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事件 平成 17年 (ワ) 1394号 特許権侵害差止等請求事件
平成 17年 (ワ) 3681号 特許権侵害差止等請求事件
本訴原告(反訴被告) 株式会社アーランド
訴訟代理人弁護士 東谷宏幸
本訴被告(反訴原告) カースル産業株式会社
本訴被告(反訴原告) カースル株式会社
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/09/22
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本訴原告(反訴被告)が、特許第3597700号の特許権に基づいて、
本訴被告(反訴原告)らに対し、別紙物件目録2記載の製品の製造、販売の差止を求める権利を有しないことを確認する。
2 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)らが別紙物件目録2記載の製品を製造販売することが、本訴原告(反訴被告)の前項記載の特許権を侵害する旨を、本訴被告(反訴原告)らの取引先その他の第三者に告知し、流布してはならない。
3 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)カースル産業株式会社に対し100万7926円及びこれに対する平成17年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)カースル株式会社に対し25万円及びこれに対する平成17年5月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 本訴原告(反訴被告)の本訴請求及び本訴被告(反訴原告)らのその余の反訴請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを4分し、その1を本訴被告(反訴原告)らの連帯負担とし、その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。
7 この判決は、第3、第4項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 本訴原告(反訴被告、以下「原告」という。)の本訴請求 (1) 本訴被告(反訴原告、以下「被告」という。)らは、別紙物件目録1記載のレンジフードフィルタを製造し、販売し、販売のために宣伝、広告してはならない。
(2) 被告らは、その所有する別紙物件目録1記載のレンジフードフィルタを廃棄せよ。
(3) 被告らは、原告に対し、各自1億円及びこれに対する、被告カースル株式会社は平成17年3月19日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から、被告カースル産業株式会社は平成17年3月23日(同被告に対する訴状送達の日の翌日)から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らの反訴請求 (1) 主文第1項と同旨。
(2) 原告は、被告らが別紙物件目録2記載の製品を製造販売することが、原告の特許権を侵害するとして、被告らの取引先その他の第三者に告知し、流布してはならない。
(3) 原告は、被告らに対し、毎日新聞、読売新聞、朝日新聞の各関東版、関西版、九州版の都合9新聞上に、別紙3記載の謝罪文を、その表題及び原告・被告らの各商号は4号活字、その他は8ポイント活字で引続き2回掲載せよ。
(4) 原告は、被告らに対し、3000万円及びこれに対する平成17年5月10日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本訴は、被告らの製造販売する製品が原告の特許権侵害であるとして製造販売差止・製品廃棄請求と損害賠償請求をする訴訟である。反訴は、被告らの製造販売する製品に対する製造販売差止請求権の不存在確認請求と、原告が上記被告らの製造販売する製品が特許権の侵害となる旨の情報を流布しており、それが不正競争防止法2条1項14号に該当するとして、その差止め、信用回復措置請求及び損害賠償請求をする訴訟である。
なお、特許権侵害が争われている被告らの製品は、被告らは特定の製品名・品番の物を指しているのに対し、原告は図面と説明で特定した物を指しており、両者は同一ではない。ただし、原告は、被告らのいう製品名・品番の物も原告が特定した物に含まれると主張する。
1 基礎となる事実(証拠により認定した事実は、末尾に証拠を掲げた。それ以外は、争いのない事実である。) (1) 原告は、プラスチック製家庭用品の製造販売等を業とする株式会社である。
被告カースル株式会社(以下「被告カースル」という。)は、プラスチック製日用雑貨の製造販売、家庭用雑貨製品の製造販売等を業とする株式会社、被告カースル産業株式会社(以下「被告カースル産業」という。)は、プラスチック製品の製造販売、家庭用雑貨製品の製造販売等を業とする株式会社である。
(2) 原告は、下記特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
発明の名称 レンジフードのフィルタ装置 出願日 平成10年4月27日 登録日 平成16年9月17日 特許番号 特許第3597700号 (3) 特許請求の範囲請求項1は、次のとおり分説できる(以下、この発明を「本件発明」という。)。
