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関連審決 異議2003-72458
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  技術常識 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10136号 特許取消決定取消請求事件

原告 シマダヤ株式会社
訴訟代理人弁理士 廣田雅紀
同 小澤誠次
同 大高 とし子
同 高津一也
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 田中久直
同 長井啓子
同 一色 由美子
同 伊藤三男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2003-72458号事件について平成16年12月1日にした決定を取り消す。
事案の概要
本件は,原告の有する後記特許についてA株式会社から特許異議の申立てがなされ,特許庁が平成16年12月1日に本件特許を取り消す決定をしたところから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「風味調味液が添付された蒸煮麺」として平成12年9月1日に特許出願をし,平成15年3月20日に設定登録を受けて特許第3411013号の特許権者となった(以下「本件特許」という。)。
ところが本件特許について,平成15年10月3日にA株式会社から特許異議の申立てがなされ,特許庁は,異議2003-72458号事件として審理した。同事件係属中の平成16年8月30日,原告は本件特許の訂正を請求した(甲2,以下「本件訂正請求」という。)。
特許庁は,平成16年12月1日,「訂正を認める。特許第3411013号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は平成16年12月20日原告に送達された。
(2) 発明の内容 本件訂正請求(甲2)により訂正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,下記のとおりである(以下「本件発明1」〜「本件発明4」という。)。なお,この訂正請求は,請求項1の下線部を付加したものである。
記 【請求項1】加熱調理せずに喫食する蒸煮麺と,該蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液と,該風味調味液をかけてほぐした蒸煮麺をつけて喫食するつゆとを備え,前記風味調味液が食材又 はその 加工品 を熱湯 で調理加熱 して 得られる ,蒸煮麺 をほぐすとともにおいしさを 引き立たせるものである ことを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺。
【請求項2】蒸煮麺に,澱粉加水分解物の水溶液が被覆されていることを特徴とする請求項1記載の風味調味液が添付された蒸煮麺。
【請求項3】蒸煮麺,風味調味液及びつゆが,包装又は容器に充填されていることを特徴とする請求項1又は2記載の風味調味液が添付された蒸煮麺。
【請求項4】風味調味液が袋に充填されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の風味調味液が添付された蒸煮麺。
(3) 本件決定の内容 ア 本件決定の詳細は,別添異議の決定写し記載のとおりである。
その要旨とするところは,本件発明1は下記の刊行物1発明及び周知の事項に基づいて,本件発明2は刊行物1発明及び刊行物2発明並びに周知の事項に基づいて,本件発明3,4は,刊行物1発明及び周知の事項に基づいて,いずれも当業者が容易に発明をすることができたもので,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから,本件特許は取り消されるべきである等というものである。
記 ・特開平11-130041号公報(甲3。以下「刊行物1」といい,これに記載された発明を「刊行物1発明」という。) ・特開平9-75022号公報(甲7。以下「刊行物2」といい,これに記載された発明を「刊行物2発明」という。) イ 本件発明1と刊行物1発明との一致点及び相違点についての認定 本件決定は,本件発明1(前者)と刊行物1発明(後者)とを対比し,その一致点と相違点を,下記のように摘示している。
記 <一致点> 「加熱調理せずに喫食する蒸煮麺と,該蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液と,該風味調味液をかけてほぐした蒸煮麺をつけて喫食するつゆとを備え,前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」 <相違点> 「蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液が,前者では,「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるもの」であるのに対し,後者では,「調味料を加えた水」である点」 (4) 本件決定の取消事由 本件決定は,以下に述べる理由により,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(刊行物1発明の認定の誤り) 本件決定は,刊行物1(甲3)について,「上記記載によると,ゆがき麺は喫食する間際に加熱調理されておらず,また,「ゆがき麺」とは「蒸煮麺」と同義であることは明らかであり,刊行物1において,蒸煮麺にかけてほぐすための水に調味料を加えるということは,おいしさを引き立たせることに他ならないから,刊行物1には,加熱調理せずに喫食する蒸煮麺と,蒸煮麺にかけてほぐすとともにおいしさを引き立たせるための調味料を加えた水と,該水をかけてほぐした蒸煮麺をつけて喫食するつゆとを備えたものが記載されているといえる」(決定4頁第2段落)とした上,本件発明1と刊行物1発明との一致点を上記(3)イのとおり認定したが,「前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点を一致点として認定したのであるから,刊行物1に「風味調味液」が記載されていると認定したものというべきである。
