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事件 平成 13年 (ワ) 21677号 特許権侵害差止等請求事件
原告 株式会社ウエスタン・アームス
訴訟代理人弁護士 小林幸夫
補佐人弁理士 神原貞昭
被告 株式会社東京マルイ
被告 株式会社さくらや
被告 株式会社ホビーベースイエローサブマリン
被告 株式会社マルゴー
被告 株式会社エス・ケー・シー
被告 有限会社ホビーショップフロンティア
被告 株式会社ドン・キホーテ
被告 株式会社ダイクマ
上記被告ら8名訴訟代理人弁護士 湊谷秀光
同 中島茂
同 栗原正一
同 浅見隆行
補佐人弁理士 井澤洵
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/07/11
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
【被告株式会社東京マルイに対する請求】 1 被告株式会社東京マルイは,別紙物件目録記載の玩具銃を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 被告株式会社東京マルイは,その占有する前項の玩具銃及びその半製品を廃棄し,同玩具銃の製造に用いる設備を除去せよ。
3 被告株式会社東京マルイは,原告に対し,4億3929万6000円及びこれに対する平成13年9月10日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【被告株式会社さくらや,被告株式会社ホビーベースイエローサブマリン,被告株式会社マルゴー,被告株式会社エス・ケー・シー,被告有限会社ホビーショップフロンティア,被告株式会社ドン・キホーテ及び被告株式会社ダイクマに対する請求】 1 被告株式会社さくらや,被告株式会社ホビーベースイエローサブマリン,被告株式会社マルゴー,被告株式会社エス・ケー・シー,被告有限会社ホビーショップフロンティア,被告株式会社ドン・キホーテ及び被告株式会社ダイクマは,別紙物件目録記載の玩具銃を販売し,又は販売のために展示してはならない。
2 被告株式会社さくらや,被告株式会社ホビーベースイエローサブマリン,被告株式会社マルゴー,被告株式会社エス・ケー・シー,被告有限会社ホビーショップフロンティア,被告株式会社ドン・キホーテ及び被告株式会社ダイクマは,それぞれ,その占有する前項の玩具銃を廃棄せよ。
3(1) 被告株式会社さくらやは,原告に対し,307万2000円及びこれに対する平成13年9月8日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告株式会社ホビーベースイエローサブマリンは,原告に対し,122万8800円及びこれに対する平成13年9月8日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告株式会社マルゴーは,原告に対し,716万8000円及びこれに対する平成13年9月8日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告株式会社エス・ケー・シーは,原告に対し,409万6000円及びこれに対する平成13年9月9日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告有限会社ホビーショップフロンティアは,原告に対し,409万6000円及びこれに対する平成13年9月8日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告株式会社ドン・キホーテは,原告に対し,712万7040円及びこれに対する平成13年9月8日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告株式会社ダイクマは,原告に対し,417万7920円及びこれに対する平成13年9月8日(内容証明郵便の到達した日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
被告株式会社東京マルイは,別紙物件目録記載の玩具銃(以下「被告製品」という。)を製造・販売し,被告株式会社さくらや,被告株式会社ホビーベースイエローサブマリン,被告株式会社マルゴー,被告株式会社エス・ケー・シー,被告有限会社ホビーショップフロンティア,被告株式会社ドン・キホーテ及び被告株式会社ダイクマは,被告製品を販売しているところ,原告は,被告製品が原告の有する特許権の発明の技術的範囲に属し,その製造・販売が原告の特許権を侵害すると主張して,被告製品の製造・販売等の差止め等及び損害賠償の支払を求めている。
1 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及びこれにより容易に認定できる事実)(1)原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有する。
特許番号 第2871581号 発明の名称 自動弾丸供給機構付玩具銃 出願日 平成5年5月17日 登録日 平成11年1月8日(2)特許請求の範囲 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲1〕を参照。)における特許請求の範囲のうち,【請求項1】の記載は,次のとおりである(以下【請求項1】に係る発明を「本件発明」という。)。
