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事件 平成 14年 (ワ) 583号 特許権専用実施権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件
原告 旭鋼機株式会社
原告 旭リサイクルサポート株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 北村行夫
同 永野周志
被告 リサイクルサポート株式会社
被告 中央機工株式会社
被告 株式会社古賀機械製作所
被告ら訴訟代理人弁護士 藤井信孝
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2002/09/12
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1(1) 原告旭鋼機株式会社と被告リサイクルサポート株式会社との間で、被告リサイクルサポート株式会社は、特許第3099269号特許権についての専用実施権に基づき、原告旭鋼機株式会社が別紙物件目録記載の各物件を製造販売することを差し止める権利を有しないことを確認する。
(2) 原告旭リサイクルサポート株式会社と被告リサイクルサポート株式会社との間で、被告リサイクルサポート株式会社は、特許第3099269号特許権についての専用実施権に基づき、原告旭リサイクルサポート株式会社が別紙物件目録記載の各物件を販売することを差し止める権利を有しないことを確認する。
2(1) 被告らは、原告旭鋼機株式会社による別紙物件目録記載の各物件の製造販売が特許第3099269号特許権又は同特許権の専用実施権侵害する旨を第三者に告知又は流布してはならない。
(2) 被告らは、原告旭リサイクルサポート株式会社による別紙物件目録記載の各物件の販売が特許第3099269号特許権又は同特許権の専用実施権侵害する旨を第三者に告知又は流布してはならない。
事案の概要
(略称)原告旭鋼機株式会社 ― 原告旭鋼機 原告旭リサイクルサポート株式会社 ― 原告旭リサイクル 被告リサイクルサポート株式会社 ― 被告リサイクル 被告中央機工株式会社 ― 被告中央機工 被告株式会社古賀機械製作所 ― 被告古賀機械 株式会社アグリックス ― アグリックス社 S ― S 株式会社大真 ― D社 株式会社福岡機器製作所 ― F社 東芝機械株式会社 ― T社 日本ノーブルシステム株式会社 ― JNS社 後記基本的事実2(4)の特許権 ― 本件特許権 本件特許権の特許権者 ― 本件特許権者 本件特許権に係る発明 ― 本件発明 後記基本的事実3(4)の専用実施権 ― 本件専用実施権 別紙「有機リサイクル装置事業に関する基本覚書」(甲10)記載の覚書 ― 本件基本覚書 別紙「リサイクル装置特許実施料に関する覚書」(甲11)記載の覚書 ― 本件実施料覚書(事案の要旨) 本件は、原告らによる別紙物件目録記載の各物件の製造又は販売について、被告リサイクルが本件特許権の専用実施権に基づく差止請求権を有しないにもかかわらず、これを有すると主張しているとして、原告らが、被告リサイクルに対し、前記差止請求権の不存在確認を請求するとともに、原告らと競争関係にある被告らにおいて、原告らによる前記各物件の製造又は販売が本件特許権又は本件専用実施権侵害する旨の虚偽の事実を原告の取引先に告知した(不正競争防止法2条1項14号)として、原告らが、被告らに対し、不正競争防止法3条1項に基づく差止請求をした事案である。
(基本的事実)(証拠の記載のない事実は、当事者間に争いがない。) 1(1) 原告旭鋼機は、鉄鋼材及び第二次製品並びに非金属材料販売業等を目的とする株式会社である(甲5)。
(2) 被告中央機工は、鉄工業等を目的とする株式会社である(甲7)。
(3) 被告古賀機械は、機械器具設置工事業等を目的とする株式会社である(甲8)。
2(1) Sは、本件発明の発明者である。
(2) 原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、D社(その代表取締役はSである。)に対し、各2億円以上の債権を有していた。
(3) 原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、前記(2)の債権回収の趣旨で、Sから、本件発明について特許を受ける権利を譲り受けた。
(4) 原告旭鋼機及び被告中央機工は、平成9年9月30日、本件特許の特許出願手続を行った。後に、被告古賀機械も、その特許出願人に加わり(乙8及び弁論の全趣旨)、本件特許権は、平成12年8月18日、この3社を特許権者として登録された。本件特許権の詳細は、次のとおりである。
特許番号 第3099269号 発明の名称 堆肥化装置及び堆肥化装置における有機廃棄物の撹拌方法 出願年月日 平成9年9月30日(特願平9-284660) 登録年月日 平成12年8月18日 特許請求の範囲 別紙特許公報【特許請求の範囲】欄記載のとおり。
(5) 別紙物件目録記載の各物件は、いずれも本件発明の実施品である。