しかし,刊行物1には,「ほぐし液」として「水W」を収納した「麺類の包装容器」が示され,この「ほぐし液」として用いる「水W」に「調味料,アルコール等の添加物を加えておいてもよい」(段落【0016】)と記載されているだけで,「風味調味液」については記載も示唆もないから,本件決定の刊行物1に係る上記認定は誤りである。
イ 取消事由2(一致点の認定の誤り) 上記のとおり,刊行物1には「風味調味液」については記載も示唆もないから,本件決定が本件発明1と刊行物1発明との一致点として「前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点を認定したことは誤りである。
ウ 取消事由3(相違点の判断の誤り) (ア) 本件決定は,本件発明1と刊行物1発明の相違点について,「本件発明1に係る風味調味液は,食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるものであるところ,これは,一般的な料理法である「ダシ」の調製法と変わるところはない。しかるに,「ダシ」の調製法としては,この他に,水に調味料を添加することにより得ることも簡便な方法として周知であるから,水に調味料を添加した刊行物1に記載の風味調味料に代えて,食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味料を用いることは,当業者にとって格別困難なことではない」(決定4頁下第3段落)と判断したが,誤りである。
(イ) 本件発明1は,「風味調味液」を,単に「調味液」として用いることを構成要件としているのではなく,「つけ麺」における「ほぐし液」として用いることにより,「つけ麺」において蒸煮麺をほぐすとともに,効果的な「風味付け」を行い,「おいしさを引き立たせた」麺の喫食を可能とすることを構成要件とするものであるから,本件発明1に係る風味調味液が「ダシ」の調製法により得られるものであったとしても,そのことから本件発明1の上記構成・効果が容易に想到し得るものではない。
エ 取消事由4(本件発明1の顕著な作用効果の看過) (ア) 本件決定は,@「そばの「つけつゆ」は,かつお節風味のものが望ましいことは周知であるから,昆布の旨味成分であるグルタミン酸ソーダを主体としたものを使用している「調味料入りの水」よりも,かつお抽出だしを使用している本件発明1に係る「風味調味料」の方が「食味」で優れているのは当然のことである」(決定4頁最終段落〜5頁第1段落),A「本件発明1に係る「風味調味料」が,「外観・食感」の点で刊行物1に記載の発明に比べて,顕著な効果を奏するとはいえない」(同5頁第2段落),B「実験報告書(判決注;甲4。以下「実験報告書」という。)の「5-3結果」によると,「風味調味料」及び「調味料入り水」をそれぞれ麺にかけてほぐした直後のほぐれ性については,各試験区とも特に差はなかったのであるから,ほぐれ性の点で本件発明1に係る「蒸煮麺」が格別優れているということはできない。・・・「表1-1」の結果をもって,直ちに本件発明1に係る「蒸煮麺」が格別に優れているということはできない」(同頁第3段落〜第4段落)としたが,次に述べるとおり,本件発明1の顕著な作用効果を看過した誤りがある。
(イ) 本件発明1における「風味調味液」は,麺の「つけつゆ」として用いるものではなく,「つけ麺」における「ほぐし液」として用いて,その「風味付け」により優れた「食味」を呈するものであるから,上記(ア)の@は誤りである。
(ウ) 「かつおエキス」及び「粉末かつおだしの素」は,実験報告書(甲4)においては本件発明1の実施例に相当するものとして提示されているのに,本件決定は,対照例として扱い,これと比較して,本件発明1に係わる「風味調味料」が「外観・食感」の点で顕著な効果を奏するとはいえない(上記A)とした誤りがある。
(エ) 本件発明1の「ほぐし液」は,「ほぐしてから8分放置」しても「ほぐれ持続性」がある顕著な作用効果を有するものであるから,上記Bも誤りである。
オ 取消事由5(本件発明2〜4についての進歩性の判断の誤り) 本件発明1に係る本件決定の認定判断が誤りであることは上記のとおりであるから,本件発明1に従属する本件発明2〜4についての本件決定の進歩性の判断も誤りである。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論 本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1について 刊行物1(甲3)には,「ほぐし液」について「さらに,図6に示すような,平袋に水Wを20〜40cc程度を封入した小袋Bも収納しておく。この小袋Bは,蓋(図示せず)に設けた凹所に収納しておいてもよい。また,水Wに調味料,アルコール等の添加物を加えておいてもよい」(段落【0016】)と記載されているが,調味料とは素材のおいしさを引き立たせるためのものであることは当業者の技術常識であるから,上記「また,水Wに調味料,・・・を加えておいてもよい」が,「水Wに調味料を加えておけばより一層蒸煮麺のおいしさを引き立たせることができる」との意味であることは,当業者が直ちに理解できることである。
したがって,刊行物1には,「ほぐし液」として「蒸煮麺のおいしさを引き立たせるための調味料を加えた水」を用いることが実質的に記載されているといえるのであり,刊行物1に記載の発明を「刊行物1において,蒸煮麺にかけてほぐすための水に調味料を加えるということは,おいしさを引き立たせることに他ならないから,刊行物1には,・・・蒸煮麺にかけてほぐすとともにおいしさを引き立たせるための調味料を加えた水と・・・を備えたものが記載されているといえる」(決定4頁第2段落)と認定した点に誤りはない。