「グリップ部内に配される弾倉部と,上記グリップ部内に配される蓄圧室と,銃身部の後端部分に設けられて上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室と,上記銃身部に沿って移動可能に配されたスライダ部と,該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられた圧力室形成部と,上記装弾室と上記圧力室形成部との間に配されて,上記スライダ部の移動に伴う往復移動を行い,該往復移動によって上記弾倉部の一端から上記装弾室へ弾丸を供給する可動部材と,上記蓄圧室から上記可動部材に向かって伸びるガス導出通路部を開閉制御し,上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれることになる状態を選択的にとるガス通路開閉部と,上記可動部材内に移動可能に設けられ,該可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記装弾室に至る第1のガス通路部を開状態として,上記蓄圧室からのガスが上記装弾室に供給される状態となし,その後,上記第1のガス通路部を閉状態として,上記蓄圧室からのガスが上記可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記圧力室形成部に至る第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となすガス通路制御部と,上記装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガ部に連動した回動を行って上記ガス通路開閉部に押圧移動を行わせ,該押圧移動により上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれる状態となすハンマ部と,を備えて構成される自動弾丸供給機構付玩具銃。」(3)本件発明の分説 本件発明の特許請求の範囲は,次のとおり分説することができる(以下,分説されたそれぞれを,「構成要件A」などという。)。
A グリップ部内に配される弾倉部と, B 上記グリップ部内に配される蓄圧室と, C 銃身部の後端部分に設けられて上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室と, D 上記銃身部に沿って移動可能に配されたスライダ部と, E 該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられた圧力室形成部と, F @ 上記装弾室と上記圧力室形成部との間に配されて,上記スライダ部の移動に伴う往復移動を行い, A 該往復移動によって上記弾倉部の一端から上記装弾室へ弾丸を供給する B 可動部材と, G @ 上記蓄圧室から上記可動部材に向かって伸びるガス導出通路部を開閉制御し, A 上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれることになる状態を選択的にとる B ガス通路開閉部と, H @ 上記可動部材内に移動可能に設けられ, A 該可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記装弾室に至る第1のガス通路部を開状態として,上記蓄圧室からのガスが上記装弾室に供給される状態となし, B その後,上記第1のガス通路部を閉状態として,上記蓄圧室からのガスが上記可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記圧力室形成部に至る第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす C ガス通路制御部と, I @ 上記装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガ部に連動した回動を行って上記ガス通路開閉部に押圧移動を行わせ, A 該押圧移動により上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれる状態となす B ハンマ部と,を J 備えて構成される自動弾丸供給機構付玩具銃。
(4)被告製品と本件発明の構成要件との対比 ア 被告製品の構成は別紙「被告製品静止断面図」のとおりであり,その動作は別紙「被告製品動作図」の図1〜10のとおりである(ただし,被告らは,別紙「被告製品動作図」の図4については,ガスがチャンバーに供給された状態ではシリンダーバルブ25は若干前進していること,同図5については,弾丸がチャンバーから押し出された状態ではスライド50が若干後退していることを指摘し,その限度では図4,図5を争っている。以下,被告製品については,これらの図に記載された名称,番号を記載する。)。
イ 被告製品は,本件発明の構成要件A〜D,F,G@B,I,Jを充足する(被告は,この点を明確に争うことをしない。)。
ウ 被告製品は,本件発明の構成要件Eを充足する。すなわち,構成要件Eは,「該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられた圧力室形成部と,」というものであるが,この「圧力室形成部」は,その文言から,ガス圧が供給される室である圧力室を形成する部分を意味すると解するのが相当であるところ,被告製品においては,ピストンカップ51とシリンダー52とを含む部分が,ガス圧が供給される室である圧力室を形成する部位に当たるから,この部分が「圧力室形成部」に相当するというべきである(この点につき,被告らは,ピストンカップ51とシリンダー52とは全く異なった機能を有するし,また,シリンダー52はシリンダー54と一体の部材なのであるから,こうした部分を「圧力室形成部」に当たるとみることはできないと主張するが,ピストンカップ51とシリンダー52は,部材としてはそれぞれ異なった機能を有するものの,ピストンカップ51とシリンダー52とによって圧力室形成部を構成していることに変わりはないし,また,シリンダー52はシリンダー54と一体の部材であるものの,たとえ一体の部材であっても各々が果たす役割,機能が異なる場合はそれに応じて個別の部分として取り扱うことができるというべきところ,シリンダー52はシリンダー54とその果たす役割,機能は異なっているといえるものである。被告らの上記主張は,採用できない。なお,被告らも,構成要件Eの趣旨が,スライダ部内の銃身部後方部分にガスが供給される空間があるとの趣旨であれば,これを認める,としている。)。
(5)被告らの行為 株式会社東京マルイは,被告製品を業として製造・販売し,被告株式会社さくらや,被告株式会社ホビーベースイエローサブマリン,被告株式会社マルゴー,被告株式会社エス・ケー・シー,被告有限会社ホビーショップフロンティア,被告株式会社ドン・キホーテ及び被告株式会社ダイクマは,被告製品を業として販売している。
