関連ワード | 技術的思想 / 公知技術 / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 技術的特徴 / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 混同 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
13年
(ワ)
9613号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 株式会社友定建機 訴訟代理人弁護士 筒井豊 補佐人弁理士 苗村正 被告 株式会社サヌキ 訴訟代理人弁護士 西口徹 補佐人弁理士 浅谷健二 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2002/08/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は、別紙物件目録記載のモルタル注入器を製造、販売してはならない。 2 被告は、原告に対し、金1380万円及びこれに対する平成13年9月22日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、「モルタル打設装置」の特許発明の特許権者である原告が被告に対し、被告の販売するモルタル注入器は同特許発明の技術的範囲に属すると主張して、その製造等の差止めと損害賠償を請求した事案である。 1 争いのない事実等 (1) 原告は、次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲第1項及び第2項の特許発明を「本件発明」という。)。 ア 発明の名称 モルタル打設装置 イ 登録番号 第2644985号 ウ 出 願 日 平成7年9月4日(特願平7-226647号) エ 公 開 日 平成9年3月18日(特開平9-72082号) オ 登 録 日 平成9年5月2日 カ 特許請求の範囲は、別紙特許公報(甲2。以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおりである。 (2) 本件発明の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2は、次のとおり分説するのが相当である。 ア 請求項1 A 内孔を有する筒状をなしかつ先端に前記内孔に通じる吸込・吐出口を設けしかも後端にガイド蓋を取付けた基筒と、 B 前記ガイド蓋に遊挿され基筒の長さ方向にのびるロッドの先端に、前記内孔をシール効果を有して摺動するピストンを設けたピストン軸体とからなり、 C かつロッドの移動に伴うピストンの後方動によって前記吸込・吐出口からモルタルを吸込み、かつ前方動によって吸込・吐出口からモルタルを吐出するモルタル打設装置であって、 D 前記基筒の後端に、モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部を設けたことを特徴とする E モルタル打設装置。 イ 請求項2 A'〜C' 請求項1の構成要件A〜Cと同じ D' 前記基筒の後端に、モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部を設けてあり、当該洩れ防止部は、前記基筒との間に間隙を隔てて周回しかつ先端に向けて立上がることにより、基筒との間で環状の液溜りを形成する周壁部であることを特徴とする E' 請求項1の構成要件Eと同じ なお、上記構成要件において、「モルタル」とは、モルタル、比較的粘度の小さいセメント、コンクリート、比較的細粒の砂を用いた土壁用の液体の総称を意味する(本件公報3欄4〜6行)。 (3) 被告は、別紙物件目録記載のモルタル注入器(以下「被告製品」という。)を製造、販売している(なお、当事者双方に争いがないとされた原告の平成14年2月13日付準備書面(原告第2回)添付の物件目録には、符号8aが示す部分を「洩れ防止部」と表記されているが、被告は、被告製品が構成要件D・D'の「洩れ防止部」との構成を備えていないと主張しているので、混同を避けるために、同物件目録における符号8aを「洩れ防止空間」と表記する。)。 (4) 被告製品は、構成要件A、B、C及びEを備えている。 2 争点 (1) 被告製品は、「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」(構成要件D・D')との構成を備えているか。 (2) 損害の発生及び額 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」(構成要件D・D')との構成の充足性)について 〔原告の主張〕 (1) 「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」の解釈について 「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」とは、「空気抜き用の孔」のみならず、ガイド蓋とロッドとの「嵌合い隙間」を含む「基筒の後端」からのモルタルのノロの洩れを防ぐ「洩れ防止部」をいうと解すべきである。その理由は以下のとおりである。 ア 本件発明は、「特に上向き作業時におけるモルタルの基筒後端からの洩れを防止しうるモルタル打設装置」に関する発明であり、基部に設けられた「空気抜き用の孔」からのモルタル液の洩れだけにとどまらず、「基筒後端」からの液洩れを防止することを目的・効果とする発明である。基筒後端の他の箇所、例えばガイド蓋とロッドとの「嵌合い隙間」からの液洩れは防止しないというのであれば、 本件発明の目的・効果は何ら達成されたことにならない。 イ 本件発明に係るモルタル打設装置において、空気抜き用の孔を、どの箇所に、どのように設けるかは、単なる設計事項にすぎない。本件公報に、ガイド蓋の基部以外に空気抜き用の孔を設ける技術思想が示唆されているか否かというようなことは、本件発明の解釈上何の関わりもないのである。 ウ 従来技術を見ても、「先端に向けて立ち上がるガイド部が、基筒の内径の約20分の1の高さでガイド蓋に設けられ、かつ、ガイド蓋の基部に空気抜き用の孔が設けられたもの」(甲7)、あるいは「先端に向けて立ち上がるガイド部がガイド蓋に設けられず、かつ、ガイド蓋の基部に空気抜き用の孔が設けられたもの」(甲8)が存在する。本件発明は、本件公報記載の従来技術だけに限らず、上記の従来技術のモルタル打設装置についても、「基筒の後端」からのノロの洩れの防止という作用効果を奏することができるものである。 (2) 被告製品の構成要件D・D'の充足性について ア 被告製品は、シリンダー2aの後端にガイド部41(周壁部10)が設けてあり、しかも、そのガイド部41(周壁部10)は、シリンダー2aとの間に間隙を隔てて周回しかつ先端に向けて立ち上がる形状をなしてシリンダー2aとの間で環状の液溜り9aを形成し、ガイド蓋7aと進退ロッド5aとの「嵌合い隙間」からモルタルのノロが外部へ洩れることを防止する機能を果たすものであるから、被告製品は、「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」を備えているといえる。 イ 被告製品のガイド蓋7aは、空気抜き用の孔を塞ぐという従来技術とは異なる構成を採用することによって、ガイド蓋7aに設けられているガイド部41に、シリンダー2aとの間で環状の液溜り9aを構成する周壁部10としての機能を新たに付与したものである。 被告製品のガイド部41(周壁部10)が、液洩れ防止の作用効果を有することは、原告補佐人が行った実験の報告書(甲9)から明らかである。 ウ 被告は、被告製品が、シリンダー2a内のノロが、通用口(入口)51から進退ロッド5aの内部を通り、通用口(出口)52から適宜排出されることになると主張するが、そのようなことが現実に起こるとは到底考えられない。 (3) したがって、被告製品は、構成要件D・D'を充足する。 〔被告の主張〕 (1) 「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」の解釈について 本件発明は、「ガイド蓋に空気抜き用の孔が設けられている」ことを前提とするものであり、構成要件D・D'の「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」とは、ガイド蓋の空気抜き用の孔からノロが洩れることを防ぐ「洩れ防止部」と解すべきである。その理由は、以下のとおりである。 ア 一般に、モルタル打設装置には、基筒の後端開口にガイド蓋(ノロ洩れ防止とロッドの案内のための蓋)が取付けられている。一方、基筒内はモルタルの吸込み・吐出の際に気圧差が生じ、これがロッドの引き・押し動作の抵抗となるため、基筒の内と外を連通させる「空気抜き用の孔」が不可欠な要素とされている。 