運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 異議1999-73435
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  取消決定 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 13年 (行ケ) 116号 特許取消決定取消請求事件
原告 南海プライウッド株式会社
訴訟代理人弁理士 畑中芳実
被告 特許庁長官太田 信一郎
指定代理人 小林武
同 桐本勲
同 大野克人
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第73435号事件について平成13年1月31日にした特許取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「化粧木材の製造方法及び化粧木材」とする特許第2869262号の特許(平成4年9月1日に,発明の名称を「化粧板およびその製造方法」として特許出願(以下「本件出願」という。),平成10年12月25日に名称を「化粧木材の製造方法及び化粧木材」として特許権設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許の請求項1,2について,特許異議の申立てがなされ,その申立ては,平成11年異議第73435号事件として審理された。原告は,この審理の過程で,平成12年1月31日に,本件出願の願書に添付された明細書の訂正を請求した(以下「本件訂正請求」という。)。特許庁は,平成13年1月31日に,本件訂正請求を拒絶した上で,「特許第2869262号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年2月19日にその謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正請求前のもの 「【請求項1】自然木からなる表層材の表面に模様を形成する化粧木材の製造方法であり,表面に,突出高さが0.1〜0.2mm,幅が0.3mm〜1.8mm,長さが1.3mm〜8.0mm大の細長いエンボス用突起が突設されると共に,多数のエンボス用突起が模様を構成するように,密集して配列形成された型を用意し,前記表層材を研磨した後,前記表層材の繊維方向に対して,約5度の角度範囲において前記エンボス用突起の長手方向が向くように,前記型と前記表層材との方向を調整した後,前記型を前記表層材に押圧して前記表層材の表面に模様を形成し,この模様を形成した表層材の表面に染色し,染色後に樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることを特徴とする化粧木材の製造方法。」(以下「本件発明1」という。) 「【請求項2】研磨された表面を有し,その表面に木理が顕著に表れていない表層材に,個々の深さが0.1〜0.2mm,幅が0.3mm〜1.8mm,長さが1.3mm〜8.0mm大の細長いエンボスが,前記表層材の繊維方向に対して約5度の角度範囲において並列的に配列され,更に,配列された前記エンボスの全体が模様を形成し,前記エンボスおよび前記表層材の表面は染色されると共に樹脂塗装により平滑面とされていることを特徴とする化粧木材。」(以下「本件発明2」という。) (2) 本件訂正請求に係るもの(下線部が訂正個所である。) 「【請求項1】自然木からなる表層材の表面に模様を形成する化粧木材の製造方法であり,表面に,突出高さが0.1〜0.2mm,幅が0.3mm〜1.8mm,長さが1.3mm〜8.0mm大の細長いエンボス用突起が突設されると共に,多数のエンボス用突起が模様を構成するように,密集して配列形成された型を用意し,前記表層材を研磨した後,前記表層材の繊維方向に対して,約5度の角度範囲において前記エンボス用突起の長手方向が向くように,前記型と前記表層材との方向を調整した後,前記型を前記表層材に押圧して前記表層材の表面に模様を形成し,この模様を形成した表層材の表面を染料又 は顔料 により 染色し,染色後に透明塗料 による 樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることを特徴とする化粧木材の製造方法。」(以下「訂正発明1」という。) 「【請求項2】研磨された表面を有し,その表面に木理が顕著に表れていない表層材に,個々の深さが0.1〜0.2mm,幅が0.3mm〜1.8mm,長さが1.3mm〜8.0mm大の細長いエンボスが,前記表層材の繊維方向に対して約5度の角度範囲において並列的に配列され,更に,配列された前記エンボスの全体が模様を形成し,前記エンボスおよび前記表層材の表面は染料又は顔料 により 染色されると共に透明塗料による 樹脂塗装により平滑面とされていることを特徴とする化粧木材。」