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事件 |
平成
14年
(ネ)
62号
損害賠償請求控訴事件
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控訴人(第1審原告) サイバーテック コーポレイト ホールディングス リミテッド 訴訟代理人弁護士 大塚芳典 補佐人弁理士 梶原克彦 補佐人 松元卓哉 被控訴人(第1審被告) サミー株式会社 訴訟代理人弁護士 飯田秀郷 同 栗宇一樹 補佐人弁理士 黒田博道 同 米山淑幸 |
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裁判所 | 大阪高等裁判所 |
判決言渡日 | 2002/10/02 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨(一部控訴)
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成12年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
原判決「事実及び理由」の第2(2頁3行目から4頁15行目まで)のとおりであるからこれを引用する。 |
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争点に関する当事者の主張
次のとおり当審における当事者の主張を追加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3(4頁17行目から22頁19行目まで)のとおりであるから,これを引用する。 1 争点(5)(構成要件A《「初期設定された数の出球によるパチンコ遊技台の終了時に」》の充足性)について (1) 控訴人の主張 ア 本件発明の遊技台の終了とは,「役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すもの」であって,「打ち止めとなりパチンコ遊技台が使用停止となる状態」に至った場合そのものとは関係がない。控訴人は,本件発明の特許出願(以下「本件出願」という。)当時,役物に当たった場合に「打ち止め」に至る機械が巷間見受けられたことを否定するものではないが,結果であるところの「打ち止めとなりパチンコ遊技台が使用停止となる状態」を問題としたのではなく,「初期設定された数の出玉」に至るその原因となる「役物に当たった場合」を問題としていたのである。だからこそ,発明者は,本件出願において,わざわざ「遊技台の終了」とは「役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すもの」と自ら定義付けをしたのである。このような定義付けは当然に許されるものであり,尊重されるべきものである。本件発明の本質は,「初期設定された数の出球を持つパチンコ遊技台本体より発せられた所定の信号(大当たり始期時にパチンコ遊技台本体より発せられる大当たり信号)を感知することにより,乱飾表示装置の乱飾表示を停止させ,該表示により追加出球数又は追加出球数を表す符号を遊技客に知らしめ追加出球数を設定する」ところにあり,現実には存在しないパチンコ遊技台本体から発せられる打ち止め信号を想定し,それを感知することで乱飾表示装置を停止させるものではないことは本件公報上からも明らかである。本件発明は,「役物に当たった場合」を契機として,乱飾表示装置を停止させ,その表示によって追加出玉の有無を知らしめて,もって客の射幸心を増大させるというものである。 イ 控訴人は,本件発明につき,平成14年5月1日付で特許庁に対して訂正審判を請求した。すなわち,本件発明に関する従前の特許請求の範囲の請求項1で「パチンコ遊技台の終了時に」とある文言を「パチンコ遊技台の役物に当たった場合にある一定の玉数を無条件で出す時に」と訂正することにより,訂正前の本件発明を減縮する(特許法126条1項1号)とともに,終了の文言を明瞭にした(同項3号)。明細書(特許公報1頁2欄18行目から19行目)に「終了は役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すものである。」