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関連審決 審判1999-5286
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  寄せ集め /  明細書の記載要件 /  優先権 /  実質的に同一 /  置換 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 309号 審決取消請求事件
原告 三星電子株式会社
訴訟代理人弁理士 志賀正武、船山武、渡辺隆、村山靖彦
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 麻野耕一、田良島潔、小林信雄、林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/07/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第5286号事件について平成13年2月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文第1項同旨の判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成9年8月29日(優先権主張1996年8月29日、韓国)、名称を「光学的位相板を使用した光ピックアップ」とする発明(本願発明)につき特許出願(平成9年特許願第235207号、特開平10-92010号)したが、平成10年12月21日に拒絶査定があったので、平成11年4月5日審判の請求をし、平成11年審判第5286号事件として審理されたが、平成13年2月19日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成13年3月19日に原告に送達された。
2 本願発明の要旨【請求項1】 光ピックアップ装置において、
相対的に短い波長の第1光及び相対的に長い波長の第2光をそれぞれ出射するレーザー光源と、
前記光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され、前記内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成することを特徴とする対物レンズと、
光検出手段と、
前記レーザー光源から出射される光を前記対物レンズ側に向かうように且つ前記対物レンズからの光を前記光検出手段に向かうように光経路を調節する光経路調節手段と からなることを特徴とする光ピックアップ。
【請求項2】 前記位相シフト領域は前記光経路調節手段の近くの対物レンズの表面上に内側に凹んだ一定した幅と深さの溝で食刻されることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項3】 前記位相シフト領域は前記光経路調節手段の近くの対物レンズの表面上に外側に突出した一定した幅と高さの突出部形態であることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項4】 前記位相シフト領域は対物レンズとは同曲率を有しながら前記光経路調節手段の近くの対物レンズの表面に形成されたことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項5】 使用する光貯蔵媒体が他のものに取り替えられる時毎にそれに適合した光のみを取り替え、その他の構成要素は全てそのまま使用できる小型化された構造を有することを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項6】 前記レーザー光源中の一つと光検出手段が一つのユニットで構成されることを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項7】 前記光経路調節手段と前記対物レンズとの間に位置し、前記光経路調節手段から入射する第1光及び第2光の両方を透過させる第1領域と第2光のみを透過させる第2領域を有し、前記第1及び第2領域は前記対物レンズの光軸を同軸にする可変絞り手段をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の光ピックアップ装置。
【請求項8】 前記可変絞り手段は前記第2領域に回折格子構造を有することを特徴とする請求項7に記載の光ピックアップ装置。
【請求項9】 前記対物レンズと前記可変絞り手段は前記可変絞り手段の第1領域の内部で前記位相シフト領域が形成される形態に一つのユニットより構成されることを特徴とする請求頂7に記載の光ピックアップ装置。
【請求項10】 前記対物レンズは第1領域を通して透過される光の一部を遮蔽するための少なくとも一つの環状の遮蔽膜を含むことを特徴とする請求項7に記載の光ピックアップ装置。
【請求項11】 前記対物レンズと前記可変絞り手段は前記可変絞り手段の第1領域の内部で前記位相シフト領域が形成される形態に一つのユニットより構成されることを特徴とする請求項10に記載の光ピックアップ装置。
3 審決の理由の要点 (1) 引用刊行物記載の発明 審判で拒絶の理由に引用した、特開平6-259804号公報(刊行物1)には、次の事項からなる発明が記載されている(「および」は「及び」と、「または」は「又は」と表記)。
(ア)「【請求項1】第1及び第2の光源と、各々の光源からの光ビームを略同一光路に合成する光ビーム合成手段と、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を受光する光検出器とからなる光情報記録再生装置。
【請求項2】第1の光源から光ビーム合成手段までの光路長と、第2の光源から前記光ビーム合成手段までの光路長に光路差を設けたことを特徴とする請求項1記載の光情報記録再生装置。