3(1) 原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、平成12年5月、
別紙「有機リサイクル装置事業に関する基本覚書」(甲10)記載の覚書(本件基本覚書)を締結した。
(2) 本件基本覚書1条に記載された「有機システム有限会社」は、平成12年5月23日、産業廃棄物のリサイクルに関する研究開発及び廃棄物処理機の設計、
製作、販売等を目的として設立された。同社は、同年11月27日、「リサイクルサポート有限会社」に商号変更の上、同年12月6日、被告リサイクルに組織変更された(乙1、甲9)。
(3) 本件基本覚書3条に記載された原告旭リサイクルは、平成12年7月19日、産業廃棄物のリサイクルに関する研究開発及び廃棄物処理機の設計、製作、販売等を目的として設立された(甲6)。
(4) 原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、平成12年12月12日、被告リサイクルとの間で、本件特許権について次の内容の専用実施権(本件専用実施権)を設定する旨の契約を締結し、同13年1月9日、その旨の登録手続を了した。
専用実施権者 被告リサイクル 範囲 地域 日本国内全域 期間 本件特許権消滅の日まで 内容 全部 対価の額 無償 4(1) 原告旭リサイクルは、平成13年9月17日、第三者から、別紙物件目録記載の物件の一つであるADS-100VTの2ユニットの注文を受け、これを原告旭鋼機に発注した(弁論の全趣旨)。
(2) 原告旭鋼機は、前記(1)の履行のために、T社に対し、その設計図面の作成を依頼するとともに、F社に対しては、同設計図面に基づく製造を依頼した(乙20〜22)。
5(1) 被告らは、平成13年12月7日付け書面(甲15、16)において、T社及びF社に対し、前記4(2)の各行為について同社らが本件特許権の専用実施権侵害する旨を通知した。
(2) 被告リサイクルは、本件訴訟においても、原告らによる別紙物件目録記載の各物件の製造又は販売行為について、被告リサイクルが本件特許権の専用実施権に基づく差止請求権を有すると主張している。
(争点)― 後記1ないし3の点に照らし、原告らが、本件基本覚書及び本件実施料覚書に基づき、本件発明を実施することができたか否か。
1 各覚書自体の法的効力 (被告らの主張) (1) 本件基本覚書は、「有機リサイクル装置」事業に関し、同装置に係る特許出願人である原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社が、同事業を今後円滑適切に遂行するための組織作りやその他役割分担を合意した基本的な取り決めにすぎない。本件基本覚書には、本件発明の実施について何ら定められておらず、
実施権の種類(専用実施権又は通常実施権)や範囲(全部又は一部)等を定めた実施許諾条項も存在しないから、本件基本覚書によっては、原告らが本件発明を実施することはできない。
(2) 本件実施料覚書には、本件専用実施権者である被告リサイクルの記名押印がない以上、被告リサイクルから原告らが実施権の許諾を受けたともいえない。
(原告らの主張) (1) 被告らの主張(1)は否認する。本件基本覚書には、後記2の専用実施権の設定にかかわりなく、本件特許権者が本件発明を実施し得る旨が合意されている。
(2) 被告らの主張(2)は否認する。本件実施料覚書は、本件専用実施権設定登録後であるにもかかわらず、原告らのみならず、被告中央機工、被告古賀機械も、本件発明の実施品を製造販売することが当然の前提とされている。すなわち、
原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、本件発明の実施品を各自で製造し、その利益の中から実施料名下で本件特許権の管理費を賄うことを意図していたのであり、被告リサイクルは、実施料の受領者として位置付けられているにすぎない。
2 本件専用実施権設定との関係 (被告らの主張) (1) 本件専用実施権の設定に際し、本件特許権者に実施権を留保した事実はないから、本件特許権者であっても、本件発明を当然には実施することができない。
本件専用実施権設定登録後に、被告リサイクルと原告旭リサイクルとの間で、原告旭リサイクルが被告リサイクルから実施品を買い取って、これを販売する旨の「販売代理店契約」(乙3)が締結されようとしたことすらあった。また、本件特許権侵害についてのJNS社との交渉過程において、原告らによる本件発明の実施と何ら調整を図ることなく、被告リサイクルがJNS社に独占的実施権を許諾するという内容の和解案を提示するにつき、原告らもこれを了解していたのであるから、原告ら主張のような本件特許権の実施権の留保があったとはいえない。
原告らの主張(1)について、確かに、本件基本覚書には、有機リサイクル装置に関する特許権を集中的に管理するために有機システム有限会社を設立する旨の記載はあるが、当時、本件発明は特許出願中であったから、本件特許権について専用実施権を設定しようと解釈するには無理がある。また、特許権の集中的な管理の具体的手法に関する言及もない以上、専用実施権の設定に限られるわけでもないはずである。本件特許権者3社が実用新案権者である別件の実用新案権(甲18〜21)については、被告リサイクルの専用実施権を設定しなかったこととも対照的である。ただし、被告リサイクルにおいて、従業員がおらず、本件発明の実施品も製造販売していないことは認める。
