関連審決 | 無効2004-80019 |
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関連ワード | 技術的思想 / 製造方法 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 発明の概要 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 要旨変更 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10242号
審決取消請求事件
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原告 シチズン時計株式会社 訴訟代理人弁理士 高宗寛暁 同 宮島明 被告 株式会社明電舎 訴訟代理人弁護士 光石忠敬 同 光石俊郎 訴訟代理人弁理士 田中康幸 同 松元洋 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/09/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2004-80019号事件について平成16年11月15日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「水晶振動子及びその製造方法」とする特許第2036779号の特許(昭和60年8月7日出願,平成8年3月28日設定登録。発明の数は2である。以下,「本件特許」といい,願書に最初に添付した明細書及び図面を「当初明細書」という。)の特許権者である。 当初明細書については,平成3年9月6日付け手続補正書による補正(以下「平成3年補正」という。)がされた後,さらに平成4年4月23日付け,平成6年6月8日付け及び平成7年10月6日付け各手続補正書により特許請求の範囲の記載を含め明細書の記載事項の補正がされた(以下,それぞれ「平成4年補正」,「平成6年補正」,「平成7年補正」といい,これらを合わせて「本件各補正」という。なお,平成4年補正及び平成6年補正は,いずれも出願公告(平成6年11月14日)前の手続補正である。)。 原告は,平成16年4月20日,本件特許の特許請求の範囲第1項及び第2項の発明を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2004-80019号事件として審理し,その結果,平成16年11月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月26日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(平成7年補正後のもの) 「1 リード端子を有する水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入して水晶振動子本体を構成し,保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子に外部端子を接続してモールドするものにおいて, 前記保持容器の外周面の形状に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と,前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とを設け, 前記外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片により水晶振動子本体を位置決めしてモールドすると共に,前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子としたことを特徴とする水晶振動子。 2 金属板から,一対の連結帯間に,水晶振動子本体の金属ケースよりなる保持容器の底部から同じ側に導出された2本のリード端子と接続するリード端子接続用外部端子と,前記保持容器の外周面に適合する曲面を有する保持容器外周面位置決め用片と,前記保持容器の頂面に当接する保持容器頂面位置決め用片とが連ながった金属フレームであって,前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程と, 前記金属フレームの保持容器外周面位置決め用片と保持容器頂面位置決め用片に前記保持容器の外周面と頂面を当接して金属フレーム上に水晶振動子本体を位置決めする位置決め工程と, 前記リード端子接続用外部端子に水晶振動子本体のリードを溶接する溶接工程と, 前記連結帯と,外部端子及び各位置決め用片の外端側の一部を除いて樹脂材にてモールドするモールド工程と, 前記連結帯を切り離す切断工程と, からなることを特徴とした水晶振動子の製造方法。」(以下「本件発明1」,「本件発明2」といい,これらを合わせて「本件発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明についてなされた本件各補正は,明細書の要旨を変更するものではないから,平成5年法律第26号による改正前の特許法40条により特許出願がその補正について手続補正書を提出した時とみなされることはなく,本件特許の出願日は,現実の出願の日である昭和60年8月7日であり,本件発明の進歩性を判断するに当たり,その出願日後に頒布された特開昭62-34410号公報を引用刊行物とすることはできず,また,本件発明は,その出願日前に公開された特開昭59-139712号公報に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められないなどとするものである。 