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関連審決 異議1999-71853
関連ワード 発明者 /  方法の発明 /  29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  明瞭でない記載 /  共有 /  優先日 /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 /  国際公開 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 464号 特許取消決定取消請求事件
原告 三井化学株式会社
訴訟代理人弁理士 鈴木俊一郎、牧村浩次、鈴木亨、八本佳子、森栄五、辻野利 永子
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 村上騎見高、谷口浩行、森田ひとみ、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/07/02
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年異議第71853号事件について平成13年8月27日にした決定中「特許第2825910号の請求項1、4に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「オレフィン重合用固体触媒およびオレフィンの重合方法」とする特許第2825910号発明(特願平2-32090号。平成2年2月13日特許出願、平成10年9月11日設定登録)の特許権者である。
本件特許について異議申立てがあり、平成11年異議第71853号事件として審理され、平成12年9月26日に訂正請求がされた後、平成13年8月27日「訂正を認める。特許第2825910号の請求項1、4に係る特許を取り消す。
同請求項2ないし3に係る特許を維持する。」との決定があり、その謄本は、平成13年9月17日、原告に送達された。
2 本件発明(本訴審理の範囲に係る本件特許の請求項1及び4に係る発明)の要旨(「および」を「及び」と、「または」を「又は」と表記。以下同じ) (1) 請求項1に係る発明(本件発明1) [A1]SiO2、Al 2O 3及びMgOからなる群から選ばれる少なくとも一種の成分を主成分として含有する無機酸化物担体であって、150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とから形成されていることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。
(2) 請求項4に係る発明(本件発明4) 請求項第1項ないし第3項(判決注・請求項第2項、第3項に係る発明の記載は省略)のいずれかに記載のオレフィン重合用固体触媒の存在下に、オレフィンを重合又は共重合させることを特徴とするオレフィンの重合方法。
3 決定の理由の要点 (1) 訂正の適否 (1)-1 訂正の内容 ア.訂正事項a 特許請求の範囲の請求項1の 「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とから形成されていることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」を、
「[A1]SiO2、Al 2O 3及びMgOからなる群から選ばれる少なくとも一種の成分を主成分として含有する無機酸化物担体であって、150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物と から形成されていることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」と訂正する。
イ.訂正事項b 特許請求の範囲の請求項2の 「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とから形成されていることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒に、オレフィンを予備重合してなることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」を、
「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とから形成されているオレフィン重合用固体触媒に、オレフィンを予備重合してなることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」と訂正する。
ウ.訂正事項c 特許請求の範囲の請求項3の 「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とが含まれた懸濁液中でオレフィンを予備重合させることにより形成されることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」を、
「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とが含まれた懸濁液中でオレフィンを予備重合させることにより形成されることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」と訂正する。
エ.訂正事項d 明細書第5頁第4行(特許公報第2頁第3欄第44行)の 「[A]微粒子状担体と」との記載を、
「[A]微粒子状担体、例えば(判決注・原文に「たとえば」とあるのは「例えば」と表記。以下同じ)[A1]SiO2、Al 2O 3及びMgOからなる群から選ばれる少なくとも一種の成分を主成分として含有する無機酸化物担体であって、150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜2000μmの範囲にある微粒子状担体と」との記載に訂正する。
オ.訂正事項e 明細書第5頁第5〜6行(特許公報第2頁第3欄第45行)、第6頁第13〜14行(特許公報第2頁第4欄第21行)及び第7頁第16行(特許公報第2頁第4欄第41行)の「配位子を含み」との記載を、「配位子を1個含み」との記載に訂正する。
カ.訂正事項f 明細書第8頁第7〜14行(特許公報第3頁第5欄第3〜9行)の「少なくとも1個のLは……シクロアルカジエニル骨格」との記載を、「1個のLはシクロアルカジエニル骨格を有する配位子であり、シクロアルカジエニル骨格」との記載に訂正する。
キ.訂正事項g 明細書第9頁第11〜17行(特許公報第3頁第5欄第22〜27行)の「上記のようなシクロアルカジエニル骨格……結合されていてもよい。」との記載を削除する。
ク.訂正事項h 明細書第10頁第12行〜第14頁第10行(特許公報第3頁第5欄第41行〜第4頁第7欄第16行)の「以下、Mがジルコニウムである……遷移金属化合物を用いることもできる」との記載を削除する。
ケ.訂正事項i 明細書第24頁第14行(特許公報第5頁第10欄第50行)、第27頁第17行(特許公報第6頁第12欄第4行)、第27頁第19行(特許公報第6頁第12欄第6行)及び第28頁第9行(特許公報第6頁第12欄第14行)の「実施例1」との記載を、「参考例1」との記載に訂正する。
コ.訂正事項j 明細書第27頁第3行(特許公報第6頁第11欄第42行)の「実施例2」との記載を、「参考例2」との記載に訂正する。」 (1)-2 訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否、及び特許請求の範囲拡張変更の存否 上記訂正事項aないしcは、特許請求の範囲減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正事項d〜jは、上記訂正事項aないしcに付随的に生じる発明の詳細な説明の記載の不備を解消するものであって、明瞭でない記載釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲拡張し、又は変更するものではない。
