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関連審決 審判1998-3280
関連ワード 技術的思想 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  技術的意義 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 395号 審決取消請求事件
原告 エーエム イー−テック エレクトロニッシェ マテリアーリエン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
訴訟代理人弁護士 加藤義明
同 鹿野直子
訴訟復代理人弁護士 角田邦洋
訴訟代理人弁理士 久野琢也
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 刈間宏信
同 蓑輪安夫
同 大島祥吾
同 山口由木
同 林栄二
同 高木進
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第3280号事件について平成12年5月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2項と同旨
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「電磁的な遮蔽を有するケーシングを製造する方法」(その後「電磁的な遮蔽部を有するケーシングを製造する方法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき,1993年6月14日にドイツ国においてした特許出願及び1994年3月8日にドイツ国においてした実用新案登録出願に基づく優先権を主張して,平成6年6月14日に特許出願(平成6年特許願第132212号)をしたところ,平成9年12月2日発送の拒絶査定があったので,平成10年3月2日,審判の請求をし,平成10年審判第3280号として審理されたが,平成12年5月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(出訴期間として90日を附加)があり,その謄本は同年6月19日原告に送達された。
2 平成9年1月14日付け手続補正書(甲第3号証)における特許請求の範囲の請求項8(以下「本願請求項8」という。)に係る発明(以下「本願発明8」という。)の要旨 「ケーシング(1,4),特に電子的な機能部材のためのケーシングであって,ケーシングの内室を電磁的な放射に対して遮蔽し,少なくとも1つのケーシング部分の所定の区分に配置された遮蔽成形部(8)を有し,この遮蔽成形部(8)が弾性並びに導電性の材料から成っている形式のものにおいて,弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部(8,180)がケーシング部分(1)の前記区分(3a)の上に直接にかつ該区分(3a)に固着して形成されていることを特徴とする,電磁的な遮蔽部を有するケーシング。」 なお,上記のうち,括弧内の数字等は,本件願書(甲第2号証)に添付された図面中の該当部分を指すものであるが,本判決への図面の添付は省略する。
3 審決の理由 本件審決の理由は,別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりである。要するに,本願発明8は,その出願前に日本国内において頒布された刊行物(特開平5-7177号公報,甲第4号証。以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その余の請求項1ないし7,9ないし22に係る本願発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである,というものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本願発明8と引用例記載の発明とを対比するに際し,以下のとおり,引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」(以下,単に「導電性シリコーンゴムによるパッキング」ともいう。)が本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」に相当する旨認定を誤ったため,両発明の一致点の認定を誤るとともに,本願発明8の奏する作用効果を看過,誤認し,その結果,本願発明8が引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができるものであると誤って判断したものであって,違法であるから取り消されるべきである。