この「空気抜き用の孔」は、その機能上、移動するピストンより常に背後に位置する必要があるため、設定位置はおのずと限定され、その条件を満たす位置がガイド蓋(の基部)であると考えられていた。このような知見に基づき、従来のガイド蓋は、ノロ洩れが予見されるにもかかわらず、「空気抜き用の孔」が必ず設けられていた。 本件公報に示されたガイド蓋7は、基部24に二つの空気抜き用の孔26,26が設けられている。本件公報の発明の詳細な説明の欄の【従来の技術】、【発明が解決しようとする課題】、【発明の実施の形態】及び【発明の効果】の項には、いずれにも一貫して「基部に空気抜き用の孔を設けたガイド蓋」が記載されているばかりでなく、基部以外に空気抜き用の孔を設ける思想は全く示唆されていない。 イ 本件発明における「洩れ防止部」の技術思想は、本件公報の記載からすれば、モルタル打設装置にとって不可欠の空気抜き用の孔が、ガイド蓋に設けられていても、洩れ防止部によって空気抜き用の孔の入り口を塞がずに(通気を確保して)、かつ入り口をガードすることで、基筒の内周面を流れ落ちるノロを止め、入り口に侵入するのを阻止するものである。 ウ 本件公報の特許請求の範囲の各請求項の記載から「洩れ防止部」の技術的思想を把握してみる。 本件発明(請求項1)は、「洩れ防止部」は基筒の内周面を伝い流れるノロを空気抜き用の孔の前で止めることで、空気抜き用の孔から洩れ出るのを防止する思想であり、本件発明(請求項2)は、請求項1で止めたノロを周壁部が形成する液溜めで溜めるものである。 また、本件公報の請求項3の発明は、前記周壁部が基筒とガイド蓋との間で挟持される受け部材で形成された点、同請求項4の発明は、前記受け部材が基筒とガイド蓋との間をシールする弾性材である点、また請求項5は請求項1の洩れ防止部がノロを吸収する吸収材から成る点を特徴としている。 「洩れ防止部」の技術的思想は、これらの5つの請求項が明示する最大公約数、すなわち、「洩れ防止部」が、基筒の後端、すなわち基筒とガイド蓋との間、つまり「空気抜き用の孔の前側に配置され、ノロが空気抜き用の孔に侵入するのを止める」考え方である。 したがって、「洩れ防止部」は、単に洩れの原因である空気抜き用の孔自体を塞ぐ思想のものでないことは、この点からも明らかである。 エ 基筒の内周面を伝い流れるノロは、空気抜き用の孔の入り口の前に衝立状に配置される請求項1記載の洩れ防止部で受け止められる。したがって、ノロは空気抜き用の孔の手前で止められ、空気抜き用の孔の入り口に侵入し得ない。さらに、空気抜き用の孔の手前で止められたノロは、請求項2記載の洩れ防止部と基筒との間で形成する液溜めで溜められる。 一方、ロッドとガイド部との嵌め合い隙間(小隙間)の両端面は、口が開いたままである。つまり、小隙間の開口(入り口)の前に立ちはだかるものがない。したがって、本件発明の構成を採ったとしても、ロッドの外周面を伝い流れるノロは、直接小隙間の入り口から侵入し、小隙間の出口から外部へ漏れ出る虞れがある。 (2) 被告製品の構成要件D・D'の充足性について ア 被告製品は、ガイド蓋7aに空気抜き用の孔が設けられていないから、ガイド蓋の空気抜き用の孔からノロが洩れることを防ぐ「洩れ防止部」を備えていない。 なお、被告製品はガイド蓋7aに「成型金型の孔62」が存在し、これがパッキン63で覆われているが、「成型金型用の孔62」は、ガイド蓋7aを成型する際に、技術上必然的に発生する孔であって、モルタル注入器としての製品上、何らかの役割を果たすものではない。 イ 本件発明は、上記のとおり、ガイド蓋に設けた空気抜き用の孔を確保しつつ、空気抜き用の孔からのノロの洩れを防止するものであるが、被告製品は、進退ロッド5aの先端側(ピストン部4aの直ぐ背後)に通用口(入口)51を開口し、握り部32aの適所に通用口(出口)52を開口して、これにより、シリンダー2a内と外気との新たな連通路を実現させ、モルタル打設装置における新規な通気方法を提供するものである。 また、被告製品は、シリンダー2a内のノロが、通用口(出口)51から進退ロッド5aの内部を介して握り部32aへ導かれ、握り部32aに溜まったノロは、通用口(出口)52から適宜排出されることになるから、本件発明のように、空気抜き用の孔にノロが侵入するのを洩れ防止部で防ぐことを主眼とする思想のものではない。 ウ 被告製品は、洩れの原因であるガイド蓋の空気抜き用の孔を塞いだものということができるが、ノロ液が洩れ出る孔を塞ぐ工夫は万人の常識ともいえるものであり、本件発明の技術思想とは異なるものである。 (3) したがって、被告製品は、構成要件D・D'を充足しない。 2 争点(2)(損害の発生及び額)について 〔原告の主張〕 被告は、平成11年10月から平成13年8月までの間に、被告製品を販売単価2000円で2万3000個販売し、その売上額は4600万円となる。 被告は被告製品の販売により販売額の30%の純利益に相当する1380万円の利益を得ているから、原告は、被告による被告製品の販売行為により、同額の損害を被ったものと推定される(特許法102条2項)。 〔被告の主張〕 原告の主張事実は争う。 |