@ レンジフードのフード内の排気口に着脱可能に配設されている金属製フィルタを覆うためのフィルタ装置であって、
A 前記金属製フィルタのフロント面をカバー可能なフィルタと、
B このフィルタの周縁部に取り付けられ、かつフィルタを、前記フロント面で緊張させて前記金属製フィルタに取付けるためのリング状伸縮性紐状体とで構成されており、
C 前記金属製フィルタは剛性で方形プレート状に形成されているとともに、上端部が排気口の上部に形成された溝又はスリットに挿入可能であり、下端部が排気口の下部に形成された溝に挿入可能であり、
D 前記フィルタは、不織布で構成されているとともに、
E 金属製フィルタのフロント面を被包可能なサイズを有し、
F かつ前記金属製フィルタに対応した相似形状の平面方形状に形成されており、
G 金属製フィルタの裏面での紐状体の収縮により、前記フロント面のフィルタに緊張力又は牽引力を作用させて、金属製フィルタに対してフィルタを取り付け、レンジフードの換気口に装着できるフィルタ装置。
(4) 少なくとも、被告カースル産業は、別紙物件目録2記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造し、被告カースルはこれを販売している。被告製品は、
被告らの共通の工場で製造されている。
(5) 被告製品は、本件発明の構成要件D、Eを充足する。
(6) 原告は、被告製品が本件特許権を侵害すると主張している。そして、原告は、本件特許権の特許登録の後、原告がキャップ式フィルタの特許を取得し、コピー商品の製造販売元に対して提訴した旨及び販売を中止してもらえない場合は販売会社にも訴えを起こすことも考えている旨の文書を、コープ九州事業連合等に送付した。
2 争点 (1) 被告製品が、本件発明の技術的範囲に属するか。
(原告の主張) ア 構成要件@、Aについて 被告は、被告製品は、構成要件@、Aについて、他用途もあるから相違すると主張するが、「他用途がない」ことは本件発明の構成要件ではない。
構成要件Bについて (ア) 「リング状」ないし「リング」は、仮にそれが「輪」を意味するとしても、定型の円や同心円である必要はない。このことは本件発明に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明にも記載されている。また、
「リング状収縮性紐状体」は、「ゴム」そのものが「リング状」であることは要求されていない。ゴムを縫いつけた後が全体としてリング状をしており、収縮性のある紐状の形状をしていれば、本件発明の要件に当たる。被告製品は、ゴム糸がフィルタの周囲を一周するように縫いつけているから、その形状はリング状である。
(イ) 被告製品は、ゴム糸の収縮力があるからこそ、金属製フィルタに被せたフィルタが被せるだけで外れないのであり、ゴム糸の収縮力により「緊張」している。
構成要件Cについて 被告は、被告製品は、構成要件Cについて、溝のない構造の金属製フィルタにも被せることができるし、他の物の各種カバーとしても使用可能であるから相違すると主張するが、「溝を有する構造のレンジフードの金属フィルタ以外のフィルタ」に被せられないことは、本件発明の構成要件ではない。
構成要件Fについて 「相似」には、「互いに似ていること」という意味も存する。すなわち、方形と三角形は形状の分類において異なるが、どちらも方形の場合、形状の分類においては同類であって、これを指して「相似」ということは何も差し支えない。
被告製品においても、被告らがいう線状ゴム糸で周囲が縫いつけられる前のフィルタ(不織布)の形状は方形であるから、同じく方形をしている金属製フィルタとは相似形状である。
構成要件Gについて 前記イ(イ)で述べたとおり、被告製品は、フィルタ周囲のゴム糸の収縮力によってフィルタを金属製フィルタに被せるだけで外れない構造としているから、フィルタを「緊張」させている。
(被告らの主張) ア 構成要件@、Aについて 被告製品は、構成要件@、Aと一致する点もあるが他用途もあるから相違する。
構成要件Bについて (ア) 本件発明のゴムは「リング状」であるから「切れ目のない輪」でなければならない。被告製品は、一見リング状に見えるが、線状のゴム糸を用いている。
(イ) 本件発明のフィルタは、ゴム紐の緊張力と牽引力が「金属製フィルタの裏側から」作用したときに、金属製フィルタのフロント面に「緊張できる性質」が要求されるものである。本件発明は、金属フィルタに密着(緊張)しなければならない。被告製品は、微力なゴム糸を用いているから、不織布では金属フィルタに密着(緊張)させることができないブカブカサイズである。被告製品は、これを、本件発明の実施例のような緊密な密着した製品に近づけることができないかと考えて、「取付テープ」を商品にセットして販売しているが、それでも緊密な密着した製品にならないから、本件発明の技術的範囲に属しない。
構成要件Cについて 本件発明のフィルタの適応対象は、「上端部が排気口の上部に形成された溝又はスリットに挿入可能であり、下端部が排気口の下部に形成された溝に挿入可能とされるレンジフードのフード内にある、剛性で方形プレート状に形成されている着脱可能な金属製フィルタ」のみに限定される。
被告製品は、構成要件Cの金属製フィルタに取付け可能でもあるが、溝のない構造の金属製フィルタにも被せることができるし、他の物の各種カバーとしても使用可能であるから、相違する。