2 本件における争点(1)被告製品が,本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)(2)損害賠償の額(争点2) 3 争点に関する当事者の主張(1)争点1(被告製品が,本件発明の技術的範囲に属するか) 【原告の主張】 ア 構成要件GAの充足性 構成要件GAは,「上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれることになる状態を選択的にとる」という文言であるところ,「選択的にとる」とは常時とるのではなく状況に応じて選んでとるという意味であるから,上記文言は,「上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれることになる状態」とそうでない状態とをとり得ることを前提に,「上記蓄圧室からのガスが‥‥‥導かれることになる状態」を状況に応じて選んでとる,という意味である。つまり,上記文言は,蓄圧室からのガスが,ガス導出通路部を通じて可動部材内まで供給される状態と無供給の状態とを,ガス通路開閉部がガス導出通路部を開閉制御することによって,選択的にとる,ということを表したものである。
被告製品においては,放出バルブ35aがガス導出通路部を開閉制御することによって,蓄圧室33からのガスがガス導出通路部を通じてシリンダー52,54内へと導かれることになる状態を選択的にとるものであるから,構成要件GAを充足する。
構成要件Hの充足性(ア)構成要件Hのうち,HBは,「その後,上記第1のガス通路部を閉状態として,上記蓄圧室からのガスが上記可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記圧力室形成部に至る第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」という文言であるところ,「第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」との記載は,構成要件HAの「蓄圧室からのガスが上記装弾室に供給される状態となし」に対応し,この記述を受ける形で,「第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態」になる,と記載されているのであるから,その字句どおりに読み,第1のガス通路部が閉状態とされたもとで,ガスが圧力室形成部のみに供給されることをいったものと解すべきである。
そして,被告製品は,シリンダーバルブ25により第1のガス通路部が閉状態とされたもとで,ガスが第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給され,これによってスライド50が後退するから,構成要件Hを充足するというべきである。
被告らは,構成要件HBの「第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」との文言は,第2のガス通路部を開状態となす,と同じ意味であり,「なす」の通常の文言の意味からすると,その前の段階である構成要件HAの「第1のガス通路部」が「開状態」のときは,第2のガス通路部は閉状態となっていると解釈できると主張するが,かかる被告らの解釈は,本件発明の特許請求の範囲に全く記載がない事項を付加するものであって,特許請求の範囲に記載された用語の意義の解釈を超えるものであり,特許法70条1項,2項に反する。
(イ)また,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載からも,構成要件Hは,第1のガス通路部が開であるときは,当然に第2のガス通路部は閉でなければならないとの解釈を導くことはできない。
すなわち,構成要件Hは,上記のとおり,第1のガス通路部が閉状態とされたもとで,ガスが圧力室形成部のみに供給されることをいったものというべきであって,この供給がスライダ部の後退に利用されるものである。すなわち,本件発明において意図されたスライダ部の後退は,第2のガス通路部を通じて圧力室形成部にガスが供給されればそれだけで生じる後退という類のものではなく,第1のガス通路部が閉状態とされたもとで,第2のガス通路部を通じてガスが圧力室形成部に供給されることにより初めて生じる後退である。そうすると,本件明細書の段落【0007】に「‥‥‥弾丸の発射に続いてスライダ部の後退及びその後の前進が行われて‥‥‥」とあるうちの「スライダ部の後退」とは,第1のガス通路部が閉状態とされたもとで,第2のガス通路部を通じてガスが圧力室形成部に供給されることにより生じるスライダ部の後退であると考えるべきである。また,本件明細書の段落【0010】に「‥‥‥斯かるガス通路制御部の移動により第1のガス通路部が閉状態とされ,それにより,蓄圧室からガス導出通路部を通じて可動部材内へと導かれたガスが,第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給され,スライダ部の後退に利用される。‥‥‥」とあるが,ここでは,被告ら主張のように「それにより」第2のガス通路が開になることを説明しているのではなく,「それにより」ガスが第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給されることが説明されているのである。その他,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄には,第1,第2のガス通路部につき,一方が開のとき他方は閉とするという記載は存しない。
(ウ)また,本件発明の分割前の特願平5-114605号の特許出願に係る発明(乙1。以下「原発明」といい,原発明に係る明細書を「原明細書」という。)からも,構成要件Hは,第1のガス通路部が開であるときは,当然に第2のガス通路部は閉でなければならないとの解釈を導くことはできない。
すなわち,原発明においては,@ガス通路制御部における弁部材が,弾丸発射用ガス通路(第1のガス通路)を開状態とするとともに,弾丸供給用ガス通路(第2のガス通路)を閉状態とするもとで,ガスを弾丸発射用ガス通路を通じて装弾室に供給して,弾丸を装弾室から発射させ,また,弾丸発射用ガス通路を閉状態とするとともに,弾丸供給用ガス通路を開状態とするもとで,ガスを弾丸供給用ガス通路を通じて圧力室に供給して,スライダ部を後退させる,という技術思想が記載されている。このように,原発明に,ガス通路制御部が,第1のガス通路部を開閉するとともに第2のガス通路を開閉することが記載されていることからすれば,原発明におけるガス通路制御部の記載には,ガス通路制御部が第1のガス通路部を開閉するものであるということ,つまり,ガス通路制御部が第1のガス通路部を開状態とすること及び第1のガス通路を閉状態とすることの両者の記載が包含されているというべきである。
