• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2001-35339
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  協議 /  公然知られ(29条1項1号) /  29条1項3号 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  設定登録 /  請求の理由 /  変更 /  確定審決の登録 /  同一事実(同一の事実) /  同一証拠(同一の証拠) / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 14年 (行ケ) 78号 審決取消請求事件
原告 山崎産業株式会社
訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 松本司
同 岩坪哲
同 井上裕史
訴訟代理人弁理士 高良尚志
被告 東海理研株式会社
訴訟代理人弁護士 佐尾重久
訴訟代理人弁理士 冨澤孝
同 山中郁生
同 岡戸昭佳
同 奥田誠
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/09/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2001-35339号事件について平成14年1月7日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「ポスト用異物収集装置」とする特許第3096040号の特許(平成9年2月28日出願,平成12年8月4日設定登録。以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は,平成13年7月31日,本件特許を請求項1ないし8に関して無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を無効2001-35339号事件として審理した。同事件の審理の間に,請求項7に関しては,平成13年12月1日付けで特許権放棄がなされ,これに基づき,同年同月18日,抹消登録がなされ,審理の対象は,請求項1ないし6及び8となった。特許庁は,審理の結果,平成14年1月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を同年1月18日に原告に送達した。
2 審決の理由 審決は,別紙審決書の写しのとおり,本件発明が平成8年10月7日に公知になったのは,特許を受ける権利を有する者である被告の意に反してのことであるとして,また,本件発明が平成8年6月11日若しくは平成8年8月24日に公知になったとの無効事由を追加する原告の補正は,無効審判請求書の要旨を変更する補正であるから,特許法131条2項に反するものであり,採用することができない,として,原告主張の無効事由をすべて排斥した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決が,本件発明が平成8年10月7日に公知になったのは,特許を受ける権利を有する者である被告の意に反してのことである,と認定判断したのは誤りであり(取消事由1),また,本件発明が平成8年6月11日若しくは平成8年8月24日に公知になったものであるとの無効事由を追加する原告の補正は,無効審判請求書の要旨を変更する補正であるから,特許法131条2項に反するものであり,採用することができないとしたのは,同条項の解釈を誤るものであり,その結果として,無効事由についての判断を遺脱したものである(取消事由2)。これらの誤りが,それぞれ,結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は,取消しを免れない。
1 取消事由1(特許法30条2項の「意に反して」に関する認定の誤り) (1) 特許法30条2項の「意に反して」の立証責任は,出願人である被告にある。ところが,審決は,被告がこれを立証するに十分な証拠を提出していないにもかかわらず,本件発明は,被告の意に反して公知になった,と認定した。
(2) 審決が「請求人において本件が「意に反して」に当らないと主張するのであれば,特段の事情について請求人に立証の責任がある」(審決書7頁1行〜2行)と判断していることから明らかなように,審決は,特許法30条2項の「意に反して」についての立証責任の解釈を誤っており,その結果,上記の誤った事実を認定したものである。
2 取消事由2(特許法131条2項の「要旨を変更する」に関する解釈認定の誤り) (1) 無効審判請求書の無効事由の補正は,無効事由の根拠となる特許法の条文が同一の条文である限り,特許法131条2項の要旨の変更には当たらない。すなわち,無効審判請求書における特許法29条による無効事由の主張を,特許法29条の2あるいは32条等に基づく主張に補正することは要旨の変更になるものの,29条の範囲内における無効事由の補正は,要旨の変更にはならない。また,仮に,29条1項1号ないし3号の各号の間で無効事由を変更する補正は,要旨の変更になるとしても,29条1項の各号の範囲内において無効事由を変更する補正は,要旨の変更にはならない。
本件でなされた無効事由を追加する補正は,29条又は29条1項3号の範囲内において,無効事由を追加するものであるから,特許法131条2項にいう要旨の変更には当たらない。審決は,特許法131条2項にいう要旨の変更の解釈を誤り,その結果,補正により追加された無効事由についての判断を遺脱したものである。
(2) 仮に,上記(1)の見解を採ることができないとしても,本件の無効審判請求における無効事由を追加する補正は,次に述べる証拠の共通性からみて,特許法131条2項にいう要旨の変更には当たらない。すなわち,原告は,無効審判において,本件発明が平成8年10月7日に公知となったことを立証する証拠として,郵政大臣官房財務部長が作成した平成8年10月7日付け「指名競争入札の通知について」と題する書類(以下「本件書類」という。)を甲第2号証(審判甲第2号証)として提出し,また,本件発明が平成8年6月11日に公知となったことを立証する証拠として,甲第10号証の1ないし9(審判甲第10号証の1ないし9)を提出し,さらに,本件発明が平成8年8月24日に公知になったことを立証する証拠として,甲第11号証の1ないし8(審判甲第11号証の1ないし8)を提出した。本件書類は,本件発明の構成を「Y-( )-8080」,「Y-( )-8081」として添付されている図面(以下「本件図面」という。)により開示するものである。そして,甲第2号証に添付された本件図面は,甲第10号証の4,5の添付図面と同一であり,また,上記図面番号は,甲第11号証の1ないし5の各仕様書に引用されているものである。
したがって,本件発明が平成8年6月11日若しくは平成8年8月24日に公知になったものであるとの無効事由を追加する補正につき,甲第10号証の1ないし9と甲第11号証の1ないし8を,甲第2号証とは異なる証拠であると判断した上,これを前提に,無効事由の要旨を変更するものとした審決の判断は,誤りである。審決は,その結果,追加された無効事由についての判断を遺脱したものである。
被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決に取消しの原因となる瑕疵(かし)はない。
1 取消事由1(特許法30条2項の「意に反して」に関する認定の誤り)について 審決は,被告が提出した証拠に基づいて,本件発明が平成8年10月7日に公知になったのは,被告の意に反してのことである,と認定しているのであり,事実の認定においても,立証責任についての解釈においても,何ら誤りはない。
2 取消事由2(特許法131条2項の「要旨を変更する」に関する解釈認定の誤り)について 原告の審判請求補充書による主張並びに甲第10号証の1ないし9及び甲第11号証の1ないし8の証拠は,いずれも当初の無効審判請求書に記載された無効事由を実質的に変更するものであり,この補正を特許法131条2項にいう要旨の変更に当たるものとした審決の判断は正当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(特許法30条2項の「意に反して」に関する認定の誤り)について 審決は,被請求人(被告)が,郵政大臣官房財務部長が作成した平成8年10月7日付け「指名競争入札の通知について」と題する書面が,不特定多数の第三者に配布されたことにより,同書面に添付された図面に開示されていた本件発明が,同日に公知となったことを認めている,と認定した(審決書6頁14行〜17行参照)。審決は,その上で,「被請求人は,・・・本件審判手続において,発明者であり同時に出願人(特許権者)の代表者であるA自身が「意に反して」公知にされたこと(すなわち,本人に公表という事実を容認する意思がなかったこと)を陳述し(乙第9号証)することによって,本件が特許法30条第2項の「意に反して第29条第1項各号の一に該当するに至った発明」であると主張,立証している。・・・上記図面が,仮にいずれ公示されるという性格のものであったとしても,何時の時点で公示されるのかは特許を受けようとする者においては必ずしも明らかではない場合もあり得ると考えられ,少なくとも特許を受けようとする者の「意に反して」早期に公知にされてしまうこともあり得る・・・従来から,学説・判例とも,特段の事情のない限り,「意に反して」は厳格に解釈されておらず,不注意や公表の時期の見込み違いによって特許法第29条第1項各号の一に該当するに至った場合も「意に反して」に当たると認めている・・・。したがって,それでもなお,請求人において本件が「意に反して」に当らないと主張するのであれば,特段の事情について請求人に立証の責任があるというべきである。」(審決書6頁18行〜7頁3行)と認定判断した。
すなわち,審決は,甲第2号証に添付された本件図面が平成8年10月7日に公表されてしまったことは,特許を受ける権利を有する者である被告の「意に反して」なされたものであることが,乙第2号証(審判乙第9号証)によりとりあえずは立証されているとした上,このような立証を覆す特段の事情の立証がない限りは,結論として「意に反して」なされたものであると認定すべきであるとしたものである。
上記乙第2号証(被告代表者の陳述書)及び同陳述書が引用している乙第3号証(被告の審判事件答弁書)並びに本訴において乙第2,第3号証の趣旨を明確にするものとして提出された乙第7号証(被告代表者の陳述書)並びに甲第2号証及び乙第1,第5,第6号証によれば,次の事実が認められる。
@ 郵便ポストにタバコの吸い殻を投げ捨て,その結果,郵便ポスト内に投函された郵便物が燃えるという事故が多発していたことから,被告は,平成6年ころから,それを防止するために,郵便差出箱用の火気防止装置を開発してきた。
A 被告は,平成8年ころ,社団法人郵政ニューオフィス研究会(以下「郵政研究会」という。)が新しいポストを開発していたため,郵政研究会と協議しながら,新しい郵便差出箱用火気防止装置(以下「本件防止装置」という。)の開発を進めていたものであり,郵政研究会からの被告あての平成8年6月13日付けファックスで,本件防止装置の図面を「Y-( )-8080〜8086」の番号を付して送付するように,との依頼を受け,同図面を郵政研究会に送付した。被告は,その後も,郵政研究会からの仕様変更の要請を受け,本件防止装置の仕様変更をなし,上記図面の修正・変更を行っていた。
