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関連審決 審判1999-35794
関連ワード 頒布された刊行物 /  容易に発明 /  技術常識 /  実質的に同一 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 436号 審決取消請求事件
原告 アイダエンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士 福田親男、弁理士 武井秀彦、弁護士 梅澤健
被告 蛇の目ミシン工業株式会社
訴訟代理人弁護士 横山寛、弁理士 岩堀邦男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35794号事件について平成12年9月22日にした審決中、請求項第1項に関する部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告は、本件特許第2533486号発明(名称「電動プレス」。本件発明)の特許権者である。本件特許は、昭和61年4月4日特許出願(特願昭61-76644号)され、平成8年6月27日に設定の登録がされた。原告は、平成11年12月28日に本件特許について特許無効審判の請求をし、平成11年審判第35794号事件として審理された結果、平成12年9月22日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年10月18日原告に送達された。
2 本件発明1(請求項第1項に記載の発明。構成に符号を付した。)の要旨 A 被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け、
B 該モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備え、
C 前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御し、
D 前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定し、
E 該記憶設定された位置間の速度を制御することを特徴とする電動プレス。
3 審決の理由の要点 (1) 本件発明 (1)-1 要旨 前記2のとおり。本件発明2(請求項第2項に記載の発明)については、本訴請求の範囲外のため省略。
(1)-2 本件発明が解決しようとする課題 近年、精密で高度な位置制御及び位置間の速度制御を備える精密プレスが望まれていた。しかしながら、従来のプレスは制御が極めて困難であった。
(1)-3 本件発明の作用効果本件発明1: モータの回転量を、直接に直線運動量に変換することで、その回転量が即、直線運動量となり、これが位置(加圧する位置)となる。これによって、その回転量にて加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を正確に制御でき、さらに位置間の加圧する速度も制御できるプレスを提供できる。
このように、本件発明1では、加圧すべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置の管理と、それぞれの位置間の加圧する速度制御が極めて正確かつ精密にできる。
本件発明2:省略 (2) 請求人(原告)の主張の概要 原告は、本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である審判甲第1号証ないし審判甲第4号証を提出して、おおよそ以下のように主張している。
審判甲第1号証には、本件発明1の構成事項A、C、D及びE並びに本件発明2の構成事項(省略)を備えるとともにパルスモータの回転量をラムの直線運動に変換する機構としてパルスモータにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した油圧サーボシリンダ装置を備えたプレスが記載されており、本件発明1及び本件発明2と審判甲第1号証記載の発明とは、モータの回転量を直線運動に変換する機構が、本件発明1及び本件発明2では、構成事項Bであるのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、パルスモータにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した油圧サーボシリンダ装置である点でのみ一応相違している。
しかしながら、審判甲第1号証には、また別に、油圧駆動シリンダを用いた油圧プレスに限らず、機械プレスに適用してもよい旨記載されており、この機械プレスは、審判甲第2〜4号証にて示されるように、電動機(モータ)の回転運動をラムの直進運動に変換するものであり、かつ審判甲第3号証にて示されるように、モータの回転運動をネジ機構によりラムの直進運動に変換する機械プレスは「スクリュープレス」の名で従来周知であるから、審判甲第1号証にまた別に記載される機械プレスに適用してもよい旨の内容は、油圧シリンダを介在させずモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機械プレス例えばスクリュープレスをも包含するものであり、本件発明1及び本件発明2と審判甲第1号証記載の発明との前記相違は、単なる表現上の相違にすぎず、実質的に同一のものであるか、又は、審判甲第1号証記載の発明に審判甲2〜4号証記載の発明を適用することにより当業者が容易になし得るところである。
したがって、本件発明1及び本件発明2についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり無効とすべきものである。
(3) 被請求人(被告)の主張の概要 被告は、審判乙第1号証を提出して審判甲第1号証の記載内容に不明個所が多いことを主張するとともに、おおよそ以下のように主張している。
本件発明1では構成事項A、B、Cが、本件発明2では構成事項(省略)が密接かつ有機的に結合して、パルスにて制御するモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換してラムの昇降量として制御することができ、さらに、本件発明1では構成事項D,Eが、本件発明2では構成事項(省略)が密接かつ有機的に結合することで、加圧するプレス条件の下でミクロンオーダーの位置制御と速度制御を任意の位置に記憶設定して、その間の速度を制御することができるところ、審判甲第1号証には構成事項A、B、C、構成事項A、B、C′、構成事項D、E及び構成事項D′、E′について記載されておらず、また、審判甲第2号証ないし審判甲第4号証には構成事項Bについて記載されているだけである。
本件発明1及び本件発明2は、審判甲第1号証記載の発明でないだけでなく、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、本件審判の請求は成り立たない。
(4) 原告提出の証拠 原告は、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証を提出した。