そうすると,原発明においては,@の技術思想のほかに,Aガス通路制御部における弁部材が,弾丸発射用ガス通路(第1のガス通路)を開状態とするもとで,ガスを弾丸発射用ガス通路を通じて装弾室に供給して,弾丸を装弾室から発射させ,また,弾丸発射用ガス通路を閉状態とするもとで,ガスを弾丸供給用ガス通路を通じて圧力室に供給して,スライダ部を後退させる,という技術思想が包含されているというべきである。
このことは,ガス通路制御部における弁部材が,弾丸発射用ガス通路(第1のガス通路)を開状態とすることにより,弾丸供給用ガス通路(第2のガス通路)を閉状態としない下にあっても,ガスを弾丸発射用ガス通路を通じて装弾室に供給して,弾丸を装弾室から発射させることができ,また,ガス通路制御部における弁部材が,弾丸発射用ガス通路を閉状態にすることにより,ガスを弾丸供給用ガス通路を通じて圧力室に供給して,スライダ部を後退させることができること,すなわち,ガス通路制御部が第1のガス通路部を開閉するという思想が,それ自体技術思想として成立することからしても明らかである。
そうすると,原発明には,ガス通路制御部について,第1のガス通路部を開閉するとともに第2のガス通路を開閉するという技術思想と,第1のガス通路部を開閉するという技術思想の両者が記載されているというべきところ,これらは明らかに異なる技術思想である。つまり,原発明には,互いに異なる2つの技術思想が記載されており,本件発明は,このうち,ガス通路制御部が第1のガス通路部を開閉するという後者の技術思想を取り出して当初の特許出願を分割したものである。
そうすると,こうした技術思想である本件発明の構成要件Hについて,第1のガス通路部が開であるときは,当然に第2のガス通路部は閉でなければならないとの解釈を導くことはできない。
【被告らの主張】 ア 構成要件GAの充足性 構成要件GAの「選択的にとる」の意味は,2つ以上のものの中から1つをとることであるが,構成要件GAで示されているのは,「上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記シリンダー内へと導かれることになる状態」のみである。そして,「選択的にとる」とは,何らかの基準あるいは意思に従って,2つ以上のものから1つのものを選び出すというニュアンスが込められていることは明らかである。しかるに,被告製品においては,トリガー1を引くことにより放出バルブ35aが開き,放出バルブ35aが開けば必ず,ガスはシリンダー52,54内に供給されることになるから,そこに「選択的にとる」といった概念を持ち込む余地はない。つまり,被告製品は,マガジンケース33(蓄圧室)からシリンダー52,54に向かって伸びるガス通路部へのガスの導出を制御する弁は存在するが,構成要件GAにいうような状態とそうでない状態とを選択的にとることはない。したがって,被告製品は,構成要件GAを充足しない。
なお,原告が主張するように,「選択的にとる」とは,供給状態と無供給状態とを開閉制御によって選択的にとるという意味であると考えることはできない。
供給と無供給とを選択的にとる,では,あえて「選択的にとる」と表現した意図が不明となり,構成要件GAが不要な要件となる。
構成要件Hの充足性(ア)構成要件HBの「その後,上記第1のガス通路部を閉状態として,上記蓄圧室からのガスが上記可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記圧力室形成部に至る第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」とは,第1のガス通路部を閉状態として第2のガス通路部を開状態とする,ということを表したものであり,「第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」とは,第2のガス通路部を開となす,と同義である。これは,文言の通常の意味から当然に導き出されることである。そして,この場合の「なす」には,「成す」か「為す」かは必ずしも判然とはしないものの,ある状態のものを別の状態にするという意味が含まれていることは明らかである。すると,第2のガス通路部について,「ある状態」のものを別の状態である開状態とするというのであるから,「ある状態」とは「閉状態」でなければならない。そうすると,構成要件HAの「‥‥‥第1のガス通路部を開状態として,上記蓄圧室からのガスが上記装弾室に供給される状態となし,」にいうように第1のガス通路部が開状態のとき,第2のガス通路部は閉状態であるといわなければならない。
(イ)上記の解釈は,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載からも裏付けられる。すなわち,本件明細書の段落【0005】【発明が解決しようとする課題】には,「‥‥‥弾丸の発射に続いて銃身に対して設けられたスライダの移動が行われて,着弾孔に対する弾丸の供給が行われることが望まれる。」とされ,段落【0007】には,「‥‥‥本発明は,‥‥‥弾丸の発射が行われ,さらに,弾丸の発射に続いてスライダ部の後退及びその後の前進が行われて装弾室に対する弾丸の供給がなされる,という順序に従って行われるようにされた自動弾丸供給機構付玩具銃を提供する。」と記載されている。しかるに,「第2のガス通路部」にガスを供給するのは,スライダ部の後退及びその後の前進が行われて装弾室に対する弾丸の供給を行うためであり,「第1のガス通路部」にガスを供給するのは,装弾室にガスを供給して弾丸を発射するためである。そうすると,弾丸発射時に,第2のガス通路部にガスを供給することは,弾丸発射時にスライダ部の後退をもたらすこととなり,本件発明が目的とした,弾丸の発射に続いてスライダ部の後退という順序に従って行われるようにすることを否定することとなる。したがって,第1のガス通路部が開のとき,第2のガス通路部は閉じられていなければならない。
