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関連審決 無効2000-35415
関連ワード 相違点の認定 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 185号 審決取消請求事件
原告 有限会社彩光
原告 渡辺通商株式会社
両名訴訟代理人弁護士 荒木孝壬
同 福屋登
両名訴訟代理人弁理士 武田賢市
同 武田明広
被告A
訴訟代理人弁理士 鎌田文二
同 東尾正博
同 鳥居和久
同 田川孝由
同 北川政徳
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2000−35415号事件について平成13年3月21日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 主文と同旨 2 被告 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「カレンダー帳等の製本方法」とする特許第3054512号の特許(平成5年3月12日出願,平成12年4月7日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告らは,平成12年7月31日,本件特許を無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2000-35415号事件として審理し,その結果,平成13年3月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年4月4日に原告らに送達した。
2 特許請求の範囲(別紙図面(1)参照) 重ね合わせた複数枚の紙片の上辺に沿って貫通孔を複数個形成し,この貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,この流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に,厚紙よって形成した背カバーを接着するカレンダー帳等の製本方法。
3 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本件発明が実願平4-74118号の願書に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書」という。別紙図面(2)参照。)に記載された考案(以下「先願考案」という。)と同一であると認められるから,本件特許は無効である,との原告ら主張の無効事由を,そのように認めることはできないとして排斥した。
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「1.手続の経緯・本件発明」及び「2.請求人の主張」は認める。「3.当審の判断」の「3-1.先願明細書等に記載された考案」については,審決書4頁17行ないし23行及び4頁35行ないし5頁5行を争い,その余は認める。同「3-2.対比・判断」については,同5頁18行ないし25行を認め,その余を争う。「3-3.むすび」は争う。
審決は,本件発明と先願考案との一致点・相違点についての認定・判断を誤り,一致点である事項を相違点であるとした結果,本件発明が先願考案と同一であるとすることはできないとしたものであって,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取消しを免れない。すなわち,審決は,本件発明と先願考案とが,「本件発明が,「貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,この流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に,厚紙よって形成した背カバーを接着する」のに対し,先願考案では,綴り部21の表面および裏面にホットメルトタイプの熱融着剤3を塗布し,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を空隙部41および貫通孔24に充填し,綴り部21に塗布した熱融着剤3によって綴り部材4を紙葉20の上辺に接着し,貫通孔24に充填した熱融着剤3によって各紙葉20を接合する点で構成が相違している。」(審決書5頁26行〜33行)と認定したが,誤りである。
