• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2001-35204
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14受1100損害賠償,商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
昭和42行ツ28審決取消請求 判例 特許
平成10行ツ19審決取消請求事件 判例 特許
昭和47オ395特許権の通常実施権設定登録等請求 判例 特許
平成15行ヒ265 判例 商標
関連ワード 冒認出願(冒認) /  特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  産業上利用(29条1項柱書) /  新規性 /  新規性喪失(新規性の喪失) /  新規性喪失の例外(喪失の例外) /  進歩性(29条2項) /  周知技術 /  先願主義 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  試行錯誤 /  技術的手段 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  共同出願 /  国内優先権 /  実質的に同一 /  共有 /  着想 /  特許料(維持年金) /  出願経過 /  置き換え /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  持分譲渡(持分の譲渡) /  設定登録 /  移転登録 /  共同出願人 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  補助参加 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (ワ) 13678号 特許権移転登録請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士 安江邦治
訴訟復代理人弁護士 杉本進介
補佐人弁理士 羽切正治
被告 有限会社プティ,ボア(特許出願書類上の名称) 有限会社プティ・ボア
訴訟代理人弁護士 栄枝明典
同 中西紀子
訴訟復代理人弁護士 米村俊彦
補佐人弁理士 松浦恵治
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2002/07/17
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は,原告に対し,別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件特許発明」という。)の移転登録手続をせよ。
事案の概要
本件は,原告が,本件特許権の特許権者として設定登録されている被告に対し,本件特許発明発明者は原告であり,被告は冒認出願をして本件特許権を得たものであるとして,本件特許権の移転登録手続を求めた事案である。
1 争いのない事実等 (1) 訴外Yは,平成10年1月24日,原告に対し,乳癌等で乳房を切除した女性が補整用に用いるブラジャーの製作を依頼した(以下「本件依頼」という。)。
(2) 原告は,左右の乳房を別個に保護,補整する左右分離型のブラジャーを左右一対として組み合わせたブラジャーの試作品を縫製し,同年3月中旬ころ,これをYに送付した(以下,原告がYに送付したブラジャーの試作品を「本件試作品」という。)。
(3) 本件特許権の出願経過は,次のとおりである。
ア 被告は,平成10年4月22日,別紙出願目録記載1の特許出願をした(以下「当初出願」といい,その特許請求の範囲記載の発明を「当初出願発明」という。)。
イ 被告は,平成11年1月27日,当初出願に基づき,国内優先権主張を伴う別紙出願目録記載2の特許出願をした(以下「国内優先権出願」という。)。
当初出願は,特許法42条1項により平成11年7月22日に取り下げたものとみなされた。
ウ 特許庁審査官は,平成11年10月5日,国内優先権出願につき,拒絶理由通知書を発した(甲5)。これに対して,被告は,平成11年12月6日,国内優先権出願につき,手続補正書を提出し,国内優先権出願の特許請求の範囲を本件特許権の特許請求の範囲のとおりに補正するなどした(甲5)。特許庁審査官は,平成12年2月22日,国内優先権出願につき,特許査定をした。平成12年3月24日,被告を特許権者として本件特許権の設定の登録がされた。
(4) 原告は,平成11年9月20日,当初出願発明の発明者は原告であるとして,被告,訴外K及びYに対し,当初出願発明につき特許を受ける権利の確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した(東京地方裁判所平成11年(ワ)第20878号)。同裁判所は,平成13年1月31日,当初出願に係る発明者が原告であることを認定したが,国内優先権出願に係る特許の設定登録がされたことによって,原告の特許を受ける権利は消滅したとして,特許を受ける権利の確認の利益がないと判示して,当該訴えを却下する旨の判決を言い渡し,同判決は確定した。
2 争点と当事者の主張 (1) 本件特許発明は,原告により発明されたか。
(原告の主張) ア 原告は,服飾デザイナーの職にある。原告は,平成10年1月24日,Yから,乳癌で乳房を切除した女性のため,健常側の乳房用のカップ部分のみを外すことができるブラジャーの発明に関して協力を依頼された。原告は,本件依頼を受けた後,いろいろと工夫を重ねたが,同年2月20日ころ,左右別々に着脱できる型のブラジャーを着想し,試行錯誤を繰り返して,同年3月中旬ころ,発明を完成し,本件試作品を縫製した上で,Yに送付した。被告は,原告が発明し縫製した本件試作品どおりに図面及び明細書を作成し,当初出願手続を行った。
原告は,本件依頼を受けた後の同年2月12日,Yから,図面をファックスにより受け取ったことがある。しかし,同図面には,健常側の「カップ部及び肩紐部」のみを「本体バンド部分」から取り外すことができる構成が示され,本件発明とは相違する。もとより,原告は,被告Yから,単に縫製のみを依頼されたのではない。
当初出願発明は,本件試作品に示された発明と同一である。