構成要件Fについて (ア) 本件発明では、不織布フィルタと方形の金属製フィルタは相似である。しかし、金属製フィルタは、縦×横寸法は92種類のサイズ表示があり、金属製フィルタ同士でも、相似形はおろか、似ても似つかないほどかけ離れたサイズが大半である。被告製品は、これらの金属製フィルタと「相似形」ではない。
(イ) 本件発明のフィルタは、「方形」であるが、被告製品の四隅は丸くなっており、方形ではない。
構成要件Gについて 被告製品は、微力な線状ゴム糸を使用しているから、緊張力や牽引力を作用させてもフィルタを緊張させることは不可能である。まして、力を金属製フィルタの裏側から表側に作用させることなどあり得ない。
カ 本件発明は、金属フィルタを個別に被包した形状では、願書添付図面【図1】、【図3】が示すとおりのほぼ真円状と長方形状に、突起を取り除かれた3枚の金属フィルタを同時に被包した形状では同【図2】のとおりのフロント面が面一の平面に限定される。
被告製品はこれとは異なるから、本件発明の技術的範囲に属さない。
(2) 被告らは、別紙物件目録1記載の製品(以下「本件差止対象製品」という。)を製造販売しているか。
(原告の主張) 被告らは、本件差止対象製品を共同して製造するとともに、被告ら各自の名において販売している。被告製品も、本件差止対象製品に該当する。
(被告らの主張) 前記(1)(被告らの主張)のとおりの点が異なるから、本件差止対象製品は、被告製品ではない。被告らは、本件差止対象製品を製造販売していない。
(3) 本件特許権は無効審判において無効とされるべきものか。
(被告らの主張) ア 新規性進歩性 (ア) 本件発明は、訴外「工房DEKO」が平成2年出願の実用新案登録第2041761号を商品化し、乙第58号証のとおり一般的に広く販売されている商品であるから、新規性がない。
(イ) 被告らは、平成9年11月からレンジフード用キャップ式フィルタ「F-7686 レンジフードフィルタ」を製造販売している。被告製品が、本件発明の技術的範囲に属するのなら、本件発明は新規性がない。
(ウ) 原告は、平成元年から、本件発明の実施品を製造販売していたから、公然実施である。この公然実施は、乙第26号証等で原告自身が主張している。
(エ) 本件発明は、実願昭60-146162号(実開昭62-56117号公報)のマイクロフィルム(以下「審判甲第1号証刊行物」という。)に記載された発明である。
(オ) 本件発明は、審判甲第1号証刊行物、実公平6-11056号公報(以下「審判甲第2号証刊行物」という。)、実願平3-31109号(実開平4-118119号公報)のCD-ROM(以下「審判甲第3号証刊行物」という。)、実願昭55-127345号(実開昭57-50631号公報)のマイクロフィルム(以下「審判甲第4号証刊行物」という。)、実願平成1-69332号(実開平3-10136号公報)のマイクロフィルム(以下「審判甲第5号証刊行物」という。)、実願昭54-127351号(実開昭56-46728号公報)のマイクロフィルム(以下「審判甲第6号証刊行物」という。)、実願昭57-9656号(実開昭58-111821号公報)のマイクロフィルム(以下「審判甲第7号証刊行物」という。)、実公昭54-45019号公報(以下「審判甲第8号証刊行物」という。)、特開平6-137622号公報(以下「乙第45号証刊行物」という。)、に各記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
イ 特許法36条違反 (ア) 本件発明は、不織布フィルタを金属製フィルタに密着(緊張)させるものである。しかし、伸縮性に乏しい不織布では、そのようなものは製作することができず、パンティストッキングのように伸縮性に優れた素材を用いることが必要である。このような素材は、不織布では存在しないから、通常の知識を有する者が実施することができないものである。
(イ) 本件明細書には、「フィルタが金属フィルタ又はその要素から遊離するのを防止できる」とあるが、溝・スリットに挿入方式の金属製フィルタは、フロント面側に把手が設けられており、これを外さない限り、フィルタを金属フィルタから遊離させずに取り付けることはできない。
(ウ) 本件発明は、特許請求の範囲の「相似形の平面方形状」は、「フィルタ」が「相似形の平面方形状」なのか、「フィルタ装置」が「相似形の平面方形状」なのかが不明確である。換言すればゴムひもを付ける前か後かが明確ではない。したがって、特許請求の範囲が不明確である。
(原告の主張) ア 新規性進歩性について (ア) 「工房DEKO」が、商品化していたとか、販売していたという製品の構成も形状も不明である。被告らがこれを入手した時期も明らかではない。
また、被告らがその証拠とする乙第58号証のフィルタは、伸縮自在ニットなるものが金属製フィルタの角に来るように取り付けるものであって、本件発明のように金属製フィルタの裏側に位置するように取り付けるものではない。そのため、伸縮自在ニットの伸縮性はニット部を金属製フィルタ角部に止める作用しかしておらず、フィルタを金属製フィルタに緊張させる作用がない。また、伸縮自在ニットは幅のあるニット状の物であるというのであるから、リング状伸縮性紐状体とは異なる。
(イ) 被告らが実施していたと主張するゴムひも付きフィルタなるものがどのようなものか全く不明であって、本件発明と同一であるか全く明らかではない。
(ウ) 原告が平成元年から製造販売しているのは、換気扇用のフィルタであって、金属製フィルタに被せる構成のものではない。
(エ) 審判甲第1号証刊行物記載の発明は、ナイロン生地を筒織りにし、
