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関連審決 無効2000-35676
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  着想 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 31号 審決取消請求事件
原告 株式会社竹中工務店
原告 株式会社相互ポンプ製作所
原告ら訴訟代理人弁理士 青山葆
同 河宮治
同 大森忠孝
同 田代攻治
同 大畠康
被告 株式会社エフエムバルブ製作所
訴訟代理人弁護士 勝田裕子
訴訟代理人弁理士 鈴江武彦
同 峰隆司
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/08/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が無効2000-35676号事件について平成13年12月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「給水システム」とする特許第2832183号(平成3年8月27日出願。平成10年9月25日登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成12年12月13日,本件特許を請求項1及び同2に関して無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2000-35676号事件として審理した。原告らは,この審理の過程で,願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)につき,請求項1を削除し,請求項2を新たな請求項1とした上,これを訂正することを含む訂正を請求した。特許庁は,上記事件の審理の結果,平成13年12月4日に,「訂正を認める。特許第2832183号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同月14日にその謄本を原告らに送達した。
2 審決の理由の要点 別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,上記訂正後の請求項1の発明(以下「本件発明」という。)は,審判甲第3号証(本訴甲第1号証。特開昭59-60516号公報。以下「引用例1」という。),審判甲第1号証(本訴甲第2号証。特開昭53-38883号公報。以下「引用例2」という。),審判甲第2号証(本訴甲第3号証。特開昭58-26131号公報。以下「引用例3」という。),審判甲第7号証(本訴甲第4号証。「上下水道機材事典」 株式会社産業調査会昭和53年7月20日発行。以下「引用例4」という。)に記載された各発明(以下,それぞれを,順に,「引用発明1」,「引用発明2」,「引用発明3」,「引用発明4」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,というものである。
3 訂正後の本件特許の特許請求の範囲請求項1 「流入弁を有する給水元管から供給される市水を貯留してポンプにより給水栓等の末端部に供給する受水槽を備えた給水システムにおいて,受水層内の水位を無段階に連続検知する水位検出器と,該水位検出器から水位信号を受け,この水位信号に対応して上記流入弁を開閉し受水槽内の水位を所定の制御水位範囲に維持する制御装置とを備え,制御装置は,給水栓側の需要量に応じて水位設定するようにしており,該水位検出器は,受水槽内の底部に設けられ水圧により水位を無段階に検知する水位検出器であることを特徴とする給水システム。」
原告ら主張の審決取消事由の要点
審決の理由のうち,「1.手続の経緯」,「2.訂正の可否についての判断」(審決書2頁5行〜4頁10行)は認める。「3.本件特許発明に対する判断」(同4頁11行〜9頁17行)中,「3-1.本件特許発明」(同4頁12行〜22行)は認める。「3-2.引用例」のうち,審決書4頁24行ないし5頁7行の「請求人の提出した・・・介在させるというものであるが,」は認める。同5頁7行ないし15行の「引用例1の・・・性格のものではない。」は争う。同5頁16行ないし25行の「他方・・・実施例とするものといえるところ,」は認める。同5頁25行ないし35行の「本件特許発明は・・・開示されていると認めることができる。」は争う。同5頁36行ないし7頁2行の「同じく・・・認められる。」は認める。「3-3.対比・判断」のうち,7頁4行ないし12行の「本件特許発明と・・・点で一致し,」は争う。7頁13行ないし16行の「(1)本件特許発明の・・・ところがない点,」は認める。7頁17行ないし20行の「(2)本件特許発明の・・・相違する。」は争う。7頁21行ないし9頁17行の「そこで,前記各相違点について検討する。・・・予測できる範囲のものである。」は争う。「4.むすび」(9頁19行〜25行)は争う。