1 審決は,上記の相違点の認定に先だって,先願明細書に,「重ね合わせた複数枚の紙葉20の上辺部近傍に設けた綴り部21に,複数の貫通孔24を穿孔し,該綴り部21の表面および裏面にホットメルトタイプの熱融着剤3を塗布し,固定金型53,54でカレンダー本体2を固定した後,上金型52で綴り部材4を折り曲げ成形しながら綴り部21の表裏面を綴り部材4で挟持し,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を,空隙部41および貫通孔24に充填して熱融着剤3を硬化し,綴り部21に塗布した熱融着剤3によって綴り部材4を紙葉20の上辺に接着し,貫通孔24に充填した熱融着剤3によって各紙葉20を接合するカレンダー帳の製本方法・・・が記載されている」(審決書4頁35行〜5頁5行)と認定している。
しかし,先願明細書(甲第3号証)の図2,図4は,貫通孔24と空隙部41とが接する部分における貫通孔24の断面図を示しているものの,同図3(a)(綴り部21の平面図)は,貫通孔24が綴り部21の図面上の右側と左側の2列に設けられていること,すなわち,左側の列の貫通孔24は,図2,図4が図示するように空隙部41と接し,右側の列の貫通孔24は,空隙部とは連通せずに,専ら綴り部材4に接していることを示している。したがって,右側の貫通孔24内の熱融着剤3は,各紙葉20を接合するとともに,綴り部材4と接着しているのである。
したがって,審決は,先願考案を,審決書5頁2行ないし4行及び同頁31行ないし32行において,前記のとおり,「綴り部21に塗布した熱融着剤3によって綴り部材4を紙葉20の上辺に接着し,貫通孔24に充填した熱融着剤3によって各紙葉20を接合する」ものであると認定することにより,先願考案における上記右側の列の貫通孔24内の熱融着剤3が上下の紙葉20を綴り部21と接着していることを看過した誤りがある。
2 審決は,前記のとおり,「本件発明が,「貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込・・・(む)」のに対し,先願考案では,綴り部21の表面および裏面にホットメルトタイプの熱融着剤3を塗布し,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を空隙部41および貫通孔24に充填」(審決書5頁26行〜30行)する点で相違すると認定した。
しかし,本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲においては,接着剤をどのような方法で流し込むかについては,「貫通孔内に・・・接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し」としているだけで,それ以上の限定はしていない。また,本件明細書の他の部分をみても,接着剤をどのようにして貫通孔内に流し込むのかについての具体的方法や構成は何ら開示されていない。接着剤をどのような方法で貫通孔内に流し込むかについての本件明細書の記載がこのようなものである以上,本件発明は,接着剤を貫通孔内だけに直接流し込む方法も,貫通孔の設けられた紙片上に接着剤を塗布することにより,その一部を貫通孔内に流し込む方法も含むものであるということができる。そうすると,本件発明における貫通孔内に接着剤を溶融状態にして流し込むという方法は,接着剤を貫通孔内だけに流し込む方法も,貫通孔のある紙片表面に接着剤を塗布することにより,その一部を貫通孔内に流し込むという先願考案の方法等も含む,これら個々のものより上位の概念として把握された方法であると解する以外にないというべきである。審決の前記相違点の認定は誤りである。
被告は,本件発明で採用されているのは,貫通孔内に流し込んだ接着剤によって厚紙の背カバーを接着する方法,すなわち,貫通孔内に流し込んだ接着剤だけで背カバーの接着が可能となる方法のみである,と主張する。
しかし,本件明細書をみても,その特許請求の範囲に,「この流し込んだ接着剤によって・・・背カバーを接着する」との記載はあるものの,貫通孔内に流し込んだ接着剤だけで背カバーの接着が可能となるとの記載は,特許請求の範囲の欄にも,発明の詳細な説明の欄にもない。本件明細書には,貫通孔内に接着剤をどのようにして流し込むのかについて,接着剤を貫通孔内にノズルのようなもので流し込むのか,あるいは,貫通孔が設けられた紙面に接着剤を塗布することにより流し込むのかという具体的方法・手段については,何ら開示されていないのである。このように,本件発明を,貫通孔内に流し込んだ接着剤だけで背カバーの接着を可能とするものに限定して解釈すべき具体的根拠は,本件明細書のどこをみても見出すことはできない。したがって,本件発明をこのように限定することはできない。
被告は,ホットメルト接着剤を塗布する実験の結果(乙第1,第2号証)を提出して,貫通孔を設けた複数枚の紙片の表面及び裏面にホットメルト接着剤を塗布しても,当然には貫通孔内に接着剤が充填されないと主張する。
