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関連審決 無効2004-35134
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  先行技術 /  着想 /  参酌 /  置き換え /  置換 /  置換容易性 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  原告適格 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10211号 審決取消請求事件
原告A
同訴訟代理人弁理士 山田勇毅
被告 サンケン電気株式会社
同訴訟代理人弁護士 松本博
同訴訟代理人弁理士 清水敬一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨 特許庁が無効2004―35134号事件について平成16年7月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 本案前の答弁 本件訴えを却下する。
(2) 本案の答弁 主文と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「半導体発光装置」とする特許第3491016号の特許(平成9年1月14日にした特許出願を分割して平成11年7月19日出願,平成15年11月14日設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成16年3月12日,本件特許につき無効審判の請求をした(無効2004―35134号)ところ,特許庁は,平成16年7月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月16日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲 本件特許に係る明細書(甲9。以下「本件明細書」という。)の請求項1ないし4の記載は,次のとおりである(以下,これらの発明をそれぞれ「本件発明1」等といい,まとめて「本件各発明」という。)。
【請求項1】 複数のリードと,該複数のリード間に電気的に接続された半導体発光素子と,前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する樹脂封止体と,一端に開口が設けられ且つ前記樹脂封止体に被着された透光性の蛍光カバーとを備え,前記半導体発光素子から照射した光により前記蛍光カバー内に配合された蛍光体を励起し,前記半導体発光素子から生ずる光とは異なる波長の光を前記樹脂封止体の外部に取り出す半導体発光装置において, 前記蛍光カバーは,前記蛍光体を含む樹脂の射出成形により前記樹脂封止体と同一の形状の内面を有する所定の形状に形成され,且つ交換可能に前記樹脂封止体に被着され, 該樹脂封止体に被着された前記蛍光カバーは弾力性を有し,前記樹脂封止体に密着し, 前記蛍光カバー内の蛍光体は,前記半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により励起され,前記半導体発光素子から生ずる光とは異なる相対的に大きい発光波長の光を取り出すことを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】 前記半導体発光素子の発光波長は430〜480nmであり,前記蛍光体により変換された発光波長は500〜600nmである請求項1に記載の半導体発光装置。 【請求項3】 前記樹脂封止体は,円柱状の封止部と,該封止部の一端側にこれと一体に形成されたほぼ半球状のレンズ部とを備え,前記蛍光カバーは,円筒状のカバー本体と,該カバー本体に一体に半球状に形成された球面部とを備え,前記カバー本体は前記樹脂封止体の前記封止部に合致する形状を有し,前記球面部は前記樹脂封止体の前記レンズ部に合致する形状を有し, 前記カバー本体及び前記球面部は,それぞれ前記樹脂封止体の前記封止部及びレンズ部に密着する請求項1又は2に記載の半導体発光装置。 【請求項4】 前記樹脂封止体と前記蛍光カバーとの間の空気を除去する複数個の小さな孔が前記蛍光カバーに形成された請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光装置。
3 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件各発明は,実願昭48-135849号(実開昭50-79379号)のマイクロフィルム(甲1。以下「引用文献1」という。),特開昭58-196067号公報(甲2。以下「引用文献2」という。),実願昭51-113250号(実開昭53-30783号)のマイクロフィルム(甲3。以下「引用文献3」という。),実願昭51-101713号(実開昭53-21887号)のマイクロフィルム(甲4。以下「引用文献4」という。),特開平5-152609号公報(甲5。以下「引用文献5」という。),特開平8-7614号公報(甲6。以下「引用文献6」という。)及び実願平2-103859号(実開平4-63162号)のマイクロフィルム(甲7。