(2) 仮に本件特許権者に実施権を留保する旨の合意があったとしても、そのような合意は、専用実施権の物権的性格に反し、公序良俗違反であるから無効である。また、仮に本件特許権者に実施権が有効に留保されていたとしても、原告旭リサイクルは、本件特許権者ではないから、実施権を有しない。
(原告らの主張) (1) 被告らの主張(1)は否認する。本件専用実施権の設定は、本件基本覚書による合意の延長線上にあり、各特許権者の実施を許容した上で、本件特許権の管理を簡便ならしめることを目的としたものにすぎず、本件基本覚書における本件特許権者による本件発明の実施を何ら変更するものではなかった。
すなわち、平成11年7月以降、原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社とSとの関係が悪化するようになり、Sが、第三者に対し、本件発明の実施を許諾する行動を示すようになった。そこで、前記3社は、S、D社又は第三者による将来の本件特許権侵害に対処するために、共同出資の会社を設立して、この共同出資会社に本件特許権侵害差止請求等の訴訟を遂行させるために、専用実施権を設定する旨を合意した。被告リサイクルは、このような合意に基づき設立された会社にすぎず、実際上も、同被告においては、従業員はおらず、本件発明の実施品の製造販売も全くしていない。また、被告リサイクルと原告旭リサイクルとの間の「販売代理店契約」(乙3)の締結は、被告らの発案によるものにすぎず、その契約締結に至らなかったのも、原告らがこれに同意しなかったためである。さらに、被告古賀機械は、@本件専用実施権設定の合意後、原告旭鋼機からの本件発明の実施品についての見積り依頼に対する見積書を提出して、原告旭鋼機からの正式発注があれば、これに応じようとしており、A本件専用実施権設定登録後である平成13年1月10日、株式会社吉松ファームとの間で、本件発明の実施品1ユニットについての販売契約を締結し、同年3月末にこれを納品しているのであるから、被告らの主張(1)は、このような自らの行動と矛盾する。
JNS社に対する和解案は、JNS社にはSが取締役として関与していたことから、実施権許諾の対価として同社から支払われる実施料により、積年の懸案であったD社(代表取締役S)に対する不良債権問題を最終的に解決することが可能となることから提案されたものにすぎず、本件基本覚書とは、その観点や内容等は異なる。JNS社との交渉中も、本件特許権者間では、本件特許権者間の内部的な法律関係とJNS社との外部的な法律関係との調整を図る必要性が認識されていた。被告らの主張する別件実用新案権(甲18〜21)は、むしろJNS社に対する和解案の中で、被告リサイクルが実施許諾する対象として予定されていた。同和解案は、結局、不成立に終わっている。
(2) 被告らの主張(2)は否認する。
3 本件基本覚書3条A記載の「外注製造等」の該当性 (被告らの主張) (1) 仮に原告らに本件発明の実施が許諾されていたとしても、本件基本覚書3条Aによれば、「外注製造等」が必要となった場合には、原告らは、被告中央機工、被告古賀機械との協議による必要がある。
(2) 原告旭鋼機は、F社との間に何らの資本的つながりはなく、製品単価等の指示をF社に出してもいない(むしろF社の見積りに原告旭鋼機が従うという関係にある。)。また、T社作成の設計図面も、原告旭鋼機を経由することなく、F社に直接交付され、本件発明の実施品は、T社作成の製造明細表に基づいて製造された。したがって、原告旭鋼機によるF社に対する製造依頼は、「外注製造等」に該当する。
(3) ところが、原告らは、前記(2)の製造依頼について、前記(1)の協議を経ていなかった。
(原告らの主張) (1) 本件基本覚書の当事者である原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の目的は、本件発明の実施による債権回収の実現にあり、そのためには本件発明の実施品の市場を独占すること、換言すれば、同市場における競争主体の増大を防止することが必要であった。ここにいう競争主体とは、自己の計算において自由に本件発明の実施品を製造販売する独立の経済主体のことである。したがって、本件基本覚書3条Aにより被告中央機工、被告古賀機械との協議が必要とされる「外注製造等」というのは、第三者にライセンスを供与する場合であって、本件発明の実施品を第三者を機関として製造する場合はこれに含まれない(本件基本覚書3条Aは、特許法73条2項の「契約で別段の定」をしたものではなく、同条3項を再確認したものにすぎない。)。
(2) 原告旭鋼機によるT社に対する設計図面の作成依頼やF社に対する製造依頼は、いずれも原告旭鋼機のためにのみ行われ、この依頼に基づく製造物は、すべて同原告に引き渡されるものであった。すなわち、T社やF社は、いずれも原告旭鋼機の機関として行ったにすぎないから、本件基本覚書3条A記載の「外注製造等」には当たらない。
(3) 被告らの主張(3)は認める。
