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関連審決 審判1999-35581
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12行ケ392審決取消請求事件 判例 特許
平成12ネ4200損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成13ワ15719特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  慣用技術 /  上位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  着想 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  公知事実 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 393号 審決取消請求事件
原告 アッセ株式会社
訴訟代理人弁護士 池原毅和
訴訟代理人弁理士 田辺恵基
被告 マイクロソフトコーポレイション
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 大島崇志
同 大岩直子
訴訟復代理人弁護士 上山浩
訴訟代理人弁理士 谷義一
同 新開正史
同 南条雅裕
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35581号事件について平成12年8月24日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「版下デザイン装置」とする特許第2799499号の特許(昭和63年7月9日特許出願,平成10年7月10日特許権設定登録,以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,本件特許を,請求項1及び2のいずれに関しても無効にすることについて審判の請求をした。
特許庁は,これを平成11年審判第35581号事件として審理し,その結果,平成12年8月24日に,「特許第2799499号発明の明細書の請求項1ないし2に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年9月13日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 (請求項1) 「各キヤラクタの作成時,キヤラクタ種別データ,キヤラクタ位置データ及びキヤラクタ形態データでなるキヤラクタデータを作成順序に応じてキヤラクタ登録メモリ手段に登録すると共に,登録キヤラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキヤラクタから最後に登録されたキヤラクタまでの有効登録キヤラクタ数を表すデータとして保持させるキヤラクタデータ作成手段と, 各キヤラクタの消去時,上記登録キヤラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記キヤラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキヤラクタのキヤラクタデータを消去するキヤラクタデータ消去手段と を具えることを特徴とする版下デザイン装置。」(以下「本件発明1」という。) (請求項2) 「各キヤラクタの作成時,キヤラクタ種別データ,キヤラクタ位置データ及びキヤラクタ形態データでなるキヤラクタデータを作成順序に応じてキヤラクタ登録メモリ手段に登録すると共に,登録キヤラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキヤラクタから最後に登録されたキヤラクタまでの有効登録キヤラクタ数を表すデータとして保持させるキヤラクタデータ作成手段と, 各キヤラクタの消去時,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記表示手段の表示画面上の表示を消去する表示消去手段と, 各キヤラクタの消去時,上記登録キヤラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記キヤラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキヤラクタのキヤラクタデータを消去するキヤラクタデータ消去手段と, 上記キヤラクタ登録メモリ手段に登録されたすべてのキヤラクタデータを表示手段の表示画面上に表示する再表示手段と を具えることを特徴とする版下デザイン装置。」(以下「本件発明2」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本件発明1も本件発明2も,周知の事項の下では,特開昭63-64465号(審判甲第1号証。本訴甲第3号証。以下「引用刊行物」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができないものである,というものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中,「1.手続の経緯・本件発明」,「2.請求人の主張」,「3.被請求人の主張」,「4.甲第1号証ないし甲第5号証」は認める。「5.対比」(7頁4行〜8頁14行)のうち,7頁12行冒頭の「画像データを」から14行の「一致し,」まで,8頁5行の「甲第1号証の」から13行の「一致し,」までは争い,その余は認める。「6.当審の判断」(8頁15行〜9頁12行)のうち,8頁19行の「一般的に,」から29行の「られる。」まで,8頁31行の「甲第1号証に」から38行の「考えられることである。」まで,9頁1行の「甲第1号証の」から2行の「考えられることである。」まで,9頁4行の「上述のように,」から10行の「考えられることである。」まで,9頁12行の「上記・・・同様である。」は争い,その余は認める。「7.むすび」は争う。
審決は,本件発明1,2(以下,両者を合わせて,単に「本件発明」と呼ぶことがある。)と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),本件発明と引用発明との相違点についての判断を誤った(取消事由2ないし4)ものであり,これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点の認定の誤り) (1) 審決は,「画像データを消去する時には,メモリ手段に最後に登録された画像データから消去する手段を設ける点」を,本件発明と引用発明との一致点として認定した(審決書7頁12行〜14行,8頁9行〜12行)。
しかし,上記一致点の認定は,本件発明が,各キャラクタの消去時に,最後に登録されたキャラクタについてのキャラクタデータを「メモリに記憶させたまま,」有効登録範囲から除外する,という,引用発明にはない特徴を有することを看過した点において,誤っている。
本件発明においては,画像データを消去するといっても,登録メモリ手段に登録されたキャラクタデータのうち,画面に表示するキャラクタデータを有効登録範囲によって限定するだけであって,有効登録範囲から除外されたキャラクタデータであっても,その除外されたキャラクタデータは登録メモリ手段から除去されずに残されている。
このことは,本件特許に係る願書に添付された明細書(以下,同願書に添付された図面をも含めて「本件明細書」という。甲第2号証参照)の特許請求の範囲中の「各キヤラクタの消去時,上記登録キヤラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記キヤラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキヤラクタのキヤラクタデータを消去するキヤラクタデータ消去手段」との記載及び発明の詳細な説明中の「SPU(判決注・CPUの誤記と認める。)2はステツプSP21においてデイスプレイ装置7に表示されているデザイン途中の版下画像のうち,最後に登録された文字デザイン要素を画面から消去した後ステツプSP22において登録文字数カウンタTORKUの登録文字数データCOUNTから「-1」減算をするような処理を実行する。この処理は,第5図(B)に示すように,有効データ領域VALを画面消去した文字数に相当する分登録文字データメモリMEMの有効データ領域VALを縮小することにより,当該縮小した分の登録文字データを無効にすることを意味する。」(甲第2号証の4頁8欄26行〜36行)との記載から認めることができる。そうすると,本件発明は,登録メモリ手段に登録されたキャラクタデータのすべてのデータを消さずに残した状態において,画面の表示に用いられるキャラクタデータ(表示に使う有効なキャラクタデータ)を有効登録範囲によって限定するもの,であることが明らかである。
