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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ネ5168報償金請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  公然実施(29条1項2号) /  実施 /  加工 /  対価 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (ネ) 1125号 特許を受ける権利の確認請求控訴事件
控訴人(原告) A
訴訟代理人弁護士 菊池祐司
被控訴人(被告) 株式会社日本システムデザイン
被控訴人(被告) C
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 辻恵
同 藤田正人
同 三浦 亜砂子
同 足立政孝
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/07/16
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 控訴人と被控訴人らとの間において、控訴人が別紙目録記載の発明について特許を受ける権利を有することを確認する。
3 訴訟費用は第1・2審とも被控訴人らの負担とする。
事案の概要
1 本件は、被控訴人株式会社日本システムデザイン(以下「被控訴人会社」という。)が平成8年6月5日にした特許出願(特願平8-142773、別紙目録の記載参照。以下この出願を「本件特許出願」という。)に係る別紙目録記載の「マイクロ波インダクタコイル」の発明(以下「本件発明」という。)の発明者である控訴人が、本件発明について特許を受ける権利を被控訴人会社に承継させたことはないと主張し、被控訴人会社及びその代表者である被控訴人C(以下「被控訴人C」という。)に対し、控訴人が本件発明についての特許を受ける権利を有することの確認を求めた事案である。
原判決は、控訴人は、被控訴人会社の就業規則27条の規定により、本件発明について特許を受ける権利を被控訴人会社に承継させることを承諾したと認めるのが相当である旨判示して、控訴人の請求を棄却した。
2 本件において前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により明らかに認められる事実)、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人の主張を補充、付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」(原判決2頁4行ないし5頁21行)に記載のとおりである。
(控訴人の主張の要点) (1) 原判決は、平成6年6月末ころから平成7年11月ころまでの間、控訴人、被控訴人会社及び株式会社内田製作所が、小型高周波チョークコイルのコア抜けの問題を解決するために検討を重ねていたことや、平成7年4月以降、被控訴人会社において、小型高周波チョークコイルについて、松下電子工業株式会社(以下「松下電子」という。)が要求する長さ、径、インダクタンス、自己共振周波数、
抵抗値等の実現可能性について検討が行われたこと等を認定した上、本件発明は、
控訴人が、被控訴人会社に嘱託として就職した平成7年10月1日よりも後の時期に、被控訴人会社の業務である小型高周波チョークコイルの製造、販売及び営業上の必要から発明した職務発明であると認定したが、本件発明は、上記検討の過程で原判決認定の時期にしたものではなく、控訴人が東芝ライテック株式会社(以下「東芝ライテック」という。)に在職していた間(平成7年8月まで)にしたものである。
控訴人は東芝ライテック在職中に高周波チョークコイルについて様々な発明をし、それらの発明は、東芝ライテックから多数特許出願されている(「原告ライテック発明」)。本件発明も、控訴人が東芝ライテックに在職中に発明したものの一つで、控訴人は、本件発明に基づいて小型の高周波チョークコイルを製品化し、東芝ライテックから販売していた(品番RFCM332-11、RFM332-12及びRFF602-12等の製品。以下、まとめて「東芝ライテック製品」という。)。これらの東芝ライテック製品のうち、東芝ライテックの1993年(平成5年)7月版のパンフレット(甲31)に掲載されたRFF602-12は、本件特許出願の請求項1、2、3、5の構成を備えている。このような製品が存在したことからしても、控訴人が本件発明をしたのが遅くとも上記パンフレットの作成時期(平成5年5月ころ)よりも前であることは明らかである。