また,本件明細書の段落【0010】には,「‥‥‥第1のガス通路部を開状態となす位置をとるガス通路制御部により,先ず,第1のガス通路部を通じて装弾室に供給され,その装弾室に供給されている弾丸の発射に利用される。このようにハンマ部の回動に伴って行われる弾丸の発射,即ち,装弾室からの弾丸の移動は,可動部材内のガス圧を低下させ,それに伴うガス通路制御部の可動部材内での移動を生じさせる。斯かるガス通路制御部の移動により第1のガス通路部が閉状態とされ,それにより,蓄圧室からガス導出通路部を通じて可動部材内へと導かれたガスが,第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給され,スライダ部の後退に利用される。」と記載されている。そうすると,ガス通路制御部の移動により,第1のガス通路部が閉状態とされ,「それにより」第2のガス通路部が開になるというのであるから,ガス通路制御部が,第1のガス通路部と第2のガス通路部を開閉制御し,一方が開のとき他方を閉とするものであることが明らかである。
すなわち,本件明細書の段落【0027】の「‥‥‥弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす弁部材27‥‥‥」の状態から,段落【0029】の「このようにして弁部材27が,弾丸発射用ガス通路21を閉状態として,弾丸供給用ガス通路22を‥‥‥上方ガス通路38に連通させる位置におかれる」という状態,換言すれば,閉状態にあった弾丸供給用ガス通路(第2のガス通路)を開とする状態とするのである。
しかるに,被告製品では,当初からマガジンケース33(蓄圧室)からのガスは,チャンバー側(第1のガス通路)へもスライド側(第2のガス通路)へも連通しており,第2のガス通路が閉から開となる動作をすることはない。したがって,被告製品は,構成要件Hを充足しない。
(ウ)原明細書(乙1)の請求項1には,「‥‥‥第1のガス通路及び‥‥‥第2のガス通路の夫々を開閉制御し,」「‥‥‥上記第1のガス通路を開状態として,上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から,上記第2のガス通路を開状態として,上記蓄圧室からのガスを上記可変容積圧力室に供給して上記スライダ部を後退させ,それに伴って上記可動部材を後退させ上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部と,」と記載されている。この記載を文言の通常の意味に従って解釈すれば,ガスを第1のガス通路部を開いて装弾室に供給する第1の状態と,スライダ部を後退させるために第2のガス通路部を開として可変容積圧力室にガスを供給する第2の状態を,ガス通路制御部により開閉制御するという意味であるから,第1のガス通路部を開とするときは,第2のガス通路部は閉,第1のガス通路部を閉とするときは,第2のガス通路部は開とならなければならない。そして,このような元の出願を分割して成立した本件発明も,この点について,同一に解釈されなければならない。なぜなら,仮に本件発明が第1のガス通路部を開とするときに,第2のガス通路部を開として,なお,弾丸の発射に続いてスライダ部の後退という順序に従って行われるという目的を達することができるのであれば,これは,元の出願の発明にない新たな着想を付加したものであって,分割要件に違反するからである。
原告は,構成要件Hは,第1のガス通路部が閉状態とされた下で,ガスが圧力室形成部のみに供給され,この供給がスライダ部の後退に利用される,ということを述べたものであると主張するが,かかる原告の主張は,構成要件Hに「のみ」を付加して解釈することによって権利範囲を拡大するものであり,不当である。
(2)争点2(損害賠償の額) 【原告の主張】 原告は被告らに対し,特許法102条2項に基づいて以下のとおり損害賠償を請求する。
ア 被告株式会社東京マルイが製造販売する被告製品1個当たりの販売単価は,7040円である。また,同被告が製造販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも15万6000個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の40%である。したがって,同被告の被告製品の製造販売による原告の損害額は,7040円に15万6000個を乗じた金額にさらに40%を乗じた4億3929万6000円である。
イ 被告株式会社さくらやが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも1500個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の20%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に1500個を乗じた金額にさらに20%を乗じた307万2000円である。
ウ 被告株式会社ホビーベースイエローサブマリンが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも600個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の20%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に600個を乗じた金額にさらに20%を乗じた122万8800円である。
エ 被告株式会社マルゴーが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも2800個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の25%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に2800個を乗じた金額にさらに25%を乗じた716万8000円である。
オ 被告株式会社エス・ケー・シーが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも2000個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の20%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に2000個を乗じた金額にさらに20%を乗じた409万6000円である。