これに対し,引用発明においては,画面から消去したストロークに対応する描画データは,すべてのメモリ,すなわち画像メモリ13及びデータメモリ6の両方から消去される(すべて,データ「0」が書き込まれた状態になる。甲第3号証3頁左下欄10行〜19行参照)。
このように,本件発明と引用発明とは,画像データの消去に関し,本件発明においては,登録メモリ手段に登録されたキャラクタデータのうち画面に表示するキャラクタデータを有効登録範囲によって限定するだけであって,有効登録範囲から除外されたキャラクタデータであっても,その除外されたキャラクタデータは登録メモリ手段から除外されずに残されているのに対し,引用発明においては,すべてのメモリからデータが除去される(データ「0」が書き込まれる),という点において,相違する。
本件発明は,上記の構成を採用したことにより格別の効果を生ずる。本件発明においては,有効登録範囲を縮小したとき,無効にされたキャラクタデータをキャラクタ登録メモリ手段に残したまま,表示手段の表示画面上の表示を消す状態になるので,その後有効登録範囲が再度拡大したときには,いったん無効にされたキャラクタデータが有効になるので,このキャラクタデータを再び入力し直さなくとも再度表示手段の表示画面に表示できることにより,その結果,デザイン作業の簡略化ができ,作業が一段とやり易くなる。これに対し,引用発明においては,同じように最後の描画データを消去しようとするときには,画像メモリ13にデータ「0」を書き込んで当該描画データの表示を消去した後,データメモリ6の描画データをも消去してしまうので,当該消去した描画データを再び表示しようとするときには,これを再度入力し直さなければならないため,本件発明と同じ作用効果を得ることはできない。
このように,本件発明と引用発明とは,画像データの消去の点で,構成が全く相違し,これに応じて作用効果も全く相違するものであるにもかかわらず,審決は,上記相違点を看過し,画像データの消去に関し,本件発明と引用発明とは,一致すると認定したものであり,この一致点の認定の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 被告は,本件発明が,「キャラクタ消去時,キャラクタデータをメモリに記憶させたままにしておく」点において,引用発明と相違することを認める主張をしている。これは,審決の一致点の認定に誤りがあることを事実上認めたものというべきである。このように審決の重要な事実認定に誤りがあることについて,当事者間に争いがないのであるから,このような誤った認定に基づいてなされた審決の結論は,他の点を論ずるまでもなく,到底維持できないものであることが,明らかである。
2 取消事由2(相違点2,4についての判断の誤り) (1) 審決は,本件発明と引用発明との相違点の一つとして,審決のいう相違点2(本件発明は登録キャラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させているのに対して,引用例には登録キャラクタカウント手段については記載されていない点)(審決書7頁23行〜27行,8頁13行〜14行)を,他の一つとして同じく相違点4(消去時に,本件発明においては,登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果,当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段を設けているのに対して,引用発明においては,制御回路は読み出したデータをデータメモリから消去すると共にデータメモリの最終記憶位置を示すポインタを1つ前の区分データ位置に移動する点)(審決書7頁31行〜37行,8頁13行〜14行)を認めた上,これらの相違点について,引用発明におけるポインタの位置の代わりに,カウント手段のカウント値を有効登録キャラクタ数のデータとすることは容易に考えられることであるから(相違点2についての判断,審決書8頁36行〜38行),「カウンタ手段を減算動作させることにより,有効登録範囲を移動させてデータを無効とすることは当業者が何の困難性もなく考えられる」(相違点4についての判断,審決書9頁8行〜10行)と判断した。
審決は,上記判断の理由として,@ポインタにより有効データ領域を示すことは周知のことであること(審決書9頁4行〜5行),A有効データ領域から外れたデータを無効とすること,無効のデータを消去するか否かは必要に応じて適宜行えばよいことであること(同9頁5行〜6行),を挙げている。しかし,審決は,上記@の事項は周知であることについても,同Aの事項は適宜行えばよいことであることについても,そのように判断するための根拠となる公知事実ないし文献を全く示していない。このように根拠を示さないままに上記のように判断した点において,審決は違法である。
引用発明のポインタは,単に,データメモリ6の最終記憶位置(データメモリ6のすべての記憶データのうち,最後に記憶された記憶データの記憶位置)を示す機能を持つだけで,本件発明の「有効登録範囲」のように,すべての登録データのうち,表示するために用いる有効データの登録範囲を示す機能は持っていない。引用発明のポインタに有効データの記憶範囲を示す機能を付与することが周知であることは,何ら立証されていない。
引用発明のポインタは,記憶データのうち,最後に記憶された記憶データの記憶位置を示す機能を持つだけで,もともと,有効登録範囲から外れたデータの存在又は不存在自体を予定していないものである。引用発明のポインタを単に移動させただけでデータを有効データ領域から外すようなことはできず,ましてや,外れたデータを残したまま,無効データとして表示から消去するようなことは全くできない。引用刊行物のポインタにおいて,データを有効データ領域から外すことが容易であることは,何ら立証されていない。
(2) 被告は,ポインタの機能が周知であることの根拠として,乙第5号証刊行物を挙げる。
しかし,同刊行物は,デザイン装置とは関係がない,単に一般的なデータであるにすぎないものの格納方法を示しているだけであるから,デザイン装置が問題とされている本件においては,上記周知性の根拠とはなり得ない。同刊行物のスタックポインタの機能は,データの最後の記憶位置を示すことにあり,本件発明の「有効登録範囲」を直感させるような技術的内容を持っているものではない。
引用発明は,余分の手間をかけてその都度データを消しており,乙第5号証刊行物のように,余分な手間をかけずに,データを残すことを直接に示唆することをしていない。これは,引用発明のメモリが,手書きのデザインデータを蓄積することを目的として用意されたものであることを考えるならば,十分に納得できることである。引用発明の場合は,「メモリのデータを消す」ことによって一つの構成を完成させているのであって,そこでは,乙第5号証刊行物に記載された技術のような,全く反対の考え方を採用する余地はないのである。引用発明において,手書きのデザインデータを蓄積するため,メモリのデータを消す構成を採用したのは,それなりの理由があってのことであると考えられるから,これを何の動機付けもなく,同刊行物に記載された技術のように,デザインデータの処理とは無関係な一般的な技術と置き換えることは,当業者の到底なし得るところではないというべきである。
同刊行物に示されているスタック領域及びスタックポインタと本件発明のキャラクタ登録メモリ手段及び登録キャラクタカウント手段とは,目的・構成・作用効果のいずれの点においても相違するから,同刊行物に記載された技術を引用発明と組み合わせて考えてみても,本件発明のような構成に想到することはできないのである。