それを丸及び楕円形に裁断しているため、ガードと相似形状の平面方形状の不織布フィルタを予測できない。
(オ) 審判甲第1、第2、第5号証刊行物には、剛性で方形プレート状に形成され、かつ排気口に対する特定の装着機構で装着可能な金属製フィルタと、金属製フィルタに対応した相似形状の平面方形状に形成された不織布フィルタとを組み合わせる点、このような組合せにおいて、金属製フィルタの裏面で紐状体を収縮させ、前記フロント面のフィルタに緊張力又は牽引力を作用させる点については開示も示唆もされてない。その他の刊行物にも、この点は記載も示唆もない。したがって、本件発明は、審判甲第1ないし第8号証刊行物、乙第45号証刊行物記載の発明から容易に発明することができたものではない。
イ 特許法36条違反について (ア) 本件発明では、リング状収縮性紐状体によって金属製フィルタに被せられたフィルタが外れない、抜け落ちないという現象は、収縮性紐状体の収縮力によってフィルタが「緊張」しているからにほかならないから、実現性は厳然と存在する。
引っ張られた状態、張った状態というのは物が完全に張りつめた状態だけを指すのではなく、緩んだ状態から引っ張られることは、完全に張りつめた状態までに至らなくとも緩んだ状態との比較で緊張しているといえるものである。
(イ) 金属製フィルタの把手の突起部分が金属製フィルタの一部をなしているのであれば、突起付近については把手の突起に緊密であれば、本件発明の構成を満たしている。
(ウ) 「相似」には、「互いに似ていること」という意味も存する。すなわち、方形と三角形は形状の分類において異なるが、どちらも方形の場合、形状の分類においては同類であって、これを指して「相似」ということは何も差し支えない。
本件発明では、金属製フィルタが方形であって、フィルタ部材たる不織布の裁断形状が方形であることから、両者の関係を「相似形状」と記載しているのである。
(4) 被告らの先使用権の有無 (被告らの主張) 被告らは、平成9年11月からレンジフード用キャップ式フィルタ「F-7686 レンジフードフィルタ」を製造販売している。被告製品が、本件発明の技術的範囲に属するのなら、被告らには先使用権がある。
(原告の主張) 先使用の根拠として被告らが提出する乙第62ないし第64号証は単なる帳簿であり、乙第65、第66号証は販売店の単なる証明であって商品販売の客観的裏付けにならないばかりか、被告らが仮に何らかの商品が販売されたとしても、
それがどのような構成のものであったかは何ら明らかになっていない。
(5) 原告が、虚偽事実を流布して不正競争行為をしているか。また、これにつき原告の故意過失の有無。
(被告らの主張) 本件特許権は無効であり、仮に有効であっても、被告製品は特許権侵害にはならない。ところが、原告は、被告製品が本件特許権を侵害すると主張して、被告らの顧客である日本生活協同組合本部、コープ九州事業連合、(藤栄大阪営業所を通じて)千趣会にその旨の文書を発信している。その際に、原告は、特許証と本件特許権に係る公開公報を配布しており、特許を受けた発明は本件発明であるのに、これより広い同公報記載の範囲を特許権であると主張している。原告は、販売業者を脅迫する記述までして営業妨害をした事実もある。
(原告の主張) 原告の行為が虚偽事実の流布であるとの主張は争う。
(6) 被告らの、本件特許権侵害行為が認められた場合に、これによる原告の損害 (原告の主張) 原告は、平成10年10月ころより本件発明の実施品であるレンジフードフィルタの製造販売を開始し、販売開始後3年間は極めて順調な売上増を達成していた。ところが、被告らは、平成13年ころから本件差止対象製品の製造を始め、
そのころから、被告ら各自の名前で全国の生協(生活協同組合)を中心に販売を開始した。このため、原告の製品は売上が頭打ちないし減少となり、値下げも余儀なくされた。
この売上減少(増加するはずであった売上増加見込み数の減少も含む。)及び値下げによる損害は、3億3000万円を下らない。原告は、その内金1億円を請求する。
(7) 原告の、不正競争防止法2条1項14号該当行為が認められた場合に、これによる被告らの損害 (被告らの主張) 被告らは、原告の行為により、売上高の大幅な減少を余儀なくされており、その利益率25%に当たる月額500万円を超える得べかりし利益を喪失している。よって、平成16年10月分から平成17年3月分までの6か月分合計3000万円の損害賠償を請求する。
(8) 原告の、不正競争防止法2条1項14号該当行為が認められた場合に、信用回復措置の要否
当裁判所の判断
1 争点(1)(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について (1) 構成要件Fについて ア 証拠(乙7)によれば、「相似形」とは、「互いに相似の関係にある2つ以上の図形」を指し、相似とは、「互いに似ていること」ないし「1つの図形が一様に拡大または縮小すると他の図形と完全に重ね合わせられること」を、「相似比」とは「相似の関係にある2つの図形の対応する部分の長さの比」を指すものと認められる。上記事実によれば、通常の用語法においては、正方形と長方形や、縦横の長さの比が著しく異なる長方形同士を「相似形」の形状とは呼ばないものと認められる。
上記「相似形状」について、本件明細書には、「フィルタは、金属製フィルタ又はフィルタ要素の平面形状に対応する相似形状を有していてもよい。例えば、フィルタは、方形状の金属製フィルタ又はフィルタ要素に対応して平面方形状であってもよく」(【0018】)との記載があるが、この記載を参酌しても、
