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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ネ1016特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成11ネ2198特許権侵害に基づく販売差止等請求控訴事件 判例 特許
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平成14ネ3649特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 12年 (ネ) 3014号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成 12年 (ネ) 3015号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成12年(ネ)第3014号事件控訴人
同3015号事件被控訴人 (1審原告。以下「控訴人」という。) マイコム株式会社
同代表者代表取締役 X
同訴訟代理人弁護士 彦惣弘
同 竹内由起
同補佐人弁理士 大西孝治
同 大西正夫平成12年(ネ)第3014号事件被控訴人
同3015号事件控訴人 (1審被告。以下「被控訴人」という。) 日本電産シンポ株式会社
同代表者代表取締役 Y
同訴訟代理人弁護士 畑郁夫
同 国谷史朗
同 若杉洋一
同補佐人弁理士 河野登夫
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2002/08/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 控訴人の控訴を棄却する。
2 被控訴人の控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,原判決添付別紙目録(一)のカタログ1及び2記載のステッピングモータ駆動装置のうち,STPー5Sを業として製造,販売してはならない。
(2) 被控訴人は,その本店,営業所及び工場に存する前項のステッピングモータ駆動装置を廃棄せよ。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,1824万0049円及びこれに対する平成8年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
3 当審追加請求につき(1) 被控訴人は,別紙カタログ(C)のうち,STPー7Sのステッピングモータ駆動装置を業として製造販売してはならない。
(2) 被控訴人は,原判決添付別紙目録(一)のカタログ1,2記載のステッピングモータ駆動装置(ST20を除く)及び別紙カタログ(A)のST25,同(B)のST26,同(C)のSTPー7,同(D)のSST15,SST16,SST25,SST26のステッピングモータ駆動装置につきスター結線を前提とする本件特許発明(登録番号第2021615号特許権)の駆動方法を業として使用してはならない。
(3) 被控訴人は,控訴人に対し,70万円及びこれに対する平成8年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,原審及び当審を通じ,これを20分し,その19を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
5 上記2項(1),(3)は仮に執行することができる。
事実及び理由
請求(控訴の趣旨)
【控訴人】 1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は,原判決添付別紙目録(一)のカタログ1及び2記載のステッピングモータ駆動装置のうち,STPー5S,ST20を除く装置を業として製造,販売してはならない。
(2) 被控訴人は,その本店,営業所及び工場に存する前項のステッピングモータ駆動装置及びこれを組成する物品を廃棄し,前項の行為に供した設備を除去せよ。
(3)(主位的) 被控訴人は控訴人に対し,4億7551万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成8年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的) 被控訴人は控訴人に対し,9864万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成8年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被控訴人は,上記別紙目録(一)のカタログ2記載のステッピングモータ駆動装置のうち,STPー5Sを業として製造,販売してはならない。
(5) 被控訴人は,その本店,営業所及び工場に存する前項のステッピングモータ駆動装置及びこれを組成する物品を廃棄し,同行為に供した設備を除去せよ。
(6) 被控訴人は,控訴人に対し,1億4346万円及びうち6792万円に対する訴状送達の日の翌日である平成8年11月20日から,うち7554万円に対する平成10年9月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 追加請求 (1) 被控訴人は,別紙カタログ(A),(B),(C)のST25,ST26,STPー7のステッピングモータ駆動装置を業として製造,販売してはならない。(平成13年7月16日付け準備書面別紙添付) (2) 被控訴人は,上記別紙カタログ(D)の5相ステッピングモータ駆動装置のうち,SST15,SST16,SST25,SST26のステッピングモータ駆動装置を業として製造,販売してはならない。
(3) 被控訴人は,原判決添付別紙目録(一)のカタログ1,2記載のステッピングモータ駆動装置(ST20を除く)及び別紙カタログ(A)のST25,同(B)のST26,同(C)のSTPー7,同(D)のSST15,SST16,SST25,SST26のステッピングモータ駆動装置を業として使用してはならない。
(4) 被控訴人は,控訴人に対し,金1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成8年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
【被控訴人】 1 原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消し,控訴人の同部分に係る請求を棄却する。
2 控訴人の追加請求を棄却する。
事案の概要
事案の概要は,次に付加するほか,原判決5頁9行目から58頁11行目までの「第二 事案の概要,第三 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決41頁2行目から末行までを除く。
(前提事実〔いずれも争いがないか,争うことが明らかでない。〕) 1 被控訴人が業として製造,販売するST12,ST14,ST15,ST16,ST17,ST19,STPー5S,STPー5P,ST25,ST26は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用することができ,同駆動方法の構成は,本件特許発明構成要件を全て充足する。
ST12,ST14,ST15,ST16,ST17,ST19,STPー5S,STPー5P,ST25,ST26は,スイッチにより切り替え可能にスター結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することもできる。
STPー5P,ST25,ST26については,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を行うことができるスイッチの接点状態で,モータ結線をペンタゴン結線に変えるだけで,同結線を前提としたハーフステップ駆動方法(メレック発明)を業として使用することができる。
STPー5P,ST25,ST26については,スイッチにより切り替え可能にペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することもできる。
ST25,ST26については,スイッチにより切り替え可能に新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法(オリエンタル発明)を業として使用することもできる。
ST25,ST26については,スイッチを通じて切り替え可能に新ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することもできる。
被控訴人が業として製造,販売するSST25,SST26は上記したST25,ST26と各同一であり,被控訴人が業として製造,販売するSST15,SST16は上記したST15,ST16と各同一であり,いずれも型式名を変更しただけである。
被控訴人が業として製造,販売するSTPー7の駆動方法は,ST25,ST26と同一である。
2 ST12,ST14,ST15,ST16,ST17,ST19,STPー5S,STPー5P,ST25(引用に係る原判決記載のとおり,併せて「被告製品」という。),ST26及びSST15,SST16,SST25,SST26,STPー7(以上の製品を被告製品を含め「被控訴人製品」という。)に係る上記駆動方法の構成は,次のとおり,分節することができる。