1 本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」に関する認定の誤り (1) 平成9年1月14日付け手続補正書(甲第3号証)によって補正された本願明細書に記載されているように,本願発明8は,「特殊なケーシングのために必要であるような複雑に成形されたシールは装着するために特殊な装置を必要とし,このためにケーシングの製作費用を高くする。さらに正確な装着は時間がかかり,付加的な後点検を必要とする。」(甲第3号証の段落【0011】。以下甲第3号証の段落を引用する場合には,「甲3・段落」として引用する。)という従来技術の問題点に由来するもので,「この方法で製作されたケーシングは,電磁的及び機械的な要求を十分に充たす遮蔽成形部を備え,これはケーシングを繰返し開放したあとでも良好な機能を有していなければならない。」(甲3・段落【0014】)ことを課題としており,この課題は,「請求項8の特徴を有するケーシングによって解決され」(甲3・段落【0015】)ている。そして,本願請求項8の特徴を有するケーシングは,「・・・遮蔽成形部を別個に形成するのではなく,・・・直接的にかつプレス型なしでケーシングの上に,・・・シールしようとする範囲に亙って案内された,・・・ペースト状の材料によって形成するという思想を有している。この方法で,あらかじめ製作されるシール成形体に付随する取扱い上の問題,型プレスの方法的欠点は回避され,必要な場合に種々異なる横断面を有する成形部及び又は種々異なる材料特性(弾性,導電性,チキソトロピ等)を有する部分区分から成る成形部を形成することができるようになった。」(甲3・段落【0016】)という特有の効果を奏するものである。
このように,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「電磁的及び機械的な要求を十分に充た」し,かつ「ケーシングを繰返し開放したあとでも良好な機能を有」するために,「必要な場合に種々異なる横断面を有する成形部」でなければならない。この場合,明細書の実施例の記載によれば,「遮蔽成形部8の寸法(横断面)及び形状は使用される導電性のプラスチック材料の物理化学的な特性,特にその硬化速度,粘性,ケーシング材料に対する表面張力,チキソトロピによってかつカニューレの横断面,ピストンに生ぜしめられる圧力,針の運動速度並びに環境の影響,例えば製造場所における温度と湿度によって決定されるので,これらのパラメータを適当に選択することであらかじめ定めることができる。」(甲3・段落【0033】)ものである。そして,遮蔽成形部の横断面の例としては,本願図面(図4〜図13)に示されたものがある。例えば,図5には,「扁平に湾曲された,幅の広い導電性の成形部82aとその上にディスペンスされた導電性の部分82cと導電性ではない部分82bとから成るケーシング区分12の上の成形部構造」(甲3・段落【0045】)が示されており,図8には,「扁平なウエブによって結合された2つの隆起部85aと85bとを有している」(甲3・段落【0052】)遮蔽成形部が示されており,これは「縁成形された旋回閉鎖体を有するケーシングにとって合目的的であ」(甲3・段落【0053】)り,図9には,「導電性の良い材料から成る円形横断面を有する複数の成形ストランドから特に半円形にケーシング表面16の上に構成された遮蔽成形部86が示されて」(甲3・段落【0054】)おり,これは「その構成部分の弾性が比較的に悪いにも拘らず成形体全体に良好な弾性を与える」(甲3・段落【0055】)ものであり,図10には,「リップ状の,同様に円形横断面を有する複数のストランドから,・・・ケーシング表面17の上に構成された成形部87が示されて」(甲3・段落【0056】)おり,「この成形部87は旋回閉鎖体に適して」(甲3・段落【0056】)おり,図11には,「方形の溝18aを有するケーシング表面の上に配置されたT字形の成形部88が示されて」(甲3・段落【0057】)おり,「この遮蔽成形部はケーシング表面と材料接続されているだけではなく,形状接続されており,その安定性が付加的に高められて」(甲3・段落【0058】)おり,そして図12には,「ほぼ方形の横断面を有するブロック89aから成る成形部構造」(甲3・段落【0059】)と「その上に並べて扁平に湾曲された2つの成形部分89bと89cとが」(甲3・段落【0059】)示されており,「この成形部構造はその横断面が大きいことにより,特に強い磁界に対して遮蔽するのに適している。しかしながら載着されたシールリップ89bと89cとにより十分な弾性をも有している」(甲3・段落【0059】)。
そしてさらに,本願発明8の遮蔽成形部は,「もちろん-使用目的に応じて-他の横断面(ほぼ任意の)も実現可能」(甲3・段落【0060】)となっている。
以上のように,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するにほかならない。
(2) 本願発明8の作用効果としては,上記のとおり,必要な場合に種々異なる横断面に成形された遮蔽成形部によって,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすことができる。さらに,本願明細書の【発明の課題】(甲3・段落【0014】)には,「この方法で製作されたケーシングは,電磁的及び機械的な要求を十分に充たす遮蔽成形部を備え,これはケーシングを繰返し開放したあとでも良好な機能を有していなければならない。」との記載があり,甲3・段落【0026】には,「遮蔽シールが開口の容易な開閉を可能にする構成をとるように施されることによって実現される。」との記載がある。これらの記載によれば,本願発明8のケーシングは,その遮蔽成形部の横断面を任意の形状に変化させることができるため,開閉式のケーシングにも対応することができるものである。例えば,遮蔽成形部の横断面を図10にある形状のように形成することで,ケーシングを繰り返し開閉することが可能となるのである。このように,遮蔽成形部の形状を横断面を任意に成形することができることによって,本願発明8のケーシングの用途は格段に広がるのである。