「相似形状」が、通常の用語法と異なる趣旨で使われていると解することはできない。したがって、構成要件Fの「相似形状」とは、正方形と長方形や、縦横の長さの比が著しく異なる長方形同士の形状を含まないものと認められる。
この点に関して、原告は、どちらも方形の場合、形状の分類においては同類であって、「相似」である旨主張するが、そのような用例が普通に使われていることを認めるに足りる証拠はない。
イ 証拠(乙1の1・2、乙2ないし4)及び弁論の全趣旨(とりわけ、反訴状添付の被告製品の取扱説明書)によれば、被告製品の不織布は、縦横57p×44pないし55p×42pであるところ、縦横45p×30pまでの金属製フィルタに取り付けることができる汎用のフィルタであること、縦横45p×30pまでの金属製フィルタには、縦横の比率が様々な長方形のものが存在すること、したがって、被告製品は、例えば乙第2、第3号証に示される縦横44.8p×27.7pや縦横34.2p×29.8pの金属製フィルタのように、縦横57p×44pないし55p×42pの比率とは著しく異なった形状の金属製フィルタにも取り付けられることがあることが認められる。
ウ そうだとすると、被告製品は、縦横57p×44pないし55p×42pの比率とは著しく異なった形状の金属製フィルタに取り付けられるときには、
「相似形状」の要件を満たさないものというべきである。
(2) そして、本件明細書の中で「発明の効果」として、「本発明では、レンジフードにおいて、サイズ、取付け角度の異なる種々のレンジフードの金属製フィルタ又はフィルタ要素に対して、フィルタを緊張させて簡便かつ容易に取付けでき、
交換も容易である。」(【0025】)とされていることからすると、本件発明における「相似形状」は、取付けの対象となる種々の金属製フィルタに対して具備していることを要すると解すべきところ、本件全証拠によっても、レンジフードの金属製フィルタが、縦横57p×44pないし55p×42pの比率と同様であることが一般的であるとも認められないから、被告製品が、別紙物件目録1記載の物件に該当し、本件発明の技術的範囲に属すると認めるに足りる証拠はないというべきである。
2 争点(3)(本件特許権は無効審判において無効とされるべきものか)について (1) 新規性進歩性について ア 証拠(乙29)によれば、審判甲第5号証刊行物には、「換気口に取付けられる換気扇カバーであって、該換気扇カバーが、フィルタと、該フィルタの周縁部に設けられ、かつ上記周縁部を収縮可能な紐状体とを有することを特徴とする換気扇カバー」(実用新案登録請求の範囲)、「フィルタ(1)は、・・・開口部(4)を有する袋状に形成されている。なお、フィルタ(1)は・・・難燃性不織布で形成されているのが好ましい。・・・またフィルタ(1)の上記中央部は、換気口への取付状態において・・・平面部(1a)を形成する。またフィルタ(1)のうち開口部(4)の縁部は、フィルタ(1)と固着又は縫合することにより、環状挿通孔(3)が形成されている。この環状挿通孔(3)には、フィルタ(1)の周縁部の長さよりも短く、伸縮性を有する材料、例えば、合成ゴム等からなる環状の紐状体(2)が配されている。」(明細書6頁)との記載とともに、換気扇の裏面での紐状体の収縮により、換気扇のフロント面のフィルタに緊張力又は牽引力を作用させて、換気扇に対してフィルタを取り付けた図1、2が図示されている。
上記事実によれば、審判甲第5号証刊行物には、「換気扇の排気口を覆うためのフィルタ装置であって、前記換気扇のフロント面をカバー可能なフィルタと、このフィルタの周縁部に取り付けられ、かつフィルタを、前記フロント面で緊張させて前記換気扇に取付けるためのリング状伸縮性紐状体とで構成されており、前記フィルタは、不織布で構成されているとともに、換気扇のフロント面を被包可能なサイズを有し、換気扇の裏面での紐状体の収縮により、前記フロント面のフィルタに緊張力又は牽引力を作用させて、換気扇に対してフィルタを取り付け、換気扇の換気口に装着できるフィルタ装置」が記載されているものと認められる。
したがって、本件発明と審判甲第5号証刊行物記載の発明とは、次の点で相違し、その余の点で一致する。
(ア) 相違点1 本件発明は、レンジフードのフード内の排気口に着脱可能に配置されている金属製フィルタを覆うためのものであって、その金属製フィルタは剛性で方形プレート状に形成されているとともに、上端部が排気口の上部に形成された溝又はスリットに挿入可能であり、下端部が排気口の下部に形成された溝に挿入可能である、というものであるのに対し、審判甲第5号証刊行物記載の発明は換気扇を覆うためのものである点。
(イ) 相違点2 本件発明は、前記金属製フィルタに対応した相似形状の平面方形状に形成されているのに対し、審判甲第5号証刊行物記載の発明の形状は明確でない点。
イ 証拠(乙37)によれば、審判甲第1号証刊行物には、「ウーリー
加工をした細いナイロン生地(1)を筒織りにして、それを丸及び楕円形に裁断し、廻りにゴムを取付け伸縮自由としたもので、丸及び正方形、長方形のあらゆる型のカバーに使用する事を可能にしたものであり、本案を使用するときは、カバーの外側からかぶせる丈でよい。」(明細書2頁)、「本案は上述の如き構造作用であるから、
