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関連審決 審判1999-441
関連ワード 発明者 /  物の発明 /  製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  構成要件 /  混同 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 376号 審決取消請求事件
原告 日立エーアイシー株式会社
訴訟代理人弁理士 小川勝男
同 野萩守
同 佐々木 孝
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 高木進
同 簑輪安夫
同 山口由木
同 林栄二
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第441号事件について平成12年8月14日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成2年8月3日、名称を「プリント配線基板」とする発明につき特許出願(特願平2-205043号、以下その特許請求の範囲の請求項1に係る発明を「本件発明」という。)をしたが、拒絶査定を受けたので、平成11年1月14日に審判の請求をした。特許庁は、これを平成11年審判第441号事件として審理し、平成12年8月14日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本を平成12年9月11日原告に送達した。
2 本件発明の要旨(平成11年1月14日付け手続補正後の特許請求の範囲請求項1の記載) プリント配線基板のスルーホール内に、エポキシ樹脂系またはフェノール樹脂系の樹脂ペーストからなる非導電性の充填物を充填し、この充填物の表面に、半田付性のよいめっき層形成し、この充填してなる該スルーホールの上面と下面が該スルーホール内のめっきにより電気的に接続されることを特徴とするプリント配線基板。
3 審決の理由の要旨 審決は、別紙審決の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、本件発明は、引用例(特開平1-241895号公報。甲第4号証)及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない旨、認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決は、本件発明と引用例記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、
相違点2の判断を誤る(取消事由2)とともに、新たな拒絶理由を通知することなく、拒絶査定の理由と異なる理由で本件発明は特許を受けることができないとしたもので、特許法第159条第2項において準用する同法50条の規定に違反した違法がある(取消事由3)から、取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 引用例に示された「スルホール及びブラインドスルホール部分を銅めっきして形成した面実装用パッド17,17’」が本件発明の「スルーホール及び半田付性のよいめっき層」に相当する旨の審決の認定(審決書3頁22行〜26行)は、スルーホールとブラインドスルホールとを誤認混同したものであって、誤りである。
(1) スルーホールとブラインドスルホール(ブラインドスルーホール)とが異なること ア 本件発明の「スルーホール」とは、本件明細書(甲第2号証)の第1〜第3図及び実施例の説明(3頁16行〜4頁7行)から明らかなように、プリント配線基板の表面(上面)から裏面(下面)まで貫通して設けられた穴(スルーホール部)であり、その内周壁面にはめっき(スルーホールめっき)が施されたものである。
イ 引用例に記載された「ブラインドスルホール」とは、ブラインドバイア(ビア)と同義であり、「ブラインドバイア」は、JIS-C5603(甲第3号証)に、「多層プリント配線板での、外層導体パターンと内層導体パターン間を接続するバイアであって、プリント配線板の片側(表又は裏)だけに開口し、表から裏まで貫通していないバイア」と記載されている。また、JPCA規格(甲第14号証の5頁及び40頁)には、「ブラインドスルホール → インタスティシャルバイアホール」、「インタスティシャルバイアホール 多層プリント配線板の2層以上の導体層間を接続するめっきスルーホールであって、プリント配線板を貫通していない穴」と記載されている。
ブラインドスルーホールでは、配線板の上(表)面と下(裏)面を電気的に接続することができない。
ウ このように、「スルーホール」は、プリント配線基板の上下の両表面を電気的に導通・接続するものであるのに対し、「ブラインドスルーホール」はプリント配線基板の上下のプリント配線基板の上下両表面を電気的に導通・接続しないものであるから、両者は大きく異なるものである。
エ スルーホールとブラインドスルホールとが異なることは、引用例(甲第4号証)の記載からも明らかである。
すなわち、引用例の第1図A〜Cに示す基板5,5’は、スルホール8,8’を形成しているが、2枚の基板5,5’をプリプレグ11を介して積層して多層型ブラインドスルホール配線板とした状態では、これらはもはやスルホール8,8’とは呼ばれず、ブラインドスルホール12,12’と呼ばれている。これは、基板5、5’のスルホール8、8’は、多層型ブラインドスルホール配線板の上下の両表面を電気的に導通・接続していないからである。
