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関連審決 不服2001-21248
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10257号 審決取消請求事件
原告 クックインコーポレイティド
訴訟代理人弁護士 権田 安則
訴訟代理人弁理士 三俣 弘文
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 内藤 真徳
同 阿部 寛
同 川向 和実
同 立川 功
同 宮下 正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が不服2001-21248号事件について平成16年10月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1,2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成4年6月24日,発明の名称を「ガイドカテーテル」とする発明につき特許出願(特願平4-188876号,優先日1991年6月28日,優先権主張国米国。後記補正の前後を通じて請求項の数は5である。)をしたが,平成13年10月25日,拒絶査定を受けたので,平成13年11月29日,審判を請求するとともに,同日付け手続補正書により,願書に添付した明細書の補正(以下,同補正後の明細書及び図面を「本願明細書」という。)をした。
特許庁は,上記審判請求を不服2001-21248号事件として審理した結果,平成16年10月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。その謄本は同月19日に原告に送達され,出訴期間として90日が付加された。
2 特許請求の範囲(上記補正後のもの) 【請求項1】「(a)先端部と,軸方向に伸びる第1の通路を有するメイン環状部と, 前記メイン環状部は,第1の外面と,第1の内部通路面と,これらの間で複合硬度を有する壁を更に有し, 前記先端部は,前記第1の内部通路面と前記第1の外面との間に伸びる外部テーパを有し, 前記壁は,前記外部テーパの全長を形成する外部材料層と,前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸び,かつ,前記外部材料層に結合された内部材料層とを含む, (b)前記複合硬度よりも軟質の硬度を有する材料からなる環状チップとからなり, 前記チップは根本部と,前記第1の通路と連通して軸方向に伸びる第2の通路とを有し, 前記根本部は前記メイン環状部の前記先端部の前記外部テーパに結合された内部テーパを有する, ことを特徴とするガイドカテーテル。」(以下,請求項1の発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 (1) 別紙審決書の写しのとおり。要するに,本願発明は,当業者が,特開平2-191466号公報(甲4。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知慣用手段に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。
(2) 審決が,進歩性がないとの上記結論を導く過程において,本願発明と引用発明との一致点及び相違点として認定したところは,次のとおりである。
【一致点】 「先端部と,軸方向に伸びる第1の通路を有するメイン環状部と, 前記メイン環状部は,第1の外面と,第1の内部通路面と,これらの間で壁を更に有し, 前記先端部は,前記第1の内部通路面と前記第1の外面との間に伸びる外部テーパを有し, 前記壁は,前記外部テーパの全長を形成する構造部材を含み, 前記壁よりも軟質の硬度を有する材料からなる環状チップとからなり, 前記チップは根本部と,前記第1の通路と連通して軸方向に伸びる第2の通路とを有し, 前記根本部は前記メイン環状部の前記先端部の前記外部テーパに結合された内部テーパを有する,ガイドカテーテル」である点。
【相違点】 メイン環状部の壁を構成する構造部材が,本願発明では,「外部テーパの全長を形成する外部材料層と,前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸び,かつ,前記外部材料層に結合された内部材料層とを含み,複合硬度を有するように構成されている」のに対して,引用発明では,「単層の構造部材で構成されている」点。
原告主張の取消事由の要点