(2) 取消事由2について 本件決定は,刊行物1(甲3)に記載の発明を上記のとおり認定した上で,「おいしさを引き立たせるための調味料を加えた水」は,本件発明1に係わる「おいしさを引き立たせるための風味調味液」に該当すると判断し,「(ii)対比・判断」において,両者は,「加熱調理せずに喫食する蒸煮麺と,該蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液と,該風味調味液をかけてほぐした蒸煮麺をつけて喫食するつゆとを備え,前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点で一致(決定4頁第3段落)すると認定し,また,「ただ,蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液が,前者では,「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるもの」であるのに対し,後者では,「調味料を加えた水」である点で相違する」(同)と認定したのであり,上記一致点及び相違点の認定に誤りはない。刊行物1に「風味調味料」という用語を用いた記載がなくても,調味料とは素材のおいしさを引き立たせるためのものであることは当業者の技術常識であるから,刊行物1に記載の「調味料」が「おいしさを引き立たせるためのもの」,すなわち「風味調味料」であることは,刊行物1の記載から当業者が直ちに読み取ることができ,「風味調味液」という用語を用いて上記のとおり一致点及び相違点を認定したことに誤りはない。
(3) 取消事由3について 原告の主張は,本件発明1では「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」を「調味液」及び「ほぐし液」として用いているにもかかわらず,本件決定における相違点の判断では,風味調味液を「ほぐし液」として用いることの容易性について言及しておらず,相違点についての判断は誤りであるとの趣旨に解されるが,かかる主張は,本件決定における相違点の判断の論理構成から離れた主張であり,失当である。すなわち,本件決定では,「風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものである」ことを両者の一致点として認定しているのであるから,本件発明1において,風味調味液をつけ麺における「ほぐし液」として用いる構成は,刊行物1に記載の発明との相違点とはなり得ず,本件決定で認定した相違点について,「上記相違点について検討すると,・・・,水に調味料を添加した刊行物1に記載の風味調味料に代えて,食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味料を用いることは,当業者にとって格別困難なことではない」(決定4頁下第3段落)と判断したことに誤りはない。
(4) 取消事由4について (ア) 原告主張(イ)について 「めんつゆ」に麺の一部をつけて喫食する,いわゆる「つけ麺」においては,「めんつゆ」に麺の一部をつけることで「めんつゆ」中の風味成分を麺に付着させ,これによって蒸煮麺の「風味付け」がなされるが,「ほぐし液」においても,「ほぐし液」中の風味成分が蒸煮麺に付着することにより「風味付け」がなされるのであるから,「めんつゆ」に適した「風味成分」が「ほぐし液」による「風味付け」にもそのまま適用できることは自明であり,また,「ほぐし液」を用いて「風味付け」を行うとき,「めんつゆ」に適さない「風味成分」を用いるよりも「めんつゆ」に適した「風味成分」を用いた方がより効果的に蒸煮麺の「風味付け」を行えることも自明であるから,本件決定では,本件発明1の「風味調味液」を「ほぐし液」として用いたときの「風味付け」の効果について,「そばの「つけつゆ」は,かつお節風味のものが望ましいことは周知である」(決定書4頁最終段落)ことを根拠にして,「昆布の旨味成分であるグルタミン酸ソーダを主体としたものを使用している「調味料入りの水」よりも,かつお抽出だしを使用している本件発明1に係る「風味調味料」の方が「食味」で優れているのは当然のことである」(同4頁最終段落〜5頁1行)と判断したのであり,かかる判断に誤りはない。
(イ) 原告主張(ウ)について 実験報告書(甲4)において用いた「かつおエキス」及び「粉末かつおだしの素」は,本件発明1の「風味調味液」として本件明細書の実施例1に具体的に示されている「かつお節抽出液」(実験報告書における「かつお抽出だし」に相当する。)というよりも,当業者において周知の即席だしの素(乙1,2)そのものというべきものである。他方,刊行物1(甲3)には,「おいしさを引き立たせるための調味料」が実質的に記載され,かかる調味料の代表例として即席だしの素を挙げることができる。以上の点を踏まえて,本件決定において,「「かつおエキス」及び「粉末かつおだしの素」は,本件発明1に係る「風味調味料」というよりも,刊行物1に係る「調味料」の範疇に入るものと解される」(決定5頁第2段落)と判断したのであり,かかる判断に誤りはない。そして,実験報告書の記載によれば,「かつおエキス」及び「粉末かつおだしの素」と,「かつお抽出だし」との間で「外観・食感」の点で格別の差異はなく,この事実から,本件発明1は,調味料として即席だしの素を用いることが実質的に開示されているといえる刊行物1に係る発明に比べて,「外観・食感」の点で格別の効果を奏するものではないといえるから,本件決定において「本件発明1に係る「風味調味料」が,「外観・食感」の点で刊行物1に記載の発明に比べて,顕著な効果を奏するとはいえない」(決定5頁第2段落)と判断したのであり,かかる判断に誤りはない。
(ウ) 原告主張(エ)について 本件発明1に係る「蒸煮麺」は,容器に収容された弁当タイプの調理麺として流通,販売されるもの(本件明細書の段落【0002】)であり,このような弁当タイプの蒸煮麺を食べるときは,「風味調味液」を麺にかけて麺をほぐすと時間を置かずにすぐに食べるのが通常である。麺をほぐしてすぐに食べる通常の食べ方においては,「風味調味液」を麺にかけてほぐした直後の「ほぐれ性」を問題にすべきであり,本件決定において,「本件発明1に係る「蒸煮麺」にあっては,麺をほぐして時間を置かずに食べるのが普通であるから,・・・・・,ほぐれ性の点で本件発明1に係る「蒸煮麺」が格別優れているということはできない」(決定5頁第3段落)と判断したことに誤りはない。本件発明1の「風味調味液」が麺をほぐしてから8分放置しても「ほぐれ持続性」があるとしても,ほぐしてから8分の時間が経過するまでの間に食べ終わり,又はほとんど食べ終わっている通常の食べ方では,8分放置したときの「ほぐれ持続性」は無意味となることは明らかであり,このことを,本件決定において「上記したようにほぐしてから8分間放置してから喫食することは通常の喫食とはいえないから,「ほぐれ持続性」に関する「表1-1」の結果をもって,直ちに本件発明1に係る「蒸煮麺」が格別に優れているということはできない」(決定5頁第4段落)と判断したのであり,かかる判断に誤りはない。