オ 引用例は、多層型ブラインドスルホール配線板のブラインドスルホール内がプリプレグに含まれる樹脂の一部で充填され、その充填されたブラインドスルホールの表面に銅めっきが残るようにして面実装用パッドを形成するというものであり、上下の両表面を貫通するスルホール(図面に貫通スルホール16として示されている)を面実装に利用するという技術思想については全く開示するところがない。
引用例の第1図D以降に示す状態・過程は、プリント配線基板の表裏両面の銅箔を接続するスルーホール内に樹脂等を充填することを示唆するものではないし、充填したスルーホールの上下の表面に半田付性のよい銅めっき層を形成することを示唆するものでもない。
(2) 被告は、乙1号証(特開昭63-177586号公報)を提示して、その第1図(B)及び第4図(B)には、多層プリント配線板において、表裏回路と内層回路間の接続する孔をも「貫通接続孔(スルーホール)3」と称することが記載されているから、ブラインドスルーホールとスルーホールとは大きく異なるものではない旨主張する。
しかしながら、本件発明における「スルーホール」とは、請求項1に「上面と下面が該スルーホール内のめっきにより電気的に接続される」と記載されているように、プリント配線板の上面と下面(いわゆる、表裏回路間)を電気的に接続するものであって、内層回路間の電気的接続を行う穴を導体化した構造を指すものではない。
本件発明の「スルーホール」は特許法第36条第5項及び同法70条1項にも規定されるように特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものであり、請求項1の記載を離れて「スルーホール」を恣意的に解釈することは許されない。
(3) 被告は、また、本件発明は製造方法によって特定された「物の発明」であるから、審決は、引用例に記載された製造過程に示される技術を対比し、引用例において最初は貫通穴でありその後樹脂が充填されるスルホール8,8’を、本件発明において最初は貫通穴でありその後樹脂が充填されるスルーホールに相当すると認定したものであり、当該スルホール8,8’を有する基板5,5’もプリント配線基板であるから、スルホール8,8’の説明として「プリント配線基板のスルホール」と表現したにすぎず、基板5,5’が本件発明の最終生産物であるプリント配線基板に相当すると認定したものではない旨主張する。
しかしながら、本願請求項1は、最終生産物であるプリント配線基板の構造としての構成要件を規定したものであること、さらに、引用例第1図D〜Iに示された状態での基板5,5’は、多層型ブラインドスルホール配線板の一部を構成する部分にすぎず、基板5,5’を本件発明のプリント配線基板に相当するということはできないから、引用例における基板5,5’のスルホールをもって本件発明のプリント配線基板のスルーホールに相当するとの主張は失当である。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り) 審決は、相違点2(引用例ではスルホール8の上面とスルホール8’の下面とが電気的に接続されていないのに対し、本件発明ではスルーホールの上面と下面とがスルーホール内のめっきにより電気的に接続される点)について、引用例にも実装密度を上げるために、スルホール8,8’に樹脂を充填してブラインドスルホールとし、ブラインドスルホールの表面に銅めっきして面実装用パッドとすることが記載されているので、相違点2に係る構成は、引用例の上記記載及び従来周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである旨判断した(審決書4頁11行〜32行)が、誤りである。また、相違点1についての判断(審決書4頁2行〜9行)も誤りである。
(1) 相違点2は、要するに、半田付性のよいめっき層(引用例における面実装用パッド17,17’)を設ける箇所が、引用例ではブラインドスルホールであるのに対して、本件発明ではスルーホールである、ということに帰着する。
本件発明は、本来充填する必然性がなく、引用例でさえ空穴のまま残しているスルーホール(貫通スルホール16)を対象として、これに殊更に特定材質の充填物を充填し、その上面と下面を面実装表面とするものである。
これに対し、引用例においては、スルホール8,8’への樹脂充填は、多層型配線板を形成するためにプリプレグを挟んで加熱圧着する工程の結果として、不可避的に生じてしまう現象である。ここで面実装用パッドの形成を容易にするために、
プリプレグの樹脂による充填を僅かに溢れるように行っていても、それはプリプレグの樹脂により元来充填されているブラインドスルホールを利用するという思想の枠を出るものではない。
相違点2に関して、本件発明と引用例との間には技術思想に大きな隔たりが存在するから、当該相違点が容易に想到し得るということはできない。
(2) 審決は、「従来周知の技術的事項」として、(@)「プリント配線基板において、スルーホール内のメッキ層によりプリント配線基板の表裏の回路を電気的に接続すること」、(A)「絶縁性基板の両面に露出する導線性金属膜筒を有するスルーホール内にエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を充填し、基板表面には前記金属膜筒の露出部と接続されてなる金属膜導体回路が設けられてなり、
前記金属膜筒及び前記金属膜導体がめっき法により形成されてなる配線板」、及び(B)「表裏の両面を電気的に接続するために両面プリント配線板を貫通する貫通穴を穿設し、貫通穴に導電性樹脂組成物よりなる充填物を充填してプリント配線基板の両面を電気的に接続するとともにプリント配線基板を小型化して部品の実装密度を上げること」を挙示し、それらに基づいて相違点は当業者が容易に想到し得ることであるとする。
上記(@)及び(B)が周知の技術的事項であることは認めるが、上記(@)は、