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争点に対する判断
1 争点(1)(「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」(構成要件D・D')との構成の充足性)について (1) 「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」の解釈について 原告は、「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」とは、「空気抜き用の孔」のみならずガイド蓋とロッドの「嵌合い隙間」を含む「基筒の後端」からの液洩れを防止するものをいうと主張し、被告は、ガイド蓋の「空気抜き用の孔」からの液洩れを防止するものをいうと主張するので、この点について検討する。 ア 本件発明の特許の請求の範囲には、「基筒の後端に、モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部を設けた」と記載されているから、「洩れ防止部」は、モルタル打設装置の基筒の後端、すなわち「ガイド蓋」からのノロの洩れを防ぐものと解される(なお、ノロとは、「あま」ともいい、「セメント・石灰・プラスターなどを水だけで練ったペースト状のもの」をいう〔株式会社彰国社発行「建築大辞典」〕。)。しかしながら、モルタル打設装置の「ガイド蓋」には、ロッドとの嵌合い隙間や、空気抜き用の孔などの隙間が開いており、「洩れ防止部」がガイド蓋のどこからノロが洩れるのを防止するものであるかについては、必ずしも明らかではない。 イ そこで、【発明の詳細な説明】の記載を考慮する。 (ア) 【発明の属する技術分野】の項には、「本発明は、特に上向き作業時におけるモルタルの基筒後端からの洩れを防止しうるモルタル打設装置に関する。」(本件公報2欄13〜15行)と記載されている。 (イ) 【従来の技術】の項には、「建築中の建物などにおいて、サッシの周囲の壁の形成、溶接の仮止め、あるいは土壁の形成などに際して、モルタル……を手作業で塗込めるのは作業性が悪いため、近年、手持ち式のモルタル打設装置が開発されている。」(3欄2〜8行)、「このモルタル打設装置は、図9に示すように、内孔hを有する筒状をなしかつ先端に吸込・吐出口eを設けしかも後端にパッキンpを介してガイド蓋gを取付けた基筒aと、前記ガイド蓋gに遊挿され基筒aの内部でその長さ方向にのびるロッドrの先端に、前記内孔hをシール効果を有して摺動するピストンtを設けたピストン軸体bとを具える。」(3欄9〜15行)と記載されている。 そして、従来の技術を説明するための部分断面図である図9には、基筒の後端のガイド蓋に空気抜き用の孔が設けられ、また、同ガイド蓋には、ロッドとの摺動部分に、先端に向けて立ち上がるガイド部が設けられたモルタル打設装置が記載されている。 (ウ) 【発明が解決しようとする課題】の項には、従来の手持ち式のモルタル打設装置が有していた課題として、「前記基筒aの内孔hに断面径において寸法誤差があったり、前記ピストンtを内孔hできつく嵌入させ過ぎるとピストン軸体bを動かすのに大きな力を必要とするなどの理由でピストンtを余りきつく内孔hに嵌入できなかったりするため、ピストンtと基筒aの内周面との間からモルタルの液、セメントミルク、すなわちノロが漏れ、このものが特に上向き作業のときにガイド蓋gの方に向かって基筒aの内周面を伝わり落ちて、このガイド蓋gに設けた空気抜き用の孔dから落下し、作業者の顔、手、作業服等を汚すことがある。」(3欄24〜34行)、「本発明は、基筒の後端に、モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部を設けることを基本として、特に上向き作業中でのノロの洩れを防止しうるモルタル打設装置の提供を目的としている。」