3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は,本件発明と引用発明との相違点の一つとして,審決のいう相違点1(画像データが,本件発明は,版下デザイン装置のキャラクタで,そのキャラクタが,キャラクタ種別データ,キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データからなるのに対し,引用発明は,描画像通信装置の描画データであって,描画データは,描画ペンが描画パット上にダウンされてからアップされるまでに入力された描画データを一つの単位とし,それぞれの描画データにはカラー属性などを示すコマンド識別データと,区分データ(ISP)が一対に構成されているものである点)(審決書7頁16行〜22行,8頁13行〜14行)を認定した上,この相違点について,「一般的に,版下デザイン装置において,文字などのキャラクタを1つの単位として扱うことは,周知のことであり,また,文字キャラクタデータは,文字の種別を表す文字コードデータ等のキャラクタ種別データ,当該文字の表示画面上の位置を表すX座標データ及びY座標データであるキャラクタ位置データ,及び,文字の大きさデータ,縦横比データ,傾斜角データ,回転角データ,書体番号データ等のキャラクタ形態データで構成されることも周知のことであるから,甲第1号証において,描画ペンが描画パッド上にダウンされてからアップされる迄に入力された画像データを1つの単位として扱うもののかわりに,1文字を1つの単位とすること,即ち,キャラクタデータを1つの単位とすることは当業者が容易に推考することができることと認められる。」(審決書8頁19行〜29行)と判断した。
本件発明1,2の描画データによれば,@デザイナが指定した表示画面上の任意の位置(キャラクタ位置データ)に,Aデザイナがあらかじめ用意されている多数種類のキャラクタのうちから任意に選択したキャラクタ(キャラクタ種別データ)を,Bデザイナの好みに応じた形態(キャラクタ形態データ)で,デザイン作業ができる。
これに対し,引用発明の描画データのデータ構造は,キャラクタを選択できるデータや,当該選択したキャラクタの形態を指定するデータや,当該選択したキャラクタの表示位置を指定するデータを全く持っておらず,本件発明が持つあらかじめ用意されている多数種類のキャラクタからデザイナが順次任意に選択したキャラクタを用いてデザインしていくことができる技術とは異なる,手書き専用の描画装置としての構造である。
審決は,認定の裏付けとなるべき何らの公知事実も文献も示すことなく,「版下デザイン装置において,文字などのキャラクタを1つの単位として扱うこと」(審決書8頁19行〜20行)及び「文字キャラクタデータは,文字の種別を表す文字コードデータなどのキャラクタ種別データ,当該文字の表示画面上の位置を表すX座標データ及びY座標データであるキャラクタ位置データ,及び文字の大きさデータ,縦横比データ,傾斜角データ,回転角データ,書体番号データなどのキャラクタ形態データで構成されること」(同8頁20行〜24行)を周知のことと認定した上,これを根拠に,引用発明の描画データを本件発明のキャラクタデータとすることに想到することが容易であるとの判断をした点において,既に,違法である。上記事項が周知であることは,何ら立証されていないのである。
(2) 被告は,上記周知性を認めるための根拠として乙第6ないし第8号証の各刊行物を挙げる。しかし,これらの刊行物は,上記周知性を認定するための根拠となるものではないというべきである。
乙第6号証刊行物記載のレイアウト方法は,キャラクタ情報に基づいてレイアウトされたキャラクタデータについて,本件発明の特徴である,@最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータを登録キャラクタカウント手段に保持させること,A登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることによって最後に登録されたキャラクタについてのキャラクタデータを有効登録範囲から除外することによりキャラクタデータを消去すること,について開示も教示もしていないから,同号証刊行物が,たとい本件発明と同様なキャラクタデータを取り扱っているとしても,本件発明と同様の効果を得ることができるような結果にはならない。
乙第7号証刊行物記載のイメージデータ処理装置は,ドットパターン発生手段から得たドットパターンの書込位置を指定してページメモリに書き込む一連の処理を実行する際に,本件発明の上記@,Aのような処理をしていないから,同号証のドットパターンを処理対象として用いることとしてこれと引用発明とを組み合わせて考えてみても,「有効登録キャラクタ数を保持できると共に,登録キャラクタ手段を減算カウント動作させることにより有効登録範囲から除外することにより消去する」ような構成を有するデータ処理装置に想到することはできず,本件発明と同様の効果を得ることができるような結果にはならない。
乙第8号証刊行物記載の漢字光学読取装置は,読み取った大きさの文字コードを位置コードの位置に割り付ける処理をする際に,本件発明の上記@,Aのような処理をしていないから,同号証刊行物の文字データを処理対象として用いることにしてこれと引用発明とを組み合わせて考えてみても,「有効登録キャラクタ数を保持できると共に,登録キャラクタ手段を減算カウント動作させることにより有効登録範囲から除外することにより消去する」ような構成を有するデータ処理装置に想到することはできず,本件発明と同様の効果を得ることができるような結果にはならない。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り) 審決は,本件発明と引用発明の相違点の一つとして,審決のいう相違点3(メモリ手段が,本件発明は,キャラクタ登録メモリ手段であるのに対して,引用発明は,データメモリと画像メモリとである点)(審決書7頁28行〜30行,8頁13行〜14行)を認定した上,この相違点につき,引用発明の「データメモリ及び画像メモリを,キャラクタ登録メモリ手段とすることは当業者が容易に考えられることである。」(審決書9頁1行〜2行)と判断した。しかし,この判断は,本件発明と引用発明との間の構成及び効果の差異を看過したために犯した誤りである。
本件発明のキャラクタ登録メモリ手段は,キャラクタデータを作成順序に応じて登録し,かつキャラクタ消去時にキャラクタデータを消去しない点に特徴がある。この構成のため,本件発明では,キャラクタデータの消去をしない分,効率よくデータの処理ができるという効果が得られる。
引用発明のデータメモリ6及び画像メモリ13は,画像を手書きする際に順次データを蓄積して行き,かつストローク消去時最後のストロークの描画データを消去するものである。
両者は,キャラクタデータの作成時に順次データを蓄積して行く点において一致する。しかしながら,キャラクタ消去時において,本件発明の場合は,蓄積していたキャラクタデータの消去をせずにそのままにしておくのに対して,引用発明の場合は,最後に入力された描画データをメモリ6から読み出し,このデータに含まれるX,Y座標データに基づいて,画像メモリ13の対応する領域にデータ「0」を書き込むことにより,CRT装置14の対応する点を消去し,最後のストロークについての処理が終了したところで,データメモリ6から読み出したデータを用いてこのデータをデータメモリ6から消去するといった3段階の処理を実行することにより,画像メモリ13及びデータメモリ6からデータを消去し,これによりメモリにはデータを残さないようにしている(甲第3号証3頁左下欄10行〜右下欄7行)点において,両者は相違する。
キャラクタ消去時において,引用発明の場合は,画像メモリ13のデータを消去した後に,データメモリ6を消去するための複雑なデータ消去処理をしなければならないのに対して,本件発明は,そのような処理をしなくてもいい分,処理効率の点において一段と高い改善効果を得るよう工夫をしている,という事実がある以上,引用発明のデータメモリ6及び画像メモリ13に基づいて本件発明のキャラクタ登録メモリ手段に容易に想到し得た,ということはできない。
これに加えて,引用発明のデータメモリ6及び画像メモリ13には,キャラクタ消去時にデータを消去しないままにしておこうという考え方は全くないから,本件発明におけるようなデータを消去しないキャラクタ登録メモリ手段という,着想を得るに必要な動機付けも全くない。このようなとき,引用発明のデータメモリ6及び画像メモリ13に基づいて本件特許発明のキャラクタ登録メモリ手段に容易に想到し得る,などということは,あり得ない。
以上のとおりであるから,審決の相違点3の判断は誤りであるというべきである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は,正当であり,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本件発明と引用発明との一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,本件明細書の特許請求の範囲に記載された「キヤラクタデータを消去する」の語は,「有効登録範囲を縮小すれば,登録メモリ手段に残ってはいるが,当該有効登録範囲から外れた登録キャラクタデータ(すなわち最後に登録されたキャラクタデータ)を画面に表示しなくなる」ことを意味することが,本件明細書の記載によって裏付けられる,と主張する。