審判甲第1号証 特開昭58-199699号公報 審判甲第2号証 実願昭54-56053号(実開昭56-29700号)のマイクロフィルム 審判甲第3号証 実願昭53-141951号(実開昭55-60293号)のマイクロフィルム 審判甲第4号証 特開昭56-3156号公報 (5) 被告提出の証拠 被告は、下記審判乙第1号証を提出した。
審判乙第1号証 審判甲第1号証の出願(特願昭57-82864号)に対する昭和59年10月5日付け拒絶理由通知書 (6) 審判甲各号証の記載内容 (6)-1 審判甲第1号証 審判甲第1号証には、「プレス機械の制御方法」に関連して、下記の事項が記載されている。(本判決において、「予め」は「あらかじめ」と、「或は」は「あるいは」と表記する。そのほかにも、技術用語以外で公用文にならって引用箇所の表記を改めたところがある。)「プレス機械のスライド部の駆動源にパルス信号で駆動制御されるモータないしは油圧シリンダを用い、あらかじめ、プレス加工すべき被加工物を前記駆動源に適宜のパルス信号を供給してプレス作業を行うと同時に、前記スライド部のストローク位置を基準にして当該プレス作業の加圧力やストローク速度をパルス信号で検出し、前記プレス作業の作業ストロークと該ストローク時の加圧力及びストローク速度との関係を検出した後、実際のプレス作業時に、前記スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を、前記パルス信号の供給状態を任意に設定あるいは変更して制御することを特徴とするプレス機械の制御方法。」(第1頁特許請求の範囲)「本発明はプレス機械に於て、そのスライド部のストローク量,速度あるいは加圧力等を、プレスすべき材料の材質や板厚等に応じあらかじめ検知して、所望条件でスライド部を作動させるとともにその条件を任意に変更することができるプレス機械の制御方法に関するものである。」(第1頁左欄最下行〜同右欄第5行)「次に本発明の実施例を図により説明する。
1はプレス機械の駆動源として用いた油圧サーボシリンダ装置で、ここではパルス信号により作動されるパルスモータ1a及び該モータ1aに制御されるサーボ弁機構(図示せず)等を主体に構成した制御機構によってそのピストンロッド2が往復動されるようにしてある。
3は前記ロッド2の先端側に設けたポンチ、4は往復動するポンチ3に対応させて設けたダイスで、上記1〜4により本発明方法により制御される油圧プレス機を構成する。
しかして、本発明方法は上記プレス機に以下に説明するような制御系を付加して、本発明方法を用いたプレス機械に構成する。
まず、前記パルスモータ1aは、前記ロッド2ないしはポンチ3を含むスライド部のストローク量に見合ったパルス信号がそのモータ1aの回転方向指令信号と共に供給されることにより、正,逆回転させられて前記ポンチ3を上下動させるため、弁別器6を含む指令装置5に接続してある。ここで、前記ポンチ3のストローク量やその速度は、一定条件下では、前記モータ1aに供給されるパルス信号の数、あるいは、適宜単位時間当たりのパルス信号の数で定まり、また、この時のポンチ3の加圧力も前記シリンダ1の諸元と前記パルス信号によってあらかじめ設定することができる。」(第2頁左上欄第16行〜同左下欄第1行)「そこで、本発明では、プレス作業時、パルスモータ1aに供給されるパルス信号を計数するパルスカウンタ7を設け、該カウンタ7の出力と適宜発振器8から供給される時間パルスとを対応させて適宜単位時間当たりのパルス数、あるいは、適宜単位パルス数当たりの時間を表わす速度信号を時間カウンタ9で計数するようにする一方、この実施例では、ピストンロッド2に当接して設けた測長器10から供給される距離パルスを距離カウンタ11で計数するとともに、該距離パルスを前記カウンタ7の計数パルスと対応させて、適宜単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、適宜単位パルス数当たりのストローク量を表わすストローク信号をストロークカウンタ12で計数するようにし、前記速度信号、ストローク信号及びストローク量を検出部13に検出するようにしたのである。
上記構成によって、任意のプレス作業におけるスライド部のストローク量及びその速度を前記スライド部、ここではピストンロッド2の各位置において前記パルスモータ1aに供給されるパルス数で検出することができることとなる。
これを換言すれば、任意の被加工物にプレス作業を施すに当たり、本発明方法を講じたプレス機械であらかじめ前記被加工物にプレス加工を施すと、この加工時、
前記被加工物に対して作動したスライド部の状態が、ストローク位置を基準として駆動源1に実際に供給されたパルス信号を時間及びストローク量で処理した形の信号で検出部13に検出されるから、この信号に基づいて指令装置に指令パルス信号を設定すれば、残りの被加工物を任意の設定状態で作動するようにしたスライド部の動作によって均一にプレス加工を施すことができる。」(第2頁左下欄第8行〜同右下欄第19行)「また、プレスによるせん断作業は、通常ポンチが被加工物に当接する瞬間あるいは、前記ポンチが被加工物をせん断した瞬間に相当の衝撃音を発生し、問題となることが多いが、本発明方法によれば、ポンチのストローク位置によってストローク速度を任意に設定できるので、作業ストロークと被加工物の厚みを勘案し、ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、駆動源に供給するパルス信号を設定すれば、プレス加工時に発生する騒音を相当レベル低減することができ、しかも、せん断加工前後の駆動源の作動を緩慢にすることによって駆動源に不要な出力をさせないから、プレス作業を省エネルギ的に行い得る利点がある。
なお、本発明により制御できるプレス機械の駆動源は、実施例の油圧シリンダに限られず、例えば、油圧パルスモータ等を駆動源とするプレス機械に適用し得ることもちろんである。またプレス機械は機械プレス,液圧プレスのいずれであってもよい。」(第3頁左上欄第8行〜同右上欄第7行) 上記のように審判甲第1号証には「プレス機械の制御方法」として発明が記載されているが、この記載内容は、上記方法を実施する「プレス」それ自体の発明としても把握し得るものである。また、上記記載事項中には、被告もその旨主張しているように、一部不明瞭な点や具体性を欠く点が見受けられるものの、口頭審理の結果及び審判甲第1号証が頒布された当時の技術水準や技術常識等に照らしてみて、
審判甲第1号証には、次の発明が記載されていると認める。
加工物に対して昇降可能なピストンロッド2と当該ピストンロッド2の先端側に設けたポンチ3とから成るスライド部及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するパルスモータ1aを設け、
該パルスモータ1aの回転量を、パルスモータ1aにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した制御機構により作動される油圧サーボシリンダ装置1によって、スライド部を構成するピストンロッド2の直線運動に変換する機構を備え、
前記パルスモータ1aの回転量を前記スライド部の昇降量として適宜制御し、