(1) スター結線ハーフステップ(4ー5相励磁) 本件特許発明構成要件と同じ (2) ペンタゴン結線ハーフステップ(4ー5相励磁)(メレック発明と同じ) a)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を,A相,C相及びE相と,B相及びD相とが互いに逆相となるようにA相,B相,C相,D相,E相の順で環状に接続し, b)ステップ毎に所定のスケジユールに従って選択した4相を並列励磁するか,又は2相の直列回路及び3相を並列励磁し, c)合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(3) スター結線フルステップ(4相励磁) あ)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の内,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, い)前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, う)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2個の相を並列励磁することによって, え)前記A相〜E相の内,4個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(4) ペンタゴン結線フルステップ(5相励磁) イ)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を,A相,C相及びE相と,B相及びD相とが互いに逆相となるようにA相,B相,C相,D相,E相の順で環状に接続し, ロ)ステップ毎に所定のスケジユールに従って選択した2相の直列回路及び3相を並列励磁し, ハ)合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(5) 新ペンタゴン結線ハーフステップ(4ー5相励磁)(オリエンタル発明と同じ) T)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を順次環状に接続し, U)前記A相〜E相が常に並列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る並列回路に通電するとともに, V)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を直列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を直列励磁することによって, W)前記A〜E相の内4又は5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(6) 新ペンタゴン結線フルステップ(5相励磁) @)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を順次環状に接続し, A)前記A相〜E相が常に並列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る並列回路に通電するとともに, B)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を直列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を直列励磁することによって, C)前記A〜E相の5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(追加の争点) 1 追加物件(被告製品から被控訴人製品に拡張)についての従前と同様の争点 2 直接侵害の有無 3 不法行為(共同不法行為,弁護士費用) (控訴人の主張) 1 間接侵害 被控訴人製品は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法(同駆動方法の構成は本件特許発明構成要件を全て充足する。)の実施に使用する物であり,同駆動方法以外の前記駆動方法は他の用途に当たらないから,特許法101条2号でいう「その発明の実施にのみ使用する物」に該当すると解すべきである。
(1) スター結線を前提としたフルステップ駆動方法 本件特許発明に基づくハーフステップ用の励磁パターンとフルステップ用の励磁パターンとは,後者が前者に含まれる関係となっており,ハーフステップ駆動とフルステップ駆動とをスイッチで切り替えることは本件特許出願前から周知であるから,フルステップの駆動方法は,本件特許発明について当然に想定されている一実施形態にすぎないというべきである。また,フルステップ駆動方法による場合,ハーフステップ駆動の場合に比べてモータのステップ角が半分となり分解能(ワンステップ当たりの角度のこと)が低下するから,ユーザ側の立場からすると,被控訴人製品をフルステップ駆動方法で使用するために購入することは現実問題としてあり得ない。
したがって,被控訴人製品がフルステップ の駆動方法を業として使用することができるとしても,間接侵害が成立する。
(2) ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法(メレック発明の駆動方法) ステッピングモータの能力はこれに接続されるステッピングドライバ装置との関係で決定される。そのため,負荷を回転駆動させることが可能なステッピングモータを決定した後,同モータに合ったステッピングドライバ装置を選定することが必要になる。大きなトルク等が必要であるときには大型のステッピングドライバ装置を選定せざるを得なくなるのは当然である。
被控訴人製品は,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法による場合ではなく,本件特許発明を使用した場合に装置のサイズに見合ったトルクが得られる。すなわち,本件特許発明を使用した場合に得られる最大トルクがTであったとすると,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法 により得られる最大トルクはT/2となり,本来得られる半分の能力しか発揮されない結果となり,小型化という効果が実質的・経済的に意味のないものになる。また,同一トルクが得られるように電流調整が行われると,ドライバ装置の消費電力がスター結線の場合の約2倍となるため,連続運転をしたとき,モータが異常発熱し,焼損等の事故を招来するおそれがあり,通常の使用方法とはいえない。
加えて,メレック発明の特徴は,出力トランジスタの個数を従来の半分である10個にすることができ,これに伴って小型化及び低コスト化を図ることができることを最大の効果とし,これを実現するために,各相コイルのうちB相及びD相コイルを逆極性に接続したことにある。本件特許発明においてもメレック発明と同一の手法を用いて,各相コイルのうちB相及びD相コイルを逆極性に接続することにより同様の効果を達成している。そして,メレック発明において採用されている出力トランジスタのオンオフのパターンと,本件特許発明において採用されている出力トランジスタのオンオフのパターンとは同一である。各相コイルの励磁シーケンスは,出力トランジスタのオンオフのパターンにより決定付けられる。しかも,10個の出力トランジスタでハーフステッフ駆動を行うための手法が上記したように両発明において共通している。それ故,メレック発明と本件特許発明において使用されている各相コイルの励磁シーケンスは実質的に同一であるといえる。以上のことから,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法は,モータの基本結線がペンタゴン結線であるかスター結線であるかの相違だけで,これ以外は全て共通しているから,本件特許発明実質的に同一である。
したがって,被控訴人製品がペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用することができるとしても,間接侵害が成立する。
(3) ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法 ペンタゴン結線を前提とした駆動方法に基づくハーフステップ用の励磁パターンと,ペンタゴン結線を前提としたフルステップ の駆動方法に基づくフルステップ用の励磁パターンとは,後者が前者に含まれる関係となっており,ハーフステップ駆動とフルステップ駆動とをスイッチでもって切り替えること自体については本件特許出願前から周知であるから,ペンタゴン結線を前提としたフルステップの駆動方法は,ペンタゴン結線を前提とした駆動方法,ひいては本件特許発明について当然に想定されている一実施形態にすぎないというべきである。
したがって,被控訴人製品がペンタゴン結線を前提としたフルステップの駆動方法を業として使用することができるとしても,間接侵害が成立する。
(4) 新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法(オリエンタル発明の駆動方法) 新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法(オリエンタル発明)は,本件特許発明の特徴的な部分が含まれており,本件特許発明と全く無関係な発明ではない。本件特許発明の中で最も特徴的な部分は,5相ステッピングモータの各相コイルのうちB相コイル及びD相コイルを逆極性に接続するということにある。本件特許発明はこのような特徴を有していることから,ステッピングモータドライブ装置の出力トランジスタの個数が従来の半分の10個となり,これに伴って同装置の小型化及び低コスト化が実現されるという効果を奏する。一方,オリエンタル発明は,各相コイルが変則的な順番で接続されるものの,B相コイル及びD相コイルを逆極性に接続することが必要不可欠となっており,本件特許発明の特徴的な部分が含まれており,ステッピングモータドライブ装置の出力トランジスタの個数を10個にすることが可能になるのであって,これ以外には本件特許発明に比べて優れていると評価される特段の効果を見出すことができず,本件特許発明を若干設計変更したものにすぎない。
