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関連審決 無効2001-35288
関連ワード 物の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 47号 審決取消請求事件
原告 株式会社並木製作所
訴訟代理人弁護士 保田 眞紀子
被告 株式会社プラネット
訴訟代理人弁護士 五十嵐 芳男
同 弁理士 阿部 美次郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2001-35288号事件について平成13年12月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「止め具及び紐止め装置」とする特許第3114868号発明(平成10年8月10日原出願、平成11年7月6日分割出願、平成12年9月29日設定登録、以下「本件発明」といい、その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は、平成13年7月2日、本件特許につき無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を無効2001-35288号事件として審理した上、同年12月13日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月26日、原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載 【請求項1】外殻体と、弾性体とを含む止め具であって、前記外殻体は、孔と、中空部とを有し、前記中空部の内壁面が球面状の連続体であり、前記孔は、前記外殻体の外部から前記中空部へ通じており、前記弾性体は、通孔部を有するOリング状部材であって、前記中空部の内部に内蔵され、その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接しており、前記通孔部は、前記孔に通じており、前記弾性体は、前記外殻体の前記孔を通って、前記外殻体の内部に導入される止め具。
【請求項2】請求項1に記載された止め具であって、前記Oリング状部材でなる弾性体は、前記外殻体の内部に導入する前、その外径が前記外殻体の前記中空部の内径よりも大きい止め具。
【請求項3】請求項1または2の何れかに記載された止め具であって、前記弾性体は、前記外殻体の前記孔を通して、前記中空部内に導入可能である止め具。
【請求項4】請求項1乃至3の何れかに記載された止め具であって、前記弾性体は、複数個であり、それぞれは、前記中空部内で積層されている止め具。
【請求項5】請求項1乃至4の何れかに記載された止め具であって、前記外殻体は、前記孔が2個であり、前記孔のそれぞれは互いに対向する位置に備えられている止め具。
【請求項6】請求項1乃至5の何れかに記載された止め具であって、前記弾性体は、前記通孔部の内径が前記外殻体の前記孔の直径より小さい止め具。
【請求項7】止め具と、紐部材とを含む紐止め装置であって、前記止め具は、
請求項1乃至6の何れかに記載されたものであり、前記紐部材は、前記止め具の前記外殻体を貫通し、前記弾性体によって弾性的に保持される紐止め装置。
【請求項8】請求項7に記載された紐止め装置であって、装飾品として用いられる紐止め装置。
(以下、上記請求項1〜8記載の各発明を、請求項の番号に対応して「本件発明1〜8」という。) 3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、請求人(注、原告)の主張する無効理由、すなわち、本件発明1〜8は、実公平4-37457号公報(審判甲第1号証、本訴甲第3号証、以下「第2引用例」という。)、実用新案登録第3042071号公報(審判甲第2号証、本訴甲第4号証、以下「第1引用例」という。)、特開昭57-55102号公報(審判甲第3号証、本訴甲第5号証、以下「第3引用例」という。)、実願昭57-191445号(実開昭59-97606号)のマイクロフィルム(審判甲第4号証、本訴甲第6号証、以下「第4引用例」という。)、実公昭61-24087号公報(審判甲第5号証、本訴甲第7号証、以下「第5引用例」という。)及び特公平4-25801号公報(審判甲第6号証、本訴甲第8号証、以下「第6引用例」という。)記載の各発明(以下、上記第1〜第6引用例記載の各発明を、「第1〜第6引用例発明」などという。)に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたものであるとの主張は採用することができず、請求人の主張及び証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件発明1と第1引用例発明の一致点及び相違点の認定(審決謄本8頁26行目〜9頁5行目)並びに相違点Aについての判断(同9頁6行目〜24行目)は認め、相違点B〜Dについての判断は争う。本件発明2〜8についての判断は争う。