パルスモータ1aに供給されるパルス信号を計数するパルスカウンタ7と該カウンタ7の出力と発振器8から供給される時間パルスとを対応させて単位時間当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりの時間を表わす信号を計数する時間カウンタ9と、ピストンロッド2に当接して設けた測長器10から供給される距離パルスを計数する距離カウンタ11と該距離パルスを前記カウンタ7の計数パルスと対応させて、単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量を表わすストローク信号を計数するストロークカウンタ12とにより、スライド部のストローク速度をスライド部の各ストローク位置を基準にして検出部13で検出することができるようにし、
任意の被加工物にプレス作業を施すに当たり、あらかじめ前記被加工物にプレス加工を施すことにより前記検出部13で検出される信号に基づいてパルスモータ1aに供給するパルス信号を設定することにより、スライド部のストローク位置によってスライド部のストローク速度を任意に設定できるようにするとともに前記スライド部を構成するポンチ3が被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、パルスモータ1aに供給するパルス信号を設定できるようにして、残りの被加工物を任意の設定状態で作動するようにしたスライド部の動作によって均一にプレス加工を施すことができるようにしたプレス。
(6)-2 審判甲第2号証 審判甲第2号証には、「機械式圧締装置」に関連して、下記の事項が記載されている。
「本考案の圧締装置は第1図又は第2図に示すごときものであり、第1図の実施例においては、・・・・(中略)・・・・行われる。
第2図、第3図に示す第2の実施例においては、ウォーム14とウォームホイール15とを用いるものであり、直流電動機2はユニバーサルジョイント3を介して運動変換装置4aのハウジング5aに軸承されたウォーム軸16に結合されている。
ウォーム14はウォーム軸16に連設され、ラム軸8aと同心に回転するウォームホイール15に噛合し、該ウォームホイール15に固定されているナット17とラム軸8aに連設されているボールねじ軸18との間に介在するボール18a,18aによってナット17の回転によりボール18a,18aが循環してボールねじ軸18が上下せしめられ、ラム軸8aが上下せしめられる構成となっている。」(第5頁第2行〜第6頁第14行) (6)-3 審判甲第3号証 審判甲第3号証には、「スクリュープレス」に関連して、下記の事項が記載されている。
「本考案は、簡易プレスとして知られるスクリュープレスの改良に関するものである。」(第1頁第15,16行)「以下、本考案を具体化した図示の実施例について詳述する。図において、(1)は基台、(2)は基台(1)上に立設されたフレーム、(3)は基台(1)上に載置された下型である。(4)はフレーム(2)の上側に水平部(2a)上に載置固定された正逆転可能の減速機付高トルクモータであり、その出力軸(5)にはスクリューシャフト(6)の上端部が外嵌されキー(7)により連結されている。下方に向って延在するスクリューシャフト(6)は、その上端外周に形成されたフランジ部(6a)の上下面をスラスト軸受(8)により回転可能に支持されており、そしてスクリューシャフト(6)の上端を除く外周面には比較的大きいリードのネジ(6b)が形成されている。なお、(9)はスラスト軸受(8)を支持するための軸受支えであり、フレーム(2)の上側水平部(2a)に固着されている。
一方、フレーム(2)の下側水平部(2b)には前記スクリューシャフト(6)よりも大径のプレスラム(10)が該スクリューシャフト(6)と同軸線上に整合した状態で上下動可能に貫通されかつキー(11)によって回り止めされている。
プレスラム(10)の上端外周にはスクリューシャフト(6)のリードよりも小さいリードのネジ(10a)形成されており、またプレスラム(10)の下端部には上型(12)が取付けられている。しかして、スクリューシャフト(6)とプレススラム(10)とは、スクリューシャフト(6)のネジ(6b)に対応するネジ(13a)を上端内周に有し、プレスラム(10)のネジ(10a)と対応するネジ(13b)を下端内周に有した筒状のネジアダプター(13)によって連結されている。」(第2頁13行〜第4頁第1行) (6)-4 審判甲第4号証 審判甲第4号証には、「圧入装置」に関連して、下記の事項が記載されている。
「本発明は、圧入用ラムの前進後退を電気モータによって行うようにした圧入装置に関する。」(第1頁左欄第18,19行)「前記圧入へツド取付部13aには、第2図に示すように、圧入ラム15の上端に形成された雌螺子15aに螺合する送り螺子17がベアリング18によって軸承されており、この送り螺子17は歯車19,20を介してモータSM2の出力軸に連結されている。また、圧入ラム15の後端部には、圧入へツド取付部13aと圧入ヘッド本体16との間に圧入ラム15と平行に装架されたガイドバー22に摺動可能に案内された固定ブロック23が取付けられ、圧入ラム15の回転を阻止している。したがって、モータSM2が回転すると、圧入ラム15は回転することなしに軸方向に進退する。」(第2頁左上欄第12行〜同右上欄第3行)「第8図は上記構成の圧入装置によって圧入動作を自動的に行わせる制御回路を示し、テープリーダTRを介して読込まれる数値制御指令データに応じた位置決め指令パルスを分配する数値制御装置80と、この数値制御装置80から出力される指令パルスに応じてモータSM1,SM2を回転させる駆動回路81と、数値制御装置80から出力されるMコードのデータを解読するデコーダ82と、数値制御装置80から出力されたMコードが加圧の開始を指令するMIである場合には、第9図に示すように、ソレノイドSOL2を無勢してソレノイドSOL3を付勢し、この後、所定時間t経過後にソレノイドSOL1を付勢する制御を行い、数値制御装置80から出力されたMコードが加圧の停止を指令するM2である場合には、ソレノイドSOL1,SOL3を無勢してソレノイドSOL2を付勢する制御を行う加圧制御回路83とから構成されている。」(第3頁右下欄第10行〜第4頁左上欄第6行) (7) 本件発明1についての対比 本件発明1と審判甲第1号証記載の発明とを対比すると、審判甲第1号証記載の発明の「ピストンロッド2と当該ピストンロッド2の先端側に設けたポンチ3とから成るスライド部」及び「パルスモータ1a」は、それぞれ本件発明1の「ラム」及び「モータ」に相当する。
したがって、本件発明1と審判甲第1号証記載の発明とは、
A 被加工物に対して昇降可能なラム及び回転量を数値制御することができるパルスにて制御するモータを設け、
B′該モータの回転量を直線運動に変換する機構を備え、
C 前記モータの回転量を前記ラムの昇降量として適宜制御するプレス。
である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点1: モータの回転量を直線運動に変換するために、本件発明1では、構成事項Bの機構を備えているのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、パルスモータにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した制御機構により作動される油圧サーボシリンダ装置を備えている点。