審決は,相違点についての判断を誤った(取消事由1,2)結果,本願発明は引用発明及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとしたものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点判断の誤り-その1。引用例と周知例とを組合せることによる判断の誤り) (1) 審決は,「引用発明におけるカテーテルの壁を構成する単層の構造部材に代えて,上記周知慣用手段である複合硬度を有する構造部材よりなる壁を適用」できる旨説示しているが,誤りである。引用例の単層の構造部材に代えて,周知慣用手段である複合硬度を有する構造部材よりなる壁を適用することはできない。
(2) 周知例(特開平2-265561号公報(甲5),特開平2-265570号公報(甲6)。以下,同様である。)のカテーテル先端部は,その根本部より編組素線等が施されていない分だけ軟質であるから,上記周知のカテーテル先端部に,更に,軟質材料製チップを取り付ける必要がない,言い換えると,上記周知のカテーテルは,引用例(甲4)において解決しようとする課題(不具合点)を有しておらず,先端に編組素線を内蔵しない(先端チップの取り付けが不要な)3層からなる,完成されたカテーテルを開示するものである。
これに対し,引用発明のカテーテルは,先端まで同一の材料で形成されたカテーテル本体において,先端の硬度のみを軟質にするという課題を解決するために,カテーテル本体の先端部に別の軟質材料製の先端部材を付加するものである。
すなわち,引用例が開示するのは,あくまでも,先端まで同一の材料で形成されたカテーテルに対する先端チップの取り付け方法である。
周知例は,引用例が開示した課題(不具合点)を,既に別の方法(編組素線をなくすこと)で解決しており,引用発明とは課題が異なる。したがって,引用発明の課題を解決するために,周知例を参照することはあり得ず,引用発明と周知例とを組み合わせて,本願発明に到ることは可能ではない。
(3) また,引用例の先端部材(環状チップ)の内側テーパと,周知例のカテーテルの外側テーパとをあわせて一体化し,その際,引用例の環状チップの材料の硬度を,周知例の二層状構造部材の複合硬度より小さいものに選択すると,周知例のカテーテルは,編組素線がある場所(根本部)とない場所(先端部)とで2種類の複合硬度を有することになり,さらに,先端に環状チップを取り付けると,1本のカテーテルに3種類の硬度が存在することになる。すなわち,根本部(外層,第二内層,編組素線,第一内層からなる。)の第1硬度,中間部(外層,第二内層,第一内層からなる。)の第2硬度,先端の環状チップの第3硬度が有意の長さに渡って存在するが,硬度の大きさ順に,第1硬度>第2硬度>第3硬度となるように選択すると,先端チップの硬度が低くなりすぎ,外科医が操作しづらい欠点がある。
周知例のカテーテルは,それだけで十分に低い硬度の先端部を有しているから,更に軟質のチップを付加する必要はない。また,第1硬度>第3硬度>第2硬度とすると,カテーテルが中間部で座屈を起こす危険がある。したがって,当業者は,2種類の複合硬度より軟質の第3硬度を選択することはない。
(4) 周知例は,カテーテル本体と先端部の材料を変えずに,編組素線の有無で両者の硬度差が自動的に決定されるのに対し,本願発明では,2層構造のカテーテル本体の材料の「複合硬度」がまず決定され,その後複合硬度以下の硬度を有する材料を選択し先端チップを形成している。周知例では先端チップの材料が選択不可であるのに対し,本願発明では先端チップの材料の選択が可能である。本願発明においては,先端チップの材料の選択基準も必須構成要件であるが,周知例からはこの要件を想起できない。
(5) 上記のとおり,引用例,周知例を組み合わせて本願発明に到るとすることはできない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り-その2。外部材料層が外部テーパの全長を形成する点(第1要件)と,内部材料層が外部テーパの領域内に部分的に伸びるようにする点(第2要件)を,設計的選択事項であるとした判断の誤り) (1) 審決は,「単純に,メイン環状部の先端部の外部テーパの領域内に外部材料層より硬度の大きい材料で形成される内部材料層ができるだけ入り込まないようにするか,たとえ入り込んだとしても部分的にしか入り込まないように構成して,本願発明のように構成する程度のことは,当業者であれば必要に応じて容易になし得たものと認められる。」(審決書5頁21行〜25行)としているが,誤りである。
(2) 本願発明の「前記壁(19,20)は,前記外部テーパの全長を形成する外部材料層(27)と,前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸び,かつ,前記外部材料層に結合された内部材料層(25)とを含む」という構成要件には,3つの要件が含まれる。すなわち,第1要件は,外部材料層が前記外部テーパの全長を形成する点,第2要件は,内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている点,第3要件は,外部材料層と内部材料層とが結合されている点である。
一方,周知例は,第1要件,第2要件を開示していない。周知例に開示されたカテーテルの先端部は,編組素線等が存在しないだけで,外層と内層(第一内層と第二内層からなる。)は存在すると予測されるが,この先端部に外側テーパを形成すると,内層がテーパ部まで伸び,外層が存在しない外部テーパ部が存在することになる。すなわち,外部テーパ部表面には内層と外層の両方が現れる(丸太の断面における年輪のように見える)ことになるから,上記第1要件を開示していない。また,周知例の内層は外側テーパ部まで伸び,内層が外層内に完全に伸びているから,上記第2要件を開示していない。
本願発明においては,第1要件により,外部材料層と内部材料層との境界が,テーパ部分に存在しない(現れない)ため,カテーテルのメイン環状部と環状チップとのテーパ状接続がより強化され,接合強度が向上するが,メイン環状部が複数の層から構成されていない引用例は,第1要件により,接合強度が向上する点を開示していない。また,本願発明においては,上記第2要件により,2種類の材料をテーパ状に組み合わせることに加えて,外部材料層内に内部材料層を部分的に伸ばすことによって,外部テーパ領域では更にゆったりと硬度を変化させることができるという効果を奏する。
(3) 上記のとおり,本願発明は,第1,第2要件を採用することにより,上記の発明の効果を奏するものであるが,この構成は,当業者であれば必要に応じて容易になし得たものとはいえない。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(相違点判断の誤り-その1。引用例と周知例とを組合せることによる判断の誤り)について (1) 原告の主張は,引用発明が,引用例(甲4)のカテーテルの製造方法,あるいは甲5のカテーテルの構造であることを前提とするもののように見受けられるが,審決は,引用発明を,「‥‥‥ガイディングカテーテル」(審決書3頁22行〜35行)として認定し(原告は争わない。),さらに,カテーテル本体部の構造部材として「外部材料層と内部材料層とを含み,複合硬度を有」したものが周知(甲5,甲6)であるとして,判断したものであるから,原告の主張は,審決の内容を誤認したものといわざるを得ない。
(2) そして,強さとしなやかさとの両立はカテーテルにおける一般的課題であり,さらに,本願明細書の「本発明のカテーテルの壁は患者の臓器内に挿入される際,捻れ,座屈等に強く」(甲2,4欄14行〜15行)との記載からすれば,本願発明において,壁が複合硬度を有する点の技術的意義は強さとしなやかさを両立させることにあるといえるところ,当該課題を解決するために,異なる硬度の材料から構成され,複合硬度を有するカテーテルの壁を採用することが甲5,甲6に開示され,しかも周知慣用手段といえるから,引用発明の単層の壁に代えて,複合硬度を有する壁を採用した程度のことに何ら困難性は存しない。
(3) 上記のとおり,審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り-その2。外部材料層が外部テーパの全長を形成する点(第1要件)と,内部材料層が外部テーパの領域内に部分的に伸びるようにする点(第2要件)を,設計的選択事項であるとした判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,外部材料層より硬度の大きい材料で形成される内部材料層が外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びるように構成することは容易であると判断した点について,周知例には,第1要件(外部材料層が前記外部テーパの全長を形成する点),第2要件(内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている点)が開示されていないから,当該判断は誤りであると主張する。
(2) しかしながら,審決は,周知例に原告指摘のような開示があることを前提として判断したものではないから,当該主張は,審決の判断に何ら影響を与えるものでなく,審決の内容を誤認したものといわざるをえない。