(3) 被告は,前記(1)の点に関し,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」には,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に形成され」るという技術内容が含まれない旨主張する。その根拠としては,本願請求項8には,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に形成されたもの」を意味する記載がないこと,「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」を文言上一義的に確定し得ることを挙げている。
確かに,本願請求項8自体には「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に形成されたもの」を直接意味する記載は存在しない。しかし,本願請求項8の「遮蔽成形部」という記載のみによっては,その横断面の形状が特定されないことは明らかであって,それゆえ,本願請求項8の技術的意義を一義的に明確に理解することができるということはできない。そこで,本願発明8の技術的意義を確定するためには,明細書の発明の詳細な説明の記載を考慮せざるを得ない。この点,被告の主張は,明細書の発明の詳細な説明の記載を何ら考慮することなく,本願請求項8の形式的記載のみから,「弾性と導電性との二つの性質を有する材料から成り,電磁的な放射に対して遮断を行い,成形により作られる部分を意味するものであって,その技術的な意味は,一義的に明確」としているが,この主張は技術内容を不当にゆがめるものであり,失当である。
次に,被告は,明細書の発明の詳細な説明のいずれにも本願請求項8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」という記載を,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に形成されたもの」と解釈すべき根拠となる記載は存在しないと主張する。
しかし,本願明細書の甲3・段落【0014】には,発明の課題として,「種々異なる要求に簡単な形式で,しかもミニチュア化された構造形式でも適合できるものを提供する」とある。さらに,明細書の「課題を解決する手段」の欄の記載のうち,次に挙げる各記載を見ると,被告の主張は事実に反することが明らかとなる。
すなわち,本願明細書の甲3・段落【0016】には,「必要な場合に種々異なる横断面を有する成形部」,甲3・段落【0017】には,「複雑に形成されたケーシングもしくはケーシング開口にも小さなシリーズで経済的に必要な遮蔽作用を有するシールを設けることができる。」,甲3・段落【0020】には,「曲げられたリップ成形部又は中空成形部の場合のように曲げ変形によって得られる成形横断面も形成することができる。」,甲3・段落【0022】には「複雑な形をした,その経過に沿って変化する寸法を有するシールを特別な困難なしで形成することができる。この場合,横断面はシールしようとする縁に沿って広い範囲でその都度の要求に応じて変化させることができる。さらにケーシングとは離して一体形成しかつ取付けることができないような形で連続した遮蔽成形部も形成することができる。」,甲3・段落【0026】には,「遮蔽シールが開口の容易な開閉を可能にする構成をとるように施されることによって実現される。」,甲3・段落【0027】には,「成形部全体の材料特性を横断面において又は成形部の経過において位置に関連して変化させることができる。」との各記載がある。これらは,いずれも「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」の横断面の形状が,種々の形状を有し,しかも,その形状は使用目的に応じて任意に選択し得ることを示すものといえる。また,「実施例」の記載を見ても,甲3・段落【0060】に,「-使用目的に応じて-他の横断面(ほぼ任意の)も実現可能」とあり,「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」の横断面の形状は,使用目的に応じて任意に選択し得ることを示している。
上記の多くの記載は,明らかに遮蔽成形部の横断面の形状が使用目的に応じて任意に形成することができることを意味している。これらの記載を考慮すると,本願請求項8における遮蔽成形部を必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に形成されたものと解釈すべき根拠となる記載は存在しないとする被告の主張は根拠のないものといわざるを得ない。
以上のように,被告の主張は,発明の認定を本願請求項8の形式的な記載から不当に歪曲して認定するのみならず,「従来技術」,「発明の課題」,「課題を解決する手段」及び「実施例」の各記載に存する多くの技術的意義を無視することを前提としており,到底賛同することができない。
2 引用例記載の発明の「導電性シリコーンゴムによるパッキング」に関する認定の誤り (1) 引用例(甲第4号証)には,「上述のようにして配合した自己接着性の導電性液状シリコーンゴムは,ポンプ輸送が可能であり,例えばノズル吐出によりハードディスク上に施すことができ,この場合の仕上がり断面形状は通常半球状となる。