しかしながら,上記,「キヤラクタデータを消去する」の語が,「有効登録範囲から外れたことにより最後に登録されたキャラクタデータを画面に表示しなくなる。」ことのみを意味するとの解釈の根拠となるものは,本件明細書に存在しない。したがって,このように解釈することはできないというべきである。
本件明細書には,「SPU(判決注・CPUの誤記と認める。)2はステツプSP21においてディスプレイ装置7に表示されているデザイン途中の版下画像のうち,最後に登録された文字デザイン要素を画面から消去した後ステツプSP22において登録文字数カウンタTORKUの登録文字数データCOUNTから「-1」減算をするような処理を実行する。」(甲第2号証4頁8欄26行〜31行)との記載がある。この記載においては,有効登録範囲の操作と画面からの消去の順序が,原告の主張におけるのとは逆となっている。仮に,本件明細書中に,原告の主張に合致する記載があるとしても,そこには,上記のとおり,それとは矛盾する記載もあるので,原告の上記主張は,結局,本件明細書の記載によって裏付けられているとはいえないことになる。これを一つの例として,本件明細書には,いくつもの不明確な点や相互に矛盾する点がある。明細書の記載がこのような不徹底・不明確・不完全なものであることを奇貨として,特許権者に柔軟な主張を許し,利益を与え得るとすれば,およそ特許明細書はいいかげんなものほど好ましいものとなり,新規技術の公開の代償としての特許権の付与という特許制度の根幹を揺るがす事態ともなりかねない。
本件明細書中の「消去」の語は,表示画面(画像メモリ)からの「消去(画像メモリ中の対応するデータに「0」を上書きすること)を意味するのか,登録されたデータをデータメモリから実際に消去する(キャラクタ登録メモリ手段に相当するデータメモリ中の対応するデータに「0」を上書きする)ことを意味するものなのか,それとも,原告が主張するように,有効登録範囲外とする結果,データメモリにデータ自体は残っているものの,実効的に消去されているということを意味するのか,それぞれの解釈及びそれぞれの裏付けが可能であり,不明確である。
(2) 審決は,上記の点について明確に述べていないものの,「消去」の解釈が上記のいずれであっても,本件発明1も同2も無効とすることができるとの判断の下に,両発明における「消去」の語が,キャラクタを表示画面から消去した後,「キャラクタデータをメモリに記憶させたまま」,登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させるものである,との原告の解釈をいったん受け入れた上で,判断をしているものと思われる。
このように,「消去」については原告の解釈を受け入れる,との審決の立場を前提とする限り,被告としても,審決と同じく,各キャラクタを表示画面から消去する際に,本件発明では,キャラクタを表示画面から消去した後,キャラクタデータをメモリに記憶させたまま,登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させるのに対し,引用発明では,すべてのメモリからデータを消去するという点において,両発明が相違すること自体は,認めた上で,論を進めざるを得ない。
しかし,上記のことは,何ら,審決の一致点の認定を誤りとするものではない。原告は,一致点についての審決の認定が誤りであることを被告が認めている,と主張する。しかしそのようなことは一切ない。
審決が一致点として認定したのは,画像データを作成順にメモリ手段に登録する手段と,画像データを消去するときには,メモリ手段に最後に登録された画像データから消去する手段を設けた点,であり,これは,本件発明と引用発明とに共通する部分を抽象的に上位概念化してとらえたものである。審決は,両発明の共通点をこのようにとらえ,その上で,個別具体的な相違点を取り上げて判断しているのであるから,一致点についてのその認定に誤りはない,というべきである。
2 取消事由2(相違点2,4についての判断の誤り)について (1) 原告は,審決が相違点2,4についての判断の理由として,@ポインタにより有効データ領域を示すことは周知のことである,A有効データ領域から外れて無効となったデータを消去するか否かは必要に応じて適宜行えばよいことである,とした点につき,その根拠となる公知事実ないし文献を示さないまま判断した点において,違法である,と主張する。
このような場合,特許庁におけるプラクティスとして,当業者の知識又は能力の認定の基礎となる周知・慣用技術の例示をするまでもない場合があることが了知されている。したがって,公知事実ないし文献を全く摘示していないとからといって,審決の判断を違法とすることはできない。。
原告は,引用発明のポインタは,単に,データメモリ6の最終記憶位置を示すにすぎないものなので,本件発明の「有効登録範囲」のように,すべての登録データのうち表示するために用いる有効データの登録範囲を示す機能は持っていない,と主張する。しかしながら,引用発明を開示する甲第3号証刊行物には,再表示について説明がされており(同号証3頁右下欄12行〜19行),このようなことができるのは,引用発明のポインタにも,「表示するために用いる有効データの登録範囲を示す機能」があるからにほかならない。
乙第5号証刊行物(昭和62年4月1日発行のCASL解説書。情報処理技術者試験用のいわゆる受験参考書)には,いわゆるスタックポインタが解説されている。同刊行物158頁左下の図である「(a)スタックを降す前」は,「データ3」をアドレス「FFFD」に格納した状態を示している。ここから「データ3」を「消去」すべく,スタックポイントを1だけ戻すと,158頁右下の図「(b)スタックを降した状態」となる。この図には,「データ3」が,未使用領域に存在することが示されており,実際には消去されていないが,実効的には消去されていることが明らかである。すなわち,スタックポインタを用いる場合には,スタックポインタを1だけ戻す(スタックを降ろす)動作に先だって,「データ3」を実際に消去する(「データ3」に「0」を上書きする)ことを行っていないことは明らかである。
スタックポインタは,同刊行物158頁右下の図「(b)スタックを降した状態」が明らかに示しているように,有効領域とこれから外れた領域を示すことができることが明らかである。同図におけるFFFF及びFFFEのアドレスが有効領域で,FFFD(データ3が格納されている),FFFC及びFFFBのアドレスという未使用領域が有効領域から外れた領域を示しており,これらが,最終記憶位置を示すスタックポインタによって区別されていることが明らかである。このように,ポインタは,最終記憶位置を示すことによって,有効領域を示すことができるのである。
乙第5号証は,特殊なスタックポインタについて解説しているわけではなく,極めて一般的なスタックポインタについて解説しているものである。このように,スタックポインタにおいては,スタックを降ろすことによって,実効的にデータを消去することが通常であって,スタックを降ろすことに先立って,データを実際的に消去することは,まれであることが,文献に基づいて理解できる。スタックポインタは,相当古くから存在しており,上述のようなことは,周知慣用技術であり,技術常識中の技術常識である。
審決の上記@,Aの判断に誤りはない。
(2) 原告は,乙第5号証刊行物にはデザインデータ装置とは直接関係のない一般技術が示されているだけであり,したがって,乙第5号証刊行物記載の技術と引用発明とを組み合わせることは当業者にとって容易とはいえない,と主張する。同刊行物により示されているのが一般的な技術であることは,原告主張のとおりである。しかし,同刊行物に記載されている上記技術は,一般的な技術であるがゆえにこそ,これを技術常識として有する当業者にとって,引用発明と組み合わせること(換言すれば,引用発明において,有効データ領域から外れたデータを消去するものとされているものを,わざわざ消去したりしないものとすること)が,当業者にとって容易となるのである。
3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について (1) 本件発明と引用発明とは,それぞれに係る明細書における従来技術,解決課題,解決手段の記載の仕方が一致する,とまではいえないものの,順次一つずつ入力した描画データを順次一つずつ消去することが可能な装置を提供することにより,ユーザが描画するのを容易にする点において共通している,ということができる。また,審決は,引用発明と本件発明の描画データの差異に強く拘泥した判断をしているのではなく,むしろ,どのような描画データを用いるかの一般的選択可能性の観点から判断をしていると考えるのが妥当である。原告のように,両解決課題の厳密な差異を追求することは,事案を複雑にするにすぎない。