イ なお,本件特許発明は補正を経たものである。当初出願発明と本件特許発明の各特許請求の範囲記載の請求項1を分説して対比すると,別紙対比表のとおりであるが,両者は,次のとおり,実質的に同一である。
(ア) 構成要件(1)は,当初出願発明において「左右で独立する一対のセパレート部が組み合わされて成るブラジャー」としているのを,本件特許発明においては,当初出願発明の「セパレート部」を「ブラジャー」と置き換えただけであり,その構成は,両発明において実質的に同一である。
(イ) 構成要件(2)は,当初出願発明においては,(@)及び(A)のように,「右側のセパレート部(10)」と「左側のセパレート部(20)」とに分けて各構成を記載しているのに対し,本件特許発明では,当初出願発明の「セパレート部」を「ブラジャー」と置き換えた上で,左右の「ブラジャー」を一緒にして「前記各々のブラジャー(10,20)」として,その構成を述べている点に相違はあるが,その内容において,両発明に実質的相違はない。
すなわち,当初出願発明の各セパレート部(10,20)及び本件特許発明の左右のブラジャーは,共にその構成において全く同一の@及びBの構成を有する。
また,当初出願発明において,Aは,「該カップ部(11,21)を胸位置で脱着可能に支持するバンド部(12,22)」となっているのに対し,本件特許発明のAは,「該カップ部(11,21)の下部に接続し,胸のまわりに一周して装着するバンド部(12,22)」となっており,両者には文言的に若干の相違がある。しかし,当初出願発明におけるバンド部(12,22)はいずれも,「カップ部(11,21)の下部に接続」され,また,バンド部(12,22)は「胸のまわりに一周して装着」されるようになっている。
さらに,本件特許発明のバンド部(12,22)は「胸位置で脱着可能」となっているのであるから,結局のところ,Aの構成において,当初出願発明と本件特許発明は何ら異なるところがない。
ウ したがって,本件特許発明は,原告によって発明された。
(被告の反論) ア 本件特許発明発明者は,K及びYである。
Kは,平成9年夏ころ,乳ガン手術後の苦しみを解消するため,自ら使用していた2枚の下着をはさみで切り取る方法により,検乙1のブラジャーを製作した。検乙1は,本件特許発明に係るブラジャーの原型品である。その後,K及びYは,上記ブラジャーを製品化するため試行錯誤を重ねて改良を加え,平成9年冬ころ,本件特許発明を完成させた。
Yは,原告に対し,平成10年1月24日,本件特許発明の内容を詳細に説明した上,特許出願手続と商品化のための見本を縫製してほしいと依頼し,原告は,これを承諾した。本件依頼は,このような趣旨でされたものである。
したがって,本件試作品は,原告がYからの本件依頼に基づき縫製した見本にすぎないから,原告が本件試作品を製作したことをもって本件特許発明発明者であるということはできない。
イ 仮に,原告が本件試作品を製作したことが当初出願発明を完成させる行為であると認められるならば,当初出願発明は,K及びYと原告とが共同で発明したものである。
Yは,本件依頼をした後,原告に対し,平成10年2月12日,ファクシミリにより図面(甲1)を送信したが,この図面にはカシュクール風のブラジャーが記載されている。このカシュクール風のブラジャーと当初出願発明はデザイン等の違いがあるので,仮にこれが別の発明と評価されるとしても,両者は重要な部分が同一である。
そうすると,原告は,Yから発明の重要な部分の開示を受けて当初出願発明を完成したことになるから,当初出願発明は原告とK及びYとが共同で発明したものである。したがって,本件特許発明もまた,原告とK及びYとが共同で発明したものということになる。
(2) 原告は被告に対して,本件特許発明発明者が原告であることを理由として,本件特許権についての移転登録手続請求権を有するか。
(原告の主張) ア 特許を受ける権利共有者として自ら特許出願をしていた権利者の出願人名義を,譲渡証書を偽造するなどして自己に変更し,特許権の持分の設定登録を受けた冒認者に対し,権利者が当該特許権の持分の移転登録手続を請求した事件において,最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決(以下「平成13年最高裁判決」という。甲9)は,権利者からの移転登録手続請求を認容した。
本件事案は,以下のとおり,平成13年最高裁判決が前提とした事実経緯と同じであり,同判決の射程に入るものであるから,同判決の法理に基づき,原告は,本件特許権の移転登録手続請求権を有するというべきである。
すなわち, (ア) 前記のとおり,本件特許発明発明者である原告は,本件特許発明につき特許を受けるべき真の権利者であり,被告は,特許を受ける権利を有しない無権利者である。
(イ) 原告は,被告の冒認出願を理由に,本件特許について特許無効の審判を請求することはできるが,特許無効の審決を得て本件特許発明につき改めて特許出願をしたとしても,平成11年5月ころの新聞記事により本件特許発明は既に公知となっているから原告の特許出願は拒絶され,原告が特許権者となることはできない。また,原告は,特許を受ける権利侵害されたことを理由として不法行為に基づく損害賠償を請求する余地はあるが,これによって本件特許発明につき特許権の設定の登録を受けていれば得られたであろう利益を十分に回復できるとはいい難い。
(ウ) 原告は,被告による国内優先権出願の事実を知ることができなかったため,被告,K及びYに対し,原告が当初出願発明につき特許を受ける権利を有することの確認訴訟を提起したが,同訴訟の係属中に本件特許権の設定登録がされたため,訴えは却下された。そのため原告は,やむなく本件特許権の移転登録手続を求めて本訴を提起したのであるから,本件訴訟は上記特許を受ける権利の確認訴訟の延長線上にあり,かつ同訴訟と一体をなすものである。
(エ) 本件においては,本件特許発明新規性,進歩性等の要件を備えていることは当事者間に争いがなく,専ら権利の帰属についてのみ争いがあるにすぎないところ,特許権の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項であるから,裁判所においてその帰属に関する判断をしたとしても,行政庁の第一次的判断権を損なうことはない。