いわゆるめっきスルーホールそのものに他ならず、同(A)は、プリント配線板の製造工程の一部を容易にするための方策であり、同(B)は、内壁のめっき層により表裏の回路を電気的に接続するスルーホール(めっきスルーホール)とは本質的に無縁のものであるから、これら技術的事項はいずれもスルーホール(引用例における貫通スルホール)の位置を面実装のために使用するという構想を示唆するところはない。
してみると、引用例と前記(@)〜(B)の技術的事項をどのように組み合わせても、「プリント配線基板のめっきされたスルーホール内に、樹脂ペーストからなる非導電性の充填物を充填し、この充填物の表面に、半田付性のよいめっき層を形成し、この充填してなるスルーホールの上面と下面がスルーホール内のめっきにより電気的に接続されるようにすること」は容易に想到し得ない。
(3) しかも、審決は、周知技術の認定を誤っている。
ア 甲第9、第10号証について 前記技術的事項(B)に関して審決が提示した甲第9号証(特開昭62-193197号公報)及び甲第10号証(実開昭58-99856号公報)に示された従来周知の技術的事項とは、両面プリント配線板の貫通穴に通常の銅めっき(スルーホールめっき)に代えて、導電性樹脂組成物よりなる 充填物 を充填 してプリント配線基板の表裏の両面を電気的に接続することである。
してみると、ここで充填されるのは、本件発明でいうスルーホール(その内部にスルーホールめっきが施されてプリント配線基板の上下の両表面を電気的に接続するもの)とは明らかに異なる貫通穴(孔)でしかないから、このことをもって、スルーホール部を充填することが周知であるとした審決の認定は誤りである しかも、導電性樹脂組成物の充填によるプリント配線基板の小型化についても、
甲第9号証では「ランドを形成することなく・・・導体パターンの配線密度を上げる・・・」(同号証2頁左下欄19行〜右下欄1行)ことによるものであり、甲第10号証では、「ハトメによる場合のように場所をとらない・・・」(同号証6頁7〜8行)ことによるもので、本件発明でいうスルーホールの上下両表面をも面実装に利用することにより高密度の面実装を行うこととは全く異質のものである。
イ 甲第8号証について 審決が甲第8号証(特開昭62-224996号公報)を提示し従来周知の技術的事項である主張する前記技術的事項(A)は、公知ではあるが周知ではない。
すなわち、「本発明のように導電性金属筒内が充填材料で完全に閉塞硬化された状態のプリント配線板であっても使用上全く支障がなくなってきている。」(3頁左下欄5〜8行)という点は発明者の個人的見解に過ぎず、それが記載された公報が、単に、本件発明の出願日(平成2年8月3日)より前の昭和62年10月2日に公開された事実のみにより従来周知の技術的事項であるとすることは根拠薄弱で妥当性を欠くものである。
3 取消事由3(手続違背) 拒絶査定時と審決時では、拒絶理由が異なるにもかかかわらず、本件審判においては、新たな拒絶理由を通知して意見書を提出する機会を与えることなく、審決がされた。審決には、特許法159条2項において引用する同法50条に違反した手続的瑕疵がある。
(1) 拒絶査定における拒絶理由は、本件発明の「スルーホール」は貫通型のもののみを意味しているとは認められないから、引用例記載の発明においてもブラインドスルホールはその部分において「スルーホールの上面と下面をスルーホール内のめっきよりに接続しているといえる。よって・・・先の拒絶理由Bは変更しない。」というものであった。
他方、審決における拒絶理由は、本件発明と引用例との間に技術的な相違(貫通スルーホールとブラインドスルーホールとの相違)を認めながら、本件発明は引用例と上記「周知の技術的事項」に基づいて容易に想到し得たというものであった。
そして、拒絶査定時には全く引用されていなかった文献(甲第5〜第10号証)が「従来周知の技術的事項」を示すものとして引用されている。
(2) 審決において、拒絶査定時には認められなかった相違点が認定され、この相違点に対して、審決が「従来周知の技術的事項」なるものを新たに引用したことは、新たな拒絶理由による拒絶に当たるものである。
すなわち、引用例の記載の内容の理解に資するなどの補助的な役割を超えて、本件発明と引用例記載の発明の間の画然たる相違点について、それが容易に想到し得たものであるとの判断の直接かつ不可欠の根拠をなすからには、そのような技術的事項は、技術常識と呼ぼうがそれに基づいて本件発明に容易に想到することができたとする「発明」の1つに他ならず、引用例記載の発明との軽重の差はない。
してみると、本件発明の想到容易性を、引用例記載の発明と初めて引用した周知技術とを組み合わせて判断することは新たな拒絶理由を構成するものである。
したがって、拒絶査定における理由とは異なる理由により拒絶するにもかかわらず、これを出願人に通知する義務を怠ったものであるから、特許法第159条第2項において準用する同法第50条の規定に違反するものである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して (1) 審決における一致点の認定に誤りはない。
ア スルーホールについて スルーホールに関して、本件明細書には、「スルーホールは両面基板もしくは多層配線プリント基板の配線層間の電気的接続を行うこと・・・を目的としており、・・・基板に穴を開けたところに、無電解めっきと電気めっきを併用するか、
あるいは無電解めっきのみにより穴内を導体化して電気的接続を行う構造」(甲第2号証1頁20〜25行)と記載されており、この記載によれば、プリント配線板における「スルーホール」とは、(A)プリント配線基板の表面(上面)と裏面(下面)、又は(B)多層配線プリント基板の配線層間の電気的接続を行うもの、
ということができる。