(2) @一般的に,版下デザイン装置において,文字などのキャラクタを一つの単位として扱うこと,A文字キャラクタデータは,キャラクタ種別データ,キャラクタ位置データ,及びキャラクタ形態データで構成されること,が周知であることは,乙第6ないし第8号証の各刊行物により認めることができる。
乙第6号証刊行物(特公昭57-74739号)に記載された発明は,版下作成において用いることができる,チラシ,カタログ等のレイアウト方法に関するものである(同号証2欄2行〜17行参照)。同刊行物には,タイトル文字,繁用される文字,図柄等,価格数字が,そのコード番号,基準点,大きさ,回転等を指示することにより入力されることが記載されている(同号証13欄5行〜10行,14欄3行〜9行)。同号証刊行物に記載された発明において用いられる,上記「コード番号」,「大きさ,回転,角度」,「基準点」の各データは,本件発明1,2の「キヤラクタ種別データ」,「キヤラクタ形態データ」,「キヤラクタ位置データ」にそれぞれ対応する。
このように,乙第6号証刊行物には,版下作成装置において用いることができるカタログ等のレイアウト方法において,「キャラクタ種別データ」,「キャラクタ形態データ」,「キャラクタ位置データ」を有するキャラクタ(タイトル文字,繁用される文字,図柄等,価格数字)のデータが一つの単位として扱われていることが,開示されている。
乙第7号証刊行物(特公昭57-136683号)に記載された発明は,版下デザイン装置にも用いることができるイメージデータ処理装置に関するものである(同号証3欄6行〜10行)。同刊行物には,入力装置により,文字コードや,その文字のサイズ印字位置,文字の方向等を示すデータが順次入力されることが記載されている(同号証4欄19行〜5頁1行)。同号証刊行物には,発明の第1実施例において,入力装置11から与えられる入力データ列を示す図として第2図が掲載されており,また,第2図に対応するパターンとして第3図が掲載されている。この第2図には,文字コード,文字サイズ,Xサイズ,Yサイズ,文字方向,X座標,Y座標のデータが,入力装置から順次入力されることが記載されている。上記「文字コード」,「文字のサイズ,文字の方向,印字の方向」,「印字位置」は,本件発明の「キヤラクタ種別データ」,「キヤラクタ形態データ」,「キヤラクタ位置データ」にそれぞれ対応する。また第2図の「文字コード」,「文字サイズ,Xサイズ,Yサイズ,文字方向」,「X座標,Y座標」は,本件発明の「キヤラクタ種別データ」,「キヤラクタ形態データ」,「キヤラクタ位置データ」にそれぞれ対応する。
このように,乙第7号証刊行物には,版下デザイン装置にも用いることができるイメージデータ処理装置において,「キヤラクタ種別データ」,「キヤラクタ形態データ」,「キヤラクタ位置データ」を有する文字(キャラクタ)のデータが一つの単位として扱われていることが,開示されている。
乙第8号証刊行物(特公昭56-80462号)は,漢字OCR(光学文字読み取り)装置により原稿から読みとった文字を用いた,印刷用版下を作成するための印刷漢字OCR装置に関するものである(同号証2欄2行〜6行)。同刊行物には,OCRから読み込まれた,文字コードと,それに対応する文字の大きさ及び位置のデータが,印刷用版下作成用の印刷漢字OCR装置が備える編集機に入力されていることが示されている(同号証1欄記載の特許請求の範囲,6欄3行〜11行)。上記の「文字コードのデータ」,「文字の大きさデータ」,「文字の位置のデータ」は,本件発明の「キヤラクタ種別データ」,「キヤラクタ形態データ」,「キヤラクタ位置データ」にそれぞれ対応する。
このように,甲第8号証刊行物には,印刷用版下作成用の印刷漢字OCR装置において,「キヤラクタ種別データ」,「キヤラクタ形態データ」,「キヤラクタ位置データ」からなるデータが一つの単位として扱われていることが開示されている。
(3) 前記の周知事実を根拠として,引用発明の描画データを一つの単位として扱うものの代わりに,本件発明1,2のキャラクタデータを一つの単位とすることは,当業者にとって容易に推考できることである,とした,審決の相違点1についての判断に誤りはない。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について 原告は,相違点3についての審決の判断が誤りであるとする。
原告の具体的な主張は,消去処理に関するものであり,相違点3とは関係が薄い。消去処理については,前記2で述べたとおりである。
原告は,引用発明の場合は,複雑なデータ消去処理をしなければならないと主張する。しかし,本件発明の消去処理と引用発明の消去処理とは,複雑さにおいて,大して変わらない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1,2と引用発明との一致点の認定の誤り)について (1) 甲第2号証によれば,本件明細書には,「消去」の語について,次の記載があること(「消去」の語に下線を付す。),及び,同明細書には,これ以外に消去についての記載はないこと,が認められる。
ア「各キヤラクタの作成時,キヤラクタ種別データ,キヤラクタ位置データ及びキヤラクタ形態データでなるキヤラクタデータを作成順序に応じてキヤラクタ登録メモリ手段に登録すると共に,登録キヤラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキヤラクタから最後に登録されたキヤラクタまでの有効登録キヤラクタ数を表すデータとして保持させるキヤラクタデータ作成手段と, 各キヤラクタの消去時,上記登録キヤラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記キヤラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキヤラクタのキヤラクタデータを消去するキヤラクタデータ消去 手段と を具えることを特徴とする版下デザイン装置。」(特許請求の範囲請求項1) イ「各キヤラクタの作成時,キヤラクタ種別データ,キヤラクタ位置データ及びキヤラクタ形態データでなるキヤラクタデータを作成順序に応じてキヤラクタ登録メモリ手段に登録すると共に,登録キヤラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキヤラクタから最後に登録されたキヤラクタまでの有効登録キヤラクタ数を表すデータとして保持させるキヤラクタデータ作成手段と, 各キヤラクタの消去時,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記表示手段の表示画面上の表示を消去する表示消去 手段と, 各キヤラクタの消去時,上記登録キヤラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキヤラクタについての上記キヤラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキヤラクタのキヤラクタデータを消去するキヤラクタデータ消去 手段と, 上記キヤラクタ登録メモリ手段に登録されたすべてのキヤラクタデータを表示手段の表示画面上に表示する再表示手段と を具えることを特徴とする版下デザイン装置。」(特許請求の範囲請求項2) ウ「本発明は,コンピュータを用いた版下デザイン装置において,作成したキヤラクタデータを1つずつ消去できるようにしたことにより,デザインの作業効率を一段と高めることができる。」(〔発明の概要〕・甲第2号証2頁3欄15行〜18行) エ「本発明は・・・各デザイン要素をデザインされた順次に従つて消去できるようにすることにより,デザインの作業効率を一段と向上させ得るようにした版下デザイン装置を提案しようとするものである。」