審決は,引用発明1の認定を誤った結果,本件発明と引用発明1との一致点の認定,相違点の認定(審決認定の相違点(2))及び相違点(2)についての判断を誤り(取消事由1),本件発明と引用発明1との相違点を看過し(取消事由2),相違点(1)についての判断を誤り(取消事由3),これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用発明1の認定の誤り) (1) 審決は,引用例1には,「ポンプ井で行われている制御内容,すなわち時刻別にポンプ井の水位目標値を設定し,各時刻毎に設定水位目標値を得て,ポンプ井の水位をこの水位目標値に維持するようにポンプ井への流入弁による給水量を決定するという制御」(審決書5頁9行〜12行)を行い,「水位信号に対応して上記流入弁を開閉しポンプ井内の水位を所定水位とする制御装置とを備え,制御装置は,時間帯により異なるポンプ井水位目標値となるようにして」(同5頁30行〜32行)いる発明が開示されている,と認定した。
しかしながら,引用例1に開示されているのは,夜間の浄水場1からの送水を低減させることを目的として,ポンプ井の夜間の水位目標値を低く設定した上で,夜間には実際の水位が設定目標値まで下がらないように,昼間の水位目標値を高く設定することによって,夜間の浄水場1の運転を不要にするための運転方法である。引用発明1は,夜間には水位の制御を不要とするものであって,夜間のポンプ井の水位が設定目標値に維持されるように制御されることはないから,審決の上記引用例1の認定は,誤りである。
このことは,引用例1の次の記載,特に下線を施した記載部分から明らかである。
ア 「〔発明の技術的背景〕従来,送配水系における複数ポンプ場の最初の池の水位制御は,水位目標値が昼夜を通じて変更することなく,一定で行われていた。この場合,昼夜を問わない送配水系の負荷をまかなうため,中継貯水施設容量を利用した浄水場の夜間運転の負荷の軽減は不可能であった。」(甲第1号証1頁右欄1行〜7行) イ 「〔発明の目的〕本発明は,上記事情に鑑みて成されたもので,浄水場から送水される最初の池の水位目標値を時刻により変更することで,池の容量を有効活用し,夜間の浄水場からの送水を低減させるようにした 送配水施設の運転方法を提供することを目的とする。」(同1頁右欄8行〜14行) ウ 「〔発明の概要〕即ち,本発明は上記目的を達成するため,浄水場からの水をポンプ場の池に送水し,このポンプ場の池より最終段の池にポンプで送ってこの最終段の池より需要家に配送する送配水施設において,時刻別に前記ポンプ場の池の水位目標値を昼間では大きく,夜間では小さく定め ,各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御するようにし,夜間は水位目標を下げて夜間の需要量に対応するポンプ場の池の水位を昼間の間に保ち,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにして夜間の浄水場の運転を不要にする 。」(同1頁右欄15行〜2頁左上欄8行) エ 「12は時刻信号を発生する24時間タイマ,13はこの24時間タイマ12から出力された時刻信号を受け,予め設定された時刻別のポンプ井水位目標値を出力する設定データ入力装置,14はこの設定データ入力装置13の出力する水位目標値を受け,また流入弁開度検出器9の検出信号とポンプ井水位検出器10の出力信号を受けてこの出力信号より水位目標値に対するポンプ井4の流入水量の過不足を知り,これを補うに必要な流入弁3の開度を求めてその開度に調整する制御出力を流入弁3に与えるポンプ井水位制御ブロック・・・」(同2頁右上欄7行〜18行) オ 「本発明は,時間帯によりポンプ井水位目標値を変更することにある。
その作用として,昼間はポンプ井水位上限近くにポンプ井水位目標値におくことで,浄水場からの送水をポンプ井の容量分を貯水し,夜間はポンプ井水位目標値を下げ,昼間ポンプ井に貯水しておいた水で必要量をまかなうことができ,夜間の浄水場からの送水を低減する ことができる。したがって昼間の運転である一定量の水を貯水しておけば,夜間における送水が必要になっても浄水場は運転しなくても水需要をまかなえる 。すなわち,浄水場の運転が昼間に集中した単一な運転が可能となる。」(同3頁左上欄12行〜右上欄4行) カ 「〔発明の効果〕・・・時刻別に前記ポンプ場の池の水位目標値を昼間では大きく,夜間では小さく設定し,各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御するようにし,これにより昼間の水位をポンプ場の池の上限近くに保ち,夜間は水位目標を下げて夜間の需要量に対応するポンプ場の池の水位を昼間の間に保ち,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の ので夜間の浄水場の運転を不要にすることができ,浄水場の運転を間歇 運転する場合において,その運転を昼間に集中し,夜間はなるべく運転しない運用が可能となる送配水施設の運転方法が提供できる。」(同3頁左下欄8行〜同右下欄6行) (2) 上記ウ,カのうち,「この水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御する」との記載は,他の記載部分とつじつまの合わない不合理な内容であり,引用発明1を示すものとはいえない。水位目標値を夜間では小さく定めてその小さい水位目標値に池の水位を保つように制御すると,ウのその後の記載である「夜間は水位目標を下げて夜間の需要量に対応するポンプ場の池の水位を昼間の間に保ち,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにして夜間の浄水場の運転を不要にする。」ことができなくなるからである。