(オ) 本件特許権の成立及び維持に要する費用の負担については,原告が必要額を被告の求めに応じて被告に償還すれば足りる。
(カ) 本件は,当初から被告が単独で冒認出願をしたものであるのに対し,平成13年最高裁判決の事案は,無権利者が譲渡証書を偽造するなどして正当権利者である共同出願人の出願人名義を自己に変更し,特許権の持分の設定登録を受けたというものであり,この点において,本件事案と平成13年最高裁判決の事案は異なる。しかし,原告は,本件特許発明の開発行為に着手する時点で既にYとの間で本件特許発明につき共同出願をすることを約束しており,Yはこの約束に違反して,原告に無断で被告を出願人とする当初出願及び国内優先権出願をしたのである。いわば,原告は,本件特許発明につき特許を受ける権利の持分2分の1を有していたところ,Yが原告に無断で原告の上記持分を被告に譲渡し,被告を単独出願人としたのである。したがって,本件は,その実体を見る限り,平成13年最高裁判決の事案と何ら異なるところはない。
イ 以上から明らかなとおり,本件は,冒認出願により特許権を取得した被告の行為によって,真の権利者である原告が,無効審判請求及び不法行為に基づく損害賠償請求によっては自らの利益を十分に回復し得ない事案であり,平成13年最高裁判決が想定し言及した事案に該当するものというべきである。
(被告の反論) ア 特許法は,冒認出願に対する真の権利者の救済のために,新規性先願主義の例外規定(特許法30条2項,39条6項)を設けて一定の保護を図っているが,冒認出願自体は拒絶理由及び無効理由とし,真の権利者に対し,冒認出願につき設定登録がされた特許権の返還請求権を認める規定を置いていない。すなわち,特許法は,真の発明者といえども,冒認出願に対して対応が遅れた場合には保護すべきでないと考えているのである。特許権は,特許庁の審査を経て特許査定及び設定の登録という行政処分により発生する権利であり,特許を受ける権利よりもはるかに強力で価値の高い権利であり,特許を受ける権利とは性質の異なる権利である。さらに,冒認出願は,拒絶理由及び無効理由とされているから,出願人が真の権利者であるかどうかにつき特許庁が第一次的に判断をするというのが特許法の建前である。したがって,裁判所が特許庁の無効審判手続によることなしに真の権利者から冒認者に対する特許権の移転登録手続請求を認めるとすれば,それは,裁判所が,冒認者に対してされた行政処分を無効にし,真の権利者のために同一内容の特許権の設定処分をし,特許庁にその旨の登録を命ずることを肯定するのと同一の結果になる。
以上のような理由から,冒認出願につき特許権が設定登録された後は,真の権利者から冒認者に対する当該特許権の移転登録手続請求は認められないとするのが通説判例である。
イ 平成13年最高裁判決は,上記の通説判例を前提とした上で,限られた事例について例外的な扱いを認めたものであると解すべきである。本件は,以下のとおり,そのような例外的場合には当たらず,同判決の射程外である。
(ア) 平成13年最高裁判決は,真の権利者が出願をし,その後に偽造文書等により出願人名義が移転された事案を前提としているが,本件事案で,原告は自ら出願をしていない。
(イ) 平成13年最高裁判決は,発明の進歩性,新規性といった技術的な事項に争いがないだけでなく,誰が発明者かという点についても争いがなく,誰が発明者であるかという争いのない事実を前提にした上で,権利の譲渡があったかなかったかという譲渡行為の有無,譲渡行為の有効・無効等私法的な権利変動による権利の帰属のみが争点とされた事案に関するものである。このような特許権の帰属自体は技術に関する専門的知識経験を有していなくとも判断し得る事項であるから,そもそも特許庁の第一次的判断権を尊重する必要のない事案であった。
これに対して,本件事案では,私人間の権利変動ではなく,真の発明者が誰かという正に特許庁の専門分野に属する事項が争点となっている事案である。
(ウ) 平成13年最高裁判決は,特許を受ける権利と特許権の各発明の内容に同一性のあることが明らかな事案であった。しかし,本件では,当初出願から本件特許権の設定登録に至るまでの間に,国内優先権出願や補正が行われており,当初出願発明と本件特許発明は,以下のとおり,同一性がない。
当初出願発明と本件特許発明とは,以下の顕著な相違点がある。
@ 本件特許発明の請求項3の「バンド部が,胸側で他方の乳房側に偏位した位置で分離可能」という構成は,当初出願発明の構成と相違する。
A 本件特許発明の請求項4の「左右のブラジャーの一方もしくは両方が,カップ部,バンド部及び肩紐が連続した一体形に形成されている」という構成は,当初出願発明の構成と相違する。
B 本件特許発明の請求項6の「左右のブラジャーの両方のカップ部に,補整用パッドあるいは補充パッドを収納するためのポケット部が設けられている」という構成は,当初出願発明の構成と相違する。
(エ) 平成13年最高裁判決の事案では,何の関係も責任もない特許権の共有者が存在し,同人の持分までが無効になってしまうという不当な結論を回避する必要があったが,本件ではそのような第三者はいない。
したがって,本件は,平成13年最高裁判決の射程外であるから,原告の本件特許権の移転登録手続請求は認められない。
当裁判所の判断
1 本件特許発明は,原告により発明されたか。
(1) 結論及び事実認定の概要 以下のとおりの理由により,本件発明をしたのは原告であると認定することができる。すなわち, ア 原告は,平成10年3月ころ,Yに本件試作品を送付したが,本件試作品に示された発明と当初出願発明(及び補正を経た後の本件特許発明)とは同一である。したがって,特段の事情のない限り,原告が本件発明をしたものと認定できる。
イ 被告は,原告が本件試作品に示された発明をするに先立って,@平成10年1月24日に,Yは原告に対して,本件試作品に示された発明に係る技術内容を説明,開示したこと,また,A平成10年2月12日に,Yは原告に対し,図面をファックスにより送信したなど主張する。しかし,@の点については,Yが原告に対し,口頭で,発明に関する技術内容を説明,開示した事実を認めることもできないこと,及び,Aの点については,上記ファックスにより送信された図面に示された技術は,本件試作品に示された発明と多くの重要な点で相違することから,Yが本件特許発明を発明したと解することはできない。
以下,この認定過程を詳細に述べる。