B 郵政省は,被告が開発した本件防止装置を採用することを決定した上で,平成8年10月7日,官報に郵便ポストの指名競争入札の公示をし,同日,指名業者に対し,「指名競争入札の通知について」と題する本件書類を配布し,それに添付されていた本件図面が公表される結果となった。
C 被告は,本件防止装置を開発してきた上記の経過から,郵政省との随意契約により本件防止装置を納入することができると考えていたため,本件図面が特許出願前に上記のような経緯で公表されることは予想していなかった。
D 被告は,郵政省により本件防止装置が採用されることが確定してから,特許出願をする予定であったので,平成8年10月7日においては,本件特許について当然ながら出願をしていなかった。
以上の事実によれば,郵政省が,平成8年10月7日,官報に郵便ポストの指名競争入札の公示をし,同日,指名業者に対し,「指名競争入札の通知について」と題する本件書類を配布し,それに添付されていた本件図面が公表される結果となったことは,被告の意に反するものであったと認めることができ,審決の認定に誤りはない。
原告は,審決が「請求人において本件が「意に反して」に当らないと主張するのであれば,特段の事情について請求人に立証の責任がある」(審決書7頁1行〜2行)としているのは,誤りである,と主張する。しかし,審決は,特許法30条2項の「意に反して」の主張立証責任は被告にあることを前提とした上で,被告の立証を覆す反証としての「特段の事情」については,原告に立証責任がある,と判断しているにすぎないものであるから,その判断に誤りはない。
2 取消事由2(特許法131条2項の「要旨を変更する」に関する解釈認定の誤り)について (1) 審決は,本件発明が,平成8年6月11日に甲第10号証の1ないし9により公知となった,又は,平成8年8月24日に甲第11号証の1ないし8により公知となった,との原告の審判請求補充書による主張について,「審判請求の理由である具体的な事実,証拠を請求書の補正によって変更しようとするものであって,請求の理由を実質的に変更するものであるから,この補正は,特許法第131条第2項の規定に違反するものと認められる。」(審決書7頁35行〜38行)と判断した。
本件の無効審判請求書において,当初主張された無効事由は,上記のとおり,郵政省が,平成8年10月7日,官報に郵便ポストの指名競争入札の公示をし,同日,指名業者に対し,「指名競争入札の通知について」と題する本件書類(甲第2号証)を配布し,それに添付されていた本件図面が公表され,その結果,本件発明が公知となった,というものである。これに対し,原告が,後日,無効審判請求補充書により追加しようとした無効事由は,@郵政研究会(B)からの郵務局輸送企画課企画調整係(C)あての平成8年8月24日付け書簡とその添付図面(甲第10号証の1ないし9)によって,本件発明が平成8年6月11日に公知となった,A上記書簡とその添付仕様書(甲第11号証の1ないし8)により,本件発明が平成8年8月24日に公知となったというものであり,この@及びAの無効事由は,原告が無効審判請求書において主張していた前記無効事由とは,異なる事実,異なる証拠に基づくものであることが明らかであるから,その要旨を変更するものであるとした審決の判断に誤りはない(特許法167条参照)。
原告は,甲第2号証と,甲第10号証の1ないし9の添付図面及び甲第11号証の1ないし8の添付仕様書における図面番号の共通性からみて,特許法131条2項にいう要旨の変更には当たらない,と主張する。しかし,上記甲号証間に,上記のような共通性があるとしても,原告が甲第10号証の1ないし9及び甲第11号証の1ないし8によって証明しようとしている事実は,甲第2号証によって証明しようとしている,平成8年10月7日に公知となったという事実(当初から主張している無効事由)ではなく,それとは別の日に公知となったという,新しい事実である。このような新しい事実を主張しようとする補正である限り,新たに提出しようとする証拠がどのようなものであれ,当該補正が要旨を変更するものとなることは,明らかである。そのことを離れて証拠の同一性という点からみても,甲第2号証が,平成8年10月7日に頒布された郵政大臣官房財務部長作成の「指名競争入札の通知について」と題する書類とその添付書類であるのに対し,甲第10号証の1ないし9及び甲第11号証の1ないし8は,郵政研究会からの郵務局輸送企画課企画調整係あての平成8年8月24日付けの書簡とその添付書類であって,書類の内容も発送日時も全く異なる証拠であることが明らかである。いずれにせよ,原告の主張は採用することができない。
(2) 原告は,無効審判請求書の無効事由の変更は,無効事由の根拠となる特許法の条文が同一の条文(例えば29条)又は同一の条項(例えば29条1項3号)である限り,特許法131条2項の要旨の変更には当たらない,と主張する。しかし,特許法167条が無効審判の「確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない。」と規定していることからいえば,無効事由の根拠となる事実及び主要な証拠のいずれかが異なるものであれば,異なる無効事由となるのであり,そのような無効事由を追加する補正が,無効事由の要旨を変更する補正となることは明らかである。原告の上記主張は,採用することができない。
3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由には理由がないことが明らかであり,その他,審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。そこで,原告の請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
  • この表をプリントする