【請求項3】第1及び第2の光源と、各々の光源からの光ビームを略同一光路に合成する光ビーム合成手段と、第1又は第2の光源と前記光ビーム合成手段の間に設けた平行板ガラスと、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を受光する光検出器とからなる光情報記録再生装置。
【請求項4】光ビーム合成手段として、第1及び第2の光源の偏光方向を直交させ、偏光素子により各々の光源からの光ビームが略同一光路になるよう合成したことを特徴とする請求項1、2、又は3記載の光情報記録再生装置。
【請求項5】光ビーム合成手段として、第1及び第2の光源の波長に差を設け、
波長フィルターにより各々の光源からの光ビームが略同一光路になるよう合成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載の光情報記録再生装置。
【請求項6】発光点が光軸方向に異なり光軸直交方向に近接する第1及び第2の光源と、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を受光する光検出器とからなる光情報記録再生装置。
【請求項7】第1及び第2の光源と、各々の光源からの光ビームを略同一光路に合成する光ビーム合成手段と、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を分離する光ビーム分離手段と、分離された2つの反射光を各々受光する2つの以上の光検出器とからなることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項8】第1及び第2の光源と、各々の光源からの光ビームを略同一光路に合成する光ビーム合成手段と、第1又は第2の光源と前記光ビーム合成手段の間に設けた平行板ガラスと、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を分離する光ビーム分離手段と、分離された2つの反射光を各々受光する2つ以上の光検出器とからなることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項9】発光点が光軸方向に異なり光軸直交方向に近接する第1及び第2の光源と、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を分離する光ビーム分離手段と、分離された2つの反射光を各々受光する2つ以上の光検出器とからなることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項10】発光点が光軸方向に異なり光軸直交方向に近接する第1及び第2の光源と、第1の光ディスクに対しては第1の光源からの光ビームを収束させかつ第1の光ディスクと基材厚みの異なる第2の光ディスクに対しては第2の光源からの光ビームを収束させる収束光学系と、第1及び第2の光ディスクからの反射光を分離する光ビーム分離手段と、分離された2つの反射光を各々受光する2つ以上の光検出器とからなることを特徴とする光情報記録再生装置。
【請求項11】光ビーム分離手段として、第1及び第2の光源の偏光方向を直交させ、第1及び第2の光ディスクからの反射光を偏光素子により分離したことを特徴とする請求項7、8、9又は10記載の光情報記録再生装置。
【請求項12】光ビーム分離手段として、第1及び第2の光源の波長に差を設け、第1及び第2の光ディスクからの反射光を波長フィルターにより分離したことを特徴とする請求項7、8、9又は10記載の光情報記録再生装置。」(特許請求の範囲)(イ)「図2において、薄型光ディスク用半導体レーザ21aから出射した光はP偏光で偏光ビームスプリッタ26を直進し集光レンズ22により平行な光ビーム23aとなる。光ビーム23aはハーフミラー24に入射、ここでの反射成分が対物レンズ27に入射する。対物レンズ27に入射した光は結像点pに絞り込まれ、薄型光ディスク28aの記録媒体面上に光スポット29aを形成する。次に、光ディスク28aで反射した光ビーム30aは、再び対物レンズ27を通って、ハーフミラー24に入射する。ハーフミラー24を直進する成分は、絞りレンズ31とシリンドリカルレンズ32を通り、偏光ビームスプリッタ34を直進、薄型光ディスク用検出器33aに受光される。光検出器33aは、再生信号を検出すると共に、いわゆる非点収差法によりフォーカス制御信号を、プッシュプル法によりトラッキング制御信号を検出するように構成されている。
【0015】 また、本光ディスク装置は、薄型光ディスク用半導体レーザ21aとは、発光偏光方向が直行したCD再生用の半導体レーザ21bを備えている。CD用半導体レーザ21bからS偏光で出射した光は光路長補正用カバーガラス35を通過、偏光ビームスプリッタ26で反射し集光レンズ22により略平行な光ビーム23bとなる。光ビーム23bはハーフミラー24に入射、ここでの反射成分が、対物レンズ27に入射する。対物レンズ27に入射した光は結像点p′に絞り込まれ、CD光ディスク28bの記録媒体面上に光スポット29bを形成する。次に、光ディスク28bで反射した光ビーム30bは、再び対物レンズ27を通って、ハーフミラー24に入射する。ハーフミラー24を直進する成分は、絞りレンズ31とシリンドリカルレンズ32を通り、偏光ビームスプリッタ34で反射、CD光ディスク用検出器33bに受光される。光検出器33bは、再生信号を検出すると共に、いわゆる非点収差法によりフォーカス制御信号を、プッシュプル法によりトラッキング制御信号を検出するように構成されている。CD用半導体レーザ21bからハーフミラー26までの距離は、薄型光ディスク用半導体レーザ21aからハーフミラー26までの距離に対し、光路長補正用カバーガラス35を用いることにより、CD光ディスク28b上での光スポット29bの集束度が再生に十分なほど向上するように補正されている。」(段落【0014】〜【0015】) 同じく、審判で拒絶の理由に引用した特開平5-241111号公報(刊行物2)には、以下の事項からなる発明が記載されている。