(2) 本件試作品に示された発明と本件特許発明との同一性 ア 争いのない事実等及び証拠(甲2ないし5,7の13ないし15,乙3,6,9,13,32)によれば,以下のとおりの事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(ア) @原告は,服飾デザイナーの職にあるが,平成10年1月24日,知り合いのYから,乳癌で乳房を切除した女性のため,健常側の乳房用のカップ部分のみを外すことができるブラジャーの発明に関する協力を依頼された,A原告は,この依頼を受けた後,左右の乳房を各々保護,補整することができ,左右独立した一対のブラジャーが組み合わされた本件試作品を縫製した上で,同年3月中旬ころ,Yに送付した,BYは,原告から送付を受けた本件試作品を特許事務所に持参して,弁理士に特許出願を依頼した,C依頼を受けた弁理士は,本件試作品をもとに図面及び特許明細書を作成した,D同年4月22日,当初出願発明について,K及びYを発明者,Yが代表者である被告を特許出願人として当初出願がされた,E平成11年1月27日,K及びYを発明者,被告を特許出願人として国内優先権出願がされ,明細書の補正後,平成12年3月24日,被告を特許権者として本件特許権の設定の登録がされた。
(イ) 本件特許発明は,以下のとおりである。
a 本件特許権の特許公報に掲載された明細書(以下「本件明細書」という。)の「特許請求の範囲」欄には, 請求項1は,「左右の乳房を別個に保護,補整する左右分離型のブラジャーを左右一対として組み合わせたブラジャーであって,前記各々のブラジャーは,乳房を保護,補整するカップ部と,該カップ部の下部に接続し,胸のまわりに一周して装着するバンド部と,カップ部の上部に一端側が取り付けられ肩部を通過した背中側で他端側が前記バンド部に取り付けられた肩紐とを備え,前記左右のブラジャーのバンド部がブラジャーの装着時に胸側で重なることを特徴とするブラジャー。」と記載され,また,請求項2以下は,請求項1を引用する形式で,請求項1にバンド部が胸側で分離可能に設けられると共にバンド部の分離端を脱着するフック部が設けられる等の限定を加えたものが記載されている。
b また,「発明の詳細な説明」欄には,「発明が解決しようとする課題」として,乳房が欠除した人のために提供されている補整用ブラジャーについて,「装着操作等の取扱いが容易であるとともに,部屋着などでつくろいでいる際も見栄えがよく,違和感なく,使用者の不安をなくす使いやすいブラジャーを提供することを目的としている」という記載,「発明の効果」として,「左右のブラジャーが別々に脱着可能となることから,左右どちらかのブラジャーを適宜脱着するといった使い方が可能となる。とくに,乳房を切除した人などの場合には,手術した側のみに着用して健常側のブラジャーを外しておくといった使い方が可能になり,外観を心配することなく使用でき,健常側についてはブラジャーを着用していることによる窮屈さから解放されるといった有効な使用が可能になる」という記載がされている。さらに,上記特許公報の図面には,実施形態を示すものとして,図1ないし9が記載されている。
(ウ) 他方,本件試作品は,左右の乳房を別個に保護,補整する左右分離型のブラジャーを左右一対として組み合わせたブラジャーであって,各々のブラジャーは,@乳房を保護,補整するカップ部と,Aカップ部の下部に接続し,胸まわりに一周して装着するバンド部と,Bカップ部の上部に一端側が取り付けられ,肩部を通過した背中側で他端側がバンド部に取り付けられた肩紐とを備えており,左右のブラジャーのバンド部がブラジャーの装着時に胸側で重なるものである。また,本件試作品は,「装着操作等の取扱いが容易であるとともに,部屋着などでくつろいでいる際も見栄えがよく,違和感なく,使用者の不安をなくす使いやすいブラジャーを提供する」との課題を解決するため,上記構成を備えることにより「左右のブラジャーが別々に脱着可能となることから,左右どちらかのブラジャーを適宜脱着するといった使い方が可能となる。とくに,乳房を切除した人などの場合には,手術した側のみに着用して健常側のブラジャーを外しておくといった使い方が可能になり,外観を心配することなく使用でき,健常側についてはブラジャーを着用していることによる窮屈さから解放されるといった有効な使用が可能になる」との効果を奏することが明らかである。
イ 以上認定した事実によれば,本件特許発明の内容は,本件試作品の形状,構造で示された技術思想に依拠するものであり,「本件試作品に示された発明」と「本件特許発明」とは,後記の点を除きその構成が一致し,作用効果も同一であるから,実質的に同一であると認めることができる(一部構成が一致しない点も,この判断を左右するものでないことは後記のとおりである。)。
これに対して,被告は,本件試作品に示された発明は,本件特許発明のうち,@請求項3の「バンド部が,胸側で他方の乳房側に偏位した位置で分離可能」という構成,A請求項4の「左右のブラジャーの一方もしくは両方が,カップ部,バンド部及び肩紐が連続した一体形に形成されている」という構成,B請求項6の「左右のブラジャーの両方のカップ部に,補整用パッドあるいは補充パッドを収納するためのポケット部が設けられている」という構成をそれぞれ欠くので,両発明は同一性を欠く旨主張する。
しかし,被告の主張は以下のとおり理由がない。すなわち,@については,本件試作品は,一方(健常な乳房側)のバンド部は,他方(切除した乳房側)のカップ部の下方位置で分離可能となっている点が示されており,「バンド部が,胸側で他方の乳房側に偏位した位置で分離可能」という構成を欠いているとはいえない(甲2,4)。また,A及びBについては,ブラジャーを一体形成すること及びブラジャーのカップ部にパッド用のポケットを設けることは周知技術であると認められるから,被告の指摘に係る上記A及びBの相違点は,単なる慣用手段の転換又は付加にすぎない(甲5)。
したがって,本件試作品に示された発明と本件特許発明とは,実質的に同一であると評価できる。以上のとおりであるから,被告の上記主張は採用できない。
ウ 前記イで認定したとおり,本件試作品に示された発明と本件特許発明とは実質的に同一であると認められるから,特段の事情のない限り,原告が本件特許発明をしたものと認定することができる。すなわち,原告が本件試作品を完成させる前に,Y又はKが原告に対して,本件試作品に示された発明に関連する重要な事項を開示,示唆したという事実が認められない限り,原告が本件特許発明をしたとの前記認定を覆すことはできないというべきである。