(5) 取消事由5について 本件発明2〜4は,本件発明1に更に発明を特定するための事項を付加したものであるが,原告の取消事由5は,本件発明1についての本件決定の誤りのみを根拠とするものである。しかし,上記のとおり,本件発明1についての本件決定の認定判断に誤りはなく,原告の取消事由5の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(本件決定の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1について (1) まず原告は,刊行物1(甲3)には,「ほぐし液」として「水W」を収納した「麺類の包装容器」が示され,この「ほぐし液」として用いる「水W」に「調味料,アルコール等の添加物を加えておいてもよい」(段落【0016】)と記載されているだけで,「風味調味液」については記載も示唆もないから,刊行物1に「風味調味液」が記載されていると認定したものというべき本件決定は誤りであると主張する。
(2) しかし,本件決定は,刊行物1(甲3)について,「隔壁によって分離された麺収納凹所とつけ汁収納凹所を有する容器において,前記麺収納凹所の底壁に上げ底部を形成し,この上げ底部に縦横の溝を連通して設け,この溝内に多数のディンプルを設けたことを特徴とする麺類の包装容器」(【特許請求の範囲】の【請求項1】),「めん類の収納部,つけ汁の収納部,薬味類の収納部を分離して設けた合成樹脂成形容器に,それぞれゆがいた麺,つけ汁,薬味類を収納して包装した即席冷しそばや冷しうどんなどが販売されている。このような即席麺は,ゆがいた後流通している間に,互いに表面が付着してからまったまま塊状に集合してしまうため,箸でほぐすのがほとんど不可能になって非常に扱い難く,食するのに不便であるばかりか,・・・問題がある」(段落【0002】〜【0003】),「上記のような容器10を使用する場合には,図5に示すように,ゆがき麺Aを好ましくは1口大から2口大に小分けして,麺収納凹所11のリブ11hによって区別された区画に収納し,凹所12にはつけ汁,凹所13と14には海苔,ごま,わさび,刻みねぎ等の適当な薬味類を収納する。これらのつけ汁及び薬味類は小袋に包装した状態で収納してもよい。さらに,図6に示すような,平袋に水Wを20〜40cc程度を封入した小袋Bも収納しておく。この小袋Bは,蓋・・・に設けた凹所に収納してもよい。また,水Wに調味料,アルコール等の添加物を加えておいてもよい。そして蓋を容器10に嵌合するか,容器10を収納袋やラップフィルムで被覆して販売する。食卓に供する場合には,小袋Bを開封して水Wを麺Aにふりかける。そして箸で麺Aを凹所11の底壁に押し付けながら麺Aをさばく。・・・麺Aをさばいた後,薬味をつけ汁に混ぜる・・・。・・・刻みねぎのような薬味を凹所14からつけ汁収納凹所12に箸で押し出すだけでつゆ汁に混入することができる」(段落【0016】〜【0018】),及び「この発明によれば,以上のように,・・・麺にわずかの水をふりかけて箸で麺を揺するだけで容易に麺がほぐれ,」(段落【0019】)との記載を引用した上,「刊行物1において,蒸煮麺にかけてほぐすための水に調味料を加えるということは,おいしさを引き立たせることに他ならないから,刊行物1には,加熱調理せずに喫食する蒸煮麺と,蒸煮麺にかけてほぐすとともにおいしさを引き立たせるための調味料を加えた水と,該水をかけてほぐした蒸煮面をつけて喫食するつゆとを備えたものが記載されているといえる」(決定4頁第2段落)と認定しているのである。すなわち,刊行物1の「水W」に「調味料を加えたもの」,すなわち「調味料を加えた水」について,「蒸煮麺にかけてほぐす」とともに「おいしさを引き立たせる」ための「調味料を加えた水」であると認定している。そして,上記のとおり刊行物1には「水Wを麺Aにふりかけ・・・箸で・・・麺Aをさばく」,「麺にわずかの水をふりかけて箸で麺を揺するだけで容易に麺がほぐれ」と記載されていることからみて,「調味料を加えた水」を「蒸煮麺にかけてほぐす」ものであると認定したことに誤りはなく,また,調味料は,そもそも,調味すなわち味を調える目的で使われるものであるから,上記「調味料を加えた水」を「おいしさを引き立たせる」ものであると認定したことにも誤りはない。
(3) また原告は,本件決定は,「前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点を本件発明1と刊行物1発明との一致点として認定したのであるから,刊行物1に「風味調味液」が記載されていると認定したものというべきであると主張し,本件決定の上記一致点の認定が不正確であることは後記3(取消事由2について)のとおりであるが,これが本件決定の結論に影響を及ぼさないことは,次の取消事由2についての判断において説示するとおりである。
(4) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2について (1) 原告は,刊行物1には「風味調味液」については記載も示唆もないから,本件決定が本件発明1と刊行物1発明との一致点として「前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点を認定したことは誤りであると主張する。
(2) 本件決定は,本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比し,「両者は,「加熱調理せずに喫食する蒸煮麺と,該蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液と,該風味調味液をかけてほぐした蒸煮麺をつけて喫食するつゆとを備え,前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点で一致し,ただ,蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液が,前者では,「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるもの」であるのに対し,後者では,「調味料を加えた水」である点で相違する」(決定4頁第3段落)と認定しているから,「前記風味調味液が,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものであることを特徴とする風味調味液が添付された蒸煮麺」である点を両者の一致点と認定したものである。すなわち,本件決定は,刊行物1発明の認定においては,「調味料を加えた水」について「蒸煮麺にかけてほぐす」とともに「おいしさを引き立たせる」ための「調味料を加えた水」であると認定し,この認定に誤りがないことは上記2(2)のとおりであるが,本件発明1と刊行物1発明とを対比するに当たっては,「蒸煮麺をほぐす」とともに「おいしさを引き立たせる」ものを,「調味料を加えた水」の語を「風味調味液」と言い換えて,一致点として認定したものである。