しかし,被告が実験したホットメルト接着剤の塗布方法は,ホットメルト接着剤の数ある塗布方法のうちで,ホットメルト接着剤を貫通孔内へ円滑に充填できない一例であるにすぎず,このような実験例を提示したからといって,貫通孔のある紙片の表面にホットメルト接着剤を塗布するすべての方法において,ホットメルト接着剤を貫通孔内へ充填することができないという証明にはならない。ホットメルト剤を塗布する方法として,ホイール方式,ローラー方式,刷毛などで塗り付ける面状塗布方式がある(甲第4,第5号証参照)。これらの塗布方式の場合には,貫通孔の部分に塗布された接着剤が当然に貫通孔内に流し込まれることは明らかである。
3 以上のとおり,先願発明は,綴り部材4が綴り部21に塗布された熱融着剤3によって紙葉20の上辺に接着され,貫通孔24に充填された(流し込まれた)熱融着剤3が,各紙葉20を接合するとともに,この充填された熱融着剤により綴り部材4を紙葉20の上辺に接着しているものである。したがって,本件発明の構成及び作用効果が先願発明の構成及び作用効果と同一であることは,明らかである。審決の本件発明と先願考案との相違点の認定は誤りである。
4 審決は,本件発明と先願考案との間には,前記相違点があるとした点で,これについて,「「貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,この流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に,厚紙よって形成した背カバーを接着する」こと,すなわち,まず,溶融状態の接着剤を貫通孔内に流し込んで各紙片を接合し,次に,この流し込んだ接着剤によって背カバーを接着することは,製本分野において周知・慣用技術とはいえず,しかも,先願考案は,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を空隙部41に充填することにより,「空隙部で硬化する熱融着剤によって綴り部の強度が確保され,撓みを防止する」という効果を奏するものであり,本件発明と先願考案とは,その効果においても相違する。したがって,上記相違点が当業者が適宜できる程度の構成の微差であるとはいえず,本件発明が先願考案と同一であるとすることはできない。」(審決書5頁34行〜6頁6行)と判断した。
しかし,審決の上記相違点の認定自体が誤りであることは,前記のとおりであり,これを前提とした審決の上記判断は誤っている。また,本件発明と先願考案との作用効果を比較検討する際には,両者の同一性のある共通の構成部分について,すなわち,先願明細書において,貫通孔内に充填された熱融着剤が各紙葉を接合すると同時に,綴り部材を接着しているかどうかを判断すればよいのであって,先願考案には存在するが,本件発明には存在しない,先願考案の空隙部41による作用効果を本件発明の作用効果と比較しても意味がない。それゆえ,審決が,先願考案の空隙部41を取り上げて,先願考案が「綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を空隙部41に充填することにより,「空隙部で硬化する熱融着剤によって綴り部の強度が確保され,撓みを防止する」という効果を奏するものであり,本件発明と先願考案とは,その効果においても相違する。」と判断したことは,本件発明と先願考案との同一性についての判断手法を誤っているというべきである。
被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決には取り消すべき理由がない。
1 先願考案は,綴り部21の表面及び裏面に熱融着剤3を塗布し,次に折り曲げ成形前の綴り部材4を配置した下金型51の上に,このカレンダー本体2をセットし,固定金型53,54でカレンダー本体2を固定した後,上金型52で綴り部材4を折り曲げ成形しながら綴り部21の表裏面を綴り部材4で挟持すると,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3が,貫通孔24及び空隙部41に充填されることとなる方法である。したがって,先願考案では,綴り部の表面及び裏面に綴り部材を接着するために,まず,綴り部の表面及び裏面に熱融着剤を塗布するものであって,熱融着剤を貫通孔24だけに充填して,カレンダーを製造することはできない。これに対し,本件発明は,貫通孔内に接着剤を流し込んで各紙片を接合し,この後,貫通孔内に流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に厚紙によって形成した背カバーを接着する方法である。したがって,本件発明は,先願発明とは,各紙片を接合し,背カバーを接着する手順が異なるのである。
2 本件発明は,上記のとおり,貫通孔内の接着剤によって,綴り部21の表面及び裏面に位置する背カバーを接着するものであって,貫通孔内に流し込んだ接着剤だけで背カバーの接着が可能となるものである。これに対し,先願考案では,上記のとおり,カレンダー本体の綴り部21の表面及び裏面に熱融着剤3を塗布し,綴り部材4を接着するものである。