そこで,以下,この点に関する被告の主張につき判断する。
(3) Y又はKが原告に開示,示唆した内容等について ア 書面による開示の有無,内容 (ア) 被告は,Yが原告に送信したファックス図面(甲1)に示されたカシュクール風のブラジャーは当初出願発明と重要な部分が同一であるから,原告は,Yから発明の重要な部分の開示を受けて当初出願発明を完成したことになると主張する。
証拠(甲1,乙13)及び弁論の全趣旨によれば,Yは,本件依頼後の平成10年2月12日,原告に対し,図面(甲1)をファックスにより送信したこと,同図面には,健常側の「カップ部及び肩紐部」を本体バンド部分から取り外すことができるブラジャー(甲1の1ないし4。以下これを「はらり型」という。),カシュクール風の構造によって左右の乳房を別々に覆うことができ,健常側の「カップ部及び肩紐部」を本体バンド部分から取り外すことができるブラジャー(甲1の5ないし8。以下これを「カシュクール型」という。)及び腹部の手術跡を隠すことのできるシャツ(甲1の9ないし11)が示されていることが認められる。
なお,被告は,ファックス図面で示されたカシュクール型のブラジャーは左右分離型の一対のブラジャーであり,バンド部をひも状又はリボン状にしたものであるとも主張する。しかし,甲1の5ないし8に描かれた図面において,カシュクール型のブラジャーが左右分離型の一対のものであるとの点が示されていないことは明らかであり,この点の被告の主張は採用できない。
(イ) そこで,本件特許発明とファックス図面に示された発明とを対比する。
前記のとおり,本件特許発明は,左右分離型の一対(2個)のブラジャーであり,左右任意のブラジャーを適宜脱着するという使い方が可能であるのに対し,ファックス図面に示された発明は,「はらり型」,「カシュクール型」のいずれも,健常側の「カップ部及び肩紐部」を本体バンド部分から取り外すことができるけれども,健常側の「カップ部及び肩紐部」のみを装着する構造を採用していないので,左右任意のブラジャーを適宜脱着するという使い方ができない点において,本件特許発明と相違する。そうすると,両者はともに,切除側は常時装着したままで,健常側は必要なときのみ装着が可能であるブラジャーを提供するという目的において共通するが,その目的達成手段が異なり,技術思想を異にする別個の発明であるといえる。また,両者の実質的な相違点に鑑みると,ファックス図面に示された技術が,本件特許発明の重要な一部を形成していると考えることもできない。
なお,被告は,甲1のファックス図面に原告が書き込みをしたものが乙39の図面であるところ,乙39の1の図面には,バンド部に縦の傍線が記入されていることから,バンド部が二重になっているとの構成,及び健常側のバンド部が切除側の乳房の真下の位置で留めるようになっているとの構成が示されおり,したがって,Yは,上記各構成について原告に話していたと推認するのが相当である旨主張する。しかし,本件全証拠によるも,原告が,乙39の図面に書き込みをするに当たり,Yの話に基づいたことを認めることはできず,この点の被告の主張は失当である。
したがって,Yが原告に対し,ファックス図面を送信した事実があったからといって,原告が本件特許発明をしたとの認定を左右することにはならない。
イ 口頭による開示の有無,内容 被告は,Yが原告に対し,平成10年1月24日,本件依頼に当たり,本件特許発明の内容を詳細に説明した上,見本を縫製してほしいと依頼した旨主張し,証拠(甲7の15,乙13)中には,Yは原告に対し,Kが乳癌のために乳房を切除した後,片側だけ着用できるブラジャーを考案した経緯等を説明し,その構造等を説明した上で特許出願手続と商品化のための見本の縫製を依頼したとする部分が存する。
しかし,証拠(甲4,7の13及び15,乙13)によれば,@原告は下着縫製の専門家ではないので,Yが原告に対し,縫製作業のみを依頼するのは不自然であること,A上記陳述書(乙13)においても,本件依頼の内容はせいぜい,「(ブラジャーを)クロスにした方が安定していいと思う,ただ,ちょっときついかなとも思うんだけど,と話しました。」,「見た目が普通のブラジャーに見えるものにしたいの,それには,二枚重なっているということが分からないようにしたいと話しました。」にすぎず,その説明内容は,本件特許発明の要旨を具体的に開示したものとは到底いえないこと,B本件依頼の際に,Yは原告に対し,説明のための図面等を使用していないのみならず,ホテルで3,4時間かけて食事をする中で行っていること,C前記のとおり,Yから原告に対してファックス送信した図面は,健常側の「カップ部及び肩紐部」のみを「本体バンド部分」から取り外すブラジャーが示されているのに対し,原告は,この図面と明らかに異なる本件試作品を完成させていること等が認められることを総合すると,Yが原告に対し,口頭であっても,本件特許発明の要旨どおりの具体的内容を開示したと認めることは到底できない。
ウ 以上のとおり,原告が本件試作品を完成させる前に,Yが原告に対して,本件試作品に示された発明に関連する重要な内容を開示,示唆したという事実を認めることはできないので,結局,原告が本件特許発明をしたとの前記認定を覆すことはできない。
(4) Y及びKが独自に発明したとの主張について 被告は,Kが平成9年夏ころに検乙1(乙4はこれを写真撮影したもの。)のブラジャーを製作し,K及びYがこれに改良を加えて同年冬ころに本件特許発明を完成させた旨主張する。
しかし,この主張に沿う事実を認めることはできない。