しかしながら,ノズルの高さ等の吐出条件を適宜調整することによって上部がフラットな半球状とすることもできる。」(甲第4号証の段落【0015】。以下甲第4号証の段落を引用する場合には,「甲4・段落」として引用する。),「塗布条件は,・・・とし,塗布終了後,これをそのまま150℃の熱風乾燥機に入れて硬化させ,次いで冷却したところ,高さ2.5mm,幅3.5mmで半球状断面を有し,体積抵抗率が2.0Ω・cmのパッキングが得られた。」(甲4・段落【0022】),「実施例2・・・熱風乾燥機の設定温度を140℃とした他は実施例1と同様にして塗布し,アルミニウム製カバー上にパッキングを設けた。得られたパッキングは,高さ2.5mm,幅3.5mmの半球状断面を有し,体積抵抗率が1.0Ω・cmであり,これはカバー材表面に充分良好に接着していた。」(甲4・段落【0024】)と記載されているように,引用例の導電性液状シリコーンゴムによるパッキングは,単に,半球状の断面形状を有するものにすぎない。
したがって,このような単純な半球状の横断面でしかないパッキングでは,本願発明8のように,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすべく,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面を有するような遮蔽成形部を実現することはできない。
(2) 引用例記載の発明の作用効果については,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面を有するような遮蔽成形部を実現することはできないことから,本願発明8のように,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすことができない。さらに,引用例では,甲4・段落【0018】に「このようにして得られたパッキングを有するカバーパッキング組立体を電話機本体を取り付けた筺体にビスなどで締め付け1体化することにより携帯用電話機が製造される」と記載されている。この記載を前提とすれば,引用例の「シリコーンゴムによるパッキング」は,カバーがいったん接着されると,その後にはカバーを開けないことを前提としている。
つまり,引用例の「シリコーンゴムによるパッキング」が用いられる対象は,本願発明8とは異なり,開閉式のカバーないしケーシングを含まないということになる。
3 一致点の認定及び進歩性の判断の誤り (1) 以上のように,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」と引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」とは,達成し得る横断面形状において本質的に相違しているのであるから,引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」が本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」に相当するとした審決の認定は,明らかに誤りである。したがって,本願発明8の遮蔽成形部が引用例記載の発明の導電性液状シリコーンゴムによるパッキングに相当することを前提とした,審決の一致点の認定(審決書4頁5行〜9行)も誤りであることは明らかである。
そして,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」が引用例に記載されていない以上,必要な場合に種々異なる横断面に成形された遮蔽成形部によって,電磁的及び機械的な要求を十分に充たし,ケーシングを繰返し開放したあとでも良好な機能を有するという本願発明8の目的又は作用効果を,引用例記載の発明の「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」が達成し得ないことは明らかである。それゆえ,本願発明8の効果は,引用例に記載のものから容易に予測し得るものであるという審決の判断(審決書4頁16行〜17行)も誤りである。
(2) 被告は,仮に,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたものを意味するにほかならないとしても,引用例記載の発明の「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」は,本願明細書に記載のように,「必要な場合に種々異なる横断面を有する成形部」として実現されたものということができ,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料からなる遮蔽成形部」に相当するとした審決の認定に誤りはなく,結果として,審決の一致点の認定にも誤りはないなどと主張する。
確かに,被告の主張するように,本願請求項8に「携帯用電話」への使用を排除する記載はない。また,本願明細書に遮蔽成形部の横断面の範囲から半球状から上部がフラットな半球状を排除する記載もない。
しかし,遮蔽成形部の横断面の形状は,先に述べた本願明細書の「従来技術」,「発明の課題」,「課題を解決する手段」及び「実施例」の欄の各記載に存する多くの技術的意義からも明らかなように,多様性に富むことは明らかである。次に,本願明細書に記載されている具体的な実施例を見ても,引用例の「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」の断面形状のそれとは比較にならない多様性を有している。例えば,図11に代表されるとおり,本願発明8のケーシングは,遮蔽成形部の横断面の形状を単に「円形横断面」「半球状」「上部がフラットな半球状」にとどまることなく,完全にフラットな形状に成形したものも含むのである。