ところで,ST25,ST26等を購入したユーザにおいてスイッチをスター側に切り替えて同製品を動作させると,本件特許発明実施がされることになるが,控訴人がこれを立証することは非常に困難であり,本件特許発明が5相ステッピングモータをハーフステップ駆動する場合の基本となる発明であるにもかかわらず,本件特許権の効力の実効性が損なわれているところ,ST25,ST26等は出力トランジスタが10個である点で小型化及び低コスト化が実現されており,この点で被控訴人は本件特許発明により得られる利益を享受し得る立場にある。しかも,被控訴人はST12等を昭和60年7月頃に製造,販売を開始した後,ST25,ST26を平成5年2月に製造,販売を開始した。ST12とST25,ST26との内部構成を比較すると,相違が見られるのは基本的に相分配用ICだけである。この相分配用ICは,ST12等のそれとは異なり,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法に基づく励磁パターンを生成できる機能が新たに追加され,このような設計変更の結果,ST25,ST26については,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法を業として使用することが可能になった。しかしながら,ユーザにしてみれば,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法による場合,本件特許発明とは異なり,モータの各相コイルを変則的な順番で接続することが必要になり(新ペンタゴン結線) ,この接続作業が非常に煩わしいだけでなく,本件特許発明だけで新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法と同じく5相ステッピングモータをハーフステップ駆動することが可能だから,当該設計変更の実質的なメリットは殆どない。これを被控訴人が敢えて行うのは,控訴人の本件特許権についての間接侵害の追求を逃れるためにほかならない。これは明らかに脱法行為であり,不当である。
上記事実に照らすと,被控訴人製品について,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法を業として使用することができるという理由だけで,間接侵害が否定されるとするならば,被控訴人の利益において控訴人が余りにも不利となるのは明白であり,特許法101条の趣旨に反する。
したがって,被控訴人製品が新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法を業として使用することができるとしても,間接侵害が成立する。
(5) 新ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法 新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法に基づくハーフステップ用の励磁パターンと,新ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法に基づくフルステップ用の励磁パターンとは,後者が前者に含まれる関係となっており,ハーフステップ駆動とフルステップ駆動とをスイッチでもって切り替えること自体については周知であるから,新ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法については,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップの駆動方法について当然に想定されている一実施形態にすぎないというべきである。
よって,被控訴人製品が新ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することができるとしても,間接侵害が成立する。
2 直接侵害 メーカの製品出荷時の検査段階においては,ユーザに対して,カタログ,仕様書等に明記されているトルク特性,入出力信号に対する動作機能等を保証するため,製品1つ1つについて個別に,しかも全項目にわたって検査することが行われている。特に産業用として長時間連続運転で使用されることが多いステッピングモータ用ドライバについては,トラブル等によって運転が停止するという事態が発生することは決して許されない。このことからステッピングモータ駆動装置の出荷時には,全製品について機能検査,特性検査だけではなく,通電エージング(初期故障を早期に発見するための検査),使用モータに合わせて動作させる等の各種検査が厳重に行われている。これは製品を供給するメーカとしての責任,物造りの基本姿勢でもあることから,被控訴人においても当然に当てはまる。このようなステッピングモータの駆動装置の検査は,スター結線を前提とするST12等についてはもちろんのこと,ペンタゴン結線を前提とするSST16等についても当然に行われる。スター結線を前提とするST12等を検査する際には,スター結線されたモータを動作させることが必要である。これは本件特許発明の使用に外ならない。一方,ペンタゴン結線を前提とするSST16等を検査する際においても本件特許発明が当然使用される。なぜなら,SST16等を検査するには,最大の相電流を流すことが必要不可欠であるものの,モータをペンタゴン結線した状態では最大の相電流を流すことが不可能であるからである。最大の相電流を流すようにするにはモータあるいはそれに見合うものによって結線した状態で動作させることが必要であり,これは本件特許発明の使用に他ならない。例えば,SST16については,そのパネル面に明示されているように,SW2をF(最大電流値)に設定した上で5相10本リードのモータをスター結線した状態でモータ(あるいは5相5本リードスター結線のモータを使用する)を動作させ,この状態で検査することが必要となる。これはペンタゴン結線を前提とするSST16等の他のステッピングモータ駆動装置についても全く同様である。
原判決添付別紙目録(一)のカタログ1,2記載のステッピングモータ駆動装置(ST20を除く)及び上記ST25,ST26,STPー7,SST25,SST15,SST26,SST16を検査する段階において,業として本件発明特許の実施をすることは明らかであり,この行為は,特許法第100条の規定により本件特許権の侵害に該当するものである。
3 改悪発明 本件特許発明において最も重要な構成は,A相〜E相の各コイルのうちB及びD相の各コイルを逆極性に接続したことにあり,これに比べてモータの基本結線であるスター結線については重要度が低い。なぜなら,A相〜E相の各コイルのうちB及びD相の各コイルを逆極性に接続するという事項については本件出願時点で新規であるのに対して,スター結線やペンタゴン結線については本件出願前から周知であるからである。すなわち,被控訴人製品は本件特許発明のスター結線をペンタゴン結線に置換したものにほかならない。スター結線をペンタゴン結線に置換すると,トルクが半分に低下し,これに伴って電流の流れ方も変化するが,10個の出力トランジスタでもってハーフステップ駆動が可能であるという点については何ら変わりはないのである。
4 共同不法行為 被控訴人製品は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用することができる機能を有する物であり,被控訴人は,被控訴人製品を購入したユーザーにおいて同機能を使用すれば,本件特許発明の直接侵害が成立することを十分に知っているにかかわらず,取扱説明書に当該機能を発揮することができることを明記した上で,ユーザーに被控訴人製品を販売し,被控訴人製品を購入したユーザーはスター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用している。
したがって,被控訴人が被控訴人製品を販売する行為は,不法行為の予備行為として捉えられる教唆又は幇助行為に相当する。
5 不法行為ー弁護士費用の請求 被控訴人は,控訴人の本件特許発明侵害することを熟知しながら,故意に被控訴人製品を製造,販売してきた。控訴人は,そのため,本件訴訟を提起せざるを得ない状況に追いやられ,弁護士や弁理士らに訴訟の提起,その遂行を委任せざるを得ず,多大の弁護士費用等の支出を余儀なくされた。被控訴人はその費用として少なくとも金1000万円を支払う義務がある。
(被控訴人の主張) 1 間接侵害 (1) ST12,ST14,ST15,ST16,ST17,ST19,STPー5S,STPー5P,ST25,ST26については,スター結線,ペンタゴン結線,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法,フルステップ駆動方法の各実施をすることもできる。
なお,SST25,SST26は,前記及び上記ST25,ST26と各同一であり,SST15,SST16は,前記及び上記ST15,ST16と各同一であり,STPー7は,前記及び上記ST25,ST26と駆動方法が同一であるから,いずれも,それぞれと同一の駆動方法を業として使用することができる。
(2) 被控訴人製品の構成は,次の下線部分が本件特許発明構成要件と異なる。
ア スター結線ハーフステップ(4ー5相励磁) 本件特許発明との構成要件と同じである。
イ ペンタゴン結線ハーフステップ(メレック発明と同じ) a)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を,A相,C相及びE相と,B相及びD相とが互いに逆相となるようにA相,B相,C相,D相,E相の順で環状に接続し, b)ステップ毎に所定のスケジユールに従って選択した4相を並列励磁するか,又は2相の直列回路及び3相を並列励磁し, の構成の各下線部分が,本件特許発明構成要件と A 5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相のうち,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, B 前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, C ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって, の各下線部分においてそれぞれ異なる。