すなわち,@確かに,N及びWの各陳述書(乙7,8)には,Yが,平成9年11月終わりころ,ブラジャーを分割して別個に着脱し得るようにするという着想を得ていた旨の記載があり,また,K及びYの各本人尋問調書(甲7の14,15)並びに各陳述書(乙3,13)には,前記被告の主張に沿う部分があり,さらに,被告の従業員であったTの陳述書(乙9)には,Tがこのころに多数のブラジャーの図面(乙2)を作成した旨の記載があるが,いずれについても,K及びYが,どのような技術的手段によって上記解決課題を実現したかについての具体的な説明はされていないこと,Aまた,Yが平成10年2月上旬に綿貫特許商標事務所に持参したとするメモ(乙29)には「乳房手術をした人用ブラジャー(セパレートブラ)」,「ブラジャーをふたつのパートに分け片方のみの着脱が可能となる」との記載があるが,この記載は前記はらり型及びカシュクール型のブラジャーにも当てはまる内容である上,乙29には「左右独立した一対のブラジャーを重ねる」という本件特許発明の特徴を示唆する記載は一切ないことからすると,乙29の記載は本件特許発明を示すものとはいえないこと,B検乙1も乙4もともに,被告の主張を裏付ける客観性に乏しいこと(検乙1のブラジャーが平成9年夏ころから存在したことを裏付ける的確な証拠はない。),CY及びKが平成9年冬ころに本件特許発明を完成していたのであれば,本件依頼の後の平成10年2月に,Yが原告にファックス送信した図面(甲1)に記載された技術内容と本件特許発明とが大きく相違するのは不自然であること,DTの図面(乙2)が平成9年冬ころに描かれたのであれば,同じくTの描いたファックス図面(甲1)に左右分離型の一対のブラジャーが描かれていないのは不自然であること等の事実に照らすならば,K及びYが被告の主張する時期に既に本件特許発明を完成させていたと認めることは到底できない。
(5) 小括 以上のとおり,原告が製作し,Yに送付した本件試作品に示された発明は,本件特許発明実質的に同一であり,これに基づいて当初出願が行われ,さらに当初出願に基づいて国内優先権出願がされ,補正を経て本件特許権の設定登録がされたことは明らかである。他方,K及びYが本件依頼に先立って本件特許発明を完成していたことを認めることはできないのみならず,本件依頼に際して,K及びYが原告に対して,本件特許発明の技術的構成を具体的に開示ないし示唆したことを認めることもできない。
したがって,本件特許発明発明者は原告である。
2 原告は移転登録手続請求権を有するか。
(1) 以上のとおりであるから,被告は,いわゆる冒認出願(発明者又は発明者から特許を受ける権利承継した者(以下「発明者等」という。)以外の者による出願)により本件特許権の設定登録を受けたことになる。
そこで,冒認出願に対する発明者等の保護に関する特許法の諸規定及び特許権の設定登録の効果について検討する。
まず,特許法は,発明者特許を受ける権利を有するものとし(特許法29条1項柱書き。以下「法」という。),冒認出願に対しては拒絶査定をすべきものとしている(法49条6号)。また,冒認出願は先願とはされず(法29条の2括弧書き,法39条6項),新規性喪失の例外規定(法30条2号)を設けて,冒認出願がされても発明者等が特許出願をして特許権者となり得る余地を残し,発明者等の特許を受ける地位を一定の範囲で保護している。冒認出願者に対して特許権の設定登録がされた場合,その冒認出願は無効とされている(法123条1項6号)が,特許法上,発明者等が冒認者に対して特許権の返還請求権を有する旨の規定は置かれていない。さらに,特許権は,特許出願人(登録後は登録名義人となる。)を権利者として発生するものであり(法66条1項),たとえ,発明者等であったとしても,自己の名義で特許権の設定登録がされなければ,特許権を取得することはない。
このような特許法の構造に鑑みると,特許法は,冒認出願をして特許権の設定登録を受けた場合に,当然には,発明者等から冒認出願者に対する特許権の移転登録手続を求める権利を認めているわけではないと解するのが相当である。
そうすると,原告が本件特許発明の真の発明者であり,被告が冒認者であるとしても,そのことから直ちに,原告の被告に対する本件特許権の移転登録手続請求を認めることはできない。
(2) この点について,原告は,本件が平成13年最高裁判決と同様の事案であるから,同判決の法理に基づき原告の請求は認められるべきであると主張する。しかし,本件は,以下のとおり,移転登録請求を認めた平成13年最高裁判決とは事案が異なり,同様に判断することはできない。
ア 平成13年最高裁判決の事実経緯について 同判決の事案は,以下のとおりである。すなわち,特許を受ける権利共有者(真の権利者)である上告人が他の共有者と共同で特許出願をした。ところが,被上告人が,上告人から権利の持分の譲渡を受けた旨の偽造した証書を添付して,出願人を上告人から被上告人に変更する旨の出願人変更届を特許庁長官に提出したため,被上告人及び他の共有者に対して特許権の設定の登録がされたというものである。
同最高裁判決は,以下のとおり,「本件の事実関係の下においては」,真の権利者は,無権利者に対し,無権利者の特許権の持分について移転登録手続を請求することができる旨判示した。
すなわち,「上記・・・の事実関係によれば,本件発明につき特許を受けるべき真の権利者は上告人及び上告補助参加人であり,被上告人は特許を受ける権利を有しない無権利者であって,上告人は,被上告人の行為によって,財産的利益である特許を受ける権利の持分を失ったのに対し,被上告人は,法律上の原因なしに,本件特許権の持分を得ているということができる。また,上記・・・の事実関係の下においては,本件特許権は,上告人がした本件特許出願について特許法所定の手続を経て設定の登録がされたものであって,上告人の有していた特許を受ける権利と連続性を有し,それが変形したものであると評価することができる。
他方,上告人は,本件特許権につき特許無効の審判を請求することはできるものの,特許無効の審決を経て本件発明につき改めて特許出願をしたとしても,本件特許出願につき既に出願公開がされていることを理由に特許出願が拒絶され,本件発明について上告人が特許権者となることはできない結果になるのであって,それが不当であることは明らかである(しかも,本件特許権につき特許無効の審決がされることによって,真の権利者であることにつき争いのない上告補助参加人までもが権利を失うことになるとすると,本件において特許無効の審判手続を経るべきものとするのは,一層適当でないと考えられる。)。また,上告人は,特許を受ける権利侵害されたことを理由として不法行為による損害賠償を請求する余地があるとはいえ,これによって本件発明につき特許権の設定の登録を受けていれば得られたであろう利益を十分に回復できるとはいい難い。その上,上告人は,被上告人に対し本件訴訟を提起して,本件発明につき特許を受ける権利の持分を有することの確認を求めていたのであるから,この訴訟の係属中に特許権の設定の登録がされたことをもって,この確認請求を不適法とし,さらに,本件特許権の移転登録手続請求への訴えの変更も認めないとすることは,上告人の保護に欠けるのみならず,訴訟経済にも反するというべきである。