カ 被告有限会社ホビーショップフロンティアが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも2000個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の20%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に2000個を乗じた金額にさらに20%を乗じた409万6000円である。
キ 被告株式会社ドン・キホーテが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも3480個である。
また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の20%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に3480個を乗じた金額にさらに20%を乗じた712万7040円である。
ク 被告株式会社ダイクマが販売する被告製品1個当たりの販売単価は,1万0240円である。また,同被告が販売した被告製品の数量は,平成12年11月30日から平成13年9月30日までの間で,少なくとも2040個である。また,同被告における被告製品の利益率は,販売価格の20%である。したがって,同被告の被告製品の販売による原告の損害額は,1万0240円に2040個を乗じた金額にさらに20%を乗じた417万7920円である。
【被告らの主張】 原告主張の損害額は,争う。
当裁判所の判断
1 当裁判所は,被告製品は本件発明の技術的範囲に属さないから,本件特許権の侵害を理由とする原告の本訴請求は,いずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。
2 争点1(被告製品が,本件発明の技術的範囲に属するか)について(1)前記前提となる事実等(第2の1)に記載したとおり,被告製品は,構成要件A〜F,G@B,I,Jを充足する。したがって,被告製品の,構成要件GA,同Hの充足性が問題となる。
(2)そこで,まず,構成要件Gの充足性について判断する。
構成要件Gは,同G@において,「上記蓄圧室から上記可動部材に向かって伸びるガス導出通路部を開閉制御し,」と記載され,これを受けて,同GAにおいて,「上記蓄圧室からのガスが上記ガス導出通路部を通じて上記可動部材内へと導かれることになる状態を選択的にとる」と,同GBにおいて「ガス通路開閉部と」と記載されている。これをみると,構成要件Gは,「ガス通路開閉部」の構成を明らかにしようとするものであることが分かる。すなわち,まず構成要件G@において「ガス導出通路部を開閉制御」できるものであることを明らかにし,同GAにおいて「可動部材内へと導かれることになる状態」をとり得ることを明らかにしたものである。そうすると,構成要件Gは,同G@の「開閉制御」を行う趣旨が,同GAのようにガスが「蓄圧室からガス導出通路部を通じて可動部材内へと導かれることになる状態」を作り出すためのものであることを明らかにしたものというべきであるから,同G@と同GAとは原因結果の関係にあるものと認めるのが相当である。したがって,構成要件GAは,「開閉制御」によって,「導かれることになる状態」と「導かれないことになる状態」のうち,特に前者を「選択的にとる」ことができるといったものと解するのが相当である。
被告らは,「選択的にとる」とは,何らかの基準あるいは意思に従って,2つ以上のものから1つのものを選び出すというニュアンスが込められているところ,被告製品においては,トリガーを引くことにより放出バルブが開き,放出バルブが開けば必ず,ガスはシリンダー内に供給されることになるから,そこに「選択的にとる」といった概念を持ち込む余地はないと主張するが,構成要件GAは,上記のとおり,「開閉制御」によって,「導かれることになる状態」と「導かれないことになる状態」のうち,特に前者の状態をとることができるということを「選択的にとる」と言い表したものと解され,被告製品のように,トリガーを引くことにより放出バルブが開き,放出バルブが開けば必ずガスがシリンダー内に供給されるものであっても,そのような場合において,「導かれないことになる状態」ではなく「導かれることになる状態」をとることができるといえるから,被告製品は構成要件Gを充足するというべきである。被告らの主張を採用することはできない。
また,被告らは,構成要件GAについて,供給と無供給とを選択的にとることを述べたものと考えると,あえて「選択的にとる」と表現した意図が不明であり同要件GAは不要な要件となってしまうと主張するが,ガスが「導かれることになる状態」と「導かれないことになる状態」のうち前者を「選択的にとる」ことが意味のない記載であるということはできない。被告らの主張の趣旨が,「『選択的にとる』とはたくさんの状態の中から1つをとることを意味し,ガスが流れる,流れない以外の全く違う状態をとれるということと解すべきところ被告製品はそのような状態はとれない」というものであるとしても,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄に,ガスが流れる,流れない以外の全く違う状態についての記載がないから,構成要件GAにおいては,最低限とることのできる状態を説明したといって差し支えないと考えられ,上記のとおり,「選択的にとる」とは,「導かれることになる状態」と「導かれないことになる状態」の2つの状態から1つをとることを意味すると解するのが相当である。被告らの主張を採用することはできない。
そして,被告製品は,「開閉制御」によって,「導かれることになる状態」を「選択的にとる」ことができるから,構成要件Gを充足するというべきである。
(3)次に,構成要件Hの充足性について検討する。
構成要件Hは,同H@において,「可動部材内に移動可能に設けられ,」と,同HAにおいて,「該可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記装弾室に至る第1のガス通路部を開状態として,上記蓄圧室からのガスが上記装弾室に供給される状態となし,」と記載され,これを受けて,同HBにおいて,「その後,上記第1のガス通路部を閉状態として,上記蓄圧室からのガスが上記可動部材内に形成される上記ガス導出通路部から上記圧力室形成部に至る第2のガス通路部を通じて上記圧力室形成部に供給される状態となす」と,同HCにおいて,「ガス通路制御部と」と記載されている。これをみると,構成要件Hは,「ガス通路制御部」の構成を明らかにしようとするものであることが分かる。そして「ガス通路制御部」は,同H@にあるように「可動部材内に移動可能に設けられ」たものであって,同HA,HBの構成を具備するものである。