審決は、本件発明1と第1引用例発明との相違点B〜Dについての判断を誤る(取消事由1)ことにより、本件発明1の進歩性の判断を誤り、さらに、この誤った判断に基づいて、本件発明2〜8についての進歩性の判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本件発明1と第1引用例発明との相違点B、すなわち、「前者(注、本件発明1)は、弾性体が、Oリング状部材であるのに対し、後者(注、第1引用例発明)は、弾性体が、四角筒状又はサイコロ状である点」(審決謄本8頁36行目〜37行目)について、「甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第6号証(注、第2〜第6引用例、本訴甲第3、第5〜第8号証)のいずれにも、外殻体の内部に内蔵される弾性体としてOリング状部材を用いることは記載されておらず、
かかる事項を示唆する記載もない」(同9頁34行目〜36行目)と認定したが、
以下に述べるとおり誤りであり、相違点Bに係る本件発明1の構成が容易想到でないとの審決の判断も誤りである。
ア 被告は、本件特許権に基づく製造販売禁止等請求控訴事件(本件被告を控訴人とし、本件原告を被控訴人とする当庁平成14年(ネ)第1089号、以下「別訴」という。)において、中心部が空洞の円柱状(筒状)及び当該円柱の上下の部分が内側に曲がった形状(球形中空状)はOリング状であると主張し、また、
Oリング状の弾性体の構成を筒状の弾性材の構成に変更することは、設計上の微小な点に関する変更にすぎないと主張した。この主張に従えば、第4引用例(甲第6号証)記載の「ゴム管2a」及び第5引用例(甲第7号証)記載の「ゴム管5」もOリング状弾性体であるから、弾性体にOリング状部材を用いることは公知である。また、Oリング状弾性体を筒状弾性部材に変更することが容易に想到し得るのであれば、その逆も同様であり、第4引用例又は第5引用例記載の筒状弾性部材をOリング状弾性体に変更することは容易に想到し得るものである。
イ Oリング状部材が、「ほぼ円盤状のものであって、真ん中に紐を通せる孔があいているもの」(審決謄本9頁29行目)であるとしても、第3引用例(甲第5号証)「第2図」に示されている留めがねにおいて、第1の留めがね部材の「ハウジング14a」内の可撓性材料から成る「ホールダ18」に設けられた「ウエブ18a」は中央に孔を有しており、第2の留めがね部材の「シャフト16a」を係留保持するものであるから、本件発明1の弾性体に相当するものであり、「ハウジング14a」は本件発明1の外殻体に相当するものである。そして、同引用例には、「ウエブ18a(18a’)は単純な円盤形状としてもよい」(5頁左上欄14行目〜15行目)との記載があることから、「ウエブ18a」の形状は「中央に紐を通せる孔があいている単純な円盤形状」、すなわちOリング状である。したがって、第3引用例には、外殻体の内部に内蔵される弾性体としてOリング状部材を用いることが示唆されており、審決の上記認定は誤りである。
ウ さらに、第6引用例(甲第8号証)には、宝石類の間に介装されるものではあるが、弾性素材から成るOリング形状の駒が記載されており、このOリング状駒を外殻体内部の弾性体として転用することは当業者であれば容易に想到し得たことである。
(2) 審決は、本件発明1と第1引用例発明との相違点C、すなわち、「前者(注、本件発明1)は、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接しているのに対し、後者(注、第1引用例発明)は、弾性体は外殻体の中空部の球面状の内壁面に接着剤などで固定されており、その外周が中空部の球面状の内壁面に圧接してはいない点」(審決謄本8頁末行〜9頁2行目)について、「甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第6号証(注、第2〜第6引用例、本訴甲第3、第5〜第8号証)のいずれにも、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接することは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない」(同10頁4行目〜6行目)と認定したが、以下に述べるとおり誤りであり、相違点Cに係る本件発明1の構成が容易想到でないとの審決の判断も誤りである。
ア 弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接しているか否かを検討するときに、圧接している内壁面の形状にまで及んで考慮することは妥当でなく、端的に、
弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接しているか否かを判断すべきである。したがって、審決の上記認定は、圧接する構成と内壁面の形状を関連付けた点でまず誤りである。そして、審決が、「甲第5号証(注、第5引用例、本訴甲第7号証)には、弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接していることが記載されているといえる」(審決謄本10頁11行目〜12行目)と認定したとおり、第5引用例(甲第7号証)には、弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接していることが記載されており、また第4引用例(甲第6号証)には、「ゴム管2aを金属被覆2bで覆う」(2頁10行目)と記載され、ゴム管が金属被覆の内壁面に圧接していることが示唆されている。