審決が上記結論を導くに際して認定した本件各補正の内容は,次のとおりである(この内容については当事者間に争いがない。)。 「平成4年4月23日付け全文補正明細書及び平成6年6月8日付け手続補正書により,少なくとも本件特許請求の範囲第1項は「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」,同じく特許請求の範囲第2項は「保持容器と接触したアース用外部端子を設け」(後に削除)の構成を具備するものとなし,さらに当該第2項は平成7年10月6日付け手続補正書により第2項に「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする」を付加して,その構成を限定している。 また,前記全文補正明細書等では,詳細な説明の欄において,その目的,作用効果として「アース用外部端子」「アース用の外部端子」に係わる記載を付加している。」 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,本件各補正が当初明細書の要旨を変更するものであるのにこれを変更するものでないとの誤った判断をし,その結果,引用刊行物として特許法29条1項3号所定の刊行物となるべき刊行物の適格性を否定したものであり,その誤りは結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,取り消されるべきである。 1 当初明細書に記載のない事項の補正 審決は,特許請求の範囲第1項に係る「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」との補正事項(平成6年補正),同第2項に係る「前記保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とするフレーム製造工程」との補正事項(平成7年補正。平成4年補正による補正事項に基づくものである。)に関し,「水晶振動子本体アース用外部端子」は当初明細書に実質的に記載されていると認定しているが,これは誤りである。 (1) 当初明細書における「位置決め用片」の目的,構成,効果及び実施例には,いずれも保持容器を単に機械的に位置決めすることについての記載があるに過ぎず,「位置決め用片」をアース用外部端子とするための必須要件である保持容器と「位置決め用片」との間の電気的接続について何らの記載も示唆もないから,当初明細書には,アース用外部端子が実質的にも記載されているとはいえない。 当初明細書には,固定専用の固定端子を設けることの実施例の記載はあるが,アース用外部端子に関しては,「固定用端子を設ければ,保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になる」と示唆しているだけで,この固定用端子はアース用外部端子としての実施例として記載されているものではなく,固定用端子と保持容器との間の電気的接続については具体的な記載も示唆もない。 (2) 審決は,保持容器の頂面に外部端子が単に「当接」していれば,目的,作用及び効果が得られる旨認定する。 しかし,「当接」とは,「突き当てた状態に接すること。」(「特許技術用語集」日刊工業新聞社2000年4月30日発行)の意味であるから,機械的な位置関係を表現する用語であって,電気的接続の意味を有するものではなく,このような機械的な保持容器の位置決めのための「当接」は,発明の技術的思想としての「外部端子の電気的接続」を意味するものではない。当初明細書における「当接」が電気的接続の意味を有していなかったことは,当初明細書の補正の経過からも明らかである。すなわち,当初明細書には「当接」の文言はあっても,「電気的接続」とか「接触」という表現は全くなかったところ,平成3年補正により,発明の効果の欄に「(3)位置決め用外部端子と水晶振動子の保持容器は接触しているので,位置決め用外部端子をアースすることによりシールド効果が得られ,・・・」との記載を追加し,「接触」なる表現を用いて,電気的接続の意味を持たせることを意図したものである。当初明細書における「当接」を電気的接続の意味で使用していたのであれば,あえて当初明細書に全く記載のない「接触」なる用語を追加する必要はなかったはずである。さらに,当初明細書に記載された発明では,外部端子は「保持容器の位置決め」のみを目的としたものであったので,その容器も金属ケースである必然性は全くなかったものを,平成4年補正において,「本発明にかかる水晶振動子は,水晶振動子片を金属ケースよりなる保持容器内に封入した水晶振動子本体・・・」と補正することによって,上記「接触」の補正とともに,外部端子の電気的接続の意味を追加したものである。これらからすれば,当初明細書における外部端子の「当接」は保持容器の機械的な位置決めのみを意味して使用されており,電気的接続の意味としては使用されていなかったことが明らかである。 (3) 仮に,外部端子の電気的接続を「当接」の文言に含ませると仮定すると,電気的接続のためには外部端子と保持容器との間の電気的導通についての説明が必須であるから,外部端子への接触圧の与え方や接続方法の開示等が必要である。被告も,特許異議申立てに対する答弁書(甲第7号証)において,保持容器と固定端子との間の電気的接続について,樹脂注入により成形樹脂圧力で本体ケースがアース用外部端子に押し付けられ,自動的にアース用外部端子との導通がとられて,アースによる性能の改善がされる旨述べており,このことは,被告自身,機械的な保持容器の位置決めのための「当接」では十分な接触圧もなく電気的接続が得られないことを自認していたことを意味する。しかし,当初明細書には上記の成形樹脂圧力による電気的接続について記載も示唆もないのであり,当初明細書の「当接」の文言が外部端子の電気的接続を含むような「当接」でなかったことは明らかである。 また,被告が,本件特許出願の時点から,電気的接続の可能性を認識していたにもかかわらず,あえてこれを特許請求の範囲に記載しなかった以上,外部端子の電気的接続の技術的思想を当初明細書の記載から意図的に除外したというべきである。 2 発明の目的変更の補正 平成4年補正において発明の目的として追加された補正事項である「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである」は,当初明細書に全く記載がなく,発明の目的を変更するものであり,また,平成6年補正及び平成7年補正(平成4年補正による補正事項に基づくもの)による特許請求の範囲第1項,第2項に係る前記1記載の補正事項は,前記のとおり当初明細書に全く記載がなく,目的変更のための解決手段の補正であって,いずれも当初明細書の要旨を変更するものである。 したがって,審決が,上記各補正は,当初明細書の要旨を変更するものであるとは認めることができないと認定したのは誤りである。 |
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被告の反論の要点
1 原告の主張は,結局,当初明細書には「アース用外部端子」の記載がないことを主張するのみであり,失当である。 (1) 当初明細書において,外部端子73,7 4は,突片7A 3,7A 4及び連結片75を有し,これらの突片7A 3,7A 4及び連結片7 5により,「保持容器1は,その外周面が湾曲した突片7A3,7A 4により保持され且つその頂面が連結片7 5に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる」のであり,また,第6図に示した実施例では,「保持容器1の中央部を前記端子84,8 5により保持し且つ保持容器1の頂面を前記外部端子83に当接することにより位置決めを行なう」のである。つまり,外部端子73,7 4の突片7A 3,7A 4及び連結片7 5は金属製の保持容器1に当接し,位置決め用端子8 4,8 5,外部端子8 3は金属製の保持容器1に当接し,それぞれ機械的に接触しているのである。 したがって,これらの端子をアース用端子とすることができるのである。 そもそも「アースする」ということが,電気的接続をとることを意味していることは常識以前の問題である。 (2) 原告は,「当接」という用語や保持容器の性質の変更(金属ケース)などについて主張しているが,審決の認定判断に関係のない事項についての主張である。 また,「当接」が「突き当てた状態に接すること」を意味するのであれば,「接する」の意味があるのであるから,保持容器と外部端子のように金属同士を当接させれば,当然電気的にも接続されるのであるから,原告の主張は誤りである。 (3) 当初明細書には,「外部端子73,7 4は通電用端子ではなく,固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ,保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので,そうすることによってシールド効果が得られ,ノイズに強い水晶振動子が得られる」と,保持容器1と外部端子73,74とが電気的に接続されることがはっきりと記載されている。外部端子7 3,7 4によって保持容器1を位置決めするためには,外部端子73,7 4は保持容器1に当たっていなければならず,金属である固定用端子73,7 4と保持容器1とが当たっていれば,当然電気的導通があり,アースできるのである。 2 原告は,目的の変更が要旨の変更になる旨主張しているけれども,明細書に記載された技術的事項に基づき,その作用効果に対応させて目的を「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。」と補正することは何ら明細書に記載の技術的事項を変更するものではない。 |
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当裁判所の判断
1 平成5年法律第26号による改正前の特許法40条は,「願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録があった後に認められたときは,その特許出願は,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。」と規定し,同法41条は,「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定している。 2 「当初明細書に記載のない事項の補正」との主張について (1) 当初明細書(甲1号証)には次の記載がある。 ア「本発明は水晶振動子片から1対のリードを導出させた水晶振動子を製造する方法において,水晶振動子片を保持容器内に気密に封入して成る水晶振動子本体を用い,そのリードを金属フレームに包有される外部端子にスポット溶接し,その後外部端子と水晶振動子本体とを樹脂モールド成形により一体化して水晶振動子を製造することによって,プリント板への実装が容易で且つ実装された機器の小型化に役立つ構造の水晶振動子を製造することができると共に,従来の製造工程を然程変更することなく,しかも水晶振動子片に熱影響を与えることのない製造方法を提供するものである。」(2頁8行〜3頁5行) イ「水晶振動子はクロックパルス等の安定した周波数を得るために広く電子機器に利用されており,その外観形状については・・・・・・に示すように水晶振動子片を収納した円筒状や楕円筒状の金属ケースより成る保持容器1の底部からリード21,2 2が導出された形状とされている。」