以下「引用文献7」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいうことができない,というものである。
本件審決が認定した本件発明1と引用文献1記載の発明(以下「引用文献1発明」という。)との一致点及び相違点は,次のとおりである。なお,本件発明2ないし4は,本件発明1を引用しているため,下記一致点及び相違点は,本件発明2ないし4においても共通する(本件発明2ないし4については,下記相違点以外にも相違点がある。)。
(一致点) 複数のリードと,該複数のリード間に電気的に接続された半導体発光素子と,前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する樹脂封止体と,該樹脂封止体上の蛍光体を備え,前記半導体発光素子から照射した光により前記蛍光体を励起し,前記半導体発光素子から生ずる光とは異なる波長の光を前記樹脂封止体の外部に取り出す半導体発光装置において,前記蛍光体は,前記半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により励起され,前記半導体発光素子から生ずる光とは異なる相対的に大きい発光波長の光を取り出す半導体発光装置 (相違点1) 蛍光体が,本件発明1は,一端に開口が設けられたカバー内に蛍光体が配合された透光性の蛍光カバーであるのに対し,引用文献1発明は,単なる蛍光材料層であって,その上に透明樹脂等から成る透明覆蓋体が形成されているものの,前記のような透光性の蛍光カバーではない点。 (相違点2) 本件発明1における蛍光カバーは,蛍光体を含む樹脂の射出成形により樹脂封止体と同一の形状の内面を有する所定の形状に形成され,且つ交換可能に前記樹脂封止体に被着され,弾力性を有し,前記樹脂封止体に密着するものであるのに対し,引用文献1発明のものは,透明樹脂上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順に塗布して形成するものであって,塗布形成の性質上,透明樹脂に対し弾力性を有し,交換可能に被着されたものではない点。
被告の本案前の主張及びこれに対する原告の反論
1 被告の本案前の主張 特許法123条2項には,「特許無効審判は,何人も請求することができる。」と規定されているが,同項は,特許法178条に規定される審決取消訴訟に準用されていない。請求不成立審決を受けた審判請求人であれば,「何人」でも審決取消訴訟を提起できるとの解釈は,「利益なければ訴権なし」との民事訴訟の原則に反するから,審決取消訴訟を提起する者は,審決が取り消されることについて法的利害関係を必要とすると解すべきである。しかるところ,原告は,自然人であり,半導体発光装置を現に製造販売し営業権を保有する事業者であるとは認められない。したがって,原告は,審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないから,原告適格を備えておらず,本件訴えは却下されるべきものである。
2 原告の反論 被告の上記主張を争う。
原告主張に係る本件審決の取消事由
本件審決は,相違点1の判断を誤り,かつ,相違点2の認定,判断を誤った結果,本件各発明についての進歩性の判断を誤ったものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。なお,一致点及び相違点1の認定は認める。
1 相違点2の認定の誤り 本件審決は,相違点2において,引用文献1発明の蛍光層が,「透明樹脂上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順に塗布して形成するものであって,塗布形成の性質上,透明樹脂に対し弾力性を有し,交換可能に被着されたものではない」(審決書5頁)と認定したが,誤りである。
すなわち,引用文献1には,実用新案登録請求の範囲に,「該透明覆蓋体の前記半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有する」と記載され,その実施例として,「この透明覆蓋体6の内面には半導体発光素子4からの輻射線を可視光に変換する蛍光材料を分散させた結合剤が塗布されて,蛍光材料層7が設けられている。透明覆蓋体6はガラス或はエポキシ樹脂等の材料で構成されるものであり,気密封止用のキャップの役割を兼ねてステム1に固着されるのが好ましい。」(3頁20行〜4頁6行)と記載されているから,引用文献1発明の蛍光層は,透明樹脂上に塗布して形成する場合だけでなく,透明樹脂とは別個独立した透明覆蓋体の内面に塗布されて形成されるものを含んでいる。
したがって,相違点2は,「本件発明1における蛍光カバーは,蛍光体を含む樹脂の射出成形により樹脂封止体と同一の形状の内面を有する所定の形状に形成され,且つ交換可能に前記樹脂封止体に被着され,弾力性を有し,前記樹脂封止体に密着するものであるのに対し,引用文献1発明のものは,透明覆蓋体の内面に蛍光材料を塗布して形成するものであって,透明樹脂に対し弾力性を有し,交換可能に被着されたものではない点。」と認定すべきである。
2 相違点1の判断の誤り (1) 本件審決は,「引用文献1発明の透明覆蓋体は蛍光材料層の保護を目的としたものであることが明記されていることから,引用文献1発明において透明覆蓋体と蛍光材料層は別体として互いに積層した構成を前提としていることは明らかであり,引用文献1には蛍光材料を透明覆蓋体に配合することを示唆する記載は存在しない。」(審決書5〜6頁)と認定した。