これらの不都合を是正するためには,特許無効の審判手続を経るべきものとして本件特許出願から生じた本件特許権自体を消滅させるのではなく,被上告人の有する本件特許権の共有者としての地位を上告人に承継させて,上告人を本件特許権の共有者であるとして取り扱えば足りるのであって,そのための方法としては,被上告人から上告人へ本件特許権の持分の移転登録を認めるのが,最も簡明かつ直接的であるということができる。
もっとも,特許法は,特許権が特許庁における設定の登録によって発生するものとし,また,特許出願人が発明者又は特許を受ける権利承継者でないことが特許出願について拒絶をすべき理由及び特許を無効とすべき理由になると規定した上で,これを特許庁の審査官又は審判官が第1次的に判断するものとしている。しかし,本件においては,本件発明が新規性,進歩性等の要件を備えていることは当事者間で争われておらず,専ら権利の帰属が争点となっているところ,特許権の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項であるから,本件のような事案において行政庁の第1次的判断権の尊重を理由に前記と異なる判断をすることは,かえって適当とはいえない。また,本件特許権の成立及び維持に関しては,特許料を負担するなど,被上告人の寄与による部分もあると思われるが,これに関しては上告人が被上告人に対して被上告人のした負担に相当する金銭を償還すべきものとすれば足りるのであって,この点が上告人の被上告人に対する本件請求の妨げになるものではない。
以上に述べた点を考慮すると,本件の事実関係の下においては,上告人は被上告人に対して本件特許権の被上告人の持分につき移転登録手続を請求することができると解するのが相当である。」と判示した。
イ 本件の事実経緯について これに対して,本件の事実経緯は以下のとおりである。
すなわち,前記のとおり,原告は,本件特許発明につき,発明者であり,また特許を受ける権利を有する者ではあるが,自らは特許出願をせず,被告のみが,当初出願及び国内優先権出願をした。また,原告は,本件特許発明に係る当初出願がされた平成10年4月22日から約1か月半後の同年6月9日,Yから当初出願の出願書類を渡され,被告が本件特許発明発明者をY及びKとして当初出願をした事実を知り,自らが当初出願の出願人となっていなかったことに対して強く不満を持ったが,そのことを直接Yに告げることもなく,平成11年2月に至り始めてYに対し原告を当初出願の出願人に加えるように求めた。その後,同年5月に発行された新聞に本件特許発明実施品であるブラジャーに関する記事が掲載されたが,それまで本件特許発明新規性を失わせる出来事はなかった(甲4,7の2及び13)。さらに,原告は,特許庁に対し,平成13年5月14日,本件特許権について無効審判請求(無効2001-35204)をし,同審判事件は現在特許庁に係属中である(甲8)。
ウ 検討 そこで,平成13年最高裁判決の事案と本件事案とを比較検討すると,以下の点において異なり,原告に本件特許権の移転登録手続請求権を認めるのは相当でない。
(ア) 第1に,平成13年最高裁判決事案では,上告人は,自ら他の共有者と共同で特許出願をしていたのに対して,本件事案では,原告は,自ら特許出願をすることはなく,被告のみが,当初出願及び国内優先権出願をした点において相違する。
平成13年最高裁判決は,「本件特許権は,上告人がした本件特許出願について特許法所定の手続を経て設定の登録がされたものであって,上告人の有していた特許を受ける権利と連続性を有し,それが変形したものであると評価することができる。」と判示し,真の権利者が特許出願をしたことを前提として特許を受ける権利と特許権との間に連続性があると評価すべきであるとしている。すなわち,特許法は,特許権が特許出願に対する特許査定(又は審決)を経て設定登録されることにより発生するものと定めており,このような特許法の特許権の付与手続の構造に照らすと,平成13年最高裁判決の事案において,自ら特許出願をした真の権利者である上告人に対して特許権の持分の移転登録手続請求を認めて権利者の救済を図ったしても,真の権利者が既に行った特許出願に対して特許がされたとみる余地があるから,特許法の登録制度の構造における整合を欠くことにはならいない。
これに対し,原告に本件特許権の移転登録手続請求を認めることは,自ら特許出願手続を行っていない者に対して特許権を付与することを認めることとなり,特許法の制度の枠を越えて救済を図ることになって,上記の登録制度の構造に照らして許されないというべきである。
(イ) 第2に,平成13年最高裁判決は,上告人が特許出願をした後に,被上告人が,上告人から権利の持分の譲渡を受けた旨の偽造した証書を添付して,出願人を上告人から被上告人に変更する旨の出願人変更届を特許庁長官に提出したという事案に関するものであり,同事件においては,発明が新規性,進歩性等の要件を備えていることは当事者間で争われておらず,専ら権利の帰属が争点とされていた。このような事案においては,特許権の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項ということができる。
これに対して,本件は,私人間の権利変動ではなく,真の発明者が誰かという正に特許庁の専門分野に属する事項が争点とされている事案であって,平成13年最高裁判決とその争点の性質が大きく異なる。
(ウ) 第3に,平成13年最高裁判決は,「上告人は,本件特許権につき特許無効の審判を請求することはできるものの,特許無効の審決を経て本件発明につき改めて特許出願をしたとしても,本件特許出願につき既に出願公開がされていることを理由に特許出願が拒絶され,本件発明について上告人が特許権者となることはできない結果になるのであって,それが不当であることは明らかである」と判示し,移転登録手続請求を認める以外には,上告人に生じた不都合を是正する他の救済方法が存在しなかったことを理由の一つに挙げている。