また,先願考案では綴り部21の表面及び裏面に接着剤を塗布するだけでは,接着剤の表面張力により,当然には貫通孔に熱融着剤が充填されないため,綴り部21の表面及び裏面を綴り部材4で挟持して,貫通孔内に熱融着剤3を押し込むという方法を使用したのである。このことは,貫通孔を空けた複数枚の紙片の上辺にホットメルト接着剤を塗布する実験を行ったところ,塗布によってはホットメルト接着剤が貫通孔内に充填されなかったという実験結果(乙第1号証,乙第2号証の1・2)から裏付けられる。
3 本件発明は,貫通孔内に流し込んだ接着剤だけで背カバーの接着が可能となるものであるから,背カバーの接着のために紙片の表面及び裏面に接着剤を塗布する必要がなく,接着剤の量を貫通孔内だけに必要な最小限とすることができるとともに,貫通孔内に接着剤を流し込むことによって,紙片間をより確実に接合できて落丁の発生も抑制できるという顕著な効果を奏する。
これに対し,先願考案では,綴り部の表面及び裏面に塗布した余剰の熱融着剤を,綴り部材の挟持により貫通孔及び空隙部に充填する方法であるから,綴り部の表面及び裏面にそれだけ多くの熱融着剤を塗布しなければならないことにより熱融着剤の使用量が多くなるという問題があり,これとは反対に綴り部の表面及び裏面に塗布する熱融着剤の使用量を少なくすると,貫通孔に充填される熱融着剤の量が少なくなって落丁が発生しやすくなるという問題が発生する。
本件発明と先願考案とは,紙片の表面及び裏面に接着剤の塗布を必要とするかどうか,貫通孔内の接着剤だけで背カバーを接着できるかどうかという点において異なることにより,その効果においても上記のように相違するから,明らかに別の発明である。
4 以上のとおりであるから,本件発明と先願考案との相違点についての審決の認定(審決書5頁26行〜33行)に誤りはない。
当裁判所の判断
1 審決の相違点の認定について 審決は,「本件発明と先願考案とを対比すると,先願考案の「紙葉20の上辺部近傍に設けた綴り部21に,複数の貫通孔24を穿孔し」及び「綴り部材4」は,本件発明の「紙片の上辺に沿って貫通孔を複数個形成し」及び「背カバー」にそれぞれ相当しているので,両者は,重ね合わせた複数枚の紙片の上辺に沿って貫通孔を複数個形成し,溶融状態にしたホットメルトタイプの接着剤によって,各紙片を接合するとともに,紙片の上辺に,厚紙によって形成した背カバーを接着するカレンダー帳等の製本方法で一致し」(審決書5頁18行〜25行),「本件発明が,「貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,この流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に,厚紙よって形成した背カバーを接着する」のに対し,先願考案では,綴り部21の表面および裏面にホットメルトタイプの熱融着剤3を塗布し,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を空隙部41および貫通孔24に充填し,綴り部21に塗布した熱融着剤3によって綴り部材4を紙葉20の上辺に接着し,貫通孔24に充填した熱融着剤3によって各紙葉20を接合する点で構成が相違している。」(審決書5頁26行〜33行)と認定した。
審決は,上記のとおり,本件発明と先願考案との相違点を,第1に,本件発明では,貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込むのに対し,先願考案では,綴り部21に塗布したホットメルトタイプの熱融着剤3の余剰分を貫通孔24に充填するものであること,第2に,本件発明では,貫通孔内に流し込んだ接着剤により,各紙片を接合し,紙片の上辺に背カバーを接着するのに対し,先願考案では,綴り部21に塗布した熱融着剤3によって綴り部材4を紙葉20の上辺に接着し,貫通孔24に充填した熱融着剤3により,各紙葉20を接合すること,の2点において相違しているものと認定したものである。第1の点は,貫通孔への接着剤の充填方法の差異である。第2の点は,貫通孔へ充填された接着剤の機能の差異に係るものであり,本件発明では,背カバーを紙片の上辺に接着するのが,貫通孔内に充填した接着剤であるのに対し,先願考案では,綴り部材4を紙葉の上辺に接着するのが,綴り部21に塗布された接着剤であって,貫通孔へ充填された接着剤でない,とするものである。また,この第2の相違点については,審決が,相違点についての検討の中で,「「貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,この流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に,厚紙よって形成した背カバーを接着する」こと,すなわち,まず,溶融状態の接着剤を貫通孔内に流し込んで各紙片を接合し,次に,この流し込んだ接着剤によって背カバーを接着することは,製本分野において周知・慣用技術とはいえず」(審決書5頁34行〜39行)と判断していることからすれば,審決は,本件発明は,貫通孔内に流し込まれた接着剤のみによって,背カバーと紙片の上辺を接着するものであると解釈しており,貫通孔内に流し込まれた接着剤と紙片の上辺に塗布された接着剤の双方により,背カバーを紙片の上辺に接着するものは,本件発明に含まれないと判断しているものというべきである。
