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関連審決 審判1999-35567
関連ワード 容易に発明 /  慣用技術 /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 16号 審決取消請求事件
原告 ジョイテック株式会社
訴訟代理人弁護士 古田友三
同 山田徹
同 高橋譲二
同 弁理士 土川晃
被告 シンポ株式会社
訴訟代理人弁護士 高橋美博
同 弁理士 西山聞一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35567号事件について平成12年11月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「多目的ロースター」とする特許第1608334号発明(昭和58年3月24日出願、平成3年6月28日設定登録。以下「本件発明」といい、この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。原告は、平成11年10月16日、被告を被請求人として、本件特許の無効審判を請求し、特許庁は、
同請求を平成11年審判第35567号事件として審理した結果、平成12年11月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月18日、原告に送達された。
2 本件発明の要旨 ロースター本体に吸引作用される円筒状の外箱と該外箱の内部に所定間隔の吸引流路を有する様にして円筒状の内箱を取付け、該内箱の上端は外箱の上端より低く形成し、又外箱の上方開口部を被冠閉塞する閉塞枠体と、該閉塞枠体より内箱の上部周囲に接して垂設された周壁より成る円形状のトッププレートを外箱と内箱間に載置し、トッププレートの周壁には吸気孔を貫設形成し、又内箱の上端開口部に突片を突設し、該突片上にオイルパンであるプレート外周縁部に周設された鍔部を載置し、該鍔部と内箱壁面により環状の段部を周設し、又プレートの中央部にバーナーを収容し、一方前記段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を前記段部上に選択載置する様に成したことを特徴とする多目的ロースター。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件発明は、特開昭55-130622号公報(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、
実願昭55-124738号(実開昭57-48821号)のマイクロフィルム(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)、意匠公報第516753号(審判甲第3号証、本訴甲第5号証、以下「引用例3」という。)、
特公昭57-55977号公報(審判甲第6号証、本訴甲第8号証、以下「本訴甲第8号証」という。)及び実公昭33-15086号公報(審判甲第9号証、本訴甲第11号証)記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできないから、本件特許を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、「6.当審の判断」及び「7.むすび」は争い、その余は認める。
審決は、本件発明と引用例1記載の発明(以下「引用例発明1」という。)の相違点(2)に関し引用例2記載の発明(以下「引用例発明2」という。)の認定を誤るとともに相違点(2)の判断を誤り(取消事由1)、相違点(3)に関し本訴甲第8号証に従来例として記載された技術事項(以下「本件技術事項」という。)の認定を誤るとともに相違点(3)の判断を誤った(取消事由2)結果、本件発明が、当業者にとって、引用例発明1〜3及び本件技術事項に基づいて容易に発明をすることができたものと認めることはできないとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点(2)に係る認定判断の誤り) (1) 審決は、「本件発明では、内箱の上端開口部に突片を突設し、該突片上にオイルパンであるプレート外周縁部に周設された鍔部を載置し、該鍔部と内箱壁面により環状の段部を周設し、又プレートの中央部にバーナーを収容し、一方前記段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を前記段部上に選択載置する様に成したのに対し、甲第2号証記載のもの(注、引用例発明2)では、内箱の上端開口部に段部を周設し、該段部にロストルを載置した構成は窺えるが、上記本件発明の構成について記載がない点」(審決謄本6頁38行目〜7頁6行目)を相違点(2)と認定した上、「甲第1号証(注、引用例1)には、『内箱の上縁近く煙吸込口(3)の直下にロストルを装備すること』は記載されているが、具体的にどのように装備するのかについての記載はなく、また互換性を有する様にしたロストル及び五徳を選択載置する様に成したものでもない。