判断
1 本件の事実経過 前記基本的事実に証拠(甲17、乙8のほか後掲各書証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(1) 平成9年以前より、原告旭鋼機は鋼材を販売し、被告中央機工及び被告古賀機械は原告旭鋼機から鋼材を購入して機械を製造するという取引関係があった。
これらの3社は、D社に対する資金援助により、D社に対し、各2億円以上の未収債権を有していた。ところが、D社が平成9年5月ないし6月に手形不渡りを出して事実上倒産したため、D社代表取締役であるSが有していた特許を受ける権利の譲渡を受けることにより、その債権回収を図ることにした。原告旭鋼機及び被告中央機工は、平成9年9月30日、本件発明について特許出願を行い(被告古賀機械は、その当時、和議申請中であったため、当初は特許出願人には加わらなかった。)、被告古賀機械を含む3社は、本件発明の実施品の製造販売を開始することとした。
(2) もっとも、もともと鋼材の販売会社にすぎなかった原告旭鋼機は、本件発明の実施品を自ら製造する能力を有していなかったため、被告中央機工や被告古賀機械の製造に係る実施品を購入して販売せざるを得なかった。被告中央機工や被告古賀機械としても、原告旭鋼機から、本件発明の実施品の発注があれば、自社の売り上げにつながるとして、これを拒否することなく、注文に応じていた。他方、被告中央機工や被告古賀機械は、被告中央機工代表者の設立に係るアグリックス社を通じて、自らも同製品を販売していた。この結果、前記3社間においても、2つの販売ルートが併存することになり、被告中央機工及び被告古賀機械と原告旭鋼機との間において、その販売先が競合したり、販売価格の値下げ競争が行われるという不合理な事態が発生し、当初の目的である債権回収に支障を来たすようになった。
(3) そこで、原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、平成11年9月25日付け「有機リサイクル装置製造・販売に関する確認書」(乙2)をもって、前記(2)のように販売先が競合した場合は先着順とし、被告中央機工及び被告古賀機械が統一の仕切価格やユーザーへの希望価格を作成する旨を合意するとともに、D社がリサイクル装置を製造販売する事態が生じていたため、3社とも、技術面、資金面、営業面のいずれの面からもD社と距離を置くことも合意した。これらの合意は、前記3社が本件発明を実施することにより、D社に対する各自の未収債権を回収しようとする当初の目的に沿ったものであった。さらに、前記3社としては、そもそも販売先が競合しないような、より合理的なシステムを構築する必要があると考えるに至り、公認会計士による助言を受けつつ、必要な修正を加え(甲23、24)、平成12年5月、前記確認書(乙2)を発展させるものとして、本件基本覚書(甲10)を締結することとなった。
(4) 本件基本覚書によれば、「有機リサイクル事業に関する業務フロー」(甲10の別紙2)に示すとおり、製造は、原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社のみとし、販売は、販売先が競合しないように、3社の共同出資に係る有機システム有限会社1社に担当させることとし、最終消費者への販売も、当分の間は、販売代理店を原告旭リサイクル及びアグリックス社の2社のみとし、有機システム有限会社から、この2社を介して行うこととされていた。有機システム有限会社は、被告リサイクルの前身であり、その設立目的は、顧客情報の一元管理等のみならず、有機リサイクル装置に関する特許権、実用新案権等の知的所有権の集中的管理にもあった。そして、前記確認書(乙2)の際にも問題となっていたD社(又は同代表者S)の行為に関しても、3社は共同して法的対処等も含め共同歩調を取ることが、合意されていた。
(5) 本件特許権の登録日(平成12年8月18日)後も、D社(又は同代表取締役S)ないしSがかかわったJNS社による本件特許権の侵害行為が継続したことから、原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、平成12年11月ころ、この問題を弁理士に相談することとした。同弁理士からは、今後も同様の問題が発生する可能性がある旨の指摘があった上、3社が統一的に行動するためには、被告リサイクルに専用実施権を設定し、同社が本件特許権侵害行為に対処すべき旨が提案された。本件専用実施権の設定は、このような提案を踏まえたものであり、同設定契約の具体的内容というのも、その地域、期間、内容を極めて広汎なものとしながら、実施対価は無償とされていた。本件専用実施権の設定を受けた被告リサイクルも、弁護士を通じて、同年11月ころから平成13年4月ころにかけて、本件特許権侵害の可能性があると判断したJNS社との間で交渉活動を行う(乙9、10、11の1及び2、12の1及び2、13の1〜3、14、15、16の1及び2)一方、同社には従業員がおらず、本件発明の実施品を製造販売することができない状態に変わりはなかった。