(ウ)「【請求項1】 実質的に等しい屈折力を有する少なくとも3つの領域を含み、入射された光を波面分割するとともに、それぞれの領域毎に入射されるそれぞれの光に対して所望の光学特性を与えることで、所望の集束位置に集束される上記光のスポットの大きさを十分に小さくできる集光装置。
【請求項2】 実質的に等しい屈折力を有し、入射された光を波面分割するとともに、それぞれの領域毎に入射される光に対して互いに隣接する領域を通過した光と異なる位相を与える少なくとも3つの領域を含み、所望の集束位置に集束される上記光のスポットの大きさを十分に小さくできる集光装置。
【請求項3】 少なくとも1枚の屈折面に、帯状に形成された局所的に屈折率の異なる同心球面領域を含み、光を少なくとも3つの領域に波面分割できるレンズ装置。」(特許請求の範囲)(エ)「一般に、上記環状凸領域10bは、集光素子10の基となる(両凸)凸レンズ本体(符号なし)を形成し、その後、所望の面積及び厚さが与えられた凸状部を有する成型“型”で挟みこみ、さらに、レンズ本体を加熱しつつ加圧することで、容易に形成される。また、凸状部のみを別に作成し、レンズ本体に貼合わせるレプリカ(貼合わせ)法、或いは、(両)凸レンズ本体を形成し、レンズ表面に凸状部のみを直接モールドするモールド転写法によっても作成可能である。当然のことながら、切削によっても形成できる。さらに、後述する図4に示されているように、イオン置換による局所的な屈折率変化によって、位相変化或いは屈折率変化層50bを形成してもよい。尚、光ビームの入射条件或いは上記凸領域10bと上記凹領域10c及び10aとの境界領域の角度を最適化することで、上記凹領域10c及び10aと上記凸領域10bとの曲率を同心円に規定することも可能である。この場合、成型加工に利用される型の製作が容易になることが知られている。」(段落【0015】)(オ)「上記周辺凹領域10a及び円状凹領域10cと、上記環状凸領域10bとの間の距離即ち上記環状凸領域10bが突出される量を最適化することで、上記第一のレーザビームと上記第二のレーザビームとの位相をπ+2nπ(但し、nは整数)シフト可能である。また、同様に、上記第二のレーザビームと上記第三のレーザビームとの位相をπ+2mπ(但し、mは整数)シフト可能である。従って、上記第一のレーザビームと上記第三のレーザビームとの位相差は2lπ(但し、lは整数)となる。
尚、上記環状凸領域10bと実質的に同一の突出量を有する円状、或いは、環状凸領域を上記円状凹領域10cの内側に形成することで、互いに、隣接する領域毎に分割されたレーザビームに対して、順次πずつ異なる位相差を与えることが可能となる。」(段落【0017】) 上記(ウ)〜(オ)の記載と図面を参照すれば、刊行物2に記載された「環状凸領域10b」は、レーザビームの位相をシフトしているので、本願発明1の「位相シフト領域」に相当し、領域10cは光ディスクの厚さに関係なくその記録面にビームスポットを形成しているので、環状凸領域10bの内側及び外側の「領域10c」がそれぞれ本願発明1の「内側領域」,「外側領域」に相当することは明らかである。そして刊行物2に記載された発明は、本願発明1と同様の上記構成により、光源からの光ビームが結像される位置におけるビームスポットサイズを小さくする(すなわち、球面収差により大きくなったスポットサイズを小さくする)点で本願発明と同様の目的及び効果を有しているものと認められる。
したがって、本願発明の用語を用いて表現すれば刊行物2には、「光進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され、前記内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成する対物レンズ。」の発明が記載されている。
同じく、審判で拒絶の理由に引用した特開平5-120720号公報(引用刊行物3)には、以下の事項からなる発明が記載されている。
(カ)「次に、図1の対物レンズの開口径を変える手段4として、液晶素子20と検光子21を用いた場合の例を図3に示す。液晶素子20としては、ネマティック液晶をTNモード(Twisted Nematic Mode)で使用する場合を考えるが、基本的に光の偏光方向が変化するその他の旋光型や複屈折型の液晶素子を用いても良い。この様に液晶素子20と検光子21を用いた場合は、対物レンズの開口径の可変を電気的に制御することができる。したがってしぼりを用いる場合と異なって、メカニカルな動きを伴う駆動手段が不必要である。図3は、対物レンズ3と液晶素子20と検光子21とビームスプリッタ19の構成の断面図である。液晶素子20の101と102が基板で、103と104の電極に電圧をかけることにより、105の液晶層の液晶分子が同じ方向となる。この時、直線偏光の光ビームが、基板102側から液晶素子20に入射すると、その偏光方向が保存されたまま基板101から出射される。103と104の電極に電圧をかけない場合は、直線偏光の光ビームが入射すると、その偏光方向は90度回転する。103と104の電極は、図4に示すように、液晶層105の外側にだけに位置する。したがって、103と104の電極に電圧をかけた場合は、光ビームの外側と中心部とは偏光方向が90度ことなり、103と104の電極に電圧をかけない場合は、光ビームは全て偏光方向が等しくなる。ここで検光子21は、液晶素子20へ入射する光ビームの偏光方向と90度異なる偏光方向を持つ光ビームのみを透過するとする。したがって、103と104の電極に電圧をかけた場合は、光ビームの中心部のみが検光子21を通過し、外側は遮断される。103と104の電極に電圧をかけない場合は、光ビームが全て透過する。したがって電極103と104の大きさを選択することにより、光記録媒体1の記録面上の光スポットサイズの変化の割合を設定することができる」(段落【0009】) (2) 対比 本願請求項1で特定される発明(本願発明1)と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された「光情報記録再生装置」,「半導体レーザ」,「光ディスク」,「結像点」,「光検出器」及び「光ビーム分離手段」は、それぞれ本願発明1の「光ピックアップ」,「レーザ光源」,「光貯蔵媒体」,「光貯蔵媒体の情報記録面」,「光検出手段」及び「光経路調節手段」に相当するから、実質的に両者は「光ピックアップ装置において、
相対的に短い波長の第1光及び相対的に長い波長の第2光をそれぞれ出射するレーザー光源と、
光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成することを特徴とする対物レンズと、
光検出手段と、
前記レーザー光源から出射される光を前記対物レンズ側に向かうように且つ前記対物レンズからの光を前記光検出手段に向かうように光経路を調節する光経路調節手段と からなることを特徴とする光ピックアップ。」である点で一致し、次の点で相違している。
(相違点) 本願発明1では、前記対物レンズが、光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され、前記内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成するのに対し、刊行物1に記載された発明では、この様な位相シフト領域を有していない点。
(3) 審決の判断 上記相違点について検討する。
本願発明1のような対物レンズの構成は、刊行物2に記載されている。
そして刊行物1,2に記載された発明は、いずれも、光ピックアップの対物レンズに関する点で共通する分野に属するものであり、かつ、刊行物1に記載の発明に、刊行物2に記載の上記発明を付加することにより予測し得ない新たな効果を奏するものとは、明細書を見てもこれを認めることができない。すなわち、いわゆる寄せ集めにすぎないと認められるので、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された上記手段を付加して本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。
なお原告は、審判請求の理由において、
いずれの引用刊行物にも、請求項1の発明の「対物レンズ」について、「光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され、前記内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成する対物レンズ」は記載されていない旨主張するが、この構成が刊行物2に記載された構成であることは上記のとおりである。
また、請求項2〜11については、原告は請求項1の従属項であることのみを根拠として引例との相違を主張しているが、請求項1については上記のとおりであり、かつ、請求項1との相違点については、当審の拒絶の理由に記載のとおりであって、各引用刊行物に開示されている構成や周知事項の寄せ集めにすぎないものと認められるので、原告の上記主張はいずれも採用できない。
(4) 審決のむすび したがって、本願請求項1ないし11に記載された事項により特定される発明は、いずれも刊行物1〜3に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本願発明1についての相違点の判断の誤り) (1) 審決は、刊行物2記載の発明について、「本願発明1のような対物レンズの構成は、刊行物2に記載されている。」と認定した上で、「刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された上記手段を付加して本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。」と判断したが、これら認定判断は誤りである。
(2) 本願発明1の対物レンズは、「位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成する」ことを構成要件とするものであるが、ここでいう「少なくとも」とは、「ほかのことはさておいて」、「せめて」という意味を有する用語であり、一方についてある条件の付加を明示するが、他方についてはその条件が付加されていないことを明示するものである。すなわち、本願発明1の上記構成要件は、位相シフト領域が入射される光ビームの一方に対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成すること、及び位相シフト領域が入射される光ビームの他方に対しては位相シフトを行わずに光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成すること、という2つの技術的限定を有するものである。仮に、「少なくとも」が上記のように解釈できないとしても、本願明細書の段落【0010】及び段落【0019】には、光ビームの一方に対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて小サイズのスポットを形成するが、他方のビームに対しては位相シフトを行わないことが記載されているから、この点からも上記のように解釈すべきである。
また、本願発明1の対物レンズは、光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割されるものであり、内側領域については、光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成するものである。位相シフト領域については、光貯蔵媒体の一つ(CD-R)に対して、対物レンズの位相シフト領域を通過した光ビーム(相対的に長い波長の光ビーム)の位相をシフトさせて、この光ビームの球面収差を減少させ、情報記録面でのスポットサイズを減少させるとともに、光貯蔵媒体の他のもの(DVD)の位相シフト領域を通過した光ビーム(相対的に短い波長の光ビーム)については位相シフトを行わないので、この光ビームは依然として小さな球面収差をもって情報記録面に小サイズの光スポットを形成する。仮に、相対的に短い波長の光ビームに対しても位相をシフトさせると、球面収差がかえって大きくなり、スポットサイズを大きくしてしまう。