(3) そして, 本願発明において,内部材料層を外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びるようにした点の技術的意義は,本願明細書の,「外部テーパ13と内部テーパ14は,熱結合剤15の強度を増加させ,熱結合剤15がメイン環状部11から剥離するのを防止し,メイン環状部11とソフト環状チップ12との間でカテーテルの硬度が徐々に変化するようにする。」(甲2,2欄30行〜34行)という記載,そして,「2種類の材料をテーパ状に組み合わせることに加えて,外部材料層内に内部材料層を部分的に伸ばすことによって,外部テーパ領域では更にゆったりと硬度を変化させることができる」との原告主張に鑑みると,2種類の材料をテーパ状に接合することによって得られた,カテーテル先端部の硬度を徐々に変化させるという効果を妨げないようにする点にあると考えられる。
一方,引用発明も,引用例の,「第2に,‥‥‥カテーテル先端方向(図中左側)へ向って後者の比率が漸増しているため,その先端へ向うに従って,柔軟性が連続的に増加するように構成される。これにより‥‥‥。」(甲4,6頁左上欄9行〜右上欄1行)という記載からみて,カテーテル先端部の硬度を徐々に変化させるという課題を認識していたものと考えられる。
してみると,引用発明において,単層のカテーテルの壁に代えて,周知慣用手段である複数硬度を有する壁を採用するに当たり,上記効果を妨げないために,外部テーパの領域内に硬度の大きい材料ができるだけ入り込まないようにするか,たとえ入り込んだとしても部分的にしか入り込まないように構成する程度のことは,当業者であれば容易に想到できたことである。
(4) 上記のとおり,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点判断の誤り-その1。引用例と周知例とを組合せることによる判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,引用発明の単層の壁に代えて,周知慣用手段である複合硬度を有する壁を採用することは容易であると判断した点について,周知例のものに先端チップをさらに取り付ける必要がないこと,引用発明と周知例のものとは課題が異なることなどを挙げて,当該判断は誤りであると主張する。
(2) そこで,検討するに,審決が,周知例として引用した甲5には「カテーテルの本体部は‥‥‥第二内層2内に編組が施されているが,カテーテルの先端部にはカテーテルの剛性を無くすようにするため,編組が施されていない。」(2頁左下欄2〜5行)と,また,甲6には「カテーテルチューブ本体部13においては‥‥‥ステンレス製の横巻シールド15が‥‥‥一層施されてこの高操作性カテーテル6は構成されている。‥‥‥また,先端部11ではカテーテルの剛性をなくすため,横巻シールド15が施されていない。」(2頁左上欄13行〜右上欄2行)と記載されており,これらの記載からすれば,確かに,甲5,甲6においては,カテーテル先端部の剛性をなくすために,カテーテル先端部に,編組(甲5),横巻シールド(甲6)を設けない構造を採用していることが認められ,カテーテル先端部が,すでに,剛性を有していないのであるから,かかる先端部に更に柔軟な先端部材を接着することについては,必然性を欠くということができる。
しかし,審決は,甲5,甲6を例示して,「カテーテルの壁を構成する構造部材を,軟質の硬度を有する材料からなる外部材料層と,前記外部材料層に結合され,前記外部材料層より硬度の大きい材料で形成された内部材料層とを含み,複合硬度を有するように構成する」こと(以下「複層構造」という。)が周知慣用手段であると認定し(審決書4頁31〜34行。原告は,この認定を争っていない。),その上で,「引用発明におけるカテーテルの壁を構成する単層の構造部材に代えて,上記周知慣用手段である複合硬度を有する構造部材よりなる壁を適用」できると説示している(審決書5頁8〜9行)のである。この説示に照らせば,審決は,引用発明のカテーテルの壁を構成する構造部材(本体部)を周知の複層構造のものとすることについて,これを容易想到と判断したのであって,引用発明に甲5,甲6に記載されたカテーテルそのものを適用することが容易想到と判断したのではない。
原告が,審決の判断が誤りである理由として挙げた上記の各理由は,いずれも,引用発明に甲5,甲6に記載されたカテーテルそのものを適用することが,想到困難であるというものであって,上記原告の主張は,審決の説示内容を正解しないものであり,失当である。
(3) なお,念のために,「引用発明におけるカテーテルの壁を構成する単層の構造部材に代えて,上記周知慣用手段である複合硬度を有する構造部材よりなる壁を適用」できるかどうかについて,検討する。
甲5に,「従来の技術においては,カテーテルに「強さ」と「しなやかさ」を同時に満足させることはできないという不具合が存在していた。この発明は,‥‥‥かつ,「強さ」と「しなやかさ」を同時に満足するカテーテルを提供することを目的とする。」(1頁右下欄19行〜2頁左上欄6行),「硬い内層および軟らかい内層の2層構造により形成されているので,カテーテルを「強さ」と「しなやかさ」を同時に満たすようにすることができる。」(2頁左上欄18行〜右上欄1行)と記載されているように,強さとしなやかさとの両立はカテーテルにおける一般的な課題であることは常識であり,その課題を解決するために,カテーテルの壁を硬度を異にした多層構造とすることが開示され,そのことは周知慣用手段であるといえるのであるから,引用発明の単層の壁に代えて,周知慣用手段である複層構造のものを採用することは,容易になし得ることといえる。
また,引用例(甲4)には,「ガイディングカテーテルは,その先端部分が軟質の材料から構成され,ガイディングカテーテルの挿入および留置時に,血管,心臓またはその周辺組織を損傷しないようになっている。」(2頁右上欄9〜13行)と記載されており,この記載からすれば,ガイドカテーテルにおいては,先端部を柔軟構造のものとして,周辺組織の損傷を防ぐという普遍的課題を有していると認められるところ,複層構造を有する周知のカテーテルであっても,その例外ではなく,上記技術課題を等しく有しているというべきである。そうであれば,複層構造を有する周知のカテーテルにおいても,先端部を柔軟構造とすることは,当業者ならば容易に想到できることであり,そのための手段として,甲5,甲6のような,複層構造の一部を欠いた構造のものとするか,引用発明のように,柔軟な先端部材を接着するかは,当業者が適宜選択する事項というべきである(なお,甲5,甲6のものは,編組素線などによりカテーテル本体の剛性を高めているため,編組素線などをなくすことで,内,外層が存在する先端部を柔軟構造に形成できるものである。編組素線などを用いない複層構造のカテーテルにあっては,内層により剛性が高まるから,先端部はそのままでは柔軟構造とならず,別途,先端部を柔軟にするための構造が必要となることは明らかである。)。したがって,引用発明において,カテーテルの先端部に柔軟な先端部材が接着されていることは,カテーテル本体部について,単層の壁に代えて複層構造のものを採用することを何ら阻害する事由となるものでないことも明らかである。
(4) 上記のとおり,「引用発明におけるカテーテルの壁を構成する単層の構造部材に代えて,上記周知慣用手段である複合硬度を有する構造部材よりなる壁を適用」することは,当業者が容易に想到できるというべきであるから,審決の前記判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由1は,理由がない。
2 取消事由2(相違点判断の誤り-その2。外部材料層が外部テーパの全長を形成する点(第1要件)と,内部材料層が外部テーパの領域内に部分的に伸びるようにする点(第2要件)を,設計的選択事項であるとした判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,「単純に,メイン環状部の先端部の外部テーパの領域内に外部材料層より硬度の大きい材料で形成される内部材料層ができるだけ入り込まないようにするか,たとえ入り込んだとしても部分的にしか入り込まないように構成して,本願発明のように構成する程度のことは,当業者であれば必要に応じて容易になし得たものと認められる。」(審決書5頁21〜25行)とした点について,周知例は,本願発明の,「外部材料層が前記外部テーパの全長を形成する点」(第1要件),「内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている点」(第2要件),「外部材料層と内部材料層とが結合されている点」(第3要件)のうち,第1要件,第2要件を開示していない旨を挙げて,誤りであると主張する。
(2) そこで,検討するに,審決が,引用発明に甲5,甲6に記載されたカテーテルそのものを適用することが容易想到と判断したのではなく,引用発明に積層構造を有する周知のカテーテルを適用することは容易想到と説示したものであることは,前記1において判示したとおりである。したがって,周知例(甲5,甲6)に,第1,第2要件の開示がないことを理由に,審決の上記判断の誤りをいう原告の主張は,審決を正解せずになされたものであって,採用できない。
その点はともかく,念のため,引用発明に複層構造を有する周知のカテーテルを適用するにあたって,上記第1,第2要件を具備することが想到容易かどうかについて,検討する。