(6) 被告リサイクルの代表者が、平成13年5月10日、原告ら代表者から被告中央機工代表者に交替するに至り(甲9)、被告ら側としては、本件専用実施権の設定を前提としても、原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社(並びに被告ら側の販売会社アグリックス社)による本件発明の実施が法的にも問題が生じないように、本件専用実施権者との契約関係やその実施料額を整備する必要があると考えるようになった。そこで、被告らは、被告古賀機械の顧問弁護士に依頼して、本件専用実施権の設定を踏まえた被告リサイクルとの間の契約書案を作成してもらうこととした。この契約書案(乙3〜5)において、販売担当会社は、本件基本覚書の合意どおり、原告旭リサイクル及びアグリックス社とする(乙3、4「販売代理店契約」)ことが予定されていたのに対し、製造担当会社は、本件基本覚書とは異なり、被告中央機工及び被告古賀機械の2社のみが予定されていた(乙5「製作物供給契約」)。そのため、原告らが、この契約書案に合意することはなかった。他方、「リサイクル装置特許使用料に関する覚書」は、装置製造担当会社を原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社、装置販売担当会社を原告旭リサイクル及びアグリックス社の2社とするものであったため、平成13年8月18日、一応の合意に至り(乙7)、同月31日には、その内容を一部変更しながらも、本件発明の実施品の製造販売について被告リサイクルに支払うべき実施料には本件基本覚書の別紙1のU@〜E記載の金員を含むことまで明記された上、合意されるに至った(甲11)。
(7) 原告旭リサイクルの本件受注分について、原告旭鋼機がT社に対する設計図面の作成やF社に対する製造を依頼したのは、次のような事情に基づくものであった。すなわち、従来から、被告らに発注した場合に提示される受注価格が高額であると考えていた原告らとしては、F社を含む他社に同見積りを依頼したところ、
1ユニット当たりF社以外の会社が2526万円(甲31)、F社が2700万円(乙20)と比較的低額であったため、結局、平成13年10月、F社への発注を決定するに至った(乙21、22)。この点について、原告らが被告らとの間で協議を経ることはなかった(なお、原告らは、被告古賀機械が、原告旭鋼機からの当該注文品(ADS-100VT2ユニット)の見積り依頼に対する見積書(甲30)を提出したと主張するが、被告らはこれを否認するほか、その根拠とする見積書(甲30)には、「SS40 100V」という製品型番があるのみで他社に対する見積り依頼(甲31、32)の製品型番とは異なり(本件実施料覚書(甲11)や被告ら側の本件発明の実施品(甲22)の製品型番とも一致しない。)、見積りの具体的内容も、本件発明の実施品についてのものであることが明らかなF社の見積り内容(乙20)とは著しく異なり、前記見積書(甲30)を本件発明の実施品についてのものとは認めるに足りないから、原告らの前記主張は採用することができない。)。
(8) JNS社との間の本件特許権侵害についての交渉過程において、原告旭リサイクルの発案(乙11の1及び2)により、被告リサイクルから、JNS社に対し、本件特許権についての独占的実施権を許諾する内容の和解案が提案され、同案を前提とした交渉が続けられていた(乙12の1及び2、13の1〜3、14、15)。この和解交渉の経過については、被告リサイクルの株主でもある本件特許権者(原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械)も、担当弁護士から報告を受ける(乙12の1、13の1、14、15の各名宛人欄参照)などして十分に了解していた。
しかし、JNS社に対する前記和解案は、結局、合意されるに至らなかった(乙16の1及び2)、また、JNS社との交渉過程においても、本件特許権者としては、Sが取締役であったJNS社から本件発明の実施料を得ることにより、D社(代表取締役S)に対する債権を回収しようと考えていたものにすぎず、その和解案の内容も、独占的実施権を設定したJNS社から発注を受けた被告リサイクルが下請メーカーを使用することを念頭に置いており、自らが本件発明の実施品を製造することは全く予定していなかった。その担当弁護士からも、本件専用実施権の設定契約(甲4の1)は、専用実施権登録申請用の契約であるにすぎず、専用実施権設定に伴う詳細契約はまだ締結されていないという認識が示され、@被告古賀機械や被告中央機工は、ユーザーから直接受注することもある、A被告リサイクルが本件特許権者以外の第三者に製造発注することは、被告古賀機械や被告中央機工の意図するところではないという前提のもとに、JNS社への独占的実施権の設定に際しては、本件特許権者3社と被告リサイクルとの間でも、発注の道筋を取り決める必要がある旨の意見が提示されていた(甲34)。