イ また、第2引用例(甲第3号証)には、樹脂材が充填されている中空部の内壁面が球面状である鎖玉が記載されており、樹脂材が本来弾力を有するものであることからすれば、弾性を有する樹脂材の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接していることが記載されている。
ウ さらに、第1引用例(甲第4号証)には、「弾性部材6」を「半球部1b」中に接着剤などで固定すること(8頁段落【0028】)、弾力によって「留め具1」と「弾性部材6」とが固定されること(同段落【0029】)が記載されている。固定は圧接状態の強固な場合の概念であり、また、上記「留め具1」の「半球部1a」は接着剤が使用されていないことから、第1引用例には、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接することが記載されている。
(3) 審決は、本件発明1と第1引用例発明との相違点D、すなわち、「前者(注、本件発明1)は、弾性体が、外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入されるものであるのに対し、後者(注、第1引用例発明)は、かかるものではない点」(審決謄本9頁3行目〜4行目)について、「甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第6号証(注、第2〜第6引用例、甲第3、第5〜第8号証)のいずれにも、弾性体を外殻体の孔を通って外殻体の内部に導入することは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない」(同10頁15行目〜17行目)と認定したが、以下に述べるとおり誤りであり、相違点Dに係る本件発明1の構成が容易想到でないとの審決の判断も誤りである。
ア 第3引用例(甲第5号証)には、外殻体の孔を通して、中空部内に弾性体を導入することが可能な止め具が記載され、また、第5引用例(甲第7号証)には、外殻体の孔を通して、中空部内に弾性体を導入することが示唆されている。
イ また、実用新案登録第3041836号公報(甲第9号証)には、「周知の1対のカップ型を合わせて形成した場合には前記各孔2を形成して内部に前記摩擦体3を設け、互いにレーザー等で接合して一体化しているが、第1装飾部1がムクの場合には、前記孔2の代わりに貫通孔・・・を形成し、この貫通孔を介して第1装飾部1内に摩擦体3を設ける場合がある」(4頁段落【0006】)との記載があり、本件発明1の弾性体に相当する摩擦体を、本件発明1の外殻体に相当する第1装飾部に設けられた本件発明1の孔に相当する貫通孔を介して、第1装飾部内に設けること、換言すれば、弾性体が外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入されることが記載されている。なお、甲第9号証は、原告が審判の口頭審理において提出を希望したにもかかわらず、特許庁によりこれを拒絶され、やむなく参考資料1として提出したものであるが、審決は、この参考資料1の検討すらせず、原告の主張を無視したものである。
ウ 本件特許出願の審査時において、被告は、「孔15、16の他に、弾性体を導入すべき開口を持たない外装体において、『弾性体に、針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け、外殻体の内部に導入する』ためには、弾性体は外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入される他はありません」(平成12年8月28日付け意見書(甲第12号証)8頁23行目〜26行目)と述べ、別訴においても同旨の主張をしているから、これに反する主張は許されないというべきである。
また、本件出願に対する平成12年1月11日付け拒絶理由通知書(甲第10号証)及び同年8月4日付け拒絶理由通知書(甲第11号証)においても、
第3引用例(甲第5号証)には、外殻体の孔を通して、中空部内に導入可能である弾性体を有する止め具が記載されており、この構成を第1引用例発明に適用することは当業者であれば容易になし得たことであると認定されている。すなわち、連続体として形成された外殻体の内部に弾性体を装着するには、外殻体に孔が設けられている以上、当該孔を通して導入するほかないのであって、この点は被告自身が認めているところである。
2 取消事由2(本件発明2〜8の容易想到性の判断の誤り) 本件発明2〜8は、本件発明1の構成を前提とするものであるところ、審決は、上記のとおり本件発明1についての判断が誤っているから、本件発明2〜8についての判断も誤りである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は、相違点Bに関し、被告が別訴で主張している点をとらえ、第4引用例(甲第6号証)記載の「ゴム管2a」及び第5引用例(甲第7号証)記載の「ゴム管5」がOリング状弾性体であるとか、これらをOリング状弾性体に変更することは容易に想到し得ると主張する。しかしながら、本件発明1における「Oリング状」の意味は、弾性体の口形に注目し、それがアルファベットの「O」に似ているという意味であるが、本件発明1における弾性体は、口形形状だけでなく、
