関連審決 | 異議2001-70030 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 発明の詳細な説明 / 表現上の差異 / 援用権(援用) / 技術的意義 / 実施 / 交換 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
476号
特許取消決定取消請求事件
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原告 松下電器産業株式会社 訴訟代理人弁理士 池内寛幸 同 中原健吾 被告 特許庁長官太田 信一郎 指定代理人 鈴木法明 同 藤井俊明 同 蓑輪安夫 同 山口由木 同 高木進 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/09/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が異議2001-70030号事件について平成13年9月4日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「異方性導電テープの圧着方法」とする特許第3060850号発明(平成6年9月30日特許出願、平成12年4月28日設定登録)の特許権者である。 上記特許につき特許異議の申立てがされ、異議2001-70030号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成13年7月16日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求をした(以下、この訂正を「本件訂正」という。)。 特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、同年9月4日、「訂正を認める。特許第3060850号の請求項1に係る発明についての特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同月25日原告に送達された。 2 本件訂正後の明細書(甲第4号証添付、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨 基板を位置決めする位置決めテーブルと、前記位置決めテーブルに位置決めされた基板の上に、下面に異方性導電テープが貼着されたリーダテープを送り方向に繰り出すリーダテープ繰出機構と、繰り出された異方性導電テープのみを所定長さでカットするカッタと、リーダテープを介してカットされた異方性導電テープを基板に圧着する加圧ツールと、圧着された異方性導電テープからリーダテープを剥離するリーダテープ剥離機構と、剥離されたリーダテープを送り方向へ送るリーダテープ送り機構とを有する異方性導電テープの圧着装置を用いた異方性導電テープの圧着方法であって、 前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位置とし、前記リーダテープ繰出機構から繰り出されたリーダテープの下面の異方性導電テープを前記カッタにより所定の貼着長さに切断した後、前記カッタで切断された異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り、そこで前記加圧ツールにより異方性導電テープを基板に圧着することにより、異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にしたことを特徴とする異方性導電テープの圧着方法。 3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、本件訂正を認めた上、本件発明は、特開平6-3690号公報(本訴甲第3号証、以下「引用刊行物」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものとして、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項の規定により取り消すべきものとした。 |
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原告主張の取消事由
本件決定の理由中、本件訂正の適否の判断(決定謄本2頁1行目〜27行目)、本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点A、Cの認定(同5頁33行目〜36行目、6頁3行目〜5行目)、上記相違点Aについての判断(同6頁6行目〜8行目)は認める。 本件決定は、引用刊行物の記載事項の認定を誤った結果、その記載の発明と本件発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、両者の相違点B、Cについての各判断を誤り(取消事由2、3)、本件発明が、引用刊行物記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 本件決定は、引用刊行物の「第7図(B)及び第8図(D)からは、ヒータヘッド71の搬送方向上流側の端部より若干搬送方向下流側で異方性接着剤層片13の位置が検知されているのを見ることが出来る」(決定謄本4頁22行目〜24行目)との認定に基づいて、本件発明と引用刊行物記載の発明とは、「前記接着するツールの前記送り方向上流側を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り、そこで前記接着するツールにより異方性導電テープを基板に接着することを特徴とする異方性導電テープの接着方法」(同5頁26行目〜31行目)である点で一致すると認定するが、誤りである。 (2) 引用刊行物(甲第3号証)には、第7図に関して、「図7(A)に示すように・・・光センサ77が下側からこの異方性接着剤層片13と対向するように配設されており、この光センサ77により異方性接着剤層片(注、異方性接着剤とあるのは誤記と認める。)13の位置が検知されている」(段落【0029】)と記載されているから、光センサ77によって異方性接着剤層片13の位置を検知しているのは、図7(A)ないしはその直後の工程である。このことは、上記記載に続いて「このため、異方性接着剤層片13が図7(B)に示す所定位置まで搬送されると、この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止される」(段落同上)と記載されていることからも明らかである。 そうすると、引用刊行物記載の光センサ77が検知するのは、異方性接着剤層片13の搬送方向下流側の端部、すなわち図面上の右端部(以下、単に「右端部」といい、搬送方向上流側の端部を同様に「左端部」という。)であると解するのが相当である。現に、液晶パネル2の異方性接着剤層片13をヒーターヘッド71により熱圧着する状態を示す図8(D)では、ヒーターヘッド71の右端部と異方性接着剤層片13の右端部とが一致することが示されている。 すなわち、引用刊行物記載の発明は、ヒーターヘッド71の右端部を「基準位置」として、異方性導電性テープの右端部がこの「基準位置」と一致するまで送るものであるから、「ヒータヘッド71の送り方向上流側の端部(注、左端部)より若干搬送方向下流側」で異方性接着剤層片13の位置が検知されているとする本件決定の上記認定は誤りというべきであるし、これを前提に、「接着するツールの前記送り方向上流側を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り」との点を一致点とした認定も誤りに帰する。なお、機械工学の分野において、「基準位置」を設ける場合には、物体によって特定しやすい端面などを設定するのが当業者の常識であり、 「端部より若干搬送方向下流側を基準位置とし」などというような中途半端で特定しにくい位置を基準位置とすることは、当業者の常識に反するものである。 (3) 被告は、図8(F)、図7(A)、(B)から見て、光センサ77はヒーターヘッド71の左端部の下側に対向配置されており、異方性接着剤層片13の存在を継続して検知していると主張するところ、確かに、光センサ77はヒーターヘッド71の左端部の下側に位置しているということはできる。しかし、この場合において光センサ77で検知しているのは、異方性接着剤層片13からキャリアテープ11への切り替わりであるから、異方性接着剤層片13の左端部が通り過ぎた後でなければ停止できず、上記の位置で異方性接着剤層片13の左端部の位置を検知したときには、すでに異方性接着剤層片13の左端部はヒーターヘッド71の左端部を通過した後ということになる。さらに、キャリアテープ11を搬送するには、 物理的又は機械的な慣性力が働いているから、検知と同時にキャリアテープ11を停止することは困難であり、異方性接着剤層片13の左端部とヒーターヘッド71の左端部の位置合わせをすることはできない。 被告は、後記乙第1、第2号証を援用して、物品を位置決めする際、検出器が作業機の上流側にあれば投入される物品の上流側端部を、検出器が作業機の下流側にあれば投入される物品の下流側端部をそれぞれ検出して搬送を停止するのが通常である旨主張するが、乙第1号証記載のものは、検出位置で物品を停止させることが示されているものではなく、乙第2号証のものは投入される物品の下流側端部を検出するものであるから本件発明と何らの関連もない。 2 取消事由2(相違点Bについての判断の誤り) (1) 本件決定は、本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点Bとして、「本件発明においては、前記接着するツールの送り方向上流側の端部を基準位置としているのに対し、刊行物1(注、引用刊行物)に記載された発明では、前記接着するツールの前記送り方向上流側の端部より若干搬送方向下流側を基準位置としている点で一応相違する」(決定謄本5頁37行目〜6頁2行目)点を挙げた上、当該相違点について、「特許請求の範囲に、『端部を基準位置とし、』と記載されてはいるが、実際の接着に当たっては余裕を持って接着するため基準位置を若干下流側にずらすのが常識で、本件発明においても、図1及び図2を見ると、正確な接着位置が端部から若干下流側にずれる事実が見られることから、上記相違点は実質的なものではなく、表現上の相違にすぎない」(同6頁9行目〜13行目)と判断するが、誤りである。 (2) まず、本件決定の上記認定判断は、引用刊行物記載の発明における基準位置が接着するツールの送り方向上流側(左端部)であるという前記1で指摘した誤った認識を前提とする点で失当である上、「実際の接着に当たっては余裕を持って接着するため基準位置を若干下流側にずらすのが常識」との点は、根拠を欠くものというべきである。