すなわち、相対的に短い波長の光ビームに対しては、本願発明1の対物レンズは通常の対物レンズのように機能する。さらに、外側領域を通過した相対的に長い波長の光ビームについては球面収差が非常に大きいので、拡散して、情報記録面にスポットを形成するのに寄与せず、したがってスポットサイズを大きくするという悪影響を及ぼすことがない。
(3) これに対して、刊行物2記載の発明は、そもそも光貯蔵媒体の種類に関係なく使用するものではないし、仮に、光貯蔵媒体の種類に関係なく使用したとしても、3領域に分割した内の内側領域を通過する光ビームが光貯蔵媒体の情報記録面に常にスポットを形成するようにするものではないし、また、光貯蔵媒体の種類に関係して、3領域に分割した領域の位相シフトを行わないようにして、通常の対物レンズのように機能させることもできない。
すなわち、刊行物2記載の発明は、本願発明1の「位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成する」との構成要件を具備しないものであるから、本願発明1の対物レンズとは、用途、構成及び作用効果において相違する。
(4) したがって、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用しても本願発明1の構成を得ることはできない。しかも、そもそも、刊行物2記載の発明は一波長の光に対して用いるものであり、これを光貯蔵媒体の種類に関係なく用いることの動機付けに欠けている。したがって、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とを寄せ集めることすら当業者には容易ではない。
2 取消事由2(本願発明1についての顕著な作用効果の看過) 相対的に短い波長の第1光と相対的に長い波長の第2光を用いる光ピックアップにおいては、たとえ、光ビームが光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成するようにしても、相対的に長い波長の第2光に係る光記録媒体の信号記録面が光軸上、対物レンズから遠く離れていることに基づいて大きな球面収差が発生する。しかし、本願発明1では、この球面収差を減少させることができ、光貯蔵媒体の種類に関係なく常に情報記録面に最適化されたサイズの光スポットを形成することができる。この効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明からは期待することができないものである。
3 取消事由3(請求項2〜11に係る発明についての進歩性の判断の誤り) 本願の請求項2〜11は、請求項1の従属項であり、本願発明1についての進歩性の判断が誤りである以上、請求項2〜11に係る発明について「刊行物1〜3に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」との審決の判断も誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1に対して (1) 本願明細書に、「かかる環状溝471の刻まれた対物レンズ47は・・・780nm波長の光を180度位相シフトさせ、650nm波長の光を360度位相シフトさせる」(段落【0019】)と記載されているが、本願発明1は、溝についてこのような限定を付したものではないから、いずれか一方の波長の光に対して位相シフトを通じてスポットサイズを小さくするとともにサイドローブを減少させる効果を奏するという効果が認められるのみである。
これに対し、刊行物2には、「環状凸領域10bが突出される量を最適化することで、・・・上記第二のレーザビームと上記第三のレーザビームとの位相をπ+2mπ (但し、mは整数) シフト可能である。」(段落【0017】)と記載されており、「互いに位相が反転された関係にあって、実質的に等しい光量を有する2つの光ビームが互いに干渉することから、中心ビームスポットにおける光量が十分に確保されるとともに、サイドローブが打消される。」(段落【0010】)という、
本願発明1と同様の構成及び効果を有する対物レンズの発明が記載されているから、刊行物1記載の発明において、スポットサイズとサイドローブを減少させる目的で刊行物2記載の発明を用いれば、本願発明1と同様の構成となることは明らかであり、構成が同じであれば同じ効果を奏することも明らかである。
(2) 原告は、「刊行物2記載の発明は、・・・光貯蔵媒体の種類に関係して、3領域に分割した領域の位相シフトを行わないようにして、通常の対物レンズのように機能させることもできない。」と主張するが、これは本願発明1との対比に基づく主張ではない。すなわち、本願発明1は、段落【0019】に記載されているように、他の光に対しては360度位相シフトを行うような特殊な構成にして、通常の対物レンズとしての特性を得ているのであり、請求項1にはその規定がないため、他の光ビームに対して「通常の対物レンズのように機能」させることを意図した発明とは認められない。逆にこのような特殊な構成を有しなければ、他の光に対しても位相シフトを生じる結果、環状溝を設けない場合に比して、スポット径は拡大ないしは縮小(環状溝の深さによる)することになるが、これは刊行物2に記載のレンズを刊行物1に記載された発明に適用した場合と同様である。
(3) したがって、本願発明1は、刊行物1記載の発明に比して、対物レンズの構成が「光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成する」点で相違するとした審決認定のとおりの相違点のみを有するものであり、そのとおりの構成を有する対物レンズが刊行物2に記載されていることは上記のとおりであるから、「刊行物2記載の発明は、・・・本願発明1の対物レンズとは、用途、構成及び作用効果において相違するものである。」との原告の主張は失当である。
(4) そして、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の発明は、いずれも本願発明1と同様の光ピックアップ装置の技術に関する発明であるとともに、刊行物2には、本願明細書と同様の、位相シフトを通じて球面収差を減少させることにより光スポットサイズを小さくするとともにサイドローブを減少させることが記載されており、対物レンズの構成及びその目的に相違はないから、刊行物1記載の発明において、球面収差を減少させることによりスポットサイズを小さくする手段として刊行物2記載の発明を採用して本願発明1の構成とすることを容易とした審決に誤りはない。
原告は、「刊行物2記載の発明は一波長の光に対して用いるものであり、これを光貯蔵媒体の種類に関係なく用いることの動機付けに欠けている。」と主張しているが、「光貯蔵媒体の種類に関係なく用いること」自体は刊行物1に記載されているものであるとともに、厚さの異なる媒体に異なる周波数の光源を用いた場合にも共通の光学系を用いることができるように選択的にスポットサイズを小さくする手段を設けることは、周知の課題である。
(5) 種類の異なる光貯蔵媒体に対して常に最適なスポットを得るためには、前示本願明細書の段落【0019】に記載されるように特別な構成があって初めて可能であり、かつこれは、光貯蔵媒体の種類に関係のないものではなく特定の二種類の光貯蔵媒体に対してのみ可能である。これに対して、本願請求項1には、かかる特別な構成は何ら記載されていない。本願発明1は、少なくとも一方の光貯蔵媒体に対してのみ位相シフトを通じて球面収差を減少させ、その他に対しては、スポットサイズを考慮することなく「光貯蔵媒体の種類に関係なく光貯蔵媒体の情報記録面に常にスポットを形成する」ように用いるものであるから、位相シフトを通じて球面収差を取り除くことによりスポットサイズを小さくするという本願発明1の目的に対して刊行物2記載の発明を引用するのに何ら問題はない。
2 取消事由2に対して (1) 本願発明1が、少なくとも一方の光ビームに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させようとするものであることは認めるが、それ以外の光ビームを任意の異なる種類の光貯蔵媒体に対して用いた場合にも「光貯蔵媒体の種類に関係なく常に情報記録面に最適化されたサイズのスポットを形成することができる」と認めることはできない。すなわち、本願明細書の段落【0019】に記載されたとおりの構成の場合には、二種類の光貯蔵媒体に対して、常に情報記録面に最適化されたサイズのスポットを形成することができるものであって、このような構成の場合には一方の光ビームに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させてスポットサイズを小さくし、他方の光ビームに対しては実質的な位相シフトを起こさせず、
通常のレンズと同様に作用させることにより二種類の光貯蔵媒体の情報記録面に最適化されたサイズのスポットを形成するものであるが、他方の光ビームには位相シフトを起こさせないようにするという限定のない本願発明1の構成では、スポットサイズが常に最適であるとは認められない。
(2) 本願請求項1においては単に、「内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも1つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて」と記載するのみである。「少なくとも」という表現は、波長が異なるだけでその他に何の限定もない他方のビームについて対物レンズが、程度の差はあれ「位相シフトを通じて球面収差を減少させ」る可能性を示すものであり、例えばDVD用の短い波長の光ビームに対して通常のレンズと同様に作用させようとすることを示すものではない。したがって、対物レンズの構成に関して、他の光ビームについて位相シフト領域で影響を受けずに通常の対物レンズとして作用させるものは、本願発明1ではない。
そして、刊行物2記載の発明においても、内側領域は位相シフト領域の有無にかかわらず情報面にスポットを形成し得るものであることは自明の事項であるとともに、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を用いれば、「内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも1つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させ」るものであることは明らかである。したがって、原告の主張する作用効果が仮に存するとしても、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用した場合に予測し得る効果である。
3 取消事由3に対して 取消事由1及び取消事由2に理由がない以上、取消事由3も失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 審決は、本願発明1と刊行物1記載の発明との相違点を、「本願発明1では、前記対物レンズが、光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され、前記内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成し、前記位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成するのに対し、刊行物1に記載された発明では、
この様な位相シフト領域を有していない点。」と認定している。
(2) この相違点に係る本願発明1の対物レンズは、「光の進行軸を中心に内側領域、位相シフト領域、外側領域に分割され」ていること、「内側領域を通過する光ビームは光貯蔵媒体の種類に関係なく常に光貯蔵媒体の情報面にスポットを形成」すること、及び「位相シフト領域は入射される光ビームの少なくとも一つに対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成する」ことを構成要件とするものであり、本願発明1が別途「相対的に短い波長の第1光及び相対的に長い波長の第2光をそれぞれ出射するレーザー光源」を構成要件とすることにかんがみれば、第2の構成要件の「光貯蔵媒体の種類に関係なく」とは、「第1光及び第2光のいずれに対しても」と同義であることが明らかである。また、「位相シフト領域」とは、本願明細書中の「図6の対物レンズ47は・・・表面上に内側に凹み一定した幅と深さを有する環状溝471を備える。かかる環状溝471の刻まれた対物レンズ47は位相板部36と同様に、780nm波長の光を180度位相シフトさせ、650nm波長の光を360度位相シフトさせる。・・・780nm波長の光についてCD-Rディスク9に対する情報の記録及び再生が可能になる程小サイズの光スポットがその情報記録面に形成される。」(甲第2号証の1段落【0019】)との記載、及び「図6の対物レンズ47に形成される環状溝471を対物レンズ47の表面上に外側に突出した一定した幅と高さの突出部形態に変形することもできる。」(同号証段落【0020】)との記載からみて、表面に一定の幅と深さ(凸の場合は高さであるが、そのことも含む。)をもって形成され一方の光を180度位相シフト(180度の奇数倍でもよい。)させる凹又は凸の領域であると認められる。そして、「外側領域」についての限定はないから、結局のところ、対物レンズ自体の構成としては、中心部から3領域に分割され、その中間部の領域が、中心部に対して、一方の光を180度位相シフトするように凹又は凸に形成されている対物レンズと解される。
原告は、「位相シフト領域は入射される光ビームの一方に対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成すること(第1)、及び位相シフト領域は入射される光ビームの他方に対しては位相シフトを行わずに光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成すること(第2)、という2つの技術的限定を有するものである。」と主張する。しかし、主張に係る限定のうち第1のものは請求項1の記載に照らし首肯することができるものの、第2の限定についてみれば、凹又は凸の深さと光ビームの他方との関係が請求項1に規定されていない。
(3) 刊行物2には、「集光素子(対物レンズ)」(甲第4号証段落【0010】)、「集光素子10を通過されたレーザビームは、実質的に等しい光路長を有する周辺凹領域10a及び円状凹領域10cを通過された第一及び第三の光ビームと上記周辺凹領域10a及び円状凹領域10cよりも長い光路長を有する環状凸領域10bを通過された第二の光ビームとに分割される。」(同号証段落【0016】)、「第一のレーザビームと上記第二のレーザビームとの位相をπ+2nπ (但し、nは整数) シフト可能である。」(同号証段落【0017】)、及び「図2には、図1で説明した集光素子が利用されている装置の一例として、光ディスク装置に組込まれ、光ディスクに対して情報を記録し、或いは、光ディスクから情報を再生するための光学ヘッド装置が示されている。」(同号証段落【0018】)との記載があることが認められる。これらの記載と【図2】(同号証5頁。下に示す。)によれば、刊行物2記載の「円状凹領域10c」、「環状凸領域10b」及び「周辺凹領域10a」が、順に本願発明1の「内側領域」、「位相シフト領域」及び「外側領域」に対応し、刊行物2記載の発明は「光ピックアップ装置」に用いられるものである以上(甲第4号証段落【0018】)、レーザビームの波長は、本願発明1(及び刊行物1記載の)のいずれかの波長と一致すると認められるし、「環状凸領域10b」における位相シフト量は上記波長において本願発明1と異ならないこと(甲第4号証段落【0017】)も明らかである。
したがって、「本願発明1のような対物レンズの構成は、刊行物2に記載されている。」とした審決の認定に誤りはない。
(4) しかしながら、本願明細書の「2πnd/λ-2πd/λ=(2m+1)π」(甲第2号証の1段落【0014】(2)式)によれば、位相シフト領域におけるシフト量は波長によって異なる。他方、刊行物2には複数の波長を用いる旨記載のないこと(甲第4号証)からすれば、刊行物2においては、使用される波長が1波長であることを前提として、ビームスポットサイズを小さくするために、対物レンズの構成として、「円状凹領域10c」、「環状凸領域10b」及び「周辺凹領域10a」からなる構成を採用したとみるべきであり、刊行物2記載の発明を、
刊行物2において予定していない波長の集光素子として用いた場合には、一般に「環状凸領域10b」の位相シフト量が180度の奇数倍にならないことが明らかである。
(5) 本願明細書には、従来の技術における問題点として「(図1に関連した光ピックアップは)可変絞り6の開口数0.45以上の領域2に形成される光学薄膜である誘電体薄膜により開口数0.45以下の領域1と開口数0.45以上の領域2を通過する光間に光学経路差が発生するので、これを取り除くために領域1に特別な光学薄膜の形成を必要とした。」(甲第2号証の1段落【0008】)との記載があり、ここに記載の「誘電体薄膜」は、他方の波長に光学経路差を与えるという点において、刊行物2記載の「環状凸領域10b」と異ならないことが自明である。
刊行物1記載の発明が、「相対的に短い波長の第1光及び相対的に長い波長の第2光をそれぞれ出射するレーザー光源」(審決認定の一致点)を用いることは、原告も争っていない。そして、刊行物1記載の発明の対物レンズとして刊行物2記載の発明を採用する場合、刊行物2記載の発明が単一波長を想定し、同波長が刊行物1記載の発明の第1光又は第2光のいずれかと一致することは、上記(3)で説示したとおりである(以下においては、本願発明の実施例に合わせて「第2光」と一致するものとするが、「第1光」と一致する場合も同様となる。)。
(6) 刊行物2記載の発明は、第2光のビームスポットサイズを小さくするものであるから、刊行物1記載の発明の対物レンズとして刊行物2記載の発明を採用した場合に、第2光のスポットサイズが小さくなることは十分期待し得ることである。