(3) 原告らの主張に対しては,引用発明1において,夜間に多量の水を使い,水位が夜間用の低い目標値より下がった場合には,流入弁3が開いて水位を夜間用目標値まで上げる制御が行われるではないか,との反論が想定される。
しかし,引用発明1は,そのようなことが,できるだけ起こらないように,「夜間の浄水場からの送水を低減させる」(〔発明の目的〕,甲第1号証1頁右欄12行)ことを目的として,「夜間の浄水場の運転を不要にする」(〔発明の概要〕,同2頁左上欄8行)ものであり,「浄水場の・・・夜間はなるべく運転しない運用が可能となる」(〔発明の効果〕,同3頁右下欄3行〜5行)という効果が期待できる運転方法である(下線部分は原告らが付したものである。)。
引用例1では,上記下線部分の「低減」,「なるべく」のように,特殊かつ,まれな,不時の場合についての配慮もなされているものの,その狙い,目的を「夜間の運転」に定め,「夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにした」(同3頁左下欄末行〜同右下欄2行)運転方法,すなわち,夜間には,ほぼ100%,制御が行われない運転方法が開示されていると理解するべきである。
被告の主張するように,「低減」,「なるべく」との文言から「ゼロではない」と無理に想定したとしても,引用発明1を,本件発明のような,たまにではなく,常時作動する「水位信号に対応して上記流入弁を開閉し受水槽内の水位を所定の制御水位範囲に維持する制御装置」を備えた給水システムということはできない (4) 審決は,上記のとおり,引用発明1の認定を誤った結果,次のとおり,一致点の認定,相違点(2)の認定,相違点(2)の判断を,いずれも誤ったものである。
一致点の認定について 審決は,本件発明と引用発明1とは,「流入弁を有する給水元管から供給される市水を貯留してポンプにより給水栓等の末端部に供給する受水槽を備えた給水システムにおいて,受水槽内の水位を検知する水位検出器と,該水位検出器から水位信号を受け,この水位信号に対応して上記流入弁を開閉し受水槽内の水位を所定とする制御装置とを備えた給水システム。」の点で一致する(審決書7頁8行〜12行),と認定した。
しかし,前記のとおり,引用発明1では,夜間の水位目標値を十分低い値とすることにより,ほとんど100%,水位が目標値まで下がらないようにして,制御を行わずに済むようにしており,「水位を所定とする制御装置」は備えられていないのであるから,上記一致点の認定は誤りである。
イ 相違点(2)の認定について 審決は,本件発明と引用発明との相違点の一つ(審決のいう「相違点(2)」)として,「本件特許発明の制御装置が水位を所定の制御水位範囲に維持し,給水栓側の需要量に応じて水位設定するのに対し,引用例1発明の制御装置が時間帯により異なる受水槽水位目標値となるように受水槽水位を制御するものである点」(審決書7頁17行〜20行),を認定した。
しかし,前記のとおり,引用発明1では,夜間の水位目標値を十分低い値とすることにより,ほとんど100%,水位が目標値まで下がらないようにしており,夜間に,水位が受水槽水位目標値となるように受水槽水位を制御するものではないから,上記相違点(2)の認定は,誤りである。
ウ 相違点(2)の判断について 審決は,「引用例3の,前記制御内容(判決注・配水流量に応じて設定水位を自動的に変え,水位を所定の制御水位範囲に維持するという制御内容)を,受水槽,流入弁を備えた引用例1発明に適用しようとすることは容易に着想できることである。しかるに,引用例発明1には引用例3の前記制御内容を適用することが困難であるとする技術的理由も見当たらず,かかる適用に当っては受水槽の水位を制御水位範囲に維持すべく流入弁を操作して足りるのであるから,そうすると,本件特許発明の相違点(2)にかかる構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決書8頁23行〜38行)と判断した。
しかし,引用発明1の,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにしたシステムに,引用例3の配水流量に応じて設定水位を自動的に変え,水位を所定の制御水位範囲に維持する制御内容を適用すると,せっかく昼間の水位をポンプ井の上限近くに保持していても,水位目標を下げた夜間に水位が低い目標値まで下がってしまい,浄水場からの送水によるポンプ井の水位の制御を行わずに済ますことが不可能になり(すなわち,夜間でも浄水場の運転が行われ),結局,引用発明1の,夜間の浄水場の運転を不要にする,という目的,効果を期待することが全くできなくなる。
審決のように,引用発明1に引用例3の前記制御内容を適用することが困難であるとする技術的理由が見当たらない,ということはできない。
2 取消事由2(相違点の看過) 本件発明は,休日が続くとき,集合住宅で入居開始早々であるときなど,水質劣化防止のため受水槽の貯留量を減らしたい場合に,受水槽の水位を低い水位に維持するよう制御することを目的としており,これによって水質の劣化を防止するという効果を奏する。これに対し,引用発明1は,夜間の浄水場からの送水を低減することを目的としており,需要の少ない夜間にポンプ井4の水位を低く維持することを目的としていないから,本件発明のような水質劣化防止の効果を奏することは不可能である。
審決は,上記相違点を看過している。
3 取消事由3(相違点(1)の判断の誤り) 審決は,引用例2及び同4の記載を挙げた上,「引用例1発明において水位検出器として水圧により水位を無段階に検出できる水位検出器を採用し,その配設部位を受水槽内の底部とすること,すなわち,本件特許発明の前記相違点(1)にかかる構成は当業者が容易に想到できたものというべきである。」(審決書8頁18行〜21行)と判断した。
しかし,水質劣化防止のため受水槽の貯溜量を減らしたい必要がある場合において,本件発明のように,水位検出器を受水槽の底部に設けることは,水質劣化防止効果を高めるために有効であるのに対し,引用例4には,ダイヤフラム式レベル計を「タンクの側面に・・・取付け」(甲第4号証370頁右欄c ダイヤフラム式(1)原理の項)と記載されているだけで,これをタンク底部に設けるとも,設け得るとも記載されておらず,水質劣化防止のため受水槽の貯溜量を減らす必要がある場合に,レベル計をタンク底部に設けた方が好ましいことについての記載も示唆も全くない。
引用例2には,「浴槽1の水量即ち水位の変化に伴ってその底近くに接続された循環通路3の水圧が変化し・・・」(甲第2号証2頁左下欄15行〜同右下欄1行)との記載があり,この記載だけからすると,同引用例(甲第2号証)5頁第1図に示された液面検出器13が浴槽1の底部に設けられているようにも考えられる。しかし,浴槽1においては,液面は底部よりもはるかに高い危険低液面L?dよりは決して下がらず,しかも水質劣化防止のために貯溜量を減らす必要は全くない。引用例2に,水質劣化防止のために液面検出器13を浴槽1の底部に設けることが示唆されているとは,到底考えられない。
このように,引用例2,4には,相違点(1)にかかる構成を示唆または動機付ける点が全く存在しないというべきであるから,これらの各引用例を根拠に,当業者が相違点(1)に係る構成に容易に想到できたものということはできない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 原告らは,引用例1の記載を引用して,@引用発明1は,「夜間の浄水場の運転を不要にする」ものに限られ,その制御方法は,本件発明と相違する,A引用例1中の「この水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御する」(甲第1号証2頁左上欄2行〜4行)の記載は,他の部分の記載とつじつまの合わない不合理でおかしなものである,と主張する。
しかしながら,原告らは,引用発明1を曲解している。
引用例1には,原告らが指摘するとおり,「夜間は水位目標を下げて夜間の需要量に対応するポンプ場の池の水位を昼間の間に保ち,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにして夜間の浄水場の運転を不要にする。」との記載があるものの,そのほかに,「夜間の浄水場からの送水を低減」(甲第1号証1頁右下欄12行,同3頁左上欄19行),「夜間における送水が必要になっても浄水場は運転しなくても」(同3頁右上欄1行〜2行),「夜間はなるべく運転しない運用」(同3頁左下欄1行〜2行,右下欄第4〜5行)等の記載も見られ,この発明の実施に当たっての実態に関連する言及がなされているのである。しかも,引用例1には,夜間の送水運転は絶対的に実行しないとか,これを皆無にしなければならないとかの記載はなされていないことからすれば,実用上は,昼間の貯水量の多寡,または夜間の需要の変動によって,夜間の貯水量が,夜間の水位目標値を下回ってしまう場合には,当然にポンプ井への送水運転が実行されるようになっていることは明白である。実際上,夜間の需要量に応じてする水位目標値の設定は,例えば,システムとして正常な水位の最下限として,いわゆる減水警報が作動するような水位よりも所定の必要水位を残してするのが当然であり,現実の夜間の需要量に応じてその水位目標値にまで貯水量が減少したときには,これを検出して浄水場からポンプ井に送水するのが自然であり,常識的である。原告らが不合理であると指摘する前記引用例1の記載は,当然のことを述べたものなのであり,何ら,おかしくもなく,不合理でもない。
(2) 原告らは,前記「低減」や「なるべく」の記載は,特殊,かつ,まれな場合の配慮にすぎず,引用発明1の狙い,目的とするところではないと主張する。しかし,原告らの指摘するそのような配慮を示す記載があるということは,仮に,特殊,かつ,まれな場合についてのものであるとしても,そのような場合に関する発明の記載があることを意味するものである。