ところで,昭和50年3月25日農林省告示第310号「風味調味料の日本農林規格」(甲10。以下「甲10告示」という。)によれば,「風味調味料」の用語は「調味料(アミノ酸等)及び風味原料に糖類,食塩等(香辛料を除く。)を加え,乾燥し,粉末状,か粒状等にしたものであって,調理の際風味原料の香り及び味を付与するものをいう」(第2条)と定義され,また,平成10年3月25日丸善発行「丸善食品総合図鑑」924頁〜925頁(乙1。以下「乙1文献」という。)及び平成3年4月20日真珠書院発行「調味料」200頁〜201頁(乙2。以下「乙2文献」という。)によれば,調味料の技術分野においては,「風味調味料」という一群の調味料があり,一般に「だしの素」といわれ,一般消費者にも周知のものであることが認められる。そうすると,「風味調味料を加えた水」を「風味調味液」ということは差し支えないとしても,刊行物1発明の「調味料を加えた水」は,「調味液」とはいえても,それだけで「風味調味液」ということは,上記「風味調味料」の定義からは不正確であるといわざるを得ない。しかし,本件決定は,上記一致点の認定に続けて,相違点として,「蒸煮麺にかけてほぐすための風味調味液が,前者では,「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるもの」であるのに対し,後者では,「調味料を加えた水」である点で相違する」と認定し,本件発明1の進歩性の判断に当たっては,上記認定の相違点について検討している。すなわち,「風味調味液」を両者の一致点として認定しながら,他方,相違点として,「風味調味液」の点を,本件発明1では「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるもの」すなわち「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」であり,刊行物1発明では「調味料を加えた水」であると各認定し,これを相違点として判断をしていることが,その説示から明らかである。したがって,本件決定の上記一致点の認定は正確性を欠くといわざるを得ないものの,刊行物1発明の「調味料を加えた水」が「風味調味液」と相違する点は,相違点についての判断において判断しているということができ,判断の遺脱はないのであるから,上記一致点の認定が不正確であることは,本件決定の結論に影響を及ぼさないから,この点は,本件決定を取り消すべき誤りであるとまではいえない。
(3) したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3について (1) 原告は,本件発明1は,「風味調味液」を,単に「調味液」として用いることを構成要件としているのではなく,「つけ麺」における「ほぐし液」として用いることにより,「つけ麺」において蒸煮麺をほぐすとともに,効果的な「風味付け」を行い,「おいしさを引き立たせた」麺の喫食を可能とすることを構成要件とするものであるから,本件発明1に係る風味調味液が「ダシ」の調製法により得られるものであったとしても,そのことから本件発明1の上記構成・効果が容易に想到し得るものではないと主張する。
(2) 本件決定は,本件発明1と刊行物1に記載の発明との相違点について,「本件発明1に係る風味調味液は,食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られるものであるところ,これは,一般的な料理法である「ダシ」の調製法と変わるところはない。しかるに,「ダシ」の調製法としては,この他に,水に調味料を添加することにより得ることも簡便な方法として周知であるから,水に調味料を添加した刊行物1に記載の風味調味液(「風味調味料」とあるのは誤記と認める。)に代えて,食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液(「風味調味料」は誤記と認める。)を用いることは,当業者にとって格別困難なことではない」(決定4頁下第3段落)と判断した。すなわち,相違点の「調味料を加えた水」を「水に調味料を添加した刊行物1に記載の風味調味液」と言い換えて,これに代えて「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」を用いることは容易であると判断したものであり,その根拠として,「ダシ」の調製法に,一般的な料理法と,水に調味料を添加することによる簡便な方法があり,その置換に困難性がないことを挙げている。
そこで,まず,本件発明1の「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」について検討する。本件明細書(甲2添付)には,以下の記載が認められる。
ア「風味調味液とは,食材である魚介類,海藻,畜肉,卵,骨,野菜,果実,穀類,豆類,酵母,きのこ等又はこれらの加工品を,調理加熱,抽出等することで取り出したエキス類,天然調味料類等の風味成分を含むものであり,蒸煮麺をほぐすとともにおいしさを引き立たせるものである。エキス類としては,肉,骨,魚介等の動物性,又はたまねぎ,にんにく,椎茸等の植物性が,天然調味料類としては,脱脂大豆等の蛋白質を加水分解して得られた植物蛋白分解物,又は魚肉,畜肉,鳥肉や骨,皮等を酸や酵素で加水分解して得られた動物蛋白分解物等が,主な風味成分となるが食材又はこれらの加工品由来であればいずれも使用できる。風味調味液は,食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得るが,この際に上記の風味成分を添加・配合することも可能である。」(段落【0007】) イ「【実施例1】枯宗田鰹厚削り(以下節)120gを2Lの沸騰湯中に投入し35分間抽出後,節を引きあげた。冷水にて速やかに冷却後,20mlをポリエチレン製袋に充填して本発明に係る風味調味液を得た。」