(3欄35〜38行)と記載されている。 (エ) 【発明の実施の形態】の項には、次の記載がある。 a ガイド蓋の形状について、「ガイド蓋7は、基筒2の後端を塞ぐ基部24に前記ロッド5を案内する円筒状のガイド部25を突設し、かつその周囲に空気抜き用の孔26を設けている。さらに前記基部24の前面に環状の隆起部39を形成している。」(4欄23〜27行)、「前記ピストン軸体3は、前記ガイド蓋7のガイド部25に多少のゆとりを持って遊挿され(る)」(4欄31〜32行)と記載されている。 b 「本実施形態では、前記基筒2の後端に、この基筒2との間で環状の液溜り9を形成する周壁部10からなる洩れ防止部8を設け、これによってピストン4と基筒2の内周面との間から洩れて基筒2内周面を伝わり落ちるモルタルのノロが前記ガイド蓋7に設けた前記孔26から洩れ出るのを防ぐ。」(4欄47行〜5欄2行)と記載されている。 c 「前記洩れ防止部8をなす周壁部10は、本実施形態では図2、図3に示すように、前記基筒2の後端に設けた前記端キャップ21と、前記ガイド蓋7との間で周辺部が挟持される基板部34、およびこの基板部34から、基筒2との間に間隙Gを隔てて前記ガイド部25の廻りで周回して先端に向けて立上がることにより、基筒2の内面との間で環状の前記液溜り9を形成する円筒状の立上げ部35からなる受部材11の前記立上げ部35によって形成される。」(5欄3〜11行)、「なお前記立上げ部35とガイド部25との間及び前記基板部34と前記隆起部39との間には、前記孔26に通じる隙間36が設けられ、空気抜きの便宜を図っている。この空気抜きは、前記ガイド部25と前記ロッド5との間の小隙間においても多少行われる。なお前記基板部34は、隆起部39に係止する突部40をその周辺部後面に設けている。」(5欄12〜18行)と記載されている。 d 「前記吸収材13は、基筒2の内周面の添着されかつ後端がガイド蓋7に接する円環状の基体を具えるとともに、この基体の内周面とガイド蓋7のガイド部25との間に、空気抜き用の孔26に通じる隙間51が形成される。なお吸収材13を基筒2に剥離可能な接着剤を用いて接着してもよい。」(6欄2〜7行)と記載されている。 (オ) 【発明の効果】の項には、「叙上の如く本発明のモルタル打設装置は、基筒の後端に、モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部を設けている。従って、特に上向き作業中において、ピストンから後方に基筒の内周面を伝わり落ちるモルタルの液、すなわちノロを前記洩れ防止部で止めることができ、ガイド蓋に設けた空気抜き用の孔からのノロの洩れを防止し、その作業者への降り懸かりを防ぎうる。」(6欄17〜24行)、「請求項2の発明において、前記洩れ防止部を、基筒との間で環状の液溜りを形成する周壁部によって形成したときには、基筒の内周面に沿って伝わり落ちるノロを前記液溜りで受けて溜めることができ、ノロの洩れを確実に防ぎうる。」(6欄25〜29行)と記載されている。 ウ 上記のとおり、本件公報の発明の詳細な説明においては、「ガイド蓋の空気抜き用の孔からの液洩れ防止」について記載されているものの、基筒後端の他の箇所、例えば、ガイド蓋とロッドとの「嵌合い隙間」からの液洩れ防止をすることは記載されていないし、これを示唆するような記述も見当たらない。なお、本件公報中に「この空気抜きは、前記ガイド部25と前記ロッド5との間の小隙間においても多少行われる。」(5欄15〜16行)との記載はあるが、同部分からの液洩れを防止することまで記載しているものとは考えられない。 また、本件発明の出願前の公知技術である実開昭62-164972号公開実用新案公報(甲7)、実公平4-17819号実用新案公報(甲8)に開示された「モルタル注入器」ないし「手押しモルタルポンプ」の考案の実施例を示す図によれば、いずれも基筒(シリンダー)の後端のガイド蓋に空気抜き用の孔が設けられており、空気抜き用の孔がガイド蓋に設けられていない構成は開示されていない。このようなガイド蓋に空気抜き用の孔を設ける点は、本件公報の従来技術を示す図9においても同様である。したがって、モルタルを注入ないし打設する器具において、ピストンの摺動に伴う空気抜きのために、空気抜き用の孔を基筒の後端のガイド蓋に設けることが一般的な技術であったということができる。 