原告らは,引用例1には,夜間には,ほぼ100%,制御が行われない運転方法が開示されていると理解するべきである,と主張する。しかし,原告らの主張においても,「ほぼ」100%といわざるを得ないように,逆に,引用例1には,わずかであるとはいえ,この種送配水設備における需要量の実態に対応した制御を想定して行われる運転方法が開示されているといえるのである。原告らのいうような限定的な理解はむしろ恣意的であり,不自然である。
これらの通常の需要量と「まれ」な需要量との出現比率は,ポンプ井の貯水容量並びに昼間の需要量と夜間の需要量の相互の関係に依存するものであり,一様ではない。しかし,いずれにしても,引用例1に通常と「まれ」の両方の場合について記載がなされていることを,否定することはできない。引用例1には,昼間に使用された量が多く,の残量としての夜間のための貯水量が必ずしも潤沢でない場合や,夜間の需要量が通常の需要量を超過する場合には,必然的に,その水位が夜間の水位目標値以下に下がってしまうことから,夜間の送水運転の可能性があることを配慮した発明が開示されているのである。すなわち,万一にせよ,夜間の貯水量が夜間の目標値水位まで下がった場合には,浄水場の運転によりポンプ井に送水することが開示されていることは明らかなのである。引用例1には原告らが主張する「おかしい」点は何ら見当らない。
原告らも,自ら,このような夜間の目標値水位までの水位低下について,特殊かつまれな(不時の)場合であるとしながらも,その関連の記載箇所について指摘し,その場合の配慮がされていると認めているのである。その配慮こそが,とりもなおさず本件発明1に関する開示といえるのであって,原告らの主張は矛盾している。
原告らが指摘する,まれに生じる現象に対応するための構成は,通常に生じる現象に対応する構成と,構成としては完全に同一である。現象の頻度に応じてそれに対応する構成が変更されるということは,全くない。通常時,非通常時に同様に機能する構成であることからも,引用例1には,本件発明の構成が明示されているという以外にないのである。
(3) 以上のとおり,審決の引用発明1の認定に誤りはない。審決の一致点,相違点(2)の認定,相違点(2)の判断の誤りをいう原告の主張は,いずれも,審決の引用発明1の認定の誤りを前提とするものであるから,失当であることが明らかである。
2 取消事由2(相違点の看過)について 原告らは,引用発明1について,需要の少ない夜間にポンプ井の水位を低く維持することを目的としていないから,水質劣化防止の作用効果を奏しない,と主張する。しかし,引用例1には,その発明の主目的としてではないものの,原告らも認めているとおり,水位目標値の小さい夜間においてポンプ井の水位がその水位目標値まで下がった場合には,当然に流入弁を制御して送水する旨の開示が実質的になされているから,本件発明と同様に夜間における低いポンプ井の水位目標値を維持する旨の記載がなされているに等しい。引用発明1において目的とされている複数のものの間に主,従の相違があるとしても,その相違によって一方の発明が排斥ないし軽視されるべきものではない。
上記のような構成であれば,必然的に水質劣化防止の作用効果を奏することになるのである。
原告らは,引用発明1について,夜間の水位はその目標値に維持されるものではない,水質劣化防止は不可能である,と主張する。しかし,本件発明においても,その特許請求の範囲の請求項1の記載は,「受水槽内の水位を所定の制御範囲に維持する」,「需要量に応じて水位設定する」との表現にとどまるものであって,水質劣化防止のための構成が格別に定められているわけではない。そうである以上,本件発明と時間帯別の需要量に応じて水位を設定するという引用発明1との間に相違はないことになるのである(本件特許の明細書には,その実施例の一つとして,需要量に応じた週間タイマーによる水位設定も開示されている。)。原告らの主張は誤解に基づくものにすぎない。
3 取消事由3(相違点(1)の判断の誤り)について 原告らは,相違点(1)について,引用発明1に引用発明2,4を適用することは,当業者にとって容易に想到できることではない,と主張する。しかし,原告らのこの主張は,原告らの引用発明1に関する全くの誤解に基づくものである。
また,原告らの引用発明2の浴槽に拘泥した主張(引用例2では,審決も言及するとおり,浴槽のみでなく,各種の液体容器や貯水池等への適用も言及されている。),引用発明4の水位検出器の配置に関する原告らの主張は,いずれも,審決の結論には何らの影響も与えない個々の差異についての主張にすぎない。
上記のとおり,引用発明1を適正に認識すれば,本件発明は,上記各引用発明に基づいて容易に発明できたものであることが明らかであるから,審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例1の認定の誤り)について (1) 原告らは,審決が引用発明1について,「制御装置は,時間帯により異なるポンプ井水位目標値となるように」(審決書5頁31行〜32行)制御している,と認定したことについて,引用例1は,夜間の浄水場1の運転を不要にするための運転方法を開示しており,引用発明1は,夜間のポンプ水位の制御を不要とするものであって,夜間のポンプ井の水位が設定目標値に維持されるように制御するものではないから,審決の引用例1の認定は誤りである,と主張する。