の定義した記載があるところ,終了にはその他に,辞書等に記載されている「終えること,終わること,終わり」の意味もあるので,「終了」の文言を「役物に当たった場合にある一定の玉数を無条件で出す」の文言に限定するとともに明瞭にしようとするものである。この文言は,上記明細書の記載から直接かつ一義的に導き出せるものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。 ウ イ号,ロ号のパチンコ遊技台の構造上,確変大当たりとなると,その後確変大当たり又は通常大当たりとなることは実質的に保障されており,イ号方法においては1960個又は2240個,ロ号方法においては2250個の出玉があることも実質的に保障されている。したがって,パチンコ遊技者は,確変大当たりとなる液晶表示装置の変動表示の停止時の表示により,再度の高確率移行大当たり遊技状態又は通常確率移行大当たり遊技状態の終了時における出玉が実質的に保障されたと認識するものであり,確変大当たりとなる液晶表示をイ号方法においては1960個又は2240個,ロ号方法においては2250個の追加出玉数を表す符号と認識するものである。してみると,イ号物件,ロ号物件は,基本的には本件発明の技術を土台にしているのである。 (2) 被控訴人の主張 ア 控訴人は,本件明細書において,「パチンコ遊技台の終了」を定義していることを前提に論を進めているが,事実と異なる。控訴人が定義規定であるとする記載は,「客側が儲かる場合は,一般的にはいわゆる『遊技台の終了』による。 終了は,役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すものである。」というものである。この記載自体が,明細書における用語の定義をする体裁になっていないことは一目瞭然である。そして,この部分は,日本語として極めて不自然で,その意味は不明である。「終了は」として示される主語「終了」が,「一定の球数を無条件で出すものである。」と叙述されても,その叙述部分の意味と「終了」という日本語の意味と全く一致しない。「終了」とは,「終えること。終わること。 終わり」という意味である。玉を出すなどという意味はどこからも出てこない。逆に,一定の玉数を無条件で出すという「役物に当たったとき」は,遊技台はある一定の玉数を出すのであって,その後も遊技は引き続き進行していき,決して「終了」しないことが明らかである。 さらに,客側が儲かる場合は,一般的にはいわゆる「遊技台の終了」による,とあるから,「遊技台の終了」によって一般的には客側が儲けることになると本件明細書はいっている。一方,役物に当たると一定の球数を無条件で出すとあるから,客がそれまでに遊技台に打ち込んだいわゆるアウト玉をこの一定の球数が上回れば(差玉が多ければ),客側が儲けたことになる。しかし,その一定の球数が出た後,パチンコ機における遊技が継続するとすると,客は役物に当たらない限り普通の遊技を継続することになる。そうすると得たセーフ玉が減少してしまう,あるいは儲けの部分である差玉も減少してしまうことは,ごく普通のことであるはずである。 「遊技台の終了」と役物に当たって一定の球数が無条件で出ることとは,本来は結びつかないし,「終了」という用語の意味と「役物に当たって一定の球数を無条件で出す」ということが結び付かず,更には役物に当たっても,引き続き行われる遊技で客が損をすることも普通にあるとすると,この部分の意味は,別の観点から解釈するほかない。しかるに,控訴人は,この意味不明の文章が唯一の定義規定であると強弁し,技術的範囲の解釈に強引に持ち込もうとするのである。 イ また,本件発明が控訴人主張のように「役物に当たったときに無条件で出されるある一定の玉数を追加出玉数として設定変更する」ような作用効果を奏するとしても,「同じパチンコ遊技台で引き続き遊べる持ち玉を設定する。」という部分で述べられる作用効果との整合性が取れない。「同じパチンコ遊技台で引き続き遊べる」とは,本来ならば打ち止めとなるところ,追加出玉が設定されてこれを「持ち玉」として引き続き遊技できると解する以外に解釈の方法がない。 