ウ スター結線フルステップ う)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2個の相を並列励磁することによって, え)前記A相〜E相のうち,4個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
の構成の各下線部分が,本件特許発明構成要件と C ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって, D 前記A〜E相のうち4又は5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
の各下線部分においてそれぞれ異なる。
エ ペンタゴン結線フルステップ イ)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を,A相,C相及びE相と,B相及びD相とが互いに逆相となるようにA相,B相,C相,D相,E相の順で環状に接続し, ロ)ステップ毎に所定のスケジユールに従って選択した2相の直列回路及び3相を並列励磁し, の構成の各下線部分が,本件特許発明構成要件と A 5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相のうち,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, B 前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, C ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって, の各下線部分においてそれぞれ異なる。
オ 新ペンタゴン結線ハーフステップ(4ー5相励磁) T)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を順次環状に接続し, U)前記A相〜E相が常に並列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る並列回路に通電するとともに, V)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を直列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を直列励磁することによって, の構成の各下線部分が,本件特許発明構成要件と A 5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相のうち,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, B 前記A相〜E相の他端を, 前記A相〜E相が常に直列に 接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, C ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって, の各下線部分においてそれぞれ異なる。
カ 新ペンタゴン結線フルステップ(5相励磁) @)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を順次環状に接続し, A)前記A相〜E相が常に並列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る並列回路に通電するとともに, B)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を直列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を直列励磁することによって, C)前記A〜E相の5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
の構成の各下線部分が,本件特許発明構成要件と A 5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相のうち,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, B 前記A相〜E相の他端を, 前記A相〜E相が常に直列 に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, C ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって, D 前記A〜E相のうち4又は5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
の各下線部分においてそれぞれ異なる。
キ 被控訴人製品は,以上のとおり,本件特許発明実施のみならず,他の駆動方法の実施にも用いることができる。
(3) ペンタゴン結線により実施される駆動方法の他用途性 本件特許発明とメレック発明との構成要件とは,均等論適用の余地もないほど顕著に異なっている。
ペンタゴン結線を用いた駆動方法は,スター結線を用いた方法に比べて,同一の電力を投入すれば同一のトルクが生じ,技術的に何ら劣るものではない。また,ペンタゴン結線を用いた駆動方法も現に実用されている。控訴人は,投入電力が半分であればトルクが半減するという,それ自体は当然の事象を主張するにすぎない。ペンタゴン結線を用いた駆動方法とスター結線を用いた駆動方法との温度上昇の比較は,消費電力量が等しい条件下でモータの温度上昇の比較をするのが合理的であり,控訴人主張は,消費電力量の異なる条件下での実験に基づくもので,誤りである。
(4) フルステップ駆動方法の他用途性 フルステップは,1回転当りのステップ数が少ないために,回転後の位置決め精度の粗さが容認できるものであれば,そこまで回転する速度が速く,かつトルクリップルがないという技術的有用性があり,現実にも使われている。
2 直接侵害 従前,被控訴人製品の出荷前に本件特許発明を用いた試験等を行ったことはあるが,現時点では,一切行っていない。
3 改悪発明 この理論が適用されるのは,被控訴人製品が請求の範囲のうち比較的重要度の低いものを省略又は置換した場合であり,本件のように重要な構成が全く異なる場合には適用の余地はない。
そもそも,均等論を主張するためには作用効果の同一が前提となるところ,控訴人は改悪発明の主張において,作用効果が劣ると主張しており,論理的に矛盾している。
4 共同不法行為 控訴人の主張は否認,又は争う。教唆,幇助にならない。
5 不法行為ー弁護士費用の請求 被控訴人は,控訴人の本訴提起前に誠実に紛争解決のための交渉を申し入れており,通常の対応をしているのであって,不法行為上の違法性のある対応をしておらず,被控訴人の不法行為により本訴提起がされたとはいえない。
6 補償金の算定 仮に,控訴人の本件特許発明出願公開中の特定期間における被控訴人製品の製造,販売に本件特許発明間接侵害であると認められるものがあるとしても,控訴人の主張する補償金額は高すぎる。
本件特許発明は,トランジスタの数をスタンダードドライブの半分にして5相ステッピングモータを4ー5相励磁して駆動させることに成功し,スタンダードドライブより電流容量の小さい電源を使用することを可能にしたが,より高い電圧を必要とし,一方,オリエンタル発明は本件特許発明と同様に電流容量が小さくなり,メレック発明はスタンダード方式に比べさほどの電流容量減少は望めないのであり,電流と電圧の積である電力の観点からみれば,メレック発明及びオリエンタル発明と同様になり,三者三様であって,本件特許発明だけが画期的な効果を奏する発明とはいえない。
国が国有特許に関して決めている実施料率は売上高の2ないし4パーセントであり,また,社団法人発明協会発行にかかる「実施料率(第4版)」の「17.発送電・配電・産業用電気機械」(同書94頁以下)によれば,昭和63年度から平成3年度の実施料実績(イニシャル無)の最頻値は売上高の1・3パーセント,昭和49年度から昭和52年度の実績最頻値は1・2パーセントである。
さらに,被控訴人製品は,顧客の選択によりステッピングモータを4相励磁する駆動方法にも用いられているのであるから,販売総額全額を計算の基礎とすることは不当である。
また,補償金の額は損害賠償金の額より少額であるのが相当である。
したがって,本件につき,上記国有特許の実施料率や実績等を参考にして料率を定めるとしても,補償金算定のための実施料率は2パーセントを超えることはない。
当裁判所の判断
1 間接侵害 (1) 被控訴人製品の駆動方法 前提事実及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人製品は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用することができるほか,被告製品(前記のとおり,ST12,ST14,ST15,ST16,ST17,ST19,STPー5S,STPー5P,ST25)及びST26は,スイッチにより切り替え可能にスター結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することもでき,STPー5P,ST25,ST26は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用をすることができるスイッチの接点状態で,モータ結線をペンタゴン結線に変えるだけで,同結線を前提としたハーフステップ駆動方法(メレック発明)により実施することもでき,スイッチにより切り替え可能にペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することもでき,ST25,ST26は,スイッチにより切り替え可能に新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法(オリエンタル発明)及びフルステップ駆動方法を業として使用することもでき,被控訴人が業として製造,販売するSST25,SST26は,上記ST25,ST26と各同一であり,被控訴人が業として製造,販売するSST15,SST16は上記ST15,ST16と各同一であり,いずれも型式名を変更しただけであると認められる。