2 先願考案について 甲第3号証によれば,先願明細書には,卯木の記載があり,これに対応する図1ないし4もあることが認められる(別紙図面(2)参照)。
「まず,印刷された各紙葉20を所定枚数用意して,1年分の1セットとし,きれいに重ね合わせ,カレンダー本体2を形成する。次に,このカレンダー本体2にミシン目23を設けて,紙葉20の主面22と綴り部21とを区切る。ついで,この区切られた綴り部21に,複数の貫通孔24を穿孔し,該綴り部21の表面および裏面に熱融着剤3を塗布する。この際,熱融着剤3は・・・図3に示すように,ミシン目23から所定間隔を隔てた塗布領域31に塗布する。そして,図4に示すように,折り曲げ成形前の綴り部材4を配置した下金型51の上に,このカレンダー本体2をセットし,固定金型53,54でカレンダー本体2を固定した後,上金型52で綴り部材4を折り曲げ成形しながら綴り部21の表裏面を綴り部材4で挟持する。すると,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3が,貫通孔24および空隙部41に充填されることとなる。その後,綴り部材4を挟持する上金型51および下金型52(判決注・「下金型51および上金型52」の誤りである。)を加熱して熱融着剤3を硬化させる。すると,カレンダー本体2を構成する各紙葉20は,紙葉20と綴り部材4との間および貫通孔24で充填硬化した熱融着剤3によって綴じ固められることとなる。また,空隙部41で硬化した熱融着剤3によって,綴り部21が撓むことなく補強されることとなる。」(段落【0021】〜【0025】) 先願明細書の上記記載とその図1ないし図4が図示するところによれば,先願明細書には,カレンダー帳として製本する本体において,図3(a)が図示する綴り部21の塗布領域に熱融着剤3を塗布し,固定金型53,54でこのカレンダー本体2を固定した後,上金型52で綴り部材4を折り曲げ成形しながら綴り部21の表面及び裏面を綴り部材4で挟持すると,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3が貫通孔24に充填されること,並びに,貫通孔24は,同図3(a)の図面上,左右に2列に配置されており,左側の列の貫通孔は,その一部が空隙部41に面し,その一部が綴り部材4に面しているものの,ミシン目23に近い右側の貫通孔24は,その全部が綴り部材4に面していること,及び,貫通孔に充填される熱融着剤3が,貫通孔24内全体に充填されたのみでなく,貫通孔24の上方まで盛り上がって,貫通孔24が空隙部41に面しているものにおいては更に空隙部41に膨出するものも含むものとされていることが認められる。これらのことからすれば,先願明細書には,貫通孔24に充填された熱融着剤3が,各紙葉20を相互に接合するとともに,綴り部材4と綴り部21とを相互に接着する,との構成も示されており,同時に,その構成のカレンダーを製造する方法も開示されている,ということができる。結局,先願考案においては,綴り部21に塗布された熱融着剤3と貫通孔内に塗布された熱融着剤3の双方が,綴り部材4と紙葉の上辺を接着していると認められるのである。
審決は,先願考案の貫通孔24内に充填された熱融着剤3が各紙葉20を接合すると認定しているだけで,この熱融着剤3が,綴り部材4と綴り部21とを相互に接着するとの機能をも有することは認定しておらず,この点を看過している。
審決による本件発明と先願考案との相違点の認定が,上記看過の下になされたものであることは,その説示自体から明らかである。