「外殻体の中空部の内部に内蔵」され、かつ、「その外周が中空部の内壁面に圧接」しなければならないとされている。これに対し、第4引用例(甲第6号証)記載の「ゴム管2a」及び第5引用例(甲第7号証)記載の「ゴム管5」は、外径寸法に比べて、軸方向の長さ寸法が長すぎる形状を有するため、「外殻体の中空部の内部に内蔵」され、かつ、「その外周が中空部の内壁面に圧接」するという条件を満たすことができないから、本件発明1の「Oリング状部材でなる弾性体」には相当しない。
原告は、第3引用例(甲第5号証)記載の「ウエブ18a」が本件発明1の弾性体に相当するものであると主張するが、同引用例には「ホールダ18は横方向のウエブ18aを含み」(3頁左下欄2行目〜3行目)と記載されているとおり、「ウエブ18a」は「ホールダ18」の一部分であって、「ホールダ18」から独立した部材ではないことが明らかである。本件発明1の弾性体は、それ自体が独立した部材であるから、弾性体と対比すべきは独立した部材である「ホールダ18」であるが、「ホールダ18」がOリング状と呼べないことは明らかである。
第6引用例(甲第8号証)にも、外殻体の内部に内蔵される弾性体としてOリング状部材を用いることが記載されていないことは、審決が認定するとおりである。
(2) 原告は、相違点Cに関し、弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接しているか否かを検討するときに、圧接している内壁面の形状にまで及んで考慮することは妥当でないと主張するが、本件発明1の弾性体は、その外周が外殻体の中空部の内壁面に圧接するものであるから、内壁面の形状に応じて弾性体の圧接の状態が変わることは、その材質からいって当然の事理である。したがって、外殻体中空部の内壁面が球面状であることは、圧接を考える場合に欠くべからざる条件というべきである。そして、第5引用例(甲第7号証)に弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接することが記載されていることは認めるが、審決が認定したとおり、同引用例のものは、中空部の内壁面が球面状ではない。また、第4引用例(甲第6号証)には、
「ゴム管2aを金属被覆2bで覆う」(2頁10行目)と記載されているのみで、
圧接を示唆するものではない。したがって、第5引用例及び第4引用例に、「弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接することは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない」(審決謄本10頁4行目〜6行目)との審決の認定に誤りはない。
原告は、第2引用例(甲第3号証)に弾性を有する樹脂材の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接していることが記載されていると主張するが、同引用例にはそのような記載はない。
さらに、原告は、第1引用例(甲第4号証)には、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接することが記載されていると主張する。しかし、第1引用例において、「半球部1a」は接着剤が使用されていないとしても、「半球部1b」に「半球部1a」を被せて一体に接合した構成になっているのであるから、球体全体との関係では、弾性部材は、球体に接着固定されていることになるのであって、圧接されたものではない。
(3) 相違点Dに係る審決の「甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第6号証(注、
第2〜第6引用例、本訴甲第3、第5〜第8号証)のいずれにも、弾性体を外殻体の孔を通って外殻体の内部に導入することは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない」(審決謄本10頁15行目〜17行目)との認定に誤りはない。
原告は、甲第9号証には、弾性体が外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入されることが記載されていると主張するが、同号証は、審判手続では審理の対象となっていない証拠であるから、これを審決を違法とする理由の証拠資料とすることは許されない。
2 取消事由2(本件発明2〜8の容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2〜8は、本件発明1の構成を更に限定したもの又は同構成を前提とするものであり、本件発明1がその進歩性を否定されるものではないことは上記のとおりであるから、本件発明2〜8についてもその進歩性が否定される理由はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と第1引用例発明との相違点についての判断の誤り)について 1-1 相違点Bについて (1) 審決の本件発明1と第1引用例発明との相違点Bの認定、すなわち、「前者(注、本件発明1)は、弾性体が、Oリング状部材であるのに対し、後者(注、
第1引用例発明)は、弾性体が、四角筒状又はサイコロ状である点」(審決謄本8頁36行目〜37行目)に関し、原告は、この相違点Bに係る本件発明1の構成が、第3引用例、第4引用例及び第6引用例に基づいて容易想到であると主張するので検討する。
(2) まず、「Oリング状」の意味について見るに、本件発明1の弾性体は、外周が球面状の外殻体内壁面に圧接するものであり、球面は任意の断面が円形であるから、そこに圧接する弾性体外周も円形断面でなければならない。また、平成12年8月28日付け手続補正書(乙第2号証)による補正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の「弾性体21の通孔部22の内径D2」(【発明の詳細な説明】の段落【0012】)との記載によれば、弾性体の通孔部も円形断面を有し、
結局、外周及び内周がともに円形断面を有することを「Oリング状」と表現したものと認めることができる。なお、「リング」とは日本語においては「指輪」をも意味するところ、指輪には扁平なものもそうでないものも存在するから、「Oリング状」との記載のみをもって、弾性体が扁平な円盤状であるとまで解することはできない。
ところで、本件発明1の「弾性体は、前記外殻体の前記孔を通って、前記外殻体の内部に導入される」との構成要件及び「その外周が前記中空部の前記内壁面に圧接」との構成要件は、間接的に弾性体の形状等を規定するものであるから、
弾性体の形状等については、更に検討が必要である。本件明細書には、「弾性体はOリング状部材でなるから、弾性体に、針金等を用いた引っ掛け手段を引っ掛け、
外殻体の内部に導入することができる。当然のことであるが、弾性体は、外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入される」(同段落【0008】)との記載があり、同様の記載が、【図1】に係る実施例を説明した段落【0012】にもある。
そして、【図1】に図示された程度に扁平な弾性体であれば、適宜の弾性を有する弾性材料を選択することにより、外殻体の孔から針金等により外殻体中空部に導入し、弾性体外周を外殻体内壁面に圧接させることは可能であると認めることができる。ところで、外殻体の孔から弾性体を中空部に導入するに当たっては、弾性体を孔から導入可能となるまで折り曲げる等変形させる必要があることは明らかであり、他方、外殻体内壁面が球面状であるため、変形させた弾性体が原形復帰し、外殻体内壁面に圧接する際、どのような位置で圧接するか一義的に定まらないことは明らかである。具体的には、【図1】では、外殻体の二つの孔「15」と「16」を結ぶ直線と円盤状の弾性体が垂直となるような位置で圧接する様が図示されているが、このような位置から傾いた位置において圧接することも十分あり得るというべきである。そして、【図1】に図示された程度に扁平な弾性体であれば、【図1】から傾いた位置で圧接したとしても、弾性体の通孔部は常に外殻体の中心とほぼ一致し、外殻体の孔「15」、「16」との関係においても、ほぼ一定の位置関係となり、止め具として使用することに支障がないものと認めることができる。
ところが、本件発明1の弾性体について、厚さが外径と同程度の筒状のものを包含すると解することは困難である。すなわち、厚さと外径が同程度の弾性体として、周面が円筒状のものと、周面が球面状のものがあり得るが、後者を「リング状」と称することは、上記「指輪」の例をもってしても困難であり、「リング状」との記載からは、前者しか想起し得ない。また、前者、すなわち筒状の弾性体であっても、まず、外殻体の孔から導入可能な程度に変形(この場合の「変形」とは、円盤状部材と異なり「圧縮」である。)させることがそもそも困難であり、極めて圧縮容易な弾性材を用いて導入可能であるとしても、弾性体の周面全体で外殻体内周面に圧接するのではなく、弾性体の上下部分のみが圧接すること及び圧縮容易な弾性材であれば圧接力も小さいことから、必要な圧接力を得られるかどうか疑問である。加えて、前記円盤状弾性体について述べたと同様に、外殻体内周面が球面状であるため、導入後の筒状弾性体の位置は一義的に定まらず、弾性体通孔部と外殻体孔の位置関係も一定とならないことが明らかである。そうであれば、外殻体の孔から紐部材を弾性体通孔部に導くことが困難となり、止め具としての使用に支障を生じるというべきである。換言すれば、本件発明1が「本発明の課題は、紐部材を容易に係留できる止め具を提供することである」(本件明細書【発明の詳細な説明】の段落【0004】)とするところ、本件発明1の弾性体を厚さが外径と同程度の筒状とした場合には、この課題を解決し得るものとはいえないから、本件発明1の弾性体は、上記筒状のものを含まず、このことと、前記「Oリング状」の意味するところからは、結局、中心に通孔部を有する円盤状部材であると解するのが相当である。
なお、原告は、別訴での控訴人(注、本訴被告)の主張を理由に、第4引用例(甲第6号証)記載の「ゴム管2a」及び第5引用例(甲第7号証)記載の「ゴム管5」が「Oリング状弾性体」であると主張するが、本件発明1の要旨は本件明細書の記載に基づいて解釈すべきものであって、別訴における控訴人(本訴被告)の主張に左右されるというものではない上、本件発明1の弾性体の形状が「Oリング状」であるにとどまらず、円盤状であることは上記説示のとおりであり、
「ゴム管」との記載からも明らかなように、第4引用例記載の「ゴム管2a」及び第5引用例記載の「ゴム管5」は、円盤状ではなく筒状部材であるから、本件発明1の弾性体に相当しないことは明らかである。
また、原告は、Oリング状部材が、「ほぼ円盤状のものであって、真ん中に紐を通せる孔があいているもの」(審決謄本9頁29行目)であるとしても、第3引用例(甲第5号証)記載の「ウエブ18a」が、本件発明1の弾性体に相当すると主張するが、同引用例には、「可撓性材料から成るホールダ18が、ハウジング14a内に配置されかつ該ホールダに支持されている。ホールダ18もまた管状であり、管状のハウジング14aの壁内にあって該壁に対して配置されている。このホールダ18は横方向のウエブ18aを含み、この横方向ウエブにはこれを貫く孔18bが形成されている」(3頁右上欄18行目〜左下欄4行目)との記載があり、この記載と同「第2図」の図示によれば、「ウエブ18a」は筒状を成す「ホールダ18」の一部(底面部)にすぎず、当然「ウエブ18a」が、「ハウジング14a」(機能上、本件発明1の「外殻体」に相当すると認められる。)に圧接しているのではなく、機能上本件発明1の弾性体に相当する構成は、「ホールダ18」であることが明らかである。なお、同引用例には、「ウエブ18a・・・は単純な円盤形状としてもよい」(5頁左上欄14行目〜15行目)との記載があるが、同記載は、「拡大部16cがホールダに対して着座し」(3頁右下欄14行目〜15行目)との記載並びに「第2図」及び「第4図」の記載から、これらの図では「拡大部16c」と係合する凹部が形成されているが、同凹部を省略してもよいことをいうものであり、円盤形状とした「ウエブ18a」は依然として「ホールダ18」の一部にすぎず、本件発明1の弾性体に相当するものでないから、原告主張は失当である。
(3) さらに、原告は、第6引用例(甲第8号証)記載のOリング形状の駒を外殻体内部の弾性体として転用することが容易想到であると主張する。
確かに、同引用例には、「宝石類2には球面にほぼ直交する透孔3が設けられ、この透孔3に前記連通糸1を挿通して宝石類2…を連装する。宝石類2と宝石類2の間の適宜箇所には、・・・シリコンゴムなどの弾性素材でできたOリング形状の駒4が介装されている」(3頁5欄20行目〜27行目)との記載があり、
同引用例記載の駒が、本件発明1の弾性体と類似の形状を有し、連通糸を係止する点で機能上も一部一致するということができる。
しかしながら、上記駒は、外殻体に内蔵されるものではなく、同引用例の「本発明の目的とする処は、誰でも簡単に迅速に宝石類を連装し固定する作業をできるようにするとともに、・・・宝飾品としての優美さ、滑らかさを保てるようにすることにある」(2頁4欄16行目〜24行目)との記載に照らしても、宝飾品としての優美さ、滑らかさを保てる形状の一つとして選択されたものであることが明らかである。したがって、弾性素材として例示されているシリコンゴムが、本件発明1に必要とされる弾性(導入時の変形容易性と導入後の圧接力)を有するとしても、第6引用例においては本来的に必要とされないものであるから、上記駒を、
第1引用例発明の弾性体に代えて用いる動機はないというべきである。かえって、
同引用例には、「Oリング形状の駒4に代えて、・・・球形の駒を宝石類2と宝石類2の間に介装しても同様の効果が得られる」(3頁5欄32行目〜34行目)との記載があり、外観形状を球形とする際には、球形部材の内部にOリング形状の駒を内蔵するのではなく、駒自体を球形にする旨記載されているのであるから、内部に弾性体を有し外観形状が球形である第1引用例発明と結びつく要因はない。加えて、第1引用例(甲第4号証)には、「図2(2)は、留め具1を構成する球体の断面図であり、中央に挿入孔3aの空いた半球部1aと、中央に挿出孔3bの空いた半球部1bとからなり、両半球体1aと1bとを突き合わせて、接合部1cをロウ付けして一体に結合することで、球状に完成する」(6頁段落【0016】)、
「ベース部4cの両側から突出したフランジ部4e、4fのみが、半球部1bの内面と接するので、この部分4gでロウ付けすることによって、板バネ4は半球部1bの内面に固定される」(同段落【0017】)、「このゴム様体の弾性部材6を半球部1b中に内蔵し、その中央孔3bとゴム様弾性部材6の下孔6bとが丁度重なる状態で、弾性部材6を半球部1b中に接着剤などで固定する。そして、上側の半球部1aを被せて、接合部1cをロウ付けなどで結合すると、弾性部材6の上側の孔6aが上側の半球部1aの中央孔3aと丁度一致する」(8頁段落【0028】)及び「図5は、弾性部材として、合成樹脂製のスポンジ様体を用いた実施形態であり、(1)に示すようなサイコロ状のスポンジ様体7を、(2)図のように半球部1b中に内蔵して接着固定した後、上側の半球部1aを被せて一体に接合した構成になっている」(同段落【0030】)との記載があり、第1引用例発明に用いられる弾性体として、「板バネ」、「ゴム様弾性部材」及び「スポンジ様体」が例示されているところ、上記弾性体は、いずれも中央に挿出孔の開いた「半球部1b」にロウ付け等により接着固定されるものである。
この第1引用例発明の弾性体として、第6引用例記載のOリング状駒を採用するに当たっても、「半球部1b」に接着固定するとの固定形態を踏襲すると見るべきであり、そうすると、「半球部1b」に固定されるOリング状駒の直径は、半球部内面の直径よりも小とならざるを得ない。ところが、本件発明1の弾性体は、その形状がOリング状であることに加えて、外周が外殻体内壁面に圧接するものであるから、その直径は外殻体内周面の直径より若干大でなければならない。このように、