(3) まず,第1要件の容易想到性について検討する。本願発明において,「外部材料層が前記外部テーパの全長を形成する」点の技術的意義は,本願明細書(甲2)に,「別の従来例としては,ワイヤを巻いたテフロン製の内側チューブをポリウレタンで被覆し,その間をエポキシで接合したものが存在する。さらに,その先端部に柔軟なポリウレタンと耐放射線材料である金属を接合している。ポリウレタン材料と先端部の柔軟なポリウレタン材料との接合が,ステップ状になり,使用中に分離しやすい。」(段落【0002】)と記載されていることからすると,外部材料層と環状チップとを,ステップ状にではなく,テーパ面全面で結合することにあると解される(なお,「柔軟なポリウレタンと耐放射線材料である金属を接合している」の技術的意味は,「ポリウレタン材料と先端部の柔軟なポリウレタン材料との接合」(上記段落)と記載されており,また,「図2は多層カテーテル壁21と壁33の部分断面図である。同図において,壁33は50%のポリエーテルブロックアミドと50%のタングステンを有し,このタングステンはタングステン粒子34として示され,X線不透過性を提供する。」(段落【0008】)と記載されていることからすると,ポリウレタン中に,金属が粒子として分散していることと解される。)。
ところで,引用例(甲4)には,「他の製造方法として,‥‥‥カテーテル本体1aと先端部材4aとをそれらの端面同士で融着し,同時に熱成形するものである。しかるに,この方法では,カテーテル本体と先端部材との材質が相違する等の理由から,融着が不完全となる。」(2頁左下欄3行〜13行)と記載されており,この記載からすると,カテーテル本体に先端部材を融着するにあたり,これらの材質が相違すると,融着が不完全なものとなることが理解される。
本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,「前記チップは根本部と,前記第1の通路と連通して軸方向に伸びる第2の通路とを有し,前記根本部は前記メイン環状部の前記先端部の前記外部テーパに結合された内部テーパを有する」と記載されており,この記載からすると,環状チップの根本部とガイドカテーテルの先端部との結合手段は特定されていないから,本願発明は,これらを融着により結合することを包含していると認められるところ,外部材料層と内部材料層からなるカテーテルの場合,これらの材料層の材質が異なれば,環状チップとして,いずれか一方の材料層と同じ材質のものを選択したとしても,他の材料層とは異なる材質のものとなり,融着が不完全となることは,引用例(甲4)の上記記載から容易に予測できることである。したがって,外部材料層が外部テーパの全長を形成するようにして,外部テーパ全面の材質を単一のものとし,環状チップとの融着を完全にすることは,当業者ならば容易に想到できることというべきである(なお,先端部を柔軟にする必要があるのだから,柔軟な外部材料層により外部テーパの全長を形成するのが自然である。)。
(4) 次に,第2要件の容易想到性について検討する。なお,「内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている」(第2要件)のであれば,「外部材料層が前記外部テーパの全長を形成する」(第1要件)こととなることは明らかである。
本願発明に係る特許請求の範囲(請求項1)には,内部材料層が外部テーパに向かって部分的に伸びる程度については,何ら規定されておらず,「内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている」点(第2要件)の技術的意義は,「外部材料層が前記外部テーパの全長を形成する」(第1要件)ことにあるともいえるが,本願明細書(甲2)に,「熱結合剤15の強度を増加させるために,内側層25は軸方向に部分的に外部テーパ13に沿って伸び」(段落【0008】)と記載されていることからすると,一応,結合(熱結合材15)の強度を増加することにあると解することができる(なお,上記明細書には,「強化ひも26は軸方向に外部テーパに沿って部分的に伸び,その結合を強化する。」(段落【0009】)と記載されており,この強化ひも26も結合を強化するものであると認められるが,本願明細書(甲3)の請求項5には,「前記壁は前記内部材料層の周囲に,これに沿って配置された強化ひもを更に有する」と記載されていることからすると,「強化ひも」は「内部材料層」と異なる構造部材であると認められる。)。
しかし,内部材料層(内側層25)は,結合(熱結合材15)に対して,物理的に接触しているわけではないから,結合(熱結合材15)の強度を直接的に増加させるものとは認めることができない。そうであれば,本願発明において,「結合を強化する」とは,本願明細書(甲2)に,「外部テーパ13と内部テーパ14は,熱結合剤15の強度を増加させ,熱結合剤15がメイン環状部11から剥離するのを防止し,メイン環状部11とソフト環状チップ12との間でカテーテルの硬度が徐々に変化するようにする。」(段落【0005】)と記載されているように,内部材料層を外部テーパ領域に部分的に入れることにより,メイン環状部11とソフト環状チップ12との間でカテーテルの硬度が徐々に変化するようにすることと解するのが妥当である。