(〔発明が解決しようとする問題点〕・同号証2頁4欄10行〜14行) オ「かかる問題点を解決するために本発明においては,各キヤラクタの作成時,キヤラクタ種別データ,キヤラクタ位置データ及びキヤラクタ形態データでなるキヤラクタデータMOJI1〜MOJI300を作成順序に応じてキヤラクタ登録メモリ手段2Bに登録すると共に,登録キヤラクタカウント手段TORKUを加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキヤラクタMOJI1から最後に登録されたキヤラクタMOJI5(第5図(A))までの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させるキヤラクタデータ作成手段(2,RT3)と,各キヤラクタの消去時,登録キヤラクタカウント手段TORKUを減算カウント動作させることにより,最後に登録されたキヤラクタMOJI5についてのキヤラクタデータを有効登録範囲VALから除外し,その結果当該最後に登録されたキヤラクタMOJI5のキヤラクタデータを消去する(第5図(B))キヤラクタデータ消去手段(2,RT11)とを設けるようにする。」(〔問題点を解決するための手段〕・同号証2頁4欄16行〜32行) カ「登録キヤラクタカウント手段TORKUを減算カウント動作させることによって,最後に登録されたキヤラクタMOJI5についてのキヤラクタデータを有効登録範囲VALから除去するようにしたことにより,登録メモリ手段2Bに順次登録された複数のキヤラクタデータMOJI1〜MOJI5のうち,最後に登録されたキヤラクタデータMOJI5だけを消去でき,これにより,作成途中又は作成完了した版下画像のデザインイメージがデザイナのデザイン意図に沿わないとき,表示手段7に表示されている複数のキヤラクタを必要に応じて最後に登録されたキヤラクタMOJI5から,1つずつ消去しながら,当該消去 した後のデザインイメージとデザイナのデザイン意図との照合を細かくチェックすることができ,その結果,それまでに費やされたデザイン作業を有効に利用しながら,マン-マシン方式で,効率良く版下をデザインすることができる。」(〔作用〕・同号証2頁4欄34行〜48行) キ「SPU(判決注・CPUの誤記と認める。)2はステツプSP21においてデイスプレイ装置7に表示されているデザイン途中の版下画像のうち,最後に登録された文字デザイン要素を画面から消去した後ステツプSP22において登録文字数カウンタTORKUの登録文字数データCOUNTから「-1」減算をするような処理を実行する。この処理は,第5図(B)に示すように,有効データ領域VALを画面消去 した文字数に相当する分登録文字データメモリMEMの有効データ領域VALを縮小することにより,当該縮小した分の登録文字データを無効にすることを意味する。」(〔実施例〕・同号証4頁8欄26行〜36行) ク「CPU2が1文字消去サブルーチンRT11を実行することによって登録文字数カウンタTORKUの登録文字数データCOUNTを「-1」減算することによつてCOUNT=4に縮小すると,登録文字データメモリMEMに最後に登録された第5番目の登録文字データMOJI5が有効データ領域VALから削除されることにより,CPU2は第1〜第4番目の登録文字データMOJI〜MOJI4だけを有効データとして読み出し得る状態に変更される。かくして1文字消去処理が終了し,CPU2はステツプSP23においてメインフラグMF@をMF@=MF0に初期化した後ステツプSP24からメインルーチンに戻る。このような1文字消去サブルーチンRT11(第7図)の処理は,メインルーチン(第2図)においてデザイナが当該1文字消去サブルーチンRT11を指定するごとに繰り返され,このときCPU2はその都度最後に作成された文字デザイン要素の消去処理を実行する。以上の構成において,デザイナが1文字ずつ文字デザイン要素を作成して行く途中において,当該作成途中の版下デザイン画像のデザインイメージがデザイナのデザイン意図に沿わなくなつてきたとき,デザイナはキーボード3によつて1文字消去サブルーチンRT11を指定すれば良い。このときCPU2はそれまでに作成されたデザイン文字要素の登録データ及び及びデイスプレイ装置7上の表示から,最後に作成したデザイン要素を消去する。この状態においてデザイナはデイスプレイ装置7に残った版下画像を見ることによつて自分のデザイン意図と対比してさらに1文字消去を実行するか,又は新たな文字を作成するかの判断をすることができる。因に当該1文字だけ消去した状態においてデイスプレイ装置7に表示されている版下画像のデザインイメージは,1文字だけ消去した残りの文字デザイン要素によつて生ずるイメージとして,当該1文字の消去によつて損なわれることなく作成時のデザインイメージのまま再現できるので,デザイナが次にとるべき処置を判断するに際して有効な判断資料として利用することができる。因にデザイナが作成し(て)いる途中でそれまで作成された版下画像がデザイナのデザイン意図に沿わないものになつたとき,全ての文字を消去して新たに第1番目の文字から作成し直すことも考えられるが,このようにすると,今までのデザイン作業がまつたく無駄になるおそれがあるのに対して,1文字消去によれば,それまでのデザイン作業をその後のデザイン作業に有効に利用することができ,この分全体としてのデザイン作業の効率を一段と高めることができる。」(〔実施例〕4頁8欄42行〜5頁10欄4行) ケ 「上述のように本発明によれば,順次1つずつ作成して行くことにより得られる登録キヤラクタデータのうち,最後に作成した登録キヤラクタデータを,登録キヤラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより有効登録範囲から除外し,その結果消去できるようにしたことにより,効率良く,マン-マシン方式で,キヤラクタのデザイン作業をなし得る版下デザイン装置を容易に実現し得る。」(〔発明の効果〕5頁10欄11行〜18行) コ 「・・・第7図は第2図の1文字消去サブルーチンの詳細を示すフローチヤートである。」(〔図面の簡単な説明〕5頁10欄26行〜28行) (2) 原告は,本件発明1,2の特許請求の範囲の記載中の「消去」は,登録メモリ手段に登録されて残っているキャラクタデータのうち,画面に表示するキャラクタデータだけを,有効登録範囲によって限定すること,を意味し,これにより,有効登録範囲を縮小すると,当該有効登録範囲から外れた登録キャラクタデータ(最後に登録されたキャラクタデータ)は画面には表示されなくなるものの,登録メモリ手段には残っている,と主張する。
しかしながら,上記(1)ア,イに認定した本件発明1,2の特許請求の範囲の記載をみても,「消去」の語を,原告主張のように最後に登録されたキャラクタデータを画面に表示しなくなるだけで,登録メモリ手段には残す場合だけに限定して,解釈する根拠となるものを見いだすことはできない。特許請求の範囲の記載からは,「消去」の語は,原告主張の場合だけでなく,画面表示とともに登録メモリ手段からも消去する場合をも含む,広い概念として理解するほかないというべきである。
原告は,その「消去」の解釈を裏付けるものとして,本件明細書中の上記(1)キで認定した記載部分を引用する。しかしながら,同記載部分は,実施例に関する記載にすぎないから,この記載があるからといって,直ちに,特許請求の範囲の記載を当該実施例に示されたものに限定して解釈すべきことにはならないというべきである。そして,他にも,上記(1)ウないしカ,クないしコに認定した記載部分を含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載中に,「消去」の語を原告主張のように限定して解釈すべきことを根拠付けるに足りる記載はない。
以上述べたところによれば,本件発明は,@最後に登録されたキャラクタデータを画面に表示しなくなるだけで,登録メモリ手段には残しておく場合,A最後に登録されたキャラクタデータを画面に表示しなくなるだけでなく,登録メモリ手段からも消去する場合のいずれをも含む発明である,というべきであり,@の場合に限定されるとの原告の主張は採用することができない。
(3) 引用発明は,描画データを消去する場合に,表示装置から消去するだけでなく,メモリからも消去するものであることは,当事者間に争いがない。