前提事実,上記事実並びに甲3,4,12,13〜15の各1・2,16,32,41,乙2〜5,14・15の各1・2,37,38及び原判決添付別紙目録(一)の記載によれば,次の事実が認められる。
STPー5PとSTPー5Sとは,同一で型式名を変更しただけであり,STPー7PとSTPー7SとSTPー7Nとは,同一で型式名を変更しただけであり,いずれも,販売に際して,個々の製品に,STPー5P,STPー5S,STPー7P,STPー7S,STPー7Nとの型式名を表示していたものの,前二者がSTPー5,後三者がSTPー7と表示される各同一製品であるといえる。
ST12については,最も早期のカタログである甲13(弁論の全趣旨により昭和61年4月20日印刷され,被控訴人に納入されたものと認められる。)に,相電流は1.4アンペア,励磁方式として0.36度と0.72度切替可能(4ー5相励磁と4ー4相励磁の切替可能との趣旨と解される。),適用モータは相電流0.75アンペア〜1.4アンペア,巻線インダクタンス2.5〜15mHのものと記載され,端子接続図にはスター結線のみが記載され,甲12(弁論の全趣旨により平成4年9月1日作成と認められる。)の適用モータ一覧表には,乙2〜5の外観及び使用図面に記載された平成3年3月26日新規作成のペンタゴン結線を前提としたモータが記載されている。
ST14については,最も早期のカタログである甲14(弁論の全趣旨により昭和61年9月20日印刷され,被控訴人に納入されたものと認められる。)のカタログに,相電流は2.8アンペア,励磁方式として0.36度と0.72度切替可能,適用モータはオリエンタルPH5913A,山洋電気103ー8573ー5040と記載され,端子接続図にはスター結線のみが記載され,原判決添付別紙目録(一)には,乙14・15の各1・2,37,38の外観及び使用図面に記載された昭和63年2月18日新規作成のペンタゴン結線を前提としたモータが適用モータとして記載されている。
ST15については,最も早期の仕様書(甲16 昭和61年9月27日作成)に,相電流は1.4アンペア,励磁方式として0.36度と0.72度切替可能,適用モータはオリエンタル社PHー596A,PHー569A及びその相当品と記載され,端子接続図にはスター結線のみが記載され,甲12(弁論の全趣旨により平成4年9月1日作成と認められる。)の適用モータ一覧表には,乙2〜5の外観及び使用図面に記載された平成3年3月26日新規作成のペンタゴン結線を前提としたモータが記載されている。
本件警告書,公開公報は,昭和61年1月28日頃,送付されたところ,大三工業は,平成7年2月7日付「特許権使用に関する件」と題する書面,同年3月20日付「特許権使用に関する件」と題する書面において,本件特許発明が登録された場合の実施許諾を求めているのみで,被控訴人製品がメレック発明の方法でペンタゴン結線した五相ステッピングモータを四ー五相励磁して駆動するのに用いられることについては全く言及しなかった。
上記事実並びに甲12,13〜15の各1・2,16,19,20,29,30,33〜37,40,41,乙2〜13,20〜28,30,原判決添付別紙目録(一),(三)の記載及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
被控訴人製品(STPー5S・STPー5P〔STPー5〕,STPー7S・STPー7P・STPー7N〔STPー7〕,ST25・SST25,ST26・SST26,ST15・SST15,ST16・SST16は,それぞれ,各同一製品であり,同一製品として扱う。)は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法を業として使用することができるほか,スイッチにより切り替え可能にスター結線を前提としたフルステップ駆動方法を業として使用することもでき,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法,フルステップ駆動方法を業として使用することもできる。STPー7P・STPー7S・STPー7N,ST25・SST25,ST26・SST26は,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法,フルステップ駆動方法を業として使用することもできる。
そして,STPー5S・STPー5P〔STPー5〕,STPー7S・STPー7P・STPー7N〔STPー7〕は,それぞれ,各同一製品であるが,STPー5S,STPー7Sは,各当該型式名を付して,専ら,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を行うことができる旨を表示して販売され,STPー5P,STPー7Pは,各当該型式名を付して,専ら,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を行うことができる旨を表示して販売され,STPー7Nは,当該型式名を付して,専ら,新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を行うことができる旨を表示して販売された。
また,ST12は,端子接続図にスター結線のみが記載されている甲13のカタログが被控訴人に印刷・納入された昭和61年4月20日において,ST14については端子接続図にスター結線のみが記載されている甲14のカタログが被控訴人に印刷・納入された昭和61年9月20日において,ST15については適応モータとしてスター結線のみが記載され端子接続図にスター結線のみが記載されている甲16の仕様書が作成された昭和61年9月27日において,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法のみを行うことができたものであり,そのようなものとして販売された後,少なくとも,ST12,15については平成3年3月25日(ペンタゴン結線を前提とした駆動方法を初めて行ったといい得る可能性のある平成3年3月26日の前日)まで,ST14については昭和63年2月17日(ペンタゴン結線を前提とした駆動方法を初めて行ったといい得る可能性のある昭和63年2月18日の前日)まで,それぞれスター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法のみを行うことができるものとして販売された。
(2) 本件特許発明構成要件と被控訴人製品の駆動方法の構成との対比 ア 本件特許発明構成要件は次のとおりであり,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法の構成は,本件特許発明構成要件と同一であり,本件特許発明技術的範囲に属する。
A 5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相のうち,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, B 前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, C ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって, D 前記A〜E相のうち4又は5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
イ(ア) スター結線を前提としたフルステップ駆動方法の構成は次のとおりである。
あ)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相のうち,A相,C相,E相のグループと,B相,D相のグループとが互いに逆相となるように各相の一端を接続し, い)前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに, う)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2個の相を並列励磁することによって, え) 前記A相〜E相のうち,4個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(イ) 構成あ)は構成要件Aと同一である。
構成い)は構成要件Bと同一である。
構成う)は,下線部分の「2個」の部分が構成要件Cの「2又は3個」の部分と異なるが,文理上,「2個」が「2又は3個」に含まれるから同一であり,他の部分が同一であることが明らかであるから,構成要件Cを充足する。
構成え)は,下線部分の「4個」の部分が構成要件Dの「4又は5個」の部分と異なるが,文理上,「4個」が「4又は5個」に含まれるから同一であり,他の部分が同一であることが明らかであるから,構成要件Dを充足する。
したがって,スター結線を前提としたフルステップ駆動方法は,本件特許発明技術的範囲に属し,仮に被控訴人主張のような技術的有用性があるとしても,技術的範囲に属することを否定し得ることにならないから,他の用途に該当しない。
ウ(ア) ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法の構成は次のとおりである。
a)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を,A相,C相及びE相と,B相及びD相とが互いに逆相となるようにA相,B相,C相,D相,E相の順で環状に接続し, b)ステップ毎に所定のスケジユールに従って選択した4相を並列励磁するか,又は2相の直列回路及び3相を並列励磁し, c)合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(イ) 構成a)は,下線部分の「環状に接続し,」の部分が構成要件Aの「各相の一端を接続し,」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Aを充足しない。