2 争点(6)(構成要件B《「乱飾表示装置の乱飾表示を停止させ」》の充足性)について (1) 控訴人の主張 本件発明者は,本件出願当時通常市販されているパチンコ遊技台をもとに本件発明を考案したものであり,現実には存在しない「打ち止め信号を発生させる特殊なパチンコ遊技台」を想定していたと考えることは困難であり,当然,当時実際に使用されていた「大当たり信号を遊技台本体より発生させるパチンコ遊技台」を想定していたと考えるべきである。 「呼出し表示装置の乱飾表示部は,遊技台本体の所定の信号(通常は役物に当たって終了するときに発生させる信号)を感知することにより乱飾表示が停止する。」(同4欄23行〜26行)という記載については,遊技台本体の所定の信号とは「大当たり」信号を意味することであり,「呼び出し表示装置の乱飾表示部は,遊技台本体の所定の信号(大当たり信号)を関知することにより乱飾表示が停止する。」と解釈して何らおかしくない。 本件出願当時より現在に至るまで,パチンコホールにおいては,「大当たり」を演出するためにパチンコ遊技台本体並びにその周辺表示装置の乱飾表示及びスピーカーなどを用いている。そして,その「大当たり」を演出するタイミングは,パチンコ遊技台本体では,「大当たり発生時」に,周辺表示装置ではパチンコ遊技台本体より出力される「大当たり信号」を感知した時である。パチンコ遊技台本体より「打ち止め」信号を発生するパチンコ遊技台は,現実には存在しないことから,本件発明者が「打ち止め」を想定していないことは明らかである。 (2) 被控訴人の主張 控訴人は,パチンコ遊技台本体より「打ち止め」信号を発生するパチンコ遊技台は現実には存在しないと主張するが,本件発明の出願前に「打ち止め」信号を発生する機能を内蔵したパチンコ遊技台が周知慣用技術であったことは,乙1の7ないし9・11,乙3ないし10の刊行物から明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(イ号物件の構成)について 原判決添付別紙イ号物件目録(以下「イ号物件目録」という。)中,「2 図面の説明」の「図5-2は変動入賞装置の分解説図」という部分,「3 図面中の符号の説明」の「711左ガイド,712右ガイド,713扉軸,72スイング板,73軸,74ソレノイド,75ソレノイド,8′センサ,81′センサ,N-1装置前カバー,N-2装置後カバー」という部分,「4 構造の説明」の(8)の部分及びイ号物件目録添付の図5-2を除く部分は,当事者間に争いがなく,これに証拠(甲3〜5,12の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すると,イ号物件の構成は,イ号物件目録のとおりであることが認められる。 2 争点(2)(イ号方法の構成)について 原判決添付別紙イ号方法目録(以下「イ号方法目録」という。)中,「5 大当たり遊技状態」の「ケ」のうち「ただし実際には,変動入賞装置Nの構造上,遊技球は次のように導かれる。すなわち,ガイド扉71が開放して扉裏面の左右ガイド711,712の間を通過した遊技球は,スイング板72上に導かれる。スイング板72は大入賞口開放始めでは,必ず特定領域8の方向に下り傾斜しており,その傾斜は遊技球が特定領域8に入賞するまで保たれる。したがって,スイング板72上に落下した遊技球は必然的に特定領域8に誘導され,確実に特定領域8を通過する。換言すれば,大入賞口7に入賞しながら特定領域8を通過する遊技球がなかったと判断される可能性は,大入賞口7に遊技球が複数個入賞する限り現実にはあり得ない。」という部分,及び,「5 大当たり遊技状態」の「コ」のうち「したがって,ガイド扉71が最大開放回数だけ開放するか否かは,大入賞口7の特定領域8に遊技球が入球するか否かに係っているが,実際には,前記スイング板72の機能により,大入賞口7に入賞した遊技球は,特定領域8に誘導されて,確実に特定領域8を通過するため,ガイド扉71は,最大開放回数だけ開放されることが保障されている。」という部分を除くその余の部分は,当事者間に争いがなく,これに前記1掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,イ号方法の構成は,原判決56頁22行目「必然的に」と同23行目「確実に」を削除するほかは,イ号方法目録の記載のとおりであると認められる。 