確かに,引用文献1には,蛍光材料を透明覆蓋体に配合することを示唆する記載は存在しないが,そもそも蛍光材料を透明覆蓋体に配合又は含侵して形成した発光LED用蛍光カバーは,本件特許出願時に周知の事項である。例えば,特開平7-193281号公報(甲10。以下「甲10文献」という。)には,蛍光体をエポキシ樹脂に配合して形成した蛍光成形体を発光ダイオードに装着することが記載されており,また,特開平1-260707号公報(甲11。以下「甲11文献」という。)には,透光性ガラス体(樹脂カバー)に蛍光染料を浸透させることが記載されている。したがって,引用文献1発明の内側表面に蛍光材料を塗布した透明覆蓋体に代えて,蛍光材料を含有した透明覆蓋体を採用することは,当業者にとって自明な事項にすぎない。
(2) 本件審決は,「引用文献1発明の蛍光材料層・透明覆蓋体は透明樹脂上に塗布形成されることからも明らかなように,透明樹脂とは分離した単体として観念しうる,一端に開口が設けられたカバー状の構成とは全く異なる構成を有しており,引用文献1において蛍光材料層・透明覆蓋体をかかるカバー状の構成にしうることを示唆する記載はない。」(審決書6頁)と認定したが,誤りである。
すなわち,引用文献1発明は,前記1のとおり,透明な樹脂カバー(覆蓋体)の内側表面に蛍光材料層が形成されることを特徴とするものである。そして,引用文献1においては,第1図に,透明樹脂によるモールドが存在しない場合が示されており,また,「ステム1には本考案による透明覆蓋体6が固着される。この透明覆蓋体6の内面には半導体発光素子4からの輻射線を可視光に変換する蛍光材料を分散させた結合剤が塗布されて,蛍光材料層7が設けられている。」(3頁19行〜4頁3行)と記載されているように,透明覆蓋体及びその内面に形成された蛍光層は,ステムに直接固着される場合があり,透明樹脂とは,別個独立した単体として観念し得るものであるから,引用文献1における蛍光材料層・透明覆蓋体を,「透明樹脂とは分離した単体として観念しうる,一端に開口が設けられたカバー状の構成」となしうることが示唆されているものである。
(3) 本件審決は,「引用文献6記載のフイルムは面状光源を構成する導光板の一主面側に設置されるもので,引用文献1のように半球状の透明樹脂を覆うものとは構成が異なり,また…フイルム内部に蛍光物質を配合したものと同一視し得るか必ずしも明らかでもないことから,引用文献1に適用しうるものでもない。」(審決書6頁)と判断したが,誤りである。
すなわち,引用文献6においては,「そのフイルム6の表面あるいは内部には前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備されている」(請求項1)と記載されているとおり,蛍光フイルムとして,蛍光体をフイルム内部に含むものと表面に有するものとが明らかに同視されている。引用文献6には,フイルムの内部に蛍光物質が具備される場合の具体的実施例は示されていないが,樹脂フイルム内部に蛍光物質を含むものは甲10文献に見られるように本件特許出願時に周知の事項である。したがって,引用文献6及び甲10文献は,引用文献1記載の蛍光材料を塗布した透明覆蓋体を,本件発明1における蛍光体を含む樹脂成形体に置き換えることができることを十分示唆している。
(4) 本件審決は,「本件発明1は蛍光体をカバー内に配合することで,例えば複数種の蛍光体による所望の混合色又は中間色の光を取り出すことができたり,配合する蛍光体の量を制御しうる等の効果を奏するものである。」(審決書6頁)と認定したが,上述したように,蛍光体をカバー内に配合することが本件特許出願前に周知であるから,これに伴う上記の効果も周知の事項である。
例えば,複数の蛍光体を混合することは,引用文献6には,「蛍光層5は,赤色蛍光顔料であるシンロイヒ化学製FA-001と緑色蛍光顔料である同社製FA-005とを等量に混合した蛍光顔料をアクリル系バインダー中に分散したものを塗布して形成した。」(4欄9〜13行)と記載されており,また,甲10文献には,「表1に示される3種類の変換蛍光体を同表1に示される割合でエポキシ樹脂に分散混合し,これを外径3.0mm,高さ3.0mm,厚さ0.5mmの蛍光成型体とし,」(2欄11〜14行)と記載されているとおりである。また,配合する蛍光体の量についても,甲10文献の表(3欄)には,蛍光体と樹脂との配合割合について,蛍光体1が10%,同2が20%,同3が30%とされる旨記載されており,配合割合は適宜変更できることが示唆されている。
(5) 以上のとおり,引用文献1発明の透明覆蓋体の内面に蛍光材料が塗布された蛍光カバーに代えて,カバー内に蛍光体を配合した樹脂カバーとすることは,甲10文献等にみられる周知技術を勘案すれば当業者が適宜なし得ることである。
3 相違点2の判断の誤り 本件審決は,「引用文献3,4には発光体の発光色を変化させ,弾力性を有し,着脱自在なカバーが開示されているととらえるべきではなく,白色豆電球又は白熱電球等の電球に対しフィルタ(濾光)機能を有する着色カバーで,弾力性を有し,着脱自在なものが開示されているとすべきであり,引用文献1のように特定の波長域の光を発する半導体発光素子の光を蛍光材料により波長変換する機構とは原理や構成部材の材質において相違するから,やはり引用文献1に適用しうるものではない。」(審決書7頁)と判断したが,誤りである。