さらに、甲第2号証(注、引用例2)には、内箱の上端開口部に段部を周設し、該段部にロストルを載置した構成は窺えるが、上記本件発明におけるロストルを載置する構成について記載はなく、またロストル及び五徳を選択載置する様に成したものでもない。しかも、甲第1号証及び甲第2号証には、この点を示唆する記載も認められない。してみると、相違点(2)における本件発明の構成が、甲第1号証及び甲第2号証記載のものから容易になし得たものとすることができない。また、甲第3号証(注、引用例3)には、上記したとおりの五徳の構成(注、4角形に形成された外枠から中心に向けて、6個の支持片を、放射状に、かつ、当該支持片の上面を外枠より高くして設けた構成)が記載されている。しかしながら、甲第3号証にも上記相違点(2)における本件発明の構成が記載されているとは認められず、相違点(2)における本件発明の構成が、甲第1号証乃至甲第3号証の記載から容易になし得たものとすることができない。」(同7頁21行目〜35行目)と認定判断したが、誤りである。
(2) すなわち、引用例発明2は、内箱の位置決め用の棒状のガイドが外箱の内壁面かつ内箱の上端開口部に突設されていて、段部が周設されており、ここに内箱が納まり、その上に本件発明の「ロストル」に当たる鉄板が載置されるように構成されている。そして、このガイドに替えて突片を用いるとか、あるいは外箱の内壁面ではなく内箱の内壁面に突片を突設する構成にすることは、段部を周設して当該段部にロストルを載置するという構成に関する単なる設計事項にすぎない。そうすると、本件発明における「ロストルを載置する」構成とは、「環状の段部を周設し、そこにロストルを載置する」ことに尽きるのであり、この構成は、引用例2に余すところなく開示されている。
(3) 相違点(2)に係る本件発明の構成において、「オイルパンであるプレート外周縁部に周設された鍔部」の構成は、環状の段部を周設する構成の一部にすぎない。また、「プレートの中央部にバーナーを収容」する構成は、当業者にとって周知、自明である上、ロストルの載置に関する構成とは無関係である。さらに、「円形同大に形成し、互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル」の構成は、ロストルの形状そのものであって、ロストルを載置する構成に関する記載ではなく、熱と炎を通すためのスリットの存在や、肉を焼くために平板円形状とすることは、周知の技術事項にすぎない。加えて、「互換性を有する」ことは、相違点(3)における「多目的ロースター」の構成として考慮すべき事項であって、ロストルを載置する構成とは無関係である。
(4) したがって、引用例2について、本件発明におけるロストルを載置する構成に係る記載がないとした審決の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点(3)に係る認定判断の誤り) (1) 審決は、「本件発明は、多目的ロースターであるのに対し、甲第2号証記載のもの(注、引用例発明2)では、通常のロースターであって、多目的に用いるロースター、すなわち多目的ロースターとは認められない点」(審決謄本7頁8行目〜10行目)を相違点(3)と認定した上、「甲第1号証及び甲第2号証記載のものは、焼肉専用のロースターであって、甲第1号証及び甲第2号証には該記載のロースターを焼肉以外の用途(例えばしゃぶしゃぶ鍋用等の用途)に用いる記載がなく、またその示唆もないものである。また甲第3号証には五徳の形状等が記載されているだけであって、甲第3号証にもロースターを焼肉以外の他用途に用いる点について記載はないものである。したがって、相違点(3)における本件発明の技術事項が甲第1号証乃至甲第3号証記載のものに基づいて容易になし得たものとすることができない。」(同7頁末行〜8頁7行目)と判断し、さらに、「甲第6号証(注、本訴甲第8号証)には、鍋物用と鉄板焼用の両者兼用を図った調理装置で、
かつ焼物用プレート、すなわちロストルを備えたものが記載され、ここに記載された調理装置は多目的ロースターと認められる。・・・しかしながら、甲第6号証・・・にも、上記相違点(2)における本件発明の構成、すなわち『内箱の上端開口部に突片を突設し、該突片上にオイルパンであるプレート外周縁部に周設された鍔部を載置し、該鍔部と内箱壁面により環状の段部を周設し、又プレートの中央部にバーナーを収容し、一方前記段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を前記段部上に選択載置する様に成した』点について記載されておらず、本件発明が、甲第6号証・・・記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものと認めることができない。」(同8頁15行目〜34行目)と認定判断したが、誤りである。