これに対し,控訴人は,スイング板72上に落下した遊技球は「必然的」に特定領域8に誘導され,「確実に」特定領域8を通過すると主張する。しかし,甲12の2(イ・ロ号装置動作説明ビデオ)によると,イ号方法による遊技中,大入賞口7の開放始めで,スイング板72が特定領域8の方向に下り傾斜しているにもかかわらず,スイング板72上に落下した遊技球が特定領域8にではなく,非特定領域81に入っていることが認められる(7:48:47,48pmの画面参照)から,控訴人の上記主張部分は,これを認めるに足りない。 3 争点(3)(ロ号物件の構成)について 原判決添付別紙ロ号物件目録(以下「ロ号物件目録」という。)中,「2 図面の説明」の「図5-2は変動入賞装置の分解説図」という部分,「3 図面中の符号の説明」の「712中央ガイド,713扉軸,72シャッタ,73誘導板,74ソレノイド,741プランジャ,742ブラケット,75ソレノイド,76当て板,8′センサ,81′センサ,N-1装置前カバー,N-2後基板」という部分,「4 構造の説明」の(8)の部分及びロ号物件目録添付の図5-2を除くその余の部分は,当事者間に争いがなく,これに証拠(甲7,12の1・2)及び弁論の全趣旨を総合すると,ロ号物件の構成は,ロ号物件目録のうち,原判決64頁1行目「,遊技球を特定領域8方向に反発させるための」を除いたその余の記載のとおりであると認められる。 これに対し,控訴人は,当て板76が遊技球を特定領域8方向に反発させるために立設されていると主張するが,前記証拠によると,ロ号物件の構造(ロ号物件目録の図5-2参照)上,当て板76は遊技球を非特定領域81に導く作用も有していることが認められ,当て板76が遊技球を特定領域8方向に反発させるために立設されていると直ちに認定することはできない。 4 争点(4)(ロ号方法の構成)について 原判決添付別紙ロ号方法目録(以下「ロ号方法目録」という。)中,「5 大当たり遊技状態」の「ケ」のうち「ただし実際には,変動入賞装置Nの構造上,遊技球は次のように導かれる。すなわち,ガイド扉71が開放して扉裏面の中央ガイド712により左右に振り分けられ,左側に振り分けられた遊技球は直接,右側に振り分けられた遊技球は同時に当て板76に当たって反発して,遊技盤正面左側の特定領域8に導かれる。この際シャッタ72は,ソレノイド74の作動により当然特定領域8を開放している。したがって,大入賞口7に入賞した遊技球は必然的に特定領域8に誘導され,確実に特定領域8を通過する。換言すれば,大入賞口7に入賞しながら特定領域8を通過する遊技球がなかったと判断される可能性は,大入賞口7に遊技球が複数個入賞する限りにおいて限りなく0に近い。」という部分を除いたその余の部分は,当事者間に争いがなく,これに前記3掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,ロ号方法の構成は,原判決76頁18行目から21行目にかけての「すなわち、ガイド扉71が開放して扉裏面の中央ガイド712により左右に振り分けられ、左側に振り分けられた遊技球は直接、右側に振り分けられた遊技球は同時に当て板76に当たって反発して、遊技盤正面左側の特定領域8に導かれる。」を「すなわち,ガイド扉71が開放して,大入賞口7に入賞した遊技球は特定領域8又は非特定領域81に導かれる。」と改め,同22行目「したがって,」から同26行目「限りなく0に近い。」までを削除するほか,ロ号方法目録の記載のとおりであると認められる。 これに対し,控訴人は,大入賞口7に入賞した遊技球は,中央ガイド712により左右に振り分けられ、左側に振り分けられた遊技球は直接、右側に振り分けられた遊技球は同時に当て板76に当たって反発して、必然的に特定領域8に誘導され,確実に特定領域8を通過し,換言すれば,大入賞口7に入賞しながら特定領域8を通過する遊技球がなかったと判断される可能性は,大入賞口7に遊技球が複数個入賞する限りにおいて限りなく0に近いと主張する。