構成b)は,「4相を並列励磁するか,又は2相の直列回路及び3相を並列励磁し,」の部分が構成要件Bの「前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに,」及び構成要件Cの「ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって,」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件B,Cを充足しない。
構成c)は構成要件Dと同一といえ,同構成要件を充足する。
(ウ) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,@同部分が特許発明の本質的部分ではなく,A同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,Bそのように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,同対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最判平成10年2月24日第3小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。 本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分は,構成要件Aの「各相の一端を接続し,」の部分並びに構成要件Bの「前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに,」及び構成要件Cの「ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって,」の部分である。
控訴人は,引用に係る原判決25頁2行目から26頁9行目で,本件特許発明の本質的部分が,5相ステッピングモータをA相,C相,E相のグループとB相,D相のグループとが互いに逆相となるように接続することによって従来の半分のトランジスタで4ー5相励磁(ハーフステップ駆動)を行うことができるようになったという点にあり,スター結線かペンタゴン結線かの点にはないと主張するが,本件特許発明の特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分は,上記に摘示した部分であり,当該部分が特許発明の本質的部分ではない(均等要件@)ということを直接認めさせるに足りる主張・立証はない。
本件明細書によれば,本件特許発明は,「この発明は比較的少ない数のトランジスタで5相ステッピングモータの4ー5相励磁を行うことができるとともに,比較的小さい電流容量の電源を使用し得る5相ステッピングモータの駆動方法を提供することを目的としている」(3欄19行〜23行)のであり,前記構成要件により,「各相を直・並列になるように励磁制御するから,出力段の駆動トランジスタの数を10個にすることができる。したがって,本発明によれば,従来装置の半分のトランジスタによって,5相ステッピングモータを4ー5相励磁することができる」(本件明細書6欄9行〜13行),また,「直列励磁を併用するものであるから,電源電流をモータ定格電流の2〜2・5倍にすることができる。したがって,この発明によれば,従来方法によるよりも小さい電流容量の電源を使用することができる」(同欄14行〜17行)という作用効果を生じるものであって,控訴人主張の本質的部分は,上記目的・作用効果に係るものをいうと考えられ,これは,前記構成要件により達成されるのであり,いうまでもなく,本件明細書の発明の詳細な説明の記載もこれを裏付ける。しかるところ,上記に摘示した部分は,前記構成要件の主要な内容をなすのであって,上記に摘示した部分の構成から考えて,控訴人主張のいわゆる「逆相となるように接続する」ことのほか「スター結線とする」ことも前記構成要件の主要な内容をなすといい得る以上,両者を含め本質的部分を構成すると考えられる。
均等要件@にいう本質的部分は,対象製品特許発明技術的範囲に含まれるか否かの要件に係わるものであるから,特許法70条に定めるとおり,特許請求の範囲に基づき,明細書の記載を考慮して,その内容が定まるものである。
控訴人の主張は,当審での前記主張を含め,本件明細書の特許請求の範囲発明の詳細な説明の記載と無関係ではないにしても,これを基準とするのでなく,一般産業技術上の議論として,「逆相となるように接続する」ことのみが本質的であることを強調するものであって,特許請求の範囲や本件明細書の記載に基づいた理論・議論がされるべき主張・立証として十分なものといえない。
原判決59頁6行目から76頁末行までの説示は,上記趣旨において相当というべきであり,ここに引用する。
次に,均等要件Aにつき検討するに,本件特許発明は,前記構成要件の主要な内容をなす上記摘示部分を含む構成により,「各相を直・並列になるように励磁制御するから,出力段の駆動トランジスタの数を10個にすることができる。したがって,本発明によれば,従来装置の半分のトランジスタによって,5相ステッピングモータを4ー5相励磁することができる」(本件明細書6欄9行〜13行),また,「直列励磁を併用するものであるから,電源電流をモータ定格電流の2〜2・5倍にすることができる。したがって,この発明によれば,従来方法によるよりも小さい電流容量の電源を使用することができる」(同欄14行〜17行)という作用効果を生じるところ,控訴人は,引用に係る原判決26頁10行目から27頁2行目で,ペンタゴン結線を用いた駆動方法の場合,本来的にはスター結線の半分のトルクしか発生しないが,従来の半分のトランジスタで4ー5相励磁を行い,回転磁界が得られるという特許発明の目的,作用効果は同一であるといえると主張するのであって,同一であるという作用効果の内容として本件明細書に記載された上記作用効果を主張するものでなく,主張・立証として十分なものといえない。
のみならず,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法の前記構成,甲17及び弁論の全趣旨によれば,ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法は,少なくとも,「直列励磁を併用するものであるから,電源電流をモータ定格電流の2〜2・5倍にすることができる。したがって,この発明によれば,従来方法によるよりも小さい電流容量の電源を使用することができる」という作用効果を生じないから,本件特許発明と同じ作用効果を生じるとはいえない(原判決78頁8行目の「なお」から79頁5行目までの説示は,上記趣旨において相当というべきである。)。
さらに,均等要件Bについての控訴人主張も,いわゆる「逆相となるように接続する」ことのみが本質的であることを前提にするものであって,十分なものでなく,置換容易であることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人の均等の主張は認められない。
エ(ア) ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法の構成は次のとおりである。
イ)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を,A相,C相及びE相と,B相及びD相とが互いに逆相となるようにA相,B相,C相,D相,E相の順で環状に接続し, ロ)ステップ毎に所定のスケジユールに従って選択した2相の直列回路及び3相を並列励磁し, ハ)合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(イ) 構成イ)は,下線部分の「環状に」の部分が構成要件Aの「各相の一端を接続し,」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Aを充足しない。
構成ロ)は,「2相の直列回路及び3相を並列励磁し,」の部分が構成要件Bの「前記A相〜E相の他端を,前記A相〜E相が常に直列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る直列回路に通電するとともに,」及び構成要件Cの「ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を並列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を並列励磁することによって,」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件B,Cを充足しない。
構成ハ)は構成要件Dと同一といえ,同構成要件を充足する。
オ(ア) 新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法の構成は次のとおりである。
T)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を順次環状に接続し, U)前記A相〜E相が常に並列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る並列回路に通電するとともに, V)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を直列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を直列励磁することによって, W) 前記A〜E相の内4又は5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(イ) 構成T)は,下線部分の「順次環状に」の部分が構成要件Aの「各相の一端を接続し,」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Aを充足しない。