これに対し,引用例では「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」の断面形状について,「仕上がり断面形状は通常半球状となる。しかしながら,ノズルの高さ等の吐出条件を適宜調整することによって上部がフラットな半球状とすることもできる。」(甲4・段落【0015】)と記載するのみである。この記載からは,引用例の「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」の断面形状は,「半球状」ないし「上部がフラットな半球状」であるといえる。
被告は,引用例の「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」の断面形状も(必要により)任意に成形することができる旨主張するが,前記の引用例の記載からは,引用例の導電性液状シリコーンゴムによるパッキングの断面形状を通常の半球状から上部がフラットな半球状に成形すること,つまり半球状の範囲内での成形が可能であることが把握されるにとどまり,これは横断面の形状を半球状に限らず任意の形状に成形することができるという本願発明8の技術的思想とはほど遠いものといえる。被告の主張にも「断面形状を,少なくとも半球状から上部がフラットな半球状の範囲において,任意の形状に形成することができる」とあり,断面形状のバリエーションが半球状に限定されていることがうかがえる。それでもなお,引用例の導電性液状シリコーンゴムによるパッキングの断面形状を任意の形状に成形できるとする被告の主張には,無理があるといわざるを得ない。
被告の反論の要点
1 本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」について 原告は,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するにほかならないと主張している。
しかしながら,本願請求項8には,「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」について,「ケーシングの内室を電磁的な放射に対して遮蔽し,少なくとも1つのケーシング部分の所定の区分に配置され」ること,及び「ケーシング部分(1)の前記区分(3a)の上に直接にかつ該区分(3a)に固着して形成されている」ことが記載されているのみで,原告が主張するような,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味する記載は,何ら存在しない。
そして,本願発明8の認定は,特許請求の範囲の請求項の記載に基づいて行われるべきものであり,本願請求項8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」という記載は,弾性と導電性との二つの性質を有する材料から成り,電磁的な放射に対して遮蔽を行い,成形により作られる部分を意味するものであって,その技術的な意味は,一義的に明確に理解することができる。
また,発明の詳細な説明の「産業上の利用分野」,「従来技術」,「発明の課題」,「課題を解決する手段」,「実施例」の各記載を参照しても,本願請求項8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」という記載を,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」と解釈すべき根拠となる記載は存在しない。
したがって,発明の詳細な説明又は図面に,本願請求項1〜22に係る発明を説明するための実施例として,種々異なる横断面をもつ遮蔽成形部が記載されていても,本願請求項8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」を,本願請求項8に記載がない該成形部の横断面について,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」と限定的に解釈する理由はなく,原告の上記主張は,失当である。
2 引用例記載の発明の「導電性シリコーンゴムによるパッキング」について 上記のとおり,本願請求項8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」という記載は,弾性と導電性との二つの性質を有する材料から成り,電磁的な放射に対して遮蔽を行い,成形により作られる部分を意味するものであって,「横断面」について何ら限定するものではない。
一方,引用例の「導電性シリコーンゴムによるパッキング」は,「導電性」を有することは,明らかであるし,「ゴム」で作られた「パッキング」であることからみて,少なくともパッキングとしての機能を果たすために必要な弾性を有していることも明らかであるから,「弾性並びに導電性の材料から成る」ということができる。また,当該パッキングは,引用例に「導電性シリコーンゴムパッキングはEMIシールド性に優れており,携帯用電話機の外部電磁波による誤動作及び着信時に発生する有害な電磁波の漏洩を防止する効果がある」(甲4・段落【0019】)と記載されているように,携帯用電話機の電磁的な放射に対する遮蔽を行うものである上,「本発明においては,上述した自己接着性の導電性液状シリコーンゴムをFIPG法にて携帯用電話機カバーの継ぎ目部に被覆し,カバーパッキング組立体とする」(甲4・段落【0016】)という記載と,「FIPG(Formed In Place Gasket)法とは,自由成形ガスケット又は現場成形ガスケットと言われるものであり」(甲4・段落【0017】)という記載からみて,成形により作られるものであって,「本発明において使用する液状シリコーンゴムは,付加硬化型又は縮合硬化型の公知の液状シリコーンゴムの中から適宜選択して使用することができる」(甲4・段落【0007】)と記載されているように,成形後の硬化により形状が安定し,パッキングとして機能するから,「遮蔽成形部」にほかならない。