(1)-3 訂正の可否に関するむすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則6条1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第3項において準用する特許法126条1項ただし書き、2項及び3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(2) 特許異議の申立ての概要 (2)-1 特許異議申立人日本ポリオレフィン株式会社(申立人1)は、異議甲第1号証(特願平3-503321号(特表平5-502906号公報))、異議甲第2号証(特開昭63-152608号公報)及び異議甲第3号証(特表平1-502036号公報)を提出し、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は特許法29条の2及び29条2項の規定に違反してなされたものであるから、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき旨、
(2)-2 特許異議申立人旭化成工業株式会社(申立人2)は、異議甲第1号証(特願平3-503321号(特表平5-502906号公報))、異議甲第2号証(特願平2-242861号(特開平3-139504号公報))、異議甲第3号証(特表平1-502036号公報)、異議甲第4号証(国際公開第88/05058号パンフレット)、異議甲第5号証(D.G.H.BALLARD, Transition Metal Alkyl Compounds as Polymerization Catalysts, JOURNAL OF POLYMER SCIENCE Polymer Chemistry Edition, Vol.13, pp.2191-2212(1975))、異議甲第6号証(V.A.Zakharov 及び Yu.I.Yermakov, CATAL. REV. -SCI. ENG., 19(1), pp.67-77)、異議甲第7号証(特開昭57-182303号公報)及び異議甲第8号証(特開昭54-148093号公報)を提出し、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許は特許法29条の229条1項3号及び29条2項の規定に違反してなされたものであるから、訂正前の請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき旨、
それぞれ主張している。
(3) 特許異議の申立てについての判断 (3)-1 本件発明 訂正明細書の請求項1に係る発明(本件発明1)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「[A1]SiO2、Al 2O 3及びMgOからなる群から選ばれる少なくとも一種の成分を主成分として含有する無機酸化物担体であって、150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物と から形成されていることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」 訂正明細書の請求項2に係る発明(本件発明2)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物と から形成されているオレフィン重合用固体触媒に、オレフィンを予備重合してなることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」 訂正明細書の請求項3に係る発明(本件発明3)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「[A]微粒子状担体と [B]シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物とが含まれた懸濁液中でオレフィンを予備重合させることにより形成されることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒。」 訂正明細書の請求項4に係る発明(本件発明4)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「請求項第1項ないし第3項のいずれかに記載のオレフィン重合用固体触媒の存在下に、オレフィンを重合又は共重合させることを特徴とするオレフィンの重合方法。」 (3)-2 引用発明 異議審が平成12年7月14日付で通知した取消しの理由に引用した特許出願(特願平2-242861号(特開平3-139504号公報=申立人2が提出した異議甲第2号証参照)明細書(引用明細書)には、
i)「1.次式 CpMXn+A-〔式中、Cpは任意に置換分を介してMに共有結合する、単一の η5-シクロペンタジエニル又は η5-置換シクロペンタジエニル基であり; Mは該シクロペンタジエニル又は置換シクロペンタジエニル基にη5結合様式で結合する周期律表の第3-10族(グループ)又はランタナイド系列の金属であり; Xはそれぞれの場合にハイドライドであるか又は20個までの非水素原子をもつ、ハロ,アルキル,アリール,シリル,ジヤーミル,アリールオキシ,アルコキシ,アミド,シロキシ,及びそれらの組合せ、及び20個までの非水素原子をもつ中性ルイス塩基リガンドから選ばれた部分であり;あるいは任意に1つのXはCpと一緒になってMと20個までの非水素原子との金属含有環を形成し; nはMの原子価に応じて1又は2であり;そして A-はブレンステツド酸塩の非配位性の相溶性アニオンである〕に相当するモノシクロペンタジエニル又は置換モノシクロペンタジエニル金属錯体含有化合物。
…… 5.Mがチタン又はジルコニウムである請求項1〜4のいづれか1項記載の化合物。
…… 9.Aがテトラキス・ペンタフルオロフエニルボレートである請求項1〜8のいづれか1項記載の化合物。
10.CpMXn+1(Cp,M,X及びnは請求項1に定義したとおりである)に相当する第1成分を式〔L-H〕+〔A-〕(Lは中性ルイス塩基であり、Aは請求項1に定義したとおりである)に相当する第2成分と不活性非プロトン性溶媒中で接触させることを含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物の製造法。
11.第2成分が式〔L-H〕+〔BQ4〕-(Lは中性ルイス塩基であり;Qはそれぞれの場合に独立に20個までの炭素のハイドライド,ジアルキルアミド,ハライド,アルコキサイド,……から選ばれる;ただしQハライドは1個以下である)に相当する請求項10記載の方法。
12.Qがそれぞれの場合にペンタフルオロフエニルである請求項11記載の方法。
13.第1成分がペンタメチルシクロペンタジエニルチタンジアルコキサイド又はペンタメチルシクロペンタジエニルチタンジアルキル(ただし該アルコキサイド基又は該アルキル基上には1〜4個の炭素が存在する)であり、第2成分がトリアルキルアンモニウムテトラキス・ペンタフルオロフエニルボレートである請求項12記載の方法。
…… 15.1種又はそれ以上の付加重合性モノマーを付加重合条件下で配位重合触媒と接触させることによってポリマーを製造する付加重合法において、該触媒が請求項1〜9のいづれか1項記載の化合物であることを特徴とする方法。
16.該モノマーがオレフイン、ジオレフイン又はアセチレン性化合物である請求項15記載の方法。
17.エチレンを均質重合させるか又はエチレンをC3〜C 8アルフアオレフインと共重合させる請求項16記載の方法。
……」(特開平3-139504号公報特許請求の範囲参照)と記載され、さらに、
ii)「本発明の化合物の製造に使用し得るモノシクロペンタジエル金属成分(第一成分)の例はチタン,ジルコニウム,ハフニウム……などの誘導体であるが、これらに限定されない。好ましい成分はチタン又はジルコニウムの化合物である。好適なモノシクロペンタジエニル金属化合物の例は、……例えばシクロペンタジエニルジルコニウムトリメチル,……シクロペンタジエニルチタントリメチル,……ペンタメチルシクロペンタジエニルハフニウムクロライド……などである。」(同公報第5頁左下欄第4行〜第6頁右上欄第2行参照)、
iii)「本発明の触媒の製造に特に有用なホウ素含有第2成分は次の一般式によって表わすことができる。
〔L-H〕+〔BQ4〕- ただし、Lは中性塩基であり;〔L-H〕+はブレンステツド酸であり;Bは原子価3の状態のホウ素であり;そしてQは前記定義のとおりである。
