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事件 平成 12年 (ワ) 27232号 特許権移転登録抹消登録等請求事件
原告破産者ナノマイザー株式会社破産管財人 鈴木信一
被告 新日本工機株式会社
訴訟代理人弁護士 池田映岳
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,別紙特許目録1ないし3記載の各特許権に関し,別紙登録目録1(1),2(1)及び3(1)記載の各登録の抹消登録手続について承諾せよ。
事案の概要
本件は,原告が,別紙特許目録1ないし3記載の各特許権(以下「本件特許権1ないし3」といい,あわせて,「本件各特許権」という場合がある。)についてされた,原告から訴外エス・ジーエンジニアリング株式会社(以下「エス・ジーエンジニアリング」という。)に対する本件各特許権の譲渡に関してした原告の取締役会決議は無効であり,被告はそのことを知っていたなどと主張して,エス・ジーエンジニアリングから質権設定登録を受けた被告に対し,同名義移転登録の抹消登録手続についての承諾を求めた。
1 前提となる事実(証拠を示した事実を除いて,当事者間に争いがない。) (1) 当事者 原告は,乳化,分散及び破砕により物質を微粒化する装置,機器及び部品類の製造,販売を業とする株式会社である。原告は,本件各特許権その外の工業所有権を使用して事業を行っていた。エス・ジーエンジニアリングは,電子応用機器の輸出,販売を業務とする株式会社である。
被告は,工作機械及びこれらに関連する部品,工具の製造,修理並びに販売を主な業務とする株式会社である。
(2) 本件各特許権等の譲渡,質権設定 原告は,本件特許権1について平成6年3月15日,本件特許権2について平成8年6月14日,本件特許権3について平成10年6月5日,それぞれ設定登録を受けて,本件各特許権を取得した。
原告は,平成11年2月22日,エス・ジーエンジニアリングに対して,本件各特許権を譲渡し,平成11年4月21日付けで,別紙登録目録記載のとおり移転登録を経由した。原告は,平成11年2月19日,取締役会を開催し,同取締役会において,本件各特許権の名義を,原告からエス・ジーエンジニアリングに変更する旨(以下「本件名義移転」という。)の決議(以下「本件決議」という。)がされた。
エス・ジーエンジニアリングは,平成11年4月1日,被告との間で,金3500万円を融資する旨の金銭消費貸借契約を締結し,本件各特許権(その他の特許権等を含む。)について質権の設定をし,別紙登録目録1(2),2(2),3(2)記載のとおり,被告を質権者とし,本件各特許権を目的とする質権の設定登録を経由した(甲22)。
2 争点 (1) 本件決議には無効理由があり,被告は無効理由の存在について知っていたか又は重過失により知らなかったか。
ア 本件決議に無効理由があったか。
(原告の主張) 本件譲渡に関する原告の取締役会の本件決議は,以下に述べるとおり,無効である。
平成11年2月19日ころ,原告において本件決議がされたが,当時,原告とエス・ジーエンジニアリングの両社とも,Nが代表取締役に就任していた。自社の代表取締役が,取引の相手方の代表者に就任している場合,その譲渡は利益相反取引に該当すると解すべきである。したがって,本件譲渡については,取締役会の承認が必要であるが(商法265条1項),以下のとおり,原告の取締役会による本件決議は,召集手続及び決議方法に法令違反の無効理由があるので,承認決議を経ずにされた本件譲渡も無効となる。
(ア) 召集通知漏れ 取締役会を召集するに当たっては,取締役全員に対してその通知を発しなければならない(商法259条の2)。一部の者に対する召集通知漏れがあったときの取締役会の決議は,召集通知がされなかった取締役が出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情がある場合を除いて,無効である。本件決議は,当時の原告の取締役のN,H,M及びTのうち,MとTに召集通知がされなかったから,無効である。
(イ) 定足数の不足 取締役会の決議には,取締役の過半数の出席が必要である(商法260条の2第1項)。
特別利害関係人は,定足数から除外される(同条3項)。当時,原告の取締役は4名であったが,本件決議では,前記のとおりNは特別利害関係人に該当するので,定足数には算入されない。よって,本件決議に必要な定足数は2名である。
本件決議には,NとHの2名しか出席しなかった。Mについては,議事録には出席した旨の押印がされたが,本件決議後,Nから代印を頼まれて決議内容を知らぬまま,押印がされた。利害関係人であるNを除くと,本件決議は,1名の出席による定足数を満たさない取締役会でされたものであって,違法である。