イ このうち構成要件HBに関して,被告らは,「‥‥‥供給される状態となす」というからには,その前の状態は「供給されない状態」であったはずであると主張するのに対し,原告は,前の状態が異なるとしても,「‥‥‥供給される状態となす」は「(第1のガス通路部が)閉状態であって(圧力室形成部に)供給される状態」を指すのであるから,例えばその前の状態は「(第1のガス通路部が)開状態であって(圧力室形成部に)供給される状態」ということもあり得ると主張する。
そこで検討すると,確かに,構成要件HBの文言のみからすれば,原告主張のような解釈をとる余地も存在する。つまり,原告の解釈は,「(第1のガス通路部の)閉状態」と「(圧力室形成部に)供給される状態」とを別個独立の状態とみるのである。
しかし,構成要件HBの上記文言については,これと同じ表現が同HAにおいてもとられている。すなわち,構成要件HAは,「第1のガス通路部を開状態として」ガスを「装弾室に供給される状態となし」というものであるが,この場合には,第1のガス通路部が「開状態」であれば必ず装弾室に「供給される状態」となるのであるから,この2つは原因結果の関係にあるのであって,独立した存在ではあり得ない。したがって,構成要件HAは,「第1のガス通路部を開状態」という原因があって,その結果として,ガスを「装弾室に供給される状態」にできることを表現したものと解するほかはない。このような表現は,本件発明の構成要件F,G,Iにも同様に存在するが,いずれも原因結果の関係を示すものである。
そうすると,本件発明の構成要件HBを解釈するに当たっては,これと同一の表現をとる同HAと同様に,同要件HBに記載された2つの状態の間には原因結果の関係が存在すると解するのが相当である。したがって,同要件HBは,「第1のガス通路部を閉状態として」,これを原因として,ガスを「圧力室形成部に供給される状態となす」ものとみるべきである。しかるに,被告製品は,ガスを「圧力室形成部に供給される状態となす」のに,「第1のガス通路部を閉状態」とすることを要しないのであるから,「第1のガス通路部を閉状態とし」たことを原因としてガスを「圧力室形成部に供給される状態となす」ものとはいえない。
構成要件HBについて上記のように解すべきことは,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載からも裏付けられる。
すなわち,本件明細書では,段落【0007】において,「‥‥‥トリガ部に対する操作が行われたとき,その操作に応じて開始される一連の動作が,先ず,ハンマ部の回動が行われ,そのハンマ部の回動に応じて装弾室に供給されている弾丸の発射が行われ,さらに,弾丸の発射に続いてスライダ部の後退及びその後の前進が行われて装弾室に対する弾丸の供給がなされる,という順序に従って行われるようにされた自動弾丸供給機構付玩具銃を提供する。」と記載され,段落【0011】には,「‥‥‥本発明に係る自動弾丸供給機構付玩具銃は,トリガ部が操作されると,その操作に応じて開始される一連の動作が,先ず,ハンマ部の回動が行われ,そのハンマ部の回動に応じて装弾室に供給されている弾丸の発射が行われ,さらに,弾丸の発射に続いてスライダ部の後退及びその後の前進が行われて,装弾室に対する弾丸の供給がなされる,という順序に従って行われるものとされ,それにより,装弾室に供給されている弾丸の発射に際し,銃身部にスライダ部の移動の影響が及ぼされる事態が確実に回避されるので,発射される弾丸の方向に狂いが生じることが防止される。」と記載され,さらに段落【0039】【発明の効果】の欄にも,段落【0011】の上記記載と同様の内容の記載が繰り返されている。これらの記載に照らせば,本件発明の自動弾丸供給機構付玩具銃は,弾丸が発射された後に,スライダ部の移動が開始されるものである。
そして,上記のような動作を実現するための構成については,本件明細書では,段落【0010】において,「‥‥‥蓄圧室からガス導出通路部を通じて可動部材内へと導かれたガスは,第1のガス通路部を開状態となす位置をとるガス通路制御部により,先ず,第1のガス通路部を通じて装弾室に供給され,その装弾室に供給されている弾丸の発射に利用される。このようにハンマ部の回動に伴って行われる弾丸の発射,即ち,装弾室からの弾丸の移動は,可動部材内のガス圧を低下させ,それに伴うガス通路制御部の可動部材内での移動を生じさせる。斯かるガス通路制御部の移動により第1のガス通路部が閉状態とされ,それにより,蓄圧室からガス導出通路部を通じて可動部材内へと導かれたガスが,第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給され,スライダ部の後退に利用される。」と記載されており,これによれば,装弾室から弾丸が移動することによって,可動部材内のガス圧が低下し,これに伴って可動部材内においてガス通路制御部が移動して第1のガス通路部を閉状態とし,それによりガスが第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給されるという構造であることが開示されている。また,本件発明の実施例の説明として,段落【0027】〜【0029】に,次の記載がある。