審決は,本件発明と引用発明との相違点の一つ(審決のいう相違点4)として,「消去時に,本件特許発明1は,登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段を設けているのに対して,甲第1号証(判決注・引用発明のこと)は,制御回路は読み出したデータをデータメモリから消去すると共にデータメモリの最終記憶位置を示すポインタを1つ前の区分データ位置に移動する点」(本件発明1について審決書7頁31行〜37行。本件発明2についても同旨・審決書8頁13行〜14行)を挙げ,この相違点4に対する判断として「上述のように,ポインタにより有効データ領域を示すことは周知のことであり,有効データ領域から外れたデータは無効となり,そのデータを消去するか,そのまま残しておくかは必要に応じて適宜行えばよいことであるから,甲第1号証(判決注・引用発明のこと)において,上記(ロ)で述べたように,ポインタの位置をカウンタ手段で表せるから,このカウント手段を減算カウント動作させ・・・てデータを無効とすることは,当業者が何の困難性もなく考えられることである。」(審決書9頁4行〜10行。本件発明2についても同旨・審決書9頁12行)と述べている。これらの記載は,有効データ領域から外れたデータを消去するか否か,を本件発明と引用発明との相違点としてとらえた上,これに対して判断を加えているものと解することができる。すなわち,審決は,本件発明のうち,前記@の最後に登録されたキャラクタデータを画面に表示しなくなるだけで,登録メモリ手段には残しておく場合を取り上げ,これと引用発明とを対比しているものというべきであり,このことは被告も認めるところである。
原告は,被告が上記の本件発明と引用発明との相違点を認めたことを根拠に,被告は,審決の一致点の認定が誤りであることを実質的に認めた,と主張する。
しかしながら,上記の審決における相違点の認定とこれに対する判断の内容に照らすと,審決が,「消去」に関し,本件発明と引用発明との一致点として,「画像データを消去する時には,メモリ手段に最後に登録された画像データから消去する手段」を設ける点(本件発明1について。審決書7頁12行〜13行),「画像データを消去する時には,最後に登録された画像データについて表示手段の表示画面上の表示を消去する消去手段と,メモリ手段に最後に登録された画像データから消去する手段」を設ける点(本件発明2について。審決書8頁9行〜12行),と認定した趣旨は,「消去」を,上位概念として広くとらえて,一致点を認定し,原告の主張する「消去」に関する相違点は,相違点4として認定した上,その相違点が本件発明の進歩性につきどのような意味を有するかを判断することにする,というものであると解することができる。そして,審決が採用したこの判断手法自体には,何らの誤りもないことが明らかである。したがって,本件発明と引用発明との間に上記の相違があるからといって,審決の上記一致点の認定に誤り(相違点の看過)があるということはできない。
原告の主張は採用することができない。
(なお,上記説示したところによれば,本件発明のうち,上記Aの,最後に登録されたキャラクタデータを画面に表示しなくなるだけでなく,登録メモリ手段からも消去する場合を取り上げて,引用発明と比較するならば,本件発明における消去を上位概念において把握するまでもなく,「消去」に関して両者は一致し,上記相違点も生じないことになる。しかし,審決があえて,上記@の場合と引用発明とを対比して検討を加えている以上,本件訴訟においては,これを前提として,審決の判断の当否を検討することになる。) (4) 以上のとおりであるから,審決の本件発明と引用発明との一致点の認定に誤りは認められない。取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点2,4についての判断の誤り)について (1) 審決は,相違点2(本件発明は登録キャラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させているのに対して,引用例には登録キャラクタカウント手段については記載されていない点)について「甲第1号証(判決注・引用発明)において,消去時に,データメモリ(6)の最終記憶位置を示すポインタを1つ前の区分データ(ISP)位置に移動することが記載されているから,当然描画データを記憶していくときにも,ポインタは位置を移動していくものと思われ,ポインタの移動位置を表すにはカウンタを用いることは通常行われていることであり,また,ポインタにより有効データ領域を示すことは周知のことであるから,甲第1号証のポインタの位置のかわりに,カウント手段のカウント値を有効登録キャラクタ数のデータとすることは当業者ならば容易に考えられることである。」(審決書8頁31行〜38行)と判断し,相違点4(消去時に,本件発明においては,登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果,当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段を設けているのに対して,引用発明においては,制御回路は読み出したデータをデータメモリから消去すると共にデータメモリの最終記憶位置を示すポインタを1つ前の区分データ位置に移動する点)について「上述のように,ポインタにより有効データ領域を示すことは周知のことであり,有効データ領域から外れたデータは無効となり,そのデータを消去するか,そのまま残しておくかは必要に応じて適宜行えばよいことであるから,・・・ポインタの位置をカウンタ手段で表せるから,このカウンタ手段を減算カウント動作させることにより,有効登録範囲を移動させてデータを無効とすることは当業者が何の困難性もなく考えられることである。」(同9頁4行〜10行)と判断した。
原告は,審決は,上記判断の根拠として,@ポインタにより有効データ領域を示すことは周知であること,A有効データ領域から外れて無効となったデータを消去するか否かは必要に応じて適宜行えば良いことであること,を挙げるものの,その裏付けとなる公知事実ないし文献を全く摘示していないから,このような判断は恣意に基づく違法なものである,と主張する。
しかしながら,ある事項が周知であるということは,当業者ならその事項を当然認識しているはずである,ということを意味する(逆にいえば,当業者なら当然認識しているはすであるとはいえないような事項を周知事項ということはできない。)。周知事項がこのようなものである以上,審決において,周知であるとの認定の根拠となる公知事実ないし文献を挙げる必要がないことは明らかというべきである。ただし,当業者でない裁判所が判断主体となる審決取消訴訟において,ある事項が周知であるか否かが争いの対象となった場合には,それが周知であることにつき,当業者でない裁判所が心証を得るに足るだけの資料がない限り,裁判所において,これを周知として,それを前提とする認定判断をすることができなくなるのは,別である。
乙第5号証によれば,同号証刊行物(情報処理教育講座シリーズ12「CASL解説書」電子開発学園出版局 昭和62年4月1日発行)には,「スタックポインタは,スタック領域のどこまでデータが格納されているかを示すレジスタである。スタックポインタ(SP)には最後に積まれたデータの格納アドレスが設定されている。データをスタックに積む度にSPの内容は1だけ小さくなる。・・・本書では例としてFFFF(16)番地をスタック領域の後端としたが,実際には何番地が設定されるか不明である。・・・なお,SP(GR4)は・・・プログラム内で値を与えることにより任意の位置にスタック領域を設定することが可能である。」(158頁12行〜159頁12行)との記載があること,158頁の下側の「(a)スタックを降す前」の図には,SPの内容が「FFFD」であり,アドレス「FFFC」及び「FFFB」は「未使用領域」であることが示されていること,同図の右の「(b)スタックを降した状態」の図には,SPの内容が「FFFE」であり,アドレス「FFFD」ないし「FFFB」は同図の左側に「未使用領域」と記載され,この未使用領域中のFFFDに「データ3」が存在することが示されていること,が認められる(別紙参照)。
乙第5号証刊行物の上記認定の記載によれば,同刊行物の上記「(b)スタックを降した状態」の図に示された未使用領域以外の「FFFF」及び「FFFE」は使用領域であり,スタックポインタSPは使用領域を示しているということができる。そうすると,乙第5号証刊行物には,ポインタによりデータの有効領域を示すこと,及び,ポインタにより示された有効データ領域から外れたデータを,実際には消去しないまま残しておくことが記載されているということができる。同号証刊行物は,情報処理教育のための一般的な技術を記載した文献であることが明らかであるから,上記の点は,本件特許の出願時である昭和63年当時,周知であったと認めることができる。
上記認定によれば,ポインタにより有効データ領域を示すことは周知であるとした審決の認定判断に誤りはないというべきである。また,上記認定によれば,ポインタにより示された有効データ領域から外れたデータを消去しないで残しておくことは周知であり,一般に,データを消去するには,当該データに「0」のデータを上書きすればよいことは技術常識であること(弁論の全趣旨により,認められる。)からすれば,ポインタにより示された有効データ領域から外れたデータについて,これを残しておくか,「0」のデータを上書きして残しておくか否かは必要に応じて適宜行えばよいことであるということができる。したがって,この点についての審決の認定判断にも誤りはないものというべきである。