3 本件発明について 本件発明を特定する特許請求の範囲の記載は,前記(第2の2)のとおり,「重ね合わせた複数枚の紙片の上辺に沿って貫通孔を複数個形成し,この貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,この流し込んだ接着剤によって,紙片の上辺に,厚紙よって形成した背カバーを接着するカレンダー帳等の製本方法。」というものである。この特許請求の範囲の記載によれば,本件発明においては,貫通孔内に溶融状態の接着剤を流し込む手段・方法については,何も限定していないことが明らかである。また,この特許請求の範囲には,上記のとおり,貫通孔内に流し込んだ接着剤が各紙片を接合し,背カバーを紙片の上辺に接着することは記載されているものの,貫通孔内に流し込んだ接着剤のみで,背カバーを紙片の上辺に接着することまでは記載されていない。そうである以上,本件発明は,貫通孔内に流し込んだ接着剤によって,各紙片を接合し,背カバーを紙片の上辺に接合するものであれば足りるのであり,紙片の上辺の貫通孔以外の部分に接着剤が塗布されているかどうかは,これを問わないものと解すべきである。したがって,先願考案のように,綴り部21に塗布する接着剤の量を,余剰が,貫通孔内に充填されるのみならず,その上方に盛り上がるに十分なほどにし,この綴り部21に塗布した接着剤と貫通孔内に充填した接着剤により,綴り部材4を綴り部21に接着するものも,本件発明に包含されるというべきである。
このことは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載からも明らかである。本件明細書の発明の詳細な説明の欄には,「カレンダー帳の紙片を再製使用する場合,カレンダー帳の上端には綴じ金具があるため,この綴じ金具を除去しなければならない。」(甲第2号証【0006】),「ところが,カレンダー帳の上端の綴じ金具をいちいち除去することは,非常にコストがかかる・・・」(【0007】),「また,綴じ金具があると,それによって手を傷付けるおそれもあり,安全性の点でも問題があった。」(【0008】),「そこで,この発明は,カレンダー帳のように,紙片の枚数が少なくても,綴じ金具を使用することなく,各紙片をしっかりと綴じることができ,また安全性の高い製本構造を提供しようとするものである。」(【0009】),「【課題を解決するための手段】この発明に係る製本方法は,重ね合わせた複数枚の紙片の一辺に沿って貫通孔を複数個形成し,この貫通孔内に溶融状態の接着剤を流し込んで各紙片を接合するようにしたのである。」(【0010】),「上記のように,重ね合わせた紙片の貫通孔内にホットメルトタイプの接着剤を溶融状態にして流し込んで各紙片を接合し,貫通孔内の接着剤が固まると,貫通孔内の接着剤が各紙片を固定する柱のような働きをするので,各紙片がしっかりと綴じ合わされる。・・・」(【0011】),「綴じ合わされた6枚の紙片1の表裏両面の上辺には,厚紙によって形成した背カバー4が貼り合わされている。この背カバー4は,貫通孔2内に流し込む接着剤3の量を多くして,貫通孔2の両面に少し盛り上がるようにして,接着剤3によって接着する。」(【0015】)との記載がある。
本件明細書の発明の詳細な説明の欄のこれらの記載によれば,本件発明の目的は,綴じ金具を用いることなく,カレンダー帳の各紙片をしっかりと綴じることにあり(本件発明の目的が綴じ金具の使用による不都合を避けること以外にもあることを述べる記載も,このことを示唆する記載も,本件明細書に存在しないことは,甲第2号証により明らかである。),そのために,本件発明では,貫通孔内に溶融した状態でホットメルト対応の接着剤を流し込み,この接着剤により,各紙片を接合するとともに,各紙片の上辺と背カバーとをしっかりと綴じ合わせるものであることが認められる。そして,本件明細書の発明の詳細な説明の欄の記載をみても,貫通孔に接着剤を流し込むための手段・方法については何らの開示も示唆もなく,また,紙片の上辺の貫通孔以外のところに接着剤を塗布することを排除することを述べる記載もこれを示唆する記載もない。
以上によれば,本件発明は,貫通孔内に接着剤を流し込む手段・方法については何も限定していないというべきである。また,貫通孔内の接着剤により背カバーを紙片に接着することをその要件としているといっても,それは綴じ金具の除去を実現するという目的を達成するためであるにすぎず,この目的が達成される限り,貫通孔内に充填する接着剤以外の接着剤が貫通孔周辺に存在し,貫通孔内の接着剤と協働して,背カバーを紙片に接着する構成のものを排除するものではないというべきである。
審決は,本件発明と先願考案との相違点を,前記のとおり,第1に,貫通孔への接着剤の充填方法が相違する,と認定した。しかし,本件発明は,上記のとおり,貫通孔への接着剤の充填方法ないし手段については,何らの限定も付していないのであるから,本件発明には,先願考案のような方法,すなわち,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3が貫通孔内に充填されるとの方法も,貫通孔内に十分な量の接着剤が流し込まれるものである限り,これに含まれると解すべきである。そして,本件発明においては,貫通孔の上面に接着剤が少し盛り上がる程度に流し込まれることが必要である,という点についても,先願考案においても,貫通孔の上面に盛り上がる程度に十分な量の熱融着剤3が貫通孔24内に充填されるものであることは,前記のとおりであるから,両発明間に相違はないことになる。