あらゆる換気扇及びキッチンフードのフィルターとして使用出来るものである。」(明細書3頁)との記載とともに、これを円形のレンジフードガードや、方形で網状であって、審判甲第3号証刊行物の図5の「金網等からなるフィルター部材」とほぼ同位置にあるレンジフードガードに取り付けた図(第5図)が図示されていることが認められる。
ウ 証拠(乙38)によれば、審判甲第2号証刊行物には、「この考案は、
換気扇用のフィルター体に関する。従来技術・・・キッチン用レンジフード換気扇のフィルターとして、実開昭57-50631号公報のものが公知である。」(1欄ないし2欄)、「素材を不織布又は難燃不織布を用いてフィルター部を形成し、
該フィルター部の周縁に弾性又は伸縮自在とする筒状の覆体を結合して換気扇用のフィルター体を構成する。」(3欄)、「図面の第2図を説明すれば、・・・方形状の換気扇カバー6の排気口5の前面に、前記したフィルター体Aのフィルター部1を位置させる。」(4欄)、「図面の第4図を説明すれば、キッチンフード10の斜め上下間に、後記するフードカバー12を嵌着させる受11を形成する。方形状のフードカバー12の前面に、前記したフィルター体Bのフィルター部7を位置させる。さらに、フィルター体Bの覆体8を引っ張るようにフードカバー12外周縁より内側に向け覆う様にして手を離せば、覆体8の弾性により覆体8の開口部は収縮し、フードカバー12内側に絡みつくように覆着する。該フィルターBを覆着させたフードカバー12を、前記フードカバー12の受11に嵌着することによって、フィルター体Bの覆体8は受11の両内側とフードカバー12両外側の間に挟まれるため、フィルター体B全体が固定されるものである。」(4欄ないし5欄)との記載とともに、方形状の換気扇に取り付けた第2図、レンジフードのフード内の排気口に着脱可能に配置されているフードカバーであつて、上端部が排気口の上部に形成された溝に挿入可能であり、下端部が排気口の下部に形成された溝に挿入可能なフードカバーに取り付けられている第4図が図示されていることが認められる。
エ 証拠(乙39)によれば、審判甲第3号証刊行物には、「レンジフードの吸気口に配設された金網等からなるフィルター部材の下面に着脱自在に装着されるフィルターであって、一端に上記フィルター枠体の端部が収容可能な袋状端部を設けた不織布からなるシート状のフィルター」(請求項1)、「従来、飲食店の厨房はもとより一般家庭の台所においても、・・・回転排気ファンを備えたレンジフードが広く採用されている。・・・この種のレンジフードは、例えば図5に示すように、・・・ハウジングの下面に、前記ファンに臨む排気口をガスレンジに向かって開口してあり、該吸気口にはガード用金網等のフィルター部材が、吸気口を囲む開口周壁を覆う状態で張設され、金網等のフィルター部材を介して排気されるようになっている。」(【0002】ないし【0003】)との記載とともに、レンジフードのフード内の排気口であって、審判甲第1号証刊行物の第5図の方形で網状のレンジフードガードとほぼ同位置に、着脱可能に配置されている金網状のフードカバーないしフードガード用金網等の金属製フィルター部材4に不織布からなるフィルター2が取り付けられている図5が図示されていることが認められる。なお、
通常、金属製フィルターが剛性であることは自明である。
オ 相違点1について 以上の事実によれば、審判甲第1ないし第3、第5号証刊行物に接した当業者は、審判甲第5号証刊行物記載の発明の換気扇用のフィルタを、審判甲第2号証刊行物も「換気扇用のフィルター体」として「レンジフード換気扇用のフィルター」をも例示しているとおり換気手段として類似の技術分野であって、審判甲第1ないし第3号証刊行物に示されているとおり既に不織布のフィルターの例もあるレンジフード用に転用し、レンジフードのフード内の排気口に着脱可能に配置されている金属製フィルタであって、その金属製フィルタは剛性で方形プレート状に形成されているとともに、上端部が排気口の上部に形成された溝に挿入可能であり、
下端部が排気口の下部に形成された溝に挿入可能であるというものに適用することに、容易に想到したものと認められる。
カ 相違点2について 方形状の金属製フィルタを覆う場合、不織布のフィルタの形状を金属製フィルタと同様の形状にすれば最も容易に覆うことができることは自明であるから、金属製フィルタに対応した相似形状の平面方形状に形成することは、当業者が適宜なし得た設計事項にすぎない。
なお、本件発明の「相似形状」を、原告の主張するように、単に「方形」と解すれば、なおさらそれは設計事項である。
(2) 以上のとおり、本件発明は、審判甲第1ないし第3、第5号証刊行物記載の発明から容易に発明することができたものであるから、本件特許権は無効審判において無効とされるべきものと認められる。
3 争点(5) (原告の不正競争行為及び故意過失の有無) (1) 証拠(乙26、28、49、50、53の1・2)によれば、原告は、いずれも被告らの被告製品販売先である、@日本生活協同組合連合会(日本生協連)に対し、平成16年10月ないし11月ころ、「特許取得のご案内」として、原告が以前から申請していたキャップ式フィルターの特許が登録になったこと、類似商品に対して手段を講じる準備をしていること、日本生協連が類似商品を販売しているようなので対応をお考えいただきたく思っている旨の文書、本件特許の特許証、