原告は,@引用発明のポインタは,単にデータメモリ6の最終記憶位置を示すものにすぎず,すべての登録データのうち表示するために用いる有効データの登録範囲を示す機能は持っていないから,引用発明のポインタを単に移動させただけでデータを有効データ領域から外すようなことはできず,ましてや外れたデータを残したまま無効データとして表示から消去するようなことは全くできない,A引用発明においては,「メモリのデータを消す」ことによって一つの構成を完成させているのであるから,これを何らの動機付けもなく,デザインデータの処理とは無関係な乙第5号証刊行物記載の一般的な技術と置き換えることは,当業者において容易になし得ることではない,と主張する。
しかしながら,乙第5号証刊行物は,「情報処理教育講座シリーズ」として刊行されたものであり,これに記載された技術は,種々の分野に適用される一般的な技術であるということができる。引用発明のポインタがこれらの一般的な技術とは異なる種類の特殊なものであることについては,何ら主張,立証がなく,本件全証拠を検討しても,これらの一般的技術を引用発明に適用することを阻害する要因を見いだすことはできない。原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 原告は,乙第5号証刊行物のスタック領域及びスタックポインタと本件発明のキャラクタ登録メモリ手段及び登録キャラクタカウント手段とは,目的・構成・作用効果のいずれの点においても相違するから,同号証刊行物に記載されたところと引用発明とを組み合わせて考えてみても,本件発明のような構成にはならない,と主張し,甲第9号証中には,これに沿う記載がある。しかしながら,乙第5号証刊行物は,審決が本件発明と引用発明との相違点に対する判断中で述べた,@ポインタにより有効データ領域を示すことは周知であること,A有効データ領域から外れて無効となったデータを消去するか否かは必要に応じて適宜行えばよいことであること,を根拠付ける証拠として提出されたものであり,同号証刊行物によりこのことが認められると解すべきことは上記説示のとおりである。この点を離れて,同号証刊行物記載の技術と本件発明との相違点をいう,原告の主張は,主張自体失当というべきである。
原告の主張は採用することができない。
(3) 他に,審決の相違点2,4についての判断に誤りがあることを認めるに足りる主張,立証はない。取消事由2は,理由がない。
3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について 原告は,相違点1(画像データが,本件発明は,版下デザイン装置のキャラクタで,そのキャラクタが,キャラクタ種別データ,キャラクタ位置データ及びキャラクタ形態データからなるのに対し,引用発明は,描画像通信装置の描画データであって,描画データは,描画ペンが描画パット上にダウンされてからアップされるまでに入力された描画データを一つの単位とし,それぞれの描画データにはカラー属性などを示すコマンド識別データと,区分データ(ISP)が一対に構成されているものである点)についての審決の判断につき,何ら公知事実ないし文献の摘示もなく,恣意に基づくもので誤りである,と主張する。
乙第6ないし第8号証によれば,乙第6号証刊行物(特開昭57-74739号公報)には,「本発明はチラシ,カタログ等のレイアウト方法に係り,特に・・・作図装置により版下として作図し得るレイアウト方法に関するものである。」(乙第6号証1頁右下欄2行〜17行),「タイトル文字の入力は,そのコード番号,基準点,大きさ,回転等を指示することにより入力される。」(同号証4頁左下欄5行〜7行)との記載があること,乙第7号証刊行物(特開昭57-136683号公報)には,「本発明は・・・イメージデータ処理装置に関する。」(乙第7号証1頁右下欄2行〜6行),「本発明の目的は,・・・版下等の作成において文字の訂正や挿入削除が容易に行え,柔軟な編集作業が行えるイメージデータ処理装置を提供することにある。」(同号証2頁左上欄6行〜10行),「入力装置11により文字コードやその文字のサイズ,印字位置,文字の方向,印字の方向等を示すデータが入力される。」(同号証2頁右上欄19行〜左下欄1行)との記載があること,乙第8号証刊行物(特開昭56-80462号公報)には,「本発明は,・・・原稿から文字を読取り,それを認識・記憶し,そのデータを電算写植機に与え,それから印刷用版下を作成するようにした印刷漢字OCR装置に関する。」(乙第8号証1頁右下欄2行〜6行),「所定の文字を指定する文字コード及び文字の大きさデータ並びに位置データを入力して文章を編集する編集機」(同特許請求の範囲)との記載があること,が認められる。
上記各刊行物の上記認定の各記載によれば,版下デザイン装置において,文字などのキャラクタを一つの単位として扱うこと,文字キャラクタデータは,文字の種別を表す文字コードデータ等のキャラクタ種別データ,当該文字の表示画面上の位置を表すX座標データ及びY座標データであるキャラクタ位置データ,及び,文字の大きさデータ,縦横比データ,傾斜角データ,回転角データ,書体番号データ等のキャラクタ形態データで構成されることは,いずれも周知であると認めることができる。したがって,これらの事実が周知であるとした審決の認定判断には誤りはない,というべきである。
原告は,乙第6ないし第8号証刊行物は,本件発明の特徴,すなわち,最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータを登録キャラクタカウント手段に保持させること,登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることによって最後に登録されたキャラクタについてのキャラクタデータを有効登録範囲から除外することによりキャラクタデータを消去することについて,これを開示も,教示もしていないと主張し,甲第9号証中にはこれに沿う記載がある。
しかしながら,原告の主張する,「登録キャラクタカウント手段を加算カウント動作させることにより,当該カウント内容を最初に登録されたキャラクタから最後に登録されたキャラクタまでの有効登録キャラクタ数を表すデータとして保持させている」点は,相違点2の問題であり,「消去時に,・・・登録キャラクタカウント手段を減算カウント動作させることにより,上記最後に登録されたキャラクタについての上記キャラクタデータを有効登録範囲から除外し,その結果当該最後に登録されたキャラクタのキャラクタデータを消去するキャラクタデータ消去手段を設けている」点は相違点4の問題である。乙第6ないし第8号証刊行物に示されたものが,相違点2,4に係る本件発明の構成を備えているか否かは,相違点1に対する判断とは直接関係のないことである。原告の主張は,主張自体失当というべきであり,採用することができない。
以上のとおりであるから,取消事由3は,理由がない。
4 取消事由4(相違点3についての判断の誤り)について 原告は,審決が相違点3(メモリ手段が,本件発明は,キャラクタ登録メモリ手段であるのに対して,引用発明は,データメモリと画像メモリとである点)に関し,引用発明のデータメモリ及び画像メモリを,キャラクタ登録メモリ手段とすることは当業者が容易に考えられることである(審決書9頁1行〜2行),と判断した点につき,キャラクタ消去時に,引用発明の場合には,データメモリ6を消去するための複雑なデータ消去処理をしなければならないのに対して,本件発明は,そのような処理をしなくてもよい分,処理効率の点において一段と高い改善効果を得るよう工夫をしており,引用発明には,キャラクタ消去時にデータを消去しないままにしておこうという考え方は全くないから,データを消去しない本件発明のキャラクタ登録メモリ手段を着想できるような動機付けも全くなく,審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,原告の指摘するデータを消去するか否かの点は,相違点4の問題であって,相違点3の問題とは直接の関係がないものというべきである(相違点4についての審決の判断に誤りがあるということができないことは,前記説示のとおりである。)。原告の主張は,主張自体失当というべきであり,採用することができない。
取消事由4は理由がない。
以上によれば,原告主張の審決取消事由は,いずれも理由がなく,その他,
審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久