ところが、第1光については、刊行物2記載の発明の「環状凸領域10b」が、
第1光に対しても位相シフト領域として作用し、前示のとおり、この位相シフト領域は、本願明細書段落【0008】記載の「誘電体薄膜」(前記(5))同様の作用を及ぼすものであって、取り除くべき対象とされるものである。そして、刊行物1の「基材厚の異なる2種類の光ディスクに対応することができ、対物レンズの開口数を上げて高密度化を図った薄型の光ディスクと、従来の1.2mmの光ディスクに対して記録再生ができる。」(甲第3号証段落【0009】)との記載によれば、
刊行物1記載の発明は、第1の光ディスク及び第2の光ディスクのいずれに対しても、第1光及び第2光を用いることによって、記録再生が可能となっているのであるから、第1光のスポットサイズが大きくなるおそれのある条件下で、第2光のスポットサイズをより小さくための構成を採用することは、当業者であればあり得ず、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用するのに阻害要因があると認めるべきである。
(7) 審決は、「刊行物1,2に記載された発明は、いずれも、光ピックアップの対物レンズに関する点で共通する分野に属するものであり、かつ、刊行物1に記載の発明に、刊行物2に記載の上記発明を付加することにより予測し得ない新たな効果を奏するものとは、明細書を見てもこれを認めることができない。すなわち、いわゆる寄せ集めにすぎないと認められるので、刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された上記手段を付加して本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。」と認定判断した。
しかしながら、刊行物1記載の発明の対物レンズは複数波長兼用であり、刊行物2記載の発明は1波長専用の対物レンズであることは上記説示のとおりであるから、これら対物レンズが「光ピックアップの対物レンズに関する」というだけでは、技術の転用が容易であり、格別困難の点がないと認めることはできない。かえって、上記説示のところからして、1波長専用の対物レンズである刊行物2記載の発明を複数波長兼用の対物レンズに転用することには阻害要因があるというべきであるから、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明を寄せ集めること自体、困難性があると認めるべきものである。
この困難性を克服するには、本願明細書に、「環状溝361の深さDは3.8μmほどとなる。この深さDは環状溝361を有する位相板部36は可変絞り35から対物レンズ37に進む780nm波長の光を180度(甲第2号証の1【図10】からみて、「180度の奇数倍」の趣旨と認める。)位相シフトさせ、650nm波長の光を360度(「360度の正数倍」の趣旨と認める。)位相シフトさせる。」(甲第2号証の1段落【0015】)と記載されているとおり、「位相シフト領域」が第2光に対してスポットサイズを小さくするとともに、第1光に対しても、スポットサイズを大きくしないように、「位相シフト領域」の凹部又は凸部の深さを適宜選択する必要があるところ、刊行物2記載の発明は1波長専用の対物レンズであるから、当然刊行物2にそのような深さの選択が記載されているものではなく、刊行物2の記載から当業者が容易に選択可能なものでもない。
したがって、審決の上記認定判断は誤りであり、この誤った認定判断を前提にして「刊行物1に記載された発明に刊行物2に記載された上記手段を付加して本願発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。」とした審決の判断も誤りであって支持することはできず、取消事由1は理由がある。
2 取消事由2について 「光貯蔵媒体の種類に関係なく常に情報記録面に最適化されたサイズの光スポットを形成することができる」との原告主張の作用効果は、原告が取消事由1において主張した、「位相シフト領域は入射される光ビームの一方に対しては位相シフトを通じて球面収差を減少させて光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成すること(第1)、及び位相シフト領域は入射される光ビームの他方に対しては位相シフトを行わずに光貯蔵媒体の情報記録面にスポットを形成すること(第2)、という2つの技術的限定を有する」との構成、すなわち、1(7)において引用した本願明細書段落【0015】に記載された凹部又は凸部の深さを前提として奏される作用効果であることが明らかである。しかしながら、本願発明1が上記技術的限定のうち後者の第2を要件とするものでないことは、1(2)で説示したとおりであるから、原告の上記主張は前提を欠き、取消事由2は直ちに理由があるとすることはできない。
この点にかんがみ、取消事由1及び後記取消事由3の理由のあるところに従って審決を取り消した後の本件審判請求の審理について付言するに、本件出願においては、平成12年11月2日付け手続補正書による補正がされて、前記第2の2の構成となっている(甲第2号証の5)。そこで、本願発明1、そして請求項2〜11に係る本願発明の特許性の有無について審理される審判においては、本願発明1が、「位相シフト領域」について第1光に対するシフト量及びスポットサイズの大きさを規定していないことにかんがみ、上記補正に、新規事項の追加がないかあるいは明細書の記載要件の点などを再度見直し、作用効果の有無を検討することも考えられる。
3 取消事由3について 取消事由1に理由がある以上、本願発明1が刊行物1,2に記載された発明から容易になし得たとした審決の判断は誤りであり、この判断の誤りに基づいてした請求項2〜11に係る発明に関する審決の判断も誤りであって、取消事由3も理由がある。
結論
以上のとおりであり、取消事由1及び3により、原告の請求は認容されるべきである。
(平成14年7月9日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実