第1引用例発明の弾性体として第6引用例記載のOリング状駒を適用したとしても、弾性体の寸法において本件発明1の弾性体と異なるから、本件発明1には至らないことが明らかである。
(4) 以上のとおりであるから、相違点Bについての審決の「甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第6号証(注、第2〜第6引用例、本訴甲第3、第5〜第8号証)のいずれにも、外殻体の内部に内蔵される弾性体としてOリング状部材を用いることは記載されておらず、かかる事項を示唆する記載もない」(審決謄本9頁34行目〜36行目)との認定及び「甲第6号証(注、本訴甲第8号証)には、弾性素材で構成されたOリング状の部材を用いることは記載されているものの、この部材は宝石類の間に介装される駒であって、止め具の外殻体の内部に内蔵されるものではない」(同9頁末行〜10頁2行目)との認定に誤りはなく、この認定に基づいて、相違点Bに係る本件発明1の構成が当業者にとって容易に想到できない旨の審決の判断にも誤りはない。
1-2 相違点Cについて (1) 審決の本件発明1と第1引用例発明との相違点Cの認定、すなわち、「前者(注、本件発明1)は、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接しているのに対し、後者(注、第1引用例発明)は、弾性体は外殻体の中空部の球面状の内壁面に接着剤などで固定されており、その外周が中空部の球面状の内壁面に圧接してはいない点」(審決謄本8頁末行〜9頁2行目)に関し、原告は、弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接しているか否かを検討するときに、圧接している内壁面の形状にまで及んで考慮することは妥当ではなく、第4引用例(甲第6号証)及び第5引用例(甲第7号証)に、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接していることが記載又は示唆されていると主張するので検討する。
(2) 審決は、「甲第5号証(注、第5引用例、本訴甲第7号証)には、弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接していることが記載されているといえる」(審決謄本10頁11行目〜12行目)と認定するところ、第5引用例(甲第7号証)には、「金属小玉1の中心に小径孔2を貫通せしめたのち同小径孔2の其の他端に近い箇所まで一端より大径孔3として抉って同他端に内向きフランジ4を形成すると共に当該大径孔3の中に同大径孔3より僅かに短いゴム管5を押入して其の内径孔6を上記の小径孔2と同心軸とし」(1頁1欄27行〜2欄5行)との記載があり、これと同「第3図」の図示によれば、「ゴム管5」は筒状であり、それとほぼ同形状の大径孔に押入されることで、ゴム管内径孔と金属小玉の小径孔を同心軸とすることができるのであるから、そのためには、押入後のゴム管の位置が一義的に定まる必要がある。ところが、このゴム管を球面状中空部に押入した場合、ゴム管と中空部の形状が大きく異なるため、ゴム管の位置が一義的に定まらず、ゴム管の「内径孔6」と「小径孔2」を同心軸とすることは困難である。そうであれば、
「弾性体の外周が中空部の内壁面に圧接している」との構成を検討するに当たっては、圧接される弾性体の形状と中空部内壁面の形状とは密接不可分の関係にあり、
これら形状と圧接構成を独立した技術と見ることはできない。そして、第1引用例記載の弾性体が、留めがね内面に接着固定されるものであり、弾性体として例示された「板バネ」、「ゴム様弾性部材」及び「スポンジ様体」が、球面状内壁面に圧接する際、圧接位置が一義的に定まる必要がある形状であることは明らかであるから、第5引用例に弾性体を内面に圧接することの技術の開示があっても、本件発明1の相違点Cに係る構成に至らないことは明らかである。
また、第4引用例(甲第6号証)には「ゴム管2aを金属被覆2bで覆う」(2頁10行目)との記載はあるが、この記載をもって、ゴム管と金属被覆が圧接していると認めることはできない。のみならず、仮に、これが圧接であるとしても、圧接である以上ゴム管と金属被覆がほぼ同一形状であると見るべきであるから、第5引用例について、上記説示したのと同様の理由により、本件発明1の相違点Cに係る構成に至らないことは明らかである。