他方、引用例に記載のスルホール8,8’は、各基板5,5’を貫通し、各基板の両面を電気的に接続する貫通孔であり、積層後の多層型ブラインドスルホール配線板1において、上部及び下部のスルホール配線基板5,5’は、上記スルホール配線基板5,5’の上面と下面との間が、それぞれ、電気的に接続されることが明らかである。
したがって、引用例第1図Cに示される、表面に導体回路10,10’が形成された銅めっきスルホール8,8’を有する基板5,5’の「スルホール8,8’」は、本件発明における「スルーホール」に相当する。
イ 充填物を充填してなるスルーホールについて また、引用例には、「ブラインドスルホール12,12’」に関して、「多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法において、スルホール配線板を複数接合すると共に、そのスルホールに樹脂を表裏両面に僅かに溢れるように充填してブラインドスルホールとなし、・・・次いで表裏両面のブラインドスルホール部分の銅めっきが面実装用パッドとして残るようにエッチングすること」(甲第4号証2頁左上欄12〜右上欄1行)と記載され、さらに第1図E等を参照すると、スルホール8,8’がプリプレグ11の樹脂ペーストでふさがれてブラインドスルホール12,12’が形成されることは明らかである。 他方、本件明細書の請求項1には、「プリント配線基板のスルーホール内に、・・・樹脂ペーストからなる非導電性の充填物を充填し」(甲第1号証1頁下から6乃至2行)と記載されているから、上記「ブラインドスルホール12,12’」は、本件発明における「・・・充填物を充填し、この充填してなるスルーホール」に相当することが明らかである。
ウ 半田付性のよいめっき層について、
引用例に示されたものは、プリプレグ11の樹脂がプリント配線板である基板5,5’のスルホール8,8’に充填されてブラインドスルホール12,12’が形成され、その表面に銅めっき層が形成され、このめっき層が面実装用パッド17,17’であることから、この「面実装用パッド17,17’」が、本件発明における、充填物表面に形成された「半田付性のよいめっき層」に相当することは明らかである。
エ したがって、審決における一致点の認定に誤りはない。
(2) 原告の主張に対して ア 原告は、スルーホールとブラインドスルホールとは異なる旨主張する。
しかしながら、乙第1号証には、多層プリント配線板において表裏回路と内層回路間との接続する孔が、「導通接続孔(スルーホール)3」とされている(1頁右下欄11行〜14行、第1図(B)及び第4図(B)参照)から、「スルーホール」とは、「両面プリント配線板もしくは多層プリント配線板の表裏回路間、内層回路間の電気的接続を行う穴を導体化した構造」であるということができる。原告の主張は失当である。
イ 本件発明は製造方法によって特定された「物の発明」であり、最終生産物は、スルーホール内に、エポキシ樹脂系又はフェノール樹脂系のペーストからなる非導電性の充填物が充填され、この充填物の表面に、半田付け性のよいめっき層が形成され、この充填してなる該スルホールの上面と下面が該スルーホール内のめっきにより電気的に接続されているプリント配線基板である。
そこで、引用例におけるプリント配線基板の製造過程についてみると、最初の状態である第1図Cに示す基板5,5’の「スルホール8,8’」は、本件発明における樹脂の充填されていない「スルーホール」に相当するということができ、最終生産物における「ブラインドスルホール12,12’」は、「スルーホール内に、・・・樹脂ペーストからなる非導電性の充填物を充填し、・・・この充填してなる該スルホール」に相当する。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)に対して (1) 引用例には、@(発明が解決しようとする問題点)の欄に「しかしながら、・・・、より一層実装密度を上げるには、面実装用パッドをブラインドスルホールの上に設けることが考えられていたが、プリプレグ1の流動性充填量が微妙にばらつき、そのためブラインドスルホールの部分に平坦な面実装用パッドを設けることは困難であった」(甲第4号証1頁右下欄14行〜2頁左上欄2行)と記載され、A(発明の目的)の欄に、「本発明は・・・表裏両面のブラインドスルホール部分に銅めっきから成る平坦な面実装用パッドを設けて実装部品の搭載を可能にし、高密度、高実装化のできる多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法を提供することを目的とするものである」(同号証2頁左上欄4〜10行)と記載され、B(作用)の欄に、「上述の如く本発明の多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法は、ブラインドスルホールに樹脂を溢れるように充填し、その後工程で表裏両面を加工するので、ブラインドスルホールの部分は平坦となり、銅めっきに凹凸がなくなり平坦な面実装用パッドが得られるものである。」(同号証2頁右上欄3〜8行)と記載され、C(発明の効果)の欄に、「以上の説明でわかるように、本発明による多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法によれば、表裏両面のブラインドスルホール部分に平坦な面実装用パッドを容易に設けることができ、したがって配線板の小型化が可能となり、配線及び表面実装が高密度となり、・・・より一層の小型化に対応可能な多層型ブラインドスルホール配線板を提供できる効果がある。」(同号証2頁右下欄2〜10行)と記載されている。