2 争点1(各覚書自体の法的効力)について (1) 前記1認定の事実によれば、原告旭鋼機、被告中央機工及び被告古賀機械の3社は、本件発明の実施(設立予定の原告旭リサイクルによる実施を含む。)による各自の未収債権の回収という経済的目的を一貫して有しており、「有機リサイクル装置製造・販売に関する確認書」(乙2)や本件基本覚書(甲10)の締結も、原告ら側と被告ら側との2つの販売ルートの競合による不都合を解消するために交わされた約定にすぎず、当初の目的をいささかも変更するものではなかったというべきである。したがって、原告らは、本件基本覚書の締結当時、これに基づき、本件発明を実施することが当然予定されていたと考えるのが自然である。また、被告リサイクルに対する実施料の支払額を定めた覚書(甲11、なお、その前身である乙7も参照。)の締結も、これに記名押印した各社による本件発明の実施を当然予定するものであったと考えるのが自然である。
(2) これに対し、被告らは、本件基本覚書が、前記3社間の組織作りや役割分担を合意した基本的な取り決めを定めたものにすぎず、本件発明の実施について具体的な定めもないことを根拠として、本件基本覚書によっては、原告らが本件発明を実施することはできない旨を主張する。確かに、本件基本覚書の条項中、抽象的な記載にとどまる部分が存することは否定できない。しかし、本件基本覚書は、既に判示したとおり、当初の経済的目的を実現するにとっての障害を是正することに主眼があるのであって、本件基本覚書の各条項を詳細に検討しても、前記3社による本件発明の実施自体を否定する趣旨は全く窺われない。法的観点からは、やや不十分な規定にとどまるものであったとしても、本件特許権が本件基本覚書締結当時は未だ出願中のものにすぎなかった点も考慮すると、必ずしも不合理とはいえないから、被告らの前記主張は採用することができない。
(3) また、被告らは、本件実施料覚書に被告リサイクルの記名押印がない点を根拠として、同被告から原告らが実施権の許諾を受けたとはいえないと主張する。
しかし、前記1認定の事実によれば、本件発明の実施という観点からは、被告リサイクルが、独立の経済主体ではなく、せいぜい実施料の支払先としか観念されていなかったことは明らかであり、本件専用実施権の設定契約締結当時における被告リサイクルの代表者が原告らの代表者と同一人物であった(甲4の1、6)ことに照らしても、本件実施料覚書に被告リサイクルの記名押印がない点が前記解釈を妨げるものではないから、被告らの前記主張は採用することができない。
3 争点2(本件専用実施権設定との関係)について (1) 専用実施権が設定されれば、専用実施権者は業としてその発明の実施をする権利を専有する(特許法77条2項)から、本件においても、本件専用実施権設定登録により原告らの本件発明の実施が妨げられる(特許法68条ただし書)のではないかという点を検討する必要がある。確かに、本件基本覚書(甲10)はもとより、本件専用実施権の契約書(甲4の1)自体に、この点に関する明示的な記載はみられず、原告らによる本件発明の実施を許諾する文書が別途作成されたとも認めるに足りない。
(2) しかし、前記1認定の事実によれば、本件基本覚書には、被告リサイクルによる本件特許権の集中的管理がもともと予定されており、本件専用実施権設定の直接的契機も、D社(又は同代表者S)による本件特許権侵害に対処するためというのであって、被告リサイクル自身による本件発明の実施は予定されておらず、実質的にも、同被告にその実施能力はなかったといわざるを得ない。本件専用実施権の設定契約の内容に着目しても、仮に被告ら主張のように、特許権者である前記3社の実施を否定する趣旨のものであれば、自らの未収債権の回収という経済的目的のために、専用実施権者から相応の対価を徴収して、その目的を実現しようとするのが通常であると思われるところ、被告リサイクルの支払うべき対価は無償とされているのであるから、本件専用実施権の設定契約が特許権者による本件発明の実施を否定する趣旨のものであったとは解されない。加えて、本件専用実施権設定登録後に、被告リサイクルに対する実施料の支払額を定めた覚書(乙7、甲11)の締結が、これに記名押印した各社による本件発明の実施を予定するものであったことも、争点1で判示したとおりである。
(3) 確かに、本件専用実施権設定登録後に、原告ら被告ら間で、本件発明の実施に関する新たな契約交渉があったことは窺われるが、被告らの発案に係るものであり、原告らによる拒否も、原告旭鋼機による製造を否定する内容であったことが原因であったとも解されるのであるから、原告らによる本件発明の実施を否定する根拠となるものではない。JNS社に提案された和解案も、合意に至らなかった点で、本件基本覚書に定められた前記の合意内容を何ら変更するものではないばかりか、JNS社との交渉過程において示された本件特許権者の認識としても、同事件を受任した担当弁護士の認識(本件専用実施権の設定契約を同登録申請用の契約にすぎないものと位置付けていた。)と同様であったと考えられる。被告らの主張する別件実用新案権(甲18〜21、乙27の1〜4)も、むしろ被告リサイクルの実施許諾の対象として前記和解案の中に盛り込まれていた可能性を否定し得ない(乙13の3、14、15。これらの別件実用新案権が被告ら側の本件発明の実施品に用いられていることにつき、甲22の表紙「実用新案登録」番号参照。)のであるから、いずれも前記認定を妨げるものではない。
(4) このような事情に照らすと、法的には、本件専用実施権の設定と同時に、