相違点2: 本件発明1は、構成事項D及び構成事項Eを備えているのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、
また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるようにモータに供給するパルス信号を設定するとともにスライド部のストローク位置によってスライド部のストローク速度を任意に設定できるようにしている点。
(8) 本件発明2についての対比 (省略) (9) 本件発明1についての審決の判断相違点1について: 審判甲第1号証第3頁右上欄第6,7行には「プレス機械は機械プレス・・・・であってもよい。」ことが記載されており、また、プレスないしそれに類似した圧入・圧締装置において、モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備えることは、被告もその旨認めているように審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に示されており従来周知の事項であることから、モータの回転量を直線運動に変換するために、審判甲第1号証記載の発明におけるモータにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した制御機構により作動される油圧サーボシリンダ装置に代えてモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用することは、そのことだけをみると格別の困難性がないかのようにみえる。
しかしながら、審判甲第1号証記載の発明においては、上記(6)-1に示されるように、一定条件下の場合を除いて単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、
単位パルス数当たりのストローク量が可変であるものを前提として、ストロークカウンタ12により計数されるこの単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、
単位パルス数当たりのストローク量を表わす信号と時間カウンタ9により計数される単位時間当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりの時間を表わす信号とによりスライド部のストローク速度をスライド部の各ストローク位置を基準にして検出部13で検出し、この検出信号に基づいてパルスモータ1aに供給するパルス信号を設定するように構成されているところ、パルスモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を備えるものにあっては、その構造からみて原理的に単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が一定であると考えられ、スライド部のストローク速度は、単位時間当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりの時間によって一義的に決定されることとなるので、審判甲第1号証記載の発明において、上記油圧サーボシリンダ装置に代えてモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用した場合には、その余の構成をどのようにすれば審判甲第1号証記載の発明の「任意の被加工物にプレス作業を施すに当たり、本発明方法を講じたプレス機械であらかじめ前記被加工物にプレス加工を施すと、この加工時、前記被加工物に対して作動したスライド部の状態が、ストローク位置を基準として駆動源1に実際に供給されたパルス信号を時間及びストローク量で処理した形の信号で検出部13に検出されるから、この信号に基づいて指令装置に指令パルス信号を設定すれば、残りの被加工物を任意の設定状態で作動するようにしたスライド部の動作によって均一にプレス加工を施すことができる。」という作用効果を得ることができるのか不明であり、また、審判甲第1号証には、上記したようにプレス機械は機械プレスであってもよい旨記載されているものの、機械プレスとした場合の具体的構成については何ら記載されていない。
そして、審判甲第1号証記載の発明において単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が可変であるということは、駆動源が上記油圧サーボシリンダ装置であることに起因すると考えられること、また、審判甲第1号証には、駆動源として上記油圧サーボシリンダ装置を用いたもののほかには具体的構成が記載されていないことからみて、審判甲第1号証記載の発明にあっては、駆動源として上記油圧サーボシリンダ装置を採用することが、その発明の構成に欠くことができない必須の事項であると考えられる。
そうしてみると、モータの回転量を直線運動に変換するために、審判甲第1号証記載の発明の上記油圧サーボシリンダ装置に代えて、モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用することは、当業者が容易に想到できる事項であるとはいえない。
相違点2について: 原告は、審判甲第1号証記載の発明の「ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、パルスモータ1aに供給するパルス信号を設定」するにおける、ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高めるように設定される点、及び被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように設定される点が、それぞれ構成事項Dの「加圧力を加えるべき加圧点」及び「加圧を終了させる定位置停止点」に相当する旨主張している。
しかしながら、モータに供給するパルス信号に関して、審判甲第1号証には、上記のようにパルス信号を設定するという外には、検出部で検出される信号に基づいて指令パルス信号を設定する旨記載されているだけであって、具体的にどのようにして「ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、パルスモータ1aに供給するパルス信号を設定」するのか十分に開示されておらず、加圧力を急速に高めるのは、「ポンチが被加工物に当接すると同時」であり、また、加圧力を弱めるのは、「被加工物を打ち抜く瞬間」であることからみて、それぞれ加圧力を高める時点及び加圧力を弱める時点を設定しているとも考えられ、加圧力を高める点及び加圧力を弱める点をラムの移動位置として記憶設定しているのか否か定かでない。
また、「加圧力を弱める」ことは、普通に解釈すれば文字どおり加圧力を減ずることを意味し、「加圧を終了させる」ことには一義的に対応しないだけでなく、
「加圧力を弱めるように設定される点」は、口頭審理において原告も認めているように「定位置停止点」ではない。
そうしてみると、審判甲第1号証には構成事項Dが記載されているということはできない。
また、構成事項Eは、構成事項Dで記憶設定された位置間の速度を制御することをその内容とするものであるから、構成事項Dが審判甲第1号証に記載されていない以上審判甲第1号証記載の発明がスライド部のストローク位置によってスライド部のストローク速度を任意に設定できるようにしているものであったとしても、構成事項Eが審判甲第1号証に記載されているということはできない。
さらに、審判甲第2号証ないし審判甲第4号証にも、構成事項D及び構成事項Eについて何ら記載されておらず示唆もされていない。
したがって、審判甲第1号証記載の発明は、本件発明1の構成事項D及び構成事項Eを備えているとはいえず、また、これらの構成事項は、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証記載の発明をどのように組み合わせてみても得ることはできない。
(10) 本件発明2についての審決の判断 (省略) (11) 本件発明1及び本件発明2の効果についての審決の判断 そして、本件発明1及び本件発明2は、それぞれその要旨とする構成を備えることにより、(1)-3に示す作用効果を奏すものである。
したがって、本件発明1及び本件発明2は、審判甲第1号証記載の発明ということができないだけでなく、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることもできない。
(12) 審決のむすび 以上のように、原告が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1及び本件発明2についての特許を無効とすることはできない。
原告主張の本件発明1に関する審決取消事由
1 取消事由1(相違点1についての認定判断の誤り) (1) 審決は、「モータの回転量を直線運動に変換するために、本件発明1では、
構成事項Bの機構を備えているのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、パルスモータにより制御されるサーボ弁機構等を主体に構成した制御機構により作動される油圧サーボシリンダ装置を備えている点。」を相違点1と認定した上で、「モータの回転量を直線運動に変換するために、審判甲第1号証記載の発明の上記油圧サーボシリンダ装置に代えてモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用することは、当業者が容易に想到できる事項であるとはいえない。」と判断したが、誤りである。
(2) 審決は上記判断に当たり、審判甲第1号証記載の発明について、「一定条件下の場合を除いて単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が可変であるものを前提として」とし、「可変であるということは、駆動源が上記油圧サーボシリンダ装置であることに起因すると考えられる」と認定したが、パルスモータのパルスとモータ回転量の関係を誤解し、あるいは油圧サーボシリンダ装置の動きを誤解したものである。
審判甲第1号証記載の発明の油圧サーボシリンダ装置においても、本件発明1の「ネジ機構」においても、単位パルス数当たりのストローク量は一定である。ただ、負荷がある場合には、パルスを入力した際に、その負荷の大きさに応じた遅れが生じるだけのことである。このことは、例えば石川島播磨重工業株式会社の「電気油圧ステッピングシリンダ」資料(甲第8号証)に、パルスモータの回転量によりボールねじを移動させ、それによって油圧シリンダを作動させてピストンロッドを動かす装置が開示され(第3頁)、「移動量はパルスの数で、速度はパルスの周波数で制御します。」(第2頁第5行)、「1パルス当たりの移動量(分解度)が10μm」(第2頁第8行)、「速度は指令パルスの周波数で決まります」(第2頁第10行)、及び「標準は10μmですが、1μm〜100μmの範囲で製作可能です」(第2頁第11〜12行)と記載されていることから明らかである。すなわち、審判甲第1号証に「パルスモータ1aは、・・・スライド部のストローク量に見合ったパルス信号がそのモータ1aの回転方向指令信号と共に供給される」(第2頁右上欄第10〜13行)、及び「前記ポンチのストローク量やその速度は、一定条件下では、前記モータ1aに供給されるパルス信号の数、あるいは、適宜単位時間当たりのパルス信号の数で定まり」(第2頁右上欄第16〜19行)との記載にあるとおり、審判甲第1号証記載の発明では、スライド部のストローク量に見合ったパルス信号によりポンチのストローク量が定まるのであって、このことは、パルスモータ1aに油圧サーボシリンダを装着しても何ら変わらない。そして、審判甲第1号証記載の発明の実施例では、負荷が実質的に掛かる「実際のプレス作業」においては、被加工物の厚さや材質等で要する加圧力やストローク時間の差異があっても、単位パルス数当たりのストローク量は最終的には変わらないが、
その達成に負荷による遅れが生ずるため、パルスカウンターその他の構成によって、この遅れの調整を行っているのである。
したがって、審判甲第1号証記載の発明において、モータの回転運動を直線運動に変えている油圧サーボシリンダ装置に代えて、モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用することと、パルスないしストロークは無関係なのであり、審判甲第1号証記載の発明の油圧サーボシリンダ装置に代えて本件発明1の「ネジ機構」を採用する阻害要因は存しない。そして、審決も認めるように「ネジ機構」は公知であったから(甲第5〜7号証)、油圧サーボシリンダ装置に代えて「ネジ機構」を採用することは単なる設計変更にすぎない。
2 取消事由2(相違点2についての認定判断の誤り) (1) 審決は、「本件発明1は、構成事項D及び構成事項Eを備えているのに対して、審判甲第1号証記載の発明では、ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるようにモータに供給するパルス信号を設定するとともにスライド部のストローク位置によってスライド部のストローク速度を任意に設定できるようにしている点」を相違点2と認定した上で、「審判甲第1号証には構成事項Dが記載されているということはできない。」、「構成事項Eが審判甲第1号証に記載されているということはできない。」とし、「審判甲第1号証記載の発明は、本件発明1の構成事項D及び構成事項Eを備えているとはいえず、また、これらの構成事項は、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証記載の発明をどのように組み合わせてみても得ることはできない。」と判断したが、誤りである。
(2) まず構成事項Dは、「・・・ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧力を終了させる定位置停止点を含む複数位置を記憶設定」することであるが、パルスモータを駆動源とするプレス機械においては、ラムを下降させ対象物に接するとラムを加圧してラムを下降させることにより圧入等を行い、
対象物の所望の加圧変更等が終了すれば加圧を終了させることは当たり前の事柄である。そして、審判甲第1号証には、特許請求の範囲中に「あらかじめ、プレス加工すべき被加工物を・・・適宜のパルス信号を供給してプレス作業を行うと同時に、前記スライド部のストローク位置を基準にして当該プレス作業の加圧力やストローク速度をパルス信号で検出し、前記プレス作業の作業ストロークと該ストローク時の加圧力及びストローク速度との関係を検出した後、実際のプレス作業時に、・・・」(第1頁左下欄第7〜14行)との記載があり、これによれば実際にプレス作業をして、データを検出・記憶しておいて、その後のプレス作業では、そのデータを修正して使用するということは明らかである。
したがって、審判甲第1号証記載の「ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め・・・駆動源(パルスモータ)に供給するパルス信号を設定」(第3頁左上欄第14〜15行、17行)は、本件発明1の構成事項Dにいう「任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点」を定めることと実質的に変わりはない。同様に、審判甲第1号証記載の「被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、・・・駆動源(パルスモータ)に供給するパルス信号を設定」(第3頁左上欄第15〜17行)は、同構成事項Dの「任意の位置に・・・加圧を終了させる定位置停止点」を定めて加圧力を調節しているのと実質的に変わりはない。
(3) 加圧力を弱めるように設定される点が「定位置停止点」と全く同義であるかは、形式的には議論の余地があるかもしれない。しかし、作業が終了した時点でスライドを元の位置に戻さなければ次の作業ができないので、審判甲第1号証記載の発明においても定位置停止点が存在するのは自明であり、ストローク時の加圧力等を制御しているから、構成事項Dが審判甲第1号証に記載されていないことの理由となるものではない。
本件発明1の構成事項Dと審判甲第1号証記載の発明の加圧力の設定、調整は、
用いられている文言が異なるのみで、その内容に実質的差異はない。両者が同一でないとしても、当業者にとって、審判甲第1号証の開示から本件発明1の構成事項Dを推考するのは容易である。
(4) 審決は、「構成事項Dが甲第1号証に記載されていない以上・・・、構成事項Eが審判甲第1号証に記載されているということはできない。」と認定判断したが、構成事項Dについての認定判断が誤りである以上、それを根拠とする、構成事項Eについての認定判断も誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して 審判甲第1号証には、「実際のプレス作業は、同一内容の作業でも被加工物の厚さや材質などで要する加圧力やストローク時間等が異なり、また、同一材質の被加工物でもプレス作業の種類によって加工力や加圧力の出力パターン、あるいは、ストローク量などがことごとく異なる。そこで、本発明では、プレス作業時、・・・プレス加工を施すことができる。」(第2頁左下欄第2行〜右下欄第19行)との記載があり、この記載は「一定条件の下では、・・・設定することができる。」(第2頁右上欄第17行〜左下欄第1行)に対応するものであって、実質的に、単位パルス数当たりのストローク量が可変であることを示す。したがって、審判甲第1号証記載の発明を「一定条件下の場合を除いて単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が可変であるものを前提として」いるとした審決の認定に誤りはない。
原告は、石川島播磨重工業(株)の「電気油圧ステッピングシリンダ」資料(甲第8号証)に基づき、「油圧サーボシリンダ装置においても、・・・単位パルス数当たりのストローク量は一定である」と主張するが、甲第8号証の「電気油圧ステッピングシリンダ」において単位パルス数当たりのストローク量が一定だとすると、
審判甲第1号証記載の発明と一致しないから、甲第8号証に記載のところは、審判甲第1号証記載の発明の「油圧サーボシリンダ装置」とは無縁のものである。
2 取消事由2に対して (1) 原告は、審判甲第1号証記載の発明について「実際にプレス作業をして、データを検出・記憶しておいて、その後のプレス作業では、そのデータを修正して使用する」と主張するが、その「データ」も「記憶」も原告が独自に想像をするだけであって、審判甲第1号証には明確な記載がない。このため、「『ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、パルスモータ1aに供給するパルス信号を設定』するのか十分に開示されておらず、」との審決の判断に誤りはない。
また、本件発明1の構成事項Dの「前記ラムが下降する方向の任意の位置に加圧力を加えるべき加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定」することは、あくまで加圧状態に関する複数の位置であるが、審判甲第1号証に記載の「当接すると同時に加圧力を急速に高め」も「打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱める」もそれぞれの「時点」の「加圧力」の話であって、本件発明1の加圧に関する位置の速度に関連するものではない。審判甲第1号証には「スライド部のストローク位置によってスライド部のストローク速度を任意に限定できるようにする」との審決認定の記載はあるが、これは速度一般について述べているだけであって、加圧に関する任意の位置についての速度を述べたものではない。
したがって、「加圧力を高める時点及び加圧力を弱める時点を設定しているとも考えられ、加圧力を高める点及び加圧力を弱める点をラムの移動位置として記憶設定しているのか否か定かでない。」との審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、定位置停止点について、「作業が終了した時点でスライドを元の位置に戻さなければ次の作業ができないのであるから、審判甲第1号証記載の発明においても定位置停止点が存在するのは自明であり」と主張するが、定位置停止点が加圧に関する位置であることは前述のとおりであるところ、「元の位置に戻さなければならない」との点は加圧とは無縁の作業位置である。この加圧とは無関係の位置を捉えて、審判甲第1号証記載の発明においても定位置停止点が存在するのは自明であるということはできない。したがって、「『加圧力を弱めるように設定される点』は、口頭審理において請求人も認めているように『定位置停止点』ではない。」とした審決の認定に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 甲第4号証によれば、審判甲第1号証には、以下の@〜Dの記載のあることが認められる。
@「本発明は・・・スライド調整はもちろんのことストローク速度や加圧力を任意に設定あるいは変更してこれらを制御することができるプレス機械の制御方法を提供することを目的としてなされたもので、その構成はプレス機械のスライド部の駆動源にパルス信号で駆動制御されるモータないしは油圧シリンダを用い、あらかじめ、プレス加工すべき被加工物を前記駆動源に適宜のパルス信号を供給してプレス作業を行うと同時に、前記スライド部のストローク位置を基準にして当該プレス作業の加圧力やストローク速度をパルス信号で検出し、前記プレス作業の作業ストロークと該ストローク時の加圧力及びストローク速度との関係を検出した後、実際のプレス作業時に、前記スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を、前記パルス信号の供給状態を任意に設定あるいは変更して制御することを特徴とするものである。」(第1頁右下欄第17行〜第2頁左上欄第15行) A「パルスモータ1aは、前記ロッド2ないしはポンチ3を含むスライド部のストローク量に見合ったパルス信号がそのモータ1aの回転方向指令信号と共に供給されることにより、正,逆回転させられて前記ポンチ3を上下動させる・・・ポンチ3のストローク量やその速度は、一定条件下では、前記モータ1aに供給されるパルス信号の数、あるいは、適宜単位時間当たりのパルス信号の数で定まり、また、この時のポンチ3の加圧力も前記シリンダ1の諸元と前記パルス信号によってあらかじめ設定することができる。」(第2頁右上欄第10行〜左下欄第1行) B「実際のプレス作業は、同一内容の作業でも被加工物の厚さや材質などで要する加圧力やスライド部のストローク時間等が異なり、また、同一材質の被加工物でもプレス作業の種類によって加工力や加圧力の出力パターン、あるいは、ストローク量などがことごとく異なる。」(第2頁左下欄第2〜7行) C「そこで、本発明では、プレス作業時、パルスモータ1aに供給されるパルス信号を計数するパルスカウンタ7を設け、・・・ピストンロッド2に当接して設けた測長器10から供給される距離パルスを距離カウンタ11で計数するとともに、
該距離パルスを前記カウンタ7の計数パルスと対応させて、適宜単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、適宜単位パルス数当たりのストローク量を表わすストローク信号をストロークカウンタ12で計数するようにし、前記速度信号、ストローク信号及びストローク量を検出部13に検出するようにしたのである。上記構成によって、任意のプレス作業におけるスライド部のストローク量及びその速度を前記スライド部、ここではピストンロッド2の各位置において前記パルスモータ1aに供給されるパルス数で検出することができることとなる。これを換言すれば、
任意の被加工物にプレス作業を施すに当たり、本発明方法を講じたプレス機械であらかじめ前記被加工物にプレス加工を施すと、この加工時、前記被加工物に対して作動したスライド部の状態が、ストローク位置を基準として駆動源1に実際に供給されたパルス信号を時間及びストローク量で処理した形の信号で検出部13に検出されるから、この信号に基づいて指令装置に指令パルス信号を設定すれば、残りの被加工物を任意の設定状態で作動するようにしたスライド部の動作によって均一にプレス加工を施すことができる。」(第2頁左下欄第8行〜右下欄第19行) D「本発明により制御できるプレス機械の駆動源は、実施例の油圧シリンダに限られず、例えば、油圧パルスモータ等を駆動源とするプレス機械に適用し得ることもちろんである。またプレス機械は機械プレス,液圧プレスのいずれであってもよい。」(第3頁右上欄第3〜7行) (2) これらの記載によると、審判甲第1号証記載の発明は、「ストローク速度や加圧力を任意に設定あるいは変更してこれらを制御すること・・・を目的としてなされた」(記載@)ものであり、「実際のプレス作業時に、・・・スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を、・・・パルス信号の供給状態を任意に設定あるいは変更して制御する」(記載@)プレス機械である。そして、ストローク位置を基準にして作動時のストローク速度等を制御するには、ストローク位置を検出する必要があるところ、「ストローク・・・速度は、一定条件下では、・・・単位時間当たりのパルス信号の数で定ま」(記載A)るのであるが、「実際のプレス作業は、同一内容の作業でも被加工物の厚さや材質などで・・・スライド部のストローク時間等が異なり、また、同一材質の被加工物でもプレス作業の種類によって加工力や加圧力の出力パターン、あるいは、ストローク量などがことごとく異なる」(記載B)ため、「プレス作業時、パルスモータ1aに供給されるパルス信号を計数するパルスカウンタ7を設け、・・・ピストンロッド2に当接して設けた測長器10から供給される距離パルスを距離カウンタ11で計数するとともに、該距離パルスを前記カウンタ7の計数パルスと対応させ」(記載C)て、「任意のプレス作業におけるスライド部のストローク量及びその速度を前記スライド部、ここではピストンロッド2の各位置において前記パルスモータ1aに供給されるパルス数で検出することができる」(記載C)ようにし、「任意の被加工物にプレス作業を施すに当たり、本発明方法を講じたプレス機械であらかじめ前記被加工物にプレス加工を施すと、この加工時、前記被加工物に対して作動したスライド部の状態が、ストローク位置を基準として駆動源1に実際に供給されたパルス信号を時間及びストローク量で処理した形の信号で検出部13に検出されるから、この信号に基づいて指令装置に指令パルス信号を設定すれば、残りの被加工物を・・・スライド部の動作によって均一にプレス加工を施すことができる」(記載C)ようにしたものと認められる。
すなわち、審判甲第1号証記載の発明の目的が、ストローク位置を基準としてストローク速度等を制御することにあることは明らかであり、実施例においては、被加工物の厚さや材質及びプレス作業の種類によって、ストローク量やその速度がパルス信号の数で必ずしも定まらないゆえ、あらかじめパルス信号の数とストローク量との関係を検出しておくというものである。
(3) 負荷がある場合はその負荷に応じてストローク量に遅れが生じることは自明の理であるところ、その遅れ分はパルス信号数とストローク量に乖離を生じるのであり、プレス作業中においてストローク量及びその速度が、パルス信号数のみによってプレス作業及び被加工物の種類によらず定まるのであれば、ストローク量及びその速度を「ピストンロッド2の各位置において」検出する必要がなく、審判甲第1号証記載の発明においては、「単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、
単位パルス数当たりのストローク量が可変である」ということができる。この点において、審判甲第1号証記載の発明においても、単位パルス信号当たりのストローク量が一定であるとする原告の主張は、その点に関する限り理由がない。しかしながら、審判甲第1号証記載の発明においては、そのための解決手段として、あらかじめパルス信号の数とストローク量との関係を検出しておくという構成を採用したものであるところ、審判甲第1号証記載の発明は「単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が可変である」ことを積極的に用いた発明ではなく、「単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が可変である」場合にも、ストローク位置を基準としてストローク速度等を制御することができるようにした発明と解すべきである。