なお、原告は、第2引用例(甲第3号証)において、充填された弾性を有する樹脂材の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接していると主張するが、同引用例には、「中空体の鎖玉同志・・・を糸の挿通をもって数珠状に連結した場合、中空体の貫通孔は、金や銀等による素材板が孔の縁部になって露出しているため、・・・連結する糸が綿糸であるときは切れてしまい」(1頁1欄24行目〜2欄2行目)、「貫通孔を設けた鎖玉の中空体内に樹脂材を充填して、この樹脂材に、上記貫通孔の軸心と一致する糸通し孔を、貫通孔縁との間に隔離縁を形出するように貫設した」(同2欄14行目〜17行目)及び「綿糸が中空体の貫通孔縁に摺接して切れるのを確実に防止する」(同2欄25行目〜末行)との各記載があり、充填材は金や銀等による貫通孔縁と糸の摺接を防止するために設けられるものであって、そこに通される糸を係留するものではないから、そもそも弾性を有する必要性すら認めることができないばかりか、充填することと圧接を同視できないことは明らかである。原告は、樹脂材はすべて弾性を有すると主張するが、本件発明1でいう弾性は、外殻体内壁面に圧接できる程度の弾性であること、外殻体の孔から導入できる程度の変形性を有すること及び弾性体通孔部において挿通した紐部材を係留できるものであること、以上の要件を具備する必要があるところ、上記引用例記載の樹脂材がこれら弾性に係る要件を欠くことは明らかである。
さらに、原告は、第1引用例発明自体において、弾性体が留めがねに圧接していると主張する。しかしながら、本件発明1の弾性体は、外殻体孔部から導入することができるものであることは上記1-1の(2)で述べたとおりであり、「圧接」についても、弾性体を外殻体孔部から導入することで実現可能な弾性体と外殻体との係止形態であるから、接着剤等による固定は排除されていると認められる。
そうすると、第1引用例発明において、弾性体と留めがねが接着剤等により固定された部分を「圧接」と称することができないことはもとより、接着剤等で固定されていない半球部と弾性体が圧接関係にあっても、留めがね全体との関係において「圧接」ということはできない。
(3) そうすると、相違点Cについての審決の「甲第1号証及び甲第3号証乃至甲第6号証(注、第2〜第6引用例、本訴甲第3、第5〜第8号証)のいずれにも、弾性体の外周が中空部の球面状の内壁面に圧接することは記載されておらず、
かかる事項を示唆する記載もない」(審決謄本10頁4行目〜6行目)との認定に誤りはなく、この認定に基づいて、相違点Cに係る本件発明1の構成が当業者にとって容易に想到できない旨の審決の判断にも誤りがない。
1-3 相違点Dについて 審決は、「前者(注、本件発明1)は、弾性体が、外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入されるものであるのに対し、後者(注、第1引用例発明)は、かかるものではない点」(審決謄本9頁3行目〜4行目)を、本件発明1と第1引用例発明との相違点Dと認定したが、本件発明1が「止め具」という物の発明であることからすれば、本件発明の請求項1が規定する「弾性体が、外殻体の孔を通って、外殻体の内部に導入される」という製造工程自体は、弾性体の形状、大きさ、
変形容易性及び原形復帰性と外殻体の孔の大きさとの関係が、同製造方法によって製造することが可能な関係にあることを間接的に規定したものと解される。すなわち、相違点Dに係る本件発明1の構成とは、相違点A〜Cに係る本件発明1の構成を限定する構成にほかならず、相違点A〜Cに係る構成と独立した構成ということはできないのであって、相違点Dによって間接的に限定された相違点B及び相違点Cに係る本件発明1の構成が容易想到といえないことが前示のとおりである以上、
相違点Dに係る本件発明1の構成が当業者にとって容易であるとはいえない旨の審決の判断には誤りがないというべきである。
1-4 むすび 以上によれば、本件発明1は、第1〜第6引用例発明に基づいて、当業者が容易に想到し得た旨の原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件発明2〜8の容易想到性の判断の誤り)について 上記第2、2の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明2は、本件発明1に「前記Oリング状部材でなる弾性体は、前記外殻体の内部に導入する前、その外径が前記外殻体の前記中空部の内径よりも大きい」との事項を付加したもの、本件発明3は、本件発明1又は2に「前記弾性体は、前記外殻体の前記孔を通して、前記中空部内に導入可能である」との事項を付加したもの、本件発明4は、本件発明1〜3のいずれかに「前記弾性体は、複数個であり、それぞれは、前記中空部内で積層されている」との事項を付加したもの、本件発明5は、本件発明1〜4のいずれかに「前記外殻体は、前記孔が2個であり、前記孔のそれぞれは互いに対向する位置に備えられている」との事項を付加したもの、本件発明6は、本件発明1〜5のいずれかに「前記弾性体は、前記通孔部の内径が前記外殻体の前記孔の直径より小さい」との事項を付加したものであり、また、本件発明7は、本件発明1〜6を用いた紐止め装置、本件発明8は、本件発明7に「装飾品として用いられる」との事項を付加したものである。
そうすると、本件発明2〜8は本件発明1の構成を更に限定したもの又は同構成を前提とするものということができるところ、本件発明1の進歩性を肯定した審決の判断に原告主張の誤りがないことは前示のとおりであるから、本件発明2〜8の各発明において更に限定した構成等について判断するまでもなく、これらの発明の進歩性も否定することができないというべきである。したがって、原告主張の取消事由2も理由がない。
3 以上のとおり、原告主張の取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 宮坂昌利