本件専用実施権者から本件特許権者及びその各販売会社(原告旭リサイクル及びアグリックス社)に対し、本件基本覚書に定められた限度で、通常実施権を設定する旨があわせて合意されたと解するのが相当である(この点に関する原告らの主張は、必ずしも明確ではないが、このような解釈を含む趣旨と解される(原告らの準備書面(2)21頁等、なお、甲17参照。)。)。したがって、本件専用実施権設定登録にもかかわらず、原告らは、本件発明を実施することができるというべきである。
(5) なお、被告らは、本件特許権者に実施権を留保する旨の合意は公序良俗違反として無効である旨を主張するが、その前提を異にするから、被告らの前記主張は採用することができない。また、被告らは、特許権者ではない原告旭リサイクルは実施権を有しないとも主張するが、既に判示したとおり、同原告への通常実施権の設定も観念することができるから、被告らの前記主張も採用することができない。
4 争点3(本件基本覚書3条A記載の「外注製造等」の該当性)について (1) 本件基本覚書3条Aによれば、「外注製造等」が必要となった場合には、
原告旭鋼機は、被告中央機工、被告古賀機械との協議による必要がある旨が規定されているため、前記基本的事実4(2)記載の原告旭鋼機の行為がこれに該当しないかを次に検討する。原告らは、「外注製造等」というのは、第三者にライセンスを供与する場合であり、第三者を機関として製造させる場合は含まれないと主張する。
(2) 本件発明は「堆肥化装置及び堆肥化装置における有機廃棄物の撹拌方法」(甲2)というもので、別紙特許公報(甲2)記載のように、微生物を使用した有機廃棄物の堆肥化装置に関する技術であり、必ずしも汎用性の高い技術分野に属するとはいえず、その実施品の最終価格も、1ユニット当たり数千万円に達するものである(甲22、乙6参照)。本件基本覚書が締結されるに至った経緯としても、
被告中央機工及び被告古賀機械と原告旭鋼機との間においてすら、販売先の競合や販売価格の値下げ競争という事態が発生していたのであるから、前記3社間でも、
本件基本覚書締結当時、その需要者は比較的限られていることが十分認識されていたと考えられる(被告ら側の販売会社であるアグリックス社のカタログ(甲22)でも、焼酎製造元、豆腐製造元、国立大学が実際に導入されたモデルケースとして紹介されているにとどまる。)。
(3) そして、本件基本覚書の条項中、メンテナンス契約条項では、アグリックス社及び原告旭鋼機(又は原告旭リサイクル)の2社が独占的に締結する旨が約され、その趣旨がメンテナンス契約を独占的契約にすることにより第2次販売代理店等の無制限の改造を防止し、知的所有権の保護を図ることにあった(甲10の別紙2)。また、製造条項でも、外注製造等が必要となったときは前記3社の協議により決定する旨を記載したことと対置して、「知的所有権の保護のために製造会社は3社のみ」とする旨がわざわざ明記されていたものである。加えて、本訴提起前の被告古賀機械の通知書(乙26)や被告リサイクルの証拠保全申立書(甲12)には、原告らが被告中央機工及び被告古賀機械に無断で本件発明の実施を第三者に依頼することは許されないとの認識が示されており、新たな製作物供給契約案(乙5)にも、被告古賀機械及び被告中央機工は、独占的排他的に契約製品製造の業務を行い、下請けに行わせないことを約する旨の独占的製造委託条項(第3条)が、
同被告らの発案に係るものであったにもかかわらず、記載されていたことも併せ考えると、本件基本覚書において、被告らとの協議を経ることなく原告ら側が本件発明の実施品を製造し得る場合というのは、原告らが自ら製造する場合か又は被告被告中央機工又は被告古賀機械にその製造を発注する場合に限られ、それ以外の第三者に発注する場合は、本件基本覚書3条Aの「外注製造等」に該当する(特許法73条2項の「別段の定をした場合」に該当する。)というべきである。
(4) これに対し、本件基本覚書の作成に関与した公認会計士作成の陳述書(甲24)には、「外注製造等」を量産品の製造販売を希望する会社が現れた場合や想定していない市場が現れた場合を考えていた旨の記載がある。しかし、前記陳述書の記載は自らの記憶が曖昧であることを自認している点で、直ちに信用することができない。仮に同陳述部分を前提としても、本件特許権者自身による対応が不可能な事態を想定したというのであるから、機関による製造をもともと予定していたとは解されない。また、本件特許権者3社の知的所有権保護を目的としていたこと自体は否定していない以上、必ずしも前記推認を妨げるものではない。したがって、
この点に関する原告らの主張は採用することができない。
(5) もっとも、当該第三者が原告旭鋼機の機関というにとどまらず、同原告と実質的に同一視し得るものと位置付けることが可能であれば、本件基本覚書3条Aの「外注製造等」に該当しないと解する余地がないわけではない。