すなわち,引用文献3及び4記載の着色カバーは,引用文献1発明のように特定の波長域の光を発する半導体発光素子の光を蛍光材料により波長変換するものではないが,カバーによって照明装置の色調変更を行っている点では共通している。
そして,蛍光カバーを着脱自在にするかどうかは,照明装置の色調の変更を光の波長変換によって行うか,フィルタ(濾光)機能によって行うかという,色調変換の機構によって左右されるものではない。むしろ,どのような目的,用途に使用されるか,また,キャップの形状が着脱自在を許す形状なのかなどによって決められるべきものである。
引用文献1発明の半導体発光装置は,引用文献3及び4記載の電球等の代替技術であって,しかも,発光体である電球と発光半導体の樹脂封止体の形状は先端部が半球状である点で共通している。また,引用文献3及び4記載のキャップの形状については,先端部が半球状の電球に密着するように電球と同一の形状となっており,引用文献1発明の透明覆蓋体の形状と共通する。そうすると,前述のとおり,引用文献1には,透明覆蓋体を透明樹脂とは独立したカバーとして形成することも開示されているから,これを従来から同じ目的のために用いられていた引用文献3及び4記載のキャップのように,弾力性を有し,着脱自在に構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
4 まとめ 以上のとおり,本件発明1は,引用文献1〜7に記載された発明並びに甲10文献及び甲11文献のような周知技術から当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,同法123条1項2号により無効とされるべきものである。また,本件発明2〜4も,本件発明1と同様の理由により,無効とされるべきものである(なお,本件発明2〜4において,本件発明1を限定する部分は,いずれも本件特許出願時に周知の事項である。)。
被告の反論
本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 相違点2の認定について 引用発明の認定においては,進歩性の存在を否定し得る論理付けに最も適する一つの引用発明を選ぶものであって,引用文献1に示される第1図の実施例又は第2図の実施例のいずれを審決に引用するかは審判官の自由裁量である。また,引用文献1に示される第1図の実施例と第2図の実施例は,いずれも塗布により形成された「蛍光材料層」を示すものであるから,たとえ引用文献1に示される第1図の実施例を引用したとしても,引用文献1発明の認定は,第2図の実施例を引用したときと何ら相違がない。したがって,本件審決の相違点2の認定に誤りはない。
2 相違点1の判断について (1) 引用文献1は,透明覆蓋体6の内面又は透明樹脂12の表面に蛍光材料を塗布する以外の方法を示しておらず,塗布しない方法で透明覆蓋体に蛍光材料層を設けることは多量の蛍光体を必要とせずに安価に製作できるという引用文献1発明の目的に反する。したがって,甲10文献記載の発明の構造を引用文献1発明の構造に組み合わせることは不可能である。また,甲10文献記載の発明では,蛍光成型体を透明樹脂モールド7で取外し不能にパッケージするのであるから,蛍光成型体を透明樹脂モールド7の外側に塗布する着想は,甲10文献記載の発明には存在しない。
甲11文献記載の発明も甲10文献記載の発明と同様であって,蛍光材料を塗布する引用文献1発明とは蛍光体の被着構造を完全に異にする異質の技術である。
(2) 引用文献1の「考案の詳細な説明」には「塗布」で蛍光材料層を形成する技術のみが開示され,「塗布」以外の方法で蛍光材料層を形成する技術を示唆する記載は全くない。したがって,技術常識を勘案しても「塗布」以外の形成技術を導き出すことはできない。
(3) 引用文献6には,フイルムの内部に蛍光物質が具備される場合の具体的実施例は示されていない。引用文献6に開示された発明は蛍光染料を単に表面に塗布したフイルムにすぎないから,蛍光染料を内部に配合したフイルムが引用文献6に開示されていると解釈することは許されない。
そして,引用文献1と引用文献6と甲10文献記載の各発明は,蛍光体層の形成方法,蛍光体層を形成する対象物,蛍光体層を配置する場所等がいずれも異なり,引用文献1に示される塗布技術と,引用文献6に示される塗布技術及び甲10文献に示される配合技術との間に技術の置換容易性も転用容易性も存在しない。
また,引用文献1には,蛍光体を樹脂中に配合できることを示唆する動機付けも存在しない。したがって,引用文献1に示される蛍光材料層7,13と,引用文献6に示される蛍光層5が形成されたフイルム6と,甲10文献に示される蛍光成型体2とを組み合わせるべき必然性はなく,組み合わせること自体技術的に不可能であるから,これら文献に開示された発明を単に組み合わせても,当業者が本件発明1を推考することはできない。