一方,引用例(甲4)には,「第2に,第5図に示すように,接着部9においては,比較的硬質のカテーテル本体1材料と,比較的軟質の先端部材4とが存在し,かつカテーテル先端方向(図中左側)へ向って後者の比率が漸増しているため,その先端へ向うに従って,柔軟性が連続的に増加するよう構成される。これにより,カテーテルの先端部が湾曲した場合(またはねじれた場合)に,その曲げ応力が一点に集中することなく接着部9全体に分散され,湾曲軌跡が緩やかな連続カーブとなり,カテーテルの急角度な折れ曲がり(またはねじれ)によるルーメン2の閉塞または接着部9での剥離や亀裂の発生が防止される。」(6頁左上欄9行〜右上欄1行)と記載されており,この記載からすると,カテーテルの急角度な折れ曲がり(またはねじれ)によるルーメン2の閉塞または接着部9での剥離や亀裂の発生を防止するには,接着部9において,先端へ向うに従って,柔軟性が連続的に増加することが必要であると認められる。
そして,「軟質の硬度を有する材料からなる外部材料層と,前記外部材料層に結合され,前記外部材料層より硬度の大きい材料で形成された内部材料層」とからなる複層構造のカテーテル本体に,外部テーパ面を形成し,該外部テーパ面に,内部材料層を露出させた状態で,内部テーパ面を形成した軟質先端部材を接着させる場合においては,先端に向かうにつれて,内部材料層の厚みはそのままで徐々に,外部材料層の厚みが減少し,軟質先端部材の厚みが増加する領域と,外部材料層が存在せず,内部材料層の厚みが減少し,軟質先端部材の厚みが増加する領域とが存在し,前者の領域においては,硬度の大きい内部材料層の厚みが同じであることから,先端に向かうにつれて柔軟性は増加するも,その増加の程度は小さく,後者の領域においては,外部材料層が存在しないため,硬度の大きい内部材料層の厚みが減少するにつれて,柔軟性の増加の程度は大きくなることが明らかである。
すなわち,上記のものにあっては,内部材料層が外部テーパ面に露出している構造のために,先端に向かうにつれて,当初,徐々に,柔軟性が増加するも,途中から,柔軟性が急に増加するという傾向となることは明らかであるところ,かかる傾向が,先端へ向うに従って,柔軟性が連続的に増加するという望ましい傾向に反することは明らかである。しかも,上述したとおり,かかる態様を選択すると,軟質先端部材の結合が不完全となる可能性が存在するのであるから,当業者が,かかる態様を選択することはないというべきである。
そうであれば,内部材料層が外部テーパ面に露出しない構造,すなわち,「内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている」構造を選択するのが,最も合理的であることは明らかである。しかも,このような態様が,内部材料層が外部テーパ面に露出する構造に比べて,カテーテルの硬度が徐々に変化するものであることは,当業者が容易に理解できることである。
上記によれば,「内部材料層が前記外部テーパの領域内に部分的に軸方向に伸びている」点は,当業者ならば,容易に想到できることというべきであり,軸方向に伸びる程度については,実験等により適宜決定できるものというべきである。
審決は,「単純に,メイン環状部の先端部の外部テーパの領域内に外部材料層より硬度の大きい材料で形成される内部材料層ができるだけ入り込まないようにするか,たとえ入り込んだとしても部分的にしか入り込まないように構成して,本願発明のように構成する程度のことは,当業者であれば必要に応じて容易になし得たものと認められる。」(審決書5頁21〜25行)と判断しているところ,上述したとおり,内部材料層が部分的にしか入り込まないように構成することは,当業者が容易に想到できることであるから,上記審決の判断が誤りであるということはできない。
(5) なお,原告は,本願発明においては,上記第1要件により,カテーテルのメイン環状部と環状チップとのテーパ状接続がより強化され,接合強度が向上するという効果が,また,上記第2要件により,外部テーパ領域では更にゆったりと硬度を変化させることができるという効果が奏される旨を主張する。
しかし,上記第1要件,第2要件ともに,当業者が容易に想到できるものであり,これらにより奏される作用効果も,上述したとおり,当業者が容易に予測できるものにすぎない。
(6) 以上のとおりであるから,原告の主張する取消事由2も理由がない。
3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由1,2には理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二