以上の記載から、引用例には、実装密度を上げるために、プリント配線基板の表裏両面のブラインドスルホール部分に樹脂を充填することにより面実装を行う技術思想が開示されており、さらに、スルホール8,8’内に非導電性であると認められる樹脂を充填してブラインドスルホール12,12’となし、その表面に銅めっきをして面実装用パッド17,17’を形成することが記載されている。
しかも、両面プリント配線板を貫通する貫通穴に導電性樹脂組成物よりなる充填物を充填してプリント配線基板を小型化して部品の実装密度を上げること(本判決7頁(B)の技術的事項)は、原告も認めるように周知である。
したがって、貫通スルホールを有するプリント配線基板においても面実装密度を上げることは周知の課題であり、本来貫通しているスルーホールに樹脂を充填することも周知の技術であって、引用例に記載のブラインドスルホールに関する技術をプリント配線板を貫通するスルーホールに適用することが格別困難であるとはいえない。
したがって、相違点2に係る構成は、上記従来周知の技術的事項及び引用例の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(2) 原告は、審決が周知技術の認定を誤っていると主張するが、失当である。
ア 甲第9号証及び甲第10号証 甲第9号証及び甲第10号証は、貫通孔の中に導電性ペーストを充填したスルーホール及び貫通穴に銅めっきを施したスルーホールが本願出願前周知であることの例示として挙げたものであって、メッキしたスルーホールに樹脂を充填する例として挙げた証拠ではない。
しかも、既に述べたとおり、「スルーホール」は、「両面基板もしくは多層配線プリント基板の配線層間の電気的接続を行うこと・・・穴内を導体化して電気的接続を行う構造」であり、その内部にめっきが施されたものに限定されない。
したがって、「スルーホール部を充填することが周知である」との認定に誤りはない。
イ 甲第8号証 審決は、貫通穴内に導電層を設けて上下面を電気的に接続したスルーホールに樹脂を充填することの周知例として甲第8号証を挙げたが、その他、乙第1号証、乙第4号証を挙げることができ、前者には、スルーホール内壁のめっき層の存否に拘わらず、プリント配線板のスルーホール内に導電性ペーストを充填してプリント配線板の表裏回路間を導通可能にすることが、また、後者には、めっき層を形成したスルーホール内に絶縁性充填層を充填形成することが各々記載されている。
したがって、導電性金属を有するスルーホール内に樹脂を充填することも周知であるとした審決の認定に誤りはない。
3 取消事由3(手続違背)に対して 審決は、審判請求時の手続補正書により補正された発明を本件発明と認定し、拒絶査定に引用された引用例と比較すると、新たな相違点が存在することを認めた上で、この相違点は本件出願時の技術水準を考慮すれば当業者が容易に想到し得ることであるから、本件発明は依然として引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると判断したものであって、審決の理由は、拒絶査定の理由と異なる理由ではない。
また、審決に示した甲第5〜10号証は新たな引用例として引用したものではなく、単に、本件出願時の技術水準を説明するために例示したものにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は、引用例に記載された「スルホール及びブラインドスルホール部分を銅めっきして形成した面実装用パッド17,17’」が本件明細書の請求項1に記載された発明の「スルーホール及び半田付性のよいめっき層」に相当するとの認定は誤りであると主張する(なお、「スルーホール」は「スルホール」とも表記され、両者が同じものであることは争いがない。)。
(1) 「スルーホール」について ア 本件明細書(甲第2号証)には、「スルーホールは両面基板もしくは多層配線プリント基板の配線層間の電気的接続を行うこと・・・を目的としており、・・・基板に穴を開けたところに、無電解めっきと電気めっきを併用するか、
あるいは無電解めっきのみにより穴内を導体化して電気的接続を行う構造」(1頁20〜25行)との記載、及び「本発明の目的は、スルーホールの本来の目的である配線層間の電気的接続」(2頁3行)との記載が認められる。
これらの記載によれば、本件明細書における「スルーホール」は、プリント配線基板において、(A)両面配線基板(の表裏面)間の電気的接続を行う孔、及び、
(B)多層配線プリント基板の配線層間の電気的接続を行う孔の2態様を含むということができる。
イ 他方、引用例(甲第4号証)には、「3.発明の詳細な説明」の(実施例)の欄に、@「第1図Aに示すように、絶縁層の両面に銅箔を有する2枚の基板5,5’にそれぞれ個別に穴6,6’を穿設して設ける。そして第1図Bに示すように無電解めっき7,7’をすると、スルホール8,8’が形成される」(2頁右上欄13行〜17行)、A「次いで、導体回路10,10’を内側にして第1図D、に示すようにプリプレグ11を間に入れて、プレスにより加熱圧着して接合すると同時に、スルホール8,8’内にプリプレグ11を表裏両面に僅かに溢れるようにて流動充填して、第1図Eに示すようにブラインドスルホール12,12’を形成する。」(2頁右上欄19行〜左下欄5行)との記載が認められる。
そして、第1図A〜E図においては、基板5及び基板5’を貫通する各空洞が、
「6穴」、「6’穴」と表記され(第1図A)、当該空洞に無電解めっきが施された「6穴、6’穴」が「8スルホール、8’スルホール」と表記され(第1図B)、基板5及び基板5’の各表面(上面)及び裏面(下面)を貫通して電気的に接続することが示されている。
さらに、基板5と基板5’を加熱圧着して接合した状態(多層配線プリント基板)における表裏面回路と内層回路とを電気的に接続する空洞も、「8スルホール、8’スルホール」と表記され(第1図D)、「スルホール8、スルホール8’」が充填された場合には、同じ穴が「ブラインドスルホール12、ブラインドスルホール12’」と表記されていることが認められる(第1図E)。