(4) 引用文献6に示されるように,バインダー中に蛍光顔料を等量で分散させた材料を塗布して発光波長の変換が可能であっても,得られる蛍光顔料層の厚さを正確に制御することは極めて困難であるから,蛍光顔料の塗布により均一な混合色の光を取り出すことはできない。また,甲10文献には,変換蛍光体を一定の割合でエポキシ樹脂に分散混合して,蛍光成型体を作成することが記載されているが,蛍光成型体を作成する方法は,甲10文献に示されていない。したがって,本件発明1のように,弾力性をもって樹脂封止体に着脱自在であり,蛍光体を一定割合で均一に混合させることができるという効果は自明ではない。
3 相違点2の判断について 引用文献3及び引用文献4記載の発明は,真空状態又は適当な気体を封入して,ガラス球内のフィラメントに電流を通じ,熱放射に伴って発する光を利用する白熱電球に関するものであり,半導体デバイスである本件発明1とは技術分野が全く異なる。また,原告も認識するように,引用文献3及び引用文献4に示されるカラーフィルタによる色調変更は,蛍光体による波長変更とは科学的原理を完全に異にする。
当裁判所の判断
1 本案前の主張について 被告は,原告は半導体発光装置を現に製造販売し営業権を保有する事業者ではないから,審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないため,原告適格を備えておらず,本件訴えは却下されるべきである旨主張する。
しかしながら,原告は,本件審決に係る無効審判の請求人として,審判事件の当事者であるところ,特許法178条2項は,「前項の訴え(判決注・審決に対する訴え等)は,当事者…に限り,提起することができる。」と規定しているから,原告が本件審決の取消訴訟を提起することができることは明らかである。実質的に見ても,原告は,本件審決に係る無効審判の請求人として,審判事件の当事者であるところ,自らに不利益な結論である「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決を受けたのであるから,本件審決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有することは明らかである。
したがって,被告の本案前の主張は理由がない。
2 相違点2の認定について 原告は,引用文献1発明の蛍光層は透明樹脂上に塗布して形成する場合だけでなく,透明樹脂とは別個独立した透明覆蓋体の内面に塗布されて形成されるものを含んでいるから,本件審決の認定した相違点2のうち引用文献1発明に係る部分は誤りであり,正しくは,「引用文献1発明のものは,透明覆蓋体の内面に蛍光材料を塗布して形成するものであって,透明樹脂に対し弾力性を有し,交換可能に被着されたものではない点。」と認定すべきである旨主張する。
原告の上記主張は,本件審決が本件発明1との対比において引用した引用文献1記載の発明の内容に関わるものであるので,まず,この点について検討する。
(1) 引用文献1(甲1)には,本件審決が引用したとおり,「本考案の他の実施例の半導体発光装置を第2図に示す。この実施例はモールド型の半導体発光装置に本考案を適用したときの例である。第2図において,絶縁基体8にはリード9が固置着され,一方のリード9の先端には半導体発光素子10が導電的に接着され,さらにこの半導体発光素子10と他方のリード9とはリード線11により電気的に接続されている。また半導体発光素子10の周囲には透明樹脂12が半球状にモールドされており,この透明樹脂12の表面に蛍光材料層13が形成され,さらに蛍光材料層13上には透明樹脂等から成る透明覆蓋体14が設けられる。」(4頁13行〜5頁4行),「蛍光材料層13及び透明覆蓋体14は半球状の透明樹脂12上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順次塗布すれば形成できる。本実施例においては,透明覆蓋体14は気密封止用のキャップの役割を果すものではなく,単に蛍光材料層13の保護を計るものである。」(5頁19行〜6頁4行)との記載がある。
そうすると,本件審決が,相違点2として,引用文献1発明の蛍光層が,「透明樹脂上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順に塗布して形成するものであって,塗布形成の性質上,透明樹脂に対し弾力性を有し,交換可能に被着されたものではない」(審決書5頁)と認定したことに誤りはない。
(2) 原告が指摘するように,引用文献1(甲1)においては,その実用新案登録請求の範囲に,「半導体発光素子と該半導体発光素子を離間して覆う透明覆蓋体とを具え,該透明覆蓋体の前記半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有することを特徴とする半導体発光装置。」と記載され,また,実施例として,「本実施例は,いわゆるTO-5型ステムを用いた半導体発光装置に本考案を適用した例である。第1図においてTO-5型の金属ステム1にはガラス2によってリード3が固着されている。このステム1には半導体発光素子4が導電的に接着されており,一方,半導体発光素子の他方の電極とリード3の一つとがリード線5により電気的に接続されている。このステム1には本考案による透明覆蓋体6が固着される。この透明覆蓋体6の内面には半導体発光素子4からの輻射線を可視光に変換する蛍光材料を分散させた結合剤が塗布されて,蛍光材料層7が設けられている。
透明覆蓋体6はガラス或はエポキシ樹脂等の材料で構成されるものであり,気密封止用のキャップの役割を兼ねてステム1に固着されるのが好ましい。」(3頁12行〜4頁6行)との記載がある。
しかしながら,上記実施例に記載された半導体発光装置は,審決が引用した「他の実施例」とは異なり,本件発明1の「樹脂封止体」に相当する半球状にモールドされた「透明樹脂12」を有しないものである。したがって,原告が主張するように,引用文献1における上記実施例の記載から,蛍光材料層が内側に塗布された透明覆蓋体を認定するのであれば,該透明覆蓋体は,半導体発光素子が接着されたステムに固着されるものであり,「透明樹脂12」に被着されるものではないから,本件審決が認定した本件発明1と引用文献1発明との一致点のうち,「前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止 する 樹脂封止体 と,該樹脂封止体上 の蛍光体」(下線を付記した。)を認定することはできなくなる。そうすると,本件発明1の進歩性を検討する上で,引用文献1における上記実施例に記載された発明は,本件審決が認定した引用文献1発明よりも適したものとはいえない。
また,上記実用新案登録請求の範囲には,「半導体発光素子と該半導体発光素子を離間して覆う透明覆蓋体とを具え,該透明覆蓋体の前記半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有することを特徴とする半導体発光装置。」としか記載されていないから,技術常識参酌したとしても,同記載に基づき,「透明樹脂12と組み合わせて用いるものであって,しかも,透明樹脂12とは独立し,その内面に蛍光材料層が塗布された透明覆蓋体」を認定することもできない。
したがって,本件審決が,「樹脂封止体」に相当する「透明樹脂12」を有する「他の実施例」の記載から引用文献1発明を認定し,これを前提として相違点2を認定したことは相当というべきである。
(3) 以上のとおり,相違点2の認定についての原告の主張は理由がない。
3 相違点1の判断について (1) 原告は,蛍光材料を透明覆蓋体に配合又は含侵して形成した発光LED用蛍光カバーは,甲10文献,甲11文献に記載されているように,本件特許出願時に周知の事項であるから,引用文献1発明の内側表面に蛍光材料を塗布した透明覆蓋体に代えて,蛍光材料を含有した透明覆蓋体を採用することは,当業者にとって自明な事項にすぎない旨主張する。
原告が,引用文献1発明において,内側表面に蛍光材料を塗布した透明覆蓋体を備えていることを前提としている点は,前記2のとおり相当でないが,その点はさておき,検討するに,本件審決の一致点及び相違点1の認定については,当事者間に争いがないところ,そこでは,一致点として,「…前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する樹脂封止体と,該樹脂封止体上の蛍光体…」が認定され,その上で,「蛍光体が,本件発明1は,一端に開口が設けられたカバー内に蛍光体が配合された透光性の蛍光カバーであるのに対し,引用文献1発明は,単なる蛍光材料層であって,その上に透明樹脂等から成る透明覆蓋体が形成されているものの,前記のような透光性の蛍光カバーではない点。」が相違点1として認定されている。したがって,上記相違点1に係る本件発明1の構成である「蛍光カバー」は,「樹脂封止体上の蛍光カバー」を意味するものであることは明らかであり,当業者が相違点1に係る本件発明1の構成を想到するためには,「一端に開口が設けられたカバー内に蛍光体が配合された,樹脂封止体上の透光性の蛍光カバー」という先行技術が存在することが必要であると解すべきである。
また,本件発明1は,「前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する樹脂封止体と,一端に開口が設けられ且つ前記樹脂封止体に被着された透光性の蛍光カバーとを備え」るものであるから,そこにおける蛍光カバーは,樹脂封止体に被着されたものであり,それ自体は「複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する」という役割を果たす必要がないものである。そうであるからこそ,上記蛍光カバーは,交換が可能であり,その結果,「蛍光カバーを装着し又は交換することにより容易に異なる波長の光を取り出すことができる。」(本件明細書の段落【0016】,甲9)との効果を奏するものである。その意味では,本件発明1の相違点1及び2に係る構成は,一体不可分な技術事項であるから,その容易想到性を判断するに当たっては,相互の関連をも十分考慮して行うべきものである。
甲10文献(甲10)には,「赤外可視変換蛍光体を分散含有するドーム状樹脂成型体を赤外発光ダイオードチップに対して所定の距離を設けて装着してなる指向性の少ない赤外可視変換発光ダイオード」(特許請求の範囲)が記載されている。該樹脂成型体は,その実施例に記載されるように,「3種類の変換蛍光体を同表1に示される割合でエポキシ樹脂に分散混合し,これを外径3.0mm,高さ3.0mm,厚さ0.5mmの蛍光成型体とし」たものであるが,「図1に見られるように前述の従来変換発光ダイオードにおける発光部と同じ構造を持つダイオードチップの上面にたいして1.0mmの距離を離れて内面が位置するように蛍光成型体を設置し,更に保護の目的で蛍光成型体を含む全体を透明樹脂モールド7でパッケージすることにより本発明変換発光ダイオード1〜3をそれぞれ製造した。」(いずれも,段落【0007】)と記載されるように,樹脂封止体に被着するものではなく,全体が透明樹脂モールドでパッケージされるものである。換言すれば,甲10文献記載の発明においては,樹脂成型体ではなく透明樹脂モールドが封止体の役割を果たすものであるし,樹脂成型体はその上から透明樹脂モールドによりパッケージされるものであるから,該樹脂成型体はおよそ交換可能なものすることができない構成のものである。なお,甲10文献には,「発光部を保護するために蛍光成型体の内部を透明樹脂で充填してもよい」(4欄6〜7行)との記載があるが,この透明樹脂が透明樹脂モールドに代わるものであるとも認められない。
また,甲11文献(甲11)には,「LEDと,このLEDの発光色とで加色混合の三原色を構成する二色の染料のそれぞれを表裏面のそれぞれから浸透させた染料浸透性かつ高透光性の透明ガラス体の中空封止体と,から構成したことを特徴とする白色発光装置。」(特許請求の範囲(2))と記載され,「透明ガラス体に浸透させる染料を蛍光染料とすると,光の混合状態がより良好になる。」(2頁左下欄18〜19行),「ガラス体1は,ビスアリル系化合物を必須成分として含むモノマーまたはオリゴマーまたはこれらの混合物を含む重合可能な液状物の重合体を平板状に形成したものである。」(2頁右下欄14〜17行),「なお,本実施例では染料浸透性の透明ガラス体を平板状に形成したが,この透明ガラス体を第3図に示すようにLEDの中空封止体としてもよい。…この中空封止体31により,三原色のうちの残りの一色に発光するLED32をカバーすれば,LED32の発光が中空封止体31を浸透する際に加色混合の三原色が混合し,中空封止体31の外部に白色光を得る。」(4頁右上欄17行〜左下欄8行)と記載されている。したがって,甲11文献に記載される中空封止体は,内部に発光ダイオードを封止するものであり,樹脂封止体に被着するものではない。換言すれば,甲11文献記載の発明においては,該中空封止体は,それ自体が封止の役割を果たすものであるから,これを交換可能なものとすることができない構成のものである。
したがって,甲10文献や甲11文献の記載からは,「一端に開口が設けられたカバー内に蛍光体が配合された,樹脂封止体上の透光性の蛍光カバー」が周知技術であるということはできない。
そもそも,甲10文献記載の発明の目的は,「上記の従来変換発光ダイオードにおいては蛍光体層が一般に塗布あるいは滴下などによってダイオードチップ上に形成されているので,均一な被着が困難となるばかりでなく,この結果観察方向によって輝度が異なるという指向性があらわれ,表示が不鮮明にならざるを得ないというのが現状である」(甲10,1欄36〜41行)という課題を解決しようとするものである。一方,引用文献1に,「係る赤外線発光ダイオードの表面に可視光変換蛍光材料を塗布した半導体発光装置が製作されている。このような半導体発光装置は例えば特公昭46-9194号公報に示されている。これらの半導体発光装置は高輝度ではあるが,半導体材料が高価であるため発光素子を小さくしなければならず,殆んど点光源に近いという欠点を有する。」(甲1,1頁18行〜2頁6行),「本考案は以上の点に鑑み,安価で大きな発光面積を有する半導体発光装置を提供せんとするものである。」(同3頁2〜4行)と記載されるように,引用文献1発明では上記課題は既に解決済みであるから,甲10文献記載の事項を適用するための動機付けを明らかに欠くものである。
以上のとおりであるから,甲10文献や甲11文献の記載事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の構成を想到することが容易であるということはできない。
(2) 原告は,引用文献1発明は透明な樹脂カバー(覆蓋体)の内側表面に蛍光材料層が形成されることを特徴とするものであり,また,透明覆蓋体及びその内面に形成された蛍光層は,ステムに直接固着される場合があり,透明樹脂とは別個独立した単体として観念し得るものであるから,引用文献1における蛍光材料層・透明覆蓋体を,「透明樹脂とは分離した単体として観念しうる,一端に開口が設けられたカバー状の構成」となし得ることが示唆されている旨主張する。
しかしながら,本件審決が引用した引用文献1記載の「他の実施例」については,「蛍光材料層13及び透明覆蓋体14は半球状の透明樹脂12上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順次塗布すれば形成できる。本実施例においては,透明覆蓋体14は気密封止用のキャップの役割を果すものではなく,単に蛍光材料層13の保護を計るものである。」(甲1,5頁19行〜6頁4行)と記載されており,そこにおける蛍光材料層・透明覆蓋体は,透明樹脂12上に順次塗布して形成されるものであって,「透明樹脂とは分離した単体として観念しうる,一端に開口が設けられたカバー上の構成」とは全く異なる構成である。また,前記2のとおり,引用文献1に記載される,透明覆蓋体の内側に蛍光材料層を塗布したものは,本件審決が引用した上記「他の実施例」とは異なる実施例のものであり,これを透明樹脂12を有する「他の実施例」のものに適用することは,引用文献1に開示も示唆もされていない。したがって,引用文献1には,蛍光材料層・透明覆蓋体を,「透明樹脂とは分離した単体として観念しうる,一端に開口が設けられたカバー状の構成」となし得ることは示唆されておらず,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
(3) 原告は,引用文献6では,フイルムの内部に蛍光物質が具備される場合の具体的実施例は示されていないものの,蛍光フイルムとして,蛍光体をフイルム内部に含むものと表面に有するものとが明らかに同視されており,樹脂フイルム内部に蛍光物質を含むものは甲10文献に見られるように本件特許出願時に周知の事項であるから,引用文献6及び甲10文献は,引用文献1記載の蛍光材料を塗布した透明覆蓋体を,本件発明1の蛍光体を含む樹脂成形体に置き換えることができることを示唆している旨主張する。
そこで検討すると,引用文献6(甲6)の実施例には,「次に,表面に微細な凹凸が施されたフィルム6に蛍光層5を形成した。蛍光層5は,赤色蛍光顔料であるシンロイヒ化学製FA-001と緑色蛍光顔料である同社製FA-005とを等量に混合した蛍光顔料をアクリル系バインダー中に分散したものを塗布して形成した。」(段落【0016】),「黄色蛍光染料としてBASF社のLumogenF Yellow-083と橙色蛍光染料として同社製Orenge-240とをほぼ等量混合し,それらとアクリル樹脂をブチルカルビトールアセテートに溶解した蛍光染料を微細な凹凸が施されたフィルム6上に塗布した。」(段落【0018】)と記載されており,蛍光体をフイルム表面に有する実施例のみが記載され,フィルム内部に蛍光物質を配合した実施例は引用文献6には記載されていない。
また,引用文献6の特許請求の範囲には,「透明な導光板2の端面の少なくとも一箇所に青色発光ダイオード1が光学的に接続されており,さらに前記導光板2の主面のいずれか一方に白色粉末が塗布された散乱層3を有し,前記散乱層3と反対側の導光板2の主面側には,透明なフィルム6が設けられており,そのフィルム6の表面あるいは内部には前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備されていることを特徴とする面状光源。」と記載されているが,仮に,同記載に基づき,内部に蛍光物質を具備するフィルムの発明が認定できるとしても,そのフィルムは面状光源の導光板2の主面に設けられるものであるから,引用文献1発明のような半球状の透明樹脂12をカバー状に覆うものではないし,相違点1に係る本件発明1の構成である「一端に開口が設けられたカバー内に蛍光体が配合された,樹脂封止体上の透光性の蛍光カバー」を示唆するものでもない。したがって,引用文献6の記載に基づき,相違点1に係る本件発明1の構成の蛍光カバーを想到することが容易であるということはできない。
なお,甲10文献の記載事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の構成を想到することが容易であるといえないことは,前記のとおりである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 以上のように,相違点1に係る構成の蛍光カバーは,「一端に開口が設けられたカバー内に蛍光体が配合された,樹脂封止体上の透光性の蛍光カバー」,すなわち,樹脂封止体に被着される蛍光カバーであり,引用文献6,甲10文献,甲11文献の記載事項を参酌しても,この点を当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
そして,相違点1に係る構成を当業者が容易に想到することができない以上,本件審決が認定した「複数種の蛍光体による所望の混合色又は中間色の光を取り出すことができたり,配合する蛍光体の量を制御しうる等の効果を奏する」点が周知であるという原告の主張も理由がない。
したがって,本件審決の相違点1の判断には誤りがなく,この点に関する原告の主張は理由がない。
4 相違点2の判断について 原告は,引用文献1発明の透明覆蓋体を,引用文献3及び4記載のキャップのように弾力性を有し着脱自在に構成することは,当業者が容易に想到し得たことであり,本件審決が相違点2の技術的事項が容易とはいえないと判断したのは誤りである旨主張する。
しかしながら,本件審決の相違点1の判断に誤りがないことは上記のとおりである以上,相違点2の判断について検討するまでもなく,本件審決の結論に誤りはない。
なお,原告の上記主張は,透明覆蓋体を透明樹脂とは独立したカバーとして形成することが引用文献1に開示されていることを前提とするものであるところ,引用文献1には,引用文献1発明の透明覆蓋体について,そのような開示がないことは前記のとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠き理由がない。
5 結論 以上のとおり,甲10文献及び甲11文献記載の技術事項を加味しても,本件発明1は引用文献1〜7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではないとの本件審決の判断に誤りはなく,本件発明1を引用する本件発明2〜4についても同様である。
したがって,本件審決を取り消すべき旨の原告の主張は理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 沖中康人