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関連ワード 29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  容易に発明 /  分割出願 /  設定登録 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 524号 審決取消請求事件
原告A
訴訟代理人弁理士 伊藤充
被告 松下通信工業株式会社
訴訟代理人弁護士 大野聖二
訴訟代理人弁理士 森田耕司
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2001−35273号事件について平成13年10月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。)
原告は,発明の名称を「車両ナビゲーション方法」とする特許第2722365号の特許(昭和60年4月20日出願,平成4年4月4日分割出願,平成9年11月28日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は,平成13年3月6日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した(無効2001-35091号事件。以下「甲事件」という。)。
被告は,平成13年6月27日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した(無効2001-35273号事件。以下「本件事件」という。)。このとき主張された無効理由は,甲事件において主張されたものとは異なる。
特許庁は,甲事件と本件事件を併合して審理し,その結果,平成13年10月16日,「特許第2722365号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本を同年10月26日に原告に送達した。
当事者の主張
1 原告主張の審決取消事由の要点 本件審決は,甲事件において請求人が主張した無効理由のうち,@本件特許の願書に添付した明細書が特許法36条4項,5項に違反する,A本件特許に係る出願は,分割出願の要件がなく,出願日が当初の出願日にしたものとはみなされず,本件発明は,分割出願の出願日前に頒布された刊行物に記載された発明である,というものについてのみ判断し,甲事件のAの無効理由に理由があるとして,本件事件において請求人が主張した無効理由(本件発明は,本件特許の当初の出願日(原出願の出願日)以前に頒布された刊行物に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,無効であるとの主張)については全く判断をしないままに,甲事件及び本件事件の双方について,本件発明は,特許法29条1項3号に該当し,同法123条1項2号により,無効とすべきである,との結論を示したものである。
審理の併合は,審理手続きを一つにするだけであって,事件を一つにするわけではない。本件審決は,甲事件についてのみならず本件事件についても結論を示す以上は,それぞれの事件毎に理由を示すべきであった。
本件審決のうち,本件事件についてなされた部分は,理由を全く記載しなかった違法があるから,取り消されるべきである。
2 被告の反論の要点 本件審決は,甲事件について,その判断と結論を示したのであり,本件事件については,一切,判断も結論も示していない。したがって,本件審決には,一部審決あるいは審決の脱漏の問題があるにすぎず,一部判決あるいは裁判の脱漏に準じて扱うべきである。すなわち,本件事件は,いまだ無効審判請求事件として特許庁に残っているのである。
本訴は,対象となる審決がないのに,あると誤解して提起されたものであり,訴えの利益がなく,違法であるから却下されるべきである。
当裁判所の判断
1 甲第1号証によれば,本件審決の審決書について,以下の事実が認められる。
@ 審決書の1頁において,「無効2001-35091」,「無効2001-35273」と甲事件及び本件事件の二つの事件番号を明記した上で,「上記当事者間の特許第2722365号の特許無効審判事件について,併合の審理のうえ,次のとおり審決する。」と記載し,その上で,「結論」の項において,本件特許を無効とするとの結論を示している。
A 「2.請求人の主張」として,「2-1.無効2001-35091号について」との項の下に,甲事件において請求人が主張した無効理由である「(1)理由1」(本件特許の願書に添付した明細書が特許法36条4項,5項に違反するとの主張),「(2)理由2」(本件特許に係る出願は,分割出願の要件がなく,出願日が当初の出願日にしたものとはみなされず,本件発明は,分割出願の出願日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとの主張),及び,「(3)理由3」(本件出願は,分割出願の要件がなく,出願日が当初の出願日にしたものとはみなされず,本件発明は,分割出願の出願日前に頒布された刊行物から,当業者が容易に発明をすることができたとの主張)を記載し,その上で,「2-2.無効2001-35273号について」との項の下に,本件事件で請求人が主張した無効理由である「理由4」(本件発明は,本件特許の当初の出願日前に頒布された刊行物に記載された発明であるとの主張)を記載し(審決書2頁8行〜4頁30行),さらに,「3.被請求人の主張」においても,「理由1」ないし「理由4」について記載している(同4頁31行〜6頁21行)。
B 「4.当審の判断」との項において,甲事件の「理由1」は理由がなく,「理由2」は理由があると判断し,本件事件の理由4については何の判断も示さず,「5.むすび」の項において,「本件発明は・・・特許法第29条第1項第3号の発明に該当し,請求人の主張 する 他の無効理由 を検討 するまでもなく ,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。」(同13頁28行〜32行。下線付加)とその結論を記載している。
2 上記認定の審決書の記載自体から,特許庁は,本件審決において,甲事件及び本件事件について,これを併合審理した上で,一つの審決書の中で,甲事件及び本件事件の双方について,本件特許を無効とするとの結論を示したものの,結論を導く上で検討したのは甲事件において主張された無効理由のみであり,本件事件において,請求人(被告)が主張した無効理由については,「請求人の主張する他の無効理由を検討するまでもなく」として,一切判断を示さなかったことが,明らかである。
しかし,甲事件と本件事件は,単に併合審理されただけであり,事件として一つになったわけではないのであるから,本件審決は,甲事件のみならず,本件事件についても,その結論を示す以上は,そこで主張されている無効理由についての判断を示すべきであったのである。本件審決は,結局のところ,本件事件について,その無効理由についての判断を一切しないままに本件特許を無効とすべきであるとの結論に至った,ということに帰する。
被告は,本件審決は,甲事件について,その判断と結論を示したのであり,本件事件については,一切,判断も結論も示していない,と主張する,しかし,上記に認定した審決書の記載を客観的にみれば,本件審決が甲事件と本件事件について,本件特許を無効とすべきであるとの結論を示したものであることは明らかである。被告の主張は採用することができない。
3 結論 以上のとおり,本件審決は,本件事件について,請求人(被告)が主張した無効理由について全く判断せずに,本件特許を無効とする結論に至ったものである。これによれば,本件審決のうち,本件事件についてなされた部分は,違法であることが明らかであり,これを取り消すべきであるとする原告の本訴請求は,理由がある。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久