ウ 上記ア、イで認定したところによれば、引用例において「スルホール」の語は、本件明細書におけるのと同様に、(A)両面配線基盤の表裏面間の電気的接続を行う孔、(B)多層配線プリント基板の配線層間の電気接続を行う孔、という2態様を含む意味で用いられており、スルホール(8、8’)が充填された状態のものを「ブラインドスルホール」(12、12’)と呼んでいることが明らかである。
そうすると、本件発明における「充填してなる該スルーホール」と引用例における「ブラインドスルホール」とは、異なるものではないというべきである。
そして、引用例における「ブラインドスルホール12,12’」が「スルホール」の空洞を充填したものと認められることは上記のとおりであるから、ブラインドスルホール12,12’部分の表面をめっきして形成した面実装用パッド17,17’は、本件発明の「スルーホール内に、エポキシ樹脂系またはフェノール樹脂系の樹脂ペーストからなる非導電性の充填物を充填し、この充填物の表面」に形成した「めっき層」に相当することも明らかである。
したがって、審決が、「スルーホール及びブラインドスルーホール部分を銅めっきして形成した面実装用パッド17,17’」は本件明細書の請求項1に記載された発明の「スルーホール及び半田付性のよいめっき層」に相当する、と認定したことに誤りはない。
(なお、引用例の(作用)欄には、「多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法は、ブラインドスルホールに樹脂を溢れるように充填し」(甲第4号証2頁右上欄3行〜5行)と記載されているが、(実施例)欄には、「第1図Dに示すように・・・スルホール8,8´内にプリプレグ11を表裏両面に僅かに溢れるようにて流動充填して、第1図Eに示すようにブラインドスルホール12,12´を形成する。」(2頁右欄末行〜5行)と記載されており、この記載と第1図D及びEとが一致していることから、「ブラインドスルホールに・・・充填し」との(作用欄)の記載は、充填がされた後の状態を指して「ブラインドスルホール」の語を用いていることが明らかである。) (2) 原告は、「スルーホール」とは、両面配線プリント基板の表裏両面を貫通して両表面を電気的に接続するものであるとの前提に立ち、「JPCA規格 プリント配線板用語」(甲第14号証)に、「ブラインドスルーホール」は、「多層配線板の導体層間を接続するめっきスルーホールであって、プリント配線基板を貫通していない穴」と記載されていることを根拠として、スルーホールとブラインドスルーホールとは大きく異なるものである旨主張する。
しかしながら、「スルーホール(スルホール)」という用語は、「日本工業規格 プリント回路用語」(甲第3号証)には記載されておらず、また、「JPCA規格 プリント配線板用語」(甲第14号証)には「ブラインドスルーホール → インタスティシャルバイアホール」との記載が認められるものの、同記載における矢印(→)は、必ずしも「ブラインドスルホール」と「インタスティシャルバイアホール」とが完全に同義であることを示すものとは認め難い。さらに、他の文献における用語例を検討すると、特開昭63-177586号公報(乙第1号証)には、「従来、上記のような各種回路板の表裏回路間の接続、内層回路間の接続、表裏回路と内層回路との間の接続はプレス、ドリル、プラズマ、光(例えば、レーザー)等で回路板にスルーホール(孔)を開け、この孔内に化学メッキ、又は化学メッキと電気メッキをを併用して達成していた。・・・また、スルーホールにメッキを行わず、スルーホールに導体線などを挿入してその両端を回路に半田で固定するもの・・・がある。」(同号証1頁左下欄17行〜右下欄10行)との記載、特開昭63-97000号公報(甲第6号証)には、「符号の説明 a…スルーホール(非貫通孔)、d…貫通孔(スルーホール)」との記載が認められ、これらによれば、表裏回路間、内層回路間、表裏回路と内層回路との間の電気的接続用孔、及び単なる接続用孔がいずれも「スルーホール」と称されていることが認められる。
これらの用語例に照らすと、「スルーホール」の語を、原告の主張するように、
プリント配線基盤の表面(上面)と裏面(下面)を貫通し表裏面間の電気的接続をする孔に限定して解釈すべき理由はなく、表裏面を貫通していない孔(原告のいう「ブラインドスルホール」)も「スルーホール」の一態様であるということができる。
「スルーホール」と「ブラインドスルホール」が全く別異のものであるとする原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は、請求項1に「上面と下面が該スルーホール内のメッキにより電気的に接続される」と記載されているから、本件発明における「スルーホール」は、プリント配線基板の上面と下面(いわゆる、表裏回路間)を電気的に接続するものでなければならず、請求項1の記載を離れて「スルーホール」を恣意的に解釈することは許されない旨主張する。
しかしながら、本件明細書に記載された「スルーホール」が、(A)両面配線プリント基板の表裏両面間の電気的接続を行うものと、(B)多層配線プリント基板の配線層間の電気的接続を行うものの2種の態様を含むと解されることは前示のとおりであり、原告の指摘する請求項1の「この充填してなる該スルーホールの上面と下面が該スルーホール内のめっきにより電気的に接続される」という記載も、必ずしも原告主張のごとくプリント配線基板の表面(上面)と裏面(下面)を電気的に接続することのみを意味するものということはできない。この点に関する原告の主張は採用することができない。