すなわち、本件特許公報(甲第2号証)の図1、2を見ても、 本件決定のいうような「接着位置が端部から若干下流側にずれる事実」は示されておらず、むしろ、本件明細書(甲第4号証添付)では、図1の説明として、「本実施例では、加圧ツール9の送り方向Mの上流側の端部を基準位置Sとし、基板2に貼着されようとする異方性導電性テープ5(カット済み)の送り方向Mの上流側の端部の位置を基準位置Sに一致するようにしている」、「カッタ8で異方性導電テープ5を所定の貼着長さに切断した後、リーダーテープ送り機構6により切断された異方性導電テープ5の送り方向Mの上流側の端部5aが基準位置Sに一致する位置までリーダーテープ4を送り方向Mへ送る」(段落【0013】)と記載されているとおり、リーダーテープ送り機構6により、上流側の端部5aが基準位置Sに一致する位置までリーダーテープ4を送ることが明確に記載されている。加えて、本件特許公報図1、図2にはリーダーテープ送り機構6が示されており、この図面を見れば、機械式でリーダーテープ4を所定の長さ送っていることが明白に理解できる。 なお、被告は、基準位置を加圧ツールの上流側端部と一致させたか、若干下流側にずらしたかに、実質的な差異はないと主張するが、本件明細書(甲第4号証添付)の「若干ずらしても差し支えない」(段落【0015】)との記載は、 「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」という構成を達し得る範囲に制限されることは当然のことであるところ、引用刊行物記載の発明の異方性導電テープの左端部の位置は、上記「若干」の範囲を超えており、 その差異が単なる表現上の差異であるとした本件決定の判断は誤りである。 3 取消事由3(相違点Cについての判断の誤り) (1) 本件決定は、本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点Cとして、本件発明の「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」ことが引用刊行物には明記されていない点(本件決定6頁3行目〜5行目)を挙げた上、当該相違点について、「Cの点に関しても、光センサ77を所定位置に突出させること自体が、異方性導電テープの長さの違いに対応するものであることは明白であるから、該点も単なる表現上の相違にすぎない」(同頁15行目〜17行目)と判断するが、誤りである。 (2) 引用刊行物(甲第3号証)記載の発明において、光センサ77を所定位置に突出させ、あるいは引き込むように動作させる理由は、「図7(C)に示すように、光センサ77が左方に引き込められた後、第4および第5アクチュエータ74、76により両ガイドローラ73、75が下動され」(段落【0030】)と記載されているとおり、上下動するガイドローラ73、75との衝突を避けるためにすぎない。本件決定のいうように、「光センサ77を所定位置に突出させること自体が、異方性導電テープの長さの違いに対応する」などという記載はどこにもなく、その示唆もない。 被告は、本件発明の「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」との点は、必然的に得られる作用効果を示すにすぎないと主張するが、当該構成は、本件発明の目的に関わる特徴的構成要件であり、必然的に得られる作用効果ではない。被告の主張するように、これが必然的に得られる作用効果を示すものとすれば、意図的な選択を許さないということであるが、加圧ツールの左端部と異方性導電テープの左端部を一致させたとしても、加圧ツールを交換する場合もあれば、交換しない場合もあるのであるから、必然的な作用効果ではない。重要なことは、加圧ツールの交換を不要にするという目的意識がなければ、本件発明には到達できないことである。 |
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被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 引用刊行物の記載事項に関する原告の主張は、光センサ77による異方性接着剤層片13の位置の検知を瞬間的なものとしてとらえ、その時点を、図7(A)ないしはその直後で図7(B)より前であると断定しているが、引用刊行物(甲第3号証)の段落【0029】の「位置が検知されている」の記載及びその技術的性格からして、当該検知は一定時間継続したものと見るべきものであり、原告の上記主張は失当である。さらに、引用刊行物の段落【0033】の「キャリアテープ11から異方性接着剤層片13が剥がれると、図8(F)に示すように、左側のガイドローラ73も上動され、光センサ77が次の検出のため所定位置まで突出する」との記載に照らしても、光センサ77は、ガイドローラ73、75が上動し、異方性接着剤テープが熱圧着台の上方に位置している間、図8(F)、図7(A)、(B)に示される異方性接着剤層片13と対向する決められた位置に配設され、異方性接着剤層片13の存在を継続して検知していると見るのが相当である。 他方、本件発明は「加圧ツールの送り方向上流側の端部を基準位置」とし「異方性導電テープの端部が基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを送り方向へ送る」ものであり、本件発明との対比において問題となるのは「ヒーターヘッド71」に対する「光センサ77」の位置である。