すなわち、相違点(3)についての判断では、「互換性」について検討すべきであるところ、審決は、本訴甲第8号証が「多目的ロースター」の構成を有することを認めながら、相違点(3)の検討に無関係な、相違点(2)に係る「ロストルの載置」の構成が記載されていないとして、互換性を否定したものであり、このような判断手法は誤りであることが明らかである。
(2) 被告は、本件技術事項は本件発明と相違している旨主張するが、本件技術事項が鍋物用と鉄板焼用の両者兼用を図った調理装置である多目的ロースターであることは明らかであり、このような店舗用ガス燃焼タイプの調理装置において、客の注文、料理の種類等に応じて、鍋物又は鉄板焼用の部材を適宜選択して載置することは、周知の技術事項である。
3 したがって、相違点(2)及び(3)に係る本件発明の構成は、当業者にとって、
引用例発明1に引用例発明2及び本件技術事項を適用することにより容易に想到することができたものであり、これら相違点に係る審決の判断は誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(相違点(2)に係る認定判断の誤り)について (1) 引用例2には、内箱の上端開口部に段部を周設し、当該段部にロストルを載置する構成はうかがえるが、相違点(2)に係る本件発明の構成である「内箱の上端開口部に突片を突設し、該突片上にオイルパンであるプレート外周縁部に周設された鍔部を載置し、該鍔部と内箱壁面により環状の段部を周設し、又プレートの中央部にバーナーを収容し、一方前記段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を前記段部上に選択載置する様に成した」との構成は記載されていないから、結局、引用例2には、本件発明における「ロストルを載置する」構成は、記載されていないというべきである。
(2) 原告は、引用例発明2は、内箱の位置決め用の棒状のガイドが外箱の内壁面かつ内箱の上端開口部に突設されていて、段部が周設されており、ここに内箱が納まり、その上に鉄板が載置されるようになっていると主張する。しかしながら、
この主張の意味が不明であり、仮に、本件発明における突片を意味するものとすれば、引用例2では、ガイドが外箱の内壁面に突設されているのに対し、本件発明では、突片が内箱の内壁面に突設されているという点で、両者の構成が相違することは明らかである。
また、引用例発明2におけるガスバーナーは、棒状で内箱に配置されているのに対し、本件発明のバーナーは、円形状で内箱の中央部に配置されているから、バーナーについても、本件発明と引用例発明2のものとは構成が相違している。
さらに、引用例発明2は、ロストルを載置する構成を有するだけで、本件発明におけるロストルを載置する構成を有しない。
(3) 原告は、「互換性を有する」との要件は、相違点(3)に係る「多目的ロースター」の要件として考慮すべき事項であると主張するが、審決が相違点(2)について「互換性を有する様にした・・・平板円形状のロストル及び五徳」と認定した以上、「互換性」についても相違点(2)の問題として検討すべきであるから、原告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点(3)に係る認定判断の誤り)について (1) 相違点(3)は、「多目的ロースター」に係る相違点であり、審決は、「互換性」については相違点(2)で検討したのであるから、審決の相違点(3)の判断手法に誤りはない。
(2) 本訴甲第8号証には、多目的ロースターである本件技術事項が記載されているが、多目的化のための構成は、鍋物用のコンロバーナと鉄板焼用のパイプバーナを備え、「ゴトク支え」上に「ゴトク」を載置し鍋を置くか、「ゴトク支え」上に鉄板を載せる構成である。また、本件発明は1個のバーナーを有するのに対し、
本件技術事項は2個のバーナーを備えたものであること、本件発明では段部にロストル又は五徳を直接載置するものであるのに対し、本件技術事項では「ゴトク」を必要としたり、取り外すものであることで相違する。したがって、本件技術事項は、本件発明のような互換性を有するものではない。
(3) 本件技術事項には、鍋物用のコンロバーナ、鉄板焼用のパイプバーナ、
「ゴトク支え」、「ゴトク」を適宜選択載置した技術が開示されているとしても、