構成U)は,「並列に」の部分が構成要件Bの「前記A相〜E相の他端を,(前記A相〜E相が常に)直列に」の部分と,「並列」の部分が構成要件Bの「直列(回路に通電するとともに),」の部分とそれぞれ異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Bを充足しない。 構成V)は,各「直列」の部分が構成要件Cの各「並列」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Cを充足しない。
構成W)は構成要件Dと同一といえ,同構成要件を充足する。
カ(ア) 新ペンタゴン結線を前提としたフルステップ駆動方法の構成は次のとおりである。
@)5相ステッピングモータの順次配列されたA相,B相,C相,D相,E相の巻線を順次環状に接続し, A)前記A相〜E相が常に並列に接続された第1の相グループと第2の相グループとを形成するように接続し,前記第1の相グループと前記第2の相グループより成る並列回路に通電するとともに, B)ステップ毎に,第1の相グループは所定のスケジユールに従って選択された2又は3個の相を直列励磁し,第2の相グループは第1の相グループ以外の相から所定のスケジユールに従って選択した2又は3個の相を直列励磁することによって, C)前記A〜E相の5個の相を励磁し,合成トルクの方向を順次可変することにより5相ステッピングモータを駆動することを特徴とする5相ステッピングモータの駆動方法。
(イ) 構成@)は,下線部分の「順次環状に」の部分が構成要件Aの「各相の一端を接続し,」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Aを充足しない。
構成A)は,各「並列」の部分が構成要件Bの各「直列」の部分とそれぞれ異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Bを充足しない。 構成B)は,各「直列」の部分が構成要件Cの各「並列」の部分と異なるから,その他の部分が同一といえるものの,構成要件Cを充足しない。
構成C)は構成要件Dと同一といえ,同構成要件を充足する。
キ 他用途性 甲42及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
日本において5相ステッピングモータを製造・販売している主なメーカーのモータとドライバ間の結線方式は,控訴人がスター結線方式,オリエンタルモータ株式会社がスター結線方式又は新ペンタゴン結線方式,山洋電気株式会社がペンタゴン結線方式,日本パルスモータ株式会社が新ペンタゴン結線方式,多摩川精機株式会社がペンタゴン結線方式であり,5本リード型のステッピングモータ用ドライバのメーカーで使用されている結線方式は,旭エンジニアリング株式会社がペンタゴン結線方式,東阪電子機器株式会社がペンタゴン結線方式,株式会社メレックがペンタゴン結線方式,株式会社テクノドライブがペンタゴン結線方式である。
ステッピングモータ又はステッピングモータドライバのメーカーは,顧客へのステッピングモータ又はステッピングモータドライバ販売に際し,ステッピングモータの使用目的,@モータの移動量・速度,負荷条件等,Aモータの角度分解能・自起動速度・加減速条件・振動性能等,Bモータの動作時間と停止時間の比率によるモータの温度上昇等,Cモータの速度・トルク特性等の事項を顧客に確認して,モータ等の種類を決定する。次に,@モータの最大出力トルク等,Aモータが5本リード線タイプであるか,10本リード線タイプであるかの区別,10本リード線タイプである場合にモータとドライバ間の結線方法如何,Bモー夕又はドライバが既に使用されている場合,当該モータ等のメーカーの型式及び定格電流(モータ定格電流0.75A,1.4A,2.8A等)並びに入力電圧(小さいモータに必要とされる電圧は通常DC24V〜40V,大きいモータの場合は通常DC70V)等の事項を顧客に確認して,必要とされるモータの出力トルク等を実現することができる型式名を決定する。
上記事実によれば,顧客のニーズに応じてスター結線方式又はペンタゴン結線方式若しくは新ペンタゴン結線方式が採用されるということができるから,ペンタゴン結線若しくは新ペンタゴン結線を前提とする駆動方法は,商業的実用性を有し,他の用途に該当することが明らかである。
そして,乙1及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人製品は,消費電力を同一にした条件では,ペンタゴン結線の場合もスター結線の場合と同一のトルクが得られることが認められる上,仮に,被控訴人製品を使用してペンタゴン結線のモータを駆動する場合,スター結線のモータを駆動する場合に比して駆動トルクが小さくなるとしても,装置の要求仕様には,トルクのほかにも分解能,負荷の全ストローク,許容移動時間,立ち上がり時間などがあり,用途により動きのなめらかさや振動,コスト面での検討も考慮され,トルクの小さいモータや駆動方法を採用することも考えられるのであって,商業的実用性を有していると考えられ,最大トルクが2分の1となるから商業的実用性を有しないとの控訴人の主張は相当でない。
また,同一トルクが得られるように電流調整が行われると,ドライバ装置の消費電力がスター結線の場合の約2倍となるため,連続運転をしたとき,モータが異常発熱し,焼損等の事故を招来するおそれがあるとの控訴人の主張は,その根拠となる実験において実測したとされる消費電力が,電源から被測定ドライバに供給される電力であり,被測定ドライバの内部で消費される電力と被測定モータで消費される電力(被測定ドライバが被測定モータに供給する電力)との合計であるから,前提に正確性を欠き,採用し得ない。 ク まとめ STPー5S,STPー7Sは,各当該型式名を付して,専ら,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を行うことができる旨を表示して販売されているといえるから,これを購入した顧客は,専ら,同駆動方法を行うものということができ,実際上,ペンタゴン結線や新ペンタゴン結線のモータの駆動に使用しないといえるから,各当該型式名を付して販売される限り,ペンタゴン結線や新ペンタゴン結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法は,商業的実用性を有せず,他の用途に該当しないというべきである。したがって,STPー5S,STPー7Sの各製造,販売は間接侵害に該当する。
ST12については昭和61年4月20日から平成3年3月25日までの間の,ST14については昭和61年9月20日から昭和63年2月17日までの間の,ST15については昭和61年9月27日から平成3年3月25日までの間の各製造,販売は間接侵害に該当する。
その余の被控訴人製品の各製造,販売は,ST12,ST14,ST15の上記期間を除くその余の間の各製造,販売を含め,間接侵害に該当しない。
控訴人は,被控訴人製品がスター結線方式又はペンタゴン結線方式若しくは新ペンタゴン結線方式の各駆動方法を複数選択し得る場合に,本件特許発明,メレック発明,オリエンタル発明を複数侵害する駆動方法を行うこととなるのに,その故に「他の用途が存在する」としていずれの発明の間接侵害にも当らないこととなって不当であり,間接侵害を認める特許法101条2項の趣旨を没却するものであるから,「他の用途」が他の特許権を侵害する場合は,「他の用途」に当たらず,全ての特許権を侵害すると解するのが同条の趣旨に合致すると主張するところ,1個の見解として傾聴に値するが,「他の用途」が存在するのに,他の特許権を侵害する場合としない場合とで異なる結論となることを正当化させる根拠に欠け,採用し得ない。
2 直接侵害 前提事実及び前記説示並びに甲21,弁論の全趣旨によれば,被控訴人が業として製造,販売する被控訴人製品は,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法及びフルステップ駆動方法を業として使用することができ,同駆動方法の構成は,本件特許発明構成要件を全て充足するところ,これを購入したステッピングモータの駆動装置のユーザーには,購入した製品につきスター結線を前提としたハーフステップ駆動方法又はフルステップ駆動方法を業として使用したものがあったことが認められる。
そうすると,メーカーにおいて製品出荷前の一定の段階で試験・検査を行うことは当然であるから,被控訴人は,購入された被控訴人製品のいずれかにつき,ステッピングモータの駆動装置の試験・検査として,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法又はフルステップ駆動方法を業として使用したことがあったといえる。
そして,同様のことは今後も生じ得ると考えられる。
したがって,被控訴人は,本件特許発明業として使用するおそれがあり,本件特許発明侵害するおそれがあるといえるから,被控訴人製品につきスター結線を前提とする本件発明の駆動方法を業として使用することの差し止めを求める請求は理由がある。
3 改悪発明 控訴人の主張は,相当でなく,採用できない。
4 共同不法行為 前記のとおり,ステッピングモータ又はステッピングモータドライバのメーカーは,顧客へのステッピングモータ又はステッピングモータドライバ販売に際し,ステッピングモータの使用目的等種々の事項を顧客に確認して,必要とされるモータの種類・型式名を決定するから,被控訴人においても,顧客に被控訴人製品を販売するに際し,同様の営業・販売形態を取るということができ,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を業として使用する顧客であるか,ペンタゴン結線方式若しくは新ペンタゴン結線方式の各駆動方法を業として使用する顧客であるかを確認するということができる。そして,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法(両駆動方法の構成は本件特許発明構成要件を全て充足する。)を業として使用する顧客については直接侵害が成立しこれにつき過失が推定されて不法行為責任が生じるところ,顧客については直接侵害が成立することを認識しつつ製品を販売した場合には,顧客の直接侵害という不法行為の幇助が成立し,共同不法行為責任を負い,生じた損害につき損害賠償義務を負担するというべきである。
