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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ネ5355特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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平成12ネ125特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  加工 /  構成要件 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 / 
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事件 平成 13年 (ネ) 4731号 特許権侵害差止請求控訴事件
控訴人 春日製紙工業株式会社
訴訟代理人弁護士 横山寛
同 田倉整復代理人弁護士 横山徹
補佐人弁理士 岩堀邦男
被控訴人 丸富製紙株式会社
訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同 鷹見雅和
補佐人弁理士 福田武通
同 福田賢三
同 福田伸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 原判決を取り消す。
被控訴人は原判決別紙物件目録1記載の装置を使用してはならない。
訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は、特許第2136894号の特許権(発明の名称「芯なしトイレットペーパーロールの製造装置」、以下この発明を「本件発明」という。)を有する控訴人(原告)が、被控訴人(被告)に対し、被控訴人が業として使用している芯なしトイレットペーパーロールの製造装置(被告装置)は本件特許権を侵害するものであると主張し、被告装置の使用の差止めを求める事案であり、原判決は、控訴人の請求を棄却した。
本件の争いのない事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、当審における控訴人の主張を次のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」のとおりである。
1 控訴人の主張1(構成要件Aの充足性) (1) 本件発明の構成要件Aにいう「巻軸表面に仮接着」とは、「濡れたトイレットペーパーが巻軸に巻かれると張りつく状態」を表現したものであり、原判決の認定のように「水分によりペーパーが巻軸に張り付いているために、トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることができないか、又は、無理に抜き取るとロール形状が崩れて、製品として使いものにならなくなる状態」(原判決8頁2行ないし4行)を意味するものではない。
芯なしトイレットペーパーを製造する際に、巻取初期において水を噴霧することでトイレットペーパーの最内層部を巻軸に「仮接着」することは、仮の筒芯部(ほぐれにくいようにした芯部)を成形するための極めて重要な要素である。構成要件Aの「仮接着」は、仮の筒芯部を形成するために水を噴霧したとき、濡れたトイレットペーパーが巻軸に張り付く状態を意味しているのであり、このことは、本件明細書に「【発明が解決しようとする課題】本発明者は芯なしトイレットペーパーロールを製造するため、ウエブを巻軸に巻付ける当初に水を噴霧して、ウエブと巻軸及びウエブの初期巻取層を仮接着させることを提案している(特開平4-209156号公報)。この製法によれば、・・・問題があった。本発明は、かかる事情に鑑み、巻取り完了後の巻軸とペーパーロールの分離が円滑に行え、ロール形状が崩れずにきれいに仕上がる芯なしトイレットペーパーロールの製造装置を提供することを目的とする。」と記載され、ロール形状をしっかり保たせることが発明の課題とされていることに照らしても明らかである。
トイレットペーパーロールから巻軸を無理なく抜き取る方法については、本件発明の特許出願(平成4年11月26日)よりはるか以前から、@収縮可能なエアーシャフト巻軸の装着、A巻軸にフッ素樹脂のような滑り性のよいテープを巻き付けるか、そのコート加工をする、Bシリコンのような滑り性のよい液体を巻軸に噴霧する等の種々の考案がされているのであるから、「ペーパーを巻軸に仮接着されたトイレットペーパーロールから無理なく巻軸を抜き取るために、それを乾燥させるための保存設備」を設ける必要性などは全くないのであって、「無理なく抜き取れる」ことと「仮接着していない」こととを対応させて、「仮接着」とは「抜き取ることができないか、又は無理に抜き取るとロール形状が崩れて、製品として使いものにならなくなる状態」と解した原判決は、「仮接着」の解釈を誤ったものである。 (2)被告装置では、原反ロールから繰り出されたトイレットペーパーを、その端始から水を噴霧して巻軸表面に張り付かせているから、構成要件Aにおける「仮接着」の要件を充足する。
また、被告装置では、巻軸が予め加熱されているので、巻取り工程中にこれに接しているペーパーロール中の水分の蒸発が生じ、巻取り直後の巻軸の抜き取りが不可能とはいえない状況になっているが、巻取り直後に巻軸を抜き取ったペーパーロールは、筒芯となるべき内層部分に「形崩れ」が生じて製品として使いものにならない状態となるから、この点からも「仮接着」しているということができる。
2 控訴人の主張2(構成要件Bの充足性) (1)原判決は、「『水が乾燥するに必要な時間保存』(構成要件B)とは、水分の乾燥によって上記の状態(注、原判決認定の「仮接着」状態)が解消されて、
トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができるようになるまで保存することを意味し、『保存設備』(構成要件B)は、このような保存のための設備を意味するものと解される。」(原判決8頁6から9行)と認定したが、誤りである。
本件発明は、トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることのみを目的としているのではなく(この課題は既に解決済みであり、本件明細書中にも「後の抜取り工程の容易さを考慮すると、・・・エアーシャフトを用いるのが好ましい。」として、抜き取り時の問題を解決する手段が記載されている。)、「ロールの形状を紙管つきのロール同様にしっかりと保たせる」(本件明細書2欄11、12行)という「形崩れ」防止を目的としているのであって、「水が乾燥するに必要な時間保存」とは、水を噴霧したロールから巻軸を円滑に抜き取ることができるようになるまで保存するのみではなく、ロール形状が崩れずにきれいに仕上がるまで保存することを意味する。また、「保存設備」とは、「ロール形状が崩れずにきれいに仕上がるまで」の間、保存する設備である。本件発明で保存設備を設ける真の目的は、水が含まれていることから生ずる「形崩れ」を防止して、トイレットペーパーロールの芯部分を成形することにある。
(2)被告装置は、軸を装着したままで送り込まれたトイレットペーパーロールを、水分が乾燥しロール形状が崩れずにきれいに仕上がるまでの間、加熱状態で保存しておく加熱成形装置を備えているから、構成要件Bを充足する。加熱成形装置は「保存設備」に加熱手段を付加したものにすぎず、トイレットペーパーロールの芯部分を成形するための装置であるという点において、まさに「保存装置」に他ならない。
当裁判所の判断
1 被告装置の構成等 (1)被告装置の構成が原判決5頁末行ないし6頁8行の摘示のとおりであることは、控訴人が明らかに争わないところである。
(2)また、原判決の「被告装置においては、水を噴霧したペーパーの巻取直後で加熱成形装置への移動前においても、巻軸にペーパーが付着することなく、トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができる。」との認定(原判決8頁10行ないし13行)、及び「被告装置において、『巻取初期には、巻軸にペーパーが付着しており、トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができない状態が生じ、その後、上記の巻取直後の状態が生じたこと』を認めるに足りる証拠はない。」(同頁18行ないし21行)との認定は、本件証拠(乙2、3、5、甲16の1ないし9、検甲1及び弁論の全趣旨)に照らしてこれを是認することができる。
(3)なお、控訴人は、被告装置では、巻軸に滑り性のよいフッ素樹脂テープが巻き付けてあることと巻軸が予め加熱されていることにより、巻取り直後の巻軸の抜き取りが不可能ではないことを認めた上で(控訴人準備書面(1))、控訴人が使用しているフッ素樹脂テープを巻き付けた巻軸を備えた装置で巻取直後(巻取り後0分経過後)にトイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ったものは、甲16の4の写真右端のロールのように、芯内部が崩れた状態になると主張し、被告装置でも水を噴霧したペーパーの巻取り直後にトイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ったものは、甲16の4の写真右端のロールと同様、芯内部が崩れて「製品として使いものにならない」状態になっているはずであると主張する。確かに、甲16の4の写真のトイレットペーパーロールは、筒芯となるべき内層部分の一部が内側(巻軸を抜き取った後の空洞内)に不規則に膨出し、良好な形状を保っていないことが認められるが、ペーパーロールの筒芯部分の紙が抜き取った巻軸に付随して巻軸の抜き取り方向に突出する状態は生じていない。また、被告装置においても、巻取り直後に巻軸を抜き取ったトイレットペーパーロールは、筒芯部分の紙が巻軸抜き取り方向に突出した状態にはなっていないことが認められる(乙3、5)。
2 構成要件A及びBの充足性 以上認定の事実を前提として、被告装置が本件発明の構成要件A及びBを充足するか否かを検討する。
(1)構成要件A 当裁判所も、構成要件Aの「仮接着」を原判決と同様に解釈し、被告装置は「仮接着」の要件を充足しないと判断するものである。その理由は、次のとおり控訴人の主張1に対する判断を付加するほか、原判決6頁10行ないし8頁23行(ただし、8頁6行ないし9行を除く。)のとおりである。
ア 本件明細書(甲2)の原判決摘示部分の記載によれば、従来、芯なしトイレットペーパーロールを製造する方法として、「ウエブを巻軸に巻付ける当初に水を噴霧して、ウエブと巻軸およびウエブの初期巻取層を仮接着させる」ことが提案されているところ、「この製法によれば、ペーパーロールから巻軸を抜き取る際、噴霧された水分によって、巻軸とウエブ(内側)巻取層が付着したままになって、抜き取りができないか(問題点@)、あるいは無理に抜き取るとロール形状が崩れて、製品として使いものにならなくなる(問題点A)という問題があった」ため、本件発明は、これを解決することを課題とし、「巻取り完了後の巻軸とペーパーロールの分離が円滑に行え(A)、ロール形状が崩れずきれいに仕上がる(B)芯なしトイレットペーパーロールの製造装置」を提供することを目的とするものとされている。ここで、問題点を指摘された「この製法」とは、水を噴霧してウエブと巻軸及びウエブの初期巻取層を「仮接着」させる方法であるから、問題点@及びAは、いずれも噴霧した水分によるウエブと巻軸との「仮接着」によって生ずる問題であり、巻軸とペーパーロールの分離が円滑に行える(A)、ロール形状が崩れない(B)という点も、「仮接着」によって生ずる問題点@及びAにそれぞれ対応するものであることが明らかである。そうすると、本件発明にいう「仮接着」とは、水を噴霧したペーパーロールから巻軸を「抜き取る」ときに生ずる前記問題@及びAを内包した巻軸とウェブの状態を意味するものというほかなく、このような観点から、「仮接着」を、「水分によりペーパーが巻軸に張り付いているために、
トイレットペーパーロールから巻軸を抜き取ることができないか、又は、無理に抜き取るとロール形状が崩れて、製品として使いものにならなくなる状態」を意味する、と解釈した原判決は、正当としてこれを是認することができる。
そして、以上認定したところによれば、本件明細書に記載された「無理に抜き取るとロール形状が崩れて使いものにならなくなる」(形崩れ)とは、巻軸の抜き取りの際にペーパーロールが巻軸に付着していることから生じるロール形状の崩れ、
すなわち、ペーパーロールの巻軸に付着した部分が、巻軸を抜き取る際に、巻軸に付随して巻軸の抜き取り方向に突出することを意味していることも明らかである。
控訴人は、「ロール形状が崩れる」とは、巻軸を抜き取った後の筒芯部分が崩れる(甲16の写真に示されるように、筒芯となるべき内層部分の一部が巻軸を抜き取った後の空洞内に不規則に膨出した状態になる)ことであると主張するが、この主張は、本件明細書の記載を離れて、芯なしトイレットペーパーロールにおけるロール形状の保持の重要性という一般的観点から、「仮接着」の意味を解釈しようとするものであり、本件明細書の記載に基くものとはいえないから、この点に関する控訴人の主張は採用することができない。
イ 被告装置は、前記1(2)及び(3)に認定のとおり、滑り性のよいフッ素樹脂テープを巻軸に巻き付けてあり、水を噴霧した後、ペーパーロールから巻軸を抜き取る際に、ペーパーロールの芯が巻軸とともに引き出されることなく巻軸の抜き取りができるものと認められるから、構成要件Aの「仮接着」の要件を充足しない。
(2) 構成要件B 当裁判所も、構成要件Bの「水が乾燥するに必要な時間保存」及び「保存設備」を、原判決と同様に「水分の乾燥によって、上記の状態(上記構成要件Aの仮接着の状態)が解消されて、トイレットペーパーロールから巻軸を円滑に抜き取ることができるようになるまで保存すること」及び「このような保存のための装置」(原判決8頁6行ないし9行参照)を意味すると解釈し、被告装置は上記要件を充足しないと判断するものである。その理由は、当審における控訴人の主張2に対する判断を次のとおり付加するほかは、原判決6頁10行ないし9頁22行のとおりである。
ア 控訴人は、「水が乾燥するに必要な時間保存」とは、ロール形状が崩れず(「形崩れ」がなく)」きれいに仕上がるまで保存することを意味し、そのような意味の保存をする装置が本件発明における「保存装置」であると主張する。しかし、控訴人のいう「形崩れ」は、ペーパーの最内層に水分が含まれていることによって生ずるロール形状の「形崩れ」を指しているところ、本件発明にいう「形崩れ」がウェブと巻軸の「仮接着」に起因して巻軸と巻軸の抜き取りの際に生ずる形崩れであることは前示のとおりであるから、控訴人の主張は、前提において失当であり、採用することができない。
イ そして、被告装置は、前示のとおり、巻軸の抜き取りの際の「仮接着」による形崩れがないものであるから、被告装置の加熱成形装置は、筒芯部を形成するための装置であると認められ、巻軸の抜き取りの際に仮接着に起因する形崩れが生じないように「水を乾燥するに必要な時間保存」するための「保存装置」ということはできない。
したがって、被告装置は、本件発明の構成要件Bを充足しない。
3 結論 よって、その余の点について判断するまでもなく、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利