これに対して,上記のとおり,原告は,本件特許発明について冒認出願がされたことを知った後,遅くとも平成11年4月までの間に自ら本件特許発明について特許出願をしていれば,被告のした当初出願又は国内優先権出願を排除することができ,本件特許発明について,自ら特許権を取得することができたものといえる。そうすると,原告には自ら本件特許発明について特許権を取得する機会があったといえる。したがって,本件においては,真の権利者であるにもかかわらず,特許権を取得する方法がないという不合理な結果が生じたということはできないから,例外的に特許権の移転登録請求を認めて真の権利者の救済を図る必要性は,極めて低いというべきである。
ウ 上記イに述べたところを総合すれば,本件は平成13年最高裁判決とは事案を異にするということができるから,原告の上記主張は採用できない。
6 結論 以上の次第で,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)特許権目録特許番号特許第3049032号発明の名称ブラジャー出願番号特願平11-017817発明者Y,K特許出願人有限会社プティ・ボア特許請求の範囲【請求項1】左右の乳房を別個に保護,補整する左右分離型のブラジャーを左右一対として組み合わせたブラジャーであって,前記各々のブラジャーは,乳房を保護,補整するカップ部と,該カップ部の下部に接続し,胸のまわりに一周して装着するバンド部と,カップ部の上部に一端側が取り付けられ肩部を通過した背中側で他端側が前記バンド部に取り付けられた肩紐とを備え,前記左右のブラジャーのバンド部がブラジャーの装着時に胸側で重なることを特徴とするブラジャー。
【請求項2】左右のブラジャーの一方もしくは両方のバンド部が,胸側で分離可能に設けられると共に,バンド部の分離端を脱着するフック部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のブラジャー。
【請求項3】バンド部が,胸側で他方の乳房側に偏位した位置で分離可能に設けられていることを特徴とする請求項2記載のブラジャー。
【請求項4】左右のブラジャーの一方もしくは両方が,カップ部,バンド部及び肩紐が連続した一体形に形成されていることを特徴とする請求項1記載のブラジャー。
【請求項5】左右のブラジャーの一方もしくは両方のカップ部に,補充パッドが装着されていることを特徴とする請求項1,2,3または4記載のブラジャー。
【請求項6】左右のブラジャーの両方のカップ部に,補整用パッドあるいは補充パッドを収納するためのポケット部が設けられていることを特徴とする請求項1,2,3,4または5記載のブラジャー。
出願目録1発明の名称ブラジャー出願番号特願平10-112421発明者Y,K特許出願人有限会社プティ・ボア特許請求の範囲【請求項1】左右の乳房を各々保護,補整すべく左右で独立する一対のセパレート部が組み合わされて成るブラジャーであって,右側のセパレート部は,右側の乳房を保護,補整するカップ部と,該カップ部を胸位置で脱着可能に支持するバンド部と,前記カップ部に一端側で接続し右肩側を通過して他端側で前記バンド部の左側位置に接続する肩紐とを有し,左側のセパレート部は,左側の乳房を保護,補整するカップ部と,該カップ部を胸位置で脱着可能に支持するバンド部と,前記カップ部に一端側で接続し左肩側を通過して他端側で前記バンド部の右側位置に接続する肩紐とを有することを特徴とするブラジャー。
【請求項2】前記左右のセパレート部に形成される一方のカップ部のみに,乳房の膨らみを補整する補充用のパッドが取り付けられていることを特徴とする請求項1記載のブラジャー。
【請求項3】前記補充用のパッドが取り付けられた一方のセパレート部に重ねて着用される他方のセパレート部に,前記一方のセパレート部に設けられたカップ部の下方位置でバンド部を脱着するフック部が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のブラジャー。
【請求項4】前記右側のセパレート部と左側のセパレート部を組み合わせて着用した際に,前記右側のセパレート部の前記バンド部の前面部と,前記左側のセパレート部の前記バンド部の前面部とが交差して重なるように設けられていることを特徴とする請求項1記載のブラジャー。
【請求項5】前記右側のセパレート部と左側のセパレート部を組み合わせて着用した際に,前記右側のセパレート部のバンド部と前記左側のセパレート部のバンド部を背中位置で係止する面ファスナーが設けられていることを特徴とする請求項1記載のブラジャー。
2発明の名称ブラジャー出願番号特願平11-017817発明者Y,K特許出願人有限会社プティ・ボア特許請求の範囲【請求項1】左右の乳房を別個に保護,補整する左右分離形のブラジャーであって,一方の乳房を保護,補整するカップ部と,該カップ部の下部に接続し,胸のまわりに一周して装着するバンド部と,カップ部の上部に一端側が取り付けられ肩部を通過した背中側で他端側が前記バンド部に取り付けられた肩紐とを備えたことを特徴とするブラジャー。
【請求項2】カップ部に,補整用パッドあるいは補充用パッドを収納するポケット部が設けられていることを特徴とする請求項1記載のブラジャー。
【請求項3】カップ部に,補充用パッドが装着されていることを特徴とする請求項1または2記載のブラジャー。
【請求項4】カップ部,バンド部及び肩紐が連続した一体形に形成されていることを特徴とする請求項1,2または3記載のブラジャー。
【請求項5】バンド部が,胸側で分離可能に設けられると共に,バンド部の分離端を脱着するフック部が設けられていることを特徴とする請求項1,2または3記載のブラジャー。
【請求項6】バンド部が,胸側で他方の乳房側に偏位した位置で分離可能に設けられていることを特徴とする請求項5記載のブラジャー。
【請求項7】肩紐の他端側が,他方側に偏位してバンド部に取り付けられていることを特徴とする請求項1,2,3,4,5または6記載のブラジャー。
【請求項8】請求項1,2,3,4,5,6または7記載のブラジャーを左右一対で組み合わせて用いるブラジャーであって,左右のブラジャーの前記バンド部が胸側で重なるように形成されていることを特徴とするブラジャー。
(別紙)対比表
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信
  • この表をプリントする