このような観点から、引用刊行物の図8(F)、図7(A)、(B)を見ると、光センサ77は、ヒータヘッド71の中央部でもなく、右端部でもなく、ヒーターヘッド71の左端部近傍に対向配置されて、異方性接着剤層片13の位置を検知していることが明らかである。そして、図8(D)においては、押し付けられた異方性接着剤層片13の左端部がヒーターヘッド71の左端部より若干下流側にずれていることが示されている。 したがって、本件決定の「第7図(B)及び第8図(D)からは、ヒータヘッド71の搬送方向上流側の端部より若干搬送方向下流側で異方性接着剤層片13の位置が検知されているのを見ることが出来る」(決定謄本4頁22行目〜24行目)とした認定に誤りはない。 (2) 原告は、引用刊行物(甲第3号証)の図8(D)において、ヒーターヘッド71の右側と異方性接着剤層片13の下流側を一致させることが示されていると主張するが、引用刊行物にはその趣旨を具体的に示す記載はなく、「ヒーターヘッド71の右側と異方性接着剤層片13の下流側を一致させる」技術的思想が示されているということはできない。 (3) 原告は、検出器の位置と検出する端部との関係を無視し、あえて逆側の端部検知を主張しているが、その場合には複雑な装置及び制御を必要とするから、引用刊行物のようなピッチが変化する可能性のある装置においては無理というほかない。一般に、物品を位置決めする際、検出器が作業機の上流側にあれば投入される物品の上流側端部を検出して搬送を停止し、検出器が作業機の下流側にあれば投入される物品の下流側端部を検出して搬送を停止するのが通常であり(前者の例として特開昭52-1116号公報〔乙第1号証〕、後者の例として実願昭61-124841号(実開昭63-32108号)のマイクロフィルム〔乙第2号証〕参照)、引用刊行物記載の発明もこのことを前提とするものと解される。 (4) 原告は、さらに、光センサ77の位置と検知に関し、慣性力を考慮すると位置合わせをすることはできない旨主張しているが、本件発明の機械も引用刊行物記載の機械も接着及び剥離機構を有するものであるから、慣性力を考慮するほどの速度を有する機械でないことは、明白であり、また、多少の慣性力があったとしても早めにスローダウンすれば定位置に位置決めして停止できるから、上記主張は失当である。 2 取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)について 本件明細書(甲第4号証添付)の段落【0010】【作用】には「加圧ツールの送り方向上流側の端部は、カットされた異方性導電テープの送り方向上流側の端部付近に位置するので」と、段落【0015】には「本実施例では、加圧ツール9の送り方向Mの上流側端部を基準位置Sに完全に一致させたが、必要に応じて、 若干ずらしても差し支えない」と、それぞれ記載されており、基準位置を若干ずらしても支障のないことが示されている上、本件明細書には具体的な基準位置設定手段が開示されておらず、図面を中心に認定せざるを得ないところ、図1、2においても、基板2の左端部は、加圧ツール9の左端部の位置と一致していないことが明らかである。 したがって、相違点Bが「実質的なものではなく、表現上の差異にすぎない」とした本件決定の判断に誤りはない。 2 取消事由3(相違点Cについての判断の誤り)について (1) 相違点Cに係る「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」との事項は、「加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位置とし、異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り、そこで前記加圧ツールにより異方性導電テープを基板に圧着する」ことに基づく作用効果をいうにすぎない。このことは、本件明細書(甲第4号証添付)の段落【0010】に、「異方性導電テープの貼着長さが変更された場合、加圧ツールをそのまま使用しても、加圧ツールの送り方向上流側の端部は、 カットされた異方性導電テープの送り方向上流側の端部付近に位置するので、カットされていない異方性導電テープが、押圧される恐れはない。したがって、異方性導電テープの貼着長さが変更されても、加圧ツールを交換せずに対応することができ」ると記載されている一方、これ以外に、加圧ツールの交換を不要にするための事項は記載されていないことから明らかである。 他方、引用刊行物記載の発明は、光センサ77が加圧ツール(ヒーターヘッド71)上流端近傍の決まった位置に突出して、異方性導電テープ(異方性接着剤層片13)の位置を検出し、その上流側端部を加圧ツールの上流側端部近傍の基準位置と一致させるものであるから、本件発明と同様に、隣接する異方性導電テープが押圧されるおそれはなく、異方性導電テープの貼着長さの違いに対応できることは明らかであって、相違点Cが表現上の相違にすぎないとした本件決定の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 原告は、本件決定が、本件発明と引用刊行物記載の発明との一致点として、「接着するツールの前記送り方向上流側を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送」る点を認定した誤りを主張するので、この点について判断する。 