そうすると、本件発明は、モルタル打設装置において、ピストンの摺動を円滑に行うために空気抜き用の孔が必要であり、その空気抜き用の孔は基筒の後端のガイド蓋に設けることが一般的であったところ、当該空気抜き用の孔からモルタルのノロが洩れるという問題点があったために、ガイド蓋に空気抜き用の孔を確保しつつ、その空気抜き用の孔からモルタルのノロが洩れることを防ぐために「洩れ防止部」を設けたところに技術的特徴があるものというべきである。 原告は、本件発明は空気抜き用の孔のみならずガイド蓋とロッドとの小隙間からの液洩れを防止することも課題とするものであると主張するが、仮に、ガイド蓋とロッドとの小隙間からの液洩れ防止を課題とし、ガイド部がその液洩れ防止機能を有する「洩れ防止部」に該当し得るとするならば、本件発明の実施例や従来技術を示す図9において「ガイド部」が記載されているのであるから、同ガイド部が「洩れ防止部」に該当し得る旨の記載があってしかるべきところ、本件公報にはそうした記載はなく、「洩れ防止部」がガイド部とは別の部材として構成された記載があるにとどまる。そして、前記のとおり、本件公報においては、ガイド蓋とロッドとの小隙間からの液洩れ防止を課題とすることや、同小隙間からの液洩れを防止するための「洩れ防止部」の具体的構成が記載されていないから、原告が主張するような、同小隙間からの液洩れを防止する「洩れ防止部」は、本件公報において当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載(特許法36条4項、同法施行規則24条の2参照)がなされているとはいえず、原告の上記主張は理由がない。 以上によれば、構成要件D・D'の「洩れ防止部」とは、ガイド蓋に設けられた空気抜き用の孔からの洩れ防止の機能を有するものと解すべきである。 (2) 被告製品の構成要件D・D'の充足性について ア 「洩れ防止部」についての上記解釈を前提にすると、被告製品のガイド蓋7aは、空気抜き用の孔を備えていないから、同ガイド蓋7aのガイド部41(周壁部10)は、構成要件D・D'の「(空気抜き用の孔からの洩れ防止のための)洩れ防止部」に該当せず、被告製品は、同構成を備えていないというべきである。 イ 本件公報に記載の図9(従来の技術を説明するための部分断面図)の「ガイド蓋」にも「基筒との間に間隙を隔てて周回しかつ先端に向けて立ち上がる」周壁部が設けられているところ、被告製品のガイド部41(周壁部10)は、図9の周壁部とほぼ同様の構成であって、この周壁部との比較においても「洩れ防止機能」を奏するために特有の構成を備えているということはできない。 本件発明は、前記のとおり、従来の製品が「ガイド部」に空気抜き用の孔が設けられており、ここからノロが洩れるという問題点があったことから、「洩れ防止部」を設けることによりこの問題点を解決するという技術思想に基づくものであり、一方、被告製品は、上記問題点をガイド蓋7aの空気抜き用の孔を塞ぐことにより解決し、ピストン部4aの出し入れに伴う空気抜きは、ガイド蓋7aの空気抜き用の孔によるのではなく、通用口(出口)51から進退ロッド5aの内部を介して、握り部32aの通用口(出口)52へ通じる給排気路を通して行うこととしたものであって、本件発明の上記技術思想とは異なるものといわざるを得ない。 ウ なお、甲9によれば、被告製品(検甲1)及び被告製品のガイド蓋7aのガイド部41(周壁部10)を取り除いたもの(改造品)(検甲2)を用いて、一定量の液状物を後端から注入した後、後端部からの液状物の洩れの有無及び洩れ出る箇所を確認し、並びにガイド蓋7aに貯留した液状物の量を計測する実験を行ったところ、後端から注入した100tの液状物のうち、ガイド部41(周壁部10)と進退ロッド5aの小隙間から、被告製品の場合には約62〜66t、被告製品の改造品の場合には約95〜96tの液状物が洩れ出たという結果が得られたことが認められる。 しかし、この実験結果は、ガイド蓋7aと進退ロッド5aとの小隙間から洩れる液状物の量を比較するものであって、本件発明の課題である空気抜き用の孔からの洩れる量に関するものではないから、被告製品が本件発明の効果を奏していることの裏付けとなるものではない。 2 以上によれば、被告製品は、構成要件D・D'の「モルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止部」との構成を備えておらず、本件発明の請求項1ないし請求項2の技術的範囲に属するとはいえない。 よって、原告の請求は、その余の争点につき判断するまでもなく、いずれも理由がない。 |