(ウ) 特別利害関係人の関与 取締役会の決議につき特別の利害関係を有する取締役は,決議に参加することができない(商法260条の2第2項)。
本件決議において,Nは本件譲渡の相手方であるエス・ジーエンジニアリングの代表取締役であり,特別利害関係人に当たるから,その議決権行使は排除されるべきであるにもかかわらず,Nは議決権を行使した。よって本件決議は違法である。
(エ) 特別利害関係人の議事主宰 特別利害関係人に該当する取締役は,当該議案に関し,議長としての権限を当然に喪失するというべきである。かかる取締役が当該議案について,議長として議事を主宰した場合には,取締役会の決議は無効とすべきである。本件決議は,特別利害関係人であるNが,議長として議事を主宰してその進行に当たった点において違法である。
(被告の反論) 原告の主張は否認する。本件譲渡に関する本件決議はいずれも適法な手続によりされ,違法はない。
イ 被告は,取締役会の承認決議を欠くことについて,知っていたか又は重過失によりしらなかったか。
(原告の主張) 以下の事実を総合すれば,被告は,原告のエス・ジーエンジニアリングに対する本件譲渡に関して,本件決議に無効理由が存在することについて知っていたか又は重過失により知らなかった。
(ア) 被告による特許権担保の要請 平成11年2月から3月に掛けて,エス・ジーエンジニアリングの代表者であったNは被告に対して融資の依頼をした。その際,被告は,原告が有していた本件各特許権を担保に入れるよう求めた。エス・ジーエンジニアリングと被告とは,平成11年4月1日,金銭消費貸借契約及び質権設定契約を締結したが,被告は,本件各特許権の登録名義人が原告であることを知っていた。
(イ) 利益相反取引の認識 平成10年8月,被告の子会社であるサンマシナリー株式会社(以下「サンマシナリー」という。)は,原告と業務提携契約を結んだ。当時,被告及びサンマシナリーの代表者はともにYであり,同人は,Nがエス・ジーエンジニアリングと原告の両社の代表者を兼任していることを知っていた。また,平成11年3月31日,サンマシナリーは,エス・ジーエンジニアリングに融資をするに当たっても,同社の代表者のYは,Nが両社の代表者を兼任していることを知っていた。したがって,被告は,本件各特許権に関する原告からエス・ジーエンジニアリングに対する本件譲渡が利益相反取引であることを認識できたといえる。
(ウ) 営業妨害活動 本件名義変更後,サンマシナリーのF部長は,「原告はいずれ潰れるから,取引をしない方がいい」と告げて,原告の営業活動を妨害した。Fは,Nが独断で本件各特許権等の名義をエス・ジーエンジニアリングに移転させたことにつき,知っていたからこそ,原告の営業を妨害したのである。本件各特許権等の名義が円満に移転されたなら,原告とエス・ジーエンジニアリングらの業務が競合することはないので,Fが原告の営業を妨害する発言をする必要はなかったはずである。
以上によれば,被告は,原告のエス・ジーエンジニアリングに対する本件譲渡に関する本件決議が無効であることについて,知っていたか又は重過失によって知らなかったというべきである。したがって,原告は,被告に対して,本件譲渡に関する取締役会の有効な決議を欠く,無効な譲渡であることを主張することができる。原告からエス・ジーエンジニアリングへの移転登録の抹消登録手続について承諾することを求める。
(被告の反論) 被告が,原告からエス・ジーエンジニアリングへの本件譲渡についての取締役会の有効な承認決議を欠くことに関して,知っていたか又は重過失によって知らなかったという事実はない。被告は,本件譲渡について,原告の取締役会の有効な承認決議に基づいてされたものと信じていた。本件譲渡がされた当時,原告は,運転資金すら存在せず,実質的なオーナーであったAによって休眠化が宣言されるなどして経営は悪化していた。このような原告の窮状に照らして,被告は,原告の代表取締役であったNをはじめ取締役全員が,原告の事業をエス・ジーエンジニアリングに譲渡しようと覚悟を決めたものと信じたのである。被告が,エス・ジーエンジニアリングに対して融資をしたのも,仮に原告が倒産すれば,被告及びサンマシナリーがそれまで原告に多額の投資をし業務提携することにより展開していた事業に支障が生じ,事業機会を逸すると考えたためである。
当時,倒産の危機に瀕していた原告が倒産を回避できたのは,被告がエス・ジーエンジニアリングに融資し,これによりエス・ジーエンジニアリングが原告に代わって原告の取引を継承し,その債務を免責的に引き受けたからにほかならない。原告は何らの金銭的支払をすることなく利益を受けているのであり,このような一連の経緯に鑑みると,本件譲渡について,原告の取締役会で適法に承認決議がされたと被告が考えるのは自然である。