甲第1号証によれば,引用例1には,次の記載があることが認められる。
ア「浄水場からの水をポンプ場の池に送水し,このポンプ場の池より需要家に配水するための最終段の池にポンプで送って配水を行う送配水施設において,時刻別に前記ポンプ場の池の水位目標値を昼間は大きく,また夜間は小さく設定し,各時刻毎に設定水位目標値を得ると共にこの得た水位目標値にポンプ場の池の水を保つよう浄水場からの送水量を制御することを特徴とする送配水施設の運転方法」(特許請求の範囲) イ「〔発明の技術的背景〕 従来,送配水系における複数ポンプ場の最初の池の水位制御は,水位目標値が昼夜を通じて変更することなく,一定で行われていた。この場合,昼夜を問わない送配水系の負荷をまかなうため,中継貯水施設容量を利用した浄水場の夜間運転の負荷の軽減は不可能であった。」(1頁右欄1行〜7行) ウ「〔発明の目的〕 本発明は,上記事情に鑑みて成されたもので,浄水場から送水される最初の池の水位目標値を時刻により変更することで,池の容量を有効活用し,夜間の浄水場からの送水を低減させるようにした送配水施設の運転方法を提供することを目的とする。」(1頁右欄8行〜14行) エ「〔発明の概要〕 即ち,本発明は上記目的を達成するため,浄水場からの水をポンプ場の池に送水し,このポンプ場の池より最終段の池にポンプで送ってこの最終段の池より需要家に配送する送配水施設において,時刻別に前記ポンプ場の池の水位目標値を昼間では大きく,夜間では小さく定め,各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御するようにし,夜間は水位目標を下げて夜間の需要量に対応するポンプ場の池の水位を昼間の間に保ち,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにして夜間の浄水場の運転を不要にする。」(1頁右欄15行〜2頁左上欄8行) オ「12は時刻信号を発生する24時間タイマ,13はこの24時間タイマ12から出力された時刻信号を受け,予め設定された時刻別のポンプ井水位目標値を出力する設定データ入力装置,14はこの設定データ入力装置13の出力する水位目標値を受け,また流入弁開度検出器9の検出信号とポンプ井水位検出器10の出力信号を受けてこの出力信号より水位目標値に対するポンプ井4の流入水量の過不足を知り,これを補うに必要な流入弁3の開度を求めてその開度に調整する制御出力を流入弁3に与えるポンプ井水位制御ブロック」(2頁右上欄7行〜18行) カ「本発明は,時間帯によりポンプ井水位目標値を変更することにある。その作用として,昼間はポンプ井水位上限近くにポンプ井水位目標値におくことで,浄水場からの送水をポンプ井の容量分を貯水し,夜間はポンプ井水位目標値を下げ,昼間ポンプ井に貯水しておいた水で必要量をまかなうことができ,夜間の浄水場からの送水を低減することができる。したがって昼間の運転である一定量の水を貯水しておけば,夜間における送水が必要になっても浄水場は運転しなくても水需要をまかなえる。すなわち,浄水場の運転が昼間に集中した単一な運転が可能となる。」(3頁左上欄12行〜右上欄4行) キ「浄水場の運転を間歇運転するのであれば,その運転を昼間に集中し,夜間はなるべく運転しない運用が望ましい。本発明によれば,浄水場から送水される最初の池の水位目標値を,時間帯で変更する言いかえれば昼と夜とで変更することで,池の容量を有効活用して,浄水場の運転を昼間に集中させることが可能となる。」(3頁右上欄末行〜左下欄7行) ク「〔発明の効果〕 ・・・本発明は・・・時刻別に前記ポンプ場の池の水位目標値を昼間では大きく,夜間では小さく設定し,各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御するようにし,これにより昼間の水位をポンプ場の池の上限近くに保ち,夜間は水位目標を下げて夜間の需要量に対応するポンプ場の池の水位を昼間の間に保ち,夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにしたので夜間の浄水場の運転を不要にすることができ,浄水場の運転を間歇運転する場合において,その運転を昼間に集中し,夜間はなるべく運転しない運用が可能となる送配水施設の運転方法が提供できる。」(3頁左下欄8行〜右下欄6行) 引用例の上記認定の記載の中には,「夜間の浄水場の運転を不要にする」(エ),「昼間の運転である一定量の水を貯水しておけば,夜間における送水が必要になっても浄水場は運転しなくても水需要をまかなえる。すなわち,浄水場の運転が昼間に集中した単一な運転が可能となる。」(カ),「夜間は浄水場からの送水によるポンプ場の池の水位の制御を行わずに済むようにしたので夜間の浄水場の運転を不要にすることができ」(ク)といった記載があり,これらの記載のみをみるときは,引用例1は夜間の浄水場1の運転を不要にするための運転方法を開示しており,引用発明1は夜間のポンプ水位の制御を不要とするものである,との原告らの主張は正当であるかのようにもみえる。