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(別紙)物件目録1物件の種別モルタル注入器2別紙図面の説明第1図正面図第2図平面図第3図左側面図第4図右側面図第5図蓋板の断面図第6図ガイド蓋をシリンダー側から見た左側面図第7図ガイド蓋を外側から見た右側面図第8図進退ロッドとガイド蓋を示す部分断面図第9図ガイド蓋をシリンダーに取り付けた状態を示す部分断面図第10図作用を示す部分断面図3符号の説明2a・・・・・シリンダー3a・・・・・ピストン軸体4a・・・・・ピストン部5a・・・・・進退ロッド6a・・・・・ノズル部7a・・・・・ガイド蓋8a・・・・・洩れ防止空間9a・・・・・液溜り30A・・・・・吸排パッキン部30B・・・・・液ガード用パッキン部30a・・・・・吸排パッキン部30Aの先端側パッキン30b・・・・・吸排パッキン部30Aの基端側パッキン32a・・・・・握り部41・・・・・ガイド部(周壁部10)51・・・・・通用口(入口)52・・・・・通用口(出口)60・・・・・基部60a・・・・・基部60の面内中央の貫通孔61・・・・・基部60の外周縁のねじ込み脱着用のフランジ部62・・・・・成型金型の孔63・・・・・パッキンHa・・・・・内孔R・・・・・空所g・・・・・隙間4構成の説明(1)内孔Haを有する筒状をなし、先端に前記内孔Haに通じるノズル部6aを設け、 後端にガイド蓋7aを脱着可能に取り付けたシリンダー2aと、 ガイド蓋7aに遊挿されシリンダー2aの長さ方向にのびる進退ロッド5aの先端に、前記内孔Haをシール効果を有して摺動するピストン部4aを設けかつ後端に握り部32aを取り付けたピストン軸体3aとからなる。 (2)進退ロッド5aの移動に伴うピストン部4aの後方動によって前記ノズル部6aからモルタルを吸込み、前方動によってノズル部6aからモルタルを吐出する。 ピストン部4aは、先端側の吸排パッキン部30Aと、液ガード用パッキン30Bとからなり、かつ吸排パッキン部30Aは先端側パッキン30aと基端側パッキン30bとを有し、吸排パッキン部30Aと、液ガード用パッキン30Bとの間には、シリンダー2aに挿入されることによって一定距離を隔てる空所R(第8図、第10図)を形成してある。 進退ロッド5aは、中空パイプであり、通用口(入口)51と通用口(出口)52とを介してシリンダー2aのピストン部4a後方と外気とを繋ぐ給排気路を形成する。 (3)ガイド蓋7aは、第5図〜第7図、第9図のように、基部60と、その外周縁のねじ込み脱着用のフランジ部61と、基部60の面内中央の貫通孔60aを有するガイド部41とを有し、かつガイド部41の基部60からの突出長さL1は約24oとし、かつ貫通孔60aの直径と進退ロッド5aの直径との差は約1oであって、その隙間gを通る量の空気が内外で流通しうるとともに(第9図)、 ガイド蓋7aの基部60には外周付近に2つの成型金型の孔62、62を有するが、第9図に示すように、ガイド蓋7aがシリンダー2aに固定されることによりパッキン63によって閉じられ、その結果、ガイド蓋7aはシリンダー2aの基端開口面を前記隙間gを残して閉成され、 これにより、シリンダー2aの後端に、前記シリンダー2aとの間に間隙を隔てて周回しかつ先端に向けて立上がることにより、シリンダー2aとの間で環状の液溜り9aを形成するガイド部41(周壁部10)を有しモルタルのノロの洩れを防ぐ洩れ防止空間8aを形成している。 (4)以上の構成を具備するモルタル注入器である。 5作用効果説明(1)以上のように、この物件は、ガイド蓋7aを盲板とし、進退ロッド5aと握り部32aの適所に吸排気口を構成する通用口(入口)51、通用口(出口)52を形成するようしたため、モルタル液は通気孔のないガイド蓋7aで洩れが防止される。 (2)したがって、従来のように、ガイド蓋の通気孔からモルタル液が外部へ流下し、手や衣服にモルタル液が付着し、作業性が悪い等の不利が解消できる。 なお、第10図に示すように、モルタル注入器を傾けた場合においても、ノロがガイド部41(周壁部10)の上端を越えるまでは、洩れ防止空間8aで貯留することができる。 図面 |
裁判長裁判官 | 小松一雄 |
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裁判官 | 阿多麻子 |
裁判官 | 前田郁勝 |