なお,被告は,平成11年4月1日,エス・ジーエンジニアリングに対し,金3500万円を貸し付け,かつ本件各特許権を目的として質権設定契約を締結したが,原告は,それより以前の平成11年3月24日付けで,本件各特許権をエス・ジーエンジニアリングに移転する旨の移転登録手続の申請をしていた。
(2) 本件各特許権等の譲渡は,商法245条1項所定の営業譲渡に当たるか。
(原告の主張) 本件各特許権等は,いずれも,原告が営業を行うのに必要不可欠な権利であり,これらなくしては業務をなし得ない。本件各特許権等を第三者に譲渡することは,権利と不可分一体である原告の営業活動のすべてを移転させることを意味するから,商法245条1項所定の営業譲渡に該当する。 そして,本件各特許権等の譲渡には株主総会の特別決議を要するところ(同項1号),本件譲渡について,原告で株主総会は開催されず,特別決議もされなかった。よって,本件各特許権等の譲渡は無効である。株主総会の特別決議を欠く営業譲渡の無効は善意の第三者にも対抗できるので,原告は被告に対し,その無効を主張できる。
(被告の反論) 原告の主張は否認する。原告は,本件各特許権の譲渡により,営業をなし得なくなる旨主張するが,原告は,エス・ジーエンジニアリングから,製造,販売を認められていたのであり,これらの譲渡は営業譲渡には当たらない。
争点に対する判断
1 争点(1)(本件決議には無効理由があり,かつ,被告はその点について知っていたか,重大な過失により知らなかったか。)について ア 本件決議に無効理由があったか。
(ア) 事実認定 前記争いのない事実,証拠(甲14,18,19,21)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
a 原告は,平成11年2月22日,エス・ジーエンジニアリングに対して,本件各特許権を譲渡した。ところで,譲渡人の代表者が譲受人の代表者を兼任している場合,当該譲渡は利益相反取引に該当すると解すべきであり,このような取引については,取締役会の承認が必要となる(商法265条1項)。
平成11年2月19日,原告で臨時取締役会が開催され,原告からエス・ジーエンジニアリングに対する本件名義移転の承認に関する取締役会決議がされた(名義移転の前提としての譲渡の承認を含むものと解するのが相当である。)。
b 当時の原告における取締役は,N,H,M及びTであったが,取締役会の開催に当たり,M及びTに対して召集通知はされなかった。そして,M及びTが同取締役会に出席してもなお本件決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情はない。したがって,本件決議には,取締役会を召集するに当たって,取締役全員に対する通知を必要とする商法259条の2に反する違法が存する。
c Nは,譲受人であるエス・ジーエンジニアリングの代表取締役であったため,本件決議における特別利害関係人に該当する。本件決議に必要な定足数は,Nを除いた3名の過半数である2名となる(商法260条の2第3項)。そして,本件決議は,NとHの2名しか出席せず(本件決議に係る取締役会議事録には,Mの押印があるが,Mは,本件決議後,Nから代印を頼まれて決議内容を知らぬまま,議事録に押印をしたにすぎず,出席したものではない。),Nを除外すると,本件決議は定足数を満たさず,商法260条の2第1項に反する違法がある。
d また,取締役会の決議につき特別の利害関係を有する取締役は,決議に参加することができないところ(商法260条の2第2項),本件決議には,Nが,特別利害関係人であるにもかかわらず,議決権を行使した違法,議長として議事を主宰した違法がある。
(イ) 判断 以上のとおり,本件決議は,商法259条の2,260条の2第1項及び2項に反する違法がある。したがって,本件譲渡は,取締役会の有効な承認決議を経ずにされたので無効となる。
イ 被告は,本件取締役会に無効理由があることを知っていたか,又は重大な過失によって知らなかったか。
上記のとおり,原告からエス・ジーエンジニアリングへの本件譲渡は取締役会の有効な承認決議を欠くものとして無効であるが,原告が,被告に対して,その取引の無効を主張するには,被告が同取引についての取締役会の承認決議に無効理由があることについて知っていたか又は重過失によって知らなかったことを,原告において主張立証することが必要である(最大判昭和46年10月13日民集25巻7号900頁参照)。そこで,この点を検討する。
(ア) 事実認定 証拠(甲1ないし3,8ないし10(枝番号の表記は省略する。),17ないし20,22,24,27ないし32,36,42,43,48,丙2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠はない。
a 原告は,平成10年8月ころから,被告及びその子会社であるサンマシナリーなどと業務提携を図り,原告の有する出願中の特許権,実用新案権等及びノウハウをもとに,「超微粒化装置」に係る実用化のための共同研究開発,関連機器装置の設計,製造,販売を進めることとし,サンマシナリーとこれに関する覚書(以下「本件覚書」という。)を締結した。本件覚書によれば,原告とサンマシナリーは,「超微粒化装置」の用途別実用化の共同開発を行い,早期商業ベースでの実用化を図るとされ(1条),研究開発対象範囲として,食品用途,飲料用途,医薬品用途,化粧品用途につき,原告はサンマシナリーに優先権を供与し(2条),原告は既に所有する特許等,今後出願する特許等のうち2条の範囲に係るすべての情報をサンマシナリー,その親会社である被告,大和製罐に開示し,指導を行うものとされ(3条),さらに,共同開発の成果の製造販売はサンマシナリーが行い,原告に基本ロイヤルティーを支払うものとされ(6条),サンマシナリーは,特許等の使用料,技術指導の対価として,原告に対し金3000万円を支払うものされた(4条)。サンマシナリーは同規定に基づき,原告に対し,平成10年8月31日金3000万円を支払った。
b 原告は,平成10年10月,サンマシナリーから金1000万円の融資を受けた。原告は,平成11年2月に入ってから,資金繰りに窮し,代表者のNは,サンマシナリーに対し緊急の融資を申し入れたが,サンマシナリーは,申し入れには応じず,原告の再建策の検討方を促した。
原告のH,Bらは,平成11年2月19日,原告の実質的オーナーであった筆頭株主のAに対し,資金調達や債権放棄を依頼したが,安田に拒絶された。原告は,@サンマシナリー及び被告に対し,本件覚書に関する事業を原告からエス・ジーエンジニアリングへ継承させること,A被告らが従前進めていた原告との共同事業を原告に代わりエス・ジーエンジニアリングが引き継ぐこと,Bそのため,エス・ジーエンジニアリングに本件各特許権等の移転を行うこと,Cエス・ジーエンジニアリングは,原告から移転を受ける本件各特許権を担保に提供し,被告から融資を受けることなどを提案した。サンマシナリー及び被告は,仮に原告が倒産すると,原告との業務提携を前提とした事業計画に支障を来すことを懸念して,原告の提案を受け入れた。
c 平成11年2月22日,原告及びサンマシナリーは,本件覚書を合意解約し,同日,エス・ジーエンジニアリングは,原告から本件各特許権その他特許権等について譲渡を受けた。本件覚書の合意解約の結果,原告が本件覚書に基づいてサンマシナリーから受領していた特許等の使用料,技術指導の対価3000万円について,サンマシナリーに返還する債務が生じたが,エス・ジーエンジニアリングが免責的に債務引受けをした。同社は,平成11年3月24日,原告から同社への本件譲渡に関して,特許移転登録手続の申請をした。また,エス・ジーエンジニアリングは,平成11年3月31日,サンマシナリーに対し,本件各特許権及びその他特許権等について通常実施権を設定しその対価を3000万円とする旨合意し,この支払義務と,エス・ジーエンジニアリングが原告から免責的に債務引受けした前記3000万円の返還債務とを相殺することとした。
d エス・ジーエンジニアリングは,原告の債務を引受けたりしたことから,運転資金を確保する必要が生じ,平成11年4月1日,新たに被告から金3500万円の融資を受け,その担保のため,本件各特許権その他の権利について質権を設定した。
(イ) 判断 以上認定した事実によれば,被告が,原告の取締役会の本件決議に無効理由が存在したことについて知らなかったことは明らかである。
また,原告からエス・ジーエンジニアリングへの本件譲渡は,原告が,資金繰りに窮して倒産の危機に瀕していたことに端を発して,倒産を回避するために,被告から救済を受けるためにされたものであり,これにより,原告は,何らの金銭的負担を伴うことなく,事業を継続することができ,倒産を回避できたのであって,このような一連の経緯に照らすならば,原告にとっては,本件譲渡は,著しく有利な行為であったということができる。第三者が,原告の取締役会が円滑に進行しないことを疑う事情は存在しない。
そうすると,被告において,原告がエス・ジーエンジニアリングへ本件各特許権を譲渡するに当たり,取締役会の決議が適法にされたことを知らなかった点について,重過失が存在したということは到底できない。
以上によれば,被告は,原告のエス・ジーエンジニアリングに対する本件譲渡に関しての取締役会の有効な承認決議を欠くことについて知っていたか又は重過失により知らなかったということはできない。よって,原告は被告に対し,本件譲渡の無効を主張することができないから,原告からエス・ジーエンジニアリングへの移転登録の抹消登録手続についての承諾を求めることもできない。