なお,原告は,引用例の導電性液状シリコーンゴムによるパッキングは,本願発明8のように,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすべく,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面を有するような遮蔽成形部を実現することはできないと主張するが,後記3(2)に記載したとおり,引用例を正しく理解していないものであって妥当でない。
3 一致点の認定及び進歩性の判断について (1) 以上のとおり,引用例記載の発明における「導電性シリコーンゴムによるパッキング」が,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料からなる遮蔽成形部」に相当するとした審決の認定に誤りはなく,これを前提に両発明の一致点,相違点の認定,検討を経て,本願発明8の効果は,引用例に記載のものから容易に予測し得るものであるとした審決の判断にも誤りはない。
(2) 仮に,原告が主張するように,本願発明8の弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部とは,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたものを意味するにほかならないとしても,引用例記載の発明における「導電性シリコーンゴムによるパッキング」が,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料からなる遮蔽成形部」に相当するとした審決の認定に誤りはなく,結果として,審決の一致点の認定に誤りはない。
原告は,引用例の導電性シリコーンゴムによるパッキングについて,本願発明8のように,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすべく,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面を有するような遮蔽成形部を実現することはできないと主張している。
引用例には,「導電性シリコーンゴムによるパッキング」の横断面について,「上述のようにして配合した自己接着性の導電性液状シリコーンゴムは,ポンプ輸送が可能であり,例えばノズル吐出によりハードディスク上に施すことができ,この場合の仕上がり断面形状は通常半球状となる。しかしながら,ノズルの高さ等の吐出条件を適宜調整することによって上部がフラットな半球状とすることもできる。」(甲4・段落【0015】)と記載されている。また,ノズル吐出により成形されるシリコーンゴムの横断面形状は,吐出条件の一つとして,シリコーンゴムの粘度によっても影響されると思料するところ,引用例には,「本発明で使用する導電性液状シリコーンゴムは,作業性や形態保持性の観点から,回転粘度計で測定した25℃における粘度が,1,000ポイズ〜100万ポイズの範囲になるように前記の各素材を配合することが好ましく」(甲4・段落【0014】)と記載されている。また,引用例には,「予め記憶させたパターンに従って・・・設置することができる」(甲4・段落【0017】),「導電性シリコーンゴムパッキングはEMIシールド性に優れており,携帯用電話機の外部電磁波による誤動作及び着信時に発生する有害な電磁波の漏洩を防止する効果がある」(甲4・段落【0019】)と記載されている。
上記の引用例の各記載を考慮すると,引用例の「導電性シリコーンゴムによるパッキング」は,少なくとも携帯用電話機のパッキングとして,対象となるカバー部材に応じて,成形時のノズル高さや,シリコーンゴムの粘度等の吐出条件を適宜調整することで,その仕上がり断面形状を,少なくとも半球状から上部がフラットな半球状の範囲において,任意の形状に成形することができるものであることは,明らかである。
これに対して,本願請求項8には,「電子的な機能部材」と記載されているだけであって,各種の「携帯用電話機」への使用を排除する記載はない。また,本願明細書には,「単数又は複数の開口から流出するペースト状の材料によって形成するという思想を有している。この方法で・・・必要な場合に種々異なる横断面を有する成形部及び又は種々異なる材料特性・・・を有する部分区分から成る成形部を形成することができるようになった。」(甲3・段落【0016】)と記載されており,その横断面として,半球状から上部がフラットな半球状の範囲の横断面を排除する記載もない。そればかりか,本願明細書には,「図4から図7までには弾性の小さい導電性のシール部分(ハッチングで図示)が,導電性ではない,金属添加物がないために弾性的であるシール部分と組合わされている」(甲3・段落【0043】)こと,及び「図4には特に2つの塗布ステップでケーシング部分11の表面に横に並べて施された,ほぼ円形横断面を有する成形部81a,81bにより形成された遮蔽及びシール構造が示されている」(甲3・段落【0044】)ことが,それぞれ記載され,第4図には,ケーシング部分11上に,ハッチングを有するほぼ円形横断面の成形部81bと,ハッチングを有しないほぼ円形横断面の成形部81aとが形成されている旨,図示されているから,本願明細書及び図面には,半球状の横断面に類似する「ほぼ円形横断面」である「弾性の小さい導電性のシール部分」が例示されている。