しかも、審決は、スルーホールで両面配線基板の表面(上面)と裏面(下面)の電気的接続を行う場合については、別に、相違点2として検討しているのであるから、仮に、引用例記載のブラインドスルホールは本件発明のスルーホールに相当するという認定の下に引用例記載の発明と本件発明との一致点を認定した審決の認定に誤りがあったとしても、その誤りが審決の結論に影響する性質のものでないことは明らかである。
(4) したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由(相違点2の判断の誤り)について 原告は、相違点2(スルーホールがプリント配線基板の上面と下面を電気的に接続しているか否か)について審決のした想到容易性の判断が誤りであると主張する。 (1) 引用例(甲第4号証)には、次の@〜Dの記載が認められる。
@(発明が解決しようとする問題点)の欄に、「しかしながら、・・・、より一層実装密度を上げるには、面実装用パッドをブラインドスルホールの上に設けることが考えられていたが、プリプレグ1の流動性充填量が微妙にばらつき、そのためブラインドスルホールの部分に平坦な面実装用パッドを設けることは困難であった」(1頁右下欄14行〜2頁左上欄2行)との記載。
A(発明の目的)の欄に、「本発明は・・・表裏両面のブラインドスルホール部分に銅めっきから成る平坦な面実装用パッドを設けて実装部品の搭載を可能にし、高密度、高実装化のできる多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法を提供することを目的とするものである」(2頁左上欄4〜9行)との記載。
B(作用)の欄に、「上述の如く本発明の多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法は、ブラインドスルホールに樹脂を溢れるように充填し、その後工程で表裏両面を加工するので、ブラインドスルホールの部分は平坦となり、銅めっきに凹凸がなくなり平坦な面実装用パッドが得られるものである。」(2頁右上欄3〜8行)との記載。
C(発明の効果)の欄に、「以上の説明でわるように、本発明による多層型ブラインドスルホール配線板の製造方法によれば、表裏両面のブラインドスルホール部分に平坦な面実装用パッドを容易に設けることができ、したがって配線板の小型化が可能となり、配線及び表面実装が高密度となり、・・・より一層の小型化に対応可能な多層型ブラインドスルホール配線板を提供できる効果がある。」(2頁右下欄2〜10行)との記載。
D 実施例を示す図面(第1図I、第2図)に、外層面のブラインドスルホール12,12’の銅めっきが残るようにエッチングして、ブラインドスルホール12,12’の表面に面実装用パッド17,17’を設けることが示されている。
(2) 上記(1)によれば、引用例には、プリント配線基盤の面実装密度を上げるために、プリント配線基板の表面(上面)及び裏面(下面)のブラインドスルホール部分に面実装を行うという技術思想が開示されており、また、当該ブラインドスルホールは、スルホール8,8’内に非導電性であると認められる樹脂が充填されて、ブラインドスルホール12,12’とされたものであることが認められる。
そうすると、引用例には、プリント配線基板の表裏面の、樹脂により閉塞されたスルホール部分(ブラインドスルホール部分)を面実装部として利用して面実装密度を上げるという、本件発明と同じ技術思想が示されていると認められる。
しかも、基板の表裏面(上面と下面)を電気的に接続するスルーホールに樹脂を充填して閉塞し、その上にめっき層を設けて、チップ等の実装部として利用するという手法は、周知の技術的事項であると認められる(乙第4号証、乙第1号証第4図、G、甲第8号証、甲第6号証)。
そして、プリント配線基盤の表面(又は裏面)のスルホール部分を面実装部として利用するという引用例の前記技術思想は、スルホールがプリント配線基板の表裏面回路間を電気的に接続するものであろうと、多層プリント配線基板の配線層間を電気的に接続するものであろうと、差別なく適用可能であると考えられるから、プリント配線基板の表面(上面)と内層回路間を電気的に接続するスルーホールを樹脂で充填し、その上にめっきをして面実装用パッドとすることを開示している引用例に基づいて、スルーホールの「上面と下面」がスルーホール内のめっきにより電気的に接続される構成(相違点2に係る構成)に当業者が想到することに困難性は認められない。
したがって、相違点2に係る構成の想到容易性についての審決の判断に誤りはない。
(3) 原告は、審決は本件発明の想到容易性の判断において、前提となる周知技術の認定を誤っていると主張する。
しかしながら、審決が甲第9、10号証(特開昭62-193197号公報、実開昭58-99856号公報)を例示として認定した事項は、「表裏の両面を電気的に接続するために両面プリント配線板を貫通する貫通穴を穿設し、貫通穴に導電性樹脂組成物よりなる充填物を充填してプリント配線基板の両面を電気的に接続するとともにプリント配線基板を小型化して部品の実装密度を上げること」であるところ、甲第9号証には、「表裏両面に導体パターンが形成されかつ両面接続用スルーホールと搭載部品挿入用スルーホールをともに有するプリント配線板を製造するにあたり、まず銅張積層板の所定の位置に両面接続用孔を穿設してこの両面接続用孔の中に導電ペーストを充填し、次いで搭載部品挿入用孔を設けた後全体に銅めっきを施し、しかる後エッチングにより不要部分を溶解除去して導体パターンを形成する」(特許請求の範囲)こと、甲第10号証には、「基板の両面に導電パターンが形成され、表面及び両面の導電パターンが、基板の所定の部部に設けられた貫通孔の充填導電性材料によって接続されていることを特徴とする電気回路基板」(実用新案登録請求の範囲)との記載があるから、審決が認定した前記認定事項に誤りがあるということはできない。