(以下「訂正発明2」という。) 3 決定の理由の要点 別紙決定書の写し記載のとおり,@訂正発明1,2は,特開昭48-58111号公報(甲第2号証。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「刊行物1発明」という。),特公昭47-29962号公報(甲第3号証。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「刊行物2発明」という。),森北出版株式会社1974年7月10日発行「実用木材加工全集 第9巻 特殊合板」(柳下正著)216頁ないし221頁(甲第4号証。以下「刊行物3」という。)記載の事項及び周知慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件訂正請求は認められない,A本件発明1,2は,訂正発明1,2に係る上記@と実質的に同じ理由により,当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから,本件発明1,2に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである,と認定判断した。
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由中,「【1】 手続きの経緯」,「【2】 訂正の適否[1]」(決定書1頁下から16行〜2頁17行)は認める。「[2]」(同2頁18行〜3頁13行)のうち,刊行物1発明の認定(同2頁21行〜29行)は争い,その余は認める。「[3]」(同3頁14行〜5頁下から7行)のうち,4頁下から6行の「さらにまた,」から5頁7行の「できたものである。」まで,5頁27行の「そして,」から同頁33行の「できたものである。」までは否認し,その余は認める。「[4]」(同5頁下から6行〜下から3行)は否認する。「【3】 特許異議の申立てについて」(同5頁下から2行〜7頁1行)のうち,6頁下から12行の「したがって,」から同頁下から10行の「る。」まで,同頁下から4行の「したがって,」から同頁下から2行の「る。」までは,否認し,「[3]」(同6頁末行〜7頁1行)は争い,その余は認める。「【4】 むすび」(同7頁2行〜5行)は,争う。
決定は,訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点4)についての判断を誤り(取消事由1),刊行物1発明の認定を誤った結果,訂正発明1及び訂正発明2と刊行物1発明との相違点を看過した(取消事由2)ものであり,これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきものである。
1 取消事由1(相違点4についての判断の誤り) 決定は,「透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,訂正発明1においては,平滑に仕上げるとしているのに対して,刊行物1に記載された発明においては,この点について記載がない点。」(決定書3頁31行〜33行)を,訂正発明1と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点4)として認定した上,この相違点について,「樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,平滑に仕上げることは,本件特許に係る出願の出願前において周知慣用の技術である。しかも,このようなものを化粧木材の透明塗料による表面の仕上げに適用したところで,当然の効果を奏するにすぎないから,この相違点において掲げた訂正発明1の構成のごとくすることは,当業者が容易に想到することができたものである。」(決定書4頁35行〜5頁1行)と認定判断し,訂正発明2と刊行物1発明との関係においても,同様の認定判断をした。
しかし,表面にわざわざエンボスを形成して凹凸を設けた後,更に樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることが,本件出願前において周知慣用の技術であったとは考えられない。
決定は,周知慣用でないものを周知慣用であると誤って認定し,その結果,上記相違点についての判断を誤っている。
2 取消事由2(刊行物1発明の認定の誤りによる相違点の看過) (1) 決定は,刊行物1に,ラワン合板の表面に模様を形成する化粧木材の製造方法であり,表面に,導管溝凹部より大きい多数のエンボス用突起が導管溝状の模様を構成するように密集して配列形成された型を用意し,前記合板の導管溝の走行方向,すなわち,繊維方向に前記エンボス用突起の長手方向が向くように,前記型と前記合板との方向を調整した後,前記型を前記合板に押圧して前記合板の表面に模様を形成し,この模様を形成した合板の表面又は表面及びエンボス部に木下地塗料を塗布し,塗布後に透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げること(判決注・原文のまま)化粧木材の製造方法及びこの製造方法により製造された化粧木材。」(決定書2頁21行〜30行)が記載されていると認定した。
しかし,刊行物1発明では,エンボスを形成した合板表面に木下地色塗料を塗布して乾燥させた後,この合板表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布するとともに,平滑部分の着色塗料をかき取っており,この結果,エンボスの内面には木下地色塗料による塗膜及び着色塗料による塗膜(着色塗膜)が存在することになるにもかかわらず,決定は,この点を刊行物1発明として認定しなかった。
訂正発明1及び訂正発明2では,エンボスを形成した表層材の表面を染料又は顔料により染色した後,この表層材の表面に透明塗料を塗布しており,着色塗料を塗布する工程及びその後に平滑部分の着色塗料をかき取る工程がなく,エンボスの内面に染料又は顔料を含む塗装及び透明塗料による塗膜が存在するだけで,着色塗膜が存在しない点において,刊行物1発明と相違する。
このように,決定は,刊行物1発明の認定を誤った結果,訂正発明1及び訂正発明2と刊行物1発明との相違点を看過したものであり,これが,請求項1及び2のいずれについても,決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2) 被告は,訂正発明1は,染色をする工程と樹脂塗装をする工程との間に別の工程,例えば,染色した塗料より暗色の着色塗料を塗布するとともに平滑部分をかき取る工程が介在することを排除する発明ではない,訂正発明2は,この訂正発明1によって製造された化粧木材に係る発明であるから,訂正発明1と同様である,と主張する。
しかし,訂正発明1が前記の「染色した塗料より暗色の着色塗料を塗布するとともに平滑部分をかき取る工程」を有さず,訂正発明2が上記工程による着色塗膜を有さないことは明らかである。なぜなら,上記のような工程およびそれによる着色塗膜を設けた場合には,訂正発明1および訂正発明2の特有の効果である次の(イ)〜(ハ)の効果は得られないからである。
(イ)訂正発明1及び訂正発明2によれば,木理が顕著に表れない表層材であっても,細長いエンボスが繊維方向に沿って表れる。さらに,個々のエンボスは,深さが0.1〜0.2mm,幅が0.3mm〜1.8mm,長さが1.3mm〜8.0mm大の一定の細長さを有しているため,導管の切断面と同様に細長く細かいものとなる。しかも,このエンボスが,繊維方向に密集して並列しているので,木理が顕著に表れていない表層材であっても,模様を天然木そっくりに表現することができる。
(ロ)訂正発明1及び訂正発明2によれば,模様のエンボス群と研磨された表面は染料または顔料により染色され,さらに染色後に透明塗料による樹脂塗装により表面が平滑に仕上げられる。このとき,エンボス部分が一定の深さを有しているので,研磨部分より顕著に目視され,模様が一層鮮やかに表現される。
(ハ)訂正発明1及び訂正発明2によれば,エンボス部分及び研磨部分の両者が段差なく滑らかに塗装されているので,天然木にニスを塗装したように化粧することができる。また,エンボス内に埃などが入り込まず,掃除が容易に行える。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点4についての判断の誤り)について 樹脂塗装により表面を仕上げるに当たり,平滑に仕上げることが,本件出願前において周知慣用の技術となっていたことは,特開昭60-64886号公報(乙第1号証),特開平3-218801号公報(乙第2号証)及び特公昭52-27208号公報(乙第3号証)から明らかである。
上記各刊行物には,上記周知慣用の技術だけでなく,表面にわざわざ凹凸を設けた後のものについても,樹脂塗装により表面を仕上げるに当たり,平滑に仕上げることまでが記載されている。
2 取消事由2(刊行物1発明の認定の誤りによる相違点の看過)について 訂正発明1の特許請求の範囲には,「この模様を形成した表層材の表面を染料又は顔料により染色し,染色後に透明塗料による樹脂塗装により表面を平滑に仕上げる」と記載されている。
この記載からすると,訂正発明1は,染色をする工程と樹脂塗装をする工程との間に別の工程,例えば,染色に用いた塗料より暗色の着色塗料を塗布するともに平滑部分の着色塗料をかき取る工程が介在することを排除する発明ではない。
訂正発明2は,訂正発明1によって製造された化粧木材に係る発明であるから,訂正発明1と同様である。
したがって,決定に原告主張の相違点の看過はない。
また,乙第2号証刊行物に記載されているように,染色をする工程と樹脂塗装をする工程との間に別の工程を介在させない化粧木材の製造方法は,本件特許に係る出願の出願前において周知慣用の技術である。
当裁判所の判断
1 訂正発明1,2の概要 甲第6号証によれば,本件訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)には,次の記載があることが認められる。
ア「【産業上の利用分野】この発明は,主として家具の造作材や住宅の内装材に用いられる化粧板およびその製造方法に関するものである。
【従来の技術】従来から,自然木からなる表層材を基材の上に貼りつけたものとして,いわゆる普通合板と称されるものと天然木化粧合板と称されるものとがある。
このうちの普通合板は,複数枚の薄い単板を,繊維方向を互いにほぼ直交させて積層接着したもの・・・で,表層材層とこの表層材層を裏面側から支持する基材層とからなっているとみることができる。この表層材層には,自然木を薄く裁断した単板が用いられている。この自然木は比較的安価なものとされているため,その表面には,導管や師管が不均一に表れているものの,意匠的に見栄えがさほど良くなく,面白味のある木目模様などの外観も表われていないことが多い。このため,化粧板として用いる場合には,木目模様などが施されたシート材などを表層材層の表面に貼りつけて,意匠的な外観を表すようにしている。この種のものは,一般にラミネート化粧合板と称されている。
一方,天然木化粧合板は,良質の厳選された自然木から板材を裁断し,この板材からスライサやロータリーレースなどの木材加工機械によってごく薄いスライス状の表層材を切削し,この表層材を基材の上に貼りつけたものである。」(段落【0001】〜【0005】) イ「【発明が解決しようとする課題】ところで,これらの化粧板には,木の質感と木目模様の面白さとが求められるものがある。
上記の天然木化粧合板は,この要求を満足するものであるが,前述のように,表層材に良質の厳選された自然木を用いるので高価なものとなっている。一方,比較的安価にできる普通合板の場合には,価値の低い自然木が用いられているため木目模様の面白さがなく,前述のように,シート材を表層材層の表面に貼ってラミネート化粧合板としている。しかし,これでは,せっかくもっている木の質感をも損なうものとなってしまっている。
この発明は,このような問題を背景としてなされたもので,比較的安価な表層材を用いながら,木の質感と模様の面白さとを備えた化粧板を提供することを目的としている。」(段落【0006】〜【0010】) ウ 上記課題を解決するため,訂正発明1,2は,上記第2の2(2)記載のとおりの構成を備えることを特徴とする(段落【0011】参照)。
エ「【発明の効果】本発明の化粧材の製造方法及び化粧木材によれば,木理が顕著に表れない表層材であっても,細長いエンボスが繊維方向に沿って表れる。
更に,個々のエンボスは,深さが0.1〜0.2o,幅が0.3o〜1.8o,長さが1.3o〜8.0o大の一定の細長さを有しているため,導管の切断面と同様に細長く細かいものとなる。しかも,このエンボスが,繊維方向に密集して並列しているので,木理が顕著に表れていない表層材であっても,模様を天然木そっくりに表現することができる。更に加えて,模様のエンボス群と研磨された表面とは,染色により着色されるが,エンボス部分が一定の深さを有しているので,研磨部分より顕著に目視され,模様が一層鮮やかに表現される。さらに,エンボス部分及び研磨部分の両者が段差なく滑らかに塗装されているので,天然木にニスを塗装したように化粧することができる。このように,模様が顕著に表れない表層材であっても,導管による模様をそっくり且つ美麗に表現できるので,化粧木材の外観品質が向上する。さらに,このエンボスの配列を様々に変えた型を用いることにより,模様を様々に変化させることができる。」(段落【0041】) 上記認定の記載によれば,訂正発明1,2は,木の質感と模様の面白さとを備えた化粧板を提供するため,化粧木材として用いる表層材の表面に,型によって,一定の深さを有する模様(エンボス)を形成した後,染色によって着色し,染色後に樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることを特徴とするものである,ということができる。
2 取消事由1(相違点4についての判断の誤り)について 原告は,訂正発明1と刊行物1発明との相違点の一つ(相違点4)である「透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,訂正発明1においては,平滑に仕上げるとしているのに対して,刊行物1に記載された発明においては,この点について記載がない点」(決定書3頁31行〜33行)について,決定が,樹脂塗装により表面を仕上げるにあたり,平滑に仕上げることは,本件出願前における周知慣用の技術である,と認定判断し,訂正発明2についても同様の認定判断をしたことについて,表面にわざわざエンボスを形成して凹凸を設けた後,さらに樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることは,本件出願前において,周知慣用の技術であったとはいえない,と主張する。
しかしながら,本件出願前(本件出願日は平成4年9月1日)に公開された各刊行物中には,次のとおりの記載がある。
(1) 特開昭60-64886号公報(乙第1号証) ア「この発明は,着色によって明確なコントラストの木目模様をあらわし高級な板材外観を呈するようにした木質化粧板に関する。」(乙第1号証1頁左下欄末行〜右上欄2行) イ「この化粧原板(5)の表面を,夏材部(1)が凸部(2)に,春材部(3)が凹部(4)になるように加工するには,上記表面をロール状の金属ブラシ或いはナイロンブラシ等でブラッシング研削することにより最も簡易に行いうるが,これに限られるものではなく,例えば研削材を吹き付けるブラスト加工,或いは弾性体を介して木材を圧縮し,柔かい春材部を陥没させるプレス加工等に依って表面凹凸状に形成せしめるものとしても良い。凹部(4)の深さは,これを0.1〜0.5o程度に形成することによって良好に所期する効果を期待することができる。次に,第3,4図に示すように,上記化粧原板(5)の凹凸状表面の全体に,春材部色に着色した透明または半透明の春材部色塗料による春材部色塗層(6)を施す。・・・次に,この化粧原板原板(判決注・「化粧原板」の誤記と認める。)(5)の凸部(2)の両側の傾斜部(7)から頂部(8)にかけて透明または半透明の夏材部色塗料による夏材部色塗層(9)を,頂部(8)へ行く程濃くなるよう複数の単位塗層(9a)(9b)(9c)に分けてに(判決注・「分けて」の誤記と認める。)塗着形成する。」(同2頁左下欄下から3行〜右下欄14行,3頁左上欄9行〜14行)) ウ「これらの着色塗層(6)(9)の上にさらにカラークリア塗装施し(判決注・「塗装を施し」の誤記と認める。),全体の調色をはかるようにすることが好ましく,またこのカラークリアを全体の表面保護膜(15)を形成するためのシーラーとしておいてもよい。全体の保護塗膜(15)をどのようなものにするかは,化粧板の用途によって適宜に選択されるものであり,例えば床材であれば,ある程度の平滑性,耐摩耗性,耐候性が要求されることに鑑み,ポリエステル樹脂等で凹部をある程度充填して表面平滑ないしはそれに近い状態に仕上げたり,あるいはジアリルフタレート等の透明化しうる樹脂含浸シートを熱圧成形して表面平滑に仕上げるものとする。」(同4頁左下欄1行〜14行) (2) 特開平3-218801号公報(乙第2号証) ア「(3)基板の表面に導管孔などの木肌模様をエンボス加工により凹部として形成し,その基板の表面に木肌模様の凹部にも浸透するように着色下地塗料を塗布して乾燥し,次いで透明なサンデングシーラーを塗付して乾燥した後,その表面を平滑とし,木目模様を印刷したことを特徴とする化粧板の製造方法」(乙第2号証1頁特許請求の範囲(3)」 イ「本発明は,建築用,家具製造用に供する化粧板,特に導管孔などの木肌模様を凹部として有する化粧板とその製造方法に関する。」(同1頁右欄7行〜9行) (3) 特公昭52-27208号公報(乙第3号証) ア「ドライオフセット印刷を併用したエンボス化粧合板の製造方法」(発明の名称) イ「本実施例は,セン,タモなど比較的軟らかな感じの導管孔模様を表現する場合である。・・・エンボスロールによつて木目模様部に導管溝凹部を形成する。・・・タモの木目模様に合ったボケ柄模様の印刷をグラビヤオフセツト印刷機で行う。・・・リバースローラーコーターによつて半透明着色の水性アクリル塗料を全面に塗布し,リバースロールによつて凹部に半透明塗料を圧入充填しつつ,平面部をかきとり,凹部の着色をするとともに上塗表面を平滑にかつ艶消しを行い,乾燥固化せしめる。」(乙第3号証2頁4欄28行〜3頁5欄3行) 上記認定の各刊行物の記載によれば,化粧板の製造において,化粧板の表面に凹凸を設けた後に,樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることは,本件出願当時において,既に周知慣用の技術となっていたということができる。
上記相違点についての決定の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(刊行物1発明の認定の誤りによる相違点の看過)について 原告は,刊行物1発明では,エンボスを形成した合板表面に木下地塗料を乾燥させた後,この合板表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布するとともに,平滑部分の着色塗料をかき取っており,この結果,エンボスの内面には木下地塗料による塗膜及び着色塗料による塗装(着色塗膜)が存在するのに対し,訂正発明1,2では,着色塗料を塗布した後に平滑部分の着色塗料をかき取る工程がなく,エンボスの内面に染料又は顔料を含む塗装及び透明塗料による塗膜が存在するだけで,着色塗膜が存在しない点において相違するのに,決定は,この相違点を看過した,と主張する。