そこで、更に検討すると、証拠(後掲各書証)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。すなわち、被告古賀機械の原告旭鋼機に対する平成13年10月3日付け通知書(乙26)による警告後、原告旭鋼機は、F社との間で、同月12日付け下請取引基本契約書(甲33)を作成した。同契約書には、F社が原告旭鋼機のためにのみ注文品を製造し、注文品のすべてを同原告に納入することのほか、F社の秘密保持義務模倣の禁止が契約条項として記載されている一方、F社は「原告旭鋼機の指揮監督下にある者」とは別人格の主体として位置付けられており(第2条)、その個別契約の定めにおいても、F社の製造する注文品の代金等は、別途、原告旭鋼機とF社との間の協議による旨が規定されていた(第3条)。なお、原告旭鋼機とF社との間では、見積りの提出に関する2001年9月21日付け契約書(甲32)も作成されており、同契約書には、原告旭鋼機が見積りに必要な情報をF社に開示することを前提として、F社の機密保持義務、目的外使用禁止及び秘密情報の返却義務等が規定されている一方、同原告の書面による同意がある場合に、一定の例外を許容する条項も規定されていた(第3条
ただし、同契約を2001年9月21日に遡及して発効させる旨の条項(第7条)が存することに照らし、実際の作成日は後日と推認される。)。原告旭鋼機とF社とは、その役員構成が共通するわけではなく、資本的なつながりも特に存しない(乙17〜19)。また、原告旭鋼機がF社と同時期に見積りを依頼した他社(甲31)との関係では、本件特許権侵害を防止するための特段の書面が交わされた形跡はない。
前記認定の事実によれば、被告古賀機械の警告を踏まえ、原告旭鋼機が、
本件特許権侵害防止のために、F社との関係において一応の対策を講じようとしたことは窺われるが、むしろ当該措置を講じなければF社をコントロールすることができない旨の原告旭鋼機の認識を反映したものといえる。のみならず、F社との各契約内容も、F社の意思決定の自由を奪うものとは評価することはできず、F社は、原告旭鋼機とは別個独立の経済主体たる地位を何ら失っていないというべきである。したがって、仮に当該第三者を原告旭鋼機と実質的に同一視し得る場合には本件基本覚書3条Aの「外注製造等」に含まれないとみることができるとしても、
本件では、F社を原告旭鋼機と実質的に同一視し得るということはできないから、
「外注製造等」の該当性を否定するものではない。この理は、設計図面の作成を依頼したT社についても同様である(乙28)。
5 まとめ したがって、本件専用実施権者から原告らに対する通常実施権の許諾は、もともと予定されていた本件基本覚書に定められた限度にとどまるものであるところ、原告らによる本件発明の実施(原告旭鋼機による「外注製造等」が原告旭リサイクルの発注に係るものであったことは、前記基本的事実4(1)認定のとおりである。)は、本件基本覚書3条Aに違反したものであるから、専用実施権者である被告リサイクルは、原告らに対し、その実施を差し止める権利を有することになる。
被告らが、その有する本件特許権又は本件専用実施権侵害の事実を原告らの取引先等の第三者に告知することは、その権利侵害を阻止するための正当な権利行使であって、これを虚偽の事実を告知流布する(不正競争防止法2条1項14号)ものということはできない。
結論
以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由がない(なお、本件基本覚書締結当時はもとより、現時点においても、原告らが本件発明の実施品を製造する能力を有しないことは明らかであり、第三者に対する外注製造も制限を受ける結果、
原告らとしては、事実上、被告中央機工又は被告古賀機械から同実施品を購入せざるを得ないことになる。そして、仮にその購入価格が著しく高額であれば、原告らの実施を否定するに等しい事態が生ずることも想定されるところではある。しかし、そのような事態を避けるために、本件基本覚書では、本件特許権者3社の協議により、統一の仕切価格及び最終消費者への販売希望価格を決定することがもともと予定されており(本件基本覚書4条A)、被告ら側からも、同条項に沿った一応の案(乙6)が提示され、同案によれば、原告ら側の転売利益を完全に否定するほどの購入価格が設定されているとまではいえない。また、本件基本覚書4条Bによれば、同一最終消費者への営業が競合した場合には、共同受注に努め、前記3社間の協議によりその割合を決定することまで予定されている。これらの点に照らせば、原告らとしては、自ら合意した本件基本覚書の定めるところに従って、被告らとの各協議を行うべきであり、仮に自らの希望する内容にそぐわず、前記協議が不調に終わったとすれば、本件特許権について共有物分割請求を行うほかないことを付言する。)。
追加
物件目録次の各有機廃棄物リサイクル装置(商品名有機リサイクル装置Aベッセル)型式本体内容積サイズ1ADS-15VT1.5m3W4273o×D1249o×H2173o2ADS-21VT2.1m3W4420o×D2145o×H2217o3ADS-50VT5.0m3W4875o×D2800o×H4465o4ADS-72VT7.2m3W6075o×D2800o×H4627o5ADS-100VT10.0m3W6065o×D3945o×H5677o
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 田中秀幸