また、貫通穴内に導電層を設けて上下面を電気的に接続したスルーホールに樹脂を充填することが周知であることは、甲第8号証(特開昭62-224996号公報)の他に、めっき層を内側に具備したスルーホール内に、導電性ペーストを充填すること、及び、めっき層を内側に形成したスルーホール内に絶縁性充填層を充填形成することが各々乙第1号証、及び乙第4号証に記載されていることからも明らかである。 したがって、その上下面を電気的に接続するめっき等を具備したスルーホール内に樹脂を充填することが周知であるとした審決の認定に誤りは認められない。周知技術の認定の誤りをいう原告の主張は採用することができない。
(4) 以上のとおり、相違点2についての審決の判断に誤りは認められない。
なお、原告は相違点1についての審決の判断も誤りである旨主張するが、その主張は具体的理由を伴ったものではなく、採用することができない。
よって、原告主張の取消事由2は理由がない。
3 原告主張の取消事由3について (1) 原告は、審決が、本件発明は引用例の記載及び周知技術に基づいて想到容易であるとしたことは、拒絶査定と相違する新たな拒絶理由をなすものである旨主張する。
(2) 拒絶査定における拒絶理由は、甲第11号証(拒絶査定の謄本)によれば、「平成10年8月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶査定する。」というものであり、その備考欄に、「・・・請求項1に係る発明について先の拒絶理由Bは変更しない。」と記載されている。ここで「先の拒絶理由B」とは、甲第13号証(拒絶理由通知書)によれば、引用文献1として本訴甲第4号証(審判「引用例」)を挙げ、請求項1に係る発明は特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものであり、備考欄に、
「備考:引用文献1には、スルーホールめっきを有するプリント配線基板において、スルーホール内に樹脂が充填され、その充填物の表面にめっき層を有するものが、また、そのめっき層が面実装用パッドであることが記載されている。
そして、係る充填樹脂としてエポキシ系やフェノール系のものは本願出願前周知のものである。」と記載されている。
この備考欄の記載における「係る充填樹脂」は、スルーホールめっきを有するスルーホールを充填する樹脂であることは明らかである。
(3) 他方、審決は、審判請求時の手続補正書(平成11年1月14日付け)により補正された発明を本件発明と認定し、拒絶査定に引用された引用例と対比して、相違点1及び2を認定した上、
相違点1に関して、「プリント配線基盤の基板として紙フェノール積層板、紙エポキシ積層板、ガラスエポキシ積層板が使用されること」は従来周知の技術的事項であり(審決書4頁2行〜3行)、
相違点2に関して、(@)「プリント配線基板において、スルーホール内のメッキ層によりプリント配線基板の表裏の回路を電気的に接続すること」、(A)「絶縁性基板の両面に露出する導線性金属膜筒を有するスルーホール内にエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を充填し、基板表面には前記金属膜筒の露出部と接続されてなる金属膜導体回路が設けられてなり、前記金属膜筒及び前記金属膜導体がめっき法により形成されてなる配線板」及び(B)「表裏の両面を電気的に接続するために両面プリント配線板を貫通する貫通穴を穿設し、貫通穴に導電性樹脂組成物よりなる充填物を充填してプリント配線基板の両面を電気的に接続するとともにプリント配線基板を小型化して部品の実装密度を上げること」は従来周知の技術的事項である(審決書4頁10行〜21行)から、
本件発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に想到し得ることであると判断したものである。
(4) 拒絶査定における拒絶理由と審決における拒絶理由とを比較すると、両者において拒絶の理由とされた引用例は同一である。そして、審決は、本件発明と引用例との間に新たな相違点を認めた上で、その相違点は、本件特許出願時の技術水準(周知の技術的事項)の下で当業者が容易に想到し得ることであると判断しているのであり、このような判断は、同一引用例に基づく特許法29条2項該当性(想到容易性)の判断であるという点において、先の拒絶理由と異なる新たな拒絶理由を構成するものではないというべきである。
しかも、審決が相違点2に関して「従来周知の技術的事項」として挙げた前記(@)ないし(B)の事項は、拒絶査定の理由においても、本件特許出願当時の技術水準として、想到容易性の判断の前提とされていた事項であることがうかがわれる(このことは、拒絶理由通知の備考欄の「係る充填樹脂として・・・が周知である。」との記載における「係る樹脂」が、スルーホールめっきを有するプリント配線基板においてスルーホールを充填する樹脂を指していることにも表れている。)。
(5) したがって、審決が相違点1の判断に際して「紙フェノール積層板、紙エポキシ積層板、ガラスエポキシ積層板が用いられることは従来周知の技術的事項である」とした点、及び相違点2の判断に際して、上記(@)〜(B)の点を「従来周知の技術的事項である」とした点は、本件発明の想到容易性の判断に当たって前提となる出願当時の技術水準を、拒絶査定時よりも詳細に例を挙げて示したものにすぎないというべきであり、新たな拒絶理由を構成するものではない。
(6) よって、審決における手続違背をいう原告の主張は、理由がない。
4 結論 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利