そうすると,本願明細書において「必要な場合」とは,引用例に記載のような携帯用電話機のカバーの形状等に対応する場合を含む上,本願明細書に記載の「遮蔽成形部の横断面」とは,「ほぼ円形横断面」はもちろんのこと,引用例と同じ「半球状」や「上部がフラットな半球状」の横断面をも含む概念であるから,引用例の導電性シリコーンゴムによるパッキングは,本願明細書に記載のように,「必要な場合に種々異なる横断面を有する成形部」として実現されたものといえるのであり,原告の主張は,引用例を正しく理解していないものであって妥当でない。
当裁判所の判断
1 本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するとの原告の主張(第3の1(1),(3))について (1) 検討するに,原告主張のとおり,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味すると仮定しても,「必要な場合」及び「使用目的」を限定しておらず,「横断面」が「任意」であるというのであって,本願発明8が製造装置ないし方法に関する発明であればともかく,本願発明8は本願請求項8の「ケーシング」という製品に関する発明であるから,その製品の一部である「遮蔽成形部」の横断面の形状を限定するものということができるのかということ自体に疑問の余地がある。その点をおくとしても,以下の理由から原告の主張は採用することができない。
(2) 特許出願に係る発明の要旨の認定は,原則として,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである場合など,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。
(3) 本願請求項8の記載をみると,「ケーシング(1,4),特に電子的な機能部材のためのケーシングであって,ケーシングの内室を電磁的な放射に対して遮蔽し,少なくとも1つのケーシング部分の所定の区分に配置された遮蔽成形部(8)を有し,この遮蔽成形部(8)が弾性並びに導電性の材料から成っている形式のものにおいて,弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部(8,180)がケーシング部分(1)の前記区分(3a)の上に直接にかつ該区分(3a)に固着して形成されていることを特徴とする,電磁的な遮蔽部を有するケーシング。」というものであり,「遮蔽成形部」について,同請求項に「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を直接意味する記載は存在しない(この点は原告も争わない。)。
そこで,原告は,本願請求項8の「遮蔽成形部」という記載のみによっては,その横断面の形状が特定されないことは明らかであって,本願請求項8の技術的意義が一義的に明確に理解することができず,本願発明8の技術的意義を確定するためには,明細書の発明の詳細な説明の記載を考慮せざるを得ないと主張し,本願明細書の発明の詳細な説明の「従来技術」,「発明の課題」,「課題を解決する手段」及び「実施例」の記載を引用し,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するにほかならないと主張する。
しかし,請求項には発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならないものであるから,本願請求項8の記載で遮蔽成形部の横断面の形状が特定されていないということは,本願請求項8に係る発明である本願発明8は,横断面の形状を構成要件としないことを意味するものというべきである。そして,課題を解決するための構成は,課題から一義的に決まるのではなく,種々のものが可能であり,本願発明8は,本願請求項8記載の構成により課題を解決するという技術的意義を有するものというべきであり,明細書の発明の詳細な説明の記載を参照して横断面の形状を特定しなければ本願発明8の技術的意義の確定ができないというようなものとは認められない。よって,本件においては,明細書の発明の詳細な説明の「従来技術」,「発明の課題」,「課題を解決する手段」及び「実施例」の記載を参酌することが許される特段の事情を認めることはできない。
したがって,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するとの原告の主張は,採用することができない。
2 引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」が本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」に相当するとした審決の認定とこれを前提とした一致点の認定について (1) 原告は,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味すると主張した上(第3の1(1),(3)),引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」は,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面を有するような遮蔽成形部を実現することはできないと主張し(第3の2(1)),本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」と引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」とは,達成し得る横断面形状において本質的に相違しているのであるから,引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」が本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」に相当するとした審決の認定は,明らかに誤りであり,本願発明8の遮蔽成形部が引用例記載の発明の導電性液状シリコーンゴムによるパッキングに相当することを前提とした審決の一致点の認定(審決書4頁5行〜9行)も誤りであることは明らかであると主張する(第3の3(1))。