刊行物1の特許請求の範囲は,「ラワン合板の導管溝凹部を目止してしまうことなく,木目状に分布させてラワン合板表面の導管溝凹部よりも大きな導管溝状の凹部を,該ラワン合板の導管溝の走行方向(繊維方向)と同方向になるように多数かつ密にエンボス加工により形成し,この表面に木下地色塗料を塗布し,これを乾燥させた後さらに木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布すると共に直ちに塗布された平滑部分の塗料を逆回転するロールによってかき取り,ラワン合板の導管溝凹部とエンボス加工凹部との内面に着色塗膜を形成させると共に,このエンボス加工凹部の縁から平滑部にかけてしだいに一方向に淡くなつて消える着色塗膜を形成させ,その他の平滑部に前記木下地塗膜を露出させ,しかるのちこの塗料を乾燥させることを特徴とする広葉樹化粧合板の製造方法。」というものである(甲第2号証)。
上記刊行物1の特許請求の範囲の記載によれば,刊行物1発明においては,原告の主張のとおり,エンボスを形成した合板表面に木下地塗料を乾燥させた後,この合板表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布するとともに,平滑部分の着色塗料をかき取る工程を有しており,その結果,エンボスの内面に木下地塗料による塗膜及び着色塗料による塗装(着色塗膜)が存在する,ということができる。
原告は,訂正発明1,2は,エンボス内面及び平滑面を染料又は顔料により染色するのみであり,この染色の後に暗色の着色塗料により染色し,平滑部分の着色塗料を直ちにかき取ることにより,エンボスの内面に着色塗膜が存在するという,上記刊行物1発明の構成を有しない,と主張する。
しかしながら,訂正発明1,2の特許請求の範囲中には,染色ないし着色について,「染料又は顔料により染色」(訂正発明1),「エンボスおよび前記表層材の表面は染色される」(訂正発明2)との各記載があるだけである。前記1記載のとおり,訂正発明1,2は,木の質感と模様の面白さとを備えた化粧板を提供するため,化粧木材として用いる表層材の表面に,型によって,一定の深さを有する模様(エンボス)を形成した後,染色によって着色し,染色後に樹脂塗装により表面を平滑に仕上げることを特徴とする発明であり,訂正明細書を検討しても,訂正発明1,2において,染色の具体的な方法,態様に意味があることをうかがわせるような記載を見いだすことはできない(原告は,刊行物1発明の構成を前提としたのでは,訂正発明1,2の作用効果とされているものは得られない,と主張する。
しかし,原告が訂正発明1,2の作用効果と主張するものが,刊行物1発明の上記構成を前提とすると得られないことは,本件全証拠によっても認めることができない。)。
そうすると,訂正発明1,2においては,染色の具体的な方法,態様は何ら限定されていないと解するのが相当であるから,訂正発明1,2は,刊行物1発明のエンボスを形成した合板表面に木下地塗料を乾燥させた後,この合板表面に木下地色よりも暗色の着色塗料を塗布するとともに,平滑部分の着色塗料をかき取る方法により染色する構成をも含むものであるというべきである。
したがって,訂正発明1,2と刊行物1発明との間に,原告主張の相違点があると認めることはできず,決定に相違点の看過はない。
決定は,刊行物1発明を,「ラワン合板の表面に模様を形成する化粧木材の製造方法であり,表面に,導管溝凹部より大きい多数のエンボス用突起が導管溝状の模様を構成するように密集して配列形成された型を用意し,前記合板の導管溝の走行方向,すなわち,繊維方向に前記エンボス用突起の長手方向が向くように,前記型と前記合板との方向を調整した後,前記型を前記合板に押圧して前記合板の表面に模様を形成し,この模様を形成した合板の表面又は表面及びエンボス部に木下地塗料を塗布し,塗布後に透明塗料による樹脂塗装により表面を仕上げること(判決注・原文のまま)化粧木材の製造方法及びこの製造方法により製造された化粧木材。」(決定書2頁21行〜30行)と認定し,木下地色塗よりも暗色の着色塗料を塗布し,直ちに平滑部分の着色塗料をかき取ることについては,認定しなかった。しかしながら,このことを,訂正発明1,2と刊行物1発明との相違点と認めることはできないことは前記のとおりである。仮に,上記の点を認定しなかったことを決定の誤りというとしても,この誤りが結論に影響を及ぼさないことは,明らかである。
原告の主張は,採用することができない。
取消事由2も,理由がない。
結論
以上のとおりであるから,原告主張の決定取消事由はいずれも理由がなく,その他,決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久