(段落【0010】) ウ「【実施例2】そば粉200gを2Lの沸騰湯中で10分間加熱処理後,そば粉をろ過してから20mlをポリエチレン製袋に充填して本発明に係る風味調味液を得た。」(段落【0012】) エ「【実施例3】鍋に豚もも挽肉250gと同量の水を入れ馴染ませた後,水2Lを入れ長葱2本,生姜3片,グルタミン酸ナトリウム20g,イノシン酸ナトリウム1gを加え40分間煮込んだ。布を用いて漉したものから20mlを取り出し冷却後ポリエチレン製袋に充填し本発明に係る風味調味液を得た。」(段落【0013】) オ「【実施例4】すりおろしたにんにく20gを1Lの湯(90℃)中に投入し攪拌後,25mlをポリエチレン製袋に充填して本発明に係る風味調味液を得た。」(段落【0015】) 一般に,「食材」とは,料理の材料のことであり,加工されていない材料(野菜,魚など)ばかりでなく,様々に加工された材料(缶詰,乾物,豆腐など)も,料理の材料であれば「食材」というところ,上記記載アからみて,本件発明1の「食材又はその加工品」は「食材である魚介類,海藻,畜肉,卵,骨,野菜,果実,穀類,豆類,酵母,きのこ等又はこれら食材の加工品」であるとして,「食材」を「加工品」と対置し,「魚介類,海藻,畜肉,卵,骨,野菜,果実,穀類,豆類,酵母,きのこ等」の加工されていない材料について「食材」の用語を使用している。しかし,本件発明1の「食材又はその加工品」の用語からは,本件明細書の用法によっても一般的に「食材」とされている上記の加工された材料もすべて包含されることになるから,本件発明1の「食材」の用法が一般の用法と異なることは何ら問題を生じるものではない。また,記載アによれば,「食材又はその加工品」には,食材における一般的な加工がされたもののほか,天然調味料類を得るために食材の蛋白質を加水分解して蛋白加水分解物とするような,食材の原形がなくなるような加工をしたものも該当すると認められる。
次に,上記記載イ〜オからみて,具体的には,上記「食材又はその加工品」とは,例えば,かつお節の削り節の一種である枯宗田鰹厚削り,そば粉,豚肉,長葱,生姜,にんにくであり,上記「熱湯で調理加熱」とは,上記の食材又はその加工品を,沸騰湯中に所定時間置いたり,熱湯で煮たり,90℃の湯に混ぜることであり,上記「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」とは,例えば,枯宗田鰹厚削り(かつお節の削り節)の沸騰湯抽出液,そば粉の沸騰湯抽出液,豚肉と長葱と生姜の化学調味料入りのスープ,すりおろしたにんにくを90℃の湯に混ぜたものであることが認められ,このうち,かつお節の削り節の沸騰湯抽出液は,いわゆるかつお節のだし汁であると認められる。そして,かつお節のだし汁の簡便な代替品として,「風味調味料」いわゆる「だしの素」を熱水に溶かした即席のだし汁が周知であるので,これが,本件発明1の「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」に相当するかどうかを検討する。
甲10告示には,上記3(2)の記載に加えて,用語「風味原料」の定義として「かつおぶし,煮干魚類,こんぶ,貝柱,乾しいたけ等の粉末又は抽出濃縮物をいう」と記載されている。また,乙1文献には,「風味調味料 だしの素ともいう.即席のだし汁調製用に市販されているうま味調味料. 風味調味料にはJAS(日本農林規格) があり,また非JAS品については品質表示基準 が定められている.それらのなかで風味調味料は「調味料(アミノ酸 等)及び風味原料に糖類,食塩(香辛料を除く)を加え,乾燥し,粉末状,顆粒状等にしたものであって,調理の際風味原料の香り及び味を付与するものをいう」と定義されている.熱水あるいは水に溶かすだけでだし汁が得られる.風味原料はJAS品ではかつお節(そうだ節を含む),さば節,かつお(そうだかつおを含む)の抽出濃縮物ならびにこんぶ,貝柱および干ししいたけの粉末または抽出濃縮物に限定されているが,非JAS品ではその制限はない.しかしながら,だし汁の素材として従来よりかつお節がもっとも広く用いられてきたことに対応して,風味調味料においても,かつお節を主たる風味原料とするものが大部分を占めている.みそ汁などの汁もの,野菜の煮物,めんつゆをはじめとし和風料理全般に使用される.昭和40年前後に流通するようになったが,手軽に,安価に,だしの風味を楽しむことができるという簡便性,経済性,本格性が食生活意識にマッチして急進にその市場を広げた.世帯普及率は87%に達しており,まさに,みそ,しょうゆに匹敵する基本調味料としての位置づけを確立して現在に至っている」(924頁)と記載され,乙2文献には,「風味調味料 うま味調味料についで商品化されているものに風味調味料(JASで規格化)がある。これはうま味調味料に不足している天然ダシの風味をプラスしたもので,粉末のカツオ節,コンブ,干しシイタケを加えたり,天然ダシの濃縮エキス分を配合したものである。粉末状と顆粒状がある。添加した天然物が二〇%を超えるものでは「風味調味料(カツオ)」などと表示されている。一般にはダシの素と呼ばれるものである。食塩や糖類を配合したものが多いので,料理の調味には使用量に注意する必要がある」(200頁〜201頁)と記載されている。
これらの記載からみて,即席のだし汁に用いる「風味調味料」いわゆる「だしの素」は,風味原料にかつお節の抽出濃縮物や粉末を用いたもので,これらの風味原料は「食材又はその加工品」に該当し,即席のだし汁にするために熱水に溶かすことは,「熱湯で調理加熱」に相当するので,結局,「風味調味料」を熱水に溶かした即席のだし汁は,本件発明1の「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」に相当する。
以上をまとめると,本件発明1の「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」は,「食材である魚介類,海藻,畜肉,卵,骨,野菜,果実,穀類,豆類,酵母,きのこ等又はこれらの加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」であり,その具体例には,かつお節のだし汁や風味調味料を熱水に溶かした即席のだし汁が含まれることが認められる。
そこで,まず,「水に調味料を添加した刊行物1に記載の風味調味液」と言い換えられた刊行物1発明の「調味料を加えた水」を,本件発明1の「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」に該当する「風味調味料を熱水に溶かした即席のだし汁」に置換することが容易であるかどうかを検討する。