本発明の改良触媒の製造に第2成分として使用し得るホウ素化合物の例は次のとおりであるが、これらに限定されない: トリアルキル置換アンモニウム塩例えばトリエチルアンモニウムテトラフエニルボレート,……など。また、N,N-ジアルキルアニリニウム塩例えばN,N-ジエチルアニリニウムテトラフエニルボレート……など、;ジアルキルアンモニウム塩例えばジ-(i-プロピル)アンモニウムテトラキスペンタフルオロフエニルボレート……など;及びトリアリールホスホニウム塩例えばトリフエニルホスホニウムテトラフエニルボレート……など;も好適である。」(同公報第7頁左上欄第2行〜左下欄第1行参照)、
iv)「本発明の触媒を製造する際に起る化学反応は、好ましいホウ素含有化合物を第2成分として使用するとき、下記に示す一般式を参照することによって表わすことができる。
CpMXn+1 + 〔L-H〕+〔BQ 4〕- →〔CpMXn〕++〔BQ 4〕- + X-H + L 〔式中の……の意味をもつ。〕」(同公報第9頁右上欄第1〜6行参照)、
V)「この触媒は均一触媒として又は好適な担体(例えばアルミナ又はシリカ)に坦持させた触媒として使用することができる。」(同公報第9頁右下欄第2〜4行参照)、
vi)「触媒はエチレンを均一重合させるために又はエチレンとC3〜C8α-オレフイン(スチレンを包含する)と共重合させてコポリマーを作るために使用される。」(同公報第10頁左上欄第1〜4行参照)と記載されている。
同じく引用した刊行物(特表平1-502036号公報(申立人1が提出した異議甲第3号証、申立人2が提出した異議甲第3号証)。引用刊行物)には、
i)「1.(a)プロトンと反応し得る最低1箇の置換基を含むビス(シクロペンタジエニル)金属化合物から成り、その金属がチタニウム、ジルコニウム及びハフニウムから成る群から選択される最低1種類の第一化合物と、プロトンを与えることのできるカチオン及び共有結合で配位した複数の親油性基から成り、中心の電荷をもった金属又はメタロイド原子をおおう単独の配位錯化合物であって、かさが大きく、不安定で、二化合物間の反応の結果生成する金属カチオンを安定化することのできるアニオンから成る最低1種類の第二化合物とを、適当な溶媒又は希釈剤中で結合し; (b)段階(a)における接触を、第二化合物のカチオンによって提供されるプロトンが上記ビス(シクロペンタジエニル)金属化合物に含まれる置換基と反応できるだけの十分な時間続け; (c)活性触媒を直接生成物として、又は1種類又はそれ以上の直接生成物の分解産物として、段階(b)から回収する 各段階からなる触媒の製法。
…… 4.上記第二化合物が一般式〔L′-H〕+〔BAr1Ar 2X 3X 4〕-であらわされ、
ここで: L′は中性ルュイス塩基; Hは水素原子; 〔L′-H〕+はブレンステッド酸; Bは原子価状態3の硼素; Ar1及びAr 2は安定架橋基によって互いに連結する同じか又は異なる芳香族又は置換芳香族炭化水素基であり;X3及びX 4は、ハイドライド基、ハリド基、ヒドロカルビル及び置換ヒドロカルビル基、有機メタロイド基等から成る群から独立的に選択される 先行請求項のいづれか1項に記載の方法。
…… 11.2〜約18箇の炭素原子を含むα-オレフィン、ジオレフィン及び/又はアセチレン性不飽和モノマー及び/又は2〜約18箇の炭素原子を含むアセチレン性不飽和化合物を単独で、又は互いに組み合わせて、又は他のモノマーと組み合わせて重合する方法であって、
(a)2〜約18箇の炭素原子を含むオレフィン、ジオレフィン及び/又はアセチレン性不飽和化合物を単独で、又は互いに組み合わせて、又は互いに組み合わせて、
又は他のモノマーと組み合わせて、適当な担体、溶媒又は希釈剤中で、先行請求項いづれか1項に記載の方法によってあらかじめつくられたか或いは重合中にそのままの場所で(in situ)つくられた触媒と接触させ、
(b)段階(a)の接触を、1種類又は複数種類のモノマーの少くも一部を重合させるのに十分な時間続け; (c)ポリマー生成物を回収する 各段階から成る方法。
……」(特許請求の範囲)が記載され、さらに、
ii)「本発明の改良触媒の製造において第一化合物として有用な第IV-B族金属化合物;すなわちチタニウム、ジルコニウム及びハフニウム化合物は、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウムのビス(シクロペンタジエニル)誘導体である。」(第6頁左下欄第21〜25行)、
iii)「本発明の改良触媒の製造に用いられるビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物の例証的だが制限的でない実施例は、……ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジメチル、……ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジハイドライド……等である。
例証的ビス(シクロペンタジエニル)ハフニウム及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウム化合物の同様なリストも作成することができるが、それらのリストはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウム化合物に関して既に示したリストとほとんど同じであるから、そのようなリストは完全な開示には必要ないようにみえる。」(第7頁右上欄第1行〜第8頁右下欄第7行)、
iv)「本発明の改良触媒の製造において第二成分として用いられる硼素化合物の例証的だか制限的でない例は、トリアルキル置換アンモニウム塩、例えばトリエチルアンモニウムテトラ(フェニル)硼素……等;N,N-ジアルキルアニリニウム塩、例えばN,N-ジメチルアニリニウムテトラ(フェニル)硼素……等;ジアルキルアンモニウム塩、例えばジ(i-プロピル)アンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)硼素……等;及びトリアリールホスホニウム塩、例えばトリフェニルホスフォニウムテトラ(フェニル)硼素……等である。」(第9頁右下欄第6行〜第10頁左上欄第7行)、
v)「本発明の触媒の形成時におこる化学反応は、より好ましい硼素含有化合物が第二成分として用いられる場合は、ここに示す次のような一般式を参照してあらわされる: 1.(A-Cp)MX1X 2 + 〔L′-H〕+〔BAr 1Ar 2X 3X 4〕- → 〔(A-Cp)MX1〕+〔BAr 1Ar 2X 3X 4〕- + HX 2 +L′ 又は 〔(A-Cp)MX2〕+〔BAr 1Ar 2X 3X 4〕- + HX 1 +L′…… 上記の反応式において、数字は、有用な第IV-B族金属-メタロセン化合物(第一成分)の一般式と組み合わせて示される数字と対応する。」(第11頁右上欄第17行〜左下欄第9行)と記載されている。
(3)-3 本件発明1及び4についての対比・判断 (i) 引用明細書には、式CpMXn+A-で表される化合物であって、Cpは任意に置換分を介してMに共有結合する、単一のn5-シクロペンタジエニル又は n5-置換シクロペンタジエニル基であり、Mがジルコニウム、ハフニウム又はチタンであり、A-がテトラキス・ペンタフルオロフェニルフェニルボレート等のホウ素元素を含有するアニオンである化合物をオレフィンの重合又は共重合のための触媒とすることが記載されている。この化合物におけるCpMXn+は「シクロアルカジエニル骨格を有する配位子」に該当するから、この化合物は「シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物」であって、本件請求項1における[B]化合物とは異なるところがない。
さらに引用明細書には、該触媒をアルミナ、シリカ等の好適な担体に坦持して使用することも記載されている。そして、該「アルミナ、シリカ等」は「SiO2、
Al2O 3及びMgOからなる群から選ばれる少なくとも一種の成分を主成分として含有する無機酸化物」に相当する。そして引用明細書には、該「好適な担体」が「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」であることは明示されていないが、オレフィン重合用固体触媒に用いられる担体として「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」は本件出願前に周知慣用のものであるといえるから(例えば、米国特許明細書第4284527号、特開平1-101315号公報、特開昭61-296008号公報、特開昭63-89505号公報、特開昭55-3459号公報、特開昭53-3985号公報、特開昭52-117887号公報及び特開昭63-51405号公報参照)、引用明細書に記載の「好適な担体」は、実質的に、「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」をも意味しているというべきである。してみると、引用明細書に記載の微粒子状担体と本件請求項1における[A1]微粒子状担体とは異なるところがない。
なお、特許権者(原告)は平成13年5月1日付け回答書で、市販されている触媒担体の中には本件請求項1にいう担体とは異なる粒径のものがあることをもって、引用明細書に記載の「好適な担体」は本件請求項1にいう微粒子状担体とは異なる旨主張するが、オレフィン重合用固体触媒に用いられる担体をしてその粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体が周知である以上、同じくオレフィン重合用固体触媒に用いられる担体として本件請求項1にいう担体を排除すべき理由はない。
したがって、引用明細書には本件発明1のオレフィン重合用固体触媒が記載されているということができる。また、引用明細書には、該触媒を用いてオレフィンを重合又は共重合することも記載されているから、本件発明4の重合方法も記載されているということができる。
したがって、本件発明1及び4は、引用明細書に記載された発明と同一である。
また、引用明細書に係る特許出願の優先権主張の基礎とされた米国特許出願1989年第407169号の明細書には、引用明細書に記載の上記事項と同様の事項が記載されていると認められるから、引用明細書に係る特許出願は、特許法29条の2に規定する「当該特許出願の日前の他の特許出願」に該当するものである。
また、本件発明1及び4の発明者が引用明細書に記載された発明の発明者と同一の者であるとも、本件出願時においてその出願人が引用明細書に係る特許出願の出願人と同一であるとも認められない。
以上のとおりであるから、本件発明1及び4の特許は特許法29条の2の規定に違反してなされたものである。
(ii) 引用刊行物には、プロトンと反応し得る最低1個の置換基を含むビス(シクロペンタジエニル)金属化合物であって、該金属がジルコニウム、ハフニウム又はチタンである第一化合物と一般式〔L′-H〕+〔BAr1Ar 2X 3X 4〕-で表される、ホウ素元素を含有する第二化合物を適当な担体中で製造してオレフィン重合用触媒を製造する方法が記載されていると認められ、該方法で製造された触媒は、
シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を2個含みかつホウ素元素を含有するアニオンを含む、ジルコニウム、ハフニウム又はチタンから選ばれる遷移金属の化合物と担体から形成されてなる触媒に相当するものといえる。そして、引用刊行物には、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個とすることは記載されていないが、配位子の個数によって化合物の性質が異質なものとなるものではないことは当業界の技術常識であり、また本件明細書中には配位子の個数により触媒としての性質が異質なものとなることを示す記載もない。また、引用刊行物には、該「適当な担体」が「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」であることは明示されていないが、上記(i)に示したとおり、オレフィン重合用固体触媒に用いられる担体として「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」は本件出願前より当業者に周知慣用のものであると認められるから、引用刊行物に記載の「適当な担体」は、実質的に、「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」をも意味しているというべきであって、本件請求項1に記載の微粒子状担体と異なるところがない。
したがって、引用刊行物には本件発明1のオレフィン重合用固体触媒が記載されているということができる。また、引用刊行物には、上記触媒を用いてオレフィンを重合又は共重合することも記載されているから、本件発明4の重合方法も記載されているということができる。
したがって、本件発明1及び4は、引用刊行物に記載された発明である。
以上のとおりであるから、本件発明1及び4の特許は特許法29条1項3号の規定に違反してなされたものである。
(3)-4 本件発明2及び3についての対比・判断 特許異議申立人が証拠として提示した特願平3-503321号(特表平5-502906号公報参照)及び特願平2-242861号(特開平3-139504号公報)の願書に最初に添付された明細書のいずれにも、本件発明2及び3で規定する特定のオレフィン重合用固体触媒にオレフィンを予備重合してなることを特徴とするオレフィン重合用固体触媒は記載されていない。また、特許異議申立人が提出した刊行物である特開昭63-152608号公報、特表平1-502036号公報、国際公開第88/05058号パンフレット、D.G.H.BALLARD, Transition Metal Alkyl Compounds as Polymerization Catalysts, JOURNAL OF POLYMER SCIENCE Polymer Chemistry Edition, Vol.13, pp.2191-2212(1975)、V.A.Zakharov 及び Yu.I.Yermakov, CATAL. REV. -SCI. ENG., 19(1), pp.67-77、特開昭57-182303号公報及び特開昭54-148093号公報のいずれにも、オレフィン重合用固体触媒にオレフィンを予備重合して新たなオレフィン重合用固体触媒となすことにより、一般に優れた触媒が得られるとの記載はない。したがって、本件発明2及び3は、特許異議申立人が証拠として提示したいずれかの特許出願願書に添付された明細書に記載された発明でも、特許異議申立人が提出したいずれかの刊行物に記載された発明でも、特許異議申立人が提出した刊行物に記載された発明から容易に発明できたものでもないので、本件発明2及び3の特許は、特許法29条の229条1項3号及び29条2項のいずれの規定にも違反してなされたものではない。
(4) 決定のむすび 以上のとおりであるから、本件発明1及び4の特許は、特許法29条の2及び29条1項3号の規定に違反してされたものであり、特許法113条2号に該当し、
取り消されるべきものである。
また、本件発明2及び3の特許については、他に取消しの理由を発見しない。
原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(29条の2:本件発明1、4と引用明細書記載の発明との相違点の看過) (1) 本件発明1について (1)-1 担体について 本件発明1は[A1]及び[B]から構成されるが、引用明細書には[A1]についての記載がなく、またこれが実質的に記載されているとも認められない。
本件発明1では、[B]の担体として[A1]が用いられるのに対し、引用明細書では、ただ単に、「好適な担体(例えばアルミナ又はシリカ)」が用いられる旨開示しているにすぎず、担体がどのような性状及び粒径を有していることが必要であるかについては全く教示していない。また、引用明細書に記載されている実施例では、すべて担体は使用されておらず、当然のことながらこの担体がどのような温度で焼成されたものか、そしてまたどのような粒径を有するものであるかについて何ら記載すらされていない。
決定は、この点につき、「オレフィン重合用固体触媒に用いられる担体として『150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体』は本件出願前に周知慣用のものであるといえるから(中略)、引用明細書に記載の『好適な担体』は、実質的に、『150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体』をも意味しているというべきである。してみると、引用明細書に記載の微粒子状担体と本件請求項1における[A1]微粒子状担体とは異なるところがない。」と判断している。
しかしながら、ある触媒成分に用いられる担体として「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」が必ずしも周知であるとはいえず、ましてやホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒に用いられる担体として上記性状を有する微粒子状担体を用いることが周知であるとはいえない。
本件発明1は、ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒を用いることを特徴としているところ、本件出願日前に、このようなホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒を本件請求項1[A1]の微粒子状担体(例えばシリカ担体)に担持する際、該担体上の表面吸着水がホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒にどのような影響を与えるかについては、知られていなかったのである。このようなホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒を、例えばシリカ担体上に担持するに際して、シリカ担体を焼成すべきか、また焼成するとしたらどのような温度で焼成すべきか、さらにはどのような粒径を有するシリカ担体を用いればよいのかについては、いかなる刊行物にも記載されていないのであり、また当業者が上記事項を当然に予測し得るものではないから、本件出願日前の当業者にとって技術常識であるとは到底認められない。
被告は、本件請求項1における[A1]微粒子状担体が本件出願前に周知慣用のものであることの根拠として、乙第1〜第10号証を例示しているが、これらの刊行物に記載された発明のいずれも、ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒を用いるものではない。よって、たとえこれらの刊行物に、本件請求項1[A1]と同様の焼成温度や粒径が記載されていたとしても、ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒を担持する際の担体の焼成温度ないし粒径が記載されているとはいえない。
(1)-2 焼成について シリカに代表される無機酸化物担体は、その表面に水を吸着している場合があり、この表面吸着水を除去するか否かは、担持する触媒成分の種類等に応じて個々別々に決定されなければならない。担持する触媒成分が異なれば、焼成の要否や焼成温度は当然に異なるのである(例えば特開昭55-160728号公報(甲第6号証)参照)。
また、担持前の担体を焼成するか否かあるいは焼成する場合にどのような温度で焼成するかは担持触媒をどのような反応系に適用するかで異なるのが一般である(例えば特開昭55-145677号公報(甲第7号証)、特公平3-23563号公報(特開昭58-103510号公報)(甲第8号証)、特公昭49-9108号公報(甲第9号証)、特表平3-502210号公報(国際公開日:1990年(平成2年)5月17日。甲第10号証))。
そして、ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒を担体に担持するに際しては、本件出願日前には、ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒と、担体上に存在する吸着水あるいは表面水酸基とがどのような反応を起こすのかは知られておらず、当業者の技術的常識とはなっていなかったのである。とするならば、ある種のオレフィン重合用固体触媒に用いられる担体として、本件請求項1[A1]記載の焼成温度や粒径を有する微粒子状担体が仮に周知であるとしても、
ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒に用いられる無機酸化物担体の焼成温度や粒径が周知であるとは到底いえないことは明らかである。これらの事実は、本件発明1の出願日後に出願された特開平5-155926号公報(出願日1991(平成3)年12月11日。甲第11号証)にさえも、ホウ素元素を含有するアニオンを担体に担持する際にはシリカなどの担体を焼成することが記載されていないことからも、明らかである。
したがって、引用明細書に記載の「好適な担体」が本件請求項1記載の[A1]の焼成温度や粒径を有すると判断することはできず、よって、引用明細書には本件発明1で特定されるオレフィン重合用固体触媒が記載されているとする決定の判断は、誤りである。
被告は、「引用明細書には『触媒成分は水分と酸素の双方に敏感であり、不活性雰囲気・・・中で取り扱い及び搬送すべきである。』(引用明細書第8頁左下欄)と記載され、乙第1〜第10号証に示したオレフィン重合で使用される遷移金属化合物の触媒と同様に水分の存在に注意を払うべき触媒であることも開示されている。」と主張するが、引用明細書には、正確には「触媒成分は水分と酸素の双方に敏感であり」と記載されているのみであって、触媒成分から調製され担体に担持されるオレフィン重合用の触媒が水分と酸素の双方に敏感であるとは記載されていない。
(1)-3 粒径について 本件発明1で用いられる微粒子状担体の粒径が10〜200μmであることについても、決定は「オレフィン重合用固体触媒に用いられる担体をしてその粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体が周知である以上、同じくオレフィン重合用固体触媒に用いられる担体として本件請求項1にいう担体を排除すべき理由はない。」と判断するが、この判断も誤りである。
引用明細書には、どのような担体が適しているかについて本件請求項1[A1]のような具体的記載はないにもかかわらず、微粒子状担体の粒径が10〜200μmであることが引用明細書に記載されているといえるためには、引用明細書における「好適な担体」の粒径が当然に10〜200μmであるといえるほどに本件出願時に当業者の技術常識となっていることが必要である。ところが、そのような事実を認めることはできない。
例えば触媒担体用途に市販されているM.S.GEL(製造元:洞海化学工業株式会社)のカタログ(甲第12、第14号証)には、シリカ粒子の粒径3〜600μmの範囲で用途に応じた任意の粒度が選択可能であること、粒径5μm及び350μmのグレードのシリカ粒子が市販されていること、また粒径2〜6μm、2〜8μm、210〜500μmのシリカ粒子がDシリーズとして市販されていることが記載されている。甲第15号証(洞海化学工業株式会社の会社案内)、甲第16号証(M.S.GEL試験成績表の写しとその証明書)からも、本件出願当時、触媒担体として市販されていたシリカ担体の粒径が極めて一般的に10〜200μmであったとはいえない。
(1)-4 [A1]の構成の意義 甲第13号証(筒井俊之作成の実験報告書)によれば、下記の事項が明らかとなる。
イ)平均粒径が55μmであるシリカ担体(250℃焼成)を用いた場合には、
平均粒径が350μmであるシリカ担体(250℃焼成)を用いた場合と比較して、重合活性は著しく優れており、また嵩比重にも優れた重合体が得られる。
ロ)平均粒径が55μmであるシリカ担体を250℃で焼成した場合には、平均粒径が55μmであるシリカ担体を未焼成のまま用いた場合と比較して、重合活性に優れ、しかも嵩比重にも優れた重合体が得られる。
このように、本件発明1に係るオレフィン重合用固体触媒では、担体の焼成温度及び粒径は、オレフィンの重合活性に大きな影響を与えるものであって、単に「好適な担体(例えばアルミナ又はシリカ)」が用いられるとしか記載されていない引用明細書の記載が、本件発明1で用いられる「150〜1000℃で焼成され、その粒径が10〜200μmの範囲にある」担体を意味しているとはいえないことは明らかである。
甲第13号証によって確認された優れた効果を考慮すれば、単に「好適な担体(例えばアルミナ又はシリカ)」が用いられるとしか記載されていない引用明細書に、本件発明1の構成要件である「150〜1000℃で焼成され、その粒径が10〜200μmの範囲にある」担体を用いる発明が、完成された上で記載されていると認めることはできない。