本件発明は、このような用途対応部材の適宜選択載置ではなく、「前記段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にした・・・ロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を前記段部上に選択載置する」構成としたもの、すなわち、特定部材の特定選択載置のものであるから、本件技術事項のものとは相違する。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(2)に係る認定判断の誤り)について (1) 引用例2(甲第4号証)には、以下の記載がある。
ア 2.実用新案登録請求の範囲 排気装置に接続される排気口を底部にそなえ上向きの開口部を有する外箱と・・・上記外箱内において上向きに開口する給気穴をそなえた吸気ダクトと・・・上記外箱内壁面との間に通気路をへだてて上記吸気ダクト上に載置された内箱と・・・上記内箱の上向開口部に被着され通気穴を穿設された耐熱板と、上記給気口の上方に配設したガスバーナと、上記ガスバーナの上方に設けたバーナカバーとをそなえて成る焼肉器。(明細書1頁4行目〜16行目) イ 9はステンレス製の内箱で、上向開口部10を有し、外箱1の内壁面との間に空間状の通気路11および12をへだてて配置され、吸気ダクト7上に着脱自在に載置されている。13および14は内箱9の位置ぎめ用の棒状のガイドで、
外箱1の内壁面に突設されている。(同2頁末行〜3頁5行目) ウ 鉄板23は内箱の上向開口部10に着脱自在に被着してある。(同3頁18行目〜19行目) エ 肉類の加熱により発生する大きな油滴や肉汁は下方へ滴下して水槽部16内にたまり・・・使用後に内箱9や外箱1内を清掃すればよい。(同5頁13行目〜18行目) (2) これらの記載に第1図及び第2図の図示を総合すれば、引用例発明2は、
内箱と外箱から成る排気吸引式のガスバーナーを備えた調理器という、本件発明及び引用例発明1と同種製品に関するものであって、このような調理器において、棒状のガスバーナーを備えた構成、内箱の上端開口部に段部を形成し、この段部上に鉄板を載置した構成、外箱の内壁面に突片を突設し、この突片により内箱と外箱の間に通気路を設けた構成、肉汁を内箱の底部の水槽部に溜める構成を有しているものということができる。
(3) そして、相違点(2)に係る本件発明の構成と引用例発明2の上記構成とを比較すると、一応、以下の相違点がある。
ア 本件発明では、「プレートの中央部にバーナーを収容」するのに対し、
引用例発明2では、棒状のバーナーが装備されている。
イ 本件発明では、「内箱の上端開口部に突片を突設し、該突片上にオイルパンであるプレート外周縁部に周設された鍔部を載置し、該鍔部と内箱壁面により環状の段部を周設」するのに対し、引用例発明2では、突片が外箱の内壁面に突設されて内箱との間で通気路のスペーサとなっている。
ウ 本件発明では、「ロストルを前記段部上に載置する」のに対し、引用例発明2では、内箱の上端開口部に形成された段部上に鉄板を載置している。
エ 本件発明では、「段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状のロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を選択する」のに対し、引用例発明2は、互換性のあるロストル及び五徳を装備して、そのいずれかを選択する構成を有しない。
(4) そこで、上記相違点ア〜エについて、以下検討する。
ア 相違点アについて 本件特許出願の願書に添付した第2図(甲第2号証4頁)には、プレートとその中央部に収容されたバーナーが図示されているが、この構成は、それ自体、ガスバーナーの火力の効率的な分布を図るために必要な構成として、家庭用ガスコンロ等におけるものとして、従来から用いられている慣用の技術であることは明らかである。そして、引用例発明2の調理器と家庭用ガスコンロでは共にガスバーナーを備えた調理器であることで技術分野が共通であるから、本件発明における「プレートの中央部にバーナーを収容し」た構成は、単に上記慣用技術の適用にすぎないものとして、引用例発明2と実質的に相違しないというべきである。
イ 相違点イについて 中央部にバーナーを収容する構成と同様、バーナーの周囲に設けられたプレートにより煮汁や焼き汁を受ける構成も、それ自体、家庭用ガスコンロ等におけるものとして、従来から用いられている慣用の技術である。また、引用例2において、外箱の内壁面に設けられた突片を「内箱の上端開口部に」設けることも、単なる設計事項にすぎないというべきである。さらに、本件発明における「オイルパンであるプレート」の「外周縁部に周設された鍔部」の構成は、プレートを突片上を載置するための設計事項というべきであって、当該鍔部を上記突片上に載置すれば、必然的に、「該鍔部と内箱壁面により環状の段部を周設」する構成となることは明らかである。そうすると、相違点イも、実質的な相違点ということはできない。