刊行物1(甲3)には,「調味料を加えた水」の「調味料」として,具体的にどのような調味料を用いるのかは記載されていないが,「調味料を加えた水」は,麺にふりかけて麺をほぐすもので,このほぐされた麺をつけ汁につけて食するものであるから,麺やつけ汁の風味と調和するものでなければならないことは明らかであり,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,各種調味料の中から適当な調味料を選択するものと認められる。 そして,刊行物1(甲3)には,「そばやうどん等の麺類」(段落【0001】),「海苔,ごま,わさび,刻みねぎ等の適当な薬味類」(段落【0016】),「薬味をつけ汁に混ぜる」(段落【0018】)と記載されていることから,刊行物1発明における「麺」とは,ざるそばやざるうどんの系統のもので,「つけ汁」は,この種の麺で通常用いられる,だし汁,醤油,砂糖などをベースとしたものと認められる。一方,「調味料」には,砂糖・味噌・醤油・塩・酢などの古くから用いられているもののほか,風味調味料(いわゆる「だしの素」),固形スープの素などがあり,いずれも広く用いられているところ,風味調味料はだしの風味を付与するものである(乙1文献,乙2文献)から,刊行物1に記載された麺やつけ汁の風味と調和するものであることが明らかである。したがって,「調味料を加えた水」の「調味料」として風味調味料を選択することは,当業者が容易に想到し得ることであり,その際,風味調味料を熱水あるいは水に溶かしてだし汁とすることは風味調味料の通常の使い方であることから,風味調味料をまず熱水に加えて溶かし,得られた即席のだし汁を「風味調味料を加えた水」とすることは,当業者が普通に採用することであると認められる。原告は,平成7年12月1日小学館発行「大辞泉」1743頁(甲9)の「【調味料】@調味に使う材料。砂糖・味噌・醤油・塩・酢など。A→化学調味料」の記載を引用し,「調味料」から「風味調味料」を直ちに読み取ることができないし,さらに,本件発明の作用効果を奏するような「風味調味料」を導き出すことも容易にできるものでもないと主張するが,甲9の上記記載が「調味料」の用語が「砂糖・味噌・醤油・塩・酢」と化学調味料に限定される趣旨をいうものと解することはできず,風味調味料は,調味料として一般的なものであり,これを選択することが当業者に容易なことは上記のとおりである。
次に,「水に調味料を添加した刊行物1に記載の風味調味液」と言い換えられた刊行物1発明の「調味料を加えた水」を,本件発明1の「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」に該当する「かつお節のだし汁」に置換することが容易であるかどうかを検討すると,「風味調味料を熱水に溶かした即席のだし汁」は,かつお節のだし汁の簡便な代替品であることが周知であり,一般に,本物とその簡便な代替品は,相互に置換可能なものと認識されるから,当業者は,刊行物1発明の「調味料を加えた水」として,「風味調味料を熱水に溶かした即席のだし汁」を容易に想到できる以上,このような代替品のだし汁のかわりに,本物のかつお節のだし汁を用いてみることも,容易に想到し得ることであり,「かつお節のだし汁」は,本件決定の「一般的な料理法である「ダシ」の調製法による風味調味液」に相当するものである。
(3) 以上のとおりであるから,相違点の判断について,「調味料を加えた水」に代えて,「食材又はその加工品を熱湯で調理加熱して得られる風味調味液」に該当する「一般的な料理法である「ダシ」の調製法による風味調味液」を用いることは容易であるとした,本件決定の判断に誤りはない。
(4) したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
5 取消事由4について (1) 原告は,実験報告書(甲4)を引用し,本件決定は本件発明1の顕著な作用効果を看過した誤りがあると主張し,その理由として,第3の1(4)エ(イ)〜(エ)の理由を挙げるので,以下検討する。
(2) 実験報告書(甲4)には,以下の記載がある。
・「4.実験の目的 本実験は,蒸煮によって糊化され時間の経過とともに塊となってほぐれが悪くなった麺を,加熱調理せずに「風味調味液」をかけてほぐし,つけタイプで食べることを可能にした本発明の効果,すなわち,喫食時に麺に「風味調味液」をかけて麺をほぐした後つゆにつけて喫食した時の効果と,「風味調味液」を「調味料入りの水」に換えて同様に喫食した時の効果の差異を明らかにするために実施されたものである。」(本文1枚目第4段落) ・「5.実験及び評価 5-1実験・評価方法 5-1-1「風味調味液」の作成 @かつお抽出だし(4%) かつお節厚削り40gを1000mlの90℃の熱水中に投入し,30分間抽出後,濾布にて濾過し,急速に冷却し,25mlをポリエチレン製袋に充填して風味調味液を得た。(25ml中に含まれる食塩相当量は0.03g程度)・・・ Aかつお抽出だし(8%) かつお節厚削り80gを1000mlの90℃の熱水中に投入し,30分間抽出後,濾布にて濾過し,急速に冷却し,25mlをポリエチレン製袋に充填して風味調味液を得た。(25ml中に含まれる食塩相当量は0.06g程度)・・・ Bかつおエキス 焼津水産化学工業社製かつおエキス「YSKアロマスター華(鰹節)」(かつおだし,糖類,食塩,酵母エキスからなる)2.0gを100mlの熱湯で溶解後,急速に冷却し,25mlをポリエチレン製袋に充填して風味調味液を得た。(25ml中に含まれる食塩相当量は0.03g程度)・・・ C粉末かつおだしの素 理研ビタミン社製粉末だしの素「無添加本かつおだし」(鰹節エキス,鰹節,昆布,椎茸エキス,澱粉,酵母エキスからなる)2.32gを100mlの熱湯で溶解後,急速に冷却し,25mlをポリエチレン製袋に充填して調味料入りの水を得た。(25ml中に含まれる食塩相当量は0.03g程度)・・・ 5-1-2「調味料入りの水」の作成 D化学調味料 グルタミン酸ソーダ0.39g,イノシン酸ナトリウム0.02g,食塩0.12gを100mlの熱湯で溶解後,急速に冷却し,25mlをポリエチレン製袋に充填して調味料入りの水を得た。(25ml中に含まれる食塩相当量は0.03g程度)・・・ Eアルコール エチルアルコール(95%)1mlを100mlの水で溶解し,25mlをポリエチレン製袋に充填して調味料入りの水を得た。