2 争点(2)(本件各特許権等の譲渡は,商法245条所定の営業譲渡に当たるか否か)について 商法245条1項1号所定の営業の譲渡とは,「同法24条以下にいう営業の譲渡と同一意義であって,営業そのものの全部または一部を譲渡すること,詳言すれば,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し,これによって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ,譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」と解するのが相当である(最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁)。そこで,この観点から,本件各特許権等の譲渡は,商法245条所定の営業譲渡に当たるか否かについて検討する。
前記争いのない事実,証拠(甲18,19,丙1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
原告は,平成11年ころ,資金繰りに窮し,業務提携をしていた被告から救済を受けるために,平成11年2月22日,エス・ジーエンジニアリングへ,本件各特許権等を譲渡した。さらに,原告は,本件各特許権等を譲渡した後においても,事業の継続が図れるように,平成11年11月2日,エス・ジーエンジニアリングとの間で,本件各特許権等の譲渡に関して誓約書を交わし,原告が本件各特許権等を使用して従来どおりの企業活動を行うことに関して,エス・ジーエンジニアリングが妨害,異議申立て,差止め等,原告が正常な企業活動を行う上で支障が生じるような手続は将来にわたり,一切行わない旨誓約させている。
以上のとおり,原告の有する財産のうちの個別の財産である特許権等が譲渡されたにすぎないこと,特許権等の譲渡がされても事業の継続に支障がないように,実施許諾を受けていること等の事実に照らすならば,本件譲渡は,一定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産に関する譲渡ということはできず,また,営業的活動の全部又は重要な一部をエス・ジーエンジニアリングに受け継がせ,原告が法律上当然に競業避止義務を負う性質の譲渡とみることはできない。したがって,本件各特許権等の譲渡は,商法245条1項1号所定の営業譲渡には該当しない。
本件各特許権等の譲渡が無効であるとの原告の主張は失当である。
3 以上によれば,原告の請求は理由がないので,主文のとおり判決する。
追加
特許目録1特許番号特許第1828886号発明の名称乳化装置登録日平成6年3月15日2特許番号特許第2527297号発明の名称物質の微粒化装置登録日平成8年6月14日3特許番号特許第2788010号発明の名称乳化装置登録日平成10年6月5日登録目録1特許目録記載1の特許について(1)平成11年3月24日受付第001008号本権の移転登録年月日平成11年4月21日登録名義人東京都港区〈以下略〉エス・ジーエンジニアリング株式会社(2)平成11年10月13日受付第003814号質権の設定登録年月日平成11年10月28日質権者大阪府大阪市〈以下略〉新日本工機株式会社目的たる権利特許第1828886号,特許第2527297号,特許第2788010号債権額金35,000,000円弁済期平成14年4月1日利息の定め元本につき年3.5%違約金若しくは賠償の額元利金につき年6%債務者東京都中央区〈以下略〉エス・ジーエンジニアリング株式会社2特許目録記載2の特許について(1)平成11年3月24日受付第001009号本権の移転登録年月日平成11年4月21日登録名義人東京都港区〈以下略〉エス・ジーエンジニアリング株式会社(2)平成11年10月13日受付第003814号質権の設定登録年月日平成11年10月28日質権者大阪府大阪市〈以下略〉新日本工機株式会社目的たる権利特許第1828886号,特許第2527297号,特許第2788010号債権額金35,000,000円弁済期平成14年4月1日利息の定め元本につき年3.5%違約金若しくは賠償の額元利金につき年6%債務者東京都中央区〈以下略〉エス・ジーエンジニアリング株式会社3特許目録記載3の特許について(1)平成11年3月24日受付第001010号本権の移転登録年月日平成11年4月21日登録名義人東京都港区〈以下略〉エス・ジーエンジニアリング株式会社(2)平成11年10月13日受付第003814号質権の設定登録年月日平成11年10月28日質権者大阪府大阪市中央区〈以下略〉新日本工機株式会社目的たる権利特許第1828886号,特許第2527297号,特許第2788010号債権額金35,000,000円弁済期平成14年4月1日利息の定め元本につき年3.5%違約金若しくは賠償の額元利金につき年6%債務者東京都中央区〈以下略〉エス・ジーエンジニアリング株式会社
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 今井弘晃
裁判官 石村智