しかしながら,他方,引用例1の上記認定の記載の中には,「夜間の浄水場からの送水を低減させる」(ウ),「各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御する」(エ),「夜間の浄水場からの送水を低減することができる」(カ),「夜間はなるべく運転しない運用が望ましい」(キ),「各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御する」(ク)との記載もあり,これらの記載によれば,引用例1に開示されているのは,夜間はなるべく運転しないようにするものの,夜間においても運転してポンプ水位の制御を行うことがあることを内容とする技術であることが,明らかである。
原告らは,引用例1の上記認定の各記載のうち,「各時刻毎に該水位目標値を得てこの水位目標値にポンプ場の池の水位を保つよう浄水場からの送水を制御する」との記載は,夜間の運転を不要とする,との前記記載とつじつまの合わない不合理なものである,と主張する。しかしながら,引用例1の上記認定の各記載の全体をみれば,引用発明1は,正確には,夜間の送水を必要とする機会を減らすことを目的とするものであって,夜間の送水を完全に廃止することを目的としているものではない,ということができる。引用発明1は,もともと,「従来,送配水系における複数ポンプ場の最初の池の水位制御は,水位目標値が昼夜を通じて変更することなく,一定で行われていた。この場合,昼夜を問わない送配水系の負荷をまかなうため,中継貯水施設容量を利用した浄水場の夜間運転の負荷の軽減は不可能であった。」(甲第1号証1頁右欄2行〜7行)という問題意識の下に,すなわち,定められた水位目標値に応じて水位制御が行われることを前提に,水位制御を必要とする機会を減らすことを目的とするものであることは,引用例1の上記認定の各記載から明らかであり,かつ,貯水量が不足するのを避けなければならないのは,昼間,夜間を問わないことであることも明らかなことであるから,夜間であっても,何らかの理由で貯水量が不足する事態になれば送水を実行して断水状態を回避する作業が行われると解するのが自然であり,夜間に全く送水をせず,断水状態が発生することを是認するような設計がなされていると考えるのは,不自然かつ不合理としかいいようのないことだからである。
原告らは,引用発明1において夜間に運転が行われるのは,特殊かつまれな不時の場合であって,主たる目的は夜間の浄水場の運転を不要にすることにある,と主張する。
しかしながら,たとい引用発明1の主たる目的が夜間の浄水場の運転を不要にすることにあり,夜間に浄水場を運転することが特殊,かつ,まれなことであるとしても,そのことは,引用例1に夜間に浄水場を運転し設定された目標値に水位を制御する場合についての発明が開示されていると認めることを,何ら妨げるものではない。
原告らは,引用例1には,本件発明のように,夜間においても常時作動する発明は開示されていない,と主張する。
しかし,本件発明を特定する特許請求の範囲請求項1の記載は前記第2の3のとおりであり,これによれば夜間における作動の頻度は,何ら本件発明の要件とされていないことが明らかである。甲第7号証によれば,本件明細書には,「受水槽1内に水が減少して流入弁開水位P3より下がると流入弁3を開き」(段落番号【0029】),「流入弁閉水位P2を越えると流入弁3を閉じ」(段落番号【0030】)との記載があることが認められ,上記請求項1の記載と,この記載からすれば,本件発明においても,要するに,給水動作は給水が必要とされる水位に至ったとき(流入弁開水位P3に至ったとき)に行われるものであり,給水が必要とされる水位に至るまで動作を開始することはないのであるから,この点において,本件発明と引用発明1とは何ら変わるところはない。引用発明1においては,上記の仕組みを前提に,給水が必要とされる水位に至る場合を減らす工夫がなされているだけのことであり,このことは,上記の仕組みの採用において両発明が一致することと矛盾するものではない。
原告らの主張は,いずれも採用することができない。
(2) 以上のとおり,審決の引用発明1の認定に,原告ら主張の誤りがあると認めることはできない。引用例1の認定に誤りがあることを前提とする,審決の一致点,相違点(2)の認定及び相違点(2)の判断の誤りについての原告らの主張も,いずれも理由がないことに帰する。