「【0027】‥‥‥ガス通路制御部25の弁部材27によって開状態とされた弾丸発射用ガス通路21とケース30内に設けられた蓄圧室33とが連通状態におかれ,蓄圧室33からのガスが,弾丸発射用ガス通路21を通じて装弾室4a内に供給される状態が得られる。その結果,図5において実線により示される如くに装弾室4aに装填された弾丸BBが,蓄圧室33からのガス圧によって,図5において一点鎖線により示される如く,環状突出部4bを越えて,銃身2と弾丸発射用ガス通路21とを遮断する状態をもって環状部材4の前方側部分に移動せしめられる。斯かる際,弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす弁部材27に作用する蓄圧室33からのガス圧により,ロッド26のコイルスプリング28の付勢力に従う移動が阻止されるので,弁部材27の弾丸供給用ガス通路22を閉状態となす位置が維持される。そして,環状部材4における前方側部分に移動した弾丸BBが,蓄圧室33からのガス圧により銃身2内に移動せしめられるものとなると,銃身2と弾丸BBとの間に生じる比較的小なる隙間を通じて銃身2内にガスが漏れ出し,弾丸BBの銃身2における前端部側に向かう移動が加速されるとともに,中央空間部20内におけるガス圧が低下する。」 「【0028】斯かる中央空間部20内におけるガス圧の低下に伴って,ロッド26がコイルスプリング28の付勢力により前進するものとなり,それに伴って弁部材27が,図6に示される如くに,弾丸供給用ガス通路22から弾丸発射用ガス通路21に向けて移動せしめられる。そして,ロッド26の前進により弁部材27が,図7に示される如くの弾丸発射用ガス通路21を閉状態となす位置におかれるまでの間において,銃身2内に移動せしめられた弾丸BBが銃身2から発射される。即ち,発射用可動ピン4を殴打するハンマ5の回動が行われると,蓄圧室33からのガスが弾丸発射用ガス通路21を通じて装弾室4a内に供給される状態がとられて,装弾室4aに装填されている弾丸BBが装弾室4aから銃身2内へと移動し,それにより生じる中央空間部20内におけるガス圧の低下に伴い,ロッド26が弁部材27とともに,コイルスプリング28の付勢力に従って,弾丸供給用ガス通路22から弾丸発射用ガス通路21に向かって移動することになる。」 「【0029】このようにして弁部材27が,弾丸発射用ガス通路21を閉状態として,弾丸供給用ガス通路22を,中央空間部20及び共通ガス通路23を介して,ケース30内に設けられた上方ガス通路38に連通させる位置におかれると,弾丸供給用ガス通路22に充填される蓄圧室33からのガス圧が,弾丸供給用ガス通路22の後端部に設けられた連通路を通じて,固定部材51を可動部材54から離隔させる方向に押圧しつつ,固定部材51内に流入するものとなる。‥‥‥」 これらの記載によれば,弾丸の発射に際して銃身部にスライダ部の移動の影響が及ぼされることを確実に回避する目的の下に,弾丸が発射された後にスライダ部の移動が開始されるという動作を実現するための構成として,本件明細書において開示されているのは,装弾室からの弾丸の移動に伴う部材の動作により第1のガス通路部を閉状態にするのと同時に第2のガス通路部が開状態とされ,これにより初めてガスが圧力室形成部に供給される状態となるものである。
すなわち,装弾室からの弾丸の移動後に初めてガスが圧力室形成部に供給される構成を採ることによって,弾丸の発射前にスライダ部の移動が開始される状態が生じることを避けているものである。
これに対して,被告製品においては,弾丸の発射の前後を通じてガスが圧力室形成部に供給されており,スライダ部側に常にガス圧が作用する構成となっているから,被告製品は,本件発明と構成を異にするものというほかはない。
エ この点に関して,原告は,本件明細書には,第1,第2のガス通路部について一方が開のとき他方は閉とすることは記載されておらず,構成要件HBは,第1のガス通路部が閉状態とされた下で,ガスが圧力室形成部のみに供給され,この供給がスライダの後退に利用されることを明らかにしたものである旨を主張し,本件発明はそのような第1のガス通路部のみを開閉する発明であるから,第2のガス通路部は常に開である被告製品であっても,本件発明の技術的範囲に属する旨を主張する。
しかし,本件明細書には,装弾室からの弾丸の移動前からガスが第2のガス通路部を通じて圧力室形成部に供給されてスライダ部にガス圧が作用しているという状態の下において,弾丸の発射前にスライダ部の移動が開始される状態が生じることを避ける構成は何ら開示されていない。すなわち,本件明細書においては,弾丸の発射の前後を通じてガスが圧力室形成部に供給されてスライダ部側に常にガス圧が作用している状態の下において,第1のガス通路部の開閉のみをもって,弾丸の発射後に初めてスライダ部の移動が開始されるという動作を実現する構成は何ら開示されていない。この点に照らせば,本件発明をもって第1のガス通路部のみを開閉する発明であるという原告の主張は,失当である。
オ また,本件発明は原発明の分割出願に係るものであるところ,乙1(原明細書)によれば,原発明は,第1のガス通路部が開のときには第2のガス通路部を閉とし,第1のガス通路部が閉のときには第2のガス通路部を開とするものであって,第1のガス通路部の開閉制御と第2のガス通路部の開閉制御とが密接不可分に結び付いた発明であり,双方のガス通路部の開閉制御をもって弾丸の発射後に初めてスライダ部の移動が開始されるという動作を実現したものである。したがって,このような発明から,第1のガス通路部の開閉制御のみをもって弾丸の発射後に初めてスライダ部の移動が開始されるという動作を実現する発明を抽出することはできない。仮に本件発明が原告の主張するような発明であると解するときは,本件発明は分割要件(特許法44条参照)に違反して分割されたということになりかねない。
カ なお,原告は,構成要件HBの解釈について被告の主張する内容に対して,構成要件HBの解釈に際して「第2のガス通路部を開状態」とすることを付加すれば特許法70条違反となると主張するが,上記に判示した構成要件HBの解釈は,「第2のガス通路部を開状態」とすることを付加したものではなく,あくまでも,ガスを「圧力室形成部に供給される状態となす」という構成要件HBにおける文言について,これが同構成要件中の「第1のガス通路部を閉状態とし」と原因結果の関係に立つことをいうものである。
キ 上記によれば,被告製品は,構成要件Hを充足しないといわなければならない。よって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属しないと解するのが相当である。
3 結論 以上によれば,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属しないというべきであるから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の本訴請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 和久田道雄
裁判官 田中孝一