(2) 原告の上記主張は,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するとの主張を前提とするものであるところ,前記1において説示したように,この原告の主張は,採用することができないものである。そうすると,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」と引用例記載の発明における「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」とは,達成し得る横断面形状において本質的に相違しているとの原告の主張もまた,前提を欠くものとして,採用することができない。
そして,引用例の「導電性シリコーンゴムによるパッキング」についてみるに,これが弾性及び導電性を有することは明らかであり,また,引用例に「本発明によれば・・・金型,抜き型が不要である。又,直接カバー上へ成型・接着させるために・・・打ち抜き品のカットロスがない。又,導電性シリコーンゴムパッキングはEMIシールド性に優れており,携帯用電話機の外部電磁波による誤動作及び着信時に発生する有害な電磁波の漏洩を防止する効果がある」(甲4・段落【0019】),「本発明においては,上述した自己接着性の導電性液状シリコーンゴムをFIPG法にて携帯用電話機カバーの継ぎ目部に被覆し,カバーパッキング組立体とする」(甲4・段落【0016】)及び「FIPG(Formed In Place Gasket)法とは,自由成形ガスケット又は現場成形ガスケットと言われるものであり」(甲4・段落【0017】)と記載されており,引用例のパッキングが直接成型される遮蔽成形部であることも明らかである。そうすると,審決が引用例記載の発明における「導電性シリコーンゴムによるパッキング」は本願発明8における「弾性並びに導電性の材料からなる遮蔽成形部」に相当するとした点に誤りはなく,したがって,審決の一致点の認定にも誤りは認められない。
3 本願発明8の作用効果,進歩性について (1) 原告は,本願発明8の作用効果として,必要な場合に種々異なる横断面に成形された遮蔽成形部によって,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすことができること,遮蔽成形部の横断面を任意の形状に変化させることができるため,開閉式のケーシングにも対応することができ,用途が格段に広がることを主張し(第3の1(2)),引用例記載の発明の作用効果として,必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面を有するような遮蔽成形部を実現することはできないことから,電磁的及び機械的な要求を十分に充たすことができないこと,引用例が用いられる対象は,開閉式のカバーないしケーシングを含まないことを主張する(第3の2(2),3(2))。そして,本願発明8の「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」が引用例に記載されていない以上,必要な場合に種々異なる横断面に成形された遮蔽成形部によって,電磁的及び機械的な要求を十分に充たし,ケーシングを繰返し開放した後でも良好な機能を有するという本願発明8の目的又は作用効果を,引用例記載の発明の「導電性液状シリコーンゴムによるパッキング」が達成し得ないことは明らかであり,それゆえ,本願発明8の効果は,引用例に記載のものから容易に予測し得るものであるという審決の判断(審決書4頁16行〜17行)も誤りであることを主張する(第3の3(1))。
(2) しかしながら,作用効果に関する原告の主張も,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料から成る遮蔽成形部」とは,「必要な場合に使用目的に応じて種々異なる任意の横断面に成形されたもの」を意味するとの主張が前提になっているところ,前記1において説示したように,この原告の主張は,採用することができないものである。そうすると,本願発明8と引用例記載の発明との作用効果の対比を述べる原告の主張も,前提を欠くものとして,採用することができない。また,本願請求項8の記載内容は,前記のとおりであるところ,作用効果ないし用途についても,具体的な限定はされていないのであって,原告の上記主張は,本願請求項8の記載に基づかない主張であるともいい得るものである。
そして,前記2に判示したとおり,引用例記載の発明における「導電性シリコーンゴムによるパッキング」は,本願発明8における「弾性並びに導電性の材料からなる遮蔽成形部」に相当するものということができ,本願発明8と引用例記載の発明とは,このような「遮蔽成形部」や「パッキング」による作用効果に関しては同等のものということができる。したがって,本願発明8の効果は,引用例に記載のものから容易に予測し得るものであるという審決の判断(審決書4頁16行〜17行)にも誤りはない。 4 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 田中昌利