(2) 原判決は、控訴人が被控訴人会社に平成7年10月1日付けで嘱託として就職したと認定し、これを裏付ける事実として、平成7年10月から平成8年3月までの間は、被控訴人会社から控訴人に対して嘱託報酬として月額30万9000円が控訴人の妻(B)に対する外注加工費の名目で支払われていたことを挙げるが、そのような報酬が支払われた事実はない。また、控訴人は、被控訴人会社の取引先等に対する関係で被控訴人会社の営業部長、開発技術部長等の肩書きを使用したことはあるが、これは控訴人が対外的な窓口となって被控訴人会社の取引をする便宜上したことにすぎず、実際には、原判決が控訴人が被控訴人会社の嘱託であったと認定した時期に、控訴人と被控訴人会社との間に職務発明を基礎づけるような雇用関係、すなわち、控訴人が被控訴人会社の指揮命令に従い、報酬を受け取るというような関係は一切存在しなかった。
(3) 原判決は、控訴人が被控訴人会社から特許を受ける権利の譲渡に対する対価として200万円を受領した旨認定したが、この200万円は、被控訴人会社の増資の時期に合わせて、被控訴人Cが通帳と印鑑を管理していた控訴人名義の銀行預金口座に振り込まれた(ただし、実際の振り込み額は180万円)もので、役員賞与という名目になっていたが、その後直ちに、被控訴人Cの一方的な意向により、被控訴人会社の増資に伴う同社への出資金(増資に伴う株式引受代金)に充当された。したがって、この200万円は、役員賞与として控訴人が実質的に受領したといえるかすら疑わしいものであり、いわんや特許を受ける権利の譲渡に対する対価などではない。
当裁判所の判断
本件発明がされた時期、経緯、及び被控訴人会社における小型高周波チョークコイル開発・改良等への控訴人の関与状況並びに特許を受ける権利の被控訴人会社への承継の有無については、当裁判所も原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の2ないし4(原判決6頁2行ないし16頁7行)のとおりと認めるものであり、原審記録及び当審における主張、立証(甲46ないし52、乙24ないし27、弁論の全趣旨)を全て検討しても、原判決と異なる認定、判断には至らない。
1 本件発明の時期、経緯について 本件発明の時期、経緯については、当裁判所も、前提となる事実、原判決挙示の証拠(なお、乙23を加える。)及び弁論の全趣旨に基づき、原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の2(原判決6頁2行ないし14頁5行)に記載のとおりと認めるものである。
(1) 控訴人は、東芝ライテック在職時代に開発した小型の高周波チョークコイルを東芝ライテックから販売しており、それらの製品のうち、東芝ライテックの平成5年版パンフレット(甲31)に掲載された「RFF602-12」は、本件特許出願の請求項1、2、3及び5の各構成を備えているものであって(ただし、請求項4の構成を備える東芝ライテック製品が存在した旨の主張はない。)、このような製品が既に存在していたことからみても、本件発明は控訴人によって上記パンフレットの作成より前に完成されていたことは明らかである旨主張する。
(2) そこで、控訴人の上記主張について検討するに、前提となる事実、証拠(甲1ないし4、28ないし32、34ないし36、37、39ないし45、乙1ないし3、6ないし16、18ないし23)及び弁論の全趣旨によれば、本件特許出願がされるまでの経緯及び本件発明と東芝ライテック発明との対比に関連して、
原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」中の2の(2)アないしウ(原判決9頁10行ないし10頁19行)及び同(3)アないしウ及びオの前段(原判決11頁29行ないし12頁17行及び13頁1行ないし8行)の認定事実と併せて、
次の@、Aの事実を認めることができる。
@ 本件特許出願は、被控訴人会社から平成8年4月ころにサクラ国際特許事務所に対して出願の依頼がされ、同年6月5日にその願書及び明細書が特許庁に提出されたものであるが、その間の出願準備については控訴人も関与しており、明細書の起草に当たっては、他社に対する抑止的効果を考慮し、特許請求の範囲は後日補正することも念頭に置いて権利範囲の広い記載とすること、発明の名称を始めとする明細書の表現は、東芝ライテックから出願を問題視されることのないように、原告ライテック発明のものと変えること、という方針が採られた。
A 被控訴人会社は、平成7年3月に、従来の半分程度の大きさの小型高周波チョークコイルの製造を松下電子から打診され、これに応えて開発した小型高周波チョークコイル(商品名:RFチョークコイル601-9-4)が同年11月に松下電子によって採用された後、その量産化技術の確立、品質向上のために更なる改良を検討していた。
(3) 上記@、Aの事実及び被控訴人会社が東芝ライテックに代わって同社の高周波チョークコイルRFF602-12の製造販売を引き受け、内田製作所に製造委託して上記RFF602-12と同じ製品をRFF602-10-2として平成6年ころから販売していた事実(原判決7頁6行ないし14行参照。当裁判所もこれと同じ認定をするものである。)に照らすと、上記製品において既に実施されていた発明を対象として本件特許出願を行うということは、特許出願人の通常の意思として、到底考え難いことといわざるを得ず、本件特許出願の特許請求の範囲が後日の補正も考慮に入れた広い記載とされたという事情や、明細書の作成に当たって原告ライテック発明との区別に意が用いられたという事情をも考慮するなら、本件特許出願において実質的に出願対象とされた発明は、出願当初の明細書の特許請求範囲の形式的な記載いかんにかかわらず、前記製品に公然実施された発明や原告ライテック発明から区別される、新たな構成を付加した「マイクロ波インダクタコイル」の発明であるとみるのが相当である。