しかし,甲12の2によると,ロ号物件による遊技中,ガイド扉71開放後,シャッタ72により特定領域8が閉塞される前においても,大入賞口7に入賞し,中央ガイド712より右側に落ちた球が非特定領域81に入ること(7:58:59pmの画面参照),あるいは,中央ガイド712より左側に落ちた球が非特定領域81に入ること(7:59:08pmの画面参照)がいずれも認められるから,控訴人の上記主張部分は,これを認めるに足りない。 5 争点(5)(構成要件Aの充足性)について (1) 構成要件Aの解釈について ア 甲2によると,本件明細書の「発明の詳細な説明」欄中,パチンコ遊技台の「終了」に関して記載された部分は,次のとおりであると認められる。 (ア) 「本発明は,パチンコ遊技におけるいわゆる「遊技台の終了」時に,出球数を段階的に設定するパチンコ遊技における出球数設定方法及びそれに使用する呼出し表示装置に関する。」(特許公報2欄3行〜6行) (イ) 「客側が儲かる場合は,一般的にはいわゆる「遊技台の終了」による。終了は,役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すものである。」(同2欄17行〜19行) (ウ) 「しかし,従来のこの方法では次のような課題があった。即ち,大半の客は偶然をあてにするとはいえ,より多くの利益を得ようと入場するわけで,遊技台を終了さてもいつも決まった出球数では,客側の遊び心や射幸心を刺激するにはもうひとつ魅力に欠ける。」(同2欄20行〜3欄2行) (エ) 「本発明は,パチンコ遊技におけるいわゆる「遊技台の終了」時の出球数を,ある一定の数ではなく段階的に設定し,出球数の設定にもある程度ギャンブル性を持たせることによって客側の遊び心を満足させ,ひいては店側の営業成績の向上につなげる方法及び装置を提供することを目的とする。」(3欄4行〜10行) (オ) 「出球数は段階的に数種類が設定される。例えば,現在の終了時の一般的な出球数は4000個であるので,基準を4000個とし,他に8000個,12000個等遊技台の終了後,同じ遊技台で引き続き遊べる持球を設定する。当然追加出球数が0の場合もある。」(同4欄5行〜10行) (カ) 「具体例をあげると,乱飾装置として一個のデイジタル表示器を乱飾点滅させる構造のものでは,「0」表示で12000個,「3,8」表示では8000個,「1,7」表示では持球終了,「2,4,5,6,9」表示では4000個のようにパチンコ遊技台全体の出玉数が設定される。」(同4欄11行〜16行) (キ) 「呼出し表示装置の乱飾表示部は,遊技台本体の所定の信号(通常は役物に当たって終了するときに発生させる信号)を感知することにより乱飾表示が停止する。その表示は出球数または出球数を表わす符号である。」(同4欄23行〜27行) (ク) 「また,台の終了時,乱飾表示が停止する前の数秒間,乱飾表示の動きに合わせてスピーカーから様々な効果音を出力することは任意である。」(同4欄30行〜32行) (ケ) 「また,呼出し表示灯3は球の詰まり等の場合に遊技者が呼出しボタン4を押したときや,役物に当たって台が終了するときに点滅し,店員に知らせる。」(同5欄8行〜11行) (コ) 「第1図乃至第3図を参照して本実施例の作用を説明する。@遊技者がパチンコ遊技台Aで遊技中は,乱飾表示部5は乱飾表示されている。A遊技者が大役に当ると大当りとなり,パチンコ遊技台Aから乱飾表示部5の表示部基板50に信号が送り込まれる。B表示部基板50から信号が送られ,呼出し表示灯3が点滅し,スピーカー9から効果音が出力される。C数秒後,乱飾表示部5の乱飾表示が停止し,数字が表示される。この数字を店員が確認し,制御室に連絡する。D制御室は,対象となるパチンコ遊技台の出球数を設定する。「0」表示では12000個,「3,8」表示では8000個,「1,7」表示では持球終了,「2,4,5,6,9」表示では4000個に設定してパチンコ遊技を終了させる。」(同5欄19行〜6欄8行) (サ) 「本発明は上記構成を有しており,パチンコ遊技におけるいわゆる「遊技台の終了」時の出球数をある一定の数ではなく段階的に設定し,その選択にもギャンブル性を持たせることによって客側の遊び心,及び射幸心をよりいっそう刺激することができ,店側の営業成績の向上につなげることができる。」