特許請求の範囲請求項1が「レンジフードのフード内の排気口に着脱可能に配置されている金属製フィルタを覆うためのフィルタ装置であって、前記金属製フィルタのフロント面をカバー可能なフィルタと、このフィルタを、前記フロント面で緊張させて前記金属製フィルタに取付けるための紐状体とで構成されているフィルタ装置」となっている公開特許公報を送付したこと、Aコープ九州事業連合に対し、平成16年11月ころ、「キャップ式フィルターの特許の案内」とする書面を送付し、平成17年3月ころ、「当社ではコピー商品の販売を中止していただけるものと考えておりましたが、誠に残念でなりません。キャップ式のフィルターは、平成元年より製造販売し、他社に無い独自の商品としてかなりの市場で認知されておりますが、残念なことにコピー商品が販売されています。現在コピー商品を販売しているのは1社だけだと思われます。」「販売を中止していただけない販売会社にも訴えを起こすことも考えております。損害賠償は、特許出願日までさかのぼって請求することが特許法では可能となります。また、特許無効審判を請求している企業があるようですが、国(特許庁)の機関が審査し、一度登録された特許が無効になる事は、ほんの少数だと聞いております。」との書面を送付し、Bコープきんき事業連合に対し、平成17年4月ころ、「特許取得のご案内」として、原告が以前から申請していたキャップ式フィルターの特許が登録になったこと、キャップ式フィルターは平成元年から原告が製造販売している商品であること、類似商品に対して手段を講じる準備をしていること、コープ近畿事業連合は、類似商品を販売している様なので対応をお考えいただきたく思っている旨の文書を送付し、C藤栄を通じて千趣会に対し、平成16年11月ころ、被告製品が特許侵害ではないかとの旨の連絡をしたこと、D日本生協連関西ないしクリップキャロット協議会なる者に対し、「特許取得のご案内」として、原告が以前から申請していたキャップ式フィルターの特許が登録になったこと、コピー商品の販売元に対して提訴したこと、貴社が類似商品を販売しているようなので対応をお考えいただきたく思っている旨の文書を送付していることが認められる。
そして、上記原告の文書は、「類似商品」が被告らの製造販売する製品であることを明示していない場合もあるが、文書の送付を受けた者は、いずれも被告製品の取扱先であるから、被告製品が「類似商品」ないし「コピー商品」であって本件特許権の侵害品であるとする内容と認識するものと認められる。
(2) 前示のとおり、本件特許権は無効審判において無効とされるべきものであるから、原告は、本件特許権を行使することができないものである。また、被告製品が、構成要件Fの点で本件発明の技術的範囲に該当しないことも前示のとおりである。したがって、原告の(1)記載の行為は、虚偽の事実を告知、流布する行為であって、かつ、その各文面からして、被告らの営業上の信用を害するものというべきである。なお、原告と被告らが競争関係にあることは、前記第2の1(1)の事実から明らかである。
(3) また、原告が、被告製品が本件特許権の侵害品であると主張していることからすれば、原告は、今後も同様の行為をするおそれがあるものと認められる。
(4) 特許権者において、特許権の侵害品であると考える物品について、これを製造していない第三者に対して警告するときは、特許に無効原因がないか、それが真実侵害品であるか、その警告が製造者の営業上の信用を害する虚偽の事実とならないかについて、より一層の慎重さが要求されるものである。
ところが、原告は、上記(1)の行為をするに当たって、いずれも実用新案関係の公報ないし出願書類のマイクロフィルムである審判甲第1ないし第3、第5号証刊行物に照らして、本件特許権の有効性や技術的範囲該当性について検討したとも、その検討結果を踏まえて警告が被告らの営業上の信用を害する虚偽の事実とならないように留意したとも認めることはできない。かえって、原告は、上記(1)@では、本件特許権の権利範囲より広く、「金属製フィルタに対応した相似形状の平面方形状」の文言のない特許請求の範囲が記載された公開公報を送付し、同Aでは、
被告らから無効審判請求がされ、審判甲第1ないし第3、第5号証刊行物に接した後であるのに、「原告が平成元年から販売しているキャップ式フィルター」全体に権利があり、「損害賠償は、特許出願日までさかのぼって請求することが特許法では可能」であり、「特許が無効になる事は、ほんの少数」として、本件特許権が無効となる可能性はほんの少しであるかのような記載をして、被告らの取引先に書面を送付している。以上の事実に、上記(1)の文面を総合すれば、原告は、真摯に本件特許権の有効性、技術的範囲該当性や被告らの営業上の信用を害する虚偽の事実とならないかという点に留意せず、上記(1)の行為をしたものと推認すべきである。したがって、原告には、上記(1)の行為について過失がある。
4 争点(7)(原告の不正競争行為による被告の損害)について (1) 証拠(乙51、71)によれば、平成16年11月30日ころから同年12月7日ころにかけて、被告カースル産業は、日本生活協同組合連合会から、同会が既に企画b付して販売企画をしていた被告製品(「かぶせて簡単レンジフードフィルター」)の納入計画合計8459点の取消を受けたこと、上記被告製品は、
同会に単価448円、合計378万9632円で納入予定であったことが認められる。そして、上記取消は、前記(1)@の警告の時期に近接していること及び日本生活協同組合連合会が上記企画を取り消すべき他の理由も認められないことからすれば、原告の前記(1)@の行為と相当因果関係があると推認される。そうだとすると、
被告カースル産業は、上記取消分の被告製品の販売によって得ることができた利益を失い、同額の損害を受けたものというべきである。