(2) 本件発明4について 決定は「引用明細書には本件発明1のオレフィン重合用固体触媒が記載されているということができる。また、引用明細書には、該触媒を用いてオレフィンを重合又は共重合することも記載されているから、本件発明4の重合方法も記載されているということができる。」と判断するが、上述したとおり、引用明細書には本件発明1のオレフィン重合用固体触媒が記載されているとは認められないのであるから、引用明細書に本件発明4の重合方法が記載されていると認めることもできない。よって、本件発明4に関する決定の判断も誤りである。
2 取消事由2(29条1項3号:本件発明1、4と引用刊行物記載の発明との相違点の看過) (1) 本件発明1について 決定は、本件発明1が引用刊行物に記載された発明と同一であると判断するが、
誤りである。
引用刊行物に記載された発明で用いられる遷移金属化合物は、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を2個含んでいるのに対して、本件発明1及び4で用いられる遷移金属化合物は、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含んでおり、この点で両者は明確に相違している。本件発明1と引用刊行物に記載の発明との間には相違点が明確にある以上、明細書の記載を参酌して両発明の同一性を争う余地はなく、本件発明1が引用刊行物に記載された発明であるとの認定判断は誤りである。
決定の判断は、本件発明1の「1個含み」との請求項の記載を、「少なくとも1個含み」と解釈し、他の配位子としてシクロアルカジエニル骨格を有する配位子を有していてもよいことを前提とする議論である。しかしながら、本件発明1では、
請求項の記載から明らかなように、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子は「1個」に限定していると解するのが自然であり、かつ合理的である。請求項に「1個」と記載してあるものを、「2個」、「3個」、「4個」有すると解するのは不自然であり不合理である。
引用刊行物には、担体がどのような性状及び粒径を有するべきかについての記載も示唆もなく、当然のことながら、該「適当な担体」が「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」であることを示す実施例もない。
(2) 本件発明4について 引用刊行物には本件発明1のオレフィン重合用固体触媒が記載されていないのであるから、本件発明4の重合方法が記載されていると認めることもできない。よって、引用刊行物には本件発明4の重合方法が記載されているとする決定の判断も、
誤りである。
決定取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(29条の2:本件発明1、4と引用明細書記載の発明との相違点の看過)に対して (1) 150〜1000℃で焼成して得られ、その径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体が有機遷移金属化合物からなるオレフィン重合触媒の担体として普通に使用されるものであることは乙第1〜第10号証(乙第1〜第8号証は決定中で示した文献である)により周知であり、引用明細書の「好適な担体」は、このようなオレフィン重合反応における周知の担体を意味する。
触媒成分を付着させる前にあらかじめ1000℃までの適当な温度で焼成することは、特開昭61-296008号公報(乙第3号証)に記載のとおり、オレフィン重合用の触媒の担体であるシリカ等の無機酸化物は、その表面に遊離水やOH基が存在するが、それらは、主触媒の遷移金属化合物(カチオン)やアルモキサン等の助触媒(アニオン)等の触媒成分と反応するので、それを防止するための処理であり、乙第1〜第10号証に見るとおりこの処理を行うことが常識化している。また、その際の無機酸化物の粒径についても、例えば、乙第1号証〜第3号証、第5号証、第8、第9号証に市販のダヴィソン社製952酸化ケイ素(平均粒径54〜65μmのシリカ粒子)をオレフィン重合用触媒担体として用いることが記載されているように、粒径10〜200μmの範囲のものは、当業者が常套的に使用しているものである。
(2) 新規化合物を用いた触媒において、その触媒担体が、当該新規化合物を用いた触媒を担持する担体として当該新規化合物が公知となる以前から知られているということはそもそもあり得ないから、引用明細書に記載される「好適な担体」とは、原告の主張するような「ホウ素元素を含有するアニオンを含む遷移金属触媒に用いられる担体として」周知である担体ではあり得ず、引用明細書に記載される触媒が用いられるオレフィン重合反応分野で使用される触媒に対して「好適な担体」として引用明細書の特許出願前に周知慣用である担体として知られていたものを意味すると解するのが自然である。
(3) 引用明細書には「触媒成分は水分と酸素の双方に敏感であり、不活性雰囲気・・・中で取り扱い及び搬送すべきである。」(第8頁左下欄第1行〜3行)と記載され、乙第1〜第10号証に示したオレフィン重合で使用される遷移金属化合物の触媒と同様に水分の存在に注意を払うべき触媒であることも開示されている。
したがって、担体から水分の影響を取り除くための処理である加熱条件が異なる理由はない。
原告は、甲第6〜第11号証により表面吸着水の除去は触媒ごとに個別に決定されるべきであるとするが、甲第6、第7号証はオレフィン重合反応に関する触媒ではなく、甲第8,第9号証はオレフィン重合ではあっても有機遷移金属化合物を触媒とするものではない。甲第10、第11号証は本件出願後の公知となった特許出願明細書であるから、技術常識として参照する資料として適切ではなく、結局、いずれも、有機遷移金属化合物を担体に担持するに当たって担体中の水の影響を排除するため加熱処理を行うことが技術常識であることを否定する証拠にはなり得ない。
また、乙第1〜第3、第5、第8、第9号証に示されるとおりオレフィン重合触媒として使用される有機遷移金属の各種触媒はいずれも粒径10〜200μmの微粒子状担体に担持可能であり、触媒の種類により粒径の範囲が著しく異なるという事情はうかがえない。そもそも、触媒の担体とは、触媒を効率よく利用するために分散保持させる物質である(新山浩雄監修「触媒利用技術集成」平成3年12月20日 大学図書発行 451〜452頁(乙第11号証)第452頁)が、本件発明1、4の属するオレフィン重合用触媒の分野において触媒成分を微粒子状担体に担持する意義は乙第2,第9,第10号証(乙第2号証第2頁左上欄、乙第9号証第2頁、乙第10号証第2頁左上欄)に見られるように、担体が存在しないと、ポリマー粒子の原型となるべき触媒粒子が存在しないため、実質的にポリマー粒子の形成下に重合を行う気相重合に用いた場合、きれいな粒子形成反応が進行せず、ポリマーの凝集による塊状ポリマーの生成や、ポリマーの反応器壁への付着が起こり、長期正常運転が不可能である問題を解決するために提案されたものである。
したがって、引用明細書に記載される「好適な担体」は、この分野において通常好適な担体として周知の「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」を包含しているというべきである。
(4) 引用明細書に記載される「好適な担体」とは、引用明細書に記載の触媒が使用されるオレフィン重合反応分野における「好適な担体」と解すべきであって、上述したようにオレフィン重合用触媒の担体として好適である粒径は10〜200μmの範囲内であることが周知である以上、甲第12号証のように本件出願時に反応の種類を特定しない触媒担体用途として市販されていたシリカ粒子の中に粒径が10〜200μmから大きく外れるものもあったとしても、上記解釈は左右されるものではない。