したがって、「審判甲第1号証記載の発明において単位ストローク量当たりのパルス数、あるいは、単位パルス数当たりのストローク量が可変であるということは、駆動源が上記油圧サーボシリンダ装置であることに起因する」との点は審決の認定のとおりであるとしても、「審判甲第1号証記載の発明にあっては、駆動源として上記油圧サーボシリンダ装置を採用することがその発明の構成に欠くことができない必須の事項であると考えられる。」との審決の認定は誤りである。ここにおいては、「審判甲第1号証記載の発明にあっては、駆動源として油圧サーボシリンダ装置を採用しても、実現可能な発明である」と認めるべきものであり、「駆動源として油圧サーボシリンダ装置を採用すること」は「発明の構成に欠くことができない必須の事項である」ということはできない。審判甲第1号証には「プレス機械の駆動源は、実施例の油圧シリンダに限られず、例えば、油圧パルスモータ等を駆動源とするプレス機械に適用し得ることもちろんである。またプレス機械は機械プレス,液圧プレスのいずれであってもよい。」(記載D)との記載があり、この記載も上記のことを裏付ける。
(4) よって、審判甲第1号証記載の発明において、モータの回転運動を直線運動に変えている油圧サーボシリンダ装置に代えて、モータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用することと、パルスとストロークは無関係であるとする原告の主張は理由があり、上記の誤った認定に基づいてした「審判甲第1号証記載の発明の上記油圧サーボシリンダ装置に代えてモータの回転量をネジ機構にて直接直線運動に変換する機構を採用することは、当業者が容易に想到できる事項であるとはいえない。」との審決の判断も誤りに帰する。
2 取消事由2について (1) 審判甲第1号証には、前記@〜Dの記載に加えて、
甲第4号証によれば、E「本発明方法によれば、ポンチのストローク位置によってストローク速度を任意に設定できるので、作業ストロークと被加工物の厚みを勘案し、ポンチが被加工物に当接すると同時に加圧力を急速に高め、また被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱めるように、駆動源に供給するパルス信号を設定すれば、プレス加工時に発生する騒音を相当レベル低減することができ、しかも、せん断加工前後の駆動源の作動を緩慢にすることによって駆動源に不要な出力をさせないから、プレス作業を省エネルギ的に行い得る利点がある。」(第3頁左上欄第11行〜右上欄第2行)との記載があることが認められる。
(2) 審判甲第1号証記載の発明は、「ストローク位置によってストローク速度を任意に設定」(記載E)するものであり、そのために「あらかじめ前記被加工物にプレス加工を施す」(記載C)ことにより、「スライド部のストローク量及びその速度を前記スライド部、ここではピストンロッド2の各位置において前記パルスモータ1aに供給されるパルス数で検出することができる」(記載C)のであるから、あらかじめ被加工物にプレス加工を施した際のパルス数とストローク量との関係は、当然記憶されているものと認められる。被告は、記憶することは審判甲第1号証に明確な記載がない旨主張するが、あらかじめの作業において記憶させないのであれば、同作業を行う理由がないし、その後の作業において、スライド部のストローク量及びその速度をパルス数で検出することはできないから、被告の主張は理由がない。
そうすると、記載Eの「ポンチが被加工物に当接すると同時に」とは、ポンチが被加工物に当接するまでスライド部が移動するのに必要なパルス数を計数した段階で、との意味であり、直接的にはパルス数で設定しているものの、ストローク量に対応したパルス数として設定しているのであるから、ストローク量、すなわち、本件発明1におけるラムの移動位置として設定しているともいうことができるのであり、この段階で加圧力を急速に高めるので、その設定位置は本件発明1の「加圧点」と同視できるものである。したがって、「加圧力を高める点・・・をラムの移動位置として記憶設定しているのか否か定かでない」とした審決の認定は誤りである。
被告は、審判甲第1号証に記載の「当接すると同時に加圧力を急速に高め」は、
加圧に関する位置の速度に関連するものではないと主張するが、審判甲第1号証記載の発明は「スライド部のストローク位置を基準にして作動時の加圧力やストローク速度を、・・・任意に設定あるいは変更して制御する」(記載@)のであり、ストローク位置を基準にして当接時であることを検出しているのであるから、当接位置を記憶設定していること、及びその位置がストローク速度の制御にも用いられることは明らかであるから、被告の主張は理由がない。
(3) 一方、記載Eの「被加工物を打ち抜く瞬間に前記加圧力を弱める」との記載が、必ずしも加圧を終了して停止することを意味するものでないことは明らかであり、審判甲第1号証記載の発明の実施例がポンチによる打抜作業であることからみても、打抜き後ある程度ポンチは移動すると解するのが自然である。しかしながら、その場合であっても、打ち抜いた後は、適宜の位置で移動を停止することが合理的であることは自明であるし、「駆動源に不要な出力をさせないから、プレス作業を省エネルギ的に行い得る」(記載E)との記載に照らしても、適宜の位置にて停止するものと解すべきであり、その停止位置も当然ストローク量に対応したパルス数として記憶設定すべきものである。まして、審判甲第1号証記載の発明はその実施例の打抜作業だけでなく、任意のプレス作業を対象とするものであり、本件明細書に例示されている圧入作業では、スライド部が過剰に移動しては不都合であることも自明というべきであるから、定位置停止点を記憶設定することは、プレス作業の種類に応じての設計事項というべきであって、これを困難ならしめる要因は存在しないもの認められる。したがって、「審判甲第1号証には構成事項Dが記載されているということはできない。」との審決の認定は、定位置停止点が記憶設定されていないとの限度においては必ずしも誤りではないが、審判甲第1号証の記載及びプレス作業における技術常識を勘案すれば、当業者が構成事項Dに想到することは容易であったといわざるを得ない。
(4) また、審判甲第1号証記載の発明が、「スライド部のストローク位置を基準にして・・・ストローク速度を・・・制御する」ものであり、構成事項Dに係る本件発明1の構成、すなわち「加圧点と加圧を終了させる定位置停止点とを含む複数位置を記憶設定」することが当業者にとって想到容易である以上、当該記憶設定された位置間の速度を制御するとの構成事項Eに係る構成も想到容易であることは必然というべきである。
そうすると、「本件発明1の構成事項D及び構成事項E・・・は、審判甲第1号証ないし審判甲第4号証記載の発明をどのように組み合わせてみても得ることはできない。」との審決の判断も誤りである。
(5) よって、相違点2に係る審決の認定判断は誤りであるから、取消事由2も理由がある。
結論
以上のとおり、取消事由1、2はいずれも理由があり、審決は相違点1、2に関する判断を誤ったものである。この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから、審決中請求項第1項に関する部分は取り消されるべきである。
(平成14年6月4日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利