上記損害に関し、証拠(乙71)には、損害額を納入予定価格の2分の1である189万4816円とする記載がある。しかし、上記は客観的裏付けを欠き、直ちに採用することはできない。もっとも、被告製品を正常に販売できれば、
被告らに相当の利益が生じることは、原告が本訴において弁護士を代理人として被告らに損害賠償を請求し、被告カースルが弁理士を代理人として本件特許の無効審判請求をしている事実(乙73の1)からして、容易に推認できるところであって、被告カースル産業の得べかりし利益は、納入予定価格の20%である、75万7926円を下らないものと推認することができる。
他方、弁論の全趣旨(とりわけ、反訴状添付の被告製品取扱説明書)によれば、被告製品の包装には被告カースルの名称が記載されていることが認められるけれども、上記のとおり被告製品を日本生活協同組合連合会に納入する予定であったのは被告カースル産業と認められるから、上記納入取消により、被告カースルに何らかの得べかりし利益があったとか、これを喪失したとか、認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(2) 被告らは、原告の行為により、月間売上高の大幅な減少を余儀なくされており、その利益率25%に当たる月額500万円を超える得べかりし利益を喪失していると主張する。しかし、仮に、前記日本生活協同組合連合会からその後受注がないとしても、原告の行為がない場合には当然に同会からその後も継続的に受注があったと認めるに足りる証拠もなく、また、他に、被告らが本来得られるはずであったのに失った売上や利益があるという立証もない。
もっとも、原告の前記3(1)認定の行為は、被告らが、本件特許権侵害による損害賠償を本件特許出願日までさかのぼって支払う義務があるかのような記載や、「原告が平成元年から販売しているキャップ式フィルター」の同種製品全体が本件特許権を侵害するかのような記載を始めとして、被告らの信用を害するものであって、これによって、被告らは、既に受注していた取引を取り消されなかったとしても、やはり信用を毀損される損害を受けたものと認められる。当裁判所は、その損害額を被告ら各自につき25万円(合計50万円)と認める。
(3) 証拠(乙71)には、被告カースルがした本件特許の無効審判請求に関する費用、判定請求に関する費用、本訴に対する応訴のために要した経費が合計1350万7400円である旨の記載がある。
しかし、弁論の全趣旨(とりわけ、平成17年3月16日付原告準備書面の記載)によれば、原告は、平成14年3月ころには、被告らに対し、被告ら製造販売に係るレンジフードフィルタ(被告製品を含む)が本件特許権に係る発明の技術的範囲に属する旨の警告をしており、原告と被告らの間には本件特許権侵害の成否を巡ってかねて紛争があり、その一環として、原告が、本訴を提起していることが認められる。そして、原告の上記警告や本訴の提起は、特許権に係る権利行使のために許容される行為の一環と認められるところ、上記無効審判請求、判定請求、
本訴に対する応訴は、これに対する被告らの防御として行われたものと認められる。したがって、上記無効審判請求、判定請求、本訴に対する応訴は、原告の前記不正競争によって初めて必要となって行われたものとは認められないから、これに要した費用について、原告の不正競争行為との間に相当因果関係は認められない。
なお、被告ら主張に係る本訴に対する応訴費用の中には、反訴の費用も含まれているものと解されるが、反訴のうち不正競争防止法に関する部分の請求によって、訴訟費用以外に、被告らに追加的な費用が発生したと認めるに足りる証拠はない。
5 争点(8)(信用回復措置の要否)について 原告の不正競争行為は、別法人かどうか定かでないものを含めても、せいぜい被告らの取引先である数団体(数法人)に対してなされたものであって、前記信用毀損に対する損害賠償に加えて、更に営業上の信用を回復するために新聞紙上に広告をする必要があるものとは認められない。
6 結論 以上の次第で、
(1) 原告の本訴請求は、本件特許権が無効審判において無効とされるべきものであって行使することができないから、理由がなく、
(2) 被告らの差止請求不存在確認反訴請求は、差止めを求める本訴請求と、
対象物が同一の場合には確認の利益を欠くものであるが、本件において、反訴の対象物(被告製品)は、少なくとも別紙物件目録1の「2 物件の説明」のうち「金属製フィルタに対応した相似形状」の要素を欠く点において本訴の対象物(本件差止対象製品)と同一とは認められないため、確認の利益があるというべきであり、
したがって、同請求は理由があるから認容し、
(3) 被告らの不正競争行為差止反訴請求は、被告らの請求は、「原告の特許権」を限定していないところ、本件特許権に関しては理由があるから認容し、その余の特許権に関しては、原告は現在特許権侵害である旨の主張をしていないため、
理由がないから棄却し、
(4) 被告らの損害賠償反訴請求は、被告カースル産業について75万7926円と25万円の合計金100万7926円、被告カースルについて25万円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由があるから認容し、その余は棄却し、信用回復措置請求は必要がないから棄却することとして、
主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 松宏之
裁判官 守山修生