(同6欄13行〜19行) イ ところで,構成要件Aにおける「パチンコ遊技台の終了」とは,素直に読むならば,当該パチンコ遊技台における当該遊技者のパチンコ遊技を終了するという意味にとらえられる。 そして,原判決が「事実及び理由」第4の2(1)ア(23頁3行目〜30頁15行目まで)において認定する本件出願前に発行された公開特許公報及び公開実用新案公報の記載によると,本件出願時には,パチンコ遊技台に「打止め」の設定,すなわち遊技者への放出球数である出球数から遊技者の打込球数である入球数を差し引いた数があらかじめ設定された数(打止数)を超えたときに,当該遊技台における同一遊技者の遊技の続行を停止する設定が,従来技術として一般的に行われていたことが認められる。そうすると,かかる「打止めによるパチンコ遊技台の終了」の概念は,前記「パチンコ遊技台の終了」の意味内容として当てはまるものである。 また,引用に係る原判決「事実及び理由」第4の2(1)ア(コ)の公開特許公報に「一般に,パチンコ店では,各パチンコ台について,打止めにする玉数が予め定められており,客が獲得した玉数を自動的にカウントし,その数が打止め玉数に達したとき,自動的に打止め制御を行ってその台を終了台とし,以後の使用を停止する処理を行っている。」との記載(27頁21行目〜25行目)があることなどに鑑みると,本件出願時において,当業者は,構成要件Aの文言を「初期設定された数の出球に達した打止めによるパチンコ遊技台の終了」の意味に理解していたものと認められる。 さらに,本件明細書中の前記アの(ア),(イ),(エ)及び(サ)の「遊技台の終了」の前には,「いわゆる」の語句が冠せられているところ,これは,「遊技台の終了」について世間で通常使われている意味内容で本件明細書でも使用することを示すものと解される。そして,本件明細書中で使用されている,それ以外の「終了」の語句についても,いわゆる「遊技台の終了」と別異に解すべきような事情は窺えない。 なお,上記ア(オ)の記載部分は,構成要件Aの意味・内容について説明した箇所ではなく,構成要件C2の追加出球数の設定の具体例を説明している箇所にすぎない。また,従来の打止めにおいても,打止めにした遊技者自身に同じ遊技台を再開放し,初期設定された出球と追加出球をもって,新たな打止めになるまでパチンコ遊技を継続させることも不可能ではないというべきであり,前記ア(オ)の記載についてかかる意味内容を示すものととらえるならば,「遊技台の終了」を「打止めによるパチンコ遊技台の終了」と解することと必ずしも矛盾するものとはいえない。 ウ 以上を総合すると,構成要件Aは,初期設定された数の出玉に達した打止めによる遊技台の終了を意味するものと解するのが相当である。 そして,このことは,本件発明の発明者の一人であるZの陳述書(甲24)における,「しかしいくら役物に当たって大量の出球を獲得できる状態になっても,それは決して無制限で獲得できるわけではなく,パチンコホールの定めた数の出玉(初期設定された数の出玉)が獲得できるのであり,当時その獲得出玉の個数を定める手段として,ホールの出玉管理コンピュータにより通称「打ち止め個数」として「2000個」または「4000個」など,各ホール毎の営業方法と照らし合わせて画一に設定されることが通常でした。そうするといくら役物に当たれば大量の出玉が期待できるとはいえ,遊技客が獲得できる出玉も当然初期設定された画一の出玉でしかなく,それでは遊技客にとっては今ひとつ射幸心に欠けるところがありました。そこで,画一で設定されている遊技客の獲得出玉に対しどうにかして変化をもたせ,遊技客にとって期待感及び射幸心をそそる方法は無いものかと本件特許発明を考案出願し,同時に自分の経営するパチンコホールにおいて本件特許発明を実施いたしました。」という,初期設定された「打ち止め個数」が画一であることを従来技術の課題とし,これを解決することを本件発明の目的とした旨の記述とも合致するものである。 エ これに対し,控訴人は,構成要件Aは,「出球数を予め決められたパチンコ遊技台が大当たりになった場合に」,すなわち「出球数が予め決められたパチンコ遊技台の役物にパチンコ球が入賞した場合に」ということであり,言い換えれば,「予め決められた出球数によるパチンコ遊技台の役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出す」ことである旨を主張するが,以下の理由により,これを採用することはできない。 (ア) まず,同主張は,構成要件Aにある「パチンコ遊技台の終了」の「終了」という文言の一般的観念・意義を無視し,これからかけ離れた内容をいうものであるといわざるを得ない。 (イ) 次に,控訴人の上記主張は,本件明細書中前記ア(イ)のうち「終了は,役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すものである。」との記載が,本件明細書における「遊技台の終了」を定義付けるものであることを一つの根拠とするものである。 しかしながら,上記記載に,前記ア(イ)で上記記載に先立つ「客側が儲かる場合は,一般的にはいわゆる「遊技台の終了」による。」との記載を併せ通読すると,「終了は,役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出すものである。」との記載は,世間一般で通常使用されているところの「遊技台の終了」の有する主要な一つの内容を記述しているにすぎず,本件明細書中の「遊技台の終了」に関する定義付けを行っているものでないというべきである。 このことは,前記ア(イ)の記載部分がいわゆる「一発台」を念頭に置いたものと解されることによっても裏付けられる。 すなわち,証拠(甲6,18)及び弁論の全趣旨(控訴人の原審平成12年9月26日付け,平成13年6月28日付け各準備書面)によると,本件出願当時,特定の入賞口に1個球が入ると大当たりとなり,打止めになるまで出球が続くパチンコ遊技台の機種があり,「一発台」と俗称されていたことが認められるが,かかる「一発台」においては,役物に当たって大当たりとなることがそのまま打止めにつながるのであり,前記「役物に当たった場合にある一定の球数を無条件で出す」ことは,「初期設定された出球数に達した打止め」による遊技台の終了の主要な一内容となるのである。 (ウ) 次に,控訴人は訂正審判の請求をしたと主張するが,請求が認められて訂正がされたことの認められない本件において,訂正後の内容による請求をし得ないことはいうまでもない。 (エ) その他,控訴人は,自己の解釈が正当であることを裏付けるべく,るる主張を試みているが,当裁判所のこれまでの認定・判断を左右するものではなく,いずれも採用することはできない。 (2) イ号方法及びロ号方法の構成要件Aの充足性について ア イ号方法及びロ号方法は,前記認定のイ号方法及びロ号方法の内容に明らかなとおり,通常確率の通常遊技状態又は高確率の通常遊技状態,高確率移行大当たり遊技状態又は通常確率移行大当たり遊技状態の四つの遊技状態が交互に出現するように継続して運用されるものであり,初期設定された出玉による打止めにより遊技台を終了させるものではないから,構成要件Aを充足しない。 イ 控訴人は,イ号方法及びロ号方法が構成要件Aを充足すると主張するが,以下の理由により,控訴人の主張を採用することはできない。 (ア) まず,控訴人は,イ号方法について,高確率移行大当たり遊技状態における1960個の出球が,構成要件Aの「初期設定された数の出球」に該当し,確変大当たりとなる時が「出球数が予め決められたパチンコ遊技台の役物にパチンコ球が入賞した場合」に該当し,構成要件Aを充足すると主張する。 しかしながら,控訴人の同主張は,構成要件Aの「遊技台の終了」を前記のとおり解釈することを前提とするものであり,その前提が認められない以上,認められないことは明らかである。 のみならず,控訴人の初期設定の出球の主張も認められない。 前記認定のイ号方法のとおり,遊技中「通常確率移行大当たり遊技状態」又は「高確率移行大当たり遊技状態」に移行すると,変動入賞装置Nのガイド扉71が手前側に倒れ込んで,大入賞口7を開放し,遊技球の入賞を可能とし,大入賞口7に遊技球が入賞すると,入賞1個当たり14個の賞球が上皿1に払い出される。 