(25ml中に含まれる食塩相当量は0g)」(本文1枚目第5段落〜2枚目だい4) また,「5-2喫食方法・評価方法」の項に試験の方法が,「5-3結果」の項に「ほぐれ持続性」と題する【表1-1】,「食味(つけつゆとの相乗効果)」と題する【表1-2】,「つけつゆとの相性」と題する【表1-3】及び「外観・食感」と題する【表1-4】が記載され,これらの表には「風味調味液」@〜Cと「調味料入りの水」D,Eのそれぞれをサンプルとした試験結果が記載されている。「ほぐれ持続性」についての【表1-1】では,「「風味調味液」「調味料入りの水」を麺にかけてほぐした直後のほぐれ性については,各試験区とも特に差はなかったが,ほぐしてから8分放置後,ほぐれ持続性を比較したところ,表1-1の結果となった」として,@〜Bは「やや麺のくっつき感があったが,箸で一口分を取り上げることができた」,Cは「@〜Bよりさらに多少ほぐれやすい状態だった」,DとEは「箸で持ち上げると一塊になっており,麺がくっついた状態になっていた」と記載されている。「食味」についての【表1-2】では,評点は,@とAが5段階評価の4点台(良好),次いでC,Bが3点台(普通),次いでD,Eが1点台(非常に悪い)ないし2点台(悪い)の順となっている。
「外観・食感」についての【表1-4】では,評点は,@とAが良く,次いでC,B,D,Eの順で,「外観コメント」は,@,Aは「麺につやがあり,最もよかった」,B,Cは「よかった」,D,Eは「麺のつやの消失が早く麺が白くふやけ気味だった」,「食感コメント」は,@〜Bは「問題なかった」,Cは「粉砕化した原料由来のざらざらした食感が口に残った」,DとEは「麺のふやけ感があり喉越しが悪い傾向があった」と記載されている。これらの記載からみて,実験報告書には,蒸煮麺にかけてほぐすための液として,「風味調味液」@〜Cのサンプルと「調味料入りの水」D,Eのサンプルを用意し,「ほぐれ持続性」,「食味(つけつゆとの相乗効果)」,「外観・食感」等を比較試験したこと,ここで,@,Aはかつお節のだし汁,Bはかつおエキスを溶かした即席のだし汁,Cは粉末かつおだしの素を溶かした即席のだし汁にそれぞれ相当するもので,Dは化学調味料を溶かした水,Eはエチルアルコールを溶かした水であること,試験の結果は,@,Aがよく,B,Cがそれに次ぎ,D,Eはこれらより劣ることが,記載されていると認められる。
ア 原告の主張(イ)ついて 原告は,本件発明1における「風味調味液」は,麺の「つけつゆ」として用いるものではなく,「つけ麺」における「ほぐし液」として用いて,その「風味付け」により優れた「食味」を呈するものであるから,「そばの「つけつゆ」は,かつお節風味のものが望ましいことは周知であるから,昆布の旨味成分であるグルタミン酸ソーダを主体としたものを使用している「調味料入りの水」よりも,かつお抽出だしを使用している本件発明1に係る「風味調味料」の方が「食味」で優れているのは当然のことである」(決定4頁最終段落〜5頁第1段落)とした本件決定の判断は誤りであると主張する。
しかし,ほぐし液として調味料を入れた水を用いること,すなわち調味液をほぐし液に用いることは,刊行物1(甲3)に開示されていることは上記2(2)のとおりであり,ほぐし液に風味調味液を用いることによる本件発明の効果が,予測し得ないものというることはできない。「食味」について,実験報告書(甲4)には,かつお節のだし汁に相当する@,Aのサンプルが良好,即席のだし汁に相当するB,Cのサンプルが普通でそれに次ぎ,化学調味料を溶かした水Dのサンプル及びアルコールを溶かした水Eのサンプルは悪いないし非常に悪いという結果が示されているが,@〜Cのサンプルをほぐし液としたものが,D,Eのサンプルをほぐし液としたものより食味がよいことは,@〜Cのサンプルの味や風味の特性から,これらが麺やつけ汁の風味と調和するものであることが明らかなので,当業者が予測し得る結果であるといえる。
したがって,原告の主張(イ)は採用できない。
イ 原告の主張(ウ)について 「外観・食感」についての実験報告書(甲4)の記載は前記のとおりであるが,このような,麺がふやけずに外観・食感がよいという効果は,本件明細書(甲2添付)に記載がなく,明細書の記載に基づかない主張であるから,失当というほかない。また,麺がふやけるかどうかは,「ほぐし液」のみならず,「麺」がどのようなものであるかに依存するから,本件発明1の発明特定事項構成に基づく効果とも認められない。
したがって,原告の主張(ウ)は採用できない。
ウ 原告の主張(エ)について 「ほぐれ持続性」について,実験報告書(甲4)には,ほぐしてから8分放置後について,化学調味料を溶かした水Dのサンプル及びアルコールを溶かした水Eのサンプルは「箸で持ち上げると一塊になっており,麺がくっついた状態になっていた」のに対し,かつお節のだし汁に相当する@,Aのサンプル及び即席のだし汁に相当するB,Cのサンプルは,「箸で一口分を取り上げることができた」という結果が示された。しかし,このような,ほぐしてから8分放置後に麺がくっつく程度が小さく麺を箸で取り上げることができるという効果は,本件明細書に記載がなく,明細書の記載に基づかない主張であるから,失当というほかない。また,8分放置後に麺がほぐしやすいか,くっついているかは,麺のふやけやすさや,ふやけたときの粘着性にも関係し,「ほぐし液」のみならず,「麺」がどのようなものであるかに依存するから,本件発明1の発明特定事項に基づく効果とも認められない。
したがって,原告の主張(エ)も採用できない。
エ 以上のとおりであるから,本件決定に本件発明1の顕著な作用効果を看過した誤りがあると認めることはできず,原告の取消事由4の主張は理由がない。
(3) したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。
6 取消事由5について 原告は,取消事由1ないし4を引用し,本件発明1に係る本件決定の認定判断が誤りであるから,本件発明1に従属する本件発明2〜4についての本件決定の進歩性の判断も誤りであると主張する。
しかし,取消事由1ないし4に理由がないことは既に判示したとおりであるから,原告の取消事由5の主張も理由がないことは明らかである。
7 結論 以上検討したところによれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