ウ 相違点ウについて 上記のとおり、引用例発明2について、環状の段部を周設することが単なる設計事項である以上、内箱の上端開口部の段部にロストルが載置されている引用例発明2において、ロストルを環状の段部上に載置することは、当業者にとって必然の設計事項にすぎないから、相違点ウも実質的な相違点ということはできない。
エ 相違点エについて 引用例2(甲第4号証)には「以上は耐熱板として鉄板を用いる焼肉器について説明したが、本考案は施釉陶板など他の耐熱板を用いる場合にも適用できるものである。」(明細書6頁1行目〜3行目)と記載され、この記載によれば、
引用例2記載の調理器において、鉄板以外の耐熱板を使用することが開示されている。
また、本訴甲第8号証には、「本発明は鍋物用のコンロバーナと、鉄板焼用のパイプバーナとの2つのバーナをそなえた調理装置に関するものであり・・・従来は、第5図に示すようにケースAの上に天板Bをかぶせ、中央の窓孔にゴトク支えCがある。ケースAの内部にはコンロバーナDとその上方両側にパイプバーナEがある。ここで、コンロバーナDを使用するときには、ゴトク支えC上にゴトクFを載置し、鍋Gを置く・・・。しかし、パイプバーナEを使用する時には、ゴトク支えCに鉄板等をのせて使用する」(1欄27行目〜2欄8行目)と記載され、この記載に第5図の図示を総合すれば、バーナーを備えた調理装置では、
鍋物用とする際には「ゴトク支え」の上に「ゴトク」を載置し、鉄板焼用とする際には「ゴトク支え」の上に鉄板を載置するというように、五徳と鉄板とを用途に応じて選択使用することは、本訴甲第8号証に記載された従来技術である。したがって、本件発明における「ロストル及び五徳を装備してそのいずれか一方を選択する」ことは、昭和53年に出願され昭和57年に公告された特許公報(甲第8号証)において、既に従来例として記載されている技術事項であって、その技術内容に照らしても、本件特許出願(昭和58年3月24日)当時、当業者にとって周知の技術事項であったというべきである。
そして、ロストル及び五徳を「段部に対応する円形同大に形成し互換性を有する様にしたスリットを穿設した平板円形状」としたことも、また、上記環状の段部上に載置するための設計事項にすぎない。
(5) 以上のとおり、相違点(2)に係る本件発明の構成は、引用例発明2及び本件技術事項が具備する構成であり、かつ、これらは、いずれもバーナーを備えた調理装置という同一種類の製品に係る技術事項であって、当業者にとって、引用例発明1に適用することを妨げる事情はうかがわれない。そうすると、本件発明の相違点(2)に係る構成は、当業者にとって、引用例発明1、引用例発明2及び本件技術事項に基づいて容易に想到し得るものというべきである。
2 取消事由2(相違点(3)に係る認定判断の誤り)について (1) 本件特許出願の願書に添付した明細書(甲第2号証)には、「本発明は互換性を有するロストル及び五徳を取換自在に装備して焼肉としゃぶしゃぶ鍋の両者兼用を図る様にした多目的ロースターに関するものである。」(1欄22行目〜25行目)と記載され、この記載によれば、本件発明における「多目的ロースター」とは、ロストル及び五徳を取換自在に装備することにより、焼肉としゃぶしゃぶ鍋の双方について調理し得るようにした兼用調理器のことであると認められる。
これに対し、本訴甲第8号証には、上記1(4)エのとおり、「ゴトク支え」の上に載置するものとして、鉄板及び五徳を取換自在に装備することにより、焼肉でもしゃぶしゃぶ鍋でも調理できるようにする兼用調理器が記載されているから、
相違点(3)に係る本件発明の構成が開示されているというべきである。
(2) 被告は、本件技術事項が、2個のバーナーを備えていること、五徳を必要としたり取り外すものであることにおいて本件発明と相違している旨主張するが、
これらの相違は、本件発明の相違点(3)に係る構成である「多目的ロースター」において、単なる設計事項にすぎないから、本件技術事項が「多目的ロースター」の構成を有しているという上記判断を左右するものではない。また、被告は、本件発明が特定部材の特定選択載置のものであるのに対し、本件技術事項が用途対応部材の適宜選択載置のものであるとも主張するが、その主張に係る特定部材の特定選択載置及び用途対応部材なるものも、結局のところ、「多目的ロースター」の構成における設計事項にすぎないものと認められるから、この点も、上記判断を左右するものではない。
(3) したがって、相違点(3)に係る本件発明の構成は、本件技術事項のものであって、これを引用例発明1に適用することは、当業者にとって、容易に想到することができるものというべきである。
3 そうすると、審決は、相違点(2)及び(3)に係る本件発明の構成についての容易想到性の判断を誤ったものであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、原告主張の審決取消事由は理由があり、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利