前記認定・説示並びに甲21及び弁論の全趣旨(原審控訴人準備書面平成11年10月25日付)によれば,次の事実が認められる。
訴外シャープ株式会社は,液晶パネルの製造装置の製作をしており,控訴人は,同社に対して,それを製作するためのコントロールボード〔PG105〕を販売納入している。PG105はシャープのドライバユニットである25軸ドライバラック〔5PDダイボンダ・5PD〕や12軸ドライバラック〔レーザーダイボンダ・LD〕との接続用のコントロールボードである。5PDにはPG105が6枚必要であり,LDにはPG105が3枚必要である。上記コントロールボードそれぞれに被控訴人がシャープに納入しているST25が装着される。控訴人がシャープに対して平成7年4月から平成8年3月までの1年間に販売した5PD用PG105は別紙1「シャープ向けPG105出荷台数」のとおり84枚であるから,それによってシャープが製作した5PDは14台であり,同じく同期間にLD用PG105は別紙1「シャープ向けPG105出荷台数」のとおり43枚であるから,それによってシャープが製作したLDは14台である。5PD1台あたり,ST25を別紙2「5PD(25軸ドライバラック)」のとおり25台使用し,このうち,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法のものは,別紙3「25軸ドライバラック〈5PDダイボンダ〉モータ結線一覧表」のとおり16台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが12台,フルステップ駆動方法のものが4台であり,LD1台あたり,ST25を別紙4「LD(12軸ドライバラック)」のとおり12台使用し,このうち,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法のものは,別紙5「12軸ドライバラック〈レーザーダイボンダ〉モータ結線一覧表」のとおり10台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが2台,フルステップ駆動方法のものが8台である。したがって,平成7年4月から平成8年3月までのスター結線でのST25の使用台数は16×14=224と10×14=140との合計364台となり,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが12×14=168と2×14=28との合計196台,フルステップ駆動方法のものが4×14=56と8×14=112との合計168台である。その他の年度も同様の計算方法で算出すると,平成8年4月から平成9年3月までのスター結線でのST25の使用台数は5PD用16台,LD用0の合計16台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが12台,フルステップ駆動方法のものが4台であり,平成9年4月から平成10年3月までのスター結線でのST25の使用台数は5PD用496台,LD用160台の合計656台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが404台,フルステップ駆動方法のものが252台であり,平成10年4月から同年8月までのスター結線でのST25の使用台数は5PD用160台,LD用90台の合計250台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが138台,フルステップ駆動方法のものが112台でありとなる。したがって,スター結線でのST25の使用台数総合計が1286台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが750台,フルステップ駆動方法のものが536台となる。被控訴人は,平成7年4月から平成10年8月の間,訴外シャープ株式会社に対し,訴外シャープ株式会社と協議して同社がスター結線を前提としたハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を業として使用する顧客であることを認識しつつ,ST25を販売・納入したこと,次のとおり,ハーフステップ駆動方法・フルステップ駆動方法を業として行うのに使用されたST25は,総合計1286台で,そのうち,ハーフステップ駆動方法のものが750台,フルステップ駆動方法のものが536台である。
そして,スター結線を前提としたハーフステップ駆動方法の構成が本件特許発明構成要件と同じであり,被控訴人もこれを認めていることに照らすと,特段の事情の認められない本件においては,少なくとも,ハーフステップ駆動方法のもの750台の販売した限りでは,顧客が直接侵害することを認識しつつ製品を販売したということができ,幇助に該当し,共同不法行為が成立する。
平成5年4月から平成7年10月までにST12,25が松下電器に1320台納入されたとの控訴人の主張については,これがスター結線での使用に供されていたことを認めるに足りる証拠はなく,また,その他の被控訴人製品につき,これがスター結線での使用に供されていたことを個別具体的に明らかにさせる証拠はないから,いずれも共同不法行為の成立は認められない。
被控訴人の主張自体失当との主張は,原判決98頁10行目から99頁10行目記載のとおり,採用できない(なお,東京地判平成3年2月22日判例工業所有権法〔2期版〕2247の3頁・特許と企業268号49頁,大阪地判平成3年9月30日知裁集23巻3号711頁参照)。
5 補償金額,損害額 (1) 補償金額 ア 販売総額 乙41〜45,弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。
ST12について,昭和62年1月1日(本件警告書到達の日である昭和61年1月30日の後であって控訴人が原審文書提出命令申立の始期とした日。
以下同様)から,平成3年3月25日までの販売台数は1万3231台,販売総額は,4億6965万3718円である。
ST14について,昭和62年1月1日から昭和63年2月17日までの販売台数は27台,販売総額は152万7500円である。
ST15について,昭和62年1月1日から平成3年3月25日までの販売台数は4432台,販売総額は1億3682万0422円である。
STPー5S,STPー7Sの販売台数,販売金額を認めるに足りる証拠はない。
その余の控訴人主張を認めるに足りる証拠はない。
以上によれば,本件警告書到達の日から出願公告日である平成6年2月2日までの補償金計算の基礎となる製品の販売総額は6億0800万1640円である。
イ 補償金額 前記のとおり,本件特許発明は,先行技術の欠点を克服し,トランジスタの数をスタンダードドライブの半分にして5相ステッピングモータを4ー5相励磁して駆動させることに成功し,また,スタンダードドライブより電流容量の小さい電源を使用することを可能にしたものであるところ,国が国有特許に関して決めている実施料率は販売高の2ないし4パーセントであることを考慮すると,本件特許発明実施料率を販売高の3パーセントとするのが相当である。
そうすると,補償金の額は1824万0049円(円未満四捨五入)となる。
(2) 損害額 ア 共同不法行為に係る逸失利益相当の損害額 被控訴人は,前記共同不法行為により,シャープの直接侵害による不法行為により控訴人が被った損害につきシャープと連帯して賠償責任を負うところ,控訴人は逸失利益相当の損害を主張するが,損害額を直接明らかにさせる証拠はない。被控訴人のシャープに対するST25の販売利益をもって損害額とする控訴人の主張は,被控訴人の同販売が本件特許権侵害不法行為に該当する場合に認められるものであって,シャープの直接侵害による不法行為による損害として認められるものでない。
なお,控訴人に実施料相当の損害が発生していることが窺われるが,その旨の主張もなく,同損害算定の基礎となるシャープの販売額等を明らかにさせる証拠もないから,これを認め得ない。
イ 弁護士費用相当の損害額 前記認定説示と弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件特許権侵害に関する共同不法行為につき本訴を提起する必要があり,そのため,本件訴訟代理人,補佐人らに訴訟の提起,その遂行を委任せざるを得ず,弁護士費用等の支出を余儀なくされたことが認められるところ,本件共同不法行為相当因果関係のある損害額を70万円とするのが相当である。
なお,不法行為責任の認められない請求部分やこれと無関係な請求部分に関する弁護士費用等の支出が上記共同不法行為相当因果関係のあるものとはいえないから,認められないことはいうまでもない。
6 結論 以上の次第で,控訴人の請求は,前記の限度で相当であるからその限度で認容し,その余を不相当としてを棄却すべきであり(なお,STPー5Sは,当該型式名を付した製造,販売が間接侵害に該当するのであって,その製造,販売が適法であるSTPー5Pと同一製品なのであるから,STPー5Sの廃棄は認められるが,これを組成する物品の廃棄,同製造,販売行為に供した設備の除去はいずれも認められない。),したがって,原判決は,一部相当であり,一部不相当であるから,変更し,当審請求は,一部相当であり,一部不相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(平成14年6月5日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 若林諒
裁判官 小野洋一
裁判官 西井和徒