ア 引用刊行物(甲第3号証)には、「【0029】・・・異方性接着剤テープは、図7(A)に示すように・・・熱圧着台81の上の液晶パネル2と対向するように延びている。このとき、光センサ77が下側からこの異方性接着剤層片13と対向するように配設されており、この光センサ77により異方性接着剤層片13の位置が検知されている。このため、異方性接着剤層片13が図7(B)に示す所定位置まで搬送されると、この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止される。【0030】そして、図7(C)に示すように、光センサ77が左方に引き込められた後・・・異方性接着剤層片13が液晶パネル2の所定位置に正確に押し付けられる・・・【0031】次いで、図8(D)に示すように・・・異方性接着剤層片13が液晶パネル2の所定位置に仮熱圧着される。・・・【0032】このようにして仮熱圧着がなされると、図8(E)に示すように、ヒーターヘッド71が上動され、ついで、右側のガイドローラ75のみが上動される。この右側ガイドローラ75の上動により、キャリアテープ11は右側から上方に持ち上げられ、仮熱圧着された異方性接着剤層片13は右端部から徐々にキャリアテープ11から剥がれる。・・・【0033】このようにしてキャリアテープ11から異方性接着剤層片13が剥がれると、図8(F)に示すように、左側のガイドローラ73も上動され、光センサ77が次の検出のため所定位置まで突出する」との記載が認められる。 そして、光センサ77が上記「所定位置」に配設された状態を示す図7(A)、(B)及び図8(F)において、光センサ77は、下側から異方性接着剤層片13と対向するように配置され、かつ、その図面上の左右方向(搬送方向)の位置は、ヒーターヘッド71の左端部とおおむね一致していることが認められる。 イ 上記の認定によれば、キャリアテープ11によって搬送される異方性接着剤層片13の位置の検知を行うのは、ヒーターヘッド71の左端部付近下側に位置する光センサ77であり、この検知により異方性接着剤層片13は停止するのであるから、上記各図の図示に照らせば、引用刊行物に接した当業者において、異方性接着剤層片13の搬送及び停止の基準位置となるのが、光センサ77の「所定位置」とされているヒーターヘッド71の左端部付近であって、異方性接着剤層片13の左端部が当該基準位置にほぼ一致するまでキャリアテープ11を送り方向へ送ることが開示されているものとして、当然に理解、把握されるというべきである。 そうすると、上記の点を本件発明と引用刊行物記載の発明との一致点として認定した本件決定に誤りはないというべきである。 (2) この点に関して、原告の主張するところを、以下検討する。 ア まず、原告は、引用刊行物(甲第3号証)の段落【0029】の記載文言からして、光センサ77によって異方性接着剤層片13の位置を検知しているのは、図7(A)ないしその直後の工程であると理解されるから、検知されるのは異方性接着剤層片13の右端部である旨主張する。しかし、同段落の「図7(A)に示すように・・・光センサ77が下側から異方性接着剤層片13と対向するように配設されており、この光センサ77により異方性接着剤層片13の位置が検知されている。このため、異方性接着剤層片13が図7(B)に示す所定位置まで搬送されると、この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止される」との記載及び図7(A)、(B)の図示から理解されるのは、光センサ77が、同図に示された位置(ヒーターヘッドの左端部付近下側であることは上記のとおりである。)で異方性接着剤層片13の位置を検知していることであって、原告の主張するように、 光センサ77が異方性接着剤層片13の右端部を検知していることを示す記載であると解することには無理があるというほかない。むしろ、図7(B)が、ヒーターヘッド71の左端部、異方性接着剤層片13の左端部及び光センサ77が搬送方向において同じ位置で並んだ状態を図示するとともに、「この位置で異方性接着剤層テープ10の搬送が停止される」と明記されていることは前示のとおりであり、光センサ77による異方性接着剤層片13の検知位置はその左端部と理解するのが相当である。 イ 次に、原告は、引用刊行物記載の光センサ77が異方性接着剤層片13の左端部を検知した場合、慣性力等により、ヒーターヘッド71の左端部を通過してしまう旨主張するが、引用刊行物の図8(D)において、異方性接着剤層片13の左端部がヒーターヘッド71の左端部よりもわずかに搬送方向下流側にずれていることが示されているところ、このずれが原告の主張する慣性力等によるものと解する余地もあり、いずれにせよ、原告の主張する上記の点のみから、前記「基準位置」となるのがヒーターヘッド71の右端部であると判断することはできない。 ウ さらに、原告は、本件決定が、光センサ77による異方性接着剤層片13の検知位置を「ヒータヘッド71の搬送方向上流側の端部より若干搬送方向下流側」と認定した点(決定謄本4頁22行目〜24行目)の誤りを主張するところ、 確かに、引用刊行物(甲第3号証)の図7(A)、(B)及び図8(F)の図示から、「若干搬送方向下流側」を検知位置とすることを読み取ることは困難といわざるを得ない。