(3頁7〜12行) ウ「第4図(a),(b)は,第2の例に係る水晶振動子の組立て段階を示す図である。この実施例で用いられる金属フレーム5については,外部端子73,7 4の内端側には,保持容器1の頂面から底面側に若干変位した位置にて互に離間して対向する突片7A3,7A 4と,これら突片7A 3,7A 4の基部を互に連結して前記頂面に沿って伸びる連結片75とが設けられ,前記突片7A 3,7A 4は保持容器1の外周面に適合するよう湾曲している。このような金属フレーム5を用いた場合には,保持容器1は,その外周面が湾曲した突片7A3,7A 4により保持され且つその頂面が連結片75に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。従ってこの例では位置決めが確実で且つ容易なものになり,リード71,7 2を所定位置で確実にスポット溶接できるという利点がある。またこの例ではリード21,2 2に接続される外部端子7 1,7 2と保持容器1の頂部に配置される外部端子7 3,7 4とは分離した状態でモールド成形される。従ってこの外部端子73,7 4は通電用端子ではなく,固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ,保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので,そうすることによってシールド効果が得られ,ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(11頁6行〜12頁14行) エ「第6図(a),(b)は,第3の例に係る水晶振動子の組立て段階を示す図,第7図は組立後の完成品を示す図である。この例では,保持容器1の頂面からその軸方向に外部端子83が伸びると共にこの外部端子8 3の内端側が前記頂面に沿って折り曲げられている点,保持容器1の中央部を保持するように湾曲した位置決め用端子84,8 5が設けられていて,保持容器1の中央部を前記端子8 4,8 5により保持し且つ保持容器1の頂面を前記外部端子83に当接することにより位置決めを行う点,保持容器1として楕円筒状のものを用いる点等が上記の第2の例と異なる。81,8 2は通電用端子をなす外部端子である。」(13頁5行〜14頁2行) オ「第3の例及び第4の例に係る水晶振動子においては,外部端子83,あるいは外部端子93,9 4を固定専用の固定用端子として用いているので,第2の例の場合と同様にシールド効果が得られる。」(15頁末行〜16頁3行) カ「以上のように本発明は,水晶振動子本体を金属フレーム上に位置決めして配置し,リードと金属フレームに包有される外部端子とをスポット溶接してから外部端子と水晶振動子本体とを樹脂材でモールド成形することにより一体化して水晶振動子を製造するようにしている。従って本発明の製造方法によって得られた水晶振動子では,止めバンドや接着剤を用いずに外部端子をプリント基板に設けられたソケットに差し込む等して固定することにより実装できるから,保持容器の向きの如何にかかわらずプリント基板への実装が容易になって自動実装が可能になるため,効率よく実装作業ができる。」(16頁5行〜17頁2行) (2) 上記当初明細書の記載は,いずれも発明の詳細な説明中のもので,アが「発明の概要」,イが「従来の技術」の一部,ウが第4図に示される実施例,エが第6図に示される実施例,オが実施例の説明の一部,カが「発明の効果」の一部である。 上記記載及び当初明細書の第4図,第6図によれば,本件発明における「(保持容器)外周面位置決め用片」が「突片7A3,7A 4」(第4図の実施例),「位置決め用端子84,8 5」(第6図の実施例)に,本件発明における「保持容器頂面位置決め用片」が「連結片75」(第4図の実施例),「外部端子8 3」(第6図の実施例)に相当することになる。 また,上記ウの記載によれば,当初明細書の第4図の「突片7A3,7A 4」及び「連結片7 5」は,「外部端子7 3,7 4」に設けられているものであり,外部端子に繋がるもの又は外部端子そのものであることが明らかである。そして,上記イの記載によれば,保持容器は従来から「円筒状や楕円筒状の金属ケースより成る保持容器」として紹介されており,上記ウの記載によれば,この保持容器に外部端子が「固定用端子」として「当接」して「アースする」ことを可能にしていることが開示されているのである。 したがって,本件発明1における「前記外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とした」点,及び本件発明2における「保持容器外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子とする」点については,当初明細書に記載されているものと認めることができるから,これらの補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でされたものであり,明細書の要旨を変更しないものとみなされる。 (3) 原告は,当初明細書における「位置決め用片」の目的,構成,効果及び実施例には,いずれも保持容器を単に機械的に位置決めすることについての記載があるに過ぎず,「位置決め用片」をアース用外部端子とするための必須要件である保持容器と「位置決め用片」との間の電気的接続について何らの記載も示唆もないと主張する。 しかし,前記のとおり,当初明細書には,「保持容器1は,その外周面が湾曲した突片7A3,7A 4により保持され且つその頂面が連結片7 5に当接した状態で金属フレーム5に対して位置決めされる。・・・この外部端子73,7 4は通電用端子ではなく,固定専用の固定用端子となる。この例のように固定用端子を設ければ,保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になるので,そうすることによってシールド効果が得られ,ノイズに強い水晶振動子が得られる。」(前記ウ)との記載があり,外部端子(7 3,7 4)がアース用として機能することが明記されているから,保持容器と固定用端子としての外部端子(73,7 4)が電気的に接続されていることは当然のこととして理解し得るものである。 原告は,当初明細書の上記記載によっては固定用端子と保持容器との間の電気的接続について具体的な記載,示唆があるとはいえない旨主張するが,「保持容器1を固定用端子を介してアースすることが可能になる」と記載されている以上,当業者であれば,この記載から,保持容器と固定用端子(外部端子)が電気的に接続していることは格別の困難性なく認識し得るところであって,原告の上記主張は当たらない。 (4) また,原告は,当初明細書における「当接」という用語は「外部端子の電気的接続」を意味するものではなく,このことは,平成3年補正で「接触」なる用語が追加され,平成4年補正で「金属ケース」よりなる保持容器と補正された経過から明らかである旨主張する。 しかし,「当接」が原告の主張するように「突き当てた状態に接すること」という意味であるとしても,前記のとおり,当初明細書には,固定用端子である外部端子が金属製保持容器に「当接」し,「アースすることが可能」になって,「シールド効果が得られ,ノイズに強い水晶振動子が得られる。」との記載があるのであって,この記載に接した当業者であれば,そこに電気的接続が生じることは容易に理解し得るものであり,特に「当接」という用語に電気的接続を除外する意味があると認めるに足りる証拠はない。また,金属製の保持容器は,従来の技術においてすでに使用されていることが当初明細書に明記され(前記イの記載),そのことを承けて他の構成が展開されているのであるから,当初明細書において,金属製の保持容器は所与のものとしているものとみるのが相当であり,平成4年補正によって新たに追加されたものということはできない。その他,補正の経過をみても,当初明細書において,保持容器と固定用端子(外部端子)が電気的に接続していることを否定していると理解すべき事情は見当たらないのであって,原告の上記主張は失当である。 (5) さらに,原告は,電気的接続のためには外部端子と保持容器との間の電気的導通についての説明が必須であり,外部端子への接触圧の与え方や接続方法の開示等が必要であるのに,当初明細書にはその記載がない旨主張する。 しかし,前記のとおり,当初明細書には,外部端子(73,7 4)がアース用として機能することが明記されており,保持容器と固定用端子としての外部端子(73,7 4)が電気的に接続されていることは当然のこととして理解し得るのであって,「(保持容器)外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子」とするとの補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内でされたものであるから,それ以上に,外部端子への接触圧の与え方や接続方法についての説明が当初明細書に記載されていないとしても,そのことは要旨変更に当たらないとの判断を左右するものではなく,原告の上記主張は当たらない。 また,原告は,被告が当初明細書の記載から外部端子の電気的接続の技術的思想を意図的に除外したものであるとも主張しているが,そのように認めるべき根拠はないし,また,当初明細書の特許請求の範囲に示された構成に電気的接続が明記されていないとしても,当初明細書に記載した事項の範囲内でされた補正が明細書の要旨を変更しないものとみなされることに変わりはなく,原告の上記主張は採用の限りでない。 3 「発明の目的変更の補正」との主張について 原告は,発明の目的として追加された補正事項である「モールドされた水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうる水晶振動子及びその製造方法を提供することを目的とするものである」は,当初明細書に全く記載がなく,発明の目的を変更するものであり,当初明細書の要旨を変更するものであると主張する。 しかし,前記当初明細書の記載からすれば,当初明細書には,水晶振動子がモールドされること,また,該水晶振動子は実装時に保持容器をアースすることができノイズに強い状態で使用しうることも記載してあったと認められる。また,上記発明の目的の補正は,発明の構成に関する補正に伴うものであるところ,既に検討したとおり,特許請求の範囲第1項,第2項に係る「(保持容器)外周面位置決め用片ないし保持容器頂面位置決め用片を水晶振動子本体アース用外部端子」とするとの補正は,当初明細書の要旨の変更にはならないのであるから,上記発明の目的の補正もまた要旨変更には当たらない。 なお,平成6年補正及び平成7年補正(平成4年補正による補正事項に基づくもの)による特許請求の範囲第1項,第2項に係る前記補正が,目的変更のための解決手段の補正として当初明細書の要旨を変更することになるものでないことも,既に検討したところから明らかである。 4 結論 以上のとおりであるから,本件各補正が当初明細書の要旨を変更するものでないとした審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。 したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 若林辰繁 |
裁判官 | 沖中康人 |