審決は,前述のとおり,本件発明と先願考案との相違点として,第2に,本件発明では,背カバーを紙片の上辺に接着するのが,貫通孔内に充填した接着剤のみであるのに対し,先願考案では,綴り部材4を紙葉の上辺に接着するのが,綴り部21に塗布された接着剤であって,貫通孔へ充填された接着剤は,上記接着の機能を有しないことを認定している。
しかし,先願考案においては,貫通孔に充填された接着剤が各紙葉20を綴じ固めるとともに,綴り部21と綴り部材4とを接着するものでもあり,この点で,本件発明とは,相違しないものであることは前記のとおりである。また,本件発明は,貫通孔内の接着剤により背カバーと紙片の上辺部を接着するものであればよいのであって,紙片の上辺部の貫通孔以外の部分に接着剤が塗布され,これも協働して背カバーと紙片の上辺部を接着している構成のものを排除しているものではないことも,前記のとおりである。したがって,審決が本件発明と先願考案との相違点とした第2の点の認定は,審決が,先願考案の貫通孔に充填された接着剤が綴り部21と綴り部材4とを接着することを看過したことと,本件発明では,貫通孔に流し込まれた接着剤のみによって,背カバーと紙片の上辺部を接着するものであると認定したこととが相まって生じた誤りというべきである。
被告は,貫通孔を空けた複数枚の紙片の上辺にホットメルト接着剤を塗布する実験を行ったところ,塗布によってホットメルト接着剤が貫通孔内に充填されなかったとの結果が得られたとして,この事実により,貫通孔を上辺に設けた複数の紙片の表面及び裏面にホットメルト接着剤を塗布しても,貫通孔には当然にはホットメルト接着剤は充填されないことが裏付けられた,と主張する。
しかし,被告の実験結果を示す乙第1号証,第2号証の1・2によっても,被告の実験において採用された方法では,ホットメルト接着剤を貫通孔内へ円滑に充填することができない,ということが明らかになるにすぎない。紙片の上辺に接着剤を塗布する方法や塗布する接着剤の粘性を適宜工夫・調節することにより,貫通孔に接着剤を充填することが十分に可能であることが,これにより否定されるわけではない。したがって,被告の実験結果は,先願考案についての前記認定を左右するものではない。
4 作用効果上の差異について 審決は,先願考案の「空隙部41」を取り上げて,「先願考案は,綴り部21に塗布した余剰の熱融着剤3を空隙部41に充填することにより,『空隙部で硬化する熱融着剤によって綴り部の強度が確保され,撓みを防止する』という効果を奏するものであり,本件発明と先願考案とは,その効果においても相違する。」(審決書5頁末行〜6頁4行)と判断した。しかし,この空隙部41は,先願考案にあって,本件発明にはない構成である。本件発明と先願考案との同一性を判断するに当たっては,本件発明の構成と同一のものが先願考案において示されているかどうかのみが問題なのであり,本件発明のすべての構成が先願考案において具備されていることは前記のとおりである。空隙部41のような,先願考案における,本件発明との対比において付加的な構成を取り上げて,本件発明と先願考案との相違点を論じるのは,誤りである。
被告は,先願考案で採用されているのは,綴り部の表面及び裏面に塗布した余剰の熱融着剤を,綴り部材の挟持により貫通孔及び空隙部に充填する方法であるから,綴り部の表面及び裏面に,それだけ多くの熱融着剤を塗布しなければならないために熱融着剤の使用量が多くなり,これとは反対に綴り部の表面及び裏面に塗布する熱融着剤の使用量を少なくすると,貫通孔に充填される熱融着剤の量が少なくなって,落丁が発生しやすくなると主張する。しかし,本件発明の目的及び作用効果は,前記のとおり,綴じ金具を使用しないということであり,接着剤の塗布量については,本件明細書において何も開示,示唆がされていないのである。被告の主張は,本件明細書の特許請求の範囲の記載には溶融状態の接着剤を流し込むための具体的な方法については何も限定がないのに,本件発明について貫通孔内のみに接着剤を流し込むと限定した場合の消費量と,先願明細書に記載された発明全体についての接着剤の消費量とを比較するもので,その前提において既に失当である。
5 以上のとおりであるから,審決は,本件発明と先願考案との相違点の認定・判断を誤ったものであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取消しを免れない。
結論
以上によれば,原告らの本訴請求は,理由があることが明らかである。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久