この点について、被告は、引用刊行物(甲第3号証)の図8(D)で、異方性接着剤層片13の左端部がヒーターヘッド71の左端部より若干下流側にずれていることが示されていることを指摘するが、光センサによる検知位置と実際の停止位置との間には自ずとずれが生じ得ることは明らかであるから、同図に示されている異方性接着剤層片13の位置は、その「停止位置」を示すものと理解されるべきものであって、光センサ77による「検知位置」を示すものと解することはできない。そうすると、光センサ77による異方性接着剤層片13の検知位置を、ヒーターヘッド71の搬送方向上流側の端部(左端部)より「若干搬送方向下流側」とした本件決定の認定は、根拠を欠くといわざるを得ないが、本件決定は、 本件発明と引用刊行物記載の発明との一致点として、異方性導電テープを搬送及び停止させる「基準位置」を「接着するツールの前記送り方向上流側」と認定し、この認定自体に誤りがないことは上記のとおりであるから、この点に関する原告の上記主張は、本件決定の結論に何ら影響を及ぼすものではない。 (3) したがって、原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)について 原告は、本件決定が、その認定に係る相違点B、すなわち、「本件発明においては、前記接着するツールの送り方向上流側の端部を基準位置としているのに対し、刊行物1(注、引用刊行物)に記載された発明では、前記接着するツールの前記送り方向上流側の端部より若干搬送方向下流側を基準位置としている点」(決定謄本5頁37行目〜6頁2行目)について、この相違点は実質的なものではなく、 表現上の相違にすぎないと判断した誤りを主張する。 しかし、光センサ77による検知位置に関する本件決定の認定に根拠を欠く部分があることは、前記1(2)ウのとおりであるところ、上記相違点Bの認定自体、 この認定に基づくものであることは明らかである。そうすると、そもそも相違点Bを本件発明と引用刊行物記載の発明との相違点と認めることはできず、この両者で、異方性導電テープ(異方性接着剤層片)を搬送及び停止させる「基準位置」について、相違点を見いだすことはできないというべきであるから、結論的に相違点Bを実質的なものではなく表現上の相違にすぎないとした判断に、少なくとも、本件決定の結論に影響を及ぼすべき誤りがあるということはできない。 3 取消事由3(相違点Cについての判断の誤り)について (1) 原告は、本件決定が、相違点C、すなわち、本件発明の規定する「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」ことが引用刊行物には明記されていない点に関し、単なる表現上の相違にすぎないとした判断の誤りを主張するので、まず、上記規定の技術的意義について検討する。 本件発明が、その特許請求の範囲に記載されているとおり、「異方性導電テープの圧着方法であって・・・前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り・・・圧着することにより、異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」と規定されるものであることは前示のとおりであるところ、相違点Cに係る事項に関し、本件明細書(甲第4号証添付)の段落【0010】には「【作用】上記構成により、異方性導電テープの貼着長さが変更された場合、加圧ツールをそのまま使用しても、加圧ツールの送り方向上流側の端部は、カットされた異方性導電テープの送り方向上流側の端部付近に位置するので、カットされていない異方性導電テープが、押圧される恐れはない。 したがって、異方性導電テープの貼着長さが変更されても、加圧ツールを交換せずに対応することができ、それだけ、作業効率を向上できる」と、段落【0016】には「【発明の効果】本発明の異方性導電テープの圧着方法によれば、異方性導電テープの貼着長さが変更されても、加圧ツールの交換無しに作業を継続することができ、作業効率を向上できる」と、それぞれ記載されている。 これによれば、相違点Cに係る「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」点は、本件発明の効果に相当するものと解され、 かつ、この効果は、本件請求項1の「前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り・・・圧着する」という構成によって奏されるものと解するほかない。 (2) 他方、引用刊行物記載の発明も、「前記加圧ツールの前記送り方向上流側の端部を基準位置とし・・・異方性導電テープの端部が前記基準位置にほぼ一致するまでリーダテープを前記送り方向へ送り・・・圧着する」点で本件発明に相当する構成を備えることは、前記1(1)アの認定から明らかであるから、「異方性導電テープの長さが変更されても加圧ツールの交換を不要にした」点を明示する記載がないとしても、相違点Cに係る上記効果を奏するものというべきである。 したがって、相違点Cについて、本件決定が、単なる表現上の相違にすぎないとした判断に誤りはないというべきである。 4 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |