部の下端側にそれぞれ滑車11,12および13,14が取付けられており、この滑車11と12および滑車13と14間にはそれぞれエンドレスのロープ15,16が巻掛けされ、さらに支柱1,2の折曲げ部より下方にロープ駆動用の滑車17,18が支柱1,2間に軸着された軸19に固定されていると共に、この軸19にはハンドル20を取付け、このハンドル20を回転することにより上記ロープ15,16を同一方向に同一速度で走行できるようにしてある。また、上記ロープ15,16には上記シート材7のフリー側他端に設けたロッド8の両端部が着脱可能に連結され、ロープ15,16の走行に伴いシート材7を支柱1,2に展張あるいは支柱1,2の垂直部・下端側に畳込まれるようになっている。」(4頁1行〜5頁10行及び第1、2図)及び「第1図に示すように支柱1,2の垂直部に畳込まれているシート材7を支柱1,2上に展張する場合は、ハンドル20を矢印A方向に回転する。すると、このハンドル20の回転に応じて駆動滑車17,18が一体に回転されると同時に、ロープ15,16も同一方向に同一速度で走行される。これに伴い、ロッド8を介して支持されたシート材7がガイドレール9,10に沿って第1図の矢印X方向に順次展開され、第2図のように展張される。この状態でテント内に保管された物品21は雨等からカバーされることになる。」(5頁13行〜6頁3行及び第1、2図)と記載されている。
これらの明細書及び図面の記載によると、引用例2には、
「所望間隔離して多数配置した展張用ロッド8にシート材7を取り付け、該展張用ロッド8の突出両端を支柱1,2に配設したチャンネル材からなるガイドレール9,10内に配置し、ガイドレール9,10に沿って該展張用ロッド8が上下移動する構造とし、展張用ロッド8に取り付けられたシート材がガイドレール9,10に沿って展張あるいは畳込みする自動車の覆い装置又は雨除けの覆い装置。」という発明が記載されていると認める。
(2) 対比 そこで、本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、引用例1記載の発明の「上面カバーシート9」、「ガイドレール2,2」、「移動自在な」、「引き出され車体1を覆ったり、巻取られ収納できる」、「車輌用の車体カバー装置」は、本願発明の「シート」、「レール状にできている支柱」及び「レール」、「上下移動ができる」、「伸縮する」、「自動車伸縮屋根装置」に相当し、また、引用例1記載の発明においても、上面カバーシートの巾は、車体を覆い雨よけの用途巾に形成されたものであることは、自明の事柄にすぎないと認められるから、両者は、
「用途巾のシートをレール状にできている支柱にそって上下移動が容易な構造とし、シートがレールに沿って伸縮することを特徴とした自動車伸縮屋根装置。」である点で一致しているが、
本願発明は、横棒にシート等を取り付けた横棒シートとし、横棒の両端部をレールに沿って移動が容易な構造とし、横棒シートがレールに沿って伸縮するのに対して、引用例1記載の発明は、そのような構造ではない点、で相違している。
(3) 相違点についての審決の判断 上記相違点について検討すると、引用例2記載の発明の「展張用ロッド8」、
「シート材7」、「突出両端」、「展張用ロッド8に取り付けられたシート材」、
「ガイドレール9,10」、「展張あるいは畳込み」は、本願発明の「横棒」、
「シート」、「両端部」、「横棒シート」、「レール」、「伸縮」に相当するから、引用例2には、自動車の覆い装置及び雨除けの覆い装置として、横棒にシートを取り付けた横棒シートとし、横棒の両端部をレールに沿って移動が容易な構造とし、横棒シートがレールに沿って伸縮する技術手段が記載されているということができ、その作用、機能からみて、かゝる技術手段を引用例1記載の発明のような自動車伸縮屋根装置に適用することに困難性を有するとすることはできない。
そうしてみると、引用例1記載の発明の構造に代えて上記相違点における本願発明のようにすることは、引用例2記載の発明から当業者が容易に設計変更できることにすぎない。 そして、上記相違点における本願発明の事項によって奏する効果は、引用例2記載の発明から普通に予測できるものであって、格別なものとは認められない。
(4) 審決のむすび したがって、本願発明は、引用例1、2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本願発明と引用例1記載の発明との一致点についての認定の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例1記載の発明とを対比して、「両者は、「用途巾のシートをレール状にできている支柱にそって上下移動が容易な構造とし、シートがレールに沿って伸縮することを特徴とした自動車伸縮屋根装置。」である点で一致している」と認定したが、下記のとおり誤りである。
(2) 引用例1記載の発明は、自動車の車体の上部隅端部のそれぞれに取り付けられたガイドレールの間に自動車の上部を覆うシートの端部を介入させたシートを常時装備し、駐車時には、ワイヤー巻取り装置が牽引ワイヤーを巻き取ることにより、ガイドレールに沿って上面カバーシートが伸びて自動車の上部を覆い、かつ、
ガイドレール面に突設された多数の鉤片に側面カバーシートを引っかけて車体側面を覆うものであり、他方、走行に際しては、側面カバーシートを撤去し、かつ、カバー巻取り装置が牽引ワイヤーを巻き取ることにより、上面カバーシートを巻き取って収納する車体カバー装置である。ところが、カバーシートは下方へ垂れ下がる性質のものである上、自動車車体の屋根部、ボンネット部、ウィンドー部では、車体の幅方向の両端部よりも中央部が通常かなり高くなっているから、引用例1記載の発明では、上面カバーシートを伸縮させる際に垂れ下がったカバーシートが自動車の車体表面を強く擦る結果となる。また、引用例1の第1、第3、第5図が示すように、引用例1記載の発明では、ガイドレールが自動車の上部隅端部に密着して設置されているため、両側のガイドレール間の幅(距離)が、自動車の屋根部ではそれ以外の部分より狭くなっているから、上面カバーシートが屋根部に近づくにつれ、カバーシートがだぶついて車体を擦る結果となる。
(3) これに対し、本願発明では、両サイドのレールを、自動車のドアにしばしば取り付けられることが見受けられるウィンザーカバーの外側間の距離から車幅までの距離において正確に平行となるように強固に取り付け、これに沿って横棒が移動するものであることにより、レールと横棒とは常に90度の角度を保つ構成となるから、表面が変化に富む車体であっても、カバーシートがだぶついて車体に接触するようなことはない。
(4) 以上のとおり、本願発明と引用例1記載の発明とは構成及び作用において異質なものであるから、審決がした一致点の認定は誤りである。
2 取消事由2(本願発明と引用例1記載の発明との相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点として、「本願発明は、
横棒にシート等を取り付けた横棒シートとし、横棒の両端部をレールに沿って移動が容易な構造とし、横棒シートがレールに沿って伸縮するのに対して、引用例1記載の発明は、そのような構造ではない点、で相違している。」と認定し、この相違点に係る本願発明の構成について、「引用例2には、自動車の覆い装置及び雨除けの覆い装置として、横棒にシートを取り付けた横棒シートとし、横棒の両端部をレールに沿って移動が容易な構造とし、横棒シートがレールに沿って伸縮する技術手段が記載されているということができ、その作用、機能からみて、かゝる技術手段を引用例1記載の発明のような自動車伸縮屋根装置に適用することに困難性を有するとすることはできない。そうしてみると、引用例1記載の発明の構造に代えて上記相違点における本願発明のようにすることは、引用例2記載の発明から当業者が容易に設計変更できることにすぎない。そして、上記相違点における本願発明の事項によって奏する効果は、引用例2記載の発明から普通に予測できるものであって、格別なものとは認められない。」と判断したが、下記のとおり誤りである。
(2) 引用例2記載の発明は、地中に穴を空けて一対の支柱を配列し、この支柱に長さ方向に沿って配設したチャンネル材からなるガイドレール間に、同一幅の横棒シートを摺動可能に差し込み、ガイドレールに沿ってシートを伸縮させて簡易の小屋を形成するという組立式のフード型テントであり、移動に際しては、各支柱を地中から抜き取り、移動後には、地中に同一幅となるように穴を空けて各支柱を差し込むという作業が必要なものであるから、毎日のように不特定の場所に移動するような場合には、地中に穴を空けるような作業は、仮に可能であっても極めて面倒でその都度テントを組み立てることはできないし、駐車場は通常、砂利、コンクリート、アスファルトで舗装されているから、地中に穴を空けるような作業ができるはずもない。
そうすると、引用例2記載の発明における横棒付きで伸縮するカバーを同一幅(距離)の一対のレールに装着した構成が本願発明と共通するものではあるが、伸縮カバーを装着したレールが自動車の車体に固定されたものではないから不特定の場所に瞬時に移動することはできないし、地中に穴を空けるものであるから作業が面倒であるし、舗装された駐車場では適用不可能である。したがって、引用例2記載の発明は、本願発明や引用例1記載の発明とは、発明の目的や用途が異なるものであるから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を組み合わせることはできない。
(3) 引用例1記載の発明には、ガイドレールに沿って伸びてきたカバーシートが、ボンネット部を過ぎてウィンドー部から屋根部の狭い箇所に向かう際に、カバーシートがだぶついて下方へ垂れ下がって、車体を強く擦って傷を付けたり、カバーシートの端部がガイドレールに巻き付いたり、その案内溝に挟まったり、ワイパー等の突起物に引っかかるなどして抵抗が加わる結果、シートが破損したり、ワイパーが破損したり、カバーシートの伸縮を行うモータが過熱するなどの問題が生じ、いったん駐車した後にも風が強いと、だぶついたカバーシートが車体を強く擦って接触摩擦で車体を満身創痍とするという問題も発生する。
引用例2記載の発明は、移動した場所で地中に穴を空けて同一幅(距離)に一対の支柱を差し込んで組み立て、移動時には支柱を地面から抜き取るものであるから、作業が面倒であって不特定多数の場所へ速やかに移動することはできないし、
地面に穴を空けられない舗装された場所では使用できないという問題がある。また、引用例2記載の発明は、地中に金属製パイプ(本願発明の「支柱」に相当)を差し込むだけで小屋全体を支える構造であり、地面の土は概して軟らかいから、パイプがぐらついてしまって各パイプが平行となるように強固に固定することはできないので、ガイドレール10とロッド8(本願発明の「横棒」に相当)が常に90度の角度を保つようにすることはできない。そうすると、引用例2記載の発明では、カバーシートを円滑に伸縮させることができないだけでなく、風が吹けばカバーシートが凧のようになって小屋全体が崩壊して自動車に大きな損害を与える危険がある。
これに対し、本願発明では、カバーシートをその収納状態から車体に接触して傷を付けることのないように円滑かつ確実に伸ばし、どんな場所においても容易に屋根装置を形成して車体を風雨等から保護するとともに、移動に際しては、カバーシートを同様に縮めることにより面倒な作業を要することなく、速やかに移動することができるという効果を奏する。この効果は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明から当業者が期待も予測もできない顕著な効果である。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して 審決は、本願発明との関連において、引用例1の明細書の記載と図面を基にして、「引用例1には、「上面カバーシート9をガイドレール2,2に沿って移動自在な構造とし、上面カバーシート9がガイドレール2,2に沿って引き出され車体1を覆ったり、巻取られ収納できるようにした車輌用の車体カバー装置。」という発明が記載されている」と認定したものである。だぶついたカバーシートが車体を強く擦って車体を傷だらけとしたり、カバーシートの端部がガイドレールに捲き付いたりするという原告が主張する引用例1記載の発明の問題は、いずれも本願発明との関連においては、直接関係がない事項である。
2 取消事由2に対して (1) 引用例1記載の発明と引用例2記載の発明の組合せについて 審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点の検討において引用例2を引用し、必要な限度で、「引用例2には、「所望間隔離して多数配置した展張用ロッド8にシート材7を取り付け、該展張用ロッド8の突出両端を支柱1,2に配設したチャンネル材からなるガイドレール9,10内に配置し、ガイドレール9,10に沿って該展張用ロッド8が上下移動する構造とし、展張用ロッド8に取り付けられたシート材がガイドレール9,10に沿って展張あるいは畳込みする自動車の覆い装置又は雨除けの覆い装置。」という発明が記載されている」と認定したのであって、本願発明と直接対比するために引用例2を引用したものではない。
本願の特許請求の範囲の記載によれば、本願発明は、「自動車伸縮屋根装置」が車に取り付けられていることを要件としていないものであり、本願明細書に記載された実施例において、自動車伸縮屋根装置が車に取り付けられているにすぎない。
引用例2記載の発明は、自動車の覆い装置及び雨除けの覆い装置という点で、引用例1記載の発明の自動車伸縮屋根装置とは技術分野が共通し、引用例2記載の発明を引用例1記載の発明の適用するに当たっての特段の阻害要因も見当たらないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用して本願発明をなすことは、
当業者であれば容易になし得た程度のことである。
(2) 本願発明の奏する効果について 本願の特許請求の範囲に記載された「レール状にできている支柱にそって横棒の上下移動が容易な構造とし」た構成は、ガイドレール巾が一定であることを意味するものではない。したがって、原告が、ガイドレール巾が一定であることを前提として、本願発明が顕著な効果を奏すると主張することは、本願発明に直接関係するものではない。
本願明細書には、「本発明の自動車伸縮屋根装置の出現により、今までのように雨ざらしにして大事な愛車の寿命を著しくみじかくしていたものを解決することができるものである。」(甲第3号証手続補正書に添付された全文補正明細書3頁13〜17行)と記載されているが、この効果は、当業者であれば引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明から容易に予測をすることができるものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明と引用例1記載の発明との一致点についての認定の誤り)について (1) 本願明細書(甲第3号証手続補正書添付の全文補正明細書)の発明の詳細な説明には、「本発明は自動車の雨よけ等の屋根を伸縮することができることを特徴とした伸縮屋根装置に関するもの・・・」(1頁10〜12行)と記載されていることが認められ、本願発明の特許請求の範囲には、「用途巾の横棒にシート等を取り付け横棒の両端部をレール状にできている支柱にそって横棒の上下移動が容易な構造とし、横棒シートがレールに沿って伸縮する・・・」との記載がある。これらによれば、本願発明は、シートを取り付けた横棒が支柱に沿って容易に上下移動することによりシートが伸縮して自動車の雨よけ等の屋根となる伸縮屋根装置に関するものであると認められる。
(2) 引用例1(甲第4号証)には、「本考案は車体の上面及び側面を覆うカバーシートを容易且迅速に外装並びに収納できる車輌用の車体カバー装置に関する。」(2頁2〜4行)、「車体前部のワイヤー巻取り装置12のモータ13を回転させると巻取り軸15が回転し、左右の牽引ワイヤー16が左右の巻胴14に順次巻取られる。この巻取りに伴ってカバー巻取り装置6の巻取り胴8を回転させながら、
上面カバーシート9を通孔11より順次引き出し、これによって車体1の後面1cから上面1aそして前面1bの順に被い、図面第3図及び第4図に示す様に上面カバーシート9が車体1の上面1a及び前・後面1b,1cを完全に被ったところで、ワイヤー巻取り装置12におけるモータ13の回動を止める。」(12頁1〜12行)、「カバー巻取り装置6のモータ7を回転させる。この回転に伴って上面カバーシート9は、通孔11を通じて順次巻取り胴8に巻取られて装置の内部に格納される。このときワイヤー巻取り装置12の巻胴14に巻取られていた牽引ワイヤー16は、巻胴14が自動的に回転して巻戻され後方へ引き出される。さらに上面カバーシート9がカバー巻取り装置6内に巻取られ格納した時点でモータ7を停止する。尚、前記モータ7,13の電源は車載用のバッテリイ等を利用するが、必要に応じ軸をハンドルによって手動回転させる場合もある。」(13頁8行〜14頁3行)との記載があることが認められる。
これらの記載及び第1、第3、第4図(本判決6頁)が示すところによれば、引用例1記載の発明は、バッテリーを電源としたモータ又は手動によって左右の牽引ワイヤーを巻き取ることにより、自動車の車体上面を覆うカバーシートを容易に上下移動させるものと認められる。
(3) 審決は、本件発明と引用例1記載の発明との間の相違点として、「本願発明は、横棒にシート等を取り付けた横棒シートとし、・・・横棒シートがレールに沿って伸縮するのに対して、引用例1記載の発明は、そのような構造ではない点、で相違している。」と認定しており、シートが伸縮することを、相違点に係る本願発明の構成の中に含めて認定し、これを前提にして相違点についての判断を加えている。したがって、審決には、本願発明と引用例1記載の発明とを対比するに際して、原告主張の相違点の看過(一致点の認定の誤り)があったものということはできない。
(4) 原告は、引用例1記載の発明では、上面カバーシートを伸縮させる際に垂れ下がったカバーシートが自動車の車体表面を強く擦るし、引用例1の第1、第3、
第5図が図示するように、引用例1記載の発明では、両側のガイドレール間の幅(距離)が、自動車の屋根部で狭くなっているから、上面カバーシートが屋根部に近づくにつれ、カバーシートがだぶつく結果となるのに対し、本願発明では、両サイドのレールを正確に平行となるように強固に取り付け、これに沿って横棒が移動するものであることにより、レールと横棒とは常に90度の角度を保つ構成であるから、カバーシートがだぶつくことがないと主張する。
しかし、「両サイドのレールを正確に平行となるように強固に取り付け」、「レールと横棒とは常に90度の角度を保つ」との点は、特許請求の範囲に記載の本願発明の構成に規定されていないところであって、原告の上記主張は理由がない。
2 取消事由2(本願発明と引用例1記載の発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 引用例2(甲第5号証)には、「この考案は、・・・自動車の覆いおよび降雨時等の応急的な覆いとして利用される設置、撤去が可能なフード型テントに関するものである。」(1頁末行〜2頁3行)、「第1図に示すように支柱1,2の垂直部に畳込まれているシート材7を支柱1,2上に展張する場合は、ハンドル20を矢印A方向に回転する。すると、このハンドル20の回転に応じて駆動滑車17,18が一体に回転されると同時に、ロープ15,16も同一方向に同一速度で走行される。これに伴い、ロッド8を介して支持されたシート材7がガイドレール9,10に沿って第1図の矢印X方向に順次展開され、第2図のように展張される。」(5頁13行〜6頁2行)と記載されていることが認められる。
これらの記載によれば、引用例2記載の発明は、自動車の車体を覆うシート材から成るフード型のテントに関する発明であると認められる。そうすると、引用例2記載の発明は、本願発明及び引用例1記載の発明とは自動車の車体を覆うことにより車体を保護する機能を有する自動車関連の製品として共通するものであり、かつ、これを引用例1記載の発明と組み合わせることを妨げるような事情を見いだすことはできないから、引用例1記載の発明に引用例2記載の発明を適用することは、当業者にとって格別の困難性はなく、容易に想到可能であったものというべきである。
(2) 原告は、引用例2記載の発明では、支柱が地面の穴の中に配列され、移動に際しては各支柱を地中から抜き取るものであるのに対し、本願発明や引用例1記載の発明では、レールが自動車の車体に強固に固定されているものであるから、引用例2記載の発明は、本願発明や引用例1記載の発明とは、発明の目的や用途が異なるものであると主張するようであるが、本願発明の特許請求の範囲には、「レール状にできている支柱」がどこに固定又は配置されるかについての限定記載はない。
また、本願明細書(甲第3号証手続補正書添付の全文補正明細書)の発明の詳細な説明には、「本発明は自動車の雨よけ等の屋根を伸縮することができることを特徴とした伸縮屋根装置に関するもの」(1頁10〜12行)と記載されていることが認められ、この明細書の記載によれば、本願発明は、自動車の雨よけ等の屋根の伸縮を特徴とするものであることが明らかである。したがって、特許請求の範囲からすれば、本願発明には、伸縮する屋根が自動車に付いたものだけでなく、屋根が地面の穴の中に配列された支柱により組み立てられる自動車用の伸縮する屋根も含まれるものである。
原告の上記主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、理由がない。
(3) 原告は、本願発明では、カバーシートをその収納状態から車体に接触して傷を付けることのないように円滑かつ確実に伸ばし、どんな場所においても容易に屋根装置を形成して車体を風雨等から保護するとともに、移動に際しては、カバーシートを同様に縮めることにより面倒な作業を要することなく、速やかに移動することができること、本願発明のこの効果は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の発明から当業者が期待も予測もできない顕著な効果である旨主張する。
しかし、原告主張の上記効果のうち、カバーシートをその収納状態から車体に接触して傷を付けることのないように円滑かつ確実に伸ばすことは、引用例2記載の発明が奏することが明らかであり、その余の効果は、前示のとおり、特許請求の範囲の記載に基づくものということはできない。そうすると、本願発明の奏する効果は、当業者であれば引用例1及び2記載の発明から予測可能な範囲を超えるものとは認められず、格別顕著なものがあるとは認められない。
したがって、審決が、「引用例1記載の発明の構造に代えて上記相違点における本願発明のようにすることは、引用例2記載の発明から当業者が容易に設計変更できることにすぎない。そして、上記相違点における本願発明の事項によって奏する効果は、引用例2記載の発明から普通に予測できるものであって、格別なものとは認められない。」と判断した点に、誤りはない。
結論
以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がないので、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年5月14日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利