(5) 甲第13号証は、「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」の一例である平均粒径が55μmであるシリカ担体(250℃焼成)が、引用明細書に記載される「好適な担体(例えばアルミナ、シリカ)」(公報第9頁右下欄第3行〜4行)に該当することを確認するとともに、「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」から外れる例である、平均粒径が350μmであるシリカ担体(250℃焼成)及び平均粒径が55μmであるシリカ担体(未焼成)が、引用明細書に記載される「好適な担体(例えばアルミナ、シリカ)」(公報第9頁右下欄第3行〜4行)には該当しないことを確認したものにすぎず、甲第13号証は、引用明細書に記載される「好適な担体」が「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」を意味しないとする根拠にはならない。
2 取消事由2(29条1項3号:本件発明1、4と引用刊行物記載の発明との相違点の看過)に対して 本件請求項1の「シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含み」との記載をみれば、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子は1個は必ず存在するが、
他に配位子は存在しても存在しなくてもよいと解することができ、しかも配位子が存在する場合は、その配位子は特定されたものではないのである。
そうであれば、「シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含み」との記載を、配位子はシクロアルカジエニル骨格を有する配位子のみが1個であると限定して解する必要はないから、他に配位子を有していると解することができ、この配位子として、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含むほかに、その他のシクロペンタジエニル化合物を配位子として有していると解することができるのである。
そして、本件発明1、4と引用刊行物に記載された発明とは、シクロアルカジエニル骨格を有する配位子を1個含む場合でかつ他にシクロペンタジエニル化合物を配位子として有する場合については、同一となる。
当裁判所の判断
取消事由1(29条の2:本件発明1、4と引用明細書記載の発明との相違点の看過)について判断する。
1 引用明細書の記載について (1) 原告は、「本件発明1は上記[A1]及び[B]から構成されるが、引用明細書には[A1]についての記載がなく、またこれが実質的に記載されているとも認められない。」と主張するので、この点について検討する。
甲第4号証によれば、引用明細書には、その特許請求の範囲に、「モノシクロペンタジエニル又は置換モノシクロペンタジエニル金属錯体含有化合物」の発明(請求項1〜9)、当該化合物の製造法の発明(請求項10〜13)、当該化合物をオレフィン等を重合する際の触媒として使用する方法の発明(請求項14〜18)が記載されており、発明の詳細な発明に、「好適な担体(例えばアルミナ又はシリカ)に担持させた触媒として使用することができる。」(第9頁右下欄第3〜4行)と記載されていることが認められる。これらの記載によれば、引用明細書には、オレフィン等を重合する際の触媒として使用されるモノシクロペンタジエニル又は置換モノシクロペンタジエニル金属錯体含有化合物自体に特徴がある発明が開示されており、当該化合物を担持するための担体が格別の意味を持ったものとして記載されているとは認められない。そうすると、引用明細書における「好適な担体」とは、触媒成分に応じて特別に選択されたものを意味するのではなく、引用明細書に係る特許出願の優先日(1989年9月14日)において、引用明細書記載の触媒と同じ用途であるオレフィン重合用の触媒担体として周知であったものを意味すると解するのが相当である。
引用明細書に係る特許出願の優先日前に公知となっていたことが明らかな乙第1〜第9号証には、オレフィン重合用触媒の担体について記載されており、具体的には、それぞれ、下記の事項が記載されていることが認められる。
◇ 乙第1号証(米国特許第4284527号明細書 1981年8月18日発行):「デビソン952シリカを流動床で150℃において乾燥した」(第6欄第28行〜29行、実施例 訳文2頁8行) ◇ 乙第2号証(特開平1-101315号公報 平成1年4月19日公開):「成分(A)に使用される多孔性無機酸化物担体は、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウムなどの公知の無機金属酸化物であり、・・・平均粒径10〜80μの粒子が好ましい。これらは通常表面水を吸着しているので、脱水乾燥(窒素又は空気雰囲気中では150〜900℃程度で行うことができる)して、表面水を除去して使用する。」(第2頁右下欄第2行〜10行)、窒素気流中、600℃で4時間乾燥したデビソン社製952シリカを用いること(第4頁左下欄第3行〜4行、実施例)。 ◇ 乙第3号証(特開昭61-296008号公報):「金属酸化物は一般的に酸性の表面水酸基を持っておりこれが反応溶媒中に始めに加えられるアルモキサン又は遷移金属化合物と反応する。使用前に、無機酸化物支持体を脱水する。すなわち、熱処理をして水分を除き表面水酸基の濃度を減少させる。この処理は真空中又は窒素のような不活性ガスの乾いたもので追い出しながら、約100℃から約1000℃、好ましくは約300℃から約800℃の温度で実施される。」(第5頁右上欄第1行〜9行)、「支持体の粒子の大きさを変えるとポリマー粒子の大きさを変えられることがわかっているプロセスである・・・。
一般的に・・・好ましくは約30から100ミクロン・・・を使用すれば最適な結果が通常得られている。」(第9頁右上欄第1〜13行)、800℃にて5時間乾燥窒素気流中で脱水したダビソン952シリカを用いること(第11頁左下欄第16行〜17行、実施例)。
◇ 乙第4号証(特開昭63-89505号公報):「上記無機担体としては無機酸化物が好ましく、具体的にはSiO2、Al 2O 3、
MgO・・・などを例示することができる。」(第6頁左上欄第11行〜17行)、 「本発明に好ましく用いられる担体は粒径が10ないし300μ、好ましくは20ないし200μ・・・である。該担体は、通常150ないし1000℃、好ましくは200ないし800℃で焼成して用いられる。」(第6頁右上欄第6行〜12行) 、平均粒径70μのシリカを300℃で4時間焼成したものを使用すること(第9頁右上欄下から第5行〜下から第3行、実施例)。
◇ 乙第5号証(特開昭55-3459号公報):「該炭化水素不溶性生成物を製造するために用いられる無機酸化物は酸化ケイ素、
酸化アルミニウム・・・酸化マグネシウム・・・である。・・・また平均粒度が1〜1000ミクロンの粒径を有するものが好適である。」(第3頁左下欄第2行〜12行)、「炭化水素不溶性反応生成物を製造するには、使用される無機酸化物の吸着水を製造以前においてあらかじめ除去するのがよい。この除去方法(乾燥方法)は、一般には、100℃〜200℃の温度において乾燥した空気を用いて無機酸化物を静置あるいは流動させながら乾燥する方法が用いられる。しかし必要に応じて、さらに高温の650℃以下の温度で焼成する方法を用いることもできる。」(第5頁左下欄第11行〜18行)、ダヴイソン社製952酸化ケイ素が平均粒径54〜56μmのシリカであること(第8頁右下欄第13〜15行)。 ◇ 乙第6号証(特開昭53-3985号公報):「過去においては、担体への遷移金属化合物の付着前に該担体をそこから遊離水を除去するために先ず乾燥し、次いで該担体を少なくとも300℃の温度好ましくは500〜850℃の範囲内の温度において少なくとも4〜8時間活性化することが必要であることが分っていた。この活性化工程は、担体からOH基を除き、そして遷移金属化合物の付着に対する活性箇所を提供する。」(第2頁右下欄第2〜10行) ◇ 乙第7号証(特開昭52-117887号公報):「これらの触媒を工業目的に対して有用ならしめるためには、現在では、これらの反応においては、いずれの場合もまず担体を乾燥して遊離水分を除去し、次いで遷移金属化合物の坦持前又は坦持後に担体を≧300℃程度の温度、好ましくは500〜800℃の温度で少なくとも8時間にわたって活性化させる必要のあることがわかった。」(第2頁右上欄第1〜8行) ◇ 乙第8号証(特開昭63-51405号公報):「無機酸化物担体中には物理的に吸着した水が存在しない方が好ましく、従って200ないし800℃で1ないし24時間焼成して用いるとよい。また、この無機酸化物担体として平均粒径が通常1ないし500μm、好ましくは5ないし100μm、特に10ないし50μmのものを用いるのが好ましい。」(第6頁右上欄第5行〜11行) ◇ 乙第9号証(特開昭61-108610号公報):「本発明に好ましく用いられる担体は・・粒子径が100μm以下のものである。・・・表面の吸着水や水酸基は極力少ないことが好ましく、・・・焼成温度は500〜800℃が好ましく・・。」(第3頁右上欄第1行〜16行) 以上、乙第1〜第9号証の記載からすると、「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」は、引用明細書に係る出願の優先日前にオレフィン重合用触媒の担体として周知であったことが認められる。(焼成とは、鉱物加工工業において行われる高温処理のことをいうので、
乙第1、第2、第7号証における「乾燥」、乙第3号証における「熱処理」、乙第6号証における「活性化」も、その温度条件からみて「焼成」に当たると解される。) そうすると、引用明細書には、乙第1〜第9号証に記載されたような周知の担体を使用した触媒が実質的に記載されているということができる。
(2) 原告は、甲第6〜第11号証に依拠して、「シリカに代表される無機酸化物担体は、その表面に水を吸着している場合があり、この表面吸着水を除去するか否かは、担持する触媒成分の種類等に応じて個々別々に決定されなければならない。
担持する触媒成分が異なれば、焼成の要否や焼成温度は当然に異なるのである。また、担持前の担体を焼成するか否かあるいは焼成する場合にどのような温度で焼成するかは担持触媒をどのような反応系に適用するかで異なる。」などと主張する。
しかしながら、甲第6号証(特開昭55-160728号公報)は、炭化水素の製造に用いられる触媒について記載したものであり、甲第7号証(特開昭55-145677号公報)は酸化エチレンの製造に用いられる触媒について記載されたものであって、いずれもオレフィン重合用触媒の担体についての技術常識の認定に影響を及ぼすものではない。また、甲第10号証(特表平3-502210号公報。
1990年5月17日に国際公開パンフレットが公開されている)及び甲第11号証(特開平5-155926号公報)は引用明細書に係る出願の優先日後に公開された文献であって、引用明細書に係る出願の優先日当時の技術常識を示すものではない。さらに、甲第8号証(特公平3-23563号公報。昭和58年6月20日に公開公報が公開されている。)にはオレフィン重合体の製造に用いられる触媒の担体として「乾燥窒素気流中、600℃で3時間焼成した富士デビソン社製シリカ(♯952)」(実施例1)と「加熱処理を施さない富士デビソン社製シリカ(♯952)」(実施例2)が併記されており、甲第9号証(特公昭49-9108号公報)にはオレフィン重合体の製造に用いられる触媒の担体として市販のシリカをそのまま用いることが記載されている(実施例1)が、これらは、オレフィン重合用触媒の担体として[A1]を満足しないものも引用明細書に係る出願の優先日当時公知であったということを示すにとどまり、引用明細書に係る出願の優先日当時「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」がオレフィン重合用触媒の担体として周知であったという認定に影響を及ぼすものではないし、当該周知の担体を使用した触媒が引用明細書に実質的に記載されているとの認定を妨げるものでもない。
(3) 原告は、「微粒子状担体の粒径が10〜200μmであることが引用明細書に記載されているといえるためには、引用明細書における『好適な担体』の粒径が当然に10〜200μmであるといえるほどに本件出願時に当業者の技術常識となっていることが必要である。」などと主張するとともに、甲第12号証、甲第14〜第16号証を提出し、シリカ担体の粒径が一般的に10〜200μmの範囲であったというのが当業者の技術常識ではなかったと主張する。
しかしながら、甲第12、第14〜第16号証が、オレフィン重合触媒担体用としてのシリカの中ではなく、反応の種類が特定されていない触媒担体を始めとする様々な用途に使用されるシリカの中に、10〜200μmを外れる粒径のものが存在することを示すことはあっても(甲第12、第14号証の第1、2頁目、甲第15号証の6頁目など)、そのことから、引用明細書に係る特許出願時において、
「150〜1000℃で焼成して得られ、その粒径が10〜200μmの範囲にある微粒子状担体」がオレフィン重合用触媒の担体として周知であったとの認定が左右されるものではない。
2 本件発明1における[A1]の技術的意義について (1) なお、本件発明1の[A1]が格別の技術的な意義を有するものである場合には、[A1]がオレフィン重合用触媒の担体として周知であっても、[A1]を特定することにより、引用明細書記載の発明とは別異の発明(選択発明)を構成することはあり得るので、[A1]がそのような技術的意義を有するものであるか否かについて、以下検討する。
(2) 本件発明1の[A1]について、甲第3号証によれば、本件明細書には、
「本発明では、微粒子状担体として、平均粒径が通常1〜300μm好ましくは10〜200μm範囲にある微粒子状無機担体又は微粒子状有機担体が用いられる。
上記微粒子状無機担体としては、酸化物が好ましく、具体的にはSiO2、Al 2O3、MgO、ZrO 2、TiO 2又はこれらの混合物が用いられる。これらの中で、
SiO2、Al 2O 3及びMgOからなる群から選ばれた少なくとも1種の成分を主成分として含有する担体が好ましい。このような無機酸化物担体は、通常150〜1000℃、好ましくは200〜800℃で2〜20時間焼成して用いられる。」(全文訂正明細書第4頁第2〜9行)と記載されているだけで、[A1]を選択したことの技術的意義についての記載はない。また、本件明細書における実施例と比較例とは、[A1]の要件を満足する担体を用いた場合と[A1]の要件を満足しない担体を用いた場合とを対比したものではなく、[A1]の要件を満足する担体を用いた場合と担体を用いなかった場合とを対比したものであるから、実施例と比較例の対比からも、周知の担体の中から[A1]の要件を満足する担体を選択したことの技術的意義、すなわち担体を特定温度で焼成したことや粒径範囲の特定をしたことによる技術的意義を認めることはできない。
(3) 原告は甲第13号証(平成14年1月15日作成の実験報告書)に基づき、
[A1]の有する技術的意義について、イ)平均粒径が55μmであるシリカ担体(250℃焼成)を用いた場合には、平均粒径が350μmであるシリカ担体(250℃焼成)を用いた場合と比較して、重合活性は著しく優れており、また嵩比重にも優れた重合体が得られ、ロ)平均粒径が55μmであるシリカ担体を250℃で焼成した場合には、平均粒径が55μmであるシリカ担体を未焼成のまま用いた場合と比較して、重合活性に優れ、しかも嵩比重にも優れた重合体が得られると主張する。
しかしながら、上述したように、本件明細書には、[A1]の有する選択発明たるべき技術的意義、すなわち、担体を特定温度で焼成したことや粒径範囲の特定をしたことによる技術的意義についての記載は認められないし、原告主張の技術的意義が、明細書に記載するまでもなく当業者に自明なものであると認めることもできないので、[A1]の技術的意義に関する原告の主張は、本件明細書の記載に基づかないものとして採用することはできず、甲第13号証によっても、この判断を左右するものではない。
3 まとめ 以上のとおり、引用明細書には、[A1]の要件を満足する周知の担体を使用した触媒が実質的に記載されており、本件発明1が、引用明細書に記載された発明と別異の発明を構成するような格別の技術的意義を有するとも認められないから、本件発明1が引用明細書に記載された発明と同一であるとした決定の判断に誤りはなく、また、本件発明4が引用明細書に記載された発明と同一であるとした決定の判断にも誤りはない。
そして、この決定の判断に誤りがない以上、その余の取消事由について判断するまでもなく、本件発明1、4に係る特許を取り消した決定部分の取消しを求める原告の請求は棄却を免れない。
結論
以上のとおりであり、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成14年6月18日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実