しかし,大入賞口7の開放時間が所定時間(約29秒)に達したか,又は遊技球が入賞した個数が予め定められた最多個数(10個)に達した場合には,ガイド扉71を元の状態に戻すことにより,大入賞口7が閉止されるのであるから,ガイド扉71の開放から所定時間が経過すれば,大入賞口7に入賞した遊技球が最多個数に達していなくとも,ガイド扉71は閉止することになり,大入賞口7が1回開放されている間に,常に最多個数10個の入賞による賞球獲得が行われるとは限らない。 したがって,イ号方法において,1960個(14個×10個×14回)の出球が初期設定されているとはいえない。 (イ) 次に,控訴人は,ロ号方法について,高確率移行大当たり遊技状態における2250個の出球が,構成要件Aの「初期設定された数の出球」に該当し,確変大当たりとなる時が,「出球数が予め決められたパチンコ遊技台の役物にパチンコ球が入賞した場合」に該当し,構成要件Aを充足すると主張する。 しかしながら,控訴人の同主張は,構成要件Aの「遊技台の終了」を前記のとおり解釈することを前提にする点において,上記イ号方法の充足性につき説示したのと同様の理由で認められないし,初期設定の出球の主張も次のとおり認められない。 前記認定のロ号方法のとおり,遊技中「通常確率移行大当たり遊技状態」又は「高確率移行大当たり遊技状態」に移行すると,変動入賞装置Nのガイド扉71が手前側に倒れ込んで,大入賞口7を開放し,遊技球の入賞を可能とし,大入賞口7に遊技球が入賞すると,1個当たり15個の賞球が上皿1に払い出される。 しかし,大入賞口7の開放時間が所定時間(約29秒)に達したか,又は遊技球が入賞した個数が予め定められた最多個数(10個)に達した場合には,ガイド扉71を元の状態に戻すことにより,大入賞口7が閉止されるのであるから,ガイド扉71の開放から所定時間が経過すれば,大入賞口7に入賞した遊技球が最多個数に達していなくとも,ガイド扉71は閉止するのであるから,常に最多個数10個の入賞による賞球獲得が行われるとは限らない。 また,ロ号方法では,ロ号方法目録のとおり,「大入賞口の開放〜大入賞口の閉止」の動作中に,大入賞口7に入賞した遊技球のうち,特定領域8を通過した遊技球があった場合には,再びガイド扉71を開放し,この動作を最大15回繰り返すが,ガイド扉71が開放している間に,大入賞口7内の特定領域8を通過する遊技球がなかった場合は,次回のガイド扉71の開放は行われず,大当たりを終了し,通常遊技状態に戻る。すなわち,ガイド扉71が最大開放回数だけ開放するか否かは,大入賞口7の特定領域8に遊技球が入球するか否かに係っている。 しかるに,前記4のとおり,ロ号物件による遊技中,ガイド扉71開放後,シャッタ72により特定領域8が閉塞される前においても,大入賞口7に入賞し,中央ガイド712より右側に落ちた球が非特定領域81に入る場合や,中央ガイド712より左側に落ちた球が非特定領域81に入る場合があり,大入賞口7に入賞した遊技球が必然的に特定領域8に誘導されて確実に特定領域8を通過するとはいえない。したがって,ガイド扉71が最大開放回数15回だけ開放されていることが保障されているとは必ずしもいえない。 したがって,いずれにしても,ロ号方法において,2250個(15個×10個×15回)の出球が初期設定されているとはいえない。 ウ したがって,イ号方法及びロ号方法は,いずれも構成要件Aを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さず,そのために使用されるイ号物件及びロ号物件の製造販売も本件特許権を侵害するものとみなされない。 |
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結論
以上の次第で,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する請求は理由がないから,これを棄却した原判決は正当であり,本件控訴は理由がない。 よって,主文のとおり判決する。 (平成14年7月24日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 若林諒 |
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裁判官 | 小野洋一 |
裁判官 | 西井和徒 |