(4) そして、控訴人も関与して被控訴人会社においてなされた小型高周波チョークコイル(マイクロ波インダクタコイル)の開発・改良等の経緯については、原判決の「第3 争点に対する判断」中の2の(1)ウないしカ及び(2)のアの後段、イ(原判決7頁15行ないし9頁8行及び同頁16行ないし10頁7行)のとおりと認めることができるところ、これらの経緯と上記(3)で認定した事実とを総合すると、本件特許出願の出願対象とされた発明は、被控訴人会社の業務である小型高周波チョークコイルの製造、販売及び営業上の必要からなされたものであって、その発明がなされた時期は、サクラ国際特許事務所に対して被控訴人会社が出願を依頼した時期(平成8年4月ころ)に比較的近接した時期であると推認することができる。
控訴人は本件発明(本件特許出願の対象とされた発明)は平成5年5月ころまでになされたものであると主張するが、その主張の前提となっている本件発明の全ての構成が東芝ライテック製品RFF602-12等に実施されていたという事実は、前示のとおり、これを認めることができず、その他、本件発明のされた時期についての控訴人の主張を認めるべき客観的な証拠は存在しない。
2 権利承継の有無及びその前提としての嘱託関係の存否 被控訴人会社が特許を受ける権利を適法に承継したか否かについては、当裁判所も原判決と同様に、控訴人は、平成7年10月以降、被控訴人会社に嘱託として就職し、その後にした本件特許出願に係る発明についての特許を受ける権利を、
平成8年4月ころ、被控訴人会社の「嘱託員」にも準用される就業規則27条の規定により、被控訴人会社に承継させることを承諾したと認めるものである。その理由とする事実の認定及び判断は、以下のとおり付加するほか、原判決事実及び理由の「第3 争点に対する判断」の3(原判決14頁8行ないし16頁3行)のとおりである。
(1) 控訴人は、被控訴人会社から控訴人に対して嘱託報酬(平成7年10月分から同8年3月分)が支払われた事実はなく、平成8年9月30日付け被控訴人の取締役に就任する以前に控訴人が被控訴人会社の嘱託であったことはないと主張し、被控訴人会社の就業規則27条の適用を争うが、被控訴人会社から控訴人に対し上記期間中、嘱託報酬の支払いがなされていたことは、原判決挙示の証拠のほか、当審において提出された証拠(甲46、乙24の1ないし6、25の1及び2、26、27)及び弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。甲49(控訴人の陳述書C)中の上記認定に反する部分は採用することができない。
さらに、控訴人が平成7年10月以降の時期において、対外的に被控訴人会社の営業部長、開発技術部長等の肩書きを使用して被控訴人会社のために業務を遂行していたことは控訴人も自認するところであり、これらの事実と上に認定した嘱託報酬支払いの事実とを総合すると、控訴人と被控訴人会社との間には、被控訴人会社の就業規則第2条(乙1)にいうところの「嘱託員」関係が成立していたというべきである。
(2) 被控訴人会社から控訴人に支払われた200万円の趣旨について、控訴人は、これは被控訴人Cが一存で200万円を被控訴人会社から一旦役員賞与として支払った形にしたうえ増資資金に充てたものにすぎないと主張し、控訴人の陳述書C(甲49)には上記主張に沿う陳述部分がある。しかし、証拠(甲47、乙27)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社から控訴人名義の銀行預金口座に平成9年10月20日に200万円から源泉徴収税額20万円を差し引いた金額と認められる180万円が振り込まれたこと、上記預金口座の通帳と印鑑を一時期、被控訴人Cが管理していた事実はあるが、上記口座の出入金は控訴人が確認し了承しており、通帳と印鑑もその後控訴人に引き渡されていることを認めることができ、
これらの事実に照らして、上記陳述書(甲49)の200万円支払いの趣旨に関する部分は不自然であり採用することができない。上記200万円の趣旨については、原判決認定のとおり、特許権を受ける権利の譲渡に対する対価と認めることが相当である。
3 結論 以上のとおり、当審における控訴人の全主張及び当審において提出された証拠を考慮しても、本件の事実関係については原判決が認定したとおりであると認められ、本件特許出願の対象とされた発明についての特許を受ける権利が控訴人から被控訴人会社に適法に承継されたとする原判決の認定、判断は正当である。
よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であって本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実