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点の看過)について 原告らは,本件発明は,休日が続くとき,集合住宅で入居開始早々であるときなど,水質劣化防止のため受水槽の貯留量を減らしたい場合に,受水槽の水位を低い水位に維持するよう制御することを目的としており,これによって水質の劣化を防止するという効果を奏するのに対し,引用発明1は,夜間の浄水場からの送水を低減することを目的としており,需要の少ない夜間にポンプ井4の水位を低く維持することを目的としていないから,本件発明のような水質劣化防止の効果を奏することは不可能である点において相違し,審決はこの相違点を看過した,と主張する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は,前記第2の3記載のとおりであって,そこには,受水槽内の水位を制御すること,制御水位は給水栓側の需要量に応じて設定されることは定められているものの,水質劣化防止のための特別な構成は何ら規定されておらず,その及ぶ範囲は極めて広範であって,端的にいえば「需要量に応じて貯水量を変えることを可能とする給水システム」とでも呼ぶべきものである。このように,本件発明は,原告ら主張の目的を持つものを包含するものの,それに限定されない,広範な権利範囲を持つものであるから,上記目的の有無をもって,本件発明と引用発明1との相違点とすることはできない。
念のために,本件発明において目的とされているのは何であるかをみておくことにする。
甲第7号証によれば,本件明細書には,@発明の詳細な説明中の発明が解決しようとする課題として,「受水槽1の水位検知のために図11のような複数本の寸法の異なる電極を使用し,それらの検知信号により制御盤26内のリレー回路を介して流入弁3の開閉あるいは警報器の作動を制御するシステムでは次のような課題が生じる。」(段落【0007】,「電極棒により各設定水位は固定式になるため,一旦設定すると変更ができず,不便である。たとえば休日が続く時あるいは集合住宅で入居開始早々時等には,水質劣化防止のため受水槽の貯溜量を減らしたい必要があるが,上記のように電極棒の設定水位が固定式であると,これに対応できない」(段落【0008】)との記載があること,A発明の効果として,「受水槽1の水位を水圧等によって無段階に連続的に検出する水位検出器を備えているので,従来の複数の電極棒による固定式の水位設定に比べて水位の設定及び変更を任意に簡単にでき,各種需要に応じた給水が容易に可能となる。」(段落【0043】との記載があることが認められる。
本件明細書の上記認定の記載によれば,本件明細書中には,本件発明の目的として,休日が続くときあるいは集合住宅で入居開始早々のときなどにおいて、水質劣化防止のため受水槽の貯溜量を減らすことが挙げられているものの,本件発明の効果として,各種需要に応じた給水が可能になる,と記載されていることから分かるとおり,上記目的は,本件発明の目的の一つにすぎないというべきである。
引用例1に,本件発明と同じく,夜間に浄水場を運転し設定された目標値に水位を制御する場合についての発明が開示されていると認めることができることは前記のとおりであるから,同構成に基づく作用効果について,引用発明1と本件発明との間に差異はなく,原告らの主張する水質劣化防止効果においても,本件発明と引用発明1とが相違するということはできないというべきである。
審決に原告ら主張の相違点の看過はなく,原告らの主張は採用することができない。
取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点(1)の判断の誤り)について 原告らは,水質劣化防止のため受水槽の貯溜量を減らしたい必要がある場合において,本件発明のように,水位検出器を受水槽の底部に設けることは,水質劣化防止効果を高めるために有効であるのに対し,引用例4には,ダイヤフラム式レベル計を「タンクの側面に・・・取付け」(甲第4号証370頁右欄c ダイヤフラム式(1)原理の項)と記載されているだけで,これをタンク底部に設けるとも,設け得るとも記載されておらず,水質劣化防止のため受水槽の貯溜量を減らす必要がある場合に,レベル計をタンク底部に設けた方が好ましいことについての記載も示唆も全くない,と主張する。
しかしながら、本件発明の特許請求の範囲において,「水質劣化防止のための貯溜量の減少」に関する特定の構成が規定されておらず,本件発明が水質劣化防止を目的とするものに限られないものであることは前記のとおりであるから,水質劣化防止目的の有無を引用例4の適用を困難とする理由とすることはできない。
水圧を利用した水位検出器を水槽内の底部に設けて水量を測定することは,完全な残水量を把握するためには極めて当然のことであり,「底部に設置する目的」のいかんに関わらず採用され得る構成であるということができる。
原告らは引用例2についても,水位検出器が底部に設けられておらず,水質劣化防止を目的とするものではないとの,同様の主張をなしているが、同主張に理由がないことは上記のとおりである。
原告らの主張は採用することができず,取消事由3は理由がない。
以上のとおりであるから,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,そ
の他,審決には取消しの事由となるべき誤りは認められない。そこで,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法65条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久